(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】管理装置、及び電源システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20230602BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20230602BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230602BHJP
G01R 31/374 20190101ALI20230602BHJP
G01R 31/3835 20190101ALI20230602BHJP
G01R 31/396 20190101ALI20230602BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/02 H
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
G01R31/374
G01R31/3835
G01R31/396
(21)【出願番号】P 2020532207
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023181
(87)【国際公開番号】W WO2020021888
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2018139366
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】板倉 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】楊 長輝
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 透
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043222(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217092(WO,A1)
【文献】特開2008-307973(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035183(WO,A1)
【文献】特開2017-129402(JP,A)
【文献】特開2016-099251(JP,A)
【文献】特開2017-181325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
G01R 31/36 - 31/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数のセルのそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、
前記複数のセルの検出電圧の内、比較対象とする
複数のセルの検出電圧にもとづく代表電圧と、検出対象とする1つのセルの検出電圧との電圧差を第1時刻と第2時刻にそれぞれ算出し、2つの電圧差の差分が閾値以上のとき、前記検出対象のセルを異常と判定する制御部と、を備え、
前記制御部は、
各セルのSOH(State Of Health)に応じたSOC(State Of Charge)-OCV(Open Circuit Voltage)曲線を参照して、
各セルの検出電圧に対応する、
各セルの初期容量基準のSOCを推定し、
前記初期容量基準のSOCを入力変数、OCVを出力変数とし、所定の傾きを有する一次関数に、
各セルの初期容量基準のSOCを適用して
各OCVを導出し、導出した
各OCVを、
各セルの検出電圧の代わりに使用して前記電圧差を算出する、
ことを特徴とする管理装置。
【請求項2】
前記閾値は、前記一次関数の傾きの値に応じた値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数のセルの検出電圧の内、最大電圧と最小電圧を除き、残りの複数のセルの検出電圧を平均化して、前記代表電圧を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の管理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記2つの電圧差の差分を所定時間を経過する度に算出し、算出した電圧差の差分と前記閾値とをそれぞれ比較し、過去x(xは2以上の整数)回の比較において、N(Nは2以上の整数)回以上、前記差分が前記閾値以上のとき、前記検出対象のセルを異常と判定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項5】
直列接続された複数のセルと、
前記直列接続された複数のセルを管理する請求項1から4のいずれか1項に記載の管理装置と、
を備えることを特徴とする電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電モジュールに含まれる複数のセルを管理するための管理装置、及び電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池が様々な用途で使用されている。例えば、EV(Electric Vehicle)、HEV (Hybrid Electric Vehicle)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)の走行用モータに電力を供給することを目的とする車載(電動自転車を含む)用途、ピークシフト、バックアップを目的とした蓄電用途、系統の周波数安定化を目的としたFR(Frequency Regulation)用途等に使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池等の二次電池では、セパレータのずれによる正極と負極の接触、電池内への異物混入による導電路の発生等に起因して、電池内において微小短絡が発生することがある。微小短絡は過熱の原因となり、微小短絡の状態から、異物の向きの変化等により、完全短絡の状態に移行する場合もある。
【0004】
微小短絡の検出方法として、組電池内の全セルの平均電圧と各セルの電圧とを比較して判定閾値を超えている場合に、対象のセルを異常と判定する手法がある。しかしながら、組電池内のセルのSOC(State Of Charge)またはSOH(State Of Health)がばらついた状態では、平均電圧と各セルの電圧との電圧差の変動を均一の条件で検出できず、微小短絡の検出精度が低下する。
【0005】
これに対して、セルのSOCまたはDOD(Depth Of Discharge)をもとに、平均電圧または判定閾値を補正して、判定精度を向上させる手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。セル電圧の正常/異常範囲が、セルのSOCまたはDODにより異なるものになることを補正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、長期運用や環境条件の違いなどにより、複数のセル間のSOCまたはSOHのバラツキの度合いが変化すると、異常と判定する条件を変える必要があり、高精度な判定を行うには、判定条件を細分化する必要がある。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、複数のセル間のSOCまたはSOHのバラツキに関わらず、一律の条件でセルの異常を判定することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の管理装置は、直列接続された複数のセルのそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、前記複数のセルの検出電圧の内、比較対象とする少なくとも1つのセルの検出電圧にもとづく代表電圧と、検出対象とする1つのセルの検出電圧との電圧差を第1時刻と第2時刻にそれぞれ算出し、2つの電圧差の差分が閾値以上のとき、前記検出対象のセルを異常と判定する制御部と、を備える。前記制御部は、セルのSOH(State Of Health)に応じたSOC(State Of Charge)-OCV(Open Circuit Voltage)曲線を参照して、前記セルの検出電圧に対応する、前記セルの初期容量基準のSOCを推定し、前記初期容量基準のSOCを入力変数、OCVを出力変数とし、所定の傾きを有する一次関数に、前記推定したセルの初期容量基準のSOCを適用してOCVを導出し、導出したOCVを、前記セルの検出電圧の代わりに使用して前記電圧差を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のセル間のSOCまたはSOHのバラツキに関わらず、一律の条件でセルの異常を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電源システムを説明するための図である。
【
図2】
図2(a)-(b)は、正常セルと、微小短絡セルを比較した図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る管理装置による、微小短絡の検出方法の第1の参考例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態に係る管理装置による、微小短絡の検出方法の第2の参考例を示すフローチャートである。
【
図5】SOH=80%のSOC-OCV曲線と、SOH=100%のSOC-OCV曲線の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る管理装置による、微小短絡の検出方法の第1の実施例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施の形態に係る管理装置による、微小短絡の検出方法の第2の実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る電源システム1を説明するための図である。電源システム1は、例えば、車両の駆動用電池として車両に搭載されて使用される。電源システム1は、蓄電モジュールM1及び管理装置10を備える。蓄電モジュールM1は、直列接続された複数のセルC1-C20を含む。
図1では、20個のセルC1-C20が直列接続されて1つの蓄電モジュールを形成している例を描いている。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセル等を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。
【0013】
管理装置10は、放電部11、電圧検出部12、温度検出部13、電流検出部14及び制御部15を備える。放電部11は、複数の放電スイッチS1-S20、及び複数の放電抵抗R1-R20を含む。各セルC1-C20に対して並列にそれぞれ放電回路が接続される。具体的には、第1セルC1の両端に第1放電スイッチS1と第1放電抵抗R1が直列接続され、第2セルC2の両端に第2放電スイッチS2と第2放電抵抗R2が直列接続され、第3セルC3の両端に第3放電スイッチS3と第3放電抵抗R3が直列接続され、・・・、第19セルC19の両端に第19放電スイッチ(不図示)と第19放電抵抗(不図示)が直列接続され、及び第20セルC20の両端に第20放電スイッチS20と第20放電抵抗R20が接続される。
【0014】
電圧検出部12は、直列接続された複数のセルC1-C20の各ノードと複数の電圧線で接続され、隣接する2本の電圧線間の電圧をそれぞれ検出することにより、各セルC1-C20の電圧を検出する。電圧検出部12は、検出した各セルC1-C20の電圧を制御部15に送信する。
【0015】
電圧検出部12は制御部15に対して高圧であるため、電圧検出部12と制御部15間は絶縁された状態で、通信線で接続される。電圧検出部12は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)または汎用のアナログフロントエンドICで構成することができる。電圧検出部12はマルチプレクサ及びA/D変換器を含む。マルチプレクサは、隣接する2本の電圧線間の電圧を上から順番にA/D変換器に出力する。A/D変換器は、マルチプレクサから入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換する。
【0016】
温度検出部13は分圧抵抗およびA/D変換器を含む。A/D変換器は、複数の温度センサT1、T2(例えば、サーミスタ)と複数の分圧抵抗によりそれぞれ分圧された複数のアナログ電圧を順次、デジタル値に変換して制御部15に出力する。制御部15は当該デジタル値をもとに複数のセルC1-C20の温度を推定する。例えば制御部15は、各セルC1-C20の温度を、各セルC1-C20に最も隣接する温度センサで検出された値をもとに推定する。
【0017】
電流検出部14は差動アンプ及びA/D変換器を含む。差動アンプはシャント抵抗Rsの両端電圧を増幅してA/D変換器に出力する。A/D変換器は、差動アンプから入力される電圧をデジタル値に変換して制御部15に出力する。制御部15は当該デジタル値をもとに複数のセルC1-C20に流れる電流を推定する。なおシャント抵抗Rsの代わりにホール素子を用いてもよい。
【0018】
なお制御部15内にA/D変換器が搭載されており、制御部15にアナログ入力ポートが設置されている場合、温度検出部13及び電流検出部14はアナログ電圧を制御部15に出力し、制御部15内のA/D変換器でデジタル値に変換してもよい。
【0019】
制御部15は、電圧検出部12、温度検出部13及び電流検出部14により検出された複数のセルC1-C20の電圧、温度、及び電流をもとに複数のセルC1-C20の状態を管理する。
【0020】
制御部15はマイクロコンピュータ及び不揮発メモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)により構成することができる。不揮発メモリ内に、SOC-OCV(Open Circuit Voltage)マップ15aが保持される。SOC-OCVマップ15aには、複数のセルC1-C20のSOC-OCV曲線の特性データが記述されている。
【0021】
制御部15は、複数のセルC1-C20の電圧、電流、及び温度をもとに、複数のセルC1-C20のSOC及びSOHを推定する。SOCは例えば、OCV法または電流積算法により推定できる。OCV法は、検出されたセルのOCVと、不揮発メモリ内に保持されるSOC-OCV曲線の特性データをもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、検出されたセルの充放電開始時のOCVと、検出された電流の積算値をもとにSOCを推定する方法である。
【0022】
SOHは、初期の満充電容量に対する現在の満充電容量の比率で規定され、数値が低いほど(0%に近いほど)劣化が進行していることを示す。二次電池の劣化は、保存劣化とサイクル劣化の和で近似できる。
【0023】
保存劣化は、充放電中であるか否かに関わらず、二次電池の各時点における温度、各時点におけるSOCに応じて経時的に進行する劣化である。各時点におけるSOCが高いほど(100%に近いほど)、又は各時点における温度が高いほど、保存劣化速度が増加する。
【0024】
サイクル劣化は、充放電の回数が増えるにつれ進行する劣化である。サイクル劣化は、使用SOC範囲、温度、電流レートに依存する。使用SOC範囲が広いほど、温度が高いほど、又は電流レートが高いほど、サイクル劣化速度が増加する。このように二次電池の劣化は使用環境に大きく依存し、使用期間が長くなるにつれ、複数のセルC1-C20の容量のばらつきが大きくなっていく。
【0025】
制御部15は、電圧検出部12から受信した複数のセルC1-C20の電圧をもとに、複数のセルC1-C20間の均等化処理を実行する。一般的なパッシブセルバランス方式では、複数のセルC1-C20の内、最も容量が少ないセルの容量(以下、目標値という)まで、他のセルを放電する。なお目標値は、実容量、SOC、OCVのいずれで規定されてもよい。OCVで規定される場合、最もOCVが低いセルのOCVが目標値となる。なお目標値は放電可能量または充電可能量で規定されてもよい。
【0026】
制御部15は、複数のセルC1-C20の内、最も容量が少ないセルの検出値を目標値とし、当該目標値と他の複数のセルの検出値との差分をそれぞれ算出する。制御部15は、算出したそれぞれの差分をもとに当該他の複数のセルの放電量をそれぞれ算出する。制御部15は、算出したそれぞれの放電量をもとに当該他の複数のセルの放電時間をそれぞれ算出する。制御部15は、複数のセルC1-C20の放電時間を含む均等化処理の制御信号を生成し、電圧検出部12に送信する。電圧検出部12内のスイッチ制御回路(不図示)は、制御部15から受信した制御信号をもとに、複数の放電スイッチS1-S20をそれぞれ指定された時間、オン状態に制御する。
【0027】
複数のセルC1-C20のいずれかに微小短絡が発生することがある。微小短絡は過熱などの不安全事象の原因となるため、不安全事象に至る前に検出することが必要である。
【0028】
図2(a)-(b)は、正常セルと、微小短絡セルを比較した図である。
図2(a)に示すように正常セルCnは、起電力E1と内部抵抗Riにより端子電圧が決まる。一方、
図2(b)に示すように微小短絡セルCnは、内部に微小短絡経路Psが形成され、微小短絡経路Psにも電流が流れる。従って微小短絡セルCnでは、内部抵抗Riによる自己放電に加えて、微小短絡経路Psによる放電が発生する。よって微小短絡セルCnの電圧降下は、正常セルCnの電圧降下より大きくなる。
【0029】
図3は、本発明の実施の形態に係る管理装置10による、微小短絡の検出方法の第1の参考例を示すフローチャートである。電圧検出部12は、直列接続されたn個のセルの電圧を検出して制御部15に送信する(S10)。所定の判定周期(例えば、10分間)が経過すると(S11のY)、制御部15は、n個のセルの検出電圧の内、最大電圧と最小電圧を除いた(n-2)個のセルの平均電圧を算出する(S12)。制御部15は、算出した平均電圧と、検出対象の1つのセル(以下、対象セルという)の検出電圧との電圧差を算出する(S13)。
【0030】
制御部15は、今回算出した現在の電圧差と、Δt時間(例えば、1時間)前に算出した電圧差との差分電圧ΔVを算出する(S14)。制御部15は、算出した差分電圧ΔVと判定閾値を比較する(S15)。判定閾値は、想定する微小短絡経路Psの抵抗値と、Δt時間をもとに決定される。例えば、微小短絡経路Psの抵抗値を100Ωと想定し、Δt時間を1時間に設定した場合、微小短絡が発生しているリチウムイオン電池セルでは1時間に4mV程度の電圧降下が発生することになる。この場合、上記判定閾値は4mVに設定される。
【0031】
算出した差分電圧ΔVが判定閾値以上の場合(S15のY)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していると判定する(S16)。算出した差分電圧ΔVが判定閾値未満の場合(S15のN)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していないと判定する。以上の処理が、蓄電モジュールM1に含まれる全てのセルを対象に、電源システム1の稼働中(S17のN)、繰り返し実行される。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態に係る管理装置10による、微小短絡の検出方法の第2の参考例を示すフローチャートである。ステップS15までの処理は、
図3に示した第1の参考例と同じであるため説明を省略する。ステップS15で算出した差分電圧ΔVが判定閾値以上の場合(S15のY)、制御部15は、変数aをインクリメントする(S151)。なお変数aの初期値は0である。制御部15は、変数aの値をもとに、過去x(例えば、40)回の比較判定において、差分電圧ΔVが判定閾値以上となった回数Nを特定する(S152)。
【0033】
回数Nが設定値(例えば、30)以上の場合(S153のY)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していると判定する(S16)。回数Nが設定値未満の場合(S153のN)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していないと判定する。上記xの値と上記設定値の値を調整することにより、微小短絡の検出にかかる時間と判定精度のバランスを調整することができる。両者の関係はトレードオフ関係にあり、上記xの値を大きくするほど、検出にかかる時間が長くなるが、判定精度は向上する。なお
図3に示した第1例は、検出にかかる時間が最も短い例となる。
【0034】
以上の処理が、蓄電モジュールM1に含まれる全てのセルを対象に、電源システム1の稼働中(S17のN)、繰り返し実行される。なお
図3、
図4に示した処理において、対象セルも平均電圧を算出する基礎データに含めてもよい。またn個のセルの検出電圧から、最大電圧と最小電圧をそれぞれ1つずつ除いたが、除く数は2つずつでもよいし、0でもよい。即ち、n個のセルの検出電圧からそのまま平均電圧を算出してもよい。また複数の検出電圧の平均値を算出する代わりに、複数の検出電圧の中央値を算出してもよい。
【0035】
以上に説明した微小短絡の検出方法は、複数のセルC1-C20のSOC及びSOHが揃っていれば、微小短絡を高精度に検出することができる。しかしながら、複数のセルC1-C20のSOC又はSOHがばらついた状態では、平均電圧と対象セルとの間の電圧差の変動が均一に検出できず、微小短絡の検出精度が低下する。そこで、電圧差の変動を均一に評価するために規定した一次直線に、セルの検出電圧を、SOC及びSOHに応じて写像することにより、電圧差を均一に評価する手法を以下に説明する。
【0036】
図5は、SOH=80%のSOC-OCV曲線と、SOH=100%のSOC-OCV曲線の一例を示す図である。
図5の横軸は初期容量基準のSOCであり、縦軸はOCVである。初期容量基準のSOCは、現在SOC/初期FCC(Full Charge Capacity)で規定される。即ち、初期容量基準のSOCは、現在SOCを初期の満充電容量で正規化したSOCである。
【0037】
SOC-OCVマップ15aには、蓄電モジュールM1に使用されるセルの、SOH1%刻み、SOH5%刻み、又はSOH10%刻みの複数のSOC-OCV曲線が予め登録されていてもよい。またSOC-OCVマップ15aに、SOH=100%のSOC-OCV曲線のみが登録されている場合、制御部15は各セルのSOHをもとに、SOH=100%のSOC-OCV曲線を補正して、各セルの近似的なSOC-OCV曲線を導出する。具体的には、SOH=100%のSOC-OCV曲線を、セルのSOHに応じてX軸方向に縮小することにより、各セルのSOHに応じたSOC-OCV曲線の近似曲線を導出することができる。
【0038】
図5に示すように、SOH=80%で初期容量基準のSOCが0.1の第1セルと、SOH=100%で初期容量基準のSOCが0.2の第2セルがあるとする。このとき第1セルのOCVは3.39Vであり、第2セルのOCVは3.46Vである。直列接続された第1セルと第2セルに、初期容量基準のSOC=0.5相当の充電が実施されると、第1セルの初期容量基準のSOCは0.6に、第2セルの初期容量基準のSOCが0.7に増加する。このとき第1セルのOCVは3.93Vに、第2セルのOCVは3.89Vに上昇する。
【0039】
充電前は、第2セルのOCVのほうが第1セルのOCVより高かったが、充電後は、第1セルのOCVのほうが第2セルのOCVより高くなっている。即ち、両者の電圧差の符号が逆転している。これは、第1セルと第2セルとのSOH差に起因している。そこで、SOH差を正規化する。
【0040】
初期容量基準のSOCを入力変数、OCVを出力変数、傾きを正とする一次関数(一次直線)を導入する。
図5に示す例では、SOH=100%のSOC-OCV曲線の初期容量基準のSOCが0.5の地点を通る接線を、一次直線として導入している。
【0041】
制御部15は、各セルのSOHに応じたSOC-OCV曲線を参照して、各セルの検出電圧に対応する初期容量基準のSOCを推定する。なおセルの電圧検出時に、蓄電モジュールM1が充放電中の場合は、検出電圧がOCVではなく、CCV(Closed Circuit Voltage)になる。簡易的な方法として、CCVをノイズ除去フィルタに通して、ノイズ除去後のCCVをOCVとして取り扱う方法がある。より厳密な方法として、CCVを、電流と内部抵抗をもとに補正してOCVを推定する方法がある。その際、内部抵抗を、温度、SOC及びSOHに応じて補正することにより、より精度を向上させることができる。
【0042】
制御部15は、各セルの検出電圧に対応する初期容量基準のSOCを、上記一次関数に適用して代替OCVを導出する。制御部15は、代替OCVをもとに、正規化後の電圧差を算出する。
図5では、SOH=80%のSOC-OCV曲線における初期容量基準のSOCが0.6のときのOCVを下方向に移動させて、一次直線における初期容量基準のSOCが0.6のときのOCVに変換している。また、SOH=100%のSOC-OCV曲線における初期容量基準のSOCが0.7のときのOCVを下方向に移動させて、一次直線における初期容量基準のSOCが0.7のときのOCVに変換している。そして、一次直線上に変換した2つのOCVの電圧差を、正規化後の電圧差として算出している。
【0043】
図5に示す例では、充電前の正規化後電圧差と、充電後の正規化後電圧差に差異がないと評価できるため、微小短絡が発生していないと判定される。一方、SOHの正規化をしない場合、充電前の電圧差と充電後の電圧差に差異が生じているため、微小短絡が発生していないにも関わらず、微小短絡が発生していると誤判定されてしまうことになる。
【0044】
放電前の電圧差と放電後の電圧差を比較する場合も同様である。このように、充放電前の電圧差と、充放電後の電圧差を直線上に写像することにより、第1セルと第2セルとの間のSOHの差異によるSOC-OCV曲線の差異を吸収することができる。即ち、直列接続された複数のセルに対する充放電による複数のセルのSOCの変化を、複数のセル間のSOCの比率を維持したリニアな変化に置き換えることができる。微小短絡が発生していなければ、複数のセルの電圧差は、直線上のどの区間をとっても一定になる。
【0045】
図6は、
図5の一次直線の位置を変えた図である。一次直線は、電圧検出部12の最低検出単位より大きな値の傾きを持つものであれば、どの位置に導入されてもよい。なお、電圧検出部12の最低検出単位より傾きが小さい場合は、複数のセル間の電圧差の変化を高精度に検出することができなくなる。
【0046】
図7は、本発明の実施の形態に係る管理装置10による、微小短絡の検出方法の第1の実施例を示すフローチャートである。電圧検出部12は、直列接続されたn個のセルの電圧を検出して制御部15に送信する(S10)。所定の判定周期(例えば、10分間)が経過すると(S11のY)、制御部15は、各セルのSOHに応じたSOC-OCV曲線を参照して、各セルの初期容量基準のSOCを推定する(S111)。制御部15は、各セルの初期容量基準のSOCをもとに、一次関数に各セルの検出電圧を写像する(S112)。制御部15は、n個の写像された電圧の内、最大電圧と最小電圧を除いた(n-2)個のセルの平均電圧を算出する(S12a)。制御部15は、算出した平均電圧と、対象セルの写像された電圧との電圧差を算出する(S13a)。
【0047】
制御部15は、今回算出した現在の電圧差と、Δt時間(例えば、1時間)前に算出した電圧差との差分電圧ΔVを算出する(S14)。制御部15は、算出した差分電圧ΔVと判定閾値を比較する(S15)。判定閾値は、一次関数の傾きの値に応じた値に設定される。一次関数の傾きが急に設定されている場合、差分電圧ΔVの値が大きく算出されるため、判定閾値も大きく設定する必要がある。
【0048】
算出した差分電圧ΔVが判定閾値以上の場合(S15のY)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していると判定する(S16)。算出した差分電圧ΔVが判定閾値未満の場合(S15のN)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していないと判定する。以上の処理が、蓄電モジュールM1に含まれる全てのセルを対象に、電源システム1の稼働中(S17のN)、繰り返し実行される。
【0049】
図8は、本発明の実施の形態に係る管理装置10による、微小短絡の検出方法の第2の実施例を示すフローチャートである。ステップS15までの処理は、
図7に示した第1の実施例と同じであるため説明を省略する。ステップS15で算出した差分電圧ΔVが判定閾値以上の場合(S15のY)、制御部15は、変数aをインクリメントする(S151)。なお変数aの初期値は0である。制御部15は、変数aの値をもとに、過去x(例えば、40)回の比較判定において、差分電圧ΔVが判定閾値以上となった回数Nを特定する(S152)。
【0050】
回数Nが設定値(例えば、30)以上の場合(S153のY)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していると判定する(S16)。回数Nが設定値未満の場合(S153のN)、制御部15は、対象セルに微小短絡が発生していないと判定する。以上の処理が、蓄電モジュールM1に含まれる全てのセルを対象に、電源システム1の稼働中(S17のN)、繰り返し実行される。
【0051】
以上説明したように本実施の形態によれば、各セルの検出電圧を直線上の値に変換することにより、SOC又はSOHの状態に関わらずに、共通の指標で微小短絡の有無を評価することができる。より具体的には、初期容量基準のSOCを横軸として単調増加する一次直線を導入し、セルの検出電圧を、SOC及びSOHに応じて当該一次直線上の値に変換して、複数のセル間の電圧差を算出する。このように正規化された電圧差は、微小短絡が発生していない場合、変化しない。微小短絡が発生した場合、正規化された電圧差は、SOC又はSOHによらずに一律に拡大する。
【0052】
また本実施の形態では、SOC又はSOHに応じて判定閾値を変更することがなく、一律に微小短絡の有無を判定することができる。
【0053】
このように本実施の形態では、判定閾値や判定条件を変更せずに、セルのSOC、SOH及び検出電圧の限られた情報から、検出電圧を、一律に微小短絡の有無を判定できる値に変換する。これにより、判定条件を細分化することなく、長期運用のどのフェーズでも、均一に精度よく微小短絡の有無を判定することができる。
【0054】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0055】
上記
図5、
図6では、傾きが正の一次関数を用いる例を示したが、傾きが負の一次関数を用いてもよい。その場合、差分電圧と判定閾値との大小関係を逆にして判定すればよい。
【0056】
上述の実施の形態では車載用途の電源システム1に本発明を適用する例を説明したが、定置型蓄電用途の電源システムにも本発明を適用することができる。またノート型PCやスマートフォンなどの電子機器用途の電源システムにも本発明を適用することができる。
【0057】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0058】
[項目1]
直列接続された複数のセル(C1-C20)のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部(12)と、
前記複数のセル(C1-C20)の検出電圧の内、比較対象とする少なくとも1つのセルの検出電圧にもとづく代表電圧と、検出対象とする1つのセルの検出電圧との電圧差を第1時刻と第2時刻にそれぞれ算出し、2つの電圧差の差分が閾値以上のとき、前記検出対象のセルを異常と判定する制御部(15)と、を備え、
前記制御部(15)は、
セル(Cn)のSOH(State Of Health)に応じたSOC(State Of Charge)-OCV(Open Circuit Voltage)曲線を参照して、前記セル(Cn)の検出電圧に対応する、前記セル(Cn)の初期容量基準のSOCを推定し、
前記初期容量基準のSOCを入力変数、OCVを出力変数とし、所定の傾きを有する一次関数に、前記推定したセル(Cn)の初期容量基準のSOCを適用してOCVを導出し、導出したOCVを、前記セル(Cn)の検出電圧の代わりに使用して前記電圧差を算出する、
ことを特徴とする管理装置(10)。
これによれば、複数のセル(C1-C20)間のSOCまたはSOHのバラツキに関わらず、一律の条件でセル(Cn)の異常を判定することができる。
[項目2]
前記閾値は、前記一次関数の傾きの値に応じた値に設定されることを特徴とする項目1に記載の管理装置(10)。
これによれば、一次関数の傾きに応じた閾値を設定することにより、微小短絡の有無を高精度に判定することができる。
[項目3]
前記制御部(15)は、前記複数のセル(C1-C20)の検出電圧の内、最大電圧と最小電圧を除き、残りの複数のセルの検出電圧を平均化して、前記代表電圧を算出することを特徴とする項目1または2に記載の管理装置(10)。
これによれば、高品位な比較対象の電圧を生成することができる。
[項目4]
前記制御部(15)は、前記2つの電圧差の差分を所定時間を経過する度に算出し、算出した電圧差の差分と前記閾値とをそれぞれ比較し、過去x(xは2以上の整数)回の比較において、N(Nは2以上の整数)回以上、前記差分が前記閾値以上のとき、前記検出対象のセルを異常と判定することを特徴とする項目1から3のいずれか1項に記載の管理装置(10)。
これによれば、微小短絡の検出にかかる時間と判定精度のバランスを好適に調整することができる。
[項目5]
直列接続された複数のセル(C1-C20)と、
前記直列接続された複数のセル(C1-C20)を管理する項目1から4のいずれか1項に記載の管理装置(10)と、
を備えることを特徴とする電源システム(1)。
これによれば、複数のセル(C1-C20)間のSOCまたはSOHのバラツキに関わらず、一律の条件でセル(Cn)の異常を判定することができる電源システム(1)を構築することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 電源システム、 M1 蓄電モジュール、 C1-C20 セル、 Rs シャント抵抗、 E1 起電力、 Ri 内部抵抗、 R1-R20 放電抵抗、 S1-S20 放電スイッチ、 Ps 微小短絡経路、 10 管理装置、 11 放電部、 12 電圧検出部、 13 温度検出部、 14 電流検出部、 15 制御部、 15a SOC-OCVマップ。