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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】建築構造物の架構
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/342 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
E04B1/342 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019160782
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021038575
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】萱嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】永久 美優
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-121820(JP,A)
【文献】特開平04-166528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層を有する建築構造物の架構であって、
一の前記階層に配置され、平面視リング状に設けられた第一のリング梁と、
前記第一のリング梁とは上下方向で異なる前記階層に配置され、前記第一のリング梁の径方向内側で平面視リング状に設けられた第二のリング梁と、
前記第一のリング梁および前記第二のリング梁の周方向に間隔をあけて設けられ、斜め上方または斜め下方に延びて前記第一のリング梁と前記第二のリング梁とを連結する複数の斜め材と、
前記第一のリング梁にプレストレスを付与する緊張材と、
を備えることを特徴とする、建築構造物の架構。
【請求項2】
前記建築構造物は、3以上の前記階層を有し、前記第一のリング梁と前記第二のリング梁とが上下方向において交互に設けられ
前記第一のリング梁、および前記第二のリング梁の少なくとも一方の上面には、床面を形成するスラブが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の建築構造物の架構。
【請求項3】
前記第一のリング梁、および前記第二のリング梁は、それぞれ、
径方向外側で平面視リング状に設けられた外周梁と、
前記外周梁の径方向内側に設けられ、平面視リング状に設けられた内周梁と、
前記外周梁と前記内周梁とを連結する連結梁と、を備えることを特徴とする、請求項2に記載の建築構造物の架構。
【請求項4】
前記斜め材は複数本で一組をなし、各組の前記斜め材は、前記第一のリング梁と前記第二のリング梁との間に設けられる階段の一部を形成し、
前記第二のリング梁の径方向内側に、内周スラブと、平面視で交差するように設けられた梁の、いずれか一方または双方を備えていることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の建築構造物の架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物の架構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、各種の建築構造物の躯体には、水平方向に間隔をあけて設けられた複数本の柱と、互いに隣り合う柱間に架設された梁と、を備える、いわゆるラーメン架構が広く用いられている。
しかしながら、ラーメン架構においては、複数の階層間で、柱が上下方向に連続して設けられる必要がある。このため、建築構造物の構成、外観デザイン等の自由度に制限を受けることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-178542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、建築構造物の構成、外観デザイン等の自由度をさらに高めることが可能な、建築構造物の架構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の建築構造物の架構は、複数の階層を有する建築構造物の架構であって、一の前記階層に配置され、平面視リング状に設けられた第一のリング梁と、前記第一のリング梁とは上下方向で異なる前記階層に設けられ、前記第一のリング梁の径方向内側で平面視リング状に設けられた第二のリング梁と、前記第一のリング梁および前記第二のリング梁の周方向に間隔をあけて設けられ、斜め上方または斜め下方に延びて前記第一のリング梁と前記第二のリング梁とを連結する複数の斜め材と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、第一のリング梁が、第二のリング梁よりも上層に配置されている場合、第一のリング梁に作用する自重、外部からの荷重等による力は、複数の斜め材を介して、下層の第二のリング梁に伝達される。このとき、第二のリング梁は、斜め材から作用する径方向内側への圧縮力に抗する。
また、第二のリング梁が、第一のリング梁よりも上層に配置されている場合、第二のリング梁に作用する自重、外部からの荷重等による力は、複数の斜め材を介して、下層の第一のリング梁に伝達される。このとき、第一のリング梁は、斜め上方から延びる斜め材から作用する径方向外側への引張力に抗する。
このように、第一のリング梁と、第二のリング梁と、これら第一のリング梁と第二のリング梁とを連結する複数の斜め材とを備える構造により、柱を備えずに、複数の階層を有する建築構造物の架構を構成することができる。互いに上下に位置する第一のリング梁と第二のリング梁とは、径方向における外形寸法が異なっているため、特徴のある外観を有した建築構造物の架構を形成することができる。このようにして、従来のラーメン架構に囚われず、建築構造物の構成、外観デザイン等の自由度をさらに高めることが可能となる。
【0006】
本発明の一態様においては、本発明の建築構造物の架構は、前記建築構造物が、3以上の前記階層を有し、前記第一のリング梁と前記第二のリング梁とが上下方向において交互に設けられている。
このような構成によれば、径方向における外形寸法が異なる第一のリング梁と第二のリング梁とが上下方向において交互に設けられることで、より特徴のある外観を有した建築構造物の架構を形成することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、本発明の建築構造物の架構は、前記第一のリング梁、および前記第二のリング梁が、それぞれ、径方向外側で平面視リング状に設けられた外周梁と、前記外周梁の径方向内側に設けられ、平面視リング状に設けられた内周梁と、前記外周梁と前記内周梁とを連結する連結梁と、を備える。
このような構成によれば、外周梁と、内周梁と、これら外周梁と内周梁とを連結する連結梁とによって、第一のリング梁、および第二のリング梁を、引張力や圧縮力に対する所要の強度を確保して強固に形成することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の建築構造物の架構は、前記第一のリング梁、および前記第二のリング梁の少なくとも一方の上面には、床面を形成するスラブが設けられている。
このような構成によれば、スラブが設けられた第一のリング梁、第二のリング梁の上面を、床面として用いることが可能となる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の建築構造物の架構は、前記第一のリング梁にプレストレスを付与する緊張材をさらに備える。
このような構成によれば、第一のリング梁の強度を、より有効に高めることができる。
【0010】
本発明の一態様においては、本発明の建築構造物の架構は、前記斜め材は複数本で一組をなし、各組の前記斜め材が、前記第一のリング梁と前記第二のリング梁との間に設けられる階段の一部を形成する。
このような構成によれば、斜め材を用いて階段を形成することができ、強度部材としての斜め材の有効利用を図ることができる。
【0011】
本発明の一態様においては、本発明の建築構造物の架構は、前記第二のリング梁の径方向内側に、内周スラブと、平面視で交差するように設けられた梁の、いずれか一方または双方を備えている。
このような構成によれば、特に内周スラブを設けた場合には、第二のリング梁の径方向の内側に床面を形成することができ、床面積を増大させることができる。また、内周スラブと、平面視で交差するように設けられた梁の、いずれか一方または双方を備えることで、第二のリング梁における圧縮力に抗する強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建築構造物の構成、外観デザイン等の自由度をさらに高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る建築構造物の架構の構成を示す斜視図である。
図2図1の架構の構成を示す平面図である。
図3図1の架構の構成を示す図であり、図2のI-I矢視断面図である。
図4図1の架構において、第一のリング梁と第二のリング梁との間における力の流れを示す図である。
図5図1の架構において、内周スラブ、外周スラブを設けた場合の構成を示す断面図である。
図6】上層の第二のリング梁から下層の第一のリング梁への力の流れを示す平面図である。
図7】上層の第一のリング梁から下層の第二のリング梁への力の流れを示す平面図である。
図8】本実施形態に係る建築構造物の架構について、長期荷重を作用させたときの軸力の分布の解析結果を示す平面図である。
図9】本実施形態に係る建築構造物の架構について、長期荷重を作用させたときの軸力の分布の解析結果を示す側面図である。
図10】本実施形態に係る建築構造物の架構について、長期荷重を作用させたときの曲げモーメントの分布の解析結果を示す平面図である。
図11】本実施形態に係る建築構造物の架構について、長期荷重を作用させたときの曲げモーメントの分布の解析結果を示す側面図である
図12】本実施形態に係る建築構造物の架構について、短期荷重を作用させたときの軸力の分布の解析結果を示す平面図である。
図13】本実施形態に係る建築構造物の架構について、短期荷重を作用させたときの軸力の分布の解析結果を示す側面図である。
図14】本実施形態に係る建築構造物の架構について、短期荷重を作用させたときの曲げモーメントの分布の解析結果を示す平面図である。
図15】本実施形態に係る建築構造物の架構について、短期荷重を作用させたときの曲げモーメントの分布の解析結果を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明による建築構造物の架構を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る建築構造物の架構の構成を示す斜視図を図1に示す。図2は、図1の架構の構成を示す平面図である。図3は、図1の架構の構成を示す図であり、図2のI-I矢視断面図である。
【0015】
図1に示されるように、建築構造物1は、上下方向に複数の階層Dを有している。本実施形態において、建築構造物1は、上下方向に1階から5階まで、計5つの階層D1~D5を有している。なお、建築構造物1の階層は、複数(2以上)であればよい。
図2図3に示されるように、建築構造物1の躯体を構成する架構2は、第一のリング梁10と、第二のリング梁20と、複数の斜め材30と、を備えている。建築構造物1の架構2において、第一のリング梁10と第二のリング梁20とは、上下方向で互いに異なる階層Dに配置されている。第一のリング梁10と第二のリング梁20とは、上下方向で交互に配置されている。本実施形態において、第一のリング梁10は、建築構造物1の2階、4階に相当する一の階層D2、D4に配置されている。第二のリング梁20は、建築構造物1の1階、3階、5階に相当する階層D1、D3、D5に配置されている。なお、本実施形態では、建築構造物1の最下層に第二のリング梁20を配したが、最下層に第一のリング梁10を配するようにしてもよい。
【0016】
図1図4に示されるように、第一のリング梁10は、平面視リング状に設けられている。第一のリング梁10は、階層D2,D4のそれぞれで、水平面内でリング状に連続して設けられ、平面視で閉鎖したリング状に形成されている。第一のリング梁10は、第二のリング梁20よりも径方向の外形寸法が大きく、平面視で第二のリング梁20よりも径方向外側に配置されている。第一のリング梁10は、外周梁11と、内周梁12と、連結梁13と、を備えている。
【0017】
外周梁11は、平面視リング状をなしている。外周梁11は、水平面内で直線状に延びる複数本(本実施形態では、例えば16本)の外周梁部材11bを、周方向に連結することで、平面視多角形状(本実施形態では、平面視16角形状)に形成されている。
内周梁12は、外周梁11の径方向内側に、外周梁11に対して間隔をあけて配置されている。内周梁12は、平面視リング状をなしている。内周梁12は、水平面内で各外周梁部材11bと平行に直線状に延びる複数本(本実施形態では、例えば16本)の内周梁部材12bを、周方向に連結することで、平面視多角形状(本実施形態では、平面視16角形状)に形成されている。
連結梁13は、外周梁11と内周梁12とを連結する。連結梁13は、例えば4本一組で、周方向に等間隔で計8組が設けられている。各組の連結梁13は、周方向で等間隔に位置する8個所にそれぞれ配置されている。各連結梁13は、外周梁部材11bおよび内周梁部材12bに直交して水平方向に延びている。各連結梁13の両端は、外周梁部材11bと内周梁部材12bとに連結されている。
【0018】
第二のリング梁20は、平面視リング状に設けられている。第二のリング梁20は、階層D1、D3、D5のそれぞれで、水平面内でリング状に連続して設けられ、平面視で閉鎖したリング状に形成されている。第二のリング梁20は、第一のリング梁10よりも径方向の外形寸法が小さく、平面視で第一のリング梁10よりも径方向内側に配置されている。第二のリング梁20は、外周梁21と、内周梁22と、連結梁23と、を備えている。
【0019】
外周梁21は、平面視リング状をなしている。外周梁21は、水平面内で直線状に延びる複数本(本実施形態では、例えば16本)の外周梁部材21bを、周方向に連結することで、平面視多角形状(本実施形態では、平面視16角形状)に形成されている。
内周梁22は、外周梁21の径方向内側に、外周梁21に対して間隔をあけて配置されている。内周梁22は、平面視リング状をなしている。内周梁22は、水平面内で各外周梁部材21bと平行に直線状に延びる複数本(本実施形態では、例えば8本)の内周梁部材22bを、周方向に連結することで、平面視多角形状(本実施形態では、平面視8角形状)に形成されている。
連結梁23は、外周梁21と内周梁22とを連結する。連結梁23は、例えば4本一組で、周方向に等間隔で計8組が設けられている。各組の連結梁23は、周方向で等間隔に位置する8個所にそれぞれ配置されている。各連結梁23は、外周梁部材21bおよび内周梁部材22bに直交して水平方向に延びている。各連結梁23の両端は、外周梁部材21bと内周梁部材22bとに連結されている。
【0020】
複数の斜め材30は、平面視リング状をなした第一のリング梁10および第二のリング梁20の周方向に間隔をあけて設けられている。各斜め材30は、第一のリング梁10と第二のリング梁20との間で、斜め上方または斜め下方に延び、第一のリング梁10と第二のリング梁20とを連結している。第一のリング梁10と、第一のリング梁10に対して上層に位置する第二のリング梁20との間に設けられる斜め材30Uは、径方向内側に向かって斜め上方に延びている。また、第一のリング梁10と、第一のリング梁10に対して下層に位置する第二のリング梁20との間に設けられる斜め材30Dは、径方向内側に向かって斜め下方に延びている。各斜め材30は、第一のリング梁10の内周梁12と、第二のリング梁20の外周梁21とに連結されている。第一のリング梁10の各連結梁13と、第二のリング梁20の各連結梁23とは、平面視で斜め材30に連続するように設けられている。
【0021】
本実施形態において、斜め材30は、階段40の一部を構成する。図2に示されるように、階段40は、周方向で互いに隣り合う複数一組の、特に本実施形態においては2本一組の斜め材30と、2本一組の斜め材30の間に設けられた複数段の踏板42と、を備えている。図1図3に示されるように、階層D2,D4に設けられた第一のリング梁10から見ると、第一のリング梁10には、上り階段40Uと下り階段40Dとが、周方向で互いに隣り合って設けられている。上り階段40Uは、階層D2,D4に設けられた第一のリング梁10と、上層の階層D3,D5に設けられた第二のリング梁20との間に設けられている。この上り階段40Uは、第一のリング梁10から径方向内側に向かって斜め上方に延びる斜め材30Uを用いて形成されている。下り階段40Dは、階層D2,D4に設けられた第一のリング梁10と、下層の階層D1、D3に設けられた第二のリング梁20との間に設けられている。この下り階段40Dは、第一のリング梁10から径方向内側に向かって斜め下方に延びる斜め材30Dを用いて形成されている。
互いに隣り合う階段40U、40D(およびこれら階段40U、40Dの一部を構成する2本一組の斜め材30D,30U)は、周方向で等間隔な位置に設けられている。本実施形態では、これら階段40U、40D、および階段40U、40Dの一部を構成する2本一組の斜め材30D,30Uは、周方向で等間隔に計8個所に設けられている。
【0022】
第一のリング梁10、第二のリング梁20の上面には、各階層Dの床面を形成するスラブ15,25が設けられていてもよい。
図5は、図1の架構において、内周スラブ、外周スラブを設けた場合の構成を示す断面図である。この図5に示されるように、第二のリング梁20の径方向内側には、第二のリング梁20の径方向内側の開口を閉塞するように、内周スラブ26を設けてもよい。あるいはこの内周スラブ26に替えて、または内周スラブ26とともに、平面視で交差するように梁を設けてもよい。さらに、第二のリング梁20の径方向外側に、外周スラブ27を設けてもよい、外周スラブ27は、第一のリング梁10の外形と略同じ外形寸法としてもよい。
同様に、第一のリング梁10の径方向内側には、第一のリング梁10の径方向内側の開口を閉塞するように、内周スラブ16を設けてもよい。この場合においても、この内周スラブ16に替えて、または内周スラブ16とともに、平面視で交差するように梁を設けてもよい。
【0023】
図6は、上層の第二のリング梁から下層の第一のリング梁への力の流れを示す平面図である。
図4図6に示すように、上記したような建築構造物1の架構2において、例えば、第一のリング梁10に対し、上層に位置する第二のリング梁20から伝わる力は、以下のように流れる。第二のリング梁20には、第二のリング梁20、及び当該第二のリング梁20よりも上層に位置するリング梁10、20の自重による力と、これらの階層D上に設置される各種の物品や階層D上に乗る利用者等による載置荷重による力が作用する。また、第二のリング梁20には、地震、風による外力、積雪による荷重等による力も作用する。このようにして第二のリング梁20に作用する力F1は、径方向外側に向かって斜め下方に延びる斜め材30(30U)を介して第一のリング梁10に伝達される。斜め材30を介して第一のリング梁10に伝達された力F1の水平成分F1hにより、第一のリング梁10には、周方向両側への引張力F1sが作用する。
【0024】
図7は、上層の第一のリング梁から下層の第二のリング梁への力の流れを示す平面図である。
図4図7に示すように、第二のリング梁20に対し、上層に位置する第一のリング梁10から伝わる力は、以下のように流れる。第一のリング梁10に作用する力F2は、径方向内側に向かって斜め下方に延びる斜め材30(30D)を介し第二のリング梁20に伝達される。斜め材30を介して第二のリング梁20に伝達された力F2の水平成分F2hにより、第二のリング梁20には、周方向両側への圧縮力F2sが作用する。
【0025】
第一のリング梁10は、上記引張力F1sに抗するように、第一のリング梁10を形成する各部材の強度が設定されている。第二のリング梁20は、上記圧縮力F2sに抗するように、第二のリング梁20を形成する各部材の強度が設定されている。また、各斜め材30は、上記力F1、F2によって座屈しないように、その強度が設定されている。
【0026】
第一のリング梁10、第二のリング梁20、斜め材30を構成する各部材は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造のいずれにより形成してもよい。
第一のリング梁10、第二のリング梁20を、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造で形成する場合、スラブ15,25は、第一のリング梁10、第二のリング梁20と一体に形成してもよい。
【0027】
また、第一のリング梁10を、鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造で形成する場合、図2中に二点鎖線で示すように、第一のリング梁10の外周梁11には、プレストレス(プレテンション)を付与する緊張材50を設けてもよい。緊張材50は、周方向に複数本を配置し、これら複数本の緊張材50で、第一のリング梁10の外周梁11の全周にプレストレス(プレテンション)を導入するのが好ましい。また、第一のリング梁10の内周梁12にも、同様にプレストレスを与えるのが望ましい。
【0028】
ここで、上記したような建築構造物1の架構2をモデル化し、長期荷重、地震、風等による短期荷重について解析を行ったので、その結果を示す。ここで、上記建築構造物1の架構2は、上下方向に積層して高層化が可能であるが、今回は簡易モデルとして、上下方向に5層の階層Dを有する架構2のモデルを作成した。このモデルにおいて、架構2を構成する各部材は鉄骨造とした。
【0029】
まず、モデルに対する長期荷重についての解析を行った。第一のリング梁10、第二のリング梁20上に設けるスラブ15、25を想定した範囲の自重を約360kg/m、スラブ15、25上への積載荷重を320kg/m、架構2のモデルを構成する部材の自重を約120kg/mとし、合計約800kg/mの鉛直荷重を考慮した解析を行い、結果の部材の軸力図を作成して架構の長期状態での成立性を確認した。
その結果、図8図9に示すように、径方向内側の第二のリング梁20、径方向外側の第一のリング梁10による拘束効果が確認できた。また、第一のリング梁10、第二のリング梁20を連結する斜め材30も、上層から下層へ荷重を伝達出来ていることが確認できた。今回のモデル形状、荷重においては、第二のリング梁の最大圧縮力は30ton、第一のリング梁10の最大引張力は53ton、斜め材30の最大圧縮軸力は48tonであった。
【0030】
また、上記と同様の荷重条件で解析を行い、得られた結果の部材の曲げモーメント図を作成し、架構の長期状態での成立性を確認した。
その結果、図10図11に示すように、架構2は主に軸力系で長期荷重を伝えるものであるが、スラブ15、25を支持する第一のリング梁10、第二のリング梁20を構成する各部材や、これらの部材同士が剛接合される部材端部には、曲げモーメントが生じる。軸力と曲げモーメントの組合せ応力にて部材を断面設計すれば、架構2が成り立つことを確認出来た。今回のモデル形状、荷重においては、斜め材30の最大曲げモーメントは57ton・mであった。
【0031】
次に、架構2のモデルに、地震や風による短期荷重が作用する場合についての解析を行った。
上記の重量に対して、地震時を想定して横方向のせん断力係数を0.2とした解析を行い、得られた結果の部材の軸力図を作成して架構の地震時での成立性を確認した。
その結果、図12図13に示すように、上記架構2は、地震時を想定した荷重においても、不安定とはならず、荷重を伝達出来ていることが確認できた。上記同様に、第二のリング梁の最大圧縮力は4ton、第一のリング梁10の最大引張力は4ton、斜め材30の最大圧縮軸力は19tonであった。
【0032】
また、上記と同様の荷重条件で解析を行い、得られた結果における部材の曲げモーメント図を作成して架構の地震時の成立性を確認した。
その結果、図14図15に示すように、地震時においても軸力と曲げモーメントの組合せ応力にて部材を断面設計すれば、架構が成立することを確認出来た。斜め材30の最大曲げモーメントは34ton・mであった。
【0033】
上述したような建築構造物1の架構2によれば、第一のリング梁10が、第二のリング梁20よりも上層に配置されている場合、第一のリング梁10に作用する自重、外部からの荷重等による力は、複数の斜め材30を介して、下層の第二のリング梁20に伝達される。このとき、第二のリング梁20は、斜め材30から作用する径方向内側への圧縮力に抗する。
また、第二のリング梁20が、第一のリング梁10よりも上層に配置されている場合、第二のリング梁20に作用する自重、外部からの荷重等による力は、複数の斜め材30を介して、下層の第一のリング梁10に伝達される。このとき、第一のリング梁10は、斜め上方から延びる斜め材30から作用する径方向外側への引張力に抗する。
このように、第一のリング梁10と、第二のリング梁20と、これら第一のリング梁10と第二のリング梁20とを連結する複数の斜め材30とを備える構造により、柱を備えずに、複数の階層を有する建築構造物1の架構2を構成することができる。
また、互いに上下の階層Dに位置する第一のリング梁10と第二のリング梁20とは、径方向における外形寸法が異なっているため、特徴のある外観を有した建築構造物1の架構2を形成することができる。このようにして、従来のラーメン架構に囚われず、建築構造物1の構成、外観デザイン等の自由度をさらに高めることが可能となる。
【0034】
また、建築構造物1が3以上の階層Dを有し、第一のリング梁10と第二のリング梁20とが上下方向において交互に設けられている。
このような構成によれば、径方向における外形寸法が異なる第一のリング梁10と第二のリング梁20とが上下方向において3以上の階層Dに交互に設けられることで、より特徴のある外観を有した建築構造物1の架構2を形成することができる。
【0035】
また、第一のリング梁10、および第二のリング梁20が、それぞれ、径方向外側で平面視リング状に設けられた外周梁11,21と、外周梁11,21の径方向内側に設けられ、平面視リング状に設けられた内周梁12,22と、外周梁11,21と内周梁12,22とを連結する連結梁13,23と、を備える。このような構成によれば、外周梁11,21と、内周梁12,22と、これら外周梁11,21と内周梁12,22とを連結する連結梁13,23とによって、第一のリング梁10、および第二のリング梁20を、引張力や圧縮力に対する所要の強度を確保して形成することができる。
【0036】
また、斜め材30が、第一のリング梁10の内周梁12と、第二のリング梁20の外周梁21とに連結されている。このような構成によれば、外周梁11,21、内周梁12,22、および連結梁13,23をそれぞれ有した第一のリング梁10と第二のリング梁20とを、斜め材30によって連結し、強固な架構2を構成することができる。
【0037】
さらに、連結梁13,23が、平面視で斜め材30に連続するように設けられている。
このような構成によれば、第一のリング梁10の連結梁13と、斜め材30と、第二のリング梁20の連結梁23とが、平面視で連続して設けられるので、第一のリング梁10、第二のリング梁20、および斜め材30を備える架構2を、より強固に形成することができる。
【0038】
また、第一のリング梁10、および第二のリング梁20の上面に、床面を形成するスラブ15,25が設けられている。
このような構成によれば、スラブが設けられた第一のリング梁10、第二のリング梁20の上面を、床面として用いることが可能となる。
【0039】
また、第一のリング梁10、第二のリング梁20と、スラブ15,25とを、鉄筋コンクリート造により一体に形成することで、第一のリング梁10、第二のリング梁20と、スラブ15、25とを、平面視リング状の板状に一体に形成し、より強固とすることができる。
さらに、第一のリング梁10にプレストレスを付与する緊張材50をさらに備えることで、第一のリング梁10の強度を、より有効に高めることができる。
【0040】
また、複数本で一組をなす斜め材30の各組が、周方向で等間隔な位置に設けられている。これに伴い、斜め材30の各組を用いて形成された階段40が、周方向で等間隔な位置に設けられている。このような構成によれば、第一のリング梁10、第二のリング梁20、および斜め材30からなる架構2の周方向における強度分布の均一性を高めることができる。
【0041】
また、斜め材30を用いて階段40を形成することで、強度部材としての斜め材30の有効利用を図ることができる。
【0042】
また、第二のリング梁20の径方向内側に、内周スラブ26と、平面視で交差するように設けられた梁の、いずれか一方または双方を備えている。このような構成によれば、特に内周スラブ26を設けた場合には、第二のリング梁20の径方向の内側に床面を形成することができ、床面積を増大させることができる。また、内周スラブ26と、平面視で交差するように設けられた梁の、いずれか一方または双方を備えることで、第二のリング梁20における圧縮力に抗する強度を高めることができる。
【0043】
(実施形態の変形例)
なお、本発明の建築構造物の架構は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、斜め材30を用いて形成した階段40を、周方向の8個所に設けるようにしたが、その一部を省略し、例えば周方向に等間隔とした4個所にのみ、斜め材30を用いて形成した階段40を設けてもよい。
また、上記実施形態では、斜め材30を用いて階段40を形成するようにしたが、斜め材30を用いてスロープ等を形成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、架構2を、平面視16角形状としたが、架構2は、平面視3角形以上であればよい。
また、上記実施形態では、斜め材を2本一組として、各組を周方向で等間隔な位置に設けたうえで、各組の斜め材により階段の一部を形成したが、斜め材の一組を構成する本数は2本に限られず、3本以上の他の数であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態で示した建築構造物1において、架構2以外の部分の構成については何ら限定するものではない。上記に示した以外に、屋根、壁、エレベータシャフト等を設けてもよい。
さらに、上記実施形態で示した建築構造物1の架構2は、建築構造物1の全体であるとは限らず、建築構造物1の一部を構成するものであってもよい。例えば、ビルディングやタワー状の建築構造物に設けられる展望台、吹き抜けスペース等に、上記架構2を適用してもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 建築構造物 16、26 内周スラブ
2 架構 20 第二のリング梁
10 第一のリング梁 30 斜め材
11、21 外周梁 40 階段
12、22 内周梁 50 緊張材
13、23 連結梁 D、D1~D5 階層
15、25 スラブ
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