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特許7289091窒化アルミニウム構造体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/581 20060101AFI20230602BHJP
   C01B 21/072 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C04B35/581
C01B21/072 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022511528
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047458
(87)【国際公開番号】W WO2021199521
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020059958
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-64844(JP,A)
【文献】TAMAI,H et al.,Hydrothermal Corrosion and Strength Degradation of Aluminum Nitride Ceramics,J.Am.Ceram.Soc.,日本,2000年,Vol.83, No.12,PP.3216-3218,ISSN 0002-7820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C04B 35/581
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の窒化アルミニウム粒子を含み、
隣接する前記窒化アルミニウム粒子が、ベーマイトを含むベーマイト相を介して結合しており、
気孔率が30%以下である、窒化アルミニウム構造体。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム粒子の表面全体に、前記ベーマイト相が存在する、請求項1に記載の窒化アルミニウム構造体。
【請求項3】
結晶性の水酸化アルミニウムを実質的に含まない、請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム構造体。
【請求項4】
窒化アルミニウム相の存在割合が50質量%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム構造体。
【請求項5】
密度が2.2g/cm以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム構造体。
【請求項6】
窒素吸着法により測定した比表面積が10m/g以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム構造体。
【請求項7】
窒化アルミニウム粉末と、水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、
当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、
を有する、窒化アルミニウム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記混合物を加圧及び加熱する工程により得られた成形体に、水蒸気を接触させる工程をさらに有する、請求項7に記載の窒化アルミニウム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)は、電気抵抗が大きく絶縁耐力も高い特性を有し、さらにセラミックス材料としては非常に高い熱伝導率を示す。そのため、窒化アルミニウムを、絶縁性放熱板や大容量集積回路基板などへ適用することが検討されている。
【0003】
特許文献1では、窒素含有難焼結性粉体であるAlNを用い、熱特性向上のために緻密性を高めた無焼成固化体の製造方法を開示している。具体的には、特許文献1は、アンモニア水が添加された窒素含有難焼結性の粉体が、固化反応よって固化される工程を含む固化体の製造方法を開示している。詳細には、当該固化体は、AlN粉体にアンモニア水を添加する工程、攪拌してスラリーを調製する工程、スラリーをろ過する工程、ろ過物を静置する工程、密閉系でさらに静置することにより固化させる工程、固化物を乾燥する工程により得られている。
【0004】
上述のように、AlN粉体にアンモニア水を添加することにより、AlN粉体の表面には、水酸化アルミニウム溶液の被膜が存在するようになる。そして、当該被膜は、固化反応と乾燥により脱水されて、アルミナ(Al)、AlOOH、Al(OH)となる。そのため、AlN粉体の間に存在するアルミナの被膜によって、AlN粉体同士が強固に結合して、固化体を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-64844号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、AlN粉体とアンモニア水からなるスラリーをろ過、静置、乾燥することにより固化体を得ているため、固化体には多数の細孔が存在する。そのため、固化体の緻密性が低下し、強度及び硬度が不十分になるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、緻密性を高めて機械的強度を向上させた窒化アルミニウム構造体、及び窒化アルミニウム構造体の製造方法を提供することにある。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る窒化アルミニウム構造体は、複数の窒化アルミニウム粒子を含み、隣接する窒化アルミニウム粒子が、ベーマイトを含むベーマイト相を介して結合している。そして、窒化アルミニウム構造体は、気孔率が30%以下である。
【0009】
本発明の第二の態様に係る窒化アルミニウム構造体の製造方法は、窒化アルミニウム粉末と、水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態に係る窒化アルミニウム構造体の一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は、窒化アルミニウム構造体の断面を拡大して示す概略図である。
図3図3は、本実施形態に係る窒化アルミニウム構造体を概略的に示す断面図である。図3(a)は、窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒との混合物を加圧及び加熱することに得られた成形体を概略的に示す断面図である。図3(b)は、当該成形体に対して水蒸気を接触させる処理を施したものを概略的に示す断面図である。
図4図4(a)は、実施例1で用いた窒化アルミニウム粉末のX線回折パターン、及び実施例1で得られた試験サンプル1のX線回折パターンを示すグラフである。図4(b)は、図4(a)のグラフの縦軸を拡大した結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1で用いた窒化アルミニウム粉末を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図6図6は、実施例1で得られた試験サンプル1の破断面を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図7図7は、実施例1の試験サンプル1の断面を研磨した後に、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す二次電子像である。
図8図8(a)は、実施例1の試験サンプル1の断面を研磨した後に、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す二次電子像である。図8(b)は、図8(a)の矢印に沿ってエネルギー分散型X線分析(EDX)を行い、アルミニウム、窒素及び酸素の定量分析を行った結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例1の試験サンプル1の断面を研磨した後に、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す反射電子像である。
図10図10は、図9の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
図11図11(a)は、実施例2において、窒化アルミニウム粉末と水との混合物に対する加圧時間を変化させて得られた試験サンプル2~5のX線回折パターンを示すグラフである。図11(b)は、図11(a)のグラフの縦軸を拡大した結果を示すグラフである。
図12図12(a)は、実施例3において、窒化アルミニウム粉末と水との混合物に対する加熱温度を変化させて得られた試験サンプル6~8のX線回折パターンを示すグラフである。図12(b)は、図12(a)のグラフの縦軸を拡大した結果を示すグラフである。
図13図13(a)は、実施例4における、標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルのX線回折パターンを示すグラフである。図13(b)は、図13(a)のグラフの縦軸を拡大した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係る窒化アルミニウム構造体、及び窒化アルミニウム構造体の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
[窒化アルミニウム構造体]
本実施形態の窒化アルミニウム構造体1は、図1に示すように、複数の窒化アルミニウム粒子2を含んでいる。そして、隣接する窒化アルミニウム粒子2同士が互いに結合することにより、窒化アルミニウム粒子2が集合してなる窒化アルミニウム構造体1を形成している。また、隣接する窒化アルミニウム粒子2の間には、気孔3が存在している。
【0013】
窒化アルミニウム粒子2は、図2に示すように、中心が窒化アルミニウム相2aであり、表面がベーマイト相2bである構造を有している。そして、隣接する窒化アルミニウム粒子2は、表面のベーマイト相2bが互いに接触して連結部4を形成することにより、強固に結合している。
【0014】
窒化アルミニウム粒子2において、窒化アルミニウム相2aは、窒化アルミニウムを主成分としている。つまり、窒化アルミニウム相2aは、窒化アルミニウムを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することが特に好ましい。
【0015】
また、窒化アルミニウム粒子2において、ベーマイト相2bは、ベーマイトを主成分としている。つまり、ベーマイト相2bは、ベーマイトを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することが特に好ましい。ベーマイトは、AlOOHの組成式で示されるアルミニウム酸化水酸化物である。ベーマイトは、水に不溶であり、酸及びアルカリにも常温下では殆ど反応しないことから化学的安定性が高く、さらに脱水温度が500℃前後と高いことから耐熱性にも優れるという特性を有する。そのため、ベーマイト相2bにおいてベーマイトの含有割合が高まることにより、化学的安定性及び耐熱性に優れた窒化アルミニウム構造体1を得ることができる。
【0016】
上述のように、窒化アルミニウム粒子2のベーマイト相2bは、ベーマイトを主成分とすることが好ましい。ただ、ベーマイト相2bは、ベーマイトに加えて、水酸化アルミニウム(Al(OH))を含んでいてもよく、例えばバイヤーライトを含んでいてもよい。ただ、水酸化アルミニウムは、酸及びアルカリに対する反応性を有するため、ベーマイト相2bに多量の水酸化アルミニウムが含まれる場合、窒化アルミニウム構造体1の耐酸性及び耐アルカリ性が低下する可能性がある。そのため、窒化アルミニウム構造体1の化学的安定性を高める観点から、ベーマイト相2bに含まれる水酸化アルミニウムを減少させることが好ましい。
【0017】
上述のように、窒化アルミニウム構造体1は、中心が窒化アルミニウム相2aであり、表面がベーマイト相2bである窒化アルミニウム粒子2により構成されている。そして、窒化アルミニウム粒子2同士は、ベーマイト相2bを介して互いに結合している。つまり、窒化アルミニウム粒子2は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、ベーマイト相2b以外の無機バインダーでも結合していない。また、後述するように、窒化アルミニウム構造体1は、窒化アルミニウムの粉末と水との混合物を加圧しながら加熱することにより形成することができ、反応促進剤なども使用する必要がない。そのため、窒化アルミニウム構造体1は、有機バインダー及び無機バインダー、並びに反応促進剤に由来する不純物が存在しないことから、窒化アルミニウム及びベーマイト本来の特性を保持することが可能となる。
【0018】
窒化アルミニウム構造体1を構成する窒化アルミニウム粒子2の平均粒子径は、特に限定されない。ただ、窒化アルミニウム粒子2の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上20μm以下であることが特に好ましい。窒化アルミニウム粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、窒化アルミニウム粒子2同士が強固に結合し、窒化アルミニウム構造体1の強度を高めることができる。また、窒化アルミニウム粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、窒化アルミニウム構造体1の内部に存在する気孔3の割合が30%以下となることから、窒化アルミニウム構造体1の強度を高めることが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0019】
窒化アルミニウム粒子2の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、窒化アルミニウム粒子2は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まるため、窒化アルミニウム構造体1全体の強度及び熱伝導性を高めることが可能となる。
【0020】
窒化アルミニウム構造体1の断面における気孔率は30%以下であることが好ましい。つまり、窒化アルミニウム構造体1の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔3の割合の平均値が30%以下であることが好ましい。気孔率が30%以下の場合、窒化アルミニウム粒子2同士が結合する割合が増加するため、窒化アルミニウム構造体1が緻密になり、強度が高まる。そのため、窒化アルミニウム構造体1の機械加工性を向上させることが可能となる。また、気孔率が30%以下の場合には、気孔3を起点として、窒化アルミニウム構造体1にひび割れが発生することが抑制されるため、窒化アルミニウム構造体1の曲げ強さを高めることが可能となる。なお、窒化アルミニウム構造体1の断面における気孔率は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。窒化アルミニウム構造体1の断面における気孔率が小さいほど、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、窒化アルミニウム構造体1の強度を高めることが可能となる。
【0021】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、窒化アルミニウム構造体1の断面を観察し、窒化アルミニウム粒子2及び気孔3を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔3の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔3の割合を求め、その値を気孔率とする。なお、窒化アルミニウム構造体1の断面に対し、単位面積あたりの気孔3の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔3の割合の平均値を気孔率とすることがより好ましい。窒化アルミニウム構造体1の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔3の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0022】
窒化アルミニウム構造体1の内部に存在する気孔3の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔3の大きさが小さいことにより、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、窒化アルミニウム構造体1の強度を高め、窒化アルミニウム構造体1の機械加工性を向上させることが可能となる。なお、窒化アルミニウム構造体1の気孔3の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。窒化アルミニウム構造体1の内部に存在する気孔3の大きさは、上述の気孔率と同様に、窒化アルミニウム構造体1の断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0023】
本実施形態の窒化アルミニウム構造体1において、窒化アルミニウム粒子2の表面全体に、ベーマイト相2bが存在することが好ましい。これにより、ベーマイト相2bを介して窒化アルミニウム粒子2同士が三次元的に結合するため、機械的強度の高いバルク体を得ることができる。
【0024】
また、窒化アルミニウム構造体1は、結晶性の水酸化アルミニウムを実質的に含まないことが好ましい。上述のように、水酸化アルミニウムは、酸及びアルカリに対する反応性を有するため、ベーマイト相2bに水酸化アルミニウムが含まれる場合、窒化アルミニウム構造体1の耐酸性及び耐アルカリ性が低下する可能性がある。そのため、化学的安定性を高める観点から、窒化アルミニウム構造体1は、結晶性の水酸化アルミニウムを実質的に含まないことが好ましい。なお、本明細書において、「窒化アルミニウム構造体は、結晶性の水酸化アルミニウムを実質的に含まない」とは、窒化アルミニウム構造体のX線回折パターンを測定した際、水酸化アルミニウムの回折ピークが観測されないことをいう。
【0025】
窒化アルミニウム構造体1において、窒化アルミニウム相の存在割合は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。窒化アルミニウム相の割合が増加することにより、電気抵抗性及び絶縁耐力に優れ、さらに熱伝導性も良好な窒化アルミニウム構造体1を得ることができる。なお、窒化アルミニウム構造体1における窒化アルミニウム相の割合は、X線回折法により窒化アルミニウム構造体1のX線回折パターンを測定した後、リートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0026】
なお、窒化アルミニウム構造体1において、窒化アルミニウム相とベーマイト相の存在割合は、所望の機能に応じて、適宜調整してもよい。つまり、高熱伝導性の観点からは窒化アルミニウムの比率が高いことが好ましく、断熱性、軽量、化学的耐久性の観点からはベーマイトの比率が高いことが好ましい。そのため、窒化アルミニウム構造体1の熱伝導性を向上させたい場合には、窒化アルミニウム相の存在割合を高めることが好ましい。また、断熱性、軽量、化学的耐久性を向上させたい場合には、ベーマイト相の存在割合を高めることが好ましい。
【0027】
窒化アルミニウム構造体1において、窒化アルミニウム相とベーマイト相の存在割合を制御する方法は特に限定されないが、例えば次のような方法が挙げられる。後述のように、窒化アルミニウム構造体1は、窒化アルミニウム粉末と、水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、当該混合物を所定条件下で加圧及び加熱する工程とにより得ることができる。得られた窒化アルミニウム構造体1は、図3(a)に示すように、隣接する窒化アルミニウム粒子2がベーマイト相2bを介して互いに結合している。さらに、隣接する窒化アルミニウム粒子2の間には、気孔3が存在している。
【0028】
ここで、窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒との混合物を加圧及び加熱することに得られた成形体に対して水蒸気を接触させた場合、成形体に含まれる未反応の窒化アルミニウムがベーマイト化するか、又は窒化アルミニウム表面のベーマイト相2bが成長する。その結果、図3(b)に示すように、窒化アルミニウム構造体1におけるベーマイト相2bの存在割合を高めることが可能となる。そのため、当該成形体と水蒸気との接触条件を調整することにより、窒化アルミニウム相とベーマイト相の存在割合を制御することが可能となる。
【0029】
窒化アルミニウム構造体1は、窒化アルミニウム粒子2同士が互いに結合しており、気孔率が30%以下である構造を有していればよい。そのため、窒化アルミニウム構造体1はこのような構造を有していれば、その形状は限定されない。窒化アルミニウム構造体1の形状は、例えば板状、膜状、矩形状、塊状、棒状、球状とすることができる。また、窒化アルミニウム構造体1が板状又は膜状の場合、その厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態の窒化アルミニウム構造体1は、後述するように、加圧加熱法により形成される。そのため、厚みの大きな窒化アルミニウム構造体1を容易に得ることができる。なお、窒化アルミニウム構造体1の厚みtは1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。窒化アルミニウム構造体1の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0030】
上述のように、窒化アルミニウム構造体1は、複数の窒化アルミニウム粒子2が互いに強固に結合しているため、高い機械的強度を有している。そのため、窒化アルミニウム構造体1は、日本産業規格JIS T6526(歯科用セラミック材料)に準拠して測定した曲げ強さが3MPa以上であることが好ましい。なお、窒化アルミニウム構造体1の曲げ強さは、JIS T6526の二軸曲げ強さ試験方法により測定する。窒化アルミニウム構造体1の曲げ強さが3MPa以上である場合、機械的強度に優れるため、機械加工性が高まる。そのため、窒化アルミニウム構造体1を、例えば、高い機械的強度及び加工性が必要となる建築部材に容易に使用することが可能となる。なお、窒化アルミニウム構造体1の曲げ強さは10MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましい。窒化アルミニウム構造体1の曲げ強さの上限は特に限定されないが、例えば200MPaとすることができる。
【0031】
また、窒化アルミニウム構造体1は、JIS R1610(ファインセラミックスの硬さ試験方法)に準拠して測定したビッカース硬さが2GPa以上であることが好ましい。この場合、窒化アルミニウム構造体1は機械的強度に優れるため、例えば建築部材に容易に使用することが可能となる。
【0032】
窒化アルミニウム構造体1は、JIS R1611(ファインセラミックスのフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率の測定方法)に準拠して測定した熱伝導率が5W/m・K以上であることが好ましい。この場合、窒化アルミニウム構造体1は高い熱伝導性を有するため、例えば絶縁性放熱板や大容量集積回路基板などに好適に用いることができる。
【0033】
窒化アルミニウム構造体1は、密度が2.2g/cm以上であることが好ましい。窒化アルミニウム構造体1の密度が高まることにより、気孔3が減少する。そのため、気孔3を起点として、窒化アルミニウム構造体1にひび割れが発生することが抑制されることから、窒化アルミニウム構造体1の機械的強度を高めることが可能となる。
【0034】
ここで、上述のように、窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒との混合物を加圧及び加熱することに得られた成形体に対して水蒸気を接触させた場合、窒化アルミニウム構造体1におけるベーマイト相2bの存在割合を高めることができる。そして、窒化アルミニウム(AlN)のモル質量は41g/molであり、ベーマイト(AlOOH)のモル質量は60g/molである。また、窒化アルミニウムのモル体積は12.6cm/molであり、ベーマイト(AlOOH)のモル体積は19.5cm/molである。そのため、窒化アルミニウムからベーマイトへの反応を進行させることにより、窒化アルミニウム構造体1の質量が増加することから、窒化アルミニウム構造体1の密度を高めることが可能となる。さらに、窒化アルミニウムからベーマイトへの反応を進行させることにより、窒化アルミニウム構造体1におけるベーマイト相2bの体積が増加する。その結果、図3(b)に示すように、ベーマイト相2bにより気孔3が縮小し、窒化アルミニウム構造体1の機械的強度を高めることが可能となる。
【0035】
そして、窒化アルミニウム構造体1において、窒化アルミニウム相の存在割合を70質量%以下とし、ベーマイト相2bの存在割合を30質量%以上とすることも好ましい。ベーマイト相2bの存在割合を30質量%以上とすることにより、ベーマイト相2bによる気孔3の縮小が進行しやすくなるため、窒化アルミニウム粒子同士が強固に結合し、窒化アルミニウム構造体1の機械的強度をより高めることが可能となる。
【0036】
窒化アルミニウム構造体1において、窒素吸着法により測定した比表面積が10m/g以下であることが好ましい。窒素ガスを用いて測定したBET比表面積が10m/g以下であることにより、気孔3が減少し、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、窒化アルミニウム構造体1の強度を高めることが可能となる。なお、窒化アルミニウム構造体1のBET比表面積を調整する方法は特に限定されない。例えば、上述のように、窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒との混合物を加圧及び加熱することに得られた成形体に対して水蒸気を接触させ、ベーマイト相2bの存在割合を高めることにより、比表面積を減少させることができる。
【0037】
窒化アルミニウム構造体1において、複数の窒化アルミニウム粒子2は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、さらにベーマイト相2b以外の無機バインダーでも結合していない。そのため、窒化アルミニウム構造体1に含まれる金属元素において、アルミニウム以外の元素の含有割合は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。窒化アルミニウム構造体1は、ナトリウムやカルシウムなどの不純物が殆ど存在しないことから、窒化アルミニウム及びベーマイト本来の特性を保持することが可能となる。
【0038】
このように、本実施形態の窒化アルミニウム構造体1は、複数の窒化アルミニウム粒子2を含み、隣接する窒化アルミニウム粒子2が、ベーマイトを含むベーマイト相2bを介して結合している。そして、窒化アルミニウム構造体は、気孔率が30%以下である。窒化アルミニウム構造体1は、隣接する窒化アルミニウム粒子2が耐酸性及び耐アルカリ性を有するベーマイト相により結合しているため、化学的安定性を高めることができる。さらに、窒化アルミニウム構造体は気孔率が30%以下であることから、窒化アルミニウム粒子2が緻密に配置し、窒化アルミニウム構造体1の機械的強度が高まる。そのため、窒化アルミニウム構造体1は、高い機械加工性を有することができる。
【0039】
これに対して、特許文献1の固化体は、内部に多数の細孔を有するため、緻密性が低下して強度及び硬度が不十分となる。さらに、当該固化体には、水酸化アルミニウムが含まれているため、耐酸性及び耐アルカリ性が低く、化学的安定性が不十分となる。
【0040】
なお、本実施形態の窒化アルミニウム構造体1は、図1に示すように、窒化アルミニウム粒子2のみが結合してなる構造体とすることができる。しかしながら、後述するように、窒化アルミニウム構造体1は50~300℃に加熱しながら加圧することにより得ることができるため、窒化アルミニウム構造体1に耐熱性の低い部材を添加することができる。具体的には、窒化アルミニウム構造体1は、窒化アルミニウム粒子2に加えて、有機物や樹脂粒子が含まれていてもよい。また、有機物等の耐熱性の低い部材に限定されず、窒化アルミニウム構造体1は、金属粒子や無機化合物からなる粒子が含まれていてもよい。
【0041】
[窒化アルミニウム構造体の製造方法]
次に、窒化アルミニウム構造体1の製造方法について説明する。窒化アルミニウム構造体1は、窒化アルミニウム粉末と水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程と、により製造することができる。
【0042】
具体的には、まず、窒化アルミニウムの粉末と水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。さらに、水を含む溶媒は、アンモニアが含まれていてもよい。
【0043】
窒化アルミニウムに対する溶媒の添加量は、後述する窒化アルミニウムの加水分解反応が進行して、窒化アルミニウムの表面に水酸化アルミニウムが生成する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、窒化アルミニウムに対して5~100質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0044】
ここで、非特許文献1(公益社団法人日本金属学会発行の日本金属学会誌、第59巻、第11号(1995)1143-1148)では、窒化アルミニウムが水分と反応すると、表面はヒドロキシル基で覆われること、さらにその反応生成物は水酸化アルミニウム(Al(OH))であることが記載されている。つまり、窒化アルミニウムが水分と反応すると、次の反応式1の反応が進行し、窒化アルミニウムの表面には、水酸化アルミニウムの層が生成する。
[化1]
AlN + 3HO → Al(OH)+ NH
【0045】
なお、窒化アルミニウム構造体1に耐熱性の低い部材を添加する場合には、上記混合物に耐熱性の低い部材を加える。
【0046】
次いで、窒化アルミニウムと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱する。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、窒化アルミニウムが高充填化し、窒化アルミニウムの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、混合物を加熱しながら加圧することにより、生成した水酸化アルミニウムが、隣接する窒化アルミニウムの間を相互に拡散して、窒化アルミニウム同士が徐々に連結する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、次の反応式2のように、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。その結果、隣接する窒化アルミニウム粒子は、ベーマイトを含むベーマイト相を介して結合する。
[化2]
Al(OH) → AlOOH + H
【0047】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数の窒化アルミニウム粒子2同士が、ベーマイト相2bを介して結合した窒化アルミニウム構造体1を得ることができる。
【0048】
なお、窒化アルミニウムと水を含む溶媒とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、窒化アルミニウムと当該溶媒との反応及び水酸化アルミニウムの脱水反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、上記混合物を50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、上記混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、上記混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0049】
本実施形態の窒化アルミニウム構造体1の製造方法は、上記混合物を加圧及び加熱する工程により得られた成形体に、水蒸気を接触させる工程をさらに有していてもよい。当該成形体に水蒸気を接触させた場合、図3(b)に示すように、成形体に含まれる未反応の窒化アルミニウムがベーマイト化するか、又は窒化アルミニウム表面のベーマイト相2bが成長する。その結果、窒化アルミニウム構造体1におけるベーマイト相2bの存在割合を高め、上述のように、窒化アルミニウム構造体1の機械的強度を向上させることが可能となる。
【0050】
窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒を加圧及び加熱してなる成形体と、水蒸気との接触条件は、特に限定されない。例えば、恒温恒湿槽を用い、高湿雰囲気下に成形体を保持することにより、成形体に水蒸気を接触させてもよい。また、オートクレーブを用い、高圧下で成形体に水蒸気を接触させてもよい。
【0051】
ここで、窒化アルミニウムの凝集体を形成する方法として、窒化アルミニウムの粉末のみをプレスする方法が考えられる。しかし、窒化アルミニウムの粉末を金型に投入し、常温で加圧したとしても、窒化アルミニウムの粒子同士は互いに反応し難く、当該粒子同士を強固に結合させることは困難である。そのため、得られる圧粉体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。
【0052】
また、窒化アルミニウムの凝集体を形成する方法として、窒化アルミニウムの粉末のみをプレスして圧粉体を形成した後、高温(例えば1700℃以上)で焼成する方法も考えられる。窒化アルミニウム粉末の圧粉体を高温で焼成した場合、窒化アルミニウム粉末同士は焼結して構造体を形成する。ただ、窒化アルミニウムの圧粉体を高温で焼成しても、窒化アルミニウム粉末同士が焼結し難いことから、得られる構造体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。また、窒化アルミニウム粉末を高温で焼成する場合、緻密な温度制御が必要となるため、製造コストが増加してしまう。
【0053】
これに対して、本実施形態の製造方法では、窒化アルミニウムと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加熱しながら加圧しているため、緻密かつ強度に優れた構造体を得ることができる。さらに、本実施形態の製造方法は、50~300℃で加熱しながら加圧することにより得ることができるため、緻密な温度制御が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0054】
このように、本実施形態の窒化アルミニウム構造体1の製造方法は、窒化アルミニウム粉末と、水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程と、を有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法は加熱温度が低温であることから、得られる構造体では、ベーマイト相を介して窒化アルミニウムが結合している。そのため、機械的強度及び化学的安定性に優れた窒化アルミニウム構造体1を簡易な方法で得ることが可能となる。
【0055】
なお、上述のように、窒化アルミニウム構造体1は、高熱伝導性、高硬度、高強度の観点からは窒化アルミニウム相の割合が高いことが好ましく、断熱性、軽量、化学的耐久性の観点からはベーマイト相の割合が高いことが好ましい。そして、上記混合物の加圧温度及び加圧時間、溶媒の量、並びに成形後の熱処理及び水熱処理などの条件によって、ベーマイト相2bの存在割合を制御することができる。そのため、プロセス条件によっても、窒化アルミニウム構造体1全体の特性を制御することが可能となる。
【0056】
[窒化アルミニウム構造体を備える部材]
次に、窒化アルミニウム構造体1を備える部材について説明する。窒化アルミニウム構造体1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに化学的安定性にも優れている。また、窒化アルミニウム構造体1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、窒化アルミニウム構造体1は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0057】
また、窒化アルミニウム構造体1は、放熱性と軽量性に優れた部材として使用することができる。具体的には、薄膜回路用基板、センサ部材用基板及び半導体プロセス用基板、半導体製造装置のセラミックス部材、並びにその他一般電子機器の筐体にも使用することができる。
【実施例
【0058】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
(試験サンプルの調製)
まず、窒化アルミニウムとして、株式会社高純度化学研究所製、窒化アルミニウム粉末(純度:3N)を準備した。そして、窒化アルミニウム粉末0.3gとイオン交換水0.24mLとを秤量して混合することにより、混合物を得た。
【0060】
次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10mm)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプル1を得た。
【0061】
実施例1の試験サンプル1の体積及び質量を測定して相対密度を算出した結果、窒化アルミニウムの比重d(3.26)に対して相対密度は72%であった。
【0062】
(X線回折測定)
上述のようにして得られた試験サンプル1について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。図4では、試験サンプル1のX線回折パターン、並びに、原料である窒化アルミニウム粉末のX線回折パターンを示す。なお、図4では、X線回折の測定時に使用したサンプルホルダーに由来するピークも観測されている。
【0063】
図4(a)より、試験サンプル1には窒化アルミニウムが残存していることが分かる。そして、図4(b)より、試験サンプル1ではベーマイトに由来するピークが観測されたが、原料である窒化アルミニウム粉末ではベーマイトに由来するピークが観測されなかった。また、試験サンプル1では、バイヤーライト(水酸化アルミニウム,Al(OH))に由来するピークが観測されなかった。そのため、試験サンプル1には、ベーマイトが含まれているが、結晶性のバイヤーライトは実質的に含まれていないことが分かる。
【0064】
(熱伝導率)
本例の試験サンプル1の熱伝導率を、JIS R1611に準拠して測定した。その結果、試験サンプル1の熱伝導率は、8.2W/m・Kであった。
【0065】
(ビッカース硬さ測定)
本例の試験サンプル1のビッカース硬さを、JIS R1610に準拠して測定した。その結果、試験サンプル1のビッカース硬さは、3.0GPaであった。
【0066】
(二軸曲げ強度測定)
本例の試験サンプル1の曲げ強度を、JIS T6526に準拠して測定した。その結果、試験サンプル1の曲げ強度は、120MPaであった。
【0067】
(電子顕微鏡観察)
本例の試験サンプル1の破断面を走査型電子顕微鏡で観察し、窒化アルミニウム粒子の結着の有無を確認した。図5は窒化アルミニウム粉末を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示し、図6は試験サンプル1の破断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【0068】
図5に示すように、窒化アルミニウム粉末は粒子同士が結着しておらず、互いに分離していることが分かる。これに対し、図6に示すように、試験サンプル1では、粒子同士が結着して固化していることが確認できる。
【0069】
次に、本例の試験サンプル1の断面を研磨し、走査型電子顕微鏡で観察した。具体的には、試験サンプル1の断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次いで、走査型電子顕微鏡を用い、試験サンプル1の断面について、2万倍の倍率で二次電子像を観察した。図7に示すように、試験サンプル1では、隣接する窒化アルミニウム相2aが連結部4を介して結合していることが確認できる。
【0070】
(エネルギー分散型X線分析(EDX))
本例の試験サンプル1の断面に対してエネルギー分散型X線分析を行い、当該断面に含まれる元素の定性及び定量分析を行った。具体的には、まず、試験サンプル1の断面にクロスセクションポリッシャー加工を施し、次いで、走査型電子顕微鏡で試験サンプル1の断面を5万倍の倍率で観察した。図8(a)では、試験サンプル1の断面を観察して得られた二次電子像を示す。
【0071】
さらに、図8(a)の矢印に沿って、エネルギー分散型X線分析(ラインスキャン)を行い、断面に含まれる元素の定性及び定量分析を行った。ラインスキャンの結果を図8(b)に示す。図8(b)より、粒子5の内部では、窒素(N)の比率が高く、酸素(O)の比率が低いことが分かる。これに対して、隣接する粒子5の間に存在する連結部6では、酸素の比率が高く、窒素の比率が低いことが分かる。この結果から、連結部6には、アルミニウムの酸化物が存在していることが分かる。つまり、隣接する窒化アルミニウムの粒子5は、アルミニウムの酸化物を介して結合していることが分かる。
【0072】
また、図8(a)及び図8(b)より、窒化アルミニウムの粒子5の表面全体には、アルミニウムの酸化物の相が存在していることが分かる。そのため、試験サンプル1では、中心が窒化アルミニウム相であり、表面がアルミニウム酸化物の相であるコア-シェル構造が存在していることが分かる。
【0073】
ここで、上述のように、非特許文献1では、窒化アルミニウムが水分と反応すると、表面はヒドロキシル基で覆われること、さらにその水和反応生成物は水酸化アルミニウム(Al(OH))であることが記載されている。また、図8より、隣接する窒化アルミニウムの粒子は、アルミニウムの酸化物を介して結合していることが確認され、図4より、試験サンプル1にはベーマイトが含まれていることが確認されている。そのため、試験サンプル1において、隣接する窒化アルミニウムの粒子は、水酸化アルミニウムが脱水縮合することにより形成されたベーマイト相を介して結合していることが分かる。
【0074】
(気孔率測定)
まず、円柱状である試験サンプル1の断面に、クロスセクションポリッシャー加工を施した。次に、走査型電子顕微鏡を用い、試験サンプル1の断面について、2万倍の倍率で反射電子像を観察した。試験サンプル1の断面を観察することにより得られた反射電子像を図9に示す。観察した反射電子像において、灰色の粒子が窒化アルミニウム粒子2であり、黒色部が気孔3である。
【0075】
次いで、図9のSEM像について二値化することにより、気孔部分を明確にした。図9の反射電子像を二値化した画像を図10に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、気孔率とした。その結果、試験サンプル1の気孔率は、9.8%であった。
【0076】
[実施例2]
まず、実施例1と同様に、窒化アルミニウム粉末0.3gと、イオン交換水0.24mLとを秤量して混合することにより、混合物を得た。
【0077】
次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10mm)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃の条件で加熱及び加圧した。なお、この際、加圧時間を5分、20分、60分又は120分とした。このようにして、加圧時間が5分の試験サンプル2、加圧時間が20分の試験サンプル3、加圧時間が60分の試験サンプル4、加圧時間が120分の試験サンプル5を得た。
【0078】
得られた試験サンプル2~5について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。図11では、試験サンプル2~5のX線回折パターンを示す。図11(a)より、試験サンプル2~5には窒化アルミニウムが存在していることが分かる。そして、図11(b)より、試験サンプル2~5ではベーマイトに由来するピークが観測されたことから、窒化アルミニウム粒子は、ベーマイト相を介して結合していることが分かる。
【0079】
ただ、図11(b)より、加圧時間が5分の試験サンプル2では、ベーマイトに由来するピークに加え、バイヤーライトに由来するピークも僅かに観測された。そのため、バイヤーライトの含有量を低減して、窒化アルミニウム構造体の化学的安定性を高める観点から、プレス時の加圧時間は長い方が好ましいことが分かる。
【0080】
[実施例3]
まず、実施例1と同様に、窒化アルミニウム粉末0.3gと、イオン交換水0.24mLとを秤量して混合することにより、混合物を得た。
【0081】
次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10mm)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、20分の条件で加熱及び加圧した。なお、この際、加圧温度を95℃、120℃又は180℃とした。このようにして、加熱温度が95℃の試験サンプル6、加熱温度が120℃の試験サンプル7、加熱温度が180℃の試験サンプル8を得た。
【0082】
得られた試験サンプル6~8について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。図12では、試験サンプル6~8のX線回折パターンを示す。図12より、試験サンプル6~8ではベーマイトに由来するピークが観測されたことから、窒化アルミニウム粒子は、ベーマイト相を介して結合していることが分かる。
【0083】
ただ、図12より、加熱温度が95℃の試験サンプル6では、ベーマイトに由来するピークに加え、バイヤーライトに由来するピークも僅かに観測された。そのため、バイヤーライトの含有量を低減して、窒化アルミニウム構造体の化学的安定性を高める観点から、プレス時の加熱温度は100℃以上が好ましいことが分かる。
【0084】
[実施例4]
(試験サンプルの調製)
まず、実施例1と同様に、窒化アルミニウム粉末0.3gと、イオン交換水0.24mLとを秤量して混合することにより、混合物を得た。
【0085】
次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10mm)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、標準サンプルを得た。なお、当該標準サンプルを120℃で1時間乾燥した後、標準サンプルの体積及び質量を測定して密度を算出した結果、2.34g/cmであった。また、標準サンプルにおいて、窒化アルミニウムの比重d(3.26)に対する相対密度([標準サンプルの密度]/[窒化アルミニウムの比重])は71.8%であった。
【0086】
さらに、標準サンプルと同様に、窒化アルミニウム粉末0.3gと、イオン交換水0.24mLとを秤量して混合して混合物を得た後、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、高湿処理用のペレットサンプルを得た。なお、高湿処理用のペレットサンプルを120℃で1時間乾燥した後、当該ペレットサンプルの体積及び質量を測定して密度を算出した結果、2.24g/cmであった。また、高湿処理用のペレットサンプルにおいて、窒化アルミニウムの比重dに対する相対密度は68.6%であった。
【0087】
また、標準サンプルと同様に、窒化アルミニウム粉末0.3gと、イオン交換水0.24mLとを秤量して混合して混合物を得た後、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、オートクレーブ処理用のペレットサンプルを得た。なお、オートクレーブ処理用のペレットサンプルを120℃で1時間乾燥した後、当該ペレットサンプルの体積及び質量を測定して密度を算出した結果、2.21g/cmであった。また、オートクレーブ処理用のペレットサンプルにおいて、窒化アルミニウムの比重dに対する相対密度は67.8%であった。
【0088】
(高湿処理)
エスペック株式会社製の恒温恒湿槽を用いて、高湿処理用のペレットサンプルを、85℃-85%RHの雰囲気中に24時間静置した。そして、当該ペレットサンプルを恒温恒湿槽から取り出した後、120℃で1時間乾燥することにより、高湿処理サンプルを得た。
【0089】
なお、得られた高湿処理サンプルの体積及び質量を測定して密度を算出した結果、2.51g/cmであった。また、高湿処理サンプルにおいて、窒化アルミニウムの比重dに対する相対密度は77.1%であった。
【0090】
(オートクレーブ処理)
株式会社トミー精工製のラボ用オートクレーブLSX-500を用いて、オートクレーブ処理用のペレットサンプルを、120℃、約0.2MPaの水熱条件下に1時間保持した。この際、当該ペレットサンプルは、液体の水に浸漬されること無く、水蒸気に曝される状態となるようにした。そして、当該ペレットサンプルをオートクレーブから取り出した後、120℃で1時間乾燥することにより、オートクレーブ処理サンプルを得た。
【0091】
なお、得られたオートクレーブ処理サンプルの体積及び質量を測定して密度を算出した結果、2.44g/cmであった。また、オートクレーブ処理サンプルにおいて、窒化アルミニウムの比重dに対する相対密度は74.7%であった。
【0092】
(ビッカース硬さ測定)
上述のようにして得られた標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルについて、ビッカース硬さを測定した。具体的には、マイクロビッカース硬度試験機を用い、荷重2kgf、印加時間15秒にて測定を行った。そして、1つのサンプルにつき3点以上測定し、平均値を当該サンプルのビッカース硬さとした。
【0093】
各サンプルのビッカース硬さを表1に示す。なお、表1では、ビッカース硬さの測定値を、以下の換算式より「GPa」で表記している。また、表1では、各サンプルのビッカース硬さに加えて、各サンプルの密度及び相対密度を合わせて示す。
1[HV2]=1/102[GPa]
HV2:Hardness of Vickers、荷重2kgfを意味する。
【0094】
【表1】
【0095】
(X線回折測定)
上述のようにして得られた標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルについて、粉末X線回折装置(株式会社リガク製MultiFLEX)を用いてX線回折パターンを測定した。具体的には、各サンプルを乳鉢にて粉砕した後、粉末をサンプルホルダーに充填した状態で、X線回折パターンを測定した。図13では、標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルのX線回折パターンを示す。なお、図13では、X線回折の測定時に使用したサンプルホルダーに由来するピークも観測されている。
【0096】
さらに、標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルのX線回折パターンに対してリートベルト解析を行うことにより、各サンプルにおける窒化アルミニウム相とベーマイト相の組成比を求めた。各サンプルの組成比を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
(比表面積測定)
上述のようにして得られた標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルについて、窒素吸着法により比表面積を測定した。具体的には、直径が10mmのペレット状である標準サンプル、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルを、それぞれ5~6個の試験片に分割した。各サンプルの試験片を約50~60mgずつ取り分け、ガス吸着量測定装置(日本ベル株式会社製BELSORP-max)を用いて窒素吸脱着特性を評価した。そして、吸着測定結果から、各サンプルの比表面積を、BET法を用いた解析により求めた。各サンプルの比表面積を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
(評価)
表1に示すように、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルは、標準サンプルに比べて密度及び相対密度が大きくなっていることが分かる。さらに、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルは、標準サンプルに比べて、ビッカース硬さが2倍近く上昇していることが分かる。
【0101】
また、図13に示すように、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルは、標準サンプルに比べて、ベーマイトのピークが増大していることが分かる。さらに、表2に示すように、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルは、標準サンプルに比べて、ベーマイト相の割合が20%程度増加していることが分かる。このことから、窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒との混合物を加圧及び加熱することに得られた成形体に対して、高湿処理またはオートクレーブ処理を施すことにより、窒化アルミニウムと水蒸気が反応してベーマイトが生成することが分かる。
【0102】
さらに、表3に示すように、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルは、窒素吸着法により測定した比表面積が10m/g以下となっている。そのため、高湿処理又はオートクレーブ処理の前に成形体内に存在していた微細孔が、当該処理によって充填され、マクロな孔が残存していることを示唆している。
【0103】
ここで、窒化アルミニウム(AlN)のモル質量は41g/molであり、ベーマイト(AlOOH)のモル質量は60g/molである。また、窒化アルミニウムのモル体積は12.6cm/molであり、ベーマイトのモル体積は19.5cm/molである。そのため、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルの密度が大きく上昇した理由は、窒化アルミニウムからベーマイトへの反応に伴って、窒化アルミニウム構造体の質量が増加したためであると推測される。また、高湿処理サンプル及びオートクレーブ処理サンプルの比表面積が大きく低下した理由は、窒化アルミニウムからベーマイトへの反応に伴って、ベーマイトにより細孔が充填されたためであると推測される。
【0104】
上述のことから、窒化アルミニウム粉末と水含有溶媒を加圧及び加熱してなる成形体が水蒸気と反応することで、図3に示すように、未反応の窒化アルミニウムがベーマイト化する、又は窒化アルミニウム表面のベーマイト相2bが成長すると推測される。その結果、水蒸気処理前に存在していた気孔3の径は小さくなり、比表面積が減少したものと考えられる。さらに、窒化アルミニウムがベーマイト化することで質量増加が起こり、結果としてサンプル密度が上昇したものと推測される。そして、成形体の気孔率が低下し、ベーマイト相2bが増加したことにより、窒化アルミニウム粒子2同士の粒界の密着性及び結着性が改善され、その結果、窒化アルミニウム構造体1のビッカース硬さが向上したと推測される。
【0105】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0106】
特願2020-059958号(出願日:2020年3月30日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示によれば、緻密性を高めて機械的強度を向上させた窒化アルミニウム構造体、及び窒化アルミニウム構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 窒化アルミニウム構造体
2 窒化アルミニウム粒子
2a 窒化アルミニウム相
2b ベーマイト相
3 気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13