(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】電解液及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20230602BHJP
【FI】
H01M10/36 A
(21)【出願番号】P 2020521025
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006015
(87)【国際公開番号】W WO2019225081
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018097281
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 健二
(72)【発明者】
【氏名】北條 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩友紀
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/008280(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/114141(WO,A1)
【文献】特開2017-174597(JP,A)
【文献】特開2016-072232(JP,A)
【文献】特開2018-181420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、リチウムイオンとイミドアニオンとを有する塩を含むリチウム塩と、2つ以上のカルボン酸基を有する
ジカルボン酸とを含む
電解液であって、
前記ジカルボン酸が下記式(1)又は下記式(2)で表され、
前記ジカルボン酸の含有量が、前記電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であり、
前記水の含有量が、前記電解液の総量に対して8質量%以上50質量%以下であり、
前記電解液に含まれる前記リチウム塩に対する前記水の含有比率がモル比で15以下である、電解液。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルカンジイル基、炭素数2~3のアルケンジイル基、炭素数2~3のアルキンジイル基又は炭素数6のアリーレン基を表す。)
【請求項2】
前記電解液に含まれる前記リチウム塩に対する前記水の含有比率がモル比で
4以下である、請求項
1に記載の電解液。
【請求項3】
フルオロリン酸塩、カルボン酸無水物、アルカリ土類金属塩及び硫黄化合物のうち少なくとも1種を更に含む、請求項1
又は2に記載の電解液。
【請求項4】
正極と、負極と、請求項1~
3のいずれか一項に記載の電解液とを備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解液、特に二次電池用水系電解液、及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、有機溶媒を主成分として水を含有しない非水系電解液と、水を主成分として含有する水系電解液が知られている。
【0003】
特許文献1には、水を溶媒として含む蓄電装置用電解液であって、アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が4mol以下である電解液、並びに、当該電解液を有する蓄電装置が開示されている。特許文献2には、水を溶媒として含む蓄電装置用電解液であって、アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が4mol超~15mol以下である電解液、並びに、当該電解液を有する蓄電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/114141号パンフレット
【文献】国際公開第2017/122597号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、水系溶媒を電解液として用いた二次電池では、有機溶媒を電解液として用いる非水電解質二次電池と比較して、安全性に非常に優れる反面、溶媒である水が酸化又は還元により電気分解しない電位領域、即ち電位窓が狭いため、印加できる電圧が制限されていた。
【0006】
本開示の課題は、電気分解を起こさない電位領域を拡大することができ、安全で、なお且つ、高電圧、高容量であるリチウムイオン二次電池を実現し得る電解液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る電解液は、水と、リチウム塩と、2つ以上のカルボン酸基を有する多価カルボン酸とを含む。また、本開示の一態様に係る二次電池は、正極と、負極と、当該電解液とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電気分解を起こさない電位領域を拡大することができ、安全で、なお且つ、高電圧、高容量であるリチウムイオン二次電池を実現し得る電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】比較例1のリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図3】実施例2のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例3のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例4のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例5のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図7】実施例6のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図8】実施例7のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例8のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例9のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図11】実施例10のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図12】実施例11のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図13】実施例12のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図14】実施例13のLSV測定の結果を示すグラフである。
【
図15】実施例14のLSV測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
リチウムイオン二次電池に、溶媒として水を含有する電解液(本明細書において「水系電解液」とも記載する)を使用する場合、水が理論的には1.23Vの電圧で分解するため、より高い電圧を印加しても水が分解せず、安定して作動するリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。特許文献1及び2では、電解液に含まれるアルカリ金属塩と溶媒の含有量を特定の範囲にすることにより、従来に比して高電圧で安定作動するリチウムイオン二次電池等の蓄電装置を提供することができると記載されている。しかしながら、特許文献1及び2に記載されたリチウムイオン二次電池等において、より高い電圧での安定作動を実現するためには、卑電位側の電位窓が狭いことが課題である。
【0011】
そこで本発明者らは、鋭意検討した結果、溶媒としての水と、電解質塩としてのリチウム塩とを含有する電解液に、2つ以上のカルボン酸基を添加することで、電解液の卑電位側の電位窓を拡張し、電気分解を起こさない電位領域を拡大し、更に、当該電解液を用いることにより、安全で、なお且つ、高電圧、高容量であるリチウムイオン二次電池を実現し得ることを見出した。
【0012】
以下に、本開示の一態様に係る水系電解液及び二次電池の実施形態について説明する。以下で説明する実施形態は一例であって、本開示はこれに限定されるものではない。
【0013】
[水系電解液]
本実施形態に係る水系電解液は、水と、リチウム塩と、後述する2つ以上のカルボン酸基を有する多価カルボン酸とを少なくとも含む。
【0014】
(溶媒)
水系電解液は、主溶媒として水を含有する。ここで、主溶媒として水を含有するとは、電解液に含まれる溶媒の総量に対する水の含有量が体積比で50%以上であることをいう。電解液に含まれる水の含有量は、溶媒の総量に対して体積比で90%以上であることが好ましい。電解液に含まれる溶媒は、水と非水溶媒とを含む混合溶媒であってもよい。非水溶媒としては、例えば、メタノール等のアルコール類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;アセトン;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。
【0015】
水系電解液は可燃性を有さない水を主溶媒として含むため、水系電解液を用いた二次電池の安全性を高めることができる。この観点から、水の含有量は、電解液の総量に対して8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、水の含有量は、電解液の総量に対して50質量%以下が好ましく、20質量以下%がより好ましい。
【0016】
(リチウム塩)
水系電解液に含まれるリチウム塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、リチウムイオンを水系電解液中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。リチウム塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。このようなリチウム塩としては、例えば、過塩素酸、硫酸及び硝酸等の無機酸との塩、塩化物イオン及び臭化物イオン等のハロゲン化物イオンとの塩、炭素原子を構造内に含む有機アニオンとの塩等が挙げられる。
【0017】
リチウム塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、下記一般式(i)~(iii)で表されるアニオンが挙げられる。
(R1SO2)(R2SO2)N- (i)
(R1、R2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。)
R3SO3
- (ii)
(R3は、ハロゲン原子、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
R4CO2
- (iii)
(R4は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
【0018】
上記一般式(i)~(iii)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。上記一般式(i)~(ii)における、ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。
【0019】
R1~R4のそれぞれは、例えば、飽和アルキル基又は飽和ハロゲン置換アルキル基で、かつ、R1~R2が互いに結合して環を形成しない場合において、以下の一般式(iv)で表される基であってもよい。
CnHaFbClcBrdIe (iv)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
【0020】
上記一般式(iv)において、耐酸化性の観点から、aは小さい方が好ましく、a=0がより好ましく、2n+1=bが最も好ましい。
【0021】
上記一般式(i)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO2)2]-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CF3SO2)2]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(C2F5SO2)2]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられ、また、R1~R2が互いに結合して環を形成してなる有機アニオンの具体例として、例えばcTFSI;([N(CF2SO2)2]-)等が挙げられる。上記一般式(ii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばFSO3
-、CF3SO3
-、C2F5SO3
-等が挙げられる。上記一般式(iii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3CO2
-、C2F5CO2
-等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(i)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0023】
リチウム塩を構成するアニオンとしては、イミドアニオンが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(i)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。
【0024】
リチウムイオンとイミドアニオンとを有するリチウム塩の具体例としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)等が挙げられる。
【0025】
他のリチウム塩の具体例としては、CF3SO3Li、C2F5SO3Li、CF3CO2Li、C2F5CO2Li、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO4)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫化リチウム(Li2S)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る水系電解液では、リチウム塩に対する水の含有比率が、モル比で15:1以下であることが好ましく、4:1以下であることがより好ましい。リチウム塩に対する水の含有比率がこれらの範囲にあると、水系電解液の電位窓が拡大し、水系二次電池に印加電圧をより高めることができるためである。水系二次電池の安全性の観点から、リチウム塩に対する水の含有比率は、モル比で1.5:1以上であることが好ましい。
【0027】
(多価カルボン酸)
本実施形態に係る水系電解液は、1分子中に2つ以上のカルボン酸基を有する多価カルボン酸を含む。多価カルボン酸としては、1分子中に2つのカルボキシ基を2つ含有するジカルボン酸、及び、1分子中にカルボキシ基を3つ以上含有するトリカルボン酸又はテトラカルボン酸等が挙げられる。これら多価カルボン酸は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。多価カルボン酸を添加することで、充放電サイクル時に、負極において水よりも先に還元分解して負極集電体表面、負極活物質表面及び導電剤表面に水に対する溶解性の低い皮膜が形成される。この負極皮膜により、負極集電体、負極活物質及び導電剤と水とが直接接触する面積が減少し、また、負極皮膜の水の還元分解に対する耐性が向上し、電位窓を電位が卑側に拡張することができる。また、化合物中にカルボン酸基を含むため、COO-を含む負極皮膜を形成させることができ、負極皮膜の低抵抗化が可能となると考えられる。カルボン酸基を2つ有することで、COO-間でLi伝導性のある負極皮膜の形成が可能となる。カルボン酸基を3つ以上含んでもCOO-間でLi伝導性のある負極皮膜の形成が可能となり、同様の効果を発現する。カルボン酸基を1つしか含まない場合は、COO-間でのLi伝導がスムーズに進行しないため、Li伝導性、還元分解電位(負極皮膜形成電位)の観点で、十分な効果が得られない。
【0028】
なお、水系電解液において、多価カルボン酸は電離してカルボン酸アニオンを生成する。本明細書では、多価カルボン酸に由来し、電解液中においてカルボン酸アニオンとして存在する化合物も、便宜上「多価カルボン酸」に含める。また、水系電解液の調製に用いる多価カルボン酸としては、水系電解液において電離してカルボン酸アニオンを生成する限り特に限定されず、多価カルボン酸の塩を用いてもよい。
【0029】
多価カルボン酸は、例えばR(COOH)nもしくはR(COOLi)nで表される。ここで、Rは置換基を有してもよい炭化水素基を表し、nは2以上の整数を表す。Rで表される炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子及びフッ素原子よりなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。Rで表される炭化水素基が有してもよい置換基としては、例えば、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、ニトロ基等の極性を有する官能基や、これらの官能基で置換された炭化水素基等が挙げられる。上記式におけるnは2以上4以下が好ましく、2又は3がより好ましい。
【0030】
多価カルボン酸は、カルボン酸基を2つ有するジカルボン酸が好ましい。このようなジカルボン酸は、例えばR(COOH)2もしくは、R(COOLi)2で表され、このときのRは、上記の多価カルボン酸を表す式のRと同じである。
【0031】
好適なジカルボン酸の例として、下記式(1)又は下記式(2)で表されるジカルボン酸が挙げられる。
【化1】
(式(1)中、R1は、2価の飽和又は不飽和の脂肪族基、2価の芳香族基及びこれらの組合せのいずれかを表し、脂肪族基又は芳香族基は置換基を有してもよい。)
【化2】
(式(2)中、R2及びR3は、それぞれ独立して、2価の飽和又は不飽和の脂肪族基、2価の芳香族基及びこれらの組合せのいずれかを表し、脂肪族基又は芳香族基は置換基を有してもよい。)
【0032】
R1~R3で表される2価の飽和又は不飽和の脂肪族基は、鎖状又は環式の脂肪族化合物から2個の水素原子を引き抜いてなる置換基であり、例えば、アルカンジイル基、アルケンジイル基、アルキンジイル基、シクロアルカンジイル基、シクロアルケンジイル基、シクロアルキンジイル基及びこれらの基の組合せが挙げられる。当該脂肪族基を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子又は窒素原子と入れ替わっていてもよい。また、R1~R3で表される2価の芳香族基は、例えば、芳香族炭化水素から2個の水素原子を引き抜いてなるアリーレン基、及び、複素環式芳香族化合物から2個の水素原子を引き抜いてなるヘテロアリーレン基が挙げられる。
【0033】
R1、R2及びR3は、アルカンジイル基、アルケンジイル基、アルキンジイル基又はアリーレン基を表すことが好ましく、炭素数1~3のアルカンジイル基、炭素数2~3のアルケンジイル基、炭素数2~3のアルキンジイル基又は炭素数6のアリーレン基を表すことがより好ましい。式(1)におけるR1としては、それぞれ炭素数2~3である、アルカンジイル基、アルケンジイル基又はアルキンジイル基が更に好ましく、エチレン基又はビニレン基が特に好ましい。中でも、エチレン基が特に好ましい。これは、ジカルボン酸が還元分解される際に生成する被膜として、COO-間でLi伝導性のある負極皮膜が緻密に形成されるためである。緻密な負極皮膜が形成される結果、水に対する還元分解抑制効果の高い負極皮膜が形成され、電位窓拡張により効果を発揮すると考えられる。式(2)におけるR2及びR3のそれぞれとしては、メチレン基、エチレン基又はビニル基が更に好ましく、メチレン基が特に好ましい。これは、ジカルボン酸が還元分解される際に生成する被膜として、COO-間でLi伝導性のある負極皮膜が緻密に形成されるためである。緻密な負極皮膜が形成される結果、水に対する還元分解抑制効果の高い負極皮膜が形成され、電位窓拡張により効果を発揮すると考えられる。
【0034】
式(1)又は(2)で表されるジカルボン酸の具体例としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、アジピン酸、ピメリン酸、リンゴ酸、酒石酸、2-ヒドロキシマロン酸、ヒドロキシコハク酸、ヒドロキシグルタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アセチレンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、p-キシリレンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、コハク酸、グルタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸及びジグリコール酸が好ましく、コハク酸、フマル酸、マレイン酸及びジグリコール酸がより好ましく、コハク酸及びジグリコール酸が特に好ましい。
【0035】
置換基を有してもよいトリカルボン酸の具体例としては、例えば、1,2,3-プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、クエン酸、イソクエン酸、トリメリット酸、ナフタレントリカルボン酸等が挙げられる。置換基を有してもよいテトラカルボン酸の具体例としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸、ペンタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸等が挙げられる。なお、Li塩を含む水系電解液が多価カルボン酸を含む場合、多価カルボン酸のカルボン酸基はCOOH、もしくは、COOLiのいずれかとしても存在しうる。多価カルボン酸のプロトンと水系電解液中のLiとの交換反応が起こるためである。
【0036】
水系電解液に含まれる多価カルボン酸の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.5質量%以上3.0質量%以下が好ましい。多価カルボン酸の含有量が上記の範囲にあることにより、電位窓をより拡大することができ、なお且つ、負極に形成される被膜(後述)の抵抗及び膜厚の増加を抑制でき、負荷特性悪化を緩和できるためである。
【0037】
水系電解液のpHは、特に制限されないが、例えば3以上14以下であればよく、6以上10以下が好ましい。水系電解液のpHがこれらの範囲にある場合、正極中の正極活物質及び負極中の負極活物質の水溶液中での安定性を向上させることができ、正極活物質及び負極活物質におけるリチウムイオンの吸蔵及び脱離反応がよりスムーズになるためである。
【0038】
(添加剤)
水系電解液は、水を主成分とする溶媒、電解質塩及び多価カルボン酸以外に、添加剤を含有してもよい。当該添加剤としては、例えば、フルオロリン酸塩、カルボン酸無水物、アルカリ土類金属塩、硫黄化合物、酸及びアルカリ等が挙げられる。水系電解液は、フルオロリン酸塩、カルボン酸無水物、アルカリ土類金属塩及び硫黄化合物のうち少なくとも1種を更に含むことが好ましい。これら添加剤の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0039】
水系電解液に添加してもよいフルオロリン酸塩としては、例えば、一般式LixPFyOz(1≦x<3,0<y≦2,2≦z<4)で表されるフルオロリン酸リチウム塩が挙げられる。水系電解液がフルオロリン酸塩を含有することにより、水の電気分解を抑制することができる。フルオロリン酸リチウム塩の具体例としては、例えば、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF2O2)、モノフルオロリン酸リチウム(Li2PFO3)が挙げられ、LiPF2O2が好ましい。なお、一般式LixPFyOzで表されるフルオロリン酸塩は、LiPF2O2、Li2PFO3及びLi3PO4から選択される複数の混合物であってもよく、その場合、x、y及びzは整数以外の数値であってもよい。
【0040】
水系電解液がフルオロリン酸塩を含有する場合、1回目の充放電サイクル時に、負極においてフルオロリン酸塩が水よりも先に還元分解して、負極集電体表面、負極活物質表面及び導電剤表面に複合被膜(多価カルボン酸成分に加えフルオロリン酸塩成分を含んだ負極被膜)を形成すると考えられる。この複合被膜により、負極集電体、負極活物質及び導電剤と水とが直接接触する面積が減少するため、水の還元分解が抑制されて電位窓が卑電位側に拡張するとともに、負極被膜中のLiF形成量が増加し、負極被膜の耐水性及び耐久性が向上すると考えられる。フルオロリン酸塩の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上であればよく、0.3質量%以上が好ましい。また、フルオロリン酸リチウム塩の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して3.0質量%以下であればよく、2.0質量%以下が好ましい。
【0041】
水系電解液に添加してもよいアルカリ土類金属塩は、アルカリ土類金属(第2族元素)のイオンと、有機アニオン等のアニオンとを有する塩である。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)が挙げられ、マグネシウム及びカルシウムが好ましい。
【0042】
アルカリ土類金属塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、上記リチウム塩を構成する有機アニオンとして記載した、一般式(i)~(iii)で表される有機アニオンが挙げられる。しかしながら、アルカリ土類金属塩を構成するアニオンは、一般式(i)~(iii)で表される有機アニオン以外の有機アニオンであってもよく、無機アニオンであってもよい。
【0043】
アルカリ土類金属塩は、水系電解液中での解離定数が大きいことが好ましく、例えば、Ca[N(CF3SO3)2]2(CaTFSI)、Ca[N(CF3CF3SO2)2]2(CaBETI)、Mg[N(CF3SO3)2]2(MgTFSI)、Mg[N(CF3CF3SO2)2]2(MgBETI)等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ土類金属塩;Ca(CF3SO3)2、Mg(CF3SO3)2等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ土類金属塩;Ca[ClO4]2、Mg[ClO4]2等の過塩素酸アルカリ土類金属塩;Ca[BF4]2、Mg[BF4]2等のテトラフロロ硼酸塩が好適な例として挙げられる。これらの中でも、可塑性作用の観点からパーフルオロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ土類金属塩が更に好ましく、CaTFSI及びCaBETIが特に好ましい。また、アルカリ土類金属塩としては、電解液中に含まれるLi塩と同じアニオンを有するアルカリ土類金属塩もまた好ましい。
【0044】
水系電解液がアルカリ土類金属塩を含有する場合、充放電サイクル時に、負極において、アルカリ土類金属塩が水よりも先に還元分解して、負極集電体表面、負極活物質表面及び導電剤表面に複合皮膜(多価カルボン酸成分加えアルカリ土類金属塩成分含んだ負極皮膜)を形成すると考えられる。この複合皮膜により、負極集電体、負極活物質及び導電剤と水とが直接接触する面積が減少するため、水の還元分解が抑制されて電位窓が卑電位側に拡張するとともに、アルカリ土類金属塩特有のフッ化物が形成され(例えばCaF2、MgF2)、負極の耐水性及び耐久性が向上すると考えられる。アルカリ土類金属塩特有のフッ化物(例えばCaF2、MgF2)は、LiFよりも水に対する溶解性が低いために、形成量が同じ場合、フルオロリン酸塩を添加した場合に比べ、より水に対する還元分解抑制効果の高い複合皮膜形成が可能となり、より電位窓拡張に対して、効果を発揮すると考えられる。アルカリ土類金属塩は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ土類金属塩の含有量は、電位窓の卑電位側への拡張の観点から、例えば水系電解液の総量に対して0.5質量%以上3質量%以下であればよく、1.0質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0045】
水系電解液に添加してもよいカルボン酸無水物は、環状カルボン酸無水物及び鎖状カルボン酸無水物を含む。水系電解液がカルボン酸無水物を含有することにより、充放電サイクル時に、負極集電体表面、負極活物質表面及び導電剤表面に複合皮膜(多価カルボン酸由来の被膜に加え、カルボン酸無水物由来の皮膜)を形成すると考えられ、負極の耐久性を改善することができる。環状カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、フェニルコハク酸無水物等が挙げられる。鎖状カルボン酸無水物は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸等の炭素数1~12のカルボン酸から選択される同一又は異種である2つのカルボン酸の無水物であり、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸等が挙げられる。
【0046】
水系電解液に添加する場合、カルボン酸無水物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。カルボン酸無水物の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.3質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0047】
水系電解液に添加してもよい硫黄化合物としては、例えば、分子中に硫黄原子を含有する有機化合物であって、上記のリチウム塩、多価カルボン酸及びアルカリ土類金属塩のいずれにも含まれない化合物が挙げられる。水系電解液が当該硫黄化合物を含有することにより、TFSI及びBETI等の一般式(i)~(iii)で表されるアニオンの還元反応に由来する被膜含有成分を補うことができ、負極において寄生的に進行する水素発生を効果的に遮断することができる。硫黄化合物の具体例としては、例えば、エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、スルホラン、スルホレン等の環状硫黄化合物;メタンスルホン酸メチル、ブスルファン等のスルホン酸エステル;ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン等のスルホン;ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド又はジスルフィド;N,N-ジメチルメタンスルホンアミド、N,N-ジエチルメタンスルホンアミド等のスルホンアミド等が挙げられる。これらの硫黄化合物のうち、エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、スルホラン、スルホレン等が好ましく、エチレンサルファイトが特に好ましい。
【0048】
水系電解液に添加する場合、硫黄化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硫黄化合物の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.3質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0049】
本実施形態に係る水系電解液の調製方法は、特に制限されず、例えば、水、リチウム塩及び多価カルボン酸(多価カルボン酸の塩を含む)、並びに添加する場合は上記添加剤を、適宜混合して調製すればよい。
【0050】
[二次電池]
以下、本開示の実施形態の一例に係る二次電池について説明する。実施形態の一例である二次電池は、上述の水系電解液と、正極と、負極とを備える。二次電池は、例えば正極、負極及びセパレータを有する電極体と水系電解液とが、電池ケースに収容された構造を有する。電極体としては、例えば正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体等が挙げられるが、電極体の形態はこれらに限定されない。
【0051】
電極体及び水系電解液を収容する電池ケースとしては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製又は樹脂製のケース、並びに、金属箔を樹脂シートでラミネートしたシートを成型して得られる樹脂製ケース(ラミネート型電池)等が挙げられる。
【0052】
本実施形態に係る二次電池は、周知の方法で作製すればよく、例えば、巻回型又は積層型の電極体を電池ケース本体に収容し、水系電解液を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口することにより、作製することができる。
【0053】
[正極]
本実施形態に係る二次電池を構成する正極は、例えば正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極活物質層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0054】
正極集電体としては、正極の電位範囲で安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体として、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。正極集電体の材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等を用いることができる。正極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0055】
正極は、例えば、正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。正極合材スラリーに使用する分散媒としては、例えば水、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が用いられる。正極活物質層の厚さは、特に制限されないが、例えば10μm以上100μm以下である。
【0056】
正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。正極活物質としては、そのほか、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)やピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(Li2S)、酸素や酸化リチウムなどの酸素含有金属塩等が挙げられる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましく、遷移金属元素としてCo、Mn及びNiの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0057】
リチウム遷移金属酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよく、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等を含んでいてもよい。
【0058】
リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物は、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。高容量化の観点からは、リチウム遷移金属酸化物がリチウム以外の遷移金属の総量に対して80モル%以上のNiを含有することが好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、リチウム遷移金属酸化物が、LiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d≦0.1、b+c+d=1)であることがより好ましい。
【0059】
導電材としては、正極合材層の電気伝導性を高める公知の導電材が使用でき、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
結着材としては、正極活物質や導電材の良好な接触状態を維持し、また、正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高める公知の結着材が使用でき、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、又はこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。正極活物質層に含まれる結着材の含有量は、例えば正極活物質の総量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。また、結着材は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0061】
[負極]
本実施形態に係る二次電池を構成する負極は、例えば負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とで構成される。負極活物質層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。負極活物質層は、例えば負極活物質、結着材等を含む。
【0062】
負極集電体としては、負極の電位範囲で安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体として、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。負極集電体の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル等を用いることができる。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0063】
負極は、例えば負極集電体上に負極活物質、結着材及び分散媒を含む負極合材スラリーを塗布して、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極活物質層を負極集電体の片面又は両面に形成することにより作製できる。負極活物質層は、必要に応じて、導電剤等の任意成分を含んでもよい。負極活物質層の厚さは、特に制限されないが、例えば10μm以上100μm以下である
【0064】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る材料であれば特に制限されない。負極活物質を構成する材料は、非炭素系材料でもよく、炭素材料でもよく、これらの組み合わせでもよい。非炭素系材料としては、リチウム金属、リチウム元素を含む合金、並びに、リチウムを含有する金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物が挙げられる。リチウム元素を含有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等が挙げられる。リチウムを含有するする金属酸化物としては、例えばリチウムとチタン、タンタル又はニオブ等とを含有する含有金属酸化物が挙げられ、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12等)が好ましい。
【0065】
負極活物質として用いる炭素材料としては、例えば、黒鉛、及び、ハードカーボン等が挙げられる。中でも、高容量で不可逆容量が小さいため黒鉛が好ましい。黒鉛は、黒鉛構造を有する炭素材料の総称であり、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。負極活物質として黒鉛を使用する場合、非水電解質の還元分解に対する活性を低下するため、負極活物質層の表面を被膜で被覆することが好ましい。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
負極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、正極の場合と同様に、フッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いてもよく、また、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着材の含有量は、負極活物質の総量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。負極活物質層に含まれる増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
[セパレータ]
セパレータとしては、リチウムイオンを透過し、且つ、正極と負極とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、樹脂や無機材料等で構成される多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータを構成する樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等が挙げられる。セパレータを構成する無機材料としては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア等のガラス及びセラミックスが挙げられる。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0068】
なお、上記の実施形態では、水系電解液を備える二次電池について説明したが、本実施形態の一例に係る水系電解液は、二次電池以外の蓄電装置に使用してもよく、例えば、キャパシタに使用してもよい。この場合、キャパシタは、例えば、本実施形態の一例に係る水系電解液と、2つの電極とを備える。電極を構成する電極材料は、キャパシタに使用可能であって、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料であればよく、例えば、天然黒鉛又は人造黒鉛等の黒鉛含有材料、チタン酸リチウム等の材料が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本開示の実施例及び比較例を具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[水系電解液の調製]
(調製例1)
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO2CF3)2)と、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO2C2F5)2)と、水(超純水)とを、モル比0.7:0.3:2で混合した。得られた混合液に、電解液の総量に対して1質量%の濃度となる量のコハク酸を添加して、調製例1の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。コハク酸は、多価カルボン酸の一つであり、式1で表されるジカルボン酸であって、R1がエチレン基である。
【0071】
(調製例2)
電解液の総量に対して0.2質量%の濃度となる量のコハク酸を添加したこと以外は調製例1と同様にして、調製例2の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0072】
(調製例3)
電解液の総量に対して3.0質量%の濃度となる量のコハク酸を添加したこと以外は調製例1と同様にして、調製例3の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0073】
(調製例4)
LiN(SO2CF3)2と、LiN(SO2C2F5)2と、水(超純水)とを、モル比0.7:0.3:2で混合した。得られた混合液に、電解液の総量に対して1質量%の濃度となる量のコハク酸と、電解液の総量に対して0.5質量%の濃度となる量のジフルオロリン酸リチウム(LiPF2O2)とを添加して、調製例4の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0074】
(調製例5)
電解液の総量に対して1.0質量%の濃度となる量のジフルオロリン酸リチウムを添加したこと以外は調製例4と同様にして、調製例5の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0075】
(調製例6)
ジフルオロリン酸リチウムに換えてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカルシウム(CaTFSI)を添加したこと以外は調製例5と同様にして、調製例6の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、各電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0076】
(調製例7)
ジフルオロリン酸リチウムに換えて無水コハク酸を添加したこと以外は調製例5と同様にして、調製例7の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、各電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0077】
(調製例8及び9)
ジフルオロリン酸リチウムに換えてエチレンサルファイトを添加したこと以外は調製例4及び5と同様にして、調製例8及び9の電解液をそれぞれ調製した。各電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、各電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0078】
(調製例10~12)
コハク酸に換えてジグリコール酸を添加したこと以外は調製例1、4及び5と同様にして、調製例10~12の電解液をそれぞれ調製した。各電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。ジグリコール酸は、多価カルボン酸の一つであり、式2で表されるジカルボン酸であって、R2およびR3がいずれもメチレン基である。
【0079】
(調製例13)
コハク酸に換えてグルタル酸を添加したこと以外は調製例1と同様にして、調製例13の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。グルタル酸は、多価カルボン酸の一つであり、式1で表されるジカルボン酸であって、R1がプロピレン基である。
【0080】
(調製例14)
コハク酸に換えてマレイン酸を添加したこと以外は調製例1と同様にして、調製例14の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。マレイン酸は、多価カルボン酸の一つであり、式1で表されるジカルボン酸であって、R1がビニレン基である。
【0081】
(調製例15)
LiN(SO2CF3)2と、LiN(SO2C2F5)2と、水とを、モル比0.7:0.3:2で混合して、調製例15の電解液を調製した。電解液の総量に対する水の含有量は10質量%であり、電解液に含まれる水とリチウム塩とのモル比は2:1であった。
【0082】
[リニアスイープボルタンメトリー]
比較例1として、調製例15で得られた電解液を用いてリニアスイープボルタンメトリー測定(本明細書において「LSV測定」とも記載)を行った。測定は、作用電極に銅箔(株式会社ニラコ)、カウンター電極に白金(BAS株式会社製)、参照電極にAg/AgCl(3M NaCl)(BAS株式会社製)を備えた3極式電気化学セルを用いて行った。LSV測定は、25℃の温度条件下、掃引速度を0.1mV/秒として、開回路電位(OCV)から-3.238V(vs.Ag/AgCl(3M NaCl))まで行った。ここで、なお、このLSV測定の終了電位は0V(vs.Li/Li
+)と等しい。
図1に、比較例1のLSV測定の結果を示す。
【0083】
上記と同様にして、実施例1~14として、調製例1~14の各電解液を用いてLSV測定を行った。
図2~15に、実施例1~14のLSV測定の結果を示す。比較のため、
図2~15では、比較例1のLSV測定結果も示している。
【0084】
各実施例及び比較例1のLSV測定時において、電位が1.6V(vs.Li/Li+)(-1.638V(vs.Ag/AgCl(3M NaCl)))のときの還元電流密度(単位:mA/cm2)を計測した。計測された還元電流密度の数値を表1に示す。これらの数値により、各実施例及び各比較例で用いた各電解液について電位窓の卑電位側の領域を拡張する効果を評価した。この1.6V(vs.Li/Li+)の電位は、多価カルボン酸及び添加剤をいずれも含有しない調製例15の電解液を用いて行った比較例1のLSV測定において還元ピークが現れた電位である。
【0085】
【0086】
図1~
図15及び表1から明らかなように、多価カルボン酸を含有する調製例1~14の電解液を用いた実施例1~14では、多価カルボン酸を含有しない調製例15の電解液を用いた比較例1と比較して、電位窓が卑電位側に拡張されたことを示している。なお、
図2~
図15の各グラフ中、2.0V(vs.Li/Li
+)~2.8V(vs.Li/Li
+)の領域に現れるピークは、多価カルボン酸が還元分解して負極被膜を形成したことを示すものであって、水の還元による水素の発生、即ち電位窓の卑電位側の境界を示すものではない。このように、多価カルボン酸を添加する水系電解液は、電気分解を起こさない電位領域を拡大することができ、当該水系電解液を用いることにより、安全で、なお且つ、高電圧、高容量であるリチウムイオン二次電池を実現し得ることが確認された。
【0087】
また、実施例1~14の中では、添加剤としてフルオロリン酸塩、カルボン酸無水物、アルカリ土類金属塩及び硫黄化合物のいずれか1種を含む電解液を使用した実施例4~9、11及び12が、これらの添加剤を含まない場合と比較して、電気分解を起こさない電位領域を更に拡大することができ、更に高電圧かつ高容量であるリチウムイオン二次電池を実現し得る電解液であることが確認された。
【0088】
また、表1に示す、実施例1と実施例13と実施例14、および、比較例1の1.6V(vs.Li/Li+)における還元電流密度の比較から、式1で表される化合物におけるR1は、エチレン基(実施例1)、プロピレン基(実施例13)、ビニレン基(実施例14)のいずれも電位窓の卑電位側の領域を拡張する効果を有するものの、エチレン基において、その効果が大きい。また、表1に示す、実施例10と比較例1の1.6V(vs.Li/Li+)における還元電流密度の比較から、実施例10のジグリコール酸の電流密度は小さく、電位窓の卑電位側の領域を拡張する効果が大きい。したがって、式2で表される化合物におけるR2およびR3がメチレン基の場合においてその効果が大きい。