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  • 特許-アーク溶接制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20230602BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/095 505A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020516938
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2019039944
(87)【国際公開番号】W WO2020075791
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2018193220
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】野口 昂裕
(72)【発明者】
【氏名】中川 晶
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/51911(WO,A1)
【文献】特許第6245733(JP,B2)
【文献】特公平3-28260(JP,B2)
【文献】米国特許第5148001(US,A)
【文献】特公平6-53309(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用い、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して母材の溶接を行うアーク溶接制御方法であって、
前記短絡期間において、溶接電流を短絡開放時としてのアーク発生時の電流値よりも低いアーク再発生直前電流値から前記アーク期間の第1の電流値に向けて上昇させ、
前記溶接電流が前記アーク発生時の電流値に到達したときに前記母材と溶接ワイヤとの間にアークが発生することにより、前記短絡期間から前記アーク期間への切り替えを行い、
前記アーク期間は第1、第2、第3および第4の期間をこの順に含み、
前記第1の期間では、前記溶接電流を前記第1の電流値まで第1の傾きで上昇させることにより、前記アークのアーク長が第1の長さとなるようにし、
前記第2の期間では、前記溶接電流を前記第1の電流値から前記アーク再発生直前電流値よりも高く前記第1の電流値よりも低い第2の電流値まで第2の傾きで低下させることにより、前記溶接ワイヤの先端に形成された溶滴に加わるアーク反力を低減させ、
前記第3の期間では、前記溶接電流を前記第2の電流値から前記第1の電流値よりも低く前記第2の電流値よりも高い第3の電流値まで第3の傾きで上昇させることにより、前記アークのアーク長が第2の長さとなるようにすることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第1の傾きが前記第2の傾きの絶対値及び前記第3の傾きよりも大きくなるように、かつ前記第2の傾きの絶対値が前記第1の傾き及び前記第3の傾きよりも小さくなるように前記溶接電流を制御することを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアーク溶接制御方法において、
前記短絡期間及び前記第1、第2および第3の期間では、前記溶接電流の出力を設定する設定電流に基づいて前記溶接電流を制御し、
前記第4の期間では、溶接電圧の出力を設定する設定電圧に基づいて前記溶接電圧が一定となるように制御することを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第4の期間では、前記溶接ワイヤに電気的に接続されたリアクトルのインダクタンス値と電子リアクトル制御による電子リアクトルのインダクタンス値との加算値を調整することで、前記溶接電圧が一定となるように制御することを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法において、
前記母材は、軟鋼、高張力綱及び亜鉛メッキ鋼のいずれか1種から選択された板材であり、該板材の厚みは2mm以上5mm以下であることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第1の期間では、前記第1の電流値を所定期間保持するように前記溶接電流を制御し、
前記第3の期間では、前記第2の電流値に達した後、直ちに前記溶接電流を上昇させるように制御し、
前記第4の期間では、前記第3の電流値に達した後、直ちに前記溶接電流を低下させるように制御することを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のアーク溶接制御方法において、
前記アーク期間の前記第4の期間の後、前記溶接ワイヤと前記母材とを接触させて短絡することにより、前記アーク期間から前記短絡期間に切り替え、
前記短絡期間中に、前記溶滴を前記溶接ワイヤから前記母材に向けて短絡移行させることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載のアーク溶接制御方法において、
前記溶接電流が前記第2の電流値に達してから前記溶接電流が上昇するまでに第1反転期間を要し、
前記溶接電流が前記第3の電流値に達してから前記溶接電流が低下するまでに第2反転期間を要し、
前記第1反転期間は、前記第2反転期間よりも長いことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はアーク溶接制御方法に関し、特に、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用い、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して母材の溶接を行うアーク溶接制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアーク溶接方法として、被溶接物である母材と溶接ワイヤとを短絡させて、溶接ワイヤの先端に形成された溶滴を母材に移行する短絡期間と、母材と溶接ワイヤとの間にアークを発生させて母材に入熱するアーク期間とを交互に繰り返す方法が広く知られている。
【0003】
一方、上記の方法では、短絡開放時に瞬間的に発生する電流の影響で、溶接ワイヤに残存した溶滴の一部が母材と瞬間的な微小時間での短絡を起こし、この溶滴の一部が飛散して母材に付着する、いわゆるスパッタの発生が起こり、溶接品質を損なうことがある。そこで、溶接品質向上のためにスパッタを低減する方法として、種々の方法が従来提案されている。以下、短絡開放時に瞬間的に発生する電流の影響により、溶接ワイヤの先端に形成された溶滴と母材との間または溶接ワイヤと母材との間に例えば2.5msec以下の微小な時間の短絡が生じる事象を微小短絡という。なお、微小短絡は、周期的な溶接波形での通常の短絡時間に対して極めて短く、瞬間的に発生する微小時間での異常な短絡の事象である。
【0004】
例えば、特許文献1には、アーク発生直後であるアーク期間初期の電流値を高くすることでアーク長を確保し、微小短絡を抑制してスパッタを低減する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アーク期間中、電子リアクトル制御によってアーク長を安定させる方法が開示されている。この方法も微小短絡の抑制に有効である。
【0006】
さらに、特許文献3には、アーク期間初期に溶接電流を短絡期間の電流よりも高い値に維持した後、電流値を所定の値に低下させて所定期間維持し、さらに電流値を上昇させて維持する方法が開示されている。このようにすることで、アーク長を確保した後、溶接電流を低下させて微小短絡が発生しやすい期間での微小短絡及びスパッタの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-016482号公報
【文献】国際公開第2013/145569号
【文献】特開2015-016482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用いたアーク溶接では、溶接ワイヤの先端に形成された溶滴に加わるアーク反力が大きくなることが知られている。この場合、溶滴の挙動が安定せず、微小短絡及びそれに伴うスパッタが発生しやすくなる。
【0009】
特に、溶滴が母材に向けてグロビュール移行する溶接電流域で、このような現象が顕著となるため、特許文献1,2に開示された従来の方法では、微小短絡及びスパッタの抑制が十分ではない場合がある。
【0010】
また、特許文献3に開示された方法では、アーク期間中にスパッタを抑制するため溶接電流を低下させた後、再度、電流値を上昇させた状態を所定期間維持している。
【0011】
しかし、このような場合、アーク期間中に溶滴が母材に移行してしまう場合があり、溶滴の移行周期を一定に保てないことが懸念される。
【0012】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、微小短絡及びスパッタの発生を抑制し、かつ溶滴の移行周期を一定とできるアーク溶接制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本開示に係るアーク溶接制御方法は、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用い、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して母材の溶接を行うアーク溶接制御方法であって、前記短絡期間において溶接電流を短絡開放時としてのアーク発生時の電流値よりも低いアーク再発生直前電流値から前記アーク期間の第1の電流値に向けて上昇させ、前記溶接電流が前記アーク発生時の電流値に到達したときに前記母材と溶接ワイヤとの間にアークが発生することにより、前記短絡期間から前記アーク期間への切り替えを行い、前記アーク期間は第1、第2、第3および第4の期間をこの順に含み、前記第1の期間では、前記溶接電流を前記第1の電流値まで第1の傾きで上昇させることにより、前記アークのアーク長が第1の長さとなるようにし、前記第2の期間では、前記溶接電流を前記第1の電流値から前記アーク再発生直前電流値よりも高く前記第1の電流値よりも低い第2の電流値まで第2の傾きで低下させることにより、前記溶接ワイヤの先端に形成された溶滴に加わるアーク反力を低減させ、前記第3の期間では、前記溶接電流を前記第2の電流値から前記第1の電流値よりも低く前記第2の電流値よりも高い第3の電流値まで第3の傾きで上昇させることにより、前記アークのアーク長が第2の長さとなるようにすることを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、第1の期間でアーク長が第1の長さとなるようにすることで、微小短絡及びスパッタの発生を抑制する。第2の期間でアーク反力を低減させることにより溶接ワイヤの先端に形成されている溶滴の挙動を安定化できる。また、第3の期間では、溶滴が安定した状態でアーク長が第2の長さとなるようにすることで、微小短絡及びスパッタの発生を抑制するとともに、溶滴をさらに所定の大きさに成長させて、溶滴の移行周期を一定にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示のアーク溶接制御方法によれば、微小短絡及びスパッタの発生を抑制し、また、溶滴の移行周期を一定として高品質の溶接を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係るアーク溶接装置の構成を示す概略図である。
図2A】アーク溶接時の溶接電流出力波形を示すタイムチャートである。
図2B図2Aの一部を拡大したタイムチャートである。
図3】変形例に係るアーク溶接時の溶接電流出力波形を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0018】
(実施形態)
[アーク溶接装置の構成]
図1は、本実施形態におけるアーク溶接装置100の概略構成図である。アーク溶接装置100は、入力電源1から入力した交流電力を整流する1次整流部2と、溶接出力を制御するスイッチング部3と、スイッチング部3の出力を入力して溶接に適した電力に変換するトランス4とを備える。
【0019】
アーク溶接装置100は、トランス4の2次側出力を整流する2次整流部5と、2次整流部5の出力を平滑するリアクトル6と、スイッチング部3を駆動する駆動部7と、溶接電流を検出する溶接電流検出部8と、溶接電圧を検出する溶接電圧検出部9と、溶接電流検出部8と溶接電圧検出部9の出力に基づいて溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21(図2A図2B参照)にくびれが発生されたことを検出するくびれ検出部10と、をさらに備える。
【0020】
アーク溶接装置100は溶接条件設定部13と記憶部12とをさらに備える。溶接条件設定部13は、設定電流や設定電圧やワイヤ送給量やシールドガス種類やワイヤ種類やワイヤ径等の溶接条件を設定する。なお、設定電流は溶接電流の移動平均値に相当し、設定電圧は溶接電圧の移動平均値に相当する値である。ここで移動平均値とはある一定区間ごとの平均値を、区間をずらしながら求めた値である。
【0021】
記憶部12は、溶接条件設定部13により設定された溶接条件や溶接ワイヤ18を送給する速度である送給量やワイヤ送給速度毎の電子リアクトル制御のリアクトルのインダクタンス値等の種々のパラメータを格納する。なお、溶接ワイヤ18の送給量は、作業者が設定する設定電流に比例して決定される。
【0022】
アーク溶接装置100はアーク制御部11をさらに備える。アーク制御部11は、溶接電流検出部8や溶接電圧検出部9やくびれ検出部10や記憶部12からの出力に基づいて溶接電流および溶接電圧を制御する信号を出力する。駆動部7は、アーク制御部11の出力に基づいてスイッチング部3を制御する。
【0023】
溶接ワイヤ18は、ワイヤ送給部19により制御される送給モータによって送給される。溶接ワイヤ18には、トーチ14に備え付けられたチップ15を介して溶接用の電力が供給され、溶接ワイヤ18と母材17との間でアーク20を発生させて溶接が行われる。
【0024】
なお、図1で示したアーク溶接装置100を構成する各構成部は、各々単独に構成してもよいし、複数の構成部を複合して構成してもよい。
【0025】
[アーク溶接時の溶接電流出力制御について]
図2Aは本実施形態に係るアーク溶接時の溶接電流出力波形を示し、図2Bは、図2Aの一部、具体的には短絡期間Tsからアーク期間Taに切り替わる期間を拡大したタイムチャートをそれぞれ示す。また、図2A図2Bには、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21の状態も示している。
【0026】
なお、本実施形態に示すアーク溶接では、溶接電圧の出力を設定する設定電圧及び溶接電流Iの出力を設定する設定電流に基づいて、溶接力である溶接電圧と溶接電流Iとが制御される。なお、設定電流及び設定電圧は溶接作業前に予め設定される。
【0027】
なお、本実施形態において、溶接ワイヤ18のワイヤ径は1.2mmである。また、母材17は軟鋼からなる板材であり、その板厚は、2.3mm~4.5mmの範囲にあり、いわゆる、中板厚である。また、母材17に吹き付けられるシールドガスは、炭酸ガスを主成分とするガスである。ここで、「炭酸ガスを主成分とするガス」とは炭酸ガスを90%以上含むガスのことをいい、好ましくは、炭酸ガスが100%である。なお、炭酸ガス以外の成分を含む場合、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでいる。本実施形態では、設定電流は160A~240Aの範囲で設定され、この条件下で、溶滴21が母材17に向けて短絡移行するように制御される。
【0028】
本実施形態に示すアーク溶接は、複数の溶接期間Tを含む。各溶接期間Tは、短絡期間Tsとそれに続くアーク期間Taとを含む。つまり、溶接期間Tの長さは、短絡期間Tsの長さとアーク期間Taの長さとの和に等しい。また、短絡期間Tsでは、アーク溶接装置100は、溶接ワイヤ18と母材17とを接触させることにより溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21を母材17に短絡移行している。また、アーク溶接装置100は、溶接期間Tを連続的に繰り返すことで、言いかえると、短絡期間Tsとアーク期間Taとを交互に繰り返すことで、母材17に対する直流アーク溶接を行う。また、図示しないが、溶接ワイヤ18は設定電流に基づく一定の速度で母材17に対して正送される。
【0029】
溶接電圧検出部9での検出結果に基づいて溶接ワイヤ18と母材17との短絡が検出されると(図2Aの(a)及び図2B)、直前のアーク期間Taから短絡期間Tsに切り替わる。この切り替わり時点t4で、アーク制御部11は、アーク溶接を設定電圧に基づく電圧制御から設定電流に基づく電流制御に切り替えて、溶接電流Iを第4の電流値I4に低下させる。また、アーク制御部11は、所定期間、第4の電流値I4を保持して、母材17に形成された溶融プール22と溶接ワイヤ18との短絡を強固にする。
【0030】
次に、アーク制御部11は、溶接電流Iを第5の電流値I5まで上昇させ、溶接ワイヤ18を燃え上がらせて、母材17と溶接ワイヤ18との短絡開放を促進する。さらに、溶接電流Iが上昇すると、電磁的ピンチ力によって溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21にくびれが生じ始める(図2Aの(b))。これに伴い、溶接電圧検出部9が検出する溶接電圧の時間変化量が変化し始める。溶接電圧検出部9の出力に基づいて、くびれ検出部10がこの変化(くびれ)を検出した時点t6で、アーク制御部11は、溶接電流Iを第6の電流値I6からアーク再発生直前電流値I0まで低下させるように制御する。溶接電流Iがアーク再発生直前電流値I0に到達した時点を時点t0とする。なお、アーク再発生直前電流値I0は、くびれが検出された時点の電流値I6よりも低い電流値でアーク発生直前の時点の所定の電流値である。アーク再発生直前電流値I0は、短絡開放時としてのアーク発生時の電流よりも低い。
【0031】
なお、アーク再発生直前電流値I0は、実験等により予め求めた、短絡解放時としてのアーク発生時の電流よりも低い値に設定される。
【0032】
溶接電流Iがアーク再発生直前電流値I0である場合に、母材17と溶接ワイヤ18との間にまだアーク20は発生しておらず、そのため溶接期間Tはまだ短絡期間Tsである。アーク再発生直前電流値I0は、例えば、50A程度に設定される。
【0033】
時点t0から所定の時間(=期間T0)が経過すると、アーク制御部11は、溶接電流Iを時間に対して第1の傾きαで上昇させる。言い替えると、アーク制御部11は、短絡期間Tsにおいて、溶接電流Iをアーク再発生直前電流値I0からアーク期間Taの第1の電流値I1に向けて上昇させる。溶接電流Iは、アーク再発生直前電流値I0から第1の電流値I1まで上昇中に、短絡開放時としてのアーク発生時の電流値に到達する。アーク制御部11は、溶接電流Iが前記アーク発生時の電流値に到達したとき、母材17と溶接ワイヤ18との間にアークが発生することにより、短絡期間Tsからアーク期間Taに切り替える。アーク制御部11は、時点t1aで溶接電流Iを第1の電流値I1に到達させるように制御する。また、第1の電流値I1に到達した溶接電流Iは、時点t1aから時点t1までの期間T1b、第1の電流値I1を保持される。なお、溶接電流Iがアーク再発生直前電流値I0に保持される期間T0は、0.5msec以下に設定されている。また、溶接電流Iがアーク再発生直前電流値I0に到達した時点t0から所定の時間(期間T0)が経過後、アーク再発生直前電流値I0から第1の電流値I1に向けて溶接電流Iの上昇が開始される。溶接電流Iの上昇が開始されてから第1の電流値I1に達する時点t1aまでの期間T1aにおいて、溶接電流Iがアーク再発生直前電流値I0よりも少し高くなった時点で、母材17と溶接ワイヤ18との間にアーク20が発生し始める(図2Aの(c))。母材17と溶接ワイヤ18との間に短絡開放時としてのアーク20が発生することにより、短絡期間Tsからアーク期間Taに切り替わる。また、アーク制御部11は、溶接電流Iが期間T1bで第1の電流値I1を保持するように制御することで、アーク20のアーク長が第1の長さL1を確保するようにする(図2Aの(d))。なお、アークが発生した時点から時点t1までの期間を第1の期間T1と呼ぶことがある。
【0034】
なお、本実施形態では、第1の電流値I1が400A、アーク再発生直前電流値I0から第1の電流値I1への上昇傾きである第1の傾きαが400A/msec、溶接電流Iが第1の電流値I1に保持される期間T1bが0.5msec以上となるように溶接電流I等が制御される。
【0035】
期間T1b経過後、アーク制御部11は、時点t1で、溶接電流Iを時間に対して第2の傾きβで低下させ、時点t1から期間T2(以下、第2の期間T2という)経過後の時点t2で第2の電流値I2に到達させるように制御する。このとき、第2の電流値I2が100Aとなるように、また、第1の電流値I1から第2の電流値I2への下降傾きである第2の傾きβが200A/msecとなるように溶接電流Iが制御される。
【0036】
このように制御することで、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21に加わるアーク反力が低減される(図2Aの(e))。なお、第1の電流値I1よりも低い第2の電流値I2はアーク再発生直前電流値I0よりも高くなるように設定されている。つまり、溶接電流Iが第2の電流値I2まで低下しても、アーク20は消滅(消弧)せずに安定して維持される。
【0037】
溶接電流Iがアーク反力低減のための第2の電流値I2に達した時点t2で直ちに、アーク制御部11は溶接電流Iを時間に対して第3の傾きγで上昇させる。アーク制御部11は、溶接電流Iが時点t2から期間T3(以下、第3の期間T3という)経過後の時点t3で第1の電流値I1よりも低い第3の電流値I3に到達させる。このとき、第3の電流値I3が250Aとなるように、また、第2の電流値I2から第3の電流値I3への上昇傾きである第3の傾きγが250A/msecとなるように溶接電流Iが制御される。つまり、第3の電流値I3は、第1の電流値I1よりも低く、かつ第2の電流値I2よりも高い値である。また、アーク制御部11は、溶接電流Iが第3の電流値I3に到達するようにすることで、アーク20のアーク長が第2の長さL2を確保するように制御する。なお、アーク制御部11は、第2の長さL2が第1の長さL1よりも短くなるように制御する。なお、第1の電流値I1より下降された溶接電流Iが時点t2でアーク反力低減のための第2の電流値I2に達すると、アーク制御部11は、直ちに、例えば1msec以内に溶接電流Iが再び上昇し始めるように制御する。
【0038】
溶接電流Iが第2の電流値I2から第3の電流値I3に達した時点t3で直ちに、アーク制御部11は、アーク溶接を電流制御から電圧制御に切り替え、溶接電圧が一定となるように定電圧の制御をする。この電圧制御は、時点t3からアーク期間Taから短絡期間Tsに切り替わる時点t4までの期間T4(以下、第4の期間T4という)を通じて行われ、第4の期間T4中に溶滴21はさらに成長する(図2Aの(f))。また、第4の期間T4にアーク長は一定の値、この場合は第2の長さL2とほぼ等しい値となるようにアーク溶接制御が行われる。
【0039】
また、リアクトル6のインダクタンス値と電子リアクトル制御による電子リアクトルのインダクタンス値との加算値を変更することで、具体的には、記憶部12に格納された電子リアクトルのインダクタンス値の中から適切な値を選択することで、アーク制御部11は、溶接電圧が一定となるように制御している。なお、時点t3で溶接電流Iが第3の電流値I3に達すると、アーク制御部11は、直ちに、電圧制御に切り替えるように制御する。これにより、第4の期間T4では、第3の電流値I3に達した後、直ちに例えば0.1msec以内に溶接電流Iを低下させるように制御する。
【0040】
なお、前述したように、第3の期間T3における溶接電流Iが第2の電流値I2に達した時点t2から溶接電流Iを上昇させるまでの期間(第1反転期間、1msec以内)が、第4の期間T4における溶接電流Iが第3の電流値I3に達した時点t3から溶接電流Iを低下させるまでの期間(第2反転期間、0.1msec以内)よりも相対的に長い。言い換えると、第1反転期間は、前記第2反転期間よりも長い。これにより、アーク反力低減のための第1反転期間の安定時間が第2反転期間よりも長い方が第3の期間T3での溶滴21の挙動がより安定する。具体的には時点t2のアーク反力の低減がより安定し、それに続く時点t3にかけての溶滴成長がより安定するためである。
【0041】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るアーク溶接制御方法は、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用い、短絡期間Tsとアーク期間Taとを交互に繰り返して母材17の溶接を行うアーク溶接制御方法である。
【0042】
短絡期間Tsにおいて、アーク制御部11は、溶接電流Iを短絡開放時としてのアーク発生時の電流値よりも低いアーク再発生直前電流値I0からアーク期間Taの第1の電流値I1に向けて上昇させる。アーク制御部11は、溶接電流Iが短絡開放時としてのアーク発生時の電流値に到達したときに母材17と溶接ワイヤ18との間にアーク20が発生することにより、短絡期間Tsからアーク期間Taへの切り替えを行う。
【0043】
アーク期間Taは第1~第4の期間T1~T4をこの順に含んでいる。第1の期間T1では、アーク制御部11は、溶接電流Iを第1の電流値I1まで第1の傾きαで上昇させることにより、アーク20のアーク長が第1の長さL1となるようにしている。
【0044】
また、第2の期間T2では、アーク制御部11は、溶接電流Iを第1の電流値I1からアーク再発生直前電流値I0よりも高く第1の電流値I1よりも低い第2の電流値I2(I0<I2<I1)まで第2の傾きβで低下させることにより、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21に加わるアーク反力を低減させるようにしている。
【0045】
第3の期間T3では、アーク制御部11は、溶接電流Iを第2の電流値I2から第1の電流値I1よりも低く第2の電流値I2よりも高い第3の電流値I3(I2<I3<I1)まで第3の傾きγで上昇させることにより、アーク20のアーク長が第2の長さL2となるように制御している。
【0046】
本実施形態によれば、第1の期間T1で溶接電流Iを第1の電流値I1まで上昇させることにより、アーク長が第1の長さL1となるようにすることで、短絡期間Tsからアーク期間Taへの切り替わり時に発生する微小短絡を抑制することができる。このことにより、スパッタの発生量を低減でき、高品質の溶接を実現できる。
【0047】
また、アーク制御部11は、第2の期間T2で溶接電流I1を第2の電流値I2まで低下させることにより、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21に加わるアーク反力を低減させる。このことで、溶滴21に加わる振動等を抑制して溶滴21の挙動を安定させることができ、その結果、微小短絡の発生を防止できる。
【0048】
また、アーク制御部11は、第3の期間T3で溶接電流I1を第3の電流値I3まで上昇させて、アークのアーク長が第3の長さL2となるようにする。このことで、成長した溶滴21が意図せずに母材17に移行するのを防止できる。また、母材17に対する所定の入熱量を確保でき、所望のアーク溶接を行うことができる。
【0049】
また、アーク制御部11は、第1の期間T1では、第1の電流値I1を所定期間T1b保持するように溶接電流Iを制御し、第3の期間T3では、第2の電流値I2に達した後、直ちに溶接電流Iを上昇させるように制御し、第4の期間T4では、第3の電流値T3に達した後、直ちに溶接電流Iを低下させるように制御するようにしている。
【0050】
第1の電流値I1を所定期間T1b保持するようにすることで、アーク長が確実に第1の長さL1となるようにでき、微小短絡の発生を確実に抑制できる。
【0051】
また、アーク制御部11は、第3の期間T3で、第2の電流値I2に達した後、直ちに溶接電流Iを上昇させるようにする。このようにすることで、微小短絡の発生を抑制するとともに溶滴21の過度の成長を抑制し、第4の期間T4で溶滴21の大きさを制御しやすくできる。同様に、アーク制御部11は、第4の期間T4で、第3の電流値I3に達した後、直ちに溶接電流Iを低下させるようにする。このようにすることで、溶滴21の過度の成長を抑制し、第4の期間T4で溶滴21の大きさを制御しやすくできる。アーク溶接装置100は、アーク期間Taの第4の期間T4の後、溶接ワイヤ18と母材17とを接触させてこれらを短絡させることにより、アーク期間Taから短絡期間Tsに切り替える。アーク溶接装置100は、アーク期間Ta中に安定して成長した溶滴21を確実に短絡期間Ts中に、溶滴21を溶接ワイヤ18から母材17に向けて短絡移行させることができる。その結果、溶滴21の移行周期を一定とできる。言い換えると、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用い、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して母材の溶接を行うアーク溶接において、溶滴21の移行周期を一定とできる。溶滴21が溶接ワイヤ18から母材17に向けて、アーク期間Ta中にグロビュール移行することなく、短絡期間Ts中に確実に、短絡移行するからである。このことにより、例えば、高速溶接時に溶接ビードが不均一となったり、あるいは母材17が溶け落ちたりするのを防止して、溶接品質を高めることができる。
【0052】
また、本実施形態では、アーク制御部11は、第1の傾きαが第2の傾きβの絶対値及び第3の傾きγよりも大きくなるように、かつ第2の傾きβの絶対値が第1の傾きα及び第3の傾きγよりも小さくなるように溶接電流Iを制御している。
【0053】
短絡が開放された直後の溶接ワイヤ18が母材17に対して微小短絡するのを防止するため、短期間でアーク長を所定の値(第1の長さL1)とすることが望ましい。このため、第1の傾きαはある程度大きく、つまり急峻であることが望ましい。
【0054】
これに対して、第3の期間T3の開始時点t2では、アーク反力が低減されているものの、溶滴21は第1の期間T1のアークが発生した時点よりも大きく成長している。従って、第3の傾きγを第1の傾きαと同じとすると、溶滴21に加わるアーク反力が強くなりすぎて、溶滴21の意図しない振動や落下等による短絡のおそれが生じる。このため、第3の傾きγは第1の傾きαよりも小さいことが望ましい。
【0055】
一方、前述したように、溶接ワイヤ18は一定の速度で母材に向けて正送されている。溶接電流Iは、溶接ワイヤ18の先端の燃え上がり量を決定する。第2の傾きβの絶対値が大きすぎる、つまり下降の傾斜勾配が急峻すぎると、溶接ワイヤ18の先端の燃え上がり量が急激に小さくなる。その結果、溶接ワイヤ18の先端の燃え上がり量よりも、母材17への溶接ワイヤ18の送給量が相対的に大きくなる。これにより、第2の期間T2において溶接ワイヤ18が溶融プール22に突っ込んで短絡を生じてしまうおそれがある。
【0056】
これを防止するために、第2の傾きβの絶対値は所定値よりも小さくすることが望ましい。また、第3の傾きγが第2の傾きβの絶対値よりも小さい場合、つまり溶接電流Iの上昇の傾斜勾配が緩い場合、時点t2におけるアーク長を第2の長さL2まで延ばすことが難しい。以上のことから、第2の傾きβの絶対値は第1の傾きα及び第3の傾きγよりも小さいことが望ましい(β<α、β<γ)。また、第1の傾きαは第2の傾きβの絶対値及び第3の傾きγよりも大きいことが望ましい(α>β、α>γ)。
【0057】
なお、第2の傾きβの絶対値をあまり小さくしすぎると、アーク反力の低減効果が小さくなり、そのため溶滴21の挙動が安定しなくなる。よって、微小短絡が発生しない程度に第2の傾きβの絶対値を確保することが望ましい。このことについては後述する。
【0058】
また、本実施形態に係るアーク溶接では、アーク制御部11は、短絡期間Ts及び第1~第3の期間T1~T3では、溶接電流Iの出力を設定する設定電流、つまり、溶接電流の移動平均値としての設定電流値に基づいて溶接電流Iを制御する。アーク制御部11は、第4の期間T4では、溶接電圧の出力を設定する設定電圧、つまり溶接電圧の移動平均値としての設定電圧値に基づいて溶接電圧が一定となるように制御している。
【0059】
このようにすることで、第1~第3の期間T1~T3では、微小短絡を抑制し、スパッタを低減できる。また、溶滴21を所定の大きさに成長させる第4の期間T4では、各時点で、直前の溶接電圧をフィードバックして定電圧制御を行うため、外乱の影響を小さくすることができる。
【0060】
一般に、アーク期間Taには、トーチ14から突き出す溶接ワイヤ18の突き出し長さの変動または母材17の位置ずれ等の外乱が発生する。このような場合には、例えば、溶接電圧が一定となるようにすることで、上記外乱を吸収して、アーク20のアーク長を一定に維持することができる。また、溶滴21を所望の大きさに安定して成長させることができる。さらに、定電圧制御を行うことで、母材17に対する入熱ばらつきを低減できる。
【0061】
なお、第4の期間T4では、アーク制御部11は、溶接ワイヤ18に電気的に接続されたリアクトル6のインダクタンス値と電子リアクトル制御による電子リアクトルのインダクタンス値との加算値を調整することで、溶接電圧が一定となるように制御してもよい。
【0062】
このようにすることで、溶接電流の時間変化速度を所望の値に調整でき、スパッタの発生をさらに抑制できる。
【0063】
また、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用いることで、安価なシールドガスを使用でき、溶接コストを低減できる。
【0064】
溶接ワイヤ18の母材への送給を一定速度かつ一方向、この場合は正送とすることで、溶接ワイヤ18の送給制御を簡便なものとすることができる。
【0065】
<変形例>
図3は変形例に係るアーク溶接時の溶接電流出力波形を示す。なお、図3において、図2A図2Bに示すのと同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、図2Bに対応する図面、つまり、短絡期間Tsからアーク期間Taに切り替わる期間についての拡大図面は、実施形態1に示すのと同様であるため、本変形例では省略している。
【0066】
図3に示す本変形例に係る制御方法と、図2A図2Bに示す実施形態に係る制御方法とでは、第4の期間T4の溶接電流の波形が異なる。具体的には、本変形例では、アーク制御部11は、溶接電流Iを第3の電流値I3から第7の電流値I7まで低下させた後(時点t3a)、第8の電流値I8まで上昇させている(時点t3b)。
【0067】
溶接ワイヤ18の先端に形成される溶滴21のサイズによっては、第2の期間T2で溶滴21に加わるアーク反力を1回で十分に低減できない場合がある。このような場合には、本変形例に示すように、溶接電流Iを第3の電流値I3まで上昇させた後、再度、電流値を低下させるようにすることで、確実にアーク反力を低減させ、微小短絡及びそれに伴うスパッタの発生を抑制できる。
【0068】
なお、溶接電流Iを第3の電流値I3から第7の電流値I7まで低下させる場合及び第8の電流値I8まで上昇させる場合は、実施形態に示す方法と同様に、電流制御により行ってもよいが、電圧制御としてもよい。電圧制御の場合、アーク制御部11は、直前の溶接電圧をフィードバックして出力制御を行う。そのため、アーク溶接の制御を簡便に行える。また、時点t2において、アーク反力はある程度低減されている。そのため、電流制御及び電圧制御のいずれの場合にも、図3に示すように、第7の電流値I7が第2の電流値I2よりも高くなるようにしてもよい。また、アーク制御部11は、第8の電流値I8が第3の電流値I3よりも低くなるように制御してもよい。このようにすることで、溶滴21に加わるアーク反力を確実に低減できる。また、溶接電流Iを第7の電流値I7に低下させる時間傾きは必ずしも第2の傾きβと同じでなくてもよく、溶接電流Iを第7の電流値I7から第8の電流値I8に上昇させる時間傾きも第3の傾きγと同じでなくてもよい。
【0069】
(その他の実施形態)
変形例を含む上記実施形態において、各種条件は前述の値に限られず、例えば、第1~第3の電流値I1~I3は、それぞれ所定の範囲で変化してしてもよい。例えば、第1の電流値I1が350A~450Aの範囲で、第2の電流値I2が70A~150Aの範囲で、第3の電流値I3が200A~300Aの範囲で、それぞれ変化するようにしてもよい。
【0070】
ただし、この場合においても、式(1)で表わされる関係を満たすことが好ましい。
【0071】
I1>I3>I2>I0 ・・・(1)
同様に、第1~第3の傾きα~γが、それぞれ所定の範囲で変化してしてもよい。例えば、第1の傾きαが400A/msec~500A/msecの範囲で、第2の傾きβが200A/msec~300A/msecの範囲で、第3の傾きγが250A/msec~350A/msecの範囲で、それぞれ変化するようにしてもよい。
【0072】
ただし、この場合においても、式(2)で表わされる関係を満たすことが好ましい。
【0073】
α>γ>β ・・・(2)
なお、傾きα,γと傾きβとは変化の方向が反対であるため、式(2)に示すβは絶対値で示している。
【0074】
また、第2の傾きβに関しては、実施形態に示す条件下では、上記の範囲にあることが好ましい。特に、傾きβが200A/msec以上なので、溶滴21の挙動が安定し、また、微小短絡及びこれに伴うスパッタの発生が抑制される。
【0075】
逆に、傾きβが200A/msecよりも小さくなると、溶滴21の挙動が安定せず、また、微小短絡及びこれに伴うスパッタが発生しやすくなる。
【0076】
また、母材17の材質を高張力鋼あるいは亜鉛メッキ鋼としてもよく、軟鋼及びこれらの材質を含め、母材17の厚みを2mm以上5mm以下としてもよい。
【0077】
また、第1の期間T1において、溶接電流Iが第1の電流値I1に保持される期間T1bを0.5msec以上とするのが好ましい。この範囲であれば、アーク20を安定して維持することができ、微小短絡及びスパッタの発生を確実に抑制できる。
【0078】
上記実施形態に係るアーク溶接制御方法によれば、炭酸ガスを主成分とするガスをシールドガスとして用いた場合であって、アーク期間で溶滴21を成長させ、短絡期間で溶滴21を母材17に向けて短絡移行するアーク溶接が行われる場合に、微小短絡及びスパッタの発生を抑制し、かつ溶滴21の移行周期が保たれた高品質のアーク溶接が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示のアーク溶接制御方法は、アーク反力の影響を低減し、低スパッタかつ溶滴移行の周期性が保たれたアーク溶接を実現できるため、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを用いるアーク溶接に適用する上で有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 入力電源
2 1次整流部
3 スイッチング部
4 トランス
5 2次整流部
6 リアクトル
7 駆動部
8 溶接電流検出部
9 溶接電圧検出部
10 くびれ検出部
11 アーク制御部
12 記憶部
13 溶接条件設定部
14 トーチ
15 チップ
17 母材
18 溶接ワイヤ
19 ワイヤ送給部
20 アーク
21 溶滴
図1
図2A
図2B
図3