(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】魚類血管内容物置換器具、および血管内容物置換魚類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A22C 25/00 20060101AFI20230601BHJP
A22C 25/14 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A22C25/00 Z
A22C25/14
(21)【出願番号】P 2022508628
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011550
(87)【国際公開番号】W WO2021186514
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】今村 伸太朗
(72)【発明者】
【氏名】國吉 道子
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6583760(JP,B1)
【文献】特表2002-543868(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146092(WO,A1)
【文献】特開平07-264968(JP,A)
【文献】特開昭55-085349(JP,A)
【文献】特開平10-313771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 25/00-25/04
A22C 25/08
A22C 25/12-25/20
A22B 3/08
A22B 5/00- 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尾部を切断した魚類の少なくとも一方のエラ部に刺衝して前記エラ部に近接する血管に穿孔し、前記魚類の血管内容物と、液体と、を置換するために用いられる器具であって、
中空構造を有し、且つ前記液体の供給部に接続可能な開口部を有する本体部と、
前記本体部の少なくとも一部の領域に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部と、を備え、
前記本体部と前記針状管部とが連通している、魚類血管内容物置換器具。
【請求項2】
前記針状管部は、前記本体部に3以上設けられている、請求項1に記載の魚類血管内容物置換器具。
【請求項3】
前記針状管部は、前記本体部に設けられた全ての前記針状管部からの合計量として前記液体を1L/分以上4L/分以下の流量で吐出することが可能な開口面積、長さおよび本数を備える、請求項1または2に記載の魚類血管内容物置換器具。
【請求項4】
前記本体部に設けられた全ての前記針状管部は、前記液体を1本あたり5mL/分以上670mL/分以下の流量で吐出することが可能な開口面積および長さである、請求項1~3のいずれか1項に記載の魚類血管内容物置換器具。
【請求項5】
中空構造であり、且つ開口部を有する本体部と、前記本体部の少なくとも一部の領域に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部と、を備え、前記本体部と前記針状管部とが連通している魚類血管内容物置換器具を、前記本体部の前記開口部において液体の供給部と接続し、
尾部を切断した魚類の少なくとも一方のエラ部に、前記針状管部を刺衝して前記エラ部に近接する血管に穿孔し、
前記針状管部が刺衝された状態で前記魚類血管内容物置換器具に前記液体を供給して前記針状管部の前記開口から前記液体を吐出させて、前記魚類の血管内容物と前記液体とを置換する、魚類血管内容物置換工程を含む、
血管内容物置換魚類の製造方法。
【請求項6】
刺衝された全ての前記針状管部からの合計量として1L/分以上4L/分以下の流量となるように前記液体を吐出させる、請求項5に記載の血管内容物置換魚類の製造方法。
【請求項7】
刺衝された全ての前記針状管部において1本あたり5mL/分以上670mL/分以下の流量となるように前記液体を吐出させる、請求項5または6に記載の血管内容物置換魚類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類血管内容物置換器具、およびこの器具を用いた血管内容物置換魚類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水揚げされた魚類の鮮度保持(生臭さ低減、肉質軟化の遅延など)を目的として、魚類の血管内容物(血液等)を他の液体に置換する処理(以下においては「魚類血管内容物の置換」という場合もある)が行われている。この魚類血管内容物の置換は、特にブリ(イナダ)などの血合筋が多く且つ生鮮品の消費期限が短い魚類においては、極めて重要な処理のひとつであると言える。
【0003】
この魚類血管内容物の置換方法として、例えば、特許文献1には、魚の血管系内の血液を液体と置換できるように、魚の頭部と腹部とをエラの外縁およびカマの先端部に沿って切断することのみにより、この魚の腹腔に内蔵された臓器を外気に曝すことなく囲心腔を魚体外と連通させるスリットを形成する工程と、このスリットを、魚の心臓に心室の尾側面から動脈球に向けて管状器具を刺入できるように広げて、この管状器具を、広がったスリットを通して魚の心臓に心室の尾側面から動脈球に向けて刺入する工程と、管状器具を心臓に対して固定する工程と、管状器具を介して液体を魚の血管系へ圧入することにより、魚の血液を魚体外へ排出する工程と、を含む魚の血抜き処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような魚類血管内容物の置換は、魚類の生鮮品だけでなく冷凍品の鮮度保持という点でも非常に重要である。
【0006】
しかしながら、魚類血管内容物の置換は、上記した特許文献1の方法を含めて、これまでの方法では、魚体を切断等により開口し、心臓や血管にカニューレ等の管状器具を刺入して固定する必要があり、その作業に熟練した技術が必要であって、簡便な方法ではない。また、作業時間が一定程度必要となり、短時間で多くの魚体を処理するには人手を要する。これは、管状器具等を用いずにホース自体を魚類のエラ付近に形成した開口に直接差し込んで魚類血管内容物の置換を行う方法においても同様である。よって、特に漁船や養殖場等からの魚類の水揚げ直後などにおいて魚類血管内容物の置換を行う場合、大量処理を行うことが難しいという課題があった。
【0007】
そこで本発明は、効率的に魚類の血管内容物を他の液体に置換することができる器具、およびこの器具を用いた血管内容物置換魚類(血管内容物を他の液体に置換する処理が施された魚類)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、中空構造を有し、且つ液体の供給部に接続可能な開口部を有する本体部と、この本体部の少なくとも一部の領域に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部と、を備え、本体部とこれら針状管部とが連通している魚類血管内容物置換器具を用いることにより、効率的に魚類の血管内容物を他の液体に置換することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)~(7)である。
(1)魚類の血管内容物と、液体と、を置換するために用いられる器具であって、中空構造を有し、且つ前記液体の供給部に接続可能な開口部を有する本体部と、前記本体部の少なくとも一部の領域に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部と、を備え、前記本体部と前記針状管部とが連通している、魚類血管内容物置換器具。
(2)前記針状管部は、前記本体部に3以上設けられている、(1)に記載の魚類血管内容物置換器具。
(3)前記針状管部は、前記本体部に設けられた全ての前記針状管部からの合計量として前記液体を1L/分以上4L/分以下の流量で吐出することが可能な開口面積、長さおよび本数を備える、(1)または(2)に記載の魚類血管内容物置換器具。
(4)前記本体部に設けられた全ての前記針状管部は、前記液体を1本あたり5mL/分以上670mL/分以下の流量で吐出することが可能な開口面積および長さである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の魚類血管内容物置換器具。
(5)中空構造であり、且つ開口部を有する本体部と、前記本体部の少なくとも一部の領域に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部と、を備え、前記本体部と前記針状管部とが連通している魚類血管内容物置換器具を、前記本体部の前記開口部において液体の供給部と接続し、尾部を切断した魚類の少なくとも一方のエラ部に、前記針状管部を刺衝して前記エラ部に近接する血管に穿孔し、前記針状管部が刺衝された状態で前記魚類血管内容物置換器具に前記液体を供給して前記針状管部の前記開口から前記液体を吐出させて、前記魚類の血管内容物と前記液体とを置換する、魚類血管内容物置換工程を含む、血管内容物置換魚類の製造方法。
(6)刺衝された全ての前記針状管部からの合計量として1L/分以上4L/分以下の流量となるように前記液体を吐出させる、(5)に記載の血管内容物置換魚類の製造方法。
(7)刺衝された全ての前記針状管部において1本あたり5mL/分以上670mL/分以下の流量となるように前記液体を吐出させる、(5)または(6)に記載の血管内容物置換魚類の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効率的に魚類の血管内容物を他の液体に置換することが可能な魚類血管内容物置換器具を提供することができる。そして、この器具を用いて魚類血管内容物の他の液体への置換処理を行うことにより、大量の処理が可能となり、また、魚類の鮮度保持性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る魚類血管内容物置換器具の側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る魚類血管内容物置換器具の、本体部と針状管部との接合部付近を拡大した拡大断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る魚類血管内容物置換器具の針状管部が、尾部を切断した魚類のエラ部に刺衝された状態の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る魚類血管内容物置換器具の斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る魚類血管内容物置換器具の針状管部が、尾部を切断した魚類のエラ部に刺衝された状態の一例を示す図である。なお、(a)は魚類の正面から見た正面図であり、(b)は魚類の側面から見た側面図である。
【
図6】実施例1の16日間冷蔵貯蔵した後のイナダ切り身の写真である(図面代用写真)。上側が本発明の第1実施形態に係る魚類血管内容物置換器具を用いて血管内容物を水道水に置換してからフィレーとして冷蔵貯蔵したものの切り身であり、下側が血管内容物を他の液体に置換する処理を行なわずにフィレーとして冷蔵貯蔵したものの切り身である。
【
図7】
図6の上側に示した血管内容物の置換処理を行ったイナダ切り身(置換あり)と、
図6の下側に示した血管内容物の置換処理を行っていないイナダ切り身(置換なし)との、血合筋部分のRGB値における赤み(R)強度を比較したグラフである。
【
図8】実施例2において行ったヘモグロビン量測定に用いた魚肉の部位を示す写真である(図面代用写真)。上側の写真が魚体から魚肉切り身を採取した部位を示し、下側の写真がその魚肉切り身から魚肉成分を抽出した部位を番号で示す。
【
図9】実施例2において行った
図8の魚肉中のヘモグロビン量測定結果を示すグラフである。なお、グラフ上部のローマ数字は
図8に示される魚体から魚肉切り身を採取した部位を表し、また、グラフ横軸の番号は
図8の下側写真内の番号で示される魚肉成分を抽出した部位を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、中空構造を有し、且つ液体の供給部に接続可能な開口部を有する本体部と、この本体部の少なくとも一部の領域に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部と、を備え、本体部とこれら針状管部とが連通している、魚類血管内容物置換器具(以下においては「本発明の魚類血管内容物置換器具」という場合もある)、ならびに、本発明の魚類血管内容物置換器具を、本体部の開口部において液体の供給部と接続し、尾部を切断した魚類の少なくとも一方のエラ部に、針状管部を刺衝してエラ部に近接する血管に穿孔し、針状管部が刺衝された状態で本発明の魚類血管内容物置換器具に液体を供給して針状管部の開口から液体を吐出させて、魚類の血管内容物と液体とを置換する魚類血管内容物置換工程を含む、血管内容物置換魚類の製造方法(以下においては「本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法」という場合もある)である。
【0013】
<魚類血管内容物置換器具>
まず、本発明の魚類血管内容物置換器具の好ましい実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。また、いずれの図面についても、便宜上、符号を付していない(省略している)箇所がある。そして、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置、材料等については、本発明の趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。後述する本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法における実施形態も同様である。
【0014】
(全体構成)
本発明の魚類血管内容物置換器具は、好ましい実施形態として、以下の2つの実施形態を包含するものである。
【0015】
本発明の魚類血管内容物置換器具100の第1実施形態は、
図1に示すような、一方の端部(末端)に開口部12を有する円筒状の本体部10と、この本体部10のもう一方の端部の面(先端面)に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部20と、を備え、本体部10の中空構造と複数の針状管部20の中空構造とがそれぞれ連通している。なお、この「円筒状」とは、真円形の筒形状に限定されず、楕円形の筒形状も含まれる。また表面に凹凸があってもよい。例えば、筒の中心軸を通る径のうち、最も長い径が最も短い径に対して1倍以上、1.3倍以下の真円形から楕円形の筒形状を含んでもよい。また、本発明において「針状管部」とは、針の外形を有し且つ開口を有する突端を備える形状の管部である。以下の説明においても同様である。
【0016】
また、本発明の魚類血管内容物置換器具100の第2実施形態は、
図4に示すような、中空構造を有し且つ長手方向の一方の端部の面に開口部12を有する湾曲方形状の本体部10と、この本体部10の湾曲方向側の面(湾曲の弧の内側面)に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部20と、を備え、第1実施形態と同様に本体部10の中空構造と複数の針状管部20の中空構造とがそれぞれ連通している。なお、本発明において「湾曲方形状」とは、方形の外形を有し且つそのいずれか一方の軸方向において湾曲している形状である。以下の説明においても同様である。
【0017】
そして、この第1実施形態および第2実施形態のいずれにおいても、本体部10に針状管部20が複数設けられている必要があり、本発明の効果が発揮されるためには、この構成が極めて重要である。つまり、本体部10に設けられている針状管部20が1本のみでは、魚体50のエラ部52にこの針状管部20を刺衝してもエラ部52に近接する血管に穿孔できない可能性があり、さらに、効率的な魚類血管内容物の置換のために必要な液体吐出流量とすると、この唯一の針状管部20からの液体吐出流量が多すぎてしまい、針状管部20とエラ部52(特にエラ膜)との隙間から液体が流出する可能性もあり、本発明の効果が発揮されない可能性が高い。
【0018】
特に、より効率的な魚類血管内容物の置換を行うためには、この針状管部20は、本体部10に3以上設けられているのが好ましく、この針状管部20が形成されている領域(第1実施形態においては本体部10の先端面、第2実施形態においては本体部10の湾曲方向側の面)において100mm2あたり3以上設けられているのがより好ましい。このような構成であることにより、魚体50のエラ部52に複数の針状管部20を刺衝したときに、魚体50の大きさのバラツキなどにほとんど影響されることなく、容易にエラ部52に近接する血管に穿孔することが可能となり、且つ針状管部20からの液体の吐出流量等も十分に確保することができる。また、エラ蓋の少なくとも一部を捲り上げたり除去したりしてエラ部52の軟体部分に針状管部20を刺衝する場合における安定性確保の観点から、本体部10に設けられている針状管部20の合計本数は、5以上であってもよく、さらに9以上であってもよい。また、この合計本数の上限は40以下であってよく、さらには20以下であってもよい。なお、この針状管部20は、上記領域において100mm2あたり5以上設けられていてもよく、さらには9以上設けられていてもよい。また、上記領域において100mm2あたり20以下であってよく、さらには15以下であってもよい。
【0019】
さらに、この針状管部20は、本体部10に備わる全ての針状管部20からの合計量として液体を好ましくは1L/分以上、より好ましくは1.5L/分以上であり、また、好ましくは4L/分以下、より好ましくは3L/分以下の流量で吐出することが可能な開口面積、長さおよび本数を備えるのが好適である。つまり、1本の針状管部20の開口面積および長さと、本体部10に備わる本数との組み合わせを、液体の吐出流量を上記数値範囲内に調整することが可能となるように設計するのが好適である。針状管部20の開口から液体を十分な流量で吐出することができ、これにより、より迅速且つ確実に魚類血管内容物の置換を行うことが可能となるからである。この針状管部20は、魚体に刺衝したときに直接心臓や血管に刺入される可能性は低いため、複数の針状管部20が全体として液体を上記流量で吐出可能であることが、魚類血管内容物を他の液体により効率的に置換するという点において非常に重要である。
また、本体部10に設けられた全ての針状管部20は、その1本あたりにおいて、好ましくは5mL/分以上、より好ましくは10mL/分以上、さらに好ましくは50mL/分以上、また、好ましくは670mL/分以下、より好ましくは500mL/分以下、さらに好ましくは300mL/分以下の流量で液体を吐出することが可能な開口面積および長さを備えるのが好適である。
【0020】
ここで、本発明において、針状管部20の「長さ」とは、針状管部20の突端から本体部10との接合部まで(本体部10の中空構造と連通している部分まで)の長さである。そして、限定されるものではないが、複数の針状管部20の開口面積および長さは全て実質的に同じ(例えば開口面積の差が0.1mm2以内、長さの差が1mm以内など)であってもよい。
【0021】
なお、1本の針状管部20の外径および内径(開口径)の具体的な例としては、限定されるものではないが、ブリ(イナダ)、カンパチなどの比較的大型の魚類用であれば、外径1mm以上3mm以下、内径0.5mm以上1.5mm以下が例示され、また、1本の針状管部20の長さとしては10mm以上70mm以下が例示される。そして、このような針状管部20が本体部10に3以上40以下備わるのが好適であり、さらに、その形成領域内(例えばその形成面内)において100mm2あたり3以上20以下備わる構成であってもよい。
また、この複数の針状管部20の合計開口面積(全ての針状管部20の開口面積合算値)としては、1mm2以上40mm2以下が例示される。そして、この合計開口面積および前述した吐出流量から例示される液体の吐出流速は、0.5m/秒以上50m/秒以下である。
【0022】
また、この第1実施形態および第2実施形態のいずれにおいても、本体部10の開口部12は、液体の供給部40に接続可能となっている。この供給部40から本体部10の内部の中空構造に液体が供給されると、この本体部10と連通している針状管部20の内部の中空構造にも液体が供給され、針状管部20の開口から液体が吐出する。なお、この液体の供給部40としては、例えば
図3や
図5に示すような水道管やポンプなどに接続されたゴム製のホースや、さらには管状の嵌合器具あるいは螺合器具などが例示される。
【0023】
この本体部10の開口部12は、上記したホースや器具などと接続可能な外径または内径を有していればよく、特段限定されないが、このホースや器具などと嵌合あるいは螺合可能な構造であると、魚類血管内容物置換器具100への液体供給時に開口部12と供給部40との接続が外れにくくなるため好適である。また、この開口部12は、本体部10において2以上設けられていてもよく、本体部10における開口部12の形成位置も限定されるものではない。
【0024】
そして、供給部40から本体部10および針状管部20に供給される液体としては、食品に利用可能なものであれば特段限定されない。例えば、水(水道水、井戸水、河川水など)や海水等が例示され、これらから選ばれる2種以上を併用することもできる。ここで、上記した液体は、滅菌処理が行われたものであってもよい。
【0025】
また、本体部10および針状管部20を構成する材料については、これも特段限定されないが、針状管部20および本体部10がいずれも金属により構成されるのが好ましい。しかしながら、本体部10については、金属よりもヤング率が低い材料により構成されていてもよい。
なお、上記した金属としてはステンレスが例示され、さらに、金属よりもヤング率が低い材料としては、ポリ塩化ビニルなどの樹脂材料や硬質ゴムなどのゴム材料が例示される。
【0026】
(第1実施形態)
次に、本発明の魚類血管内容物置換器具100の第1実施形態について、
図1~3を参照して詳細に説明する。
【0027】
本発明の魚類血管内容物置換器具100の第1実施形態は、前述したように、一方の端部に液体の供給部40と接続可能な開口部12を有する円筒状の本体部10と、この本体部10のもう一方の端部の面に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部20と、を備え、本体部10とこれら針状管部20とが連通している(
図1~3)。
【0028】
この針状管部20は、円筒状の本体部10における開口部12とは反対側の端部、つまり円筒状の本体部10の一方の先端面に複数設けられているが、この本数は、前述したように、この先端面において3以上設けられているのが好ましい。また、この複数の針状管部20どうしの間隔は、限定されるものではないが、隣り合う針状管部20どうしの間隔が10mm以内であるのが好ましく、5mm以内であるのがより好ましい。また、針状管部20によるエラ膜や内臓などの損傷を起こし難いという観点から、この間隔が1mm以上であるのが好ましく、3mm以上であるのがより好ましい。
【0029】
そして、この針状管部20は、その内部の中空構造が本体部10の内部の中空構造と連通しているが、例えば
図2(針状管部20の一部を省略した断面図)に示すように、本体部10の先端面に対して内部の中空構造側から外部側に向かって針状管部20が刺入され、さらに本体部10と針状管部20との間において上記した連通部分以外に生じた隙間が接着部材14などにより埋められて固着および保持されている態様であると、針状管部20の刺衝がよりしやすく且つより効率的に液体を吐出することができるため好適である。
【0030】
なお、この針状管部20は、針状管部20の群のうち少なくとも1本が、本体部10との接合部から突端に向かって徐々に針状管部20の群の突出軸方向から離れるように設けられていてもよい。
あるいは、この針状管部20は、針状管部20の群のうち少なくとも1本が、本体部10との接合部から突端に向かって徐々に針状管部20の群の突出軸方向に近づくように設けられていてもよい。
【0031】
ここで、「針状管部20の群の突出軸方向」とは、針状管部20の群が形成されている領域の群としての突出軸方向であって、つまりこの領域の重心(
図1~3に示す第1実施形態の例においては真円形である先端面の中心)の法線ベクトル方向である。以下の説明においても同様である。
【0032】
また、この針状管部20の長さは、使用する魚種や設定した液体の吐出流量などによって変更可能であるため限定されるものではないが、具体的には、10mm以上、さらには20mm以上であり、また、70mm以下、さらには60mm以下、さらには50mm以下が例示される。
【0033】
さらに、この針状管部20の長さは、針状管部20の群のうち少なくとも1本が他の針状管部20とは異なるように形成されていてもよく、つまり複数の針状管部20の長さが全て実質的に同じではないように形成されていてもよい。
【0034】
そして、この針状管部20の突端側は刃形であってよく、さらに、この針状管部20の刃形の向きが全て同じであってもよく、あるいは
図1に示す実施形態のような、針状管部20の群のうち少なくとも1本の刃形の向きが、他の針状管部20の刃形の向きとは異なるように形成されていてもよい。つまり、針状管部20の群において針状管部20の突端側の刃形の向きが複数ある構成であってもよい。あるいは、1以上の針状管部20の突端側が、開口面がその中心軸に対して平行である構成であっても(つまり突端側が刃形でなくても)よい。
【0035】
ここで、「刃形の向き」とは、針状管部20の中心軸に対する、刃形の開口方向(開口面の法線ベクトル方向)を意味する。この開口面が複数の面により構成されている刃形の場合には、複数の面の各法線ベクトルの和の方向を意味する。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の魚類血管内容物置換器具100の第2実施形態について、
図4および
図5を参照して詳細に説明する。
【0037】
本発明の魚類血管内容物置換器具100の第2実施形態は、前述したように、長手方向の一方の端部に開口部12を有する湾曲方形状の本体部10と、この本体部10の湾曲方向側の面に設けられた、開口を有する中空構造である複数の針状管部20と、を備え、本体部10とこれら針状管部20とが連通している(
図4)。
【0038】
この本体部10は、内部が中空構造であり、
図4および
図5に示すような、湾曲方形状の長手方向の一端に液体の供給部40と接続可能な開口部12を有している。なお、本体部10の湾曲は、例えば
図5(a)に示すような、魚体50のエラ部52における湾曲に沿った形状であると好ましい。
【0039】
また、針状管部20については、前述した第1実施形態と同様に、本体部10に3以上設けられているのが好ましく、複数の針状管部20どうしの間隔も同様に1mm以上10mm以内となるように設けられているのが好ましい。さらに、これも前述した第1実施形態と同様に、本体部10の湾曲方向側の面に対して内部の中空構造側から外部側に向かって針状管部20が刺入され、さらに本体部10と針状管部20との間において連通部分以外に生じた隙間が接着部材14などにより埋められて固着および保持されている態様であると好適である。
【0040】
針状管部20の長さについても、第1実施形態と同様に、10mm以上70mm以下が例示され、また、針状管部20の群のうち少なくとも1本の長さが他の針状管部20とは異なるように形成されていてもよい。さらに、針状管部20の突端側の刃形の向きについても、これも第1実施形態と同様に、針状管部20の群のうち少なくとも1本の刃形の向きが他の針状管部20の刃形の向きとは異なるように形成されていてもよい。
【0041】
そして、この針状管部20の向きも、前述した第1実施形態と同様に、針状管部20の群のうち少なくとも1本が、本体部10との接合部から突端に向かって徐々に針状管部20の群の突出軸方向から離れる、あるいは近づくように設けられていてもよい。なお、この第2実施形態における針状管部20の群の突出軸方向は、針状管部20の群が設けられている湾曲方向側の面における重心の法線ベクトル方向である。
例えば、
図4に示す実施形態のように、複数の針状管部20が、互いに平行ではなく、それぞれが設けられている面上におけるおよそ法線方向に突出していてもよく、したがってこれらが針状管部20の群の突出軸方向に向かって集まるように突出している実施態様であってもよい。
【0042】
(変形例)
本発明の魚類血管内容物置換器具100における別の実施形態(変形例)について説明する。
【0043】
本発明の魚類血管内容物置換器具100における別の実施形態(第1実施形態または第2実施形態の変形例)としては、例えば、前述した第1実施形態または第2実施形態において、本体部10の1つの端部に1以上の開口部12を有し、この開口部12を有する端部とは反対側の本体部10が二股に分かれてあるいはヒンジなどにより2つの部材が接続されて2つの端部が備わり、第1実施形態の変形例においてはこの本体部10の2つの端部の先端面にいずれも複数の針状管部20が設けられている構成であり、第2実施形態の変形例においてはこの本体部10のそれぞれの湾曲方向側の2つの面にいずれも複数の針状管部20が設けられている構成であるものが示される。このような構成であることにより、1つの魚類血管内容物置換器具100によって魚体50の両側のエラ部52に針状管部20を刺衝することができ、さらに迅速な魚類血管内容物の置換を行うことができる。この場合、本体部10は、硬質ゴムなどの容易に変形が可能な材料により構成されていてもよい。
【0044】
また、この変形例や前述した第2実施形態においては、針状管部20は、1つの魚体50に刺衝する全ての針状管部20からの合計量として、液体を好ましくは1L/分以上、より好ましくは1.5L/分以上であり、また、好ましくは4L/分以下、より好ましくは3L/分以下の流量で吐出可能な開口面積、長さおよび本数を備える構成であってもよい。さらに、本体部10に設けられた全ての針状管部20は、前述した第1実施形態と同様に、その1本あたりにおいて、好ましくは5mL/分以上、より好ましくは10mL/分以上、さらに好ましくは50mL/分以上、また、好ましくは670mL/分以下、より好ましくは500mL/分以下、さらに好ましくは300mL/分以下の流量で液体を吐出することが可能な開口面積および長さであってもよい。
【0045】
<血管内容物置換魚類の製造方法>
次に、本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法における好ましい実施形態について、
図3および
図5を用いて詳細に説明する。
ここで、この「血管内容物置換魚類」には、本発明の魚類血管内容物置換器具100を用いて血管内容物を他の液体に置換する処理が施されたラウンド(丸魚)の魚類だけでなく、さらにセミドレス、ドレス、フィレー、ロイン、切り身、刺身などに加工処理を行った加工魚類も包含される。
【0046】
本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法における好ましい実施形態としては、例えば
図3や
図5に示すように、前述した魚類血管内容物置換器具100を、本体部10の開口部12において水道水の供給部40と接続し、尾部を切断した魚類の少なくとも一方のエラ部52に、針状管部20を刺衝してエラ部52に近接する血管(心臓、動脈、静脈、静脈洞、動脈球、動脈錐など)に穿孔し、この状態で魚類血管内容物置換器具100に水道水を供給して複数の針状管部20の開口から水道水を魚体50の内部に吐出させて、魚体50の内部(腹腔など)の水圧上昇によってエラ部52に近接する血管に形成された穿孔から血管内に水道水を注入し、血管内容物を尾部の切断部分から押し出すことによって、血管内容物と水道水とを置換する工程(魚類血管内容物置換工程)を含む。
【0047】
この魚類血管内容物置換工程を含む製造方法によって、鮮度保持性が向上した魚類またはその加工品(加工魚類)を簡便に製造することができる。特に、この方法により製造されたフィレーなどの加工魚類は、冷凍(0℃未満)貯蔵後または冷蔵(0℃以上5℃未満)貯蔵後においても魚肉の生臭みが発生し難く、また、血合筋およびその近辺の普通筋の変色や、肉質軟化などもし難い。そして、この方法は熟練した技術がなくても簡単に行うことができ、大量処理が容易に可能であるのも大きな特徴である。
【0048】
ここで、本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法においては、魚類の血管内容物を容易に排出できるようにするために、
図3および
図5(b)に示すように、水道水等の供給前に魚類の尾部を切断しておくことが必要である。しかし、この尾部の切断位置は、魚類の血管内容物を排出可能な位置であれば特段限定されない。
【0049】
なお、本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法では、魚類血管内容物置換工程前に、魚類を強制的に押さえ付ける方法などによって固定するか、あるいは、冷水に付けたり、活絞めおよび神経絞めを行ったりして魚類を動けなくするのが好ましい。この活絞めおよび神経絞めの方法としては、まず眉間にピックを刺し込んで脳を破壊し、続いて背骨に沿ってワイヤーを挿入して脊髄を破壊する方法などが例示される。
【0050】
そして、複数の針状管部20を刺衝する位置は、魚体50のエラ部52に近接する血管に穿孔するために、エラ部52であることが必要であるが、エラ部52以外の部分が一部含まれていても良い。そして、針状管部20は、エラ蓋を除去してからエラ部52の軟体部分に刺衝してもよく、あるいはエラ蓋の上からエラ部52に刺衝してもよい。なお、本発明の魚類血管内容物置換器具100を用いた本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法では、複数の針状管部20を刺衝する前に、エラ部52を切断等により開口しておく必要はない。
【0051】
さらに、針状管部20を刺衝する向きについては、例えば、前述した第1実施形態の魚類血管内容物置換器具100を用いる場合であれば、
図3に示すように、魚体50の頭部側から尾部側に向かって全ての針状管部20を刺衝するのが好ましい。尾部の切断部分からの血管内容物排出がより効率的となるからである。
【0052】
一方、前述した第2実施形態の魚類血管内容物置換器具100を用いる場合であれば、
図5に示すように、魚体50と本体部10とが概ね平行となるようにして全ての針状管部20を刺衝するのが好ましい。この場合において、これも
図5(a)および(b)に示すように、一方のエラ部52だけでなく、魚類血管内容物置換器具100を2つ、あるいは前述した変形例に示すような魚類血管内容物置換器具100を1つ使用して、両方のエラ部にいずれも針状管部20を刺衝すると、魚類血管内容物の置換がより迅速となるため好適である。
【0053】
そして、針状管部20によるエラ部52に近接する血管への穿孔は、このエラ部52に近接する血管に、水道水等が注入できる孔を形成することができればよく、つまり、本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法においては、本発明の魚類血管内容物置換器具100の針状管部20自体が心臓や血管の内部に刺入される必要はない。複数の針状管部20から吐出された水道水等は、筋肉中にはほとんど浸透せず、腹腔などを経て、エラ部52に近接する血管に形成された穿孔から血管内に容易に入り込むからである。したがって、心臓等に管状器具を刺入する場合と異なり、心臓等を針状管部20の突端などで突き破らないように注意して処理を行う必要もない。
【0054】
使用する水道水等については、限定されるものではないが、0℃以上35℃以下(冷水、常温水など)であるのが好ましい。また、2種以上の液体を併用してもよい。また、使用する水道水等の吐出流量や吐出流速は、魚類の魚体サイズなどに応じて適宜設定することができるが、魚類血管内容物の置換を確実に且つより迅速に行うことが可能な好ましい吐出流量としては、刺衝された全ての前記針状管部からの合計量として1L/分以上、より好ましくは1.5L/分以上、また、4L/分以下、より好ましくは3L/分以下が例示され、吐出流速としては0.5m/秒以上50m/秒以下が例示される。また、刺衝された全ての前記針状管部における1本あたりの吐出流量としては、好ましくは5mL/分以上、より好ましくは10mL/分以上、さらに好ましくは50mL/分以上であり、また、好ましくは670mL/分以下、より好ましくは500mL/分以下、さらに好ましくは300mL/分以下が例示される。
【0055】
以上のような実施態様により血管内容物が水道水等と置換された魚体、すなわち血管内容物置換魚類は、そのまま頭部および内蔵を含むラウンド(丸魚)として貯蔵(冷蔵貯蔵または冷凍貯蔵)してもよく、あるいは、内臓を取り除いたセミドレスやさらに頭部を取り除いたドレスとして貯蔵してもよい。また、フィレーや切り身などの加工品としてから貯蔵してもよい。
【0056】
また、本発明に係る血管内容物置換魚類の製造方法は、魚類全般に使用できるが、ブリ(イナダ)、カンパチ、タイ(マダイ)などに適用すると特に好ましく、ブリ(イナダ)用、カンパチ用、タイ用などの実施形態としてより好適となるように適宜調整を行ってもよい。前述した本発明の魚類血管内容物置換器具の実施形態も同様である。ここで、本明細書においては、ブリとイナダはその全長(頭の先から尾までの長さ)により区別され、全長が80cm以上をブリ、80cm未満をイナダと称する。
【0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
ポリ塩化ビニル製の円筒状管(JIS K6742:2016、VP13)の一方の末端にTSキャップ(JIS K6743:2016、呼び径13mm)を接合して、本体部を作製した。なお、この本体部のTSキャップを接合した側の先端面の面積は132mm2である。
【0059】
さらに、この先端面に、針状管部として9本の中空針(18G、外径1.25±0.02mm、内径0.82±0.03mm、長さ38mm)を本体部の内部中空構造と9本の中空針の内部中空構造とがそれぞれ連通し且つ概ね均等に分散された位置となるように(隣り合う中空針どうしの間隔が1mm以上10mm以内となるように)接合し、この連通部分以外の隙間を接着部材により埋めて固着および保持して、
図1に示すような魚類血管内容物置換器具を作製した。
【0060】
そして、この魚類血管内容物置換器具の本体部のもう一方の末端の開口部に、水道管に接続されたホースを取り付けた。この状態で、
図3に示すように、魚類血管内容物置換器具の針状管部を、尾部を切断したイナダ(約5kg)のエラ部に、その頭部から尾部の方向に向かってエラ蓋の上から刺衝してエラ部に近接する血管に穿孔した。
【0061】
次いで、魚類血管内容物置換器具に水道水を供給し、9本の針状管部の開口から全体として約2L/分の流量となるように水道水を吐出させて、イナダの血管内に水道水を10分間注入し、その血管内容物を尾部の切断部分から排出させた。
【0062】
このようにして血管内容物を水道水に置換したイナダについてフィレーで冷凍貯蔵および冷蔵貯蔵を行った。なお、冷凍貯蔵時の温度は-20℃、冷蔵貯蔵時の温度は4℃とした。また、比較例1として、血管内容物を他の液体と置換せずにフィレーとしたイナダについても、同様に貯蔵を行った。
【0063】
この結果、上記した魚類血管内容物置換器具により血管内容物の置換を行ったイナダは、冷凍貯蔵中における血合筋の褐変が抑制され(変色が少なく)、肉質軟化も生じにくいことが明らかとなった。また、7日間冷蔵貯蔵後における魚肉の生臭みも軽減し、さらに、16日間冷蔵貯蔵後における魚肉の血合筋の褐変も抑制されていることも明らかとなった(
図6および
図7)。
【0064】
例えば、
図6の写真、および
図7のRGB値による赤み強度の比較グラフに示すように、フィレーで16日間冷蔵貯蔵後のイナダ切り身について、比較例1では血合筋全体が褐変して赤みが低下し、特に普通筋との境目付近の血合筋において強い褐変進行が認められた。しかし、上記した魚類血管内容物置換器具により血管内容物の置換を行ってから貯蔵した本発明品では、血合筋の赤みが維持されて褐変が認められず、普通筋の赤みも失われていなかった。
【0065】
(実施例2)
実施例1の方法によって血管内容物が水道水に置換されたイナダ(血管内容物置換処理イナダ)、比較例2として延髄刺殺が施され且つエラ静脈切除により血管内容物が除去されたイナダ(エラ静脈切除イナダ)、ならびに、比較例3として延髄刺殺のみ施されたイナダ(無処理イナダ)を、それぞれ海水氷中で一晩保冷した。その後、
図8の写真に示される最大体高部(II)、最大体高部とエラ蓋先端との中間部(I)、最大体高部と尾柄部との中間部(III)からそれぞれ魚肉切り身を採取した。そして、これらの切り身の断面から、
図8下側の写真に番号で示される12箇所の部位の魚肉を採取し、SDS-Urea緩衝液によりそれぞれの魚肉成分を抽出し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によってタンパク質を分子量ごとに分けたのち、メンブレンに転写し、ヘモグロビン抗体を用いたウエスタンブロット法によってヘモグロビン量を測定した。この結果を
図9に示した。なお、
図9のグラフでは、サンプル重量に対するヘモグロビン量を相対値として表示した。
【0066】
この結果、比較例3の無処理イナダでは、筋肉中に多くのヘモグロビン(つまり血管内容物)が残存し、血合筋においては皮膚の近辺ではヘモグロビン量がやや少ないが(1、5、9)普通筋の近辺でヘモグロビン量が最大であった(3、7、11)。なお、普通筋中のヘモグロビン量は少なかった(4、8、12)。また、切り身を採取した部位によるヘモグロビン量の差はほとんどなかった。
そして、比較例2のエラ静脈切除イナダでは、エラ蓋近くの筋肉(I)はヘモグロビン量が少なかったが、尾部の近くの筋肉(III)はヘモグロビンが多く残存し、エラ静脈切除による血管内容物の除去効率は高くないことが示された。
一方、血液内容物置換処理イナダでは、いずれの筋肉の部位、断面においてもヘモグロビン量が少なかった。これらの結果から、この血液内容物の置換処理は、エラ静脈切除などの従来の処理と比較して血管内容物の除去効率が高いことが明らかとなった。
【0067】
(実施例3)
針状管部として、1本の中空針(外径3.40mm、内径2.77mm、長さ70mm:比較例4)、3本の中空針(18G、外径1.25±0.02mm、内径0.82±0.03mm、長さ38mm)、5本の中空針(18G、外径1.25±0.02mm、内径0.82±0.03mm、長さ38mm)、9本の中空針(18G、外径1.25±0.02mm、内径0.82±0.03mm、長さ38mm)を、実施例1において作製した本体部に実施例1と同様の方法により接合し、4種類の魚類血管内容物置換器具を作製した。そして、これらを用いて、体重約500gのイナダに対して血管内容物置換処理を行った。なお、いずれも、1つの器具に備わる全ての針状管部から吐出される水道水の合計吐出流量が約2L/分となるように水圧を調整した。
【0068】
この結果、比較例4の針状管部が1本の器具では、針状管部1本あたりの吐出流量が約2L/分(約2000mL/分)となるため、エラ軟体部からほとんどの水が漏洩してしまい血管内容物の水道水への置換はほとんどできなかった。
これに対し、針状管部が3本の器具(針状管部1本あたりの吐出流量が約667mL/分)、針状管部が5本の器具(針状管部1本あたりの吐出流量が約400mL/分)、および、針状管部が9本の器具(針状管部1本あたりの吐出量が約222mL/分)では、いずれも血管内容物の水道水への置換が可能であった。特に、針状管部が9本の器具では、極めて効率的に血液内容物の置換処理を行うことができた。
【0069】
以上より、本発明の魚類血管内容物置換器具によってイナダの血管内容物を水道水と置換することにより、冷凍貯蔵中における血合筋の変色や肉質軟化を抑制し、且つ冷蔵貯蔵中の鮮度劣化および変色も抑制して、その品質保持期間を延長できることが示された。また、本発明の魚類血管内容物置換器具を用いることによって、イナダ血管内容物の置換処理を効率的に行うことができることも示された。
【符号の説明】
【0070】
100 魚類血管内容物置換器具
10 本体部
12 開口部
14 接着部材
20 針状管部
40 液体の供給部(ホース)
50 魚体
52 エラ部