(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】害虫防除用シート
(51)【国際特許分類】
A01N 25/34 20060101AFI20230602BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20230602BHJP
A01N 65/00 20090101ALI20230602BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20230602BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20230602BHJP
A01N 65/44 20090101ALI20230602BHJP
A01N 65/28 20090101ALI20230602BHJP
A01N 43/90 20060101ALI20230602BHJP
A01N 65/22 20090101ALI20230602BHJP
【FI】
A01N25/34 A
A01P17/00
A01N65/00 A
A01N53/06 110
A01M1/20 C
A01N65/44
A01N65/28
A01N43/90 101
A01N65/22
(21)【出願番号】P 2018077330
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2018021889
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149181
【氏名又は名称】株式会社大阪製薬
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 綾子
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-129844(JP,A)
【文献】特開2018-000144(JP,A)
【文献】特開2000-302605(JP,A)
【文献】特開2000-273002(JP,A)
【文献】特開2010-240989(JP,A)
【文献】特開2012-046840(JP,A)
【文献】特開2018-012266(JP,A)
【文献】化学便覧 基礎編 II 改訂5版,2004年,97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/34
A01P 17/00
A01N 65/00
A01N 53/06
A01M 1/20
A01N 65/44
A01N 65/28
A01N 43/90
A01N 65/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトロネラ抽出物、ユーカリプタス抽出物、薄荷抽出物、1,8-シネオールから選ば れる少なとも1種を含有する揮発性の忌避
剤と、
前記忌避
剤が2.2~18.5g/m
2
の量で含浸される基材である薬剤保持層を備え、
前記薬剤保持層が、表面及び内部に空隙が設けられ、目付が50~300g/m
2で、 厚みが10~500μmである多細孔材からなり、
前記忌避
剤が含浸された前記薬剤保持層の表面における水の接触角が100~180° であることを特徴とする害虫防除用シート。
【請求項2】
前記薬剤保持層の一方の側に設けられ、前記忌避剤を透過しないバリア層と、
前記バリア層において前記薬剤保持層の反対側に設けられ、被着物に対して接着可能な 粘着剤層を、備えることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊、虻などの害虫による虫刺されを防止するなど害虫からの被害を未然に防ぐために、使用者の皮膚や衣服に貼付したり、所定の場所に載置したりするなどして、それら害虫を忌避又は駆除する害虫防除用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蚊、虻などの害虫による虫刺されを防止するなど害虫からの被害を未然に防ぐために、揮発性で害虫忌避能を有する化合物を含有する害虫忌避層を備える害虫忌避シートなどが知られている。その害虫忌避シートを使用者の皮膚や衣服に貼付したり、特定の収納容器に載置したりするなどして、害虫忌避層から有効成分である化合物が徐々に揮散されることにより、害虫を近付かせないようにするなどして害虫からの被害を未然に防ぐものである。
【0003】
このような害虫忌避シートとして、例えば、特許文献1において、揮発性の忌避剤を含浸させたシート状基材と、前記シート状基材を被接着対象体に対して着脱可能とする接着部とを有する虫除けシートが開示されている。
【0004】
また、特許文献2において、特定の容器に内包されるピレスロイド化合物が含浸された撚糸からなるメッシュシート状の薬剤保持体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-100932号公報
【文献】特開2001-200239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明では、揮発性の忌避剤を含浸させたシート状基材として、板紙、濾紙、合成繊維混抄紙等の紙材、不織布、フェルト状織物、無機繊維シート、セラミック系またはプラスチック系多孔質材など一般に多孔性構造材であり、液体(忌避剤)保持能力があるものが好ましいことが記載されているが、使用時に雨、霧、水遊び、水仕事などで水分に接触したり、使用者の汗に接触したりすることにより、それら水分が忌避剤を溶出したり、また、シート状基材に水も含浸されることにより忌避剤が揮散しにくくなったりすることにより、害虫に対して十分な忌避や駆除などの防除効果が得られなくなるという課題があった。
【0007】
また、特許文献2の発明でも、屋外で使用するときに、雨、霧などで水分に接触することにより、それら水分が忌避剤を溶出したり、また、薬剤保持体に水も含浸されることによりピレスロイド化合物が揮散しにくくなったりすることにより、害虫に対して十分な忌避や駆除などの防除効果が得られなくなるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明では、蚊、虻などの害虫の虫刺されを防止するなど害虫からの被害を未然に防ぐために、使用者の皮膚や衣服に貼付したり、所定の場所に載置したりするなどして、それら害虫を忌避や駆除などする防除効果を有する害虫防除用シートであって、使用時に雨、霧、水遊び、水仕事などで水分に接触したり、使用者の汗に接触したりすることがあっても、害虫からの被害を未然に防ぐために、十分な防除効果を有する害虫防除用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕すなわち、本発明は、シトロネラ抽出物、ユーカリプタス抽出物、薄荷抽出
物、1,8-シネオールから選ばれる少なとも1種を含有する揮発性の忌避剤と、前
記忌避剤が2.2~18.5g/m
2
の量で含浸される基材である薬剤保持層を備え、
前記薬剤保持層が、表面及び内部に空隙が設けられ、目付が50~300g/m2で、
厚みが10~500μmである多細孔材からなり、前記忌避剤が含浸された前記薬剤
保持層の表面における水の接触角が100~180°であることを特徴とする害虫防
除用シートである。
【0012】
〔2〕そして、そして、前記薬剤保持層の一方の側に設けられ、前記忌避剤を透過しな いバリア層と、前記バリア層において前記薬剤保持層の反対側に設けられ、被着物に対 して接着可能な粘着剤層を、備えることを特徴とする前記〔1〕に記載の害虫防除用シ ートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用時に雨、霧、水遊び、水仕事などで水分に接触したり、使用者の汗に接触したりすることがあっても、蚊、虻などの害虫の虫刺されを防ぐなど害虫からの被害を未然に防ぐために、十分な忌避や駆除などする防除効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本件発明の第1実施形態における害虫防除用シートの断面図である。
【
図2】本件発明の第2実施形態における害虫防除用シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の害虫防除用シートに関する実施形態について詳しく説明する。なお、説明中における範囲を示す表記のある場合は、上限と下限を含有するものである。
【0016】
図1の第1実施形態では、忌避剤や殺虫剤の薬剤を含浸した薬剤保持層1のみからなる害虫防除用シートである。第1実施形態の害虫防除用シートを、通気口を有する収納容器に収納して、屋外などに載置して使用することができる。
図2に示す第2実施形態では、忌避剤や殺虫剤の薬剤を含浸した薬剤保持層1に、バリア層2、粘着剤層3を積層して設けて、使用者の皮膚や衣服などに貼付することにより屋内又は屋外で使用することができる。
【0017】
本発明における忌避剤は、使用環境にある15~40℃程度の常温で徐々に揮発するものであり、蚊、虻などの害虫の吸血行動を起こさせないように忌避する液状の有効成分である化合物そのものであるか、又はその化合物を一成分として包含する組成物である。経時的に忌避効果を発現させるために、沸点が上記常温よりも高い忌避剤を用いることが好ましい。また、忌避剤は、使用者に対して安全性の高い天然由来であることが好ましい。
【0018】
このような忌避剤としては、例えば、グレープフルーツ、ゼラニウム、ローズマリー、アニス、アルモワーズ、イランイラン、オレンジ、カナンガ、カモミール、カルダモン、カユプテ、クラリセージ、コリアンダー、サイプレス、サンダルウッド、シダーウッド、シトロネラ、ジュニパーベリー、ジンジャー、スペアミント、セージ、ティートリー、ナツメグ、ネロリ、パインニードル、バジル、パチョリー、パルマローザ、フェンネル、ブラックペッパー、ペチグレン、ベチバー、ペパーミント,ベルガモット、マージョラム、マンダリン、レモンユーカリ、ユーカリプタス、コパイバ、ライム、ラベンダー、レモン、レモングラス、ローズウッド、月桃葉、桂皮、薄荷などの植物より抽出された精油が好ましい。そして、これらのうち1種の植物より抽出された精油を配合して、又は2種以上の植物より抽出された精油を配合して使用することができる。
【0019】
上記植物から得られる精油には、揮発性を有する種々の化合物である精油成分が含有されている。グレープフルーツには、d-リモネン、ミルセン、α-ピネンなどが含有されている。ゼラニウムには、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールなどが含有されている。ローズマリーには、α-ピネン、カンファー、1,8-シネオールなどが含有されている。アニスには、(E)-アネトール、リモネン、アニスアルデヒドなどが含有されている。アルモアーズには、1,8-シネオール、ツジョン、ボルネオール、カンファー、ピネン、アルテミシニン(セスキテルペン・ラクトン)リナロール、ネロールなどが含有されている。イランイランには、リナロール、β-カリオレフィン、ゲルマクレンDなどが含有されている。オレンジには、リモネン、ミルセン、β-ビサボレンなどが含有されている。カナンガには、カリオフィレン、酢酸ゲラニル、テルピネオールなどが含有されている。カモミールには、ファルネセン、カマズレン、α-ビサボロールオキサイドBなどが含有されている。カルダモンには、1,8-シネオール、α-テルピニルアセテート、リモネンなどが含有されている。カユプテには、1,8-シネオール、α-テルピネオール、パラ-シメンなどが含有されている。クラリセージには、酢酸リナリル、リナロール、ゲルマクレンDなどが含有されている。クローブには、オイゲノール、β-カリオフィレン、オイゲニルアセテートなどが含有されている。コリアンダーには、d-リナロール、カンファー、α―ピネンなどが含有されている。サイプレスには、α―ピネン、δ-3-カレンなどが含有されている。サンダルウッドには、シス-α-サンタロール、シス-β-サンタロール、epi-β-サンタロールなどが含有されている。シダーウッドには、ツヨプセン、α-セドレン、セドロールなどが含有されている。シトロネラには、ゲラニオール、リモネン、シトロネロール、カンフェン、シトロネラール、酢酸ゲラニル、α-ピネン、α-テルピネオールなどが含有されている。ジュニパーベリーには、α-ピネン、ミルセン、β-ファルネセンなどが含有されている。ジンジャーには、ar-クルクメン、α-ジンジベレン、β-セスキフェランドレンなどが含有されている。スペアミントには、(-)-カルボン、ジヒドロカルボン、1,8-シネオールなどが含有されている。セージには、α-ツヨン、β-ツヨン、カンファーなどが含有されている。ティートリーには、テルピネン-4-オール、γ-テルピネン、α-テルピネンなどが含有されている。ナツメグには、α-ピネン、サビネン、β-ピネンなどが含有されている。ネロリには、リナロール、リモネン、βピネンなどが含有されている。パインニードルには、α-ピネン、β-ピネン、ミルセンなどが含有されている。バジルには、リナロール、メチルチャビコール、β-カリオフィレンなどが含有されている。パチョリーには、パチュリアルコール、α-パチュレン、β-カリオフィレンなどが含有されている。パルマローザには、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、リナロールなどが含有されている。フェンネルには、(E)-アネトール、リモネン、メチルチャビコールなどが含有されている。ブラックペッパーには、β-3-カリオフィレン、δ-3-カレン、リモネンなどが含有されている。ペチグレンには、リナリルアセテート、リナロール、α―テルピネオールなどが含有されている。ベチバーには、ベチベロール、ベチベン、α-ベチボールなどが含有されている。ベルガモットには、リモネン、リナリルアセテート、リナロールなどが含有されている。マージョラムには、テルピネン-4-オール、シス-サビネンヒドレート、パラ-シメンなどが含有されている。マンダリンには、リモネン、γ-テルピネン、β-ピネンなどが含有されている。レモンユーカリには、シトロネラール、シトロネロール、シトラールなどが含有されている。ユーカリプタスには、1,8-シネオール、α-ピネン、リモネン、アロマデンドレン、p-サイメン、t-ピノカルベオール、グロブロールなどが含有されている。コパイバには、β-カリオレフィン、α-フュムレン、α-コパエン、t-α-ベルガモッテン、ゲルマクレンD、カジネン、α-ビサボレン、γ-ムロレン、β-エレメン、σ-エレメンなどが含有されている。ライムには、リモネン、γ-テルピネン、β-ピネンなどが含有されている。ラベンダーには、酢酸リナリル、リナロール、(Z)-β-オシメンなどが含有されている。レモンには、リモネン、β-ピネン、γ-テルピネンなどが含有されている。レモングラスには、ゲラニアール、シトラール、エレモールなどが含有されている。ローズウッドには、リナロール、α-テルピネオール、シスーリナロールオキサイドなどが含有されている。ペパーミントには、l-メントール、l-メントン、メントフランなどが含有されている。桂皮には、シンナムアルデヒド、t-2-メトキシシンナムアルデヒド、クマリンなど含有されている。月桃葉には、1,8-シネオール、テルピネン-4-オール、p―サイメンなどが含有されている。薄荷には、l-メントール、l-メントン、メントフランなどが含有されている。
【0020】
本発明におけるピレスロイド系化合物を含有する殺虫剤は、除虫菊に含有される殺虫作用を有する成分及びその誘導体であり、植物等から抽出などの方法で取り出される天然物、有機合成の手法で合成される合成物のいずれも含むものである。ピレスロイド系化合物を用いることにより、蚊、虻などの害虫の神経に作用してそれら害虫を駆除する防除効果を有し有効成分として作用する。また、忌避剤と同様に、経時的に駆除効果を発現させるために、沸点が上記常温よりも高い殺虫剤を用いることが好ましい。殺虫剤は、ピレスロイド系化合物そのものであるか、又はそのピレスロイド系化合物を一成分として包含する組成物である。
【0021】
ピレスロイド系化合物としては、天然ピレスロイドとして、ピレトリンI<(1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸(1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2,4-ペンタジエニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、ピレトリンII<(1R,3R)-3-[(1E)-3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2,4-ペンタジエニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、シネリンI<(1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸(1S)-3-(2Z)-(2-ブテニル)-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、シネリンII<(1R,3R)-3-[(1E)-3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(1S)-3-(2Z)-(2-ブテニル)-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、ジャスモリンI<(1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2-ペンテニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、ジャスモリンII<(1R,3R)-3-[(1E)-3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2-ペンテニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、合成ピレスロイドとして、アレスリンI<2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロペニル)-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、アレスリンII<3-(3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロペニル)-2-シクロペンテン-1-イルエステル>、フタルスリン(別名;D-テトラメトリン)<(1,3-ジオキソ-4,5,6,7-テトラヒドロイソインドリン-2-イル)メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチルプロパ-1-エン-1-イル)シクロプロパン-1-カルボキシラート>、レスメトリン<(5-ベンジル-3-フリル)メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチルプロパ-1-エン-1-イル)シクロプロパンカルボキシラート>、フェノトリン<3-フェノキシベンジル=2-ジメチル-3-(メチルプロペニル)シクロプロパンカルボキシラート>、ペルメトリン<3-フェノキシベンジル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシラート>、シフェノトリン<シアノ(3-フェノキシフェニル)メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチルプロパ-1-エン-1-イル)シクロプロパンカルボキシラート>、エトフェンプロックス<4-(4-エトキシフェニル)-4-メチル-1-(3-フェノキシフェニル)-2-オキサペンタン>、メトフルトリン<2,2-ジメチル-3-(プロパ-1-エン-1-イル)シクロプロパンカルボン酸=2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)ベンジル>、プロフルトリン<(1R,3R)-2,2-ジメチル-3-[(Z)-1-プロペニル]シクロプロパンカルボン酸=2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルベンジル>、トランスフルトリン<(1R,3S)-3-[(E)-2,2-ジクロロビニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸=2,3,5,6-テトラフルオロベンジル>、シフルトリン<シアノ(4-フルオロ-3-フェノキシフェニル)メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシラート>、などが好ましい。そして、上記のうちペルメトリン、フェノトリン、アレスリン、フタルスリン、レストメトリン、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリンがより好ましく、さらに、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリンが最も好ましい。また、上記のピレスロイド系化合物は1種類のみ、又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
忌避剤及び殺虫剤は、それぞれ有効成分である精油やピレスロイド系化合物以外にも、溶媒として、アルコールや、二価以上の水酸基を有する多価アルコールを含有することができる。多価アルコールは常温での揮発性が低く薬剤保持層1において長く留まることができ、また、精油やピレスロイド系化合物を溶解するので、それら精油やピレスロイド系化合物を徐々に揮散させて、防除効果を持続させることができる。
【0023】
アルコールとしては、エタノール、イソプロピルアルコールなどが好ましい。多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコールなどが好ましい。また、上記のアルコール及び多価アルコールは1種類のみ、又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、忌避剤及び殺虫剤は、それぞれどちらか一方を単独で薬剤保持層1に含浸することができるし、忌避剤と殺虫剤を所定の割合で混合して薬剤保持層1に含浸することもできる。
【0025】
薬剤保持層1は、忌避剤又は殺虫剤の少なくとも一方が含浸される基材である。また、薬剤保持層1は、薄板や紙のような厚みであるシート状の形状を有している。また、薬剤保持層1は、防除効果を持続させるために、経時的に忌避剤や殺虫剤と化学的な変性が生じない素材から形成されている。
【0026】
例えば、薬剤保持層1としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどから形成される不織布、紙、織物、合成樹脂や無機材料からなる多孔質構造体などの忌避剤や殺虫剤を内部で保持しうる微細な空隙を有し、その空隙が表面へと連通している多細孔材料であることが好ましい。薬剤保持層1は、忌避剤や殺虫剤を滴下されたり、常圧又は減圧下で忌避剤や殺虫剤に浸漬されたりして、それら薬剤の浸透力などにより微細な空隙に充填、保持されて、含浸された状態となる。
【0027】
そして、薬剤保持層1は、その表面における水の接触角が60~180°であることが好ましく、80~180°であることがさらに好ましく、100~180°であることが最も好ましい。薬剤保持層1の表面における水の接触角がこのような範囲にあると、薬剤保持層1が内部から表面に連通する空隙を有するにも関わらず、雨、霧、汗などの水分が薬剤保持層1の表面に濡れ広がりにくく、また、薬剤保持層1の微細な空隙に短時間のうちに浸透しないことから、忌避剤や殺虫剤が揮散する細孔が封じられないため、そして、忌避剤や殺虫剤が溶出しないために防除効果が持続することがきる。水の接触角の測定については、JIS R3257(1999)などに記載された方法に準拠して、θ/2法などにより測定されることが好ましい。
【0028】
さらに、薬剤保持層1において、目付が50~300g/m2で、厚みが10~500μmであることが好ましく、目付が60~200g/m2で、厚みが20~200μmであることがさらに好ましい。薬剤保持層1の目付及び厚みがこのような範囲にあると、忌避剤や殺虫剤が薬剤保持層1から揮発して外部に拡散可能な程度の細孔を有しながらも、薬剤保持層1の微細な空隙に雨などの水分が浸透しないために防除効果が持続することがきる。
【0029】
バリア層2は、薬剤保持層1の一方の側に設けられ、忌避剤又は殺虫剤を透過しない部材である。バリア層2も、薬剤保持層1と同様にシート状を有しており経時的に忌避剤や殺虫剤と化学的な変性が生じない素材から形成されている。バリア層2を介して他の物に収容や積層することにより、薬剤保持層1に含浸されている忌避剤や殺虫剤が、他の物に染み出して物理的又は化学的な変性を起こすことが防止している。バリア層2は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタラート、アルミなどの金属、アルミ、シリカ、アルミナをプラスチックフィルに蒸着させた複合材料であることが好ましい。
【0030】
粘着剤層3は、バリア層2において薬剤保持層1の反対側に設けられ、被着物に対して接着可能な部材である。粘着剤層3を設けることにより、使用者の皮膚や衣服などに貼付して屋外などでの活動時に害虫からの被害を未然に防ぐことができ、また、不要になれば剥がすこともできる。
【0031】
粘着剤層3としては、アクリルモノマーを重合して得られるアクリル樹脂系粘着剤や、イソシアネート基とヒドロキシ基の反応から得られるウレタン樹脂系粘着剤など種々の粘着剤を使用することができ、そのような粘着剤をバリア層2の一方の側面に層状に形成されることが好ましい。
【0032】
剥離紙層は、粘着剤層3において薬剤保持層1やバリア層2の反対側に設けられ、未使用時に粘着剤層3が目的外の被着物に対して接着しないようにしたり、粘着剤層3にゴミなどが付着しないようにしたりする部材である。剥離紙層は、製品集荷時などにあらかじめ粘着剤層3に貼付していることが好ましい。剥離紙層としては、例えば、上質紙、グラシン紙などを基材に、粘着剤層3に当接する表面においてシリコーン樹脂が塗布されていることが好ましい。
【実施例】
【0033】
〔実施例1〕
精油であるシトロネラ抽出物12mg、ユーカリプタス抽出物9mgと、溶媒であるプロピレングリコール9mgからなる忌避剤30mgを含浸させた直径38mmの円形状の薬剤保持層1(目付60g/m2、厚み60μm)と、バリア層2と、粘着剤層3を積層した粘着可能な害虫防除用シートを作製した。
【0034】
〔実施例2〕
精油であるシトロネラ抽出物0.9mg、ユーカリプタス抽出物2.1mgと、溶媒であるプロピレングリコール27mgからなる忌避剤30mgを含浸させた直径38mmの円形状の薬剤保持層1(目付60g/m2、厚み60μm)と、バリア層2と、粘着剤層3を積層した粘着可能な害虫防除用シートを作製した。
【0035】
〔実施例3〕
精油である薄荷抽出物1mg、ユーカリプタス抽出物1.5mgと、溶媒であるプロピレングリコール27.5mgからなる忌避剤30mgを含浸させた直径38mmの円形状の薬剤保持層1(目付60g/m2、厚み60μm)と、バリア層2と、粘着剤層3を積層した粘着可能な害虫防除用シートを作製した。
【0036】
〔実施例4〕
精油成分である1,8-シネオール5mgと、溶媒であるプロピレングリコール25mgからなる忌避剤30mgを含浸させた直径38mmの円形状の薬剤保持層1(目付60g/m2、厚み60μm)と、バリア層2と、粘着剤層3を積層した粘着可能な害虫防除用シートを作製した。
【0038】
〔実施例5〕
精油であるコパイバオイル抽出物1.0mgと、ユーカリプタス抽出物2.0mgと、 溶媒であるプロピレングリコール17mg、イソプロピルアルコール10mgからなる 忌避剤30mgを含浸させた直径38mmの円形状の薬剤保持層1(目付60g/m2 、厚み60μm)と、バリア層2と、粘着剤層3を積層した粘着可能な害虫防除用シー トを作製した。
【0039】
〔比較例1〕
直径38mmの円形状の薬剤保持層1(目付40g/m2、厚み60μm)を用いた以外は、実施例1と同様に粘着可能な害虫防除用シートを作製した。
【0040】
〔水の接触角〕
実施例及び比較例で作製した害虫防除用シートの薬剤保持層1に対して、霧雨から小雨程度の量である1μLの水滴を滴下して、1秒後の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社製、CAX-150)によって、JIS R3257(1999)に記載された方法に準拠して、θ/2法によって測定した。実施例1の害虫防除用シートの接触角は112°(n=6)であり、比較例1の害虫防除用シートの接触角は滴下と同時に薬剤保持層1に浸透して測定することができなかった。
【0041】
〔効力試験〕
上述したように作製した各害虫防除用シートの効力に関し、水滴を噴霧する前後において、蚊による吸血行動阻止率を算出して防除の性能を評価した。
【0042】
具体的には、まず、作製した各害虫防除用シートを、被験者が着ている長袖シャツの袖口に貼り付けた後に、一辺が25cmほどの略直方体状のゲージに、害虫防除用シートを貼り付けた袖口を含めた手首を5分間ゲージに挿入した。そして、予めゲージ内に放たれている約30匹であるヒドスジシマカの数(α)のうち、被験者の掌及び手の甲に対する吸血行動を起こしたヒドスジシマカの数(β)を、挿入直後に計測した。害虫防除用シートを貼り付けない場合でも、同様に被験者の手を挿入して、同様の時間経過後に吸血行動をカウントし、害虫防除用シートを貼り付けない場合の吸血行動を起こしたヒドスジシマカの数(β´)を考慮して、挿入後のそれぞれの時間において、下式<1>より補正した吸血行動阻止率を算出した。
吸血行動阻止率(%)={(1-β/α)×100-(1-β´/α)×100}×100/(1-β´/α)×100
={(β´-β)/α}×100/(1-β´/α)・・・<1>
試験は3回行い、その算術平均を求めて、平均吸血行動阻止率とした。
【0043】
そして、その試験を終えた後に、被験者の手をゲージから抜いて、各害虫防除用シートに所定量の水滴を噴霧して、上記と同様の試験を行い、ヒドスジシマカの平均吸血行動阻止率を算出した。こうして、水滴の噴霧前後の平均吸血行動阻止率の差について、2ポイント未満となる害虫防除用シートを◎と評価し、2ポイント以上5ポイント未満となる害虫防除用シートを○と評価し、5ポイント以上10ポイント未満となる害虫防除用シートを△と評価し、10ポイント以上となる害虫防除用シートを×と評価し、水滴の噴霧前後の平均吸血行動阻止率の差が◎評価及び○評価である害虫防除用シートが良好であると判断した。
【0044】
実施例1~5及び比較例1について、害虫防除用シートの薬剤保持層1の表面におけ る接触角及び効力試験の結果を、表1に示す。
【0045】
【0046】
表1に示すように、実施例1~5において、薬剤保持層1の表面において特定の範囲 に含まれる接触角を有する害虫防除用シートでは、水滴が噴霧されても薬剤保持層1の 表面で水滴が濡れ広がらず、また、内部の空隙に浸透しにいくいことから、薬剤保持層 1に含浸された忌避剤は揮散することができ、その結果として水滴の噴霧前後において おおよそ同等レベルで、蚊に対する吸血行動を阻止できることが分かった。しかし、比 較例1の害虫防除用シートでは、接触角を測定することができず、薬剤保持層1の表面 に水滴が付着するとすぐに内部の空隙に浸透してしまうため、忌避剤が空隙から揮散で きないことなどの理由により、水処理後には蚊に対する吸血行動を阻止できにくくなっ ていることが分かった。
【0047】
以上の結果より、実施例1の害虫防除用シートは、使用時に薬剤保持層1の表面に雨、霧、水遊び、水仕事などで水分に接触したり、使用者の汗に接触したりすることがあっても、害虫からの被害を未然に防ぐために、十分な防除効果を有するものであることが分かった
【符号の説明】
【0048】
1・・・薬剤保持層
2・・・バリア層
3・・・粘着剤層