(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】ベーマイト構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/025 20220101AFI20230602BHJP
C01F 7/448 20220101ALI20230602BHJP
【FI】
C01F7/025
C01F7/448
(21)【出願番号】P 2021520660
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016932
(87)【国際公開番号】W WO2020235277
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019094630
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019197102
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-110438(JP,A)
【文献】特開2012-071996(JP,A)
【文献】特開昭60-046922(JP,A)
【文献】特開昭46-007164(JP,A)
【文献】特開平02-239114(JP,A)
【文献】NAGODE, A. et al.,Journal of Sol-Gel Science and Technology,2018年05月03日,Vol.86,pp.568-579,<DOI:10.1007/s10971-018-4664-4>
【文献】山崎仲道ほか,熱分解アルミナの小型ホットプレスによるベーマイト固化体の作成,水熱化学実験所報告,Vol.5, No.6,日本,1984年12月25日,pp.48-51
【文献】LI, M. et al.,Preparation of porous boehmite nanosolid and its composite fluorescent materials by a novel hydrothe,Materials Letters,2006年,Vol.60,pp.2738-2742
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 - 7/788
C04B 35/10 - 35/119
C04B 38/00
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベーマイト粒子を含み、隣接する前記ベーマイト粒子が結合して
いるベーマイト構造体であって、
前記ベーマイト構造体の断面における気孔率が30%以下であ
り、
JIS R1601に準拠して測定した曲げ強さが3MPa以上であり、ベーマイト相の存在割合が50質量%以上である、ベーマイト構造体。
【請求項2】
前記ベーマイト構造体の内部に気孔を有し、前記気孔の大きさが5μm以下である、請求項
1に記載のベーマイト構造体。
【請求項3】
0.5mm~1mmの厚さにおける、380nm~700nmの波長域の全光線透過率の平均値が20%以上である、請求項1
又は2に記載のベーマイト構造体。
【請求項4】
前記ベーマイト構造体の内部に気孔を有し、前記気孔の大きさが1μm以下である、請求項
3に記載のベーマイト構造体。
【請求項5】
前記ベーマイト構造体の断面における前記気孔率が5%以下である、請求項
3又は4に記載のベーマイト構造体。
【請求項6】
前記ベーマイト粒子以外の物質をさらに含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のベーマイト構造体。
【請求項7】
前記ベーマイト構造体の断面における前記気孔率が20%以下である、請求項1から
4に記載のベーマイト構造体。
【請求項8】
前記物質は有機物である、請求項
6に記載のベーマイト構造体。
【請求項9】
水硬性アルミナと、水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、
当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、
を有する、ベーマイト構造体の製造方法。
【請求項10】
前記水硬性アルミナの平均粒子径D
50が5μm以下である、請求項
9に記載のベーマイト構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーマイト構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーマイトは、AlOOHの組成式で示されるアルミニウム酸化水酸化物である。ベーマイトは、水に不溶であり、酸及びアルカリにも常温下では殆ど反応しないことから化学的安定性が高く、さらに脱水温度が500℃前後と高いことから耐熱性にも優れるという特性を有する。このような特性を有するベーマイトの粉末は、樹脂添加剤、触媒原料及び研磨剤などに用いられている。
【0003】
また、ベーマイトは、比重が3.07程度である。そのため、ベーマイトを用いて、軽量であり、かつ、化学的安定性及び耐熱性に優れた構造体の開発が望まれている。例えば、特許文献1では、水酸化アルミニウムと反応促進剤と水とからなる混合物を140℃~350℃未満で水熱処理することにより、多孔質ベーマイト成形体が得られることを開示している。当該多孔質ベーマイト成形体は、板状又は針状のベーマイト結晶が連晶構造をとり、これらが繋がり合って連続気孔を形成しており、さらに気孔率が65%以上であって、曲げ強さが400N/cm2以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、反応促進剤としてナトリウムやカルシウムの水酸化物を用いているため、得られる構造体にはこれらが不純物として残存してしまう。そのため、特許文献1の製法では、ベーマイト本来の特性を保持したベーマイト構造体が得られ難いという問題があった。また、ベーマイト粉末を高温で焼結して構造体を得ようとした場合、ベーマイトは比重の高いαアルミナ(比重3.98)に結晶構造が変化することから、軽量なベーマイト構造体が得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、軽量であり、化学的安定性に優れ、さらに不純物量を低減したベーマイト構造体、及びベーマイト構造体の製造方法を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係るベーマイト構造体は、複数のベーマイト粒子を含み、隣接するベーマイト粒子が結合している。そして、当該ベーマイト構造体の気孔率が30%以下である。
【0008】
本発明の第二の態様に係るベーマイト構造体の製造方法は、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合することにより混合物を得る工程と、当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るベーマイト構造体の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1で用いた水硬性アルミナのX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト(AlOOH)及びギブサイト(Al(OH)
3)のパターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1の試験サンプル1において、位置1の反射電子像を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1の試験サンプル1において、位置1の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1の試験サンプル1において、位置2の反射電子像を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1の試験サンプル1において、位置2の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1の試験サンプル1において、位置3の反射電子像を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1の試験サンプル1において、位置3の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図9】
図9は、JIS R1601に準拠して実施例1の試験サンプル1の曲げ強さを測定した際の、応力とストロークとの関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例2において、水硬性アルミナと水との混合物を、常温かつ無加圧の条件で成形した試験サンプル2、180℃かつ50MPaで成形した試験サンプル3、180℃かつ200MPaで成形した試験サンプル4の断面を観察した結果を示す顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、実施例3において、水硬性アルミナに対する水の添加量を変化させて得られた試験サンプル5及び6のX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト及びギブサイトのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例4において、ベーマイト構造体を400℃で1時間焼成して得られた試験サンプル7のX線回折パターン、並びにICSDに登録されたγアルミナ、ギブサイト及びベーマイトのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図13】
図13(a)は、実施例5の試験サンプル8を作製する際に使用した水硬性アルミナを示す走査型電子顕微鏡写真である。
図13(b)は、
図13(a)の走査型電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【
図14】
図14は、実施例5の試験サンプル8における、全光線透過率と波長との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例5の試験サンプル8のX線回折パターン、及びICSDに登録されたベーマイトのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例6の試験サンプル9において、位置1の二次電子像を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例6の試験サンプル9において、位置1の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図18】
図18は、実施例6の試験サンプル9において、位置2の二次電子像を示す図である。
【
図19】
図19は、実施例6の試験サンプル9において、位置2の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図20】
図20は、実施例6の試験サンプル9において、位置3の二次電子像を示す図である。
【
図21】
図21は、実施例6の試験サンプル9において、位置3の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本実施形態に係るベーマイト構造体、及びベーマイト構造体の製造方法について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
[第一実施形態のベーマイト構造体]
本実施形態のベーマイト構造体1は、
図1に示すように、複数のベーマイト粒子2を含んでいる。そして、隣接するベーマイト粒子2同士が互いに結合することにより、ベーマイト粒子2を組み合わせてなるベーマイト構造体1を形成している。さらに、隣接するベーマイト粒子2の間には、気孔3が存在している。
【0012】
ベーマイト粒子2は、ベーマイト相のみからなる粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相からなる粒子であってもよい。例えば、ベーマイト粒子2は、ベーマイトからなる相と、ギブサイト(Al(OH)3)からなる相が混合した粒子であってもよい。
【0013】
ベーマイト構造体1を構成するベーマイト粒子2の平均粒子径は特に限定されないが、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上20μm以下であることが特に好ましい。ベーマイト粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、ベーマイト粒子2同士が強固に結合し、ベーマイト構造体1の強度を高めることができる。また、ベーマイト粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、ベーマイト構造体1の内部に存在する気孔の割合が30%以下となることから、ベーマイト構造体1の強度を高めることが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0014】
ベーマイト粒子2の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、ベーマイト粒子2は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まるため、ベーマイト構造体1全体の強度を高めることが可能となる。
【0015】
上述のように、ベーマイト構造体1は、ベーマイト粒子2の粒子群により構成されている。つまり、ベーマイト構造体1は、ベーマイトを主体にしてなる複数のベーマイト粒子2により構成されており、ベーマイト粒子2同士が互いに結合することにより、ベーマイト構造体1が形成されている。この際、ベーマイト粒子2同士は、点接触の状態であってもよく、ベーマイト粒子2の粒子面同士が接触した面接触の状態であってもよい。
【0016】
ここで、隣接するベーマイト粒子2は、アルミニウムの酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を介して結合している。つまり、ベーマイト粒子2は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、アルミニウムの酸化物及び水酸化物以外の無機化合物からなる無機バインダーでも結合していない。後述するように、ベーマイト構造体1は、水硬性アルミナと水との混合物を加圧しながら加熱することにより、形成することができる。なお、水硬性アルミナは、水酸化アルミニウムを加熱処理することにより生成される化合物であり、ρアルミナを主相としてなる。このように、ベーマイト構造体1は、特許文献1の成形体に含まれる反応促進剤に由来する不純物が存在しないことから、ベーマイト本来の特性を保持することが可能となる。
【0017】
ベーマイト構造体1は、ベーマイト(AlOOH)からなるベーマイト相を少なくとも有しているが、ベーマイト相以外の他の結晶相を有していてもよい。ベーマイト構造体1が有するベーマイト相以外の他の結晶相としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)からなるギブサイト相、及び酸化アルミナ(Al2O3)からなるγアルミナ相を挙げることができる。ただ、ベーマイト構造体1は、ベーマイト相を主体にしていることが好ましい。上述のように、ベーマイトは軽量であり、さらに高い化学的安定性及び耐熱性を有するため、ベーマイト相を主体にしていることにより、軽量であり、化学的安定性及び耐熱性に優れたベーマイト構造体1を得ることができる。
【0018】
ベーマイト構造体1は、ベーマイト相の存在割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。ベーマイト相の割合が増加することにより、軽量であり、かつ、化学的安定性及び耐熱性に優れたベーマイト構造体1を得ることができる。なお、ベーマイト構造体1におけるベーマイト相の割合は、X線回折法によりベーマイト構造体1のX線回折パターンを測定した後、リートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0019】
上述のように、ベーマイト構造体1は、ベーマイト相に加えて、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)からなるギブサイト相を有してもよい。ただ、水酸化アルミニウムは、酸及びアルカリに対する反応性を有するため、ベーマイト構造体1の化学的安定性をより高めるために、ギブサイト相の存在割合を低下させることが好ましい。ギブサイト相の存在割合を低下させるには、ベーマイト構造体1を加熱して、ギブサイト相から脱水させればよい。つまり、ベーマイト構造体1を加熱することにより、脱水反応が生じてギブサイト相からベーマイト相に結晶構造が変化する。これにより、ギブサイト相が減少して、ベーマイト相が増加するため、ベーマイト構造体1の化学的安定性を高めることが可能となる。なお、ベーマイト構造体1の加熱条件は、ギブサイト相の脱水反応が生じる条件ならば特に限定されないが、例えば大気中で300℃以上に加熱することが好ましい。
【0020】
また、ベーマイト構造体1におけるギブサイト相の存在割合を低下させる方法としては、原料である水硬性アルミナを加熱し、水硬性アルミナ中のギブサイトの存在割合を低減させることも好ましい。具体的には、水硬性アルミナを例えば300℃以上に加熱して、ギブサイトが低減した水硬性アルミナを用いることも好ましい。原料として、このようなギブサイトが低減した水硬性アルミナを用いることによっても、ベーマイト構造体1におけるギブサイト相の存在割合を低下させ、ベーマイト構造体1の化学的安定性を高めることが可能となる。なお、ベーマイト構造体1は、ギブサイトが低減した水硬性アルミナと水との混合物を、後述するように加圧しながら加熱することによっても、形成することができる。
【0021】
ベーマイト構造体1の断面における気孔率は30%以下であることが好ましい。つまり、ベーマイト構造体1の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が30%以下であることが好ましい。気孔率が30%以下の場合、ベーマイト粒子2同士が結合する割合が増加するため、ベーマイト構造体1が緻密になり、強度が高まる。そのため、ベーマイト構造体1の機械加工性を向上させることが可能となる。また、気孔率が30%以下の場合には、気孔3を起点として、ベーマイト構造体1にひび割れが発生することが抑制されるため、ベーマイト構造体1の曲げ強さを高めることが可能となる。なお、ベーマイト構造体1の断面における気孔率は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ベーマイト構造体1の断面における気孔率が小さいほど、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、ベーマイト構造体1の強度を高めることが可能となる。
【0022】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、ベーマイト構造体1の断面を観察し、ベーマイト粒子2及び気孔3を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔3の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔3の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔3の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔3の割合の平均値を気孔率とする。なお、ベーマイト構造体1の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔3の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0023】
ベーマイト構造体1の内部に存在する気孔3の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔3の大きさが小さいことにより、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、ベーマイト構造体1の強度を高め、ベーマイト構造体1の機械加工性を向上させることが可能となる。なお、ベーマイト構造体1の気孔3の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。ベーマイト構造体1の内部に存在する気孔3の大きさは、上述の気孔率と同様に、ベーマイト構造体1の断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0024】
ベーマイト構造体1は、ベーマイト粒子2同士が互いに結合しており、気孔率が30%以下である構造を有していればよい。そのため、ベーマイト構造体1はこのような構造を有していれば、その形状は限定されない。ベーマイト構造体1の形状は、例えば板状、膜状、矩形状、塊状、棒状、球状とすることができる。また、ベーマイト構造体1が板状又は膜状の場合、その厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態のベーマイト構造体1は、後述するように、加圧加熱法により形成される。そのため、厚みの大きなベーマイト構造体1を容易に得ることができる。なお、ベーマイト構造体1の厚みtは1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。ベーマイト構造体1の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0025】
上述のように、ベーマイト構造体1は、複数のベーマイト粒子2が互いに強固に結合しているため、高い機械的強度を有している。そのため、ベーマイト構造体1は、日本産業規格JIS R1601(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に準拠して測定した曲げ強さが3MPa以上であることが好ましい。なお、ベーマイト構造体1の曲げ強さは、JIS R1601の3点曲げ強さ試験方法により測定する。ベーマイト構造体1の曲げ強さが3MPa以上である場合、機械的強度に優れるため、機械加工性が高まる。そのため、ベーマイト構造体1を、例えば、高い機械的強度及び加工性が必要となる建築部材に容易に使用することが可能となる。なお、ベーマイト構造体1の曲げ強さは10MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましい。ベーマイト構造体1の曲げ強さの上限は特に限定されないが、例えば200MPaとすることができる。
【0026】
ベーマイト構造体1において、複数のベーマイト粒子2は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、さらにアルミニウムの酸化物及び水酸化物以外の無機化合物からなる無機バインダーでも結合していない。そのため、ベーマイト構造体1に含まれる金属元素において、アルミニウム以外の元素の含有割合は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。ベーマイト構造体1は、ナトリウムやカルシウムなどの不純物が殆ど存在しないことから、ベーマイト本来の特性を保持することが可能となる。
【0027】
このように、本実施形態のベーマイト構造体1は、複数のベーマイト粒子2を含み、隣接するベーマイト粒子2が結合してなる。そして、ベーマイト構造体1は、気孔率が30%以下である。ベーマイト構造体1は、複数のベーマイト粒子2が、有機バインダー、並びにアルミニウムの酸化物及び水酸化物以外の無機化合物からなる無機バインダーを使用せずに結合している。そして、ベーマイト構造体1はベーマイト相を主体にしてなることから、ベーマイト構造体1は軽量であり、かつ、化学的安定性に優れ、さらに不純物量を低減することが可能となる。さらに、ベーマイト構造体1は気孔率が30%以下であることから、ベーマイト粒子2が緻密に配置し、ベーマイト構造体1の機械的強度が高まる。そのため、ベーマイト構造体1は、高い機械加工性を有することができる。
【0028】
なお、本実施形態のベーマイト構造体1は、
図1に示すように、ベーマイト粒子2のみが結合してなる構造体とすることができる。しかしながら、後述するように、ベーマイト構造体1は原料を50~300℃に加熱しながら加圧することにより得ることができるため、例えば、ベーマイト構造体1に耐熱性の低い部材を添加することができる。つまり、ベーマイト構造体1は、ベーマイト粒子2以外の物質をさらに含んでいてもよい。言い換えれば、ベーマイト構造体1は、ベーマイト粒子2を構成する材料以外の材料からなる物質をさらに含んでいてもよい。このような物質は、有機物及び無機物の少なくとも一方とすることができる。例えば、ベーマイト構造体1は、ベーマイト粒子2に加えて、樹脂粒子や色素が含まれていてもよい。また、耐熱性の低い部材に限定されず、ベーマイト構造体1は、金属粒子や無機化合物からなる粒子が含まれていてもよい。
【0029】
[第二実施形態のベーマイト構造体]
次に、第二実施形態に係るベーマイト構造体について、詳細に説明する。なお、第一実施形態と同一構成には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0030】
本実施形態のベーマイト構造体は、第一実施形態と同様に、複数のベーマイト粒子2を含み、隣接するベーマイト粒子2が結合している。そして、ベーマイト構造体の気孔率は、30%以下となっている。そのため、本実施形態のベーマイト構造体も、軽量であり、化学的安定性に優れ、さらに不純物量を低減した構造体となっている。
【0031】
そして、本実施形態のベーマイト構造体は、密度を高めた結果、可視光線の透光性を有することを特徴とする。具体的には、ベーマイト構造体は、0.5mm~1mmの厚さにおける、380nm~700nmの波長域の全光線透過率の平均値が10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。ベーマイト構造体の密度が高まることにより、可視光の散乱が抑制されるため、光線透過率を向上させることが可能となる。
【0032】
ここで、ベーマイト構造体の密度を高めて、透光性を向上させるためには、気孔3の孔径を小さくし、さらに複数のベーマイト粒子2の粒界を微細化することが好ましい。気孔3の孔径が小さくなり、さらにベーマイト粒子2の粒界を微細化することにより、ベーマイト粒子2と気孔3との界面、及び隣接するベーマイト粒子2の間の界面が減少する。その結果、当該界面での光の散乱が抑制されることから、ベーマイト構造体の透光性を高めることが可能となる。そのため、ベーマイト構造体は、気孔3を有し、気孔3の大きさが1μm以下であることが好ましい。ベーマイト構造体に存在する気孔3の大きさが1μm以下であることにより、ベーマイト粒子2と気孔3との界面が減少するため、透過光の散乱を減少させ、透光性を高めることが可能となる。
【0033】
また、ベーマイト構造体の密度を高めて、透光性を向上させるためには、ベーマイト構造体の緻密性を高めることが好ましい。そのため、ベーマイト構造体は、気孔率が5%以下であることが好ましい。ベーマイト構造体の気孔率が5%以下となることにより、気孔3の数が減少し、さらにベーマイト粒子2と気孔3との界面も減少する。そのため、界面における透過光の散乱が減少し、ベーマイト構造体の透光性を高めることが可能となる。なお、ベーマイト構造体の密度をより高める観点から、ベーマイト構造体は、気孔率が3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
このように、本実施形態のベーマイト構造体は、複数のベーマイト粒子2が互いに結合しており、さらに可視光線の透光性を有する。そのため、例えば色素などを添加することにより、意匠性に優れた構造体を得ることができる。
【0035】
[第一実施形態のベーマイト構造体の製造方法]
次に、第一実施形態に係るベーマイト構造体1の製造方法について説明する。ベーマイト構造体1は、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。水硬性アルミナは、水酸化アルミニウムを加熱処理して生成される水和物であり、ρアルミナを含んでいる。このような水硬性アルミナは、水和反応によって結合及び硬化する性質を有する。そのため、加圧加熱法を用いることにより、水硬性アルミナの水和反応が進行して水硬性アルミナ同士が互いに結合しつつ、ベーマイトに結晶構造が変化することにより、ベーマイト構造体1を形成することができる。
【0036】
具体的には、まず、水硬性アルミナの粉末と水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。
【0037】
水硬性アルミナに対する溶媒の添加量は、水硬性アルミナの水和反応が十分に進行する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、水硬性アルミナに対して20~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
【0038】
次いで、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、水硬性アルミナが高充填化し、水硬性アルミナの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、水硬性アルミナに水を加えることにより、水硬性アルミナが水和反応し、水硬性アルミナ粒子の表面に、ベーマイトと水酸化アルミニウムが生成する。そして、金型内部で当該混合物を加熱しながら加圧することにより、生成したベーマイトと水酸化アルミニウムが隣接する水硬性アルミナ粒子の間を相互に拡散して、水硬性アルミナ粒子同士が徐々に結合する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。なお、このような水硬性アルミナの水和反応、水硬性アルミナ粒子間の相互拡散、及び脱水反応は、ほぼ同時に進行すると推測される。
【0039】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数のベーマイト粒子2同士が、アルミニウムの酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を介して結合したベーマイト構造体1を得ることができる。
【0040】
なお、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、水硬性アルミナと当該溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0041】
ここで、ベーマイト構造体を形成する方法として、ベーマイトの粉末のみをプレスする方法が考えられる。しかし、ベーマイトの粉末を金型に投入し、常温で加圧したとしても、ベーマイトの粒子同士は互いに反応し難く、当該粒子同士を強固に結合させることは困難である。そのため、得られる圧粉体には、多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。
【0042】
また、セラミックスからなる無機部材の製造方法として、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。そのため、ベーマイト構造体を形成する方法として、ベーマイトの粉末のみをプレスして圧粉体を形成した後、500℃で焼成する方法も考えられる。ただ、圧粉体を500℃で焼成した場合、ベーマイトの脱水反応が進行し、ベーマイトからγアルミナに結晶構造が変化する。γアルミナは比重が3.98程度であるため、軽量な構造体を得ることができない。また、ベーマイト粉末の圧粉体を500℃程度で加熱しても、ベーマイト粒子同士が焼結し難いことから、得られる構造体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。
【0043】
さらに、ベーマイト構造体を形成する方法として、ベーマイトの粉末のみをプレスして圧粉体を形成した後、1400℃で焼成する方法も考えられる。ベーマイト粉末の圧粉体を1400℃で焼成した場合、ベーマイト粉末同士は焼結して構造体を形成する。ただ、ベーマイトの圧粉体を1400℃で焼成した場合、ベーマイトの脱水反応が進行し、ベーマイトからαアルミナに結晶構造が変化する。そのため、脱水に伴う気孔の発生により緻密化が阻害されること、さらにαアルミナは比重が3.98程度であることから、緻密かつ軽量で強度に優れた構造体を得ることができない。これに対して、本実施形態の製造方法では、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加熱しながら加圧しているため、ベーマイト相を主体とし、緻密かつ軽量で強度に優れた構造体を得ることができる。
【0044】
このように、本実施形態のベーマイト構造体1の製造方法は、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程とを有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法では、このような低温条件下でベーマイト構造体1を成形することから、得られる構造体はベーマイト相を主体とする。そのため、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れ、さらに不純物量を低減したベーマイト構造体1を簡易な方法で得ることが可能となる。
【0045】
[第二実施形態のベーマイト構造体の製造方法]
次に、第二実施形態に係るベーマイト構造体の製造方法について説明する。第二実施形態に係るベーマイト構造体も、第一実施形態と同様に、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。具体的には、ベーマイト構造体の製造方法は、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力で加圧及び加熱する工程とを有する。
【0046】
ただ、本実施形態に係る製造方法では、原料である水硬性アルミナの粒子径を小さくしている。具体的には、原料である水硬性アルミナの平均粒子径D50は、5μm以下となっている。水硬性アルミナの平均粒子径D50が小さくなることにより、水硬性アルミナと溶媒との混合物を加熱しながら加圧した際、粒子が密に充填されやすく、粒子同士が結合しやすくなる。その結果、気孔率が減少し、高密度なベーマイト構造体を得ることができる。なお、水硬性アルミナの平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法により求めることができる。
【0047】
なお、上述のように、ρアルミナが主相である水硬性アルミナは、ギブサイト(水酸化アルミニウム)を加熱処理することにより、調製することができる。具体的には、ギブサイトを、常圧又は減圧下、300~600℃で加熱することにより、調製することができる。そのため、例えば、平均粒子径D50が5μm以下のギブサイトを、常圧又は減圧下、350~600℃で加熱することにより、平均粒子径D50が5μm以下の水硬性アルミナを得ることができる。なお、原料である水硬性アルミナの平均粒子径D50は、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
[ベーマイト構造体を備える部材]
次に、ベーマイト構造体1を備える部材について説明する。ベーマイト構造体1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに軽量であり、化学的安定性にも優れている。また、ベーマイト構造体1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、ベーマイト構造体1は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0049】
また、ベーマイト構造体1は、薄膜回路用基板、センサ部材用基板及び半導体プロセス用基板、並びに半導体製造装置のセラミックス部材にも使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本実施形態のベーマイト構造体をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
(試験サンプル1の調製)
まず、水硬性アルミナとして、住友化学株式会社製、水硬性アルミナBK-112を準備した。なお、当該水硬性アルミナは、中心粒径が16μmである。
図2では、当該水硬性アルミナ粉末のX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト(AlOOH)及びギブサイト(Al(OH)
3)のパターンを示している。
図2に示すように、水硬性アルミナは、ベーマイトとギブサイト(水酸化アルミニウム)との混合物であることが分かる。なお、
図2には示されていないが、水硬性アルミナにはρアルミナも含まれている。
【0052】
そして、水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプル1を得た。
【0053】
(気孔率測定)
まず、円柱状である試験サンプル1の断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプル1の断面について、2000倍の倍率で反射電子像を観察した。試験サンプル1の断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた反射電子像を、
図3、
図5及び
図7に示す。観察した反射電子像において、白色の粒子がベーマイト粒子2であり、黒色部が気孔3である。
【0054】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図3、
図5及び
図7の反射電子像を二値化した画像を、それぞれ
図4、
図6及び
図8に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図4より、位置1の気孔部分の面積割合は1.5%であった。
図6より、位置2の気孔部分の面積割合は0.9%であった。
図8より、位置3の気孔部分の面積割合は2.0%であった。そのため、試験サンプル1の気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である1.5%であった。
【0055】
(曲げ強さ測定)
試験サンプル1に対して、JIS R1601に準拠して曲げ強さを測定した。
図9のグラフでは、当該試験サンプル1の応力と、試験機のストロークとの関係を示している。
図9より、試験サンプル1の応力の最大値は39.4MPaであることから、試験サンプル1の曲げ強さは39.4MPaであった。
【0056】
[実施例2]
実施例1と同じ水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。
【0057】
次に、得られた混合物を、常温で加圧せずに乾燥することにより、比較例の試験サンプル2を得た。また、上述の混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入し、当該混合物を、50MPa、180℃、30分の条件で加熱及び加圧することにより、実施例の試験サンプル3を得た。さらに、上述の混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入し、当該混合物を、200MPa、180℃、30分の条件で加熱及び加圧することにより、実施例の試験サンプル4を得た。
【0058】
次いで、試験サンプル2~4をそれぞれ粉砕した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、100倍、1000倍及び10000倍の倍率で反射電子像を観察した。
図10では、試験サンプル2~4における100倍、1000倍及び10000倍の倍率の反射電子像を纏めて示している。
【0059】
図10に示すように、常温で加圧せずに成形した試験サンプル2には、孔径が100μm程度のマクロ細孔10が多数形成されていることが分かる。また、試験サンプル2には、孔径が数μm程度のマクロ細孔11や孔径が数十~数百nmのナノ細孔も多数形成されていることが分かる。このため、水硬性アルミナと水との混合物を加圧及び加熱しなかった場合には、得られる構造体は気孔率が少なくとも30%を超える結果となり、強度が不十分となることが分かる。
【0060】
これに対して、50MPa、180℃の条件で成形された試験サンプル3、並びに200MPa、180℃の条件で成形された試験サンプル4では、孔径が100μm程度のマクロ細孔10は確認されなかった。さらに、試験サンプル4では、孔径が数μm程度のマクロ細孔11も確認されなかった。そのため、加圧加熱法により形成された試験サンプル3及び4のいずれも、気孔率が30%以下となり、高い強度を有していることが分かる。
【0061】
[実施例3]
(試験サンプル5の調製)
実施例1と同じ水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、50MPa、120℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプル5を得た。
【0062】
(試験サンプル6の調製)
実施例1と同じ水硬性アルミナに対して20質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、50MPa、120℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプル6を得た。
【0063】
(X線回折測定)
上述のようにして得られた試験サンプル5及び6について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。
図11では、試験サンプル5及び6のX線回折パターン、並びに、原料である水硬性アルミナ粉末のX線回折パターンを示す。
図11では、さらに、ICSDに登録されたベーマイト及びギブサイトのX線回折パターンも示す。
【0064】
図11により、水硬性アルミナに対して80質量%のイオン交換水を添加した試験サンプル5は、20質量%のイオン交換水を添加した試験サンプル6に比べて、ベーマイトの存在割合が増加していることが分かる。つまり、水硬性アルミナとイオン交換水との混合物を調製する際、イオン交換水の添加量を増やし、さらに加熱及び加圧することにより、水酸化アルミニウムからベーマイトへの結晶構造変化が進行することが分かる。そして、ベーマイトは水酸化アルミニウムよりも耐薬品性が高いことから、ベーマイトの存在割合が増加することにより、耐薬品性に優れたベーマイト構造体を得ることができる。
【0065】
[実施例4]
(試験サンプル7の調製)
実施例1と同じ水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例のベーマイト構造体を得た。さらに、本例のベーマイト構造体を、電気炉を用いて空気中、400℃で1時間加熱することにより、本例の試験サンプル7を得た。
【0066】
(X線回折測定)
上述のようにして得られた試験サンプル7について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。
図12では、試験サンプル7のX線回折パターン、並びに、ICSDに登録されたγアルミナ、ギブサイト(水酸化アルミニウム)及びベーマイトのX線回折パターンを示す。また、400℃で1時間加熱する前のベーマイト構造体についてX線回折パターンを測定し、リートベルト解析を行うことにより、各相の割合を求めた。
【0067】
リートベルト解析の結果、400℃で1時間加熱する前のベーマイト構造体は、ベーマイト相が65質量%であり、ギブサイト相(水酸化アルミニウム相)が25質量%であり、γアルミナ相が10質量%であることが分かった。上述のように、水酸化アルミニウムは、酸やアルカリと反応するため、ベーマイト構造体に水酸化アルミニウム相が残存している場合、耐薬品性が低下する可能性がある。しかしながら、
図12に示すように、ギブサイト相が存在するベーマイト構造体を加熱することにより、ギブサイト相で脱水反応が起こり、ギブサイト相からベーマイト相に結晶構造が変化する。そのため、ベーマイト構造体を脱水反応が起こる温度で加熱することによりギブサイト相が消失し、耐薬品性に優れるベーマイト構造体が得られることが分かる。
【0068】
[実施例5]
(試験サンプル8の調製)
まず、平均粒子径D50が約0.8μmの水酸化アルミニウム(昭光通商株式会社製、純度99.6%)を準備した。次に、当該水酸化アルミニウムを、電気炉を用い、昇温速度及び冷却速度を300℃/hにして、350℃、1時間の条件で加熱した。これにより、平均粒子径D50が約0.8μmである水硬性アルミナ粉末を得た。
【0069】
図13では、得られた水硬性アルミナの走査型電子顕微鏡写真を示している。
図13に示すように、得られた水硬性アルミナは、原料の水酸化アルミニウム粒子から殆ど粗大化せず、微細な状態を維持していることが確認された。また、得られた水硬性アルミナを、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した結果、ベーマイト由来のピークとρアルミナ由来のピークの両方が確認された。
【0070】
次に、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に、上述の水硬性アルミナ0.25gを投入した。さらに、成形用金型の内部にイオン交換水200μL添加し、プラスチック製のスパチュラで混合した。そして、当該イオン交換水を含んだ混合物を、400MPa、200℃、30分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプル8を得た。なお、本例の試験サンプル8は、厚みが約0.75mmであり、焼結体のような高い硬度を有していた。
【0071】
(全光線透過率測定)
株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計UV-2600を用いて、試験サンプル8の全光線透過率を測定した。測定結果を
図14に示す。
図14に示すように、試験サンプル8は、波長380nm付近の光線透過率が15%程度であったものの、長波長になるにつれて光線透過率が高まる傾向にある。そして、波長700nm付近では、光線透過率が45%を超える結果となった。そのため、
図14より、試験サンプル8は、380nm~700nmの波長域の全光線透過率の平均値が20%以上であることが分かる。
【0072】
(X線回折測定)
上述のようにして得られた試験サンプル8について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。
図15では、試験サンプル8のX線回折パターン、及びICSDに登録されたベーマイトのX線回折パターンを示す。
図15より、試験サンプル8は、ベーマイトのピークが確認できることから、主としてベーマイトからなる構造体であることが分かる。
【0073】
[実施例6]
(試験サンプル9の調製)
実施例5と同じ製法により、本例の試験サンプル9を得た。なお、本例の試験サンプル9も、焼結体のような高い硬度を有していた。
【0074】
(気孔率測定)
まず、円柱状である試験サンプル9の断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプル9の断面について、20000倍の倍率で二次電子像を観察した。試験サンプル9の断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた二次電子像を、
図16、
図18及び
図20に示す。観察した二次電子像において、灰色の粒子がベーマイト粒子2であり、黒色部が気孔3である。
【0075】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ気孔部分を塗りつぶし、二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図16、
図18及び
図20の二次電子像を二値化した画像を、それぞれ
図17、
図19及び
図21に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図17より、位置1の気孔部分の面積割合は0.60%であった。
図19より、位置2の気孔部分の面積割合は0.28%であった。
図21より、位置3の気孔部分の面積割合は0.13%であった。そのため、試験サンプル9の気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である0.34%であった。
【0076】
実施例5及び実施例6より、原料として平均粒子径D50が5μm以下である水硬性アルミナを用いることにより、380nm~700nmの波長域の全光線透過率の平均値が20%以上であり、気孔率が5%以下であるベーマイト構造体が得られることが分かる。
【0077】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0078】
特願2019-94630号(出願日:2019年5月20日)及び特願2019-197102号(出願日:2019年10月30日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示によれば、軽量であり、化学的安定性に優れ、さらに不純物量を低減したベーマイト構造体、及びベーマイト構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 ベーマイト構造体
2 ベーマイト粒子
3 気孔