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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】防振ゴム用ゴム組成物および防振ゴム
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20230601BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230601BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230601BHJP
   F16F 15/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/04
C08K5/098
F16F15/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018207990
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020075944
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕内 則夫
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084312(JP,A)
【文献】特開2014-095014(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147984(WO,A1)
【文献】特開2013-209605(JP,A)
【文献】特開2017-025199(JP,A)
【文献】特開2018-062629(JP,A)
【文献】特開2019-178199(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026657(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/186155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
F16F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、天然ゴムを60質量部以上含有し、かつ下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を0.1~5質量部含有し、
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、硫黄配合量が0.2~0.8質量部であり、
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、SRF級、FEF級、およびGPF級からなる群より選択される少なくとも1種のカーボンブラックを10~100質量部含有することを特徴とする防振ゴム用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振ゴム用ゴム組成物に関し、特に自動車用エンジンマウントなどの防振部材として好適に用いることができる防振ゴム用ゴム組成物および防振ゴムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両にはエンジンや車体の振動を吸収し、乗り心地の向上や騒音を防止するために防振ゴムが用いられている。かかる防振ゴムにおいては、動倍率(動的バネ定数/静的バネ定数)の低減と耐久性の向上とを高いレベルで両立することが求められる。かかる動倍率は車内騒音の指標となるものであり、低いほど良好である。
【0003】
下記特許文献1では、ゴム成分を一部変性し、かつ特定の性状を有するカーボンブラック含有するゴム組成物を原料として使用することにより、低動倍率化した防振ゴムの開発を試みているが、防振ゴムの低動倍率化および耐久性の向上の点でさらなる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-193617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低動倍率化と耐久性向上との両立が可能な防振ゴムの原料となる防振ゴム用ゴム組成物、および防振ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者は、天然ゴムを特定量含有するゴム組成物において、特定の化合物を配合することにより、その加硫ゴムの動倍率の低減と耐久性の向上とが両立できることを見出した。本発明は、上記の検討の結果なされたものであり、下記の如き構成により上述の目的を達成するものである。
【0007】
すなわち、本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、天然ゴムを60質量部以上含有し、かつ下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を0.1~5質量部含有することを特徴とする。また本発明は、前記防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴムに関する。
【0008】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、天然ゴムを60質量部以上含有し、前記式(I)に記載の化合物を0.1~5質量部含有するため、最終的にかかる防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴムは、動倍率の低減と耐久性の向上とが両立されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、天然ゴムを60質量部以上含有し、前記式(I)に記載の化合物0.1~5質量部含有する。
【0010】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、天然ゴムを60質量部以上含有する。かかる防振ゴム用ゴム組成物は、天然ゴム以外のジエン系ゴムを含有してもよく、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系合成ゴム;臭素化ブチルゴム(BR-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム;その他ポリウレタンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンなどを含めた合成ゴム類などを含有してもよい。
【0011】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。防振ゴムの低動倍率化を図る場合、一般には非汎用の大粒径カーボンブラックを配合する技術が用いられるが、かかる技術では、防振ゴムの耐久性が悪化する傾向がある。しかしながら、本発明においては、特定割合の天然ゴムに対し、前記式(I)に記載の化合物を0.1~5質量部含有するため、汎用性のカーボンブラックを使用する場合であっても、防振ゴムの低動倍率化を実現し、かつ耐久性をも向上し得る。
【0012】
カーボンブラックとしては、例えばSAF級(ASTMナンバーでN100番台)、ISAF級(同N200番台)、HAF級(同300番台)、FEF級(同N500番台)、GPF級(同N600番台)、SRF級(同700番台)など、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0013】
本発明においては、前記カーボンブラックの中でも汎用性のカーボンブラックである、HAF級、FEF級、およびGPF級からなる群より選択される少なくとも1種のカーボンブラックを使用することが好ましい。また、最終的に得られる加硫ゴムのゴム物性を考慮した場合、ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム組成物中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、10~100質量部とすることが好ましく、20~70質量部とすることがより好ましい。
【0014】
式(I)に記載の化合物は下記構造式:
【化2】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)で表すことができる。
【0015】
なお、カーボンブラックへの親和性を高めるためには、式(I)中のRおよびRが水素原子であり、Mがナトリウムイオンである下記式(I’)に記載の化合物:
【化3】
を使用することが特に好ましい。
【0016】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記式(I)に記載の化合物の含有量は0.1~5質量部であり、0.3~3質量部であることが好ましく、0.5~2質量部であることが特に好ましい。
【0017】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、上記ゴム成分、前記式(I)に記載の化合物およびカーボンブラックと共に、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0018】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物では、硫黄系加硫剤を含有することが好ましい。かかる硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物における硫黄の含有量は、製造される防振ゴムの動倍率および耐熱性を考慮した場合、ゴム成分100重量部に対して0.2~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。
【0019】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。製造される防振ゴムの低動倍率化の観点から、スルフェンアミド系加硫促進剤を使用することが好ましい。また、加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。
【0020】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0021】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、上記ゴム成分、前記式(I)に記載の化合物およびカーボンブラックと共に、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0022】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0023】
上記各成分を混練し、成形加工した後、加硫を行うことで、動倍率の低減と耐久性の向上とが両立された防振ゴムを製造することができる。加硫温度としては、例えば120~200℃が例示可能であり、140~180℃が好ましい。
【0024】
本実施形態に係る防振ゴム用途の具体例としては、エンジンマウント、ストラットマウント、ボディマウント、キャブマウント、メンバーマウント、デフマウントなどのマウント、サスペンションブッシュ、アームブッシュ、トルクブッシュなどのブッシュ、トーショナ ルダンパー、マフラーハンガー、ダンパープーリ、ダイナミックダンパーなどの各種自動車用防振ゴムが挙げられる。また自動車用以外にも、鉄道車両用防振ゴム、産業機械用防振ゴム、建築用免震ゴム、免震ゴム支承等の防振、免震ゴムに好適に用いることができる。
【実施例
【0025】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0026】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100重量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1~5、比較例1~2のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0027】
・NR:天然ゴム、RSS#3
・BR:ブタジエンゴム、ランクセス社製「BUNA CB22」
・式(I)記載の化合物((2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム):住友化学社製「スミリンク200」
・カーボンブラックFEF(N550):東海カーボン社製「シーストSO」
・カーボンブラックHAF(N339):東海カーボン社製「シーストKH」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業社製「酸化亜鉛1種」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・ワックス:日本精鑞社製「OZOACE2701」
・老化防止剤6C:Flexsys社製「SANTOFLEX6PPD」
・老化防止剤RD:大内新興化学工業社製「ノクラック224」
・硫黄:細井化学工業社製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤CZ:大内新興化学工業社製「ノクセラーDM-P」
・加硫促進剤TS:三新化学工業社製「サンセラーTS」
【0028】
実施例1~6、比較例1~2
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤と加硫遅延剤を除く成分を添加混合し(混合時の排出温度は160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して、防振ゴム用ゴム組成物を調製した。各ゴム組成物について、それぞれ加硫ゴムを作製して特性を評価した。
【0029】
得られた加硫ゴムを下記評価基準により評価した。
【0030】
[動倍率]
所定の金型を使用し、各ゴム組成物を150℃×25分にて加硫して得られた加硫ゴムサンプル(50mmΦ×25mm)について、静ばね定数Ksと動ばね定数Kdを下記方法により測定し、その比(Kd/Ks)を算出して動倍率を求めた。実施例1~4および比較例1については、比較例1の結果を100として指数評価を行い、実施例5~6については、比較例2の結果を100として指数評価を行った。指数が小さいほど、加硫ゴムの動倍率が低く、動特性に優れることを意味する。
【0031】
・静ばね定数(Ks):オリエンテック(株)製テンシロンを測定機に用い、加硫ゴムサンプルについて、10mm/分のクロスヘッドスピードで0~5mm間の圧縮(20%までの圧縮)を2回繰返し、2回目の荷重-たわみ線図を描き、次式に基づいて算出した。
静ばね定数(N/mm)=(w2-w1)/(δ2-δ1)
(式中、w1はたわみ量δ1が1.3mm時の荷重(N)、w2はたわみ量δ2が3.8 mm時の荷重(N)である。)
【0032】
・動ばね定数(Kd):(株)鷺宮製作所製ダイナミックサーボを測定機に用い、初期歪(圧縮)10%、周波数100Hz、振幅±0.05mm(±0.2%)で行い、JISK6394に記載の計算方法によりを求めた(単位はN/mm)。
【0033】
[耐久性]
各ゴム組成物を所定の円柱構造(φ30×H20)となるようにトランスファー成型したものを、55°傾けて上下定荷重加振(上方向0.9kN、下方向0.3kN)を3Hzの周波数で与え、亀裂が成長しバネが初期より半分になった回数に基づき耐久性を評価した。評価は、実施例1~4および比較例1については、比較例1の結果を100として指数評価を行い、実施例5~6については、比較例2の結果を100として指数評価を行った。指数が大きいほど、加硫ゴムの耐久性に優れることを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
結果は表1に示す通りであり、コントロールである比較例1および比較例2に対し、式(I)記載の化合物を添加した実施例1~6では加硫ゴムの動倍率は低減され、かつ耐久性が向上していることがわかる。