IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 戸田工業株式会社の特許一覧

特許7288579アニリンブラック粒子、並びに該アニリンブラック粒子を用いた樹脂組成物、水系分散体、及び非水系分散体
<>
  • 特許-アニリンブラック粒子、並びに該アニリンブラック粒子を用いた樹脂組成物、水系分散体、及び非水系分散体 図1
  • 特許-アニリンブラック粒子、並びに該アニリンブラック粒子を用いた樹脂組成物、水系分散体、及び非水系分散体 図2
  • 特許-アニリンブラック粒子、並びに該アニリンブラック粒子を用いた樹脂組成物、水系分散体、及び非水系分散体 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】アニリンブラック粒子、並びに該アニリンブラック粒子を用いた樹脂組成物、水系分散体、及び非水系分散体
(51)【国際特許分類】
   C09B 17/02 20060101AFI20230601BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230601BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20230601BHJP
   C08G 73/02 20060101ALI20230601BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230601BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C09B17/02
C08L101/00
C08L79/00 A
C08G73/02
C09D17/00
C09B67/46 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018236014
(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2019112624
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2017248021
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 宗由
(72)【発明者】
【氏名】栗田 栄一
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-153745(JP,A)
【文献】特開2012-153744(JP,A)
【文献】特開2019-070118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00-69/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の平均粒径が0.05~1.0μmである耐ブリード性のアニリンブラック粒子において、アニリン4量体、及びアニリン3量体の含有量が、それぞれ、1~50ppmであることを特徴とするアニリンブラック粒子。
【請求項2】
液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による前記アニリン4量体の測定において、質量電荷比m/z値が379~381である請求項1記載のアニリンブラック粒子。
【請求項3】
液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による前記アニリン3量体の測定において、質量電荷比m/z値が290~292である請求項1又は2に記載のアニリンブラック粒子。
【請求項4】
硫黄含有量が0.01~0.19重量%である請求項1~3のいずれかに記載のアニリンブラック粒子。
【請求項5】
粉体pHが2.0~9.0である請求項1~4のいずれかに記載のアニリンブラック粒子。
【請求項6】
体積固有抵抗値が10~1010Ω・cmである請求項1~5のいずれかに記載のアニリンブラック粒子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のアニリンブラック粒子を含んでなる樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のアニリンブラック粒子を含んでなる水系分散体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載のアニリンブラック粒子を含んでなる非水系分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂などの媒体に着色成分が溶出する現象のブリードが抑制されたアニリンブラック粒子を提供するものである。
【0002】
また、本発明は、前記アニリンブラック粒子によって着色され、ブリードが抑制された樹脂組成物、水系分散体、及び非水系分散体を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
アニリンブラックは、特徴的な黒色を発し、水系や非水系などの分散媒に溶けにくいことから、古くから黒色顔料として使用されてきた。アニリンブラックは、アニリンなどの芳香族アミンの酸化重合によって得られるポリアニリンの一種であり、化1で示されるN-フェニルジベンゾパラアジン重合体による基本骨格が主成分として構成されると云われている。また、アニリンのp位で重合されたエメラルジンなどの直鎖のポリアニリンは、緑~紫色であり、主に有機導電体として用いられている。
【0004】
【化1】
【0005】
化1中のnは重合度を示し、Xは水酸基、塩素などの酸基を示す。化1の酸基とは、アニリンブラックのNカウンターアニオンとなるもので、各種有機酸、無機酸から構成される。代表的な有機酸とは、蟻酸、酢酸などであり、代表的な無機酸とは、塩酸、硝酸、硫酸などである。
【0006】
従来、アニリンブラックは、カーボンブラックでは表現できない青みの黒色を呈し、その特長を生かして、塗料、印刷インキ、絵の具、ポスターカラー、プラスチック、熱転写インキなど、各種用途に使用されている(特許文献1~3)。従来、アニリンブラックの製造に用いられる酸化剤としては、重クロム酸塩を用いる方法が最適とされている。ここで、重クロム酸塩は極めて強い酸化剤であるため、アニリン等の出発原料から十分な酸化縮合を発生させる。さらには、重クロム酸由来の酸化クロムがアニリンブラック主鎖骨格に配位するため、分子内、或いは分子間で強いネットワークを形成し、高い堅牢性を発揮する。
【0007】
しかしながら、重クロム酸塩に含まれる、クロムは人体に極めて有害な公害物質である可能性がある。(現在、重クロム酸で合成されたアニリンブラックに含まれる酸化クロムは色素に配位結合し、有害な六価クロムは含まれず安全性が認められてはいる。)従って、これらクロムを製造時に使用せず、混入する恐れの全くないアニリンブラックが求められている。これら製造と品質の観点から、安全性が達成されることによって、現在まで敬遠されていたアイブロウペンシル、アイブロウパウダー、アイブロウマスカラ、アイシャドー、コンパクトパウダー、ファンデーション、リップスティック、ネイルエナメルなどの化粧料といった直接肌に触れる用途にも展開の可能性がでてくる。
【0008】
近年、クロムを含まないアニリンブラックの製造方法として、アニリンを酸の水溶液とし、過硫酸塩で酸化することを特徴とする製造方法(特許文献4)、或いは過酸化水素と、それの分解触媒となりうる金属または金属塩を用い、発生するOHラジカルを酸化剤としてアニリンを酸化させてなる製造方法(特許文献5、6)が知られている。
【0009】
また、黒色度が高く粒子径を高度に制御したπ共役系重合体として、水溶性高分子化合物、遷移金属化合物、及びプロトン酸の存在下に、酸化剤によりアニリン等の出発原料を酸化重合することにより得られる黒色顔料(特許文献7)が知られている。
【0010】
さらには、酸化重合過程で触媒と酸化剤を同時に滴下することで、酸化剤の分解速度を任意に制御して、一次粒子の軸比が小さいアニリンブラック(特許文献8)、酸化重合過程でアニリンとスルホニル化合物が共重合反応することによりスルホン基を含有するアニリンブラック(特許文献9)が知られている。
【0011】
一方で、電子写真用非磁性現像剤や液晶用ブラックマトリクスなどの黒色の着色剤は、ほとんどが安価で、黒色度に優れ、耐熱性に優れるカーボンブラックが使用されている。近年、電子写真画像の高画質化や、ブラックマトリクスの高遮光率化が求められており、着色剤の添加量を増やすなどの高濃度化が検討されている。しかしながら、カーボンブラックはバインダー樹脂中での分散が難しく、体積固有抵抗値も低い。そのため、カーボンブラックを非磁性黒色現象剤として用いる場合、現像剤の帯電性能が阻害(帯電保持能力低下)されるという課題が残る。一方、カーボンブラックをブラックマトリクスとして用いる場合、分散液中でカーボンブラックの分散安定性を付与することが難しいため流動性が悪くなり、レジスト薄膜としての体積抵抗値も低くなるという課題が残る。
【0012】
一般に、アニリンブラックはカーボンブラックなどの無機の黒色顔料に比べて体積固有抵抗値が高いことが知られており、前述の課題を克服するためにアニリンブラックの適用検討が行われている。電子写真用非磁性現像剤の黒色の着色剤としては高温・高湿時においても電荷のリークが少ない、帯電保持性能に優れる現像剤としての適用が検討されている(特許文献10~12)。
【0013】
従来のクロム含有量の多いアニリンブラックは酸化クロムイオンが酸基となって配位している。そのため、アニリンブラックに含まれる染料成分の低分子アニリン重合体(アニリン4量体、および、アニリン3量体)までも、酸化クロムイオンの配位で不溶化し、媒体への溶出の少ない、即ち、ブリード抑制されたアニリンブラックとして機能している可能性がある。一方、酸化クロムイオンの含有量が少ないアニリンブラックの場合、該アニリンブラックに含まれる低分子アニリン重合体が樹脂や非水溶媒などの媒体に一部溶出しやすくなっている可能性がある。即ち、アニリン4量体やアニリン3量体の存在に伴うブリードと云われる不具合がしばしば発生する可能性がある。アニリンブラックにモンモリロナイト系の粘土鉱物を配合して、ブリード成分をモンモリロナイト系の粘土鉱物に吸着させる試みもある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平11-140349号公報
【文献】特開平10-212428号公報
【文献】特開2002-371219号公報
【文献】特開2001-261989号公報
【文献】特開平10-245497号公報
【文献】特開2000-72974号公報
【文献】特開平9-31353号公報
【文献】特開2012-153744号公報
【文献】特開2012-153745号公報
【文献】特開2010-19970号公報
【文献】特開2005-195693号公報
【文献】特開2001-106938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これまで述べてきたように、クロム含有量が低く、黒色度に優れ、ブリードが抑制され、且つ体積固有抵抗値が高いアニリンブラックは、従来からの塗料、印刷インキなどの用途に加え、電子写真用非磁性現像剤、液晶用ブラックマトリクス、化粧料といった用途に展開されるようになってきている。そのため、前述の、低クロム含有量、高黒色度、及び高体積固有抵抗値といった特性を持ちながら、ブリードが抑制されたアニリンブラックが望まれるところである。しかしながら、要求される品質が多いためか、このような特性を満たすアニリンブラックはいまだ得られていない。
【0016】
即ち、前出特許文献1に記載のアニリンブラックでは、ブリード抑制のために添加物が必要となり、十分な黒色を示すことができなくなる。また、前出特許文献1~12に記載のアニリンブラックでは、ブリード抑制のための低分子アニリン重合体の含有量に関する記述が無く、アニリンブラック単独でブリード抑制ができたとは言い難い。
【0017】
そこで、本発明は、クロム含有量が低く、且つ低分子アニリン重合体の含有量が低いアニリンブラックを提供することを技術的課題とする。また、該アニリンブラックによって着色し、ブリードが抑制され、黒色度に優れ、分散性に優れた樹脂組成物を提供することとする。加えて、該アニリンブラックによって着色し、黒色度に優れ、分散性に優れた水系、及び非水系分散体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0019】
すなわち、本発明は、一次粒子の平均粒径が0.05~1.0μmである耐ブリード性のアニリンブラック粒子において、アニリン4量体、及びアニリン3量体の含有量が、それぞれ、1~50ppmであることを特徴とするアニリンブラック粒子である。(本発明1)
【0020】
また、本発明は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による前記アニリン4量体の測定において、質量電荷比m/z値が379~381である本発明1記載のアニリンブラック粒子である。(本発明2)
【0021】
また、本発明は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による前記アニリン3量体の測定において、質量電荷比m/z値が290~292である本発明1又は2のいずれかに記載のアニリンブラック粒子である。(本発明3)。
【0022】
また、本発明は、硫黄含有量が0.01~0.19重量%である本発明1~3のいずれかに記載のアニリンブラック粒子である。(本発明4)
【0023】
また、本発明は、粉体pHが2.0~9.0である本発明1~4のいずれかに記載のアニリンブラック粒子である。(本発明5)
【0024】
また、本発明は、体積固有抵抗値が10~1010Ω・cmである本発明1~5のいずれかに記載のアニリンブラック粒子である。(本発明6)
【0025】
また、本発明は、本発明1~6のいずれかに記載のアニリンブラック粒子を含んでなる樹脂組成物である。(本発明7)
【0026】
また、本発明は、本発明1~6のいずれかに記載のアニリンブラック粒子を含んでなる水系分散体である。(本発明8)
【0027】
また、本発明は、本発明1~6のいずれかに記載のアニリンブラック粒子を含んでなる非水系分散体である。(本発明9)
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るアニリンブラックは、クロムの含有量が非常に小さく、ブリードが抑制されており、黒色度に優れ、体積固有抵抗値が高いアニリンブラックとして好適である。
【0029】
本発明に係るアニリンブラックによって着色した樹脂組成物は、ブリードが抑制されており、黒色度に優れ、分散性に優れた樹脂組成物として好適である。
【0030】
本発明に係るアニリンブラックによって着色した水系、及び非水系分散体は、黒色度に優れ、分散性に優れた水系、及び非水系分散体として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例1で得られたアニリンブラックのフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によるスペクトルである。
図2】本発明の実施例1で得られたアニリンブラックの液体クロマトグラフィー質量分析法によるUV-vis(波長:258nm)検出のクロマトチャートである。
図3】本発明の比較例1で得られたアニリンブラックの液体クロマトグラフィー質量分析法によるUV-vis(波長:258nm)検出のクロマトチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0033】
先ず、本発明に係るアニリンブラック粒子について述べる。なお、本明細書を通じて、アニリンブラック粒子を単にアニリンブラックと記載することもある。
【0034】
本発明に係るアニリンブラックは、クロムの含有量が1000ppm以下である。クロムの含有量が1000ppmを超えると、アニリンブラック製造時に原料としてクロム含有化合物を使用して、アニリンブラックにクロムを含有させる必要がある。クロム含有化合物の使用は安全な製法とは言い難く、また、クロム含有量の高いアニリンブラックは安全な製品とは言い難い。好ましくは、クロムの含有量が900ppm以下であり、より好ましくは800ppm以下である。理想的にはクロムを含まないことが好ましい。尚、アニリンブラックに含有するクロムは、アニリンブラック製造時の配管の溶出成分等、不可避的に混入するクロムも含まれている。
【0035】
本発明に係るアニリンブラックの一次粒子の平均粒径は、0.05μm~1.0μmの範囲である。アニリンブラックの一次粒子の平均粒径が0.05μm未満の場合には、透明性が高くなり、着色力が減少するため、得られる黒色度が劣る。また、一次粒子の平均粒径が1.0μmを超える場合には着色力が低いため、黒色顔料として使用しづらい。好ましい一次粒子の平均粒径は0.10~0.85μmである。
【0036】
本発明に係るアニリンブラックは耐ブリード性を有する。具体的には、本発明に係るアニリンブラック含有樹脂組成物を作製後、後述する塩化ビニルによるブリード試験にて、ブリード色差ΔEが3.0以下であることが好ましい。ブリードは樹脂などの媒体に着色成分が溶出する現象であり、着色物のにじみ、色移りなどの不具合の元となる。従って、ブリードが抑制されているとは、樹脂組成物のブリード試験にてΔEが3.0以下の場合をいうことができる。ΔEが3.0を超える場合、着色成分が樹脂などの媒体に溶けだしていることがわずかな量であっても、ブリードによる着色を目視にて識別できる。より好ましくは、ΔEが1.5以下であり、さらに、より好ましくはΔEが1.0以下である。尚、検出限界のΔEは0.01である。
【0037】
本発明に係るアニリンブラックのブリード原因は、アニリンブラックに微量含まれる染料成分の低分子アニリン重合体であると予想される。特に、化1中のN-フェニルジベンゾパラアジン基本構造が発色性を示すため、その基本構造を最低限含むアニリン3量体以上がブリードの原因と予想される。本発明者等による鋭意研究の結果、ブリードが発生したアニリンブラックを溶剤で抽出するとアニリン4量体、及びアニリン3量体の染料成分が抽出された。抽出されたアニリン4量体、及びアニリン3量体の量とブリードの頻度に相関があることを発見し、それらの量を低減したアニリンブラックを開発して、本発明に至った。アニリン5量体以上は溶剤や樹脂に抽出されてこないことから、アニリン5量体以上は顔料として挙動し、ブリードとは相関がないものと考えられる。
【0038】
本発明に係るアニリンブラックに含まれるアニリン4量体は、アミノフェニルアミノ-N-フェニルジベンゾパラアジン(分子量M=363)と推定される。LC/MSにおけるエレクトロスプレー法による正イオン検出マススペクトルによる質量電荷比m/z値は、条件によって検出される分子量に付加イオンが結合した状態、水素イオン付加[M+H]=364、アンモニウムイオン付加[M+NH=380、ナトリウムイオン付加[M+Na]=386、カリウムイオン付加[M+K]=402、あるいは、複数混合して検出される。また、装置上の誤差を考慮しても、アニリン4量体として検出される質量電荷比m/zは363~403である。
【0039】
本発明に係るアニリンブラックに含まれるアニリン3量体は、アミノ-N-フェニルジベンゾパラアジン(分子量M=272)と推定される。アニリン4量体の同定と同様に、質量電荷比m/z値は、条件によって検出される分子量に付加イオンが結合した状態、水素イオン付加[M+H]=273、アンモニウムイオン付加[M+NH=289、ナトリウムイオン付加[M+Na]=295、カリウムイオン付加[M+K]=311、あるいは、複数混合して検出される。また、装置上の誤差を考慮しても、アニリン3量体として検出される質量電荷比m/z値は272~312である。
【0040】
本発明に係るアニリンブラックは、アニリン4量体、及びアニリン3量体を、各々、1~50ppm含んでいる。前述の通り、アニリン4量体、及びアニリン3量体はブリードの主原因物質となり得る。これらの低分子アニリン重合体は、黄~赤の染料成分であり、各々、50ppmを超えると、その染料成分が樹脂などの分散媒に溶出する現象、すなわち、ブリードとして観測される。アニリン4量体、及びアニリン3量体が1ppm未満のアニリンブラックを製造することは困難であった。好ましくは、アニリン4量体、及びアニリン3量体の含有量が、それぞれ、2~45ppmの範囲である。より好ましくは、それぞれ、3~40ppmの範囲である。
【0041】
本発明に係るアニリンブラックのアニリン4量体の質量電荷比m/z値は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)で379~381であることが好ましい。本発明に係るアニリンブラックの合成条件においては、アニリン4量体の質量電荷比m/z値の種々の値を取り得るが、着色成分として検出できる質量電荷比m/z値は379~381であった。好ましくは、379.2~380.8である。
【0042】
本発明に係るアニリンブラックのアニリン3量体の質量電荷比m/z値は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)で290~292であることが好ましい。本発明に係るアニリンブラックの合成条件においては、アニリン3量体の質量電荷比m/z値の種々の値を取り得るが、着色成分として検出できる質量電荷比m/z値は290~292であった。好ましくは、290.2~291.8である。
【0043】
本発明に係るアニリンブラックの硫黄含有量は、0.01~0.19重量%が好ましい。得られるアニリンブラックの硫黄含有の由来は、アニリンを水に溶解させるために用いる硫酸などの酸や、酸化剤に用いる過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、あるいは、酸化触媒に用いる硫酸鉄など、従来アニリンブラック合成で頻繁に用いられてきた含硫黄化合物の添加によるものである。アニリンなどの芳香族アミン、あるいは、芳香族アミンの塩の一部と、酸基として結びつき、アニリンブラックの構造中に埋め込まれて、残存しているものと推察している。水として硫黄成分を僅かに含む工業用水を用いること、或いは、コンタミネーション等によりアニリンブラックに硫黄成分を残存させることもあり得る。残存する硫黄それ自体はブリードとは直接的な関係はないが、これらの硫黄成分を極力減らすことで、アニリン4量体、および、アニリン3量体といったブリードの主要因となり得る副生成物を減らすことができる傾向にあった。即ち、アニリンブラックの硫黄含有量が0.19重量%を超えると、ブリードが発生しやすい傾向にあった。一方、該含有量0.01重量%未満は検出限界未満であった。より好ましい硫黄含有量は、0.02~0.18重量%である。更により好ましい硫黄含有量は、0.03~0.16重量%である。
【0044】
本発明に係るアニリンブラックの粉体pHは、後述する評価方法によって測定し、2.0~9.0の範囲が好ましい。粉体pHが2.0未満の場合には、アニリン4量体、および、アニリン3量体がカチオン塩として媒体中で電離し、より多く遊離して、ブリードが助長されやすい。一方、粉体pHが9.0を越える場合には、アニリン4量体、および、アニリン3量体がアニオン塩として媒体中で電離し、より多く遊離してブリードが助長されやすい。より好ましい粉体pHは2.5~7.0である。さらに、より好ましいpHは3.0~6.0である。
【0045】
本発明に係るアニリンブラックの体積固有抵抗値は、10~1010Ω・cmが好ましい。より好ましい体積固有抵抗値は10~8×10Ω・cmである。10Ω・cm未満であれば導電性の高いカーボンブラックとの差別化が困難であり、1010Ω・cmを超えるものを製造することは困難である。更により好ましい体積固有抵抗は5×10~5×10Ω・cmである。
【0046】
本発明に係るアニリンブラックの色相は、後述する評価方法によって測定した表色指数のうち、L、a、b値を指す。黒色度は明度Lを指標とし、黒色度に優れるとは、それぞれ測定した値のうち、Lが15.0以下の場合をいう。Lが15.0を超える場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましいL値は12.0以下である。また、a値、b値は目的に応じてさまざまであり、アニリンブラックの反応仕様、具体的には、粒径、形状、含まれる酸基の種類や量によって、コントロールされる。通常の黒として表現される場合、a、b値は、それぞれ、-20~20が好ましいが、目的に応じてコントロールされるべきであり、この値に限定されるものではない。
【0047】
本発明に係るアニリンブラックは、さまざまな酸基を含んでよい。酸基とは、各種無機酸、有機酸の分子から水素原子を1個またはそれ以上除いた部分を指し、Nのカウンターイオンとして作用するものをいう。有機酸とは、蟻酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、シュウ酸、アジピン酸、フェノールなどであり、無機酸とは、水酸基、塩酸、硝酸、燐酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、過塩素酸などが挙げられる。但し、アニリンブラック残存硫黄成分の観点から、硫酸は極力用いない方が好ましい。
【0048】
本発明に係るアニリンブラックは、分散性、及び発色性などの特性を向上させるために、構造中に芳香族アミン以外の芳香族化合物、複素環式化合物、そのフラグメント、あるいは、それらが2つ以上組み合わさったものを含んでいても、共重合されていてもよい。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの芳香族、フェノール、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸などの芳香族酸や、フラン、チオフェン、キノンなどの複素環式化合物が挙げられる。但し、アニリンブラック残存硫黄成分の観点から、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、及びチオフェンは極力用いない方が好ましい。
【0049】
本発明に係るアニリンブラックは、分散性、発色性などを向上させるために、さらに表面処理が行われていてもよい。表面処理材料としては、特に限定されるものではないが、アルキルアルコール、脂肪酸、アルキルアミンなどの界面活性剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などのポリマー、シランカップリング剤、シランなどの有機珪素化合物などの有機表面処理剤、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどの無機微粒子などの無機表面処理剤、ロジン-カルシウム、ロジン-マグネシウムなどの有機無機表面処理剤などが挙げられ、あるいは、それらが2つ以上組み合わさったもので処理されたものも良い。
【0050】
次に、本発明におけるアニリンブラックの製造法について述べる。本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
本発明におけるアニリンブラックの製造方法において、出発原料の芳香族アミンとしては、アニリンが主成分であることが好ましい。即ち、メチルアニリン、エチルアニリン、トルイジン、アミノナフタレンなどの芳香族アミン、ピロール、ピリジンなどの含窒素複素環化合物などである。あるいは、それら2つ以上が組み合わさったものでも、共重合されたものでもよい。
【0052】
本発明におけるアニリンブラックの製造方法において、アニリン、アニリンの酸塩、芳香族アミン、または、芳香族アミンの酸塩のいずれか、あるいは、それらの混合物を水に分散、あるいは、溶解し、酸にて所定のpHに調整したのち、酸性水溶液とする。この酸性水溶液に、触媒を添加し、攪拌しながら酸化剤を滴下して酸化重合し、アルカリ剤により中和して、濾過、水洗、乾燥を行った後、粉砕して、本発明に係るアニリンブラックを得ることができる。
【0053】
本発明におけるアニリンブラックの製造段階において、副生成されるアニリン4量体、および、アニリン3量体の量は、それぞれ、1~50ppmの範囲に抑えられ、耐ブリード性を有する。例えば、ブリード色差ΔEが3.0以下であることが好ましい。このことにより、本発明におけるアニリンブラックになる。副生成されるアニリン4量体、および、アニリン3量体の量を上記範囲内に調節し、耐ブリード性を有するためには、以下の各条件を満足するように反応を行うことが好ましい。特に、硫黄の含有量とアニリン4量体およびアニリン3量体の量とは密接な関係があるので、硫黄の含有量を所定範囲内に制御するように原料などを選択し、反応を行うことが好ましい。
【0054】
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、過塩素酸、過沃素酸、蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アジピン酸などなどがあげられ、単独または混合物として使用してもよい。酸はアニリンに対して0.5~3.0当量が好ましい。0.5当量未満であるとアニリンが酸塩になりきれず、反応が進行しづらい。3.0当量を超えるとブリードが発生してしまう恐れがある。より好ましくは、1.0当量~2.0当量である。重量部に換算すると、例えば、アニリン30重量部に対して35%塩酸として、17~117重量部が好ましい。より好ましくは、33~67重量部である。但し、アニリンブラック残存硫黄成分の観点から、硫酸は極力用いない方が好ましい。
【0055】
酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、酸素などがあげられ、単独または混合物として使用してもよい。酸化剤の使用量はアニリンに対して0.1~10当量が好ましい。0.1当量未満であると酸化剤が足りず、アニリンブラックへと反応が進行しづらい。10当量を超えると得られる低分子アニリン重合体によるブリードが発生してしまう恐れがある。より好ましくは0.5~5当量である。重量部に換算すると、例えば、アニリン30重量部に対して、9%過酸化水素水として、12~1200重量部が好ましい。より好ましくは、60~600重量部である。また、酸化剤は、反応溶液に対して徐々に添加することが好ましい。通常10分から10時間、好ましくは5時間から10時間を要して、酸化剤を添加することによって、出発原料の芳香族アミンの酸化重合速度の制御が可能となる。該制御のため、得られるアニリンブラック粒子の粒径制御もまた可能となる。但し、アニリンブラック残存硫黄成分の観点から、過硫酸塩は極力用いない方が好ましい。
【0056】
触媒となりえる金属、または、金属塩としては、鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄、鉄-EDTAキレート、塩化プラチナ、塩化金または硝酸銀などがあげられ、単独または混合物として使用してもよい。触媒の使用量は、通常、酸化剤に対し、0.1~10モル%が好ましい。0.1モル%未満であると反応が進行しづらい。10モル%を超えるとブリードが発生してしまう恐れがある。より好ましくは0.2~5モル%である。重量部に換算すると、例えば、9%過酸化水素水300重量部に対して、塩化第二鉄6水和物として、0.2~21重量部が好ましい。より好ましくは、0.4~11重量部である。また、クロムを含まないことが好ましい。但し、アニリンブラック残存硫黄成分の観点から、硫酸第二鉄、及び硫酸第一鉄は極力用いない方が好ましい。
【0057】
アニリンブラックへの反応をより好ましい方向で進行させるため、界面活性剤、水溶性高分子などを反応液に添加してもよい。これらを添加することで、アニリンの酸化重合反応が溶液重合から乳化重合となり、低分子アニリン重合体ができにくくなるためである。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボキシレートなどのアニオン界面活性剤、水溶性高分子としては、水溶性アクリル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらを添加してアニリンの酸化重合をおこなうことによって、理由は明らかではないが、得られるアニリンブラックのブリード成分が抑えられる。添加量は、アニリンに対して、1~10重量%が好ましい。より好ましくは、2~8重量%である。
【0058】
反応温度は、10~35℃が好ましい。さらに好ましくは、10~30℃が好ましい。反応温度が35℃を超える場合には、アニリン4量体、及びアニリン3量体が多く生成し、得られるアニリンによるブリードが発生する懸念がある。10℃未満の場合は、酸化重合反応が進行しない懸念がある。また、酸化剤を添加した直後の反応開始時間として、通常、10分間から10時間、好ましくは20分間から7時間の間、反応溶液を撹拌することが好ましい。
【0059】
反応終了直後のアニリンブラックは、強酸性になっているためアルカリ剤によりpHを2.0~9.0の範囲に調整されるのが好ましい。さらに、好ましくはpHを3.0~6.0の範囲で調整される。要すれば前記pH調整前後において、20~95℃で30分~4時間加熱撹拌してもよい。
【0060】
アルカリ剤としては、無機化合物および有機化合物のいずれでもよい。無機化合物としては水酸化ナトリムや水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属や炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、アンモニアなどがあげられ、有機化合物としては、トリエタノールアミンやトリイソプロパノールアミンなどのトリアルカノールアミンなどがあげられる。
【0061】
アルカリ剤で中和した後、常法によって濾取、水洗し、乾燥すれば本発明に係るアニリンブラックが得られる。
【0062】
次に、本発明に係る樹脂組成物について述べる。
【0063】
本発明に係る樹脂組成物は、本発明に係るアニリンブラック、周知の熱可塑性樹脂、必要により、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種安定剤などの添加剤が配合され構成される。
【0064】
本発明に係る樹脂組成物中におけるアニリンブラックの配合割合は、構成基材100重量部に対し0.01~200重量部の範囲で使用することができ、樹脂組成物のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.05~100重量部、さらに好ましくは0.1~50重量部である。ここで、前記構成基材の重量部とは前述のアニリンブラック、周知の熱可塑性樹脂、及び各種添加剤の総重量部である。
【0065】
各種添加剤の量は、アニリンブラックと熱可塑性樹脂との総和に対して50重量%以下であればよい。該添加物の含有量が50重量%を越える場合には、得られる樹脂の成形が困難となる。
【0066】
本発明に係る樹脂組成物の明度L値は、アニリンブラックの評価方法と同様に、後述する評価方法によって測定した表色指数である。黒色度に優れるとはL値が15.0以下の場合をいう。L値が15.0を超える場合には、黒色度が優れるとは言い難い。より好ましいL値は12.0以下である。また、分散性の目視観察の結果は、後述する評価方法のうちレベル3~5の範囲であり、分散性に優れている。
【0067】
本発明に係る樹脂組成物のブリードは、前述の本発明に係るアニリンブラックのブリードで説明したように、ブリード試験によって評価される。前述同様に、ΔEは3.0以下が好ましく、より好ましくは、ΔEが1.5以下であり、さらに、より好ましくは1.0以下である。
【0068】
次に、本発明に係る樹脂組成物の製造法について述べる。
【0069】
本発明に係る樹脂組成物は、アニリンブラックとワニスなどを混練し、トナーとした後、該トナーと樹脂とを混練機もしくは押出機で、加熱下で強いせん断作用を加えて、樹脂中にアニリンブラックを均一に分散させた後、目的に応じた形状に成形加工して製造する。
【0070】
次に、本発明に係る水系分散体について述べる。
【0071】
本発明に係る水系分散体は、本発明に係るアニリンブラック、水、必要に応じて体質顔料、水系溶剤、界面活性剤、顔料分散剤、樹脂、pH調整剤、消泡剤などの各種添加剤が配合され、構成される。
【0072】
本発明に係る水系分散体におけるアニリンブラックの配合割合は、分散体構成基材100重量部に対し0.1~200重量部の範囲で使用することができ、分散体のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.1~100重量部、更に好ましくは0.1~50重量部である。ここで、前記分散体構成基材の重量部とは前述のアニリンブラック、水、及び各種添加剤の総重量部である。
【0073】
樹脂としては、通常使用される水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ウレタンエマルジョン樹脂を用いることができる。
【0074】
水系溶剤としては、ブチルアルコールなどのアルコール、グリセリン、ブチルセロソルブなどを使用することができる。
【0075】
消泡剤としては、周知の消泡剤を使用することができる。例えばノプコ8034(商品名)、SNデフォーマー477(商品名)、SNデフォーマー5013(商品名)、SNデフォーマー247(商品名)、SNデフォーマー382(商品名)(以上、いずれもサンノプコ製)、アンチホーム08(商品名)、エマルゲン903(商品名)(以上、いずれも花王製)などである。
【0076】
本発明に係る水系分散体の粘度は、20.0mPa・s以下である。より好ましくは15.0mPa・s以下である。粘度が20mPa・sを越える場合には、黒色度が劣る。粘度の下限値は1.0mPa・s程度である。
【0077】
本発明に係る水系分散体の保存安定性は、後述する評価方法によって測定した粘度変化率において±30%以下である。より好ましくは±10%以下、更により好ましくは±5%以下である。
【0078】
本発明に係る水系分散体の色相は、アニリンブラックの評価方法と同様に、後述する評価方法によって測定した表色指数のうち、L値、a値、b値を指す。黒色度に優れるとは、それぞれ測定した値のうち、L値が15.0以下の場合をいう。より好ましいL値は12.0以下である。また、a値、b値は目的に応じて様々であり、アニリンブラックの粒径、形状、重合度や、含まれる酸基の種類や量によって、コントロールされる。通常の黒として表現される場合、a値は-20~20が好ましく、b値は-20~20が好ましいが、目的に応じてコントロールされるべきであり、この値に限定されるものではない。
【0079】
本発明に係る水系分散体の分散性は、後述する評価方法によるグロスメーターでの光沢度を用いることができる。光沢度の値が高いほど、分散体の分散性が良いことを示す。例えば、45°の光沢度を測定することができ、好ましい値は13以上である。
【0080】
次に、本発明に係る水系分散体の製造方法について述べる。
【0081】
本発明に係る水系分散体は、アニリンブラック、水、添加剤を混合し、ビーズミルなどのメディア分散機、あるいは、クレアミックス、フィルミックス、超音波ホモジナイザーなどのメディアレス分散機を用いて分散され、ろ過などの後処理をされて製造される。分散安定性を高めるために、自己分散処理や、マイクロカプセル処理をして製造されてもよい。
【0082】
次に、本発明に係る非水系分散体について述べる。
【0083】
本発明に係る非水系分散体は、本発明に係るアニリンブラック、樹脂、溶剤、必要に応じて体質顔料、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤などが配合され、構成される。
【0084】
本発明に係る非水系分散体におけるアニリンブラックの配合割合は、前記分散体構成基材100重量部に対し0.1~200重量部の範囲で使用することができ、分散体のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.1~100重量部、更に好ましくは0.1~50重量部である。
【0085】
樹脂としては、通常使用されるアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂などを用いることができる。
【0086】
溶剤としては、通常使用されるトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、脂肪族炭化水素などを用いることができる。
【0087】
本発明に係る非水系分散体の粘度は、水系分散体の粘度と同様に、20.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは17.0mPa・s以下である。20mPa・sを越える場合には、分散性が劣り黒色度が劣る。非水系分散体の粘度の下限値は2.0mPa・s程度である。
【0088】
本発明に係る非水系分散体の保存安定性評価は、水系分散体の粘度と同様に、後述する評価方法によって測定した粘度変化率において±30%以下が好ましく、より好ましくは±10%以下、更により好ましくは±5%以下である。
【0089】
本発明に係る非水系分散体の色相は、アニリンブラックの評価方法と同様に、後述する評価方法によって測定した表色指数のうち、L値、a値、b値を指す。黒色度に優れるとは、それぞれ測定した値のうち、L値が15.0以下の場合をいう。より好ましいL値は12.0以下である。また、a値、b値は目的に応じて様々であり、アニリンブラックの粒径、形状、重合度や、含まれる酸基の種類や量によって、コントロールされる。通常の黒として表現される場合、a値は-20~20が好ましく、b値は-20~20が好ましいが、目的に応じてコントロールされるべきであり、この値に限定されるものではない。
【0090】
本発明に係る非水系分散体の分散性は、後述する評価方法によるグロスメーターでの光沢度を用いることができる。水系分散体の分散性の評価方法と同様に、例えば、45°の光沢度を測定することができ、好ましい値は15以上である。
【0091】
次に、本発明に係る非水系分散体の製造方法について述べる。
【0092】
本発明に係る非水系分散体は、アニリンブラック、溶剤、添加剤、樹脂を混合し、ビーズミルなどのメディア分散機、あるいは、クレアミックス、フィルミックス、超音波ホモジナイザーなどのメディアレス分散機を用いて分散され、ろ過などの後処理をされて製造される。分散安定性を高めるために、自己分散処理や、マイクロカプセル処理をして製造されてもよい。
【0093】
<作用>
本発明に係るアニリンブラックはクロムの含有量が3~1000ppmであり、発生するブリードの主原因物質と予期される低分子アニリン重合体を同定・定量し、それらの量を低く管理しながら調製されたアニリンブラックである。予測されるブリード主原因物質アニリン4量体、および、アニリン3量体が少ないことにより、ブリードが発生しにくいと考えている。ブリード原因物質はマススペクトルで質量電荷比m/z値が379~381、および、290~292で示され、それらは、それぞれ、アニリン4量体、アニリン3量体に相当すると考えられる。これらは、アニリンの重合過程で副生されるものであり、水に溶けにくいため、製造段階で取り除くことが難しいものである。これらは、非水系溶剤、樹脂には比較的良く溶け、黄~赤に着色してブリードの原因となる。アニリン単量体、2量体は、水溶性であるため、水洗過程で容易に除去できるため、検出されない。アニリン5量体以上は検出されてこなかったことから、非水系溶剤、樹脂には溶け出てこないものと考えられる。このブリード主原因物質の含有量を低く管理するべく、アニリンブラックの残存硫黄化合物の量を制限することを行った。これにより、著しくブリード主原因物質の含有量が少ないアニリンブラックが得られた。詳細は明らかではないが、この硫黄分は比較的大きな分子であるので、アニリンのアミノ基に、硫酸塩やスルホン酸塩として結合した場合、アニリン芳香環のオルト位やパラ位といった反応サイトの立体障害になり、アニリンの酸化重合反応を阻害すると考えられる。即ち、マススペクトルで質量電荷比m/z値が379~381である低分子アニリン重合体、マススペクトルで質量電荷比m/z値が290~292で示される低分子アニリン重合体といった重合度の低い染料成分が生成し、アニリンブラックに残存する傾向があると考えられる。
【実施例
【0094】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
<アニリンブラック、樹脂組成物、及び分散体の評価>
【0095】
本発明に係るアニリンブラックに含まれる元素成分を蛍光X線ZSXPrimusII(RIGAKU製)にて測定し、含まれるクロム、硫黄の量を定量した。実施例1~5、及び比較例1~5で得られたアニリンブラックのクロム含有量はいずれも500ppm以下であった。
【0096】
本発明に係るアニリンブラックのFT-IRによる定性は、赤外分光光度計NICOLET iS5(Thermo Scientific製)を用いて、KBr法によって、4000~400cm-1をスキャンして行った。
【0097】
本発明に係るアニリンブラックの分子量は、試料10mgをジメチルホルムアミドに溶解し、高速液体クロマトグラフ、SEC(Size-exclusion chromatography)カラムを用いたGPC(Gel Permeation Chromatography)法によって測定された重量平均分子量の値である。測定条件を下記に示す。
高速液体クロマトグラフ:LaChrom Elite(日立ハイテクサイエンス製)
検出器:RI
SECカラム:TSKgelα-3000(東ソー製)
標準試料:STANDARD SM-105(分子量範囲:1.3×10~3.0×10)(昭和電工製)
溶離液:10mM臭化リチウムを含むジメチルホルムアミド
流速:0.5ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:20μl
【0098】
本発明に係るアニリンブラックに含まれる低分子アニリン重合体の定性、及び定量は以下のように行った。ここで、低分子アニリン重合体はアセトニトリルに完全に溶解すると前提している。まず、粒子粉末20mgを秤量し、500μLのアセトニトリルに浸漬して、超音波を30分照射した後、ろ過し、そのアセトニトリル中に含まれる成分を高速液体クロマトグラフ、逆相クロマトグラフィーの2液リニアグラジエント法にて、分離、定量した。測定条件を下記に示す。
高速液体クロマトグラフ::LaChrom Elite(日立ハイテクサイエンス製)
検出器:UV-vis(258nm)
逆相クロマトグラフィカラム:TSKgelODS-100z(4.6mmI.D.×15cm)(東ソー製)
溶離方法:2液リニアグラジエント(直線勾配溶離)
溶離液1:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
溶離液2:アセトニトリル
流速:1.0mlml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:20μl
但し、プログラムとして、流出時間が0分、30分、40分の時に、(溶離液1、溶離液2)の組み合わせが、それぞれ、(100%、0%)、(0%、100%)、(0%、100%)となるように設定した。また、それぞれのクロマトピークのマススペクトルを日立5610質量検出器(日立ハイテクサイエンス製)にて測定した(エレクトロスプレー法、正イオンモード)。さらに、クロマトピークの紫外可視吸収スペクトルをダブルビーム分光光度計UH5300(日立ハイテクサイエンス製)にて測定した。
【0099】
本発明に係るアニリンブラックの一次粒子の平均粒径は、比表面積BET値を測定し、その値から、球形換算値を数1により算出して、一次粒子の平均粒径とした。ここで。数1で表されるρは粒子の真密度であり、アニリンブラックの真密度(1.36g/mL)とみなした。また、比表面積BET値は、窒素を用いたBET法により測定した。装置は、モノソーブMS-21(QUANTA CHROME製)を使用した。
【0100】
<数1>
アニリンブラックの一次粒子の平均粒径[μm]=6/(BET値×ρ)
【0101】
粉体pH値は、試料5gを300mlの三角フラスコに秤取り、煮沸した純水100mlを加え、加熱して煮沸状態を約5分間保持した後、栓をして常温まで放冷し、減量に相当する水を加えて再び栓をして1分間振り混ぜ、5分間静置した後、得られた上澄み液のpHをJIS Z8802-7に従って測定し、得られた値を粉体pH値とした。
【0102】
体積固有抵抗値は、まず、粒子粉末0.5gを秤量し、KBr錠剤成形器(島津製作所製)用いて、1.372×10Pa(140Kg/cm)の圧力で加圧成形を行い、円柱状の被測定試料を作製した。この被測定試料をステンレス電極の間にセットし、電気抵抗測定装置(model 4329A 横河北辰電気製)で15Vの電圧を印加して抵抗値R(Ω)を測定した。次いで、被測定(円柱状)試料の上面の面積A(cm)と厚みt(cm)を測定し、下記数2にそれぞれの測定値を挿入して、体積固有抵抗値(Ω・cm)を求めた。
【0103】
<数2>
体積固有抵抗値(Ω・cm)=R×(A/t
【0104】
本発明に係るアニリンブラックのブリードは、後述する実施例6~10、及び比較例6~10で示すように、調製されたアニリンブラックによって着色された黒色の樹脂組成物と酸化チタンで着色された白色の樹脂組成物を貼りあわせ、加熱して、白色の樹脂組成物への色移りを評価するブリード試験にて行った。具体的には、後述する例にて作製した樹脂組成物と、類似の操作にて調製した(アニリンブラックで着色していない)白色の樹脂組成物を重ね合わせ、ガラス板の間に挟み、固定して、110℃にて2時間加熱し、室温まで戻した。その後、それぞれの組成物を剥がして、加熱前後の白色の樹脂組成物の色相を分光測色計X-Rite939(X-Rite製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数L値、a値、b値をそれぞれ測定し、加熱前後の表色指数の変化量をそれぞれ、ΔL、Δa、Δbとした。得られた表色指数の変化量を下記数3に代入して、色差ΔEを算出した。
【0105】
<数3>
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
【0106】
本発明に係るアニリンブラックの色相、明度(黒色度)については、後述する実施例11~20、及び比較例11~20で示すように、まず、調製されたアニリンブラックを含有する水系、及び非水系分散体を各々ガラスプレート上にWET膜厚24μmのバーコーターを用いて塗布し、乾燥し、塗膜(膜厚厚み:約6μm)を作製した。該塗膜について、分光測色計X-Rite939(X-Rite製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数L値、a値、b値をそれぞれ測定した値で示した。
【0107】
本発明に係るアニリンブラックの黒色度の判定は、前記得られた塗膜のLの値によって、下記4段階で評価した。
◎:Lが10.0以下のもの
○:Lが10.0を超えて12.0以下もの
△:Lが12.0を超えて15.0以下のもの
×:Lが15.0を超えるのもの
【0108】
前記得られた塗膜の光沢度については、グロスメーターUGV-5D(スガ試験機製)を用いて45°の光沢度を測定して求めた。本発明に係る水系分散体、および、非水系分散体の塗膜の光沢度の値が高いほど、分散体の分散性が良いことを示す。
【0109】
本発明に係る樹脂組成物の明度L値については、後述する実施例6~10、及び比較例6~10で作製した樹脂シートを、分光測色計X-Rite939(X-Rite製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って、L値を測定した。
【0110】
本発明に係る樹脂組成物の黒色度の判定は、アニリンブラックの黒色度の判定と同様に、Lの値によって、下記4段階で評価した。
◎:Lが10.0以下のもの
○:Lが10.0を超えて12.0以下もの
△:Lが12.0を超えて15.0以下のもの
×:Lが15.0を超えるのもの
【0111】
本発明に係る樹脂組成物の分散性は、後述する実施例6~10、及び比較例6~10で示すように、得られた樹脂組成物表面における未分散の凝集粒子の個数を目視により判定し、5段階で評価した。レベル5が最も分散性が良いことを示す。
レベル5:未分散物が認められない。
レベル4:1cm当たりに1~4個認められる。
レベル3:1cm当たりに5~9個認められる。
レベル2:1cm当たりに10~49個認められる。
レベル1:1cm当たりに50個以上認められる。
【0112】
本発明に係る水系分散体、および、非水系分散体の粘度はE型粘度計TV-30(東機産業製)を用いて測定した。
【0113】
本発明に係る水系分散体、および、非水系分散体の保存安定性評価は、初期粘度と、25℃で1週間後の経時粘度をE型粘度計TV-30(東機産業製)を用いて測定した。この初期粘度(V)から経時粘度(V)への粘度変化率を下記数4で算出し、下記3段階で評価した。
【0114】
<数4>
粘度変化率(%)=(V-V)/V×100
【0115】
○:粘度変化率が±10%以下
△:粘度変化率が±10%を超える±30%以下
×:粘度変化率が30%を超える
【0116】
<アニリンブラックの製造>
実施例1
35%塩酸50.4重量部(塩酸として17.6重量部)と水1050重量部に、アニリン30重量部を入れ、ポリビニルピロリドン(第一工業製薬ピッツコールK-30)1.2重量部を加え、攪拌して、酸性水溶液とした。この酸性水溶液のpHは1.2であった。その後、液温25℃にて、攪拌混合しながら、塩化第二鉄6水和物1.74重量部を水33重量部に溶解した水溶液を加え、9%過酸化水素水300重量部(過酸化水素として27重量部)を7時間かけて攪拌しながら、滴下した。反応による到達温度は30℃であった。滴下終了後、さらに室温にて、12時間攪拌した。その後、50℃にて2時間攪拌し、10%水酸化ナトリウムを加え、pHを4.0に調整し、濾過、水洗して、ペーストを80℃で乾燥、粉砕して、黒色顔料を得た。この黒色顔料の赤外吸収スペクトルを測定したところ、図1に示すように、有機化合物のSDBSに掲載されているアニリンのFT-IRスペクトルとほぼ同一であった。即ち、3230cm-1にアミノ基の伸縮振動、3050cm-1、2950cm-1に芳香族由来のCH伸縮振動、1580cm-1、1500cm-1、1450cm-1に芳香族のC=C伸縮振動が確認され、アミノベンゼン(=アニリン)から構成される化合物であることがわかった。重量平均分子量は約10,000であり、ポリアニリンであることがわかった。また、目視で黒色であることからアニリンブラックと同定された(名称:アニリンブラック-1)。
【0117】
また、このアニリンブラック-1の硫黄含有量は0.05重量%であった。後述の比較例1~5ではブリードが発生し、反応条件で硫酸などの硫黄化合物が含まれており、それぞれ、硫黄含有量が0.2重量%以上であった。このことより、硫黄含有量を多くする反応条件がブリードに相関がありそうなことが見て取れる。
【0118】
また、アニリンブラック-1の一次粒子の平均粒径は、BET値が15.8m/gであったことより、数1により換算したところ、0.28μmであった。粉体pHは3.6であった。
【0119】
また、アニリンブラック-1の体積固有抵抗値は2×10Ω・cmであった。従来から黒色顔料としてよく用いられているカーボンブラックの体積固有抵抗値は1×10-2Ω・cm程度であり、アニリンブラック-1の体積固有抵抗値は高いといえる。
【0120】
また、アニリンブラック-1中に含まれる成分をアセトニトリルに抽出し、高速液体クロマトグラフで定性、定量したところ、図2に示すように、流出時間22分と23分に特徴的な2本のクロマトピークが観測された。アニリン塩酸塩希釈液を用いて作成したクロマトピーク面積-含有量検量線を作成し、それぞれのクロマトピーク面積より、それぞれの含有量を12ppm、30ppmであると算出した。また、クロマトピークの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、それぞれ、367nm、382nmの可視領域に吸収を持つ着色成分であった。従って、これらのピークに由来する物質がブリードの主要因と言える。さらに、それぞれのクロマトピークのマススペクトルから算出される質量電荷比m/zは、380、291であった。これらはおおよそ、アニリン4量体、アニリン3量体に相当するものと考えられる。ただ、これらの含有量は、比較例1の図3の説明と比べると、低く抑えられていた。よって、後述するアニリンブラック-1を用いた樹脂組成物(実施例6)のブリードが抑制されていた。
【0121】
実施例2~5
添加剤の種類と量、反応条件を種々変化させた以外は前記実施例1と同様にして、本発明に係るアニリンブラックを得た(名称:アニリンブラック-2~5)。なお、実施例5(アニリンブラック-5)はアニリン-ピロール共重合体である。
【0122】
これらの実施例における製造条件を表1に、得られたアニリンブラックの諸特性を表2に示す。
【0123】
比較例1
特開2012-153744号公報の実施例1を参考にし、71%硫酸15.8重量部(硫酸として11.2重量部)と35%塩酸31.8重量部(塩酸として17.6重量部)と水2500重量部に、アニリン30重量部を入れ、液温60℃で攪拌混合しながら、塩化第二鉄6水和物4.6重量部を水70重量部に溶解した水溶液、30%過酸化水素78.0重量部(過酸化水素として、23.4重量部)を2時間かけて滴下し、その後液温60℃にて1時間攪拌混合を行い反応終了とした。反応終了後、反応液を濾過、水洗し、得られたケーキを1000重量部の水を用い再分散させ、24時間攪拌した。その後10%カセイソーダにてpH9.5に中和し、pHが安定した後、濾過、水洗し、ペーストを60℃で乾燥してアニリンブラックを得た(アニリンブラック-6)。
【0124】
また、アニリンブラック-6中に含まれる成分をアセトニトリルに抽出し、高速液体クロマトグラフで定性、定量したところ、図3に示すように、流出時間22分と23分に特徴的な2本のクロマトピークが観測された。アニリン塩酸塩希釈液を用いて作成したクロマトピーク面積-含有量検量線を作成し、それぞれのクロマトピーク面積より、それぞれの含有量を65ppm、100ppmであると算出した。また、クロマトピークの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、それぞれ、367nm、382nmに吸収を持つ着色成分であった。さらに、それぞれのクロマトピークのマススペクトルから算出される質量電荷比m/zは、380、291であった。これは、アニリン4量体、アニリン3量体に相当するものであった。これらの低分子アニリン重合体の含有量が高いため、後述する樹脂組成物のブリードが強く発生した(比較例6)。
【0125】
比較例2
特開2012-153745号公報の実施例1を参考にし、35%塩酸33.8重量部(塩酸として11.8重量部)と水1250重量部に、アニリン30重量部を入れ、液温60℃で攪拌混合しながら、4ヒドロキシベンゼンスルホン酸15.0重量部を添加し均一に溶解させた。その後、塩化第一鉄6水和物4.6重量部を水70重量部に溶解した水溶液、30%過酸化水素78.0重量部(過酸化水素として23.4重量部)を2時間かけて滴下し、その後、液温60℃にて1時間攪拌混合を行い反応終了とした。反応終了後、反応液を濾過、水洗し、得られたケーキを1000重量部の水を用いて再分散させ、24時間攪拌した。その後、10%水酸化ナトリウム水溶液にてpH6.5に中和し、pHが安定した後、濾過、水洗し、ペーストを60℃で乾燥してアニリンブラックを得た(アニリンブラック-7)。後述する樹脂組成物のブリードが強く発生した。
【0126】
比較例3
特開2001-261989号公報の実施例5を参考とし、アニリン30重量部を5.1%硫酸水溶液600重量部(硫酸として30.6重量部)に溶解し、これに塩化第二鉄6水和物7.8重量部を一度に加え、40℃で過硫酸アンモニウム144重量部を水600重量部に溶解した溶液を15分間で滴下した後、70~75℃に加熱して1時間撹拌した。反応後、不溶物を濾取、水洗し、得られたケーキを900重量部の水に再スラリー化し、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整した後、90℃で30分間加熱撹拌した。不溶物を濾取、水洗、乾燥して、アニリンブラックを得た(アニリンブラック-8)。後述する樹脂組成物のブリードが強く発生した。
【0127】
比較例4
特開2000-72974号公報の実施例1を参考とし、62%硫酸18.0重量部(硫酸として11.2重量部)と35%塩酸31.8重量部(塩酸として11.2重量部)と水300重量部に、アニリン30重量部を入れ、攪拌溶解した後、硫酸第一鉄13.2重量部を水60重量部に溶解したものを一度に添加する。液温15℃で攪拌混合しながら、30%過酸化水素90.0重量部(過酸化水素として27重量部)を4時間にて添加し、その後、液温15℃にて4時間攪拌混合を行い、反応終了とする。反応終了後、反応液を濾過、水洗し、得られたケーキを960重量部の水を用いて再分散させた。その後、10%カセイソーダにてpH7に中和し、pHが安定した後、濾過、水洗し、ペーストを60℃で乾燥して、アニリンブラックを得た(アニリンブラック-9)。後述する樹脂組成物のブリードが強く発生した。
【0128】
比較例5
特開平9-31353号公報の実施例4を参考とし、イオン交換水540重量部、p-トルエンスルホン酸30重量部、1%濃度の硫酸第二鉄15重量部(硫酸第二鉄として0.15重量部)、あらかじめ溶解させておいたポリイソプレンスルホン酸ナトリウム(分子量=3万)10%濃度の水溶液350重量部を反応容器に仕込み、よく攪拌し、ついで35%塩酸33.8重量部(塩酸として11.8重量部)とアニリン30重量部を仕込んだ。反応温度を20℃に保ちながら、5%濃度の過酸化水素水360重量部(過酸化水素水として18重量部)を2時間かけて連続的に添加し、さらに2時間攪拌した後、濾過、水洗し、ペーストを60℃で乾燥して、アニリンブラックを得た(アンリンブラック-10)。アニリンブラック-10はポリイソプレンスルホン酸がカウンターアニオンとして結合するため、体積固有抵抗値が低いもの(4×10Ωcm)であった。後述する樹脂組成物のブリードが強く発生した。
【0129】
これらの比較例の製造条件を表1に、得られたアニリンブラックの諸特性を表2に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
以上のように、本発明に係るアニリンブラックは、硫黄含有量が低く、アニリン4量体、および、アニリン3量体の含有量も低く、体積固有抵抗値が高いアニリンブラックであることは明らかである。
【0133】
<樹脂組成物の製造>
実施例6
実施例1で得たアニリンブラック-1 0.5重量部と4号ワニス 1.5重量部をフーバーマーラーにて、荷重150lb、100回転×3回練肉し、トナーとした。このトナーを0.8重量部秤量し、塩化ビニル透明コンパウンド(ガラス転移点67℃)40重量部を加え、加熱2本ロールにて160℃、5分間練肉し、加熱プレスにて、180℃、圧力5kg/cmかけて、縦6cm×横3.5cm×厚さ1mmのシートを作製し、樹脂組成物とした。
【0134】
得られた樹脂組成物の分散性のレベルは5であり、分散性は高かった。L値は7.5と低く、黒色度は◎であった。
【0135】
ブリード試験で用いる白色樹脂組成物は、塩化ビニル白色コンパウンド(酸化チタン5重量%)40重量部を、加熱2本ロールにて160℃、5分間練肉し、加熱プレスにて180℃、圧力5kg/cmかけて、縦6cm×横3.5cm×厚さ1mmのシートを作製し、白色樹脂組成物とした。ブリードの判定を行ったところ、ΔEは1以下となった。
【0136】
実施例7~10、比較例6~10
用いたアニリンブラックの種類を変化させた以外は、前記実施例6と同様にして樹脂組成物を得た。
【0137】
このときに得られた樹脂組成物の諸特性を表3に示す。
【0138】
【表3】
【0139】
以上のように、本発明のアニリンブラックはブリードが抑制され、得られた樹脂組成物は目視による分散性に優れ、表色指数の黒色度に優れることは明らかであった。アニリンブラック-8~10は樹脂に分散しづらく、分散レベルが低く、明度が高く、黒色度が低い状態であった。
【0140】
<水系分散体の製造>
実施例11
実施例1で得たアニリンブラック-1を用い、水系分散体組成を下記割合で配合して1.5mmφガラスビーズ50重量部とともにペイントシェーカーで60分間混合分散し、水系分散体を調製した。
アニリンブラック-1 7.50重量部、
アニオン系界面活性剤 2.50重量部、
(ハイテノールNF-08 :第一工業製薬製)
スチレン-アクリル共重合体 10.00重量部、
(JONCRYL63J :BASF製)
消泡剤 0.50重量部、
(エンバイロジェムAD-01 :日信化学工業製)
水 31.00重量部。
得られた水系分散体の粘度は7.5mPa・sであった。保存安定性は○であった。また、水系分散体から得られた塗膜の光沢度は19%であり、水系分散体の分散性は良好であった。前記塗膜のL値が8.2、a値が-0.3、b値が-0.1であり、黒色度は◎であった。
【0141】
実施例12~15、比較例11~15
用いたアニリンブラックの種類を種々変化させた以外は、前記実施例11と同様にして水系分散体を得た。
【0142】
このときに得られた水系分散体の諸特性を表4に示す。
【0143】
【表4】
【0144】
以上のように、本発明のアニリンブラックは黒色度に優れ、得られた水系分散体は、粘度測定による保存安定性、塗膜の光沢度による分散性に優れ、黒色度に優れることは明らかである。
【0145】
<非水系分散体の製造>
実施例16
実施例1で得たアニリンブラック-1を用い、非水系分散体組成を下記割合で配合して1.5mmφガラスビーズ50重量部とともにペイントシェーカーで60分間混合分散し非水系分散体を調製した。
アニリンブラック-1 7.50重量部、
高分子分散剤 2.00重量部、
(PB822:味の素ファインテクノ製)
スチレン-アクリル共重合体 3.00重量部、
(JONCRYL680:BASF製)
プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート 37.50重量部。
得られた非水系分散体の粘度は8.0mPa・sであった。保存安定性は○であり、塗膜の光沢度は20%であった。以上より、分散体の分散性は良好であった。また、L値が7.5、a値が-0.2、b値が-0.1であり、黒色度は◎であった。
【0146】
実施例17~20、比較例16~20
用いたアニリンブラックの種類を種々変化させた以外は、前記実施例16と同様にして非水系分散体を得た。
【0147】
このときに得られた非水系分散体の諸特性を表5に示す。
【0148】
【表5】
【0149】
以上のように、本発明のアニリンブラックは黒色度に優れ、得られた非水系分散体は、水系分散体と同様に、保存安定性、光沢度といった分散性に優れ、黒色度に優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明に係るアニリンブラックは、クロム含有量が低く、ブリードが抑制され、黒色度に優れ、体積固有抵抗値が高いので、電子写真用非磁性現像剤、ブラックマトリクス用着色剤などの電子機器などの分野や、アイブロウペンシル、アイブロウパウダー、アイブロウマスカラ、アイシャドー、コンパクトパウダー、ファンデーション、リップスティック、ネイルエナメルなどの化粧料、塗料、印刷インキ、インクジェットインキなどの各種用途として好適である。また、該アニリンブラックを含んでなる樹脂組成物においては、或いは該アニリンブラックを含んでなる水系分散体、非水系分散体においては、ブリードが抑制され、分散性に優れ、黒色度が高いので、上記用途として好適である。
図1
図2
図3