(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20230531BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20230531BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/231
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2021540652
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2020025733
(87)【国際公開番号】W WO2021033433
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-03
(31)【優先権主張番号】P 2019151598
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/114723(WO,A1)
【文献】特開平10-315891(JP,A)
【文献】特表平11-510765(JP,A)
【文献】特開2006-088844(JP,A)
【文献】米国特許第05913536(US,A)
【文献】特開2004-314797(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0194317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/231
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面を形成するシートクッションと背もたれを形成するシートバックとを有する車両用シートに装備されるエアバッグ装置であって、
膨張ガスを発生するインフレータと、
前記インフレータから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグとを備え、
前記エアバッグは、前記シートバックの側部から前方に向かって展開し、主に乗員の腰部から肩部を保護する左右一対のサイドチャンバと、前記サイドチャンバと連続して設けられ、当該サイドチャンバの上方で前方に向かって展開し、主に乗員の頚部及び頭部を保護する上部チャンバとを含み、
前記シートバックの左右側部において、肩部付近でシートベルトが横切る側を第1の側とし、当該第1の側と左右反対側を第2の側としたときに、前記エアバッグの前記第1の側に前記シートベルトが収まる凹部が形成されて
おり、
前記凹部は、前記エアバッグの展開時に前後方向に延びるスリットであり、
前記エアバッグの展開初期の段階で前記シートベルトが当該スリットの後方に相対的に移動することによって前記上部チャンバへのガスの流入が遮断され又は制限されて前記凹部の展開が規制され、前記エアバッグの内圧の上昇に伴って当該凹部が開放されて、前記膨張ガスが前記第1の側のサイドチャンバから前記上部チャンバに流れ込むように構成されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記スリットは、前記エアバッグの展開時に前後方向に延びる水平スリット領域と、当該水平スリット領域の後端部から上方向に延びる垂直スリット領域とを含み、車幅方向から見たときに横向きのL字状をなすように形成されていることを特徴とする請求項
1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記スリットは、前記エアバッグの展開時に前後方向に延びる水平スリット領域と、当該水平スリット領域の後端部から上下方向に延びる垂直スリット領域とを含み、車幅方向から見たときに横向きのT字状をなすように形成されていることを特徴とする請求項
1に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記水平スリット領域は、前端部から後方に向かって狭くなるテーパ状に成形されていることを特徴とする請求項
2又は3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記一対のサイドチャンバの上部が前記上部チャンバによって連結されていることを特徴とする請求項1乃至
4の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記上部チャンバは、前記第1の側のサイドチャンバと流体的に連通した第1領域と、前記第2の側のサイドチャンバと流体的に連通した第2領域とを含み、これら第1及び第2領域同士は流体的に分離されていることを特徴とする請求項
5に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記インフレータは、前記一対のサイドチャンバ内に収容された一対のインフレータであることを特徴とする請求項
6に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記一対のインフレータから放出される膨張ガスは、前記一対のサイドチャンバの各々から前記上部チャンバの前記第1及び第2領域に流れ込むように構成されていることを特徴とする請求項
7に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記上部チャンバは、前記第1の側のサイドチャンバと流体的に連通した第1領域と、前記第2の側のサイドチャンバと流体的に連通した第2領域とを含み、これら第1及び第2領域同士は流体的に連通していることを特徴とする請求項
5に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記インフレータは、前記第1の側の前記サイドチャンバ内に収容されることを特徴とする請求項
9に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記インフレータから放出される膨張ガスは、前記第1の側のサイドチャンバから、前記上部チャンバの前記第1領域及び第2領域を通って、前記第2の側のサイドチャンバに流れ込むように構成されていることを特徴とする請求項
10に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記凹部は、前記第1の側に加えて前記第2の側にも形成されることを特徴とする請求項1乃至
11の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記インフレータは、前記シートバックの背面に収容される背面インフレータを含むことを特徴とする請求項
6又は9に記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
前記インフレータから放出される膨張ガスは、少なくとも前記第1の側のサイドチャンバ又は、前記第2の側のサイドチャンバのいずれか一方に流れ込むように構成されていることを特徴とする請求項
13に記載のエアバッグ装置。
【請求項15】
請求項1乃至
14の何れか1項に記載のエアバッグ装置を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに装備されるエアバッグ装置に関する。特に、座席に着座した乗員の姿勢に関わらず、当該乗員を確実に拘束可能なエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために、1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグは、例えば、ステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。
【0003】
近年では、車両の自動運転技術の進歩に伴い、シートの向きを固定せずに、例えば、前後左右に回転可能に構成することが想定される。また、乗員がシートを大きくリクライニングしてリラックスした姿勢など様々な着座姿勢を採ることが想定され、そのような状況においても乗員を適切に保護する必要がある。
【0004】
しかしながら、車両用シートに搭載される周知のサイドエアバッグ装置は、シートの左右片側又は両側から前方に向かってエアバッグを展開させる構造であるため、限られた範囲内でしか乗員を拘束できず、様々な姿勢の乗員を適切に保護することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、座席に着座した乗員の姿勢に関わらず、当該乗員を確実に拘束可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、上記課題を解決するための手段に及び、その効果について説明する。なお、本発明において、乗員が正規の姿勢で進行方向を向いて座席に着座した際に、乗員が向いている方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を「右方向」、乗員の左側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。更に、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向を「上方」、乗員の腰部方向を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、座面を形成するシートクッションと背もたれを形成するシートバックとを有する車両用シートに装備されるエアバッグ装置であって、膨張ガスを発生するインフレータと、前記インフレータから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグとを備える。前記エアバッグは、前記シートバックの側部から前方に向かって展開し、主に乗員の腰部から肩部を保護する左右一対のサイドチャンバと、前記サイドチャンバと連続して設けられ、当該サイドチャンバの上方で前方に向かって展開し、主に乗員の頚部及び頭部を保護する上部チャンバとを含む。そして、前記シートバックの左右側部において、肩部付近でシートベルトが横切る側を第1の側とし、当該第1の側と左右反対側を第2の側としたときに、前記エアバッグの前記第1の側に前記シートベルトが収まる凹部が形成されている。
【0008】
本発明においては、エアバッグが、シートバックの側部から前方に向かって展開し、主に乗員の腰部から肩部を保護する左右一対のサイドチャンバと、当該サイドチャンバと連続して設けられ、当該サイドチャンバの上方で前方に向かって展開し、主に乗員の頚部及び頭部を保護する上部チャンバとを含んでいるため、エアバッグは概ねドーム状に展開し、シートに着座している乗員の側部から上部全体を覆うようになる。その結果、少なくとも左右方向、上方、斜め上方への乗員の移動を確実に拘束でき、乗員の頭部から腰部に渡って適切に保護することが可能となる。
【0009】
また、エアバッグには、シートベルトが横切る第1の側にシートベルトが収まる凹部が形成されているため、エアバッグが展開した時にシートベルトが当該凹部に入り込み、シートベルトの存在によってエアバッグの展開が阻害されることがない。その結果、シートの側部から上部を一体的に覆うようなドーム状の連続的なエアバッグを実現することができる。さらに、凹部に受け入れられるシートベルトによってエアバッグの位置が固定されるため、シートベルト自体がエアバッグの保持手段の機能を発揮するため、エアバッグの展開挙動、展開形状を良好に維持することが可能になる。
【0010】
なお、本発明において、「左右一対」のサイドチャンバとは、必ずしも左右対称の形状であることを意味するものではなく、非対称の形状に成形することもできる。また、「シートベルトが収まる」とは、少なくともエアバッグの展開初期の段階で、相対的にシートベルトが凹部に入り込む状態を含み意味である。
【0011】
前記凹部は、前記エアバッグの展開時に前後方向に延びるスリットとすることができる。スリットは、エアバッグを構成するパネルの裁断、縫製によって容易に成形できるというメリットがある。また、必要以上に幅の広い凹部を形成すると、その分だけエアバッグの容量が小さくなってしまうため、比較的幅の狭いスリットとすることによって、エアバッグの容量減少への影響を最小限にすることができる。更に、凹部を比較的幅の狭いスリットとすることによって、スリットの周辺でエアバッグが途切れることなく、良好な拘束性能を維持することができる。なお、スリットが延びる前後方向とは、エアバッグが展開する方向(前方)と概ね一致する方向と言うことができる。
【0012】
前記スリットは、前記エアバッグの展開時に前後方向に延びる水平スリット領域と、当該水平スリット領域の後端部から上方向に延びる垂直スリット領域とを含み、車幅方向から見たときに横向きのL字状をなすように構成することができる。
あるいは、前記スリットは、前記エアバッグの展開時に前後方向に延びる水平スリット領域と、当該水平スリット領域の後端部から上下方向に延びる垂直スリット領域とを含み、車幅方向から見たときに横向きのT字状をなすように構成することができる。
【0013】
このように、水平スリット領域に加えて垂直スリット領域を形成することにより、水平スリット領域の前端部から進入してきたシートベルトが、水平スリット領域の最後部に達したときに、垂直スリット領域に入り込んで保持されることになる。このため、エアバッグの圧力によってシートベルトが水平スリット領域に沿って、前方に大きく弾き出されるようなことがなく、シートベルトによる乗員の拘束機能を維持することが可能となる。
【0014】
前記水平スリット領域は、前端部から後方に向かって狭くなるテーパ状に成形することができる。水平スリット領域の前端部が広げることにより、シートベルトが進入する間口を大きくすることができ、シートベルトを確実に捕捉することが可能となる。
【0015】
前記エアバッグの展開初期の段階で前記シートベルトによって前記凹部の展開が規制され、その後、前記エアバッグの内圧の上昇に伴って当該凹部が開放されて、前記膨張ガスが前記第1の側のサイドチャンバから前記上部チャンバに流れ込むように構成することができる。
【0016】
エアバッグの展開初期の段階で凹部の展開が規制されるため、サイドチャンバが真っ先に展開して、乗員の左右方向の移動を速やかに拘束可能となる。
【0017】
前記一対のサイドチャンバの上部が前記上部チャンバによって連結された構造とすることができる。
【0018】
前記上部チャンバは、前記第1の側のサイドチャンバと流体的に連通した第1領域と、前記第2の側のサイドチャンバと流体的に連通した第2領域とを含み、これら第1及び第2領域同士は流体的に分離された構造とすることができる。
【0019】
この場合、前記インフレータは、前記一対のサイドチャンバ内に収容された一対のインフレータとすることが好ましい。そして、前記一対のインフレータから放出される膨張ガスは、前記一対のサイドチャンバの各々から前記上部チャンバの前記第1及び第2領域に流れ込むように構成することができる。
【0020】
上部チャンバを第1領域と第2領域に区切ることにより、エアバッグが全体として左右に2分割された格好となり、左右のチャンバ(エアバッグ)の展開を独立して制御することが可能となる。
【0021】
また、別の態様として、前記上部チャンバは、前記第1の側のサイドチャンバと流体的に連通した第1領域と、前記第2の側のサイドチャンバと流体的に連通した第2領域とを含み、これら第1及び第2領域同士が流体的に連通した構造とすることもできる。
【0022】
この場合、前記インフレータは、少なくとも前記第1の側の前記サイドチャンバ内に収容する。そして、前記インフレータから放出される膨張ガスは、前記第1の側のサイドチャンバから、前記上部チャンバの前記第1領域及び第2領域を通って、前記第2の側のサイドチャンバに流れ込むように構成することができる。
【0023】
上部チャンバと左右両側のサイドチャンバとを完全に流体的に連通させ、膨張ガスを第1の側のサイドチャンバから、上部チャンバを通って第2の側のサイドチャンバに流れ込むように構成することで、エアバッグが展開した時に、第1の側のサイドチャンバが真っ先に展開し、その後上部チャンバ、更に第2の側のサイドチャンバが展開することになる。例えば、第1の側(ニアサイド)への側面衝突が発生した場合に、最初に展開する第1の側のサイドチャンバによって速やかに乗員を保護することができる。
【0024】
前記凹部は、前記第1の側に加えて前記第2の側にも形成することができる。このような構造とすることにより、当該エアバッグ装置を搭載した車両用シートを、ニアサイド、ファーサイド等の位置に関わらず、設置することができ、汎用性が向上する。
【0025】
前記インフレータは、前記シートバックの背面に収容される背面インフレータを含むことができる。背面に配置されたインフレータを採用すれば、所定のガスガイドを用いて、膨張ガスの流路を柔軟に調整することができる他、シートバックの背面は比較的スペースに余裕があるため、大きめの容量のインフレータを使用することが可能となる。
【0026】
前記インフレータから放出される膨張ガスが、少なくとも前記第1の側のサイドチャンバ又は、前記第2の側のサイドチャンバのいずれか一方に流れ込むように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明に係るエアバッグ装置を車両用シートに搭載した様子を示すものであり、(A)が車両左右方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。なお、車両用シートに関しては透視で示すものとする。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置に採用されるエアバッグの構造を示すものであり、(A)がエアバッグを展開した状態(収容前の状態)を示す平面図であり、(B)がロールした状態(収容時の状態)を示す正面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の作動状態(エアバッグの展開状態)を示すものであり、(A)が車両左右方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施例に係るエアバッグの特徴的な構造部分(スリット)を示す説明図であり、(A)がエアバッグを構成するパネル上でのスリットの形状を示し、(B)がエアバッグの展開状態におけるスリットの形状を示す。
【
図5】
図5(A),(B)は、本発明に係るエアバッグの特徴的な構造部分(スリット)の他の態様を示す説明図である。
【
図6】
図6(A)~(C)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の動作を説明するための説明図であり、(A)はエアバッグ展開直後の状態、(B)はエアバッグ展開初期の状態、(C)はエアバッグがフル展開した状態を示す。
【
図7】
図7(A)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の膨張ガスの流れを示す説明図、同図(B)は本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の膨張ガスの流れを示す説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の第3実施例に係るエアバッグ装置の作動状態(エアバッグの展開状態)を示す説明図であり、正面から見た様子を示す。
【
図9】
図9は、本発明の第4実施例に係るエアバッグ装置のインフレータの配置を説明するための説明図であり、車両用シートを背面側から見た様子を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る車両用シートについて、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図に表示する「前」とは乗員が正規の姿勢で進行方向を向いて座席に着座した際に、乗員が向いている方向、「後」とは「前」と反対の方向、「内」とは車幅方向の内側(乗員側)、「外」とは車幅方向外側(ドアパネル側)をそれぞれ示す。
また、各実施例においては、同一又は対応する構成要素については同一の参照符号を付し、重複した説明は省略する。
【0029】
図1は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置1を車両用シート(2,3)に搭載した様子を示す側面図(A)、正面図(B)であり、車両用シート(2,3)に関しては透視で示すものとする。
図2は、第1実施例に係るエアバッグ装置1に採用されるエアバッグ14の構造を示すものであり、(A)がエアバッグ14を展開した状態(収容前の状態)を示す平面図であり、(B)がロールした状態(収容時の状態)を示す正面図である。
【0030】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、座面を形成するシートクッション3と背もたれを形成するシートバック2とを有する車両用シートに装備される。エアバッグ装置1は、シートバック2の左右側部に収容され、膨張ガスを発生する一対のインフレータ12a,12bと、ロールされ、又は折り畳まれた状態でシートバック2内に収容され、インフレータ12a,12bから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグ14と、を備える。なお、本実施例においては、シートバック2はヘッドレスト一体型となっているが、ヘッドレストを別部材として装備したシートにも適用することができる。
【0031】
エアバッグ14は、シートバック2の側部から前方に向かって展開し、少なくとも乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバ16a,16bと、一対のサイドチャンバ16a,16b同士を連結し、エアバッグ14の展開時に乗員の頭部の上方に位置する上部チャンバ18と、を含むように構成される。サイドチャンバ16a,16bは、左右対称の形状とすることができる。また、上部チャンバ18は、収容前の広げた状態でエアバッグ14の長手方向中心に位置し(
図2)、サイドチャンバ16a,16bと同一のファブリックによって一体的に成形されている。
【0032】
エアバッグ14の上部チャンバ18は、サイドチャンバ16aと流体連通した第1領域18aと、サイドチャンバ16bと流体連通した第2領域18bとから構成されている。そして、上部チャンバ18(18a,18b)は、シートバック2の上縁付近から、ヘッドレストを乗り越えて乗員の頭部を包むように展開する(
図3)。ここで、上部チャンバ18の第1領域18aと第2領域18bとは、チャンバとして互いに分離されており、流体的に遮断された構造となっている。
【0033】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、ロール状に圧縮されたエアバッグ14をシートバック2に固定するための第1の接続部材(タブ)22a,22b,22c,22dを備えている。第1の接続部材22a,22b,22c,22dは、シートバック2の左右側部において、インフレータ12a,12bの上部と下部に1コずつ配置される。なお、インフレータ12a,12bは、エアバッグ14のインフレータ導入部20a、20bから導入されるようになっている。
【0034】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、さらに、収容状態のエアバッグ14の下端付近に連結された第1の端部(24a1,24b1)と、シートクッション3の側部に連結された第2の端部(24a2,24b2)を有する帯状の第2の接続部材24a,24bを、シートの左右両側に備えている。第2の接続部材24a,24bは、エアバッグ14と同一の素材(布)によって形成されたテザーとすることができる。ここで、第2の接続部材24a,24bの第1の端部(24a1,24b1)は、展開状態におけるサイドチャンバ16a,16bの下端部付近に連結されている。
【0035】
図1に戻るが、本発明においては、長尺棒状のエアバッグ14の上部チャンバ18に対応する箇所を折り畳むことで折り畳み部100を形成し、当該折り畳み部100をシートバック2の上方に収容するようになっている。そして、折り畳み部100(上部チャンバ18)が、ヘッドレストを乗り越えて乗員の頭部の上方を覆うように展開することにより、乗員の頭部にダメージを与える可能性を著しく低下させることができる。
【0036】
図3は、第1実施例に係るエアバッグ装置1の作動状態(エアバッグ14の展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
【0037】
ここで、シートバック2の左右側部において、肩部付近でシートベルト52が横切る側を第1の側とし、当該第1の側と左右反対側を第2の側とする。なお、車両の前席においてBピラー(BP)からシートベルト52を引き出すタイプにおいては、第1の側はドアトリム側、すなわち所謂ニアサイドとなる。ただし、シートベルト52をシートバックの肩部付近から引き出すタイプの場合には、必ずしもニアサイドが第1の側には相当しない。
【0038】
図4は、本発明の第1実施例に係るエアバッグの特徴的な構造部分(スリット50)を示す説明図であり、(A)がエアバッグ14を構成するパネル上でのスリット50の形状を示し、(B)がエアバッグ14の展開状態におけるスリット50の形状を示す。
【0039】
本実施例においては、ニアサイドのサイドチャンバ16aと上部チャンバ18との境界部近傍にスリット50が形成され、エアバッグ14が展開した時に、スリット50の中にシートベルト52が収まるようになっている。このため、エアバッグ14が展開した時にシートベルト52の存在によってエアバッグ14の展開が阻害されることがない。
【0040】
図2に示すように、スリット50は、エアバッグ14を構成するパネルの裁断、縫製によって容易に成形できる。そして、比較的幅の狭いスリット50を形成することによって、エアバッグ14の保護範囲の縮小等の悪影響を最小限にすることができる。更に、スリット50の周辺でエアバッグ14が広い範囲で途切れることによる拘束性能の低下を回避できるものである。
【0041】
図2(A)、
図3、
図4に示すように、スリット50は、エアバッグ14の前縁部から後方に延びる水平スリット領域50Hと、水平スリット領域50Hの後端部から上方向に延びる垂直スリット領域50Vとからなり、車幅方向から見たときに概ね横向きのL字状をなしている。
【0042】
このように、水平スリット領域50Hに繋がる垂直スリット領域50V形成することにより、水平スリット領域50Hの前端部から進入してきたシートベルト52が、水平スリット領域50Hの最後部に達したときに、垂直スリット領域50Vに入り込んで保持されることになる。このため、一端垂直スリット領域50Vに保持されたシートベルト52は、エアバッグ14の圧力によって水平スリット領域50Hに沿って、前方に大きく弾き出されるようなことがなく、シートベルト52による乗員の拘束機能を維持することが可能となる。
【0043】
図5(A),(B)は、本発明に係るエアバッグ14に形成されたスリット50の形状の他の態様を示す説明図である。
図5(A)に示すスリット50は、エアバッグ14の前縁部から後方に延びる水平スリット領域50Hと、水平スリット領域50Hの後端部から上下方向に延びる垂直スリット領域50Vとからなり、車幅方向から見たときに概ね横向きのT字状をなしている。
【0044】
図5(B)に示すスリット50は、水平スリット領域50Hの前端部から後方に向かって狭くなるテーパ状に成形されている。このように、水平スリット領域50Hの前端部を広げることにより、シートベルト52が進入する間口を大きくすることができ、シートベルト52を確実にキャッチすることが可能となる。
【0045】
図6(A)~(C)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置のニアサイドにおける動作を説明するための説明図であり、(A)はエアバッグ14の展開直後の状態、(B)はエアバッグ14の展開初期の状態、(C)はエアバッグ14がフル展開した状態を示す。
【0046】
図6(A)に示すように、エアバッグ14の展開直後の段階では、エアバッグ14の水平スリット領域50Hにシートベルト52が進入し始める。その後、エアバッグ14の展開が進んで、展開初期の段階になると、
図6(B)に示すように、シートベルト52が相対的に、水平スリット領域50Hを滑るように後方に移動し、垂直スリット領域50Vに入り込む。なお、実際には、シートベルト52は移動せずに、エアバッグ14が前方に展開するが、便宜上、相対的にベルト52が後方に移動しているように表現することがある。
【0047】
エアバッグ14のスリット50Vにシートベルト52が達すると、上方チャンバ18(18a)への膨張ガスの流入が遮断され、又は制限される。すなわち、スリット(50H,50V)の後方に位置するチャンバの展開が規制され、サイドチャンバ16aのみ大きく展開する。
【0048】
その後、
図6(C)に示すように、サイドチャンバ16aの内圧の上昇に伴って垂直スリット領域50Vの後方の空間に膨張ガスが流れ込み、上方チャンバ18(18a)への流路が確保され、膨張ガスが上部チャンバ18(18a)に流れ込む。
【0049】
このように、エアバッグ14の展開初期の段階でスリット(50H,50V)付近の展開が規制され、その後、エアバッグ14の内圧に伴ってスリット(50H,50V)に相当する箇所が開放されて、膨張ガスがサイドチャンバ16aから上部チャンバ18(18a)に流れ込むため、エアバッグ装置の作動初期の段階でサイドチャンバ16aが真っ先に展開して、乗員の左右方向の移動を速やかに拘束し、横方向の衝撃を確実に吸収することが可能となる。
【0050】
なお、
図7(A)に示すように、車両用シートの右側においては、インフレータ12bから放出された膨張ガスは、サイドチャンバ16bと上部チャンバ18bに供給されることになる。
【0051】
本実施例においては、上部チャンバ18を第1領域18aと第2領域18bに区切ることにより、エアバッグ14が全体として左右に2分割された格好となり、左右のチャンバ(エアバッグ)の展開を独立して制御することが可能となる。
【0052】
ところで、サイドチャンバ16aは、側面衝突の際には出来るだけ速やかに展開することが重要であるが、上部チャンバ18はロールオーバー等の際に乗員の頭部を保護する必要があるため、速やかな展開に加えて、展開状態を維持する期間が長いことが重要となる。
【0053】
本実施例においては、側面衝突が発生し、ドアトリムが車室側に進入し、サイドチャンバ16aが押し潰されると、サイドチャンバ16a内部のガスが上部チャンバ18(18a)側に押し出されるように流れ込むことになる。その結果、若干遅れて展開する上部チャンバ18(18a)の内圧が上昇し、サイドチャンバ16aよりも長い時間展開状態を維持することができ、時間的に遅れて発生するロールオーバー等の際にも乗員の頭部及び頚部周辺を確実に拘束・保護することが可能となる。
【0054】
図7(B)は本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の膨張ガスの流れを示す説明図である。
図7(B)に示す例では、第1実施例のように上部チャンバ18は左右に分割されることなく、単一のチャンバとして構成されている。あるいは、第1実施例のように分割された2つの領域(18a,18b)の境界部分に内部ベント(図示せず)を形成し、流体的に連通した構造となっている。
【0055】
インフレータ12aは、第1の側(ニアサイド)のサイドチャンバ16a内にのみ収容され、当該インフレータ12aから放出される膨張ガスは、第1の側のサイドチャンバ16aから、上部チャンバ18を通って、第2の側のサイドチャンバ16bに流れ込むようになる。なお、サイドチャンバ16b内にもインフレータ(12b)を配置して、両側から膨張ガスを供給する構造とすることもできる。
【0056】
本実施例においては、上部チャンバ18と左右両側のサイドチャンバ16a,16bとを完全に(全範囲で)流体的に連通させ、膨張ガスを第1の側のサイドチャンバ16aから、上部チャンバ18を通って第2の側のサイドチャンバ16bに流れ込むように構成しているため、エアバッグ14が展開した時に、第1の側のサイドチャンバ16aが真っ先に展開し、その後上部チャンバ18、更に第2の側のサイドチャンバ16bが展開することになる。例えば、第1の側(ニアサイド)への側面衝突が発生した場合に、最初に展開する第1の側のサイドチャンバ16aによって速やかに乗員を保護することができる。
【0057】
(第3実施例)
図8は、本発明の第3実施例に係るエアバッグ装置の作動状態(エアバッグ14の展開状態)を示す説明図であり、正面から見た様子を示す。本実施例においては、第1及び第2実施例に採用されるスリット50(50a,50b)をエアバッグ14の左右両側に設けている。
【0058】
このような構造とすることにより、エアバッグ装置を搭載した車両用シートを、ニアサイド、ファーサイド等の位置に関わらず、設置することができ、汎用性が向上する。
【0059】
(第4実施例)
図9は、本発明の第4実施例に係るエアバッグ装置のインフレータの配置を説明するための説明図であり、車両用シートを背面側から見た様子を模式的に示す。本実施例においては、シートバック2の背面にインフレータ64を配置する。インフレータ64としては、シリンダータイプに替えてディスクタイプのインフレータを採用することができる。インフレータ64から放出される膨張ガスは、パイプ等のガスガイド(流路)66a,66bを通って、左右のサイドチャンバ16a,16bに供給されるようになっている。
【0060】
このように、シートバックの背面に配置されたインフレータ64を採用すれば、所定のガスガイドを用いることによって、膨張ガスの流路を柔軟に調整することができる他、比較的スペースに余裕があるため、大きめの容量のインフレータを使用することが可能となる。
【0061】
本発明について実施例を参照して説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的思想の範囲を逸脱することなく、適宜変更可能なものである。