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特許7288428プレセプシン測定に有用な抗CD14抗体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】プレセプシン測定に有用な抗CD14抗体の使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230531BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230531BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N30/88 J
C07K16/28
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020503519
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007291
(87)【国際公開番号】W WO2019167935
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018033440
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】白川 嘉門
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/093459(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033281(WO,A1)
【文献】竹内慶太 ほか,プレセプシン測定の留意点,第64回日本医学検査学会,2015年05月,563,https://www.jamt.or.jp/congress/j64/pdf/general/0563.pdf
【文献】遠藤咲恵 ほか,PATHFASTを用いたプレセプシン試薬の基礎的検討,第64回日本医学検査学会,2015年05月,576,https://www.jamt.or.jp/congress/j64/pdf/general/0576.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体採取直後でプレセプシン測定前に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中のプレセプシン測定値を安定化させる方法。
【請求項2】
検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中の偽プレセプシン産生を抑制させる方法。
【請求項3】
検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中のsCD14の変性抑制方法。
【請求項4】
検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中のsCD14を吸着除去することを含む、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中のsCD14と抗体CD14抗体とが結合物をつくることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
プレセプシン測定前に、検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中の真のプレセプシン量の定量方法。
【請求項7】
検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中の偽プレセプシンと反応する抗CD14抗体を用いて偽プレセプシンを吸着除去することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プレセプシン測定前に、偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別する工程を含む、真のプレセプシンのみを定量する方法。
【請求項9】
偽プレセプシンと真のプレセプシンとの分別が、クロマトグラフィーによる分離であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
偽プレセプシンと真のプレセプシンとの分別が、膜による分離であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
プレセプシン測定前に、偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別する工程を含む、偽プレセプシンのみを定量する方法。
【請求項12】
検体のプレセプシンを測定してプレセプシン値を算出し、算出したプレセプシン値から請求項11に記載の方法で得た偽プレセプシン値を減じることを含む、真のプレセプシン値を定量する方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の方法に用いるための、抗CD14抗体、クロマトグラフィー用カラム、および膜からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定キット。
【請求項14】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の方法に用いるための、検体カートリッジ部、検体処理部、試薬カートリッジ部、プレセプシン測定部、計算部、及び表示部からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中のプレセプシン測定において、検体の物理的刺激による検体中の見かけのプレセプシン測定値の増加を抑制するための方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
CD14分子は、単核球細胞の膜表面に発現している糖タンパク質であり、LPS(リポポリサッカライド)のレセプターとしての機能を有することが知られている。CD14分子には、細胞表面上に発現している膜結合型CD14(mCD14)と、可溶型CD14(sCD14)の2種類が存在する。sCD14として、分子量約55kDaおよび約49kDaのsCD14(以下「高分子量可溶型CD14」または「高分子量sCD14」という。)が知られており、敗血症(SEPSIS)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、急性呼吸促進症候群(ARDS)、全身性エリテマトーデス(SLE)等、多くの疾患における患者の血中で高値を示す事が報告されている。そのため、これらの高分子量sCD14は疾患特異的なマーカーではないと考えられている(非特許文献1~2)。
【0003】
一方、敗血症患者において特徴的に血中濃度が上昇する、新たなsCD14の分子種として、sCD14-ST(可溶性CD14抗原サブタイプ,プレセプシンともいう)が存在することが報告されている。
【0004】
sCD14-ST(プレセプシン)とは、sCD14のうち、非還元条件下SDS-PAGEにおいて分子量13±2kDaに泳動されることを特徴とし、CD14のN端部を保持しているものである。高分子量sCD14と比べると、C端側が大きく欠失したアミノ酸配列を有しており、高分子量sCD14とは異なりLPS結合能を有していない。また、プレセプシンは高分子量sCD14とは異なる免疫原性を示すため、抗体を用いて両者を区別できる。プレセプシンは敗血症患者において特異的に血中濃度が上昇する(特許文献1)。また、敗血症との判別が難しい、全身性炎症反応(SIRS)を示す患者と比較しても、敗血症患者の血中で高値を示すという報告があり、プレセプシンは敗血症の特異的な診断マーカーであると考えられている(非特許文献3)。
【0005】
プレセプシンを特異的に認識するウサギ由来ポリクローナル抗体(S68抗体)及びラット由来モノクローナル抗体(F1146-17-2)が開示されている(特許文献1、2)。
【0006】
現在、プレセプシンの測定には、プレセプシンに対する特異抗体としてウサギ由来ポリクローナル抗体を用いた測定系が実用化され、測定キットが欧州及び日本で上市されている(PATHFAST(商品名) Presepsin,(株)LSIメディエンス)。
【0007】
また、ウサギモノクローナル抗体を用いたプレセプシンの全自動測定装置も実用化されている(例えば、STACIA(商品名)((株)LSIメディエンス)、AIA(商品名)(東ソー(株))など)。
【0008】
プレセプシン測定キットについては、使用する検体に激しい撹拌などの物理的刺激を与えると、検体中の見かけのプレセプシン測定値が増加し、検体中の本来のプレセプシン値が得られなくなってしまう場合があると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開WO2005/108429
【文献】国際公開WO2004/044005
【非特許文献】
【0010】
【文献】Hayashiら、Infection and Immunity,67:417-420、1999年
【文献】Lawnら、Clinical&Experimental Immunology,120:483-487,2000年
【文献】Yaegashiら、Journal of Infection and Chemotherapy, 11:234-238、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の通り、プレセプシン測定キットについては、使用する検体に激しい撹拌などの物理的刺激を与えると、プレセプシンの測定値が増加することにより、検体中の本来のプレセプシン値が得られなくなってしまうことが懸念されている。このため、プレセプシン測定キットについては、激しい撹拌を与えないように検体を扱うよう注意すべきであると言われている。
【0012】
このような状況において、検体中のプレセプシン測定の際、使用する検体に物理的刺激を与えても、プレセプシンの測定値がほとんど増加することなく、検体中の本来のプレセプシン測定値を得るための方法が求められていた。
【0013】
あるいは、検体中のプレセプシン測定の際、物理的刺激を検体に与えても、検体中の見かけのプレセプシン測定値がほとんど増加せず、検体の扱い方によらず安定したプレセプシン測定を可能とする方法が求められていた。
【0014】
本発明の目的は、従来の課題の少なくとも1つを解決することができる、検体中のプレセプシン測定に有用な方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討した結果、検体に激しい撹拌などの物理的刺激を与えたときにプレセプシンの測定値が増加する現象は、物理的刺激により生じた検体中のsCD14由来の生成物が原因であることを見出した。そこで、本発明者は、このsCD14由来の生成物は、例えば、検体と抗CD14抗体とを接触させること、或いはクロマトグラフィーを用いてプレセプシンと分離できること等によって、その生成物による影響を排除でき、検体中の本来のプレセプシン値が測定できることなどに想到し、本発明を完成した。
【0016】
後述の実施例では、正常ヒト血漿(EDTA)を用い、検体の振とうによるプレセプシンELAISAキットの測定値への影響を確認し、検体の振とうによって、プレセプシンの測定値が増加することを確認した。
また、実施例では、正常人のヒト血清およびCD14吸収血清を用いて、振とうによるプレセプシン値の増加が、血中sCD14を含むサンプルでのみ増加し、血清中のsCD14に由来することも確認した。
また、実施例では、正常人の血漿を用い、F1024-1-3抗体(抗CD14抗体)の存在下・非存在下でプレセプシンを測定したところ、振とうによって生じるプレセプシン値の増加をF1024-1-3抗体が抑制することを確認した。
また、実施例では、振とうによるプレセプシン値の増加は、検体中のsCD14が関連することを確認した。具体的には、振とうによって生成するsCD14由来の生成物をゲル濾過による各フラクションを分析した結果、コントロールと抗CD14抗体を添加して振とうした検体の溶出パターンはほぼ同じであり、検体の振とうによりsCD14からより高分子量の凝集体が生成(この高分子量の凝集体を「sCD14由来の生成物」または「偽プレセプシン」とも言う。)することを確認した。そして、その高分子量の凝集体の生成は、検体に抗CD14抗体を共存させることによって効果的に抑制できることも確認した。さらに、当該高分子量の凝集体は、クロマトグラフィーにより分離できることを確認した。
【0017】
以上の実施例から、例えば、sCD14由来の生成物は、検体と抗CD14抗体とを接触させること、或いはクロマトグラフィーを用いてプレセプシンと分離すること等によって、その生成物による影響を排除でき、検体中のプレセプシン測定における振とうによるプレセプシン測定値の増加を効果的に防ぐことが可能であり、検体中の本来のプレセプシン測定値を得ることができることなどが分かる。
【0018】
従来、検体中のプレセプシン測定の際、検体を撹拌(これには、例えば激しい短時間撹拌、緩やかな長時間撹拌が含まれる)した場合、測定値に影響を与えることがあるとの注意がされているが、この測定値に影響を与える原因が血中のsCD14であり、検体と抗CD14抗体(例えば、F1024-1-3抗体)とを接触させること、或いはクロマトグラフィーを用いてプレセプシンと分離すること等によって、その生成物によるプレセプシンの測定値への影響を除去できることは驚くべきことであった。
【0019】
本発明は以下の態様を包含し得る。
[1] 検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中のプレセプシン測定値を安定化させる方法。
[2] 検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中の偽プレセプシン産生を抑制させる方法。
[3] 検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中のsCD14の変性抑制方法。
[4] 検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中のsCD14を吸着除去することを含む、前記態様[1]ないし[3]のいずれか1態様に記載の方法。
[5] 検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中のsCD14と抗体CD14抗体とが結合物をつくることを特徴とする、前記態様[1]ないし[3]のいずれか1態様に記載の方法。
[6] プレセプシン測定前に、検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中の真のプレセプシン量の定量方法。
[7] 検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中の偽プレセプシンと反応する抗CD14抗体を用いて偽レセプシンを吸着除去することを特徴とする、前記態様[6]に記載の方法。
[8] プレセプシン測定前に、偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別する工程を含む、真のプレセプシンのみを定量する方法。
[9] 偽プレセプシンと真のプレセプシンとの分別が、クロマトグラフィーによる分離であることを特徴とする、前記態様[8]に記載の方法。
[10] 偽プレセプシンと真のプレセプシンとの分別が、膜による分離であることを特徴とする、前記態様[8]に記載の方法。
[11] プレセプシン測定前に、偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別する工程を含む、偽プレセプシンのみを定量する方法。
[12] 検体のプレセプシンを測定してプレセプシン値を算出し、算出したプレセプシン値から前記態様[11]に記載の方法で得た偽プレセプシン値を減じることを含む、真のプレセプシン値を定量する方法。
[13] 前記態様[1]~[12]のいずれか1態様に記載の方法に用いるための、抗CD14抗体、クロマトグラフィー用カラム、および膜からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定キット。
[14] 前記態様[1]~[12]のいずれか1態様に記載の方法に用いるための、検体カートリッジ、検体処理部、試薬カートリッジ部、プレセプシン測定部、計算部及び表示部からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定システム。
【発明の効果】
【0020】
いくつかの態様によれば、検体中のプレセプシン測定の際、使用する検体に物理的刺激を与えても、プレセプシンの測定値がほとんど増加することなく、検体中の本来のプレセプシン測定値を得ることができる。例えば、sCD14由来の生成物は、検体と抗CD14抗体とを接触させること、或いはクロマトグラフィーを用いてプレセプシンと分離すること等によって、その生成物による影響を排除でき、検体中のプレセプシン測定における物理的刺激によるプレセプシン測定値の増加を効果的に防ぐことが可能であり、検体中の本来のプレセプシン測定値を得ることができる
また、別のいくつかの態様によれば、検体中のプレセプシン測定の際、激しい撹拌などの物理的刺激を検体に与えても、すなわち検体の扱い方によらず、正しいプレセプシン測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】抗CD14抗体添加のプレセプシン濃度への影響を示す図である。
図2】実施例4におけるゲル濾過の各フラクションをプレセプシンELAISAキットで測定し、当該測定液の450-650nmの吸光度を測定した結果を示した図である。
図3】実施例4におけるゲル濾過の各フラクションをCD14ELAISAキットで測定し、当該測定液の450-650nmの吸光度を測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
いくつかの態様は、検体中のプレセプシン測定の際、使用する検体に激しい撹拌などの物理的刺激を与えても、検体中のプレセプシンの測定値がほとんど増加することなく、検体中の本来のプレセプシン値が得られる、検体中のプレセプシン測定に有用な方法に関する。
【0023】
また、別のいくつかの態様は、物理的刺激により生成されるプレセプシン様に反応する生成物(偽プレセプシン)を除去する方法に関する。さらに別のいくつかの態様は、プレセプシン測定キットの使用に当り、激しい撹拌などの物理的刺激を検体に与えても、検体中の見かけのプレセプシン測定値が増加しない、検体の扱い方によらず、安定したプレセプシン測定を可能とする方法に関する。
【0024】
ここでは、以下の態様[1]~[14]が提供される。
[1] 第1の態様は、検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中のプレセプシン測定値を安定化させる方法である。
[2] 第2の態様は、検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中の偽プレセプシン産生を抑制させる方法である。
[3] 第3の態様は、検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中のsCD14の変性抑制方法である。
[4] 第4の態様は、検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中のsCD14を吸着除去することを含む、前記態様[1]ないし[3]のいずれか1態様に記載の方法である。
[5] 第5の態様は、検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中のsCD14と抗体CD14抗体とが結合物をつくることを特徴とする、前記態様[1]ないし[3]のいずれか1態様に記載の方法である。
[6] 第6の態様は、プレセプシン測定前に、検体と抗CD14抗体とを接触させる工程を含む、検体中の真のプレセプシン量の定量方法である。
[7] 第7の態様は、検体と抗CD14抗体とを接触させる工程により、検体中の偽プレセプシンと反応する抗CD14抗体を用いて偽プレセプシンを吸着除去することを特徴とする、前記態様[6]に記載の方法である。
[8] 第8の態様は、プレセプシン測定前に、偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別する工程を含む、真のプレセプシンのみを定量する方法である。
[9] 第9の態様は、偽プレセプシンと真のプレセプシンとの分別が、クロマトグラフィーによる分離であることを特徴とする、前記態様[8]に記載の方法である。
[10] 第10の態様は、偽プレセプシンと真のプレセプシンとの分別が、膜による分離であることを特徴とする、前記態様[8]に記載の方法である。
[11] 第11の態様は、プレセプシン測定前に、偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別する工程を含む、偽プレセプシンのみを定量する方法である。
[12] 第12の態様は、検体のプレセプシンを測定してプレセプシン値を算出し、算出したプレセプシン値から前記態様[11]に記載の方法で得た偽プレセプシン値を減じることを含む、真のプレセプシン値を定量する方法である。
[13] 第13の態様は、前記態様[1]~[12]のいずれか1態様に記載の方法に用いるための、抗CD14抗体、クロマトグラフィー用カラム、および膜からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定キットである。
[14] 第14の態様は、前記態様[1]~[12]のいずれか1態様に記載の方法に用いるための、検体カートリッジ、検体処理部、試薬カートリッジ部、プレセプシン測定部、計算部、及び表示部からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定システムである。
【0025】
本明細書における用語等について、以下に説明する。
「検体採取直後」とは、患者から検体を採取した直後(例えば、採血した直後)、もしくは検体を採取するのと同時(例えば、採血と同時)にとの意味である。ここで、検体採取直後には、「輸送前」、すなわち、患者から検体を採取し(例えば、採血し)、種々の検体パラメーター測定(例えば血液パラメーター測定)の為、専門のセンターへ送る前も含まれる。とりわけ、検体を採取した直後(例えば、採血直後)から検査センターに送る迄の間を意味する。
「プレセプシン測定前」とは、プレセプシン値測定を始める前との意味で、例えば、検体採取し、その場で測定をはじめる前、あるいは検査センターに到着した検体のプレセプシン値の測定前等が該当する。
【0026】
「検体と抗CD14抗体とを接触させる工程」とは、例えば、
1)検体に抗CD14抗体を添加する工程、
2)採血管等の容器中に抗CD14抗体を予め存在させておき(例えば、採血管等の容器中にいれたビーズ等に抗CD14抗体を固定化しておく等)、当該容器に採取した検体を収容する工程、
3)抗CD14を予め固定化した専用採血管等の専用容器を用い、当該容器に採取した検体を収容する工程、
4)検体中のsCD14を抗CD14抗体を用いて吸着除去する工程(より具体的には、例えば、樹脂等に抗CD14抗体を結合させた担体を充填したアフィニティークロマトグラフィー用カラムを用いて、検体がカラムを通過するようにさせる工程)、
等からなる群から選択されるいずれかの工程である。これらの工程を経ることで、検体中のsCD14が物理的刺激による耐性を得る、もしくはsCD14が除去されることから、検体中のプレセプシン測定値の安定化、検体中の偽プレセプシン産生抑制、またはsCD14の変性抑制をすることが可能となる。
【0027】
検体に抗CD14抗体を添加することとしては、例えば、患者から採取した検体に抗CD14抗体を加えることが挙げられる。
また、輸送前に検体に抗CD14抗体を共存させることには、検体に抗CD14抗体を添加することで検体に抗CD14抗体を共存させることや、予め採血管に抗CD14抗体を存在させ、当該採血管に血液を入れることで検体に抗CD14抗体を共存させること、などが含まれる。
【0028】
「偽プレセプシン」とは、sCD14に由来し、激しい撹拌等により、sCD14が凝集、立体構造のアンフォールディング等が起こり、プレセプシン様の反応を示してしまう生成物等を意味する。従って、偽プレセプシンのプレセプシン様の反応により、プレセプシン測定値が見かけ上増加することになる。
「偽プレセプシンの生成を阻止」又は「偽プレセプシンの産生抑制」とは、sCD14に由来する偽プレセプシンの生成もしくは産生を阻害することを意味する。
「sCD14の変性」とは、激しい撹拌等により、検体中のsCD14が、例えば、2分子で凝集し、より高分子量になること等を意味する。当該凝集によりプレセプシン測定に反応する部位が分子表面にでてきてしまい、プレセプシンを測定する抗体に反応してしまう状態となる。
「sCD14の変性抑制」とは、sCD14由来の偽プレセプシンがプレセプシン測定に反応してしまうことを阻害することを意味する。
「物理的刺激」とは、検体を扱う際の、激しい攪拌(緩やかな長時間攪拌を含む)等を意味し、採決後の採血管の転倒撹拌、もしくは振とうをも意味する。
「真のプレセプシン値」とは、検体中に存在するプレセプシン量を示す正しい値を意味し、例えば、これは、検体に物理的刺激を与える前の検体中のプレセプシンの測定値である。sCD14が凝集し、プレセプシン測定に反応してしまうことで見かけ上のプレセプシン値が増加してしまう現象がある。例えば、sCD14が凝集しないようにすることで検体中に存在するプレセプシン値そのものを知ることができ、振とうなどの影響があっても安定して正しいプレセプシン値が得られる。但し、検体に物理的刺激を与える前の検体中のプレセプシンの測定値と完全に一致することまでを意味するものではない。
【0029】
「プレセプシン測定値の安定化」とは、検体が物理的刺激を受けても真の値のプレセプシン値を示すようにすることを意味する。すなわち、例えば、sCD14が凝集することを抑制することで物理的刺激を受けても真のプレセプシン値が得られるようになる。
「物理的刺激による不安定化に抵抗」とは、物理的刺激によりsCD14が凝集、立体構造のアンフォールディングする不安定化を抑制することで、プレセプシン測定においてプレセプシン様の反応を示し、真のプレセプシン値に加えて、見かけ上のプレセプシン値の増加を阻止することを意味する。
【0030】
「真のプレセプシン」とは、後述する「プレセプシン」、すなわちsCD14-st(可溶性CD14抗原サブタイプ)であり、通常のプレセプシン測定キットで定量される物質である。
「偽プレセプシンと真のプレセプシンとを分別」とは、以下の方法、
1)クロマトグラフィーによる分離(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによる分離(例:実施例4))、
2)膜による分離、
3)偽プレセプシンに反応する抗体による分離、
等が挙げられる。
【0031】
プレセプシン測定前の検体中を、クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー)で分離し、真のプレセプシンを含む分画中を得て、プレセプシン値を測定することで、真のプレセプシン値を定量することが可能である。定量にあたっては、後述するプレセプシン測定方法を用いるが、例えば、実施例4で言えば、標準濃度のプレセプシンによって作成した検量線と各プレセプシンを含む分画のプレセプシン量を比較することで、真のプレセプシン値を得ることができる。また、当該分離と定量を行うシステムを構築することで、検体を直接アプライするだけで真のプレセプシン値を得るシステムを構築することも可能である。
【0032】
膜によって検体中の偽プレセプシンを除去するには、例えば、検体を、プレセプシンより高分子量の物質を除ける膜(例えば、30キロダルトンの限外濾過膜)を通過させてもよい。当該膜によって偽プレセプシンを除去され、偽プレセプシンが除去された検体のプレセプシン値を測定することで真のプレセプシン値を得ることができる。
【0033】
また、検体からsCD14由来の偽プレセプシンを分離するには、sCD14には反応するが、真のプレセプシンには反応せず、偽プレセプシンに反応する抗体と検体を接触させ、偽プレセプシンを除去することが含まれる。偽プレセプシンを抗体で除去するには、検体と抗体とを接触させ、例えば、当該抗体を固定化したカラムを検体が通過するようにさせ、当該抗体にsCD14由来の偽プレセプシンを吸着除去することが含まれる。
「真のプレセプシン値のみを定量する」とは、プレセプシン測定前の検体中を、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーで分離し、真のプレセプシンを含む分画中のプレセプシン値を定量することを意味する。より具体的には、後述する実施例4に従い、分離した該当分画を定量することである。
また、クロマトグラフィーによって分離した「偽プレセプシン」を含む分画でプレセプシン測定を行うことによって、「偽プレセプシン値」を得ることができる。偽プレセプシン値が得られれば、検体のプレプシン値を測定し、真のプレセプシン値と偽プレセプシン値の合計値(総プレセプシン量)から偽プレセプシンの測定値を得ることが可能である。
「偽プレセプシンのみを定量する」とは、プレセプシン測定前の検体中を、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーで分離し、偽プレセプシンを含む分画中の偽プレセプシン値を定量することを意味する。より具体的には、後述する実施例4に従い、分離した該当分画を定量することである。
「プレセプシン測定システム」とは、プレセプシン測定を実施するための各要素をシステム中に組み込んだ全自動装置等の装置を意味する。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0035】
1.抗CD14抗体、膜およびクロマトグラフィー用カラム
1.1.抗CD14抗体
いくつかの態様では、抗CD14抗体を用いる。抗CD14抗体とは、CD14、好ましくはヒトCD14に結合する抗体全般を含むものである。好ましくは、抗CD14抗体は、F1024-1-3抗体、3C10抗体、及びMEM-18抗体から選択される少なくとも1つの抗体であり、より好ましくは、F1024-1-3抗体、3C10抗体、又はMEM-18抗体である。
【0036】
“F1024-1-3抗体”とは、WO2001/72993 A1に記載の通り、ラットにヒト血清中より精製したCD14蛋白質を抗原として免疫した免疫細胞とミエローマ細胞を細胞融合して取得したハイブリドーマF1024-1-3が産生するF1024-1-3抗体である。より具体的には、WO2001/72993 A1の実施例1「抗ヒトCD14抗体の作製」の公知の方法に準じ、当該公報記載の方法で取得することができる。
【0037】
F1024-1-3抗体は、配列番号3に記載のヒトsCD14の285番から315番までの領域の8個以上のアミノ酸を含むエピトープを特異的に認識する抗CD14抗体である。
【0038】
また、LPSのヒトCD14を介するシグナル伝達を制御するヒト抗CD14抗体として、ヒトCD14の7~14番目に結合する3C10抗体(Steinman:J.Exp.Med.,158:126(1983)およびJuan TS:J.Biol.Chem.,270:29,17237(1995))および57~64番目に結合するMEM-18抗体(Bazil:Eur.J.Immunol.,16:1583(1986)およびJuan TS:J.Biol.Chem.,270,10,5219(1995))が知られている。
3C10抗体、MEM-18抗体は、例えば、abcom社より入手可能である。
【0039】
「抗体」の語は、特に断りのない限り、「抗体又はその抗原結合性断片」の意味で用いられる。「抗原結合性断片」は、抗体の部分断片の中で、元の抗体と実質的に同じ抗原結合性を有する断片のことをいう。抗原結合性断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)などが挙げられる。
【0040】
1.2.膜
いくつかの態様では、偽プレセプシンを除去することのできる膜を用いる。好ましくは、膜は、プレセプシンより高分子量の物質を除くことができる膜(例えば、30キロダルトンの膜)である。そのような膜としては、例えば、限外ろ過フィルター(例えば、Amicon(商品名) Ultra(Merck Millipore)等)が挙げられる。
【0041】
1.3.クロマトグラフィー用カラム
いくつかの態様では、検体中の真のプレセプシンと偽のプレセプシンを分離するのに、クロマトグラフィー用カラム(例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー用カラム)を用いる。そのようなクロマトグラフィー用カラムとしては、例えば、Superdex(商品名)、Sephacryl(商品名)、Superose(商品名)、およびSephadex(商品名)などの種類が挙げられる。
【0042】
2.プレセプシン
「プレセプシン」は、sCD14-ST(可溶性CD14抗原サブタイプ)ともいう。CD14には、膜結合型CD14(mCD14)のほかに可溶型CD14(sCD14)があり、血中には分子量の異なる複数の可溶型CD14が存在する。プレセプシンは、CD14の可溶型の断片であり、以下の1)~3)の性質を有する物質をいう。
【0043】
1) 非還元条件下SDS-PAGEでは、分子量13±2kDaである、
2) N末端配列に配列番号3のアミノ酸配列(ヒト全長可溶型CD14のアミノ酸配列)の1位~11位のアミノ酸配列を有する、及び、
3) 配列番号2に記載の16アミノ酸残基(配列番号3のアミノ酸配列の53位から68位のアミノ酸配列に相当する)からなるペプチド(S68ペプチド)を抗原として作製した抗体に特異的に結合する。
【0044】
プレセプシンとは、特に説明しない限り、ヒトプレセプシンである。プレセプシンは、例えば、プレセプシン標準品(WO2005/108429の実施例16に記載のrsCD14-ST)である。あるいは、プレセプシンとしての結合活性を有する、プレセプシンの一部を改変した物質が用いられてもよい。
【0045】
3.sCD14
sCD14として、分子量約55kDaおよび約49kDaのsCD14が知られている。sCD14を、本明細書においては「高分子量可溶型CD14」または「高分子量sCD14」ともいう。
sCD14は、例えば、正常人の体液の3C10抗体アフィニティーカラム吸着により作製してもよい(WO2005/108429の実施例23参照)。
【0046】
4.プレセプシンの測定方法
「プレセプシン測定」とは、例えば、プレセプシンを免疫学的に測定することである。プレセプシンを免疫学的に測定することには、例えば、抗プレセプシン抗体(例えば、S68ポリクローナル抗体、P03認識モノクローナル抗体、P03特異的ポリクローナル抗体等の特定の抗体)(以下、「プレセプシン測定に使用する抗体」と記載する)とプレセプシンを含有する検体(例えば、血液検体)とを接触させる工程が含まれる。「測定」の語は、「検出」「定量」「アッセイ」等の語と相互に変換して用いることができ、定量的及び定性的な決定を含む意味で用いられる。プレセプシンの測定は、好ましくは、in vitroで行う。
【0047】
検体中のプレセプシン測定値を安定化させる方法、検体中のsCD14由来の偽プレセプシン産生を抑制させる方法、検体中のsCD14の変性抑制方法、検体中の真のプレセプシン量の定量方法、真のプレセプシンのみを定量する方法、偽のプレセプシンのみを定量する方法などは、プレセプシン測定において用いることができる。
【0048】
検体中のプレセプシン測定の際、使用する検体に物理的刺激を与えても、プレセプシンの測定値がほとんど増加することなく、検体中の本来のプレセプシン測定値を得ることができる。例えば、sCD14由来の生成物は、検体と抗CD14抗体とを接触させること、或いはクロマトグラフィーを用いてプレセプシンと分離できること等によって、その生成物による影響を排除でき、検体中のプレセプシン測定における物理的刺激によるプレセプシン測定値の増加を効果的に防ぐことが可能で、検体中の本来のプレセプシン測定値を得ることができる
また、膜を用いることなどで、検体中の偽プレセプシンを除去し、プレセプシン測定における見かけ上のプレセプシン測定値が増加することを抑制できる。
【0049】
「S68抗体」とは、S68ペプチド(配列番号2)を免疫原として用いて免疫した非ヒト哺乳動物から得られたポリクローナル抗体を、S68ペプチドを固定化したカラムを用いて精製して得られる抗S68ペプチドポリクローナル抗体である。「S68ペプチド」は、配列番号2のアミノ酸配列(配列番号3のアミノ酸配列の53位から68位のアミノ酸配列)からなるペプチドである。具体的なS68抗体の作製方法は、WO2004/044005の実施例1に記載の通りである。
【0050】
「P03認識モノクローナル抗体」とは、プレセプシンにおける、配列番号1で表されるアミノ酸配列(krvdadadpr:配列番号3(ヒト全長可溶型CD14)の52位~61位に相当する領域:P03配列ともいう)を認識する、モノクローナル抗体である。P03認識モノクローナル抗体は、例えば、WO2015/129774に記載のモノクローナル抗体である。
【0051】
「P03特異的ポリクローナル抗体」とは、従来のウサギ由来抗プレセプシンポリクローナル抗体(S68抗体)、すなわちS68ペプチド(配列番号2)でウサギを免疫して得られたポリクローナル抗体を、S68ペプチドを固定化したアフィニティーカラムで精製して作製される。S68ペプチド固定化したカラムに替えて、P03ペプチド(配列番号1)を固定化したアフィニティーカラムにより、ポリクローナル抗体を精製することにより、プレセプシンとの反応性の高い抗プレセプシンポリクローナル抗体が得られる。具体的なP03特異的ポリクローナル抗体の作製方法は、WO2017/033281に記載の通りである。
【0052】
プレセプシンは敗血症の検出に用いられるマーカーとして知られているため、プレセプシンの測定方法は、プレセプシン測定に使用する抗体とプレセプシンを含有する検体を接触させる工程を含む、敗血症を検出するための方法に使用することができる。
【0053】
すなわち、プレセプシンの測定方法は、
(1)プレセプシン測定に使用する抗体を用いて、被験者の検体中のプレセプシン濃度を測定する工程、及び、
(2)上記(1)で得られたプレセプシン濃度がカットオフ値と比較して高値であるか否かを判定する工程を含む、
敗血症を検出する方法ということもできる。
【0054】
検体が血液検体である場合のカットオフ値は、例えば、314~600pg/mLであり、好ましくは400~580pg/mL、より好ましくは450~550pg/mL、さらに好ましくは、500pg/mLである。
【0055】
「敗血症の検出」は、「敗血症の検出の補助」あるいは「敗血症の診断の補助」に読み替えて用いられてもよい。
【0056】
また、プレセプシンの測定方法は、例えば、敗血症と全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome、SIRS)との判別;敗血症の重症化のリスク評価;敗血症の予後予測(死亡率予測);敗血症の重症度評価;術後感染症の検出;感染性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation、DIC)の検出;感染性DICの検出;心疾患の検出;細菌感染を伴う呼吸器感染症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、発熱性好中球減少症(febrile neutropenia、FN)、又は血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome、HPS)の検出から選ばれる少なくとも1つの疾患の検出又は評価のために使用することができる。すなわち、プレセプシンの測定方法は、前記疾患の検出又は評価方法ということもできる。
【0057】
術後感染症は、術後に発症した感染症を総称し、手術およびそれに必要な補助療法による全ての感染症を意味する。また、術後感染症は、Guideline for prevention of surgical site infection,1999 (CDC)に基づき術後感染症と診断される疾患全てを含むものである。
心疾患としては、例えば、急性冠症候群(ACS)、急性心不全、急性非代償性心不全(ADHF)、慢性心不全、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中及び一過性脳虚血発作が挙げられる。
【0058】
細菌感染を伴う呼吸器感染症としては、下気道感染症又は肺炎が挙げられる。下気道感染症には急性下気道感染症と慢性下気道感染症が含まれる。急性下気道感染症には急性気管炎、急性気管支炎、急性細気管支炎が含まれ、多くは上気道へのウイルス感染が下気道に波及することにより発症するが、一部で細菌による二次感染が続発する。細菌二次感染の兆候が見られた場合は抗生剤投与の適応となる。慢性下気道感染症は、気管支拡張症や慢性閉塞性肺疾患などで器質的障害を有する下気道に細菌の持続的な感染が成立した病態であり、持続感染と急性憎悪が存在する。下気道の器質的障害を発生させる疾患には、気管支拡張症、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎、陳旧性肺結核、じん肺、非結核性抗酸菌症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、肺線維症、慢性気管支喘息などが含まれる。持続感染、急性憎悪ともに抗生剤投与の適応となる。肺炎には市中肺炎、院内肺炎が含まれる。好ましくは市中肺炎である。
【0059】
プレセプシン測定に使用する抗体を用いて、プレセプシンを免疫学的に測定する方法としては、例えば、エンザイムイムノアッセイ((以下、EIA又はELISAとも記す)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA),蛍光抗体法(FAT)、蛍光酵素免疫測定法(FEIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、放射免疫測定法(RIA)、イムノクロマト法、凝集法、競合法等が挙げられるが、これらに限定されない。直接法と間接法のいずれが用いられてもよい。ビオチン-アビジン(ストレプトアビジン)複合体を形成させて検出する増感法が用いられてもよい。
【0060】
EIAは、酵素標識抗体を用いた免疫測定法の一つであり、直接法、間接法等が挙げられる。好ましい例としては、サンドイッチELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)である。
【0061】
サンドイッチELISAとは、抗原認識部位の異なる2種類以上の抗体を用いて、あらかじめ一方の抗体は固相に固定し、検出したい抗原を2種類の抗体で挟んで、抗体-抗原-抗体複合体を形成させることにより測定する方法である。
【0062】
化学発光酵素免疫測定法(CLEIA:Chemiluminescent Enzyme Immunoassay)は、検体中の抗原と、磁性粒子やビーズ等に固相した抗体を反応させた後、酵素標識抗体を反応させ、洗浄(B/F分離)後、化学発光基質を加えて酵素反応後、発光強度を測定する方法である。
【0063】
例えば、検体中の抗原とビオチンを結合させた抗体を液相で反応させ、ストレプトアビジンを結合させた磁性粒子へ抗体をトラップし、洗浄(B/F分離)後、酵素標識抗体を反応させ、発光強度を測定する。
【0064】
標識酵素としてアルカリホスファターゼ(ALP)を用いるとき、化学発光基質は、CDP-StarTM,AMPPDTM,CSPDTMが用いられることが好ましい。標識酵素がHRPのときは、化学発光基質は、ルミノールが用いられることが好ましい。
【0065】
検出感度は、一般的に、化学発光>蛍光>吸光(呈色)の順に高いといわれ、求める感度に応じて測定法を選択しうる。
【0066】
化学発光免疫測定法(CLIA:Chemiluminescent Immunoassay)は、検体中の抗原と磁性粒子などに固相した抗体を反応させた後、化学発光物質で標識した抗体を反応させ、洗浄(B/F分離)後、発光強度を測定する方法である。標識物質は、アクリジニウム等が用いられる。
【0067】
蛍光酵素免疫測定法(FEIA:Fluorescent Enzyme Immunoassay)は、検体中の抗原と固相化した抗体を反応させた後、酵素標識抗体を反応させ、洗浄(B/F分離)後、蛍光基質を加えて酵素反応後、蛍光強度を測定する方法である。標識酵素には、HRPやALP等が用いられる。蛍光基質は、標識酵素がHRPのときは、AmplexTMRed等が用いられ、標識酵素がALPのときは、4-MUP(4-Methylumbelliphenyl phosphate)、AttoPhosTM等が用いられることが好ましい。
【0068】
電気化学発光免疫測定法(ECLIA:Electro Chemiluminescence Immunoassay)は、検体中の抗原と磁性粒子に固相した抗体及び電気化学発光物質で標識した抗体を反応させた後、洗浄(B/F分離)し、電気エネルギーによる発光強度を測定する方法である。標識物質にはルテニウム等が用いられる。標識物質には、Ru(bpy)3等が用いられ、電極への荷電による酸化と、トリプロピルアミン(TPA)等による還元反応により励起発光を繰り返す。
【0069】
放射免疫測定法((RIA:Radioimmunoassay)は、放射性同位元素による標識体を用いた測定方法である。例えば、検体中の抗原とビーズ等に固相した抗体を反応された後、放射性同位元素(125I等)で標識した抗体を反応させ、洗浄(B/F分離)後、125Iの放射線量を測定することができる。
【0070】
イムノクロマト法は、被検体が、試験ストリップ上を試薬を溶解しながら移動する毛細管現象を応用した免疫測定法である。検体中の抗原が、試験ストリップ上の標識抗体及びキャプチャー抗体の2者と免疫複合体を形成し、標識物の色を確認する方法である。抗体の標識は、金コロイド、酵素、蛍光物質等が用いられる。酵素標識抗体を用いる場合は、試験ストリップ上に酵素基質を配置し発色させる。
【0071】
フロースルー法は、不溶性担体であるメンブレン上で、検体中の溶液と共に被験物質である抗原が、抗体-抗原-抗体複合体を形成させる方法である。このとき、メンブレンに固定されなかった物質は、通常は垂直にメンブレンの表から裏を通って除去される。
【0072】
凝集法は、検体中の抗原と試薬中の抗体を反応させ、凝集を観察する方法である。固相を用いない方法、固相として人工的に作製された粒子を用いる粒子凝集法(particle agglutination:PA)、PAの中でもラテックス粒子を用いたラテックス凝集法(latex agglutination:LA)等が挙げられる。
競合法は、例えば、固相に抗体を結合させ、被検試料と一定量の標識抗原を同時に反応させ、結合した標識物の量から試料中の抗原の量を測定することができる。
プレセプシン測定に使用する抗体は、上述の測定方法に好ましく用いられる。
【0073】
プレセプシン測定に用いられる検体は、対象から採取したものである。
ここで、対象は、例えば、ヒト、非ヒト哺乳動物(例えば、ウサギ、ヤギ、馬、羊、ブタ、ラット、およびマウス)が挙げられる。いくつかの態様では対象は、ヒトである。
検体は、特に限定されないが、水性の検体が好ましく、例えば、血液(全血、血漿、血清等)、尿、組織液、リンパ液、関節液、乳汁、脳脊髄液、膿、唾液、涙液、粘液、鼻水、痰、腹水、用水、精液などの体液、また、鼻腔、気管支、肺、皮膚、腹腔、各種臓器、関節、骨などを洗浄した後の洗浄液、あるいは、細胞培養上清、またはカラム溶出液等が挙げられる。これらの試料は、そのまま、あるいは各種緩衝液等で希釈あるいは抽出後濃縮され、測定に用いられる。プレセプシン測定に用いられる検体は、好ましくは、血液検体であり、より好ましくはヒト血液検体である。
【0074】
また、プレセプシン測定に用いる検体として、全血検体を用いる場合には、全血検体を採取してから72時間、48時間以内、24時間以内、12時間以内、6時間以内、又は4時間以内に分析を実施されてもよい。また、EDTA採血管又はヘパリン採血管により全血検体を採取されてもよい。好ましくは、EDTA採血管に全血検体を採取して6時間以内に分析すること、又は、ヘパリン採血管により全血検体を採取して4時間以内に分析することが挙げられる。
【0075】
4.プレセプシン測定キット
また、ここでは、抗CD14抗体、クロマトグラフィー用カラム、および膜からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定用キット(「測定キット」ともいう)が提供される。
測定キットは、好ましくは、検体中のプレセプシン値を安定化させる方法、検体中のsCD14由来の偽プレセプシン産生を抑制させる方法、検体中のsCD14の変性抑制方法、検体中の真のプレセプシン量の定量方法、真のプレセプシンのみを定量する方法、偽プレセプシン値のみを定量する方法などに用いる、プレセプシン測定用キットである。測定キットは、好ましくは、抗CD14抗体、クロマトグラフィー用カラム、または膜を含む。
「抗CD14抗体」、「クロマトグラフィー用カラム」、または「膜」は、具体的には、前述の通りである。
【0076】
測定キットは、より好ましくは、プレセプシン測定のための補助試薬を含む。補助試薬としては、例えば、一次抗体、二次抗体、標識抗体、標識酵素、金コロイド等の標識物質、発色基質、蛍光基質(AmplexTM Red,AttoPhosTM,4-MUP等)、化学発光基質(ルミノール、CDP-StarTM,AMPPDTM,CSPDTM等)、ビオチン-ストレプトアビジン等の特異結合物質、不溶性担体、ブロッキング剤、希釈液、洗浄液、標準物質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
プレセプシン測定のための補助試薬は、プレセプシン測定の方法に合わせて、適宜組み合わせて用いられる。
【0078】
一次抗体は、好ましくは、プレセプシンに結合する抗体であり、より好ましくは、抗体と異なるエピトープを認識する抗体が好ましい。例えば、WO2004/044005号公報の実施例3に記載のF1106-13-3抗体やF1031-8-3抗体などが挙げられる。WO2005/108429号公報も同様に参照できる。
【0079】
プレセプシン測定に使用する抗体と一次抗体のいずれを標識抗体としてもよい。プレセプシン測定に使用する抗体と一次抗体のいずれも標識されていない場合は、標識された二次抗体を用いてもよい。
【0080】
不溶性担体としては、例えば、磁性粒子、ビーズ、ガラス、セルロース、ニトロセルロース、多孔性合成ポリマー、グラスファイバー、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルクロライド、ポリプロピレン、プラスチックプレート、ラテックス粒子、不織布、濾紙等が挙げられる。
【0081】
プレセプシン測定に使用する抗体の標識は、ペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、β-ガラクトシダーゼ等の酵素、金コロイド等、好ましく用いられるが、これらに限定されない。
【0082】
例えば、HRPを用いる場合は、発色基質として、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、o-フェニレンジアミン(OPD)等が挙げられる。ALPを用いる場合は、発色基質としてp-ニトロフェニルフォスフェート(pNPP)等が挙げられる。β-ガラクトシダーゼを用いる場合の発色基質としては、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(o-Nitrophenyl-β-D-Galactopyranoside:ONPD)等が例示される。
【0083】
例えば、サンドイッチELISA法用の測定キットは、プレセプシン測定に使用する抗体及び一次抗体(いずれかの抗体が酵素標識されていてもよい)、発色基質、希釈液、標準物質等を含有しうる。抗体及び一次抗体が標識されていない場合、標識された二次抗体を含有してもよい。
【0084】
化学発光酵素免疫法(CLEIA)用の測定キットは、例えば、磁性粒子等に固相化した抗体、酵素標識抗体、化学発光基質、希釈液、洗浄液等を含有しうる。
【0085】
蛍光酵素免疫測定法(FEIA)の測定キットは、例えば、磁性粒子等に固相化した抗体、酵素標識抗体、蛍光基質、希釈液、洗浄液等を含有しうる。
【0086】
電気化学発光免疫測定法(ECLIA)の測定キットは、例えば、ビオチン化抗体、Ru(bpy)3標識抗体、ストレプトアビジンコーティング磁性粒子、トリプロピルアミン等を含有しうる。
【0087】
イムノクロマト法による測定キットは、試料添加部、試薬部、検出部及び吸収部を、試験添加部に添加される液性検体が上記の順に移動するように設けた試験ストリップである。例えば、試薬部に標識した第二の抗体を含浸させ、検出部に第一の抗体が結合した不溶性担体を設置することができる。
【0088】
試験ストリップは、多孔性担体等を用いることが例示される。多孔性担体は、例えば、ニトロセルロース、セルロース、セルロース誘導体、ナイロン、ナイロン繊維、ガラス線維、多孔性合成ポリマー等が挙げられる。吸収部は、水吸収性材料のスポンジ等の吸収ポリマー、セルロース濾紙、濾紙等が挙げられる。
【0089】
敗血症患者では、特徴的にプレセプシン血中濃度が増加することが報告されているため、プレセプシン測定用キットは、敗血症の検出用キット、又は、敗血症の検出若しくは診断を補助するためのキットであってもよい。
【0090】
また、測定キットは、敗血症の診断薬、あるいは、敗血症診断の補助薬として用いることができる。プレセプシン測定用キットは、このような敗血症の検出等を目的とするとき、抗体を用いて測定した、被験者の検体中のプレセプシン濃度が、カットオフ値より高値であるときに、被験者を敗血症の可能性があると判定し、検出又は診断を補助することができる。このとき、カットオフ値は、314~600pg/mLであり、好ましくは400~580pg/mL、より好ましくは450~550pg/mL、さらに好ましくは、500pg/mLである。
【0091】
また、いくつかの態様では、プレセプシン測定用キットは、例えば、敗血症と全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome、SIRS)との判別;敗血症の重症化のリスク評価;敗血症の予後予測(死亡率予測);敗血症の重症度評価;術後感染症の検出;感染性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation、DIC)の検出;感染性DICの検出;心疾患の検出;細菌感染を伴う呼吸器感染症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、発熱性好中球減少症(febrile neutropenia、FN)、又は血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome、HPS)の検出から選ばれる少なくとも1つの疾患の検出又評価のために使用することができる。プレセプシン測定用キットは、上記の少なくとも1つの疾患の検出又は評価のためのキットであってもよい。
【0092】
5.偽プレセプシンと真のプレセプシンの分別定量方法
検体中の偽プレセプシンと真のプレセプシンの分別定量方法は、ゲル濾過法を用いることを含む。
「偽プレセプシンと真のプレセプシンの分別定量」とは、具体的には、実施例4のように、sCD14由来の偽プレセプシンとプレセプシンとを分離することを意味する

例えば、実施例4に準じる方法に従って、ゲル濾過法を用いて行うことができ、各々の分画中のプレセプシン値を測定する。より具体的には、プレセプシン測定前の検体中を、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーで分離し、真のプレセプシンを含む分画中を得て、プレセプシン値を測定することで、真のプレセプシン値を定量することが可能である。定量にあたっては、前記のプレセプシン測定方法を用いるが、例えば、実施例4で言えば、標準濃度のプレセプシンによって作成した検量線と各プレセプシンを含む分画のプレセプシン量を比較することで、真のプレセプシン値を得ることができる。
あるいは、真のプレセプシンを含む分画の代わりに、偽プレセプシンを含む分画を得て、偽プレセプシン値を測定することで、偽プレセプシン値を得ることができる。偽プレセプシン値が得られれば、検体のプレプシン値を測定し、真のプレセプシン値と偽プレセプシン値の合計値(総プレセプシン量)から真のプレセプシンの測定値を得ることも可能である。
【0093】
6.プレセプシン測定システム
また、ここでは、検体中のプレセプシン値を安定化させる方法、検体中のsCD14由来の偽プレセプシン産生を抑制させる方法、検体中のsCD14の変性抑制方法、検体中の真のプレセプシン量の定量方法、真のプレセプシンのみを定量する方法、偽プレセプシン値のみを定量する方法などをシステム中に組み込んだ全自動装置等の装置が提供される。
また、当該分離と定量を行うシステムを構築することで、検体を直接アプライするだけで真のプレセプシン値を得るシステムを構築することも可能となる。
当該システムの各構成は、例えば、次の通りである。
1)検体カートリッジ部:例えば、測定に用いる採取した検体をマイクロチューブに入れ、そのマイクロチューブを保持する部分等が該当する;
2)検体処理部:検体サンプリングを行う部分であり、例えば、直接サンプリングするノズル、またはディスポーザブルチップを装着できる部分を備え、サンプルを採取する部分が該当する;
3)試薬カートリッジ部:プレセプシン測定に必要な試薬等を含む部分であり、例えば、前記のプレセプシン測定、又はプレセプシン測定キットの項目に記載のプレセプシン測定に必要な試薬等が該当する;
4)プレセプシン測定部:検体中のプレセプシン測定を行う部分であり、前記プレセプシン測定、またはプレセプシン測定キットの項目に記載に記載のプレセプシン測定を行う部分が該当する;
5)計算部:4)の測定部での測定に基づきプレセプシン値を計算する部分が該当する;
6)表示部:5)の計算部で計算したプレセプシン値を表示する部分が該当する;
等が挙げられ、上記1)から6)からなる群から選択される少なくとも1つを含む、プレセプシン測定システムが挙げられる。上記の1)~6)の構成は、基本的には、当該システム内において、その順番、すなわち、1)→2)→3)→4)→5)→6)の順で処理が進むこととなる。
【0094】
尚、本明細書において引用した全ての文献、及び公開公報、特許公報、その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
以下の実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれら実施例に限定して理解されるべきものではない。
【実施例
【0095】
実施例1:プレセプシン測定値への検体振とうの影響
TENNESSEE Blood Services社の正常ヒト血漿(EDTA)2例(#R255292、#R255287)を検体として、プレセプシンELAISAキット(持田製薬(株)、Lot:2S015)を用いて、振とうした各検体中の各々のプレセプシン値を測定した。
検体のプレセプシン値の測定は、振とう前(0分)及び振とう後10分及び60分で行った。
尚、振とうは、検体2mLをマイクロチューブに分注し、TAITEC社 Vortex Mixerで60秒まで、それ以降60分まではEYELA CUTE CM-1000(1800rpm)を用いた。各測定検体は各々の検体2mLより50μLずつサンプリングして使用した。
各プレセプシンの測定値を表1に示した。
【0096】
表1:振とうによる経時的なプレセプシン濃度変化
【表1】
【0097】
以上の結果より、検体の激しい振とうにより検体中のプレセプシン値が経時的に増加する現象が認められた。なお、この増加した値は、敗血症診断のカットオフ値;500pg/mLより大きな値であった。なお、本実験で加えた物理的刺激(振とう)モデルは、検討の為の極端な条件であり、血液検体の通常の取扱又は輸送状態等とは異なり、極めて異常で激しいものであることを補足説明しておく。
【0098】
実施例2:プレセプシン測定値の増加原因の検討
Access Biologicals社の正常ヒト血清(#STL130145)、及び抗CD14抗体で前処理したヒト血清(以下、CD14吸収ヒト血清という。)を用い、各々の検体とも1.5mLのマイクロチューブ当り100μLずつ分注し、10分間振とうした(振とう条件は実施例1と同じ)。尚、CD14吸収ヒト血清の調製は、F1024-1-3抗体(WO2001/72993の公報の実施例1及び2に記載の方法で調製した。)をクロマトグラフィー用の樹脂(Sepharose 4FF)に結合させたアフィニティークロマトグラフィーを用いて調整した。正常ヒト血清を当該アフィニティーカラムに通して、CD14を樹脂に吸着させ、その非吸着画分(素通り画分)を使用した。
正常ヒト血清およびCD14吸収ヒト血清の各々の振とう前、及び10分間振とう後の検体について、パスファーストPresepsin、PATHFAST(商品名)((株)LSIメディエンス)を用いて検体中のプレセプシン濃度(pg/mL)を測定した。また、CD14ELISAキット(R&D systems社)を用いて各検体中のsCD14濃度(ng/mL)を測定した。
各検体中のプレセプシン濃度及びsCD14濃度を表2に示した。
【0099】
表2:各検体中のプレセプシン濃度(pg/mL)及びsCD14濃度(ng/mL)
【表2】
【0100】
以上の結果より、特別な処理を行っていない正常ヒト血清では、10分の振とうで著しいプレセプシン濃度の上昇が認められたが、CD14吸収ヒト血清では、振とう後でも、プレセプシンの測定値の顕著な増加は認められなかった。
sCD14濃度は、正常ヒト血清では、10分の振とうで半分以下に減少したが、CD14吸収ヒト血清ではほとんど変化しなかった。
なお、アフィニティークロマトグラフィーによるCD14吸収処理により、正常ヒト血清中のsCD14含量は2ケタ減らすことができていることが確認された。(表2)
これらの結果から、振とうによるプレセプシン値の増加は、血清中のsCD14に由来する可能性が示唆された。
【0101】
実施例3:抗CD14抗体によるプレセプシン濃度変化へ影響の検討
F1024-1-3抗体(抗CD14抗体)を約30μg、1mLの正常ヒト血漿(EDTA)に加えた後、10分間振とう後、各検体のプレセプシン濃度をプレセプシンキット(パスファーストPresepsin、PATHFAST(商品名))を用いて測定し、抗CD14抗体の振とうによるプレセプシン濃度変化への影響を検討した。
結果を図1に示した。正常人の血漿を用い、F1024-1-3抗体(抗CD14抗体)の存在下・非存在下でプレセプシンを測定したところ、振とうによって生じるプレセプシン値の増加をF1024-1-3抗体が抑制することが示された。
【0102】
また、敗血症患者の血漿を用いた場合でも、抗CD14抗体の添加により、振とうによるプレセプシン濃度の変化が抑えられることが確認できた。
一方、血漿検体に、抗CD14抗体以外の抗体、例えば、抗アラキドン酸抗体、抗hCG抗体等の非抗CD14抗体を添加した場合には、振とうによるプレセプシン濃度変化抑制効果は認められなかった。
【0103】
以上の結果より、抗CD14抗体の添加により、振とう、すなわち激しい物理的刺激によるプレセプシン濃度の増加を抑制できることが明らかとなった。
【0104】
実施例4:振とう処理したヒト血漿のゲル濾過分析
正常ヒト血漿(#STL130145)を0.5mLずつ3本のチューブに分注し、1本は、コントロールとしてそのまま静置した後、ゲル濾過分析に用いた。残り2本は、
10分間の振とう処理した後に、それぞれゲル濾過分析を行った。このとき、1本にはF1024-1-3抗体を約200μg添加し室温で10分間静置後に振とう処理を行った。
・Column Superdex 75 10/300 GL(1cmφ×30cm)
・フラクション 0.5mL/チューブ
・カラムへの検体添加量 100μL
【0105】
(1)ゲル濾過の各フラクションをプレセプシンELISAキットで測定し、当該測定液の450-650nmの吸光度を図2に示した。
【0106】
(2)ゲル濾過の各フラクションをCD14ELISAキット(R&D systems社)で測定し、当該測定液の450-650nmの吸光度を図3に示した。
【0107】
図2に示した通り、コントロールとした正常血漿は、フラクション19付近に単一ピークで溶出された。この溶出位置は、分子量13KDとされる真のプレセプシンの溶出位置である。
一方、振とう処理したヒト血漿検体のゲル濾過分析結果は、フラクション13付近と19付近の2つのピークが認められた。フラクション13は、ゲル濾過カラムのボイドの位置に相当し、高分子量の画分である。
抗CD14抗体を添加して振とう処理した検体では、コントロールと同様の溶出パターンを示した。
このことから、検体の振とうにより高分子量のプレセプシン様物質(真のプレセプシンとは異なるが、抗プレセプシン抗体に反応する物質:以後「偽プレセプシン」と呼ぶことがある)が生成し、偽プレセプシンの生成に伴い、プレセプシン測定値の増加(見掛け上の濃度の上昇)が起きていることが分かった。また、偽プレセプシンは、抗CD14抗体を共存させることでその生成を効果的に抑制されることが明らかとなった。
【0108】
また、図3に示したCD14測定キットで検出される物質のクロマトグラフィー溶出パターンは、コントロール検体がフラクション17付近に単一ピークを示したパターンから、血漿を振とう処理することにより、ボイド位置付近に肩を持つピークに変化した。このことから、振とうにより高分子量化したsCD14が生じていることが示唆された。また、この肩の部分は、偽プレセプシンが検出された溶出位置と一致するため、偽プレセプシンは、sCD14分子が変性・凝集し、高分子量化してものであることが示唆された。
【0109】
以上の実験結果に基づき考察する。
sCD14-ST(プレセプシン)とは、非還元条件下SDS-PAGEにおいて分子量13±2kDaに泳動されることを特徴とし、血漿検体のゲル濾過でも低分子量側に溶出された(図2)。一方、血中に存在するCD14は、可溶性CD14(sCD14)とも言われ、分子量約55kDaあるいは約49kDaの分子種が知られており、これが、図3のコントロール正常ヒト血漿中のクロマトグラフィーパターンに認められたものと考えられる。そして、振とうにより生じるより高分子量の物質が、プレセプシン測定キットに反応し、偽プレセプシンとして、プレセプシン測定値の異常値の原因となっていることが示唆された。これは、プレセプシン測定キットが、免疫科学的にsCD14分子の特異的配列(立体構造)を認識する分析定量法であるから、変性した高分子量のsCD14分子であっても、プレセプシン測定キットに反応することあることは、一応想定しなければいけないことであり、今回の実験結果から、このような状況が起きている事が示唆された。
【0110】
以上に基づき、以下の発明が生まれる。物理的刺激等により偽プレセプシンを生じることを抑制するためには、検体中のsCD14分子を安定化させればよく、例えば、検体採取直後に検体と抗CD14抗体とを接触させることで達成することができる。すなわち、プレセプシン値測定における振とう等によるプレセプシン測定値の異常値発生を防ぐことが可能となる。また、検体採取直後に、sCD14分子を吸収等により除去してしまえば、偽プレセプシンを生じることはない。
【0111】
さらに、既に偽プレセプシンを生じている検体の測定においても、偽プレセプシンを真のプレセプシンを区別することにより、真のプレセプシンの定量が可能となる。例えば、プレセプシン測定の際、(i)30kDaの限外濾過膜を通すことにより偽プレセプシンを除去する、(ii)真のプレセプシンには反応せずに、偽プレセプシンの反応する抗体を利用することにより、偽プレセプシンを吸着除去・分離する等の前処理をすることで、正しいプレセプシン測定をすることが可能となる。
【0112】
さらにまた、実施例4のようにクロマトグラフィーグラフで偽プレセプシンと真のプレセプシンを分離分析が可能となる。真のプレセプシンを含む分画中のプレセプシン値を定量すれば良い。また、いずれかの手段で、偽プレセプシンが定量できれば、計算により真のプレセプシン値が求められる。例えば、クロマトグラフィーによって分離した「偽プレセプシン」を含む分画でプレセプシン測定を行うことによって、「偽プレセプシン値」を得ることができる。偽プレセプシン値が得られれば、検体のプレプシン値を測定し、真のプレセプシン値と偽プレセプシン値の合計値(総プレセプシン量)から偽プレセプシンの測定値を得ることも可能である。
さらには、偽プレセプシンには反応せず、真のプレセプシンのみに反応する測定系をスクリーニングすることにより、特別な処理を要せずに、真のプレセプシン値のみの定量が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0113】
配列番号1:P03ペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号2:S68ペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号3:ヒト全長可溶型CD14のアミノ酸配列である。
図1
図2
図3
【配列表】
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