(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/02 20060101AFI20230531BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230531BHJP
B60W 50/06 20060101ALI20230531BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B60W40/02
G08G1/16 C
B60W50/06
B60R16/02 660G
(21)【出願番号】P 2020018116
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507219491
【氏名又は名称】エヌエックスピー ビー ヴィ
【氏名又は名称原語表記】NXP B.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 60, NL-5656 AG Eindhoven, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 真人
(72)【発明者】
【氏名】土山 浄之
(72)【発明者】
【氏名】濱野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】布田 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】堀籠 大介
(72)【発明者】
【氏名】田崎 篤
(72)【発明者】
【氏名】橋本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】木原 裕介
(72)【発明者】
【氏名】寳神 永一
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド ヴァン デン ボッシュ
(72)【発明者】
【氏名】レイ マーシャル
(72)【発明者】
【氏名】レオナルド スリコ
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-37730(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110124(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/039279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60R 16/00-17/02
B60R 21/00-21/13
B60R 21/34-21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用制御装置であって、
車両に設置されたカメラの出力を受け、このカメラ出力に対して画像処理を行い、画像処理によって得られた画像データを出力する第1IC(Integrated Circuit)ユニットと、
前記第1ICユニットから出力された画像データを受け、この画像データに基づいて、当該車両の外部環境の認識処理を行い、認識処理によって得られた外部環境データを出力する第2ICユニットと、
前記第2ICユニットから出力された外部環境データを受け、この外部環境データに基づいて、車両の走行制御のための判断処理を行う第3ICユニットとを備え、
前記第3ICユニットが前記第1および第2ICユニットに対してそれぞれコントロール信号を送信する、コントロールフローが構成されており、
前記コントロールフローは、前記カメラの出力、前記第1ICユニットが出力する画像データ、および、第2ICユニットが出力する外部環境データが伝送されるデータフローと分離して、構成されている
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用制御装置において、
前記第1~第3ICユニットは、それぞれ、処理を実行するためのプログラムを格納するメモリを有しており、
前記第1および第2ICユニットは、前記コントロールフローを介して前記第3ICユニットから受信した前記コントロール信号に従って、前記メモリからプログラムを読み出し、処理を実行する
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用制御装置において、
前記第1~第3ICユニットが処理を実行するためのプログラムを格納する不揮発性共有メモリを備え、
前記車両用制御装置のブート時において、前記不揮発性共有メモリから、前記第1~第3ICユニットが有する前記各メモリに、それぞれ、当該ICユニットが処理を実行するためのプログラムが、転送される
ことを特徴とする車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、例えば自動車の自動運転のために用いられる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、自動運転システムとして、自動運転制御情報に異常が検出された場合は、自動運転制御情報に基づいて生成される第一の制御信号に代えて、自車と周辺物体との相対情報に基づいて生成される第二の制御信号が、駆動装置に出力される、構成が開示されている。
【0003】
特許文献2では、車両制御装置として、複数の周辺環境取得装置、認知判断ECUおよび統合制御ECUのいずれかの異常を検知した場合、その異常を検知してからの経過時間に従って、複数の周辺環境取得装置、認知判断ECUおよび統合制御ECUのそれぞれが実行すべき動作が規定される特定制御を順次切り替えながら実行する、構成が開示されている。
【0004】
特許文献3では、車両制御のための半導体装置として、車両の周辺に存在する物体を認識する認識部と、認識した物体に基づいて、自動制御モードにおける車両の走行経路を算出する経路算出部と、認識した物体を回避した走行経路を算出できない場合に、自動制御モードから手動制御モードへ移行させるモード制御部とを備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-47694号公報
【文献】国際公開第2018/225225号
【文献】特許6289284号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今では、国家的に自動運転システムの開発が推進されている。自動運転システムでは一般に、カメラ等により車外環境情報が取得され、演算装置が、取得された車外環境情報に基づいて車両が走行すべき経路を算出する。この算出結果に基づいて、車両に搭載された各種のアクチュエータが制御される。また、演算装置には、車両に搭載された各種のセンサからセンサ信号が入力される。
【0007】
ここで、例えば自動運転のために用いられる車両用制御装置は、カメラによる映像データ等の大量のデータを高速処理して車両の外部環境を認識し、車両が走行すべき経路をリアルタイムで算出する必要がある。このため、車両用制御装置は、複数のIC(Integrated Circuit)ユニットによって、構成されるものと想定される。ところが、車両用制御装置が複数のICユニットで構成された場合、これらICユニット間で同期をとることが困難になり、また、ICユニット間の通信のために処理にかかる時間が増えてしまう可能性がある。これにより、車両用制御装置の動作の信頼性が低下してしまうおそれがある。
【0008】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするとこは、車両用制御装置について、動作の信頼性を維持しつつ、複数のICユニットによって構成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、車両用制御装置は、車両に設置されたカメラの出力を受け、このカメラ出力に対して画像処理を行い、画像処理によって得られた画像データを出力する第1IC(Integrated Circuit)ユニットと、前記第1ICユニットから出力された画像データを受け、この画像データに基づいて、当該車両の外部環境の認識処理を行い、認識処理によって得られた外部環境データを出力する第2ICユニットと、前記第2ICユニットから出力された外部環境データを受け、この外部環境データに基づいて、車両の走行制御のための判断処理を行う第3ICユニットとを備え、前記第3ICユニットが前記第1および第2ICユニットに対してそれぞれコントロール信号を送信する、コントロールフローが構成されており、前記コントロールフローは、前記カメラの出力、前記第1ICユニットが出力する画像データ、および、第2ICユニットが出力する外部環境データが伝送されるデータフローと分離して、構成されている。
【0010】
この構成によると、車両用制御装置は、車両に設置されたカメラの出力に対して画像処理を行う第1ICユニットと、第1ICユニットから出力された画像データに基づいて、当該車両の外部環境の認識処理を行う第2ICユニットと、第2ICユニットから出力された外部環境データに基づいて、車両の走行制御のための判断処理を行う第3ICユニットとを備える。第3ICユニットが第1および第2ICユニットに対してそれぞれコントロール信号を送信するためのコントロールフローが構成されている。このコントロールフローは、カメラ出力、画像データ、外部環境データといった大容量のデータを伝送する必要があるデータフローと分離して、構成されている。これにより、第1~第3ICユニット間の同期が容易になり、また、第1~第3ICユニットの処理の動的な変更や処理の中断が容易になる。したがって、車両用制御装置の動作の信頼性を維持することができる。
【0011】
また、前記車両用制御装置において、前記第1~第3ICユニットは、それぞれ、処理を実行するためのプログラムを格納するメモリを有しており、前記第1および第2ICユニットは、前記コントロールフローを介して前記第3ICユニットから受信した前記コントロール信号に従って、前記メモリからプログラムを読み出し、処理を実行する、としてもよい。
【0012】
この構成によると、第1および第2ICユニットは、コントロールフローを介して第3ICユニットから受信したコントロール信号に従って、メモリからプログラムを読み出し、処理を実行する。これにより、発動時間の短縮が可能になり、コントロールフローを介した動作モードの変更に速やかに対応することができる。
【0013】
また、前記車両用制御装置において、前記第1~第3ICユニットが処理を実行するためのプログラムを格納する不揮発性共有メモリを備え、前記車両用制御装置のブート時において、前記不揮発性共有メモリから、前記第1~第3ICユニットが有する前記各メモリに、それぞれ、当該ICユニットが処理を実行するためのプログラムが、転送される、としてもよい。
【0014】
この構成によると、車両用制御装置のブート時において、第1~第3ICユニットが有する各メモリにそれぞれ、当該ICユニットが処理を実行するためのプログラムが、不揮発性共有メモリから転送される。これにより、メモリの削減が可能になり、例えば、消費電力の増加や発熱量の増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
ここに開示された技術によると、車両用制御装置について、複数のICユニットによって構成し、かつ、動作の信頼性を維持するすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】車両用制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2A】車両用制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図2B】車両用制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】各ICユニットの構成例を示すブロック図である。
【
図4】実施形態に係る車両用制御装置の構成例のイメージ図である。
【
図5】実施形態に係る車両用制御装置の他の構成例のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は車両用制御装置の構成例を示すブロック図である。
図1に示す車両用制御装置は、信号処理IC(Integrated Circuit)ユニット10と、認識処理ICユニット20と、判断処理ICユニット30の3ユニット構成となっている。具体的な図示は省略するが、信号処理ICユニット10、認識処理ICユニット20及び判断処理ICユニット30は、例えば、乗員の座席下部やトランクルーム等、車両内の特定の場所に設置された単一の筐体内に格納されている。信号処理ICユニット10、認識処理ICユニット20及び判断処理ICユニット30は、それぞれ、単一のICチップで構成されてもよいし、複数のICチップによって構成されていてもよい。また、各ICチップ内には、単一のコアまたはダイが収容されていてもよく、連携する複数のコアまたはダイが収容されていてもよい。コアは例えば、CPUと、CPUを動作させるためのプログラムやCPUでの処理結果等を一時格納するためのメモリとを有している。
【0019】
信号処理ICユニット10は、車外環境を撮像するカメラ71から受信した撮像信号の画像処理を行う。カメラ71は、例えば、自動車の周囲を水平方向に360°撮影できるようにそれぞれ配置されている。各カメラ71の撮像データは、信号処理ICユニット10に集約される。信号処理ICユニット10では、集約された撮像データの画像処理を行い、画像処理データとして認識処理ICユニット20に出力する。カメラ71は、車外環境を撮像する撮像装置の一例である。
【0020】
認識処理ICユニット20は、信号処理ICユニット10から出力された画像処理データを受信し、深層学習を利用して、画像処理データを基にして道路と障害物を含む車外環境を推定する。深層学習では、例えば、多層ニューラルネットワーク(DNN:Deep Neural Network)が用いられる。多層ニューラルネットワークとして、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)がある。認識処理ICユニット20は、推定された車外環境に基づいて道路上であって障害物を回避する少なくとも1つの経路候補を生成し、経路候補データとして出力する。
【0021】
判断処理ICユニット30は、認識処理ICユニット20から出力された経路候補データを受信し、経路候補データを基に自動車の走行経路を決定する。また、判断処理ICユニット30は、決定された走行経路に沿って走行する際の自動車の目標運動を決定する。その後、判断処理ICユニット30は、決定された目標運動を実現するための駆動力と制動力と操舵角を算出する。
【0022】
-1.機能構成-
図2Aおよび
図2Bは、車両用制御装置の機能構成例を示すブロック図である。なお、以下の説明では、
図2A及び
図2Bをまとめて、単に
図2と呼ぶ場合がある。
【0023】
図2の構成は、認知系ブロックB1と、判断系ブロックB2と、操作系ブロックB3とに分かれている。認知系ブロックB1は、車外環境、車内環境(運転者の状態を含む)を認知するための構成である。判断系ブロックB2は、認知系ブロックB1での認知結果に基づいて各種状態・状況等を判断し、自動車の動作を決定するための構成である。操作系ブロックB3は、判断系ブロックB2での決定を基に、具体的にアクチュエータ類に伝達する信号・データ等を生成するための構成である。
【0024】
また、車両用制御装置は、(1)通常運転時における自動運転を実現するための認知系ブロックB1、判断系ブロックB2及び操作系ブロックB3とで構成された主演算部40と、(2)主に主演算部40の認知系ブロックB1及び判断系ブロックB2を補完する機能を有するセーフティ機能部50と、(3)主演算部40やセーフティ機能部50の機能が失陥した場合等の異常事態が発生した際に、自動車を安全な位置まで移動させるバックアップセーフティICユニット60とを備える。
【0025】
車両用制御装置において、主演算部40の認知系ブロックB1および判断系ブロックB2では、ニューラルネットワークを利用した深層学習により構築された各種モデルを利用して処理を実行する。このようなモデルを使用した処理を行うことで、車両状態、車外環境、運転者の状態等の総合的な判断に基づく運転制御、すなわち、大量の入力情報をリアルタイムで協調させて制御することができるようになる。一方で、前述のとおり、深層学習を利用した車外環境の認定及び経路の算出は、未だ発展途上の状態であり、ASIL-B程度に留まるとされている。
【0026】
そこで、車両用制御装置では、主演算部40で実行される深層学習により、ある特定の許容範囲を逸脱するような判断や処理(以下、単に逸脱処理という)が導き出される可能性を想定し、そのような逸脱処理を監視する。本車両用制御装置は、逸脱処理を検出した場合に、ASIL-D相当の機能安全レベルを実現するセーフティ機能部50による判断や処理に置き換えたり、主演算部40による再処理を行わせたりするる。
【0027】
具体的に、例えば、セーフティ機能部50では、
(1)従来から自動車等に採用されている物標等の認定方法に基づいて、車外にある物体(本開示では、対象物と呼んでいる)を認識する、
(2)従来から自動車等に採用されている方法で、車両が安全に通過できる安全領域を設定し、その安全領域を通過するような経路を自動車が通過すべき走行経路として設定する、
ように構成されている。このような、いわゆるルールベースの判断や処理を行うことにより、ASIL-D相当の機能安全レベルを実現する。
【0028】
そして、車両用制御装置は、主演算部40とセーフティ機能部50とが、同一の入力情報(後述する情報取得手段70で取得された情報を含む)に基づいて、同一の目的の処理(例えば、経路生成)を、並列に進める。これにより、主演算部40から逸脱処理が導き出されることを監視することができるとともに、必要に応じて、セーフティ機能部50による判断や処理の方を採用したり、主演算部40に再演算をさせたりすることができる。
【0029】
さらに、車両用制御装置では、主演算部40及びセーフティ機能部50の両方が故障するような事態にも対処できるように、バックアップセーフティICユニット60を設けている。バックアップセーフティICユニット60は、車外情報に基づいてルールベースで経路を生成し、安全な位置に停車させるまでの車両制御を実行する機能を、主演算部40及びセセーフティ機能部50とは別構成として用意したものである。
【0030】
車両用制御装置には、自動車の車内外環境の情報を取得する情報取得手段70で取得されたデータが入力信号として与えられる。また、車両用制御装置への入力信号として、クラウドコンピューティングのように、車外ネットワーク(例えば、インターネット等)に接続されたシステムやサービスからの情報が入力されるようにしてもよい(
図2では「EXTERNAL INPUT」と記載)。
【0031】
情報取得手段70として、例えば、(1)複数のカメラ71、(2)複数のレーダ72、(3)GPS等の測位システムを含む位置センサ73、(4)上記の車外のネットワーク等からの外部入力74、(5)車速センサ等のメカセンサー75、(4)ドライバ入力部76等が例示される。ドライバ入力部76は、例えば、アクセル開度センサ、操舵角センサ、ブレーキセンサ等である。また、ドライバ入力部76には、例えば、アクセルペダル、ブレーキペダル、ステアリング、各種スイッチ等の各種操作対象物への運転者の操作を検出するセンサを含む。
【0032】
-1-1.主演算部(1)-
ここでは、主演算部40の構成について、主演算部40による深層学習を用いた経路生成の例を交えつつ説明する。
【0033】
図2に示すように、主演算部40は、車外の物体を認識する物体認識部241及び物体認識部242と、マップ生成部243と、車外環境推定部244と、車外環境モデル245と、経路探索部246と、経路生成部247とを備える。
【0034】
物体認識部241は、カメラ71で撮像された車外の画像(映像を含む)を受信し、受信した画像に基づいて車外の物体を認識する。物体認識部241は、カメラ71で撮像された画像を受信し、画像処理を行う画像処理部241a(
図3参照)と、画像処理部241aで処理された画像に基づいて車外の物体を認識する認識部241b(
図3参照)とを備える。物体認識部242は、レーダ72で検出された反射波のピークリストにより、車外の物体を認識する。物体認識部241,242には、従来から知られている画像や電波に基づく物体認識技術を適用することができる。
【0035】
物体認識部241,242で認識された結果は、マップ生成部243に送られる。マップ生成部243では、自車両の周囲を複数の領域(例えば、前方、左右方向、後方)に分け、その領域毎のマップを作成する処理を行う。具体的には、マップ生成部243では、それぞれの領域に対して、カメラ71で認識された物体情報と、レーダ72で認識された物体情報とを統合し、マップに反映させる。
【0036】
マップ生成部243で生成されたマップは、車外環境推定部244において、深層学習を用いた画像認識処理により車外環境の推定に使用される。具体的に、車外環境推定部244では、深層学習を利用して構築された環境モデル245に基づく画像認識処理により車外環境を表す3Dマップを作成する。深層学習では、多層ニューラルネットワーク(DNN : Deep Neural Network)が用いられる。多層ニューラルネットワークとして、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)がある。
【0037】
より具体的に、車外環境推定部244では、(1)領域毎のマップが結合され、自車両の周囲を表した統合マップが生成され、(2)その統合マップ内の動体物に対し、自車両との距離、方向、相対速度の変位が予測され、(3)その結果が、車外環境モデル245に組み込まれる。さらに、車外環境推定部244では、(4)車内または車外から取り込んだ高精度地図情報、GPS等で取得された位置情報・車速情報・6軸情報の組み合わせによって統合マップ上での自車両の位置を推定するとともに、(5)前述の経路コストの計算を行い、(6)その結果が、各種センサで取得された自車両の運動情報とともに車外環境モデル245に組み込まれる。これらの処理により、車外環境推定部244では、随時、車外環境モデル245が更新され、後述する経路生成部247による経路生成に使用される。
【0038】
GPS等の測位システムの信号、車外ネットワークから送信される例えばカーナビゲーション用のデータは、経路探索部246に送られる。経路探索部246は、GPS等の測位システムの信号、車外ネットワークから送信される例えばナビゲーション用のデータを用いて、車両の広域経路を探索する。
【0039】
経路生成部247では、前述の車外環境モデル245と、経路探索部246の出力とを基にして、車両の走行経路を生成する。走行経路は、例えば、安全性、燃費等をスコア化し、そのスコアが小さくなるような走行経路が少なくとも1つ生成される。また、経路生成部247は、例えば、上記走行経路とドライバの操作量に応じて調整した走行経路、のように複数の観点に基づいた走行経路を生成するように構成されてもよい。
【0040】
-1-2.セーフティ機能部-
ここでは、セーフティ機能部50の構成について、セーフティ機能部50によるルールベースの経路生成の例を交えつつ説明する。
【0041】
図2に示すように、セーフティ機能部50は、車外の物体をパターン認識する物体認識部251及び物体認識部252と、分類部351と、前処理部352と、フリースペース探索部353と、経路生成部354とを備える。
【0042】
物体認識部251は、カメラ71で撮像された車外の画像(映像を含む)を受信し、受信した画像に基づいて車外の物体を認識する。物体認識部251は、カメラ71で撮像された画像を受信し、画像処理を行う画像処理部251a(
図3参照)と、画像処理部251aで処理された画像に基づいて車外の物体を認識する認識部251b(
図3参照)とを備える。物体認識部252は、レーダ72で検出された反射波のピークリストにより、車外の物体を認識する。
【0043】
分類部351では、物体認識部252による物体の認識結果を受信し、認識された物体を動体と静止物とに分類する。具体的に、分類部351では、(1)自車両の周囲が複数の領域(例えば、前方、左右方向、後方)に分けられ、(2)各領域で、カメラ71で認識された物体情報と、レーダ72で認識された物体情報とが統合され、(3)各領域に対する動体及び静止物の分類情報が生成される。
【0044】
前処理部352では、分類部351において生成された領域毎の分類結果を統合する。統合された情報は、例えば、自車両周辺の動体及び静止物との分類情報として、グリッドマップ(図示省略)上で管理される。また、動体物について、自車両との距離、方向、相対速度が予測され、その結果が動体物の付属情報として組み込まれる。さらに、前処理部352では、車内外から取得された高精度地図情報、位置情報、車速情報、6軸情報等を組み合わせて、動体・静止物に対する自車両の位置を推定する。
【0045】
フリースペース探索部353は、前処理部352で位置が推定された動体・静止物(以下、対象物ともいう)との衝突を回避可能なフリースペースを探索する。例えば、フリースペース探索部353は、対象物の周囲数mを回避不能範囲とみなす等の所定のルールに基づいて設定される。フリースペース探索部353は、対象物が動体の場合には、移動速度を考慮してフリースペースを設定する。フリースペースとは、例えば、道路上であって、他の車両や歩行者等の動的な障害物、及び中央分離体やセンターポールなどの静的な障害物が存在しない領域をいう。フリースペースは、緊急駐車が可能な路肩のスペースを含んでいてもよい。
【0046】
経路生成部354は、フリースペース探索部353で探索されたフリースペースを通るような経路を算出する。経路生成部354による経路の算出方法は、特に限定されないが、例えば、フリースペースを通過する複数の経路を生成し、その複数の経路の中から経路コストが最も小さい経路を選択する。経路生成部354で算出された経路は、後述する目標運動決定部343に出力される。
なお、上記で説明したセーフティ機能部50の機能は、従来から自動車等に採用されている物標等の認定方法及びその回避方法をルールベースに落とし込んだものであり、例えば、ASIL-D相当の機能安全レベルである。
【0047】
-1-3.主演算部(2)-
主演算部40は、「1-1.主演算部(1)」で説明したブロックに加えて、危険状態判断部341、第1第1車両モデル248、第2車両モデル249、経路決定部342、目標運動決定部343、車両運動エネルギー設定部344、エネルギーマネジメント部345、及び、セレクタ410,420を備える。
【0048】
危険状態判断部341では、車外環境モデル245を基に、対象物との衝突や、車線の逸脱の可能性があると判断した場合に、それを回避するための走行経路(例えば、目標位置と車速)を設定する。
【0049】
経路決定部342では、経路生成部247で設定された走行経路と、セーフティ機能部50の経路生成部354で設定された走行経路と、ドライバの操作量とに基づいて、車両の走行経路を決定する。この走行経路の決定方法は、特に限定されないが、例えば、通常走行時は、経路生成部247で設定された走行経路を最優先するとしてもよい。また、経路生成部247で設定された走行経路が、フリースペース探索部353で探索されたフリースペースを通らない場合に、セーフティ機能部50の経路生成部354で設定された走行経路を選択するとしてもよい。また、ドライバの操作量や操作方向に応じて、選択された走行経路に調整を加えたり、ドライバの操作を優先したりするようにしてもよい。
【0050】
目標運動決定部343では、例えば、経路決定部342で決定された走行経路に対して、6軸の目標運動(例えば、加速度、角速度等)を決定する。目標運動決定部343は、6軸の目標運動の決定に際し、所定の第1車両モデル248を用いるようにしてもよい。第1車両モデル248は、例えば、車両毎に設定された車両の6軸の運動状態(例えば、加速度、角速度)をモデル化したものである。第1車両モデル248は、例えば、あらかじめ設定された車両の基本運動機能、車内外の環境情報等に基づいて生成され、適宜更新される。
【0051】
車両運動エネルギー設定部344では、目標運動決定部343で決定された6軸の目標運動に対して、駆動系、操舵系、制動系に要求するトルクを計算する。駆動系とは、例えば、エンジンシステム、モータ、トランスミッションである。操舵系とは、例えば、ステアリングである。制動系とは、例えば、ブレーキである。
【0052】
エネルギーマネジメント部345は、目標運動決定部343で決定された目標運動を達成する上で、最もエネルギー効率がよくなるようにアクチュエータ類ACの制御量を算出する。具体的に例示すると、エネルギーマネジメント部345は、目標運動決定部343で決定されたエンジントルクを達成する上で、最も燃費が向上するような、吸排気バルブ(図示省略)の開閉タイミングやインジェクタ(図示省略)の燃料噴射タイミング等を算出する。アクチュエータ類ACには、例えば、エンジンシステムと、ブレーキと、ステアリングと、トランスミッションとが含まれる。エネルギーマネジメント部345は、エネルギーマネジメントを行うのに際して、所定の第2車両モデル249を用いるようにしてもよい。第2車両モデル249は、例えば、現在または所定の指定時間先のプラント状態(例えば、トルク、電力、熱量等)をモデル化したものである。第2車両モデル249は、例えば、車両の走行中に生成され、適宜更新される。
【0053】
セレクタ410は、主演算部40から出力された制御信号と、バックアップセーフティICユニット60から出力されたバックアップ制御信号とを受信する。セレクタ410は、通常運転時は、主演算部40から出力された制御信号を選択して出力する。一方、セレクタ410は、主演算部40の故障が検出された場合、バックアップセーフティICユニット60から出力されたバックアップ制御信号を選択して出力する。尚、バックアップセーフティICユニット60については、第2実施形態で説明する。
【0054】
-2.各ICユニットの構成例-
図3は車両用制御装置における各ICユニットの構成例を示すブロック図である。
図3において、
図2と対応するブロックについて共通の符号を付している。なお、
図3の構成例は一例であり、各ICユニットが備える機能ブロックは、
図3に示すものに限られない。
【0055】
図3の構成例では、信号処理ICユニット10は、主演算部40内の物体認識部241が備える画像処理部241a、および、セーフティ機能部50内の物体認識部251が備える画像処理部251aを備える。認識処理ICユニット20は、主演算部40内の物体認識部241が備える認識部241b、セーフティ機能部50内の物体認識部251が備える認識部251b、並びに、主演算部40内の物体認識部242、マップ生成部243、車外環境推定部244、経路探索部246、経路生成部247、第1車両モデル248、および第2車両モデル249を備える。判断処理ICユニット30は、主演算部40内の判断部341、経路決定部342、目標運動決定部343、車両運動エネルギー設定部344、エネルギーマネジメント部345、車両状態測定部346、およびドライバ操作認識部347、並びに、セーフティ機能部50内の分類部351、前処理部352、フリースペース探索部353、および経路生成部354を備える。
【0056】
(実施形態)
図4は実施形態に係る車両用制御装置の構成例のイメージ図である。
図4の車両用制御装置は、上述した構成と同様に、3ICユニット構成になっている。すなわち、
図4の車両用制御装置は、車両に設置されたカメラ101の出力を受け、このカメラ出力に対して画像処理を行う信号処理を行う第1IC(Integrated Circuit)ユニット10Aと、第1ICユニット10Aから出力された画像データを受け、この画像データに基づいて当該車両の外部環境の認識処理を行う第2ICユニット20Aと、第2ICチップ20Aから出力された外部環境データを受け、この外部環境データに基づいて、車両の走行制御のための判断処理を行う第3ICユニット30Aとを備える。第1ICユニット10A、第2ICユニット20A、および第3ICユニット30Aは、上述した信号処理ICユニット10、認識処理ICユニット20、判断処理ICユニット30と、それぞれ同様の機能構成を有している。なお、
図4では、カメラ71以外の情報取得手段70については、図示を省略している。
【0057】
第1ICユニット10Aは、カメラ信号処理を行うICチップ11と、ICチップ11が処理を実行するためのプログラムやデータを格納する揮発性メモリ111とを含む。第2ICユニット20Aは、深層学習を利用した演算処理を行うICチップ21と、ICチップ21が処理を実行するためのプログラムやデータを格納する揮発性メモリ121とを含む。第3ICユニット30Aは、経路生成や車載デバイスの制御パラメータの生成等の処理を行うICチップ31と、ICチップ31が処理を実行するためのプログラムやデータを格納する揮発性メモリ131とを含む。
【0058】
なお、各ICチップ11,21,31は、単一のチップであってもよいし、複数のチップから構成されていてもかまわない。また、メモリ111,121,131は、ICチップ内にあってもよいし、ICチップの外にあってもよい。また、ICチップと同じ基板にあってもよいし、別の基板にあってもよい。
【0059】
また、
図4の車両用制御装置は、不揮発性共有メモリ140を備える。不揮発性共有メモリ140は、第1~第3ICチップ11,21,31が処理を実行するためのプログラムを格納している。車両用制御装置のブート時において、不揮発性共有メモリ140から揮発性メモリ111,121,131にそれぞれ、対応するICチップ11,21,31が処理を実行するためのプログラムが転送される。
【0060】
図4のような3ユニット構成では、第2ICチップ21を変更することによって、AI等を用いた認知系処理の速い技術進化に追従した性能向上を実現することができる。また、第1ICチップ11を変更することによって、車種、グレードや仕向地によって異なるセンサ構成への適応が可能になる。
【0061】
図4の構成では、カメラ71の出力が第1ICユニット10Aに送信され、第1ICユニット10Aから出力された画像データが第2ICユニット20Aに送信され、第2ICユニット20Aから出力された外部環境データが第3ICユニット30Aに送信され、第3ICユニット30Aから出力された制御パラメータが各車載デバイスに送信される。すなわち、
図4の構成では、カメラ71の出力、および、第1~第3ICユニット10A,20A,30Aの出力を伝送するためのデータフローが構成されている。このデータフローは、カメラ出力、画像データ、外部環境データといった大容量のデータを伝送する必要がある。
【0062】
その一方で、
図4の構成では、第3ICユニット30Aが、第1および第2ICユニット10A,20Aに対してそれぞれ、コントロール信号を送信する。第3ICユニット30Aは、車両用制御装置において集中管理部としての機能を有しており、親チップとして、子チップとなる第1および第2ICユニット10A,20Aをコントロールする。すなわち、第3ICユニット30Aから出力されたコントロール信号を第1および第2ICユニット10A,20Aに伝送するためのコントロールフロー105が構成されている。このコントロールフロー105は、データフローと分離して、構成されている。コントロールフロー105を介して第3ICユニット30Aから伝送されるコントロール信号は、処理の指示を行うものであり、メモリ111,121に格納されたプログラムを実行するトリガを第1および第2ICユニット10A,20Aに対して与えるものである。
【0063】
第3ICユニット30Aが第1ICユニット10Aをコントロールする形態としては、例えば次のようなものがある。例えば、車両の走行状態(低速走行、市街地走行、高速走行など)に応じて、カメラ信号処理の動作モード(例えば、解像度、フレーム周波数等)を指示する。あるいは、車両の進行方向(前進、後退など)によって、信号処理の対象となるカメラを特定する。
【0064】
また、第3ICユニット30Aが第2ICユニット20Aをコントロールする形態としては、例えば次のようなものがある。例えば、認知系処理について消費電力が異なる複数の動作モードを準備しておき、車両の電力状態(例えば、バッテリーのSOC、エアコン等他の機器の消費電力等)に応じて、動作モードを指示する。あるいは、車両の走行状態(低速走行、市街地走行、高速走行など)に応じて、認知系処理の動作モードを指示する。
【0065】
ここで、コントロールフローがデータフローと共通である場合には、次のような問題が生じる。この場合、第2ICユニット20Aが、データフローを介して、子チップとなる第1ICユニット10Aを親チップとしてコントロールし、第3ICユニット30Aが、データフローを介して、子チップとなる第2ICユニット20Aを親チップとしてコントロールする。この場合には、第3ICユニット30Aは、第1ICユニット10Aの状況を直接的には把握していないため、第1~第3ICユニット10A,20A,30A間の同期が困難になる。また、ICユニット間の通信によって、処理にかかる時間が増加してしまう可能性がある。このため、車両用制御装置の動作の信頼性が低下してしまうおそれがある。
【0066】
これに対して、本実施形態では、第3ICユニット30Aが第1および第2ICユニット10A,20Aに対してそれぞれコントロール信号を送信するためのコントロールフロー105が構成されており、このコントロールフロー105は、カメラ71の出力、および、第1~第3ICユニット10A,20A,30Aの出力を伝送するデータフローと分離して、構成されている。これにより、第1~第3ICユニット10A,20A,30A間の同期が容易になり、また、第1~第3ICユニット10A,20A,30Aの処理の動的な変更や処理の中断が容易になる。したがって、車両用制御装置の動作の信頼性を維持することができる。
【0067】
また、本実施形態では、ICユニット10A,20A,30Aが処理を実行するためのプログラムが、それぞれが有するメモリ111,121,131に、分散配置される。そして、第1および第2ICユニット10A,20Aは、コントロールフロー105を介して第3ICユニット30Aから受信したコントロール信号に従って、メモリ111,121からプログラムを読み出し、処理を実行する。これにより、発動時間の短縮が可能になり、コントロールフローを介した動作モードの変更に速やかに対応することができる。
【0068】
また、ICユニット10A,20A,30Aが処理を実行するためのプログラムは不揮発性共有メモリ140に格納されている。車両用制御装置のブート時において、不揮発性メモリ140からメモリ111,121,131にそれぞれ、対応するICユニットが処理を実行するためのプログラムが転送される。これにより、メモリの削減が可能になり、例えば、消費電力の増加や発熱量の増加を抑制することができる。
【0069】
図5は実施形態に係る車両制御装置の他の構成例のイメージ図である。
図5の車両用制御装置は、上述した構成と同様に、3ユニット構成となっている。ただし、第1ICユニット10AのICチップ11、第2ICユニット20AのICチップ21、および、第3ICユニット30AのICチップ31は、当該ICユニットが処理を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)112,122,132をそれぞれ有している。一方、車両制御装置の構成では、不揮発性共有メモリ140が省かれている。
【0070】
図5の構成によっても、
図4の構成と同様の作用効果が得られる。すなわち、第3ICユニット30Aが第1および第2ICユニット10A,20Aに対してそれぞれコントロール信号を送信するためのコントロールフロー105が構成されており、このコントロールフロー105は、カメラ71の出力、および、第1~第3ICユニット10A,20A,30Aの出力を伝送するデータフローと分離して、構成されている。これにより、第1~第3ICユニット10A,20A,30A間の同期が容易になる。また、第1~第3ICユニット10A,20A,30Aの処理の動的な変更や、処理の中断が容易になる。したがって、車両用制御装置の動作の信頼性を維持することができる。
【0071】
また、
図5の構成では、車両用制御装置のブート時において、ROM112,122,132から対応するメモリ111,121,131にそれぞれ、当該ICユニットが処理を実行するためのプログラムが転送される。これにより、メモリの削減が可能になり、例えば、消費電力の増加や発熱量の増加を抑制することができる。
【0072】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
ここに開示された技術は、例えば自動運転に用いられる車両用制御装置を、動作の信頼性を維持しつつ、複数のICユニットによって構成するのに有用である。
【符号の説明】
【0074】
10A 第1ICユニット
20A 第2ICユニット
30A 第3ICユニット
71 カメラ
105 コントロールフロー
111,121,131 メモリ
140 不揮発性共有メモリ