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特許7288457正確性が向上したDPO4ポリメラーゼバリアント
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  • 特許-正確性が向上したDPO4ポリメラーゼバリアント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】正確性が向上したDPO4ポリメラーゼバリアント
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20230531BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230531BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230531BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C12N15/54
C12N15/31
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020550060
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 US2018064794
(87)【国際公開番号】W WO2019118372
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】62/597,109
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/656,696
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509349026
【氏名又は名称】ストラトス ゲノミクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】マーク ココリス
(72)【発明者】
【氏名】マルク プリンドル
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー スコット ティエッセン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー アイザック レフマン
(72)【発明者】
【氏名】ドリュー グッドマン
(72)【発明者】
【氏名】アアロン ジャコブス
(72)【発明者】
【氏名】ジョン チェイス
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/087281(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106318924(CN,A)
【文献】特表2016-537981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1のアミノ酸1-340と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含み、K78Dであるアミノ酸位置78での突然変異を含み、かつ配列番号:3、5及び10~34からなる群から選択される1つの配列中に存在する全ての変異をさらに含む、単離組換えDNAポリメラーゼであって、
配列番号:3、5及び10~34の配列中に存在する該変異が、下記表に示されるとおりである、前記単離組換えDNAポリメラーゼ:
【表1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(配列表に関する宣言)
本出願に関連する配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、かつここで参照により本明細書に組み込まれている。配列表を含むテキストファイルの名前は870225_421WO_SEQUENCE_LISTING.txtである。テキストファイルは100 KBであり、2018年12月8日に作成され、かつEFS-Webを介して電子的に提出される。
【0002】
(発明の分野)
本開示は一般的に、ポリメラーゼ組成物及び方法に関する。より詳細には、本開示は、改変DPO4ポリメラーゼ及び例えば高正確性ヌクレオチドアナログ取込み、プライマー伸長、及び単一分子配列決定システムを含む生物学的及び生体分子アプリケーションにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
DNAポリメラーゼは生物のゲノムを複製する。生物学におけるこの中心的な役割に加え、DNAポリメラーゼはバイオテクノロジーのユビキタスなツールでもある。これらは例えば逆転写、増幅、標識、及び配列決定法に広く使用されており、これらは全て様々なアプリケーション、例えば核酸配列決定法、核酸増幅、クローニング、タンパク質工学、診断、分子医薬及び多くの他の技術のための中心的な技術である。
【0004】
その重要性から、DNAポリメラーゼは例えばポリメラーゼ間の系統発生学的関係、ポリメラーゼの構造、ポリメラーゼの構造機能特徴、DNAの複製及び他の基本的な生物学的プロセスにおけるポリメラーゼの役割、並びにバイオテクノロジーにおけるDNAポリメラーゼの使用方法に焦点を当てて、 広範囲に研究されている。科学者たちの手で生命の三界の全てからのDNAポリメラーゼが総合的に目録化され、該酵素はそれらの配列相同性によって6つの主要なファミリー(A、B、C、D、X、及びY)に分類されている。ポリメラーゼの総説については、 例えばHubscherらの文献(2002) 「真核生物DNAポリメラーゼ(Eukaryotic DNA Polymerases)」Annual Review of Biochemistry Vol. 71:133-163、Albaの文献 (2001) 「タンパク質ファミリー 総説:複製DNAポリメラーゼ(Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases)」Genome Biology 2(1): 総説3002.1-3002.4、Steitzの文献(1999)「DNAポリメラーゼ:構造的多様性及び共通機構(DNA polymerases: structural diversity and common mechanisms)」J Biol Chem 274:17395-17398、及びBurgersらの文献(2001)「真核生物DNAポリメラーゼ:修正命名法の提案(Eukaryotic DNA polymerases: proposal for a revised nomenclature)」J Biol. Chem. 276(47):43487-90を参照されたい。多くのポリメラーゼについて結晶構造が解き明かされており、多くの場合、類似した構造を共有している。多くのポリメラーゼの基本的な作用メカニズムが決定されている。
【0005】
DNAポリメラーゼの基礎的なアプリケーションは、DNA配列決定技術にある。古典的サンガー配列決定法から、最近の「次世代」配列決定(NGS)技術まで、配列決定に使用されるヌクレオチド基質は、必要に迫られて時間とともに変化してきた。これらの急速に変化する技術に要求される一連のヌクレオチド修飾は、DNAポリメラーゼの研究者が、変化し続けるDNA配列決定化学に適合する酵素を探索し、設計し、又は進化させるという非常に困難な課題をもたらしている。野生型対応物酵素に対して変化したヌクレオチドアナログ取込み能を含む、様々な有用な特性を有するDNAポリメラーゼ突然変異体が同定されている。例えば、VentA488L DNAポリメラーゼは、ネイティブのVent DNAポリメラーゼよりも高い効率で特定の非標準的ヌクレオチドを取り込むことができる。Gardnerらの文献(2004)「Vent DNAポリメラーゼによるヌクレオチドアナログ取込みの比較速度論(Comparative Kinetics of Nucleotide Analog Incorporation by Vent DNA Polymerase)」J. Biol. Chem. 279(12):11834-11842並びにGardner及びJackの文献(1999)「古細菌DNAポリメラーゼにおけるヌクレオチド糖認識の決定因子(Determinants of nucleotide sugar recognition in an archaeon DNA polymerase)」Nucleic Acids Research 27(12):2545-2553. を参照されたい。この突然変異体A488中の変化した残基は、酵素のヌクレオチド結合部位の反対側を向いていることが予測されている。この位置における緩い特異性のパターンは、概ね置換したアミノ酸側鎖のサイズと相関し、様々な修飾ヌクレオチド糖の酵素による取込みに影響を及ぼす。
【0006】
より最近、NGS技術により、DNAポリメラーゼ酵素を3’-OHでの可逆的ターミネーター、例えば-ONH2で修飾されたヌクレオチド基質を受け入れるように適応させることの必要性がもたらされた。この目的で、Chen及び同僚達は構造解析を「再構成された進化適応経路」解析と組み合わせて、可逆的及び不可逆的なターミネーターの両方を効率的に取り込むことができるTAQL616Aバリアントを作製した。Chenらの文献(2010)「再構成された進化適応経路は配列決定法及びSNP検出のための可逆的ターミネーターを受け入れるポリメラーゼを生ずる(Reconstructed Evolutionary Adaptive Paths Give Polymerases Accepting Reversible Terminators for Sequencing and SNP Detection)」Proc. Nat. Acad. Sci. 107(5):1948-1953.を参照されたい。モデリング研究から、このバリアントはPhe-667の後ろに空間を開き、より大きな3’置換基を収容できることが示唆されている。Emigらに対する米国特許第8,999,676号は、蛍光検出に基づく単一分子配列決定技術に有用な改善された特性を示すさらに改変されたポリメラーゼを開示する。特に、φ29 DNAポリメラーゼの位置E375及びK512での置換により、様々な蛍光色素を取り込んだ非天然リン酸標識ヌクレオチドアナログを利用するポリメラーゼの能力が増強されることが見出された。
【0007】
最近、Kokorisらは、DNAポリメラーゼを用いてDNA配列をエクスパンドマー(Xpandomer)と呼ばれる測定可能なポリマー上で転写する、「伸長による配列決定(sequencing by expansion)」(SBX)と命名される方法を記述している(例えば、Kokorisらに対する米国特許第8,324,360号を参照されたい)。転写された配列は約10 nm隔てられ、ナノポアベースの配列決定システムによって読む際の反応のシグナル対ノイズ比が高く、はっきり判別されるように設計された、シグナル対ノイズ比の高いレポーター中のエクスパンドマーの骨格に沿って符号化される。エクスパンドマーは、合成後にエクスパンドマーの骨格を伸長させることができる、かさ高い置換基を特徴とする、XNTPと命名される非天然ヌクレオチドアナログから作製される。現在入手可能なDNAポリメラーゼの基質であるそのようなXNTPアナログは、新たな課題をもたらす。その全体を参照により本明細書中に組み込むKokorisらに対する公開されたPCT出願WO2017/087281には、基質として非天然のかさ高いヌクレオチドアナログを利用した、プライマー伸長活性の増強された操作されたDPO4ポリメラーゼバリアントが記載されている。
【0008】
DNAポリメラーゼが直面している他の課題は、鋳型中の特定のヌクレオチド配列モチーフによって提示される。特に重大なものは、鎖のスリップによる対合ミス、すなわち「複製スリップ(replication slippage)」を引き起こし得るホモポリマー又は短い反復DNA配列が連なること(run)である。複製スリップは、以下の工程:(i) 複製装置により第1の反復配列をコピーする工程、(ii) 複製を一時停止させ、ポリメラーゼを新たに合成された末端から解離させる工程、(iii) 新たに合成された鎖の対合を切り、それを第2の反復配列と対合させる工程、及び(iv) DNA合成を再開させる工程、を包含すると考えられる。従って、反復領域内で複製装置が停止すると、プライマー及び鋳型のミスアラインメントが生じる。インビボにおいて、複製中に2つのDNA鎖のミスアラインメントが生じると、欠失又は異なる長さの重複などのDNA再編成が生じ得る。インビトロにおいて、複製スリップは、スリップ事象の部位での複製エラーをもたらす。そのようなポリメラーゼの正確性の低下は、特定のアプリケーション又は所望の遺伝子操作を著しく損なわせる。
【0009】
従って、新たな改変ポリメラーゼ、例えば伸長による配列決定(SBX)並びにバイオテクノロジー及び生物医薬における他のアプリケーション(例えば、DNA増幅、従来の配列決定法、標識、検出、クローニングなど)における使用を見出す改善された特性のために操作されたポリメラーゼは、当技術分野における新たな試薬としての価値を見出す。本発明は、かさ高い置換基を有するヌクレオチドアナログを向上した効率で取り込む能力を含む、そのような所望の特性を有し、同時に複製エラーの発生率の低下、すなわち複製正確性の向上を示す新たな組換えDNAポリメラーゼを提供する。同時に、そのようなポリメラーゼの作製及び使用方法、並びに以下の完全な観察で明らかになる多くの他の特徴を提供する。
【発明の概要】
【0010】
(概要)
組換えDNAポリメラーゼ及び改変DNAポリメラーゼ、例えば改変した古細菌DPO4は、例えば単一分子伸長による配列決定(SBX)などのアプリケーションにおける使用を見出すことができる。他の態様の中でも、本発明は、これらのアプリケーションに特に望ましい可能性のある特性を付与する突然変異を含む組換えDNAポリメラーゼ及び改変DNAポリメラーゼのバリアントを提供する。これらの特性は、例えば1) 娘鎖の鋳型依存的重合中に、ポリメラーゼのかさ高いヌクレオチドアナログを基質として利用する能力を向上させ、かつ2) 特に、鋳型が複製エラーを促進し得るヌクレオチド反復配列を含む場合に、ヌクレオチドアナログ取り込みの正確性を高めることができる。また、そのようなDNAポリメラーゼ及び改変DPO4型ポリメラーゼを含む組成物、そのような改変ポリメラーゼをコードする核酸、そのような改変ポリメラーゼの作製方法、及びそのようなポリメラーゼを、例えばDNA鋳型を配列決定するために、使用可能な方法を提供する。
【0011】
一般的なクラスの一実施態様は、配列番号:1のアミノ酸1-340と少なくとも80%同一であり、K78Dであるアミノ酸位置78の突然変異、並びに31、36、62、63、79、243、252、253、254、331、332、334、及び338からなる群から選択されるアミノ酸の少なくとも1つの突然変異を有するアミノ酸配列を有する単離組換えDNAポリメラーゼであって、位置の特定が野生型DPO4ポリメラーゼ(配列番号:1)に対して相対的であり、かつ該組換えDNAポリメラーゼがポリメラーゼ活性を示す、前記ポリメラーゼを提供する。一般的なクラスの別の実施態様は、配列番号:1のアミノ酸1-340と少なくとも85%同一であり、K78Dであるアミノ酸位置78の突然変異、並びに31、36、62、63、79、243、252、253、254、331、332、334、及び338からなる群から選択されるアミノ酸の少なくとも1つの突然変異を有するアミノ酸配列を有する、単離組換えDNAポリメラーゼを提供する。位置31、36、62、63、79、243、252、253、254、331、332、334、及び338における例示的な突然変異には、 C31S、R36K、V62K、E63R、E79L、E79D、E79I、K243R、K252D、K252Q、K252R、R253Q、N254K、N254D、R331D、R331E、R331N、R331L、R332K、R332A、R332Q、R332S、G334N、G334Q、G334F、G334A、S338Y、及びS338Fがある。いくつかの態様において、本発明のポリメラーゼはまた、42、56、76、82、83、86、152、153、155、156、184、187、188、189、190、248、289、290、291、292、293、294、295、296、297、299、300、301、317、321、324、325、及び327からなる群から選択されるアミノ酸位置に少なくとも1つの突然変異を含み得る。例示的なアミノ酸位置42、56、76、82、83、86、152、153、155、156、184、187、188、189、190、248、289、290、291、292、293、294、295、296、297、299、300、301、317、321、324、325、及び327の突然変異には、A42V、K56Y、M76W、Q82W、Q83G、S86E、K152L又はK152A、I153T又はI153V、A155G、D156R、P184L又はP184Q、G187P、N188Y、I189W又はI189F、T190Y、I248T、V289W、T290K、E291S、D292Y、L293W、D294N、I295S、V296Q、S297Y、G299W、R300S、T301W、K317Q、K321Q、E324K、E325K、及びE327Kがある。他の実施態様において、組換えDPO4型DNAポリメラーゼは、配列番号:3-34のいずれか1記載のアミノ酸配列によって表される。
【0012】
関連する態様において、本発明は上記組換えDPO4型DNAポリメラーゼのいずれかを含む組成物を提供する。ある実施態様においてまた、組成物は少なくとも1つの非天然ヌクレオチドアナログ基質を含み得る。
【0013】
関連する別の態様において、本発明は、上記の改変DPO4型DNAポリメラーゼのいずれかをコードする、改変核酸を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
(図面の簡単な説明)
図1】Mut_1からMut_15領域に外郭線を付し、可変アミノ酸に下線を引いたDPO4ポリメラーゼタンパク質(配列番号:1)のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(定義)
別途定義されていない限り、本明細書で使用するすべての技術及び科学用語は、発明に関連する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。以下の定義は、当技術分野における定義を補足するものであり、本願を対象とするものであり、任意の関連する又は関連しない事例に、例えば任意に一般に保有されている特許又は出願に帰すべきものではない。本明細書に記載するものと類似又は等価な方法及び材料は、本発明の試験の実践に使用することができるが、好ましい材料及び方法は本明細書に記載されている。従って、本明細書で使用する用語は、特定の実施態様を記述する目的のみに使用され、限定することを意図するものではない。
【0016】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「該(the)」は、別途文脈により明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。従って例えば、「タンパク質(a protein)」に対する言及は、複数のタンパク質を含み、「細胞(a cell)」に対する言及は細胞の混合物などを含む。
【0017】
本明細書で使用する「約」という用語は、所与の量の値が、値の±10%、又は任意に値の±5%、又はいくつかの実施態様において、そのように記載されている値の±1%だけ変化することを示す。
【0018】
「核酸塩基」は、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、又はそれらの複素環式誘導体、アナログ、若しくは互変異性体などの複素環式塩基である。核酸塩基は、天然のもの又は合成されたものとし得る。核酸塩基の非限定的な例は、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシル、キサンチン、ヒポキサンチン、8-アザプリン、8位をメチル又は臭素で置換したプリン、9-オキソ-N6-メチルアデニン、2-アミノアデニン、7-デアザキサンチン、7-デアザグアニン、7-デアザ-アデニン、N4-エタノシトシン、2,6-ジアミノプリン、N6-エタノ-2,6-ジアミノプリン、5-メチルシトシン、5-(C3-C6)-アルキニルシトシン、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、チオウラシル、シュードイソシトシン、2-ヒドロキシ-5-メチル-4-トリアゾロピリジン、イソシトシン、イソグアニン、イノシン、7,8-ジメチルアロキサジン、6-ジヒドロチミン、5,6-ジヒドロウラシル、4-メチル-インドール、エテノアデニン及び全てその全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第5,432,272号及び第6,150,510号並びにPCT公報WO 92/002258、WO 93/10820、WO 94/22892、及びWO 94/24144、並びにFasmanの文献「生化学及び分子生物学の実践的ハンドブック(Practical Handbook of Biochemistry and Molecular Biology)」、pp. 385-394, 1989, CRC Press, Boca Raton, La.に記載されている天然に存在しない核酸塩基である。
【0019】
「核酸塩基残基」には、ヌクレオチド、ヌクレオシド、それらの断片、及び相補的なヌクレオチドと結合する特性を有する関連分子がある。デオキシヌクレオチド及びリボヌクレオチド、並びにそれらの様々なアナログは、この定義の範囲内に含めることを意図する。核酸塩基残基はオリゴマー及びプローブの構成要素とし得る。「核酸塩基」及び「核酸塩基残基」は本明細書において互換的に使用され、文脈により別途示されない限り一般的に同義とし得る。
【0020】
核酸とも呼ばれる「ポリヌクレオチド」は、1つのヌクレオチドのペントースの3'位が次のヌクレオチドの5'位とホスホジエステル基により連結される、共有結合された一続きのヌクレオチドである。DNA(デオキシリボ核酸)及びRNA(リボ核酸)はヌクレオチド残基が特定の配列中でホスホジエステル結合により連結された、生物学的に発生するポリヌクレオチドである。本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」又は「オリゴヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの線状骨格を有する任意のポリマー化合物を包含する。また、オリゴヌクレオチドはオリゴマーと呼ばれ、一般的に短鎖のポリヌクレオチドである。
【0021】
「核酸」はポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドである。核酸分子には、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、又はそれら両方の組合わせとし得る。核酸は一般的に、配列決定の標的となる場合、「標的核酸」又は「標的配列」と呼ぶ。核酸は、配列決定の標的となる分子の混合物又はプールとし得る。
【0022】
「ポリヌクレオチド配列」又は「ヌクレオチド配列」は、文脈に応じてヌクレオチドのポリマー(オリゴヌクレオチド、DNA、核酸など)又はヌクレオチドポリマーを表す文字列である。任意の指定されたポリヌクレオチド配列から、所与の核酸又は相補的なポリヌクレオチド配列(例えば、相補的核酸)を決定することができる。
【0023】
「ポリペプチド」は、2以上のアミノ酸残基(例えば、ペプチド又はタンパク質)を含むポリマーである。ポリマーはさらに、例えば標識、クエンチャー、遮断基などの非アミノ酸成分を含み得、例えばグリコシル化などの修飾を任意に含み得る。ポリペプチドのアミノ酸残基は天然又は非天然のものとすることができ、置換又は修飾されなくても、されてもよい。
【0024】
「アミノ酸配列」とは、文脈に応じてアミノ酸残基のポリマー(タンパク質、ポリペプチドなど)、又はアミノ酸ポリマーを表す文字列である。
【0025】
任意の所与のポリマー成分(アミノ酸残基、取り込まれたヌクレオチドなど)の位置が、所与のポリマー中の成分の実際の位置ではなく、選択されたアミノ酸又はヌクレオチドポリマー中の同じ残基位置への言及によって明示される場合、所与のアミノ酸又はヌクレオチドポリマーの付番は、選択されたアミノ酸ポリマー又は核酸「の付番に対応し」、又はそれら「に対し相対的な」ものとなる。同様に、任意の所与のポリマー成分(アミノ酸残基、取り込まれたヌクレオチドなど)の位置が、所与のポリマー中の成分の実際の名前及び位置ではなく、選択されたアミノ酸又はヌクレオチドポリマー中の残基の名前及び位置への言及によって明示される場合、所与のアミノ酸又はヌクレオチドポリマー中の所与の位置の特定は、選択されたアミノ酸又はヌクレオチドポリマー「に対し相対的な」ものとなる。位置の対応は典型的に、関連するアミノ酸又はポリヌクレオチド配列のアラインによって決定する。
【0026】
「組換え」という用語は、物質(例えば、核酸又はタンパク質)が人為的又は合成的(非天然)にヒトの介入によって変化したことを示す。変化は、その天然の環境又は状態中の材料又はそこから取り出された材料に対して実施することができる。例えば、「組換え核酸」とは、例えばクローニング、DNAシャッフル、若しくは他の手順の間に、又は化学的若しくは他の突然変異誘発により、核酸を組み換えることによって作製されるものである; 「組換えポリペプチド」又は「組換えタンパク質」は、例えば組換え核酸の発現によって生産されるポリペプチド又はタンパク質である。
【0027】
「DPO4型DNAポリメラーゼ」は、古細菌スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)によって天然に発現されるDNAポリメラーゼであり、一般的に損傷乗り越え合成(TLS)として知られるプロセスによる損傷したDNAの複製において機能する、関連したYファミリーDNAポリメラーゼである。YファミリーDNAポリメラーゼはDPO4ポリメラーゼと相同である(例えば、配列番号:1に列記)。例として、原核生物酵素、PolII、PolIV、PolV、古細菌酵素、Dbh、及び真核生物酵素、Rev3p、Rev1p、Pol η、REV3、REV1、Pol I、及びPol κ DNAポリメラーゼ並びにそれらのキメラがある。改変組換えDPO4型DNAポリメラーゼには、天然の野生型DPO4型DNAポリメラーゼに対して1以上の突然変異を含み、例えばかさ高いヌクレオチドアナログを基質として利用する能力又は別のポリメラーゼの特性を高める1以上の突然変異を含み、かつ野生型DPO4型DNAポリメラーゼに対するさらなる変化又は改変、例えば1以上の欠失、挿入、及び/又は追加のペプチド若しくはタンパク質配列の融合を含み得る(例えば、表面へのポリメラーゼの固定化又は別途ポリメラーゼ酵素のタグ付加のために)。
【0028】
「鋳型方向付け合成」、「鋳型方向付けアセンブリ」、「鋳型方向付けハイブリダイゼーション」、「鋳型方向付け結合」、及び任意の他の鋳型方向付けプロセス、例えばプライマー伸長は、ヌクレオチド残基又はヌクレオチドアナログが選択的に相補的な標的核酸に結合し、新生する娘鎖に取り込まれるプロセスを指す。鋳型方向付け合成によって生産される娘鎖は、それが合成される1本鎖標的に相補的である。標的鎖の対応する配列は、その娘鎖の配列が分かっている場合、その配列から推測できることに留意されたい。「鋳型方向付け重合」は、それによって結果として得られる娘鎖を重合させる、鋳型方向付け合成の特殊な事例である。
【0029】
「XNTP」は、鋳型依存的酵素重合と適合する、伸長可能な5’三リン酸修飾ヌクレオチド基質である。XNTPには、2つの異なる機能的成分;すなわち、核酸塩基5'-三リン酸及び、各ヌクレオチド中のヌクレオチド内切断によるRT伸長の制御を可能にする位置に結合したテザー又はテザー前駆体を有する。
【0030】
「エクスパンドマー中間体」は、XNTPからアセンブルされた中間体産物(本明細書において「娘鎖」とも呼ぶ)であり、標的核酸鋳型を使用したXNTPの鋳型方向付けアセンブリによって形成される。エクスパンドマー中間体は、2つの構造;すなわち拘束されたエクスパンドマー及び主骨格を含む。拘束されたエクスパンドマーは娘鎖の全てのテザーを含むが、方法によって要求される全て、一部の核酸塩基5’-三リン酸を含むことができ、又はこれを何ら含まない場合がある。主骨格は全ての隣接する核酸塩基5’三リン酸を含む。主骨格が断片化又は解離したプロセス工程では、拘束されたエクスパンドマーはもはや拘束されず、テザーが伸びて伸長するエクスパンドマー産物となる。「二本鎖娘鎖」とは、標的鋳型にハイブリダイズし、又は二本鎖化されたエクスパンドマー中間体を指す。
【0031】
「エクスパンドマー」又は「エクスパンドマー産物」は、それ自体XNTPの鋳型方向付けアセンブリによって合成される拘束されたエクスパンドマーの伸長により生産される合成分子構成体である。エクスパンドマーは、それがそこから生産される標的鋳型に対して細長い。これは、XNTPを連結したものから構成され、各XNTPは、配列情報をコードする1以上のレポーターを含むテザーを含む。エクスパンドマーは、標的鋳型よりも長く伸長するように設計されており、それによって標的鋳型の長さに沿った配列情報の線密度が低下する。さらに、エクスパンドマーは、任意にレポーターのサイズ及び量を増加させるためのプラットフォームを提供し、それによって検出のためのシグナル対ノイズ比が向上する。より低い線情報密度及びより強いシグナルにより、分解能が増加し、鋳型鎖の配列を検出し、かつ解読するための感度要件が低下する。
【0032】
「テザー」又は「テザー要素」は、一般的に線寸法を有し、2つの対置される末端の各々で末端部分を有するポリマー又は分子構成体を指す。テザーはXNTPを形成する少なくとも一方の末端部分における結合により核酸塩基5'-三リン酸と結合する。テザーの末端部分は、「拘束された構成」でテザーを拘束する役割を担う核酸塩基5'三リン酸との切断可能な結合に接続され得る。娘鎖が合成された後、各末端部分は、他のテザーと直接的又は間接的に結合する末端結合を有する。結合されたテザーは、娘鎖をさらに含む拘束されたエクスパンドマーを構成する。テザーは「拘束構成」及び「伸長構成」を有する。拘束構成は、XNTP及び娘鎖に見出される。テザーの拘束構成は、エクスパンドマー産物に見出されるように、伸長構成の前駆体となる。拘束構成から伸長構成への移行により、娘鎖の主骨格内又はテザー内の結合とし得る選択的に切断可能な結合が切断される。また、拘束構成のテザーは、テザーを追加して「主骨格」のアセンブリ後に娘鎖を形成する場合にも使用される。テザーは任意に、基質の配列情報をコード可能なその長さに沿った1以上のレポーター又はレポーター構成体を含み得る。テザーはエクスパンドマーの長さを伸長し、それによって配列情報の線密度を低下させる手段を提供する。
【0033】
「テザーエレメント」又は「テザーセグメント」は、一般的に2つの終端を有する線寸法を有するポリマーであり、ここで末端はテザー成分を連結するための末端結合を形成する。テザーエレメントは、テザー構成体のセグメントとし得る。そのようなポリマーには、これらに限定はされないが、ポリエチレングリコール、ポリグリコール、ポリピリジン、ポリイソシアニド、ポリイソシアネート、ポリ(トリアリールメチル)メタクリレート、ポリアルデヒド、ポリピロリノン、ポリウレア、ポリグリコールホスホジエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリブチレート、ポリブタジエン、ポリブチロラクトン、ポリピロリジノン、ポリビニルホスホネート、ポリアセトアミド、多糖、ポリヒアルラネート(polyhyaluranates)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリテレフタレート、ポリシラン、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアミノ酸、ポリグリシン、ポリプロリン、N-置換ポリリシン、ポリペプチド、側鎖N-置換ペプチド、ポリ-N-置換グリシン、ペプトイド、側鎖カルボキシル置換ペプチド、ホモペプチド、オリゴヌクレオチド、リボ核酸オリゴヌクレオチド、デオキシ核酸オリゴヌクレオチド、Watson-Crick塩基対合を妨害するように修飾されたオリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチドアナログ、ポリシチジル酸、ポリアデニル酸、ポリウリジル酸、ポリチミジン、ポリリン酸、ポリヌクレオチド、ポリリボヌクレオチド、ポリエチレングリコール-ホスホジエステル、ペプチドポリヌクレオチドアナログ、 スレオシル-ポリヌクレオチドアナログ、グリコール-ポリヌクレオチドアナログ、モルホリノ-ポリヌクレオチドアナログ、ロックドヌクレオチドオリゴマーアナログ、ポリペプチドアナログ、分枝ポリマー、くしポリマー(comb polymers)、スターポリマー、樹状ポリマー、ランダム・グラジエント・ブロックコポリマー、陰イオンポリマー、陽イオンポリマー、ステムループを形成するポリマー、剛性セグメント及び可撓性セグメントを含み得る。
【0034】
様々なさらなる用語が本明細書において定義され、又は別途特徴づけられている。
【0035】
(詳細な説明)
本発明の一態様は一般的に、組換えポリメラーゼ、例えば参照ポリメラーゼ、例えば野生型DPO4型ポリメラーゼと比較して、1以上の突然変異を含む組換えDPO4型DNAポリメラーゼを含む組成物を対象とする。特定の突然変異又は突然変異の組合わせに応じて、ポリメラーゼは、例えば単一分子配列決定アプリケーションにおける使用を見出す1以上の特性を示す。本発明の様々なポリメラーゼが示す例示的な特性には、DNA複製中に既知のポリメラーゼに対して向上した効率及び正確性で、「かさ高い」ヌクレオチドアナログを成長中の娘鎖に取り込む能力がある。ポリメラーゼは、例えば組換えポリメラーゼの精製における使用のためのタンパク質のN末端領域及び/又はC末端領域に、1以上の外因的又は異種の特徴を含み得る。ポリメラーゼはまた、例えば組換え生産されたタンパク質の溶解性を高めることにより、タンパク質の精製を容易にする1以上の欠失を含み得る。
【0036】
これらの新しいポリメラーゼは、DNA複製及び/又は配列決定のアプリケーション、特に、以下にさらに記載する伸長による配列決定(SBX)プロトコルのような、複製された核酸娘鎖へのかさ高いヌクレオチドアナログの取込みを含む配列決定プロトコルに非常に適している。
【0037】
本発明のポリメラーゼは、例えば突然変異K78D及び31、36、62、63、79、252、243、253、254、331、332、334、及び338からなる群から選択されるアミノ酸における少なくとも1つの追加の突然変異を有する組換えDPO4型DNAポリメラーゼを含む(位置の特定は、野生型DPO4ポリメラーゼ(配列番号:1)に対するものである)。また、ポリメラーゼは42、56、76、82、83、86、152、153、155、156、184、187、188、189、190、248、289、290、291、292、293、294、295、296、297、299、300、301、317、321、324、325、及び327からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸位置に突然変異を有し得る。ポリメラーゼは、これらの位置に16以上、最大20以上、最大30以上、最大40以上、さらに多くの突然変異を含み得る。本発明のポリメラーゼはまた、「PIPボックス」に対応する野生型タンパク質のアミノ酸341-352の欠失を有し得る。いくつかの実施態様において、本発明のポリメラーゼは、本明細書に引用されていない追加の残基に突然変異を含み得るが、それにはそのような突然変異が、本明細書でさらに論じる機能的優位性を提供することが条件となる。ある実施態様において、本発明のポリメラーゼは配列番号:1(野生型DPO4 DNAポリメラーゼのアミノ酸1-340)と少なくとも80% 同一である。他の実施態様において、本発明のポリメラーゼは、配列番号:1と80%未満同一となり得るが、それにはそのようなポリメラーゼがXNTPを重合基質として利用する増強された能力を示すことが条件となる。これらの(及び他の)位置におけるいくつかの例示的な置換を、本明細書に記載する。
【0038】
(DNA ポリメラーゼ)
かさ高いヌクレオチドアナログ基質を成長中の娘核酸鎖に取り込む能力及び/又は本明細書に記載する他の所望の特性が高まるように改変され得るDNAポリメラーゼが一般的に入手可能である。DNAポリメラーゼは、様々な系統発生学的関係に基づいて、時に6つの主要なグループ又はファミリー、例えば大腸菌(E. coli)Pol I(クラスA)、大腸菌Pol II(クラスB)、大腸菌Pol III(クラスC)、ユリ古細菌Pol II(クラスD)、ヒトPol β(クラスX)及び大腸菌UmuC/DinB及び真核生物RAD30/色素性乾皮症変異体(クラスY)に分類される。最近の命名法の総説については、 例えばBurgersらの文献(2001)「真核生物DNAポリメラーゼ:修正命名法の提案(Eukaryotic DNA polymerases: proposal for a revised nomenclature)」J Biol. Chem. 276(47):43487-90を参照されたい。ポリメラーゼの総説については、 例えばHubscherらの文献(2002) 「真核生物DNAポリメラーゼ(Eukaryotic DNA Polymerases)」Annual Review of Biochemistry Vol. 71:133-163、Albaの文献 (2001) 「タンパク質ファミリー 総説:複製DNAポリメラーゼ(Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases)」Genome Biology 2(1): 総説3002.1-3002.4、及びSteitzの文献(1999)「DNAポリメラーゼ:構造的多様性及び共通機構(DNA polymerases: structural diversity and common mechanisms)」J Biol Chem 274:17395-17398を参照されたい。DNAポリメラーゼは詳細に研究され、多くについて基本的作用機構が決定されている。さらに、文字通り数百ものポリメラーゼの配列が公開され利用可能であり、これらの多くの結晶構造が決定されており、又は相同なポリメラーゼについての読み解かれた結晶構造との類似性に基づいて推定可能である。例えば、本発明により改変されることとなる好ましい型の親酵素であるDPO4の結晶構造が利用可能である。例えば、Lingらの文献(2001)「作用中のY-ファミリーDNAポリメラーゼの結晶構造:エラープローン・損傷迂回複製の機構(Crystal Structure of a Y-Family DNA Polymerase in Action: A Mechanism for Error-Prone and Lesion-Bypass Replication)」 Cell 107:91-102.を参照されたい。
【0039】
成長する核酸娘鎖に取り込むための基質として、かさ高いヌクレオチドアナログの使用を増加させ、かつ/又は本明細書に記載する1以上の他の特性を変化させる突然変異のために好ましい基体(substrates)となるDNAポリメラーゼには、DPO4ポリメラーゼ及びDbhなどのYファミリーの損傷乗り越えDNAポリメラーゼの他のメンバー、並びにそのようなポリメラーゼの誘導体がある。
【0040】
一態様において、改変するポリメラーゼは、DPO4型DNAポリメラーゼである。例えば、改変された組換えDNAポリメラーゼは、野生型DPO4DNAポリメラーゼと相同であり得る。あるいは、改変された組換えDNAポリメラーゼは、「損傷乗り越え」DNAポリメラーゼとしても知られる他のクラスYDNAポリメラーゼ、例えばスルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)Dbhポリメラーゼと相同であり得る。総説については、Goodwin及びWoodgateの文献(2013)「損傷乗り越えDNAポリメラーゼ(Translesion DNA Polymerase)」 Cold Spring Harb Perspect in Biol Doi: 10.1101/cshperspect.a010363.を参照されたい。野生型DPO4ポリメラーゼのアミノ酸配列については、例えば配列番号:1を参照されたい。
【0041】
他の態様において、修飾されたポリメラーゼは、任意の好適な種、例えば酵母、ヒト、S. アイランディクス(S. islandicus)又はT. サーモフィラス(T. thermophilus)に由来するDNA Polκ型ポリメラーゼ、DNA Polη型ポリメラーゼ、PrimPol型ポリメラーゼ、又はサーミネーター(therminator)γ型ポリメラーゼである。修飾されたポリメラーゼは、タンパク質の様々な特徴を含む、又は欠く全長又は切断形態とし得る。また、これらのポリメラーゼ特定の所望の特徴は、本明細書に開示するいずれかのDPO4バリアントと組み合わせることができる。
【0042】
例えば配列決定技術における使用のための改変に好適な多くのポリメラーゼが市販されている。例えば、DPO4ポリメラーゼはTREVEGAN(登録商標)及びNew England Biolabs(登録商標)から入手可能である。
【0043】
野生型ポリメラーゼに加えて、異なる供給源のモザイクから作製されたキメラポリメラーゼを使用することができる。例えば、複数の親ポリメラーゼからの配列を考慮して作製されたDPO4型ポリメラーゼを、突然変異の出発点として使用して、本発明のポリメラーゼを作製することができる。例えば、ポリメラーゼ間の類似する領域を考慮してキメラで使用するコンセンサス配列を定義し、又は複数のDPO4関連ポリメラーゼを利用可能な遺伝子シャッフル技術により(例えば「ファミリー遺伝子シャッフル」により)ランダム又はセミランダムにシャッフルする遺伝子シャッフル技術を使用して、キメラを作製することができる;Crameriらの文献(1998)「多様な種に由来する遺伝子ファミリーのDNAシャッフルは定向進化を加速する(DNA shuffling of a family of genes from diverse species accelerates directed evolution)」Nature 391:288-291; Clacksonらの文献(1991)「ファージディスプレイライブラリを使用した抗体断片の作製(Making antibody fragments using phage display libraries)」Nature 352:624-628; Gibbsらの文献(2001)「縮重オリゴヌクレオチド遺伝子シャッフル(DOGS):ファミリーシャッフルによる組換え頻度を高めるための方法(Degenerate oligonucleotide gene shuffling (DOGS): a method for enhancing the frequency of recombination with family shuffling)」Gene 271:13-20; 並びにHiraga及びArnoldの文献(2003)「配列非依存的部位指定キメラ生成のための一般的方法(General method for sequence-independent site-directed chimeragenesis)」J. Mol. Biol. 330:287-296を参照されたい。これらの方法では、遺伝子断片が適切な順序でアセンブルされるように、組換え点を事前に設定することができる。しかしながら、組合せ、例えばキメラはランダムに形成され得る。かさ高いヌクレオチドアナログ基質の取込み又は別の望ましい特性を向上させるための適切な突然変異を、キメラに導入することができる。
【0044】
(ヌクレオチドアナログ)
論じたように、本発明の様々なポリメラーゼは、1以上のヌクレオチドアナログを成長するオリゴヌクレオチド鎖に取り込むことができる。取り込まれる際に、アナログは、成長するオリゴヌクレオチドに天然のヌクレオチドと同じ、又は異なる残基を残し得る(ポリメラーゼはアナログの任意の非標準的な部分を取り込むことができ、又はそれをオリゴヌクレオチドへの取込みの間に切り離すこともできる)。本明細書中の「ヌクレオチドアナログ」は、特定のアプリケーションにおいて、天然のヌクレオシド三リン酸(「ヌクレオチド」)と類似し、又は相似した様式で機能し、かつそうでなければ特定の構造を何ら示すものではない化合物である。ヌクレオチドアナログは、標準的な天然のヌクレオチド以外の、すなわちA、G、C、T、又はU以外のアナログであるが、オリゴヌクレオチドに取り込まれる際に、オリゴヌクレオチド中に結果として生じる残基はA、G、C、T、又はU残基と同じとなり(又は異なり)得る。
【0045】
多くのヌクレオチドアナログが入手可能であり、本発明のポリメラーゼによって取り込むことができる。これらには、天然のヌクレオチドに対し核心部が類似しているアナログ構造、例えば天然のヌクレオシド又はヌクレオチドと比較して、ヌクレオシド又はヌクレオチドのリン酸、糖、又は塩基部分での1以上の置換基を含むアナログ構造が含まれる。
【0046】
本発明の有用な一態様において、ヌクレオチドアナログは所望の特性のいずれかの向上も達成するように改変することができる。例えば、様々なテザー、リンカー、又は他の置換基をアナログに取り込んで、「かさ高い」ヌクレオチドアナログを作製することができる。ここで、「かさ高い」という用語は、アナログのサイズが天然のヌクレオチドよりも相当に大きいことを意味し、何ら特定の寸法を表すものではないと理解される。例えば、アナログには、式:
【化1】
の置換化合物(すなわち、Kokorisらに対する米国特許第7,939,259号及びPCT公報WO 2016/081871に開示されている「XNTP」)を含めることができる。
【0047】
上式に示すように、モノマーXNTP構成体は選択的に切断可能な結合(V)によって隔てられた2つの部分を有し、各部分がテザー(T)の一方の末端と結合している核酸塩基残基Nを有する。テザーの末端は、複素環、リボース基、又はリン酸骨格上のリンカー基修飾と結合できる。また、モノマー基質は、ホスホロリボシル骨格中に位置する基質内切断部位を有し、切断によって拘束されたテザーの伸長がもたらされる。例えば、XATPモノマーを合成するために、8-[(6-アミノ)ヘキシル]-アミノ-ATP又はN6-(6-アミノ)ヘキシル-ATP上のアミノリンカーを、第1テザー結合点として使用することができ、かつ非架橋修飾(N-1-アミノアルキル)ホスホルアミダート又は(2-アミノエチル)ホスホネートなどの混合骨格リンカーを第2テザー結合点として使用することができる。さらに、例えばホスホルアミダート(3' O--P--N 5’)又はホスホロチオラート(3' O--P--S 5')などの架橋骨格修飾を、主骨格の選択的な化学的切断に使用することができる。R1及びR2は、基質構成体を使用する合成プロトコルのために適切に構成された末端基である。例えば、ポリメラーゼプロトコルのためには、R1=5'-三リン酸及びR2=3'-OHとする。R1 5’三リン酸は、混合骨格修飾、例えばそれぞれテザー連結及び骨格切断を可能にするアミノエチルホスホネート又は 3'-O--P--S-5'ホスホロチオラートを含み得る。任意に、R2は、単一基質付加環化のための可逆的遮断基とともに構成され得る。あるいは、 R1及びR2は、化学カップリング用のリンカー末端基とともに構成され得る。R1及びR2は一般型XR(式中、Xは連結基、かつRは官能基である)のものとすることができる。 本発明のポリメラーゼバリアントに好適な基質の詳細な原子構造は、例えばVaghefi, M.の文献 (2005) 「ヌクレオシド三リン酸及びそれらのアナログ(Nucleoside Triphosphates and their analogs)」 CRC Press Taylor & Francis Groupに見出すことができる。
【0048】
(かさ高いヌクレオチドアナログ基質を正確に取り込む能力を増強するためのアプリケーション)
本発明のポリメラーゼ、例えば改変組換えポリメラーゼ又はバリアントは、ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログ及び核酸鋳型(DNA又はRNA)と組み合わせて使用して、鋳型核酸をコピーすることができる。すなわち、ポリメラーゼが娘核酸鎖を鋳型依存的な様式で合成する(例えば、プライマーを伸長させる)ように、ポリメラーゼ、ヌクレオチド/アナログ、及び任意に他の適切な試薬、鋳型、並びに複製開始成分(例えば、プライマー)の混合物を、反応させる。複製開始成分は、標準的なオリゴヌクレオチドプライマー、あるいは鋳型の構成要素とすることができ、例えば鋳型は、自己プライミングされた一本鎖DNA、ニックの入った二本鎖DNAなどとすることができる。同様に、末端タンパク質は、開始成分としての役割を担うことができる。少なくとも1つのヌクレオチドアナログを、DNA に取り込むことができる。鋳型DNAは線状又は環状のDNAとすることができ、特定のアプリケーションでは、望ましくは環状鋳型とする(例えば、ローリングサークル複製又は環状鋳型の配列決定のため)。任意に、組成物は自動化されたDNAの複製及び/又は配列決定システム中に存在し得る。
【0049】
一実施態様において、娘核酸鎖はKokorisらに対し与えられ、Stratos Genomicに譲渡された、その全体を参照により本明細書に組み込む米国特許第7,939,259号及びPCT公報WO 2016/081871に開示されるXNTPから構成されるエクスパンドマー中間体である。Stratos Genomicsは、DNAポリメラーゼを使用して、DNAの配列を「エクスパンドマー」と呼ばれる測定可能なポリマー上に転写する、伸長による配列決定(「SBX」)と呼ばれる方法を開発した。大まかに説明すると、エクスパンドマーは標的核酸のヌクレオチド配列データを線状に伸長させた形式で符号化(解析)し、それにより空間分解能を向上させ、任意にシグナル強度の増幅を伴う。転写された配列は約10 nm隔てられ、反応のシグナル対ノイズ比が高く、はっきり判別されるように設計された、シグナル対ノイズ比の高いレポーター中のエクスパンドマーの骨格に沿って符号化される。これらの相違により、ネイティブDNAと比較したエクスパンドマーの配列読取り効率及び正確性における顕著な性能の増強がもたらされる。エクスパンドマーは、いくつかの次世代DNA配列決定技術を可能にし、ナノポア配列決定に非常に好適である。先に論じたように、エクスパンドマー合成法の1つでは、核酸アナログとしてXNTPを使用して、鋳型依存的合成を延長し、DNAポリメラーゼバリアントを触媒として使用する。
【0050】
(ポリメラーゼへの突然変異導入)
本発明においては、例えば先に論じたポリメラーゼモデル及びモデル予測に従って、例えばポリメラーゼを改変してバリアントを作製し、又はランダム若しくはセミランダムの突然変異アプローチを使用する、様々な型の突然変異誘発を任意に使用する。一般的に、任意の利用可能な突然変異誘発手順は、ポリメラーゼ突然変異体の作製に使用することができる。そのような突然変異誘発手順には、任意に関心対象とする1以上の活性(例えば、かさ高いヌクレオチドアナログを娘核酸鎖に取り込む能力)について突然変異体核酸及びポリペプチドを選択することを含む。使用可能な手順には、これらに限定はされないが:部位指定点突然変異誘発、ランダム点突然変異誘発、インビトロ又はインビボでの相同組換え(DNAシャッフル及びコンビナトリアルオーバーラップPCR)、鋳型を含むウラシルを使用した突然変異誘発、オリゴヌクレオチド方向付け突然変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップ入り二本鎖DNAを使用した突然変異誘発、点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用した突然変異誘発、制限選択及び制限精製、欠失突然変異誘発、遺伝子全合成による突然変異誘発、縮重PCR、二本鎖切断修復、並びに多くの他の当業者に公知の手順がある。突然変異のための出発ポリメラーゼは、野生型DPO4ポリメラーゼを含む、本明細書に注記するポリメラーゼのいずれかとすることができる。
【0051】
任意に、天然のポリメラーゼ分子から得る既知の情報(例えば、「合理的」又は「半合理的」設計)、又は既知の変化又は突然変異したポリメラーゼの情報(例えば、先行する参考文献に注記された既存の突然変異体ポリメラーゼを使用して)、例えば先に論じた配列、配列比較、物理的特性、結晶構造などによって突然変異誘発を導くことができる。しかしながら、別のクラスの実施態様において、修飾は(例えば、古典的又は「ファミリー」DNAシャッフルのように。例えば、Crameriらの文献(1998)「多様な種に由来する遺伝子ファミリーのDNAシャッフルは定向進化を加速する(DNA shuffling of a family of genes from diverse species accelerates directed evolution)」Nature 391:288-291.を参照されたい)本質的にランダムである場合がある。
【0052】
突然変異形式に関するさらなる情報は:Sambrookらの文献、「分子クローニング―実験室マニュアル(第3版)(Molecular Cloning--A Laboratory Manual (3rd Ed.))」, Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 2000 (「Sambrook」); 「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, F. M. Ausubelら編, Current Protocols, Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.の間の共同事業, (2011年にかけて補足) (「Ausubel」)並びに「PCRプロトコル:方法及びアプリケーションの手引き(PCR Protocols A Guide to Methods and Applications) (Innisら編) Academic Press Inc. San Diego, Calif. (1990) (「Innis」).に見出される。以下の刊行物及びそこに引用されている参考文献は、突然変異形式に関するさらなる詳細を提供する:
【化2】
上記の多くの方法のさらなる詳細については、様々な突然変異誘発法でのトラブルシューティングの問題に有用な対照についても記載されている、Methods in Enzymology Volume 154に見出すことができる。
【0053】
(ポリメラーゼのスクリーニング)
スクリーニング又は他のプロトコルを使用して、ポリメラーゼが親DNAポリメラーゼと比較して、例えばヌクレオチドアナログについての改変された活性を示すかどうかを決定することができる。例えば、鋳型依存的DNA合成中に、かさ高いヌクレオチドアナログと結合してこれを娘鎖に取り込む能力である。そのような特性などについてのアッセイを、本明細書に記載する。プライマー伸長反応における組換えポリメラーゼの性能は、本明細書に記載するように、例えばヌクレオチドアナログ取込みなどの特性をアッセイして調べることができる。
【0054】
望ましい一態様において、組換えDNAポリメラーゼのライブラリを作製し、これらの特性についてスクリーニングすることができる。例えば、ライブラリの複数のメンバーを作製して(ここでは例えば、異なるメンバーが異なる突然変異又は異なる突然変異の組合わせを含む)、 取込み能を変化させる1以上の突然変異及び/又はランダムに作製された突然変異を含めることができる。続いてライブラリを関心対象とする特性(例えば、取込み能など)についてスクリーニングすることができる。一般的に、ライブラリは関心対象とする改変された活性を含む少なくとも1つのメンバーを同定するためにスクリーニングすることができる。
【0055】
ポリメラーゼのライブラリは物理的又は論理的性質を有し得る。さらに、多種多様なライブラリ形式のいずれかを使用することができる。例えば、ポリメラーゼはタンパク質アレイの固体表面に固定することができる。同様に、ポリメラーゼを含む溶液の簡便なハイスループット流体操作のために、液相ポリメラーゼアレイ(例えば、マイクロウェルプレート中)を構築することができる。組換えポリメラーゼを発現する細胞の液相、乳液相、又はゲル相ライブラリも、例えばマイクロウェルプレート中又は寒天プレート上で構築することができる。ポリメラーゼ又はポリメラーゼドメインのファージディスプレイライブラリ(例えば、活性部位領域又はドメイン間の安定性領域を含む)を作製することができる。同様に、酵母ディスプレイライブラリを使用することができる。ライブラリの作製及び使用についての説明書は、例えば本明細書で参照されるSambrookの文献、Ausubelの文献、Bergerの文献に見出すことができる。
【0056】
マイクロタイタープレートとの間での流体移動を伴うライブラリの作製について、流体取扱ステーションを任意に使用する。そのような移動を実施するためのいくつかのすぐに入手可能な流体取扱ステーションは市販されており、例えばCaliper Life Sciences (Hopkinton, Mass.)製Zymateシステム及び例えばプレート移動のためのロボット装置(例えば、例としてBeckman Coulter, Inc. (Fullerton, Calif.)から入手可能な様々な実験室システムにおいて使用されるORCA(登録商標)ロボット)と結合された自動ピペッタを利用する他のステーションがある。
【0057】
別の実施態様において、例えばマイクロウェルプレート又は他のウェルからチップ上のマイクロチャネルを通って目的の部位(マイクロチャネル領域、ウェル、チャンバなど)への材料の移動を伴う流体取扱いは、マイクロチップ中で実施する。市販されているマイクロ流体システムには、Hewlett-Packard/Agilent Technologies製のシステム(例えば、HP2100バイオアナライザ)及びCaliperハイスループットスクリーニングシステムがある。Caliperハイスループットスクリーニングシステムは、標準的なマイクロウェルライブラリフォーマット及びLabChip技術の間のインターフェイスの一例を提供する。Raindance Technologiesのナノドロップレットプラットフォームは、空間的に分離された多数の反応を取り扱う別の方法を提供する。さらに、特許及び技術文献には、流体取扱いのためにマイクロウェルプレートと直接接触可能なマイクロ流体システムの多くの例が含まれている。
【0058】
(タグ及び他の任意のポリメラーゼ特徴)
組換えDNAポリメラーゼは任意に、ポリメラーゼに対し外因的又は異種の追加の特徴を含む。例えば、組換えポリメラーゼは任意に、1以上のタグ、例えば精製タグ、基質結合タグ、又は他のタグ、例えばポリヒスチジンタグ、His10タグ、His6タグ、アラニンタグ、Ala16タグ、Ala16タグ、ビオチンタグ、ビオチンリガーゼ認識配列又は他のビオチン結合部位(例えばBiTag若しくはBtag又はそれらのバリアント、例えばBtagV1-11)、GSTタグ、Sタグ、SNAPタグ、HAタグ、DSB(Sso7D)タグ、リシンタグ、NanoTag、Cmycタグ、アミノ酸グリシン及びセリンを含むタグ又はリンカー、アミノ酸グリシン、セリン、アラニン、及びヒスチジンを含むタグ又はリンカー、アミノ酸グリシン、アルギニン、リシン、グルタミン及びプロリンを含むタグ又はリンカー、複数のポリヒスチジンタグ、複数のHis10タグ、複数のHis6タグ、複数のアラニンタグ、複数のAla10タグ、複数のAla16タグ、複数のビオチンタグ、複数のGSTタグ、複数のBiTag、複数のSタグ、複数のSNAPタグ、複数のHAタグ、複数のDSB(Sso7D)タグ、複数のリシンタグ、複数のNanoTag、複数のCmycタグ、アミノ酸グリシン及びセリンを含む複数のタグ又はリンカー、アミノ酸グリシン、セリン、アラニン、及びヒスチジンを含む複数のタグ又はリンカー、アミノ酸グリシン、アルギニン、リシン、グルタミン及びプロリンを含む複数のタグ又はリンカー、ビオチン、アビジン、抗体又は抗体ドメイン、抗体断片、抗原、受容体、受容体ドメイン、受容体断片、又はリガンド、1以上のプロテアーゼ部位(例えば、第Xa因子、エンテロキナーゼ、又はトロンビン部位)、色素、アクセプター、クエンチャー、DNA結合ドメイン(例えば、トポイソメラーゼV由来のヘリックス-ヘアピン-ヘリックスドメイン)、あるいはそれらの組合わせを含む。ポリメラーゼのN末端領域及びC末端領域における1以上の外因的又は異種の特徴は、精製目的、基質へのポリメラーゼの固定などのための使用を見出すことができるだけでなく、ポリメラーゼの1以上の特性を変化させるためにも有用となり得る。
【0059】
1以上の外因的又は異種の特徴は、ポリメラーゼの内部、ポリメラーゼのN末端領域、ポリメラーゼのC末端領域、又はポリメラーゼのN末端領域及びC末端領域の両方に含めることができる。ポリメラーゼがN末端領域及びC末端領域の両方に外因的又は異種の特徴を含む場合、外因的又は異種の特徴は同じ(N末端領域及びC末端領域の両方に例えばポリヒスチジンタグ、例としてHis10タグ)であっても、異なっていても (N末端領域に例えばビオチンリガーゼ認識配列、及びC末端領域にポリヒスチジンタグ、例えばHis10タグ)よい。任意に、本発明のポリメラーゼの末端領域(例えば、N末端領域又はC末端領域)は、同じであっても異なっていてもよい2以上の外因的又は異種の特徴(例えば、N末端領域にビオチンリガーゼ認識配列及びポリヒスチジンタグ、N末端領域にビオチンリガーゼ認識配列、ポリヒスチジンタグ及び第Xa因子認識部位など)を含み得る。少数の例として、ポリメラーゼにはC末端領域にポリヒスチジンタグ、N末端領域にビオチンリガーゼ認識配列及びポリヒスチジンタグ、N末端領域にビオチンリガーゼ認識配列及びポリヒスチジンタグ、並びにC末端領域にポリヒスチジンタグ又はC末端領域にポリヒスチジンタグ及びビオチンリガーゼ認識配列を含めることができる。
【0060】
(組換えポリメラーゼの作製及び単離)
一般的に、本発明のポリメラーゼをコードする核酸は、クローニング、組換え、インビトロ合成、インビトロ増幅、及び/又は他の利用可能な方法によって作製することができる。本発明のポリメラーゼをコードする発現ベクターを発現させるために、様々な組換え方法を使用することができる。組換え核酸を作製し、発現させ、かつ発現した産物を単離するための方法は、当技術分野で周知されており、記述されている。いくつかの例示的な突然変異及び突然変異の組合わせ、並びに所望の突然変異の設計戦略は、本明細書に記載されている。活性部位又はその付近での立体的特徴を改変し、ヌクレオチドアナログによるアクセスの向上を可能とする方法を含む、ポリメラーゼの活性部位での突然変異を作製し選択する方法は、本明細書中先の記載、並びに例えばPCT公報WO 2007/076057及びWO 2008/051530に見出される。
【0061】
突然変異、組換え体、及びインビトロ核酸操作方法(クローニング、発現、PCRなどを含む)についてのさらなる有用な参考文献には、Berger及びKimmelの文献「分子クローニング技術の手引き(Guide to Molecular Cloning Techniques)」、Methods in Enzymology Volume 152 Academic Press, Inc.、San Diego、Calif (Berger)、Kaufmanらの文献(2003)「生物学及び医学における分子細胞学的方法のハンドブック(Handbook of Molecular and Cellular Methods in Biology and Medicine)」 第2版、Ceske (編) CRC Press (Kaufman); 及び「核酸プロトコルのハンドブック(The Nucleic Acid Protocols Handbook)」 Ralph Rapley (編) (2000) Cold Spring Harbor, Humana Press Inc (Rapley); Chenら(編) 「PCRクローニングプロトコル、第2版(PCR Cloning Protocols, Second Edition)」 (Methods in Molecular Biology, volume 192) Humana Press; 及びViljoenらの文献(2005)「分子診断PCRのハンドブック(Molecular Diagnostic PCR Handbook)」 Springer, ISBN 1402034032.がある。
【0062】
さらに、細胞からプラスミド又は他の関連する核酸を精製するための多くのキットが市販されている(例えば、両方ともPharmacia Biotech製のEasyPrep(商標)及びFlexiPrep(商標); Stratagene製のStrataClean(商標); 並びにQiagen製のQIAprep(商標)を参照されたい)。任意の単離及び/又は精製された核酸をさらに操作して他の核酸を生産し、細胞のトランスフェクションに使用し、関連するベクターに組み込んで、発現のために生物に感染させるなどすることができる。典型的なクローニングベクターは、転写及び翻訳ターミネーター、転写及び翻訳開始配列、及び特定の標的核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは任意に、少なくとも1つの独立したターミネーター配列、真核生物又は原核生物又はそれら両方におけるカセットの複製を可能にする配列(例えば、シャトルベクター)、並びに原核生物及び真核生物システムの両方のための選択マーカーを含む一般的発現カセットを含む。ベクターは、原核生物、真核生物、又はそれら両方における複製及び組込みに好適である。
【0063】
例えば細胞の単離及び培養についての(例えば、その後の核酸単離についての)他の有用な参考文献には、Freshneyの文献(1994)「動物細胞の培養;基本技術のマニュアル(Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique)」、第3版、Wiley-Liss、New York、及びそこに引用されている参考文献; Payneらの文献(1992) 「液体システム中での植物細胞及び組織の培養(Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems)」、John Wiley & Sons, Inc. New York, N.Y.; Gamborg及びPhillips (編) (1995)「植物細胞、組織及び器官の培養;基礎的方法(Plant Cell, Tissue and Organ Culture; Fundamental Methods)」Springer Lab Manual, Springer-Verlag (Berlin Heidelberg New York)並びにAtlas及びParks (編) 「微生物学の培地のハンドブック(The Handbook of Microbiological Media)」 (1993) CRC Press, Boca Raton, Flaがある。
【0064】
本発明の組換えポリメラーゼをコードする核酸も、本発明の特徴である。特定のアミノ酸は複数のコドンによりコードされる場合があり、特定の翻訳システム(例えば、原核生物細胞又は真核生物細胞)はコドンバイアスが示すことが多い。例えば、異なる生物は、同じアミノ酸をコードするいくつかの同義コドンのうちの1つを好むことが多い。そのため、本発明の核酸は任意に「コドン最適化」され、これはポリメラーゼを発現させるために利用する特定の翻訳システムによって好まれるコドンを含むように核酸を合成することを意味する。例えば、細菌細胞で(又は特定の細菌株でさえ)ポリメラーゼを発現することが望ましい場合、ポリメラーゼを効率的に発現させるため、その細菌細胞のゲノムで最も高頻度に見出されるコドンを含むように核酸を合成することができる。同様の戦略は、真核生物細胞でポリメラーゼを発現させることが望ましい場合に利用することができる。例えば、核酸は、その真核生物細胞により好まれるコドンを含み得る。
【0065】
様々なタンパク質の単離及び検出方法が知られており、例えば本発明の組換えポリメラーゼを発現する細胞の組換え培養物からポリメラーゼを単離するために使用することができる。様々なタンパク質の単離及び検出方法は当技術分野において周知されており、例えば、R. Scopesの文献、「タンパク質精製(Protein Purification)」、 Springer-Verlag 、 N.Y. (1982); Deutscherの文献、Methods in Enzymology Vol. 182: 「タンパク質精製の手引き(Guide to Protein Purification)」, Academic Press, Inc. N.Y. (1990); Sandanaの文献(1997) 「タンパク質の生物分離(Bioseparation of Proteins)」, Academic Press, Inc.; Bollagらの文献(1996) 「タンパク質の方法(Protein Methods)」, 2.sup.nd Edition Wiley-Liss, NY; Walkerの文献(1996)「タンパク質プロトコルハンドブック(The Protein Protocols Handbook)」 Humana Press, NJ, Harris及びAngalの文献 (1990) 「タンパク質精製の応用:実践的アプローチ(Protein Purification Applications: A Practical Approach)」 IRL Press at Oxford, Oxford, England; Harris及びAngalの文献、「タンパク質の精製法:実践的アプローチ(Protein Purification Methods: A Practical Approach)」 IRL Press at Oxford, Oxford, England; Scopesの文献 (1993) 「タンパク質の精製:原理及び実践(Protein Purification: Principles and Practice)」 第3版 Springer Verlag, NY; Janson及びRydenの文献 (1998) 「タンパク質の精製:原理、高分解能の方法及び応用(Protein Purification: Principles, High Resolution Methods and Applications)」, 第2版 Wiley-VCH, NY; 並びにWalkerの文献 (1998)「CD-ROM上でのタンパク質プロトコル(Protein Protocols on CD-ROM)」 Humana Press, NJ; 並びにこれらに引用された参考文献に記載されているものがある。タンパク質の精製及び検出方法のさらなる詳細は、Satinder Ahuja編、「生物分離のハンドブック(Handbook of bioseparations)」、Academic Press (2000)に見出すことができる。
【0066】
(核酸及びポリペプチド配列及びバリアント)
本明細書に記載するように、本発明はまた、例えば本発明に記載のポリメラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を特徴とする。例えば表2におけるように、本明細書に見出される特徴を含むポリメラーゼ配列の例を提供する。しかし、当業者であれば、本発明が具体的に例示された配列に限定されていないことを、すぐに認めるであろう。例えば当業者であれば、本発明がまた、本明細書に記載の機能を有する多くの関連配列、例えば表2のポリメラーゼの保存的バリアント及び/又は任意の他の本明細書において具体的に列記されたポリメラーゼをコードするポリヌクレオチド及びポリペプチドを提供することを認めるであろう。本明細書に注記する突然変異のいずれかの組合わせも、本発明の特徴である。
【0067】
従って、本発明は様々なポリペプチド(ポリメラーゼ)及びポリヌクレオチド(ポリメラーゼをコードする核酸)を提供する。本発明の例示的なポリヌクレオチドには、例えば表2のポリメラーゼ又は別途本明細書に記載するポリメラーゼをコードする任意のポリヌクレオチドがある。遺伝子コード縮重のため、多くのポリヌクレオチドが所与のポリメラーゼ配列を等しくコードする。同様に、高度にストリンジェントな条件下で先に示したポリヌクレオチドと核酸の実質的に全長にわたってハイブリダイズする(かつ天然のポリヌクレオチド以外である)人工又は組換え核酸は、本発明のポリヌクレオチドである。一実施態様において、組成物は、本発明のポリペプチド及び賦形剤(例えば、緩衝液、水、医薬として許容し得る賦形剤など)を含む。また、本発明は、本発明のポリペプチドと特異的に免疫反応する(例えば、分枝の減少又は複合体安定性の増加を付与するポリメラーゼの特徴を特異的に認識する)抗体又は抗血清を提供する。
【0068】
ある実施態様において、ベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなど)は本発明のポリヌクレオチドを含む。一実施態様において、ベクターは発現ベクターである。別の実施態様において、発現ベクターは、本発明の1以上のポリヌクレオチドと作用可能に連結されたプロモーターを含む。別の実施態様において、細胞は本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを含む。
【0069】
当業者であれば、開示された配列の多くのバリアントが本発明に含まれることも認めるであろう。例えば、機能的に類似した配列を生じる開示された配列の保存的変異が、本発明に含まれる。少なくとも1つの開示された配列とハイブリダイズする核酸ポリヌクレオチド配列のバリアントは、本発明に含まれるべきであると考えられる。また、例えば標準的な配列比較技術によって決定される、本明細書に開示する配列に固有の部分配列を、本発明に含める。
【0070】
(保存的変異)
遺伝子コードの縮重により、「サイレント置換」(すなわち、コードされたポリペプチドが変化しない核酸配列の置換)は、アミノ酸配列をコードする全ての核酸配列に含まれる特徴となる。同様に、アミノ酸配列の中の1又は限られた数のアミノ酸が、類似性の高い異なるアミノ酸に置換される「保存的アミノ酸置換」も、開示されたコンストラクトと高度に類似しているものとしてすぐに特定される。各開示された配列のそのような保存的変異は、本発明の特徴となる。
【0071】
特定の核酸配列の「保存的変異」とは、同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指し、又は核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。当業者であれば、コードされた配列中の単一のアミノ酸又はパーセンテージの小さいアミノ酸(典型的に5%未満、より典型的に4%、2%又は1%未満)を変更、付加、又は欠失させる個々の置換、欠失、又は付加は、変化によりアミノ酸が欠失し、アミノ酸が付加され、アミノ酸が化学的に類似したアミノ酸で置換される一方、関連する突然変異特徴(例えば、保存的置換は活性部位領域に対し遠位にあり、又はドメイン間安定性領域に対し遠位にある残基の置換とし得る)が保持される、「保存的改変変異」であることを認識されよう。従って、本発明の列記されたポリペプチド配列の「保存的変異」には、同じ保存的置換基のアミノ酸を含む、ポリペプチド配列のアミノ酸のうち、典型的に5%未満、より典型的に2%又は1%未満のパーセンテージの小さい置換が含まれる。最後に、核酸分子のコードされた活性を変更しない配列の付加、例えば非機能的又はタグ配列(核酸中のイントロン、コードされたポリペプチド中のポリHis又は類似の配列など)の付加など、基本的な核酸又はポリペプチドの保存的変異である。
【0072】
機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換の表は当技術分野で周知されており、ここで1つのアミノ酸残基は類似した化学特性を有する別のアミノ酸残基(例えば、芳香族側鎖又は正に荷電した側鎖)に置換され、従ってポリペプチド分子の機能特性は実質的に変化しない。以下に、類似した化学特性の天然アミノ酸を含むグループの例を列記する。ここで、グループ内の置換は「保存的置換」である。
【0073】
(表1)
【表1】
【0074】
(核酸ハイブリダイゼーション)
比較ハイブリダイゼーションを使用して、本発明の核酸の保存的変異を含む、本発明の核酸を同定することができる。さらに、高度、超高度、及び超々(ultra-ultra)高度にストリンジェントな条件下で本発明の核酸とハイブリダイズする標的核酸は、本発明の特徴であり、ここで核酸は表2及び表3に注記されているポリメラーゼ又は他の列記されたポリメラーゼに対応する突然変異体をコードする。そのような核酸の例には、表2のポリメラーゼ(又は他の例示されるポリメラーゼ)をコードする所与の核酸配列と比較して、1つ又は少数のサイレント又は保存的核酸置換を含み、ここで任意の保存的置換は表2又は別所に関心対象とする特徴(ヌクレオチドアナログ取込みの改善など)と関連するものとして注記されているもの以外の残基に代わるものである。
【0075】
試験核酸は、それがプローブに対して完全マッチした相補的標的と比較して少なくとも50%ハイブリダイズする、すなわちいずれかの非マッチ標的核酸とのハイブリダイゼーションについて観察されるより少なくとも約5倍~10倍高いシグナル対ノイズ比を有する完全マッチプローブの完全マッチ相補的標的との結合の起こる条件下での標的とプローブとのハイブリダイゼーションの少なくとも半分の高さのシグナル対ノイズ比を有する場合に、プローブ核酸と特異的にハイブリダイズするという。
【0076】
核酸は、それらが典型的に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は、例えば水素結合、溶媒排除、塩基スタッキングなど、様々な十分に特徴づけられた物理化学的力によってハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する詳細な手引きは、Tijssen (1993) 「生化学及び分子生物学の実験室技術―核酸プローブによるハイブリダイゼーション(Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Acid Probes)」 第I部第2章、「ハイブリダイゼーションの原理と核酸プローブアッセイの戦略の概要(Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays)」 (Elsevier, N.Y.), 並びに「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, Ausubelら編, Current Protocols, Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.の間の共同事業、(2011年にかけて補足); Hames及びHigginsの文献(1995)「遺伝子プローブ1(Gene Probes 1)」 IRL Press at Oxford University Press, Oxford, England, (Hames及びHiggins 1) 並びにHames及びHigginsの文献 (1995) 「遺伝子プローブ2(Gene Probes 2)」 IRL Press at Oxford University Press, Oxford, England (Hames及びHiggins 2)に見出され、オリゴヌクレオチドを含むDNA及びRNAの合成、標識、検出及び定量化に関する詳細を提供する。
【0077】
サザンブロット又はノーザンブロットのフィルター上に100を超える相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションについてのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例として、42℃で1 mgヘパリンを含む50%ホルマリンとし、ハイブリダイゼーションを一晩実施する。ストリンジェントな洗浄条件の例は、0.2×SSC中65℃で15分間行う洗浄である(SSC緩衝液の記述については、Sambrook、上掲を参照されたい)。バックグラウンドプローブシグナルを除去するために、高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を行うことが多い。低ストリンジェンシー洗浄の例は、2×SSC中40℃で15分間行う。一般的に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて無関係なプローブで観察された比よりも5倍(又はそれより高い)のシグナル対ノイズ比は、特異的ハイブリダイゼーションの検出を示す。
【0078】
サザン及びノーザンハイブリダイゼーションなどの核酸ハイブリダイゼーション実験の文脈における、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存的であり、異なる環境パラメータの下で異なる。核酸のハイブリダイゼーションに関する詳細な手引きは、Tijssenの文献(1993)、上掲、並びにHames及びHigginsの文献1及び2において見出される。ストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、あらゆる試験核酸について経験的に容易に決定することができる。例えば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定する際は、選択した基準のセットが満たされるまで、ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加させる(例えば、ハイブリダイゼーション又は洗浄における温度の上昇、塩濃度の低下、界面活性剤濃度の上昇、及び/又はホルマリンなどの有機溶媒濃度の上昇により)。例えば、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件では、ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、プローブの非マッチ標的とのハイブリダイゼーションについて観察されたよりも少なくとも5倍高いシグナル対ノイズ比で、プローブが完全マッチ相補的標的と結合するまで、徐々に増加させる。
【0079】
「非常にストリンジェントな」条件は、特定のプローブの熱融解温度(Tm)に等しくなるように選択する。Tmは、試験配列の50%が完全マッチプローブとハイブリダイズする(定義されているイオン強度及びpHの下での)温度である。本発明において一般的に、「高度にストリンジェントな」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、定義されたイオン強度及びpHでの特定の配列のTmより約5℃低くなるように選択する。
【0080】
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件とは、プローブの完全マッチ相補的標的核酸との結合のシグナル対ノイズ比が、任意の非マッチ標的核酸とのハイブリダイゼーションについて観察される比よりも少なくとも10倍高くなるまで、ハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加させる条件である。そのような条件下で完全マッチ相補的標的核酸に対する場合の少なくとも1/2のシグナル対ノイズ比でプローブにハイブリダイズする標的核酸は、超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合するといわれている。
【0081】
同様に、関連するハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加させることにより、いっそう高いレベルのストリンジェンシーを決定することができる。例えば、プローブの完全マッチ相補的標的核酸との結合のシグナル対ノイズ比が、任意の非マッチ標的核酸とのハイブリダイゼーションについて観察される比よりも少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍、若しくは500倍、又はそれ以上高くなるまで、ハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加させる方法である。そのような条件下で完全マッチ相補的標的核酸に対する場合の少なくとも1/2のシグナル対ノイズ比でプローブにハイブリダイズする標的核酸は、超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合するといわれている。
【0082】
ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、コードするポリペプチドが実質的に同一であれば、なお実質的に同一である。これは、例えば、核酸のコピーが、遺伝子コードによって許容される最大コドン縮重を使用して生産された場合に起こる。
【0083】
(配列の比較、同一性、及び相同性)
2以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈において、「同一」又は「一致率(%)」という用語は、以下に記載する配列比較アルゴリズムのうちの1つ(又は当業者に利用可能な他のアルゴリズム)を使用して、又は目視精査によって測定し、最大一致について比較し、かつアラインメントした場合に、同じであるか、又は指定されたパーセンテージの同じアミノ酸残基又はヌクレオチドを有する2以上の配列又は部分配列を指す。
【0084】
2つの核酸又はポリペプチド(例えば、ポリメラーゼをコードするDNA又はポリメラーゼのアミノ酸配列)の文脈において、「実質的に同一」という句は、配列比較アルゴリズムを使用して、又は目視精査によって測定し、最大一致について比較し、かつアラインメントした場合に少なくとも約60%、約80%、約90~95%、約98%、約99%又はそれ以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基の一致を有する2以上の配列又は部分配列を指す。そのような「実質的に同一」の配列は典型的に、実際の系譜を参照せずに「相同」であると見なされる。好ましくは、「実質的な同一性」は少なくとも50残基の長さの配列領域に、より好ましくは少なくとも約 100残基の領域にわたり存在し、最も好ましくは、配列は少なくとも約150残基にわたり、又は比較する2つの配列の全長にわたって実質的に同一である。
【0085】
タンパク質及び/又はタンパク質配列は、天然であれ人工であれ、共通の祖先タンパク質又はタンパク質配列に由来する場合に「相同」となる。同様に、核酸及び/又は核酸配列は、天然であれ人工であれ、共通の祖先核酸又は核酸配列に由来する場合に「相同」となる。相同性は、一般的に2以上の核酸又はタンパク質(又はそれらの配列)の間の配列類似性から推定される。相同性を確立するのに有用な配列間の正確な類似性のパーセンテージは、問題となる核酸及びタンパク質によって異なるが、50、100、150、又はそれ以上の残基に対してわずか25%の配列類似性が、相同性を確立するために日常的に使用されている。また、より高レベルの配列類似性、例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、若しくは99%又はそれ以上の同一性を使用して、相同性を確立することができる。配列類似性のパーセンテージを決定する方法(例えば、デフォルトパラメータを使用したBLASTP及びBLASTN)を本明細書に記載し、かつこれは一般的に利用可能である。
【0086】
配列の比較及び相同性の決定について典型的に、1つの配列を試験配列と比較するための参照配列として機能させる。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力し、部分配列の同等部分を示し、必要に応じて配列アルゴリズムプログラムのパラメータを示す。続いて、配列比較アルゴリズムにより、示されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列の配列一致率(%)を計算する。
【0087】
例えば、Smith及びWatermanの文献、Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)のローカル相同性アルゴリズム、Needleman及びWunschの文献、J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson及びLipmanの文献、Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性の探索方法、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)のコンピュータによる実行、又は目視精査により(一般的に、 「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, Ausubelら編, Current Protocols, Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.の間の共同事業, (2011年にかけて補足) を参照されたい)、比較のための最適な配列アラインメントを実施することができる。
【0088】
配列一致率(%)及び配列の類似性を決定するのに好適なアルゴリズムの一例として、Altschulらの文献、J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記述されているBLASTアルゴリズムがある。BLAST解析を行うソフトウェアは、国立生物工学情報センターから公開され入手可能である。このアルゴリズムでは第1に、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントした際に、いくつかの正値の閾値スコアTにマッチし、又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短いワードを特定することによって、スコアの高い配列ペア(HSP)を特定することを含む。Tは、近隣ワードスコア閾値(Altschulらの文献、上掲)と呼ぶ。これらの最初にヒットした近隣ワードは探索を開始してそれらを含むより長いHSPを見出すためのシーズとして機能する。続いて、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向へヒットしたワードが拡張される。ヌクレオチド配列の場合、パラメータM(マッチする残基のペアに対する報酬スコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基に対するペナルティスコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列については、スコアマトリックスを使用して累積スコアが計算される。ヒットしたワードの各方向への拡張は、累積アライメントスコアがその達成された最大値から量Xだけ減少したとき;累積スコアが1以上の負のスコアの残基のアラインメントの蓄積により、0以下になったとき;又はいずれかの配列の末端に到達したときに、停止する。BLASTアルゴリズムのパラメータW、T、及びXにより、アライメントの感度及び速度が決定される。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、ワード長(W)11、期待値(E)10、カットオフ値100、M = 5、N = -4、及び両方の鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用のBLASTPプログラムは、ワード長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff及びHenikoffの文献(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照されたい)をデフォルトとして使用する。
【0089】
配列一致率(%)の計算に加え、BLASTアルゴリズムでは、2つの配列間の類似性の統計解析も実施する(例えば、Karlin及び Altschulの文献(1993)Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90:5873-5787を参照されたい)。BLASTアルゴリズムが提供する類似性の尺度の1つに、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間でマッチが偶然に起こる確率の指示を提供する最小確率和(P(N))がある。例えば、核酸は、試験核酸の参照核酸との比較における最小確率和が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も望ましくは約0.001未満である場合、参照配列と類似していると考えられる。
【0090】
参考までに、野生型DPO4ポリメラーゼのアミノ酸配列を表2に示す。
【0091】
(例示的な突然変異の組み合わせ)
例示的なポリメラーゼ突然変異の組合わせ及び例示的な突然変異の組合わせを有する組換えDPO4ポリメラーゼのアミノ酸配列のリストを表2に提供する。アミノ酸置換の位置は、野生型DPO4 DNAポリメラーゼ(配列番号:1)と比較して特定する。本発明のポリメラーゼ(表2に提供するものを含む)は、N末端領域及び/又はC末端領域に任意の外因的又は異種の特徴(又はそのような特徴の組合わせ)を含み得る。例えば、C末端のポリヒスチジンタグを含まない表2のポリメラーゼ突然変異体は、単独で、又は本明細書に記載する任意の外因的又は異種の特徴と組み合わせて、C末端領域にポリヒスチジンタグを含むように修飾され得ることが理解されよう。本明細書に記載するバリアントは、タンパク質の最後の12アミノ酸(すなわち、アミノ酸341-352)の欠失を含み、その結果例えば細菌発現システムにおけるタンパク質の溶解性が高まっている。
【0092】
(表2 合理的設計によって同定したDPO4バリアント)
【表2】
【0093】
以下に提供する例及びポリメラーゼバリアントは、本発明の組成物及びそのような組成物を調製し、使用する方法をさらに示し、例証する。本発明の範囲は、以下の実施例の範囲によっていかなる方法においても限定されないことを理解されたい。
【実施例
【0094】
(実施例)
(実施例1)
(鋳型を介したDNA合成時に、かさ高いヌクレオチドアナログを取り込む候補損傷乗り越えDNAポリメラーゼとしてのDPO4の同定)
「かさ高い」基質を使用して娘鎖を合成する能力を有する(すなわち、重度に置換されたヌクレオチド類似体と結合し、これを成長中の核酸鎖に取り込むことができる)DNAポリメラーゼを同定するために、いくつかの市販されているポリメラーゼのスクリーニングを実施した。候補ポリメラーゼを、骨格α-リン酸及び核酸塩基部分の両方にアルキンリンカーによる置換を有するdNTPアナログのプール(すなわち、かさ高いモデル基質、本明細書において一般に「dNTP-2c」と呼ぶ)を使用して、オリゴヌクレオチド結合プライマーを伸長する能力を評価した。活性についてスクリーニングしたポリメラーゼには、以下のものを含む:VentR (エキソ-)、Deep VentR(登録商標)(エキソ-)、サーミネーター、サーミネーターII、サーミネーターIII、サーミネーターY、9oNm、PWO、PWO SuperYield、PyroPhage 3173 (エキソ-)、Bst、大断片、エキソ-Pfu、Platinum Genotype TSP、Hemo Klen Taq、Taq、MasterAMP Taq、Phi29、Bsu、大断片、Exo-Minus Klenow (D355A、E357A)、Sequenase Version 2.0、Transcriptor、Maxima、Thermoscript、M-MuLV (RNase H-)、AMV、M-MuLV、Monsterscript、及びDPO4。試験したポリメラーゼのうち、DPO4(天然には古細菌スルホロブス・ソルファタリカスにより発現される)は、dNTP-2cヌクレオチドアナログを有するテンプレート結合プライマーを最も効率的に伸長することができた。理論に束縛されるものではないが、DPO4及びおそらく損傷乗り越えDNAポリメラーゼファミリーの他のメンバー(すなわち、クラスY DNAポリメラーゼ)は、天然のかさ高いDNA損傷に対応するために進化した、比較的大きな基質結合部位のために、かさ高いヌクレオチドアナログを基質として効率的に利用することができるのだと推測された。
【0095】
(実施例2)
(最適配列モチーフを同定するためのDPO4タンパク質の定向突然変異誘発及びDPO4突然変異体ライブラリのスクリーニングのための「ホットスポット」の同定)
非天然基質の存在下でのポリメラーゼ活性が向上したDPO4バリアントの作製の初期工程として、 ウェブツール「HotSpot Wizard」を使用して、突然変異誘発の標的とするDPO4タンパク質のアミノ酸を特定した。このツールは、例えば酵素活性部位に位置する進化とともに変化するアミノ酸位置を標的とするタンパク質工学プロトコルを実装する。突然変異の「ホットスポット」は、構造、機能、進化に関する情報の統合により選択する(例えば、Pavelkaらの文献、「HotSpot Wizard:タンパク質工学におけるホットスポットの同定のためのウェブサーバ(HotSpot Wizard: a Web Server for Identification of Hot Spots in Protein Engineering)」、(2009)Nuc Acids Res 37 doi:10.1093/nar/gkp410を参照されたい)。このツールをDPO4タンパク質に適用することにより、特定されたホットスポット残基は全長アミノ酸配列の全体にわたり散在する特定のゾーン又は領域でクラスターを形成する傾向があることが観察された。突然変異誘発のホットスポットが集中するそのような15の領域を区別するために恣意的境界を設定し、「Mut1」~「Mut15」と名付けた。これらの15の「Mut」領域を図1に示す。図中、ホットスポット残基を下線により識別する。
【0096】
ホットスポットマッピングに基づいてポリメラーゼ活性が向上したDPO4バリアントをスクリーニングするために、ホットスポットアミノ酸が変化し、保存されたアミノ酸は変化しないまま残されたMut領域についての飽和突然変異誘発ライブラリを作製した。96ウェルプレートプラットフォームを用いてスクリーニングを行い、基質として「dNTP-OAc」ヌクレオチドアナログを使用したプライマー伸長アッセイによりポリメラーゼ活性を評価した。これらのかさ高いモデル基質は、α-リン酸部分及び核酸塩基部分の両方でアルキン置換基にコンジュゲートされた酢酸トリアゾール部分に置換されている。 スクリーニング結果により、特に活性が増強されたDPO4突然変異体が一貫して生産される2つのMut領域を特定した。これらの領域「Mut_4」及び「Mut_11」は、それぞれDPO4タンパク質のアミノ酸76-86及びアミノ酸289-304に対応する。
【0097】
(実施例3)
(重合活性が増強されたDPO4バリアントを設計するための半合理的アプローチ)
かさ高い基質の使用率が向上したDPO4バリアントの進化を継続させるために、いくつかの異なる戦略により「半合理的」な設計アプローチを採用した。その全体が参照により本明細書に組み込まれている出願人の同時係属中のPCT特許出願第PCT/US2018/030972号に開示されている1つの戦略では、以前に同定された高性能バリアントCO534(その全体が参照により本明細書に組み込まれている出願人による同時係属中のPCT特許出願第PCT/US2016/061661号に開示されている)の位置152、153、155、及び156(Mut_6領域に相当する)にランダム突然変異誘発を導いたライブラリを作製した。このライブラリのスクリーニングは上記のとおり実施され、特にかさ高いヌクレオチドアナログ基質を使用して優れたプライマー伸長活性を示した3種類のバリアントが同定された。これらのバリアントは、以前に開示したC1065、C1066、及びC1067である。
【0098】
さらに他の戦略では、CO416及びCO534(出願人による同時係属中のPCT出願第PCT/US2016/061661号に開示されている)並びにC1066、CO1067、C1454、及びC1187を含む高性能バリアントを、本明細書に開示するランダム又は定向突然変異誘発に付して、さらなるスクリーニングのためのライブラリを作製した。これらのライブラリのスクリーニングは上記のように実施され、かさ高いXNTP基質を使用したプライマー伸長アッセイで少なくとも実行された結果から、いくつかのバリアント及び親バリアントが同定された。特に1つ、C1816(配列番号:2)は、頑健なプライマー伸長活性を示し、さらなる合理的タンパク質設計のための足場として選択した。
【0099】
(実施例4)
(伸長による配列決定(SBX)を介したDPO4ポリメラーゼバリアントの正確性の評価)
本実施例では、ナノポアベースの単一分子配列決定システムを使用してプライマー伸長製品(例えば、「エクスパンドマー」)の配列を決定することにより、DPO4バリアントポリメラーゼ活性の正確性を評価する戦略を記載する(例えば、出願人が発行したその全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,939,259号「ハイスループットな核酸の伸長による配列決定(High Throughput Nucleic Acid Sequencing by Expansion)」に開示されている「伸長による配列決定」(SBX)。簡潔に説明すると、例示的SBXプロトコルには以下の工程を含む:第1に、ポリメラーゼにより、高度に操作された伸長可能なヌクレオシド三リン酸(すなわち、XNTP)を使用して鋳型鎖の配列を転写して、測定可能な代用ポリマー (すなわち、エクスパンドマー)を得るプライマー伸長反応を実施する。エクスパンドマーは、4つのXNTPの各々に固有のシグナル対ノイズ比の高いレポーターの配列情報を符号化する。エクスパンドマーは、 5 μL の「緩衝液A」(40 mM TrisOAc、pH 8.32、400 mM NH4OAc、pH 6.88、及び40% PEG8K)及び1 μLの「試料B1」(2.2 pmolの1本鎖DNA鋳型、2.0 pmolの伸長オリゴヌクレオチド、及び0.6 μg精製ポリメラーゼタンパク質)を含む溶液中で合成することができる。この伸長オリゴヌクレオチドは、ナノポアを介した伸長産物の膜局在化及びトランスロケーションの制御を促進する特徴を備えるように設計されている(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている出願人の同時係属中の米国公開特許出願第2017/0073740号「ナノポアによる感知のためのトランスロケーションの制御(Translocation Control for Sensing by a Nanopore)」を参照されたい)。XATP、XCTP、XGTP、及びXTTP(XNTPの構造的詳細は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている出願人の発行する特許及び係属中特許出願、例えば米国公開特許出願第2016/0145292号「ホスホルアミダートエステル並びにその使用及び合成(Phosphoramidate Esters and Use and Synthesis thereof)」に開示されている)を各々1 nmol含むXNTP基質試料を調製し、かつこれを1 μL、3 μLの「試料B2」(16.66% DMF、333.33 μMポリリン酸60、及び1.66 mM MnCl2)に加える。伸長反応は、6 μLの(試料A+B1)を4 μLの(XNTP+試料B2)と混合し、その後37℃で20分間インキュベートすることにより実行する。
【0100】
第2に、新たに合成されたエクスパンドマーの骨格中のホスホルアミダート結合を切断して、ポリマーを線状化する。これを実現するために、エクスパンドマーは、7 μLの「溶液Q1」(100mM EDTA、2mM THPTA、2% Tween-20)を10 μLの伸長反応物に加え、 85℃で2分間インキュベートすることにより処理する。続いて、3 μLのNaHCO3、pH 9、及び10 μLの1M コハク酸無水物をDMFに加え、70℃で3分間インキュベートすることにより、アミンの修飾を行う。続いて、50 μLの37% HClを加えて55℃で 5分間インキュベートすることにより、ホスホルアミダート結合の切断を実施する。切断されたエクスパンドマー生産物を、続いてQIAquickカラム(QIAGEN)に試料を負荷し、2分間遠心分離し、 300 μLの「溶液W1」(2 M GuCl、10 mM MES、pH 5、1 mM EDTA)で2回洗浄し、 300 μL 100% DMFで1回洗浄することにより精製する。続いて、カラムを100 μL の「溶液H1」(3 M NH4Cl、0.5 M GuCl、10% DMSO、10 mMヘキサン酸ナトリウム、10 mM HEPES、pH 7.4)及び2 nmolの「二本鎖インタラプター」オリゴヌクレオチドを含む新しいチューブに移す。50 μLの「溶液E1」(30% ACN、1% DMSO、0.1 mM EDTA)を加え、試料を2分間インキュベートした後遠心分離して、精製エクスパンドマーを回収する。
【0101】
次に、線状化されたエクスパンドマーの配列を、野生型α-ヘモリシンナノポアシステムを用いたレポーター部分の読み取りによって決定する。DPhPE/ヘキサデカン二重層を、最初に「緩衝液B1」(2 M NH4Cl、100 mM HEPES、pH 7.4)中で調製し、続いてα-ヘモリシンナノポアを二重層に挿入し、シスウェルを「緩衝液B2」(0.4 M NH4Cl、0.6 M GuCl、100 mM HEPES、pH 7.4)で灌流する。エクスパンドマー試料は、70℃で2分間加熱した後冷却することにより調製する。混合中に2 μLの試料をシスウェルに追加する。続いて90 mV/390 mV/10 μsのパルス電圧を印加し、ナノポアを通して単一分子エクスパンドマーを駆動し、配列データをLabviewソフトウェアによって取得する。
【0102】
(実施例5)
(正確性の向上したDPO4バリアントの設計)
SBX方法論を用いて数千種類のDPO4バリアントの正確性を評価する過程で、一定数繰り返されたパターンのヌクレオチド取込みエラーが観察された。そのようなパターンは、鋳型依存的な効果を反映しているようであった。例えば、繰り返し認められた1つのパターンは、鋳型中のジヌクレオチド反復モチーフでのポリメラーゼによる取込みミスであった。理論に束縛されるものではないが、そのような反復モチーフが、その間に娘鎖及びポリメラーゼが複製フォークから解離し、その後娘鎖の鋳型へのミスアラインメントに際して複製が再開される、複製スリップを誘発し得ると推測された。従って、困難な配列モチーフを用いた鋳型の複製の間の正確性が向上したDPO4バリアントを操作するための試みが着手されている。この試みには、DPO4の結晶構造が酵素活性部位の基質及び/又は補因子の結合に影響を及ぼすと予測されるタンパク質の領域を同定することに依存した、タンパク質設計に対する合理的なアプローチを含んでいた。DPO4タンパク質の3次元構造における残基の位置に基づく突然変異を標的とした特定の残基には、アミノ酸位置31、36、62、63、78、79、243、252、253、254、331、332、334、及び338が含まれていた。特に、 1つの突然変異K78Dは例えばC1816バリアント骨格(配列番号:2)に導入された場合、複製の正確性が一貫して向上した。興味深いことに、アミノ酸位置78はポリメラーゼ活性部位のMg++の配位に関与する、保存領域の近傍にあるαヘリックス中に存在する。先に記載の様々な組み合わせの位置においてアミノ酸置換を有する新規DPO4バリアントの広範なコレクションを評価した末、ポリメラーゼの正確性及び/又は伸長活性を顕著に向上させる、以下の置換を見出した:C31S、R36K、V62K、E63R、E79L、E79D、E79I、K243R、K252D、K252Q、K252R、R253Q、N254K、N254D、R331D、R331E、R331N、R331L、R332K、R332A、R332Q、R332S、G334N、G334Q、G334F、G334A、S338Y、及びS338F。例示的なDPO4バリアントの配列は、表2に配列番号:3-34として記載する。
【0103】
これらに限定はされないが、米国特許第7,939,259号、PCT公報WO 2016/081871、米国仮特許出願第62/597,109号及び米国仮特許出願第62/656,696号を含む、本明細書で言及され、かつ/又は出願データシートに列記されている全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許刊行物は、それらの全体を参照により本明細書に組み込む。そのような文書は、本願に記載の発明に関連して使用され得る、例えば刊行物に記載した材料及び方法論を記述し、かつ開示する目的で、参照により組み込むことができる。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
配列番号:1のアミノ酸1-340と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含み、K78Dであるアミノ酸位置78の突然変異、並びに31、36、62、63、79、243、252、253、254、331、332、334、及び338からなる群から選択されるアミノ酸位置の少なくとも1つの突然変異を含む単離組換えDNAポリメラーゼであって、位置の特定が野生型DPO4ポリメラーゼ(配列番号:1)に対して相対的であり、該組換えDNAポリメラーゼがポリメラーゼ活性を示す、前記ポリメラーゼ。
(態様2)
前記配列番号:1のアミノ酸1-340と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む、態様1記載のポリメラーゼ。
(態様3)
前記アミノ酸位置31の突然変異がC31Sである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様4)
前記アミノ酸位置36の突然変異がR36Kである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様5)
前記アミノ酸位置62の突然変異がV62Kである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様6)
前記アミノ酸位置63の突然変異がE63Rである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様7)
前記アミノ酸位置79の突然変異がE79L、E79D、及びE79Iからなる群から選択される、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様8)
前記アミノ酸位置243の突然変異がK243Rである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様9)
前記アミノ酸位置252の突然変異がK252D、K252Q、及びK252Rからなる群から選択される、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様10)
前記アミノ酸位置253の突然変異がR253Qである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様11)
前記アミノ酸位置254の突然変異がN254K又はN254Dである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様12)
前記アミノ酸位置331の突然変異がR331D、R331E、R331N、及びR331Lからなる群から選択される、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様13)
前記アミノ酸位置332の突然変異がR332K、R332A、R332Q、及びR332Sからなる群から選択される、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様14)
前記アミノ酸位置334の突然変異がG334N、G334Q、G334F、及びG334Aからなる群から選択される、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様15)
前記アミノ酸位置338の突然変異がS338Y又はS338Fである、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様16)
42、56、76、82、83、86、152、153、155、156、184、187、188、189、190、248、289、290、291、292、293、294、295、296、297、299、300、301、317、321、324、325、及び327からなる群から選択されるアミノ酸位置に少なくとも1つの突然変異をさらに含む、態様1又は2記載のポリメラーゼ。
(態様17)
アミノ酸位置42、56、76、82、83、86、152、153、155、156、184、187、188、189、190、248、289、290、291、292、293、294、295、296、297、299、300、301、317、321、324、325、及び327の突然変異がA42V、K56Y、M76W、Q82W、Q83G、S86E、K152L又はK152A、I153T又はI153V、A155G、D156R、P184L又はP184Q、G187P、N188Y、I189W又はI189F、T190Y、I248T、V289W、T290K、E291S、D292Y、L293W、D294N、I295S、V296Q、S297Y、G299W、R300S、T301W、K317Q、K321Q、E324K、E325K、及びE327Kである、態様6記載のポリメラーゼ。
(態様18)
配列番号:3-34のいずれか1記載のアミノ酸配列を含む、単離組換えDNAポリメラーゼ。
(態様19)
態様1~18のいずれか1項記載の組換えDNAポリメラーゼを含む組成物。
(態様20)
少なくとも1つの非天然ヌクレオチドアナログ基質を含む、DNA配列決定システム中に存在する、態様19記載の組成物。
(態様21)
態様1~18のいずれか1項記載の改変DPO4型DNAポリメラーゼをコードする改変核酸。
図1
【配列表】
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