(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】車両用ドア
(51)【国際特許分類】
B60J 5/04 20060101AFI20230601BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20230601BHJP
E05B 77/38 20140101ALI20230601BHJP
【FI】
B60J5/04 Z
B60J5/00 P
B60J5/00 M
E05B77/38
(21)【出願番号】P 2019034832
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 尚周
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-230392(JP,A)
【文献】実公昭58-035555(JP,Y2)
【文献】特開2008-105450(JP,A)
【文献】実開平03-084281(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/04
B60J 5/00
E05B 77/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアアウタパネルとドアインナパネルとがそれらの周縁部で接合されている車両用ドアにおいて、
上記ドアインナパネル
は、取付面、該取付面から車室外側に延出する縁側段部、及び該取付面から車室内側に延出する中央側段部を有し、ドア閉操作時における衝撃力を負担する衝撃力吸収部材と、該衝撃力吸収部材が負担する衝撃力を、上記周縁部を介して上記ドアアウタパネルへ伝達可能な衝撃力伝達部材とが
取り付けられ、
上記衝撃力伝達部材は、上記縁側段部に沿って車室外側に延出する外側フランジ部、該外側フランジ部よりも上記周縁部に近接して上記ドアインナパネルに固着される外側溶接部、上記中央側段部に沿って車室内側に延出する内側フランジ部、及び該内側フランジ部の端部において上記ドアインナパネルに固着される内側溶接部を有することを特徴とする車両用ドア。
【請求項2】
上記衝撃力吸収部材は、ドア閉操作時におけるオーバーストロークを防止するためのストッパーゴムであり、
上記衝撃力伝達部材は、上記ドアインナパネルに沿って、上記ストッパーゴムの取り付け位置から上記ドアアウタパネルへ延びるレインフォースメントであり、該レインフォースメントの端部は、該ドアアウタパネルの周縁部に対して、ドア閉操作時に負担した衝撃力を伝達可能に近接して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドア。
【請求項3】
上記衝撃力吸収部材は、ドア閉操作時にドアストライカの衝撃力を負担するドアラッチであり、
上記衝撃力伝達部材は、上記ドアインナパネルに沿って、上記ドアラッチの取り付け位置から上記ドアアウタパネルへ延びるレインフォースメントであり、該レインフォースメン
トは、
上記外側フランジ部の車室外側に、該ドアアウタパネルの周縁部に近接して設けられ
上記外側溶接部を含む周縁伝達部
と、該周縁伝達部の車室外側端部から該ドアアウタパネルに沿って延出して設けられた対向面
と、上記内側フランジ部の車室内側に上記内側溶接部を含むドアラッチ取付部を備え、
上記周縁伝達部は、上記ドアインナパネルの周縁部を介して、ドア閉操作時に負担する衝撃力を上記ドアアウタパネルへ伝達し、
上記対向面は、上記ドアアウタパネルとの間に充填剤を備え、該充填剤を介して、ドア閉操作時に負担する衝撃力を該ドアアウタパネルへ伝達することを特徴とする請求項1に記載の車両用ドア。
【請求項4】
上記レインフォースメントと上記ドアインナパネルとの間に、弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両用ドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられるドア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドアは車室内側のドアインナパネルと車室外側のドアアウタパネルとを組み合わせて構成されている。ドアインナパネル側には、ドアの閉操作時において車体側に設けられたドアストライカに係合するドアラッチや、オーバーストロークを防止するためのストッパーゴム等が設けられており、ドアを閉操作した際、これらの部材やドアインナパネルの周縁部が、車体の開口縁部に取り付けられたシーミングウェルト(中空ゴム部材)に当接することにより、ドア閉め音が発生する。このようなドア閉め音は、通常、ドアインナパネルからは高い周波数の音が発生しやすく、ドアアウタパネルからは低い周波数の音が発生しやすいという実情が知られている。
【0003】
ドア閉め音に関する技術として、例えば、特許文献1には、車体側に設けられたドアスイッチと当接する位置において、ドアインナパネルに当たり部を設け、ドアインナパネルの振動を抑制することによりドアの閉操作時の異音を低減させた自動車用ドアパネル構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
ところで、ドア閉め音は自動車業界において一般的に、周波数の高い音よりも周波数の低い音が好まれる。周波数の低い音は、乗員に重厚感のある良い印象を与えることができるためである。
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、ドアインナパネルの振動を減衰及び分散することによって周波数の高い音を減少させることはできるが、周波数の低い音を増大させることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ドアを閉操作した際に発生するドア閉め音について、周波数の低い音を増大させることにより、重厚感の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明では、ドアインナパネルに設けられた衝撃力吸収部材が負担する衝撃力を、ドアアウタパネルの縁部へと伝達可能な衝撃力伝達部材を設けた。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
ドアアウタパネルとドアインナパネルとがそれらの周縁部で接合されている車両用ドアにおいて、
上記ドアインナパネルには、ドア閉操作時における衝撃力を負担する衝撃力吸収部材と、該衝撃力吸収部材が負担する衝撃力を、上記周縁部を介して上記ドアアウタパネルへ伝達可能な衝撃力伝達部材とが設けられている構成とする。
【0010】
上記の構成によると、ドアの閉操作の際の衝撃力を衝撃力吸収部材が負担し、その衝撃力は振動として、衝撃力吸収部材からドアインナパネル及び衝撃力伝達部材へ伝わる。そして、振動は、ドアインナパネル及び衝撃力伝達部材によってドアインナパネルとドアアウタパネルの周縁部を介してドアアウタパネルへと伝達される。ドアインナパネルのみの場合、振動は発生源を中心としてドアインナパネルの広範囲に分散され、ドアアウタパネルへ届くまでに減衰してしまう。そこで、衝撃力伝達部材を備えることによって、振動を速く伝えることが可能となる。衝撃力伝達部材及びドアインナパネルによって、減衰量を抑えて振動をドアアウタパネルへ伝えることが可能となり、ドアアウタパネルにおける周波数の低いドア閉め音を増大させることができる。
【0011】
なお、本発明において周波数の低い音とは、例えば、200Hz以下の周波数帯域の音のことを示す。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
上記衝撃力吸収部材は、ドア閉操作時におけるオーバーストロークを防止するためのストッパーゴムであり、
上記衝撃力伝達部材は、上記ドアインナパネルに沿って、上記ストッパーゴムの取り付け位置から上記ドアアウタパネルへ延びるレインフォースメントであり、該レインフォースメントの端部は、該ドアアウタパネルの周縁部に対して、ドア閉操作時に負担する衝撃力を伝達可能に近接して設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によると、ドア閉操作の際にストッパーゴムが負担した衝撃力は振動として、レインフォースメントによってストッパーゴムの取り付け位置からドアアウタパネルに近接する位置へと伝達される。レインフォースメントは、ドアインナパネルに沿って設けられていることにより、ドアインナパネルの剛性を高め、ドアインナパネルにおいて振動を速く伝えることが可能となる。また、レインフォースメント自体も振動を伝えることが可能であるため、レインフォースメント及びドアインナパネルによって、減衰を抑えて振動を伝達することができる。レインフォースメントの端部とドアアウタパネルの周縁部は、衝撃力を伝達可能に近接して設けられているため、レインフォースメントの振動は効果的にドアアウタパネルへと伝達される。
【0014】
第3の発明は、第1の発明において、
上記衝撃力吸収部材は、ドア閉操作時にドアストライカの衝撃力を負担するドアラッチであり、
上記衝撃力伝達部材は、上記ドアインナパネルに沿って、上記ドアラッチの取り付け位置から上記ドアアウタパネルへ延びるレインフォースメントであり、該レインフォースメントの端部は、該ドアアウタパネルの周縁部に近接して設けられた周縁伝達部と、該周縁伝達部の車室外側端部から該ドアアウタパネルに沿って延出して設けられた対向面を備え、
上記周縁伝達部は、上記ドアインナパネルの周縁部を介して、ドア閉操作時に負担する衝撃力を上記ドアアウタパネルへ伝達し、
上記対向面は、上記ドアアウタパネルとの間に充填剤を備え、該充填剤を介して、ドア閉操作時に負担する衝撃力を該ドアアウタパネルへ伝達することを特徴とする。
【0015】
上記の構成によると、ドア閉操作の際にドアラッチが負担した衝撃力は振動として、レインフォースメントによってドアラッチの取り付け位置からドアアウタパネルに近接する周縁伝達部へ伝達される。レインフォースメントはドアインナパネルに沿って設けられていることにより、ドアインナパネルの剛性を高め、ドアインナパネルにおいて振動を速く伝えることが可能となる。また、レインフォースメント自体も振動を伝えることが可能であるため、レインフォースメント及びドアインナパネルによって、減衰を抑えて振動を伝達することができる。レインフォースメントの周縁伝達部とドアアウタパネルの周縁部は近接して設けられている。また、周縁伝達部の車室外側端部から該ドアアウタパネルへ沿って延出して対向面が設けられ、対向面とドアアウタパネルとの間に充填剤を備えている。そのため、レインフォースメントの振動がドアインナパネルの周縁部を介してドアアウタパネルへ伝達されるとともに、対向面から充填剤を介してレインフォースメントの振動がドアアウタパネルへ伝達される。レインフォースメントの振動は周縁部及び充填剤を夫々介すことにより、効果的にドアアウタパネルへと伝達される。
【0016】
第4の発明は、第2及び第3の発明において、
上記レインフォースメントと上記ドアインナパネルとの間に、弾性部材が設けられていることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によると、ドアインナパネルが負担した衝撃力を弾性部材が緩和し、ドアインナパネルにおける振動を減衰させることができるため、ドアインナパネルから発生される高い周波数の音(例えば、400Hz以上の周波数帯域の音)を減少させることができる。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、衝撃力伝達部材によって振動をドアアウタパネルへと伝達することができる。また、衝撃力伝達部材はドアインナパネルの剛性を高め、ドアインナパネルにおいて振動をより速くドアアウタパネルへと伝達することができる。その結果、ドアアウタパネルにおける低周波音の発生を増大させ、重厚感のある印象を与えるドア閉め音が得られる。
【0019】
第2の発明によれば、レインフォースメントは、ドアアウタパネルへと振動を伝達することができる。また、レインフォースメントはドアインナパネルに沿って設けられることにより、ドアインナパネルの剛性を高め、ドアインナパネルにおいて振動をより速く伝達することができる。そして、レインフォースメントの端部とドアアウタパネルの周縁部は、衝撃力を伝達可能に近接して設けられているため、振動をドアアウタパネルへ効果的に伝達することが可能となる。周波数の高い音を発生させる傾向にあるストッパーゴムの周辺において、ドアアウタパネルからの低周波音を増大させることができるため、より効果的にドア閉め音の重厚感を向上させることが可能となる。
【0020】
第3の発明によれば、レインフォースメントは、ドアアウタパネルへと振動を伝達することができる。また、レインフォースメントはドアインナパネルに沿って設けられることにより、ドアインナパネルの剛性を高め、ドアインナパネルにおいて振動をより速く伝達することができる。そして、レインフォースメントの端部は、ドアアウタパネルの周縁部に近接して設けられた周縁伝達部と、周縁伝達部からドアアウタパネルに沿って延出させて設けられた対向面とを備える。そのため、周縁伝達部がドアインナパネルの周縁部を介してドアアウタパネルへ振動を伝達するとともに、対向面がドアアウタパネルとの間に設けられた充填剤を介してドアアウタパネルへ振動を伝達することができる。レインフォースメントは、車室外側端部から、周縁部及び充填剤を夫々介すことにより、振動をドアアウタパネルへ効果的に伝達することが可能となる。周波数の高い音を発生させる傾向にあるドアラッチの周辺において、ドアアウタパネルからの低周波音を増大させることができるため、より効果的にドア閉め音の重厚感を向上させることが可能となる。
【0021】
第4の発明によれば、レインフォースメントとドアインナパネルとの間に設けた弾性部材が、ドアインナパネルにおける衝撃力を緩和し、振動を減衰させるため、ドアインナパネルから発生される高い周波数の音(例えば、400Hz以上の周波数帯域の音)を減少させることができる。また、弾性部材は、レインフォースメントへはほとんど影響を及ぼさないため、レインフォースメントは振動を効果的にアウターパネルへ伝えることができ、低周波音増大の効果を保ったまま、高周波音を減少させることが可能となり、低周波音が強調されたより良好なドア閉め音を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態1に係る車両用ドアを車室内側から見た側面図である。
【
図2】実施形態1に係る
図1のA-A線断面図である。
【
図3】実施形態1に係る車両用ドアを車室外側から見たストッパーゴム周辺の分解斜視図である。
【
図5】実施形態1のドア閉め音を従来と比較して示す音響測定結果のグラフである。
【
図6】実施形態2のドア閉め音を従来と比較して示す音響測定結果のグラフである。
【
図7】従来のドア閉め音についてドアラッチ周辺における音源をマッピングした図である。
【
図8】従来のドア閉め音についてドアインナパネルのストッパーゴム周辺における音源をマッピングした図である。
【
図9】従来のドア閉め音についてドアアウタパネルにおける音源をマッピングした図である。
【
図10】実施形態3に係る
図1のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
尚、以下の実施形態の説明では、説明の便宜を図るために、車両前側を単に「前」といい、車両後ろ側を単に「後」という。
【0025】
(実施形態1)
図1乃至3は、本発明の実施形態に係る車両用ドア1を示すものである。ここで、
図1は、車両用ドアを室内側から見た側面図であり、
図2は、
図1のA-A線断面図である。また、
図3は車両用ドアを車室外側から見た部分分解斜視図である。
【0026】
本実施形態1において、車両用ドア1は、自動車の前方右側面に取り付けられている。車両用ドア1は、下半部に位置するドア本体部2と、ドア本体部2の上端から上方へ延びるサッシュ3からなり、ドア本体部2及びサッシュ3は、車室内側に位置するドアインナパネル10と、車室外側に位置するドアアウタパネル20から構成されている。本実施形態においてサッシュ3は、ドアインナパネル10に一体形成されているが、これに限られるものではなく、別体で形成されていてもよい。
【0027】
図2に示すように、ドアアウタパネル20の周縁部20aがドアインナパネル10の周縁部10aを挟み込んで車室内側へ折り返されてヘミング加工されることにより、ドアインナパネル10とドアアウタパネル20が接合されている。
【0028】
ドアアウタパネル20は、例えば鋼合金製の板材をプレス成形してなるものであり、例えば、ドア本体部2において、周縁部20aより中央側が車室外側へ滑らかに湾曲して形成されている。
【0029】
ドアインナパネル10は、例えば鋼合金製の板材をプレス成形してなるものであり、ドア本体部2において、周縁部10aより中央側が車室内側へ膨出して形成されている。そのため、ドアインナパネル10とドアアウタパネル20との間には、空間が設けられており、この空間にはウィンドガラスの昇降装置(図示せず)等が収容されるようになっている。ドアインナパネル10には、車両用ドア1の閉操作を行った際に衝撃力を負担する衝撃力吸収部材30が設けられている。
図2及び
図3に示すように、本実施形態における衝撃力吸収部材30は、ドア閉操作時におけるオーバーストロークを防止するストッパーゴム31である。
【0030】
ストッパーゴム31は、例えばゴム等の弾性材で形成されたものであり、ドアインナパネル10の後方下部において、車室内側に突出し、車体側パネル50に当接可能に取り付けられている。
図2に示すように、ストッパーゴム31は、ドアインナパネル10の車室内側に突出する略円柱形状の本体部と、ドアインナパネル10の車室外側に突出する取付部31aからなる。取付部31aは、本体部の底面に本体部よりも径の小さい基部を有し、端部へ向かって径の小さくなる略円錐形状である。
【0031】
ストッパーゴム31が取り付けられるドアインナパネル10の取付面10bには、ストッパーゴム31本体部の底面が当接するストッパーゴム取付部10cが形成されている。ストッパーゴム取付部10cは車室外側へ凹んだ形状であり、中央部に取付孔10dが形成されている。取付孔10dには、車室内側から取付部31aが挿入されてストッパーゴム31が取り付けられている。
【0032】
ドアインナパネル10は、取付面10bから周縁部10aへ向かって車室外側に延出して縁側段部10eが形成され、縁側段部10eの端部がドアアウタパネル20に沿って後方へ折り曲げられて周縁部10aとなっている。また、取付面10bから中央部へ向かって車室内側に延出して中央側段部10fが形成され、中央段部10fから前方へ折り曲げられて本体面10gが形成されている。
【0033】
また、ドアインナパネル10の車室外側面には、衝撃力吸収部材30(ストッパーゴム31)とその周辺を覆うように、ドアインナパネル10に沿って衝撃力伝達部材40が取り付けられている。本実施形態における衝撃力伝達部材40とは、レインフォースメント41である。レインフォースメント41は、例えばドアアウタパネル20と同様の鋼板をプレス成形してなるものであり、一般的には補強部材として用いられるが、本発明においては、衝撃力吸収部材30が負担する衝撃力を、周縁部10a、20aを介してドアアウタパネル20へ伝達可能とするために、その配置や形状が考慮されたものである。
【0034】
レインフォースメント41は、ストッパーゴム取付部10cからドアアウタパネル20へ延出して形成されている。ドアインナパネル10の取付面10bに対向する本体板部41aには、ストッパーゴム取付部10cに対向する位置に孔41bが設けられている。その孔41bはストッパーゴム30の取付部31aよりも大きく、ストッパーゴム30とレインフォースメント41とが当接しないように形成されている。また本体板部41aは、孔41bの周辺において、スポット溶接によりドアインナパネル10の取付面10bと固着された溶接部41cを有する。溶接部41cの数は限定されないが、例えば、孔41bの周りを取り囲むようにほぼ等間隔に4つ設けられている。なお、レインフォースメントをインナパネルへ固着する方法はスポット溶接に限られず、例えば、スポット溶接と接着剤を併用させたウェルボンド法など、他の工法を用いてもよい。以下の説明においても同様である。
【0035】
本体板部41aから、ドアアウタパネル20の周縁部20aへ向かって、ドアインナパネル10の縁側段部10eに沿って車室外側へ延出する外側フランジ部41dが形成されている。外側フランジ部41dの端部は、ドアインナパネル10の縁側段部10eから周縁部10aへと続く折り曲げ部の近傍まで延び、ドアアウタパネル20の周縁部20aに対して、ドア閉操作時に負担した衝撃力を伝達可能に近接して設けられており、スポット溶接によりドアインナパネル10の縁側段部10eと固着された外側溶接部41eを有する。
【0036】
また、本体板部41aから、ドアインナパネル10の中央側段部10fに沿って車室内側へ延出する内側フランジ部41fが形成されている。内側フランジ部41fの端部は、前方へ折り曲げられて、ドアインナパネル10の本体面10gに沿っており、スポット溶接により本体部10gと固着された内側溶接部41gを有する。
【0037】
(実施形態1の作用及び効果)
以上のように構成した車両用ドア1は、ドアの閉操作の際の衝撃力を衝撃力吸収部材30であるストッパーゴム31が負担し、その衝撃力は振動として、ストッパーゴム31からドアインナパネル10、及び、溶接部41cを介して衝撃力伝達部材40(レインフォースメント41)へ伝わる。ドアインナパネル10が、ストッパーゴム取付部10cから縁側段部10eの端部へと振動を伝達するとともに、レインフォースメント41が、ストッパーゴム取付部10cに対向する本体板部41aから、外側フランジ部41dの端部へと振動を伝達する。そして振動は、ドアインナパネル10及びレインフォースメント41によってドアインナパネル10とドアアウタパネル20の周縁部10a、10bを介してドアアウタパネル20へと伝達される。レインフォースメント41によってドアインナパネル10の剛性が高まるとともに、レインフォースメント41自体がドアアウタパネル20へ振動を伝えることにより、ドアアウタパネル20へ速く振動が伝えられ、振動の減衰は抑えられるため、ドアアウタパネル20における周波数の低いドア閉め音を増大させることができる。また、レインフォースメント41の外側フランジ部41dの端部とドアアウタパネル20の周縁部20aは、衝撃力を伝達可能に近接して設けられているため、レインフォースメント41の振動が効果的にドアアウタパネル20へと伝達可能である。
【0038】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係る車両用ドア1を示すものである。この実施形態2の車両用ドア1は、レインフォースメント41とドアインナパネル10との間に、弾性部材60が設けられている点で実施形態1と異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
【0039】
ドアインナパネル10の取付面10bの車室外側には、レインフォースメント41とドアインナパネル10との間に弾性部材60が部分的に充填されている。この弾性部材60は、レインフォースメント41とドアインナパネル10の取付面10bとの溶接部41c(
図4において図示せず)の近傍において、取付孔10dの周囲に複数箇所スポット的に設けられている。弾性部材60として、例えば、マスチックシーラと呼ばれる合成ゴムを主成分とした熱硬化型の弾性接着剤を用いることができる。本実施形態においては、サンライズMSI社製の「Z66MD」を使用している。
【0040】
弾性部材60を設ける際には、最初にレインフォースメント41の本体板部41aの室内側面に弾性部材60をスポット的に塗布しておく。そのレインフォースメント41をドアインナパネル10の車室外側の所定位置に合わせた後、スポット溶接を行って、溶接部41c、41e、41gを形成する。そして、弾性部材60は塗装後の焼付工程によって硬化する。
【0041】
(実施形態2の作用及び効果)
以上のように構成した車両用ドア1は、衝撃力吸収部材30であるストッパーゴム31が負担した衝撃力を弾性部材60が緩和し、ドアインナパネル10における振動を減衰させることができるため、ドアインナパネル10から発生される高い周波数の音(例えば、400Hz以上の周波数帯域の音)を減少させることができる。また、弾性部材60は、レインフォースメント41へはほとんど影響を及ぼさないため、レインフォースメント41による低周波音増大の効果を保ったまま、高周波音を減少させることが可能となり、低周波音が強調されたより良好なドア閉め音を発生させることが可能となる。
【0042】
(ドア閉め音の音響測定)
次に、実施形態1及び2に係る車両用ドアについて、ドア閉め音の音域が従来のドアと比較してどのように変化したかを確認するため、音響測定を行った結果を説明する。具体的には、半無響室において、マイク(ブリュエル・ケアー社製、マイクロホン、タイプ4189)によってドア閉め音を測定し、ソフトウェアにはブリュエル・ケアー社製のサウンドクオリティ7698型を用いて解析を行った。マイクの位置は、前後方向の位置を、自動車の前方右側のドアのドアノブの中心位置となるようにし、高さは地面から1650mmとした。また、ドアノブの中心からマイクスタンドまでの車幅方向の距離は850mmとなるようにマイクを固定した。そして、速度計をドアの後方に配置して、ドアの閉操作を何度も繰り返したうち、ドアの移動速度が1.4±0.01m/sとなった際のデータをサンプリングした。3回の測定でほぼ同等の数値が得られたため、そのうち1回のデータについて
図5及び
図6に示す。なお、測定は0~3000Hzの音域において行ったが、
図5及び
図6は、変化が顕著に見られた0~1000Hzについてのデータをグラフ化したものである。
【0043】
図5は、実施形態1に係る車両用ドア(実線)と従来の車両用ドア(破線)とのドア閉め音を比較して示すグラフである。実施形態1では、従来よりも400Hz以下、特に200Hz以下の領域で音が大きくなっていることが分かり、レインフォースメントによるドアアウタパネルへの振動の増大の効果が確認された。
【0044】
図6は、実施形態2に係る車両用ドア(実線)と従来の車両用ドア(破線)とのドア閉め音を比較して示すグラフである。実施形態2では、700Hz以上の高い周波数領域では、従来よりも音の大きさが抑制されていることから、弾性部材によるドアインナパネルへの振動の減衰の効果が示された。また、実施形態1と同等に、特に200Hz以下の領域で音が大きくなっていることから、弾性部材による振動減衰の効果はレインフォースメントへ及ぼされることはなく、レインフォースメントによるドアアウタパネルへの振動の増大の効果が得られることが確認された。
【0045】
(従来の車両用ドアにおけるドア閉め音の音源探査)
次に、従来の車両用ドアのドア閉め音の発生源を調査した結果を説明する。具体的には、半無響室において、自動車の前方右側のドアとほぼ平行となるようマイクアレイ(ブリュエル・ケアー社製、ホイールアレイ)を設置し、ビームフォーミングという音源探査手法によってドア閉め音を測定し、ソフトウェアにはブリュエル・ケアー社製のビームフォーミング8608型を用いて解析を行った。ドアアウタパネルの中心にマイクアレイの中心が位置するよう、地面からマイクアレイ中心までの高さを800mmとし、ドアアウタパネル20の中心からマイクアレイ中心までの車幅方向の距離が2000mmとなるように、マイクアレイを固定した。そして、速度計をドアの後方に配置して、ドアの閉操作におけるドアの移動速度が1.4±0.01m/sの際のドア閉め音を測定した。
【0046】
図7乃至
図9は、測定した従来のドア閉め音について、車両用ドアの画像上に音源のサウンドマップを表示したものである。ここで、
図7は、ドアラッチ周辺における音源をマッピングした図であり、
図8は、ドアインナパネルのストッパーゴム周辺における音源をマッピングした図である。また、
図9は、ドアアウタパネルにおける音源をマッピングした図である。
【0047】
図7及び
図8に示すように、ドアインナパネルにおいて、ドアラッチ、及び、ストッパーゴムとその周辺がドア閉め音の音源であり、その音は300Hz以上の高い周波数領域であることが確認された。また、
図9に示すように、ドアアウタパネルにおいてもドア閉め音が発生しており、その音は200Hz以下の低い周波数領域であることが確認された。この結果から、ドア閉め音を低い周波数領域において増大させるには、ドアアウタパネルにおける音の発生を増大させることが効果的であり、高い周波数領域において減少させるには、ドアインナパネル10の衝撃力吸収部材(特にストッパーゴム及びドアラッチ)における音の発生を抑制させることが効果的であることが示された。
【0048】
(実施形態3)
図10は、本発明の実施形態3に係る車両用ドア1を示すものである。この実施形態3の車両用ドア1は、ドアインナパネル10やドアアウタパネル20等の部材の構成としては実施形態1とほぼ同じであるが、衝撃力吸収部材30がドアラッチ32である点や、衝撃力伝達部材40(レインフォースメント42)の形状が異なる。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
【0049】
ドアインナパネル10には、車両用ドア1の閉操作を行った際に衝撃力を負担する衝撃力吸収部材30が設けられている。本実施形態における衝撃力吸収部材30は、ドア閉操作時にドアストライカ70の衝撃力を負担するドアラッチ32(
図10において詳細な機構は省略)である。
【0050】
ドアインナパネル10は、ストッパーゴム31を取り付けた取付面10bの上方において、周縁部10aとその車室内側に位置する本体面10gとの間に階段状の段部10hが形成されている。段部10hと本体面10gとの間に形成された角部は、ドアストライカ70に対向する位置においてL字状に切り欠かれ、ドアストライカ70を挿抜するための挿抜孔10iが設けられている。ドアインナパネル10の車室外側には、挿抜孔10iの周囲を覆うように、ドアインナパネル10に沿って衝撃力伝達部材40が取り付けられている。本実施形態における衝撃力伝達部材40とは、レインフォースメント42である。
【0051】
レインフォースメント42は、ドアインナパネル10の挿抜孔10iに対向する位置に、挿抜孔10iよりもやや大きい孔42aが設けられており、その孔42aの周囲がドアラッチ取付部42bとなっている。ドアラッチ取付部42bにおいて、ドアインナパネル10とレインフォースメント42はスポット溶接され、レインフォースメント42の室外側にドアラッチ32が固定されている。
【0052】
ドアラッチ取付部42bから、ドアインナパネル10に沿って、周縁部10aへ延びるようにレインフォースメント42が形成されている。レインフォースメント42の車室外側の端部は、ドアインナパネル10の段部10hから周縁部10aへと続く折り曲げ部の近傍まで延び、ドアアウタパネル20の周縁部20aに対して、ドア閉操作時に負担した衝撃力を伝達可能に近接して設けられた周縁伝達部42cを備える。周縁伝達部42cにおいて、レインフォースメント42とドアインナパネル10はスポット溶接されてドアインナパネル10の段部10hと固着されている。また、レインフォースメント42は、周縁伝達部42cの車室外側端部からドアアウタパネル20に沿って延出して設けられた対向面42dを備える。対向面42dは、周縁伝達部42cの車室外側端部をドアアウタパネル20の周縁部20a側から内周側へ向かって屈折させ、内周側へ延出させることにより形成されており、ドアアウタパネル20と対向面42dとは面同士で対向している。対向面42dとドアアウタパネル20との間には充填剤80が設けられている。充填剤80は、ドアアウタパネル20の対向面42dと向かい合う位置へスポット的に塗布され、ドアインナパネル10とドアアウタ20パネルが接合された際に、レインフォースメント42とドアアウタパネル20とを固着する。また、充填剤80は、レインフォースメント42の振動をドアアウタパネル20へ伝達可能なほどに剛性を有するものであり、例えば、実施形態2において用いられた弾性部材60と同様の材質を用いることも可能である。
【0053】
(実施形態3の作用及び効果)
以上のように構成した車両用ドア1は、ドアの閉操作の際の衝撃力を衝撃力吸収部材30であるドアラッチ32が負担し、その衝撃力は振動として、ドアラッチ32からドアインナパネル10、及び、衝撃力伝達部材40(レインフォースメント42)へ伝わる。ドアインナパネル10が、挿抜孔10iの周辺から段部10hの端部へと振動を伝達するとともに、レインフォースメント42が、ドアラッチ取付部42bから車室外側の端部へと振動を伝達する。そして振動は、ドアアウタパネル20の周縁部に近接して設けられた周縁伝達部42cから、ドアインナパネル10及びドアアウタパネル20の周縁部10a、10bを介してドアアウタパネル20へと伝達されるとともに、周縁伝達部42cの車室外側端部からドアアウタパネル20に沿って延出して設けられた対向面42dから、充填剤80を介してドアアウタパネル20へと伝達される。レインフォースメント42によって、ドアインナパネル10の剛性が高められ、ドアインナパネル10において速く振動を伝えることが可能となり、レインフォースメント42の周縁伝達部42c及び対向面42dの夫々から、ドアアウタパネル20へと効果的に振動を伝えることが可能となるため、ドアアウタパネル20における周波数の低いドア閉め音を増大させることができる。レインフォースメント42の車室外側の端部とドアアウタパネル20の周縁部20aは、衝撃力を伝達可能に近接して設けられているため、レインフォースメント42の振動が効果的にドアアウタパネル20へと伝達可能である。
【0054】
なお、実施形態3におけるドアラッチ取付部42b周辺においても、実施形態2と同様に弾性部材60をドアインナパネル10とレインフォースメント42との間に設けることが可能であり、実施形態2と同様にドアアウタパネル20における低周波音の増大と、ドアインナパネル10における高周波音の減少の効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明にかかる車両用ドアは、例えば車両側部に配設されるドアに適している。
【符号の説明】
【0056】
1 車両用ドア
10 ドアインナパネル
10a 周縁部
10c ストッパーゴム取付部
20 ドアアウタパネル
20a 周縁部
30 衝撃力吸収部材
31 ストッパーゴム
32 ドアラッチ
40 衝撃力伝達部材
41 レインフォースメント(実施形態1)
42 レインフォースメント(実施形態3)
42b ドアラッチ取付部
42c 周縁伝達部
42d 対向面
60 弾性部材
80 充填剤