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特許7288722圃場群へ供給される水の圧力を制御するシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】圃場群へ供給される水の圧力を制御するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
A01G25/00 501E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022209395
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2022-12-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522503517
【氏名又は名称】にいがた制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139044
【弁理士】
【氏名又は名称】笹野 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】小川 廣志
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-262677(JP,A)
【文献】特開2000-166402(JP,A)
【文献】特許第4308507(JP,B2)
【文献】特公平03-058246(JP,B2)
【文献】実開昭50-128249(JP,U)
【文献】特開2022-002484(JP,A)
【文献】特開2002-105937(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114197503(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
E02B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地に広がる第1の圃場群、及び第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群へ供給される水の圧力を制御するシステムにおいて、
高所側の第2の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドと、
上記ファームポンドの水を上記配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場と、
上記配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するように構成された第1の無線伝送装置と、
を備え、
第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、上記揚水機場に設けられた無線伝送装置、及び第1の無線伝送装置を介して、第1の仕切弁の開度を調節するべき指示が上記制御装置から送信され、第1の仕切弁の開度が調節されることにより第1の圧力の値が第1の設定範囲内に戻されるように構成されており、
上記制御装置は、上記配水管内の第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を使って、第1の圧力の値の変化に応じて変動し得る第2の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御することを特徴とする、システム。
【請求項2】
上記配水管内の第1の仕切弁を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器を使って、第1の圧力に関する情報が測定されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム
【請求項3】
傾斜地に広がる第1の圃場群、第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群、及び第2の圃場群よりも高い位置にある第3の圃場群の各圃場群へ供給される水の圧力を制御するシステムにおいて、
高所側の第3の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドと、
上記ファームポンドの水を上記配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場と、
上記配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するように構成された第1の無線伝送装置と、
上記配水管内の第2の仕切弁を通過した後かつ第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するように構成された第2の無線伝送装置と、
上記配水管内の第2の仕切弁を通過する前に第3の圃場群へ供給されるべき水の第3の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するように構成された第3の無線伝送装置と、
を備え、
第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、上記揚水機場に設けられた無線伝送装置、及び第1の無線伝送装置を介して、第1の仕切弁の開度を調節するべき指示が上記制御装置から送信され、第1の仕切弁の開度が調節されることにより第1の圧力の値が第1の設定範囲内に戻されるように構成されており、
第2の圧力の値が第2の設定範囲内にないときに、上記揚水機場に設けられた無線伝送装置、及び第2の無線伝送装置を介して、第2の仕切弁の開度を調節するべき指示が上記制御装置から送信され、第2の仕切弁の開度が調節されることにより第2の圧力の値が第2の設定範囲内に戻されるように構成されており、
上記制御装置は、第3の圧力に関する情報を使って、第1の圧力の値及び第2の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御することを特徴とする、システム。
【請求項4】
上記配水管内の第1の仕切弁を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器を使って、第1の圧力に関する情報が測定され、
上記配水管内の第2の仕切弁を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器を使って、第2の圧力に関する情報が測定され、さらには、
第3の圃場群内の最も高い位置に設けられた圧力伝送器を使って、第3の圧力に関する情報が測定されることを特徴とする、請求項3に記載のシステム
【請求項5】
第2の圧力の値が第2の設定範囲内にないときに、第2の仕切弁の開度が調節されることと併せて第1の仕切弁の開度が調節されることにより第2の圧力の値が第2の設定範囲内の値に戻されるように構成されていることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
傾斜地に広がる第1の圃場群、及び第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群へ供給される水の圧力を制御する方法において、
高所側の第2の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドに水を溜めるステップと、
上記ファームポンドの水を上記配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場を設置するステップと、
第1の無線伝送装置を使って、上記配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するステップと、
第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、上記揚水機場に設けられた無線伝送装置、及び第1の無線伝送装置を介して、第1の仕切弁の開度を調節するべき指示が上記制御装置から送信され、第1の仕切弁の開度が調節されることにより第1の圧力の値が第1の設定範囲内の値に戻されるステップと、
上記制御装置が、上記配水管内の第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を使うことによって、第1の圧力の値の変化に応じて変動し得る第2の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御するステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
上記配水管内の第1の仕切弁を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器を使って、第1の圧力に関する情報を測定することを含む、請求項6に記載の方法
【請求項8】
傾斜地に広がる第1の圃場群、第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群、及び第2の圃場群よりも高い位置にある第3の圃場群の各圃場群へ供給される水の圧力を制御する方法において、
高所側の第3の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドに水を溜めるステップと、
上記ファームポンドの水を上記配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場を設置するステップと、
第1の無線伝送装置を使って、上記配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するステップと、
第2の無線伝送装置を使って、上記配水管内の第2の仕切弁を通過した後かつ第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するステップと、
第3の無線伝送装置を使って、上記配水管内の第2の仕切弁を通過する前に第3の圃場群へ供給されるべき水の第3の圧力に関する情報を上記制御装置へ送信するステップと、
第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、上記揚水機場に設けられた無線伝送装置、及び第1の無線伝送装置を介して、第1の仕切弁の開度を調節するべき指示が上記制御装置から送信され、第1の仕切弁の開度が調節されることにより第1の圧力の値が第1の設定範囲内の値に戻されるステップと、
第2の圧力の値が第2の設定範囲内にないときに、上記揚水機場に設けられた無線伝送装置、及び第2の無線伝送装置を介して、第2の仕切弁の開度を調節するべき指示が上記制御装置から送信され、第2の仕切弁の開度が調節されることにより第2の圧力の値が第2の設定範囲内の値に戻されるステップと、
上記制御装置が、第3の圧力に関する情報を使うことによって、第1の圧力の値及び第2の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御するステップと、
を含む、方法。
【請求項9】
上記配水管内の第1の仕切弁を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器を使って、第1の圧力に関する情報を測定することと、
上記配水管内の第2の仕切弁を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器を使って、第2の圧力に関する情報を測定することと、
第3の圃場群内の最も高い位置に設けられた圧力伝送器を使って、第3の圧力に関する情報を測定することと、
をさらに含む、請求項8に記載の方法
【請求項10】
第2の圧力の値が第2の設定範囲内にないときに、第2の仕切弁の開度が調節されることにより第2の圧力の値が第2の設定範囲内の値に戻されるステップが、第2の仕切弁の開度が調節されることと併せて第1の仕切弁の開度が調節されることにより第2の圧力の値が第2の設定範囲内の値に戻されることをさらに含む、請求項8又は請求項9に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地に広がる圃場へ農業用水を供給するシステム及び方法に関し、詳しくは、揚水機場から下り勾配の土地に広がる圃場へ供給される水の圧力を制御することにより、揚水ポンプの消費電力を抑えつつ給水することのできるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地に広がる稲田やワサビ田などの圃場について、別々の高さにある個々の圃場に農業用水を供給することが必要とされている。稲田に関して言えば、種蒔きの後1か月ほど経過した時に、育苗箱で育てられた稲が田んぼへ移されるが、その準備として代掻き(田んぼの土を掻き混ぜて表面を平らにすること)が行われるときに、田んぼに水が引かれる。そのような繁忙期には複数の圃場で農業用水の需要が同時に高まるが、ファームポンド(農業用溜池)から一連の配水管(配水パイプ)を用いて各圃場へ給水するシステムにおいても、そのような需要に対処することが求められている。
【0003】
特許文献1は、給配水管理システム、圃場水管理装置及び灌漑用水管理装置に関し、圃場の水位を計測して、所定の設定水位までの要求水量を算出し、各圃場へ水を分配する揚水ポンプの運転台数及び運転時間を管理するシステムにおいて、所定の設定水位を超えることがないように圃場の給水栓の開閉を遠隔的に制御することについて開示している。しかし、このシステムにおいては、給水箇所のすべてに水位計測定装置、給水栓、及び制御装置を設置する必要があり、その設置費用は大きなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7005689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1に示されるように、揚水機場から下り勾配の土地に広がる複数の圃場群51,52へ一連の配水管を通して給水するシステム1においては、揚水機場40に近くて高所側の圃場群52よりも、揚水機場40から遠くて低所側の圃場群51の方が、水を吐出させ易い。その理由として、低所側の圃場群51においては、配水管の上流における水の圧力に、低所側の圃場51の給水栓までの配水管内の水の重さによる圧力が加算されるからである。よって、低所側の圃場51で給水栓が開かれて水が吐出したときに、配水管の上流における水の圧力は低下するが、その低下する分を補って高所側の圃場群52へ供給されるべき水の圧力をほぼ一定の大きさに保つためには、揚水ポンプ46の駆動用モータの回転速度を上げる必要がある。しかし、モータの回転速度を上げ過ぎると、低所側の圃場群51へ供給される水が出過ぎる状態となるので、今度は低所側の圃場51の開いている給水栓の開度を絞る必要が生じる。その結果、給水栓を絞って吐出圧を低下させた仕事に相当する電力量が揚水ポンプ46で無駄に消費されたことになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例においては、傾斜地に広がる第1の圃場群、及び第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群へ供給される水の圧力を制御するシステムにおいて、高所側の第2の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドと、ファームポンドの水を配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場と、配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を制御装置へ送信するように構成された第1の無線伝送装置と、を備え、制御装置は、配水管内の第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を使って、第1の圧力の値の変化に応じて変動し得る第2の圧力の値をほぼ一定に保つように揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御することを特徴とする、システムを提供する。
【0007】
さらには、第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、第1の仕切弁の開度が調節されることにより第1の圧力の値が第1の設定範囲内に戻されるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
他の実施例においては、傾斜地に広がる第1の圃場群、第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群、及び第2の圃場群よりも高い位置にある第3の圃場群の各圃場群へ供給される水の圧力を制御するシステムにおいて、高所側の第3の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドと、ファームポンドの水を配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場と、配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を制御装置へ送信するように構成された第1の無線伝送装置と、配水管内の第2の仕切弁を通過した後かつ第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を制御装置へ送信するように構成された第2の無線伝送装置と、配水管内の第2の仕切弁を通過する前に第3の圃場群へ供給されるべき水の第3の圧力に関する情報を制御装置へ送信するように構成された第3の無線伝送装置と、を備え、制御装置は、第3の圧力に関する情報を使って、第1の圧力の値及び第2の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御することを特徴とする、システムを提供する。
【0009】
さらには、第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、第1の仕切弁の開度が調節されることにより第1の圧力の値が第1の設定範囲内に戻されるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
さらには、第2の圧力の値が第2の設定範囲内にないときに、第2の仕切弁の開度が調節されることにより第2の圧力の値が第2の設定範囲内に戻されるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、傾斜地に広がる第1の圃場群、及び第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群へ供給される水の圧力を制御する方法において、高所側の第2の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドに水を溜めるステップと、ファームポンドの水を配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場を設置するステップと、第1の無線伝送装置を使って、配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を制御装置へ送信するステップと、制御装置が、第1の圧力に関する情報、及び配水管内の第1の仕切弁を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を使うことによって、第1の圧力の値の変化に応じて変動し得る第2の圧力の値をほぼ一定に保つように揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御するステップと、を含む方法を提示する。
【0012】
さらには、第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、第1の仕切弁の開度を調節することにより第1の圧力の値を第1の設定範囲内の値に戻すことを含む。
【0013】
さらに他の実施例においては、傾斜地に広がる第1の圃場群、第1の圃場群よりも高い位置にある第2の圃場群、及び第2の圃場群よりも高い位置にある第3の圃場群の各圃場群へ供給される水の圧力を制御する方法において、高所側の第3の圃場群から低所側の第1の圃場群まで順次給水できるように下傾しつつ延びている配水管を介して各圃場群と流体的に連通するファームポンドに水を溜めるステップと、ファームポンドの水を配水管内に通流させるように汲み上げる揚水ポンプ、及び制御装置を有する揚水機場を設置するステップと、第1の無線伝送装置を使って、配水管内の第1の仕切弁を通過した後に第1の圃場群へ供給されるべき水の第1の圧力に関する情報を制御装置へ送信するステップと、第2の無線伝送装置を使って、配水管内の第2の仕切弁を介して第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報を制御装置へ送信するステップと、第3の無線伝送装置を使って、配水管内の第2の仕切弁を通過する前に第3の圃場群へ供給されるべき水の第3の圧力に関する情報を制御装置へ送信するステップと、制御装置が、第1の圧力に関する情報、第2の圧力に関する情報及び第3の圧力に関する情報を使うことによって、第1の圧力の値及び第2の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御するステップと、を含む方法を提示する。
【0014】
さらには、第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、第1の仕切弁の開度を調節することにより第1の圧力の値を第1の設定範囲内の値に戻すことを含む。
【0015】
さらには、第2の圧力の値が第2の設定範囲内にないときに、第2の仕切弁の開度を調節することにより第2の圧力の値を第2の設定範囲内の値に戻すことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】揚水機場から下り勾配の土地に広がる第1の圃場群及び第2の圃場群を模式的に示す図(従来技術)。
図2】揚水機場から下り勾配の土地に広がる第1の圃場群及び第2の圃場群に、本発明のシステムを適用した場合を示す図。
図3】揚水機場から下り勾配の土地に広がる第1の圃場群、第2の圃場群及び第3の圃場群に、本発明のシステムを適用した場合を示す図。
図4図3に示したシステムの構成要素の関係を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシステム及び方法について、添付の図面を参照しつつ以下に説明する。
【0018】
図2に示されるシステム10は、揚水機場40から下り勾配の土地に広がる第1の圃場群51、及び第1の圃場群51よりも高い位置にある第2の圃場群52へ水を供給するシステムである。農業用水が溜められているファームポンド30から揚水ポンプ46で汲み上げられた水が、各圃場群51,52へ給水できるように下傾しつつ延びている配水管20内を通流し、高所側の第2の圃場群52から低所側の第1の圃場群51まで順次給水され得るように構成されている。また、配水管20の所定の位置に仕切弁71が設けられており、この仕切弁71を通過した後の水が、配水管20から1つ又は複数の給水栓を介して第1の圃場群51の各圃場へ供給され得る。その一方で、仕切弁71を通過する前の水が、配水管20から1つ又は複数の給水栓を介して第2の圃場群52の各圃場へ供給される。ここに使用される仕切弁71は、その弁の開度を全閉から全開まで無段階に調節することのできる電動バルブであるとよい。
【0019】
また、第1の圃場群51内の所定の位置に設けられた圧力伝送器(圧力計を含み得る)60を使って、配水管20内の仕切弁71を通過した後の水の第1の圧力に関する情報(水の流量や流速を含み得る)が測定され、無線伝送装置80、及び揚水機場40の無線伝送装置48を介して、制御装置44へ送られる。配水管内の所定の位置における水の圧力に関する情報から、各圃場群51,52へ供給され得る水の量などを知ることができる。一実施例においては、配水管20内の仕切弁71を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器60を使って、水の第1の圧力に関する情報が測定される場合がある。
【0020】
制御装置44は、その第1の圧力に関する情報と、配水管20内の第1の仕切弁71を通過する前に第2の圃場群へ供給されるべき水の第2の圧力に関する情報とを使って、配水管20内へ流入させるべき水の量を算出し、水量を増やすべきときには揚水ポンプ46の駆動モータの回転速度を上げることにより、或いは水量を減らすべきときには揚水ポンプ46の駆動モータの回転速度を下げることにより、揚水機場40から離れている第1の圃場群51まで適切な圧力の水を供給することができる。一実施例において、システム10の制御装置44は、第1の圧力の値の変化に応じて変動し得る第2の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプ46の駆動モータの回転速度をインバータ制御(周波数制御)するように構成されている。これとともに、配水管20内の仕切弁71を通過した後の水の第1の圧力の値が第1の設定範囲内にないときに、仕切弁71の開度が調節されることにより、第1の設定範囲内の値まで戻されるように構成されている。
【0021】
さらなる実施例において、制御装置44はプログラマブル論理制御装置として構成されており、第1の圧力が第1の設定範囲内にない場合に、仕切弁71の開度を調節するべき指示が、制御装置44から無線伝送装置48,80を介して送信される場合がある。
【0022】
さらなる実施例においては、配水管20内を通流する水の圧力に関する情報を送信する無線伝送装置80に太陽光発電装置90が取り付けられており、太陽光発電で生じた電気を利用して揚水機場40の無線伝送装置48とワイヤレス通信することができるように構成されている。無線伝送装置48,80は、消費電力の少ないLoRa無線通信方式を利用するものであるとよい。
【0023】
図3に示されるシステム100は、揚水機場400から下り勾配の土地に広がる第1の圃場群510、第1の圃場群510よりも高い位置にある第2の圃場群520、及び第2の圃場群520よりも高い位置にある第3の圃場群530へ水を供給するシステムである。農業用水が溜められているファームポンド300から揚水ポンプ460で汲み上げられた水が、各圃場群510,520,530へ給水できるように下傾しつつ延びている配水管200内を通流し、高所側の第3の圃場群530から低所側の第1の圃場群510まで順次給水され得るように構成されている。また、配水管200の所定の位置に、第1の仕切弁710と第2の仕切弁720が設けられており、第1の仕切弁710を通過した後の水が、配水管200から1つ又は複数の給水栓を介して第1の圃場群510の各圃場へ供給され得る。また、第2の仕切弁720を通過した後かつ第1の仕切弁710を通過する前の水が、配水管200から1つ又は複数の給水栓を介して第2の圃場群520の各圃場へ供給され得る。さらに、配水管200内の第2の仕切弁720を通過する前の水が、配水管200から1つ又は複数の給水栓を介して第3の圃場群530の各圃場へ供給され得る。第1の仕切弁710と第2の仕切弁720の各々が、その弁の開度を全閉から全開まで無段階に調節することのできる電動バルブであるとよい。
【0024】
また、第1の圃場群510内の所定の位置に設けられた圧力伝送器610を使って、配水管200内の第1の仕切弁710を通過した後の水の第1の圧力に関する情報(水の流量や流速を含み得る)が測定され、第1の無線伝送装置810、及び揚水機場400の無線伝送装置480を介して、制御装置440へ送られる。一実施例においては、配水管200内の第1の仕切弁710を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器610を使って、第1の圧力に関する情報が測定される場合がある。
【0025】
同様に、第2の圃場群520内の所定の位置に設けられた第2の圧力伝送器620を使って、配水管200内の第2の仕切弁720を通過した後かつ第1の仕切弁710を通過する前の水の第2の圧力に関する情報が測定され、第2の無線伝送装置820、及び揚水機場400の無線伝送装置480を介して、制御装置440へ送られる。一実施例においては、配水管200内の第2の仕切弁720を過ぎた直後の位置に設けられた圧力伝送器620を使って、第2の圧力に関する情報が測定される場合がある。
【0026】
同様に、第3の圃場群530内の所定の位置に設けられた第3の圧力伝送器630を使って、配水管200内の第2の仕切弁720を通過する前の水の第3の圧力に関する情報が測定され、第3の無線伝送装置830、及び揚水機場400の無線伝送装置480を介して、制御装置440へ送られる。一実施例においては、第3の圃場群530内の最も高い位置に設けられた圧力伝送器630を使って、第3の圧力に関する情報が測定される場合がある。
【0027】
制御装置440は、第1の圧力に関する情報、第2の圧力に関する情報及び第3の圧力に関する情報を使って、配水管200内へ流入させるべき水の量を算出し、水量を増やすべきときには揚水ポンプ460の駆動モータの回転速度を上げることにより、或いは水量を減らすべきときには揚水ポンプ460の駆動モータの回転速度を下げることにより、揚水機場400から遠い位置にある圃場まで適切な圧力の水を供給することができる。
【0028】
このようなシステム100において、配水管200内の第1の仕切弁710を通過した後の水が、第1の圃場群のうちのいくつかの圃場へ給水栓を介して供給されると、仕切弁710を通過した後の水の第1の圧力の値が低下する。この第1の圧力の値は、第1の無線伝送装置810を介して制御装置440へ送信されている。そして、第1の圧力の値が第1の設定範囲内から外れたときには、第1の仕切弁710の開度が調節されることにより、第1の圧力の値が第1の設定範囲内の値に戻される。これとともに、配水管200内の第2の仕切弁720を通過する前の水の第3の圧力が変動し得るが、システム100の制御装置440は、第1の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプ460の駆動モータの回転速度をインバータ制御するように構成されている。
【0029】
これに加えて或いは代替的に、配水管200内の第2の仕切弁720を通過した後かつ第1の仕切弁710を通過する前の水が、第2の圃場群520のうちのいくつかの圃場へ給水栓を介して供給されると、第2の圧力の値が低下する。この第2の圧力に関する情報が、第2の圧力伝送器620から第2の無線伝送装置820を介して制御装置440へ送信されている。そして、第2の圧力の値が第2の設定範囲内から外れたときには、第2の仕切弁720の開度が調節される(場合によっては、第1の仕切弁710の開度も調節される)ことにより、第2の圧力の値が第2の設定範囲内の値に戻される。これとともに、第2の圃場群520よりも上流に位置する第3の圃場群530へ供給されるべき水の圧力が変動し得るが、制御装置440は、第2の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように上記揚水ポンプ460の駆動モータの回転速度をインバータ制御するように構成されている。
【0030】
一実施例において、制御装置440はプログラマブル論理制御装置として構成されており、第1の圧力が第1の設定範囲内にない場合に、第1の仕切弁710の開度を調節するべき指示が、制御装置440から無線伝送装置480,810を介して送信される場合がある。さらに、第2の圧力が第2の設定範囲内にない場合に、第2の仕切弁720の開度を調節するべき指示が、制御装置440から無線伝送装置480,無線伝送装置820を介して送信される場合もある。
【0031】
一実施例においては、配水管200内を通流する水の圧力に関する情報を送信する無線伝送装置810,820,830のそれぞれに、太陽光発電装置910,920,930が取り付けられており、太陽光発電で生じた電気を利用して揚水機場400の無線伝送装置480とワイヤレス通信することができるように構成されている。無線伝送装置480,810,820,830は、消費電力の少ないLoRa無線通信方式を利用するものであるとよい。
【0032】
図4は、図3に示したシステム100の通信関係を模式的に示す図である。揚水機場400の制御装置440と各圃場群510,520,530とが、それぞれの無線伝送装置480,810,820,830を介してワイヤレス通信するように構成されている。
【0033】
以上のように、本発明のシステム及び方法においては、1つ又は複数の仕切弁が配水管の所定の位置に設けられており、その仕切弁で仕切られた配水管内の所定の位置における水の圧力の値が、揚水機場の制御装置へ送られる。制御装置は、その値を使って、揚水機場の揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御する。これにより、揚水ポンプの駆動モータを過剰に回転させることが不要となり、ひいては本発明のシステム全体の消費電力が抑えられる。
【0034】
なお、本明細書における第1の圃場群、第2の圃場群、及び第3の圃場群について、本発明を簡潔に説明するために、1つ又は複数の圃場を便宜的にまとめて1つの群としている。本明細書において、2つの圃場群又は3つの圃場群に本発明のシステムを適用した場合について説明したが、傾斜地に広がる圃場を4つ以上の圃場群に分割した場合にも、本発明を応用することができると理解されよう。
【符号の説明】
【0035】
1…システム
10…システム
20…配水管
30…ファームポンド
40…揚水機場
44…制御装置
46…揚水ポンプ
48…無線伝送装置
51…第1の圃場群
52…第2の圃場群
60…圧力伝送器
71…仕切弁
80…無線伝送装置
90…太陽光発電装置
100…システム
200…配水管
300…ファームポンド
400…揚水機場
440…制御装置
460…揚水ポンプ
480…無線伝送装置
510…第1の圃場群
520…第2の圃場群
530…第3の圃場群
610…第1の圧力伝送器
620…第2の圧力伝送器
630…第3の圧力伝送器
710…第1の仕切弁
720…第2の仕切弁
810…第1の無線伝送装置
820…第2の無線伝送装置
830…第3の無線伝送装置
910…第1の太陽光発電装置
920…第2の太陽光発電装置
930…第3の太陽光発電装置
【要約】
【目的】 傾斜地に広がる圃場へ給水するシステムの消費電力を抑える。
【解決手段】 システム100が、傾斜地に広がる複数の圃場群に順次給水できるように延びている配水管200内に水を通流させるように汲み上げる揚水ポンプ460、及び制御装置440を有する揚水機場400と、配水管に設けられた第1の仕切弁710を通過した後の水の第1の圧力、第2の仕切弁720を通過した後かつ第1の仕切弁を通過する前の水の第2の圧力、及び第2の仕切弁を通過する前の水の第3の圧力に関する情報を制御装置へ送信するように構成された無線伝送装置810,820,830とを備え、制御装置は、第1の圧力の値及び第2の圧力の値の変化に応じて変動し得る第3の圧力の値をほぼ一定に保つように揚水ポンプの駆動モータの回転速度をインバータ制御する。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4