(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】抗体およびその断片を使用する炎症性腸疾患の局所治療
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230601BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230601BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/28 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230601BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K47/12
A61P1/04
A61K9/28
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/06
A61K9/107
A61K9/02
(21)【出願番号】P 2019566139
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2018060690
(87)【国際公開番号】W WO2018219559
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-03-05
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518330316
【氏名又は名称】ティロッツ ファーマ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 15,4310 Rheinfelden Switzerland
(73)【特許権者】
【識別番号】501128140
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ カレッジ ロンドン
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヤーダブ,ヴィプル
(72)【発明者】
【氏名】バースィト,アブドゥル ワセー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴェイラ ヴァルム,フェリーペ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ブラボー ゴンザレス,ロベルト カルロス
(72)【発明者】
【氏名】フラー,エステル マリア
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Crohn's and Colitis, 20160601, Elsevier BV, Vol: 10, Nr: 6, Page(s): 641 - 649
【文献】Inflmm Bowel Dis. , 201310, Vol: 19, Nr: 11, Page(s): 2273 - 2281
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS, 20160215 ELSEVIER, Vol: 502, Nr: 1, Page(s): 181 - 187
【文献】The Journal of Cell Biology, 19761101, Vol: 71, Nr: 2, Page(s): 666 - 669
【文献】Journal of Clinical Immunology, 20101001, Vol: 30, Nr: 6, Page(s): 777 - 789
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、C07K、C12N、A61P、C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患の局所治療における使用のための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体およびその機能的断片からなる群から選択される活性剤及び大腸管腔でのpHを低下させる適切な手段を含む組成物であって、前記手段によるヒト患者の大腸管腔における低下後のpHが5.5から6.5未満であり、TNFαに特異的な前記機能的断片がFab断片、F(ab’)
2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質またはミニボディであ
り、前記大腸管腔でのpHを低下させる適切な手段が、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、ソルビン酸および酒石酸からなる群から選択される酸性化剤を含む、組成物。
【請求項2】
大腸管腔における前記抗体またはその機能的断片の局所微小環境のpHを低下させる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
大腸管腔におけるpHの低下が、前記活性剤の胃腸壁への取り込みおよび/または浸透を促進する、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記治療により、大腸管腔におけるpHが5.7~6.3となる、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
炎症性腸疾患に罹患している前記ヒト患者が、寛解状態であるか、または前記炎症性腸疾患の軽度もしくは中程度の形態に罹患している、請求項1~
4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
更に、前記治療により、ヒト患者の大腸管腔における前記抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度が0.02~1mg/mlの範囲となる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記治療が、前記組成物の経口投与を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記組成物が、腸の回腸結腸領域に進入するまで前記活性剤の放出を防ぐコーティング材料で被覆したペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、カプセルまたは錠剤の形態の固体剤形である、請求項
7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記コーティング材料が、pH依存的に崩壊する材料、時間依存的に崩壊する材料、大腸環境における酵素トリガーにより崩壊する材料、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
前記治療が前記組成物の直腸投与を含む、および/または、前記組成物が浣腸剤、ゲル、フォームまたは座薬である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記治療前の前記ヒト患者の大腸管腔におけるpHが6.5よりも高い、請求項1~
10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローン病および潰瘍性結腸炎を含む炎症性腸疾患の局所治療における、抗体分子およびその機能的断片、例えば、腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合することができる抗体分子およびその機能的断片を含有する組成物の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(IBD)は、クローン病(CD)および潰瘍性結腸炎(UC)を含む多数の胃腸管の慢性障害の総称である。CDおよびUCは、独特な病状を構成しつつも、胃腸壁の炎症の再発エピソードを含む幾つかの症状を共有している。これらの炎症サイクルは、患部組織における炎症性サイトカイン腫瘍壊死因子α(TNFα)の可溶性および膜結合形態のレベルの上昇を特徴とする。TNFαは、炎症系細胞により放出され、それらと相互作用し、炎症をもたらすシグナル伝達カスケードにおける重要な要因として考えられている。TNFα分子を中和するためのTNFα特異的抗体の使用は、例えば、Talleyら(The American Journal of GASTROENTEROLOGY,106,Supplement 1,2011)、Feldmanら(Transplantation Proceedings,30,4126-4127,1998)およびAdoriniら(Trends in Immunology Today,18,209-211,1997)において検討されているように、クローン病および潰瘍性結腸炎の確立された治療である。
【0003】
TNFαに対するモノクローナル抗体のいくつかが従来技術に記載されている。Meagerら(Hybridoma,6,305-311,1987)には、組換えTNFαに対するネズミモノクローナル抗体が記載されている。Fendlyら(Hybridoma,6,359-370,1987)には、TNFの中和エピソードを定義する際の組換えTNFαに対するネズミモノクローナル抗体の使用について記載されている。更に、国際特許出願WO92/11383には、TNFαに特異的なCDRグラフト化抗体を含む組換え抗体が開示されている。米国特許第5,919,452号には、抗TNFαキメラ抗体およびTNFαの存在に関連する病変を治療する際のそれらの使用について開示されている。更に、抗TNFα抗体が、Stephensら(Immunology,85,668-674,1995)、GB-A-2246570、GB-A-2297145、US8,673,310、US2014/0193400、EP2390267B1、US8,293,235、US8,697,074、WO2009/155723A2およびWO2006/131013A2に開示されている。
【0004】
現在承認されている抗TNFαバイオ治療薬としては、(i)インフリキシマブ:キメラIgG抗ヒトモノクローナル抗体(Remicade(登録商標));(ii)エタネルセプト:IgG1 Fcを含むTNFR2二量体融合タンパク質(Enbrel(登録商標));(iii)アダリムマブ:完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)(Humira(登録商標));(iv)セルトリズマブ;PEG化Fab断片(Cimzia(登録商標))および(v)ゴリムマブ:ヒトIgG1Kモノクローナル抗体(Simponi(登録商標))が挙げられる。更に、様々なバイオシミラーが開発中であり、Remsimaとして知られているインフリキシマブの模倣薬は既に欧州で承認されている。
【0005】
現在のところ、TNFα特異的抗体を使用するCDやUCのような炎症性腸疾患を治療するための標準療法は、静脈内注入または皮下注射によるTNFα抗体の規則的な全身投与を伴う。静脈内投与は、急性輸注反応、過敏症およびアナフィラキシーショックを含む合併症を引き起こす。更に、この免疫抑制剤の全身適用は、例えば感染性合併症を含む、患者におけるTNFαの免疫防御機能の全身阻害に関連する多数のリスクを生じる。最後に、当該全身適用は、患者の身体における抗TNFα抗体に特異的な抗体の構築をもたらし、結果として治療に対する応答の喪失をもたらすことが知られている。現在のところ、局所適用のためのTNFα特異的抗体を含有する組成物の経口投与または直腸投与を伴う商業的に利用可能な療法はない。
【0006】
Bholら(2013)Inflamm Bowel Dis.19(11):2273-2281には、大腸炎の誘発前または後のいずれかにマウスに対して抗TNF抗体を経口投与することが記載されている。US8,647,626B2には、経口送達用TNF特異的抗体を含む組成物が開示されている。WO2011/047328には、消化管での局所活性を有する抗体治療薬が記載されている。
【0007】
胃腸管における炎症組織のより良好な標的化を可能にする、抗TNFα抗体またはその機能的断片を用いた、CDやUCなどの炎症性腸疾患の代替治療に対する必要性が存在する。当該治療は、特に、炎症した胃腸壁への抗体またはその断片の効果的な浸透を可能にするはずである。
【発明の概要】
【0008】
驚くべきことに、本発明者らによって、TNFα抗体またはその機能的断片を通常よりも低いpHで大腸壁の管腔側に与えることにより、TNFα抗体またはその機能的断片が大腸壁全体に効果的に浸透することが判明した。約6のより低いpHであると、大腸壁の上皮層全体そして粘膜層へのTNFα抗体またはその機能的断片の取り込みが増え、かつ、約7.4のより高いpHよりも大腸壁の粘膜下層のより深部へと浸透することが判明した。また、TNFα抗体またはその機能的断片の局所濃度が、大腸壁が取り込んだTNFα抗体またはその機能的断片の量と直接相関することが本発明者らによって見出された。胃腸壁の保護粘液層が損傷した場合、TNFα抗体またはその機能的断片がより迅速に取り込まれて胃腸壁のより深部へと浸透し、結果として、TNFα抗体またはその機能的断片のレベルがより高くなる。最後に、大腸壁が取り込んだTNFα抗体またはその機能的断片がそこで効果的に保持されることが判明した。
【0009】
本発明は、炎症性腸疾患の局所治療において使用するための組成物を提供する。故に、本発明は、以下の項目1~64に規定される主題に関する。
【0010】
1.炎症性腸疾患の局所治療における使用のための活性剤を含む組成物であって、当該治療によりヒト患者の大腸管腔におけるpHが低下し、当該活性剤が:
(i)腫瘍壊死因子α(TNFα);抗炎症性サイトカイン、例えば、IL-13ならびにそれらの受容体;炎症性サイトカイン、例えば、IL-6、IL-12およびIL-23(IL-12/IL-23p40、IL-23p19)、IL-17、IL-21ならびにそれらの受容体;細胞接着分子、例えば、MadCAM-1、ICAM-1;C-Cケモカイン受容体、例えば、CCR5、CCR9およびそれらのリガンド;インテグリン、例えば、α4β7、β7、α2β1、αEβ7;トール様受容体、例えば、TLR2、TLR9;エオタキシン、例えば、Eotaxin-1;腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー、例えば、OX40;マトリックスメタロプロテイナーゼ、例えば、MMP-9;C-X-Cモチーフケモカイン、例えば、IP-10;ならびに他のタンパク質、例えばD20からなる群から選択される抗原に特異的な抗体、または
(ii)当該抗体の機能的断片
である、組成物。
2.大腸管腔における当該抗体またはその機能的断片の局所微小環境のpHを低下させる、項目1に記載の使用のための組成物。
3.当該治療により、炎症性腸疾患に罹患しているヒト患者の結腸管腔におけるpHが低下する、項目1または2に記載の使用のための組成物。
4.当該治療により、炎症性腸疾患に罹患しているヒト患者の末端回腸の管腔におけるpHが低下する、項目1~3に記載の使用のための組成物。
5.当該ヒト患者がクローン病または潰瘍性結腸炎に罹患している患者である、項目1~4に記載の組成物。
6.当該ヒト患者が、寛解状態であるか、または当該炎症性腸疾患の軽度もしくは中程度の形態に罹患している、項目1~5のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
7.大腸管腔におけるpHの低下が、当該活性剤の胃腸壁への取り込みおよび/または浸透を促進する、項目1~6のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
8.前記治療により、大腸管腔におけるpHが7を下回る、項目1~7のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
9.前記治療により、大腸管腔におけるpHが6.5を下回る、項目1~8のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
10.前記治療により、大腸管腔におけるpHが6.3を下回り、好ましくは6前後である、項目1~9のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
11.前記治療により、大腸管腔におけるpHが6.1を下回る、項目1~10のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
12.前記治療により、大腸管腔、好ましくは結腸管腔におけるpHが5.5~6.5、好ましくは5.6~6.4、より好ましくは5.7~6.3、更により好ましくは約5.8~6.2、最も好ましくは5.9~6.1、例えば6.0前後となる、項目1~8のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
13.前記治療により、末端回腸におけるpHが7を下回る、好ましくは6.5を下回る、より好ましくは6.3を下回る、更により好ましくは6前後となる、項目1~8のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
14.酸性化剤、緩衝剤およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含む、項目1~13のいずれかに記載の使用のための組成物。
15.(i)前記少なくとも1つの添加剤が、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、リン酸、プロピオン酸、ソルビン酸、コハク酸および酒石酸からなる群から選択される酸性化剤であり、および/または、(ii)前記少なくとも1つの添加剤が、Trisクエン酸緩衝液(Tris+クエン酸+クエン酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム)、リン酸クエン酸緩衝液(二塩基性リン酸ナトリウム+クエン酸)、リン酸緩衝液(一塩基性リン酸ナトリウム+二塩基性リン酸ナトリウム)からなる群から選択される緩衝剤である、項目14に記載の使用のための組成物。
16.前期治療により、活動性疾患を伴う炎症性腸疾患に罹患しているヒト患者の大腸管腔におけるpHが低下する、項目1~5および項目7~15のいずれかに記載の使用のための組成物。
17.前記組成物が、ヒト患者の大腸管腔に治療上効果的な用量の前記抗体またはその機能的断片を与える、項目1~16のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
18.前記組成物により、ヒト患者の大腸管腔における前記抗体またはその機能的断片の濃度が0.02~2mg/ml、好ましくは0.2~1mg/mlの範囲となる、項目1~17のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
19.更に、前記治療により、前記抗体またはその機能的断片の濃度が0.02~1mg/ml、好ましくは0.2~0.8mg/mlの範囲となる、項目17または18に記載の使用のための組成物。
20.前記組成物により、ヒト患者の結腸管腔における前記抗体またはその機能的断片の濃度が0.02~2mg/ml、好ましくは0.2~1mg/mlの範囲となる、項目18に記載の使用のための組成物。
21.前記組成物により、ヒト患者の末端回腸の管腔における前記抗体またはその機能的断片の濃度が0.02~2mg/ml、好ましくは0.2~1mg/mlの範囲となる、項目18に記載の使用のための組成物。
22.前記抗体またはその機能的断片の濃度が0.02~0.4mg/mlの範囲、好ましくは0.2mg/ml前後であり、前記抗体またはその機能的断片が胃腸壁の少なくとも一部、好ましくは深さ全体に効果的に浸透する、項目17~21に記載の使用のための組成物。
23.前記抗体またはその機能的断片の濃度が、0.05~0.35mg/ml、好ましくは0.1~0.3mg/ml、より好ましくは0.15~0.25mg/mlの範囲、最も好ましくは0.2mg/ml前後である、項目22に記載の使用のための組成物。
24.前記抗体またはその機能的断片の濃度が、0.4~1mg/mlの範囲である、項目18~21のいずれかに記載の使用のための組成物。
25.大腸管腔における前記抗体またはその機能的断片の濃度が0.5~0.95mg/ml、好ましくは0.6~0.9mg/ml、より好ましくは0.75~0.85mg/mlの範囲、最も好ましくは0.8mg/ml前後である、項目24に記載の使用のための組成物。
26.更に、高レベルの胃腸炎症を伴うヒト患者に、大腸管腔で高濃度の抗体またはその機能的断片を与える、項目1~17のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
27.大腸管腔での前記高濃度の抗体またはその機能的断片が、0.8mg/ml以上である、項目26に記載の使用のための組成物。
28.更に、低~中レベルの胃腸炎症を伴うヒト患者に、大腸管腔で約0.2mg/ml前後の濃度の抗体またはその機能的断片を与える、項目1~17に記載の使用のための組成物。
29.前記機能的抗体断片が、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質またはミニボディである、項目1~28のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
30.固体剤形である、項目1~29のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
31.前記固体剤形が、1つもしくは複数のペレット、1つもしくは複数の顆粒、1つもしくは複数の微粒子、1つもしくは複数のナノ粒子、1つもしくは複数のミニ錠剤、カプセル、または錠剤である、項目30に記載の使用のための組成物。
32.前記固体剤形が、項目14または15に規定されるような少なくとも1つの添加剤を含み、前記添加剤が、前記抗体またはその機能的断片と共にマトリックスに含まれ、かつ、層または区画の一部である、項目30または31に記載の使用のための組成物。
33.前記少なくとも1つの添加剤が層の一部である、項目32に記載の使用のための組成物。
34.前記少なくとも1つの添加剤が、前記活性剤を含まない層の一部である、項目33に記載の使用のための組成物。
35.前記少なくとも1つの添加剤を含む層が、前記抗体またはその機能的断片を含む前記固体剤形のコア上に適用される、項目34に記載の使用のための組成物。
36.前記少なくとも1つの添加剤が、前記抗体またはその機能的断片を含む区画または層とは別の区画または層の一部であり、前記少なくとも1つの添加剤を含む前記区画または層が、乾燥した区画または層の全重量に対して、1~80%、好ましくは2~65%、より好ましくは5~50%、更により好ましくは10~40%の添加剤を含む、項目32に記載の使用のための組成物。
37.前記少なくとも1つの添加剤を含む前記区画または層が更に、親水性ポリマー、充填剤、崩壊剤、粘着防止剤および/または潤滑剤を含む、項目32または36に記載の使用のための組成物。
38.前記治療が、前記組成物の経口投与を含む、項目1~37のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
39.前記組成物が、腸の回腸結腸領域まで前記活性剤の放出を防ぐコーティング材料で被覆したペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、カプセルまたは錠剤、好ましくはペレットまたは錠剤の形態の固体剤形である、項目38に記載の使用のための組成物。
40.前記コーティング材料が、pH依存的に崩壊する材料、時間依存的に崩壊する材料、当該大腸環境における酵素トリガーにより崩壊する材料、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目39に記載の組成物。
41.前記コーティング材料が、酢酸フタル酸ポリビニル、トリメリット酸酢酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースHP-50、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースHP-55、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースHP-55S、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、アクリル酸コポリマー、Eudragit L100-55、Eudragit L30D-55、Eudragit L-100、Eudragit L12.5、Eudragit S-100、Eudragit S12.5、Eudragit FS30D、ヒドロキシルプロピルエチルセルロースフタレート、PEG 6000、Ac-di-sol、タルク、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸塩、ペクチン、グアーガム、キトサン、ラクトース、マルトース、セロビオース、イヌリン、シクロデキストリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、グアーガム、デンプン、トラガカント、ローカストビーンガム、セルロース、アラビノガラクタン、アミラーゼまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目40に記載の使用のための組成物。
42.前記治療が前記組成物の直腸投与を含む、および/または、前記組成物が浣腸剤、ゲル、フォームまたは座薬である、項目1~37のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
43.前記治療前の前記ヒト患者の大腸管腔におけるpHが6.5よりも高い、好ましくは6.7よりも高い、より好ましくは6.9よりも高い、項目1~42のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
44.前記濃度の部位で胃腸壁に取り込まれる前記抗体またはその機能的断片の組織レベルと直接相関する、大腸管腔内での前記抗体またはその機能的断片の濃度をさらに提供する、項目1~43のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
45.前記局所治療により、炎症部位の胃腸壁への前記抗体またはその機能的断片の取り込みが増大する、項目1~44のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
46.前記局所治療により、前記抗体またはその機能的断片が炎症部位で胃腸壁により迅速に取り込まれる、項目1~45のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
47.前記局所治療により、前記抗体またはその機能的断片が炎症部位で胃腸壁のより深部の粘膜下層へより迅速に浸透する、項目1~46のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
48.前記局所治療により、抗体またはその機能的断片が、身体の残りの部分に全身放出(major systemic release)されることなく、胃腸壁内に保持される、項目1~47のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
49.前記使用が、前記胃腸壁の部分的に完全性が損なわれた部位での抗体またはその機能的断片に特異的な抗体に対する吸収能力が向上したヒト患者における炎症性腸疾患の局所治療において効果的な、大腸管腔内での抗体またはその機能的断片の濃度を提供する、項目1~48のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
50.前記抗体またはその機能的断片が抗TNFα抗体である、項目1~49のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
51.前記抗TNFα抗体またはその機能的断片がインフリキシマブである、項目50に記載の使用のための組成物。
52.前記抗TNFα抗体またはその機能的断片がアダリムマブである、項目50に記載の使用のための組成物。
53.前記抗体またはその機能的断片が抗TNFα抗体の機能的断片である、項目1~49のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
54.前記抗TNFα抗体の機能的断片がFab断片である、項目53に記載の使用のための組成物。
55.前記抗TNFα抗体の機能的断片がインフリキシマブのFab断片である、項目54に記載の使用のための組成物。
56.前記抗TNFα抗体の機能的断片がアダリムマブのFab断片である、項目54に記載の使用のための組成物。
57.前記抗体またはその機能的断片が、インフリキシマブ、アダリムマブ、インフリキシマブのFab断片およびFab断片アダリムマブから選択される、項目1~49に記載の使用のための組成物。
58.a)抗体またはその機能的断片と、
b)少なくとも1つの添加剤と、
を準備し、
c)項目38~42に記載の適用を可能にするコーティング材料で成分a)およびb)を被覆することを含む、項目1~57のいずれかに1つに規定される組成物を製造するためのプロセス。
59.前記添加剤が少なくとも1つの緩衝剤および/または酸性化剤を含む、項目58に記載のプロセス。
60.前記少なくとも1つの酸性化剤が、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、ソルビン酸および酒石酸からなる群から選択される、項目59に記載のプロセス。
61.前記少なくとも1つの緩衝剤が、Trisクエン酸緩衝液(Tris+クエン酸+クエン酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム)、リン酸クエン酸緩衝液(二塩基性リン酸ナトリウム+クエン酸)、リン酸緩衝液(一塩基性リン酸ナトリウム+二塩基性リン酸ナトリウム)からなる群から選択される、項目59に記載のプロセス。
62.前記抗体またはその機能的断片がTNFαに特異的な抗体およびその機能的断片からなる群から選択される、項目1~57のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
63.前記治療が、前記抗体またはその機能的断片を前記ヒト患者に対して一日1回、一日2回または一日3回投与することを含む、項目1~57および62のいずれか1つに記載の使用のための組成物。
64.前記治療が、前記抗体またはその機能的断片を前記ヒト患者に対して一日1回投与することを含む、項目63に記載の使用のための組成物。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】1時間のインキュベーション時点での銀染色により検出される、ヒト結腸モデル糞便接種物におけるA)インフリキシマブ、B)アダリムマブ、ならびにC)アダリムマブのF(ab’)2、FabおよびFc断片への変換を確認するSDS-PAGEゲルの安定性。SECおよびSDS-PAGEによりインフリキシマブの断片化を同様に確認した(データは示さず)。各値は平均±S.D(n=3)を表す。レーン1:タンパク質分子量標準;レーン2:1時間での結腸モデルにおける完全なmAbアダリムマブ;レーン3:1時間での結腸モデルで検出されるアダリムマブF(ab’)2の形成;レーン4:1時間での結腸モデルで検出されるアダリムマブFcおよびFabの形成。
【
図2】それぞれ異なる時点でのウッシングチャンバーの頂端(apical)および基底外側(basolateral)区画におけるインフリキシマブおよびアダリムマブのSE-HPLCデータ。A)A)インフリキシマブまたはB)アダリムマブを使用して、ウッシングチャンバーシステムに固定し、2mg/mlの濃度で適用し、異なる時点で定量化したラット上行結腸組織セグメントの頂端側に残る抗体%。頂端側および基底外側に残る抗体の定量化を、サイズ排除高圧液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)により行った。各値は平均±標準偏差(S.D.)(n=3)を表す。
【
図3】頂端濃度2mg/ml(n=3)での上行結腸組織へのインフリキシマブの浸透の共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)。インフリキシマブはヤギ抗ヒトIgG二次抗体で赤色に染色し、細胞成分は緑色に染色し、核はDAPIで青色に染色した。A)結腸組織へのインフリキシマブの浸透(10倍の解像度)。B)陰性対照としての、インフリキシマブに曝露していない結腸組織(10倍の解像度)。C)40倍の解像度での粘膜領域へのインフリキシマブの浸透。D)インフリキシマブに曝露していない結腸組織の粘膜領域(40倍の解像度)。
【
図4】頂端濃度2mg/ml(n=3)の上行結腸組織へのアダリムマブの浸透のCLSM。アダリムマブは抗ヒトIgG二次抗体で赤色に染色し、細胞成分は緑色に染色し、核はDAPIで青色に染色した。A)結腸組織におけるアダリムマブ(10倍の解像度)。B)陰性対照としての、アダリムマブに曝露していない結腸組織(10倍の解像度)。C)40倍の解像度での粘膜領域へのアダリムマブの浸透。D)アダリムマブに曝露していない結腸組織の粘膜領域(40倍の解像度)。
【
図5】A)それぞれ異なる時点での頂端および基底外側区画におけるインフリキシマブおよびアダリムマブのSE-HPLCデータ。A)インフリキシマブまたはB)アダリムマブを使用して、ウッシングチャンバーシステムに固定し、0.8mg/mlの濃度で適用し、異なる時点で定量化したラット上行結腸組織セグメントの頂端側に残る抗体%。各値は平均±S.D.(n=3)を表す。
【
図6】凍結切片化および染色後の0.8mg/ml抗体を用いたウッシングチャンバーインキュベーション実験終了時の、上行性ラット結腸組織切片のCLSM。インフリキシマブおよびアダリムマブは抗ヒトIgG二次抗体で赤色に染色し、細胞成分は緑色に染色し、核はDAPIで青色に染色した。A)結腸組織へのインフリキシマブの浸透。B)インフリキシマブインキュベーションを行わない結腸組織。C)結腸組織へのアダリムマブの浸透。D)アダリムマブインキュベーションを行わない結腸組織。
【
図7】A)異なる時点での頂端および基底外側区画におけるインフリキシマブおよびアダリムマブのSE-HPLCデータ。A)インフリキシマブまたはB)アダリムマブを使用して、ウッシングチャンバーシステムに固定し、0.2mg/mlの濃度で適用し、異なる時点で定量化したラット上行結腸組織セグメントの頂端側に残る抗体%。
【
図8】凍結切片化および染色後の0.2mg/ml抗体を用いたウッシングチャンバーインキュベーション実験終了時の、上行性ラット結腸組織切片のCLSM。インフリキシマブおよびアダリムマブは抗ヒトIgG二次抗体で赤色に染色し、細胞成分は緑色に染色し、核はDAPIで青色に染色した。A)およびB)結腸組織へのインフリキシマブの浸透。C)およびD)結腸組織へのアダリムマブの浸透。いずれのインキュベーション試験も3回繰り返して行った。
【
図9】インフリキシマブおよびアダリムマブの消化プロセスの概略図。
【
図10】A)~C)頂端濃度0.8mg/mlのラット上行結腸組織セグメントにおけるインフリキシマブFab断片の浸透。D)インフリキシマブFab断片に曝露せずに二次抗体で染色した、バックグラウンドシグナルを示さない対照組織。試験は3回繰り返して行った。
【
図11】A)~C)ウッシングチャンバーシステムに固定されたラット上行結腸組織セグメントへの、頂端濃度0.8mg/mlのラット上行結腸組織セグメントにおけるアダリムマブFab断片の浸透。D)アダリムマブFab断片に曝露せずに二次抗体で染色した、バックグラウンドシグナルを示さない対照組織。試験は3回繰り返して行った。
【
図12】A)およびB)ウッシングチャンバーシステムに固定されたラット上行結腸組織セグメントへの、頂端濃度0.2mg/mlのラット上行結腸組織セグメントにおけるインフリキシマブおよびアダリムマブFab断片の浸透。C)インフリキシマブ/アダリムマブFab断片に曝露していないが、二次抗体で染色され、バックグラウンドシグナルを示さない対照組織。試験は3回繰り返して行った。
【
図13】A)およびB)ウッシングチャンバーシステムにおいて粘液層が損傷したラット上行結腸組織および下行結腸組織それぞれへのインフリキシマブの浸透。C)およびD)粘液層が損傷した上行結腸組織および下行結腸組織へのアダリムマブの浸透。
【
図14】pH6または7.4で0.2mg/mlインフリキシマブ抗体とともにインキュベートした上行性ラット結腸組織切片のCLSM。抗体シグナルのみを示す。A)およびB)頂端pH6のラット上行結腸組織におけるインフリキシマブの浸透。C)およびD)頂端pH7.4のラット上行結腸組織におけるインフリキシマブの浸透(n=3)。
【
図15】pH6または7.4で0.2mg/mlアダリムマブ抗体とともにインキュベートした上行性ラット結腸組織切片のCLSM。抗体シグナルのみを示す。A)およびB)頂端pH6のラット上行結腸組織におけるアダリムマブの浸透。C)およびD)頂端pH7.4のラット上行結腸組織におけるアダリムマブの浸透。
【
図16】ヒト結腸組織サンプルを含むウッシングチャンバーでの2時間のインキュベーション終了時に頂端区画に残る、A)インフリキシマブおよびB)アダリムマブの%用量。
【
図17】A)およびB)ヒト結腸粘膜および固有層領域におけるインフリキシマブの局在化。C)インフリキシマブに曝露せずに二次抗体に曝露したヒト結腸粘膜対照。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、最も好ましい実施形態を表す腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体およびその機能的断片に関して以下に記載される。以下に記載されるすべての実施形態は、他の標的(抗原)に関する抗体およびその機能的断片にも準用される。これら抗体およびそれらの機能的断片の標的としては、抗炎症性サイトカイン、例えば、IL-13ならびにそれらの受容体;炎症性サイトカイン、例えば、IL-6、IL-12およびIL-23(IL-12/IL-23p40、IL-23p19)、IL-17、IL-21ならびにそれらの受容体;細胞接着分子、例えば、MadCAM-1、ICAM-1;C-Cケモカイン受容体、例えば、CCR5、CCR9およびそれらのリガンド;インテグリン、例えば、α4β7、β7、α2β1、αEβ7;トール様受容体、例えば、TLR2、TLR9;エオタキシン、例えば、Eotaxin-1;腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー、例えば、OX40;マトリックスメタロプロテイナーゼ、例えば、MMP-9;C-X-Cモチーフケモカイン、例えば、IP-10;および他のタンパク質、例えばD20が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい標的は、α4β7インテグリンおよびCD20である。
【0013】
本発明は、炎症性腸疾患の局所治療における使用のための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体およびその機能的断片からなる群から選択される活性剤を含む組成物であって、当該治療によりヒト患者の大腸管腔におけるpHが低下する、組成物に関する。
【0014】
本出願の文脈において、用語「抗体」は、クラスIgG、IgM、IgE、IgAまたはIgD(またはその任意のサブクラス)に属するタンパク質として定義される「免疫グロブリン」(Ig)の同意語として使用され、従来より知られているすべての抗体およびそれらの機能的断片を包含する。本発明の文脈において、抗体/免疫グロブリンの「機能的断片」は、親抗体の特性を本質的に維持する、このような親抗体の抗原結合断片または他の誘導体として定義される。
【0015】
抗体/免疫グロブリンの「抗原結合断片」は、抗原結合領域を保持する断片(例えば、IgGの可変領域)として定義される。抗体の「抗原結合領域」は通常、抗体の1つまたは複数の超可変領域、すなわちCDR-1、-2、および/または-3領域に見られる。本発明の「抗原結合断片」には、F(ab’)2断片およびFab断片のドメインが含まれる。本発明の「機能的断片」としては、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質およびミニボディが挙げられる。F(ab’)2またはFabドメインは、CH1ドメインとCLドメインとの間に発生する分子間ジスルフィド相互作用を最小化または完全に除去するように設計してもよい。本発明の抗体または機能的断片は、二機能性または多機能性構築物の一部であってもよい。
【0016】
本発明の好ましい機能的断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、scFvおよびダイアボディである。
【0017】
Fab断片は、パパイン(EC3.4.22.2)のようなシステインプロテイナーゼでTNFα特異的抗体を消化した後、精製した消化産物として得られる。F(ab’)2断片は、ペプシン(EC3.4.23.1)またはIdeS(化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来の免疫グロブリン分解酵素;EC3.4.22)でTNFα特異的抗体を消化した後、精製した消化産物として取得することができる。Fab’断片は、穏やかな還元条件下でF(ab’)2断片から得ることができ、それにより、各F(ab’)2分子は2つのFab’断片を生じさせる。
【0018】
scFvは、可変軽(「VL」)および可変重(「VH」)ドメインがペプチド架橋により連結されている単鎖Fv断片である。
【0019】
「ダイアボディ」は、リンカーなどを介して接合した可変領域をそれぞれが有する2つの断片(以下、ダイアボディ形成断片と呼ばれる)からなるダイマーで、通常2つのVLと2つのVHとを含有する。ダイアボディ形成断片には、VLとVH、VLとVL、VHとVHなど、好ましくはVHとVLからなる断片が含まれる。ダイアボディ形成断片において、可変領域を接合するリンカーは特に限定されないが、同じ断片の可変領域間の非共有結合を回避するのに十分短いことが好ましい。そのようなリンカーの長さは、当業者によって適宜決定され得るが、典型的には2~14のアミノ酸、好ましくは3~9のアミノ酸、特に4~6のアミノ酸が使用される。この場合、同じ断片上でコードされたVLとVHは、同じ鎖上のVLとVHとの非共有結合を回避し、かつ、単鎖可変領域断片の形成を回避するのに十分短いリンカーを介して接合され、それにより、他の断片を有する二量体を形成することができる。二量体は、ダイアボディ形成断片間の共有結合または非共有結合のいずれか、または両方により形成することができる。
【0020】
更に、ダイアボディ形成断片は、リンカーなどを介して接合して、単鎖ダイアボディ(sc(Fv)2)を形成することができる。約15~20のアミノ酸の長いリンカーを使用してダイアボディ形成断片を接合することにより、同じ鎖上に存在するダイアボディ形成断片間に非共有結合を形成して二量体を形成することができる。ダイアボディを調製するのと同じ原理に基づいて、三量体または四量体などの重合抗体も、3つ以上のダイアボディ形成断片を接合することにより調製可能である。
【0021】
好ましくは、本発明の抗体または機能的断片は、TNFαに特異的に結合する。本明細書で使用される際、用語「抗TNFα抗体」、「TNFα抗体」および「TNFαに特異的な抗体」は互換可能である。その最も一般的な形態(および定義された参照が言及されていない場合)において、「特異的結合」は、例えば当該分野で公知の特異性アッセイ方法に従って測定される、ヒトTNFαと、無関係の生体分子とを識別する抗体または機能的断片の能力を指す。このような方法は、ウエスタンブロットおよび酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)試験を含むが、これらに限定されない。例えば、標準的なELISAアッセイを実施することができる。通常、結合特異性の決定は、単一の参照生体分子ではなく、粉乳、BSA、トランスフェリンなどの約3~5個の無関係な生体分子のセットを使用して実行する。一実施形態において、特異的結合は、抗体または断片がヒトTNFαとヒトTNFβとを識別する能力を指す。本発明の好ましい実施形態において、TNFα抗体またはその機能的断片はTNFα抗体である。本発明の代替的に好ましい実施形態において、TNFα抗体またはその機能的断片は、TNFα抗体の機能的断片である。
【0022】
本出願の文脈において、用語「局所治療」は、例えば、市販製品で使用される静脈内注入または皮下注射によるTNFα抗体含有組成物の全身適用とは異なる、組成物の局所適用を説明するために使用される。しかしながら、腸管腔における局所治療は、組成物の投与方法によって制限されない。この文脈における用語「投与」は、組成物が患者の身体と最初に接触する方法および形態に関する。これは、適切な形態の組成物を経口投与、直腸投与、または局所適用部位での組成物の蓄積をもたらす任意の他の方法で投与可能であることを意味する。
【0023】
本発明において、用語「大腸管腔」は、大腸および小腸の末端回腸の組み合わされた連続した内部に使用される。大腸は、胃腸管の最後から2番目の部分であり、更に盲腸、結腸および直腸に細分化することができる。結腸は更に、上行結腸、横行結腸、および下行結腸に細分化することができる。小腸の末端回腸は、小腸の最後から2番目の部分であり、盲腸に直接隣接している。一実施形態において、用語「大腸管腔」は、大腸の連続した内部を指す。本明細書で使用する用語「胃腸管」は、口と肛門の間のすべての構造を含み、連続的な通路を形成し、摂取された物質の消化、栄養素の吸収、および糞便の排出に関与する人体の器官系を説明する。
【0024】
本発明の組成物を用いた局所治療により、ヒト患者の大腸管腔のpHが低下する。驚くべきことに、結腸のpHが弱酸性である場合、大腸壁への抗TNFα抗体の取り込みおよび浸透が特に効果的であることが本発明者らによって見出された。特に、大腸壁への取り込みおよび浸透は、中性または弱塩基性のpH(例えば、pH7.4)よりも弱酸性のpH(例えば、pH6)でより効果的であることが判明した。したがって、本発明の一実施形態において、大腸管腔内のpHの低下は、胃腸壁への活性剤の取り込みおよび/または浸透を促進する。
【0025】
本発明において、用語「大腸壁」は、大腸管腔を取り囲み、大腸管腔と身体の残りの部分との間にバリアを形成する多層組織を定義するために使用される。本発明の文脈において、その最も広い定義では、大腸壁はまた、末端回腸の胃腸壁も含む。このバリアは、抗体およびその断片を含む、栄養素および他の分子の規定セットの能動的および受動的吸収を可能にする。大腸壁はいくつかの層で構成されている。これらには、大腸管腔に面する層から始まって、粘膜層または粘膜、続いて粘膜下層または粘膜下組織が含まれる。粘膜は、管腔に面する側から始まって、上皮、固有層および粘膜筋板に更に細分化することができる。管腔側では、粘膜層は「粘液層」によって保護されており、この「粘液層」は、ムチンファミリーの糖タンパク質を主成分とする粘性タンパク質ゲルである。大腸壁は胃腸壁の一部である。胃腸壁は、胃腸管を取り囲む組織に対応し、胃腸管と身体の他の部分との間にバリアを形成する。
【0026】
本明細書においてその最も広い定義で使用される場合、用語「取り込み」は、抗体またはその機能的断片のような分子の胃腸壁への吸収を指す。より具体的な定義では、取り込みは、大腸壁に移行する、大腸管腔、または大腸管腔のサブボリューム内の抗TNFα抗体またはその機能的断片の総用量の一部を指すか、または規定量の大腸壁組織に移行する抗TNFα抗体またはその機能的断片の量を指す場合がある。本明細書で使用される際、用語「浸透」は、抗TNFα抗体またはその機能的断片が大腸壁に進入する深さを指す場合がある。この定義によれば、粘膜下層は大腸壁内の粘膜層よりも深部に位置している。
【0027】
従来技術では、ヒト結腸のpH値は6.5~7.5の範囲であると報告されている。ヒト結腸粘膜のインビボ表面pHは、pH7.1~7.5の範囲であり、すべての解剖学的セグメントで管腔pHより一貫して高いことが報告されている(McDougall et al.,Dig.Dis.Sci.1993;38:542-5)。これに鑑みると、本発明者らの上記の知見によれば、抗TNFα抗体またはその機能的断片が組成物から放出される部位で大腸管腔におけるpHを低下させる際、抗TNFα抗体またはその機能的断片の大腸壁への最適な取り込みおよび浸透を確保することが重要である。したがって、本発明の組成物は、抗TNFα抗体またはその機能的断片での治療中に、ヒト患者の大腸管腔のpHの低下をもたらす形態で提供される。このpHの低下は、例えば、大腸管腔のセクションもしくはサブボリュームにおける、または組成物から放出される抗TNFα抗体もしくはその機能的断片の局所微小環境における、大腸管腔の少なくとも一部での低下を指すと理解される。更に、一実施形態において、大腸管腔におけるこのpHの低下は、好ましくは、管腔自体における全体的な減少ではなく、(胃壁の漿膜側ではなく)管腔側の胃腸壁またはその付近での低下を指すと理解される。本発明の代替実施形態において、本発明の組成物による治療は、ヒト患者の結腸管腔のpHの低下をもたらす。別の代替実施形態において、本発明の組成物による治療は、ヒト患者の上行結腸管腔でのpHの低下をもたらす。更に別の代替実施形態において、本発明の組成物による治療は、ヒト患者の横行結腸管腔でのpHの低下をもたらす。さらなる代替実施形態において、本発明の組成物による治療は、ヒト患者の下行結腸管腔でのpHの低下をもたらす。さらなる代替実施形態において、本発明の組成物による治療は、ヒト患者の近位結腸管腔でのpHの低下をもたらす。さらなる代替実施形態において、本発明の組成物による治療は、ヒト患者の遠位結腸管腔でのpHの低下をもたらす。
【0028】
大腸管腔でのpHを測定する手段は、当技術分野で知られている。大腸管腔のpHは、ラジオテレメトリーカプセル、例えばワイヤレス運動カプセル(WMC)、経口で通過したpH感応性電極またはIntelliCap(登録商標)システム(Medimetrics)を使用して測定することができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、組成物は、大腸管腔内の抗体または機能的断片の局所微小環境のpHを低下させることができる。微小環境は、特定の治療効果を得るために、すなわち治療効果のために生体の標的領域に調整した薬剤組成物を送達することにより、特定の条件が制御および維持される空間である。一実施形態において、本明細書で使用される際、用語「微小環境」は、組成物からの抗TNFα抗体またはその断片の制御放出を促進するためにpHが低下することを特徴とする大腸管腔内の部位またはサブボリュームを指す。別の実施形態において、抗体またはその機能的断片の局所微小環境は、腸管腔内の部位またはサブボリュームを指し、ここでは抗体またはその機能的断片が組成物から放出される。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、組成物による局所治療は、7未満、好ましくは6.5未満、より好ましくは6.3未満、更により好ましくは6前後の大腸管腔でのpHをもたらす。別の実施形態において、局所治療により、大腸管腔、好ましくは結腸管腔でのpHが5.5~6.5、好ましくは5.6~6.4、より好ましくは5.7~6.3、更により好ましくは約5.8~6.2、最も好ましくは5.9~6.1、例えば6.0前後となる。用語「大腸管腔でのpHをもたらす」に続く特定の値、例えば7、6.5などは、治療により大腸管腔の全体にわたって管腔pHが上記の値を下回ることを意味するものではなく、大腸管腔の一部、例えば、組成物から放出される大腸管腔のセクションまたはサブボリューム内、または抗TNFα抗体またはその機能的断片の局所微小環境内において管腔pHが生じることを意味するものと理解される。
【0031】
大腸管腔でのpHを低下させる適切な手段は、当技術分野で知られている。管腔pHを所望の範囲内まで低下させるための適切な手段としては、例えば、緩衝剤および/または酸性化剤が挙げられる。本明細書で使用される際、用語「酸性化剤」は、酸性化を直接的または間接的に引き起こす物質または薬剤を指す。例えば、酸性化剤は、酸である、酸になる、または酸を生成する有機または無機物質である。本発明の好ましい実施形態において、組成物は、添加剤として少なくとも1つの緩衝剤および/または酸性化剤を含む。ヒトの摂取に適した酸性化剤は、当技術分野で知られている。本発明の組成物に適した酸性化剤としては、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、リン酸、プロピオン酸、ソルビン酸、コハク酸および酒石酸が挙げられる。適切な緩衝剤の例としては、Tris-クエン酸緩衝液(Tris+クエン酸+クエン酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム)、リン酸クエン酸緩衝液(二塩基性リン酸ナトリウム+クエン酸)、リン酸緩衝液(一塩基性リン酸ナトリウム+二塩基性リン酸ナトリウム)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明によれば、組成物は、投与時にヒト患者の大腸管腔の局所治療を可能にする任意の形態であり得る。組成物は、ペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、カプセルまたは錠剤などの形態の固体剤形であってもよい。固形剤形の製造方法は当技術分野で知られており、例えば「Aulton’s Pharmaceutics:The Design and Manufacture of Medicines,Churchill Livingstone title,4th revised edition,2013(ISBN:978-0-7020-4290-4)」を参照することができる。本発明の組成物が、緩衝剤、酸性化剤およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤を含む場合、抗TNFα抗体またはその機能的断片および当該少なくとも1つの添加剤は、固体剤形の同じ区画または層の一部であってもよいし、別の区画または層の一部であってもよい。本発明の一実施形態において、添加剤は、区画または層の一部であり、抗TNFα抗体またはその機能的断片とともにマトリックスに含まれる。本明細書で使用される際、固体剤形の「区画」は、その物理化学的特性により固体剤形の隣接区画から分離可能な、固体剤形の別個のサブユニットを形成する固体剤形全体のセクションである。当該区画は、顆粒、粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、ペレット、ミニカプセルまたはミニ錠剤などの形態であり得、これらは固体剤形に組み合わされる。本明細書で使用される際、固体剤形の「層」は、例えば、不活性コアまたは既に不活性コアに適用されている別の層に適用され、その物理化学的特性により固体剤形または他の層のコアから分離可能な、規定の厚さを有するフィルムまたはコーティングである。不活性コアに、または別の層の上に層を適用する方法は、当技術分野で知られている。不活性コアおよび固体剤形の1つまたは複数の層の成分に応じて、水性媒体への曝露時に、異なる層が連続的に溶解し得る。最初に最外層、そして直下の層が続く。最初に最外層から部分的に順次溶解していくが、最外層が完全に溶解する前に直下層が溶解し始めるか、または例えば、崩壊剤の存在に起因して、本質的に同時に、任意に不活性コアの迅速な崩壊によってサポートされる。
【0033】
抗TNFα抗体またはその機能的断片、ならびに緩衝剤、酸性化剤およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤が固体剤形の異なる区画の一部である場合、それらは、上記の異なる層の放出と同様、同時にまたは連続して、好ましくは同時に放出され得る。抗TNFα抗体またはその機能的断片および少なくとも1つの添加剤は異なる区画の一部であって、連続的または部分的に連続的に放出される場合、少なくとも1つの添加剤が最初に放出されるのが好ましい。
【0034】
抗TNFα抗体またはその機能的断片および少なくとも1つの添加剤が固体剤形の異なる層の一部である場合、層は1つ以上の中間層により分離され得る。抗TNFα抗体またはその機能的断片および少なくとも1つの添加物は異なる層の一部であって、連続的または部分的に連続的に放出される場合、少なくとも1つの添加物が最初に放出されるのが好ましい。
【0035】
固体剤形のコア、層および/または区画は、親水性結合剤、充填剤、崩壊剤、可塑剤、粘着防止剤および潤滑剤などのさらなる添加剤を含んでもよい。適切な親水性結合剤、充填剤、崩壊剤、可塑剤、粘着防止剤および潤滑剤は、当業者に知られている。親水性結合剤の例としては、コポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。充填剤の例としては、ラクトース、マルトデキストリン、マンニトール、微結晶性セルロース、アルファ化デンプンおよびスクロースエステルが挙げられる。崩壊剤の例としては、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶性セルロースおよびアルファ化デンプンが挙げられる。粘着防止剤の例としては、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびモノステアリン酸グリセリルが挙げられる。潤滑剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリル、硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、タルクおよびショ糖エステルが挙げられる。
【0036】
本発明の一実施形態において、固体剤形の形態である組成物は、全剤形に基づき約0.1~約50重量%(好ましくは全剤形に基づき約1~約30重量%)の抗TNFα抗体もしくはその機能的断片、または抗TNFα抗体および/もしくはその機能的断片の組み合わせ;全剤形に基づき約1~約60重量%(好ましくは全剤形に基づき約5~約50重量%)の緩衝剤、酸性化剤およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤;および全剤形の約0~約95重量%の他の添加剤を含んでいる。
【0037】
固体剤形の緩衝剤、酸性化剤およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤が、抗TNFα抗体またはその機能的断片を含む区画または層とは別個の区画または層の一部である一実施形態において、少なくとも1つの添加剤を含む当該区画または層は、区画または層の総重量に対して、1~80%、好ましくは2~65%、より好ましくは5~50%、更により好ましくは10~40%の添加剤を含むことができ、更に 親水性ポリマー、充填剤、崩壊剤、粘着防止剤および潤滑剤を含むことができる。
【0038】
本発明によれば、本発明の組成物の投与時のTNFα抗体またはその機能的断片の大腸管腔内での濃度は特に限定されない。本発明の一実施形態において、本発明の組成物の投与時の大腸管腔における抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度は、0.02mg/ml~2mg/mlの範囲、好ましくは0.2mg/ml~1mg/ml、より好ましくは0.2mg/ml~0.8mg/mlである。
【0039】
本発明者らは、大腸壁の管腔側での抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度を、例えば0.02mg/mlから2mg/mlまで段階的に増加させることにより、所与の時間内での胃腸壁への抗体の取り込みも増加することを見出した。したがって、本発明の一実施形態において、ヒト患者の大腸管腔の局所治療に使用する組成物は、大腸壁に取り込まれた抗TNFα抗体またはその機能的断片の組織レベルと直接相関する、大腸管腔内での抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度を提供する。炎症性腸疾患による胃腸炎症のレベル/程度は、患者間で、ならびに特定の患者のさまざまな時点で異なる場合がある。炎症性腸疾患に起因する胃腸炎症のレベル/程度を決定する方法は、当技術分野で知られている。炎症性腸疾患による胃腸炎症のレベル/程度は、例えば、患者の便または血液サンプルそれぞれにおける胃腸炎症の糞便または血清学的バイオマーカー、好ましくは糞便バイオマーカーのレベルを測定することにより決定することができる。胃腸炎症の糞便バイオマーカーは、カルプロテクチン、ラクトフェリン、S100A12またはTNFαを含み、免疫化学的手法を使用して決定することができる。
【0040】
上記の発見に従って、患者に提供される抗TNFα抗体またはその機能的断片の用量を、各患者の個々のニーズに適合させることができる。したがって、本発明の別の実施形態において、組成物は更に、ヒト患者の大腸における炎症のレベルに適合可能な、大腸管腔内での抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度を提供し、それにより、大腸に高レベルの胃腸炎症がある患者には、大腸管腔においてより高濃度の抗TNFα抗体またはその機能的断片が与えられ、結果として、炎症レベルが低い患者よりも、より高レベルの抗TNFα抗体またはその機能的断片が標的とする大腸壁によって取り込まれる。
【0041】
更に、本発明者らは、既に、大腸壁の管腔側の、例えば約0.2mg/mlの比較的低濃度の抗TNFα抗体またはその機能的断片が迅速かつ効率的に大腸壁に取り込まれ、最初の曝露から2時間以内に粘膜下層の深部まで効果的に浸透することを見出した。故に、本発明のさらなる実施形態において、組成物は、胃腸炎症が低~中程度のヒト患者に対して、約0.2mg/mlの大腸管腔内での抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度を提供する。炎症性腸疾患のあまり重篤ではない形態(すなわち、炎症性腸疾患の軽度または中等度の形態)、または寛解状態にあるという事実に起因して、患者は低~中程度の胃腸炎症を有している場合がある。
【0042】
大腸管腔における上記範囲内の濃度は、抗TNFα抗体またはその機能的断片の標的とする蓄積によって達成することができる。大腸管腔における標的とする蓄積の方法および手段は特に限定されず、当該分野で公知の方法によって達成することができる。これら方法および手段としては、胃腸管の生来のプロセスの利用が挙げられ、例えば、このプロセスにより、胃腸管の異なるセクションで摂取された物質は、pH、微生物叢および特定の滞留時間に差が生じる。大腸管腔における特定の抗体を含む特定のタンパク質の濃度をサンプリングする方法は、当技術分野で知られている。サンプルは、例えば、排泄した糞から、または肛門を介して大腸に挿入された柔軟なチューブを使用して採取することができる。そして、TNFα抗体濃度は、Nichollsら(J Clin Pathol.1993 Aug;46(8):757-760)の糞便TNFα濃度の測定について記載されているのと同様に、ELISA、ウエスタンブロットまたは他の免疫化学的手法を使用して決定することができ、抗TNF抗体またはその機能的断片に特異的な抗体が組成物に使用されている。
【0043】
大腸壁の粘液層が損傷すると、大腸壁への抗TNFα抗体またはその機能的断片の取り込みが著しく増加することがわかっている。更に、大腸壁の粘液層が損傷すると、抗TNFα抗体またはその機能的断片がより迅速に取り込まれる。例えば、粘液層が損傷すると、抗TNFα抗体またはその機能的断片への最初の曝露後30分で既に、有意により多くの抗TNFα抗体またはその機能的断片が結腸粘膜内に認められる。最後に、粘液層が損傷すると、これにより、粘膜下層の深部に取り込まれた抗TNFα抗体またはその機能的断片のかなりの部分が急速に浸透する。
【0044】
腸粘液層の損傷は、IBDの特徴的特徴であると考えられ、胃腸壁の患部の慢性腸炎を引き起こすと考えられている。このような慢性腸炎の胃腸壁、例えば大腸壁の患部が炎症部位である。特にUCの病因において、粘液層の損傷は重要な要因と考えられている。本明細書で使用される際、用語「粘液層の損傷」は、粘膜の最も外側の上皮層からの粘液層の部分的または完全な喪失を指す。
【0045】
したがって、本発明の一実施形態において、局所治療は、炎症部位での大腸壁への抗TNFα抗体またはその機能的断片の取り込みの増加をもたらす。本発明の別の実施形態において、局所治療により、抗TNFα抗体またはその機能的断片が炎症部位の胃腸壁により迅速に取り込まれる。本発明の更に別の実施形態において、局所治療により、TNFαまたはその機能的断片に特異的な抗体が炎症部位での胃腸壁のより深部の粘膜下層へより迅速に浸透する。好ましい実施形態において、当該抗体は、その取り込みが増加するもしくはより迅速になるか、または炎症部位でより深部まで浸透する抗TNFα抗体である。
【0046】
本発明者らは、抗TNFα抗体またはその機能的断片を結腸組織と共にインキュベートすると、管腔側では効率的に取り込まれるが、2時間のインキュベーション後、反対側の大腸壁には抗TNFα抗体またはその機能的断片が残っていないことを見出した。これは、TNFα抗体またはその機能的断片が結腸組織に効果的に保持されていることを示している。したがって、本発明の更に別の実施形態において、本発明の組成物による局所治療により、胃腸壁に抗TNFα抗体またはその機能的断片が保持され、身体の残りの部分への全身放出はわずかとなる。
【0047】
本発明の一実施形態において、炎症性腸疾患の局所治療に使用する組成物は、大腸管腔において0.02mg/ml~0.4mg/mlの濃度の抗TNFα抗体またはその機能的断片を提供する。この実施形態による大腸管腔内の更に好ましい濃度は、0.05mg/ml~0.35mg/ml、より好ましくは0.1mg/ml~0.3mg/ml、最も好ましくは0.15mg/ml~0.25mg/ml、例えば約0.2mg/mlである。本発明の別の実施形態において、炎症性腸疾患の局所治療に使用する組成物は、大腸管腔において0.4mg/ml~1mg/mlの濃度の抗TNFα抗体またはその機能的断片を提供する。この実施形態による大腸管腔内の更に好ましい濃度は、0.5mg/ml~0.95mg/ml、より好ましくは0.6mg/ml~0.9mg/ml、最も好ましくは0.75mg/ml~0.85mg/ml、例えば約0.8mg/mlである。
【0048】
代替実施形態において、本発明の組成物の使用により、上記実施形態のいずれか1つで定義されるようなpH値に従って、ヒト患者の小腸の末端回腸におけるpHが低下する。別の代替実施形態において、本発明の組成物の使用は、ヒト患者の小腸の末端回腸において、上記実施形態のいずれか1つで定義されるような濃度に従った抗TNFα抗体またはその機能的断片の濃度を提供する。管腔pHのそのような低下および末端回腸でのそのような濃度は、クローン病に罹患している患者にとって特に有益である。したがって、これら代替実施形態において、ヒト患者は好ましくはクローン病に罹患している患者である。
【0049】
本発明によれば、TNFα特異的抗体の機能的断片は、炎症性腸疾患の治療に使用するための組成物に使用することができる。実施例6のFab断片について示されるように、そのような機能的断片の使用は、大腸壁への吸収の増加を可能にし、粘膜および粘膜下組織における機能的断片の蓄積をもたらし得る。好ましくは、本発明の機能的断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、VHH、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質またはミニボディである。
【0050】
本発明の一実施形態において、炎症性腸疾患の局所治療に使用される組成物は経口投与される。本発明の文脈において、経口投与は、口を介した胃腸管への組成物の導入を意味する。本発明の好ましい実施形態において、組成物は、腸の回結腸領域の前では、好ましくは組成物の放出を防ぐコーティング材料で被覆したペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、カプセルまたは錠剤の形態の固体剤形である。回結腸領域は、小腸が大腸に合流する胃腸管の領域、すなわち末端回腸である。
【0051】
大腸管腔における組成物の標的放出のためのコーティング材料は、当技術分野で知られている。コーティング材料は、特定のpH以上で分解するコーティング材料、胃腸管内で特定の滞留時間後に分解するコーティング材料、および大腸の微生物叢に特有の酵素的トリガーにより分解するコーティング材料に更に分類することができる。大腸を標的とするこれら3つの異なるカテゴリーのコーティング材料は、例えばBansalら(Polim.Med.2014,44,2,109-118)において検討されている。このようなコーティング材料のこれらの使用も、例えば、WO2007/122374A2、WO0176562A1、WO03068196A1およびGB2367002Aに記載されている。
【0052】
本発明の好ましいコーティング材料は、酢酸フタル酸ポリビニル、トリメリット酸酢酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースHP-50、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースHP-55、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースHP-55S、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、アクリル酸コポリマー、Eudragit L100-55、Eudragit L30D-55、Eudragit L-100、Eudragit L12.5、Eudragit S-100、Eudragit S12.5、Eudragit FS30D、ヒドロキシルプロピルエチルセルロースフタレート、PEG 6000、Ac-di-sol、タルク、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸塩、ペクチン、グアーガム、キトサン、ラクトース、マルトース、セロビオース、イヌリン、シクロデキストリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、グアーガム、デンプン、トラガカント、ローカストビーンガム、セルロース、アラビノガラクタン、アミロースおよびそれらの組み合わせである。
【0053】
本発明の異なる実施形態において、炎症性腸疾患の局所治療に使用される組成物は直腸投与される。本発明の文脈において、直腸投与は、肛門を介した胃腸管への組成物の導入を意味する。本発明の好ましい実施形態において、組成物は、浣腸剤、ゲル、フォームまたは坐剤の形態で使用される。
【0054】
組成物の1つの単位用量は、約0.1mg~約100mg、または約1mg~約80mg、または約10mg~約50mgの範囲の量の活性剤を含み得る。
【0055】
本発明の組成物は、好ましくは1日1~3回患者に投与される。一実施形態において、当該組成物は1日2回投与される。別の実施形態において、組成物は1日3回投与される。最も好ましくは、組成物は1日1回投与される。
【0056】
本発明の別の態様は、急性期の炎症性腸疾患の予防に使用するための、本明細書に記載の組成物である。別の態様において、本明細書に記載の組成物は、寛解期の炎症性腸疾患を有する患者における再発を予防するために使用される。
【0057】
実施例
実施例に適用される材料と方法
ヒト結腸モデル
混合糞便接種物に基づく結腸モデルを使用して、ヒト大腸の管腔環境を模倣した。モデルは、37℃、相対空気湿度70%に維持した嫌気性ワークステーション(Electrotek 500TGワークステーション、Electrotek、英国ウェストヨークシャー)内に設置した。3名の健常ヒトボランティアに、あらかじめ計量したプラスチック容器を与え、そこに糞便サンプルを採取させた。ボランティアは投薬を受けておらず、少なくとも過去6ヶ月間は抗生物質を服用していない。糞便物質を嫌気性ワークステーションに移し、(Hughes et al.,2008,FEMS Microbiol Ecol 64(3):482-493に記載されるように)新たに調製した基礎培地で希釈して、18,000rpmの速度でUltra Turrax(登録商標)(IKA T18 Basic)ホモジナイザーを用いた均質化により15%w/wスラリーを得た。均質化した細菌培地を、オープンメッシュ生地(SefarNitex(登録商標)、孔径350μm)を通してふるいにかけ、均質化されていない繊維状物質を除去した。ヒト糞便スラリーのpHおよび緩衝能はそれぞれ6.8および28.3mM/L/pH単位であり、これらは先行技術に記載されているヒトの上行結腸値とほぼ一致している。このモデルは、結腸における小分子およびペプチドの安定性を評価するために広く使用されている。更に、このタイプの結腸モデルのインビボ関連性は、結腸の薬物分解と結腸に吸収される割合との間の良好な相関関係を達成したTannergrenら(2008 Eur J Pharm Sci 57:200-206)によって示されている。
【0058】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
サンプル分析は、ポンプ(モデルG1311C)、オートサンプラー(モデルG1329B)およびダイオードアレイUV検出器(モデルG1314B)を装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Agilent Technologies,1260 Infinity)を使用して実行した。600×7.8mm Biosep 5μmSEC-s3000 400A(Phenomenex、カリフォルニア州トーランス)サイズ排除(SE)クロマトグラフィーカラムを用いて、1ml/分の流速での溶出用移動相として滅菌HPLCグレードの水で調製したリン酸緩衝生理食塩水(pH7.3)を使用してサンプル分離を行った。分析は室温で行い、UV検出波長は280nmに設定した。各サンプルについて40分間実行して、サンプルタンパク質を完全に溶出させ、ランオーバーを低減した。IgG1抗体、F(ab’)2およびFab/Fc断片の保持時間は、それぞれ17分、18.2分および20.3分であった。
【0059】
SDS-PAGEおよび銀染色
SE-HPLCシステムで分離した後、サンプルをそれぞれの保持時間で回収し、XCellSureLock(登録商標)Mini-Cell電気泳動タンク(ThermoFisher Scientific)およびNovex(登録商標)Bis-Tris4-12%プレキャストゲル(ThermoFisher Scientific)を使用したSDS-PAGEによる分子量測定により分析して同定した。6μlのLDSサンプル緩衝液を20μlのサンプル溶液に加え、20μlのこの混合物を3μlのタンパク質標準とともにゲルのウェルに加えた。新たに調製した10倍希釈ランニングバッファー溶液を加え、ゲルについて200Vで50分間実行した。実行が終了した時点で、ゲルを注意深く取り除き、穏やかに振とうさせながら少なくとも1時間、クーマシーブルー染色液20mlに加えた。完全な抗体および形成された断片が低濃度であるため、クーマシーブルー染色は、タンパク質バンドを明確に視覚化するのに十分ではなかった。故に、方法の感度が高いため、すべての分析後に同じゲルで銀染色を行った。ゲルを水で5分間2回洗浄した。ゲルを穏やかに振とうしながら30%エタノール:10%酢酸:60%水中に15分間2回固定した。ゲルを10%エタノールで5分間2回洗浄した後、同サイクルを用いて水で洗浄した。この後、ゲルを増感剤溶液で1分間増感し、次に水で2回、それぞれ1分間洗浄した。次いで、染色溶液中でゲルの染色を30分間行い、その後、20秒間2回、それぞれ水で洗浄した。次に、バンドが明確に表示されるまで、ゲルを現像液(25ml/ゲル)で2~3分間インキュベートした。5%酢酸溶液を10分間加えることにより、作用を停止した。
【0060】
組織サンプル
ラット組織サンプルを使用するすべての実験は、University College London(UCL)School of Pharmacyの倫理審査委員会によって承認され、1986年の動物(科学的手順)法に基づく英国内務省の基準に従って実施した。体重200~250gの雄の6~8週齢のWistarラット(Harlan UK Ltd、英国オックスフォードシャー)を使用した。動物は、明暗サイクルにて制御された温度で飼育し、標準的なマウス餌ペレットを与え、ボトルから水道水を飲ませ、馴化させてから調査した。ラットは、動物をCO2チャンバーに5分間入れることによって屠殺した。
【0061】
ウッシングチャンバー試験
組織セグメントを雄ウィスターラットの上行結腸から収集し、pH7.4のクレブス-リンガー炭酸水素溶液(KBr)の氷冷溶液に移した。組織を横方向に切開し、KBr溶液で洗浄して管腔内容物を除去し、ウッシングチャンバー(Harvard Apparatus、英国ケンブリッジ)に載置した。このシステムは、組織の管腔側(粘膜)を表す頂端チャンバーと、血液側(漿膜)を表す基底外側チャンバーからなる。チャンバーの各側の露出した組織面積は0.29cm2で、組織載置領域は4×8mmであった。各チャンバーのKBrの体積は3mlで、pHは7.4に維持した。作業システムは、最大6つの垂直チャンバーに適合するユニット、カルボゲンパージ用ガスマニホールド(95%O2、5%CO2)、および循環水浴の使用により実験中チャンバー温度を37℃に維持するヒーターブロックからなる。
【0062】
薬物を添加する前に、組織をKBrとともに20分間インキュベートした。浸透実験中に試験したインフリキシマブ(市販のマウス-ヒトIgG1:κキメラ抗TNFαモノクローナル抗体[mAb])およびアダリムマブ(市販のヒトIgG1抗TNFαモノクローナル抗体)濃度は2mg/ml、0.8mg/mlおよび0.2mg/mlであった。透過実験中に試験したインフリキシマブおよびアダリムマブFab断片の濃度は、0.2mg/mlおよび0.8mg/mlであった。抗体およびFab断片を、組織の管腔(粘膜)側に面するウッシングチャンバーシステムの頂端チャンバーに添加し、さまざまな時点での試験については特に指定しない限り2時間インキュベートした。薬物を含まない組織を、対照として機能するものと同じ時間並行してインキュベートした。チャンバーを、95%O2、5%CO2でパージし、インキュベーション中は水ジャケットで37℃に維持した。サンプル(150μl)を1時間ごとに両方の区画から抜き取り、プロテアーゼ阻害剤カクテル(450μl)に添加して、頂端チャンバーから組織に浸透したIgGまたはFab断片の量を定量した。組織の生存率と完全性を確認するために、実験中、経上皮電気抵抗(TEER)を継続的に監視した。TEER値が200未満の組織は、透過実験には使用しなかった。
【0063】
凍結切片化、二次抗体染色および共焦点レーザー走査顕微鏡検査(CLSM)
抗体またはFab断片に曝露した組織切片を実験の最後に静かに切断し、すぐに-20℃のクライオスタット(Leica CM3050、Leica Microsystems、英国ミルトンキーンズ)に移した。組織を15~20分間凍結させた。組織を凍結した後、組織の薄片(10μm)をスライスし、粘着顕微鏡スライド(SuperFrost(登録商標)Plus、VWR International、ベルギー国ルーベン)上に載置した。薬物に曝露した組織から得た最大6つの切片と、薬物を含まない対照組織から得た2つの切片をスライスした。染色手順を開始する前に、スライドを室温で15分間保持した。組織切片を4%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich、英国)で10分間固定した後、0.1%Triton X-100(Sigma-Aldrich、英国)界面活性剤とともに5分間インキュベートして密着結合を切開した。次いで、切片を1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma-Aldrich、英国)とともに30分間インキュベートして、非特異的結合を回避した。洗浄段階は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用するすべての段階に含まれていた。その後、切片を二次抗体、10μg/ml(赤)(ヤギ由来の抗ヒトIgG、AlexaFlour(登録商標)633、Molecular Probes、英国)で1時間染色した。この後、CellMask緑色細胞膜染色(Green)(Molecular Probes、英国)(PBS中の0.5×溶液)で37℃にて1分間染色し、細胞膜および細胞質を含む細胞成分を染色した。次に、細胞核を染色するために、DAPI(Blue)(Vector Laboratories,Inc.、カリフォルニア州バーリンゲーム)を含むvectashield(登録商標)Hard Set封入剤で切片を染色した。スライドを、CLSM(LSM 710、Zeiss、英国ケンブリッジ)による分析まで、暗所で2~8℃で保存した。画像を、Zen 2012イメージングソフトウェア(Carl Zeiss Ltd.、英国ケンブリッジ)によって処理および分析した。
【0064】
結腸粘液層の損傷
上行結腸および下行結腸から新たに切除した雄ウィスターラット組織サンプルを、ペトリ皿内で室温にて10分間粘液溶解性N-アセチル-L-システイン(NAC)(Sigma-Aldrich、英国)の10%w/v溶液に暴露した。NAC溶液をPBSで調製し、40℃に加熱して溶解させた。NACへの曝露後、結腸組織は傷ついた/損傷した粘液バリア状態を模倣し、粘液バリア機能障害の局所モデルとして機能する。使用したNACの濃度と組織サンプルとのインキュベーション時間は、粘液層を傷つけ、粘膜の疎水性を低下させるのに十分な10%の濃度と10分間の暴露時間を示すQinおよび同僚による以前の研究に基づいていた(Qin et al.,2008,Shock 29(3):372-376)。現在のモデルは非侵襲的であり、粘液層を除去する物理的なスクラップ処理または吸引法によって生じ得る上皮への潜在的な形態学的損傷を防ぎ、粘液層のバリアとしての調査を可能にする。
【0065】
抗体の消化
インフリキシマブまたはアダリムマブは、固定化パパイン(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号20341)を使用してタンパク質分解により消化した。消化プロセスの概略図を
図9に示す。消化緩衝液は、一塩基性リン酸ナトリウム(Sigma Aldrich、カタログ番号S8282-500G)、エチレンジアミン四酢酸二水和物(EDTA、Fisher Scientific、カタログ番号BP120-500)およびL-システイン塩酸塩一水和物(Fluka、カタログ番号30129)からなるものであった。水酸化ナトリウム溶液(1.0M、Merck、カタログ番号HC267016)または塩酸(1.0M、Fisher Scientific、カタログ番号J/4320/15)を使用して、緩衝液のpHを調整した。消化した抗体の精製は、NAbTMプロテインAスピンカラム(Pierce、カタログ番号81956)を使用して行った。抗体のFabおよびFc断片は、プロテインAを使用して溶出した。IgG結合緩衝液(EDTAを含む1.0MTris緩衝液(pH8.0);Thermo Scientific、カタログ番号21007)およびIgG溶出緩衝液(1.0MTris緩衝液(pH8.5);Thermo Scientific、カタログ番号21004)。中和緩衝液(1.0M Tris緩衝液(pH8.5);Thermo Scientific)。
【0066】
ヒト組織の採取
生検サンプルは、外科的切除を受けている結腸癌患者から採取した。被験者は、研究目的での組織サンプルの使用を許可するための書面による同意書に署名した。生検材料は、病理学的ではなく、かつ、組織学的に正常な腸粘膜サンプルであると考えられる上行結腸セグメントにおける腫瘍周辺の領域から採取した。手術は、ロンドンのクイーンメアリー大学のロイヤルロンドン病院で行い、組織サンプルはウィンゲートインスティテュートオブニューロガストロエンテロロジーで行われたウッシングチャンバーインキュベーション試験のために直ちに使用された。
【0067】
結果
実施例1
インフリキシマブおよびアダリムマブ(mAbs)は、ヒト大腸を模倣するヒト結腸細菌の存在下で試験した。ヒトの結腸の状態におけるインフリキシマブとアダリムマブの安定性を
図1に示す。1時間後、インフリキシマブの用量の75%が検出された。2時間後、インフリキシマブの用量のほぼ40%が完全であった(t1/2=96.08±7.60分)。アダリムマブの場合、1時間後、用量の50%が断片化され、2時間後、用量の20%は変化しなかった(t1/2=54.35±0.18分)。両方のmAbの一部は、F(ab’)2、FabおよびFc断片に断片化されていた。この結果は、ヒト結腸モデルにおいて、インフリキシマブおよびアダリムマブがヒト結腸で高い安定性を持つことが期待できることを示しており、ここでは、完全な構造の分解は、主にF(ab’)2およびFab断片の形成によって、そしてごく少ない程度で、治療的に不活性なより小さいペプチドへの分解によって説明される。
【0068】
実施例2
2mg/mlでのラット上行結腸組織におけるインフリキシマブおよびアダリムマブの浸透
キメラIgG1インフリキシマブおよびヒトIgG1アダリムマブの、インキュベーション濃度2mg/mlで結腸組織に浸透する能力を、ウッシングチャンバーシステムに固定したラット上行結腸組織セグメントを使用して調べた。インキュベーション、凍結切片化および二次抗体による染色の後、組織切片を共焦点顕微鏡で分析した。2mg/mlの濃度を選択して、高濃度のmAbが結腸組織に浸透する能力に及ぼす影響を調査した。SE-HPLCを使用して、組織に浸透するインフリキシマブおよびアダリムマブの用量を、インキュベーション中の異なる時点で、ウッシングチャンバーシステムの頂端側を離れて組織に浸透するmAbの量を測定することにより定量的に推定した(
図2)。
【0069】
インフリキシマブおよびアダリムマブのインキュベーション濃度のおよそ10%(0.2mg/ml)および6%(0.12mg/ml)が、それぞれ2時間のインキュベーションの終了時に頂端区画にて減少した。2時間のインキュベーションの終了時に、基底外側に薬物は検出されなかった。これは、抗体が結腸組織内で少なくとも2時間保持され、基底外側へは浸透しなかった可能性があることを示す。ウッシングチャンバーインキュベーション実験の終了時の組織切片のCLSM画像の分析により、上行結腸組織におけるmAbの局在化が明らかになった(
図3A、C)。インフリキシマブ用量のかなりの部分が、上皮細胞の上にある粘液層に捕捉されることが示された。しかしながら、共焦点画像はまた、用量の一部が粘液層を通って更に深部の粘膜層の上皮細胞に浸透することができ、当該用量の一部が結腸組織の粘膜下領域に到達することができることも示した。mAbに曝露せずにウッシングチャンバーシステムに固定された対照組織を、薬物に曝露した組織と同じ手順で染色した。この対照組織は、組織成分との二次抗体の非特異的結合により、バックグラウンドシグナルをほとんど示さなかった(
図3B、D)。同様の傾向がアダリムマブでも観察され、対照(
図4B、D)と比較して粘膜領域および粘膜下領域(
図4A、C)で高いシグナルが観察された。
【0070】
実施例3
0.8mg/mlのラット上行結腸組織におけるインフリキシマブおよびアダリムマブの浸透
mAbインフリキシマブおよびアダリムマブが0.8mg/mlの濃度で結腸組織に浸透する能力を、実施例2と同じ実験設定を使用して調べた。インフリキシマブおよびアダリムマブのインキュベーション濃度のおよそ14%(0.11mg/ml)および5%(0.04mg/ml)が、それぞれ2時間のインキュベーションの終了時に頂端区画にて減少した(
図5)。SE-HPLCデータをインフリキシマブおよびアダリムマブの定性的組織レベルと相関させるために、組織切片のCLSMにより組織切片を分析した(
図6)。インフリキシマブは粘膜に浸透することができ、用量の一部は結腸組織の粘膜下領域でも検出された。アダリムマブシグナルも粘膜層で検出され、これは結腸組織への薬物浸透を示している。しかしながら、より高い頂端濃度(2mg/ml)と比較して、現在の濃度は結腸組織セグメントでの薬物シグナルがより低いことを示した。アダリムマブと比較して、頂端区画でのインフリキシマブの用量減少が高いにもかかわらず、共焦点レーザー走査顕微鏡検査では、定性的な薬物レベルおよび局在の差は観察されなかった。二次抗体で染色した場合、陰性対照組織サンプルでは最小のバックグラウンドシグナルが観察された(
図6BおよびD)。
【0071】
実施例4
0.2mg/mlのラット上行結腸組織におけるインフリキシマブおよびアダリムマブの浸透
インフリキシマブおよびアダリムマブの、インキュベーション濃度0.2mg/mlで結腸組織に浸透する能力を、実施例2および3と同じ実験設定を使用してウッシングチャンバーシステムに固定したラット上行結腸組織セグメントを使用して調べた。インフリキシマブおよびアダリムマブの約14%(0.03mg/ml)と6%(0.01mg/ml)の用量は、2時間終了後にそれぞれ頂端区画で減少した(
図7)。組織における頂端濃度の低下と定性的薬物シグナルとの相関を決定するために、共焦点レーザー走査顕微鏡分析を実施した。組織切片のCSLM画像を
図8に示す。興味深いことに、インフリキシマブおよびアダリムマブはいずれも結腸組織の粘膜領域および粘膜下領域で検出され、2つの抗体間の薬物シグナルまたは局所的局在性に差はなかった。薬物に曝露していない対照組織は、二次抗体で最小のバックグラウンドシグナルを示した(データは示さず)。現在のデータは、mAbが本質的に高い親水性を有しているにもかかわらず、疎水性の外側粘液層および内側粘液層に浸透して、試験した3つの濃度すべてで結腸組織の粘膜領域および粘膜下領域の深部に浸透することを示している。
【0072】
実施例5
0.02mg/mlのラット上行結腸組織におけるインフリキシマブおよびアダリムマブの浸透
現在の一連の頂端濃度試験で評価したmAbの最低濃度は0.02mg/mであった。しかしながら、この濃度では、SE-HPLCは、頂端区画での抗体濃度の低下を測定することにより、組織への抗体の浸透を間接的に予測する正確な方法ではないことが判明した。結腸組織におけるインフリキシマブおよびアダリムマブの浸透のCLSM画像は、両方のmAbについて、より高い頂端濃度と比較して、最低濃度での浸透試験で有意に低いシグナルを示した(データは示さず)。インフリキシマブは、結腸組織の粘膜領域および粘膜下領域に低レベルで浸透することが示された。しかしながら、アダリムマブは結腸組織の両領域で検出可能なシグナルをほとんどまたはまったく示さなかった。mAbに曝露していない対照組織はシグナルを示さなかった。
【0073】
実施例6
インフリキシマブFab断片の組織浸透
インフリキシマブをパパイン介在消化により消化して、mAbの精製Fab断片を得た(
図9)。Fab断片を、SDS-PAGEおよびSE-HPLCによる純度について、および共焦点顕微鏡検査による組織内の局在化に関するドットブロットによる二次抗体への結合親和性について試験した。インフリキシマブおよびアダリムマブのFab断片を、0.8mg/mlおよび0.2mg/mlそれぞれの頂端濃度でのラット上行結腸組織セグメントへの浸透について試験した。結腸組織は、両方の頂端濃度でのインフリキシマブおよびアダリムマブFab断片とのインキュベーション中にタイトジャンクションの完全性を保持していた。0.8mg/mlの頂端濃度では、いずれの抗体Fabも結腸組織の粘液層に浸透する能力を示し、粘膜領域および粘膜下領域の両方で高いシグナルが観察された(
図10および11)。最小のバックグラウンドシグナルが、Fabに曝露していない対照組織サンプルで観察された。0.2mg/mlの頂端濃度では、結腸組織のインフリキシマブおよびアダリムマブFab断片の両方でより低いシグナルが検出されたが、この濃度でも両方の抗体が粘膜領域および粘膜下領域の両方に浸透した(
図12)。FabはTNFαのエピトープに結合することができる抗原結合領域であり、TNFαとその受容体との相互作用を防ぎ、抗炎症反応を引き起こす可能性があるため、Fab断片の高い組織透過性は治療に関連する可能性がある。いずれの頂端濃度でも、SECによって確認された、Fab断片が組織を超えて基底外側区画に浸透したことは観察されなかった(データは示さず)。
【0074】
実施例7
上行結腸対下行結腸における完全な粘液バリアと比較した損傷した粘液バリア
図13は、NAC溶液での処理後の粘液層が損傷した上行結腸組織サンプルおよび下行結腸組織サンプルにおけるインフリキシマブおよびアダリムマブmAbの浸透を示す。両方のmAbを、領域の差を直接比較するために、同じ動物の上行結腸領域および下行結腸領域で試験した(n=3)。mAbの頂端濃度は、この濃度であるため、0.2mg/mlになるように選択した。興味深いことに、薬物シグナルは、完全な粘液層を有する結腸組織と比較して、損傷した粘液層を有する上行結腸領域と下行結腸領域の両方で有意に高かった。この傾向は、完全な粘液層を有する3匹のラットと比べて粘液層が損傷した3匹のラットすべてで類似しており、これは、mAbが大腸の近位領域と遠位領域の両方に浸透可能であること、およびいずれの領域でも損傷した粘液層によりmAbの取り込みが増加することを確認した。同じラットから得られた結腸組織で両方の抗体を試験しても、同様の結果が観察された。更に、SECを実施することにより、mAbが結腸組織を超えて基底外側区画に浸透することは観察されず、これは、損傷した粘液層を有する組織において薬物が保持されることを示している。インフリキシマブおよびアダリムマブのFab断片を用いて実験を繰り返した。そのために、0.2mg/mlのFabの頂端濃度で上行結腸組織を、完全な粘液層の存在下および非存在下でインキュベートした。ここでも同様の傾向が観察され、完全な粘液層と比較して粘液層が損傷した結腸組織へのより高い取り込みが認められたが、効果はそれほど顕著ではなかった(データは示さず)。
【0075】
実施例8
結腸組織へのmAbの浸透にかかる時間
前の実施例では、結腸組織へのインフリキシマブおよびアダリムマブmAbの浸透を、ウッシングチャンバーシステムでの2時間のインキュベーションの終了時に評価した。本実施例では、mAbの頂端濃度0.2mg/mlで30分、1時間および2時間のインキュベーション時間後の上行結腸組織における浸透レベルを評価した。共焦点顕微鏡分析用のサンプルを採取するために、30分、1時間および2時間でそれぞれ停止する3つのウッシングチャンバーインキュベーションを並行して行った。3つすべてのインキュベーション用の結腸組織サンプルを同じ動物から採取して、3つの異なる時点の後の抗体の浸透を直接比較した。この試験は、合計3匹のラットで実施した。インフリキシマブは、すべての試験で、インキュベーションの30分以内に結腸組織の粘膜領域に一貫して浸透することが示された。1時間のインキュベーション試験で、インフリキシマブは結腸組織へのより深い浸透を示し、粘膜組織および粘膜下組織で薬物シグナルが検出された。この浸透は、インキュベーション時間が2時間まで増加するにつれて向上した。SECにより測定される、基底外側区画へのインフリキシマブの浸透は観察されなかった。同じ試験設計を使用して、抗体がNACでの処理後に粘液バリアが損傷した上行結腸組織に浸透するのにかかる時間を調べた。粘膜領域および粘膜下領域全体で、30分間のインキュベーション後、すでに上行結腸組織において高い薬物シグナルが観察された(データは示さず)。これは、同じ時点の後、完全な粘液層を有する結腸組織で観察されたインフリキシマブの浸透よりも有意に高かった。
【0076】
実施例9
インフリキシマブおよびアダリムマブの結腸組織輸送に対する管腔酸性pH6の影響
本実施例では、0.2mg/mlの濃度でのインフリキシマブおよびアダリムマブの輸送に対する酸性管腔pHの影響を、ウッシングチャンバーシステムに載置したラット上行結腸組織において、それぞれ6および7.4の頂端pHで調べた。インキュベーション、凍結切片化および二次抗体による染色の後、組織切片を共焦点顕微鏡で分析した。
図14および15は、pH7.4と比較した頂端pH6でのインフリキシマブおよびアダリムマブの輸送を示す。インフリキシマブ(
図14)とアダリムマブ(
図15)の両方について、薬物シグナルは、pH7.4と比較して頂端pH6での結腸組織の粘膜で有意に高かった。基底外側区画からのサンプルのSEC分析により、薬物が結腸組織を越えて基底外側区画に浸透していないことが明らかになった。したがって、酸性である管腔内pH(pH~6)は、中性pH~7.4と比較して、上行結腸組織サンプルにおけるインフリキシマブおよびアダリムマブの浸透および局在化を増強すると思われる。
【0077】
実施例10
本実施例では、インフリキシマブおよびアダリムマブの取り込みおよび浸透を、ヒト組織サンプルで調査した。インフリキシマブおよびアダリムマブの取り込みおよび浸透の試験は、ウッシングチャンバーシステムにヒト組織サンプルを載置することによって行い、抗ヒトIgG二次抗体検出法を使用して定性的に局在を分析し、げっ歯類モデルで以前に使用した共焦点レーザー走査顕微鏡法によって更に分析した。インフリキシマブおよびアダリムマブの浸透を、頂端濃度0.2mg/mlおよびpH7.4で2時間試験した。SE-HPLCデータは、ウッシングチャンバーでの2時間のインキュベーションの終了時に頂端区画に抗体レベルが残っていることを明らかにした。インフリキシマブおよびアダリムマブの両方で、2時間終了後に用量の35%が残っていた(
図16)。インキュベーションの終了時に、基底外側区画内にSE-HPLCによって薬物は検出されなかった。ウッシングチャンバー実験後のCLSMは、インフリキシマブのシグナルが結腸粘膜および固有層領域の両方で検出されることを明らかにした(
図17)。一方、アダリムマブは粘液領域でより弱いシグナルを示した(データは示さず)。mAbに曝露していない対照組織サンプルは、抗ヒト二次抗体との高い干渉を示さなかった。
【0078】
実施例11
処方例:2つの異なる強度(それぞれアダリムマブ100mgおよび80mg)における浣腸剤(錠剤のアダリムマブ、ビヒクルにおいて再構成)。
【表1】
【0079】
この浣腸剤は、分散性錠剤とビヒクルの2つの成分からなる。アダリムマブ浣腸剤は使用前に再構成される。再構成された浣腸剤の量は約115mLである。
【0080】
上記の量は1単位を指す。製造に適したバッチサイズは、例えば1,000単位である。
【0081】
製造手順:
錠剤:
工程1:予備混合物の調製
アダリムマブおよび微結晶セルロースを遊星型ミキサーで約10分間混合する。ステアリン酸マグネシウムを0.5mmmのふるいを通して加え、混合を2分間続ける。
【0082】
工程2:最終混合
予備混合物を1.0mmのふるいを通してミキサーに加え、高速で20分間混合する。架橋ポリビドンを、0.75mmのふるいを通して加える。同じ速度で更に10分間混合を続ける。混合物を気密容器に移す。
【0083】
工程3:圧縮
打錠は、相対湿度が30%未満の回転式プレスで行う。錠剤重量、崩壊、脆砕性、粉砕強度および錠剤の高さをインプロセス制御するために錠剤をサンプリングする。
【0084】
再構成用液体
精製水を容器に充填する。連続攪拌しながら、パラヒドロキシ安息香酸メチルおよびパラヒドロキシ安息香酸プロピルを加えて溶解する。塩化ナトリウムを加え、溶液が均質になるまで連続攪拌の間溶解する。バルク溶液をろ過し、ボトルに充填する。
【0085】
実施例12
処方例:2種類の強度(それぞれアダリムマブ100mgおよび80mg)の調整済浣腸剤(リン酸緩衝液)。
【表2】
【0086】
上記の量は1単位を指す。製造に適したバッチサイズは、例えば1,000単位である。
【0087】
バルク混合物の製造(他の緩衝液系にも適用可能):
材料の充填および添加:
純水を、攪拌機/ホモジナイザーを装備した適切なステンレス鋼容器に充填する。安息香酸ナトリウムおよび緩衝塩を加え、混合物を撹拌して均質化する。アダリムマブを、攪拌し均質化した溶液に加える。キサンタンガムを加え、攪拌し、均質化する。混合物を撹拌し、均質化し、窒素でガス処理する。
【0088】
充填:
懸濁液を、窒素圧によって容器から(充填ホッパーを介して)ボトルに充填し、目標重量まで充填して、キャップで閉じる。充填および閉鎖は、窒素ガス下で行う。
【0089】
実施例13
処方例:2種類の強度(それぞれアダリムマブ100mgおよび80mg)の調整済ゲル(Tris緩衝液)。
【表3】
【0090】
上記の量は1単位を指す。製造に適したバッチサイズは、例えば1,000単位である。
【0091】
バルク混合物の製造(他の緩衝液系にも適用可能):
材料の充填および添加:
純水を、攪拌機/ホモジナイザーを装備した適切なステンレス鋼容器に充填する。安息香酸ナトリウムおよび緩衝塩を加え、混合物を撹拌して均質化する。アダリムマブを、攪拌し均質化した溶液に加える。混合物を撹拌し、均質化し、窒素でガス処理する。キサンタンガムを添加し、次いで撹拌し、ゲル化するまで均質化する。混合物を再び窒素でガス処理する。
【0092】
充填:
懸濁液を、窒素圧によって容器から(充填ホッパーを介して)ボトルに充填し、目標重量まで充填して、キャップで閉じる。充填および閉鎖は、窒素ガス下で行う。