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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】ヘルメット及びチークパッド
(51)【国際特許分類】
   A42B 3/12 20060101AFI20230601BHJP
   A42B 3/28 20060101ALI20230601BHJP
   A42B 3/06 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A42B3/12
A42B3/28
A42B3/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020175124
(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公開番号】P2022066653
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390005429
【氏名又は名称】株式会社SHOEI
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石川 皓介
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-138319(JP,A)
【文献】特開平7-109609(JP,A)
【文献】特開2000-017514(JP,A)
【文献】実開平04-044324(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/12
A42B 3/28
A42B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帽体と、前記帽体の内側に配置される左右で一対のチークパッドと、を備えるヘルメットであって、
各チークパッドは、当該ヘルメットが装着者に装着された状態で、前記帽体の下縁よりも下方に位置する第1外面を備える第1底部と、前記第1底部の後方に位置する第2外面を備える第2底部と、を備え、
前記第1外面及び前記第2外面は、当該ヘルメットの装着口を構成するとともに、前記第1外面が前記第2外面よりも下方に位置することによって当該ヘルメットに対してダウンフォースを発生させる負圧形成面であり、
前記第1底部及び前記第2底部は、前記装着口を拡大するための力を受けて前記装着口を拡大するとともに、前記力の除去によって前記装着口を縮小する弾性を有する
ヘルメット。
【請求項2】
前記第1外面は、前記第1外面の下端が前記帽体の下縁から前記装着口の中央下方に向かって前記第2外面の下端よりも突き出る面である
請求項1に記載のヘルメット。
【請求項3】
前記第1外面は、前記帽体における外表面の曲面と連続する勾配を有する傾斜面である
請求項1または2に記載のヘルメット。
【請求項4】
前記第1外面の後端は、前記帽体における左右最大幅となる位置よりも前方に位置している
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載のヘルメット。
【請求項5】
ヘルメットが備える帽体の内側に配置されるチークパッドであって、
前記ヘルメットが装着者に装着された状態で、前記帽体の下縁より下方に位置する第1外面を備える第1底部と、前記第1底部よりも後方に位置する第2外面を備える第2底部と、を備え、
前記第1外面及び前記第2外面は、前記ヘルメットの装着口を構成するとともに、前記第1外面が前記第2外面よりも下方に位置することによって前記ヘルメットに対してダウンフォースを発生させる負圧形成面であり、
前記第1底部及び前記第2底部は、前記装着口を拡大するための力を受けて前記装着口を拡大するとともに、前記力の除去によって前記装着口を縮小する弾性を有する
チークパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルメット及びヘルメットに取り付けられるチークパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
装着者の被り心地を向上させるヘルメットの技術として、帽体の内側に内装パッドを備えることが知られている。内装パッドは、装着者の前頭部に当接するフロントパッド、装着者の後頭部に当接するリアパッド、装着者の側頭部に当接するサイドパッド、装着者の頭頂部に当接するトップパッド、及び、装着者の頬に当接するチークパッドを含む。内装パッドは、装着者の頭部形状に追従するように変形し、装着者との密着性を高めて、ホールド感やフィット感を高める(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/065176号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動二輪車などでの走行中にヘルメットが生じさせる気流は、ヘルメットを上昇させる揚力であるリフトを生じさせる。リフトを受けるヘルメットは、装着者の頭部にリフトを伝えて装着者の注意を散漫にしたり、操縦の安定性を低下させたりしてしまう。そのため、自動二輪車などでの走行中においてヘルメットに作用するリフトを低減することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのヘルメットは、帽体と、前記帽体の内側に配置される左右で一対のチークパッドと、を備えるヘルメットであって、各チークパッドは、前記帽体の下縁よりも下方に位置する第1外面を備える第1底部と、前記第1底部の後方に位置する第2外面を備える第2底部と、を備え、前記第1外面及び前記第2外面は、当該ヘルメットの装着口を構成するとともに、前記第1外面が前記第2外面よりも下方に位置することによって当該ヘルメットに対してダウンフォースを発生させる負圧形成面であり、前記第1底部及び前記第2底部は、前記装着口を拡大するための力を受けて前記装着口を拡大するとともに、前記力の除去によって前記装着口を縮小する弾性を有する。
【0006】
上記ヘルメットによれば、第1外面が、帽体の下縁より下方に位置し、かつ、第1外面の後方に位置する第2外面よりも下方に位置する。第1外面が帽体の下縁よりも下方に位置することで、自動二輪車などでの走行中において、ヘルメットの側方を通過する気流が、第1外面によってヘルメットの下方に誘導される。この際、第1外面によってヘルメットの側方から下方に誘導される気流が、下向きの力であるダウンフォースを第1外面に作用させる。そして、第1外面が第2外面よりも下方に位置することで、第1外面によってヘルメットの下方に誘導された気流が第2外面に対してもダウンフォースを作用させる。結果として、ヘルメットに加わるリフトを第1外面及び第2外面に作用するダウンフォースの分だけ低減できる。
【0007】
上記ヘルメットにおいて、前記第1外面は、前記第1外面の下端が前記帽体の下縁から前記装着口の中央下方に向かって前記第2外面の下端よりも突き出る面であることが好ましい。上記ヘルメットによれば、第1外面の下端が第2外面の下端よりも装着口の中央に向かって突き出ることで、負圧形成面の面積が大きくなり、ヘルメットに生じるダウンフォースを増加させることができる。したがって、ヘルメットに加わるリフトを好適に低減できる。
【0008】
上記ヘルメットにおいて、前記第1外面は、前記帽体における外表面の曲面と連続する勾配を有する傾斜面であることが好ましい。上記ヘルメットによれば、第1外面が帽体における外表面の曲面と連続する勾配を有することで、ヘルメットの側方を通過する気流がより確実にヘルメットの下方に誘導される。したがって、ヘルメットに生じるダウンフォースをより増加させることができ、ヘルメットに加わるリフトを好適に低減できる。
【0009】
上記ヘルメットにおいて、前記第1外面の後端は、前記帽体における左右最大幅となる位置よりも前方に位置していることが好ましい。上記ヘルメットによれば、第1外面の後端が帽体における左右最大幅となる位置よりも前方に位置していることで、第1外面における帽体の側面に沿う長さが長くなることに起因するヘルメットに加わる後ろ向きの力であるドラグ(抗力)の増加を抑制できる。
【0010】
上記課題を解決するためのチークパッドは、ヘルメットが備える帽体の内側に配置されるチークパッドであって、前記帽体に配置された状態で前記帽体の下縁より下方に位置する第1外面を備える第1底部と、前記帽体に配置された状態で前記第1底部よりも後方に位置する第2外面を備える第2底部と、を備え、前記第1外面及び前記第2外面は、前記ヘルメットの装着口を構成するとともに、前記第1外面が前記第2外面よりも下方に位置することによって前記ヘルメットに対してダウンフォースを発生させる負圧形成面であり、前記第1底部及び前記第2底部は、前記装着口を拡大するための力を受けて前記装着口を拡大するとともに、前記力の除去によって前記装着口を縮小する弾性を有する。
【発明の効果】
【0011】
以上のような構成によれば、ヘルメットに加わるリフトを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ヘルメットの側面図。
図2】チークパッドを下方から見た斜視図。
図3】チークパッドの正面図。
図4】ヘルメットの下面図。
図5】ヘルメットの正面図。
図6】ヘルメットの側面図であって、自動二輪車などでの走行中における空気の流れを示す模式図。
図7】ヘルメットの下面図であって、自動二輪車などでの走行中における空気の流れを示す模式図。
図8】ヘルメットの変形例を示す図であって、チンスポイラーを設けたヘルメットの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ヘルメット及びチークパッドの一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1図8では、ヘルメット装着者から見た方向である、前、後、左、右、上、下を、ヘルメットに対する前、後、左、右、上、下として示す。また、ヘルメット装着者の視点をチークパッドに置いたときの前、後、左、右、上、下を、チークパッドに対する前、後、左、右、上、下として示す。
【0014】
図1に示すように、ヘルメット1は、フルフェイス型のヘルメットである。ヘルメット1は、帽体2と、チークパッド10とを備える。
帽体2は、ヘルメットの外殻を構成する。帽体2は、半球状を有した樹脂部材である。帽体2を構成する材料は、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、及び、強化繊維を含浸させた熱硬化性樹脂などから選択される。
【0015】
なお、帽体2は、衝撃を吸収するための内装部材であるライナー3を収容してもよい。ライナー3は、帽体2の内面に沿った形状を有する。ライナー3は、例えば、発泡スチロールなどの発泡樹脂で構成される。
【0016】
また、帽体2は、例えば、光透過性を有した透明の板部材であるシールド4、シールド4を支持するための機構、及び、シールド4を操作するための機構を収容してもよい。シールド4は、前方から飛来する異物や雨、風がヘルメット1内に入ることを妨げて、着用者の視認性を向上させる。
【0017】
チークパッド10は、帽体2の内側に取り付けられる左右一対の内装パッドである。左右一対のチークパッド10は、ヘルメット1の左右方向中央に位置する仮想平面(非図示)を対称面として面対称となる形状を有する。チークパッド10は、ヘルメット1が装着された状態で装着者の頬と当接することで、ヘルメット1と装着者との密着性を高めて、被り心地を向上させる。チークパッド10は、例えば、ウレタンフォームなどのクッションと、クッションを覆う被覆体とで構成される。被覆体は、例えば、装着者の頬に当接する布、帽体2に固定される可撓性樹脂板、及び、帽体2の下方に突き出る合成皮革が逢着された袋状を有する。
【0018】
また、ヘルメット1は、チークパッド10の他に、例えば、前頭部に当接するフロントパッド、後頭部に当接するリアパッド5(図4参照)、側頭部に当接するサイドパッド、頭頂部に当接するトップパッドなど、帽体2の内側にライナー3よりも低い反発力を有した各種の内装パッドを備えていてもよい。これらの内装パッドは、頭部に対するクッション性を高める。また、ヘルメット1は、例えば、装着者の顎をヘルメットに固定するためのチンストラップ(非図示)を備えていてもよい。
【0019】
以下では、図2及び図3を参照してチークパッド10について説明するが、図示の便宜上、面対称の形状である左右一対のチークパッド10のうち一方の形状のみを図示する。
図2及び図3に示すように、チークパッド10は、チークパッド10の上部である本体部11と、チークパッド10の下部である底部12とを備える。本体部11の底面は、底部12と接続されている。
【0020】
本体部11は、装着者の頬と接する布製の接触面11aと、ライナー3と対向する可撓性樹脂板製の固定面11bとを備える。固定面11bは、ライナー3の内表面に追従する形状を有する。本体部11は、チークパッド10が帽体2に取り付けられた状態において、ライナー3の内表面と対向する位置である帽体2の内部に位置する。なお、本体部11は、チンストラップを挿通するためのスリット状の間隙11cを備えてもよい。
【0021】
固定面11bは、本体部11を構成するクッションの形状を保持するための板体16の表面である。板体16の表面は、本体部11の表面を構成する。板体16は、被覆体を構成する可撓性樹脂板製である。なお、板体16は、軽量化、及び、弾性の低減などを目的とした肉抜きである孔部16aを備えてもよい。
【0022】
さらに、固定面11bには、3つの雌ボタン17が取り付けられる。雌ボタン17は、固定面11bにおいて、板体16に設けられた孔部16aから突出するように取り付けられる。チークパッド10は、雌ボタン17とライナー3が備える雄ボタンとが係合することで、ライナー3の内側に固定される。なお、雌ボタン17及びライナー3が備える雄ボタンの数は限定されず、4つ以上でもよく、2つ以下でもよい。
【0023】
底部12は、本体部11の前方下端から後方下端に向かって延在している。底部12の後端は、本体部11の後端よりも後方まで延出している。また、底部12の上端における左右方向の両縁のうち一方の側縁12aは、帽体2の下縁に沿った円弧形状を有している。
【0024】
底部12は、底部12のうち前方に位置する第1底部13と、底部12のうち後方に位置する第2底部14とを備える。第1底部13は、内面13aと、第1外面13bとを備える。第2底部14は、第2外面14aを備える。内面13a、第1外面13b、及び、第2外面14aは、例えば、被覆体を構成する合成皮革製である。
【0025】
内面13aは、接触面11aの下端から下方に向かって延びる面である。内面13aは、ヘルメット1の装着時において装着者の首と対向するように配置される面である。内面13aは、装着者の頬に追従した前後方向に延びる弧状の曲線を上下方向に連ねた曲面状であってもよいし、前後方向に延びる直線を上下方向に連ねた平面状であってもよい。
【0026】
第1外面13bは、側縁12aから下方に向かって延びる面であって、内面13aの下端に向かって延びる傾斜面である。第1外面13bは、ヘルメット1の装着時において帽体2の下縁よりも下方に位置する面である。また、第1外面13bは、第2外面14aよりも下方に位置する面である。第1外面13bは、底部12の側縁12aに追従した前後方向に延びる弧状の曲線を下方内側に向けて連ねた曲面状であってもよいし、前後方向に延びる直線を下方内側に向けて連ねた平面状であってもよい。
【0027】
第1底部13は、前後方向から見て、下方に向けて先が細る三角形状を有してもよいし、四角形状を有してもよいし、下方に向けて先が細る台形状を有してもよい。第1底部13は、内面13aと第1外面13bとを備えて前後方向に延びる三角柱状であってもよいし、前後方向に延びる四角柱状であってもよい。第1底部13は、下方に向けて先が細くなる歯状を有してもよい。第1底部13の前面は、下側後方に向けて傾斜した斜面であってもよいし、上下方向に沿う鉛直面であってもよい。第1底部13の後面は、下側前方に向けて傾斜した斜面であってもよいし、上下方向に沿う鉛直面であってもよい。
【0028】
第2底部14は、チークパッド10の底部12のうち第1底部13よりも後方に位置する部分である。第2底部14が備える第2外面14aは、第1底部13の後端から底部12の後端まで延在する面である。第2外面14aは、ヘルメットの装着時において帽体2の下縁とほぼ同じ高さに配置されてもよいし、帽体2の下縁よりも下方に配置されてもよいし、帽体2の下縁よりも上方に配置されてもよい。
【0029】
ここで、第1外面13b及び第2外面14aの位置と、ヘルメット1に作用する揚力であるリフト25(図6参照)との関係について説明する。ヘルメット1には、自動二輪車などでの走行中において、ヘルメット1の周囲に生じる気流によって、ヘルメット1を装着者の頭部から浮かせる力であるリフト25が作用する。第1外面13bが帽体2の下縁よりも下方に位置することで、自動二輪車などでの走行中にヘルメット1の側方を通過する気流が、第1外面13bによってヘルメット1の下方に誘導される。この際、第1外面13bによってヘルメット1の側方から下方に誘導される気流は、第1外面13bに対してダウンフォース26(図6参照)を作用させる。ダウンフォース26は、リフト25を打ち消す方向の力であって、ヘルメット1を下向きに引っ張る力である。そして、第1外面13bが第2外面14aよりも下方に位置することで、第1外面13bによってヘルメット1の下方に誘導された気流が第2外面14aに対してもダウンフォース26を作用させる。結果として、ヘルメット1に加わるリフト25は、第1外面13b及び第2外面14aに作用するダウンフォース26の分だけ低減される。
【0030】
側縁12aには、固定片15が取り付けられている。固定片15は、可撓性を有する樹脂部材で構成される。固定片15は、固定片15の前端に位置する第1係合部15aと、固定片15の後端に位置する第2係合部15bとを備える。固定片15は、帽体2及びライナー3の間に差し込まれ、第1係合部15a及び第2係合部15bが帽体2及びライナー3に設けられた被係合部(非図示)と係合されることで、チークパッド10を帽体2に固定する。
【0031】
底部12の側縁12aは、固定片15を介して帽体2とライナー3とに固定されている。底部12の上面は、本体部11の雌ボタン17を介してライナー3に固定されている。装着者に対する底部12の姿勢は、ヘルメット1の装着時において第1外面13bの下端が第2外面14aよりも下方に突出するように、帽体2に位置決めされている。チークパッド10を構成するクッションの可撓性は、底部12の側縁12aや底部12の上面を固定端として、ヘルメット1の装着口6(図4参照)を広げるようなチークパッド10の折り曲げを可能にする。
【0032】
図4に示すように、ヘルメット1は、装着者がヘルメット1を装着するための装着口6を備える。装着口6は、帽体2の開口における一部分であり、装着者が頭部を挿入する開口である。装着口6は、ライナー3、リアパッド5、第1底部13、及び、第2底部14の縁部によって画定される。
【0033】
装着口6において、左右一対のチークパッド10が備える第1外面13bの下端同士の幅D1は、左右一対のチークパッド10が備える第2外面14aの下端同士の幅D2よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。すなわち、第1外面13bの下端は、第2外面14aの下端よりも、装着口6の中央近くに位置してもよいし、装着口6の中央から離れていてもよい。幅D1は、装着口6における左右方向の幅のなかで最も小さくてもよい。第1底部13の後端は、帽体2における左右方向の幅のなかの最大値である左右最大幅D3となる位置よりも前方に位置してもよいし、後方に位置してもよい。
【0034】
ここで、第1外面13bの位置と、ヘルメット1に作用する抗力であるドラグ27(図6参照)との関係について説明する。ヘルメット1には、自動二輪車などでの走行中において、ヘルメット1の周囲に生じる気流によってドラグ27が作用する。ドラグ27は、走行方向に対して反対方向、すなわち、後ろ向きにヘルメット1を引っ張る力である。本実施形態では、一例として、第1外面13bの後端が帽体2の左右最大幅D3となる位置よりも前方に位置する構成としている。仮に、例えば、第1外面13bの後端が帽体2の左右最大幅D3となる位置よりも後方に位置している場合であっても、上述のようにダウンフォース26によるリフト25の低減が可能である。しかし、第1外面13bが傾斜面であることから、第1外面13bにおける帽体2の側面に沿う長さが長くなることでドラグ27が増加してしまう。したがって、ドラグ27の増加を抑制する観点から、第1外面13bの後端は、帽体2の左右最大幅D3となる位置よりも前方に位置することが好ましい。
【0035】
帽体2における左右方向の幅のなかで左右最大幅D3を取る位置と、装着者の首における前後方向の中央とが、装着者の前後方向においてほぼ一致するように、人体構造上の統計値に基づいて、帽体2の形状が設計されてもよい。この際、チークパッド10の第1底部13は、左右最大幅D3となる位置よりも前方、すなわち装着者における首の前方に位置してもよいし、後方に位置してもよい。
【0036】
ヘルメット1を装着する際には、第1底部13及び第2底部14を装着口6の外側に向けて押し広げ、装着口6を拡大した状態で装着者の頭部を装着口6に挿通する。また、装着口6を拡大するための力が除去された際には、第1底部13及び第2底部14を構成するクッション部の弾性により、拡大された装着口6が縮小されて拡大前に戻る。すなわち、第1底部13及び第2底部14は、装着口6を拡大するとともに、装着口6を拡大するための力の除去によって装着口6を縮小する弾性を有する。
【0037】
図5に示すように、第1外面13bは、帽体2の下縁から装着口6の中央下方に向かって突出し、これによって、装着口6における左右方向の幅を狭めている。換言すると、帽体2の下縁から第1外面13bが突出すること、及び、第1外面13bが弾性を備えることは、ヘルメット1の前方から見て、装着者の首と帽体2との間に形成される左右方向での段差を第1底部13が滑らかに埋めることを可能とする。この際、第1外面13bは、帽体2における外表面2sの曲面と緩やかに連続するような勾配や曲率を有してもよい。
【0038】
次に、本発明を適用したヘルメット1及びチークパッド10の作用について図6及び図7を参照して説明する。
図6に示すように、装着者がヘルメット1を装着した状態では、第1底部13及び第2底部14が帽体2の下縁と装着者の肩との間に位置する。また、ヘルメット1を装着した装着者は、自動二輪車などでの走行中には前傾姿勢となる。
【0039】
自動二輪車などでの走行中には、ヘルメット1の前方の空気が帽体2の外表面2sに沿って後方に流れることで、ヘルメット1の周囲に気流が生じる。具体的に、ヘルメット1の周囲には、ヘルメット1の上方を通過する気流20と、ヘルメット1の側方を通過する気流21と、ヘルメット1の下方、すなわち、ヘルメット1と装着者の肩との間を通過する気流22とが生じる。気流22には、装着者の胸部に衝突して装着者の肩に回りこむ気流23を含む。また、気流21のうち外表面2sの下縁に近い位置を通過する気流24は、第1外面13bに沿って帽体2の下方に誘導され、ヘルメット1から引き剥がされることなく気流22と合流する。
【0040】
装着者の首と帽体2との間に形成される段差を第1底部13が滑らかに埋める構成は、気流24がヘルメット1から剥がれることを抑える観点において好ましい。帽体2の外表面2sと第1外面13bとを滑らかに連続させる構成もまた、気流24がヘルメット1から剥がれることを抑える観点において好ましい。
【0041】
ヘルメット1には、走行中に生じる気流20などによって、ヘルメット1を装着者の頭部から浮かせる力であるリフト25が作用する。また、ヘルメット1には、走行中に生じる気流22,24によって、ヘルメット1に作用するリフト25を打ち消す方向の力であるダウンフォース26が作用する。
【0042】
図7に示すように、気流22は、第1外面13b及び第2外面14aの下方を通過してヘルメット1の後方に流れる。この際、チークパッド10の第1外面13bが帽体2の下端から突き出る分だけ、気流22は長い経路を通過して流速を高める。そして、第1外面13b及び第2外面14aには負圧が形成され、ヘルメット1を下方に引き付ける力であるダウンフォース26が発生する。すなわち、第1外面13b及び第2外面14aは、気流22による負圧によってダウンフォース26を発生させるための負圧形成面である。
【0043】
気流24は、外表面2sから第1外面13bに沿って帽体2の下方に誘導されて気流22に合流する。ここでも、チークパッド10の第1外面13bが帽体2の下端から突き出る分だけ、第1外面13b及び第2外面14aに形成される負圧が大きくなる。したがって、ヘルメット1に生じるダウンフォース26を増加させることができる。
【0044】
また、第1外面13bの下端が第2外面14aの下端よりも装着口6の中央下方に向かって突き出る構成であることで、負圧形成面としての面積が大きくなるため、ヘルメット1に生じるダウンフォース26をより増加させることができる。
【0045】
そして、第1外面13bが外表面2sの曲面と連続するような勾配を有することで、気流24がヘルメット1から引き剥がされることなく、より確実にヘルメット1の下方に誘導される。したがって、ヘルメット1に生じるダウンフォース26をより増加させることができる。
【0046】
気流22,24の流路は、第2外面14aの下方において、装着者の肩部によって狭められる。これにより、気流22,24の流速が高められるため、ヘルメット1に生じるダウンフォース26がさらに増加する。この際、例えば、第1外面13bの後端が装着者における首の後方に位置する場合、第1外面13bが第2外面14aよりも下方に位置していることから、気流22,24の流路が第1外面13bと装着者の肩部とによって過剰に狭められる。その場合、気流22,24がヘルメット1の後方に抜けにくくなってしまい、結果としてドラグ27が増加する。したがって、ドラグ27の増加を抑制する観点から、第1外面13bの後端が装着者における首の前方に位置することが好ましい。例えば、帽体2において左右最大幅D3を取る位置と、装着者の首における前後方向の中央とが、装着者の前後方向においてほぼ一致するように構成される場合、第1外面13bの後端が帽体2において左右最大幅D3を取る位置よりも前方に位置することが好ましい。
【0047】
以上のように構成されたヘルメット1によれば以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第1外面13bが帽体2の下縁よりも下方に位置することで、気流24が第1外面13bによってヘルメット1の下方に誘導される。この際、気流24が第1外面13bに対してダウンフォース26を作用させる。そして、第1外面13bが第2外面14aよりも下方に位置することで、第1外面13bによってヘルメット1の下方に誘導された気流24が第2外面14aに対してもダウンフォース26を作用させる。結果として、ヘルメット1に加わるリフトを第1外面13b及び第2外面14aに作用するダウンフォース26の分だけ低減できる。
【0048】
(2)装着口6を構成する第1底部13及び第2底部14が装着口6を拡大するとともに、装着口6を拡大するための力の除去によって装着口6を縮小する弾性を有することで、ヘルメット1を容易に装着できるようにしつつも、ヘルメット1の装着後には変形した負圧形成面の形状が復元される。したがって、ヘルメット1に加わるリフト25を低減することを可能にするとともに、ヘルメット1を容易に装着することを可能にする。
【0049】
(3)第1外面13bの下端が第2外面14aの下端よりも装着口6の中央下方に向かって突き出ることで、負圧形成面としての面積が大きくなり、ヘルメット1に生じるダウンフォース26をより増加させることができる。したがって、ヘルメットに加わるリフト25をより低減できる。
【0050】
(4)第1外面13bが外表面2sの曲面と連続するような勾配を有することで、気流24がより確実にヘルメット1の下方に誘導されるため、ヘルメット1に生じるダウンフォース26をより増加させることができる。したがって、ヘルメットに加わるリフト25をより低減できる。
【0051】
(5)第1外面13bの後端が帽体2の左右最大幅D3となる位置よりも前方に位置することで、第1外面13bにおける帽体2の側面に沿う長さが長くなることに起因するドラグ27の増加を抑制できる。
【0052】
(6)第1外面13bの後端が装着者における首の前方に位置することで、気流22,24の流路が第1外面13bと装着者の肩部とによって過剰に狭められることに起因するドラグ27の増加を抑制できる。
【0053】
なお、上記実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
図8に示すように、ヘルメット1は、さらなるリフトの低減を目的として、チンスポイラー30が取り付けられる構成であってもよい。具体的に、ヘルメット1には、帽体2の下縁前方にチンスポイラー30が取り付けられる。チンスポイラー30は、帽体2の下縁よりも下方に突出しており、外表面2sの曲面と連続するような勾配を有する傾斜面を備える。チンスポイラー30は、帽体2とライナー3との間に上縁を差し込むことでヘルメット1に固定される。チンスポイラー30は、ヘルメット1が前方から受ける空気を帽体2の下方に誘導する機能を有する。これにより、ヘルメット1の下方を通過する気流22を増加させることができるため、負圧形成面としての第1外面13b及び第2外面14aに形成される負圧が大きくなる。したがって、チンスポイラー30を設けることで、部品点数が増加するものの、ヘルメット1に加わるリフト25をさらに低減できる。
【0054】
・第1外面13bの後端が帽体2の左右最大幅D3となる位置よりも前方に位置する構成を例示したが、これに限定されず、例えば、第1外面13bの後端が帽体2の左右最大幅D3となる位置よりも後方に位置してもよい。また、第1外面13bの後端が帽体2の左右最大幅D3となる位置と同じ位置であってもよい。このような構成であっても、ドラグ27が増加するものの、リフト25の低減が可能である。
【0055】
・第1外面13bが外表面2sの曲面と連続するような勾配を有する傾斜面である構成を例示したが、これに限定されず、例えば、第1外面13bが外表面2sの曲面が有する曲率と同じ曲率の曲面であってもよい。このような構成であっても、気流24を第1外面13bに沿ってヘルメット1の下方に誘導できる。
【0056】
・第1外面13bの下端が第2外面14aの下端よりも装着口6の中央下方に向かって延びている構成を例示したが、これに限定されず、例えば、第2外面14aの下端が第1外面13bの下端よりも装着口6の中央に向かって延びる構成であってもよい。この場合、負圧形成面が小さくなるものの、装着口6の開口が大きくなるため、ヘルメット1を装着しやすくなる。
【0057】
・ヘルメット1には、装着者の顎部を覆うチンカバーが取り付けられる構成であってもよい。チンカバーを設けることで、装着口6の前方部分が覆われる。これにより、自動二輪車などでの走行中において、帽体2の内部に気流が入り込むことを防止できる。
【0058】
・ヘルメット1がフルフェイス型ヘルメットである構成を例示したが、これに限定されず、例えば、顎部が上昇可能なフリップアップ型ヘルメット、オープンフェイス型ヘルメット、着脱式の顎部を持つヘルメット、または、顎部を転回させて後頭部に固定可能なコンバーチブル型ヘルメットであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…ヘルメット
2…帽体
3…ライナー
6…装着口
10…チークパッド
11…本体部
11a…接触面
11b…固定面
12…底部
12a…側縁
13…第1底部
13a…内面
13b…第1外面
14…第2底部
14a…第2外面
15…固定片
20~24…気流
25…リフト
26…ダウンフォース
27…ドラグ
30…チンスポイラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8