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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20230601BHJP
【FI】
H01L33/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021153330
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023045106
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038892(JP,A)
【文献】特開2012-104740(JP,A)
【文献】特開2020-057784(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121794(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0103289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と、
p型半導体層と、
前記n型半導体層と前記p型半導体層との間に設けられた活性層と、
前記活性層と前記p型半導体層との間に設けられた電子ブロック層と、を備え、
前記p型半導体層と前記電子ブロック層との全体は、酸素を含有した酸素含有部を有し、
前記n型半導体層、前記活性層、前記電子ブロック層、及び前記p型半導体層の積層方向における、前記酸素含有部の各位置の酸素濃度は、4.0×10 16 atoms/cm以上である、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層の前記酸素含有部において、前記積層方向の各位置のp型不純物濃度は、5.0×1019atoms/cm以下である、
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記酸素含有部の全体における前記積層方向の各位置の酸素濃度の平均値は、前記n型半導体層における前記積層方向の各位置の酸素濃度の平均値よりも大きい、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記p型半導体層と前記電子ブロック層との境界部には、酸素以外のn型不純物が含まれている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高濃度n型III族窒化物層と多重量子井戸構造とi型のIII族窒化物ファイナルバリア層と電子ブロック層とp型III族窒化物層とをこの順に備える発光素子が開示されている。特許文献1に記載の発光素子は、かかる構成を採用することで、発光素子の発光出力を向上させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-205767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明においては、窒化物半導体発光素子の発光出力向上の観点から、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、発光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、n型半導体層と、p型半導体層と、前記n型半導体層と前記p型半導体層との間に設けられた活性層と、前記活性層と前記p型半導体層との間に設けられた電子ブロック層と、を備え、前記p型半導体層と前記電子ブロック層との全体は、酸素を含有した酸素含有部を有し、前記n型半導体層、前記活性層、前記電子ブロック層、及び前記p型半導体層の積層方向における、前記酸素含有部の各位置の酸素濃度は、4.0×10 16 atoms/cm以上である、窒化物半導体発光素子
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
図2】比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向の酸素濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示すグラフである。
図3】比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向のシリコン濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示すグラフである。
図4】比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向のマグネシウム濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示すグラフである。
図5】比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向の水素濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示すグラフである。
図6】比較例及び実施例における、初期発光出力及び残存発光出力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(窒化物半導体発光素子1)
図1は、本形態における窒化物半導体発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。なお、図1において、窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)の各層の積層方向の寸法比は、必ずしも実際のものと一致するものではない。
【0011】
発光素子1は、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は半導体レーザ(LD:Laser Diode)を構成するものである。本形態において、発光素子1は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を構成するものである。特に、本形態の発光素子1は、中心波長が200nm以上365nm以下の深紫外光を発する深紫外LEDを構成するものである。本形態の発光素子1は、例えば殺菌(例えば空気浄化、浄水等)、医療(例えば光線治療、計測・分析等)、UVキュアリング等の分野において用いることができる。
【0012】
発光素子1は、基板2上に、バッファ層3、n型クラッド層4(n型半導体層)、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7、及びp型半導体層8を順次備える。基板2上の各層は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気相エピタキシ法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いて形成することができる。また、発光素子1は、n型クラッド層4上に設けられたn側電極11と、p型半導体層8上に設けられたp側電極12とを備える。
【0013】
以下において、基板2、バッファ層3、n型クラッド層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7、及びp型半導体層8の積層方向(図1の上下方向)を単に「積層方向」という。また、基板2に対して発光素子1の各層が積層された側(すなわち図1の上側)を上側といい、その反対側(すなわち図1の下側)を下側という。上下の表現は便宜的なものであり、例えば発光素子1の使用時における、鉛直方向に対する発光素子1の姿勢を限定するものではない。発光素子1を構成する各層は、積層方向に厚みを有する。
【0014】
発光素子1を構成する半導体としては、例えば、AlGaIn1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)にて表される2~4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。なお、深紫外LEDにおいては、インジウムを含まないAlGa1-zN系(0≦z≦1)が用いられることが多い。また、発光素子1を構成する半導体のIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等に置き換えてもよい。また、窒素の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えてもよい。以下、発光素子1の各構成要素について説明する。
【0015】
(基板2)
基板2は、活性層6が発する光(本形態においては深紫外光)を透過する材料からなる。基板2は、例えばサファイア(Al)基板である。また、基板2として、例えば窒化アルミニウム(AlN)基板又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板等を用いてもよい。
【0016】
(バッファ層3)
バッファ層3は、基板2上に形成されている。本形態において、バッファ層3は、窒化アルミニウムにより形成されている。なお、基板2が窒化アルミニウム基板又は窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層3は必ずしも設けなくてもよい。
【0017】
(n型クラッド層4)
n型クラッド層4は、バッファ層3上に形成されている。n型クラッド層4は、例えば、n型不純物がドープされたAlGa1-aN(0≦a≦1)からなるn型半導体層である。n型クラッド層4のAl組成比aは、例えば20%以上とすることが好ましく、25%以上70%以下とすることが更に好ましい。なお、Al組成比は、AlNモル分率とも称される。
【0018】
n型クラッド層4は、n型不純物としてシリコン(Si)がドーピングされたn型半導体層である。なお、n型不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又はテルル(Te)等を用いてもよい。n型クラッド層4以外の、n型不純物を含む半導体層においても同様である。n型クラッド層4は、1μm以上4μm以下の膜厚を有する。n型クラッド層4は、単層構造でもよく、複数層構造でもよい。
【0019】
(組成傾斜層5)
組成傾斜層5は、n型クラッド層4上に形成されている。組成傾斜層5は、AlGa1-bN(0<b≦1)からなる。組成傾斜層5の積層方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程大きくなっている。なお、組成傾斜層5は、積層方向の極一部の領域(例えば組成傾斜層5の積層方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が大きくならない領域を含んでいてもよい。
【0020】
組成傾斜層5は、その下端部のAl組成比がn型クラッド層4のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であり、その上端部のAl組成比が組成傾斜層5に隣接する障壁層61のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。組成傾斜層5を設けることにより、組成傾斜層5の上下に隣り合う障壁層61とn型クラッド層4との間において、Al組成比が急変することを防止することができる。これにより、格子不整合に起因する転位の発生を抑制することができる。その結果、活性層6において電子と正孔とが非発光性の再結合により消費されることを抑制でき、発光素子1の光出力が向上する。組成傾斜層5の膜厚は、例えば5nm以上20nm以下とすることができる。本形態において、組成傾斜層5には、n型不純物としてのシリコンが含まれていることが好ましいが、これに限られない。
【0021】
(活性層6)
活性層6は、組成傾斜層5上に形成されている。本形態において、活性層6は、複数の井戸層62を有する多重量子井戸構造となるよう形成されている。本形態において、活性層6は、障壁層61と井戸層62とを3つずつ有し、障壁層61と井戸層62とが交互に積層されている。活性層6においては、下端に障壁層61が位置しており、上端に井戸層62が位置している。活性層6は、多重量子井戸構造内で電子及び正孔を再結合させて所定の波長の光を発生させる。本形態において、活性層6は、波長365nm以下の深紫外光を出力するために、バンドギャップが3.4eV以上となるよう構成されている。特に本形態において、活性層6は、中心波長が200nm以上365nm以下の深紫外光を発生することができるよう構成されている。
【0022】
各障壁層61は、AlGa1-cN(0<c≦1)からなる。各障壁層61のAl組成比cは、例えば75%以上95%以下とすることができる。また、各障壁層61は、2nm以上12nm以下の膜厚を有する。
【0023】
各井戸層62は、AlGa1-dN(0≦d<1)からなる。本形態において、3つの井戸層62は、p型半導体層8から最も遠い位置に形成された井戸層62である最下井戸層621と、最下井戸層621以外の2つの井戸層62である上側井戸層622とで構成が異なっている。
【0024】
最下井戸層621の膜厚は、各上側井戸層622の膜厚よりも1nm以上大きい。本形態において、最下井戸層621は4nm以上6nm以下の膜厚を有し、各上側井戸層622は2nm以上4nm以下の膜厚を有する。最下井戸層621の膜厚と各上側井戸層622との膜厚の差は、例えば2nm以上4nm以下とすることができる。最下井戸層621の膜厚は、上側井戸層622の膜厚の例えば2倍以上3倍以下とすることができる。最下井戸層621の膜厚を上側井戸層622の膜厚よりも大きくすることにより、最下井戸層621が平坦化し、最下井戸層621上に形成される活性層6の各層の平坦性も向上する。これにより、活性層6の各層においてAl組成比のばらつきが生じることを抑制でき、出力光の単色性を向上させることができる。
【0025】
また、最下井戸層621のAl組成比は、2つの上側井戸層622のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きい。本形態において、最下井戸層621のAl組成比は、35%以上55%以下のAl組成比を有し、各上側井戸層622は、25%以上45%以下のAl組成比を有する。最下井戸層621のAl組成比と各上側井戸層622のAl組成比との差は、例えば10%以上30%以下とすることができる。最下井戸層621のAl組成比は、上側井戸層622のAl組成比の例えば1.4倍以上2.2倍以下とすることができる。最下井戸層621のAl組成比を、上側井戸層622のAl組成比よりも大きくすることにより、n型クラッド層4と最下井戸層621との間のAl組成比の差が比較的小さくなり、最下井戸層621の結晶性が向上する。最下井戸層621の結晶性が向上することにより、最下井戸層621上に形成される活性層6の各層の結晶性も向上する。これにより、活性層6中のキャリアの移動度を向上せせることができ、発光強度が向上する。
【0026】
また、例えば最下井戸層621にn型不純物としてのシリコンがドープされていてもよい。これにより、活性層6中におけるVピットの形成を誘発し、当該Vピットがn型クラッド層4側からの転位の進展を止める役割を果たす。なお、上側井戸層622にもシリコン等のn型不純物が含まれていてもよい。また、本形態において、活性層6は、多重量子井戸構造としたが、井戸層62を1つのみ備える単一量子井戸構造であってもよい。
【0027】
(電子ブロック層7)
電子ブロック層7は、電子が活性層6からp型半導体層8側へリークするオーバーフロー現象の発生を抑制することによって活性層6への電子注入効率を向上させる役割を有する。本形態において、電子ブロック層7は、AlGa1-eN(0.7<e≦1)からなる。すなわち、本形態において、電子ブロック層7のAl組成比eは、70%以上である。電子ブロック層7は、下側から順に積層された第1層71及び第2層72を有する。
【0028】
第1層71は、活性層6の最も上側に位置する上側井戸層622に接するよう設けられている。第1層71のAl組成比は、80%以上とすることが好ましく、本形態においては窒化アルミニウムからなる(すなわちAl組成比が100%である。)。Al組成比が大きいほど電子の通過を抑制する電子ブロック効果が高い。そのため、Al組成比の大きい第1層71を活性層6に隣接する位置に形成することにより、活性層6に近い位置において高い電子ブロック効果が得られ、3つの井戸層62における電子の存在確率を確保しやすい。
【0029】
ここで、Al組成比が高い第1層71の膜厚を大きくし過ぎると、発光素子1の全体の電気抵抗値が過度に大きくなることが懸念される。そのため、第1層71の膜厚は、0.5nm以上10nm以下とすることが好ましく、0.5nm以上5nm以下とすることがより好ましい。一方、第1層71の膜厚を小さくすると、トンネル効果によって電子が第1層71を下側から上側にすり抜ける確率が増大し得る。そこで、本形態の発光素子1においては、第1層71上に第2層72が形成されており、これによって電子が電子ブロック層7全体をすり抜けることを抑制している。
【0030】
第2層72は、第1層71のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する。第2層72のAl組成比は、例えば70%以上90%以下とすることができる。また、第2層72の膜厚は、第1層71の膜厚以上であることが好ましく、電子ブロック効果の確保及び電気抵抗値低減の観点から1nm以上100nm未満とすることが好ましい。
【0031】
電子ブロック層7の膜厚、すなわち第1層71及び第2層72の合計の膜厚は、15nm以上100nm以下とすることができる。特に、電子ブロック層7の全体の膜厚が、100nm以下となる場合、発光素子1への通電に伴ってp型半導体層8から活性層6側へ拡散されるp型不純物としてのマグネシウムが活性層6に到達しやすくなる。そして、水素はマグネシウムと結びつきやすいところ、p型半導体層8から活性層6側へ拡散されるマグネシウムが活性層6に到達しやすくなると、同時に水素も活性層6へ拡散されやすくなる。マグネシウムが活性層6へ拡散されると、活性層6を構成する母相原子とマグネシウムとの原子半径の違いによって活性層6において転位が発生しやすくなる。そうなると、活性層6中の電子と正孔との再結合が、非発光性の再結合(例えば振動を生じさせる再結合)となりやすく、発光効率が低下するおそれがある。また、水素が活性層6へ拡散されると、活性層6が劣化し、通電時間の経過に伴って発光出力が低下し、発光素子1の寿命が短くなるおそれがある。
【0032】
そこで、本形態においては、電子ブロック層7全体の積層方向の各位置の水素濃度の平均値が、2.0×1018atoms/cm以下となっており、好ましくは1.0×1018atoms/cm以下となっている。このように、電子ブロック層7の水素濃度が比較的低いことにより、p型半導体層8から活性層6へ拡散するマグネシウムに水素が結びつくことを抑制でき、水素が活性層6へ拡散することを抑制することができる。
【0033】
電子ブロック層7の各層における水素濃度の調整は、例えば、電子ブロック層7の各層のマグネシウム濃度を調整することにより実現することができる。すなわち、水素はマグネシウムに引き付けられやすいところ、例えば電子ブロック層7の各層のマグネシウム濃度を低くすることにより、電子ブロック層7の各層の水素濃度を低くすることが可能となる。電子ブロック層7の各層の水素濃度を低くする観点から、電子ブロック層7の各層の積層方向の各位置のマグネシウムの濃度は、5.0×1018atoms/cm以下とすることが好ましく、バックグラウンドレベルとすることがより好ましい。バックグラウンドレベルのマグネシウム濃度は、マグネシウムをドープしない場合に検出されるマグネシウム濃度である。
【0034】
電子ブロック層7の各層は、酸素(O)を含有する酸素含有部10を有する。電子ブロック層7の各層の酸素濃度については後述する。本形態において、電子ブロック層7の各層には、酸素以外の不純物は含まれていない。
【0035】
なお、電子ブロック層7の各層は、酸素以外の不純物を含んでいてもよい。例えば、電子ブロック層7の各層は、酸素以外のn型不純物を含有する層、p型不純物を含有する層、又はn型不純物及びp型不純物の双方を含有する層とすることができる。電子ブロック層7の各層が不純物を含有する場合、電子ブロック層7の各層が含有する不純物は、電子ブロック層7の各層の全体に含まれていてもよいし、電子ブロック層7の各層の一部に含まれていてもよい。電子ブロック層7の各層に含めるp型不純物としては、マグネシウム(Mg)を用いることができるが、マグネシウム以外にも、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は炭素(C)等を用いてもよい。また、電子ブロック層7全体における各不純物濃度の積層方向平均は、それぞれ5.0×1018atoms/cm以下が好ましい。このように、電子ブロック層7の各層の不純物濃度を低くすることにより、p型半導体層8から活性層6側へ拡散する水素が活性層6へ到達することが抑制される。また、電子ブロック層7は、単層で構成してもよい。
【0036】
(電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部13)
電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部13には、n型不純物としてのシリコンが含まれている。境界部13に含有されたシリコンは、p型半導体層8から活性層6へ、マグネシウム及び水素が拡散されることを抑制する目的で設けられている。すなわち、電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部13にシリコンを含ませることにより、p型半導体層8中のマグネシウムが、境界部13のシリコンによって堰き止められる。これにより、p型半導体層8中のマグネシウムが、活性層6へ拡散することが抑制される。なお、p型不純物とn型不純物とは、特にマグネシウムとシリコンとが互いに引き付けられやすい。さらに、水素はマグネシウムと結びつきやすいところ、p型半導体層8から活性層6へのマグネシウムの拡散が抑制されることにより、p型半導体層8から活性層6への水素の拡散も併せて抑制される。なお、マグネシウムは、III-V族半導体において、p型不純物としてよく用いられる。
【0037】
境界部13において、シリコンは、結晶中に固溶した状態、クラスターを形成した状態、及びシリコンを含んだ化合物が析出した状態の少なくともいずれかの状態で存在していればよい。シリコンが結晶中に固溶した状態とは、境界部13を構成する窒化アルミニウムガリウム中にシリコンがドープされた状態、すなわちシリコンが窒化アルミニウムガリウムの格子位置にある状態である。また、シリコンがクラスターを形成した状態とは、境界部13を構成する窒化アルミニウムガリウム中にシリコンが過剰ドープされ、シリコンが窒化アルミニウムガリウムの格子位置に存在するとともに格子間位置においても凝集等して存在する状態である。そして、シリコンを含んだ化合物が析出した状態とは、例えば窒化ケイ素等が形成された状態である。電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部13においては、シリコンを含む層が形成されていてもよいし、シリコンを含む部位が積層方向に直交する面方向に点在していてもよい。
【0038】
発光素子1の積層方向のシリコン濃度分布において、境界部13におけるシリコン濃度のピーク値は、1.0×1018atoms/cm以上1.0×1020atoms/cm以下を満たすことが好ましい。1.0×1018atoms/cm以上とすることにより、マグネシウムの拡散を一層抑制しやすい。また、1.0×1020atoms/cm以下とすることにより、境界部13に隣接する第2層72及び第1p型クラッド層81の結晶性が低下することを抑制できる。さらに発光素子1の積層方向のシリコン濃度分布において、境界部13におけるシリコン濃度のピーク値は、3.0×1018atoms/cm以上5.0×1019atoms/cm以下を満たすことがより好ましい。そして、シリコンが含まれた境界部13と活性層6との間にある電子ブロック層7を、前述のごとく不純物が少ない層とし、境界部13における活性層6側と反対側にあるp型半導体層8をp型不純物が比較的多い層とすることにより、p型半導体層8のキャリア濃度を増やしつつ、マグネシウム及び水素がp型半導体層8から活性層6に拡散することを抑制することができる。
【0039】
(p型半導体層8)
p型半導体層8は、第2層72上に形成されている。本形態において、p型半導体層8のAl組成比は、70%未満である。本形態において、p型半導体層8は、下側から順に積層された第1p型クラッド層81、第2p型クラッド層82、及びp型コンタクト層83を有する。第1p型クラッド層81、第2p型クラッド層82、及びp型コンタクト層83のそれぞれは、酸素を含有する酸素含有部10を有する。第1p型クラッド層81、第2p型クラッド層82、及びp型コンタクト層83の酸素濃度については後述する。
【0040】
第1p型クラッド層81は、第2層72に接するよう設けられている。第1p型クラッド層81は、p型不純物としてマグネシウムを含むAlGa1-fN(0<f≦1)からなる。第1p型クラッド層81のマグネシウム濃度は、1.0×1018atoms/cm以上1.0×1020atoms/cm以下とすることができる。第1p型クラッド層81のAl組成比fは、45%以上65%以下とすることができる。第1p型クラッド層81は、15nm以上35nm以下の膜厚を有する。
【0041】
第2p型クラッド層82は、p型不純物としてマグネシウムを含むAlGa1-gN(0<g≦1)からなる。第2p型クラッド層82のマグネシウム濃度は、第1p型クラッド層81のマグネシウム濃度と同様、1.0×1018atoms/cm以上1.0×1020atoms/cm以下とすることができる。
【0042】
第2p型クラッド層82の積層方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程小さくなっている。なお、第2p型クラッド層82は、積層方向の極一部の領域(例えば第2p型クラッド層82の積層方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が小さくならない領域を含んでいてもよい。
【0043】
第2p型クラッド層82は、その下端部のAl組成比が第1p型クラッド層81のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であり、その上端部のAl組成比がp型コンタクト層83のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。第2p型クラッド層82を設けることにより、第2p型クラッド層82の上下に隣り合うp型コンタクト層83と第1p型クラッド層81との間において、Al組成比が急変することを防止することができる。これにより、格子不整合に起因する転位の発生を抑制することができる。その結果、活性層6における電子と正孔とが非発光性の再結合により消費されることを抑制でき、発光素子1の光出力が向上する。第2p型クラッド層82の膜厚は、例えば2nm以上4nm以下とすることができる。
【0044】
p型コンタクト層83は、p側電極12が接続された層であり、p型不純物としてのマグネシウムが高濃度にドープされたAlGa1-hN(0≦h<1)からなる。p型コンタクト層83のマグネシウム濃度は、5.0×1018atoms/cm以上5.0×1021atoms/cm以下とすることができる。本形態において、p型コンタクト層83は、p型の窒化ガリウム(GaN)からなる。p型コンタクト層83は、p側電極12とのオーミックコンタクトを実現すべくAl組成比hが低くなるよう構成されており、かかる観点からp型の窒化ガリウムにより形成することが好ましい。p型コンタクト層83の膜厚は、例えば10nm以上25nm以下とすることができる。
【0045】
なお、p型半導体層8の各層に含有されたp型不純物は、マグネシウムとしたが、亜鉛、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム又は炭素等としてもよい。
【0046】
(n側電極11)
n側電極11は、n型クラッド層4において上側に露出した面上に形成されている。n側電極11は、例えば、n型クラッド層4の上にチタン(Ti)、アルミニウム、チタン、金(Au)が順に積層された多層膜とすることができる。
【0047】
(p側電極12)
p側電極12は、p型コンタクト層83上に形成されている。p側電極12は、活性層6から発される深紫外光を反射する反射電極である。p側電極12は、活性層6が発する光の中心波長において50%以上、好ましくは60%以上の反射率を有する。p側電極12は、ロジウム(Rh)を含む金属であることが好ましい。ロジウムを含む金属は、深紫外光に対する反射率が高く、かつ、p型コンタクト層83との接合性も高い。本形態においては、p側電極12は、ロジウムの単膜からなる。活性層6から上側に発された光は、p側電極12とp型半導体層8との界面において反射される。
【0048】
本形態において、発光素子1は、図示しないパッケージ基板にフリップチップ実装される。すなわち、発光素子1は、積層方向におけるn側電極11及びp側電極12が設けられた側をパッケージ基板側に向け、n側電極11及びp側電極12のそれぞれが、金バンプ等を介してパッケージ基板に実装される。フリップチップ実装された発光素子1は、基板2側(すなわち下側)から光が取り出される。なお、これに限られず、発光素子1は、ワイヤボンディング等によりパッケージ基板に実装されてもよい。また、本形態において、発光素子1は、n側電極11及びp側電極12の双方が発光素子1における上側に設けられた、いわゆる横型の発光素子1としたが、これに限られず、縦型の発光素子1であってもよい。縦型の発光素子1は、n側電極11とp側電極12とによって活性層6がサンドイッチされた発光素子1である。なお、発光素子1を縦型とする場合、基板2及びバッファ層3は、レーザーリフトオフ等により除去することが好ましい。
【0049】
(電子ブロック層7及びp型半導体層8の酸素濃度について)
電子ブロック層7の各層及びp型半導体層8の各層は、酸素を含有する酸素含有部10を有する。本形態においては、電子ブロック層7の各層(すなわち第1層71及び第2層72)の略全体及びp型半導体層8の各層(すなわち第1p型クラッド層81、第2p型クラッド層82、及びp型コンタクト層83)の略全体が、酸素含有部10である。ここで、酸素を含む雰囲気中で発光素子1をアニールすることにより、p型半導体層8のキャリア濃度を高めることができる旨が知られている(特開2013-128009号公報)。本形態においては、電子ブロック層7の各層及びp型半導体層8の各層を酸素含有部10とするために、酸素雰囲気中で電子ブロック層7の各層及びp型半導体層8の各層が成膜されることとなる。それゆえ、p型半導体層8の成膜と同時に、酸素雰囲気中でのp型半導体層8のアニールが促進され、p型半導体中のキャリア濃度が高くなる。
【0050】
酸素含有部10の積層方向の各位置の酸素濃度は、2.5×1016atoms/cm以上である。また、酸素含有部10の積層方向の各位置の酸素濃度は、3.0×1016atoms/cm以上が好ましく、4.0×1016atoms/cm以上がより好ましく、8.0×1016atoms/cm以上がより一層好ましい。酸素含有部10の酸素濃度が高いほど、p型半導体層8中のキャリア濃度を高めることができる。かかる観点から、酸素含有部10全体(本形態においては電子ブロック層7全体及びp型半導体層8全体)の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値は、1.4×1017atoms/cm以上とすることが好ましい。酸素含有部10全体の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値は、n型クラッド層4(n型半導体層)の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値よりも大きいことが好ましい。
【0051】
また、酸素含有部10全体の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値は、活性層6の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値と同等とすることができる。例えば、酸素含有部10の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値が、活性層6の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値の0.8倍以上1.2倍以下である場合、これらの平均値は同等であるといえる。このように、活性層6、電子ブロック層7、及びp型半導体層8の酸素濃度を均一化することにより、活性層6、電子ブロック層7、及びp型半導体層8の結晶性を向上させることができる。
【0052】
電子ブロック層7の各層の酸素濃度を高める観点から、電子ブロック層7の各層の積層方向の各位置のp型不純物の濃度は、5.0×1019atoms/cm以下であることが好ましく、1.0×1019atoms/cm以下であることがより好ましく、バックグラウンドレベルであることがより一層好ましい。また、電子ブロック層7の各層の酸素濃度が高まると、電子ブロック層7を介してp型半導体層8から活性層6へ水素が拡散することを抑制することができる(国際公開第2012/140844号公報の明細書の段落〔0111〕参照)。
【0053】
p型半導体層8の酸素濃度は、p型半導体層8のp型不純物の濃度未満である。酸素はn型不純物であるため、p型半導体層8における酸素濃度はp型不純物濃度未満となる。
【0054】
また、酸素含有部10の積層方向の各位置の酸素濃度は、5.0×1018atoms/cm以下が好ましい。酸素含有部10の積層方向の各位置の酸素濃度が5.0×1018atoms/cm以下である場合、酸素含有部10の結晶性の悪化が抑制される。同様の観点から、酸素含有部10全体の積層方向の各位置の酸素濃度の平均値は、1.0×1018atoms/cm以下であることが好ましい。
【0055】
なお、本形態において、電子ブロック層7の各層の全体及びp型半導体層8の各層を酸素含有部10としたが、これに限られず、電子ブロック層7及びp型半導体層8の少なくとも一部が酸素含有部10であればよい。例えば、p型半導体層8を構成する1層のうちの一部のみを酸素含有部10としてもよい。例えば第1p型クラッド層81の一部のみを酸素含有部10とする場合、酸素含有部10は、第1p型クラッド層81中において、層状に形成されていてもよいし、点在するよう形成されていてもよい。第1p型クラッド層81以外の層の一部に酸素含有部10を形成する場合も同様である。p型半導体層8のキャリア濃度を高める観点からは、少なくともp型半導体層8が酸素含有部10を備えることが好ましい。なお、電子ブロック層7が酸素含有部10を有し、p型半導体層8が酸素含有部10を有さない場合であっても、発光素子1の発光出力を向上させることができる。すなわち、この場合、p型半導体層8中のp型不純物のうち、p型半導体層8のp型化に寄与していない不純物が通電等により活性層6側へ拡散しようとした際、電子ブロック層7中の酸素によって、p型不純物が堰き止められ、p型不純物が活性層6へ拡散することが抑制される。これにより、活性層6の結晶性が低下することを抑制できる結果、キャリアの発光性結合が促進され、発光素子1の発光出力が向上する。また、電子ブロック層7を介してp型半導体層8から活性層6へ水素が拡散することを抑制する観点からは、少なくとも電子ブロック層7が酸素含有部10を備えることが好ましい。電子ブロック層7及びp型半導体層8の双方が酸素含有部10を備えることがより一層好ましい。
【0056】
(元素濃度の数値について)
前述した、発光素子1の積層方向の各位置における元素濃度(酸素濃度、水素濃度、シリコン濃度等)の数値は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて得られた値である。二次イオン質量分析法を用いた場合であっても、元素濃度を同時に測定する元素の数及び元素の種類等によって、測定結果が大きく変わり得るため、元素濃度の測定方法について説明する。
【0057】
発光素子1の積層方向の各位置における元素濃度の測定に当たっては、シリコン、酸素、炭素、及び水素の4元素の濃度及びアルミニウムの二次イオン強度を同時に測定する工程と、マグネシウムの濃度及びアルミニウムの二次イオン強度を同時に測定する工程とを別個に行った。これら元素の測定に当たっては、アルバック・ファイ株式会社製のPHI ADEPT1010を用いることができる。なお、二次イオン質量分析法においては、最表面を構成する層(本形態においてはp型コンタクト層83)の元素濃度の測定が正確に行えないが、前述した、発光素子1の積層方向の各位置における元素濃度(酸素濃度、水素濃度、シリコン濃度等)の数値は、正確に測ることができない領域の測定値を無視したものである。測定条件としては、一次イオン種をCsとし、一次加速電圧を2.0kVとし、検出領域を88×88μmとすることができる。
【0058】
(発光素子1の製造方法)
次に、本形態における発光素子1の製造方法について説明する。
本形態においては、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により、基板2上にバッファ層3、n型クラッド層4、組成傾斜層5、活性層6、第1層71、第2層72、第1p型クラッド層81、第2p型クラッド層82、及びp型コンタクト層83を順にエピタキシャル成長させる。すなわち、本形態においては、チャンバ内に基板2を設置し、基板2上に形成される各層の原料となる高温のキャリアガスをチャンバ内に導入することによって基板2上に各層が形成される。バッファ層3の成長温度は1000℃以上1400℃以下とすることができ、n型クラッド層4の成長温度は1020℃以上1180℃以下とすることができ、組成傾斜層5、活性層6、第1層71、第2層72、第1p型クラッド層81及び第2p型クラッド層82のそれぞれの成長温度は1000℃以上1100℃以下とすることができ、p型コンタクト層83の成長温度は900℃以上1100℃以下とすることができる。
【0059】
前述のように、発光素子1の各層は、高温環境下で成長する。本形態において、電子ブロック層7及びp型半導体層8は、いずれも酸素含有部10であり、酸素を含む雰囲気中において高温成長される。そのため、p型半導体層8の成膜時に、酸素雰囲気中でのp型半導体層8のアニールも併せて促進され、成膜されるp型半導体層8のキャリア濃度が高められる。また、電子ブロック層7を形成する際には、チャンバ内にマグネシウム源となるビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を流していない。これにより、電子ブロック層7及びp型半導体層8の積層方向の各位置の酸素濃度を高めることができる。また、電子ブロック層7及びp型半導体層8の成膜時に、チャンバ内に各層の原料となるキャリアガスを供給するのと同時に酸素ガスを併せて供給することにより、電子ブロック層7及びp型半導体層8の積層方向の各位置の酸素濃度を高めることも可能である。
【0060】
(実施の形態の作用及び効果)
本形態において、p型半導体層8と電子ブロック層7との少なくとも一方は酸素含有部10を有し、積層方向における酸素含有部10の各位置の酸素濃度は、2.5×1016atoms/cm以上である。それゆえ、発光素子1の発光出力を向上させることができる。まず、p型半導体層8が酸素含有部10を有する場合は、p型半導体層8の成膜と同時に酸素雰囲気中でのp型半導体層8のアニールが促進されるため、キャリア濃度を高めるための特別な措置をしなくとも、容易にp型半導体層8中のキャリア濃度を高めることができる。なお、発光素子1の各層の成長後、更に発光素子1をアニールした場合であっても、本形態においては、前述のごとくp型半導体層8の成膜と同時に酸素雰囲気中でのp型半導体層8のアニールが促進されるため、発光素子1の各層の成長後のアニール工程を短縮化することが可能となる。そのため、発光素子の製造工程が複雑化したり長時間かかったりすることを抑制しつつ、p型半導体層8中のキャリア濃度を高め、発光素子1の発光出力を向上させることができる。また、電子ブロック層7が酸素含有部10を有する場合は、p型半導体層8中のp型不純物のうち、p型半導体層8のp型化に寄与していない不純物が通電等により活性層6側へ拡散しようとした際、電子ブロック層7中の酸素によって、p型不純物が活性層6へ拡散することが抑制される。これにより、活性層6の結晶性が低下することを抑制できる結果、キャリアの発光性結合が促進され、発光素子1の発光出力が向上する。さらに、前述のごとく、電子ブロック層7の各層の酸素濃度が高まると、電子ブロック層7を介してp型半導体層8から活性層6へ水素が拡散することを抑制することができる結果、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0061】
また、酸素含有部10は、少なくともp型半導体層8に形成されている。それゆえ、p型半導体層8の成膜中における雰囲気に酸素が多く含まれやすく、酸素雰囲気中でのp型半導体層8のアニールをより促進することができる。そのため、p型半導体層8中のキャリア濃度をより高めることができる。
【0062】
また、酸素含有部10は、少なくとも電子ブロック層7に形成されている。それゆえ、電子ブロック層7を介して、p型半導体層8から活性層6へp型不純物及び水素が拡散することを抑制することができる。これにより、発光素子1の発光出力の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0063】
また、電子ブロック層7の酸素含有部10において、積層方向の各位置のp型不純物濃度は、5.0×1019atoms/cm以下である。それゆえ、電子ブロック層7のp型不純物濃度が高いと電子ブロック層7に酸素が入り難いところ、本形態によれば電子ブロック層7の酸素濃度を高めやすい。これにより、p型半導体層8から活性層6へp型不純物及び水素が拡散することを抑制することができる結果、発光素子1の発光出力の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0064】
また、酸素含有部10全体(本形態においては第1層71からp型コンタクト層83まで)における積層方向の各位置の酸素濃度の平均値は、n型半導体層における積層方向の各位置の酸素濃度の平均値よりも大きい。それゆえ、酸素含有部10の酸素濃度を十分に確保でき、発光素子1の発光出力をより向上させることができる。
【0065】
また、p型半導体層8と電子ブロック層7との境界部13には、酸素以外のn型不純物(本形態においてはシリコン)が含まれている。それゆえ、p型半導体層8中のp型不純物が、境界部13のシリコンによって堰き止められるため、p型不純物が活性層6へ拡散することが抑制される。これにより、発光素子1の発光出力の向上を図ることができる。さらに、水素は、マグネシウムと結びつきやすいところ、p型半導体層8から活性層6へのマグネシウムの拡散が抑制されることにより、p型半導体層8から活性層6への水素の拡散も併せて抑制される。これにより、通電時間の経過に伴って発光素子1の発光出力が低下することを抑制することができ、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0066】
以上のごとく、本形態によれば、発光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【0067】
[実験例]
本実験例は、発光素子において、電子ブロック層及びp型半導体層の酸素濃度が相対的に低い発光素子である比較例と、電子ブロック層及びp型半導体層の酸素濃度が相対的に高い発光素子である実施例とにおいて、初期発光出力及び残存発光出力を評価した例である。なお、本実験例にて用いた構成要素の名称のうち、既出の形態において用いた名称と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素を表す。
【0068】
まず、比較例及び実施例のそれぞれに係る発光素子について説明する。表1に、比較例に係る発光素子の各層の厚み、Al組成比、シリコン濃度、マグネシウム濃度、及び酸素濃度を示し、表2に、実施例に係る発光素子の各層の厚み、Al組成比、シリコン濃度、マグネシウム濃度、及び酸素濃度を示す。表1及び表2において、第1電子ブロックから第2p型クラッド層までの酸素濃度は、第1電子ブロックから第2p型クラッド層までの積層方向の各位置の酸素濃度の最小値を表している。なお、比較例及び実施例のそれぞれにおいて、最表面を構成するp型コンタクト層の酸素濃度に関しては、正確な値の測定ができないが、検出された結果をそのまま記載している。表1及び表2において、「BG」との表記は、バックグラウンドレベルを示している。また、表1及び表2における組成傾斜層の欄は、組成傾斜層の積層方向の各位置のAl組成比が、組成傾斜層の下端から上端までにかけて、55%から85%まで漸増していることを表している。同様に、表1及び表2における第2p型クラッド層の欄は、第2p型クラッド層の積層方向の各位置のAl組成比が、第2p型クラッド層の下端から上端までにかけて、55%から0%まで漸減していることを表している。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1及び表2に記載の各層のAl組成比は、SIMSにより測定したAlの二次イオン強度から推定した値である。表1及び表2から分かるように、比較例において、第1層から第2p型クラッド層までの積層方向の各位置の酸素濃度の最低値は2.41×1016atoms/cmであり、実施例において、第1層から第2p型クラッド層までの積層方向の各位置の酸素濃度の最低値は8.41×1016atoms/cmである。また、比較例においては、電子ブロック層にマグネシウムが含まれているが、実施例においては、電子ブロック層にマグネシウムが含まれていない。なお、比較例においては、電子ブロック層にマグネシウムが含まれる影響により、最もp型半導体層側に近い障壁層及び上側井戸層においても、マグネシウムが検出され得る。比較例と実施例とにおいては、主に前述したような違いがある。
【0072】
図2に、比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向の酸素濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示している。図3に、比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向のシリコン濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示している。図4に、比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向のマグネシウム濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示している。図5に、比較例及び実施例のそれぞれの発光素子における、積層方向の水素濃度分布及びAl二次イオン強度分布を示している。図2乃至図5において、実施例の測定結果は太線で表しており、比較例の測定結果は細線で示している。図2乃至図5において、実施例に係る発光素子の各層の大まかな境界位置を示している。
【0073】
図3においては、電子ブロック層とp型半導体層との境界部にシリコン濃度のピークPが表れている。ここで、図3において、ピークPは、ある程度の幅を持つように見えるが、これは測定上の問題であり、実際は境界部のシリコンを含んだ部分の厚みは略ない。また、図4図5との比較から、水素濃度は、マグネシウム濃度と連動して増減することが分かる。例えば、比較例の電子ブロック層は、マグネシウムを比較的多く含んでいるため水素濃度が比較的高くなっている一方、実施例の電子ブロック層は、マグネシウムを含んでいないため水素濃度が低くなっている。
【0074】
そして、比較例と実施例とのそれぞれにおいて、初期発光出力と残存発光出力とを測定した。初期発光出力は、製造直後の比較例及び実施例に350mAの電流を流したときの発光出力である。また、残存発光出力は、1000時間継続して350mAの電流を流した後の比較例及び実施例の発光出力である。発光出力の測定は、比較例及び実施例のそれぞれの発光素子の下側に設置した光検出器によって測定した。結果を図6のグラフに示す。図6において、実施例の結果を丸プロットにて示しており、比較例の結果を四角プロットにて示している。
【0075】
図6から分かるように、実施例の発光素子の方が、比較例の発光素子よりも、初期発光出力及び残存発光出力の双方が大きくなっている。また、実施例の発光素子の結果の方が、比較例の発光素子の結果よりも、グラフの傾きが小さくなっていることが分かる。すなわち、実施例の発光素子は、比較例の発光素子と比べ、劣化速度が遅く、長寿命であることが分かる。
【0076】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0077】
[1]本発明の第1の実施態様は、n型半導体層(4)と、p型半導体層(8)と、前記n型半導体層(4)と前記p型半導体層(8)との間に設けられた活性層(6)と、前記活性層(6)と前記p型半導体層(8)との間に設けられた電子ブロック層(7)と、を備え、前記p型半導体層(8)と前記電子ブロック層(7)との少なくとも一方は、酸素を含有した酸素含有部(10)を有し、前記n型半導体層(4)、前記活性層(6)、前記電子ブロック層(7)、及び前記p型半導体層(8)の積層方向における、前記酸素含有部(10)の各位置の酸素濃度は、2.5×1016atoms/cm以上である、窒化物半導体発光素子(1)である。
これにより、窒化物半導体発光素子の発光出力を向上することができる。
【0078】
[2]本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記酸素含有部(10)が、少なくとも前記p型半導体層(8)に形成されていることである。
これにより、p型半導体層中のキャリア濃度をより高めることができる。
【0079】
[3]本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記酸素含有部(10)が、少なくとも前記電子ブロック層(7)に形成されていることである。
これにより、発光素子の発光出力の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0080】
[4]本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記電子ブロック層(7)の前記酸素含有部(10)における前記積層方向の各位置のp型不純物濃度が、5.0×1019atoms/cm以下であることである。
これにより、発光素子の発光出力の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0081】
[5]本発明の第5の実施態様は、第1乃至第4のいずれか1つの実施態様において、前記酸素含有部(10)の全体における前記積層方向の各位置の酸素濃度の平均値が、前記n型半導体層(4)における前記積層方向の各位置の酸素濃度の平均値よりも大きいことである。
これにより、発光素子の発光出力をより向上させることができる。
【0082】
[6]本発明の第6の実施態様は、第1乃至第5のいずれか1つの実施態様において、前記p型半導体層(8)と前記電子ブロック層(7)との境界部(13)に、酸素以外のn型不純物が含まれていることである。
これにより、発光素子の発光出力の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0083】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1…発光素子
10…酸素含有部
13…境界部
4…n型クラッド層(n型半導体層)
6…活性層
7…電子ブロック層
8…p型半導体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6