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特許7288504化粧品又は医薬品有効成分のための親油性輸送粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】化粧品又は医薬品有効成分のための親油性輸送粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/14 20170101AFI20230531BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230531BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20230531BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
A61K47/14
A61K9/72
A61K31/56
A61K45/00
A61K31/573
A61K31/192
A61P29/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021518002
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 DE2019000171
(87)【国際公開番号】W WO2020083413
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】PCT/DE2018/000302
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】PCT/DE2018/000363
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】PCT/DE2019/000115
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521076786
【氏名又は名称】イーオーイー オレオ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロックマン、ダーク
(72)【発明者】
【氏名】レイヤー、セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】サラール ベーザディ、シャラレー
(72)【発明者】
【氏名】シュテアー、ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ジマー、アンドレアス
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-223533(JP,A)
【文献】特表2013-519710(JP,A)
【文献】特表2002-506824(JP,A)
【文献】特表2004-519447(JP,A)
【文献】特開平05-132416(JP,A)
【文献】薬学用語解説 スプレードライ法,公益社団法人日本薬学会ホームページ,2007年11月12日,インターネットより入手(入手日:2022年7月8日),URL:https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E6%B3%95
【文献】Powder Technology,2013年,Vol.239,pp.183-192
【文献】Journal of Controlled Release,1993年,Vol.26,pp.1-10
【文献】Journal of Controlled Release,1993年,vol.27,pp.37-45
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2005年,Vol.293,PP.25-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61K31/00-31/80
A61P1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経肺適用医薬品の製造における医薬品有効成分に適した親油性担体粒子の使用であって、
前記担体粒子は、2~8個のグリセリル単位を有する直鎖又は分岐ポリグリセロールと、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1つ又は複数の脂肪酸との完全な又は部分的なエステル化からそれぞれ取得可能な、主成分としての1つ又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを有する、
前記親油性担体粒子の使用。
【請求項2】
前記担体粒子が、0.5μm~5μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)及び0.4g/cm未満のタンピング密度を有することを特徴とする、請求項1に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項3】
前記担体粒子が、1つ又は複数の医薬品有効成分を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項4】
前記担体粒子が、10重量%超の有効成分含量を有することを特徴とする、請求項3に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項5】
前記ポリグリセロール脂肪酸エステルの合成のための脂肪酸が、飽和若しくは非分岐のいずれか、又は飽和かつ非分岐であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項6】
前記ポリグリセロール脂肪酸エステルの合成のための脂肪酸が、16、18、20又は22個の炭素原子を含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項7】
個々のポリグリセロール脂肪酸エステル又は個々の複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを、熱流束示差走査熱量測定を使用して調査した場合、加熱時に、それぞれ、ただ1つの吸熱最小値が生成され、冷却時に、それぞれ、ただ1つの発熱最大値が生成されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項8】
前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルが、WAXS分析によって決定されたブラッグ角の評価によると実質的に一定である層状分離を40℃で少なくとも6ヶ月にわたって有する凝固温度未満で安定なサブセルラー形態を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項9】
前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルが、シェラーの式を用いて評価されたSAXS分析によると40℃で少なくとも6ヶ月にわたって実質的に一定のラメラ構造化された微結晶の厚さを有する凝固温度未満で安定なサブセルラー形態を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項10】
前記親油性担体粒子が、以下の群から得られる少なくとも1つのポリグリセロール脂肪酸エステル:
PG(2)-C18完全エステル、15~100のヒドロキシル価を有するPG(2)-C22部分エステル、PG(2)-C22完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C16/C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C22部分エステル、PG(3)-C22完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16部分エステル、PG(4)-C16完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16/C18部分エステル、PG(4)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C22部分エステル、200~300のヒドロキシル価を有するPG(6)-C16/C18部分エステル、PG(6)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(6)-C18部分エステル(ここで、炭素原子の数故に異なる2つの脂肪酸残基を含有するポリグリセロール脂肪酸エステルにおいては、より少ない数を有するものは35%~45%の量で存在し、対応する相補的なより多い数を有するものは55%~65%の量で存在する)
を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項11】
前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は個々の複数のポリグリセロール脂肪酸エステルが、75℃未満の凝固温度を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項12】
疎水性の決定の間の前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は個々の複数のポリグリセロール脂肪酸エステルの接触角が、40℃及び20℃で16週後に開始値から10°未満異なることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項13】
前記親油性担体粒子が、異なる反応対が使用されるために、又は異なる反応条件が使用されるために、異なるエステル化反応からそれぞれ取得可能である複数のポリグリセロール脂肪酸エステルの合成後混合物を含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項14】
前記親油性担体粒子が、40℃以下の温度における固体物理状態を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項15】
前記親油性担体粒子が、2.5%未満の含水量を有することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項16】
前記親油性担体粒子が、乳化剤を含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項17】
前記親油性担体粒子が、非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項18】
前記親油性担体粒子が、1つ又は複数の取り込まれた液体脂質を含むことを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項19】
前記親油性担体粒子が、グルコステロイドによって形成される群からの少なくとも1つの医薬品有効成分を含むことを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項20】
前記親油性担体粒子が、非ステロイド性抗リウマチ薬(NSAR)によって形成される群からの少なくとも1つの医薬品有効成分を含むことを特徴とする、請求項1~19のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の使用。
【請求項21】
医薬品有効成分に適した親油性担体粒子と、グルコステロイドによって形成される群からの少なくとも1つの医薬品有効成分を含む、経肺適用医薬品の製造方法であって、前記親油性担体粒子は、2~8個のグリセリル単位を有する直鎖又は分岐ポリグリセロールと、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1つ又は複数の脂肪酸との完全な又は部分的なエステル化からそれぞれ取得可能な、主成分としての1つ又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを有し、以下の工程:
i)ポリグリセロール脂肪酸エステル又はポリグリセロール脂肪酸エステル混合物の融解温度を超える温度で撹拌することによって、水との、前記ポリグリセロール脂肪酸エステルの混合物又はポリグリセロール脂肪酸エステル混合物を作製する工程、
ii)高圧均質化ノズルを通じて前記混合物を1回又は複数回噴霧して、O/Wエマルションを形成する工程、
iii)脂質相を冷却して、水中に固体粒子を形成する工程、
によって特徴付けられる、経肺適用医薬品の製造方法。
【請求項22】
医薬品有効成分に適した親油性担体粒子と、非ステロイド性抗リウマチ薬(NSAR)によって形成される群からの少なくとも1つの医薬品有効成分を含む、経肺適用医薬品の製造方法であって、前記親油性担体粒子は、2~8個のグリセリル単位を有する直鎖又は分岐ポリグリセロールと、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1つ又は複数の脂肪酸との完全な又は部分的なエステル化からそれぞれ取得可能な、主成分としての1つ又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを有し、以下の工程:
i)1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを有機溶媒中に溶解及び/又は懸濁する工程、
ii)噴霧乾燥によって前記溶媒を除去する工程、
によって特徴付けられる、経肺適用医薬品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品又は医薬品有効成分用の親油性担体粒子であって、ポリグリセロール脂肪酸エステルを主成分として含み、長期保存しても多形転移が存在しないために、体積の変動も、結晶格子のより強い構造化及び付随する圧縮に起因する付着された又は封入された有効成分の排出の問題も起こらず、したがって、有効成分の充填及び放出特性が安定である、親油性担体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品有効成分の経肺適用のための吸入調製物は、数多くの利点を有する。一方で、気道に関連する疾患は、前記吸入調製物を用いて特異的に処置することができ、他方で、医薬品輸送粒子の寸法が十分に小さければ、損傷なく消化管の通過に耐えることができず、したがって通常は静脈内に投与される有効成分を、比較的効果的に肺を通じて投与することが可能であり、処置されるべき患者から見て、治療の順守が強化されるという利点を有する。肺を介して医薬品有効成分を効果的に投与できるようにするために、医薬品有効成分は、好ましくは、1μm~5μmの空気動力学的質量中央径を有する粒子の形態で吸入されるべきである。小型の粒子は、医薬品有効成分が解離し、吸収できるようになる前に、呼気に入って肺外に運び出されるという問題を発生させるので、これは、実際には、肺及び肺胞の深部への輸送のために期待されるサイズに対応していない。これに対して、大型の粒子は、一般に肺の中に十分深く浸透することができない。
【0003】
医薬品有効成分を肺の中に効果的に輸送することができる粒子を調製するために、原則として、親水性又は親油性粒子を使用し得る。例えば、α-ラクトース一水和物、シクロデキストリン、マンニトール、デキストロース一水和物などの糖が広く使用されており、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸亜鉛などのステアリン酸金属塩又はロイシン若しくはトリロイシンなどのアミノ酸も広く使用されている(Piyush Mehta,’’Imagine the Superiority of Dry Powder Inhalers from Carrier Engineering’’,Journal of Drug Delivery,Volume 2018,Article ID 5635010,14.01.2018)。担体粒子に課せられる要件は多種多様であり、特に、運ばれるべき有効成分の高い封入効率、良好な表面特性、再現性、低毒性、良好な放出特性及び標的部位での崩壊、又は吸入装置中での保管時の良好な安定性を目的とした低吸湿性である。吸湿性、保存時安定性、再現性及び吸収能力については、親油性担体粒子は良好な特性を有するが、脂質又はトリグリセリドでさえ、多形転移の傾向を有し、したがって、親油性担体粒子の表面特性が保存の間に変化し得るという欠点を有する。生じ得る深刻な体積変動が治療又は診断におけるその使用を不可能にするので、多形転移による「ブルーミング(”blooming“)」として知られる体積増加効果は、経肺適用のための親油性担体粒子では、決して発生させてはならない。さらに、多形転移は、付着された又は封入された有効成分を排出させるより構造化された、よりコンパクトな結晶格子配置をもたらし、このため、有効成分の充填及び放出特性の制御性が損なわれる。放出の際に、「バースト効果」として知られる望ましくない効果が発生する可能性があり、その間に、予測できない量の有効成分が突然放出される。しかし、例えば、化粧品又は医薬品有効成分の皮膚適用又は経皮適用におけるような、微粉化された担体粒子の適用というその他の領域についてさえ、多形転移の出現は、このような親油性担体粒子のすべての利点を打ち消すであろう。
【発明の概要】
【0004】
したがって、目的は、安定した結晶変態にあって、有効成分の肺適用にも適した、化粧品又は医薬品有効成分のための親油性担体粒子を提供することである。
【0005】
目的は、請求項1に記載の1つ又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを含有するこのような担体粒子によって達成することができる。好ましい実施形態は、従属請求項2~20において定義されており、製造可能性は、請求項21及び23、並びにそれらの従属請求項22及び24及び25において定義されており、吸入調製物としてのそれらの使用は、請求項26及びその従属請求項27において定義されている。
【0006】
驚くべきことに、それぞれが6~22個の炭素原子を含有する1つ又は複数の脂肪酸との、2~8個のグリセリル単位を含有する直鎖又は分岐ポリグリセロールの完全な又は部分的なエステル化からそれぞれ取得することができるPGFEが使用される場合に、肺を介して適用することができる形態的に安定な親油性担体粒子の調製のために、請求項1に記載の、PGFEと略記されるポリグリセロール脂肪酸エステルを主成分として含有する担体粒子を使用することができることを初めて示すことができた。
【0007】
適切なエステル化のための出発物質を形成することができる最も単純なポリグリセロールは、実験式C14を有する直鎖及び分岐ジグリセロールであり、これは、例えば、エーテル結合の形成を伴う塩基性触媒作用下でグリセロールを2,3-エポキシ-1-プロパノールと反応させることによって又は塩基触媒作用下での熱縮合によって、工業的な規模で及び公知の様式で合成することができ、主にジグリセロールを含有する画分はその後に分離することができる。
【0008】
ジグリセロールは、3つの異なる構造的に異性体の形態で、すなわち、関与する2つのグリセロール分子のそれぞれの第一の炭素原子の間にエーテル架橋が形成されている直鎖形態で、使用される第1のグリセロール分子の第1の炭素原子と使用される第2のグリセロール分子の第2の炭素原子との間にエーテル架橋が形成される分岐形態で、及びそれぞれの第2の炭素原子の間にエーテル架橋が形成されるヌクレオデンドリマー形態で生じることができる。アルカリによって触媒される2つのグリセロール分子の縮合の場合には、最大およそ80%が直鎖形態で、最大およそ20%が分岐形態で生じるが、ヌクレオデンドリマー形態は極めて少量生成されるに過ぎない。
【0009】
脂肪酸とのエステル化の場合、2つより多くのグリセリル単位を含有するポリグリセロールも使用され得る。一般に、ポリグリセロールは「PG」と略記され、ポリグリセリル単位の数を与える整数nが接尾辞、すなわち「PG」として付加される。例として、トリグリセロールはPGと記載され、実験式C20を有する。ここで、脂肪酸との、例えばステアリン酸との完全なエステル化は、PG分子のすべての遊離ヒドロキシル基において起きるはずである。直鎖PGの場合、次いで、これは、第1のグリセリル単位の第1及び第2の炭素原子において、第2のグリセリル単位の第2の炭素原子において、及び第3のグリセリル単位の第2及び第3の炭素原子において起こるであろう。したがって、この例に対する実験式は、C15として与えられ、ここで、各Rは、脂肪酸残基を表し、選択された例において、実験式C18OH35を有する。
【0010】
しかしながら、飽和非分岐脂肪酸とエステル化されたポリグリセロールの確立された略号は、PG(n)-Cm完全エステル、又は適宜、PG(n)-Cm部分エステルという表記であり、ここで、括弧内の「n」はポリグリセロールに対する表記と同様に、分子中に含有されるグリセリル単位の数を与え、mは、エステル化反応のために使用される飽和脂肪酸の炭素原子の数を表す。したがって、「n」は、グリセリル単位の数を表し、限界(marginal)グリセリル単位に対する実験式はCR又はCであり、ここで、Rは、脂肪酸残基又は遊離ヒドロキシル基の水素原子を表し得る。したがって、「PG(2)-C18完全エステル」は、主成分として実験式C78150を有するポリグリセロール脂肪酸完全エステルを表す。PG部分エステルの場合には、脂肪酸残基の数は平均化されており、同時に、実験式は、多数を占めて存在するエステル化の変動を有する画分を与える。ポリグリセロール脂肪酸部分エステルのより正確な表記は、ヒドロキシル価を追加して提供することによって与えられ、ヒドロキシル価はエステル化されていないヒドロキシル基含有量の尺度であり、したがって、部分エステルのエステル化の程度に関する情報を与える。おそらく立体的な理由のために、この事例におけるエステル化反応は外側から内側へと優先的に起こる。したがって、最初には、エステル化されるヒドロキシル基は、脂肪酸残基に最高の自由度を許容するヒドロキシル基である。次いで、直鎖ポリグリセロールにおける第1のエステル化反応は、限界ポリグリセリル単位の第1の炭素原子のヒドロキシル基において優先的に起こり、次いで、第2のエステル化反応は、他端における限界ポリグリセリル単位の第3の炭素原子のヒドロキシル基において起こる。次に、すでにエステル化されている位置に直接隣接する炭素原子位置におけるヒドロキシル基がエステル化され、以下同様である。
【0011】
本明細書において使用される「脂肪酸」という用語は、6~22個の炭素原子を含有する脂肪族モノカルボン酸を意味すると理解されるべきであり、好ましくは非分岐で飽和であり、偶数の炭素原子を有するが、奇数を含有してもよく、又は分岐及び/若しくは不飽和であり得る。好ましくは、添加剤の主成分として使用されるPGFEのエステル化のために、飽和及び/又は非分岐である脂肪酸が使用される。より有利には、16、18、20又は22個のC原子を含有する非分岐飽和脂肪酸、すなわちパルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸又はベヘン酸がエステル化のために使用される。
【0012】
より長い保存期間は、適用時の剪断力による上昇した温度又はエネルギーの投入が生じ得、これが、担体粒子の不適切な成分の多形転移と、対応する吸入調製物の制御が困難である特性とをもたらし得るので、有利には、有用な種類のPGFEは、複数のPGFE又は個別のPGFEが熱流束示差走査熱量測定を用いて調査される場合に、調査(investigation)の間に、加熱時に、ただ1つの吸熱最小値を有し、冷却時に、ただ1つの発熱最高値を有するものである。追加の多形形態は、示差走査熱量測定を使用して調査すると、試料を加熱したときの局所的な発熱最大値及び試料を冷却したときの局所的な吸熱最小値の出現によって区別することができるであろう。保存中のしばらく後に発生する、成分の多形が肉眼で見える体積の大幅な増加を引き起こす「ブルーミング(”blooming“)」は、多形を示さない担体粒子成分を使用することによって回避することができる。特に、トリパルミチン酸グリセロール又はトリステアリン酸グリセロールなどのトリグリセリドは、多形を有し得る、すなわち、それぞれ、結晶性の不安定なa変態と準安定なb’変態又は安定なb変態の両方が存在し得、一方から他方の変態に転移し得る。この点で、これらの変態は、特に、サブセルラー単位とも記載される層状の(lamellar)充填された結晶性サブユニットの厚さにおいて異なる。一例として、トリステアリン酸グリセロールのa変態については、特定の条件下で、サブセルラー単位あたり平均6つのラメラ構造の積層を検出することができ、b変態への完全な転移後には、サブセルラー単位当たり平均10.5のラメラ構造の積層及びおよそ67%の結晶厚の増加が観察された。この場合には、75%という計算で求められた予想された増加が得られないので、これは、b変態の個々の層が、a変態と比べて傾斜した位置故により密な層の充填を有するという事実によるものと推定される(D G Lopes,K Becker,M Stehr,D Lochmann et al.,in the Journal of Pharmaceutical Sciences 104:4257-4265,2015を参照)。この種類のより密な層状充填(lamellar packing)は、次いで、付着された又は封入された有効成分の上述した望ましくない排出を引き起こし得る。
【0013】
担体粒子成分は最終製品中に残存するので、使用されるPGFEは、少なくとも6ヶ月間、40℃及び75%の相対湿度で、すなわち加速安定性試験のための保存条件下でPGFEの凝固温度未満における安定なサブセルラー形態(subcellular form)、SAXSと略記される小角X線散乱を利用し、シェラーの式を適用することによって評価されるラメラ構造微結晶の本質的に一定な厚さを有することも有利である。SAXSにより、微結晶のサイズ、形状及び内面に関して結論を導くことができる。ここで、それぞれの微結晶の厚さは、D=Kλ/FWHMcos(Θ)というシェラーの式を使用して計算することができる。ここで、Dは微結晶の厚さを、Kは無次元のシェラー定数を表し、シェラー定数は微結晶の形状の予測を可能とし、通例、優れた近似として0.9と見なすことができる。FWHMは「半値全幅」、すなわち、バックグラウンドを上回る高さの半分における最大強度のピークのラジアンで測定された幅を表し、θはブラッグ角、すなわち格子面上への放射線の入射角である。10%ポリソルベート65で安定化されたトリパルミチン酸グリセロールの試料は、室温での6ヶ月間の保存後に、7つの層に相当する31nmの微結晶厚さを有し、40℃での6ヶ月間の保存後での微結晶の厚さは、12層に相当する52nmであり、ほぼ2倍であるが、前述のポリグリセロール脂肪酸エステルは通常、2~4層に対応する20~30nmの微結晶厚さを呈し、40℃での6ヶ月の保存後に安定であり、変態は変化しない。これに対して、ポリグリセロール完全エステルは通常、5~8層に対応する30~40nmというわずかにより高い微結晶厚さを呈して、組織化の程度がより高いことを示し、同じく、加速安定性試験の保存状況下で変態は変化を受けず、安定である。
【0014】
PGFEが上記の条件下で使用される場合において、「WAXS」と略記される広角X線散乱を使用するブラッグ角の評価による層状分離(lamellar separation)が実質的に一定であれば、同じく有利である。WAXSを使用した、提案されたポリグリセロール脂肪酸エステルのそれぞれの凝固温度未満での個々の調査(investigation)は、調査されたすべてのポリグリセロール脂肪酸エステルに対して1つの最大強度を示し、これは、およそ2Θ、すなわちブラッグ角の2倍に相当する21.4°の各偏角を推定することができ、これは、415pmの格子面の分離を与え、ここでは、調査されている分子の層充填密度と相関する。この距離は、それぞれのラメラ構造が互いに平行な六角形の格子中に配置され、分子が互いに積み重ねられて平面を形成するa変態と構造的に関連付けることができる。その他の変態は同定することができない。同定されたa変態の安定性は、同じくWAXSを使用して、室温と及び40℃の両方で6ヶ月間観察された。ここでも、驚くべきことに、専ら、調査されているそれぞれのポリグリセロール脂肪酸エステルは安定なa変態を呈した。
【0015】
添加剤の調製のためには、次の群からのPGFEが好ましく選択される:PG(2)-C18完全エステル、15~100のヒドロキシル価を有するPG(2)-C22部分エステル、PG(2)-C22完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C16/C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C22部分エステル、PG(3)-C22完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16部分エステル、PG(4)-C16完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16/C18部分エステル、PG(4)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C22部分エステル、200~300のヒドロキシル価を有するPG(6)-C16/C18部分エステル、PG(6)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(6)-C18部分エステル。ここで、炭素原子の数故に異なる2つの脂肪酸残基を含有する前記ポリグリセロール脂肪酸エステルにおいては、より少ない数を有するものが35%~45%の量で存在し、対応する相補的なより多い数を有するものが55%~65%の量で存在し、指定された完全エステルが、好ましくは、5未満のヒドロキシル価を有する。
【0016】
請求項1に記載の親油性担体粒子のためのPGFEの考慮されるべき有利な特性は、接触角を決定することによって決定することができる疎水性である。疎水性の決定は、固体物理状態にあるPGFEと精製された水の液滴との間の接触角を決定することによって実施される。ヤングの式によれば、cosθ=(γSV-γSL)/γLV、ここで、γSLはPGFEと水の間の界面張力であり、γLVは水滴の界面張力であり、γSVはPGFEと周囲の空気との間の表面張力である。θは接触角である。したがって、接触角θが大きいほど、PGFEと水との間の表面張力が高くなり、調査されているPGFEの疎水性が高くなる。提案されたポリグリセロール脂肪酸エステルの接触角は、製薬技術においてしばしば使用されるHLB値とも相関し、HLB値は、0~20のスケールであり、親水性分子画分に対する親油性分子画分の比率に関する情報を与え、親水性画分はHLB値が増加するとともに増加する。1つ又は複数の医薬物質を含む粉末の圧縮の場合、保存条件下での、親油性担体粒子に対して使用されるPGFEの接触角は、完成した担体粒子からの1つ又は複数の医薬物質の放出動態の安定性が損なわれないように、1つ又は複数の医薬品有効成分を含有する担体粒子の調製に対してわずかな変化のみを受けるべきである。したがって、好ましくは、40℃で及び20℃で16週後に、開始値から10°未満逸脱する水との接触角を有するポリグリセロール脂肪酸エステルが、好ましくは、担体粒子の主成分として使用される。一例として、トリステアリン酸グリセロールは、記載された条件下で40°という、比較的高い水との接触角の逸脱を有し、したがって、所望の放出動態安定性から逸脱するが、これは、保存中のa変態からb変態への転移に起因する可能性がある。添加剤として使用されるPGFEの凝固温度は、好ましくは75℃未満であるが、40℃を超える。ここで、凝固温度は、示差走査熱量測定を使用した試料の分析中に、熱流束の最高発熱ピークの最大値が生じる温度に対する値として定義される。
【0017】
PGFEの合成の条件の故に、PGFEは、特に部分エステルの場合には、常に異なる分子の混合物である。しかしながら、異なる反応対又は異なる反応条件が使用されるために異なるエステル化反応によってそれぞれ取得することができるPGFEを混合することによって、請求項1に記載の適切な担体粒子を合成後に提供することも可能である。
【0018】
本明細書で使用される「有効成分(“active ingredient”)」という用語は、医薬品又は化粧品の有効成分を意味すると理解されるべきである。本明細書で使用される「医薬品有効成分」という用語は、医薬品の薬理学的に活性な成分として使用することができる物質を意味すると理解されるべきである。ここでの「物質」とは、化学元素及び化学化合物、並びにそれらの天然に存在する混合物及び溶液、加工された又は加工されていない状態での、植物、植物部分、植物成分、藻類、真菌及び苔癬、動物の体、さらには生きている動物、並びに加工された又は加工されていない状態での、ヒト又は動物の身体の部分、身体成分及び代謝産物、ウイルスを含む微生物並びにそれらの成分又は代謝産物である。ここでの「医薬品」とは、特にヒト若しくは動物の身体内若しくは身体上において使用され、治癒若しくは緩和特性を有する薬剤若しくはヒト若しくは動物の疾患若しくは疾患を引き起こす愁訴(complaints)の予防のための薬剤として使用することが目的とされる、又は薬理学的、免疫学的若しくは代謝的効果によって生理学的機能を回復し、修正し、若しくは生理学的機能に影響を与えるために若しくは医学的診断を確立するために、ヒト若しくは動物の身体上で使用することができる若しくはヒト若しくは動物に投与することができる物質又は物質からの調製物である。本明細書で使用される「医薬品(“Pharmaceuticals”)」には、前述の文脈での医薬品を含有する物品、又は前述の意味を有する医薬品が塗布され、したがってヒト又は動物の身体と恒久的又は一時的に接触される物品、並びに、さらに、他の物質又は物質からの調製物と協力して、動物の身体上又は身体中で使用されることなく、動物の身体の状態、状況若しくは機能を検出すること又は動物中の病原体を検出することを目的とする物質及び物質からの調製物も包含する。化粧品有効成分は、皮膚又は毛髪及び爪などの皮膚付属器を対象とした、皮膚への塗布時に健康促進又は健康維持作用の原因となり得る物質又は物質の混合物であり、例は、ヒアルロン酸、コラーゲン、デクスパンテノール、アロエベラ抽出物、アラントイン又はビサボロールであるが、必ずしも薬理作用が科学的に証明されている必要はない。
【0019】
提供される担体粒子は、有効成分、特に医薬品有効成分を充填されたときにその目的を果たす。これは、例えば、有効成分及び1つのPGFE又は複数のPGFEが最初に適切な有機溶媒中に溶解及び/又は懸濁され、次いで、噴霧乾燥によってもう一回溶媒から分離される、請求項22に記載の噴霧乾燥方法によって実施され得る。適切な溶媒の例は、エーテルテトラヒドロフラン、アルコールエタノール、ケトンアセトン、エステル酢酸エチル又はアルカンヘプタンである。噴霧乾燥により、最大30重量%の医薬品有効成分の充填が可能であることが示された。
【0020】
担体粒子に医薬品有効成分が充填されている状況における、請求項1~20のいずれか一項に記載の担体粒子の製造のためのさらなる適切な方法は、高圧均質化であり、請求項25に従えば、複数のPGFEの混合物又はPGFE混合物が、複数のPGFE又はPGFE混合物の融解温度を超える温度で撹拌することによって、まず水を用いて生成され、これに、所望の医薬品有効成分、及び必要であれば、さらに非イオン性界面活性剤が添加される。次いで、均質化ノズルを通して100~2000バールの高圧下で混合物に力を加え、捕捉し、一般に、O/Wエマルションの脂質相の所望の液滴サイズが得られるまでこの手順を複数回経て、次いで、冷却することにより、水中に有効成分が充填された担体粒子の懸濁液に転換させる。
【0021】
親油性担体粒子の作製のために使用されるPGFEは、形成される担体粒子が少なくとも40℃以下の温度において固体形態であり得るように、少なくとも40℃以下の温度で固体の物理的状態にあるべきである。したがって、医薬品有効成分の充填の際には、1つ又は複数の医薬品有効成分とともに共融混合物が形成される可能性があることに注意する必要があり、共融混合物も、40℃以下において固体状態であるべきである。これは、非イオン性界面活性剤などの乳化剤の添加にも当てはまるが、これは有効成分に依存する。
【0022】
医薬品有効成分の経肺適用の場合、有効成分のための担体粒子は、0.5μm~5μmの空気動力学的質量中央径(MMAD:mass median aerodynamic diameter)を有することが有利であることが示された。理論的なMMADの決定は、タンピング密度(tamped density)、光回折によって決定された幾何学的直径及び偏光顕微鏡法によって決定された形状因子から計算することができる。0.5μm及び5μmのMMADを有する担体粒子は、請求項1に記載のPGFEから、特にタンピング密度が0.4g/cm未満の場合、特に請求項7に記載のPGFEから作製できることが示された。
【0023】
担体粒子の保存特性に関して、有利には、担体粒子は、カールフィッシャー滴定によって決定される、2.5%未満の含水量を有する。
【0024】
例えば、デキサメタゾンなどのグルコステロイドを担体粒子に充填することに関して、担体粒子は、有利には、ポリグリセロール脂肪酸エステルに加えて、乳化剤、好ましくは非イオン性界面活性剤も含有する。特に、PG(2)-C18完全エステルとポロキサマー188の組み合わせは、デキサメタゾンに対して良好な封入効率をもたらす。
【0025】
担体粒子に充填されるべき有効成分によっては、PGFEが液体脂質と混合されるのであれば、その封入効率に対しても有利であり得るが、混合物の量は、担体粒子を固体状態に維持するために低く保つべきである。さらに、化粧品有効成分の分野においても、例えば、脂溶性ビタミンなどの液体脂質中に、まず化粧品有効成分を溶解することが有利であり得る。
【0026】
請求項1に記載の親油性担体粒子には、非ステロイド性抗リウマチ薬(non-steroidal antirheumatic agents)によって形成される群からの医薬品有効成分を有利に充填することができる。これに関して、請求項22に記載の噴霧乾燥方法による製造が有用であることが証明され、その結果、最大30重量%の有効成分イブプロフェンでの担体粒子の充填を得ることができるであろう。
【0027】
他方、グルコステロイドによって形成される群からの医薬品有効成分での充填は、請求項23又は請求項24の高圧均質化方法を使用することがより有利である。例えば、デキサメタゾンの場合、水性懸濁液中の担体粒子に対して90重量%超の封入効率を得ることができる。
【0028】
担体粒子の経肺適用のためには、担体粒子に有効成分が充填されているか否かにかかわらず、担体液体中に懸濁された担体粒子用の噴霧器、並びに担体粒子が噴霧剤中に溶解及び/又は懸濁されており、ボタンが押されると放出される投薬エアロゾルネブライザーが利用可能であり、又は気流が吸入されたときに担体粒子が吸入されることができるように、担体粒子が少しずつ与えられる粉末吸入器が利用可能である。担体粒子の吸入のためにどの装置が供されるかにかかわらず、このような装置及び担体粒子を含むすべてのバリエーションが、「吸入調製物」という見出しの下に含まれる。
【0029】
ここで、決して本発明を限定することなく、例及び図面を用いて、本発明をさらに詳しく記載する。
【0030】
[例1]
粉末吸入器用の、イブプロフェンが充填された微粉化された親油性担体粒子の噴霧乾燥による調製:
角括弧内の数字がヒドロキシル価を与える、1.08gのPG(3)-C22部分エステル-[137]と0.46gのイブプロフェンの溶液を、これらの成分を60gのテトラヒドロフラン中に溶解することによって調製し、その後、2.5重量%の固体の含有量を得た。閉環構成で、Procept 4M8-Trix噴霧乾燥機中、窒素中でこの溶液を噴霧した。これに関して、乾燥チャンバーとして乾燥カラムを使用し、60ミリバールの圧力差で小型サイクロン分離器を使用した。入口温度は溶媒の沸点より少なくとも5℃高く設定し、気流速度は0.3m/分に設定した。3L/分に相当する3.5g/分の速度で、0.9バールのノズル圧力を用いて、0.2mmの二流体ノズルに溶液を強制的に通した。イブプロフェンが充填された分離された担体粒子を噴霧乾燥ユニットから取り出し、残留溶媒を除去するために真空下で10時間保存した。4.10μmの理論的MMADを有する30重量%のイブプロフェンが充填された担体粒子が得られた。かさ密度は0.215g/cm、タンピング密度(tamped density)は0.342g/cm、真密度は1.069g/cm、含水率は0.45%であった。イブプロフェンとPG(3)-C22部分エステル-[137]の共融混合物に対する示差走査熱量測定により、以下に列記されている値が得られた。
1)イブプロフェンが搭載された担体粒子の調製直後;
2)20℃で1ヶ月間保存後;
3)40℃で1ヶ月間保存後:
【表1】
【0031】
[例2]
ネブライザー用の懸濁液としての、デキサメタゾンが充填された微粉化された親油性担体粒子の高圧均質化を使用した調製
0.1重量%のデキサメタゾンをPG(2)-C18完全エステルに加え、70℃で融解し、マグネチックスターラーを使用して毎分750回転で60分間撹拌して透明な溶液を形成した。Ultraturrax T25(Janke&Kunkel,IKA,ドイツ)を用いて、2分間、20500回転/分で、10重量%の透明な溶液、2.5重量%のポロキサマー188及び87.5重量%の精製水を混合することによって、高圧均質化用の100mLのプレエマルションを70℃で作製した。プレエマルションは、同じく70℃で実施された3回の連続するパス(pass)で高圧均質化を受けた。この点に関して、分割バルブを備えたPanda K2 NS1001L高圧ホモジナイザー(GEA NiroSoavi、ドイツ)を使用した。ランダム光散乱に基づいてレーザー光線の偏向を分析するためのツールであるMastersizer 2000(Malvern,イギリス)を使用して、粒径を決定した。4%~6%の濁度を得るために、20mLの高度に精製された水をすでに含有する測定セルに調査されるべき懸濁液10~30μLを添加した。各測定に対して1未満の残余値(residual value)を得るために、粒子屈折率(fraction index)を1.55に設定し、粒子吸収係数を0.01に設定した。ポンプ速度は毎分1750回転であった。データ解析は、ミー理論に基づいて実施した。これによる粒径中央値(d50)は212nmであった。PG(2)-C18完全エステルとデキサメタゾンの透明な溶液と比較したナノ懸濁液の示差走査熱量測定は、ポリオキサマー188の添加がPGFEの安定した結晶変態の多形転移の徴候をもたらさないことを示した。
【0032】
ここで、いくつかのPGFEの特性を、図面を使用して、例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
部分エステルPG(4)-C18は、質量分析と連結されたガスクロマトグラフィー(GC-MS)を使用して調査した場合、図1に示されている定量的な主構造を有していた。
【0034】
図2は、示差走査熱量測定を使用したPG(4)-C18の調査(investigation)の結果を示し、ここで、温度値は図のX軸上にあり、mW/gで表した熱流束はY軸上にある。図2の左側の図は、部分エステルPG(4)-C18の2つの測定に対する2つのほぼ一致する曲線を示しており、それぞれが、部分エステルの融解時に、固相から液相へのエネルギーを消費する転移に割り当てることができる正確に1つの吸熱最小値を示す。図2の部分エステルPG(4)-C18の右側の図は、部分エステルの凝固時の液相から固相へのエネルギーを放出する転移に割り当てることができる正確に1つの発熱最大値を示す。測定は、Nietzsch Geratebau GmbH 95100、Selb、ドイツのDSC 204 F1 Phoenixを使用して実施した。これに関して、3~4mgの試料をアルミニウムるつぼ中に秤量し、毎分5Kの加熱速度で熱流束を連続的に記録した。同じ加熱速度を使用して、2度目の実行を行った。
【0035】
図3は、ポリグリセロール脂肪酸エステルの望ましい挙動との対照として、示差走査熱量測定を使用した調査中及び加熱時の多形トリアシルグリセロールの典型的な挙動を示す。ここでは、中間の発熱最大値を有する2つの局所的な吸熱最小値を見ることができ、ここで、左側の第1の吸熱最小値は不安定なa-変態の融解によるものであり、その後に、より安定したb-変態を形成する結晶化時の発熱最大値が続き、右側の第2の局所的な吸熱最小値から明らかなように、これは、次に、温度がさらに上昇するにつれて融解する。
【0036】
図4は、室温で6ヶ月間保存した後に、加熱時に示差走査熱量測定を使用して調査されたPG(4)-C18部分エステルを示す。図5は、40℃で6ヶ月保存した後に加熱した際の、示差走査熱量測定を使用して調査されたPG(4)-C18部分エステルを示す。いずれの場合にも、前記のように、より安定した変態への結晶化を示し得る発熱最大値は存在しない。
【0037】
WAXS及びSAXS分析のために、スポット集束カメラシステムS3-MICRO、以前はHecus X ray Systems Gesmbh、8020 Graz、オーストリア、現在はBruker AXS GmbH、76187 Karlsruhe、ドイツに、3.3~4.9オングストローム(WAXS)及び10~1500オングストローム(SAXS)の解像度を有する2つの線形位置敏感型検出器を装備した。次いで、ワックスで密封され、回転式キャピラリーユニット中に配置されたおよそ2mmの直径を有するガラスキャピラリー中に試料を導入した。1.542オングストロームの波長のX線の光線に1300秒間曝露することによって、室温で個々の測定を行った。
【0038】
図6は、その凝固温度より下での、PG(4)-C18部分エステル(標識された)を含む様々なポリグリセロール脂肪酸エステルに対するWAXS分析の結果を示し、これらはすべて、21.4°の2Θにおいて最大強度を示す。ブラッグ角は、415pmの格子面の分離に対応し、これは、a変態の層状充填(lamellar packing)に典型的である。最大強度は、図7に示されているように室温で6ヶ月間保存した後、及び図8に示されているように40℃で6ヶ月間保存した後の両方で安定していた。
【0039】
図9は、様々なポリグリセロール脂肪酸エステルのSAXS分析の結果を示す。PG(4)-C18部分エステルの場合、65.2オングストロームの層状分離(lamellar separation)を誘導することができる。シェラーの式から計算された微結晶の厚さは12.5nmであり、シェラー定数は0.9、波長は1.542オングストローム、FWHM値は0.0111、ブラッグ角θは0.047(ラジアン)であった。PG(4)-C18部分エステルのSAXS分析の値は、室温と40℃の両方で6ヶ月間保存した後でさえ、同じままであった(図示せず)。
【0040】
示差走査熱量測定からの分析によって、PG(4)-C18部分エステルの凝固温度についての予測を行うことも可能になった。試料を冷却したときの発熱最大値のピークは53.4℃~57.0℃、最大値は55.2℃であり、これは凝固温度を示す。
【0041】
図10は、接触角の測定を示す図を示す(パラグラフ[0020]を参照)。PG(4)-C18部分エステルの場合、接触角はおよそ84°であり、これはおよそ5.2のHLB値に相関する。他のポリグリセロール脂肪酸エステルと比較して、PG(4)-C18部分エステルは、図11から明らかなように、親水性ポリグリセロール脂肪酸エステルに割り当てることができる(ここでは、PG4-C18)。図12は、室温で16週後(中央の列)及び40℃で16週後(右側の列)での、開始測定(左側の列)に対するPG(4)-C18部分エステルの接触角の変化を示す、中央のグラフを参照。接触角は10°以下で変化し、疎水性は、例えばトリステアリルグリセロールなどのモノグリセロール脂肪酸エステルと比較して安定であると記述することができる。これは、図12の左側のグラフにも示されているPG3-C16/C18部分エステル、及び右側のグラフのPG6-C18部分エステルにも当てはまる。
本願の出願当初の特許請求の範囲に係る発明の内容は、以下の通りである。
[項1] 2~8個のグリセリル単位を含有する直鎖又は分岐ポリグリセロールの、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1つ又は複数の脂肪酸との完全な又は部分的なエステル化からそれぞれ取得可能な、主成分としての1つ又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルによって特徴付けられる、化粧品又は医薬品有効成分用の親油性担体粒子。
[項2] 前記ポリグリセロール脂肪酸エステルの合成のための脂肪酸が、飽和若しくは非分岐のいずれか、又は飽和かつ非分岐であることを特徴とする、[項1]に記載の親油性担体粒子。
[項3] 前記ポリグリセロール脂肪酸エステルの合成のための脂肪酸が、16、18、20又は22個の炭素原子を含有することを特徴とする、[項1]又は[項2]に記載の親油性担体粒子。
[項4] 熱流束示差走査熱量測定を使用する個々のポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルの調査が、加熱すると、それぞれ、ただ1つの吸熱最小値を生成し、冷却すると、それぞれ、ただ1つの発熱最大値を生成することを特徴とする、[項1]~[項3]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項5] 前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルが、WAXS分析によって決定されたブラッグ角の評価によると実質的に一定である層状分離を40℃で少なくとも6ヶ月にわたって有する凝固温度未満で安定なサブセルラー形態を有することを特徴とする、[項1]~[項4]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項6] 前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルが、シェラーの式を用いて評価されたSAXS分析によると40℃で少なくとも6ヶ月にわたって実質的に一定のラメラ構造化された微結晶の厚さを有する凝固温度未満で安定なサブセルラー形態を有することを特徴とする、[項1]~[項5]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項7] 以下の群から得られる少なくとも1つのポリグリセロール脂肪酸エステル:
PG(2)-C18完全エステル、15~100のヒドロキシル価を有するPG(2)-C22部分エステル、PG(2)-C22完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C16/C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C22部分エステル、PG(3)-C22完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16部分エステル、PG(4)-C16完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16/C18部分エステル、PG(4)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C22部分エステル、200~300のヒドロキシル価を有するPG(6)-C16/C18部分エステル、PG(6)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(6)-C18部分エステル(ここで、炭素原子の数故に異なる2つの脂肪酸残基を含有するポリグリセロール脂肪酸エステルにおいては、より少ない数を有するものは35%~45%の量で存在し、対応する相補的なより多い数を有するものは55%~65%の量で存在し、指定された完全エステルは、好ましくは、5未満のヒドロキシル価を有する)
によって特徴付けられる、[項1]~[項6]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項8] 前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は個々の複数のポリグリセロール脂肪酸エステルが、75℃未満、好ましくは43℃~56℃の凝固温度を有することを特徴とする、[項1]~[項7]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項9] 疎水性の決定の間の前記1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は個々の複数のポリグリセロール脂肪酸エステルの接触角が、40℃及び20℃で16週後に開始値から10°未満異なることを特徴とする、[項1]~[項8]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項10] 異なる反応対が使用されるために又は異なる反応条件が使用されるために異なるエステル化反応からそれぞれ取得可能である複数のポリグリセロール脂肪酸エステルの合成後混合によって特徴付けられる、[項1]~[項9]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項11] 1つ又は複数の医薬品有効成分によって特徴付けられる、[項1]~[項10]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項12] 10重量%超の有効成分含量によって特徴付けられる、[項1]~[項11]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項13] 40℃以下の温度における固体物理状態によって特徴付けられる、[項1]~[項12]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項14] 0.5μm~5μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)によって特徴付けられる、[項1]~[項13]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項15] 0.4g/cm 未満のタンピング密度によって特徴付けられる、[項1]~[項14]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項16] 2.5%未満の含水量によって特徴付けられる、[項1]~[項15]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項17] 乳化剤、好ましくは非イオン性界面活性剤によって特徴付けられる、[項1]~[項16]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項18] 1つ又は複数の取り込まれた液体脂質によって特徴付けられる、[項1]~[項17]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項19] グルコステロイドによって形成される群からの少なくとも1つの医薬品有効成分によって特徴付けられる、[項12]~[項18]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項20] 非ステロイド性抗リウマチ薬(NSAR)によって形成される群からの少なくとも1つの医薬品有効成分によって特徴付けられる、[項12]~[項18]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子。
[項21] 以下の工程:
i)1つのポリグリセロール脂肪酸エステル又は複数のポリグリセロール脂肪酸エステルを有機溶媒中に溶解及び/又は懸濁する工程、
ii)噴霧乾燥によって前記溶媒を除去する工程、
によって特徴付けられる、[項1]~[項20]のいずれか一項に記載の担体粒子の製造方法。
[項22] 工程ii)の前に、少なくとも1つの医薬品有効成分が前記有機溶媒中に溶解及び/又は懸濁されることを特徴とする、[項21]に記載の方法。
[項23] 以下の工程:
i)ポリグリセロール脂肪酸エステル又はポリグリセロール脂肪酸エステル混合物の融解温度を超える温度で撹拌することによって、水との、前記ポリグリセロール脂肪酸エステルの混合物又はポリグリセロール脂肪酸エステル混合物を作製する工程、
ii)高圧均質化ノズルを通じて前記混合物を1回又は複数回噴霧して、O/Wエマルションを形成する工程、
iii)脂質相を冷却して、水中に固体粒子を形成する工程、
によって特徴付けられる、[項1]~[項20]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子の製造方法。
[項24] さらに、少なくとも1つの乳化剤、好ましくは非イオン性界面活性剤が、工程i)の前記混合物に添加されることを特徴とする、[項23]に記載の方法。
[項25] さらに、少なくとも1つの医薬品有効成分が工程i)の前記混合物に添加されることを特徴とする、[項23]又は[項24]に記載の方法。
[項26] [項1]~[項20]のいずれか一項に記載の親油性担体粒子によって特徴付けられる、吸入調製物。
[項27] [項22]~[項26]のいずれか一項に記載の方法によって製造することができる親油性担体粒子によって特徴付けられる、吸入調製物。
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