(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】育苗培土の製造方法、育苗培土及び植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 24/44 20180101AFI20230601BHJP
A01G 24/22 20180101ALI20230601BHJP
A01G 24/10 20180101ALI20230601BHJP
【FI】
A01G24/44
A01G24/22
A01G24/10
(21)【出願番号】P 2019096221
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】508187665
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・テクノサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】澤本 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】菅井 智明
(72)【発明者】
【氏名】金尾 修
(72)【発明者】
【氏名】池田 みずき
(72)【発明者】
【氏名】枝 元樹
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-235779(JP,A)
【文献】特開2017-104019(JP,A)
【文献】特開平08-013251(JP,A)
【文献】特開2001-333635(JP,A)
【文献】特開2014-193148(JP,A)
【文献】特開2000-072663(JP,A)
【文献】特開2003-339226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/44
A01G 24/22
A01G 24/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)と、窒素含有化合物(D)と、を配合し、前記培土基材(A)を固化させる、育苗培土の製造方法
であって、下記工程A1及びA2を含む育苗培土の製造方法。
工程A1:培土基材(A)とアルギン酸の多価カチオン塩(B)とを混合して、培土混合物を得る工程
工程A2:前記培土混合物にアルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液を添加して、前記アルギン酸多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
【請求項2】
アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、繊維の形態で配合されてなる、請求項1に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項3】
前記繊維の平均繊維長が、1~50mmであり、平均繊維径が、0.01~3mmである、請求項2に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項4】
前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液中におけるアルギン酸の1価カチオン塩(C)の濃度が、0.01~10質量%である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項5】
アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、アルギン酸カルシウム塩である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項6】
アルギン酸の1価カチオン塩(C)が、アルギン酸ナトリウム塩である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項7】
アルギン酸の多価カチオン塩(B)の配合量が、培土基材(A)100質量部に対して、0.1~50質量部である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項8】
アルギン酸の1価カチオン塩(C)の配合量が、培土基材(A)100質量部に対して、0.05~20質量部である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項9】
窒素含有化合物(D)が、硫酸アンモニウム及び尿素からなる群から選択される1種以上である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項10】
窒素含有化合物(D)の配合量が、培土基材(A)100質量部に対して、0.001~1質量部である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項11】
請求項
1~10のいずれか1項に記載の育苗培土
の製造方法によって製造した育苗培土を用いる、植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗培土の製造方法、育苗培土及び植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業分野及び園芸分野においては、作業効率の向上を目的として、各種作業の機械化及び自動化が進展しつつある。その中の1つとして、播種、苗の植付け等を自動で行う機械移植がある。機械移植は、培土を充填した育苗ポット内で播種及び育苗して得られた土付苗を移植機によって取り出した後、植付けるという手順により行われる。
【0003】
機械移植を行う際には、上記の通り、移植作業中に土付苗を育苗ポットから取り出すが、その際、土付苗が崩壊することなく良好な固化状態が保たれていることが望ましい。そのため、培土を固化するための種々の方法が検討されている。培土を固化する際には、良好な固化性に加えて、その材料が農地に残留しない生分解性、乾燥又は保水状態でも土付苗が崩壊しない強度、育苗ポットからの離型性、水の浸透性、通気性、良好な作業性等の性能が求められる。
【0004】
特許文献1には、培土基材に、特定の熱融着性繊維を配合したことを特徴とする育苗用培土を加熱処理して培土中の熱融着性繊維を溶融接着させることを特徴とする苗床の固化方法が開示されている。
特許文献2には、育苗培土基材とアルギン酸塩とを含む育苗培土の製造方法であって、上記育苗培土中の多価カチオン当量(me)が、上記アルギン酸塩のアニオン当量(me)の160%以上となるように、上記育苗培土基材とアルギン酸塩とを混合することを特徴とする育苗培土の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-339226号公報
【文献】特開2001-333635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、培土が固化する際に熱融着性繊維を加熱する必要があるため、加熱設備が必要となると共に、使用し得る育苗ポットの材質にも制限が生じる。また、融着固化を可能にするほど繊維を培土に添加すると、育苗ポットへの充填作業中に繊維塊が生じる等、作業性が悪化する場合がある。また、これらの問題により、培土の購入者は事前に育苗ポット内で培土を固化させたものを購入する必要性が高くなり、購入者側で固化の時期等を調整できない等、使用方法が制限される問題がある。更には、これらの材料は生分解性が低いため環境適合性に劣るという問題がある。
【0007】
特許文献2に開示されている方法は、多価カチオンの供給源として、消石灰又は土に含まれる無機物化合物由来の多価カチオンを利用し、これとアルギン酸塩を反応させて固化させるものである。しかしながら、消石灰は多価カチオンの濃度が高く、例えば、育成ポット内で消石灰を配合した育苗培土とアルギン酸塩とを混合すると、培土の表面でのゲル化が速く進行しすぎ、育苗ポットの内部にまでアルギン酸塩が浸透できない問題が生じる。また、消石灰や土に含まれる無機物化合物由来の多価カチオンは水に溶解するものであったり、或いはイオン状態で存在するものであるため、培土中における濃度及び分散性をコントロールすることが困難であり、良好な固化状態を容易に得ることができなかった。
さらに、固化培土を用いて植物を生育すると、植物の生育が遅くなる現象が発生することがあり、改善が求められている。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立し、植物の生育遅延が抑制された育苗培土の製造方法、該製造方法で得られる育苗培土及び該育苗培土を用いた植物の栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、培土基材と、アルギン酸の多価カチオン塩と、アルギン酸の1価カチオン塩と、窒素含有化合物と、を配合する育苗培土の製造方法によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は下記[1]~[13]に関する。
[1]培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)と、窒素含有化合物(D)と、を配合する育苗培土の製造方法。
[2]アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、繊維の形態で配合されてなる、上記[1]に記載の育苗培土の製造方法。
[3]前記繊維の平均繊維長が、1~50mmであり、平均繊維径が、0.01~3mmである、上記[2]に記載の育苗培土の製造方法。
[4]下記工程A1及びA2を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
工程A1:培土基材(A)とアルギン酸の多価カチオン塩(B)とを混合して、培土混合物を得る工程
工程A2:前記培土混合物にアルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液を添加して、前記アルギン酸多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
[5]前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液中におけるアルギン酸の1価カチオン塩(C)の濃度が、0.01~10質量%である、上記[4]に記載の育苗培土の製造方法。
[6]アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、アルギン酸カルシウム塩である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[7]アルギン酸の1価カチオン塩(C)が、アルギン酸ナトリウム塩である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[8]アルギン酸の多価カチオン塩(B)の配合量が、培土基材(A)100質量部に対して、0.1~50質量部である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[9]アルギン酸の1価カチオン塩(C)の配合量が、培土基材(A)100質量部に対して、0.05~20質量部である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[10]窒素含有化合物(D)が、硫酸アンモニウム及び尿素からなる群から選択される1種以上である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[11]窒素含有化合物(D)の配合量が、培土基材(A)100質量部に対して、0.01~0.1質量部である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法によって製造される育苗培土。
[13]上記[12]に記載の育苗培土を用いる、植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立し、植物の生育遅延が抑制された育苗培土の製造方法、該製造方法で得られる育苗培土、及び該育苗培土を用いた植物の栽培方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた培土(乾燥状態)の外観写真である。
【
図2】比較例2で得られた培土(乾燥状態)の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[育苗培土の製造方法]
本実施形態の育苗培土の製造方法は、培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)(以下、「アルギン酸多価塩(B)」ともいう)と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)(以下、「アルギン酸1価塩(C)」ともいう)と、窒素含有化合物(D)と、を配合する育苗培土の製造方法である。
【0014】
本実施形態の育苗培土の製造方法が優れた作業性と優れた固化性とを両立する機構は定かではないが以下のように推察される。
本実施形態の製造方法は、アルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)とを併用するものである。アルギン酸多価塩(B)は水溶性が低く、分散性にも優れることから、培土中に適度な分散性を保った状態で存在させることが可能である。一方、アルギン酸1価塩(C)は水溶性に優れることから、水溶液として培土全体に均質に行き渡らせることができる。そして、培土中で(B)成分と(C)成分とが接触すると、アルギン酸多価塩(B)の表面近傍に存在する多価カチオンの一部がアルギン酸1価塩(C)の1価カチオンとイオン交換され、培土に行き渡らせたアルギン酸1価塩(C)が緩やかにゲル化される。このようにして、本実施形態の製造方法によると、均一に分散したアルギン酸多価塩(B)を起点として、アルギン酸1価塩(C)がゲル化してなる網目構造が培土中に広がり、これによって良好な固化状態が保たれるものと考えられる。
また、本実施形態の製造方法によると、アルギン酸1価塩(C)とアルギン酸多価塩(B)とを接触させるタイミングは育苗培土の購入者が決定できるため、培土の購入者は用途に応じた柔軟な使用方法が可能である。
また、本実施形態の製造方法に用いられるアルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)とは、いずれも生分解性に優れるものであるため、環境適合性にも優れるものである。
また、本実施形態の製造方法で得られる育苗培土は、乾燥状態又は湿潤状態のいずれの環境下においても優れた固化状態が保たれるため、作業性に優れたものとなる。
そして、本実施形態の育苗培土の製造方法によると、窒素含有化合物(D)を配合することによって、植物の生育遅延を抑制することができる。この原因は定かではないが、次のように予想される。培土を固化剤によって固化する場合、固化培土内の雰囲気は嫌気性雰囲気になり易い。加えて、アルギン酸塩等の生分解性を有する成分は、培土中の菌類の増加を招くため、固化培土内では硝酸呼吸(脱窒作用)で窒素が消費され易い環境にある。そのため窒素含有化合物(D)を配合することによって、消費された窒素を補うことができ、植物の生育性が良好に保たれるものと考えられる。
【0015】
<培土基材(A)>
培土基材(A)は、育成する植物の種類に応じて、育苗用培土として公知のものを使用することができる。具体的には、赤玉土、鹿沼土、荒木田土、腐葉土、桐生砂等の各種園芸用土;川砂、海砂、浜砂、山砂等の砂類;パーライト、バーミキュライト、ロックウール、ゼオライト、鉱滓等の鉱物;ピートモス、ココピート、水苔、腐葉土、パーク堆肥、モミガラ、亜炭、薫炭、フスマ、炭粉等の有機質資材などが挙げられる。
培土基材(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて、無機質肥料、有機質肥料、化学堆肥等の肥料などを配合したものであってもよい。
【0016】
<アルギン酸の多価カチオン塩(B)>
アルギン酸多価塩(B)は、アルギン酸の多価カチオン塩であれば特に限定されず、アルギン酸マグネシウム塩、アルギン酸カルシウム塩、アルギン酸ストロンチウム塩、アルギン酸バリウム塩等のアルギン酸アルカリ土類金属塩;アルギン酸鉄塩、アルギン酸亜鉛塩、アルギン酸銅塩等のアルギン酸遷移金属塩;アルギン酸アルミニウム塩等の3価以上のカチオン塩などが挙げられる。これらの中でも、汎用性及び培土の固化性の観点から、アルギン酸の2価カチオン塩が好ましく、アルギン酸アルカリ土類金属塩がより好ましく、アルギン酸カルシウム塩がさらに好ましい。
アルギン酸多価塩(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
アルギン酸多価塩(B)のマンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の比率であるM/G比は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、0.1~5が好ましく、0.4~3がより好ましく、0.5~1.5がさらに好ましい。
【0018】
アルギン酸多価塩(B)における多価カチオンの含有量は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、アルギン酸塩のモノマー単位(C6H8O6)1モルに対して、0.01~3モルが好ましく、0.05~2モルがより好ましく、0.1~1.5モルがさらに好ましい。
【0019】
アルギン酸多価塩(B)を配合する際の形態は特に限定されず、例えば、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク等の形態で配合されることが好ましく、繊維の形態で配合されることがより好ましい。
【0020】
アルギン酸多価塩(B)を粉末の形態で配合する場合、その粉末の平均粒子径は、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~5mmであり、0.1~4mmが好ましく、0.5~2mmがより好ましい。なお、粉末の平均粒子径は、当該粉末の投影像においてとりうる最大長さの値と、その最大長さに直交する方向の最大長さの値の平均値を、任意に選択した10個の粉末について求め、これを平均した値として求めることができる。
【0021】
アルギン酸多価塩(B)を繊維の形態で配合する場合、その繊維の平均繊維長は、1~50mmが好ましく、2~40mmがより好ましく、3~30mmがさらに好ましい。また、その平均繊維径は、0.01~3mmが好ましく、0.05~2.5mmがより好ましく、0.1~2mmがさらに好ましい。なお、繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、当該繊維の投影像における繊維径及び繊維長を、任意に選択した10個の繊維について求め、これを平均した値として求めることができる。また、本実施形態において「繊維」とは、上記平均繊維長と平均繊維径との比[平均繊維長/平均繊維径]が2以上のものを意味する。上記平均繊維長と平均繊維径との比[平均繊維長/平均繊維径]は、良好な固化状態を得る観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましい。また、上記比[平均繊維長/平均繊維径]は、繊維の分散性の観点から、20以下であってもよく、15以下であってもよい。
また、繊維の断面形状としては、丸型、三角形型、T型、偏平型、多葉型、V字型、中空型等のいずれの形状であってもよい。
【0022】
なお、アルギン酸多価塩(B)を繊維の形態にする方法としては、例えば、アルギン酸ナトリウム塩等のアルギン酸の1価カチオン塩水溶液を、所望のノズル径を有する紡糸ノズル等を使用して、塩化カルシウム水溶液等の多価カチオン塩化物水溶液中に吐出紡糸した後、形成された繊維状のアルギン酸多価塩を回収及び乾燥して得ることができる。上記のアルギン酸の1価カチオン塩水溶液の濃度は、例えば、0.5~10質量%であり、多価カチオン塩化物水溶液の濃度は、例えば、1~30質量%である。
【0023】
アルギン酸多価塩(B)の製造に用いるアルギン酸1価カチオン塩の1質量%水溶液粘度は、汎用性、水への溶解性の観点から、10~1,000mPa・sが好ましく、20~600mPa・sがより好ましく、30~400mPa・sがさらに好ましい。
【0024】
なお、アルギン酸多価塩(B)を、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク等の形態で配合する場合、これらは本発明の効果を阻害しない範囲において、アルギン酸多価塩(B)以外の成分を含んでいてもよい。
【0025】
アルギン酸多価塩(B)の配合量は、良好な固化状態を得る観点から、培土基材(A)100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましく、0.5~30質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0026】
<アルギン酸の1価カチオン塩(C)>
アルギン酸1価塩(C)は、アルギン酸の1価カチオン塩であれば特に限定されず、例えば、アルギン酸リチウム塩、アルギン酸ナトリウム塩、アルギン酸カリウム塩等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム塩などが挙げられる。これらの中でも、汎用性及び培土の固化性の観点から、アルギン酸アルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸ナトリウム塩がより好ましい。
アルギン酸1価塩(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
アルギン酸1価塩(C)の1質量%水溶液粘度は、汎用性、水への溶解性の観点から、10~1,000mPa・sが好ましく、20~600mPa・sがより好ましく、30~400mPa・sがさらに好ましい。
【0028】
アルギン酸1価塩(C)のマンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の比率であるM/G比は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、0.1~10が好ましく、0.4~5がより好ましく、0.5~3がさらに好ましい。
【0029】
アルギン酸1価塩(C)における1価カチオンの含有量は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、アルギン酸塩のモノマー単位(C6H8O6)1モルに対して、0.5~3モルが好ましく、0.6~2モルがより好ましく、0.8~1.5モルがさらに好ましい。
【0030】
アルギン酸1価塩(C)を配合する際の形態は特に限定されず、例えば、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク、水溶液等の形態で配合されることが好ましく、水溶液の形態で配合されることがより好ましい。
アルギン酸1価塩(C)を粉末の形態で配合する場合、その粉末の平均粒子径は、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~3mmであり、0.05~2.5mmが好ましく、0.1~2mmがより好ましい。平均粒子径の算出方法は、アルギン酸多価塩(B)の平均粒子径の算出方法と同じである。
【0031】
アルギン酸1価塩(C)を水溶液の形態で配合する場合、その水溶液中の濃度は、アルギン酸1価塩(C)、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~10質量%であり、0.05~5質量%が好ましく、0.1~4質量%がより好ましい。
アルギン酸1価塩(C)の水溶液は、例えば、所定量のアルギン酸1価塩(C)を、イオン交換水に投入し、必要に応じて、加熱及び撹拌することで調製することができる。
【0032】
なお、アルギン酸1価塩(C)を、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク、水溶液等の形態で配合する場合、これらは本発明の効果を阻害しない範囲において、アルギン酸1価塩(C)以外の成分を含んでいてもよい。
【0033】
アルギン酸1価塩(C)の配合量は、良好な固化状態を得る観点から、培土基材(A)100質量部に対して、0.05~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.12~5質量部がさらに好ましい。
アルギン酸多価塩(B)由来の多価カチオンと、アルギン酸1価塩(C)由来の1価カチオンとの配合比((B)/(C))は、良好な固化状態を得る観点から、0.01~200が好ましく、0.05~20がより好ましく、0.1~10がさらに好ましい。
【0034】
<窒素含有化合物(D)>
窒素含有化合物(D)は、窒素を含有する化合物であればよく、例えば、メラミン、尿素、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、尿素及び硫酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上が好ましい。窒素含有化合物(D)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、窒素含有化合物(D)は、窒素含有化合物(D)を含む組成物として使用されるものであってもよく、該組成物としては、例えば、魚かす粉末、干魚肥料粉末、魚廃物加工肥料、魚節煮かす、甲殻類質肥料粉末、蒸製魚鱗及びその粉末、肉かす粉末、肉骨粉、蒸製てい角粉、蒸製てい角骨粉、蒸製毛粉、乾血及びその粉末、グアノ、生骨粉、蒸製骨粉、蒸製鶏骨粉、蒸製皮革粉、干蚕蛹粉末、絹紡蚕蛹くず等の動物由来の組成物;大豆油粕及びその粉末、菜種油粕及びその粉末、わたみ油粕及びその粉末、落花生油粕及びその粉末、ごま油粕及びその粉末、米ぬか油粕及びその粉末、その他の草本性植物油粕及びその粉末、とうもろこし胚芽油粕及びその粉末、たばこくず肥料粉末、豆腐かす乾燥肥料、乾燥菌体肥料等の植物由来の組成物などが挙げられる。
【0035】
窒素含有化合物(D)を添加する際の形態は特に限定されず、例えば、窒素含有化合物(D)が固体状である場合はそのまま添加してもよく、固体状の窒素含有化合物(D)を溶媒等に溶解させた溶液の状態としたものであってもよい。
また、窒素含有化合物(D)が液体状である場合、そのまま添加してもよく、溶剤で希釈した希釈液の状態としてもよい。
【0036】
窒素含有化合物(D)を溶液又は希釈液の形態で添加する場合、溶液又は希釈液中の窒素含有化合物(D)の濃度は、例えば、10~10,000ppmであり、50~5,000ppmが好ましく、100~1,000ppmがより好ましい。
【0037】
また、窒素含有化合物(D)を溶液又は希釈液の形態で添加する場合、窒素含有化合物(D)は、上記したアルギン酸1価塩(C)の水溶液に含まれる状態で添加してもよい。すなわち、アルギン酸1価塩(C)の水溶液を、アルギン酸1価塩(C)及び窒素含有化合物(D)を含む水溶液として調製し、当該水溶液を培土等に配合することで、アルギン酸1価塩(C)及び窒素含有化合物(D)を同時に配合することができる。アルギン酸1価塩(C)及び窒素含有化合物(D)を含む水溶液中におけるアルギン酸1価塩(C)の好適な濃度、及び窒素含有化合物(D)の好適な濃度は、上記した各々の水溶液における好適な濃度と同じである。
【0038】
窒素含有化合物(D)の配合量は、育苗培土中の窒素量を適正な範囲に調整するという目的に応じて適宜調整すればよく、培土基材(A)100質量部に対して、例えば、0.001~1質量部であり、0.005~0.5質量部が好ましく、0.008~0.1質量部がより好ましい。
【0039】
<配合方法>
各成分の配合方法は特に限定されないが、優れた作業性と優れた固化性を両立させる観点から、下記工程A1及びA2を含む配合方法Aが好ましい。
工程A1:培土基材(A)とアルギン酸の多価カチオン塩(B)とを混合して、培土混合物を得る工程
工程A2:前記培土混合物にアルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液を添加して、前記アルギン酸多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
【0040】
(工程A1)
工程A1は、培土基材(A)とアルギン酸多価塩(B)とを混合して、培土混合物を得る工程である。
培土基材(A)とアルギン酸多価塩(B)とを混合する方法は特に限定されず、例えば、公知のミキサー、捏和機等の機械による撹拌;手作業による撹拌などの方法が挙げられる。
工程A1によって、培土基材(A)とアルギン酸多価塩(B)とを混合してなる培土混合物が得られる。
【0041】
(工程A2)
工程A2は、工程A1で得られた培土混合物に、アルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液を添加して、前記アルギン酸多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程である。
【0042】
培土混合物にアルギン酸1価塩(C)水溶液を添加する方法は特に限定されず、例えば、アルギン酸1価塩(C)水溶液を培土混合物に潅水する方法、アルギン酸1価塩(C)水溶液を培土混合物に潅注する方法、アルギン酸1価塩(C)水溶液中に培土混合物を浸漬する方法等が挙げられる。
培土混合物にアルギン酸1価塩(C)水溶液を添加することにより、培土混合物中のアルギン酸多価塩(B)と水溶液中のアルギン酸1価塩(C)とが反応して、固化した培土が得られる。
【0043】
配合方法Aによる場合、工程A1で得られる培土混合物は、工程A2を実施するまでは固化しない状態が保たれる。したがって、育苗培土の使用者は、所望の時期に工程A2を実施することで、育苗培土を固化することができる。
配合方法Aによる場合、工程A1は、培土基材(A)を植物育成用容器に充填する前に実施することが好ましく、工程A2は、上記培土混合物を植物育成用容器に充填した後に実施することが好ましい。
【0044】
配合方法Aにおいて、窒素含有化合物(D)を配合する時期は特に限定されず、例えば、工程A1の前又は工程A1と同時に培土基材(A)と混合してもよく、工程A1と工程A2との間、工程A2と同時又は工程A2の後のいずれの時期であってもよい。これらの中でも、工程A1と同時又は工程A2と同時であることが好ましい。
すなわち、工程A1は、培土基材(A)とアルギン酸多価塩(B)と窒素含有化合物(D)とを混合して、培土混合物を得る工程であることが好ましい。
また、工程A2は、工程A1で得られた培土混合物に、上記したアルギン酸の1価カチオン塩(C)及び窒素含有化合物(D)を含む水溶液を添加する工程であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土に播種を行う場合、播種の時期は特に限定されず、工程A1の前、工程A1と同時、工程A1と工程A2の間、工程A2と同時又は工程A2の後のいずれの時期であってもよいが、工程A2の後であることが好ましい。
【0046】
培土基材(A)とアルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)との配合方法は、下記工程B1を有する配合方法Bであってもよい。
工程B1:培土基材(A)とアルギン酸多価塩(B)と固形のアルギン酸1価塩(C)とを混合して、育苗培土を得る工程
【0047】
工程B1における混合方法は、上記工程A1で挙げられた方法と同じ方法が挙げられる。また、固形のアルギン酸1価塩(C)の形状は、上記した通り、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク等が挙げられ、その好ましい態様も同様である。
【0048】
配合方法Bによる場合、工程B1で得られる育苗培土は、水を添加するまでは固化しない状態が保たれる。したがって、育苗培土の使用者は、所望の時期に育苗培土に水を添加することで、育苗培土を固化することができる。なお、工程B1で得られる育苗培土に対して水を添加して培土を固化する工程を「工程B2」と称する。
工程B2によって、アルギン酸多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンが、アルギン酸の多価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換されてなる固化剤が形成され、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土が得られる。
配合方法Bによる場合、工程B1は、培土基材(A)を植物育成用容器に充填する前に実施することが好ましく、工程B2は、上記培土混合物を植物育成用容器に充填した後に実施することが好ましい。
【0049】
配合方法Bによる場合、窒素含有化合物(D)を添加する時期は、工程B1の前、工程B1と同時、工程B1と工程B2の間、工程B2と同時又は工程B2の後のいずれの時期であってもよい。
【0050】
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土に播種を行う場合、播種の時期は特に限定されず、工程B1の前、工程B1と同時、工程B1と工程B2の間、工程B2と同時又は工程B2の後のいずれの時期であってもよいが、工程B2の後であることが好ましい。
【0051】
<育苗培土の用途>
本実施形態の育苗培土の製造方法により得られる育苗培土を充填する植物育成用容器の形状は特に限定されず、様々な形状を有するものに適用可能である。
植物育成用容器としては、底壁及び側壁を有し、底壁の形状が、略円形、略四角形、略六角形等の形状を有するものが挙げられ、育苗ポット、育苗セル等の公知の容器を使用することができる。上記育苗セルは複数個が連なった育苗トレイの形態を有していてもよい。
上記育苗ポット又は育苗セルのサイズは、例えば、開口部穴径が20~60mm、深さが40~65mm、容積は9~165cm3である。
本実施形態の育苗培土の製造方法により製造された育苗培土は、野菜、花卉、苗木、稲等の農園芸作物に対して好適である。
【0052】
[育苗培土]
本実施形態の育苗培土は、本実施形態の育苗培土の製造方法によって製造される育苗培土である。したがって、本実施形態の育苗培土は、培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)及びアルギン酸の多価カチオン塩(B)に由来する成分からなる群から選ばれる1種以上と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)及びアルギン酸の1価カチオン塩(C)に由来する成分からなる群から選ばれる1種以上と、窒素含有化合物(D)とを含有するものである。
各成分の種類、配合量、配合方法等は、すべて上記した通りである。
【0053】
[植物の栽培方法]
本実施形態の植物の栽培方法は、本実施形態の育苗培土を用いる植物の栽培方法である。
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土は、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立しているにも関わらず、植物の生育遅延が抑制されたものである。そのため、該育苗培土を用いる本実施形態の植物の栽培方法は、環境適合性、作業性に優れ、植物の生育に適した方法である。
本実施形態の植物の栽培方法によって栽培される植物は特に限定されず、野菜、花卉、苗木、稲等の農園芸作物が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を示し、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
[アルギン酸カルシウム塩繊維の調製]
製造例1
アルギン酸ナトリウム塩(キミカ株式会社製、商品名:アルギテックスLL)20gをイオン交換水1,000gに投入後、撹拌して溶解させ、アルギン酸ナトリウム塩水溶液(濃度:2質量%)を得た。該アルギン酸ナトリウム塩水溶液をシリンジ(吐出径:18ゲージ(1.04mm))を使用して、5質量%の塩化カルシウム水溶液中に連続的に吐出し、塩化カルシウム水溶液中に繊維状のアルギン酸カルシウム塩を析出させた。得られた繊維状のアルギン酸カルシウム塩を塩化カルシウム水溶液中から回収し、20℃で60分間、乾燥した後、所望の長さに切断することで、以下の物性を有するアルギン酸カルシウム塩繊維を得た。なお、平均繊維長及び平均繊維径の測定方法は前述の通りである。
平均繊維長:5mm
平均繊維径:0.5mm
M/G比:1.3
多価カチオン含有量:0.5モル/モノマー単位1モル
【0056】
[アルギン酸ナトリウム塩水溶液の製造]
製造例2
(アルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液の調製)
アルギン酸ナトリウム塩(キミカ株式会社製、商品名:アルギテックスLL)10g、及び窒素含有化合物(D)として尿素3.3g、をイオン交換水5,000gに投入後、撹拌して溶解させ、アルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液(アルギン酸ナトリウム塩濃度:0.2質量%、尿素濃度:0.066質量%)を得た。
【0057】
製造例3
(アルギン酸ナトリウム塩及び硫酸アンモニウム水溶液の調製)
製造例2において、尿素3.3gを、硫酸アンモニウム7.2gに変更したこと以外は、製造例2と同様にして、アルギン酸ナトリウム塩及び硫酸アンモニウム水溶液(アルギン酸ナトリウム塩濃度:0.2質量%、硫酸アンモニウム濃度:0.14質量%)を得た。
【0058】
製造例4
(アルギン酸ナトリウム塩水溶液の調製)
製造例2において、尿素を配合しなかったこと以外は、製造例2と同様にして、アルギン酸ナトリウム塩水溶液(アルギン酸ナトリウム塩濃度:0.2質量%)を得た。
【0059】
[育苗培土の製造]
実施例1
培土基材を100質量部と、製造例1で調製したアルギン酸カルシウム塩繊維3質量部と、をミキサーの容器に投入後、撹拌混合して培土混合物を得た。
上記で得られた培土混合物20gを、育苗ポット(底部直径18mm、上部(開口)直径30mm、高さ45mm)に投入し、振動させつつ余分な培土混合物を除去した後、プレスを行って、育苗ポット内に培土混合物を充填した。次いで、培土混合物を充填した育苗ポットの開口部から、製造例2で調製したアルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液15gを潅水して、培土基材がアルギン酸塩で固化されてなる固化培土を得た。なお、アルギン酸カルシウム塩由来のカルシウムイオンと、アルギン酸ナトリウム塩由来のナトリウムイオンとのモル比(Ca/Na)は5.5である。得られた固化培土の外観写真(乾燥状態)を
図1に示す。
図1から分かる通り、実施例1で得られた固化培土は良好な固化性を有している。
【0060】
実施例2
実施例1において、アルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液を、製造例3で調製したアルギン酸ナトリウム塩及び硫酸アンモニウム水溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして育苗培土を得た。
【0061】
比較例1
実施例1において、アルギン酸カルシウム塩繊維3質量部に代えて、消石灰3質量部を用いたこと、及びアルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液15gを、製造例4で得たアルギン酸ナトリウム塩水溶液15gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして育苗培土を得た。
【0062】
比較例2
実施例1において、アルギン酸カルシウム塩繊維3質量部を配合しなかったこと、及びアルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液15gを、製造例4で得たアルギン酸ナトリウム塩水溶液15gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして育苗培土を得た。比較例2で得られた育苗培土の外観写真(乾燥状態)を
図2に示す。
図2から分かる通り、比較例2の固化培土は、固化強度が弱く、育苗ポット内から培土を取り出す際に崩壊が生じた。
【0063】
比較例3
実施例1において、アルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液15gに代えて水15gを散布したこと以外は実施例1と同様にして育苗培土を得た。
【0064】
参考例1
実施例1において、アルギン酸ナトリウム塩及び尿素水溶液15gを、製造例4で得たアルギン酸ナトリウム塩水溶液15gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして育苗培土を得た。
【0065】
各例で得られた育苗培土について、下記に示す方法により固化性及び植物の生育性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0066】
[育苗培土の固化性]
各例で得られた育苗ポット内の培土を、ポットを反転させて振動を加えて取り出し、その際に培土の崩壊が生じるか否かを目視にて確認した。更に、崩壊しなかった培土について30cmの高さより自然落下させる落下試験を行い、崩壊の有無を目視で確認し、下記基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
なお、培土は、抜き出す72時間前から水を添加せず、湿度50%、温度20℃の環境下に置いて乾燥させた状態(乾燥状態)と、抜き出す24時間前に水を添加し、湿度50%、温度20℃の環境下に置いた湿潤状態との、両方の状態で試験を行った。
A:落下試験したときに崩壊しなかった
C:取り出したときに崩壊しなかったが、落下試験で崩壊した。
E:取り出したときに崩壊が生じた。
【0067】
[植物の生育性]
各例の方法によって、育苗培土を各々64個ずつ準備し、それぞれの育苗培土に、ももたろう(タキイ種苗)の種を1個ずつ播種し、日当たり良好な屋外の環境下で、21日間生育した。生育後の64個の苗の本葉の数の平均値を求めると共に、葉の色を目視で確認し、以下の基準に基づいて評価した。
<本葉の数の評価基準>
評価対象の本葉の数をX、参考例1の育苗培土で生育した苗の本葉の数を「基準1」、(B)~(D)成分をいずれも使用しなかった培土基材で生育した苗の本葉の数を「基準2」、として、次の通り、評価した。
A:数Xと基準1とでは、数Xの方が基準2に近かった。
B:数Xと基準1とでは、差がなかった。
C:数Xと基準1とでは、基準1の方が基準2に近かった。
<葉の色の評価基準>
参考例1の育苗培土で生育した苗の葉の色を「基準1」、(B)~(D)成分をいずれも使用しなかった培土基材で生育した苗の葉の色を「基準2」、として、次の通り、評価した。
A:評価対象の葉の色と基準1とでは、評価対象の葉の色の方が基準2に近かった。
B:評価対象の葉の色と基準1とでは、差がなかった。
C:評価対象の葉の色と基準1とでは、基準1の方が基準2に近かった。
【0068】
【表1】
表中「-」は当該成分を使用しなかったことを意味する。
【0069】
表1から、本実施形態に係る実施例1及び2の育苗培土は、乾燥状態及び湿潤状態のいずれの状態においても優れた固化性を有していることが分かる。実施例1の育苗培土は、育苗ポットに充填してから加熱等をせずに固化させることができるため作業性に優れており、使用する成分は生分解性に優れるものであるため環境適合性にも優れている。
一方、比較例1の育苗培土は、育苗ポットの開口部近傍の培土のみが固化しており、取り出す際又は落下試験において内部の培土に崩壊が生じた。比較例2及び3の育苗培土は、固化強度が弱く、育苗ポット内から培土を取り出す際に崩壊が生じた。
さらに、実施例1及び2の育苗培土は、窒素含有化合物(D)を配合しなかった参考例1の育苗培土よりも植物の生育性に優れていた。
【0070】
以上より、本実施形態の育苗培土の製造方法によって、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立し、植物の生育遅延が抑制された育苗培土を製造できるということが分かる。