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特許7289134複合体、複合体の製造方法、及び、分離デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】複合体、複合体の製造方法、及び、分離デバイス
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20230602BHJP
   C01F 7/784 20220101ALI20230602BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20230602BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20230602BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20230602BHJP
   D06M 11/36 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
C01F7/784
B01J20/06 B
B01J20/06 C
B01J20/08 C
B01J20/32 Z
D06M11/36
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019126968
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2021010886
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】田村 堅志
(72)【発明者】
【氏名】井伊 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雄二郎
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098610(WO,A1)
【文献】特開2005-263596(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102150(WO,A1)
【文献】特開2005-010112(JP,A)
【文献】特開2019-075379(JP,A)
【文献】特開2017-119658(JP,A)
【文献】特開2018-192449(JP,A)
【文献】特表2011-530405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0070952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
C01F 1/00-17/38
D06M 10/00-11/84,16/00,19/00-23/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維形状の高分子基材と、前記高分子基材に担持された板状結晶である層状複水酸化物と、を有し、
前記高分子基材は、水酸基を有する高分子、又は、窒素を含有する高分子であり、
前記層状複水酸化物が、下記一般式1で表され、
一般式1:[M II 1-x III (OH) [A n- x/n ・mH O]
ここで、M II は2価の金属イオンであり、M III は3価の金属イオンであり、0.18≦x≦0.36を満たし、A n- はn価のアニオンであり、mは環境の湿度により変化する数であり、
板状結晶である前記層状複水酸化物は、前記高分子基材の表面に対してab面が垂直に、又は、斜め方向に配向して担持されており、花冠状凝集粒子を構成する、複合体。
【請求項2】
前記一般式1において、前記MIIが、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、及び、Ca2+からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンであり、また、前記MIIIが、Al3+、Ga3+、Cr3+、Mn3+、Fe3+、Co3+、及び、Ni3+からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記一般式1において、層間アニオンである前記An-が、ClO 、ClO 、ClO 、ClO NO 、Br、Cl、F、OH、CO 2-、SO 2-、Fe(CN) 4-、有機酸アニオン、及び、アミノ酸アニオンからなる群から選択される少なくとも1種のn価のアニオンである、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記一般式1において、前記An-が、ClO 、ClO 、NO 、Br、及び、Clからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記層状複水酸化物は、前記板状結晶における板面の長さが0.01~100μmであり、前記高分子基材に配向して担持されている角度が5~90°の範囲内である、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
前記高分子基材は、綿、絹、キュプラ、ポリアクリロニトリル、および、ポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
前記高分子基材が、重合性高分子化合物を含有する組成物を硬化して得られた架橋高分子を含有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
前記高分子基材の繊維径が0.01~50μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項9】
2価の金属イオンであるM II、及び、3価の金属イオンであるM IIIを含有する塩、並びに、ヘキサメチレンテトラミンを含有する水溶液に、水酸基を有する高分子、又は、窒素を含有する高分子である繊維形状の高分子基材を浸漬させて、加熱して、請求項1~8のいずれか1項に記載の複合体を得る、複合体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱の温度が、60~200℃である、請求項9に記載の複合体の製造方法。
【請求項11】
更に、溶媒と、アニオン種として前記An-とを含有する溶液中で、前記層状複水酸化物の層間アニオンを交換することを含む、請求項9又は10に記載の複合体の製造方法。
【請求項12】
前記溶液が、前記溶媒と、An-を含有する塩、又は、化合物を混合して得られたものである、請求項11に記載の複合体の製造方法。
【請求項13】
前記層間アニオンがCO 2-である場合に、前記交換することが、前記溶液に酸又は酸性物質を加えた酸性条件下でアニオン交換を行い、前記層間から前記CO 2-を除去する操作である、請求項11に記載の複合体の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒が水、メタノール、及び、エタノールからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項12に記載の複合体の製造方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合体を含有するフィルターを有し、吸着クロマトグラフィー、又は、分配クロマトグラフィーの用途に利用可能である、分離デバイス。
【請求項16】
前記分離デバイスが、カートリッジ、カセット、キャニスター、注射器、マルチウェルプレート、及び、フィルターホルダーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項15に記載の分離デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、複合体の製造方法、及び、分離デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゼオライトやアルミノシリカゲル等の無機化合物を、紙等のセルロース基材を始めとする親水性高分子に担持させて機能性を付与した素材が知られている。かかる素材は悪臭除去、ガス吸着等の性質や抗菌性、難燃性、保温性を有するので種々の用途に使用しえるものである。基材上に担持する無機吸着材としてはゼオライト、シリカゲル、層状ケイ酸塩(例えば、特許文献1、2及び3)の報告がある。
【0003】
上記無機化合物の内、層状複水酸化物はアニオン吸着特性を有する層状化合物であり、例えば、環境水中に残存するリン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオンや大気中に存在する硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)等の酸性成分を吸着除去できる物質の一つである。先行技術の中で層状複水酸化物/高分子複合素材の応用としては、層状複水酸化物分散液を不織布に含侵させて乾燥して複合化した二次電池用セパレーター(特許文献4)、バインダーを用いて層状複水酸化物を樹脂又は繊維の表面に結合させたフィルターが提案(特許文献5)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-240759号公報
【文献】特開2017-193793号公報
【文献】特開2014-15536号公報
【文献】特開2019-797017号公報
【文献】特開2017-119658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、引用文献4、及び、引用文献5に記載された複合体は、いずれも溶液、及び/又は、ガス中の除去対象物を吸着する吸着性能に改善の余地があることを知見している。
【0006】
そこで、本発明は、溶液、及び/又は、ガス中の除去対象物を選択的に吸着することができる優れた吸着性能を有する複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成すべく検討したところ、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
[1] 高分子基材と、上記高分子基材に担持された層状複水酸化物と、を有し、上記層状複水酸化物は、上記高分子基材の表面に対してab面が垂直に、又は、斜め方向に配向して担持されている、複合体。
[2] 上記層状複水酸化物が、後述する一般式1、及び、後述する一般式2からなる群より選択される少なくとも一方で表される、[1]に記載の複合体。
[3] 後述する一般式1において、MIIが、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、及び、Ca2+からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンであり、また、MIIIが、Al3+、Ga3+、Cr3+、Mn3+、Fe3+、Co3+、及び、Ni3+からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンである、[2]に記載の複合体。
[4] 後述する一般式1、及び、後述する一般式2において、層間アニオンである上記An-が、ClO 、ClO 、ClO 、ClO,NO 、Br、Cl、F、OH、CO 2-、SO 2-、Fe(CN) 4-、有機酸アニオン、及び、アミノ酸アニオンからなる群から選択される少なくとも1種のn価のアニオンである、[2]又は[3]に記載の複合体。
[5] 後述する一般式1、及び、後述する一般式2において、An-が、ClO 、ClO 、NO 、Br、及び、Clからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである[2]に記載の複合体。
[6] 上記層状複水酸化物は、板状形状における板面の長さが0.01~100μmであり、上記高分子基材に配向して担持されている角度が5~90°の範囲内である、[1]~[5]のいずれかに記載の複合体。
[7] 上記高分子基材が水酸基を有する高分子、及び、ヘテロ原子を有する合成高分子からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の複合体。
[8] 上記高分子基材が、重合性高分子化合物を含有する組成物を硬化して得られた架橋高分子を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の複合体。
[9] 上記高分子基材が繊維形状であり、繊維径が0.01~50μmである[1]~[8]のいずれかに記載の複合体。
[10] 上記高分子基材が溶液ブロー紡糸法、延伸紡糸法、及び、電界紡糸法からなる群より選択される少なくとも1種の方法により製造される不織布である、[1]~[9]のいずれかに記載の複合体。
[11] 上記高分子基材の厚みは2~200μmであり、かつ、布状基材である[1]~[10]のいずれかに記載の複合体。
[12] MII、及び、MIIIを含有する塩、並びに、アルカリ成分、及び、加水分解してアルカリ成分を放出する化合物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ源化合物、を含有する水溶液に、上記高分子基材を浸漬させて、加熱して、[2]~[5]のいずれかに記載の複合体を得る、複合体の製造方法。
[13] 上記アルカリ源化合物が、尿素、エチレンジアミン、及び、ヘキサメチレンテトラミンからなる群より選択される少なくとも1種である、[12]に記載の複合体の製造方法。
[14] 上記加熱の温度が、60~200℃である、[12]又は[13]に記載の複合体の製造方法。
[15]
更に、溶媒と、アニオン種として上記An-とを含有する溶液中で、上記層状複水酸化物の層間アニオンを交換することを含む、[12]~[14]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[16] 上記溶液が、上記溶媒と、An-を含有する塩、又は、化合物を混合して得られたものである、[15]に記載の複合体の製造方法。
[17] 上記層間アニオンがCO 2-である場合に、上記交換することが、上記溶液に酸又は酸性物質を加えた酸性条件下でアニオン交換を行い、上記層間から上記CO 2-を除去する操作である、[15]に記載の複合体の製造方法。
[18] 上記溶媒が水、メタノール、及び、エタノールからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒である、[16]に記載の複合体の製造方法。
[19] [1]~[11]のいずれかに記載の複合体を含有するフィルターを有し、吸着クロマトグラフィー、又は、分配クロマトグラフィーの用途に利用可能である、分離デバイス。
[20] 上記分離デバイスが、カートリッジ、カセット、キャニスター、注射器、マルチウェルプレート、及び、フィルターホルダーからなる群より選択される少なくとも1種である、[19]に記載の分離デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶液、及び/又は、ガス中の除去対象物を選択的に吸着することができる優れた吸着性能を有する複合体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】PAN不織布の応力―ひずみ曲線:250℃加熱処理効果。
図2】電界紡糸法で作成したPAN繊維上に尿素法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図3】綿繊維上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図4】電界紡糸法で作成したPAN繊維上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図5】ナイロン66繊維上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図6】ケブラー繊維上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図7】ウレタンフォーム上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図8】キュプラ繊維上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図9】絹糸上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図10】250℃60分処理した電界紡糸法PAN繊維上に尿素法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図11】250℃60分処理した電界紡糸法PAN繊維上にHMT法により合成した層状複水酸化物のSEM観察像。
図12】NaHPO溶液の通水、吸着性を評価したガラス試験器の概略図。
図13】NaHPO水溶液(1ppm P)を5mL×5回通液した際の、PAN-層状複水酸化物フィルターのPイオンの吸着結果。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[複合体(層状複水酸化物/高分子複合体)]
本発明の実施形態に係る複合体(層状複水酸化物/高分子複合体)(以下、単に「本複合体」ともいう。)は、高分子基材と、高分子基材に担持された層状複水酸化物と、を有し、上記層状複水酸化物は、前記高分子基材の表面に対してab面(層状複水酸化物の結晶軸a及び結晶軸bにより規定される面)が垂直に、又は、斜め方向に配向して担持されている複合体である。
【0011】
なお、本明細書において、担持されている、とは、高分子基材上に層状複水酸化物が直接配置されている形態を意味し、例えば、バインダを介して高分子基材と層状複水酸化物とが接着している形態とは異なる形態を意味する。
【0012】
本複合体により本発明の課題が解決できる機序は必ずしも明らかではないが本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下で説明する機序は推測であり、下記の機序以外の機序によって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0013】
本発明者らは、特許文献4、及び、特許文献5に記載された複合体において吸着性能に改善の余地がある理由を鋭意検討してきた。その結果、複合体の吸着性能は、層状複水酸化物と高分子との密着性、及び、多孔質構造に関連することを突き止め、上記各文献に記載された複合体においては、上記のいずれかに改善の余地があることを知見した。
【0014】
すなわち、層状複水酸化物と高分子複合体との複合化において、特許文献4のようにバインダを用いない形態では、高分子基材と層状複水酸化物との密着性が十分に得られず、使用中に層状複水酸化物の脱離が起こり得、結果として所望の吸着性能が得られない場合があると推測される。
また、特許文献5のように層状複水酸化物と高分子複合体との複合化において、バインダを用いる形態では、バインダによって層状複水酸化物の吸着サイト(アニオン交換による吸着に有効な結晶面)が塞がれてしまい、結果として所望の吸着性能が得られない場合があると推測される。
【0015】
本複合体は、後述するとおり、高分子基材上に、所定の構造を有する層状複水酸化物を直接成長
させて得られる複合体であるため、高分子基材と層状複水酸化物とが優れた密着性を有する。その結果、バインダを用いなくとも優れた密着性が得られるため、バインダにより吸着サイトが塞がれることが抑制され、優れた吸着性が得られたものと推測される。
上記により、本複合体は、優れた悪臭除去性、優れた抗菌性、及び、優れた保温性を有するものと推測される。
【0016】
〔層状複水酸化物〕
本発明の実施形態に係る層状複水酸化物としては特に制限されず、公知の層状複水酸化物が対象となる。層状複水酸化物は、特に制限されないが、典型的には、2価の金属(マグネシウム、鉄、亜鉛、カルシウム、リチウム、ニッケル、コバルト、及び、銅等)と3価の金属(アルミニウム、鉄、及び、マンガン等)の水酸化物とが複合して積層構造を形成した無機の層状化合物を意味する。
本発明の実施形態は層状複水酸化物が高分子基材に直接担持するため、合成で得られたものが好適に使用されるが、天然に産するものでもよい。天然の層状酸化物の具体例としては、ハイドロタルサイト、モツコレアイト、マナセイト、スティッヒタイト、パイロオーライト、タコバイト、イヤードライト、グリーンラスト、及び、メイキセネライト等が挙げられる。
【0017】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、本複合体に含まれる層状複水酸化物は、層間の陰イオンはイオン交換可能であり、一般式1、及び、一般式2からなる群より選択される少なくとも一方で表されることが好ましい。
一般式1:[MII 1-xIII (OH)[An- x/n・mHO]
一般式2:[AlLi(OH)[An- x/n・mHO]
【0018】
ここで、0.18≦x≦0.36であり、An-はn価のアニオン、mは環境の湿度により変化する数であるが、典型的にはm=(1-3x)/2を満たし、例えば、0.0~1.0であることが多い。また、MIIは2価の金属(陽)イオン、MIIIは3価の金属(陽)イオンである。
上記の層状複水酸化物としては特に制限されないが、例えば、天然鉱物ハイドロタルサイト:MgAlCO(OH)16・4HO等が挙げられる。
【0019】
II、MIII系の結晶構造はMIIにOHが六配位した八面体が平面状に配列した水酸化物層に、MIIIイオンが置換した結晶構造をもつ。この水酸化物層に平行な結晶面が、前記のab面、すなわち層状複水酸化物の結晶軸a及び結晶軸bにより規定される面である。MIIイオンの置換量によって水酸化物層の正電荷量は決まり、この正電荷を中和するため層の間に陰イオンが存在している。MIIとしてはMg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、及び、Ca2+等が挙げられ、MIIIとしては、Al3+、Ga3+、Cr3+、Mn3+、Fe3+、Co3+、及び、Ni3+等が挙げられる。なお、層間アニオンはイオン交換可能であり、n価の陰イオンとしては、例えば、ClO 、ClO 、ClO 、ClO,NO 、Br、Cl、F、OH、CO 2-、SO 2-、Fe(CN) 4-、有機酸アニオン、及び、アミノ酸アニオン等が挙げられる。
【0020】
有機酸アニオンとしては特に制限されないが、酢酸アニオン、酒石酸アニオン、アクリル酸アニオン、及び、メタクリル酸アニオン等のカルボン酸アニオン、並びに、イセチオン酸等のスルホン酸アニオン等が挙げられる。なお、本明細書においてアミノ酸は有機酸には含まれないものとする。
【0021】
なかでも、より優れた効果を有する複合体が得られる点で、An-としては、ClO 、ClO 、NO 、Br、及び、Clからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンであることが好ましい。
【0022】
層状複水酸化物の結晶の大きさとしては特に制限されないが、板状形状における板面の長さが0.01~100μmであることが好ましい。
【0023】
上記層状複水酸化物は、典型的には、特に尿素、エチレンジアミン、及び、ヘキサメチレンテトラミン(C12、HMT)からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ源化合物を用いた均一沈殿法によって合成される層状複水酸化物である(非特許文献:Okamoto, K., Iyi, N., Sasaki, T. “Factors affecting the crystal size of the MgAl-LDH (layered double hydroxide) prepared by using ammonia-releasing reagents.” Applied Clay Sci., 37, 23-31(2007).)ことが好ましい。
【0024】
この方法は、出発原料である金属塩の水溶液に尿素等のアルカリ源化合物(水に溶解したときにアルカリ成分を放出する化合物)あらかじめ加え、混合溶液を高温で処理する。高温水溶液中で、アルカリ源化合物から、又は、アルカリ原価豪雨物が加水分解して、アルカリ成分(例えばアンモニア)と二酸化炭素を生じ、溶液がアルカリ性となって層状複水酸化物の沈殿が生じることを利用している。
典型的には、尿素、及び/又は、ヘキサメチレンテトラミン等の加水分解してアルカリ成分を放出する化合物である場合、アルカリ成分はアンモニアであるため、以下では、アルカリ成分をアンモニアであるものとして説明するが、上記に制限されず、アルカリ成分として、有機アミン化合物が放出される場合もある。
【0025】
上記アルカリ源化合物は、溶液中で均一にアンモニアを発生し、反応に偏りが生じないため、粒径が均一で、しかも粒径の比較的大きな板状結晶を作ることができる。結晶の形成は、まずMIII水酸化物前駆体が初期段階に生成し、それが層状複水酸化物粒子成長の核となる。その後、核から層状複水酸化物が形成され、アンモニア放出剤の濃度、MII、MIIIの組成(AlとLiの組み合わせも可能)、処理温度などによって、結晶サイズ、結晶成長速度を制御することが可能である。
【0026】
しかし、均一沈殿法は反応過程で二酸化炭素を発生してしまう場合もあるため、層間に炭酸イオンを包接する層状複水酸化物が生じることがある。特に、尿所を用いた場合加水分解してアンモニアと二酸化炭素を生じる。本発明の利用形態の一つに他の陰イオンを吸着分離する機能が求められる場合、層状複水酸化物の層間アニオンは易イオン交換性のアニオン、即ち1価のアニオンのであると良好なアニオン交換性を発現する。炭酸イオンサイトに1価のアニオンを置換してアニオン交換性を付与する方法としては、これに限定されるものではないが、有機溶剤を用いる方法と緩衝液を使う方法が有効である。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、テトラヒドロフラン又はアセトンが例示され、これに炭酸型層状複水酸化物と酸性化合物(QAt:Aは1価の陰イオン(A)に対応する元素又は原子団を意味し、tは1、2又は3であり、m=1の場合、QAはプロトン性の酸(HA)、又は、アミンの酸塩(NRR’R”・HA、ここでR、R’及びR”は水素、ヒドロキシ基又は有機基であって、それぞれは同一又は異なっていてもよい)、t=2又は3の場合、Qは2価又は3価の金属である)とを加え、1価の陰イオン(A)への置換処理を行なう。また、例えば酢酸の様な酸とその共役塩基よりなる緩衝液の混合、1価の陰イオン(A)を含む塩を混合した水溶液中で処理によって目的を達成できる。
【0027】
均一沈殿法による層状複水酸化物結晶を合成する際の好ましい形態としては、MII/MIII比(モル比)が1.5~4.0の範囲であり、1.8~3.2の範囲がより好ましい。この範囲内では層状複水酸化物の合成に要する温度がより低く抑えられ、また、反応時間もより短くて済むため、製造コストをより少なくできる。
【0028】
アニオン交換性層状複水酸化物について、補足説明する。一般的に、水溶媒中においては、価数の大きいイオン(例えば、2価、3価などの多価の陰イオン)やサイズの小さいイオンは、陰イオン交換性が乏しい。逆に、1価の陰イオンは、陰イオン交換性に富むことが知られており、その陰イオン交換性は、イオンサイズが大きくなるほどより高くなる。
本複合体においては、アニオン交換性層状複水酸化物の層間アニオンであるAは、典型的には、過塩素酸イオン(ClO )、塩素酸イオン(ClO )、亜塩素酸イオン(ClO )、次亜塩素酸イオン(ClO)、硝酸イオン(NO )、臭素イオン(Br)、塩素イオン(Cl)、フッ素イオン(F)、水酸化物イオン(OH)、CO 2-、SO 2-、Fe(CN) 4-、酒石酸アニオン、酢酸アニオン(CHCOO)、アクリル酸アニオン、メタクリル酸アニオン、アミノ酸アニオン、及び、イセチオン酸アニオンからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンが好ましく、ClO 、ClO 、ClO 、ClO、NO 、Br、及び、Clからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンがより好ましい。これらは、いずれも1価の陰イオンであり、イオンサイズも大きいので、層状複水酸化物に対する親和性が弱く、これを含む層状複水酸化物は、アニオン交換性が高くなる。それ故、同じような条件を満たすアニオンならば、前述のアニオン以外のものも排除するものではない。
【0029】
層状複水酸化物の形態としては特に制限されないが、より優れた吸着性能を有する点で、花冠状凝集粒子(図5)を含むことが好ましい。なお、本明細書において花冠状凝集粒子とは、層状複水酸化物の片状結晶が集合して花冠形状となったものを意味し、言い換えれば、個々の片状結晶が花弁のように見える粒子を意味する。このような粒子形状によれば、隣接する粒子の片状結晶同士が接触することで、粒子間に多くの隙間が形成されやすい。
【0030】
〔高分子基材〕
高分子基材は高分子化合物を含有する基材であり、高分子化合物以外の成分を含有していてもよい。より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、高分子基材は、高分子基材の全質量を100質量%としたとき、高分子化合物を90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましく、99質量%以上含有することが更に好ましく、高分子化合物からなることが特に好ましい。
なお、高分子基材は高分子化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。高分子基材が、2種以上の高分子化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0031】
高分子化合物としては特に制限されず、天然高分子化合物であっても、合成高分子化合物であってもよいが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、ヒドロキシ基を有するもの(含ヒドロキシ基高分子化合物)、及び/又は、ヘテロ原子(S、O、N、及び、Cl等が挙げられ、S、N、又は、Clが好ましい)を有する高分子化合物(含ヘテロ原子高分子化合物)が好ましい。
【0032】
含ヒドロキシ基高分子化合物としては、特に制限されないが、例えば、パルプ、再生セルロース(セロファン、セルロースビーズ、レーヨン、セルローススポンジ等)、バクテリアセルロース及びセルロースを化学修飾したエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、更には絹、羊毛、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、架橋型ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、及び、ポリビニルホルマール等が挙げられる。
【0033】
含ヘテロ原子高分子化合物としては、特に制限されないが、ポリアクリルアミド、ポリアクリルニトリル、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、及び、芳香族ポリアミド等)、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、尿素樹脂、及び、メラミン樹脂等の含窒素高分子化合物;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂等の含塩素高分子;ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ乳酸等の含酸素高分子化合物;ポリスルフォン、ポリーエテルスルフォン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド等の含硫黄高分子化合物等、が挙げられる。
【0034】
また、高分子基材は、重合性高分子化合物を含有する組成物を硬化して得られた架橋高分子を含有していてもよい。重合性高分子化合物は重合性基を含有する高分子化合物を意味し、特に制限されないが、分子中に2つ以上の重合性基を有していることが好ましい。重合性基としては特に制限されないが、例えば、エチレン性不飽和基等のラジカル重合性基、グリシジル基、及び、イソシアネート基等が挙げられる。
上記組成物は重合性高分子化合物を含有していれば特に制限されず、他の成分を含有していてもよく、他の成分としては例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤、硬化剤(例えば、ポリイソシアネート、及び、ポリアミン等)、溶媒、連鎖移動剤、充てん剤、紫外線吸収剤、及び、重合禁止剤等が挙げられ、いずれも公知のものを使用できる。
【0035】
本複合体は、層状複水酸化物(結晶)を高分子基材の表面に担持させるため、層状複水酸化物の合成工程に高分子固体表面を投入することが好ましく、この観点で、高分子基材の材料は、液相中の結晶核と親和性の高い高分子固体であることが好ましい。
このような高分子化合物としては特に制限されないが、骨格(鎖中)に窒素、及び/又は、硫黄を含有するか、及び/又は、親水性基(典型的にはヒドロキシ基)を有する高分子化合物が好ましい。
【0036】
高分子基材の形態としては特に制限されないが、フィルム、シート、繊維、及び、発泡体等が挙げられるが、なかでもより優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、繊維形状が好ましい。
高分子基材が繊維形状である場合、その繊維系としては特に制限されないが、一般に0.01~50μmが好ましく。0.1~10μmがより好ましい。
また、繊維形状の高分子基材の製造方法としては特に制限されないが、溶液ブロー紡糸法、延伸紡糸法、及び、電界紡糸法からなる群より選択される少なくとも1種の方法により製造されることが好ましい。また、繊維形状の高分子基材は織布であっても不織布であってもよいが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、不織布が好ましい。
【0037】
繊維形状の高分子基材としては、具体的には、例えば、ウール、絹、綿、麻等の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の半合成繊維、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、ポリアクルロニトリル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の合成繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維であり、ポリオレフィン繊維のような疎水性の強い素材には無水マレイン酸等の親水性基をグラフト変性したものが好適であり、更には造られる編物、織物及び不織布等のシート状物等が挙げられる。上記の合成繊維は共重合体やブレンド物であってもよい。当該シート状物における構成繊維の繊度、断面形状や各種ポリマー安定剤の有無、目付、密度等については、特に限定されない。
【0038】
特に電界紡糸法で不織布を製造する場合、高分子溶液が使用されるが、その際の溶媒には、水、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジオキサン、ギ酸、酢酸、酢酸メチル、酢酸エチル、デカリン、1-クロロナフタレン、テトラリン、キシレン、フェノール、テトラクロロエタン、o-クロロフェノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン、トルエン、1,2ジクロロエタン、アセトン、ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、メチルアルコール、エチルアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミドなどの群から選ばれるいずれか1種、又はいずれか2種以上の組み合わせからなる混合物を採用することができる。
【0039】
高分子溶液の濃度は5~30質量%の範囲内にあること、好ましくは高分子材料の濃度は10~20質量%の範囲内にある。
【0040】
高分子基材は、塗工、あるいは紡糸後に硬化、架橋させることが好ましく、これによって強度が向上するとともに不溶化することが多い。このような反応が可能な高分子としてはポリアクリロニトリルなどが挙げられる。架橋は追加の高温加熱処理を意味し、樹脂末端の反応性残基による更なる高分子化の促進である。例えば、ポリアクリロニトリルにおいては、ニトリル基の閉環反応によるハシゴ型(ラダーポリー)への移行によって達成される。通常は、200から300℃の温度範囲昇温し、30分~3時間程度保持する手法が用いられる。
【0041】
層状複水酸化物結晶は、層状構造を持つため、その結晶は、ab面が広がった板状の形状が多いことが知られているが、上記基材面に対してab面を垂直に又は斜めに交差する方向に配向させて(言いかえれば、平行ではない形態で)担持させることは、吸着分離デバイスにとって極めて有利な特性である。このとき、高分子基材に配向して担持されている角度としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、5~90°が好ましく、60~90°がより好ましく、80~90°が更に好ましい。
【0042】
層状複水酸化物は、水酸化物層に平行なab面に平行な方向に、層間のアニオンが移動してイオン交換が起こる。これは、ab面に平行な方向では起こらない。
板状結晶における広い面は、このab面と並行である。従い、基材上に層状複水酸化物の板状結晶が垂直に近い角度で配向する方が、低い角度で配向するよりも、分離対象物(例えば、有害アニオン)との接触効率が格段に高くなる。
【0043】
上記工程を経て製造された複合体は、特に限定はないが用途に応じてフィルター化してディスクやカラム、カートリッジなどに加工し、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、GPC等の吸着クロマトグラフィーや分配クロマトグラフィーとし、目的化合物の精製・濃縮・分析・分取デバイスとして用いることができる。
【0044】
更には前記デバイスを、カートリッジ、カセット、キャニスター、注射器、マルチウェルプレート、フィルターホルダー等の形状の分離デバイスへの応用が可能である。
【0045】
上記の分離処理の方法についてより具体的に説明すると、充填材が充填されてなるディスク、カラム、カートリッジ等に液体若しくは気体試料等を流通させ、処理対象物質の測定を妨害する物質を吸着させることによって処理対象物質を精製したり、処理対象物質を充填材に一旦吸着させた後、例えば、選択性の高いCO 2-を含む溶液で溶出させることによって処理対象物質を精製・濃縮したり、処理対象物質をその他の共存物質と分離したうえで適当な検出器を用いて定量したり、処理対象物質の分取が可能である。具体例として、固相抽出カートリッジを用いた環境汚染物質の捕捉・濃縮が挙げられる。
【0046】
複合体の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に複合体が製造できる点で、MII、及び、MIIIを含有する塩、並びに、アルカリ成分、及び、加水分解してアルカリ成分を放出する化合物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ源化合物、を含有する水溶液に、高分子基材を浸漬させて、加熱して、複合体を得る、複合体の製造方法が好ましい。
加熱の方法としては特に制限されず、水熱処理であってもよい。加熱温度としては特に制限されず、上記化合物が加水分解可能な程度の温度に加熱すればよく、典型的には60~200℃が好ましい。
【0047】
上記アルカリ源化合物としては特に制限されないが、尿素、エチレンジアミン、及び、ヘキサメチレンテトラミンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0048】
本複合体の製造方法は、更に、溶媒と、アニオン種としてAn-とを含有する溶液中で、層状複水酸化物の層間アニオンを交換すること(工程)を含んでいてもよい。
このとき、上記溶液は、溶媒と、An-を含有する塩、又は、化合物を混合して得られたものであることが好ましい。また、層間アニオンがCO 2-である場合、上記交換することは、上記溶液に酸又は酸性物質を加えた酸性条件下でアニオン交換を行い、上記層間からCO 2-を除去する操作であることが好ましい。また、溶媒が水、メタノール、及び、エタノールからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒が好ましい。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において使用した評価法は以下のとおりである。
【0050】
(製造例1)
ポリアクリロニトリルPAN(Mw150000、シグマアルドリッチジャパン社製)をジメチルホルムアミド(DMF)に15質量%混合し、80℃で8時間撹拌してPAN溶液を調製した。このPAN溶液をシリンジに充填し、エレクトロスピニングユニット(NEU,カトーテック株式会社製)を用いて、内径0.7mmの紡糸ノズルに15kVを印加して、シリンジポンプの送液速度を0.4mm/分で不織布を作製した。得られたPAN繊維の太さは0.8~1.2μmであった。
【0051】
(製造例2)
製造例1で作成した不織布を250℃の電気炉で30分及び60分加熱処理した。この不織布を3mm×5mm短冊状に切り、引張試験装置(EZ-S,島津製作所社製)を用いて引張速度1mm/分で引張試験を実施した。未処理試料を含めた各試料の応力-ひずみ曲線を図1に示す。加熱処理により架橋反応が進み、不織布の強度増加が確認された。試料の断面厚さは、垂直に固定してSEM観察により観測し、最大降伏強度、引張弾性率を求め表1にまとめた。60分の加熱処理試料が機械的性質を飛躍的に改善できたため、これを高分子繊維基材として使用することとした。
【0052】
(製造例3)PS不織布の製造
ペレット状ポリスチレンPS(Mw190000、シグマアルドリッチジャパン社製)をMEKに30質量%混合し、60℃で4時間撹拌してPS溶液を調製した。このPS溶液を製造例1と同様に方法で不織布を作製した。得られたPS繊維の太さは8.3~12μmであった。
【0053】
<実施例1>
硝酸マグネシウム六水和物,硝酸アルミニウム九水和物をMg:Al=2:1で配合した溶液と0.7Mの尿素水溶液を2:1(vol/vol)の比率で加えた混合溶液(50mL)をポリテトラフルオロエチレン製容器に入れて、高分子基材として製造例1で調製したPAN不織布(5mg)を浸漬させて、80℃、7日間で水熱処理を行なった。水熱処理後、圧力容器内から木綿を取り出して、水洗浄を繰り返し、80℃で乾燥して試料を得た。この布試料をスライド硝子上に載せてXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物が木綿表面で合成できたと判断できる。処理後の木綿試料は12mgであり、SEM観察した結果を図2に示す。直径4μmの六角板状層状複水酸化物の結晶の中心にPAN繊維が串刺し状に成長している様子が確認できた。
【0054】
<実施例2>
非特許文献に従い硝酸マグネシウム六水和物,硝酸アルミニウム九水和物をMg:Al=2:1で配合しヘキサメチレンテトラミンを加えて混合溶液を調製した。得られた溶液(60mL)をポリテトラフルオロエチレン製容器に入れて、高分子基材として木綿(5mg)を浸漬させて、140℃、24時間で水熱処理を行なった。水熱処理後、圧力容器内から木綿を取り出して、水洗浄を繰り返し、80℃で乾燥して試料を得た。この布試料をスライド硝子上に載せてXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物が木綿表面で合成できたと判断できる。処理後の木綿試料は22mgであり、SEM観察した結果を図3に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が成長している様子が確認できた。
【0055】
<実施例3>
実施例2で使用した高分子基材を製造例2で作製したPAN不織布(4mg)に変え、実施例2と同様に水熱処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物がPAN表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は19mgであり、SEM観察した結果を図4に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0056】
<実施例4>
実施例2で使用した高分子基材をナイロン66繊維(旭化成製、レオナ)(繊維径20μm、4mg)に変え、実施例2と同様に水熱処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物がナイロン66表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は15mgであり、SEM観察した結果を図5に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0057】
<実施例5>
実施例2で使用した高分子基材を芳香族ポリアミドのアラミド繊維ケブラー糸(繊維径310μm、6mg)に変え、実施例2と同様に水熱処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物がケブラー糸表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は16mgであり、SEM観察した結果を図6に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0058】
<実施例6>
実施例2で使用した高分子基材をウレタンフォーム(6mg)に変え、実施例2と同様に水熱処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物がウレタンフォーム表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は26mgであり、SEM観察した結果を図7に示す。ウレタンフォーム表面に層状複水酸化物の結晶片が斜めに重なり合って成長している様子が確認できた。
【0059】
<実施例7>
実施例2で使用した高分子基材を布状キュプラ繊維(旭化成製、ベンコット)(繊維径14μm、4mg)に変え、実施例2と同様に水熱処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物がキュプラ表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は16mgであり、SEM観察した結果を図8に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0060】
<実施例8>
実施例2で使用した高分子基材を絹繊維(繊維径16μm、4mg)に変え、実施例2と同様に水熱処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物が絹表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は10mgであり、SEM観察した結果を図9に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に層状複水酸化物の0.2~1μmの粒子の端面が垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0061】
<実施例9>
実施例1で使用した高分子基材を製造例2で調製した不燃化処理PAN(繊維径 約1μm、4mg)に変えた以外は、実施例1と同様の操作で処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物が絹表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は15mgであり、SEM観察した結果を図10に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0062】
<実施例10>
実施例2で使用した高分子基材を製造例2で調製した不燃化処理PAN(繊維径約1μm、4mg)に変えた以外は、実施例2と同様の操作で処理を行った。得られた試料をXRDパターンは、0.78nmの003反射が確認された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍のピークが観測されることから炭酸型層状複水酸化物が絹表面で合成できたと判断できる。処理後の不織布試料は22mgであり、SEM観察した結果を図11に示す。繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が繊維に垂直方向に成長している様子が確認できた。
【0063】
<実施例11>
実施例3で得られた層状複水酸化物-高分子繊維複合体不織布をメタノール溶媒中に投入して1%の懸濁液を調製し、該粉末試料に対して42質量%の過塩素酸を加えて、窒素雰囲気下、40℃で約1時間過塩素酸処理を行なった。その後、濾過・水洗・凍結乾燥を行った。XRD回折の結果、層間隔は実施例3の0.78nmから0.9nmへとシフトしたことが確認できた。また、FTIRスペクトル測定の結果は、実施例3で観測された1360cm-1近傍のCO 2-に帰属されるピークが消失し、1080cm-1近傍に強いピークが観測されことから、層間アニオンは過塩素酸に交換できたと判断できる。
【0064】
<実施例12>
実施例11の過塩素酸を塩化アンモニウム(NH4Cl)に変えた以外は実施例11と同様に処理を行って、実施例4に係る粉末試料を調製した。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔が0.89nmと算出された。また、FTIRスペクトルにおいて1360cm-1近傍の炭酸イオンのピークの消失が観測されたことから、塩素型層状複水酸化物が得られたと判断できる。
【0065】
<実施例13>
実施例12で調製した塩素型層状複水酸化物-高分子繊維複合体(不織布)を8枚重ねにしたフィルター層(40mg)を内径12mmのアリン氏管型ガラス容器に詰めて簡易フィルター(図12)を作成した。このフィルター上部からリン濃度1ppmのNaHPO水溶液25mLを5回に分けて流して各試料検体を採取した。5mLずつ分けて採取した試料溶液のP濃度は、モリブデンブルー法でUV-vis測定から吸着率を算出した(図13)。その結果、5回に分けて通液した試験検体は、ほぼ安定的に50%以上のP濃度低下が観測されており、このフィルターにPアニオン分離能があることが示された。通液性も良好であり、溶液との接触パスを長くとるなどフィルター設計によって優れた分離デバイスを得ることが可能である。
【0066】
<比較例1>
実施例2で使用した高分子基材を製造例3で作製したPS不織布(6mg)に代え、実施例2と同様に水熱処理を行った。処理後の不織布試料は約6mgであり、SEM観察した結果繊維表面にわずかな層状複水酸化物が付着しているだけであった。
【0067】
<比較例2>
実施例2で使用した高分子基材をポリエチレン製不織布(1cm)に代え、実施例2と同様に水熱処理を行った。処理後の不織布試料は4mgであり、繊維表面に層状複水酸化物の結晶片が成長している様子が確認できなかった。
【0068】
<比較例3>
実施例2で使用した高分子基材をポリプロピレン製不織布(1cm)に代え、実施例2と同様に水熱処理を行った。処理後の不織布試料の重量に変化はなく、SEM観察した結果繊維表面には全く層状複水酸化物が付着してしなかった。
【0069】
【表1】
【符号の説明】
【0070】
1 ガラス管
2 P溶液
3 不織布フィルター層
4 ガラスフィルター

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13