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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】水系表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20230531BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230531BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230531BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230531BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/02
C09D7/65
C09D7/63
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021554849
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037970
(87)【国際公開番号】W WO2021090628
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019200557
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 晶子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田原 昌樹
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094921(JP,A)
【文献】国際公開第2019/047938(WO,A1)
【文献】特開2016-204509(JP,A)
【文献】国際公開第2010/131756(WO,A1)
【文献】特開2006-124752(JP,A)
【文献】特開2013-067787(JP,A)
【文献】特開2008-063354(JP,A)
【文献】特開平08-319458(JP,A)
【文献】特開2005-125656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリコーンオイルの水性エマルジョン、(B)シラノール変性ポリウレタン樹脂、(C)シラン化合物および/またはその部分加水分解物、(D)ヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンおよび(E)-30℃以下のガラス転移点を持ち、かつフローテスターを用いて40℃から150℃まで、5℃/分の昇温速度で昇温したときに観測される熱軟化温度が70℃以下であるポリウレタン樹脂の水性エマルジョンからなり、ウレタン結合を含まず、Siを含む原料/ウレタン結合を含む原料の固形分比、すなわち(A+C)/(B+D+E)固形分比が0.5~1.0、かつ(E)/(B)固形分比が0.5以上である水系表面処理剤。
【請求項2】
シリコーンオイルの不揮発分重量100重量部に対して、(B)、(D)および(E)成分のポリウレタン樹脂が固形分重量として100重量部以上用いられた請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項3】
熱軟化温度70℃以下のポリウレタン樹脂が、芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂または無黄変型イソシアネートカーボネート系ポリウレタン樹脂である請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項4】
アルミニウム基材に適用される請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項5】
ゴム基材または樹脂基材に適用される請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項6】
シール部材に適用される請求項4または5記載の水系表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系表面処理剤に関する。さらに詳しくは、耐塩水腐食性を有し、アルミニウム基材等に有効に適用される水系表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムハウジングの腐食防止のために、アルミニウム側にアルマイト処理、腐食防止コーティング処理、メッキ処理等の表面処理することが一般的に行われている。
【0003】
耐塩水腐食性コーティング処理法としては、例えば次のような方法が提案されている。
特許文献1:塗装下地皮膜を設けずに、1~100μmの乾燥後平均厚みのフッ素樹脂塗料を、表面に直接設けた特定のアルミニウム合金材であって、X線光電子分光分析法による合金材表面の深さ方向における最大Mg含有量と、この最大Mg含有量が測定される深さ位置におけるAl含有量との比Mg/Alを0.1以下とした耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金材。
特許文献2:基材上のノンスティックコーティングの耐食性の改善方法であって、
(a) 耐熱性非フルオロポリマーバインダーと約2μm以下の平均粒径を有する無機充填剤粒子を含む液体組成物を基材に塗布し、乾燥塗膜厚さが約10μmであるベースコートを得る工程
(b) 液体組成物を乾燥させてベースコートを得る工程
(c) ノンスティックコーティングをベースコートに施してコーティングされた基材を得る工程
を含むことを特徴とする工程。
特許文献3:磁性体基板の海水と接触する表面に、CrN、TiN、AlN、BN、BCNおよびAlBNからなる群から選ばれたナイトライド系材料および水素を含むDLCまたはTiCで構成される被覆層を有し、該被覆層は1層もしくは2層以上の被覆層で構成されている耐海水用磁性材料。
【0004】
本出願人等は先に、
(A)シリコーンオイルの水性エマルジョン、(B)ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンおよび(C)一般式
(b) CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(OR1)nR2m
(c) CH2=CHCOO(CH2)3Si(OR1)nR2m
(d) H2N(CH2)3Si(OR1)nR2m
または
(e) H2NC2H4NH(CH2)3Si(OR1)nR2m
(ここで、いずれもR1およびR2はそれぞれ独立に炭素数が1~4のアルキル基を示し、nおよびmはそれぞれ1≦n≦3、m=3-nである)で表わされるシラン化合物および/またはその部分加水分解物よりなり、シリコーンオイルの不揮発分重量100重量部に対してポリウレタン樹脂が固形分重量として100重量部以上、好ましくは100~2,000重量部用いられた水系表面処理剤を提案している(特許文献4)。
【0005】
この水性表面処理剤は、ポリウレタン含有総量をシリコーンオイル含有量よりも多く設定することにより、オイル分をブリードすることなく、基材への密着性も向上するため耐久性にすぐれており、その結果Oリング等のゴム材同士あるいは金属、樹脂等に対する粘着が効果的に防止される。さらに、ゴム製または樹脂製シール部材の摺動時における摩擦低減を可能とするといった優れた効果を奏する。
【0006】
しかしながら、後記比較例4の結果に示されるように、アルミニウム基材等に対する塩水腐食試験に対する耐腐食性に欠けるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-267781公報
【文献】特表2009-504386公報
【文献】特開2010-177326公報
【文献】WO 2009/047938 A1
【文献】特開平7-233347号公報
【文献】特開2006-299274号公報
【文献】特開2005-125656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、製品同士の粘着防止のためのシリコーンオイルと低硬度でシール部材との良好な接着性を持つシラノール変性ポリウレタン樹脂バインダーとを含有する水性表面処理剤のアルミニウム基材等の耐腐食性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、(A)シリコーンオイルの水性エマルジョン、(B)シラノール変性ポリウレタン樹脂、(C)シラン化合物および/またはその部分加水分解物、(D)ヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンおよび(E)-30℃以下のガラス転移点を持ち、かつフローテスターを用いて40℃から150℃まで、5℃/分の昇温速度で昇温したときに観測される熱軟化温度が70℃以下であるポリウレタン樹脂の水性エマルジョンからなり、ウレタン結合を含まず、Siを含む原料/ウレタン結合を含む原料の固形分比、すなわち(A+C)/(B+D+E)固形分比が0.5~1.0、かつ(E)/(B)固形分比が0.5以上である水系表面処理剤によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
製品同士の粘着防止のためのシリコーンオイルと低硬度でシール部材との良好な接着性を持つシラノール変性ポリウレタン樹脂バインダーとを含有する水性表面処理剤中に、(E)-30℃以下のガラス転移点を持ち、かつ熱軟化温度が70℃以下であるポリウレタン樹脂の水性エマルジョンを添加することにより、塩水腐食試験におけるアルミニウム基材等(アルミニウムダイキャスト基材を含む)の耐腐食性を改善することができる。
【0011】
水系表面処理剤のコーティング被膜硬度が柔らかいので、アルミニウム基材等へのシール性が良化し、腐食防止機能が向上する。この腐食防止機能は、シール部材の表面に施されたコーティング被膜が、相手材であるアルミニウム基材等の表面に追従し、シール性を向上することで達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水系表面処理剤は、(A)シリコーンオイルの水性エマルジョン、(B)シラノール変性ポリウレタン樹脂、(C)シラン化合物および/またはその部分加水分解物、(D)ヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンおよび(E)-30℃以下のガラス転移点を持ち、かつフローテスターを用いて40℃から150℃まで、5℃/分の昇温速度で昇温したときに観測される熱軟化温度が70℃以下であるポリウレタン樹脂の水性エマルジョンからなり、ウレタン結合を含まず、Siを含む原料/ウレタン結合を含む原料の固形分比、すなわち(A+C)/(B+D+E)固形分比が0.5~1.0、かつ(E)/(B)固形分比が0.5以上である水系表面処理剤からなり、シリコーンオイルの不揮発分重量100重量部に対して、熱軟化温度が70℃以下のポリウレタン樹脂が固形分重量として100重量部以上用いられる。
【0014】
低硬度でシール部材との良好な接着性を持つシラノール変性ポリウレタンバインダーと製品同士の粘着防止のためのシリコーンオイルとを含有する水性表面処理剤としては、下記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)各成分の水性分散液乃至水溶液が用いられる。
【0015】
水性エマルジョンとして用いられる(A)成分のシリコーンオイルとしては、25℃における動粘度が約50~1,000,000mm2/秒、好ましくは約500~200,000mm2/秒で、ケイ素原子に結合した少なくとも一つの有機基をもつオルガノポリシロキサンが用いられ、その分子構造は直鎖状、分岐状、網状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状、分岐状のものが、さらに好ましくは直鎖状のものが用いられる。オルガノポリシロキサン中のケイ素原子に結合した有機基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基のようなアルキル基、ビニル基、プロペニル基のようなアルケニル基、フェニル基のようなアリール基、フェネチル基のようなアラルキル基およびこれらの炭化水素基の水素原子の一部がハロゲン原子、ニトリル基などで置換されたものが例示される。オルガノポリシロキサンの末端有機基としてはメチル基、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、水酸基、メトキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、シラノール基、アルコキシ基等が例示され、好ましくはカルビノール基、水酸基、メトキシ基である。シリコーンオイルは、表面処理被膜に潤滑性、低摩擦性、非粘着性を与える。
【0016】
また、これらのシリコーンオイルを用いた水性エマルジョンとしては、親水型シリコーンオイル水性エマルジョンのほか、乳化剤を用いた強制乳化型シリコーンオイル水性エマルジョンを用いることもでき、その分散方法は特に限定されない。かかるシリコーンオイル水性エマルジョンとしては、シリコーンオイル含有量(不揮発分)が約3~60重量%のものが用いられる。
【0017】
シリコーンオイル水性エマルジョンには、所定量の(B)シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョンが添加される。このシラノール変性ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンとは、ポリウレタン構造内にシラノール基を含む水分散液であり、シラノール基は縮合反応により架橋しシロキサン結合となる。
このシロキサン結合は、他のウレタン化架橋反応で生成する結合に比べ安定であるため、得られる表面処理被膜の耐溶剤性が良好であるといった効果を奏する。ウレタン樹脂水性エマルジョンは、表面処理被膜に摺動に対する耐久性を与え、さらにシリコーンオイルを取り込み、表面処理被膜にオイル分のブリードさせることなく、潤滑性、低摩擦性、非粘着性を与える。かかるシラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョンとしては、樹脂固形分濃度約10~70重量%のものが用いられる。
【0018】
(C)成分のシラン化合物としては、一般式
(b) CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(OR1)nR2m
(c) CH2=CHCOO(CH2)3Si(OR1)nR2m
(d) H2N(CH2)3Si(OR1)nR2m
または
(e) H2NC2H4NH(CH2)3Si(OR1)nR2m
(R1、R2:炭素数が1~4のアルキル基、n、m:1≦n≦3、m=3-n)で表わされるシラン化合物が用いられる。シラン化合物は、シリコーンエマルジョンの反応性有機基、上記特定のシラン化合物のアルコキシ基との反応により、表面処理被膜内にシリコーンオイルを保持させ、オイル分をブリードさせることなく、表面の潤滑性、低摩擦性、非粘着性を発現させる成分であり、ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンと反応し、シリコーンオイルと架橋後のポリウレタン樹脂の親和性を向上させ、シリコーンオイルを表面処理被膜内にとどめる効果を奏する。また、表面処理させる基材に対し、塗装性の向上を付与させる働きを有する。
【0019】
かかるシラン化合物としては、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン(以上グリシドキシ基含有シラン化合物a)、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン(以上メタクリロキシ基含有シラン化合物b)、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン(以上アクリロキシ基含有シラン化合物c)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(以上アミノ基含有シラン化合物d)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(以上アミノアルキル基含有シラン化合物e)等が挙げられ、好ましくはγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が用いられる。
【0020】
これらのシラン化合物は、その部分加水分解物も用いることができる。加水分解物はシラン化合物の1種または2種以上の混合物を、シラン化合物の種類に応じた加水分解条件下にて縮合反応させることにより得ることができる。
【0021】
シラン化合物は、シリコーンオイルエマルジョンのオイル分(不揮発分)100重量部に対して10~60重量部の割合で配合することが好ましい。シラン化合物がこれより多い割合で用いられると摩擦係数が増加し、耐久性が低下するようになり、一方これより少ない割合で用いられるとオイルの過剰なブリードが発生するようになる。
【0022】
(D)ヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン樹脂を含有する水性エマルジョンとしては、特許文献5~6に記載される如き、ヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン-ビニル-ハイブリッドポリマーの水性エマルジョンが挙げられる。これは、ヒドラジド類とポリウレタン-ビニル-ハイブリッドポリマーのカルボニル基との反応で得られるアゾメチン結合によって架橋する。この場合において、一般にはヒドラジン基の数とカルボニル基の数との比が、1:40~2:1となるような割合で、これら両者の化合物が用いられる。
【0023】
ヒドラジド類としては、ヒドラジン、ヒドラジド基および/またはヒドラゾン基を持つ低分子量の脂肪族化合物、芳香族化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの基を少なくとも2つ以上を有するポリヒドラジドや多価ヒドラジド化合物も用いられる。また、ポリウレタン-ビニル-ハイブリッドポリマーは、末端ビニル基および/または側鎖ビニル基および場合によっては末端水酸基、ウレタン基、チオウレタン基または尿素基を有するイオン-および/または非イオン-安定化ポリウレタンマクロモノマーを、カルボニル基を含有する他の官能性ビニルモノマーならびに非官能性ビニルモノマーと遊離基開始重合することによって製造される。かかる水性エマルジョンとしては、特許文献7に記載される如く、実際には市販品である日本サイテックインダストリーズ製品Daotan VTW 6462/36WA、ソルーシア・ジャパン製品Daotanシリーズ等が用いられる。
【0024】
(D)成分のヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン樹脂を含有する水性エマルジョンを混合したものは、(B)シラノール変性ポリウレタン樹脂:(D)ヒドラジド類およびカルボニル変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョンの固形分合計量=95~10:5~90といった固形分重量割合で混合される。自己架橋性基を有さないポリウレタン樹脂水性エマルジョンを用いた場合にも、同様の固形分重量比で用いられる。
【0025】
架橋型ポリウレタンは、自己架橋基を有さないものに比べて耐溶剤性、密着性、安定性にすぐれているため、ヒドラジド類およびカルボニル基含有ポリウレタン樹脂水性エマルジョンのみを用いた場合であっても、ポリウレタン含有総量をシリコーンオイル含有量よりも多く設定することによりかかる性能を十分に発揮し、シラノール変性の架橋型ポリウレタンはさらに高いレベルでの耐溶剤性、密着性を発現する。このため、これらを混合して用いたポリウレタン樹脂水性エマルジョンを用いた表面処理剤は、ゴム製または樹脂製シール部材の摺動時における摩擦低減を可能とするとともに耐溶剤性をも向上せしめることができ、またそこに含有されるシラノール基は、水系表面処理剤の構成成分であるシリコーンオイル、シラン化合物との相性がよいため、この点においても優れているといった性質を有する。
【0026】
(E)成分を形成するポリウレタン樹脂は、低温時の柔軟性を確保するため、-30℃以下のガラス転移点を持つものが用いられる。また、使用時に軟化し、シール性をより良化させることができる、熱軟化温度が70℃以下であるポリウレタン樹脂が水性エマルジョンとして添加される。かかるポリウレタン樹脂の水性エマルジョンとしては、例えば下記成分が挙げられる。ここで、熱軟化温度は、フローテスタを用いて樹脂を40℃から150℃まで、5℃/分の昇温速度で昇温したときに軟化の開始が観測される温度である。
【0027】
(E)成分としては、例えば芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン、芳香族イソシアネートエーテル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン、無黄変型イソシアネートカーボネート系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン、無黄変型イソシアネートエーテル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン、無黄変型イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン、無黄変型イソシアネートエステル・エーテル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン等が挙げられる。なお、これらは分子量、分岐あるいは架橋密度等によって熱軟化温度は異なっている。
【0028】
ここで、熱軟化温度が70℃を超えるポリウレタン樹脂、例えば第一工業製薬製品スーパーフレックス650などのポリウレタン樹脂の水性エマルジョンを用いると、塩水腐食試験におけるアルミニウム基材等の耐腐食性を改善することができない。
【0029】
(B)、(D)および(E)成分のポリウレタン樹脂(固形分)は、これらの総量がシリコーンオイル水性エマルジョンのシリコーンオイル量(不揮発分)100重量部に対して、約100重量部以上、好ましくは約100~2,000重量部の割合で配合される。変性ポリウレタン樹脂がこれより少ない割合で用いられると、塗布性に劣るとともに、シリコーンオイルのブリーディングが生じ、耐久性が劣るようになり好ましくない。
【0030】
また、各成分間の比、すなわち(A+C)/(B+D+E)固形分比、すなわち(ウレタン結合を含まず、Siを含む原料/ウレタン結合を含む原料)固形分比は0.5~1.0、好ましくは0.5~0.7でなければならない。1.0を超える固形分比では、塩水腐食試験におけるアルミニウム基材等の耐腐食性を改善することができない。
【0031】
また、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョンに対する(E)成分の固形分比(E)/(B)は、0.5以上、好ましくは0.7以上である。この固形分比が0.5未満であると、やはり塩水腐食試験におけるアルミニウム基材等の耐腐食性の改善がなされないことがある。
【0032】
以上の各必須成分よりなる表面処理剤には、弾きや液寄りを防止して塗り斑や塗布量不足が生じないようにするために、アルキルアミンオキサイド系化合物、アルキルベタイン等の両性界面活性剤を配合することもできる。アルキルアミンオキサイド系化合物としては、ジメチルアルキルアミンオキサイド等が、またアルキルベタインとしてはアルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられ、そのアルキル基としてはラウリル基、ミリスチル基、ヤシ油等の天然油脂変性基などが例示される。アルキルアミンオキサイド系化合物やアルキルベタインの配合量は、組成物全量に対して10重量%以内となるように用いられる。これらは(G)成分として用いられる。
【0033】
ポリウレタン樹脂水性エマルジョンとしては、ポリウレタン構造内に親水基が導入された自己乳化型、乳化剤を用いて乳化された強制乳化型等が挙げられ、これらはエーテルポリオール型、エステルポリオール型、ポリカーボネート型等ポリウレタン分子の構造は特に制限なく用いることができる。
【0034】
表面処理剤には、さらに必要に応じて消泡剤、顔料、無機粉体、増粘剤、界面活性剤等を配合することができ、組成物の調製は塗布効率および塗布性の観点より、有効成分が0.1~40重量%の濃度となるように水で希釈されて用いられる。これらの各配合成分は混合され、十分に撹拌して乳化処理されたうえで用いられる。混合は、公知のパドル型、錨型等の攪拌翼を備えた混合攪拌機、コンビミックス等を用いて行われ、乳化処理は、コロイドミル、ホモミキサ、ホモジナイザ、コンビミックスまたはサンドグラインダ等の乳化分散装置を用いて行われる。
【0035】
調製された表面処理剤は、浸せき法、刷毛塗り法、ロールコート法、スプレーコート法、ナイフコート法、ディップコート法等の方法で、被処理部材表面に塗布した後、約120~150℃で約30~60分間加熱乾燥させて硬化被膜を形成させることにより、表面処理が行われる。
【0036】
本発明の表面処理剤は、フッ素ゴム、NBR、水素化NBR、SBR、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、EPDM、ウレタンゴム、シリコーンゴム等のゴム材やABS、AS等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂材の表面処理剤として有効に用いられるが、本発明の主たる目的は、塩水腐食試験におけるアルミニウム基材等の耐腐食性の改善にある。
【0037】
具体的には、燃料電池車(FC)用コンバータ、ハイブリッド車(HEV)用電動パワーステアリング/コンピューター(EPS/ECU)、サーモハウジング、HEV用無段変速機(CVT)、電動ウォーターポンプ(W/P)、ストロークセンサ、Vポンプ、EPS、ブレーキ等のアルミニウム基材等に対して有効に用いられる。
【実施例
【0038】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0039】
実施例1
(A) 両末端水酸基含有乳化重合 54.5(18.0)重量部
ポリジメチルシロキサン水性エマルジョン
(25℃における粘度100,000mPa・秒、不揮発分33%)
(B) シラノール変性ポリウレタン樹脂 50.0(15.0) 〃
水性エマルジョン
(固形分30重量%;三井化学ポリウレタン製品タケラックWS-5000)
(C) γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 9.1 〃
(D) ヒドラジド類およびカルボニル基含有 36.4(13.1) 〃
ポリウレタン樹脂水性エマルジョン
(固形分36重量%;Daotan VTW 6462/36WA)
(E) 芳香族イソシアネートエステル系 25.0(10.0) 〃
ポリウレタン樹脂水性エマルジョン
(固形分40重量%、ガラス転移点-34℃、
熱軟化温度45℃;第一工業薬品製品スーパーフレックス740)
(F) ジメチルラウリルアミンオキサイド 0.35 〃
(両性界面活性剤)
(G) 水 477.5 〃
以上の各成分(カッコ内は固形分重量を示す)を混合し、さらにホモジナイザおよび超音波処理装置を用いて乳化処理して表面処理剤を得た。
【0040】
次いで、いずれもメチルエチルケトンで脱脂したシートおよびOリングを用い、スプレーコート法によりEPDM製シートおよびEPDM製Oリング(硬度JIS A 70度、寸法:内径7.8mm、太さ1.9mm径、呼び番号JIS B 2401-4種D P8)に塗布後、150℃で30分間硬化させて、膜厚約10μmのコーティング膜を形成した両面塗布EPDM製シートおよびEPDM製Oリングを作製した。
【0041】
表面処理された厚さ10mmの両面塗布EPDM製シートまたはEPDM製Oリングを用いて、次の各項目の測定、試験が行われた。
摩擦係数:ASTM D-1894に準じ、HEIDON社製表面性試験機TYPE 14DRによっ
て、表面処理EPDM製ゴムシート表面の動摩擦係数を測定
(試験条件) 相手材:直径10mmのSUS304クロムメッキ鋼球
移動速度:50mm/分
荷重:0.49N
振幅:50mm
粘着試験:EPDM製シート(幅5mm)の両面にコーティングを施し、コーティ
ング面両面を厚さ2mmのSUS301板に挟んで、100℃で30分間加熱
処理した後室温に冷却し、ミネベア製加重測定器LTS-200Nを用
いて、シートが粘着したSUS板を固定し、速度50mm/分、90°の
垂直方向にシートを引っ張り、そのときの粘着力を測定した
塩水腐食試験:コーティングされたEPDM製Oリングを、粗さRz6μmのアル
ミニウム基材(ADC12)に圧縮率17%で挟み、5重量%の食塩
水に50℃で2000時間浸漬した後、アルミニウム基材とOリ
ングとを開放し、シール面の錆の有無を評価した
◎:シール面の腐食なし
○:シール面は腐食したが、シールラインを超えてい
ない
×:シールラインを超えて腐食
【0042】
実施例2
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を10重量部に変更した。
【0043】
実施例3
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を20重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を20重量部にそれぞれ変更した。
【0044】
実施例4
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を10重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を5重量部にそれぞれ変更した。
【0045】
実施例5
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を5重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を20重量部にそれぞれ変更した。
【0046】
実施例6
実施例1において、(E)の芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョンの代りに、(F)成分として無黄変型イソシアネートカーボネート系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン(固形分45重量%、ガラス転移点-39℃、熱軟化温度62℃;同社製品スーパーフレックス500M)が22.0(固形分重量9.9)重量部用いられた。
【0047】
比較例1
実施例3において、(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョンが5重量部(固形分として)用いられた。
【0048】
比較例2
実施例5において、(A)成分、(C)成分、(D)成分が用いられず、(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョンが10重量部(固形分として)用いられた。
【0049】
比較例3
実施例5において、(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョンが5重量部(固形分として)用いられた。
【0050】
比較例4
実施例4において、(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョンが用いられなかった。
【0051】
比較例5
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョンが用いられなかった。
【0052】
比較例6
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を30重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を30重量部にそれぞれ変更した。
【0053】
比較例7
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を40重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を40重量部にそれぞれ変更した。
【0054】
比較例8
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を70重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を70重量部にそれぞれ変更した。
【0055】
比較例9
実施例1において、(B)成分シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を100重量部に、また(E)成分芳香族イソシアネートエステル系ポリウレタン樹脂水性エマルジョン量(固形分重量)を100重量部にそれぞれ変更した。
【0056】
比較例10
コーティングしないEPDM製シートについての測定および評価を行った。
【0057】
以上の各実施例、比較例で用いられた(B)成分量、(E)成分量、水の量、(A+C)/(B+D+E)比、(E)/(B)比および各種試験結果は、次の表1~2に示される。
表1
実施例

〔成分;重量部〕
(B)成分 15 10 20 10 5 15
(E)成分 10 10 20 5 20 -
(F)成分 - - - - - 9.9
水の量 477.5 443.1 584.7 405.4 484.8 478.2
(A+C)/(B+D+E) 0.7 0.8 0.5 1.0 0.7 0.7
(E)/(B) 0.7 1.0 1.0 0.5 4.0 0.7

〔測定・評価結果〕
動摩耗係数 0.18 0.17 0.54 0.15 0.25 0.19
100℃粘着(N/mm) 0 0 0 0 0 0
塩水浸漬 ◎ ○ ◎ ○ ○ ○


【0058】
以上の各比較例の結果から、次のようなことがいえる。
(1) (A+C)/(B+D+E)固形分比が0.5~1.0の範囲を外れると、アルミニウム基材等の耐塩水腐食性を改善することができない(比較例2~5)。
(2) (A+C)/(B+D+E)の固形分比が0.5~1.0の範囲であっても、(E)/(B)固形分比が0.5未満では、アルミニウム基材等の耐塩水腐食性を改善することができない(比較例1)。
(3) (E)/(B)固形分比が0.5以上であり、(A+C)/(B+D+E)固形分比が0.5未満の場合には、アルミニウム基材等に対する耐塩水腐食性は良好であるものの、動摩擦係数の増加および/または100℃粘着性が認められる(比較例6~9)。