(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20230602BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20230602BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
H01G9/15
H01G9/028 F
(21)【出願番号】P 2019561626
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2018047165
(87)【国際公開番号】W WO2019131476
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017254992
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 斉
(72)【発明者】
【氏名】牧野 亜衣
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 寛
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-265941(JP,A)
【文献】国際公開第2005/014692(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/153790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、導電性高分子と、第1化合物と、を含み、
前記第1化合物は、ナフタレン骨格と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのCOOM1基(ただし、M1は水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つの
SO
3
M2基(ただし、M2は金属原子またはオニウム基である。)と、を含む、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記ナフタレン骨格に結合する前記COOM1基の数が1つである、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第1化合物の少なくとも一部が、前記ナフタレン骨格の1位または2位に前記COOM1基が結合している化合物である、請求項2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、導電性高分子と、第1化合物と、を含み、
前記第1化合物の少なくとも一部が、一般式(1):
【化1】
で示され、ただし、
M1は水素原子、金属原子またはオニウム基であり、M2は金属原子またはオニウム基であり、mおよびnはそれぞれ1以上の整数である、電解コンデンサ。
【請求項5】
前記M1および
前記M2
のうち少なくとも一方はNaである、請求項
1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記固体電解質層は、前記第1化合物とは異なる第2化合物を含み、
前記第2化合物は、酸成分である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記酸成分は、硫酸およびリン酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
誘電体層を有する陽極体を準備する工程と、
導電性高分子の前駆体と第1化合物
とを溶解させた溶液中で、前記前駆体を重合させて
、固体電解質層を形成する工程と、を含み、
前記第1化合物は、ナフタレン骨格と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのCOOM1基(ただし、M1は水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つの
SO
3
M2基(ただし、M2は金属原子またはオニウム基である。)と、を含む、電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
誘電体層を有する陽極体を準備する工程と、
導電性高分子の前駆体と第1化合物とを溶解させた溶液中で、前記前駆体を重合させて、固体電解質層を形成する工程と、を含み、
前記第1化合物の少なくとも一部が、一般式(1):
【化1】
で示され、ただし、M1は水素原子、金属原子またはオニウム基であり、M2は金属原子またはオニウム基であり、mおよびnはそれぞれ1以上の整数である、電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記前駆体の重合は、
前記前駆体と、前記第1化合物と、前記第1化合物とは異なる第2化合物
とを溶解させた溶液中で行なわれ、
前記第2化合物は、酸成分である、請求項
8または9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記酸成分は、硫酸およびリン酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
10に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記前駆体の重合が電解重合により行われる、請求項
8~11のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量で等価直列抵抗(ESR)の小さいコンデンサとして、陽極体と、陽極体上に形成された誘電体層と、誘電体層上に形成されるとともに導電性高分子を含む固体電解質層と、を備えた電解コンデンサが有望視されている。
【0003】
導電性高分子を含む固体電解質層は、酸性化合物をドーパントとして含むことが一般的である。しかし、酸性化合物の酸性が強すぎると、例えば高湿度環境下で脱ドープしたドーパントが誘電体層を劣化させることがある。そこで、特許文献1は、3-スルホ-1,8-ナフタル酸をドーパントに用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3-スルホ1,8-ナフタル酸は、耐湿特性の観点では優れたドーパントであるが、耐熱特性の観点では改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、導電性高分子と、第1化合物と、を含み、前記第1化合物は、ナフタレン骨格と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのCOOM1基(ただし、M1は、水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのスルホン酸塩基と、を含む、電解コンデンサに関する。
【0007】
本発明の別の側面は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、導電性高分子と、第1化合物と、を含み、前記第1化合物は、ナフタレン骨格と、前記ナフタレン骨格に結合する1つのCOOM1基(ただし、M1は、水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのスルホン酸基と、を含む、電解コンデンサに関する。
【0008】
本発明の更に別の側面は、誘電体層を有する陽極体を準備する工程と、第1化合物の存在下で、導電性高分子の前駆体を重合させて、前記導電性高分子と前記第1化合物とを含む固体電解質層を形成する工程と、を含み、前記第1化合物は、ナフタレン骨格と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのCOOM1基(ただし、M1は、水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのスルホン酸塩基と、を含む、電解コンデンサの製造方法に関する。
【0009】
本発明の更に別の側面は、誘電体層を有する陽極体を準備する工程と、第1化合物の存在下で、導電性高分子の前駆体を重合させて、前記導電性高分子と前記第1化合物とを含む固体電解質層を形成する工程と、を含み、前記第1化合物は、ナフタレン骨格と、前記ナフタレン骨格に結合する1つのCOOM1基(ただし、M1は、水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、前記ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのスルホン酸基と、を含む、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐湿特性と耐熱特性との双方に優れた電解コンデンサが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る電解コンデンサは、陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の表面に形成された固体電解質層とを備える。固体電解質層は、導電性高分子と第1化合物とを含む。第1化合物は、導電性高分子の導電性を向上させ得るドーパントとして優れている。第1化合物は、導電性高分子に取り込まれやすく、かつ脱ドープしにくいと考えられる。固体電解質層が第1化合物を含むことで、電解コンデンサの耐湿特性と耐熱特性との両立が可能となる。
【0013】
耐湿特性とは、例えば、85℃/85%RHで125時間、定格電圧を印加した状態で保管した後の容量と、ESRの変化率により評価される。耐湿特性が優れているほど、陽極体(特にAl)の腐食に対する耐性が高いといえる。
【0014】
耐熱特性とは、例えば、145℃で125時間、無負荷状態で保管した後の容量と、ESRの変化率により評価される。
【0015】
第1化合物の1種は、ナフタレン骨格と、ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのCOOM1基(ただし、M1は、水素原子、金属原子またはオニウム基である。)と、ナフタレン骨格に結合する少なくとも1つのスルホン酸塩基とを含む。
【0016】
ナフタレン骨格とは、ナフタレンおよびナフタレン誘導体を含む概念であり、ナフタレン誘導体とは、水素原子が他の基に置換されたナフタレンを包括的に意味する。
【0017】
COOM1基は、カルボン酸基またはカルボン酸塩基であり、カルボン酸塩基は、カルボン酸基とアルカリとの反応により形成される塩型のCOOM1基である。ナフタレン骨格に複数のCOOM1基が結合している場合、それら複数のCOOM1基は互いに同じでも異なってもよい。カルボン酸塩基は、オニウム塩、金属塩等の形態でナフタレン骨格に直接結合している。
【0018】
COOM1基は、イオン解離し、COOアニオン基として存在してもよく、COOアニオン基が固体電解質層中の導電性高分子もしくはカチオン(M1イオン等)と電気的相互作用により結合もしくは疑似的な結合状態を有してもよい。疑似的な結合状態とは、電気的相互作用による影響を及ぼし合う距離に存在し、全体として電気的中性を有すること意味する。
【0019】
ナフタレン骨格に結合するCOOM1基の数は、1~7個であればよく、1~3個が好ましく、1~2個がより好ましく、1個が最も好ましい。COOM1基の数が少ないほど、導電性高分子へのドーパントとしての機能が高められる傾向がある。COOM1基は、ナフタレン骨格のどの位置に結合していてもよい。第1化合物は、COOM1基の結合位置の異なる複数の異性体の混合物でもよい。ただし、第1化合物の少なくとも一部(例えば30モル%以上、更には50モル%以上)において、ナフタレン骨格の1位および/または2位にCOOM1基が結合していることが好ましい。
【0020】
金属原子のM1としては、1価金属であるアルカリ金属、アルカリ土類金属などの2価以上の金属が挙げられる。アルカリ金属としては、Na、Liなどが好ましい。2価以上の金属としては、Ca、Mgなどが好ましい。M1が2価以上の金属であるときは、COOアニオン基が複数あり、2つ以上のCOOアニオン基と1つの金属とが塩を形成する。
【0021】
スルホン酸塩基は、スルホン酸基とアルカリとの反応により形成される塩型のSO3含有基であり、SO3M2基と表記できる。ナフタレン骨格に複数のスルホン酸塩基が結合している場合、それら複数のスルホン酸塩基は互いに同じでも異なってもよい。SO3M2基は、オニウム塩、金属塩等の形態でナフタレン骨格に直接結合している。M2は、金属原子またはオニウム基である。
【0022】
SO3M2基は、イオン解離し、SO3アニオン基として存在してもよく、SO3アニオン基が固体電解質層中の導電性高分子もしくはカチオン(M2イオン等)と電気的相互作用により結合もしくは疑似的な結合状態を有してもよい。
【0023】
ナフタレン骨格に結合するSO3M2基の数は、1~7個であればよく、1~3個が好ましく、1~2個がより好ましく、1個が最も好ましい。SO3M2基の数が少ないほど、導電性高分子へのドーパントとしての機能が高められる傾向がある。スルホン酸塩基は、ナフタレン骨格のどの位置に結合していてもよい。第1化合物は、スルホン酸塩基の結合位置の異なる複数の異性体の混合物でもよい。
【0024】
金属原子のM2としては、1価金属であるアルカリ金属、アルカリ土類金属などの2価以上の金属が挙げられる。アルカリ金属としては、Na、Liなどが好ましい。2価以上の金属としては、Ca、Mgなどが好ましい。M2が2価以上の金属であるときは、SO3アニオン基が複数あり、2つ以上のSO3アニオン基と1つの金属とが塩を形成する。
【0025】
オニウム基のM1またはM2としては、例えば、-NH2基、-NH基、-N基などのアミノ基を有するアミン化合物に由来するオニウム基が挙げられる。具体的には、オニウム基は、NR4で表されるカチオン基であり、4つのRはそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基であればよい。
【0026】
アミノ基の窒素原子Nと結合する炭化水素基は、直鎖状または分岐状アルキル基(C1~C4アルキル基等)、芳香族基(ベンゼン環、ナフタレン環などを含む基)などである。炭化水素基中に更にアミノ基が存在してもよい。つまりオニウム基のアミノ基は1つに限定されず、2つ以上でもよい。
【0027】
-NH2基を有するアミン化合物の具体例としては、例えば、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、ペプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノナフタレンおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0028】
-NH基を有するアミン化合物の具体例としては、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルヘキシルアミン、ジイソプチルアミン、エチルヘキシルアミン、ジフェニルアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミンおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0029】
-N基を有するアミン化合物の具体例としては、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジメチルペンチルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルヘブチルアミン、N,N-ジメチルオクチルアミン、N,N-ジメチルノニルアミン、N,N-ジメチルデシルアミン、N,N-ジメチルウンデシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミンおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0030】
第1化合物の少なくとも一部は、具体的には、一般式(1):
【0031】
【0032】
で示される。ただし、M1は、水素原子、金属原子またはオニウム基である。M2は、金属原子またはオニウム基である。mおよびnはそれぞれ1以上の整数である。
一般式(1)で表される第1化合物の中でも、M1またはM2がNaである第1化合物や、M1およびM2がNaである一般式(2):
【0033】
【0034】
で表される第1化合物が、入手容易性や合成のしやすさの点で好ましい。一般式(2)で表される第1化合物の中でも、m=1、n=1である一般式(3):
【0035】
【0036】
または、m=2、n=1である一般式(4):
【0037】
【0038】
で表される第1化合物が、特に入手容易性や合成のしやすさの点で好ましい。
【0039】
なお、第1化合物は、スルホン酸塩基を有するのであれば、スルホン酸基(SO3H)を含んでもよい。また、第1化合物と、第1化合物のスルホン酸塩基をスルホン酸基に変更した化合物(以下、スルホン酸型化合物と称する。)とを併用してもよい。ただし、スルホン酸型化合物よりも第1化合物の方がモル(mol)数で多く存在することが望ましい。SO3H基はイオン解離し、SO3アニオン基として存在してもよく、SO3アニオン基が固体電解質層中の導電性高分子もしくはカチオン(水素イオン等)と電気的相互作用により結合もしくは疑似的な結合を有してもよい。
スルホン酸型化合物は、例えば、一般式(5):
【0040】
【0041】
で表され
る化合物であればよい。一般式(5)で表されるスルホン酸型化合物の中でも、n=1である一般式(6):
【化6】
【0042】
で表されるスルホン酸型化合物が特に好ましい。
【0043】
固体電解質層に含まれる第1化合物の量は、導電性高分子100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0044】
固体電解質層は、酸成分として、第1化合物とは異なる第2化合物を含んでもよい。第2化合物は、例えば、硫酸およびリン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であればよい。ただし、第1化合物は、第2化合物よりもモル(mol)数で多く存在することが望ましい。
【0045】
次に、電解コンデンサの製造方法について説明する。
電解コンデンサの製造方法は、(i)誘電体層を有する陽極体を準備する工程と、(ii)第1化合物の存在下で導電性高分子の前駆体を重合させて、誘電体層の表面に導電性高分子と第1化合物とを含む固体電解質層を形成する工程とを含む。
【0046】
(i)誘電体層を有する陽極体を準備する工程
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金などを含む。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。弁作用金属は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。陽極体は、例えば、エッチングなどにより弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化することで得られる。また、陽極体は、弁作用金属を含む粒子の成形体またはその焼結体でもよい。なお、焼結体は、多孔質構造を有する。すなわち、陽極体が焼結体である場合、陽極体の全体が多孔質となり得る。
【0047】
得られた陽極体を化成液(例えばリン酸水溶液)が満たされた化成槽に浸漬し、陽極酸化を行えば、陽極体の表面に誘電体層として弁作用金属の酸化被膜が形成される。化成液には、硝酸、酢酸、硫酸などの水溶液を用いてもよい。弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含み、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含む。陽極体が多孔質である場合、誘電体層は、陽極体の表面(陽極体の孔やピットの内壁面を含む表面)に沿って形成される。
【0048】
(ii)誘電体層の表面に固体電解質層を形成する工程
次に、第1化合物の存在下で導電性高分子の前駆体を重合させて、導電性高分子を生成させ、誘電体層の表面に導電性高分子と第1化合物とを含む固体電解質層を形成する。固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成すればよい。
【0049】
導電性高分子は、例えば、π共役系導電性高分子であればよい。導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、および/またはポリチオフェンビニレンなどを基本骨格とする高分子が挙げられる。導電性高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体およびこれらの誘導体が含まれる。例えばポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。導電性高分子は、導電性が高く、ESR特性に優れている。導電性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000以上1,000,000以下である。
【0050】
導電性高分子の前駆体としては、導電性高分子を形成し得るモノマーおよび/またはオリゴマーなどが例示できる。重合方法としては、化学酸化重合または電解酸化重合を採用し得る。中でも第1化合物は電解重合で導電性高分子を重合させる場合のドーパントとして適している。
【0051】
電解重合は、例えば、導電性高分子を形成し得るモノマーおよび/またはオリゴマーと第1化合物とを含む重合液中に、誘電体層を有する陽極体を浸漬し、陽極体を電極として電流を流すか、電極に電位を走査すれば進行する。重合液中のモノマーおよび/またはオリゴマーの濃度は、例えば0.1mol/L以上2mol/L以下であればよい。重合液中の第1化合物の濃度は、例えば0.01mol/L以上1mol/L以下であればよい。誘電体層は、陽極体の表面(陽極体の孔やピットの内壁面を含む表面)に形成される。誘電体層の存在下で前駆体を重合させることで、孔やピットの奥にまで第1導電性高分子層を形成し易くなる。
【0052】
重合液には、第1化合物とは異なる酸成分を第2化合物として含ませてもよい。例えば、硫酸およびリン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を重合液に添加することで、電解重合が進行しやすくなり、導電性高分子の生成効率が向上する。
【0053】
重合液のpHは、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3.5以下が更に好ましく、3.1以下が最も好ましい。pHを小さくするには、重合液中の第2化合物の濃度を高めればよい。ただし、第2化合物の濃度が高すぎると、第2化合物が導電性高分子に取り込まれる割合が多くなり、第1化合物がドーパントとして取り込まれる量が減少する傾向がある。重合液のpHは、1.5より高いことが好ましく、2.0以上がより好ましく。2.5以上が更に好ましい。
【0054】
導電性高分子の前駆体を化学酸化重合で行う場合は、重合を促進させるために酸化剤(触媒)の存在下で重合を行えばよい。酸化剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄などのスルホン酸金属塩、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩を用いることができる。
【0055】
導電性高分子は、誘電体層を有する陽極体に付着させる前に、予め合成しておいてもよい。例えば、導電性高分子および第1化合物を含む溶液または分散液(以下、分散体と称する。)を誘電体層に塗布した後、乾燥して、固体電解質層を形成してもよい。分散体の溶媒または分散媒には、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が用いられる。
【0056】
ドーパントとして、第1化合物、第2化合物以外の第3化合物を併用してもよい。ただし、第1化合物は、第3化合物よりもモル(mol)数で多く用いることが望ましい。第3化合物としては、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基(-O-P(=O)(-OH)2)および/またはホスホン酸基(-P(=O)(-OH)2)などのアニオン性基を有する化合物を使用し得る。第3化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸などが挙げられる。
【0057】
(iii)陰極層を形成する工程
固体電解質層の表面にカーボンペーストおよび銀ペーストを順次に塗布することにより、カーボン層と銀ペースト層とで構成される陰極層が形成される。カーボン層の厚さは、例えば1μm以上20μm以下であり、銀ペースト層の厚さは、例えば50μm以上100μm以下であればよい。カーボンペーストは、黒鉛などの導電性炭素材料を含む組成物である。銀ペースト層は、銀粒子と樹脂とを含む組成物である。なお、陰極層の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0058】
図1は、本実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
図1に示すように、電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、コンデンサ素子2を封止する樹脂封止材3と、陽極端子4と、陰極端子5とを備える。樹脂封止材3の外部には、陽極端子4および陰極端子5の一部がそれぞれ露出している。陽極端子4および陰極端子5は、例えば銅または銅合金などの金属で形成すればよい。樹脂封止材3には、例えばエポキシ樹脂を用いればよい。
【0059】
コンデンサ素子2は、陽極体6と、陽極体6を覆う誘電体層7と、誘電体層7を覆う陰極部8とを備える。陰極部8は、誘電体層7を覆う固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備える。陰極引出層10は、カーボン層11および銀ペースト層12を有する。
【0060】
陽極体6は、陰極部8と対向する領域と対向しない領域とを含む。陰極部8と対向しない領域は、陽極端子4と溶接により電気的に接続されている。陰極部8と対向しない領域のうち、陰極部8に隣接する部分には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離層13が形成され、陰極部8と陽極体6との接触が規制されている。陰極端子5は、導電性接着剤からなる接着層14を介して陰極部8と電気的に接続している。陽極端子4および陰極端子5の主面4Sおよび5Sは、樹脂封止材3の同じ面から露出している。露出面は、電解コンデンサ1を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続などに用いられる。
【0061】
本発明の電解コンデンサは、上記構造の電解コンデンサに限定されず、様々な構造の電解コンデンサに適用することができる。例えば、巻回型の電解コンデンサ、金属粉末の焼結体を陽極体として用いる電解コンデンサなどにも本発明を適用できる。
【0062】
《実施例1》
下記の要領で、
図1に示す電解コンデンサを作製し、その特性を評価した。
(1)陽極体を準備する工程
基材としてアルミニウム箔(厚み100μm)を準備し、アルミニウム箔の表面にエッチング処理を施し、陽極体6を得た。
【0063】
(2)誘電体層を形成する工程
陽極体を濃度0.3質量%のリン酸溶液(液温70℃)に浸して70Vの直流電圧を20分間印加することにより、陽極体の表面に酸化アルミニウム(Al2O3)を含む誘電体層を形成した。
【0064】
(3)固体電解質層を形成する工程
電解重合により、誘電体層上に、ポリピロールを導電性高分子として含む固体電解質層を形成した。まず、ピロールモノマーと第1化合物であるスルホ-1-ナフトエ酸2ナトリウム(モノカルボキシスルホン酸)とを含む水溶液を重合液として調製した。重合液のピロールモノマー濃度は0.5mol/Lであり、スルホ-1-ナフトエ酸2ナトリウム濃度は0.3mol/Lである。重合液のpHを硫酸により3.0に調整した。
【0065】
重合液中に陽極体と対電極とを浸漬し、対電極を陽極体の表面に近接させて、重合液温度25℃、重合電圧3Vで電解重合を行い、固体電解質層を形成した。
【0066】
(4)陰極引出層を形成する工程
固体電解質層の表面に、黒鉛粒子を水に分散した分散液を塗布した後、大気中で乾燥してカーボン層を形成した。次に、カーボン層の表面に、銀粒子とエポキシ樹脂とを含む銀ペーストを塗布した後、加熱して、銀ペースト層を形成した。
【0067】
(5)電解コンデンサの組み立て
コンデンサ素子に陽極端子、陰極端子および接着層を配置し、樹脂封止材で封止して、定格2V、30μFの電解コンデンサA1を完成させた。
【0068】
《実施例2》
第1化合物としてスルホ-2-ナフトエ酸2ナトリウム(モノカルボキシスルホン酸Na)を用いること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサA2を作製した。
【0069】
《実施例3》
第1化合物としてスルホ-1,8-ナフタル酸3ナトリウム(ジカルボキシスルホン酸Na)を用いること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサA3を作製した。
【0070】
《実施例4》
第1化合物としてスルホ-1-ナフトエ酸(モノカルボキシスルホン酸)を用い、pHを1.5に調整すること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサA4を作製した。
【0071】
《実施例5》
第1化合物としてスルホ-2-ナフトエ酸(モノカルボキシスルホン酸)を用い、pHを1.5に調整すること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサA5を作製した。
【0072】
《比較例1》
第1化合物の代わりに、スルホ-1,8-ナフタル酸(ジカルボキシスルホン酸)を用い、pHを1.5に調整すること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサB1を作製した。
【0073】
《比較例2》
第1化合物の代わりに、ナフタレンスルホン酸を用い、pHを1.5に調整すること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサB2を作製した。
【0074】
《比較例3》
第1化合物の代わりに、ナフタレンスルホン酸ナトリウムを用い、pHを3.0に調整すること以外、電解コンデンサA1と同様に電解コンデンサB3を作製した。
【0075】
《比較例4》
重合液のpHを1.5に調整すること以外、電解コンデンサB3と同様に電解コンデンサB4を作製した。
【0076】
上記で作製した実施例および比較例の電解コンデンサについて、以下の評価を行った。[評価]
(a)耐熱特性
145℃の温度で、電解コンデンサを125時間保存した後、20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(mΩ)と容量(μF)を測定し、ESRの変化率(R1)と容量の初期値に対する変化率(C1(%))とを求めた。
【0077】
(b)耐湿特性
85℃/85%Rhの環境で、電解コンデンサに定格電圧を125時間印加した後、20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(mΩ)と容量(μF)を測定し、ESRの変化率(R2)と容量の初期値に対する変化率(C2(%))とを求めた。
【0078】
【0079】
実施例1~5は、耐湿特性に優れることが理解できる。中でも、スルホン酸塩基を有する第1化合物を用いることで、耐湿特性に加え、耐熱特性が向上することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る電解コンデンサは、優れた耐湿特性と耐熱特性とが求められる様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0081】
1:電解コンデンサ、2:コンデンサ素子、3:樹脂封止材、4:陽極端子、4S:陽極端子の主面、5:陰極端子、5S:陰端子の主面、6:陽極体、7:誘電体層、8:陰極部、9:固体電解質層、10:陰極引出層、11:カーボン層、12:銀ペースト層
、13:分離層、14:接着層