(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】光線力学的療法条件パラメータの決定方法および光線力学的療法装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20230601BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20230601BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
A61K41/00
A61P35/00
A61K31/197
(21)【出願番号】P 2021501180
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006078
(87)【国際公開番号】W WO2020170330
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206967
【氏名又は名称】大塚電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】小橋 真之
(72)【発明者】
【氏名】太田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】原田 康男
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/112902(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125732(WO,A1)
【文献】特開2017-006454(JP,A)
【文献】特表2015-522305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
A61K 41/00
A61P 35/00
A61K 31/197
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に5-アミノレブリン酸類を投与した後、細胞内に蓄積されたプロトポルフィリンIXに光を照射する光線力学的療法の条件パラメータを決定する方法であって、
実験段階において、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線
のモデル式を算出するステップと、
治療開始前に、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)のうちの2つの条件パラメータを予め選択し、前記回帰曲線
のモデル式に代入して残りの条件パラメータを
算出するステップと、を含む光線力学的療法条件パラメータの決定方法。
【請求項2】
前記回帰曲線は、4つのパラメータA~Dを用いた下記のモデル式で表される請求項1記載の光線力学的療法条件パラメータの決定方法。
Y=(A-D)/(1+(X/C)^B)+D
【請求項3】
細胞は、白血病、腫瘍、癌、ウィルス感染症、皮膚疾患、眼疾患、自己免疫疾患および移植片対宿主病(GVHD)からなるグループから選ばれたプロトポルフィリンIX蓄積性疾患を有する請求項1記載の光線力学的療法条件パラメータの決定方法。
【請求項4】
被検体に5-アミノレブリン酸類を投与した後、細胞内に蓄積されたプロトポルフィリンIXに光を照射するための光源と、
光照射エネルギー密度(P)を制御する光量制御部と、
データを入力するデータ入力部と、
データを演算するプロセッサと、
データを記録するデータ記憶部と、を備え、
前記プロセッサは、実験段階において、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線を算出し、
治療開始前に、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)のうちの2つの条件パラメータを予め選択し、前記回帰曲線を用いて残りの条件パラメータを決定する、光線力学的療法装置。
【請求項5】
前記回帰曲線は、4つのパラメータA~Dを用いた下記のモデル式で表される請求項4記載の光線力学的療法装置。
Y=(A-D)/(1+(X/C)^B)+D
【請求項6】
細胞は、白血病、腫瘍、癌、ウィルス感染症、皮膚疾患、眼疾患、自己免疫疾患および移植片対宿主病(GVHD)からなるグループから選ばれたプロトポルフィリンIX蓄積性疾患を有する請求項4記載の光線力学的療法装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに係る光線力学的療法条件パラメータの決定方法によって決定された細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)に対応する投与量を有する5-アミノレブリン酸類を含む光線力学的療法用組成物。
【請求項8】
被検体に5-アミノレブリン酸類を投与した後、光を照射することでプロトポルフィリンIXの蓄積した細胞を不活性化する光線力学的療法における光照射条件を決定する方法であって、
被検体の細胞内プロトポルフィリンIXの蓄積量
を予め定められた関係式
に代入して光照射エネルギー密度を
算出するステップと、を含む光線力学的療法における光照射条件の決定方法。
【請求項9】
上記関係式は、予め算出した、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線に基づいて定められる請求項8記載の光線力学的療法における光照射条件の決定方法。
【請求項10】
上記関係式は、プロトポルフィリンIX蓄積量(X)と光照射エネルギー密度(P)との関係を示すルックアップテーブルを含む請求項8または9記載の光線力学的療法における光照射条件の決定方法。
【請求項11】
上記測定されたプロトポルフィリンIX蓄積量が所定値未満の場合には、複数回の光照射を決定する、請求項8~10のいずれかに記載の光線力学的療法における光照射条件の決定方法。
【請求項12】
前記回帰曲線
のモデル式を用いて
算出された条件パラメータを用いた治療を実施した後
の被検体の細胞生存率を計測し、得られた細胞生存率
を前記回帰曲線のモデル式に代入して細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量を
算出するステップと、
次の治療開始前に、
算出した細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量を
前記回帰曲線のモデル式に代入して、光照射エネルギー密度および5-アミノレブリン酸類投与量を
算出するステップと、をさらに含む請求項1~3のいずれかに記載の光線力学的療法条件パラメータの決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-アミノレブリン酸類を用いた光線力学的療法に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)とは、光感受性物質又はその前駆体を投与し、腫瘍組織や新生血管、皮膚表面などの患部に集積させ、光感受性物質の吸収帯波長に対応する光線を励起光として照射して、励起により生成される一重項酸素をはじめとする活性酸素種の殺細胞効果を利用した治療法である。
【0003】
アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:5-ALA)類は経口吸収性を有する物質であり、細胞内ミトコンドリアにおいてヘムが生合成される過程でプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX:PpIX)に代謝される。PpIXはソーレー帯と呼ばれる410nm付近の吸収帯とQ帯と呼ばれる500-650nm付近の吸収帯をもち、これら吸収帯波長の光線を照射することによって活性酸素種を発生する光感受性物質であり、PDTに用いられる。
【0004】
5-ALA類を用いたPDTにおいては、特許文献1において5-ALA濃度依存的に5-ALAから生合成されたPpIXの細胞内蓄積が増加し、細胞の光照射に対する感受性が増加、すなわち細胞が死滅しやすくなったことが示されている。また、細胞内PpIX蓄積量の他に、PDTの効果は光線照度と照射時間の積算値である光照射エネルギー密度にも依存することは当該技術分野において公知である(特許文献2)。
【0005】
上記のように傾向としてこれらに依存関係があることが知られている一方で、PDTでの殺細胞効果に対する細胞内PpIX蓄積量と光照射エネルギー密度との厳密な関係性はこれまで解明されていない。また、標的細胞の種類、由来や原疾患が異なる場合における殺細胞効果に対するこれらの依存関係について、標的細胞の種類や由来等を超えた関連性、相似性は一切分かっていない。
【0006】
また特許文献3,4および非特許文献1もPDTに関するものであるが、PDTでの殺細胞効果に対する細胞内PpIX蓄積量と光照射エネルギー密度との厳密な関係性について何ら開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/125732号公報
【文献】特表2017-526371号公報
【文献】特許第5612246号
【文献】米国特許第6609014号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ouyang G. et al., "Inhibition of autophagy potentiates the apoptosis-inducing effects of photodynamic therapy on human colon cancer cells", Photodiagnosis Photodyn Ther. 2018; 21: 396-403
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PDTにおいて、過度の光線照射は正常細胞を殺傷して副作用の増大を招く一方、過小な照射は標的細胞を十分に死滅させることができない。
【0010】
本発明の目的は、光線力学的療法の条件パラメータを正確に決定することによって、光線力学的療法の最適化が図られる光線力学的療法条件パラメータの決定方法を提供することである。
【0011】
また本発明の目的は、こうした光線力学的療法条件パラメータの決定方法を用いた光線力学的療法装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、細胞種差なくその細胞内PpIX蓄積量と光照射エネルギー密度によって細胞死が、ある回帰曲線、例えば、4パラメータ・ロジスティックモデルで曲線回帰することが判明した。これによってPpIX蓄積性が認められる対象疾患において、適正な光照射エネルギー量と光感受性物質投与量の決定、ならびに治療効果の予測を提供することができる。
【0013】
即ち、本発明は、5-アミノレブリン酸類を投与した後、細胞内に蓄積されたプロトポルフィリンIXに光を照射する光線力学的療法の条件パラメータを決定する方法であって、
プロセッサによって、実験段階において、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線を算出するステップと、
プロセッサによって、治療開始前に、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)のうちの2つの条件パラメータを予め選択し、前記回帰曲線を用いて残りの条件パラメータを決定するステップと、を含む。
【0014】
また本発明に係る光線力学的療法装置は、5-アミノレブリン酸類を投与した後、細胞内に蓄積されたプロトポルフィリンIXに光を照射するための光源と、
光照射エネルギー密度(P)を制御する光量制御部と、
データを入力するデータ入力部と、
データを演算するプロセッサと、
データを記録するデータ記憶部と、を備え、
前記プロセッサは、実験段階において、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線を算出し、
治療開始前に、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)のうちの2つの条件パラメータを予め選択し、前記回帰曲線を用いて残りの条件パラメータを決定する。
【0015】
前記回帰曲線は、4つのパラメータA~Dを用いた下記のモデル式で表されることが好ましい。
Y=(A-D)/(1+(X/C)^B)+D
【0016】
また細胞は、白血病、腫瘍、癌、ウィルス感染症、皮膚疾患、眼疾患、自己免疫疾患および移植片対宿主病(GVHD)からなるグループから選ばれたプロトポルフィリンIX蓄積性疾患を有することが好ましい。
【0017】
また本発明は、上記光線力学的療法条件パラメータの決定方法によって決定された細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)に対応する投与量を有する5-アミノレブリン酸類を含む光線力学的療法用組成物に関する。
【0018】
また本発明は、被検体に5-アミノレブリン酸類を投与した後、光を照射することでプロトポルフィリンIXの蓄積した細胞を不活性化する光線力学的療法における光照射条件を決定する方法であって、
プロセッサによって、上記被検体から取り出した細胞におけるプロトポルフィリンIXの蓄積量を測定するステップと、
プロセッサによって、上記ステップにて測定されたプロトポルフィリンIXの蓄積量に基づき、予め定められた関係式を使用して光照射エネルギー密度を決定するステップと、を含む。
【0019】
上記関係式は、予め算出した、細胞生存率(Y)、細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線に基づいて定められることが好ましい。
【0020】
上記関係式は、プロトポルフィリンIX蓄積量(X)と光照射エネルギー密度(P)との関係を示すルックアップテーブルを含むことが好ましい。
【0021】
上記測定されたプロトポルフィリンIX蓄積量が所定値未満の場合には、複数回の光照射を決定することが好ましい。
【0022】
また本発明に係る光線力学的療法の条件パラメータを決定する方法は、
プロセッサによって、前記回帰曲線を用いて決定された条件パラメータを用いた治療を実施した後に、被検体の細胞生存率を計測し、得られた細胞生存率に基づいて細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量を推定するステップと、
プロセッサによって、次の治療開始前に、推定した細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量を用いて、光照射エネルギー密度および5-アミノレブリン酸類投与量を再設定するステップと、をさらに含むことが好ましい。
【0023】
なお本発明において、5-アミノレブリン酸類(ALA類)とは、5-アミノレブリン酸(ALA)もしくはその誘導体、またはこれらの塩を含む。こうした5-アミノレブリン酸類の投与は、静脈内注射、点滴、経口投与、経皮投与、座薬、膀胱内注入などの各種の投与形態が採用できる。
【発明の効果】
【0024】
光線力学的療法における問題点は、過度の光線照射は正常細胞を殺傷して副作用の増大を招く一方、過小な照射は標的細胞を十分に死滅させることができないことである。そこで本発明による回帰分析結果を適応することによって、治療対象疾患(白血病など)の標的細胞の細胞内プロトポルフィリンIX蓄積量から、細胞死を適切に誘導する光照射エネルギー密度又は光感受性物質投与量を決定することができる。
【0025】
またプロトポルフィリンIX蓄積量と殺細胞効果の相関から有効なプロトポルフィリンX蓄積量を算出した上で、有効プロトポルフィリンIX蓄積量を超えたがん細胞集団を算出し、最終的に臨床効果を達成するための照射量、回数等を見積もることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る光線力学的療法装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係る光線力学的療法条件パラメータの決定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】ヒト成人T細胞白血病由来の4種の細胞株についての回帰分析結果の一例を示すグラフである。
【
図4】ヒトT細胞白血病由来のJurkat細胞についての回帰分析結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明に係る光線力学的療法装置の一例を示すブロック図である。光線力学的療法装置は、光源20と、光量制御部21と、データを演算するプロセッサ10と、データを入力するデータ入力部11と、データを記憶するデータ記憶部12と、データを出力するデータ出力部13などで構成される。
【0028】
光源20は、被検体に5-アミノレブリン酸類(ALA類)を投与した後、細胞内に蓄積されたプロトポルフィリンIX(PpIX)に光を照射する機能を有する。光の波長は、PpIXの吸収波長、例えば、410nm、545nm、580nm、630nmなどに設定される。光量制御部21は、光源20から放射される光の光照射エネルギー密度(P)を制御する。
【0029】
プロセッサ10は、予め設定されたプログラムに従って、装置全体の制御、データ処理などを実施する。データ入力部11は、キーボード、タッチパネル、マウスなど手入力デバイス、または有線通信、無線通信による遠隔入力デバイスを含む。データ記憶部12は、半導体メモリ、ハードディスク、光ディスクなどで構成される。データ出力部13は、ディスプレイ、プリンタなどで構成される。
【0030】
図2は、本発明に係る光線力学的療法条件パラメータの決定方法の一例を示すフローチャートである。まずステップs1において、実験段階において、被検体に種々の投与量を有するALA類を投与した後、細胞内に蓄積されたPpIX量を測定する。この測定法は、例えば、蛍光検出高速液体クロマトグラフィー法やフローサイトメーター等が利用できる。測定した細胞内PpIX蓄積量は、データ入力部11を介して入力され、データ記憶部12に記憶される。
【0031】
次にステップs2において、種々のPpIX蓄積量を有する細胞に対して種々の光照射エネルギー密度(単位面積当りのジュール)で光を照射し、個々の細胞の生存率を測定する。使用した種々の光照射エネルギー密度および、測定した個々の細胞の生存率は、データ入力部11を介して入力され、データ記憶部12に記憶される。次に、プロセッサ10は、所定の統計解析ソフトウェアに従って、データ記憶部12に記憶された細胞生存率(Y)、細胞内PpIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)の3つの条件パラメータについて回帰分析およびフィッティングを実施し、条件パラメータ間の相関関係を表す回帰曲線を算出する。回帰曲線は、任意のモデル式が想定できるが、4つのパラメータA~Dを用いた下記のモデル式(1)で表すことが好ましい。算出した回帰曲線および該回帰曲線を定義するパラメータA~Dは、データ記憶部12に記憶するとともに、データ出力部13に表示できる。
【0032】
Y=(A-D)/(1+(X/C)^B)+D …(1)
【0033】
次にステップs3において、治療開始前に、データ入力部11を介して、細胞生存率(Y)、細胞内PpIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)のうちの2つの条件パラメータを予め選択し、プロセッサ10は、データ記憶部12に記憶した回帰曲線を用いて残りの条件パラメータを決定する。予め選択した2つの条件パラメータおよび決定した条件パラメータは、データ記憶部12に記憶するとともに、データ出力部13に表示できる。なお、光照射は、1回だけでなく、2回以上に分けて実施してもよく、その場合は各照射回のエネルギー密度の合計が光照射エネルギー密度(P)となる。
【0034】
例えば、1)細胞生存率(Y)および細胞内PpIX蓄積量(X)を予め選択した場合、前記回帰曲線を用いて光照射エネルギー密度(P)が決定できる。決定した光照射エネルギー密度(P)は、光量制御部21に供給され、光源20から放射される光の照射量、照射回数を制御する。
【0035】
また、2)細胞生存率(Y)および光照射エネルギー密度(P)を予め選択した場合、前記回帰曲線を用いて細胞内PpIX蓄積量(X)が決定できる。この場合、こうして決定された細胞内PpIX蓄積量(X)に対応する投与量を有する5-アミノレブリン酸類を含む光線力学的療法用組成物が生産できる。
【0036】
また、3)細胞内PpIX蓄積量(X)および光照射エネルギー密度(P)を予め選択した場合、前記回帰曲線を用いて細胞生存率(Y)が決定できる。
【0037】
回帰曲線を用いる場合、数式を使用してもよいが、各条件パラメータP,X,Yの相関関係をデジタル形式でデータベースに変換したルックアップテーブルを使用することも可能である。
【実施例1】
【0038】
ヒト成人T細胞白血病(ATL)由来の4種の細胞株(ATN-1,TL-Om1,HuT102及びMT-1)及び1種のHTLV-1トランスフォーム細胞株(C8166)を用いて、5-ALA負荷(0,0.0625,0.125,0.25及び0.5mmol/L)によって細胞内に蓄積するプロトポルフィリンIX(PpIX)量を蛍光検出高速液体クロマトグラフィー法にて測定し、さらにPDTによる殺細胞試験としてすべての細胞に中心波長630nmの光線照射(10,30及び100J/cm
2)を行い、細胞数測定キットCell Counting Kit-8による細胞生存率(%)を算出した。すべての細胞株の結果について、光照射エネルギー密度毎に縦軸に細胞生存率、横軸に細胞内PpIX蓄積量をプロットし、統計解析ソフトウェアSAS software Release 9.3にて回帰分析を実施した(
図3)。その結果、いずれの光照射エネルギー密度においても4パラメータ・ロジスティックモデルに収束し(表1)、細胞株間差なく細胞内PpIX蓄積量と光照射エネルギー密度によって細胞死が曲線回帰することが認められ、厳密にこの関係性が規定できることが明確となった。
【0039】
【実施例2】
【0040】
ヒト成人T細胞白血病とは疾患分類が異なるヒトT細胞白血病由来のJurkat細胞について、5-ALA負荷(0,0.0625,0.125,0.25,0.5及び1mmol/L)によって細胞内に蓄積するプロトポルフィリンIX量を蛍光検出高速液体クロマトグラフィー法にて測定し、さらにPDTによる殺細胞試験として中心波長630nmの光線照射(30J/cm
2)を行い、細胞数測定キットCell Counting Kit-8による細胞生存率(%)を算出した。その結果、細胞生存率は、
図3に記載された回帰曲線上に位置し、疾患分類が異なる白血病においても厳密にこの関係性が成り立つことが証明された(
図4)。
【実施例3】
【0041】
(臨床使用のおける一形態)
がん患者が5-ALA類を服用した後、患者がん細胞内に蓄積したPpIX蓄積量(X)を測定し、この細胞内PpIX蓄積量と殺細胞効果の治療目標値(細胞生存率(Y)に対応)を光線力学的療法装置に入力する。光線力学的療法装置は、入力された値からあらかじめプログラムされた回帰曲線、あるいは回帰曲線から導かれた段階的なレンジを有するルックアップテーブルを参照して、治療目標値に対応する光照射エネルギー密度(P)を決定し、治療を実施する。このとき、細胞内PpIX蓄積量、殺細胞効果の治療目標値、光照射エネルギー密度は連続的な値であっても段階的な値であってもよい。
【実施例4】
【0042】
(臨床使用のおける一形態)
治療対象の細胞内PpIX蓄積量(X)を測定し、この値を光線力学的療法装置に入力する。入力された細胞内PpIX蓄積量からあらかじめプログラムされた回帰曲線、あるいは回帰曲線から導かれた段階的なレンジを有するルックアップテーブルを参照して、任意の光照射エネルギー密度(P)に対する細胞生存率(Y)を算出することができ、治療効果予測や治療実施を行う。細胞内PpIX蓄積量、光照射エネルギー密度、細胞生存率は連続的な値であっても段階的な値であってもよい。
【実施例5】
【0043】
(臨床使用のおける一形態)
上述した回帰曲線またはルックアップテーブルを用いて決定された条件パラメータ(例えば、光照射エネルギー密度)を用いて、患者に対して1回あるいは複数回の光線力学的療法を実施した後に、患者の細胞生存率を計測する。そのときの光照射エネルギー密度と細胞生存率から、光線力学的療法装置にプログラムされた回帰曲線に基づき、患者がん細胞の細胞内PpIX蓄積量(X)あるいは蓄積量の範囲が算出される。
【実施例6】
【0044】
(臨床使用のおける一形態)
さらに上記にて治療実施後に算出されたPpIX蓄積量(X)から、医療従事者は、次の光線力学的治療を実施する際に目標とする治療効果を得るため、光照射エネルギー密度(P)や5-ALA投与量を光線力学的療法装置にプログラムされた回帰曲線に基づき再設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、光線力学的療法の最適化が図られる点で、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0046】
10 プロセッサ、 11 データ入力部、 12 データ記憶部、
13 データ出力部、 20 光源、 21 光量制御部