(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】エチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/02 20060101AFI20230601BHJP
C07C 303/30 20060101ALI20230601BHJP
C07C 309/46 20060101ALI20230601BHJP
C07C 309/73 20060101ALI20230601BHJP
C07C 309/76 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C07C303/02
C07C303/30
C07C309/46 CSP
C07C309/73
C07C309/76
(21)【出願番号】P 2019143039
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】599118539
【氏名又は名称】株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】伊豆原 剛
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095439(JP,A)
【文献】国際公開第2009/028543(WO,A1)
【文献】特表平10-506626(JP,A)
【文献】特開昭63-275557(JP,A)
【文献】特開平11-246515(JP,A)
【文献】米国特許第08501382(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法であって,
【化1】
(式(1)中,R
1は,水素原子又はメチル基を示す。)
式(5)で示される化合物と,N-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリンを反応させて,式(6)で示される化合物を得る工程と,
【化2】
(式(5)中,X
1は,脱離基を示し,Y
1は保護基を示す。)
【化3】
(式(6)中,R
1は,水素原子又はメチル基を示し,Y
1は保護基を示す。)
式(6)で示される化合物から式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を得る工程と,を含む,
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,
前記式(5)で示される化合物を,式(3)で示される化合物をハロゲン化することで得る工程をさらに含む,
【化4】
(式(3)中,Y
1は保護基を示す。)
方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって,前記式(3)で示される化合物を式(2)で示される化合物をエステル化することで得る工程をさらに含む,
【化5】
(式(2)中,X
2は,脱離基を示す。)
方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって,
前記式(5)で示される化合物を,式(4)で示される化合物をエステル化することで得る工程をさらに含む,
【化6】
(式(4)中,X
1及びX
2は,同一でも異なってもよく脱離基を示す。)
方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって,前記式(4)で示される化合物を式(2)で示される化合物をハロゲン化することで得る工程をさらに含む,
【化7】
(式(2)中,X
2は,脱離基を示す。)
方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法であって,X
1は,臭素原子を示し,Y
1はフェニル基を示す方法。
【請求項7】
フェニル-3-(ブロモメチル)ベンゼン-1-スルホン酸,又はその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
フェニル-3-{[エチル(3-メチルフェニル)アミノ]メチル}ベンゼン-1-スルホン酸,フェニル-3-{[エチル(フェニル)アミノ]メチル}ベンゼン-1-スルホン酸,又はその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,エチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体の製造方法及びエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体を製造する際に生ずる新規な中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4200222号(特許文献1)ではブリリアントブルーG(以下,BBG)が,眼疾患治療のための手術時に眼膜を染色するための染色剤として有用であることが記載されている。また,以下の非特許文献1及び2では,BBG及びブリリアントブルーFCF(以下,BB-FCF)が,P2X7受容体やパネキシン1を阻害することで脊髄損傷やその他,炎症が関連する疾患に有効であることが記載されている。これらの実例から明らかなようにBBGやBB-FCFのようなトリアリールメタン系化合物は色素としての用途に加えて,医薬品としても応用可能な性質を併せ持っている。特開2017-95439号(特許文献2)及び中国特許102617411号(特許文献3)には,BBGやBB-FCFを得るための製造方法が記載されている。
【0003】
しかしながら,医薬品製造における実用性という観点から,それら既知の製法について検討したところ,中間体に相当する式(1)で表されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体(以下,化合物1)を得るための各工程において,以下に示すような問題点が存在することが判明した。
【0004】
すなわち,スルホニルクロリド化反応において超低温条件下,有機金属試薬,二酸化硫黄及び塩素化剤を使用するため,作業が煩雑である。また,ベンジルチオ基を導入する際に臭気性の高いベンゼンチオールを使用するため取り扱いが容易ではない。スルホン酸基を導入する際に高温下,発煙硫酸及び硫酸を使用するため,反応条件が激しい上に,生成物に不要な位置異性体が生じる。またそれを取り除くために再結晶を繰り返す必要があり,収率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4200222号
【文献】特開2017-95439号
【文献】中国特許102617411号
【非特許文献】
【0006】
【文献】PNAS,2009,106(30),12489-12493.
【文献】J.Gen.Physiol.,2013,141(5),649-56.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書に記載される発明のひとつは,BBGやBB-FCFを得るための中間体である後述する式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその塩を,安価で純度高く製造する方法を提供することを,目的とする。
【0008】
本明細書に記載される発明のひとつは,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその塩を合成するための新規中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に記載される発明のひとつは,出発物質として入手容易な3-メチルベンゼンスルホニルクロリドを用いて,フェノールとの反応によるスルホン酸エステルの形成,ベンジル位の臭素化,N-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリンの付加そしてアルカリ性条件下での加水分解を経ることによって目的とする化合物を極めて容易に,かつ高品質で得られることを見出したものに基づく。
【0010】
本明細書に記載される最初の発明は,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法に関する。
【化1】
(式(1)中,R
1は,水素原子又はメチル基を示す。)
【0011】
この方法は,式(5)で示される化合物と,N-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリンを反応させて,式(6)で示される化合物を得る工程を含む。
【化2】
(式(5)中,X
1は,脱離基を示し,Y
1は保護基を示す。)
【0012】
【化3】
(式(6)中,R
1は,水素原子又はメチル基を示し,Y
1は保護基を示す。)
【0013】
そして,この方法は,式(6)で示される化合物から式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を得る工程を含む。
【0014】
上記の方法の好ましい態様は,式(5)で示される化合物を,式(3)で示される化合物をハロゲン化することで得る工程をさらに含む。この工程は,時系列的には,「式(5)で示される化合物と,N-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリンを反応させて,式(6)で示される化合物を得る工程」の前に存在する工程である。
【化4】
(式(3)中,Y
1は保護基を示す。)
【0015】
上記の方法の好ましい態様は,式(3)で示される化合物を式(2)で示される化合物をエステル化することで得る工程をさらに含むものである。この工程は,時系列的には,「式(5)で示される化合物を,式(3)で示される化合物をハロゲン化することで得る工程」の前に存在する工程である。
【化5】
(式(2)中,X
2は,脱離基を示す。)
【0016】
上記の方法の好ましい態様は,式(5)で示される化合物を,式(4)で示される化合物をエステル化することで得る工程をさらに含むものである。この工程は,時系列的には,「式(5)で示される化合物と,N-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリンを反応させて,式(6)で示される化合物を得る工程」の前に存在する工程である。
【化6】
(式(4)中,X
1及びX
2は,同一でも異なってもよく脱離基を示す。)
【0017】
上記の方法の好ましい態様は,式(4)で示される化合物を式(2)で示される化合物をハロゲン化することで得る工程をさらに含むものである。この工程は,時系列的には,「式(5)で示される化合物を,式(4)で示される化合物をエステル化することで得る工程」の前に存在する工程である。
【化7】
(式(2)中,X
2は,脱離基を示す。)
【0018】
上記の方法の好ましい態様は,X1は,臭素原子を示し,Y1はフェニル基を示す方法である。また,工程にX2が含まれる場合,X2は塩素原子であることが好ましい。
【0019】
上記の式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩は,BBGやBB-FCFを製造する際の中間体である。つまり,この明細書は,上記の工程を含むBBG,BB-FCF,又はその薬学的に許容される塩の製造方法をも提供する。なお,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を用いて,BBGやBB-FCFを製造する方法は公知である。
【0020】
本明細書に記載される上記とは別の発明は,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を製造する際に用いられる新規中間体に関する。
【0021】
具体的な中間体の例は,フェニル-3-(ブロモメチル)ベンゼン-1-スルホン酸,又はその薬学的に許容される塩である。このものは,式(5)において,X1が臭素原子,Y1がフェニル基である化合物やその塩である。この明細書は,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を製造するための,フェニル-3-(ブロモメチル)ベンゼン-1-スルホン酸,又はその薬学的に許容される塩の使用をも提供する。
【0022】
具体的な中間体の例は,フェニル-3-{[エチル(3-メチルフェニル)アミノ]メチル}ベンゼン-1-スルホン酸,フェニル-3-{[エチル(フェニル)アミノ]メチル}ベンゼン-1-スルホン酸,又はその薬学的に許容される塩である。これらは,式(6)において,R1がメチル基又は水素原子であり,Y1がフェニル基である化合物や,それらいずれかの塩である。この明細書は,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を製造するための,フェニル-3-{[エチル(3-メチルフェニル)アミノ]メチル}ベンゼン-1-スルホン酸,フェニル-3-{[エチル(フェニル)アミノ]メチル}ベンゼン-1-スルホン酸,又はその薬学的に許容される塩の使用をも提供する。
【発明の効果】
【0023】
本明細書は,BBGやBB-FCFを得るための中間体である後述する式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその塩を,安価で純度高く製造する方法を提供することを,開示する。
【0024】
本明細書は,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその塩を合成するための新規中間体を提供することを開示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。以下の説明では,例えば,式(1)で示される化合物を化合物1のように表記する。
【0026】
この明細書に開示される発明の特徴のひとつは,化合物1のスルホン酸基の導入方法にある。この発明は,例えば,出発物質にあらかじめスルホン酸基へ変換容易なクロロスルホニル基が適切な位置に導入されている。このため,従来のような問題点,すなわち煩雑な反応操作,取り扱いが容易ではない試薬及び原料の使用,激しい反応条件,位置異性体の生成及びその除去といった問題を回避できる。さらにこの製造方法では,温和な反応条件下で,取り扱いが容易な試薬を使用しているため,作業面においての負担が少ない。従って,この明細書は,医薬品中間体として有用なエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体(化合物1)の実用性の高い製造方法を提供でき,しかもその製造方法は,化合物1や化合物1を用いて製造される化合物の大量生産に適している。この製造方法によって得られるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体は,不要な異性体を含まず,かつ特別な精製操作を繰り返さなくとも,高い品質を有するため,BBG及びBB-FCFを医薬品グレードで製造する際に極めて有用な中間体として使用することができる。
【0027】
本明細書に記載される最初の発明は,式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法に関する。
【化8】
(式(1)中,R
1は,水素原子又はメチル基を示す。)
【0028】
式(1)で示されるエチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩(化合物1又はその塩)は,たとえば水溶液中では電離しており,その際の化学式は(1)とは異なるものも存在する。しかし,それらの形態は,当業者にとって自明であり,電離しているものや電離していないものも当然化合物1又はその塩に含まれる。さらに,化合物1又はその塩は,溶媒和物となる場合がありうる(例えば水和物)このような形態のものも,実質的には水溶液中で化合物1又はその塩とおなじ挙動を示すため,化合物1又はその塩に含まれる。
【0029】
薬理学的に許容される塩の例は,無機塩基,アンモニア,有機塩基,無機酸,有機酸,塩基性有機酸,ハロゲンイオン等から成る塩,及び分子内塩を含む。無機塩基の例はアルカリ金属(Na,K等)及びアルカリ土類金属(Ca,Mg等)を含む。有機塩基の例はトリメチルアミン,トリエチルアミン,コリン,プロカイン,エタノ-ルアミン等を含む。無機酸の例は,塩酸,臭化水素酸,硫酸,硝酸,及びリン酸等を含む。有機酸の例はp-トルエンスルホン酸,メタンスルホン酸,蟻酸,トリフルオロ酢酸及びマレイン酸等を含む。塩基性有機酸の例はリジン,アルギニン,オルニチン,ヒスチジン等を含む。
【0030】
化合物1の製造方法の概要は以下のとおりである。
化合物2及び化合物3は,ハロゲン化剤を用いてベンジル位をハロゲン化することで,それぞれ,化合物4及び化合物5を得ることができる。
化合物2及び化合物4は,水酸基が直接結合した芳香族化合物を反応させて,スルホン酸エステル化を行うことで,それぞれ,化合物3及び化合物5を得ることができる。
化合物5にN-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリンを作用させることで,化合物6を得ることができる。
化合物6を加水分解や脱保護することで,化合物1を得ることができる。
【0031】
以下では,化合物1を化合物2から製造するひとつ目のスキーム(スキーム1)を説明する。
【0032】
スキーム1
スキーム1は,化合物2→化合物3→化合物5→化合物6→化合物1の順に得るスキームを示す。各工程を場合によりスキーム1.1のように表記する。なお,この明細書は,スキーム1全体のみならず,スキーム1.1とスキーム1.2の組み合わせや,スキーム1.3とスキーム1.4の組み合わせなど,連続する任意の数のスキームを組み合わせた発明をも提供するものである。この点は,後述するスキーム2も同様である。
【0033】
【0034】
スキーム1.1
スキーム1.1は,例えば,化合物2に,水酸基が直接結合した芳香族化合物など(例えば,Y1-OHで示される化合物)を反応させて,スルホン酸エステル化を行うことで,化合物3を得るための工程である。
【0035】
式(2)中,X2は,脱離基を示す。脱離基として,公知の脱離基を適宜用いることができる。脱離基の例は,ハロゲン原子,p-トルエンスルホニル基,トリフルオロメタンスルホニル基,メタンスルホニル基及びペンタフルオロフェニルオキシ基である。ハロゲン原子の例は,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨード原子である。好ましいX2の例は塩素原子である。
【0036】
Y1は保護基である。保護基が導入されているので,スキーム1.2及びスキーム1.3において,スルホン酸エステル部位が保護される。すなわち,は,Y1はスキーム1.2及びスキーム1.3において,脱保護されないスルホン酸保護基である。Y1の例は,C1~C4アルキル基,C2~C4アルケニル基,C2~C4アルキニル基,C1~C4アルコキシ基,C1~C4アルキルチオ基又はフッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨード原子で置換されてもよいフェニル基である。Y1の別の例は,2,2,2-トリクロロエチル基,2-(トリメチルシリル)エチル基,2,2,ジクロロエチル基,及び2,2-ジクロロプロピル基である。
【0037】
Y1-OHで示される化合物は,化合物2に対し,例えば1~3当量の範囲で加えられ,1~1.5当量で加えられることがより好ましい。この反応は,ピリジン,トリエチルアミン,N,N-ジイソプロピルエチルアミン等の第3級アミンの存在下に行うことが好ましくこれらの中ではトリエチルアミンを用いることが好ましい。第3級アミンは,例えば,1~3当量の範囲で加えられ,1~1.5当量が好ましい。反応に使用される溶媒は,ジクロロメタン,クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン,ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMA),ジメチルスルホキシド(DMSO),1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI),1-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;エチルエーテル,イソプロピルエーテル,メチルtert-ブチルエーテル(MTBE),1,2-ジメトキシエタン(DME),テトラヒドロフラン(THF),ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル,プロピオニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。これらの中では,ジクロロメタン,アセトニトリル,テトラヒドロフラン等の溶媒を用いることが好ましい。反応は,例えば,室温~60℃の温度で1~12時間行えばよい。例えば,得られた有機層を公知の方法を用いて洗浄し,乾燥させ濃縮することで,化合物3を得ることができる。
【0038】
スキーム1.2
スキーム1.2は,例えば,ハロゲン化剤を用いて化合物3のベンジル位をハロゲン化することで化合物5を得る工程である。
式(5)におけるX1は,脱離基を示す。脱離基として,公知の脱離基を適宜用いることができる。この脱離基は,例えば,ハロゲン化剤に由来するハロゲン原子である。脱離基の他の例は,p-トルエンスルホニル基,トリフルオロメタンスルホニル基及びメタンスルホニル基である。ハロゲン原子の例は,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨード原子である。好ましいX1の例は臭素原子である。
ハロゲン化剤の例は,臭素,塩素,N-ブロモスクシンイミド(NBS)であり,これらの中ではNBSが好ましい。加えるハロゲン化剤の量は,例えば1~10当量の範囲であり,1~3当量がより好ましい。反応を促進するために,熱,光,ラジカル開始剤を使用してもよい。ラジカル開始剤としてはアゾビスブチロニトリル(AIBN)を使用することが好ましく,AIBNは,例えば,0.1~1当量の範囲で加えられ,0.1~0.3当量で加えられてもよい。反応に使用される溶媒は,先に示した溶媒を適宜用いることができジクロロメタン,アセトニトリル等が好ましい。反応は,例えば,室温~100℃の温度で1~24時間行えばよい。例えば,得られた有機層を公知の方法を用いて洗浄し,乾燥させ濃縮することで,化合物5を得ることができる。
【0039】
スキーム1.3
スキーム1.3は,例えば,化合物5にN-エチル-m-トルイジン又はN-エチルアニリン(アニリン化合物)を作用させることで,化合物6を得るための工程である。
アニリン化合物は,例えば1~3当量の範囲で加えられ,1~1.5当量で加えられることがより好ましい。この反応は,例えば,炭酸リチウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,炭酸セシウム等の無機塩基の存在下に行う。これらの無機塩基の中では,炭酸カリウムが好ましい。無機塩基の添加量は,例えば,1~10当量であり,1~5当量が好ましい。反応に使用される溶媒として,先に示した溶媒を適宜用いることができアセトニトリル,テトラヒドロフラン,ジメチルホルムアミド等が好ましい。反応は,室温~100℃の温度で1~12時間行えばよい。例えば,得られた有機層を公知の方法を用いて洗浄し,乾燥させ濃縮することで,化合物6を得ることができる。
【0040】
スキーム1.4
スキーム1.4は,例えば,化合物6を加水分解や脱保護することで,化合物1を得るための工程である。
脱保護や加水分解は公知であり,これらの処理後適宜中和することで,化合物1を得ることができる。例えば,適度な濃度に調製した水酸化ナトリウム又は水酸カリウムの水溶液を1~50当量(又は1~20当量)で添加されることにより,加水分解や脱保護を起こすことができる。この反応に使用される溶媒の例は親水性有機溶媒である。親水性有機溶媒の例は,メタノール及びエタノールである。反応は,室温~100℃の温度で1~12時間行えばよい。加水分解などの処理後,例えば,溶媒を減圧下で留去し,適量の塩酸を加えて中和する。化合物1は必要に応じて再結晶によって精製してもよい。
【0041】
スキーム2
次に,化合物1を化合物2から製造する二つ目のスキーム(スキーム2)を説明する。スキーム2は,化合物2→化合物4→化合物5→化合物6→化合物1の順に得るスキームを示す。なお,スキーム2.3及びスキーム2.4は,それぞれスキーム1.3及びスキーム1.4と同じであるので,記載を引用することとする。
【0042】
【0043】
スキーム2.1
スキーム2.1は,例えば,ハロゲン化剤を用いて化合物2のベンジル位をハロゲン化することで,化合物4を得るための工程である。この工程は,スキーム1.2と同様にして行えばよい。
【0044】
スキーム2.2
スキーム2.2は,例えば,化合物4に,水酸基が直接結合した芳香族化合物など(例えば,Y1-OHで示される化合物)を反応させて,スルホン酸エステル化を行うことで,化合物5を得るための工程である。この工程は,スキーム1.1と同様にして行えばよい。
【実施例1】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明は何ら実施例これらによって限定されるものではなく,公知の条件や工程を適宜組み合わせたものも本発明に含まれる。
【0046】
【0047】
フェノール(247mg,2.62mmol)をジクロロメタン(15mL)に溶解し,トリエチルアミン(0.55mL,3.97mmol)及びm-トルエンスルホニルクロリド(2)(500mg,2.62mmol)を0℃下で加えた。混合物を室温で2時間攪拌し,酢酸エチルを加えた。有機層を0.5M塩酸,飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し,化合物3aを油状物として得た(635mg)。続いて化合物3a(552mg, 2.22mmol)をアセトニトリル(11mL)に溶解し,N-ブロモスクシンイミド(594mg, 3.33mmol),及びアゾビスイソブチロニトリル(37mg, 0.23mmol)を加え,80℃で16時間加熱攪拌し,加熱を止めて室温まで戻した。続いてN,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.39mL,2.23mmol)と亜リン酸ジエチル(0.57mL,4.42mmol)を加え,室温で2時間攪拌した。酢酸エチルを加え,有機層を5%炭酸カリウム水溶液で3回,飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後,減圧濃縮し,化合物5aを油状物として得た(1.17g)。
【0048】
(5a)1HNMR(500MHz,CDCl3)4.47(s,2H),6.96-6.98(m,2H),7.26-7.32(m,3H),7.51(dd,1H,J = 7.6Hz),7.68(d,1H,J = 7.6Hz),7.76(d,J = 7.6Hz,1H),7.28(s,1H).
【0049】
【0050】
市販のm-トルエンスルホニルクロリド(2)(5.00g, 26.2mmol)をアセトニトリル(100mL)に溶解し,N-ブロモスクシンイミド(5.30g, 29.7mmol),アゾビスイソブチロニトリル(430mg, 2.62mmol)を加え,80℃で16時間加熱攪拌し,加熱を止めて室温まで戻した。減圧濃縮し,水を加え,ジクロロメタンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後,減圧濃縮した。化合物4aの粗生成物にジクロロメタン(50mL)を加え,この溶液をあらかじめ用意しておいたフェノール(2.46g, 26.2mmol),トリエチルアミン(3.65mL,26.2mmol)のジクロロメタン(50mL)溶液に0℃下でゆっくりと加え,同温で1時間攪拌した。水を加え,ジクロロメタンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後,減圧濃縮した。得られた残渣をショートカラム(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にかけて脱色し,化合物5aを油状物として得た(7.9g)。1HNMRは,化合物3aを経由する方法で得られた化合物5aのそれと一致した。
【0051】
【0052】
化合物5a(1.17g)をアセトニトリル(10mL)に溶解し,N-エチル-m-トルイジン(270mg,2.00mmol),炭酸カリウム(338mg,2.45mmol)を加え,80℃で18時間加熱攪拌し,加熱を止め室温に戻した。ろ過により炭酸カリウムを除去した後,減圧濃縮した。得られた残渣をショートカラム(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にかけて脱色することで化合物6aを油状物として得た(719mg)。
【0053】
続いて化合物6a(719mg)をメタノール(10mL)に溶解し,2M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え,70℃で2時間加熱攪拌し,加熱を止めて室温まで戻した。減圧濃縮し,メタノールを除去後,水層をMTBEで洗浄し,0.5M塩酸を注意深く加え,中和した。さらにトルエンを加え,水浴を60℃に設定して減圧濃縮した。得られた残渣にメタノールを加え,不溶性成分をろ過によって取り除き,ろ液を減圧濃縮した。得られたアモルファス状の固形物を減圧乾燥した後,イソプロピルアルコール(5mL),MTBE(5mL)を加え,60℃にて攪拌し,固形物の洗浄を行った。0℃にて冷却後,ろ過を行い,固体を取り出し,減圧乾燥を行うことで化合物1aを淡褐色固体として得た(505mg,1.65mmol,HPLC純度94%)。
【0054】
(6a)1HNMR(500MHz,CDCl3)1.18(t,3H,J = 7.0Hz),2.27(s,3H),3.43(q,2H,J = 7.0Hz),4.52(s,2H),6.41(d,1H,J = 7.7Hz),6.46(s,1H),6.54(d,1H,J = 7.7Hz),6.91-6.93(m,2H),7.07(dd,1H,J = 7.5Hz),7.22-7.25(m,3H),7.44(dd,1H,J = 7.5Hz),7.54(d,1H,J = 7.5Hz),7.69(d,1H,J = 7.5Hz),7.72(s,1H).
【0055】
(1a)1HNMR(500MHz, D2O)1.05(t,3H,J = 7.0 Hz),2.13 (s,3H),3.32 (q,2H,J = 7.0 Hz),4.46(s,2H),6.50(d,1H,J = 8.0 Hz),6.53 (d,1H,J = 8.5 Hz)6.57(s,1H),7.02(dd,1H,J = 9.0 Hz),7.28(d,1H,J = 7.4 Hz), 7.32(dd,1H,J =7.4 Hz),7.50(s,1H),7.53(d,1H,J = 8.5Hz).
【実施例2】
【0056】
化合物1bの合成
【化14】
実施例1と同様な方法でN-エチル-m-トルイジンの代わりにN-エチルアニリンを用いることで化合物1bを白色固体として得た(2工程収率59%,HPLC純度95%)。
【0057】
(6b)1HNMR(500MHz,CDCl3)1.18(t,3H,J = 7.0Hz),3.31(q,2H,J = 7.0Hz),4.51(s,2H),6.61-6.62(m,2H),6.71(dd,1H,J = 7.0Hz),6.90-6.92(m,2H),7.17-7.26(m,5H),7.44(dd,1H,J = 7.6Hz),7.54(d,1H,J = 7.6Hz),7.70(d,1H,J = 7.6Hz),7.71(s,1H).
【0058】
(1b)1HNMR(500MHz,D2O)0.90(t,3H,J = 6.7Hz),3.16(q,2H,J = 6.7Hz),4.26(s,2H),6.52-6.56(m,3H),6.99-7.02(m,2H),7.09(d,1H,J = 7.5Hz),7.14(dd,1H,J = 7.5Hz),7.49(d,1H,J = 7.5Hz),7.50(s,1H).
【0059】
[参考例]
化合物1aから化合物7の合成
【化15】
【0060】
実施例1で得られた純度の高い化合物1aを用いて,特許文献2に記載の方法に従って,化合物7の合成を行ったところ,高収率,高純度で化合物7が得られることが判明した。すなわち本発明の製造方法によって得られた化合物1aは,次工程においても十分に使用可能な品質を持つことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は,エチルアニリノトルエンスルホン酸誘導体の製造方法や,その中間体に関するので,化学産業や医薬産業において利用され得る。