(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】装着型点滴シミュレータ
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20230531BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2022056730
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】511036439
【氏名又は名称】公立大学法人三重県立看護大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(72)【発明者】
【氏名】玉田 章
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-317635(JP,A)
【文献】特開2014-002185(JP,A)
【文献】米国特許第5839904(US,A)
【文献】登録実用新案第3128480(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 19/00、23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点滴静脈内注射用の輸液装置が接続可能な装着型点滴シミュレータであって、
液体を収容可能で可撓性を有する袋体と、
前記袋体の開口部を液密に封止して、前記輸液装置の輸液チューブが連通可能な弁体と、
前記袋体を保持して人体に装着可能な固定部と、
を備える、装着型点滴シミュレータ。
【請求項2】
前記固定部は、人体に巻き付けた状態で固定することができる帯状体を含んで構成されている、請求項1に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項3】
前記固定部は、人体の皮膚に接着される粘着シートを含んで構成されている、請求項1または請求項2に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項4】
前記袋体を着脱自在に内部に保持するケースを備え、前記ケースを介して前記袋体が前記固定部に保持されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項5】
前記帯状体の第1面に面ファスナーのループ部とフック部の一方が設けられ、第2面の端部に前記面ファスナーの前記ループ部と前記フック部の他方が設けられており、前記ケースの前記帯状体への載置面に前記面ファスナーの前記ループ部と前記フック部の他方が設けられている、請求項2に係属する場合の請求項4または請求項2および請求項3に係属する場合の請求項4に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項6】
前記ケースが湾曲円弧状であるとともに、相互に分離可能なアッパケースとロアケースとから構成されており、
前記ロアケースにおいて前記人体に重ね合わされる下面の曲率が前記ロアケースにおける上面の曲率よりも小さくされているとともに、
前記アッパケースの曲率が前記ロアケースにおける前記上面の曲率と等しくされており、前記アッパケースと前記ロアケースとが隙間なく重ね合わされるようになっている、請求項4または請求項5に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項7】
前記弁体がハウジングによって保持されているとともに、
前記ハウジングが連結部材を介して前記袋体の前記開口部に固定されることで、前記袋体の前記開口部に前記弁体が配置されている一方、
前記連結部材には外方に突出する環状のフランジ状部が設けられているとともに、
前記連結部材と前記ハウジングとが相互に固定された状態において、前記ハウジングと前記フランジ状部との間には、前記ハウジングおよび前記フランジ状部よりも小径とされた小径部が設けられており、
前記ロアケースにおいて前記輸液装置が接続される側の壁部には、前記小径部が差し入れられる位置決め凹部が設けられている、請求項6に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項8】
前記フランジ状部の外径寸法が、前記ケースの内部空間における前記アッパケースと前記ロアケースとの最大対向面間距離以下とされている、請求項7に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項9】
前記ケースにおいて前記人体と重ね合わされる面と反対側の面には、人の皮膚に対して留置針が留置された状態を表示する表示部が設けられている、請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の装着型点滴シミュレータ。
【請求項10】
前記袋体が弾性体により形成されており、前記弾性体の厚さ寸法が0.01mm以上且つ0.05mm未満とされている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の装着型点滴シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大学や専門学校等における看護演習において点滴静脈内注射(以下、適時点滴という)が施されている患者の看護を学ぶ際に、学生等の患者モデルが装着することで点滴が施された患者に近い状態を再現することができる、装着型点滴シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高吸水性ポリマーからなる高分子吸収体を備えた生理用ナプキンをビニール袋で覆ってシーラーで封止したものを不織布で覆い、当該不織布の上から生理用ナプキン内に点滴用のプラスチックカニューレ型静脈内留置針を刺入し、これをビニール手袋にテープで固着して構成された装着型点滴シミュレータが開示されている。この装着型点滴シミュレータを用いれば、患者モデルがビニール手袋を手に装着し、静脈内留置針に輸液ボトルから延びる輸液チューブを接続するだけで、点滴が施された患者に近い状態を再現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装着型点滴シミュレータでは、点滴から滴下された薬液等の輸液が、静脈内留置針を挿通して生理用ナプキン内に収容されると、高分子吸収体に吸収されて保持される。それゆえ、輸液ボトルからの輸液の滴下を模した体験ができるものの、輸液ボトルと静脈内留置針の患者への挿入部位との高低差が小さくなった場合等に発生し得る静脈血の逆流現象を再現することは困難であった。それゆえ、点滴が施された患者の看護演習において、重要な学習項目である「逆流」について十分な学習や観察をすることができないという問題を内在していた。
【0005】
そこで、点滴が施された患者の静脈血の逆流現象をも有利に再現することができる、新規な構造の装着型点滴シミュレータを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の装着型点滴シミュレータは、点滴静脈内注射用の輸液装置が接続可能な装着型点滴シミュレータであって、液体を収容可能で可撓性を有する袋体と、前記袋体の開口部を液密に封止して、前記輸液装置の輸液チューブが連通可能な弁体と、前記袋体を保持して人体に装着可能な固定部と、を備える、ものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の装着型点滴シミュレータによれば、点滴が施された患者の静脈血の逆流現象をも有利に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る装着型点滴シミュレータの斜視図であって、内部を透過した状態で示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示された装着型点滴シミュレータを構成するシミュレータ本体の平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示されたシミュレータ本体の分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示された袋体組付体における分解斜視図である。
【
図7】
図7は、袋体に液体が注入されて初期状態よりも袋体が膨らんだ状態を示す袋体組付体の斜視図である。
【
図8】
図8は、
図1に示された装着型点滴シミュレータの使用状態を説明するための説明図である。
【
図9】
図9は、袋体に輸液が注入されて
図7に示された状態よりも袋体が膨らんだ状態を示す袋体組付体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の実施形態の説明>
最初に、本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の装着型点滴シミュレータは、
(1)点滴静脈内注射用の輸液装置が接続可能な装着型点滴シミュレータであって、液体を収容可能で可撓性を有する袋体と、前記袋体の開口部を液密に封止して、前記輸液装置の輸液チューブが連通可能な弁体と、前記袋体を保持して人体に装着可能な固定部と、を備える、ものである。
【0010】
本開示の装着型点滴シミュレータによれば、液体を収容可能で可撓性を有する袋体を有し、輸液チューブが連通可能な弁体により袋体の開口部が密封されている。それゆえ、袋体の内部の空気を予めシリンジ等により引き抜いた状態にすることにより、袋体に残存する空気に阻害されることなく輸液を収容することができて、袋体内に収容することのできる輸液量を十分に確保することができる。さらに、袋体は人体に装着可能な固定部に保持されていることから、固定部を患者モデルである人体の適所に装着するだけで、点滴が施された患者に近い状態を再現することができる。さらに、袋体の内部が弁体の連通する輸液チューブと連通された状態であるため、例えば、輸液装置の輸液ボトルと患者モデルに装着された弁体との高低差が小さくなった場合等には、袋体の内部から輸液チューブへの逆流を再現することができる。それゆえ、従来構造の装着型点滴シミュレータでは再現が困難であった点滴患者の静脈血の逆流現象をも有利に再現することができる、装着型点滴シミュレータを提供することが可能となる。なお、袋体の開口部は弁体で密封されていることから、静脈血の逆流現象をよりリアル且つ確認容易に再現するために、例えば、予め袋体の内部に模擬血液等の着色液体を保留することも可能である。
【0011】
(2)前記固定部は、人体に巻き付けた状態で固定することができる帯状体を含んで構成されている、ことが好ましい。固定部が人体に巻き付けられた状態で固定することができる帯状体を含んで構成されていることから、患者モデルの腕部等に容易に巻き付けて固定することができる。しかも、帯状体を巻き付けて固定する形態は、実際に点滴静脈内注射を患者に施す場合に、患者への留置針の刺入部位に近似した状態であることから、従来構造のビニール手袋型の装着構造では実現が難しかった、点滴を施された状態での患者の寝衣交換等の演習も、より実際の点滴を施された患者に近い状態で行うことが可能となる。
【0012】
(3)前記固定部は、人体の皮膚に接着される粘着シートを含んで構成されている、ことが好ましい。固定部が、人体の皮膚に接着される粘着シートを含んで構成されていることから、例えば粘着シートを患者モデルの腕部等に固定することで、装着型点滴シミュレータを容易に固定することができる。特に、例えば、上記(2)の態様と組み合わせて採用することで、粘着シートと帯状体とを相互に接着することもできて、人体における装着部位(例えば、腕部)と帯状体とのずれを防止することができる。それゆえ、帯状体、ひいては装着型点滴シミュレータを人体における装着部位(例えば、腕部)に、より確実に固定することができる。
【0013】
(4)前記袋体を着脱自在に内部に保持するケースを備え、前記ケースを介して前記袋体が前記固定部に保持されている、ことが好ましい。袋体がケース内に保持されることから、例えば寝衣交換等の演習の際に作業者(演習者または看護師モデル)が意図せず袋体に接触したり、使用者(患者モデル)が体位を変更した際に意図せず押し潰したりして、袋体が破れて収容されている液体が漏れ出したり、袋体内の液体が輸液チューブを逆流してしまうこと等が防止される。
【0014】
(5)前記帯状体の第1面に面ファスナーのループ部とフック部の一方が設けられ、第2面の端部に前記面ファスナーの前記ループ部と前記フック部の他方が設けられており、前記ケースの前記帯状体への載置面に前記面ファスナーの前記ループ部と前記フック部の他方が設けられている、ことが好ましい。帯状体の第1面に面ファスナーのループ部とフック部の一方が設けられているとともに、第2面の端部にループ部とフック部の他方が設けられていることから、例えば帯状体を患者モデルの腕部等に巻き付けてループ部とフック部とを重ね合わせることで、帯状体が患者モデルに装着される。このように、帯状体を患者モデルに装着するに際して面ファスナーを採用することで、帯状体の着脱が容易になることに加えて、患者モデルにおける装着部位の太さの違いに拘らず帯状体を装着することができる。
【0015】
また、ケースにおける帯状体への載置面にループ部とフック部の他方が設けられていることから、ケースを帯状体に対して面ファスナーで固定することができる。これにより、ケースを帯状体に容易に固定することができることに加えて、例えば第1面の全面にわたってループ部とフック部の一方が設けられている場合、装着部位(例えば、腕部)の全周にわたってケースを装着することができて、帯状体においてケースの固定部位を任意に設定することができる。
【0016】
(6)前記ケースが湾曲円弧状であるとともに、相互に分離可能なアッパケースとロアケースとから構成されており、前記ロアケースにおいて前記人体に重ね合わされる下面の曲率が前記ロアケースにおける上面の曲率よりも小さくされているとともに、前記アッパケースの曲率が前記ロアケースにおける前記上面の曲率と等しくされており、前記アッパケースと前記ロアケースとが隙間なく重ね合わされるようになっている、ことが好ましい。
【0017】
ロアケースにおいて人体に重ね合わされる下面の曲率がロアケースにおける上面の曲率よりも小さくされていることから、例えばロアケースにおける下面の曲率を人体における装着部位(例えば、腕部)の曲率に近づけて緩やかに湾曲させることができて、装着型点滴シミュレータを人体の装着部位により密着させることができる。また、ロアケースにおける下面の曲率を上面の曲率よりも小さくすることで、ロアケース、ひいては装着型点滴シミュレータの上下方向寸法を小さく抑えることができて、例えば寝衣交換の演習の際に、装着型点滴シミュレータが寝衣に引っ掛かり、交換作業の妨げとなることが回避される。さらに、ロアケースにおける上面の曲率を下面の曲率より大きくすることで、上記のようにロアケースの上下方向寸法を小さく抑えつつも、ケースの内部空間を十分に大きく確保することができて、ケースの内部空間に袋体を安定して収容することができる。
【0018】
また、アッパケースの曲率をロアケースにおける上面の曲率と等しくして、アッパケースとロアケースとを隙間なく重ね合わせることで、仮に袋体が破れたりして袋体に収容されている液体が漏れたとしても、ケースの外部にまで漏れることが防止されるか、漏れる量を少なく抑えることができる。これにより、液体がケースの外部にまで漏れなければ、例えば後述する実施形態におけるシミュレータ本体を交換するのみでよく、演習の中断時間を短くすることができたり、ケースの外部にまで漏れたとしても周囲を汚すおそれが低減される。なお、本態様において、アッパケースの曲率とロアケースにおける上面の曲率とは厳密に同じである必要はなく、アッパケースの曲率とロアケースにおける上面の曲率とは僅かに異なっていてもよい。
【0019】
(7)前記弁体がハウジングによって保持されているとともに、前記ハウジングが連結部材を介して前記袋体の前記開口部に固定されることで、前記袋体の前記開口部に前記弁体が配置されている一方、前記連結部材には外方に突出する環状のフランジ状部が設けられているとともに、前記連結部材と前記ハウジングとが相互に固定された状態において、前記ハウジングと前記フランジ状部との間には、前記ハウジングおよび前記フランジ状部よりも小径とされた小径部が設けられており、前記ロアケースにおいて前記輸液装置が接続される側の壁部には、前記小径部が差し入れられる位置決め凹部が設けられている、ことが好ましい。
【0020】
ハウジングと連結部材との組立体において、ハウジングとフランジ状部との間には小径部が設けられており、当該小径部が、ロアケースにおける位置決め凹部に差し入れ可能とされている。これにより、ケースの内部に袋体を収容するに際して、例えば弁体およびハウジングと連結部材と袋体との組立体を製造して、組立体における小径部をロアケースにおける位置決め凹部に差し入れることで、ロアケースに対して組立体を容易に位置決めすることができて、製造効率の向上が図られる。
【0021】
(8)前記フランジ状部の外径寸法が、前記ケースの内部空間における前記アッパケースと前記ロアケースとの最大対向面間距離以下とされている、ことが好ましい。ケースの内部空間には、連結部材におけるフランジ状部から袋体までが収容配置されることとなるが、連結部材において外方に突出するフランジ状部の外径寸法がケースの内部空間におけるアッパケースとロアケースとの最大対向面間距離以下とされることで、例えばアッパケースやロアケースにフランジ状部との干渉を回避するための切込み等を設けることなく、フランジ状部から袋体までをケースの内部空間に収容配置することができる。このように、アッパケースやロアケースに切込み等を設ける必要がないことから、袋体内の液体が漏れた際にもケースの外部への漏出が防止されれば、後述する実施形態におけるシミュレータ本体を交換することのみで迅速に演習を再開することができるし、ケース外部へ漏れた場合でも漏出量をより低減させることができる。
【0022】
なお、上記のような外径寸法のフランジ状部を有する連結部材を成形により形成してもよいが、後述する実施形態のように、例えば市販のメスルアーを連結部材として採用してもよい。このような場合に、市販のメスルアーにおけるフランジ状部の外径寸法がアッパケースとロアケースの最大対向面間距離より大きい場合には、フランジ状部の外径寸法がアッパケースとロアケースの最大対向面間距離以下となるように、メスルアーにおけるフランジ状部を削って外径寸法を小さくしてもよい。
【0023】
(9)前記ケースにおいて前記人体と重ね合わされる面と反対側の面には、人の皮膚に対して留置針が留置された状態を表示する表示部が設けられている、ことが好ましい。ケースにおいて人体と重ね合わされる面と反対側の面、すなわち外部に露出する面には、人の皮膚に対して留置針が留置された状態を表示する表示部が設けられている。これにより、弁体に対して輸液チューブを接続する際に、実際に人の皮膚に対して留置された留置針に輸液チューブを接続している印象を、作業者(演習者)に対して与えることができて、演習者が輸液チューブの接続作業をより現実感をもって体感することができる。
【0024】
なお、表示部には、例えば人の皮膚に対して留置針が留置された状態の写真を貼付してもよいし、人の皮膚に対して留置針が留置された状態を印刷や描画することにより表示してもよい。また、表示部において表示される留置針が留置された人の皮膚として、正常状態の人の皮膚だけでなく、留置部位において、例えば発赤や腫脹等の異常が認められる人の皮膚を表示してもよく、例えば皮膚に異常が認められる人への処置や皮膚に異常が認められた場合の対処法等を学習できるようになっていてもよい。
【0025】
(10)前記袋体が弾性体により形成されており、前記弾性体の厚さ寸法が0.01mm以上且つ0.05mm未満とされている、ことが好ましい。袋体が上記の厚さ寸法とされた弾性体により形成されることで、静脈血の逆流現象の再現をより安定して実現しつつ、袋体、ひいては装着型点滴シミュレータの小型化を図ることができる。
【0026】
<本開示の実施形態の詳細>
本開示の装着型点滴シミュレータの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
<実施形態1>
以下、本開示の実施形態1の装着型点滴シミュレータ10について、
図1から
図9を用いて説明する。本実施形態の装着型点滴シミュレータ10は、点滴静脈内注射用の輸液装置12が接続可能であり、後述する
図8に示されるように、例えばベッドB上に臥床する人体Hの腕部Aに装着される。そして、装着型点滴シミュレータ10が、ベッドB上に臥床する人体Hに装着されるとともに輸液装置12が接続されることで、点滴状態の患者を模擬的に再現することが可能であり、看護学等の演習用教材として利用することができる。なお、装着型点滴シミュレータ10におけるシミュレータ本体13は、人体Hに対して任意の向きで配置することができるが、以下の説明において、前方とは
図2中の下方、後方とは
図2中の上方、左方とは
図2中の左方、右方とは
図2中の右方をいう。また、上下方向とは
図2の紙面直交方向をいい、特に上方とは
図2中の紙面手前方向、下方とは
図2中の紙面奥方向をいう。また、以下の説明において、複数の同一部材または同一部位については、一部の部材または部位にのみ符号を付し、他の部材または部位については符号を省略する場合がある。
【0028】
<装着型点滴シミュレータ10>
装着型点滴シミュレータ10は、
図1から
図4にも示されるように、液体14(後述する
図7,9参照)を収容可能で可撓性を有する袋体16と、開口部18を液密に封止して、輸液装置12の輸液チューブ20(
図8参照)が連通可能な弁体22と、袋体16を保持して人体Hに装着可能な固定部24と、を備えている。
図1では、シミュレータ本体13が、固定部24を構成する後述する帯状体82に固定された状態で示されている。
【0029】
<袋体16>
袋体16は、十分に薄い弾性体により形成されており、伸縮自在な風船状とされている。袋体16の材質は、良好な水密性を有していれば限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリプロピレン等の合成樹脂材により有利に形成することができ、本実施形態では、袋体16がポリウレタンにより形成されている。なお、袋体16は透明(半透明を含む)な材質により形成されることが好ましく、内部に収容される液体14が袋体16の外部から視認可能とされることが望ましい。風船状とされた袋体16の内容積(袋体16に収容可能な液体14の容積)は限定されるものではなく、演習の内容や時間、演習者の人数等に応じて、大きさの異なる袋体16や袋体16が収容される後述するケース48が適宜に採用可能であるが、具体的な一例として、袋体16の内容積は、例えば20ml~50mlの範囲内とされて、本実施形態では、30ml程度である。
【0030】
また、袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法も限定されるものではなく、袋体16の大きさ等に応じて適宜に変更可能であるが、袋体16の内容積が20ml~50mlとされる場合、袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法は、例えば0.01mm以上且つ0.05mm未満とされることが好ましく、より好適には、例えば0.01mm以上且つ0.03mm未満とされる。すなわち、袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法が0.01mm未満であると、袋体16が薄すぎて液体14の収容時に破裂するおそれがあったり、製造が困難となるおそれがある。また、袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法が0.05mm以上であると、袋体16が厚すぎて液体14の収容時に十分な伸長変形ができず、ある程度の量の液体14が収容された時点でそれ以上液体14を収容することができなくなるおそれがある。本実施形態では、袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法が0.01mmとされている。
【0031】
<弁体22>
袋体16の開口部18には、開口部18を液密に封止する弁体22が設けられている。弁体22には、輸液装置12の輸液チューブ20が連通可能であり、後述するように輸液チューブ20の先端に設けられるオスコネクタ100が弁体22に挿入されることで、輸液装置12における点滴筒96と袋体16の内部空間とが相互に連通されるようになっている。すなわち、弁体22は、オスコネクタ100の挿入および抜去に伴って、開放と閉鎖の切換えが可能な逆止弁である。本実施形態の弁体22は略円柱状であり、弁体22の中央部分には、弁体22の径方向に延びる一文字状のスリット26が設けられている。
【0032】
この弁体22はハウジング27によって保持されており、袋体16の開口部18にハウジング27が固定されることで、袋体16の開口部18に弁体22が設けられている。特に、本実施形態では、弁体22(ハウジング27)と袋体16との間に連結部材28が採用されており、連結部材28を介して袋体16の開口部18にハウジング27が固定されることで、袋体16の開口部18に弁体22が配置されている。本実施形態では、ハウジング27付きの弁体22として、ニプロ株式会社製「セーフタッチ(登録商標)プラグP」が採用されている。また、連結部材28として、Nordson MEDICAL社製「メスルアーフィッティング(品名)VPRF406(品番)」が採用されている。
【0033】
ハウジング27は全体として略筒状であり、一方の端部における開口部に弁体22が設けられているとともに、他方の端部がオスルアー30とされており、ハウジング27の後方側に連結される連結部材28側に突出している。オスルアー30の外周側には、筒状部32がハウジング27と一体的に形成されており、筒状部32の内面に雌ねじ34が設けられている。より具体的には、ハウジング27の一方の端部側には小径部35aが設けられているとともに、小径部35aの後方側に大径部35bを一体的に備えている。そして、小径部35a内に弁体22が収容配置されているとともに、大径部35bに対してオスルアー30および筒状部32(雌ねじ34)が一体的に形成されている。それゆえ、ハウジング27において弁体22を保持する部分は厳密には小径部35aであるが、ハウジング27は、小径部35aおよび大径部35b、オスルアー30、筒状部32、雌ねじ34を含んで構成されている。なお、図示は省略するが、小径部35aの外周面には雄ねじが設けられてもよく、ルアーロックタイプのシリンジ等を接続することが可能であってもよい。
【0034】
連結部材28も全体として略筒状であり、全長にわたって延びる内孔36が形成されている。連結部材28においてハウジング27が連結される側である前方側の端部には、外周側に突出する環状の外周突部38が設けられているとともに、外周突部38の外周面には、ハウジング27における雌ねじ34と螺合する雄ねじ40が形成されている。また、連結部材28における長さ方向中間部分には、外周側に突出する環状のフランジ状部42が設けられている。すなわち、連結部材28において外周突部38とフランジ状部42との間は、外周突部38およびフランジ状部42よりも小径の小径部44とされており、フランジ状部42の外径寸法φα(
図5参照)が、小径部44の外径寸法φβ(
図5参照)よりも大きくされている。
【0035】
フランジ状部42の外径寸法φαは、外周突部38の外径寸法よりも大きくされており、本実施形態では、ハウジング27における筒状部32の外径寸法と略等しくされている。なお、
図4に示されるように、市販されているNordson MEDICAL社製「メスルアーフィッティング VPRF406」は、フランジ状部における外径寸法が筒状部32の外径寸法よりも大きくされている(二点鎖線参照)が、フランジ状部の外周部分を削り外径寸法を小さくすることで、フランジ状部42における外径寸法φαが筒状部32の外径寸法と略等しくされている。
【0036】
そして、上記のような連結部材28において外周突部38が設けられる側と反対側の端部が袋体16の開口部18に挿入されて、接着や溶着等により連結部材28と袋体16との間が液密的にシールされることで、袋体16と連結部材28とが連結されている。また、ハウジング27におけるオスルアー30が連結部材28の内孔36に挿入されるとともに、連結部材28における外周突部38が筒状部32に挿入されて雄ねじ40と雌ねじ34が螺合することにより、連結部材28とハウジング27(弁体22)が連結されている。
【0037】
このように、本実施形態では、弁体22およびハウジング27と連結部材28と袋体16とが組み付けられた袋体組付体46が構成されており、袋体16の内部空間が内孔36およびオスルアー30に連通しているとともに、外部への開口部が弁体22により開閉可能とされている。特に、本実施形態では、雄ねじ40と雌ねじ34とが螺合してハウジング27と連結部材28とが連結した状態において、筒状部32とフランジ状部42とは前後方向で所定の距離だけ離隔しており、これら筒状部32とフランジ状部42との間には、連結部材28において外周突部38とフランジ状部42との間に設けられた小径部44が位置している。
【0038】
なお、袋体組付体46において、袋体16に液体14が収容される前の初期状態では、
図1等にも示されるように、袋体16は伸長も収縮もしていない状態であり、袋体16内に空気が存在している。尤も、袋体組付体46の形成後、袋体16に液体14を収容する前に、例えば弁体22にシリンジ等を挿入して、袋体16内の空気を抜いておいてもよい。
【0039】
<ケース48>
上記の如き袋体組付体46は、中空のケース48の内部に着脱自在に保持されている。ケース48は、
図3や
図5,6にも示されるように、上下で分割可能なアッパケース50およびロアケース52から構成されている。すなわち、アッパケース50とロアケース52との上下方向間においてケース48の内部空間53が構成されている。本実施形態では、ケース48が、全体として上方に凸となる湾曲円弧状に形成されている。ケース48を構成するアッパケース50やロアケース52は、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリアミド等の合成樹脂、またはシリコン樹脂等の任意の材質を用いて有利に形成することができる。
【0040】
アッパケース50は、全体として下方に開口する略箱形状であり、上底壁部54と、上底壁部54の外周縁部から下方に突出する上周壁部56とを備えている。上底壁部54は、
図2に示される平面視において左右方向寸法に比して前後方向寸法の大きい略矩形状であり、湾曲円弧状の横断面をもって前後方向に延びている。上底壁部54における上面58および下面60は略等しい曲率を有しており、上底壁部54は全体にわたって略一定の厚さ寸法を有している。また、上底壁部54(上面58および下面60)は、周方向において略一定の曲率を有しているが、上面58および/または下面60において曲率の異なる部分が設けられてもよく、例えば上面58および/または下面60には、部分的に平坦に広がる部分が設けられてもよい。
【0041】
上周壁部56は、全周にわたって略一定の上下方向寸法を有する矩形枠形状であり、上底壁部54と略等しいか僅かに大きい厚さ寸法を有している。上周壁部56における前方部分には、ケース48と袋体組付体46との組付時において、ハウジング27における筒状部32との干渉を回避するための切欠部62が設けられている。また、上周壁部56の内面における左右両側部分には、左右方向内方に突出する係止爪64が設けられている。
【0042】
また、ケース48において人体Hに重ね合わされる面(後述するロアケース52の下面76)と反対側の面、すなわちアッパケース50における上面58には、
図2,3に示されるように、人の皮膚に対して留置針Nが留置された状態を示す表示部66(
図3中においては二点鎖線で図示)が設けられている。本実施形態では、アッパケース50における上面58の略全面が表示部66とされており、人の皮膚に対して留置針Nが留置された状態を示す写真が貼付されている。具体的には、本実施形態では、装着型点滴シミュレータ10が人体H(患者モデル)における腕部Aに装着されており、表示部66には、患者モデルとは異なる、実際に点滴治療が行われている患者の腕部A’に留置針Nが留置された状態が示されている。なお、ケース48は湾曲していることから、写真を貼り付けた場合、
図2のように平面的に見えることはないが、分かり易さのため、
図2では表示部66に貼付される写真を平面的に示す。
【0043】
表示部66(写真)の大きさや表示部66に貼付される写真の向き等は限定されるものではないが、例えば写真に表示される留置針Nの開口部(腕部A’に挿入される側と反対側の端部における開口部)が前方を向いており、且つケース48に組み付けられる袋体組付体46の弁体22に対して比較的近くに位置することが好ましい。これにより、後述するように、演習者が弁体22に対して輸液装置12のオスコネクタ100を挿入する際に、実際に留置針Nの開口部に対してオスコネクタ100を接続しているような感覚を得ることができる。
【0044】
ロアケース52は、全体として上方に開口する略箱形状であり、底壁部68と、底壁部68の外周縁部から上方に突出する下周壁部70とを備えている。底壁部68は、上底壁部54と同様に、平面視において左右方向寸法に比して前後方向寸法の大きい略矩形状であり、湾曲円弧状の横断面をもって前後方向に延びている。また、下周壁部70は、上周壁部56と同様に略矩形枠形状であるが、前後方向両側と左右方向両側とで底壁部68からの突出高さが異なっており、下周壁部70において前後方向両側の壁部が左右方向両側の壁部よりも上方に突出している。すなわち、下周壁部70において、前壁部72aおよび後壁部72bが、左壁部72cおよび右壁部72dよりも上方に突出している。
【0045】
ここで、
図5等にも示されるように、ロアケース52の上面74、すなわち下周壁部70の上端面(各壁部72a~72dの上端面)は上方に凸となる滑らかな湾曲面を構成しており、要するに、前後の両壁部72a,72bの上端面と左右の両壁部72c,72dの上端面とが略段差なく連続している。そして、ロアケース52の上面74における曲率は、ロアケース52において人体に重ね合わされる面である下面76、すなわち底壁部68の下面76における曲率よりも大きくされている。これにより、例えばロアケース52の上面74の曲率が下面76の曲率と略等しく(すなわち、より小さく)される場合に比べて、下周壁部70の上下方向寸法を大きく確保することができて、ロアケース52の容積、ひいてはケース48の内部空間53の容積を十分に大きく確保することができる。また、例えばロアケース52の下面76の曲率が上面74の曲率と略等しく(すなわち、より大きく)される場合に比べて、ロアケース52の上下方向寸法を小さく抑えることができて、ケース48、ひいては装着型点滴シミュレータ10の小型化が図られる。
【0046】
なお、ロアケース52の上面74および下面76の曲率はそれぞれ限定されるものではないが、ロアケース52の下面76の曲率は、例えば装着型点滴シミュレータ10の装着部位(本実施形態では、人体Hの腕部A)における曲率に近い値を設定することができる。また、本実施形態では、ロアケース52の上面74における曲率が、アッパケース50の上底壁部54における下面60の曲率と略等しくされている。これにより、後述するようにアッパケース50とロアケース52とを組み付けてケース48を構成した際に、アッパケース50における下面60とロアケース52における上面74とが略隙間なく重ね合わされるようになっている。
【0047】
すなわち、アッパケース50とロアケース52とを組み付けた際には、ロアケース52の上方開口部がアッパケース50における上底壁部54で覆蓋されることにより、ケース48の内部空間53が構成される。ケース48の内部空間53における上下方向寸法、要するにアッパケース50における上底壁部54とロアケース52における底壁部68との対向面間距離は、ケース48の幅方向(左右方向)で異ならされており、ケース48における幅方向中央で最大とされる。そして、この内部空間53における最大の上下方向寸法、すなわち内部空間53におけるアッパケース50とロアケース52との最大対向面間距離γ(
図5参照)が、袋体組付体46(連結部材28)におけるフランジ状部42の外径寸法φα以上とされており、本実施形態では、内部空間53におけるアッパケース50とロアケース52との最大対向面間距離γが、フランジ状部42の外径寸法φαと略等しくされている。
【0048】
ロアケース52の底壁部68における上面77の曲率は限定されるものではないが、例えば底壁部68の下面76(ロアケース52の下面76)と略等しい曲率を有しており、底壁部68は全体にわたって略一定の厚さ寸法を有している。また、底壁部68(上面77および下面76)は、周方向において略一定の曲率を有しているが、上面77および/または下面76において曲率の異なる部分が設けられてもよく、例えば上面77および/または下面76には、部分的に平坦に広がる部分が設けられてもよい。下周壁部70(各壁部72a~72d)の厚さ寸法は限定されるものではないが、本実施形態では、底壁部68と略等しいか僅かに大きい厚さ寸法を有している。特に、本実施形態では、前壁部72aの厚さ寸法は、袋体組付体46におけるハウジング27(筒状部32)とフランジ状部42との前後方向の離隔距離より小さくされている。
【0049】
ここで、下周壁部70において後述するように輸液装置12が接続される側の壁部である前壁部72aには、上方に開口すると共に前後方向に貫通する位置決め凹部78が設けられている。この位置決め凹部78における最大幅寸法(左右方向寸法)δ(
図5参照)は、袋体組付体46における小径部44の外径寸法φβよりも大きくされている。これにより、ケース48に対して袋体組付体46を組み付けるに際して、ロアケース52における位置決め凹部78に対して袋体組付体46の小径部44を差し入れることができて、ロアケース52に対して袋体組付体46を前後方向および左右方向で位置決めすることができるようになっている。
【0050】
また、下周壁部70における左右の両壁部72c,72dには、左右方向外方に突出する係止爪80が設けられている。これにより、アッパケース50とロアケース52との組付時には、アッパケース50における係止爪64がロアケース52における係止爪80に対して外側から係合して、アッパケース50とロアケース52とが意図せず分離しないようになっている。なお、アッパケース50とロアケース52とを分離させる際には、例えば上周壁部56を左右方向に押し広げることで、両係止爪64,80の係合が解除されて、ロアケース52からアッパケース50を取り外すことができる。
【0051】
<固定部24>
本実施形態では、袋体組付体46が組み付けられたケース48(シミュレータ本体13)が、人体Hの腕部Aに巻き付けた状態で固定される帯状体82に対して面ファスナーにより固定される。特に、本実施形態では、人体Hの腕部Aに粘着シート(または粘着パッド)83が接着されており、粘着シート83の外周面に帯状体82が巻き付けられて、粘着シート83の外周面に帯状体82の内周面(後述する第2面86)が接着されることで、帯状体82が人体Hの腕部Aに巻き付けられた状態で固定されている。すなわち、本実施形態では、シミュレータ本体13と帯状体82および粘着シート83とが相互に別体とされている。なお、帯状体には、少なくともケース48が重ね合わされる部分に面ファスナーを構成するループ部とフック部の一方(例えばループ部)が設けられていればよいが、本実施形態では、帯状体82においてケース48が重ね合わされる第1面84、要するに帯状体82が腕部Aに固定された状態において外部に露出する面の全面にわたって図示しないループ部が設けられている。また、粘着シート83は、腕部Aの全周にわたって設けられて粘着シート83の外周面と帯状体82の内周面(後述する第2面86)とが略全面にわたって重ね合わされて固着されてもよいが、粘着シートは腕部Aの周方向において部分的に設けられてもよく、腕部Aの周方向における複数箇所において帯状体82と粘着シートとが重ね合わされて固着されてもよい。
【0052】
特に、本実施形態では、帯状体82を腕部Aに固定する際にも面ファスナーを利用しており、帯状体82において第1面84と反対側の面である第2面86、要するに腕部Aに直接的に重ね合わされる面の端部において、ループ部とフック部の他方(例えばフック部(図示せず))が設けられている。なお、第2面86においてフック部が設けられる領域87を、
図8中において破線で示す。これにより、人体Hの腕部Aに対して帯状体82を巻き付けて、第1面84におけるループ部と第2面86の端部におけるフック部(領域87)とを重ね合わせることで、第1面84のループ部が外部に露出した状態で、帯状体82が腕部Aに固定される。
【0053】
なお、帯状体82の材質は限定されるものではなく、布や軟質の合成樹脂等が採用され得て、例えば合成樹脂製の基材に対してループ部やフック部が一体的に形成されて帯状体82が構成されてもよいし、布製の帯状体に対して、ループ部やフック部が一体的に形成された合成樹脂製の基材が貼り付けられたり縫い付けられたりして固定されることで帯状体82が構成されてもよい。本実施形態では、帯状体82として、アズワン株式会社製「スーパーマジックバンテージ 7cm×30cm」を採用している。また、粘着シート83は、例えば両面が接着面とされた両面テープであってもよく、予め接着面に貼り付けられた剥離シートを剥がすことで貼付可能とされてもよい。あるいは、粘着シート83の接着面は片面(人体Hの腕部Aに貼り付けられる面)のみであってもよく、反対側の面は外周側に巻き付けられる帯状体82の内周面(第2面86)に対して接着剤等で接着されてもよい。このような場合は、帯状体82と粘着シート83とが予め接着されて一体とされており、帯状体82および粘着シート83が人体Hの腕部Aに巻き付けられた後、帯状体82の第1面84にシミュレータ本体13が固定され得る。このような粘着シート83としては、例えば市販のジェルシート等が好適に採用され得る。
【0054】
また、ケース48において帯状体82への載置面となる下面76(ロアケース52の下面76)には、面ファスナーを構成するループ部とフック部との他方(例えばフック部)が設けられたケース側固定部88が設けられている。なお、
図1や
図3において、ケース側固定部88(フック部)が設けられる領域を破線で示す。すなわち、本実施形態では、ケース48の下面76における前後方向両側において、相互に離隔した2箇所にケース側固定部88が設けられており、それぞれ所定の前後方向寸法を有している。また、本実施形態では、各ケース側固定部88(フック部)が、ケース48の下面76における左右方向略全長にわたって設けられている。なお、このようなケース側固定部88は、例えばケース48の下面76に対してフック部が一体的に形成された基材が貼り付けられる等して構成される。
【0055】
そして、人体Hの腕部Aに巻き付けられて固定された帯状体82において外部に露出する第1面84(ループ部)に対して、ケース48の下面76に設けられたケース側固定部88(フック部)を重ね合わせることで、面ファスナーによりケース48が帯状体82に固定される。すなわち、袋体16(袋体組付体46)がケース48に保持されているとともに、ケース48がケース側固定部88および帯状体82を介して人体Hの腕部Aに装着されている。したがって、本実施形態では、袋体16を保持して当該袋体16を人体に装着可能な固定部24が、ケース側固定部88、帯状体82および粘着シート83により構成されているとともに、ケース48を介して袋体16(袋体組付体46)が固定部24に保持されている。
【0056】
<装着型点滴シミュレータ10の組み付け工程>
続いて、装着型点滴シミュレータ10の組み付け工程の具体的な一例について説明する。なお、装着型点滴シミュレータ10の組み付け工程は、以下の記載に限定されない。
【0057】
先ず、連結部材28における後端部を袋体16の開口部18に挿入して、これらの重ね合わせ面間を接着や溶着等によりシールして、連結部材28と袋体16とを連結する。その後、連結部材28の外周突部38を筒状部32に挿入して雄ねじ40と雌ねじ34とを螺合させるとともに、オスルアー30を内孔36に挿入することで、連結部材28とハウジング27(弁体22)とを連結する。これにより、袋体組付体46が完成する。
【0058】
その後、袋体組付体46における小径部44をロアケース52における位置決め凹部78に差し入れて、ロアケース52に対して袋体組付体46を位置決めした状態で、ロアケース52の上方からアッパケース50を重ね合わせる。そして、アッパおよびロアケース50,52の両係止爪64,80を係合させることで、袋体組付体46が組み付けられたケース48(シミュレータ本体13)が完成する。シミュレータ本体13の完成状態では、ケース48から弁体22およびハウジング27が前方に突出している。なお、ケース48の完成後に、ケース48の上面58における表示部66に写真を貼付してもよいし、ロアケース52に組み付ける前にアッパケース50の上面58に写真が貼付されてもよい。また、ケース48の完成後に、ケース48の下面76に各ケース側固定部88(フック部)を設けてもよいし、アッパケース50に組み付ける前にロアケース52の下面76に各ケース側固定部88が設けられてもよい。
【0059】
続いて、人体H(患者モデル)の腕部Aに粘着シート83を貼り付けた後、粘着シート83の外周面に帯状体82を巻き付けて固定し、外部に露出する帯状体82の第1面84(ループ部)に対してケース48における各ケース側固定部88(フック部)を重ね合わせて、帯状体82に対してシミュレータ本体13を固定する。あるいは、粘着シート83と帯状体82とが一体とされる場合は、粘着シート83および帯状体82を人体Hの腕部Aに巻き付けた後、帯状体82の第1面84にシミュレータ本体13を固定する。これにより、本実施形態の装着型点滴シミュレータ10が、人体Hの腕部Aに装着された状態で完成する。なお、帯状体82は、人体H(患者モデル)の腕部Aに対して、着衣の上からでなく、肌に直接巻き付けられて固定されることが好ましい。これにより、点滴状態の患者をよりリアルに再現することができる。
【0060】
<装着型点滴シミュレータ10の使用方法>
次に、装着型点滴シミュレータ10の使用方法の具体的な一例について、
図7から
図9等を示して説明する。なお、装着型点滴シミュレータ10の使用方法は、以下の記載に限定されない。また、
図7,9では、シミュレータ本体13のうち、袋体組付体46を抜き出して示し、ケース48の図示を省略している。
【0061】
先ず、上記のように製造したシミュレータ本体13における弁体22に対して、液体14としての模擬血液(例えば、赤く着色された液体)が充填された図示しないシリンジを挿入し、プランジャを押し込むことで所定量の模擬血液が、オスルアー30および内孔36を通じて袋体16内に注入される。その後、例えば袋体組付体46において弁体22を上方に向けて袋体16内の空気が上方に集められた状態で、プランジャを引くことで、袋体16内の空気がシリンジへと移動して、袋体16内の空気が抜かれる。
【0062】
なお、袋体16内に注入される模擬血液の量は限定されるものではないが、袋体16の内容積が20ml~50mlとされる場合、例えば2ml~3ml程度の模擬血液が袋体16内に注入される。模擬血液が袋体16に注入されて袋体16が初期状態よりも膨らんだ状態を
図7に示す。なお、袋体16内の空気は全量を抜く必要はなく、袋体16内に空気が僅かに残っていてもよい。袋体16内の空気を抜くことにより、後述する輸液の注入時に、袋体16内に残存する空気により輸液の注入が阻害されることが防止されて、注入できる輸液量を増加させることができる。また、袋体16内の空気が輸液チューブ20内を逆流して空気塞栓を起こしたりすることが防止される。
【0063】
図7に示される状態では、弾性体である袋体16が初期状態よりも膨らんで弾性変形していることから、弾性的な復元力として、袋体16が収縮しようとする力、すなわち液体14(模擬血液)を開口部18を通じて外部へ押し出そうとする力が作用している。しかしながら、弁体22からシリンジを抜去してスリット26を閉鎖状態とすることで、開口部18を通じた液体14の流出が防止されて、袋体16内に模擬血液が収容された状態で維持される。
【0064】
その後、
図8に示されるように、ベッドB上に臥床する学生等の患者モデル(人体H)の腕部Aに粘着シート83および帯状体82を巻き付けて固定して、帯状体82の第1面84に、上記のように袋体16に模擬血液が注入されたシミュレータ本体13を、例えば弁体22が人体Hの脚側を向くように固定する。これにより、装着型点滴シミュレータ10が人体Hに対して装着された状態となり、この装着型点滴シミュレータ10に対して輸液装置12が接続される。
【0065】
輸液装置12は、実際に臨床の現場で使用されるものでもよいし、演習用の簡易的なものであってもよいが、少なくとも以下の構成を備えている。すなわち、輸液装置12は、輸液90(簡易的には水であってもよい)が収容された輸液ボトル(または輸液バッグ)92と、輸液ボトル92を吊下支持するスタンド94と、輸液ボトル92と人体Hに留置された留置針N(演習時にはシミュレータ本体13)とを接続する透明な輸液チューブ20と、輸液ルート上に設けられる点滴筒(チャンバー)96と、輸液90の滴下速度を調節するクレンメ98と、輸液チューブ20の先端に設けられるオスコネクタ100とを備えている。なお、輸液チューブ20は、人体Hの腕部Aに対してテープ102等で固定されてもよい。
【0066】
そして、演習者は、患者モデル(人体H)の腕部Aに装着された装着型点滴シミュレータ10の弁体22に対して、輸液装置12において輸液チューブ20の先端に設けられたオスコネクタ100を前方から挿入する。これにより、弁体22のスリット26が押し広げられて開放され、輸液チューブ20と袋体16とがオスルアー30および内孔36を通じて連通状態とされる。
【0067】
ここで、上述のように、袋体16の弾性的な復元力により袋体16内の模擬血液は、オスルアー30および内孔36を通じて輸液チューブ20内を逆流しようとするが、点滴筒96内に貯留されている輸液90は、シミュレータ本体13との高低差に従って袋体16内に流入しようとする。この時、輸液90の袋体16への流入速度に比して模擬血液の逆流速度の方が速い場合、模擬血液の逆流が発生することとなる。模擬血液の逆流が発生した場合、赤色に着色された液体が透明な輸液チューブ20内を上方に移動することから、演習者は目視により逆流の発生を確認することができる。そして、演習者は、クレンメ98を操作して輸液90の滴下速度を調節して、輸液90の袋体16への流入速度を模擬血液の逆流速度より大きくすることで、模擬血液の逆流を抑制し、輸液90を袋体16へ流入させることができる。これにより、装着型点滴シミュレータ10を用いて点滴状態の患者を再現することが可能となる。
【0068】
なお、例えば上記のように袋体16の内容積が20ml~50mlで、2ml~3ml程度の模擬血液が予め注入されていた場合、60滴/1mlの輸液装置12を使用して、60滴/分の設定で輸液90を滴下した場合、30分以上の滴下が可能となる。尤も、滴下速度は任意に設定可能であるし、例えば袋体16の大きさを適宜に変更することで、滴下時間の調節も可能であり、これらは演習の内容や人数等に応じて変更され得る。
【0069】
そして、演習者は、装着型点滴シミュレータ10を用いて点滴状態とされた患者モデルに対して、寝衣交換や体位変更等の演習作業を行う。その際、患者モデルにおける装着型点滴シミュレータ10が装着された腕部Aを高く上げたりすると、輸液ボトル92や点滴筒96とシミュレータ本体13との高低差が小さくなり、輸液90の袋体16への流入速度が小さくなることとなる。この結果、模擬血液の逆流速度が輸液90の袋体16への流入速度を上回り、模擬血液の逆流が発生する。これにより、演習者は、患者の腕部を高く上げると血液が輸液チューブ内を逆流してしまうということを、実際の体験として学習することができる。
【0070】
演習の終了後は、輸液チューブ20を図示しないクランプ等で閉鎖した後、弁体22からオスコネクタ100を抜去することで、装着型点滴シミュレータ10と輸液装置12との接続が解除される。なお、演習の終了後には、袋体16の内部には、予め注入されていた模擬血液に加えて、輸液チューブ20を通じて流入した輸液90が液体14として収容されており、
図9に示されるように、模擬血液のみが収容されていた
図7の状態よりも、袋体16が膨らんでいる。なお、
図7,9は、袋体16が膨らんでいる状態を分かり易く示したものであって、実際には袋体16はケース48の内部空間53内に収容されていることから、例えば袋体16は、内部空間53の形状に沿って変形することとなる。また、袋体16が模擬血液および輸液90により満杯となり、それ以上の輸液90の流入が困難である場合には、装着型点滴シミュレータ10と輸液装置12との接続を解除した後、ケース48を開き、袋体組付体46を新しいものと交換することで、演習を継続して行うことができる。本実施形態では、袋体16が、弁体22(ハウジング27)や連結部材28を一体的に備える袋体組付体46として構成されていることから、袋体16(袋体組付体46)の交換作業を容易に行うことができる。
【0071】
以上の如き構造とされた本実施形態の装着型点滴シミュレータ10によれば、滴下される輸液90を受けるものとして、従来構造のような高分子吸収体でなく、可撓性、特に弾性を有する袋体16を採用した。そして、この袋体16に液体14(模擬血液)を収容することで、袋体16の弾性的な復元力により、静脈圧のような血液を逆流させる力を再現することができたのである。これにより、従来構造の装着型点滴シミュレータでは再現が困難であった血液の逆流現象を再現することが可能となった。この結果、例えば点滴患者の寝衣交換や体位変更という演習を行う場合にも、単に点滴が外れないようにするというだけでなく、腕部を高く上げれば血液が逆流してしまうということを通じて、腕部だけでなく患者の体全体をどのように動かせばよいのかという問題や、逆流が生じる場合、どのような原因で逆流が発生しているか、またどのような解決策が適切か等の問題に対して、看護学等を学ぶ学生等が実際に体験して学習することができ、且つより多くの思考を促すことができる。したがって、本開示によれば、従来構造の装着型シミュレータよりも実際の臨床の現場に即しており、看護学等を学ぶ学生等に対してより学習効果の高い装着型点滴シミュレータ10を提供することができる。
【0072】
なお、袋体を、弾性を有さない材質により形成した場合でも、例えば腕部を高く上げたり輸液ボトルの位置を低く設定したりして、模擬血液を収容した袋体を、輸液ボトルや点滴筒よりも高い位置まで上げることで、袋体と輸液ボトルや点滴筒との高低差に従って、模擬血液が輸液チューブ内を逆流することから、血液の逆流を再現すること自体は可能である。しかしながら、実際の臨床現場において、輸液ボトルの位置は比較的高い位置にあり、例えば寝衣交換や体位変更を行ったとしても、留置針の刺入部位が輸液ボトルや点滴筒の位置よりも高くなることはあまり考えられず、実際には静脈圧があるから輸液ボトル等と刺入部位の高低差が小さくなるだけで、血液の逆流が発生するのである。このような観点で、本実施形態の装着型点滴シミュレータ10では、袋体16が弾性を有していることから、例えば腕部Aを輸液ボトル92等の高さまで上げなくても、通常の寝衣交換や体位変更の動作の範囲内で腕部Aを上げることで、輸液ボトル92等と袋体16との高低差が小さくなり、模擬血液の逆流が発生することとなる。それゆえ、本実施形態の装着型点滴シミュレータ10では、例えば輸液ボトル92を低い位置に設けたり装着型点滴シミュレータ10の装着部位を必要以上に高く上げたりする必要がなく、より現実的な演習を行うことが可能となる。
【0073】
また、本実施形態の装着型点滴シミュレータ10は、固定部24が帯状体82および粘着シート83を含んで構成されている。帯状体82は、面ファスナーにより人体H(患者モデル)の腕部Aに装着可能であり、容易に着脱が可能であるとともに、例えば患者モデルが複数人とされてそれぞれ腕部Aの太さが異なる場合でも、腕部Aの太さに拘らず装着が可能である。また、装着型点滴シミュレータ10を腕部A以外の部位に装着する場合にも、装着部位の太さに拘らず装着することができる。さらに、帯状体82に対してシミュレータ本体13も面ファスナーにより固定されることから、着脱が容易であるだけでなく、本実施形態では、帯状体82の第1面84の略全面にわたって装着することが可能であることから、良好な自由度をもってシミュレータ本体13を装着することができる。特に、本実施形態では、帯状体82が粘着シート83を介して人体Hの腕部Aに装着されることから、腕部Aに対する装着型点滴シミュレータ10のずれが効果的に防止され得る。
【0074】
さらに、本実施形態の装着型点滴シミュレータ10は、袋体16を内部に保持するケース48を備えている。これにより、演習中に意図せず袋体16に接触したりして袋体16が破れたり、意図せず袋体16を押し潰して袋体16の内部に収容されている模擬血液等の液体14が、輸液チューブ20を逆流してしまうということが回避され得る。
【0075】
特に、ケース48は湾曲円弧形状とされているとともに、アッパケース50とロアケース52とから構成されている。そして、アッパケース50(上底壁部54)における上面58や下面60、ロアケース52における上面74や下面76における曲率を適切に設定することで、ケース48の内部空間53をスペース効率良く確保することができたり、ケース48の上下方向寸法を小さく抑えて、装着型点滴シミュレータ10の大型化を回避することも可能となる。これにより、演習者が、患者モデルの寝衣交換等を行う際に、装着型点滴シミュレータ10が引っ掛かったりすることが回避される。さらに、アッパケース50とロアケース52とを略隙間なく重ね合わせることで、仮に袋体16が破れた際にも、ケース48の外部への液体14の漏出をできるだけ防止したり、漏出量を少なく抑えることができる。
【0076】
また、本実施形態では、袋体16が連結部材28を介して弁体22を保持するハウジング27に組み付けられており、これら袋体16、弁体22およびハウジング27、連結部材28により袋体組付体46が構成されている。そして、例えば袋体16が模擬血液や輸液90で満杯となったり破れたりした場合には、袋体組付体46を交換することで、素早く演習を再開することができる。特に、本実施形態では、弁体22およびハウジング27、連結部材28として市販されている部材を採用して、これらの組付けにより生じる小径部44を巧く利用して、ロアケース52に位置決め凹部78を設けることで、袋体組付体46とロアケース52との位置決めを達成している。この結果、別途特別な部材を設けることなく、袋体組付体46とロアケース52との位置決めを実現しつつ、装着型点滴シミュレータ10の製造効率や袋体組付体46の交換効率の向上を図ることができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、袋体組付体46から外方に突出するフランジ状部42の外径寸法を、ケース48の内部空間53における最大の上下方向寸法以下として、フランジ状部42をケース48の内部空間53に収納させた。これにより、ケース48の大型化が回避されるだけでなく、アッパケース50やロアケース52に、フランジ状部42との干渉を回避するための切込み等を設ける必要がなく、仮に袋体16から液体14が漏れ出した際にも、ケース48の外部への漏出をできるだけ防止したり、漏出量の低減を図ることができる。
【0078】
更にまた、本実施形態では、ケース48における外面(アッパケース50の上面58)には、人の皮膚に対して留置針Nが留置された状態を示す表示部66が設けられている。これにより、演習者の違和感を抑えることができて、弁体22に輸液装置12のオスコネクタ100を挿入する際にも、実際の患者の留置針Nにオスコネクタ100を接続するような緊張感をもって演習を行うことができる。
【0079】
袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法は、0.01mm以上且つ0.05mm未満とされることが好ましい。袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法が薄く設定されることで、袋体16がより自在に変形することが可能となり、液体14の収容量を大きく確保することができるとともに、袋体16全体の大きさも小さく抑えることができて、ひいては装着型点滴シミュレータ10の小型化も図られる。
【0080】
<変形例>
以上、本開示の具体例として、実施形態1について詳述したが、本開示はこの具体的な記載によって限定されない。本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。例えば次のような実施形態の変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0081】
(1)前記実施形態では、袋体16の内容積が20ml~50mlのものを想定しており、袋体16を構成する弾性体の厚さ寸法を0.01mmとしていたが、例えば袋体の内容積をより大きくすることで弾性体の厚さ寸法もより厚くすることも可能であり、袋体の内容積によっては、弾性体の厚さ寸法は、例えば手術用のゴム手袋(0.2mm程度)と同程度であってもよい。また、袋体を保持するケースの形状や大きさ等も限定されるものではなく、袋体の形状や大きさ等に合わせて適宜変更され得る。
【0082】
(2)前記実施形態では、シミュレータ本体13が別体の帯状体82および粘着シート83に固定されることで装着型点滴シミュレータ10が人体Hの腕部Aに装着されていたが、シミュレータ本体と帯状体、またはシミュレータ本体と帯状体と粘着シートとは一体であってもよく、例えばシミュレータ本体の下面に固定された帯状体を、必要に応じて粘着シートを介して腕部に巻き付けて固定することで、装着型点滴シミュレータが人体に装着されるようになっていてもよい。
【0083】
(3)前記実施形態では、固定部24が帯状体82および粘着シート83を含んで構成されており、帯状体82および粘着シート83を腕部Aに巻き付けて固定していたが、この態様に限定されるものではなく、例えば帯状体と粘着シートの一方は設けられなくてもよい。すなわち、例えば帯状体を腕部Aに直接巻き付けて、この帯状体の外周面にシミュレータ本体を固定してもよいし、粘着シートを腕部Aに貼り付けて、この粘着シートによりシミュレータ本体を固定してもよい。なお、シミュレータ本体が粘着シートにより固定される場合、粘着シートは予めケースの下面に設けられて、シミュレータ本体が腕部Aに貼り付けられることで固定されてもよいし、粘着シートを腕部Aに貼り付けた後、粘着シートに対してシミュレータ本体が固定されてもよい。また、固定部は、例えばゴム等の弾性体からなる環状体を含んで構成されてもよく、外面に面ファスナーのループ部とフック部の一方(例えば、ループ部)が設けられた環状体を人体(患者モデル)の腕部に外挿して固定してもよい。あるいは、ケースが、周上の一部が切り欠かれたブレスレット状とされてもよく、ブレスレット状とされたケースを人体Hにおける装着部位(例えば、腕部A)に嵌め込むことで、装着型点滴シミュレータが人体Hに固定されるようになっていてもよい。この場合、切欠部を有するケースを含んで固定部が構成される。なお、シミュレータ本体を別体の帯状体や環状体に固定する手段は面ファスナーに限定されるものではなく、圧入や凹凸嵌合等、従来公知の取り外し可能な固定手段が採用され得る。
【0084】
(4)本開示に係る装着型点滴シミュレータの装着部位は人体の腕部に限定されるものではなく、例えば脚部であってもよい。また、人体(患者モデル)は臥床状態である必要はなく、椅子(車椅子を含む)やベッドに座った状態や、点滴スタンドを把持して立つ(歩く)状態を再現してもよい。さらに、前記実施形態では、例えば学生等が装着型点滴シミュレータを装着して模擬の点滴患者(患者モデル)を演じる態様を例示したが、例えば等身大の人形(マネキン人形)や人体モデル等であってもよい。このように人形等を利用する場合、点滴状態の患者に対する学習を1人で行うことも可能である。
【0085】
(5)前記実施形態では、表示部66において腕部A’に留置針Nが留置された状態の写真を貼付していたが、例えば腕部A’に留置針Nが留置された状態をケースの外面に対して直接的に印刷してもよいし、描画してもよい。また、留置針Nの刺入部位において発赤や腫脹等の異常が認められる写真等を採用してもよい。このような写真を採用することで、例えば異常発見時にどのような対処を行えばいいか等を併せて効果的に学習することができる。
【0086】
(6)なお、本発明者は、先に特許第7011857号において、学生等を短時間で模擬患者とすることができて、高い学習効果を得ることのできる「装着型シミュレータ」を提案している。本開示に係る装着型点滴シミュレータは、特許第7011857号に開示された装着型シミュレータを組み合わせて採用することで、より高い学習効果を得ることができる。すなわち、本開示に係る装着型点滴シミュレータに加えて、特許第7011857号に開示の装着型シミュレータを装着することで、例えば寝衣交換等の演習を行う際にも肌の露出が抑えられたり、患者に点滴以外の排液チューブや硬膜外カテーテル等が接続されている状態を再現することができて、実際の患者をよりリアルに再現できるだけでなく、学生等が演習に対してより集中して取り組むことができる。
【符号の説明】
【0087】
10 装着型点滴シミュレータ
12 輸液装置
13 シミュレータ本体
14 液体
16 袋体
18 開口部
20 輸液チューブ
22 弁体
24 固定部
26 スリット
27 ハウジング
28 連結部材
30 オスルアー
32 筒状部
34 雌ねじ
35a 小径部
35b 大径部
36 内孔
38 外周突部
40 雄ねじ
42 フランジ状部
44 小径部
46 袋体組付体
48 ケース
50 アッパケース
52 ロアケース
53 内部空間
54 上底壁部
56 上周壁部
58 (上底壁部の)上面
60 (上底壁部の)下面
62 切欠部
64 係止爪
66 表示部
68 底壁部
70 下周壁部
72a 前壁部
72b 後壁部
72c 左壁部
72d 右壁部
74 (ロアケースの)上面
76 (ロアケースおよび底壁部の)下面(載置面)
77 (底壁部の)上面
78 位置決め凹部
80 係止爪
82 帯状体
83 粘着シート
84 第1面
86 第2面
87 フック部が設けられる領域
88 ケース側固定部
90 輸液
92 輸液ボトル
94 スタンド
96 点滴筒
98 クレンメ
100 オスコネクタ
102 テープ
A 腕部
B ベッド
N 留置針
H 人体
【要約】
【課題】点滴が施された患者の静脈血の逆流現象をも有利に再現することができる、新規な構造の装着型点滴シミュレータを開示する。
【解決手段】点滴静脈内注射用の輸液装置12が接続可能な装着型点滴シミュレータ10であって、液体14を収容可能で可撓性を有する袋体16と、袋体16の開口部18を液密に封止して、輸液装置12の輸液チューブ20が連通可能な弁体22と、袋体16を保持して人体Hに装着可能な固定部24と、を備える。
【選択図】
図1