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特許7288791物体の付近での船舶の移動を制御するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】物体の付近での船舶の移動を制御するための方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20230601BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20230601BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
B63H25/04 G
B63H25/42 B
B63H21/21
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019080047
(22)【出願日】2019-04-19
(65)【公開番号】P2019202757
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】15/986,395
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】318011897
【氏名又は名称】ブランズウイック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォード,アーロン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】マロウフ,トラビス シー
(72)【発明者】
【氏名】アーバックル,ジェイソン エス
(72)【発明者】
【氏名】ダージナー,マシュー イー
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159887(JP,A)
【文献】特開2018-30571(JP,A)
【文献】特開平6-286694(JP,A)
【文献】特開2001-334995(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010767(WO,A1)
【文献】米国特許第9927520(US,B1)
【文献】米国特許第6234853(US,B1)
【文献】特表2012-528417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/04
B63H 25/02
B63H 25/42
B63H 21/21
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御モジュールからの指令に従って船舶推進システムが発生させる推力によって推進している船舶における、物体の付近での移動を制御するための方法であって、
前記物体上の第1の点と第2の点とを結ぶ線と、前記船舶の船首方向とのなす実際の角度を割り出すことができるような、前記船舶上の第1の距離センサと前記物体上の第1の点との間の第1の距離が所定の第1の距離内に入り、前記船舶上の第2の距離センサと前記物体上の第2の点との間の第2の距離が所定の第2の距離内に入ったかどうかを判断することと、
手動操作の入力装置から、前記船舶について要求される並進運動を表す信号を、前記制御モジュールにおいて受信することと、
その後に、
前記第1の距離及び前記第2の距離が、それぞれ前記所定の第1の距離及び前記所定の第2の距離内に入った場合において、
前記要求される並進運動を表す信号の受信時に、前記船舶と前記物体との間の前記実際の角度を割り出し、前記実際の角度を初期角度として記憶し、前記要求された並進運動を実行しかつ前記初期角度を維持する推力を発生させるように前記制御モジュールで前記船舶推進システムを制御すること、
または
前記第1の距離及び前記第2の距離が、それぞれ前記所定の第1の距離及び前記所定の第2の距離内に入っていない場合において、
前記要求された並進運動を実行する推力を発生させるように前記制御モジュールで前記船舶推進システムを制御すること、
の一方を行うことと、
を含む方法。
【請求項2】
前記入力装置から、前記船舶について要求されるヨーモーメントを表す信号を、前記制御モジュールで受け付けることと、
前記要求されたヨーモーメントを、所定のヨーモーメントしきい値と比較することと、
前記要求されたヨーモーメントが前記所定のヨーモーメントしきい値よりも小さいとの判断に応答して、前記要求された並進運動を実行しかつ前記初期角度を維持する前記推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記要求されたヨーモーメントが前記所定のヨーモーメントしきい値以上であるとの判断に応答して、前記要求された並進運動を実行しかつ前記要求されたヨーモーメントを発生させる推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御すること
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記船舶推進システムが、前記要求されたヨーモーメントを発生させる前記推力を発生させた後に、
前記要求されたヨーモーメントが前記所定のヨーモーメントしきい値を下回り、かつ
前記第1の距離及び前記第2の距離が、それぞれ前記所定の第1の距離及び前記所定の第2の距離内に入った場合において、
前記船舶と前記物体との間の後続の前記実際の角度を割り出すことと、
その後に、前記要求された並進運動を実行しかつ後続の前記実際の角度を維持する推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御することと
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の距離及び前記第2の距離が、それぞれ前記所定の第1の距離及び前記所定の第2の距離内に入った場合において、
前記船舶と前記物体との間の前記実際の角度を繰り返し割り出すことと、
前記実際の角度と前記初期角度との間の差が前記手動操作の入力装置を介して操作者により要求されたものであったか否かを判定することと、
前記実際の角度と前記初期角度との間の差が、前記手動操作の入力装置を介して前記操作者により要求されたものではない場合に、前記実際の角度と前記初期角度との間の差を最小にするために前記推力によって補正ヨーモーメントを発生させることと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記補正ヨーモーメントの大きさは、前記実際の角度と前記初期角度との間の前記差に比例する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記制御モジュールは、前記操作者による介入を必要とすることなく自動的に前記補正ヨーモーメントを発生させるように前記船舶推進システムを制御する、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記物体上の第1の点と第2の点とを結ぶ線と、前記船舶の前記船首方向とのなす実際の角度を割り出すことができるような、前記第1の距離及び前記第2の距離が、それぞれ前記所定の第1の距離及び前記所定の第2の距離内に入るまで、前記距離センサによる距離検出を船舶の周囲の領域を継続的に行うことをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記距離センサで、前記船舶と前記物体上の前記第1の点との間の第1の距離および前記船舶と前記物体上の前記第2の点との間の第2の距離を測定することと、
前記第1の距離および前記第2の距離に基づいて前記船舶と前記物体との間の前記実際の角度を計算することと
をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記要求される並進運動は、前記船舶の左方または右方への横移動である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
船舶推進システムが発生させる推力によって推進している船舶の物体の付近での移動を制御するためのシステムであって、
前記船舶推進システムと信号をやり取りする制御モジュールと、
前記船舶について要求される並進運動を表す信号を前記制御モジュールにもたらす手動操作の入力装置と、
少なくとも前記船舶と前記物体上の第1の点との間の第1の距離および前記船舶と前記物体上の第2の点との間の第2の距離を前記制御モジュールにもたらす少なくとも1つのセンサと
を備えており、
前記制御モジュールは、前記第1の距離および前記第2の距離に基づいて、前記物体上の第1の点と第2の点とを結ぶ線と、前記船舶の船首方向とのなす実際の角度を割り出し、
前記要求される並進運動を表す前記信号に応答して、前記制御モジュールは、前記船舶と前記物体との間の前記実際の角度を初期角度として記憶し、前記要求された並進運動を実行しかつ前記初期角度を維持する前記推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御する、システム。
【請求項12】
前記制御モジュールは、前記入力装置を介して要求されるヨーモーメントを決定し、
前記制御モジュールは、前記要求されたヨーモーメントを所定のヨーモーメントしきい値と比較し、
前記要求されたヨーモーメントが前記所定のヨーモーメントしきい値よりも小さいとの判断に応答して、前記制御モジュールは、前記要求された並進運動を実行しかつ前記初期角度を維持する前記推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記要求されたヨーモーメントが前記所定のヨーモーメントしきい値以上であるとの判断に応答して、前記制御モジュールは、前記要求された並進運動を実行しかつ前記要求されたヨーモーメントを発生させる推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記船舶推進システムが前記要求されたヨーモーメントを発生させる前記推力を発生させた後に、前記要求されるヨーモーメントが前記所定のヨーモーメントしきい値を再び下回ると、前記制御モジュールは、前記第1の距離および前記第2の距離に基づいて、前記物体上の第1の点と第2の点とを結ぶ線と、前記船舶の船首方向とがなす、前記船舶と前記物体との間の後続の角度を割り出し、
前記制御モジュールは、その後に、前記要求された並進運動を実行しかつ前記後続の角度を維持する推力を発生させるように前記船舶推進システムを制御する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記制御モジュールは、前記第1の距離および前記第2の距離に基づいて、前記物体上の第1の点と第2の点とを結ぶ線と、前記船舶の船首方向とがなす、前記船舶と前記物体との間の前記実際の角度を繰り返し割り出し、
前記制御モジュールは、前記実際の角度と前記初期角度との間の差が前記入力装置を介して操作者により要求されたものであったか否かを判定し、
前記実際の角度と前記初期角度との間の差が、前記入力装置を介して操作者により要求されたものではない場合に、前記制御モジュールは、前記実際の角度と前記初期角度との間の差を最小にするために前記推力によって補正ヨーモーメントを発生させるように前記船舶推進システムを制御する、請求項11~14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記補正ヨーモーメントの大きさは、前記実際の角度と前記初期角度との間の前記差に比例する、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記制御モジュールは、操作者による介入を必要とすることなく自動的に前記補正ヨーモーメントを発生させるように前記船舶推進システムを制御する、請求項15又は請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記センサは、前記船舶と前記物体上の前記第1の点との間の前記第1の距離、および前記船舶と前記物体上の前記第2の点との間の前記第2の距離が所定の距離内に入ったかどうかを判定するために前記船舶の周囲の領域を継続的に距離検出を行う、請求項11~17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
前記要求される並進運動は、前記船舶の左方または右方への横移動である、請求項11~18のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
前記入力装置は、ジョイスティックである、請求項11~19のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水域における船舶の移動を制御するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6,234,853号明細書が、船舶の操船者からの操縦指令に応えるためにジョイスティックまたは押しボタン装置から指令信号を受信するエンジン制御ユニットの制御下で船舶の船舶推進ユニットを利用するドッキングシステムを開示している。ドッキングシステムは、通常の条件下で船舶を動作させるために標準的に使用される推進装置以外の追加の推進装置を必要としない。この発明のドッキングシステムまたは操縦システムは、操船者の指令信号に応えるために2つの船舶推進ユニットを使用し、操船者が時計回りまたは反時計回りの回転指令との組み合わせにおいて前進または後退指令を互いに組み合わせ、あるいは単独で選択することを可能にする。
【0003】
米国特許第6,273,771号明細書が、船舶に取り付け可能であり、シリアル通信バスおよびコントローラと信号をやり取りするように接続可能である船舶推進システムを備える船舶のための制御システムを開示している。複数の入力装置および出力装置も、通信バスと信号をやり取りするように接続され、CAN Kingdomネットワークなどのバスアクセスマネージャが、コントローラと信号をやり取りするように接続され、バスと信号をやり取りする複数の装置への追加の装置の組み込みを統制することにより、コントローラが通信バス上の複数の装置の各々と信号をやり取りするように接続される。入力装置および出力装置の各々は、他の装置によって受信されるように、メッセージをシリアル通信バスに送信することができる。
【0004】
米国特許第7,267,068号明細書が、ジョイスティックなどの手動操作の制御装置から受信される指令に応答して第1および第2の船舶推進装置をそれぞれの操舵軸を中心にして独立して回転させることによって操縦される船舶を開示している。船舶推進装置は、それらの推力ベクトルが船舶の中心線上の点で交差し、回転運動が指令されていないときには船舶の重心で交差するように向けられる。船舶推進装置を駆動するために、内燃機関が設けられている。2つの船舶推進装置の操舵軸は、おおむね垂直かつ互いに平行である。2つの操舵軸は、船舶の船体の底面を貫いて延びる。
【0005】
米国特許第7,305,928号明細書が、船舶が船舶の操船者によって選択された所望の位置および方位に従って船舶の大域的な位置および方位を維持するような方法で船舶を操縦する船舶位置決めシステムを開示している。ジョイスティックと組み合わせて使用されるとき、操船者は、システムを位置維持可能モードにすることができ、その場合、システムは、作動モードから非作動モードへのジョイスティックの初期の変化において得られた所望の位置を維持する。このようにして、操船者は、船舶を手動で選択的に操縦することができ、ジョイスティックが離されると、船舶は、操船者がジョイスティックによる操縦を停止した瞬間における位置を維持する。
【0006】
米国特許第9,927,520号明細書が、物体が船舶から所定の距離の範囲内にあるか否かを判定するための距離センサを用いた感知と、船舶に対する物体の方向の判断とを含む船舶の衝突を検出する方法を開示している。この方法は、推進制御入力装置における推進制御入力の受信と、推進制御入力の実行によって船舶のいずれかの部分が物体に向かって移動することになるか否かの判断をさらに含む。その後に、衝突警報が生成される。
【0007】
米国特許出願公開第2017/0253314号明細書明細書が、水域における船舶を選択された位置および向きに維持するためのシステムであって、船舶の大域的な位置および方位を明らかにする全地球測位システムと、船舶の付近の物体に対する船舶の相対的な位置および姿勢を明らかにする近接センサとを含むシステムを開示している。位置維持モードで動作することができるコントローラが、GPSおよび近接センサと信号をやり取りする。コントローラは、GPSからの大域的な位置および方位データならびに近接センサからの相対位置および方位データを選択的に使用して、船舶が選択された位置および向きから移動したか否かを判断する。コントローラは、船舶を選択された位置および向きに戻すために必要な推力指令を計算し、推力指令を使用して船舶の位置を変化させる船舶推進システムに推力指令を出力する。
【0008】
米国特許出願公開第2018/0057132号明細書が、物体の付近での船舶の動きを制御するための方法であって、ジョイスティックから船舶の所望の動きを表す信号を受け付けることを含む方法を開示している。センサが、物体と船舶との間の最短距離、および船舶に対する物体の方向を感知する。コントローラは、船舶の所望の動きを最短距離および方向と比較する。この比較に基づいて、コントローラは、所望の動きを達成するための推力を発生させるように船舶推進システムに対して指令するか、あるいは船舶を物体から少なくとも所定の距離に保つことを保証する修正された動きを達成するための推力を発生させるように船舶推進システムに対して指令するかを選択する。次いで、船舶推進システムが、指令されたとおりに、所望の動きまたは修正された動きを達成するための推力を発生させる。
【0009】
上述の文献の各々は、その全体がここでの言及によって本明細書に援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第6,234,853号明細書
【文献】米国特許第6,273,771号明細書
【文献】米国特許第7,267,068号明細書
【文献】米国特許第7,305,928号明細書
【文献】米国特許第9,927,520号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0253314号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0057132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この概要は、詳細な説明においてさらに後述される概念の選択を紹介するために提示される。この概要は、特許請求の範囲に記載される主題の重要または不可欠な特徴を特定しようとするものではなく、特許請求の範囲に記載される主題の範囲の限定における補助として使用されることも意図していない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一例によれば、制御モジュールからの指令に従って船舶推進システムが発生させる推力によって推進中の船舶の物体の付近での移動を制御するための方法が開示される。この方法は、船舶と物体との間の実際の角度を割り出すことができるような物体についての充分な情報を船舶上のセンサが有するかどうかを判定することを含む。この方法は、手動操作の入力装置から、船舶について要求される並進運動を表す信号を、制御モジュールで受信することをさらに含む。その後に、この方法は、物体についての充分な情報をセンサが有する場合に、要求される並進運動(translation)を表す信号の受信時に船舶と物体との間の実際の角度を割り出し、この実際の角度を初期角度として記憶し、要求された並進運動を実行しかつ初期角度を維持する推力を発生させるように制御モジュールで船舶推進システムを制御すること、または物体についての充分な情報をセンサが有さない場合に、要求された並進運動を実行する推力を発生させるように制御モジュールで船舶推進システムを制御すること、の一方を行うことを含む。
【0013】
本開示の別の例によれば、船舶推進システムが発生させる推力によって推進中の船舶の物体の付近での移動を制御するためのシステムが開示される。このシステムは、船舶推進システムと信号をやり取りする制御モジュールと、船舶について要求される並進運動を表す信号を制御モジュールにもたらす手動操作の入力装置と、少なくとも船舶と物体上の第1の点との間の第1の距離および船舶と物体上の第2の点との間の第2の距離を制御モジュールにもたらす少なくとも1つのセンサとを備える。制御モジュールは、第1の距離および第2の距離に基づいて船舶と物体との間の実際の角度を割り出す。要求される並進運動を表す信号に応答して、制御モジュールは、船舶と物体との間の実際の角度を初期角度として記憶し、要求された並進運動を実行しかつ初期角度を維持する推力を発生させるように船舶推進システムを制御する。
【0014】
船舶の移動を制御するためのシステムおよび方法の例が、以下の図を参照して説明される。同じ番号が、図面の全体を通して、同様の特徴および同様の構成要素を指すために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】船舶上の制御システムの概略図である。
図2】本開示の船舶に関連して使用されるジョイスティックの側面図である。
図3】ジョイスティックの上面図である。
図4】船舶の前進時の推力ベクトルの配置を示している。
図5】船舶をその重心を中心にして回転させるために使用される推力ベクトルの配置を示している。
図6】船舶をその重心を中心にして回転させるために使用される推力ベクトルの配置を示している。
図7】物体の付近の船舶の例を示している。
図8】物体の付近で船舶を操縦するための本開示による方法を示している。
図9】物体の付近で船舶を操縦するための本開示による別の方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この説明においては、簡潔さ、明確さ、および理解の目的で、特定の用語が使用されている。そのような用語は、あくまでも説明の目的で使用されているにすぎず、広く解釈されるように意図されているため、先行技術の要件を超える不必要な限定を意味するものではない。本明細書に記載の種々のシステムおよび方法は、単独で使用されても、他のシステムおよび方法と組み合わせて使用されてもよい。添付の特許請求の範囲の技術的範囲において、さまざまな均等物、代替物、および変更物が可能である。添付の特許請求の範囲における各々の限定は、「・・・のための手段(means for)」または「・・・のためのステップ(step for)」という用語がそれぞれの限定において明示的に記載されている場合に限り、米国特許法第112条(f)の規定による解釈を惹起するように意図される。
【0017】
図1が、船舶10を示している。船舶10は、本明細書において後述されるように、いくつかのモードの中でもとりわけ、例えば、通常動作モード、中間地点追跡モード、自動方位モード、位置維持モード、およびジョイスティックモードで動作することができる。本明細書においてさらに詳しく後述されるように、船舶10は、船舶10の推進のための第1および第2の推力ベクトルベクトルベクトルT1、T2を生成する第1および第2の推進装置12a、12bを有する。図示のように、第1および第2の推進装置12a、12bは船外機であるが、あるいは船内機、船尾駆動装置、ジェット駆動装置、またはポッド駆動装置であってもよい。各々の推進装置は、エンジン14a、14bを変速機16a、16bに動作可能に接続して備えており、変速機16a、16bは、プロペラ18a、18bに動作可能に接続されている。
【0018】
さらに、船舶10は、船舶推進システム20を構成する種々の制御要素を含む。船舶推進システム20は、例えば米国特許第6,273,771号明細書に記載のとおりのCANバスを介して、例えば指令制御モジュール(CCM)などの制御モジュール24およびそれぞれの推進装置12a、12bに関する推進制御モジュール(PCM)26a、26bと信号をやり取りする操作コンソール22を備える。制御モジュール24およびPCM26a、26bの各々は、メモリおよびプログラム可能なプロセッサを備えることができる。従来どおり、プロセッサを、コンピュータ可読コードを記憶する揮発性または不揮発性メモリを含むコンピュータ可読媒体に通信可能に接続することができる。プロセッサは、コンピュータ可読コードにアクセスすることができ、コンピュータ可読媒体は、コードの実行時に、本明細書において後述されるように機能を実行する。船舶推進システム20の他の例においては、CCMおよびPCMの両方を有するのではなく、システムについてただ1つの制御モジュールが用意される。他の例においては、各々の推進装置に1つのCCMが設けられ、さらには/あるいはエンジンの速度および機能を推進装置の操舵およびトリムとは別に制御するために追加の制御モジュールが設けられる。例えば、PCM26a、26bが、推進装置12a、12bのエンジン14a、14bおよび変速機16a、16bを制御することができる一方で、追加の推力ベクトルモジュール(TVM)が、それらの向きを制御することができる。船舶推進システム20の他の例においては、船舶の制御要素が、シリアル有線CANバスによるよりもむしろ、無線通信を介して接続される。図1に示されている破線は、種々の制御要素が互いに通信できることを示そうとしているにすぎず、制御要素を接続する実際の配線を表すものではなく、要素間の唯一の通信経路を表すものでもないことに、注意すべきである。
【0019】
操作コンソール22は、キーパッド28、ジョイスティック30、操舵輪32、および1つ以上のスロットル/変速レバー34などのいくつかのユーザ入力装置を備える。これらの装置の各々が、制御モジュール24に指令を入力する。次いで、制御モジュール24は、PCM26a、26bとの通信によって第1および第2の推進装置12a、12bと通信する。さらに、制御モジュール24は、慣性計測装置(IMU)36から情報を受信する。IMU36は、全地球測位システム(GPS)38の一部を含み、全地球測位システム(GPS)38は、図示の例においては、船舶10上の予め選択された固定の位置に配置されたGPS受信機40をさらに含み、船舶10の大域的な位置に関する情報をもたらす。GPS受信機40およびIMU36からの信号が、制御モジュール24にもたらされる。一例において、IMU36は、半導体磁気計を使用して地球の磁場の方向を検出し、磁北に対する船舶の方位を示す半導体レートジャイロ電子コンパスであってよい。
【0020】
操舵輪32およびスロットル/変速レバー34は、例えば操舵輪32の回転によってトランスデューサが作動し、船舶10の所望の方向に関する信号が制御モジュール24にもたらされるように、従来どおりの様相で機能する。次いで、制御モジュール24は、PCM26a、26b(さらには/あるいは、設けられているのであればTVMおよびさらなるモジュール)に信号を送信し、PCM26a、26bは、推進装置12a、12bの所望の向きを達成するように操舵アクチュエータを作動させる。推進装置12a、12bは、それぞれの操舵軸を中心にして独立に操舵可能である。スロットル/変速レバー34は、変速機16a、16bの所望のギア(前進、後退、または中立)および推進装置12a、12bのエンジン14a、14bの所望の回転速度に関する信号を制御モジュール24に送信する。次いで、制御モジュール24は、PCM26a、26bに信号を送信し、PCM26a、26bは、変速機16a、16bおよびエンジン14a、14bのそれぞれの変速用およびスロットル用の電気機械アクチュエータを作動させる。ジョイスティック30などの手動操作の入力装置も、制御モジュール24に信号をもたらすために使用することができる。後述されるように、船舶10の操船者が、船舶10の並進運動または回転を達成するなど、船舶10を手動で操縦できるように、ジョイスティック30を使用することができる。代案の例において、種々の構成要素28、30、32、34は、PCM26a、26bと直接通信してもよく、あるいは1つ以上の中央制御モジュールと通信してもよいことを、理解すべきである。
【0021】
次に、図2および図3を参照して、ジョイスティック30の動作を説明する。図2は、操船者によって選択される船舶10の所望の動きを表す信号をもたらすために使用することができる手動操作の入力装置を提供するジョイスティック30の簡単な概略図である。図2の例は、ベース部42と、手で操作することができるハンドル44とを示している。典型的な用途において、ハンドル44は、おおむね矢印46によって表される方向に動かすことができ、軸48を中心とする回転も可能である。ジョイスティックのハンドル44を、ベース部42内の接続点を中心にして実質的にあらゆる方向に傾けることによって動かすことができることを、理解すべきである。矢印46が、図2においては図面の平面内に示されているが、図面の平面と平行ではない他の方向にも、同様の種類の動きが可能である。
【0022】
図3は、ジョイスティック30の上面図である。ハンドル44は、図2の矢印46によって示されるように、矢印50、51、52、および53によって表される方向を含む種々の方向に動かすことができる。しかしながら、ハンドル44が、自身の軸48に対して任意の方向に動かすことが可能であり、矢印50、51、52、および53によって表される2本の動作線に限定されないことを、理解すべきである。実際に、ハンドル44の動きは、ベース部42内の接続点を中心にして傾けられるときに、実質的に無限の数の経路をとることができる。さらに、ハンドル44は、矢印54によって表されるように、軸48を中心にして回転可能である。船舶の操船者がハンドル44の動きによって表現するとおりの船舶10の所望の移動を表す信号をもたらすために使用することができる多数のさまざまな種類のジョイスティック装置が存在することに、注意すべきである。例えば、キーパッド、トラックボール、および/または4つ以上の方向における入力を可能にする他の同様の入力装置を、使用することができる。
【0023】
さらに図3を参照すると、操船者が、矢印52によって表されるとおりの左舷または矢印53によって表されるとおりの右舷への純粋に直線的な移動、矢印50によって表されるとおりの前方または矢印51によって表されるとおりの後方への純粋な直線運動、あるいはこれらの方向のうちの2つの任意の組み合わせを要求できることを、見て取ることができる。換言すると、ハンドル44を破線56に沿って動かすことによって、右前方に向かう直線運動または左後方に向かう直線運動を指令することができる。同様に、線58に沿った直線運動も指令することができる。船舶の操船者が、横方向または前方/後方の直線運動の組み合わせを矢印54によって表されるとおりの回転と組み合わせて要求することも可能であることを、理解すべきである。これらの可能性のいずれも、制御モジュール24と通信し、最終的にはPCM26a、26bと通信するジョイスティック30を使用することによって、達成することができる。ハンドル44の位置によって表される動きの大きさまたは強度も、ジョイスティック30からの出力としてもたらすことができる。換言すると、ハンドル44が一方側または他方側にわずかに動かされた場合、その方向に指令される推力は、あるいはハンドル44がベース部42に対する垂直位置からより大きく遠ざかるように動かされた場合よりも小さい。さらに、矢印54によって表されるとおりの軸48を中心とするハンドル44の回転は、所望の動きの強度を表す信号をもたらす。軸48を中心とするハンドル44のわずかな回転は、船舶10上の予め選択された点を中心とするわずかな回転推力の指令を表すと考えられる。他方で、ハンドル44の軸48を中心とするより強い回転は、より大きな回転推力の指令を表すと考えられる。
【0024】
さらに、ジョイスティック30は、自身が作動状態であるか、あるいは非作動状態であるかについての情報を制御モジュール24にもたらすことができる。操作者がジョイスティック30を操作しているとき、ジョイスティック30は作動状態である。しかしながら、操船者がジョイスティック30を放し、ハンドル44の中心/直立および中立位置への復帰を可能にすると、ジョイスティック30は非作動状態に戻る。一例においては、中心状態から離れるハンドル44の動き、またはハンドル44の軸48を中心とする回転、あるいはその両方により、制御モジュール24は、スロットル/変速レバー34または操舵輪32の位置にかかわらず、ジョイスティック30が作動状態にあると判断し、次いでジョイスティック30からの指令に対応する。別の例では、ジョイスティック30の動きによってジョイスティック30が作動状態にあると制御モジュール24が判断してジョイスティック30からの指令に対応する前に、スロットル/変速レバー34および操舵輪32の一方または両方が、拘束位置になければならない。一例において、スロットル/変速レバー34の拘束位置は、前方拘束位置または中立拘束位置である。操舵輪32の拘束位置は、ゼロ度位置であってよい。別の例においては、ジョイスティックモードを有効にするためには、変速機16a、16bの両方が中立でなければならない。
【0025】
このように、ジョイスティックモードにおいて、ユーザは、ジョイスティック30を操作して、図2および図3に関連して本明細書において上述した回転運動および/または並進運動を指令することができる。ジョイスティックモードが、例えば前後および左右ボタンを有するキーパッドなど、前方/後方および側方への並進運動の要求をもたらすために他の種類の入力装置が用いられる実施形態も包含するように意図されていることを、理解すべきである。別のモードにおいては、当業者にとって一般的であるとおり、スロットル/変速レバー34および操舵輪32を使用して制御モジュール24を介してPCM26a、26bに指令を送り、そのような指令に応答して推進装置12a、12bを動作させることができる。さらに、制御モジュール24を、船舶10の進路を乱す風、波、流れ、または他の外的要因が存在しても船舶10が所望の方位を維持するように、別の自動方位モードにおいて第1および第2の推進装置12a、12bを制御するために、PCM26a、26bと信号をやり取りするように接続することもできる。あるいは、操船者は、所望の中間地点に到達するように計算される方位で船舶10を或る中間地点(地理座標)から別の中間地点に推進させる中間地点追跡モードで船舶10を動作させることができる。船舶10の所望の大域的な位置および所望の方位を維持する位置維持モードも、所望の移動操作部29を介して作動させることができる。
【0026】
船舶10の所望の方位を維持するために、制御モジュール24は、所望の方位ならびに船舶の実際の方位および/または進路に関する比較情報を有していなければならない。制御モジュール24は、例えばIMU36によって検出される船舶10の実際の方位および/または進路を、操船者によって入力され、あるいは所望の中間地点に基づいて計算された所望の方位と比較する。例えば、所望の方位と実際の方位および/または進路との間の差が特定のしきい値を超える場合に、制御モジュール24は、方位を補正し、その後に所望の値に維持するように、推進装置12a、12bを位置させ、さらには/あるいは推進装置12a、12bのいずれかによってもたらされる推力を変更することができる。例えば、制御モジュール24は、CANバスを介してPCM26a、26bに信号を送信することで、所望の方位を達成するために必要な船舶10の動きに基づいて、船舶10に対する第1および第2の推進装置12a、12bの回転の角度を設定し、エンジン速度を設定し、さらには/あるいはシフト位置を設定することができる。
【0027】
図4に、船舶10が、船舶10上の較正済みの予め選択された点であってよい船舶10の重心60と共に概略的に示されている。他の例において、点60は、代わりに、瞬間的な回転中心であってよい。回転中心は、船舶10が水域を移動するときの船舶10の速度、船舶10の船体に加わる水の力、船舶10内に含まれる荷重の重量分布、および船舶10のどの程度までが水位線の下方に位置するかを含むいくつかの要因の関数である。回転中心の位置を、さまざまな条件の組について経験的に決定することができる。以下の説明の目的のために、点60は重心と呼ばれるが、回転中心を使用して同様の計算を実行することが可能である。
【0028】
第1および第2の操舵軸13a、13bが、第1および第2の推進装置12a、12bについて示されている。第1および第2の推進装置12a、12bは、それぞれ第1および第2の操舵軸13a、13bを中心にして回転可能である。第1および第2の推進装置12a、12bの回転の範囲は、船舶10の中心線62に関して対称であってよい。本開示の位置決め方法は、第1および第2の推進装置12a、12bをそれぞれの操舵軸13a、13bを中心にして回転させ、第1および第2の推進装置12a、12bの動作を前進ギアまたは後退ギアに調整し、それらの推力T1、T2の大きさを船舶10の迅速かつ正確な操縦を可能にする効率的な方法で(例えば、エンジンの速度ならびに/あるいはプロペラのピッチまたは変速機の滑りを調整することによって)調整する。1つの推進装置12aの回転、ギア、および推力の大きさを、他の推進装置12bの回転、ギア、および推力の大きさとは無関係に変えることができる。
【0029】
図4は、右および左のどちらの方向にも移動せず、かつ重心60を中心とする回転も伴わずに、矢印61によって示される前方方向に船舶10を移動させることが望まれる場合に使用される推力の向きを示している。これは、第1および第2の推進装置12a、12bを、それらの推力ベクトルT1およびT2が互いに平行になる整列位置に回転させることによって行われる。図4に見られるように、第1および第2の推力ベクトルT1およびT2は、大きさが等しく、同じ前方方向を向いている。これは、重心60を中心とする回転を生じさせることがなく、左方向または右方向のいずれの方向の移動も生じさせることがない。矢印61によって表される方向の移動が、矢印61と平行な方向に分解される第1および第2の推力ベクトルT1、T2のすべてのベクトル成分(本明細書においてさらに後述される)からもたらされる。結果として生じる矢印61に平行な推力成分は、累積的であり、協働して船舶10に矢印61の方向の正味の前方への推力をもたらす。
【0030】
図5および図6に示されるように、船舶10の回転が直線運動と組み合わせて望まれる場合、第1および第2の推進装置12a、12bは、それらの推力ベクトルが中心線62上の点で交差するように、それぞれの第1および第2の操舵軸13a、13bを中心にして中心線62に対する操舵角度θに回転させられる。分かり易くするために、図5においては推力ベクトルT1(その大きさおよび方向について、図6を参照)が示されていないが、推力ベクトルT1に関する作用線68が、推力ベクトルT2の作用線66と点64において交差するように図示されている。点64は重心60と一致しないため、第1の推進装置12aが発生させる推力ベクトルT1に関して、有効モーメントアームM1が存在する。重心60の周りのモーメントは、推力ベクトルT1の大きさに有効モーメントアームM1を乗じたものに等しい。モーメントアームM1は、破線68に対して垂直であり、第1の推力ベクトルT1は、破線68に沿って整列している。したがって、モーメントアームM1は、斜辺Hも含む直角三角形の一辺である。図5における別の直角三角形が、辺L、辺W/2、および斜辺Hを含むことも、理解すべきである。推進装置12a、12bがそれぞれの操舵軸13a、13bを中心にして同じ角度θだけ回転させられる限りにおいて、モーメントアームM1と同じ大きさのモーメントアームM2(分かり易くするために図示されていない)が、線66に沿って向けられた第2の推力ベクトルT2について存在すると考えられる。
【0031】
図5をさらに参照すると、モーメントアームM1の長さを、操舵角度θ、角度Φ、角度π、図5においてWに等しい第1および第2の操舵軸13aおよび13bの間の距離、ならびに重心60と第1および第2の操舵軸13a、13bを結ぶ線との間の垂直距離Lの関数として決定できることを、当業者であれば理解できるであろう。第1の操舵軸13aと重心60とを結ぶ線の長さは、直角三角形の斜辺Hであり、既知であって制御モジュールのメモリに保存されているLおよびWに鑑みて、ピタゴラスの定理を用いて容易に決定することができる。θの大きさは、式1~4に関して本明細書において後述されるように計算される。角度Ωの大きさは、90-θである。角度Φの大きさは、W/2として特定される第1の操舵軸13aと船舶の中心線62との間の距離に対する長さLの比の逆正接に等しい。モーメントアームM1の長さは、線Hの長さおよび角度π(Ω-Φである)の大きさを使用して、制御モジュール24が数学的に決定することができる。
【0032】
推力ベクトルT1、T2の各々は、前後方向および左右方向の両方のベクトル成分に分解される。ベクトル成分は、絶対的な大きさが互いに等しい場合、互いに打ち消しあうか、あるいは足し合わせられるかのいずれかであり得る。絶対的な大きさが等しくない場合、それらは互いに部分的に相殺されるか、あるいは足し合わせられ得るが、合力が何らかの直線方向に存在すると考えられる。説明の目的のために、図5は、第2の推力ベクトルT2のベクトル成分を示している。図示のように、第2の推力ベクトルT2は、中心線62に対して操舵角度θにある線66に沿って向けられている。第2の推力ベクトルT2を、操舵角度θの関数として計算される中心線62に平行な成分および中心線62に垂直な成分に分解することができる。例えば、第2の推力ベクトルT2を、第2の推力ベクトルT2にθの余弦およびθの正弦をそれぞれ乗算することにより、後方への力F2Yおよび横方向の力F2Xに分解することができる。第1の推力T1のベクトル成分も、同様の方法で前方/後方の成分および横方向の成分に分解することができる。これらの関係を使用して、船舶推進システム20が発生させる正味の推力のベクトル成分FX、FYを、T1およびT2のそれぞれの前方/後方および左方/右方のベクトル成分を加算することによって計算することができる。
FX=T1(sin(θ))+T2(sin(θ))(1)
FY=T1(cos(θ))-T2(cos(θ))(2)
図5および図6の例において、T1がX方向およびY方向の両方に正のベクトル成分を有する一方で、T2がX方向の正のベクトル成分およびY方向の負のベクトル成分を有し、したがって、T2のY方向の負のベクトル成分がT1のY方向のベクトル成分から引き算されることに、注意すべきである。船舶10に作用する正味の推力は、FXとFYとのベクトル加算によって決定することができる。
【0033】
図6に目を向けると、船舶10をその重心60を中心にして回転させることができるモーメント(矢印70によって表される)を、船舶10に加えることも可能である。モーメント70を、時計回り(CW)または反時計回り(CCW)のいずれかの回転方向に加えることができる。モーメント70から生じる回転力を、船舶10への直線力と組み合わせて加えることができ、あるいは単独で加えることができる。モーメント70を直線力と組み合わせるために、第1および第2の推力ベクトルT1、T2は、それぞれの作用線68、66を図6に示される点64で交差させつつ、おおむね反対の方向に整列させられる。説明の線は図6には示されていないが、有効モーメントアームM1、M2が、第1および第2の推力ベクトルT1、T2ならびに重心60に関して存在する。したがって、モーメントが、矢印70によって示されるように船舶10に作用する。推力ベクトルT1、T2が、互いに等しい大きさであり、それぞれ線68および66に沿って作用し、中心線62に関して対称かつ互いに反対向きである場合、中心線62に平行な正味の成分力は互いに等しく、したがって船舶10に前方/後方の方向に作用する正味の直線力は存在しない。しかしながら、第1および第2の推力ベクトルT1、T2は、この例においては加算的である中心線62に垂直な力にも分解される。結果として、図6における船舶10は、モーメント70に応答して時計回りの方向に回転するときに右方に移動する。
【0034】
他方で、前方/後方または左方/右方への横移動がなく、モーメント70が船舶10に加わる唯一の力であることが望まれる場合、図6にT1’およびT2’で表される別の第1および第2の推力ベクトルが、中心線62に平行な破線68’および66’に沿って互いに平行に整列させられる。第1および第2の推力ベクトルT1’、T2’は、大きさが等しく、方向が反対である。その結果、船舶10に前後方向に作用する正味の力は存在しない。両方の推力ベクトルT1’およびT2’において角度θは0度に等しいため、船舶10に中心線62に垂直な方向に作用する合力は存在しない。結果として、重心60を中心とする船舶10の回転が、前方/後方または左方/右方のいずれの方向の直線運動も伴わずに達成される。
【0035】
図2図6を参照すると、船舶10の操船者が、ジョイスティックのハンドル44の動きを、船舶10の実質的にあらゆる種類の所望の動きを表すために使用できることを、見て取ることができる。ジョイスティック30からの信号の受信に応答して、アルゴリズムが、重心60を中心とする回転(モーメント70によって示される)が操船者によって要求されているかどうかを判断する。回転を伴わない前方への並進運動が要求されている場合、第1および第2の推進装置12a、12bは、図4に示されるように、それらの推力ベクトルが前方への平行な向きに整列するように向けられ、T1の大きさおよび方向がT2の大きさおよび方向に等しい限りにおいて、船舶10は前方方向に移動することになる。他方で、ジョイスティック30からの信号が、重心60を中心とする回転が要求されていることを示している場合、第1および第2の推力ベクトルT1、T2は、重心60では交差せず、代わりに中心線62に沿った別の点64で交差する線68および66に沿って向けられる。図5および図6に示されるように、この交差の点64は、重心60よりも前方に位置することができる。図6に示される推力ベクトルT1およびT2は、船舶10の(モーメント70によって示される)時計回りの回転をもたらす。あるいは、第1および第2の推進装置12a、12bを、重心60よりも後方の中心線62に沿った点において交差するように回転させた場合、反対の効果を実現でき、それ以外はすべて同じである。また、交差の点64が重心60の前方である場合に、第1および第2の推力ベクトルT1、T2の方向を逆にして、反時計回りの方向の船舶10の回転を生じさせることができることを、理解すべきである。
【0036】
推進装置12a、12bの操舵角度が同じである必要はないことに、注意すべきである。例えば、第1の推進装置12aを中心線62に対する角度θ1に操舵することができる一方で、第2の推進装置12bを角度θ2に操舵することができる。ジョイスティック30への入力が行われると、制御モジュール24は、所与のジョイスティック入力を目標直線推力および予め選択された点を中心とする目標モーメントに相関付けるメモリに保存されたマップに基づいて、船舶推進システム20について所望される正味推力および正味モーメントを決定する。したがって、T1、T2、θ1、およびθ2を、その後に、制御モジュール24によって、上述の幾何学的関係を使用して、以下の式
FX=T1(sin(θ1))+T2(sin(θ2))・・・(1)
FY=T1(cos(θ1))-T2(cos(θ2))・・・(2)
MCW=(W/2)(T1(cos(θ1)))+(W/2)(T2(cos(θ2)))・・・(3)
MCCW=L(T1(sin(θ1)))+L(T2(sin(θ2)))・・・(4)
MT=MCW-MCCW・・・(5)
に従って計算できることを理解でき、
ここで、FXおよびFYは、既知の目標直線推力のベクトル成分であり、MTは、予め選択された点を中心とする既知の合計目標モーメント(時計回りのモーメントMCWおよび反時計回りのモーメントMCCWを含む)であり、LおよびW/2も上述のように既知である。次いで、制御モジュール24は、4つの式を用いて4つの未知数(T1、T2、θ1、およびθ2)を解くことによって、船舶10の所望の移動を達成する各々の推進装置12a、12bの操舵角度、シフト位置、および推力の大きさを決定する。式1~5が、図5および図6に示した推力の配置に特有であり、推力の方向が異なる場合、異なるベクトル成分が、時計回りまたは反時計回りの回転ならびに前方/後方または右方/左方への並進運動に寄与すると考えられる。
【0037】
横移動、回転運動、または両者の組み合わせを達成するための推力ベクトルT1、T2のX成分およびY成分への分解に関する上述の原理は、本方法の操縦アルゴリズムの基礎である。この操縦アルゴリズムは、ジョイスティックモードにおいてジョイスティック30からの指令への応答に使用されるだけでなく、船舶10が位置維持モードで動作しているときに推進装置12a、12bの回転位置、シフト位置、および推力の大きさを制御するためにも使用される。換言すると、制御モジュール24は、位置維持モードにおいて、船舶の方位および位置を維持するためのこれらの各変数の自動補正を、あたかも操船者がそのような補正を行うために実際にジョイスティックを操作したのと同じ方法で行う。同様の方法を、本明細書で上述した自動方位モードまたは中間地点追跡モードにおいても使用することができる。
【0038】
図1に一瞬だけ戻ると、船舶10は、1つ以上のセンサ72、74、76、および78をさらに備えることができる。センサが船舶10の船首、船尾、ならびに左舷および右舷側の各々に1つずつ示されているが、より少数またはより多数のセンサを各々の場所に設けてもよい。センサ72~78は、距離および方向センサである。例えば、センサは、レーダ、ソナー、カメラ、レーザ、ドップラ方向探知機、あるいはドック、護岸、スリップ、大型の岩、または樹木などの船舶10の付近の物体Oの方向および距離の両方を個別に割り出すことができる他の装置であってよい。あるいは、方向を感知するために、距離を感知するために設けられるセンサとは別のセンサを設けてもよく、あるいは2種類以上の距離/方向センサを船舶10上の1つの場所に設けてもよい。センサ72~78は、船舶10に対する物体の方向および物体Oと船舶10との間の最短距離の両方に関する情報をもたらす。センサ72~78は、本明細書において上述したように、この距離および方向の情報を、CANバスまたは無線接続などによって制御モジュール24にもたらす。
【0039】
センサ72、74、76、78に関して、船舶10と物体Oとの間の距離に応じて異なる種類のセンサを使用してもよいことに、注意すべきである。例えば、レーダセンサを、遠い距離において使用することができる。ひとたび船舶10が物体の特定の距離の範囲内に入ると、Lidar、超音波、Leddar、またはソナーセンサを、代わりに使用することができる。カメラセンサを上述のセンサのいずれかと組み合わせて使用して、追加の情報を制御モジュール24にもたらすことができる。センサを、船舶10にとって遭遇の可能性が高い物体を検出するための正しい高さに位置するように、船舶10上の最適な位置に配置すべきであることに、注意すべきである。また、制御モジュール24が、これまでに保存された物体Oと船舶10との間の実際の測定距離に基づいて、船舶10に対する物体の最短距離および方向を感知するための複数のセンサ(レーダ、Lidar、Leddar、音波、およびカメラを含む)のうちの1つを選択してもよいことに、注意すべきである。このようにして、制御モジュール24は、どの種類のセンサが次の測定にとって最良であるかを知る。
【0040】
さまざまな状況において、船舶10は、スリップ、ドック、または防波堤などの物体に接近する可能性がある。多くの場合、ジョイスティックモードで提供される船舶10の並進および回転運動の精密な制御ゆえに、操船者は、そのような物体に接近するときに、物体Oに接触することなく物体に対する所望の位置に船舶10を位置させるために、ジョイスティックモードを使用する。加えて、ひとたび操船者が物体Oに対する所望の位置を達成すると、操船者は、船舶10を位置維持モードにすることによって、物体Oの付近において船舶10の位置および方位を維持することができる。このような動作の際に、船舶10を損傷させ、さらには/あるいは船上の乗客を混乱させかねない物体Oとの衝突を回避するために、船舶10が操船者の要求のとおりに正確に応答することが望ましい。
【0041】
しかしながら、研究開発の最中に、本発明の発明者らは、操船者が回転を伴わない純粋な左方/右方または前方/後方への並進運動を要求しているときに、船舶10にヨーが生じる(すなわち、船舶10が回転する)傾向があることに気が付いた。このような意図せぬヨーは、これらに限られるわけではないが、要求されたギアとなる瞬間が推進装置12a、12b間で異なること、潮汐、海流、風、などの測定または補償が容易でない未知の外乱の要因が存在すること、および/または操船者がジョイスティック30のハンドル44を意図せず回転させてしまうことなど、種々の理由によって生じる。さらに、ジョイスティックモードは、船舶10が物体Oなどの視覚的な基準点に近づくにつれて、意図せぬヨーの影響がより顕著になる傾向があるため、直感的ではなくなる。現時点において、操船者は、例えば意図せぬヨーを相殺するようにジョイスティック30を回転させることにより、自身での意図せぬヨーの補正を試みなければならない。これに代え、本発明の発明者らは、船舶10を回転させようとする操船者の明確な意図がない限り、ジョイスティック30が最初に作動させられたときに存在した向きを維持するように、ヨーの補正を自動的に適用して物体Oに対する船舶の向きを制御するアルゴリズムを開発した。
【0042】
したがって、図1は、船舶推進システム20が発生させる推力によって推進中の船舶10の物体Oの付近での移動を制御するためのシステムを示している。このシステムは、本明細書において上述したように、船舶推進システム20と信号をやり取りする制御モジュール24を含む。さらに、このシステムは、船舶10について要求される並進運動を表す信号を制御モジュール24にもたらすジョイスティック30などの手動操作の入力装置を含む。そのような要求された並進運動は、左方/右方または前方/後方の方向であってよい。さらに、このシステムは、船舶10と物体Oとの間の実際の角度の割り出しを可能にする物体Oについての情報を制御モジュール24にもたらす少なくとも1つの距離測定センサ72、74、76、78を含む。
【0043】
図7に目を向けると、一例において、少なくとも1つの距離測定センサ(ここでは、センサ74aおよび74b)は、少なくとも船舶10と物体O上の第1の点P1との間の第1の距離D1および船舶10と物体O上の第2の点P2との間の第2の距離D2を制御モジュール24にもたらす(他の例では、使用されるセンサの種類に応じて、物体の表面上のさらに多くの基準点を割り出すことができる)。その後に、制御モジュール24は、船舶10の中心線CLと点P1およびP2のそれぞれとの間の総距離を、中心線CLと各々のセンサ74a、74bとの間の距離である既知の値Xに基づいて決定することができる(ここで、Xは各々のセンサ74aおよび74bについて同じ値であるが、船舶の設計および/またはセンサの位置に応じて、各々のセンサについての値が違ってもよい)。もう1つの既知の値は、船舶10の中心線CLに沿ったセンサ74aとセンサ74bとの間の距離であるYの値である。その後に、今や既知の値であるD1+XおよびD2+X、ならびに既知の値Yを使用して、制御モジュール24は、既知の三角法の原理を使用して船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを決定することができる。
【0044】
図1に示したセンサ74などの単一のセンサを使用して、センサ74から発せられるビームまたは他の信号が物体O上の2つ以上の点P1、P2を割り出すためにゾーンに分割される場合など、距離D1およびD2の両方を決定することができることに注意すべきである。物体Oの最も近い縁を近似するために、点P1、P2、などの間に最良適合線を引くことができる。次いで、やはり幾何学的原理を使用して、船舶10の中心線CLと物体Oの縁に沿った点P1、P2などを通る最良適合線との間の角度Aを決定することができる。船舶10と物体Oとの間の角度Aを決定するための上述の方法は、あくまでも例示にすぎず、他の方法が使用可能であることにも注意すべきである。例えば、センサ74および/またはセンサ74a、74bが、物体O上の点までの距離だけでなく、角度Aの決定に使用することができるセンサに対する物体の角度も測定することが可能であってよい。
【0045】
本開示によれば、要求される並進運動を表すジョイスティック30などの入力装置からの信号に応答して、制御モジュール24は、船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを自身のメモリに初期角度として記憶する。次いで、制御モジュール24は、要求された並進運動を実行し、かつ船舶10と物体Oとの間の初期角度を維持する推進装置12a、12bによる推力を発生させるように、船舶推進システム20を制御する。換言すると、初期角度は、この角度を変化させようとする傾向を有するであろう船舶10の意図せぬヨー運動にもかかわらず、制御モジュール24が船舶10と物体Oとの間に維持しようとする目標角度である。
【0046】
一例において、制御モジュール24は、本明細書において上述したように、第1の距離D1および第2の距離D2に基づいて船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを繰り返し決定する。制御モジュール24は、実際の角度Aと、要求される並進運動を表すジョイスティック30からの信号に応答して記憶された初期角度との間の差が、入力装置の操作者によって意図されたものであるかどうかを判定する。実際の角度Aと初期角度との間の差が(本明細書においてさらに後述されるように)操作者によって意図されたものではない場合、制御モジュール24は、実際の角度Aと初期角度との間の差を最小にするための補正ヨーモーメントを上述の推力で生成するように船舶推進システム20を制御する。このようにして、不慮のヨーまたは意図せぬヨーを引き起こす上述の問題にもかかわらず、制御モジュール24は、船舶10を物体Oに対して初期角度に維持することができる。
【0047】
制御モジュール24は、任意の所与の数の方法で上述の補正ヨーモーメントの大きさを決定することができる。一例において、補正ヨーモーメントの大きさは、実際の角度Aと初期(目標)角度との間の差に比例する。例えば、制御モジュール24は、実際の角度Aと初期角度との間の差を参照表に入力することができ、参照表は、推進装置12a、12bによって生成すべき補正ヨーモーメントの大きさを返すことができる。別の例において、制御モジュール24は、実際の角度Aと初期角度との間の差に所定の係数を乗算することによって、補正ヨーモーメントの大きさを決定することができる。一般に、これらの場合のどちらにおいても、実際の角度Aと初期角度との間の差が大きくなるにつれて、より大きな誤差を相殺するために、補正ヨーモーメントの大きさが増す。さらに別の例において、補正ヨーモーメントの大きさは、一定であり、角度誤差とは無関係の較正された値である。
【0048】
制御モジュール24が、入力装置の操作者による介入を必要とせずに、自動的に補正ヨーモーメントを生成するように船舶推進システム20を制御することに注意すべきである。実際、操作者が船舶10の向きのわずかな補正を感じ取ることができず、むしろそのようなヨー補正が、それらの大きさがあまり大きくならず、したがって操作者または船舶10の搭乗者にとってほとんど感じることができないように、充分に高い頻度で行われることが意図される。
【0049】
図8が、制御モジュール24からの指令に従って船舶推進システム20が発生させる推力によって推進中の船舶10の物体Oの付近での移動を制御するための方法の一例を示している。この方法は、100に示されるように、船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを割り出すことができるような物体Oについての充分な情報を船舶10上のセンサ72、74、74a、74b、76、78が有するかどうかを判定することを含む。これは、センサが、物体O上の第1および第2の点P1およびP2(図7)の両方が該当のセンサの種類に応じてさまざまであり得る範囲内にあるか否かを判断するために、船舶10の周囲の領域を継続的に走査することを必要とすることができる。102に示されるように、この方法は、ジョイスティック30などの手動操作の入力装置から、船舶10について要求される並進運動を表す信号を、制御モジュール24で受信することをさらに含む。
【0050】
その後に、この方法は、以下のように記載される方法のうちの1つで応答することを含む。センサが物体Oに関する充分な情報を有する場合、この方法は、104に示すように、要求される並進運動を表す信号の受信時に船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを決定することを含む。これは、要求される並進運動の信号の受信の瞬間、あるいは信号の受信の数秒前または数秒後に決定された実際の角度Aであってよい。具体的には、この方法は、物体O上の少なくとも第1の点P1および第2の点P2をセンサで明らかにすることと、船舶10と第1の点P1との間の第1の距離D1および船舶10と第2の点P2との間の第2の距離D2をセンサで測定することと、第1の距離D1および第2の距離D2とに基づいて船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを計算することとを含むことができる。次いで、106に示されるように、実際の角度Aは、自動的に維持されるべき初期(目標)角度として記憶される。次に、108に示されるように、制御モジュール24は、要求された並進運動を実行し、かつ初期角度を維持する推力を発生させるように、船舶推進システム20を制御する。例えば、操船者が右方への並進運動を要求した場合、制御モジュール24は、船舶10を右方に推進させ、かつ必要であれば船舶10の意図せぬヨー運動の自動的な補正を同時に果たす結果としての推力を生み出すように、推進装置12a、12bを制御する。他方で、センサが物体Oについて充分な情報を有していない場合、この方法は、110に示されるように、要求された並進運動を実行する推力を生み出すように制御モジュール24で船舶推進システム20を制御することを含む。換言すると、制御モジュール24は、この後者の場合、船舶10と物体Oとの間の初期角度を測定して維持するための充分な情報を有していない。代わりに、制御モジュール24は、自動的なヨー補正制御を伴わずに、操船者がジョイスティック30を介して要求した前方、後方、左方、または右方への並進運動を単に実行する。
【0051】
四角囲み100および102の順序は重要ではなく、四角囲み100および102の工程を逆にしても、あるいは同時に実行してもよいことに、注意すべきである。しかしながら、四角囲み104~108に示される本開示の補正ヨーアルゴリズムを有効にするためには、100および102における条件が両方とも満たされなければならない。換言すると、制御モジュール24が船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを計算するために、物体Oに関するセンサからの充分な情報が存在しなければならない。しかしながら、この情報が、船舶について要求される並進運動を表す信号の受信よりも前に取得されるか、あるいは後に取得されるかは、問題ではない。例えば、操船者は、船舶10を物体Oに向かって並進運動させるためにジョイスティック30を使用することができ、ひとたびセンサが物体Oと船舶10との間の実際の角度Aを割り出すことができる物体Oに関する充分な情報を取得する(例えば、範囲に位置する)と、補正ヨーアルゴリズムが開始可能である。これは、この方法が、センサが船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを決定することができるような物体Oに関する充分な情報を有するまで、センサで船舶10の周囲の領域を継続的に走査することを含むがゆえに可能である。他方で、船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを決定するための物体Oに関するセンサからの充分な情報が、既に存在するかもしれない。しかしながら、ジョイスティック30が要求される並進運動を入力すべく作動させられるまでは、補正ヨーアルゴリズムは開始されない。
【0052】
当然ながら、操船者がジョイスティックモードにおいてジョイスティック30を使用して船舶10の回転を意図的に要求する場合もあり得る。図9の方法は、制御モジュール24がそのような事例をどのように処理するかを示している。200に示されるように、センサが、本明細書において上述したように、基準として使用するための物体O上の表面(例えば、点P1、P2)を継続的に走査する。202において、制御モジュール24は、表面が見つかったか否かを判定し、すなわち物体O上の2つ以上の点の間の最良適合線を推定するためのセンサからの充分な情報が存在するか否かを判定する。否である場合、この方法は200に戻り、センサは、基準として使用するための表面の走査を続ける。202において表面が見つかった場合、この方法は、四角囲み204に進み、制御モジュール24が、図7に関して本明細書において上述したように物体Oの表面に対する船舶10の角度Aを計算し、次いでこの角度Aを、物体Oに対して維持されるべき初期角度として設定する。
【0053】
次に、206において、制御モジュール24は、ジョイスティック30が作動しているか否かを判定する。例えば、制御モジュール24は、船舶10について要求されるヨーモーメントを表す信号を入力装置(例えば、ジョイスティック30)から受け取ることができる。制御モジュール24は、ジョイスティック30からの非ゼロの入力に応答してジョイスティック30が作動していると判定することができる。206において否である場合、この方法は、206で待機してもよく、あるいは200に戻ってもよい。206においてジョイスティック30が作動している場合、この方法は、操船者がヨーモーメントを要求しているか否かを制御モジュール24が判定する208に続く。この判定を行うために、制御モジュール24は、ジョイスティック30からの要求されたヨーモーメントを、所定のヨーモーメントしきい値と比較することができる。要求されたヨーモーメントがしきい値未満であると判断される場合、制御モジュール24は、要求された並進運動を実行し、かつ船舶10と物体Oとの間の初期角度を維持する推力を生み出すように、船舶推進システム20を制御することができる。ヨーモーメントしきい値は、軸48を中心とするハンドル44の0°~5°の回転など、比較的小さく、したがって船舶10を回転させようとする操船者からの真の要求よりもむしろジョイスティック30のハンドル44の単なる不意の回転を表すにすぎない較正されて記憶された値であってよい。要求されたヨーモーメントがこのしきい値よりも小さいとき、制御モジュール24は、操船者にジョイスティック30または船舶10を回転させる意図はなかったと仮定するようにプログラムされ、したがって制御モジュール24は、要求されたヨーモーメントに反応しない。むしろ、制御モジュール24は、必要であれば、船舶10の意図せぬヨーを打ち消すために、補正ヨーモーメントを生じさせる上述の補正ヨーアルゴリズムを実行する。これは、四角囲み210に示されている。
【0054】
他方で、208において操船者がヨーを要求していると制御モジュール24が判定した場合、この方法は212に続き、制御モジュール24は、船舶10と物体Oとの間の目標角度を調整する。具体的には、この方法は、要求されたヨーモーメントが上述のしきい値以上であるとの判断に応答して、要求された並進運動(すなわち、左方/右方または前方/後方)を実行し、かつ(ジョイスティック30を介して入力された)要求されたヨーモーメントを発生させる推力を生み出すように、船舶推進システム20を制御することを含む。この場合、制御モジュール24は、軸48を中心とするハンドル44の比較的大きな回転は、物体Oに対する船舶10の向きを意図的に変化させようとしていると、仮定するようにプログラムされている。船舶推進システム20が要求されたヨーモーメントを発生する推力を生み出した後で、船舶10は、物体Oに対する新たな角度に回転していると考えられる。一般に、この新たな角度が達成されると、操船者は、ジョイスティック30を回転させることを止め、ジョイスティック30が中立の回転位置に戻ることを可能にする。したがって、要求されるヨーモーメントがヨーモーメントしきい値を再び下回る(例えば、ジョイスティックが中立に戻る)と、この方法は、センサからの情報を使用して船舶10と物体Oとの間の後続の角度を決定することを含む。要求されるヨーモーメントがしきい値を再び下回った後に、操船者は船舶10の意図的な回転を終了させ、その後のいかなる回転も意図していないと仮定される。この方法は、その後に、要求された並進運動を実行し、かつ物体Oに対する船舶10の後続の角度を維持する推力を発生させるように、船舶推進システム20を制御することを含む。換言すると、本明細書において上述した補正ヨーアルゴリズムが、後続の角度を物体Oに対する船舶10の新たな目標角度として使用して実行される。
【0055】
上述の例においては、補正ヨーアルゴリズムの説明を簡単にするために、いくつかの仮定がなされていることに注意すべきである。例えば、船舶10と物体Oとの間の距離D1、D2を割り出すものとして図7に示されているセンサ74a、74bは、どちらも船舶10の右舷側にあるものとして図示されている。当然ながら、船舶10の左舷側が物体Oに接近しているならば、船舶10の左舷側のセンサが代わりに使用されると考えられる。さらに、物体O上で検出された点の間の最も正確な最良適合線を得るために、本明細書において概略的に示されたセンサよりも船舶10の船首または船尾により近いセンサを使用することが、望ましいかもしれない。船舶10の中心線CLを基準線または「航行中心」として使用することも、段取りにおいて行われる任意の選択にすぎず、船舶10と物体Oの最も近い表面に沿った最良適合線との間の角度Aを計算するために船舶10上の他の基準点を使用してもよいことを、理解すべきである。
【0056】
さらに、以上の例は、ジョイスティック30への左方/右方への並進運動の入力に関して説明されている。同様のアルゴリズムを、図3に関して本明細書で上述したような任意の前方/後方への並進運動の入力ならびに/あるいは斜めの並進運動の入力にも使用することができる。そのような場合、角度Aを、代わりに、船舶10の船首または船尾と船舶10の前方または後方の物体との間で決定してもよい。例えば、船舶10がドックまたは護岸に向かって後退している場合、船舶10の船尾に位置するセンサを使用して、物体Oに対する船尾の横材の角度を計算することができる。
【0057】
さらに、物体Oに対する船舶10の後続の目標角度の設定が、船舶10と物体Oとの間の実際の角度の測定によって生じると説明した。別の例においては、制御モジュール24が、操船者が要求した船舶10の向きの変化量に基づいて、船舶10と物体Oとの間の後続の目標角度を計算することができる。例えば、いくつかのシステムにおいては、1回のタップ、クリック、またはジョイスティック30の拘束位置への回転が、船舶10の方位の1度、2度、またはx度の変化の要求を表す。したがって、制御モジュール24は、記憶済みの初期目標角度に対して方位角度のこの変化を必要に応じて足し算または引き算することによって、後続の角度を計算することができる。
【0058】
最後に、制御モジュール24による船舶推進システム20の制御が、推進装置12a、12bの個々の推力に関する限り、図4図6および式(1)~(5)に関して本明細書において上述した方法と同じ方法で実行されることに、注意すべきである。換言すると、制御モジュール24は、前後方向および/または左右方向の要求された横移動の両方を単純に考慮すると同時に、船舶10の意図せぬヨーを打ち消すために必要な補正ヨーモーメントを合計する。補正ヨーモーメントは、物体Oに対する船舶10の実際の角度と初期(目標)角度との間に差が存在し、したがって補正ヨーモーメントが必要であると判断することを制御モジュール24にとって可能にするセンサからのフィードバックに基づいて決定される。例えば、制御モジュール24が、船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aが初期角度よりも大きいと判断した場合、制御モジュール24は、本明細書において上述した方法のうちの1つに従って、船舶10と物体Oとの間の実際の角度Aを減らそうとする方向に船舶10を回転させる補正ヨーモーメントを決定する。制御モジュール24は、上述の式(1)~(5)を使用し、補正ヨーモーメントを式(5)の「MT」として、各々の推進装置12a、12bから必要とされる推力を決定する。船舶10が回転した後に、制御モジュール24は、実際の角度Aを再計算し、それが初期目標角度のしきい値の範囲内にあるか否かを判定する。初期目標角度のしきい値の範囲内にある場合、その時点において、さらなるヨーは必要でない。初期目標角度のしきい値の範囲内にない場合、制御モジュール24は、実際の角度と初期角度との間の差を最小にするためのさらなる試みにおいて、別のヨーモーメントを生み出す推力を生成することができる。これが、船舶10と物体Oとの間の初期目標角度が達成されるまで続けられる。そのような補正は瞬間的かつ自動的であり、したがっておそらくは比較的小さいため、操船者は、これを、船舶10が物体Oに対する初期の向きを維持していると感じる。
【0059】
以上の説明においては、簡潔さ、明確さ、および理解の目的で、特定の用語が使用されている。そのような用語は、あくまでも説明の目的で使用されているにすぎず、広く解釈されるように意図されているため、先行技術の要件を超える不必要な限定を意味するものではない。本明細書において上述した種々のシステムおよび方法は、単独で使用されても、他のシステムおよび方法と組み合わせて使用されてもよい。添付の特許請求の範囲の技術的範囲において、さまざまな均等物、代替物、および変更物が可能である。方法の請求項の各々は、制御システムの特定の機能を達成するための具体的な一連の工程を含むが、本開示の範囲は、本明細書において説明した各工程の文字どおりの順序または文字どおりの内容に束縛されるものではなく、非実質的な相違または変更は、依然として本開示の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
10 船舶
12a 推進装置
12b 推進装置
13a 操舵軸
13b 操舵軸
14a エンジン
14b エンジン
16a 変速機
16b 変速機
18a プロペラ
18b プロペラ
20 船舶推進システム
22 操作コンソール
24 制御モジュール
26a 推進制御モジュール(PCM)
26b 推進制御モジュール(PCM)
28 キーパッド
29 移動操作部
30 ジョイスティック
32 操舵輪
34 スロットル/変速レバー
36 慣性計測装置(IMU)
38 全地球測位システム
40 GPS受信機
42 ベース部
44 ハンドル
46 矢印
48 軸
50 矢印
51 矢印
52 矢印
53 矢印
54 矢印
60 重心
61 矢印
62 中心線
64 点
66 作用線
66’ 作用線
68 作用線
68’ 作用線
70 モーメント
72 センサ
74 センサ
74a センサ
74b センサ
76 センサ
78 センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9