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特許7289023熱伝導性組成物、熱伝導性グリース及び熱伝導性シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物、熱伝導性グリース及び熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230601BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230601BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20230601BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/04
C08K9/06
C09K5/14 E
C09K5/14 101E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023517994
(86)(22)【出願日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2023001993
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2022102791
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩井 亮
(72)【発明者】
【氏名】服部 真和
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/049817(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/049816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と熱伝導性粒子を含む熱伝導性樹脂組成物であって、
前記熱伝導性粒子は、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤で予め表面処理された熱伝導性粒子Aと、
脂肪族炭化水素基を有し、芳香族炭化水素基を含まない表面処理剤で予め表面処理された熱伝導性粒子Bを含み、
前記芳香族炭化水素基を有する表面処理剤は、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、フェニルエチルトリエトキシシラン、フェニルプロピルトリメトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、アントラセニルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、両末端トリメトキシシリルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルエチルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱伝導性粒子A及びBの少なくとも一方は、板状及び多面体状からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂100質量部に対して熱伝導性粒子Aは50~1500質量部であり、熱伝導性粒子Bは50~1500質量部である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性粒子Aは、熱伝導性粒子100質量部に対して、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤の付与量は0.01~10.0質量部である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素基を有し、芳香族炭化水素基を含まない表面処理剤は、メチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン(n-,iso-を含む),ブチルトリメトキシシラン(n-,iso-を含む),へキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)オクタン、両末端トリメトキシシリルポリシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルポリジメチルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルエチルポリジメチルシロキサンオリゴマーなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性粒子Bは、熱伝導性粒子100質量部に対して、脂肪族炭化水素基を有し、芳香族炭化水素基を含まない表面処理剤の付与量は0.01~10.0質量部である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性粒子100質量%に対して、前記熱伝導性粒子Aは10~90質量%であり、前記熱伝導性粒子Bは90~10質量%の割合である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物からなる熱伝導性グリース。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を成形した熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性組成物、熱伝導性グリース及び熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱部との密着性を改善する為に熱伝導性シートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。従来、熱伝導性シートとして特許文献1~4等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2021-518466号公報
【文献】再表2020-137970号公報
【文献】再表2018-088416号公報
【文献】特開2016-216523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性組成物は、脂肪族炭化水素官能基を含む表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子を含む組成物では、粘度が低下する問題があり、芳香族炭化水素系官能基を含む表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子を含む組成物では粘度が高くなりすぎ、
圧縮荷重の定常値低下は防げるが、粘度が上昇するという問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、高熱伝導度で圧縮荷重定常値の低下が抑えられ、適度な粘度を有する熱伝導性組成物、熱伝導性グリース及び熱伝導性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂と熱伝導性粒子を含む熱伝導性樹脂組成物であって、
前記熱伝導性粒子は、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤で予め表面処理された熱伝導性粒子Aと、
脂肪族炭化水素基を有し、芳香族炭化水素基を含まない表面処理剤で予め表面処理された熱伝導性粒子Bを含み、
前記芳香族炭化水素基を有する表面処理剤は、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、フェニルエチルトリエトキシシラン、フェニルプロピルトリメトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、アントラセニルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、両末端トリメトキシシリルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルエチルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする。
【0007】
本発明の熱伝導性グリースは、前記の熱伝導性組成物をグリースとしたものである。
【0008】
本発明の熱伝導性シートは、前記の熱伝導性組成物がシートに成形されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、マトリックス樹脂と熱伝導性粒子を含み、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子Aと、脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子Bを含むことにより、高熱伝導度で圧縮荷重定常値の低下が抑えられ、適度な粘度を有する熱伝導性組成物、熱伝導性グリース及び熱伝導性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートの使用方法を示す模式的断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態における板状粒子(窒化ホウ素)の走査型電子顕微鏡写真(倍率5,000倍)である。
図3図3は本発明の一実施形態における多面体状粒子(アルミナ)の走査型電子顕微鏡写真(倍率3,000倍)である。
図4図4は本発明の一実施形態における溶融球状粒子(アルミナ)の走査型電子顕微鏡写真(倍率1,000倍)である。
図5図5は本発明の一実施形態における微粒丸み状粒子(アルミナ)の走査型電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、マトリックス樹脂と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物である。マトリックス樹脂は、シリコーンゴム、シリコーンゲル、アクリルゴム、フッ素ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。この中でもシリコーンが好ましく、エラストマー、ゲル、パテ又はグリースなどが好ましい。エラストマー及びゲルはシート成形されていてもよい。シリコーン樹脂の硬化システムは過酸化物硬化反応、付加硬化反応、縮合硬化反応等いかなる硬化方法を用いてもよい。シリコーン樹脂は耐熱性が高いことから好ましい。また、周辺への腐食性がないこと、系外に放出される副生成物が少ないこと、深部まで確実に硬化することなどの理由により付加反応型であることが好ましい。
【0012】
前記熱伝導性粒子A及びBの少なくとも一方は、板状及び多面体状からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であることが好ましい。前記熱伝導性粒子A及びBがともに板状及び多面体状からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であることがさらに好ましい。これにより、高い熱伝導性が得られる。本発明の熱伝導性組成物の好ましい熱伝導度は、0.5~20W/mKであり、より好ましくは1~15W/mKである。
【0013】
前記熱伝導性粒子は、予め表面処理剤で表面処理されており、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子Aと、脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子Bを含む。マトリックス樹脂100質量部に対して熱伝導性粒子Aは50~1500質量部であり、より好ましくは100~1200質量部、さらに好ましくは150~1000質量部である。熱伝導性粒子Bはマトリックス樹脂100質量部に対して50~1500質量部であり、より好ましくは100~1200質量部、さらに好ましくは150~1000質量部である。これにより、好ましい熱伝導性が得られる。
【0015】
前記芳香族炭化水素基を有する表面処理剤は、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、フェニルエチルトリエトキシシラン、フェニルプロピルトリメトキシラン、ナフチルトリメトキシシラン、アントラセニルトリメトキシラン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、両末端トリメトキシシリルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルエチルポリメチルフェニルシロキサンオリゴマーなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0016】
前記熱伝導性粒子Aは、熱伝導性粒子100質量部に対して、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤の付与量は0.01~10.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~8.0質量部であり、さらに好ましくは0.1~6質量部である。
【0018】
前記脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤は、メチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン(n-,iso-を含む),ブチルトリメトキシシラン(n-,iso-を含む),へキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)オクタン、両末端トリメトキシシリルポリシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルポリジメチルシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルエチルポリジメチルシロキサンオリゴマーなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であるのが好ましい。
【0019】
熱伝導性粒子Bは、熱伝導性粒子100質量部に対して、脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤の付与量は0.01~10.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~8.0質量部であり、さらに好ましくは0.1~6質量部である。
【0020】
熱伝導性粒子100質量%に対して、熱伝導性粒子Aは10~90質量%であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%であり、さらに好ましくは30~70質量%である。また熱伝導性粒子100質量%に対して、熱伝導性粒子Bは90~10質量%であることが好ましく、より好ましくは80~20質量%であり、さらに好ましくは70~30質量%である。
【0021】
本発明の熱伝導性グリースは前記の熱伝導性樹脂組成物からなるものである。また、本発明の熱伝導性シートは、前記の熱伝導性樹脂組成物をシートに成形したものである。
【0022】
本発明の一例として、付加反応型シリコーン組成物(未硬化組成物)の場合は、下記組成のコンパウンドが好ましい。
A 芳香族炭化水素基を有する表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子:マトリックス樹脂100質量部に対して50~1500質量部
B 脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤で表面処理された熱伝導性粒子:マトリックス樹脂100質量部に対して50~1500質量部
C マトリックス樹脂成分
マトリックス樹脂成分は、下記(C1)(C2)を含む。(C1)+(C2)で100質量%とする。
(C1)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(C2)架橋成分:1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、1モル未満の量
前記(C1)(C2)成分以外に反応基を持たないオルガノポリシロキサンを含んでもよい。
D 白金系金属触媒:マトリックス樹脂成分に対して質量単位で0.01~1000ppmの量
E その他添加剤:硬化遅延剤、着色剤等;任意量、シランカップリング剤
【0023】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分(C1成分)
ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンは本発明のシリコーンゴム組成物における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個有する。粘度は25℃で10~1000000mPa・s、特に100~100000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
具体的には、下記化学式(化9)で表される1分子中に2個以上かつ分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。側鎖はアルキル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサンである。25℃における粘度は10~1000000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【化9】
【0024】
式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。Rのアルケニル基としては、例えば炭素原子数2~6、特に2~3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。化学式(9)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する整数である。
【0025】
C1成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3~30個、好ましくは、3~20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10~1000000mPa・s、特に100~100000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0026】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記化学式(化10)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)、少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって、上記でも述べた通り25℃における粘度が10~1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0027】
【化10】
【0028】
式中、Rは互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。Rは互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、Rの一価炭化水素基としては、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
また、Rの一価炭化水素基としても、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。Rのアルケニル基としては、例えば炭素数2~6、特に炭素数2~3のものが好ましく、具体的には前記化学式(化9)のRと同じものが例示され、好ましくはビニル基である。l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0029】
(2)架橋成分(C2成分)
本発明のC2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とC1成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2~1000、特に2~300程度のものを使用することができる。
【0030】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも分子鎖非末端(分子鎖途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記化学式(化9)のRと同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0031】
C2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記構造のものが例示できる。
【化11】
【0032】
上記の式中、Rは互いに同一又は異種のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、水素原子であり、少なくとも2つは水素原子である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。
【0033】
(3)触媒成分(D成分)
D成分の触媒成分はヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。
【0034】
(4)熱伝導性粒子(A及びB成分)
A及びB成分の熱伝導性粒子は、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素又はシリカなどが好ましい。形状は球状、鱗片状、板状、多面体状等様々なものを使用できる。熱伝導性充填剤の比表面積は0.06~15m/gの範囲が好ましい。比表面積はBET比表面積であり、測定方法はJIS R1626(1996)にしたがう。平均粒子径を用いる場合は、0.1~100μmの範囲が好ましい。粒子径の測定はレーザー回折光散乱法により、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)を測定する。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。この中でも板状アルミナ、板状窒化ホウ素、多面体状アルミナ、多面体状窒化アルミニウム、溶融球状アルミナ、微粒丸み状アルミナなどが好ましい。熱伝導性粒子は熱伝導性フィラー、又は単にフィラーともいう。
【0035】
熱伝導性粒子のシランカップリング剤による表面処理は、ヘンシェルミキサー等の高速撹拌装置を用いて、容器に熱伝導性粒子を入れた後、表面処理剤を投入混合する乾式処理が望ましい。この表面処理は溶剤を用いて表面処理剤をスラリー状で混合し、溶剤を揮発させて除去する湿式処理で行う方法も可能である。処理操作が単純であることから、乾式処理が好ましい。高速回転による表面処理において加熱、減圧操作を同時に行っても良い。さらに処理反応を完結する目的で、80~180℃で1~24時間加熱する工程を含んでもよい。
【0036】
熱伝導性無機粒子の表面を処理するのに必要なシラン量は次式で計算することができる。
シラン量(g)=熱伝導性無機粉体の量(g)×熱伝導性無機粉体の比表面積(m/g)/シランの最小被覆面積(m/g)
「シランの最小被覆面積」は次の計算式で求める。
シランの最小被覆面積(m/g)=(6.02×1023)×(13×10-20)/シランの分子量
前記式中、6.02×1023:アボガドロ定数
13×10-20:1分子のシランが覆う面積(0.13nm
必要なシラン量は「シランの最小被覆面積」(以下Aminともいう。)の0.5倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは0.8倍以上5倍以下である。これにより、マトリックス樹脂への熱伝導性無機粒子の充填性を向上できる。
【0037】
(5)その他添加剤
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機顔料を添加しても良い。前記のシランカップリング剤を添加してもよい。
【0038】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートを放熱構造体10に組み込んだ模式的断面図である。熱伝導性シート11bは、半導体素子等の電子部品13の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ12の電子部品13と対峙する主面12aに固定され、電子部品13とヒートスプレッダ2との間に挟持される。また、熱伝導シート11aは、ヒートスプレッダ12とヒートシンク15との間に挟持される。そして、熱 伝導シート11a,11bは、ヒートスプレッダ2とともに、電子部品13の熱を放熱する放熱部材を構成する。ヒートスプレッダ12は、例えば方形板状に形成され、電子部品13と対峙する主面12aと、主面12aの外周に沿って立設された側壁12bとを有する。ヒートスプレッダ2は、側壁12bに囲まれた主面12aに熱伝導シート11bが設けられ、また主面12aと反対側の他面12cに熱伝導シート11aを介してヒートシンク15が設けられる。電子部品13は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板14へ実装されている。
【実施例
【0039】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における各種測定方法は次のとおりである。
<熱伝導率>
(1)グリース:DYNTIM装置(Siemens社製)を使用し、ASTM D5470:2017に準拠して測定した。
(2)シート:Hotdisk装置(京都電子工業株式会社製)ISO-22007-2:2008に準拠して測定した。
<粘度>HAAKE MARSレオメーター(Thermo Scientific社製)を用いて、ASTMD1824-95:2010に準拠して測定した。
<圧縮荷重>
タテ15mm、ヨコ15mm、厚さ2mmのシートを使用し、加圧速度5.0mm/分でASTMD575-91:2012に準拠して測定した。
<硬さ>
熱伝導性シリコーンシートの硬さは、JIS K7312:1996に規定のAsker-Cとした。
【0040】
1 原料
(1)熱伝導性フィラー
・F1:板状アルミナ(商品名AP-10:平均粒径9μm、BET比表面積1.5m2/g、アスペクト比15、DIC株式会社製)
・F2:板状窒化ホウ素(商品名HSL:平均粒径35μm、BET比表面積2m2/g、アスペクト比38、Dandong Chemical Engineering Institute社製)、図2に図示。
・F3:多面体状アルミナ(商品名AH40S:平均粒径32μm、BET比表面積0.1m2/g以下、DIC株式会社製)
・F4:多面体状窒化アルミニウム(商品名HF-20:平均粒径19μm、BET比表面積0.2m2/g、株式会社トクヤマ製)
・F5:多面体状アルミナ(商品名AA-3:平均粒径3.5μm、BET比表面積0.6m2/g、住友化学株式会社製)、図3に図示。
・F6:溶融球状アルミナ(商品名AZ35-75R:平均粒径38μm、BET比表面積0.2m2/g、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、図4に図示。
・F7:微粒丸み状アルミナ(商品名AKP-30:平均粒径0.3μm、BET比表面積7.4m2/g、住友化学株式会社製)、図5に図示。
(2)表面処理剤
<芳香族炭化水素基を有する表面処理剤>
・S1:フェニルトリメトキシシラン(商品名KBM-103:化学式C65Si(OCH33、分子量198.3、信越化学工業株式会社製)
・S2:ベンジルトリエトキシシラン(商品名SIB0971.0:化学式C65CH2Si(OC253、分子量254.4、Gelest社製)
<脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤>
・S3:デシルトリメトキシラン(商品名OFS-6210:化学式n-C1021Si(OCH33、分子量262.5、ダウ東レ株式会社製)
・S4:イソブチルトリエトキシシラン(商品名OFS-6403:化学式iso-C49Si(OC253、分子量178.3、ダウ東レ株式会社製)
・S5:α-トリエトキシシリルエチル,β-n-ブチル(ポリジメチルシロキサン)(商品名MCR-XT11:化学式C49(CH32SiO-(Si(CH32O)n-Si(CH32-C24-Si(OC253、粘度:16-24cSt、Gelest社製)
・S6:メチルトリメトキシシラン(商品名:OFS-6070:化学式CH3Si(OCH33、分子量136.2、ダウ東レ株式会社製)
【0041】
2 フィラーの表面処理
板状熱伝導性フィラー(例えば前記F1)を100.0g、表面処理剤としてフェニルトリメトキシシラン(分子量=198.3)(例えば前記S1)0.35gを用いて、ワンダークラッシャーWC-3(大阪ケミカル株式会社製)を用いて乾式表面処理を行った。さらに120℃、12時間加熱処理を行って表面処理熱伝導性フィラーを得た。
そのほかのフィラーについても、表1~2に示した組成で同様の処理を行った。
熱重量分析を用いてそれぞれの表面処理剤の付着量を求めた。加熱処理により添加した表面処理剤(シラン化合物)の一部は揮発するので、残存する表面処理剤の付着量を熱重量分析で確認した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例1~5、比較例1~7)
本実施例及び比較例は、熱伝導性コンパウンドを製造し、評価をした。
上記に従い調整した熱伝導性フィラーを使用し、表3~4に示す組成で、自転公転ミキサー(マゼルスターKK-400W、クラボウ(株)製)を用いて混合することにより、熱伝導性コンパウンドを得た。得られた熱伝導性樹脂コンパウンドの粘度及び熱伝導率を測定した。
各実施例、比較例で使用したシリコーンポリマー(マトリックス樹脂)は次のとおりである。
CY52-276A/B:ダウ・東レ株式会社製の2液付加硬化型ジメチルポリシロキサン樹脂(ジメチルシリコーン)
SH510-500CS:ダウ・東レ株式会社製のメチルフェニルポリシロキサンオイル(メチルフェニルシリコーン)
SH200-110CS:ダウ・東レ株式会社製のジメチルポリシロキサンオイル(ジメチルシリコーン)
以上の条件と結果を表3~4に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
表3~4から明らかなとおり、マトリックス樹脂がジメチルシリコーンである実施例1と比較例1~2を比較すると、実施例1の組成物は高熱伝導度で、粘度の低下も見られなかった。また、マトリックス樹脂がメチルフェニルシリコーンである実施例2~3と比較例3を比較すると、実施例2~3の組成物は高熱伝導度で、粘度の低下も見られなかった。
また、フィラーの割合が60wt%の実施例4と比較例4~5を比較すると、実施例4の組成物は高熱伝導度で、粘度の低下も見られなかった。さらに、実施例5と比較例6~7を比較すると、実施例5の組成物は高熱伝導度で、粘度の低下も見られなかった。
【0048】
(実施例6~8、比較例8~10)
本実施例及び比較例は、熱伝導性シートを製造し、評価をした。
マトリックス樹脂成分として二液加熱硬化型シリコーンポリマーを使用した。ベースポリマー成分と白金系金属触媒が予め添加されている成分(1A)、及びベースポリマー成分と架橋成分が予め添加されている成分(1B)を用いた。これらのベースポリマーに板状の熱伝導性フィラーおよび板状でない無機フィラーを自転公転ミキサーで混合し、脱泡後、ポリエステル(PET)フィルムに挟んで厚み2.0mmに圧延した試料を、100℃で15分間保持して加熱硬化を行った。
得られた熱伝導性シリコーンシートの硬さ(Asker-C)、圧縮荷重の瞬間値/定常値変化、および熱伝導率について表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5から明らかなとおり、各実施例は比較例に比べて熱伝導率は高く、かつ圧縮荷重定常値の低下率は小さかった。圧縮荷重定常値の低下率が小さいと、放熱シートとしてデバイスに組み込んだ際の熱源と放熱フィンとのそれぞれの間隙の圧力低下が抑えられることにより、放熱特性が維持される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の熱伝導性組成物及び熱伝導性シートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。
【符号の説明】
【0052】
10 放熱構造体
11a,11b 熱伝導性シート
12 ヒートスプレッダ
13 電子部品
14 配線基板
15 ヒートシンク
【要約】
マトリックス樹脂と熱伝導性粒子を含む熱伝導性樹脂組成物であって、前記熱伝導性粒子は、芳香族炭化水素基を有する表面処理剤で予め表面処理された熱伝導性粒子Aと、脂肪族炭化水素基を有する表面処理剤で予め表面処理された熱伝導性粒子Bを含む組成物である。前記熱伝導性粒子A及びBの少なくとも一方は、板状及び多面体状からなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子であるのが好ましい。これにより、高熱伝導度で圧縮荷重定常値の低下が抑えられ、適度な粘度を有する熱伝導性組成物、熱伝導性グリース及び熱伝導性シートを提供する。
図1
図2
図3
図4
図5