(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】熱溶解積層方式3次元造形用フィラメントおよびそれを造形してなる造形体
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20230601BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230601BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230601BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2019137024
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2018153629
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】臼井 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 頌平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 文夫
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193601(JP,A)
【文献】特開2016-193602(JP,A)
【文献】特開2017-177497(JP,A)
【文献】特開2018-167405(JP,A)
【文献】特開2019-084769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/10,64/118,64/20,64/30,64/40
B33Y 10/00,30/00,40/00,50/00,70/00,
80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分に、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性樹脂を配し、鞘成分に、融点が140℃を超える結晶性の熱可塑性樹脂を配し
、前記鞘成分が前記芯成分を被覆している熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント
であって、
前記芯成分に配する前記結晶性または非晶性熱可塑性樹脂と前記鞘成分に配する前記結晶性熱可塑性樹脂との組み合わせが以下の組み合わせ(i)~(v)から選択される、熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント:
(i)
鞘成分:アミド系樹脂;
芯成分:スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アミド系エラストマーまたはウレタン系エラストマー;
(ii)
鞘成分:アミド系樹脂/スチレン系エラストマーブレンド体;
芯成分:スチレン系エラストマー;
(iii)
鞘成分:オレフィン系樹脂;
芯成分:オレフィン系エラストマーまたはスチレン系エラストマー;
(iv)
鞘成分:エステル系樹脂;
芯成分:エステル系樹脂、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマーまたはエステル系エラストマー;
(v)
鞘成分:ポリエチレンビニルアルコール;
芯成分:スチレン系エラストマー。
【請求項2】
前記芯成分に配する前記結晶性または非晶性熱可塑性樹脂と前記鞘成分に配する前記結晶性熱可塑性樹脂との組み合わせが前記組み合わせ(i)または(ii)である、請求項1に記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
【請求項3】
前記芯成分に配する前記結晶性または非晶性熱可塑性樹脂と前記鞘成分に配する前記結晶性熱可塑性樹脂との組み合わせが前記組み合わせ(iv)である、請求項1に記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
【請求項4】
前記芯成分に配する前記結晶性または非晶性熱可塑性樹脂と前記鞘成分に配する前記結晶性熱可塑性樹脂との組み合わせが前記組み合わせ(iii)である、請求項1に記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
【請求項5】
芯成分と鞘成分の質量比率(芯成分/鞘成分)が、95/5~20/80である請求項1~4のいずれかに記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメントを造形してなる造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層方式3Dプリント用フィラメントとそれを造形してなる造形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3次元CADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物(3次元のオブジェクト)を作製する3Dプリンターは、近年、産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンターの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶融積層造形等の方法がある。
【0003】
近年、個人向け等の低価格の3Dプリンターの多くは、熱溶解積層法(FDM法)を採用している。また、産業用としても極め細かな備品や機器部品を製作するために熱溶解積層法を採用している。
【0004】
この熱溶解積層法3Dプリンターにおいては、造形材料として、フィラメントが用いられ、造形材料を構成する樹脂として、ポリ乳酸やABS樹脂を代表としてエンジニアプラスチックまで、種々の素材が用いられている。しかしながら、ポリ乳酸は、固くてもろく、耐屈曲性や柔軟性や耐衝撃性が欠けるという問題があり、ABS樹脂は、反りが大きく、寸法安定性が悪いという問題があった。
【0005】
フィラメントに耐屈曲性や柔軟性等を付与するため、熱可塑性エラストマー等の柔軟な素材を用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、熱融解積層方式三次元造形素材として、ポリ乳酸にスチレン系樹脂や熱可塑性エラストマーを配合した組成のフィラメントが開示され、特許文献2には、ポリ乳酸と各種官能基群から選ばれる一つの官能基を有する共役ジエン系(共)重合体とを含む樹脂組成物の造形用フィラメントが開示され、特許文献3には、所定の物性を有するポリアミド系熱可塑性エラストマーからなる3次元プリンター成形用フィラメントが開示され、特許文献4には、所定の物性を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる3次元プリンター成形用フィラメントが開示されている。
【0006】
しかしながら、フィラメントに熱可塑性エラストマー等の柔軟な素材を用いると、通常、柔軟な素材はガラス転移温度が低く、粘着性が高いため、ペレット間のブロッキングが生じたり、塵、ゴミ等、異物の混入や付着しやすかったりするという問題があった。また、柔軟な素材をモノフィラメントにする場合、偏平になって繊維径が不均一になったり、フィラメントのボビン解舒が粘着により著しく悪化したりするという問題があった。さらに、フィラメントの走行時の摩擦抵抗が極めて大きくなって、3Dプリンターへの安定供給が難しくなったり、フィラメントが柔らかすぎてノズル手前で折れ曲がって供給不能になったりする等、安定した熱溶融積層造形ができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5751388号公報
【文献】特開2016-037571号公報
【文献】特許第6265314号公報
【文献】特開2016-55637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであって、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の造形材料として好適に用いることができる熱溶解積層方式3次元造形用フィラメントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、芯成分と鞘成分にそれぞれ特定の温度特性を有する熱可塑性樹脂を配した芯/鞘型複合断面のフィラメントとすることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)芯成分に、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性樹脂を配し、鞘成分に、融点が140℃を超える結晶性の熱可塑性樹脂を配した、芯/鞘型複合断面の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
(2)鞘成分に配する熱可塑性樹脂が、アミド系樹脂である(1)に記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
(3)鞘成分に配する熱可塑性樹脂が、エステル系樹脂である(1)に記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
(4)鞘成分に配する熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂である(1)に記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
(5)芯成分と鞘成分の質量比率(芯成分/鞘成分)が、95/5~20/80である(1)~(4)のいずれかに記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメント。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の熱溶解積層方式3次元造形用フィラメントを造形してなる造形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の造形材料として好適に用いることができる熱溶解積層方式3次元造形用フィラメントを提供することができる。本発明のフィラメントは、耐屈曲性に優れており、表面に粘着性を有しないため、3Dプリンターに安定的に供給することができる。また、本発明のフィラメントを造形した造形物は、芯成分層と鞘成分層が多層状にマイクロメートルオーダーで積層されているため、柔軟性、機械的特性、耐衝撃性、寸法安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】芯/鞘型複合断面形状の例を示した図である。
【
図2】3Dプリンター造形性を評価するために作製した「ルーク」の図である。
【
図3】反りを評価するために作製した「アンカー」の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフィラメントは、芯成分に、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性樹脂を配し、鞘成分に、融点が140℃を超える結晶性の熱可塑性樹脂を配したフィラメントである。
【0013】
本発明のフィラメントにおいて、芯成分には、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性樹脂を用いる必要がある。芯成分に、ガラス転移温度が20℃以下の熱可塑性樹脂を用いることにより、柔軟性やゴム弾性を与え、造形物の寸法安定性を向上させることができる。熱可塑性樹脂のガラス転移温度の下限は、特に限定されないが、低すぎると得られる造形物の使用が困難となる場合があるので、-60℃程度とすることが好ましい。なお、本発明において、「結晶性」とは示差走査熱量計(DSC)を用いて窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度により測定した融解熱量の値が、4J/gより大きいことを意味し、「非晶性」とは、前記融解熱量の値が、4J/g以下であることを意味する。
【0014】
芯成分に用いる融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性樹脂としては、エステル系樹脂および熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0015】
エステル系樹脂とは、エステル結合を有する樹脂のことであり、脂肪族ポリエステル、脂環式ポリエステル、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルの共重合ポリエステルが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレートヘキサノエート、ポリヒドロキシブチレートヘキサノエートが挙げられる。芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルの共重合ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンテレフタレートアジぺート、ポリブチレンテレフタレートセバケート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリエチレンテレフタレートアジぺート、ポリエチレンテレフタレートセバケート、ポリエチレンテレフタレートスルホイソフタレートが挙げられる。エステル系樹脂の市販品としては、例えば、BASFジャパン社製『エコフレックスC1200』(ポリブチレンテレフタレートアジペート)、昭和高分子社製『ビオノーレ3001MD』(ポリブチレンサクシネートアジペート)が挙げられる。
【0016】
熱可塑性エラストマーとしては、アミド系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、その他のエラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーは、二重結合部位を水素添加したものであってもよく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体いずれであってもよい。また、熱可塑性エラストマーは、上記のエラストマーの混合物であってもよいし、共重合体であってもよい。
【0017】
アミド系エラストマーとしては、例えば、ポリアミド成分をハードセグメントし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分をソフトセグメントとするものが挙げられる。ソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-および1,3-プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、エチレンオキシドとヒドロフランの共重合体が挙げられ、脂肪族ポリエステル成分としては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケートが挙げられる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、例えば、ダイセルエボニック社製『ダイアミド』シリーズ、『ベスタミド』シリーズ、ARKEMA社製『Pebax』シリーズ、エムスケミー・ジャパン社製『グリルフレックス』シリーズ、宇部興産社製『UBESTA XPA』シリーズ、T&K TOKA社製『TPAE-12』が挙げられる。
【0018】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-ビニルイソプレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体が挙げられる。スチレンエラストマーの市販品としては、例えば、クラレ社製『ハイブラー』シリーズ、アロン化成製『AR-815C』、旭化成社『タフテック』シリーズが挙げられる。
【0019】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆる「アイオノマー」)、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレ-ト共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、酸変性エチレン-プロピレン共重合体が挙げられる。オレフィンエラストマーの市販品としては、例えば、ダウケミカル社製『エンゲージ』シリーズが挙げられる。
【0020】
ウレタン系エラストマーとしては、ポリウレタン成分をハードセグメントし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分をソフトセグメントとするものが挙げられる。ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分の例は、アミド系エラストマーのソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分と同じである。ウレタン系エラストマーの市販品としては、例えば、BASF社製『エラストロン』シリーズが挙げられる。
【0021】
エステル系エラストマーとしては、芳香族ポリエステル成分をハードセグメントし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分をソフトセグメントとするものが挙げられる。ハードセグメントを構成する芳香族ポリエステル成分とは、通常60モル%以上がテレフタル酸成分であるジカルボン酸成分とジオール成分を縮重合して得られる重合体を示す。ハードセグメントを構成する芳香族ポリエステル成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートイソフタレートが挙げられる。ソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分の例は、アミド系エラストマーのソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分と同じである。エステル系エラストマーの市販品としては、例えば、東レ社製『ハイトレル』シリーズが挙げられる。
【0022】
その他のエラストマーとしては、例えば、アクリル系エラストマー、塩ビ系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマーが挙げられる。
【0023】
本発明のフィラメントにおいて、鞘成分には、融点が140℃を超える結晶性の熱可塑性樹脂を用いる必要がある。一般的にフィラメントや造形物の表面は、粘着性がなく、平滑性があり、触感がソフトで、スムーズなものが好まれ、また、フィラメントや造形物には、一般的な耐熱性が必要とされるからである。鞘成分に用いる熱可塑性樹脂の融点の上限としては、汎用の熱溶融積層方式3Dプリンターのノズル温度の上限が260℃程度であることから、260℃以下であることが好ましく、230℃以下であることが好ましい。ただし、産業用の熱溶融積層方式3Dプリンターを用いる場合は、ノズル温度の上限が400℃程度になることから、鞘成分に用いる熱可塑性樹脂の融点の上限はさらに高いものとすることができる。なお、本発明において、結晶性とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度により測定した融解熱量の値が4J/gより大きいことを意味する。
【0024】
鞘成分に用いる融点が140℃を超える結晶性の熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンビニルアルコール、ABS樹脂、および、これらの樹脂と熱可塑性エラストマーやゴム状弾性物との混合物が挙げられる。
【0025】
オレフィン系樹脂とは、オレフィン結合を有する樹脂のことであり、例えば、LDPE、LLDPE、HDPE等のポリエチレンや、ホモポリプレン、エチレン共重合ポリプレン等のポリプロピレンが挙げられる。中でも、ポリプロピレンは、軽量で、機械的特性に優れているので好ましい。オレフィン系エラストマーの市販品としては、例えば、プライムポリマー社製『J700GP』(ホモポリプロピレン)、『J2041GA』(共重合ポリプロピレン)が挙げられる。
【0026】
アミド系樹脂とは、アミド結合を有する樹脂のことであり、例えば、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9T、ポリアミド10Tおよびこれらのポリアミド共重合体が挙げられる。
【0027】
ポリアミド共重合体としては、例えば、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体、ポリアミド6/10T、ポリアミド6/12共重合体が挙げられ、中でも、融点が比較的低く、耐屈曲性を有することから、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体が好ましい。
【0028】
ポリアミドの市販品としては、例えば、ユニチカ社製『A1030BRL』(ポリアミド6)、アルケマ社製『BMNO』(ポリアミド11)、『AMNO』(ポリアミド12)が挙げられる。ポリアミド共重合体の市販品としては、例えば、宇部興産社製『5023』(ポリアミド6/66共重合体)、『7034B』(ポリアミド6/12共重合体)、または『6434B』(ポリアミド6/66/12共重合体)、ユニチカ社製『CX1004』(ポリアミド共重合体)が挙げられる。
【0029】
エステル系樹脂とは、エステル結合を有する樹脂のことであり、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルの共重合ポリエステルが挙げられる。
【0030】
芳香族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートイソフタレートが挙げられる。芳香族ポリエステルの市販品としては、例えば、ユニチカ社製『IP20』(ポリエチレンテレフタレートイソフタレート)が挙げられる。
【0031】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレートヘキサノエートが挙げられる。中でも、比較的融点が低く用いやすいことから、ポリ乳酸が好ましい。
【0032】
ポリ乳酸としては、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D-乳酸)、これらの混合物、およびこれらの共重合体が挙げられる。中でも、成形加工性が高いことから、ポリ(L-乳酸)を主体とするポリ乳酸が好ましい。ポリ(L-乳酸)を主体とするポリ乳酸は、D-乳酸含有量が3モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましく、1.5モル%以下であることがさらに好ましい。ポリ乳酸は、成形加工性が高いことから、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.3~15g/10分であることが好ましい。ポリ乳酸の市販品としては、例えば、NatureWorks社製『4032D』(D-乳酸含有量=1.4モル%)、『3001D』(D-乳酸含有量=1.4モル%)が挙げられる。
【0033】
芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルの共重合ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンテレフタレートアジぺート、ポリエチレンテレフタレートアジぺート、ポリエチレンテレフタレートスルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレートセバケート、ポリブチレンテレフタレートセバケートが挙げられる。
【0034】
ポリエチレンビニルアルコールとは、ポリエチレンにビニルアルコールがブロック共重合したものである。ポリエチレンビニルアルコールは、シリル基やアセトアセチル基等で変性されていてもよい。ポリエチレンビニルアルコールの市販品としては、日本合成化学社製『ソアノール』シリーズやクラレ社製『エバール』シリーズが挙げられる。
【0035】
本発明の芯成分および/または鞘成分には、上記した任意の各種の樹脂成分2種以上混合し、一成分として用いてもよい。混合する方法としては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を用いる方法が挙げられ、中でも、混練状態の向上のため、二軸押出機を用いる方法が好ましい。
【0036】
本発明において、芯成分の熱可塑性樹脂と鞘成分の熱可塑性樹脂は、親和性や相溶性が高いことが好ましい。親和性や相溶性が高い芯成分/鞘成分の組み合わせとしては、例えば、オレフィン系エラストマー/オレフィン系樹脂、エステル系エラストマー/エステル系樹脂、スチレン系エラストマー/アミド系樹脂、アミド系エラストマー/アミド系樹脂が挙げられる。
【0037】
親和性や相溶性を示す方法としては、Van KrevelenとHoftyZer等の提唱した溶解度パラメーター(SP値)が知られている。芯成分と鞘成分のSP値が近いほど、芯成分と鞘成分の親和性や相溶性が高くなり、製糸性等の操業性が向上する。
【0038】
本発明において、芯成分の熱可塑性樹脂と鞘成分の熱可塑性樹脂は、親和性や相溶性が低い場合、芯成分および/または鞘成分に相溶化剤を添加してもよい。相溶化剤としては、例えば、東亜合成社製『アルフォン』シリーズ、日油社製『モデイパ-A』シリーズ、トレンドサイン社製『SAG』シリーズ、BASF社製『JONCRYL ADR』シリーズが挙げられる。なお、エポキシ基やアリル基等の反応性を有する官能基を含有する相溶化剤は、これらの官能基が芯成分と鞘成分と反応し、ゲル化しやすくなることがある。ゲル化すると、フィラメントを製糸性よく得ることが困難になるとともに、得られる造形物の表面にゲル化した部分が現れて、品位が低下することがある。
【0039】
芯成分と鞘成分の質量比率(芯成分/鞘成分)は、95/5~20/80であることが好ましく、90/10~20/80であることがより好ましく、75/25~20/80がさらに好ましい。芯成分と鞘成分の合計に対する芯成分の質量比率が95質量%を超えると、芯成分を被覆する鞘成分の割合が少なくなって、芯成分が繊維表面に露出し、繊維表面の粘着性が増加するため、ブロッキングしたり、塵やごみの付着が生じやすくなったり、糸の解舒性が低下したり、糸の走行抵抗が強くなる場合がある。また、紡糸ノズルパック内の構造精度が極めて高くなり、高コストになる場合がある。一方、前記芯成分の質量比率が20質量%未満となると、耐屈曲性や耐衝撃性が低下する場合がある
【0040】
本発明のフィラメントの繊維断面としては、芯成分を鞘成分が被覆されている芯/鞘型複合断面であれば、丸断面であっても、異形断面であってもよい。丸断面としては、例えば、薄皮の芯/鞘型複合断面(
図1の図a)、芯/鞘/芯型の3成分タイプの複合断面(
図1の図b)、多芯型または海島型の複合断面(
図1の図c)が挙げられる。異形断面としては、例えば、突起状の鞘成分を有する芯鞘型複合異形断面(
図1の図d)、6葉芯鞘型異形断面(
図1の図e)、芯部が放射状の断面形状の鞘部成分が取り込んだ3成分型複合断面(
図1の図f)が挙げられる。
【0041】
本発明のフィラメントは、繊維径が1.5~3.2mmであることが好ましく、1.6~3.1mmであることがより好ましい。フィラメントの繊維径とは、フィラメントの長手方向に対して垂直に切断した断面における、最大長径と最小短径の平均である。フィラメントの繊維径が1.5mm未満であると、細すぎて、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに用いることができない場合がある。なお、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適したフィラメントの繊維径の上限は、3.2mm程度である。
【0042】
本発明のフィラメントの芯成分や鞘成分には、得られる造形物の耐久性を向上することができることから、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリシレート系化合物、チオエーテル化合物、芳香族ベンゾエート系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤を添加することが好ましい。
【0043】
また、本発明のフィラメントの芯成分や鞘成分には、得られる造形物の寸法安定性を向上させるため、充填剤を含有させてもよい。充填剤としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス繊維粉、ワラストナイト、マイカ、合成マイカ、セリサイト、タルク、クレー、ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト、ドロナイト、シリカ、チタン酸カリウム、微粉ケイ酸、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、石膏、グラファイト、モンモリロナイト、カーボンブラック、硫化カルシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、セルロースファイバーが挙げられ、中でも、タルクがより好ましい。
【0044】
充填剤の平均粒子径は、製糸性よくフィラメントを得るため、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。充填剤の平均粒子径が100μmを超える場合、フィラメントの製造時において、紡糸機のフィルターに詰り、濾過圧が上昇する場合がある。また、得られるフィラメント表面のざらつきが強くなって、品位が低下する場合がある。充填剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱粒度分布計等の粒度分布測定装置を用いて粒子径分布を測定した場合の、質量累積50%のときの粒径値で定義される値である。測定は、通常、水またはアルコールに測定許容濃度となるように充填剤を加えて縣濁液を調整し、超音波分散機で分散させてからおこなう。
【0045】
充填剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。充填剤の含有量が20質量部を超えると、耐屈曲性を阻害し、また製糸性が低下し、フィラメントの繊維径が不均一となり、表面のざらつきが大きくなる場合がある。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、上記のような充填剤を含有することにより、フィラメントの作製時、および、3Dプリンターでの造形時に、ノズルに汚れが付着しやすくなることがある。そのため、本発明の樹脂組成物に充填剤を含有させる場合、汚れ防止剤を含有させることが好ましい。汚れ防止剤としては、例えば、金属セッケン、フッ素系滑剤、脂肪酸アミド等を主成分とする滑剤が挙げられる。金属セッケンは、アルカリ金属以外の金属の脂肪酸塩のことをいい、主な金属として、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅、鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、クロム、マンガンが挙げられる。また、フッ素系滑剤としては、例えば、パーフルオロアルカン、パーフルオロカルボン酸エステル、パーフルオロ有機化合物、フッ化ポリマーが挙げられ、脂肪族アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが挙げられる。中でも、汚れの付着防止効果が高いので、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。市販品としては、例えば、ダイキン工業社製のPPAシリーズが挙げられる。
【0047】
本発明のフィラメントの芯成分や鞘成分には、さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、フタル酸エステル類やリン酸エステル類等の可塑剤;染料、顔料等の着色剤;臭化化合物、リン酸エステル、赤燐等の難燃剤;三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等の難燃助剤;着色防止剤;帯電防止剤;末端封鎖剤;メヤニ防止剤;防曇剤;防霧剤;離型剤;防湿剤;酸素バリア剤;結晶核剤を添加してもよい。添加剤は、上記のうち1つを単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0048】
本発明のフィラメントは、モノフィラメント、マルチフィラメントであってもよいが、3Dプリンターの吐出を制御しやすいので、モノフィラメントであることが好ましい。
【0049】
本発明のフィラメントは、公知の芯/鞘型複合断面用ノズルを用いた紡糸方法で得ることができる。例えば、2本以上のエクストルーダーとそれに対応したギヤーポンプをもつ複合紡糸装置を用い、個別溶融計量した芯成分、鞘成分を任意のノズルパック内に導入して、個別濾材、濾過フィルターを経由した後、各成分の分配と接合を繰り返して最終的に統合して、ノズル孔から、任意の断面形状に押出し、これを20~80℃の液浴中で冷却固化後、紡糸速度1~50m/分で引き取り、ボビン等に巻き取る方法が挙げられる。なお、フィラメントにする際、1.0倍を超え5.0倍以下の倍率で延伸を施してもよい。延伸倍率は1.0倍を超え3.5倍以下であることがより好ましい。延伸することにより、得られるフィラメントの耐屈曲性を向上させることができる。モノフィラメントの延伸は、紡糸後のフィラメントを一度巻き取ってからおこなってもよく、また、紡糸後に巻き取らず、紡糸に続いて、連続的に延伸してもよい。延伸に際して、適度な加熱延伸、熱処理を施すと、より安定したフィラメントが形成され、フィラメント強度が増加する。
【0050】
本発明のフィラメントは、芯成分に、低融点の熱可塑性樹脂または非晶性の熱可塑性樹脂を配し、鞘成分に、高融点の熱可塑性樹脂を配した、芯/鞘型複合断面構造のフィラメントであるため、耐屈曲性に優れている。
【0051】
また、本発明のフィラメントを用いて造形した造形物は、芯成分の低融点の熱可塑性樹脂または非晶性の熱可塑性樹脂と、高融点の熱可塑性樹脂とがマイクロメートルオーダーでの積層されているため、柔軟性や機械的特性や耐衝撃性や寸法安定性に優れている。そのため、造形物の柔軟性を示す指標である曲げ弾性率は、600MPa以下とすることができ、好ましくは500MPa以下とすることができる。機械的特性の指標である引張強度は2.0MPa以上とすることができ、好ましくは5.0MPa以上とすることができる。また、耐衝撃性の指標であるシャルピー衝撃強度は、20kJ/m2以上とすることができる。シャルピー衝撃強度は、測定時に折れないことがさらに好ましい。
【0052】
本発明のフィラメントは、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はaこれらによって限定されるものではない。
【0054】
1.物性測定
用いた樹脂、得られたフィラメントおよび造形物の物性測定は以下の方法によりおこなった。
【0055】
(1)ガラス転移温度
各実施例および比較例で用いた樹脂について、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)を用いて、窒素雰囲気下、-100℃に5分間保持した後、昇温速度20℃/分の条件で昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求めた。
【0056】
(2)融点
各実施例および比較例で用いた樹脂について、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)を用いて、窒素雰囲気下、-100℃に5分間保持した後、昇温速度20℃/分で260℃まで昇温した後、260℃で5分間保持し、続いて降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温し、2回目の昇温時の吸熱ピークのトップを求めた。
【0057】
(3)相対粘度
アミド系樹脂については、樹脂濃度が1.0g/dlになるように、96%硫酸に溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて、温度25℃の条件で測定した。
エステル系樹脂については、樹脂濃度が0.5g/dlになるように、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)に溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて、温度20℃の条件で測定した。
【0058】
(4)ポリ乳酸のD-乳酸含有量
ポリ乳酸約0.3gを1N-水酸化カリウム/メタノール溶液6mlに加え、65℃にて充分撹拌し、ポリ乳酸を分解させた後、硫酸450μlを加えて、65℃にて撹拌し、乳酸メチルエステルとした。得られた乳酸メチルエステルサンプル5ml、純水3ml、および、塩化メチレン13mlを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5ml採取し、HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ガスクロマトグラフィーで測定した。
ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社製、HP-6890)は、ヘリウム(He)をキャリアガスとして、流速1.8ml/分で、オーブンプログラムは90℃で3分間保持し、50℃/分で220℃まで昇温し、1分間保持する条件でおこなった。カラムは、J&W社製DB-17(30m×0.25mm×0.25μm)、検出器はFID(温度300℃)を用いて、内部標準法で測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD-乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出した。
【0059】
(5)MFR
各実施例および比較例で用いた樹脂について、JIS K 7210に準じて、(用いた樹脂の融点+20℃)を目安に測定できる範囲の温度250℃、230℃、210℃または190℃のいずれかの温度で、荷重2.16kgfの条件下で測定した。
【0060】
(6)製糸性
紡糸速度10m/分にて24時間、モノフィラメントを採取した際の糸切れ回数により、以下の基準で評価した。
◎:糸切れが0回
〇:糸切れ回数が1回
×:糸切れ回数が2回以上
本発明においては、「○」以上を合格とした。
【0061】
(7)モノフィラメントの繊維径
各実施例および比較例で得られたモノフィラメントを、20cm毎に、モノフィラメントの長手方向に対して垂直に切断し、測定サンプルを30個得た。各サンプルの断面における最大長径と最小短径を、マイクロメーターを用いて測定し、その平均を算出し、これを平均径とした。全30サンプルの平均径を平均して、モノフィラメントの繊維径とした。
【0062】
(8)モノフィラメントの繊維径の均一性
上記(7)において算出した、全サンプルの平均径の最大値(M1)と最小値(M2)を用いて、モノフィラメントの繊維径の均一性を算出した。
繊維径の均一性=(M1-M2)/2
【0063】
(9)モノフィラメントの粘着性
各実施例および比較例で得られたモノフィラメントから12cmの長さのサンプルを5本採取し、並列に置き、その両端10mm分をセロテープ(登録商標)で固定した。23℃×65%調湿下で、日本テストパネル社製ポリプロピレン標準試験板(100mm×25mm×2mm、重さ約4.6g)をサンプル上に置き、上から10kgの荷重を60秒間付与した後、徐重した。サンプル台紙を逆さまにし、標準試験板が落下する時間を測定し、以下の基準で評価した。
◎:すぐに落下した。
〇:すぐには落下しなかったが、2秒未満に落下した。
□:2秒以上5秒未満に落下した。
×:落下しなかったか、落下するまでに5秒以上かかった。
本発明においては、「□」以上を合格とした。
【0064】
(10)モノフィラメントの耐屈曲性
モノフィラメントを、標準状態(室温22±2℃、湿度50±2%)で48時間以上放置した後、JIS P 8115に記載のMIT耐折度試験に準じて、マイズ試験機社製、MIT耐折度試験機を用いて、荷重5N、クランプ先端R0.38mm、つかみ間隔2.0mm、試験速度175rpm、折り曲げ角度135度で実施し、モノフィラメントの耐折回数を計測した。
耐折回数により、以下の基準で評価した。
◎:100回以上
○:30~99回
△:5~29回
×:5回未満
本発明においては、耐折回数が5回以上である場合、合格とし、30回以上であることが好ましく、100回以上であることがより好ましい。
【0065】
(11)3Dプリンター造形性
各実施例および比較例で得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンター(FLASHFORGE社製、CREATOR PRO)を用いて、ノズル温度190~240℃、テーブル温度50℃の条件で、
図2の「ルーク」を造形した。樹脂が均一に吐出されなかったり、反りが大きすぎて造形台から剥がれて、造形することができなかったりした場合、「×」と評価した。造形することができた場合、
図2の1(オーバーハング部分)の外観を、以下の基準で評価した。
◎:オーバーハング部分がダレることがなかった。
○:オーバーハング部分がダレた。
本発明においては、「○」以上を合格とした。
【0066】
(12)造形物の曲げ弾性率
各実施例および比較例で得られたモノフィラメントを、60℃×24時間の条件で乾燥し、水分率を0.02%とした。乾燥したモノフィラメントを用いて、ニンジャボット社製3Dプリンター(NJB-200HT)で、ノズル径0.4mmφ、造形速度50mm/秒、造形温度200~260℃、積層厚0.1mm、押し出される樹脂径0.22mm、充填率100%、テーブル温度60℃の条件下、(用いるモノフィラメントの鞘成分の樹脂のうち最も高い樹脂の融点+30℃)を目安に、最も良好な造形物を得る温度条件を選定し、ISO準拠の一般物性測定用試験片(ダンベル片)を作製した。
作製したダンベル片について、JIS K 7171に準じて、23℃×65%調湿下で、曲げスパン64mm、試験速度2mm/秒で測定した。
【0067】
(13)造形物の引張強度
(12)で作製したダンベル片について、JIS K 7161-2に準じて23℃×65%調湿下で、掴み間隔115mm、引張速度5mm/分で測定した。
【0068】
(14)造形物のシャルピー衝撃強度
(12)で作製したダンベル片から、ISO準拠の試験片(80mm×10mm×4.0mm、ノッチ付き)を作製した。
上記ノッチ付き試験片について、JIS K 72111-1に準じて、支持台間距離62mmで測定した。
【0069】
(14)造形物の反り
得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンター(ニンジャボット社製、NJB-200HT)を用いて、ノズル温度200~260℃、テーブル温度60℃の条件で、
図3の「アンカー」を造形した。反りが大きすぎて造形物が造形台から剥がれ造形することができなかった場合、「×」と評価した。造形することができた場合、造形したアンカーを平滑な水準台(大理石等)上に置き、
図3の5の位置におもりを置き固定したのち、
図3の2~4の3箇所の先端部分について台からの高さを隙間ゲージまたはノギスで測定し、平均値を求め、以下の基準で評価した。
◎:平均値が0mmを超え1mm未満であった。
○:平均値が1mm以上であった。
本発明においては、「○」以上を合格とした。
【0070】
2.原料
実施例、比較例に用いた原料は、下記の通りである。
【0071】
A.低融点の熱可塑性樹脂または非晶性の熱可塑性樹脂
〔エステル系樹脂〕
(A-1a)
・ポリブチレンテレフタレートアジペート、BASFジャパン社製『エコフレックスC1200』、融点=100-120℃、ガラス転移温度=-30℃、190℃でのMFR=3g/10分
(A-1b)
・ポリブチレンサクシネートアジペート、昭和高分子社製『ビオノーレ3001MD』、融点=95℃、ガラス転移温度=-45℃、190℃でのMFR=10g/10分
【0072】
〔アミド系エラストマー〕
(A-2a)
・脂肪族ポリアミドとポリエーテルエステルとのブロック共重合体、T&K TOKA社製『TPAE-12』、融点=なし、ガラス転移温度=-60℃、200℃でのMFR=200g/10分
【0073】
〔スチレン系エラストマー〕
(A-3a)
・スチレン-ビニルイソプレン-スチレン共重合体、クラレ社製『ハイブラー7311』、融点=なし、ガラス転移温度=-32℃、190℃でのMFR=0.5g/10分
(A-3b)
・アロン化成社製『AR-815C』、融点=101℃、ガラス転移温度=-30℃、230℃でのMFR=0.1g/10分
(A-3c)
・水添スチレン-ブタジエン共重合体、旭化成社製『タフテックMP-10』、融点=なし、ガラス転移温度=-40℃、230℃でのMFR=4g/10分
【0074】
〔オレフィン系エラストマー〕
(A-4a)
・ダウケミカル社製『エンゲージ8401』、融点=80℃、ガラス転移温度=-47℃、190℃でのMFR=30g/10分
【0075】
[ウレタン系エラストマー]
(A-5a)
・BASF社ジャパン社製『エラストラン1180A』、融点=なし、ガラス転移温度=-42℃、230℃でのMFR=83.5g/10分
【0076】
〔エステル系エラストマー〕
(A-6a)
・ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルとのブロック共重合体、東レ社製『ハイトレル4047』、融点=182℃、ガラス転移温度=-40℃、230℃でのMFR=8g/10分
【0077】
B.高融点の熱可塑性樹脂
〔オレフィン系樹脂〕
(B-1a)
・ホモポリプロピレン、プライムポリマー社製『J700GP』、融点=165℃、ガラス転移温度=44℃、230℃でのMFR=8g/10分
(B-1b)
・共重合ポリプロピレン、プライムポリマー社製『J2041GA』、融点=145℃、ガラス転移温度=-5℃、230℃でのMFR=22g/10分
【0078】
〔アミド系樹脂〕
(B-2a)
・ポリアミド6/66/12共重合体、宇部興産社製『6434B』、融点=188℃、ガラス転移温度=44℃、210℃でのMFR=1.4g/10分
(B-2b)
・ポリアミド6/12共重合体、宇部興産社製『7034B』、融点=201℃、ガラス転移温度=60℃、210℃でのMFR=1.6g/10分
(B-2c)
・ポリアミド共重合体、ユニチカ社製『CX1004』、融点=210℃、ガラス転移温度=47℃、230℃でのMFR=8.6g/10分、相対粘度=2.5
(B-2d)
・ポリアミド6、ユニチカ社製『A1030BRL』、融点=225℃、ガラス転移温度=47℃、230℃でのMFR=26g/10分、相対粘度=2.55
(B-2e)
・ポリアミド11、アルケマ社製『BMNO』、融点=185℃、ガラス転移温度=50℃、210℃でのMFR=37g/10分
(B-2f)
・ポリアミド12、アルケマ社製『AMNO』、融点=175℃、ガラス転移温度=37℃、210℃でのMFR=50g/10分
【0079】
〔エステル系樹脂〕
(B-3a)
・ポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ユニチカ社製『IP20』、融点=210℃、ガラス転移温度=71℃、230℃でのMFR=1.6g/10分、相対粘度=1.38
(B-3b)
・ポリ乳酸、NatureWorks社製『3001D』、D-乳酸含有量1.4モル%、融点=168℃、ガラス転移温度=58℃、190℃でのMFR=10g/10分
(B-3c)
・共重合ポリエステル、ユニチカ社製『エリーテルUE-9200』、融点=なし、ガラス転移温度=65℃、極限粘度=0.53
【0080】
〔ポリエチレンビニルアルコール〕
(B-4a)
・ポリエチレンビニルアルコール、日本合成化学社製『ソアノールET3803』、融点=170℃、ガラス転移温度=63℃、190℃でのMFR=1.8g/10分
【0081】
[アミド系樹脂/スチレン系エラストマーブレンド体]
(B-5a)、(B-5b)、(B-5c)
二軸押出機(池貝社製、PCM-30、スクリュー径29mm、L/D30、ダイス径3mm、孔数3)を用い、A1030BRL(B-2d)と、ハイブラー7311(A-3a)を、それぞれ、質量比率25/75、50/50、25/75の割合でブレンドして、押出機に供給した。温度230℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量7kg/時間の条件で混練、押出した。引き続き、押出機先端から吐出されたストランドを、冷却バスで冷却後、ペレタイザーにて引き取り、カッティングしてペレットを得た。
得られたペレットを65℃×48時間の条件で乾燥して、水分率を0.01%とし、それぞれ、(B-5a)、(B-5b)、(B-5c)とした。
【0082】
実施例1
単軸押出機(日本製鋼所社製、スクリュー径40mm、L/D22)2本からなる複合紡糸機を用い、ノズルは芯鞘型複合紡糸タイプのノズル径4mmφ、孔数2から構成される紡糸用ノズルパックを用いた。芯成分として、ハイブラー7311を230℃で溶融し、鞘成分として、A1030BRLを230℃で溶融し、スピンブロック温度を230℃とした。芯成分/鞘成分の質量比率を75/25とし、総吐出量を4.4kg/時間として、紡糸口金から押出した。引き続き、押出された2本のモノフィラメントを、紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、冷却時間1分、引き取り速度10m/分で吐出調整しながら引き取り、繊維径が1.75mmの芯/鞘型複合断面のモノフィラメントを得た。
【0083】
実施例2~27、比較例10、11
樹脂組成、製造条件を表1~3の通りに変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、繊維径が1.75mmの芯/鞘型複合断面のモノフィラメントを得た。
【0084】
比較例1
単軸押出機(日本製鋼所社製、スクリュー径40mm、L/D22)1本からなる紡糸機を用い、ノズルはシングルタイプのノズル径4mmφ、孔数1から構成される紡糸用ノズルパックを用いた。ハイブラー7311単独を、230℃で溶融し、スピンブロック温度を230℃とした。吐出量を2.2kg/時間として、紡糸口金から押出した。引き続き、押出された1本のモノフィラメントを、紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、冷却時間1分、引き取り速度10m/分で吐出調整しながら引き取り、繊維径が1.75mmの単一成分のモノフィラメントを得た。
【0085】
比較例2~9
樹脂組成、製造条件を表1~3の通りに変更する以外は、比較例1と同様の操作をおこなって、繊維径が1.75mmの単一成分のモノフィラメントを得た。
【0086】
表1~3に、実施例1~27、比較例1~11のモノフィラメントの樹脂組成、製造条件、評価結果を示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
実施例1~27のフィラメントは、いずれも、良好に製糸することができ、繊維径が均一で、耐屈曲性に優れていた。また、表面に粘着性を有しなかったため、抵抗なく3Dプリンターに供給することができ、造形性も良好であった。また、得られた造形物は、曲げ弾性率が低く柔軟性に優れ、引張強度やシャルピー衝撃強度が高く機械的特性や耐衝撃性に優れ、反りが小さく寸法安定性に優れていた。
実施例1~5のフィラメントを対比することにより、芯成分と鞘成分の合計に対する鞘成分の質量比率を高くした方が、3Dプリント造形性が向上することがわかる。
実施例10~12のフィラメントを対比することにより、鞘成分のポリアミド系樹脂の質量比率を高くした方が、3Dプリント造形性が向上することがわかる。
【0091】
比較例1、3~6、10のフィラメントは、製糸はいずれも可能だったが、ボビンに巻き取ったフィラメント同士が蜜着し、糸の解舒抵抗が強くなり、引き出すことが困難で、3Dプリンターに供給することができなかった。
比較例2、9は、得られた造形物の曲げ弾性率が高すぎるものであった。
比較例7、8のフィラメントは、製糸はいずれも可能だったが、柔軟すぎて、3Dプリンターに供給することができなかった。
比較例11のフィラメントは、芯成分にガラス転移温度20℃を超える成分を配したため、製糸は可能であったが、耐屈曲性が低く、得られた造形物は、シャルピー衝撃強度や曲げ弾性率が低かった。
【符号の説明】
【0092】
1 オーバーハンク部分
2 先端部分
3 先端部分
4 先端部分
5 おもりを置く場所