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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】降下煤塵分級装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20230602BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20230602BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
G01N1/02 A
G01N1/40
G01N1/04 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019100074
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193886
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592244376
【氏名又は名称】日鉄テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】末岡 一男
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 信明
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023970(JP,A)
【文献】特開2011-247609(JP,A)
【文献】特開平02-040212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02
G01N 1/40
G01N 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中に含まれる粒子のうち降下煤塵を分級によって濃縮するための装置であって、
密閉された容器と、
前記容器または前記容器の内部に設けられ、当該容器の内部に前記降下煤塵を含む空気を流入させる流入口と、
前記容器の内部において前記流入口の気流下流側に設けられ、前記流入口と同一の中心軸を有し、上流から下流方向に直径の減少するテーパ部を備えた、空気に含まれる粒子のうち、より大きな粒子である大粒子を主に含む空気と、より小さな粒子である小粒子を主に含む空気とに分離するための、1つ、または、2つ以上の分級管と、
前記容器の内部において前記分級管の気流下流側に設けられ、当該分級管と同一の中心軸を有し、前記大粒子を含む空気を流出させる大粒子側流出口と、
前記容器または前記容器の内部において前記流入口の気流下流側に設けられ、前記小粒子を含む空気を流出させる小粒子側流出口と、
前記容器の外部に設けられ、前記大粒子側流出口に連通し、前記大粒子を含む空気を吸引する大粒子側吸引装置と、
前記容器の外部に設けられ、前記小粒子側流出口に連通し、前記小粒子を含む空気を吸引する小粒子側吸引装置と、を有することを特徴とする、降下煤塵分級装置。
【請求項2】
前記分級管は、前記テーパ部、前記テーパ部の上端に接続された円管形状を有するレセプタ、並びに、前記テーパ部の下端に接続された円管形状を有するノズルから構成されることを特徴とする、請求項1に記載の降下煤塵分級装置。
【請求項3】
前記流入口は、鉛直方向の中心軸を備えた円管形状を有する第1のノズルの下端に形成され、
前記分級管のうち最も上方に位置する分級管における前記レセプタが前記第1のノズルの直下に位置し、
前記大粒子側流出口が、前記分級管のうち最も下方に位置する分級管におけるノズルの直下に位置することを特徴とする、請求項2に記載の降下煤塵分級装置。
【請求項4】
前記小粒子側吸引装置は、軸流ファンであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の降下煤塵分級装置。
【請求項5】
前記小粒子側流出口は、前記容器の底板に形成され、前記軸流ファンの流入口と直接に接続されることを特徴とする、請求項4に記載の降下煤塵分級装置。
【請求項6】
前記テーパ部の内壁は、当該テーパ部の中心軸に垂直な平面に対してなす傾斜角が70°以上、かつ、90°未満の範囲であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の降下煤塵分級装置。
【請求項7】
前記テーパ部の内壁の表面は、導電性および粒子衝突に対する衝撃吸収性を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の降下煤塵分級装置。
【請求項8】
前記容器の内部に設けられ、前記分級管を支持する支持具をさらに有し、
前記支持具には、前記流入口から流入した空気が通過する開口部が形成されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の降下煤塵分級装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に含まれる粒子のうち降下煤塵を分級によって濃縮するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の生産活動および消費活動に伴って発生する大気中の煤塵のうち、特に大気中を自由落下しうる概ね10μm以上の直径である粗大な煤塵は、降下煤塵と呼ばれる。降下煤塵は、重要な環境汚染項目のひとつとみなされており、その実態把握と対策が社会から求められている。例えば、原子力発電所の事故によって大気中に飛散した降下煤塵の管理は、環境対策上、重要である。大気中の煤塵の実態把握のためには、大気中における煤塵の濃度分布を把握することが特に重要である。
【0003】
近年の小型(通常、25kg未満)のUAV(unmanned aerial vehicle、通称、ドローン)の性能向上により、煤塵採取装置を小型無人航空機に搭載して上空で大気をサンプリングし、上空での煤塵濃度を測定する試みも行われている。このような用途では煤塵採取装置は、小型無人航空機に搭載可能なように十分に軽量であることが好ましい。また、従来の小型無人機搭載の煤塵採取装置では、大気中での個数濃度が一般に大きい、PM2.5(particulate matter 2.5)等の微小な煤塵の採取を前提として、上空で比較的小流量(例えば、数10l/min以下)での吸引を行った大気を、直接フィルタで捕集するか、光散乱式粒子濃度計等のオンライン分析器に供給することが行われてきた。
【0004】
一方、小型無人航空機に煤塵採取装置を搭載して大気中の降下煤塵を分析しようとする場合には、このように、吸引された大気を直接処理することは、不効率である。これは、大気中の降下煤塵の個数濃度は、PM2.5等のエアロゾルに比べて遥かに希薄であるため、これを直接に吸引して捕集、または、オンライン分析するとすれば、大規模な装置が必要となって小型無人航空機に搭載できなくなるからである。装置が大型化する理由は、例えば大気を吸引し、これを直接、フィルタを通過させてフィルタ上で降下煤塵を捕集する場合には、分析に必要な量の降下煤塵を得るために、大量の大気(例えば、100l/min以上)を吸引する必要があり、この大気を直接、フィルタに通過させる際には、大型の吸引装置を用いるか、通気抵抗を低下させるためにより大型のフィルタを用いなければならないからである。また、吸引した大気中の降下煤塵をパーティクルカウンタ等のオンライン分析装置に供給する際、分析に必要な量の降下煤塵を得るために大量の大気を処理しようとすると、測定部をより大型化し、レーザ照射装置および受光器をより大型化する必要があるからである。このため、小型無人航空機に降下煤塵用の煤塵採取装置を搭載する際には、吸引した大気中の降下煤塵を濃縮してより少量の空気流量にしてから捕集やオンライン分析を行うことが必要である。
【0005】
降下煤塵の沈着速度(降下煤塵量)を計測するための計測装置として、例えば、特許文献1~3に、据え置き型のものが開示されている。この装置では吸引した大量の大気中に存在する降下煤塵を濃縮してフィルタで捕集できるように、バーチャルインパクタを用いる。バーチャルインパクタの構造については、例えば、非特許文献1に示されている。その具体的な構造の概念を、図1を用いて説明する。
【0006】
図1に示すようにバーチャルインパクタ100は、円筒形状の容器110を有している。容器110は、円筒体111と、円筒体111の上面開口を覆う天板112と、円筒体111の下面開口を覆う底板113とを有し、これら円筒体111、天板112、および、底板113で内部空間が形成されている。バーチャルインパクタ100では、天板112を貫通する流入管120から空気を導入し、底板113または円筒体111を貫通する流出管から分級処理された空気を流出させる。流出管としては、大粒子側流出管121と小粒子側流出管122の2種類が設けられる。
【0007】
容器110の上記の内部空間にはノズル123(非特許文献1では「加速ノズル」と呼称)とレセプタ124(非特許文献1では「捕集ノズル」と呼称)が設けられる。ノズル123は流入管120に接続され、レセプタ124は大粒子側流出管121に接続される。小粒子側流出管122は、円筒体111または底板113を貫通して上記の容器110内の内部空間に接続される。大粒子側流出管121および小粒子側流出管122には、大粒子側吸引装置125および小粒子側吸引装置126がそれぞれ接続される。この2つの吸引装置125、126には、ブロワまたは圧縮機が用いられる。この2つの吸引装置125、126を共用することもできるが、共用する際には少なくとも一方の吸引装置125、126に流量調整のための減圧弁を設ける必要がある。バーチャルインパクタ100によって分級された粒子および空気を捕集するためのフィルタや、バーチャルインパクタ100によって分級された粒子を計測するためのオンライン粒子計測装置等である煤塵処理器127は、大粒子側吸引装置125および小粒子側吸引装置126の上流または下流に接続される。煤塵処理器127がフィルタである場合には、通常、吸引装置125、126の上流に設けられる。
【0008】
このような構成のバーチャルインパクタ100において吸引装置125、126の吸引を行うと、流入管120から吸引された外気は、流入管120およびノズル123において加速されてノズル123からレセプタ124方向へ容器110内で吐出される。吐出された空気に含まれる粒子のうち分級のしきい値以上の粒径である粒子は、吐出された空気の一部とともにレセプタ124内に流入して、後続する大粒子側流出管121経由で大粒子側の煤塵処理器127に至る(従来の第2の空気の流れ132)。残りの吐出された粒子および空気は、レセプタ124を迂回して、小粒子側流出管122を経由で小粒子側の煤塵処理器127に至る(従来の第1の空気の流れ131)。このようにして、従来のバーチャルインパクタ100では煤塵粒子の分級が行われる。
【0009】
上記の分級のしきい値を例えば、粒径10μmに設定すれば、吸引された外気のうちの降下煤塵の大半を大粒子側流出管121側に、より少量の空気とともに分離できる。即ち、大気中の降下煤塵を濃縮することができる。降下煤塵を濃縮することによって処理すべき空気流量が減少するので、例えば、より小型のフィルタを大粒子側流出管121に用いることができる。
【0010】
また、ノズル123およびレセプタ124を複数備えたバーチャルインパクタの例として、図2に示す構造の二段式バーチャルインパクタ100が開示されている。このバーチャルインパクタ100では、ノズル123とレセプタ124が2組設けられ、実質的に2台のバーチャルインパクタが直列に接続された構造に相当する。容器110内は、仕切板114によって上下に分割される。
【0011】
従来の第3の空気の流れ133は、小粒子を主に含む空気の流れであり、上流側のノズル123Aから容器110に流入し、上流側のレセプタ124Aを迂回して下流側のノズル123B経由で仕切板114の下側の空間に流入した後、小粒子側流出管122を経由して図示しない小粒子側吸引装置に至る。一方、大粒子を含む空気の流れは、従来の第4の空気の流れ134の経路で上流側のノズル123Aから上流側のレセプタ124Aを通って、支持具128Aに保持された煤塵処理器127Aであるフィルタで大粒子を除去した後、大粒子側流出管121Aを経由して図示しない大粒子側吸引装置に至る。尚、仕切板114の下側の空間でも、下流側のノズル123Bから下流側のレセプタ124Bを通って、支持具128Bに保持された煤塵処理器127Bであるフィルタで大粒子を除去した後、大粒子側流出管121Bを経由して図示しない大粒子側吸引装置に至る。
【0012】
バーチャルインパクタ100では外気を吸引するために容器110内を負圧に維持する必要がある。このバーチャルインパクタ100では、容器110内が上下に分割されている。バーチャルインパクタ100において直径10μmでの分級を行う際の一般的な流速である例えば、13m/sの吐出流速をノズル123Aでそれぞれ得ようとすれば、容器110内で仕切板114の上方の空間での静圧を外気でのものよりも少なくとも100Pa以上低く設定する必要がある。同様に、下流側のノズル123Bで123Aと同じ吐出流速を得ようとすれば、仕切板114より下方の空間での静圧を、仕切板114より上方の空間でのものよりも少なくとも100Pa以上低く設定する、即ち、仕切板114より下方の空間での静圧を外気でのものよりも200Pa以上低く設定する必要がある。
【0013】
非特許文献2に示すように、工業的に粒子を濃縮するための装置には、サイクロンセパレータやインパクタも広く用いられる。同一の粒径しきい値を前提とした場合、サイクロンセパレータ等の他の連続式分級器に比べて、バーチャルインパクタでは、構造がより単純であるため、処理流量が比較的小さい(例えば、10L/min以下)場合には装置をより小型化できる特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第4795280号報
【文献】特許第4795295号報
【文献】特許第4870243号報
【非特許文献】
【0015】
【文献】JIS規格 Z7152:2013
【文献】和田匡司ら著 「固定発生源煙道内PM10/PM2.5質量濃度測定用multi-stage VIS impactorの分級特性」 粉体工学会誌 Vol.46 No.6 2009 pp.467-475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、小型無人航空機に搭載可能なレベルに軽量、かつ、より多量の降下煤塵を処理可能な分級装置(例えば、バーチャルインパクタ)の提供にある。以下に説明するように、従来技術では、多量の降下煤塵を処理しようとすると小型無人機に搭載不可能な装置重量となり、装置を軽量にするとサンプリングの代表性を保てないほど少量の降下煤塵個数しか処理できなかった。
【0017】
降下煤塵の大気中個数濃度は、PM2.5等に比べて極端に小さい。このため、従来の携帯式PM2.5等で採用されるレベルの小流量(例えば、数L/min)のサンプリングでは、サンプリング個数が過少なために降下煤塵サンプリングの代表性を保てない問題がある。例えば、一般的な屋外大気を前提にした場合、大気中の直径30μmの降下煤塵を10s周期でサンプリング(計測)し、かつ、平均値が統計的に意味を持つ10個以上の降下煤塵捕集を常に行おうとすれば、約100L/min以上の流量で大気を処理する必要がある。
【0018】
バーチャルインパクタにおいて単一のノズル-レセプタの対のみで分級を行うとき、処理流量が大きい場合(例えば、10L/minを大きく超える場合)には、ノズル流速をより大きくする(即ち、容器内をより低圧化する)必要があり(例えば、30m/s以上)、より高揚程、かつ、より高容量の吸引装置を用いなければならない。このため、従来のバーチャルインパクタにおいて大きい流量を処理する場合には、非特許文献1に示されるように、処理流量が小さいノズル-レセプタの対を並列に複数設置することで対処してきた。このように装置を並列化すると構造が比較的単純で軽量であるというバーチャルインパクタの利点が失われる。このため、工業的な分級処理においては、より低流速でも分級の可能な、サイクロンセパレータ等の他の分級装置が、大きな流量を処理する場合には多用されてきた。
【0019】
しかし、小型無人航空機への適用を想定した場合、サイクロンセパレータでは、粒子を主流から分離するために、装置の下部に比較的大きな空間を設ける必要があり、小型化が難しいという問題がある。また、サイクロンセパレータ内のこの大きな空間では粒子が装置内壁に付着しやすいので、分級後の粒子をリアルタイムで分析する用途には向かない。サイクロンセパレータで内壁に粒子が付着しやすい理由は次のとおりである。サイクロンセパレータでは、遠心力を用いてこの下部の空間内で粒子を外側、即ち、内壁側に押しやって主流から分離し、内壁近傍の低風速領域で粒子沈降を図る原理なので、粒子が内壁に付着しやすい。これに対してバーチャルインパクタでは、粒子は常に高速気流内に存在し、装置内壁側に粒子を移動させる特段の作用もないので、粒子は内壁面に接触しにくく、かつ、仮に内壁に粒子が付着したとしても、周囲の高速気流によって容易に粒子が内壁面から離脱可能である。従って、煤塵処理器としてリアルタイムの分析を行うための分級装置としては、バーチャルインパクタの方が適している。
【0020】
大きな流量をバーチャルインパクタで処理する際の他の問題点として、以下の理由によって装置が大型化、重量化することがあげられる。分級効果を得るためには、1段のノズル-レセプタにおいて、大粒子側流出口の吸引流量を小粒子側流出口での流量の少なくとも1/10以上に設定する必要がある(即ち、1段のバーチャルインパクタでは粒子濃度を10倍以上には濃縮できない)。、本発明が前提とする外気の吸引流量が100L/min以上と従来装置に比べて桁違いに大きいため、1段のバーチャルインパクタで外気を濃縮したとしても、少なくとも外気の吸引流量の1/10以上(流量が10L/min以上)の比較的大容量の吸引装置(ブロワ、または、圧縮機)を大粒子側流出口に設けることが必要となり、で装置が大型化、重量化する。
【0021】
大粒子側流出口の吸引流量を小粒子側流出口での流量の少なくとも1/10以上に設定する理由を説明する。大粒子側流出口の吸引流量を小粒子側流出口での流量の1/10以下に設計すること自体は可能だが、その場合、レセプタの入口において中心軸に平行に循環をなす二次流を生じ、レセプタ内に進入した粒子のうち数割のオーダのものがこの二次流の効果によってレセプタ外に排出される現象を生じる。この影響によって大粒子側に流出させたい粒子の多くが小粒子側に流出するために、粒子の濃縮率は10倍以上にはならない(二次流の状態次第では、大粒子側流出口での吸引流量の極端な削減によって濃縮率がかえって低下する場合もある)。このため、通常、顕著な二次流を発生させないように、大粒子側流出口の吸引流量を小粒子側流出口での流量の比に制限(1:9)を設ける設計が行われる。
【0022】
また、図2に示すように容器を多段に設けることによって、最下流の容器の下端に設けられる大粒子側流出口での吸引流量を削減することは、可能である。しかし、上述のように図2の多段のバーチャルインパクタでは、容器内で求められる負圧の大きさが一段のバーチャルインパクタでのものよりも著しく大きいため、小粒子側吸引装置に高い揚程が求められる。このため、処理流量当たりの装置重量は小さいものの高い揚程を実現することの困難な、ファン(特に、軽量化効果の高い、単段の軸流ファン)を適用することが困難であった。即ち、小型の単段軸流ファンを実用的な流量で使用する場合には100Paを大きく超える揚程を実現することが困難であるのに対し、多段のバーチャルインパクタにおける小粒子側吸引措置に求められる揚程は通常、数百Paに達するので、単段軸流ファンを採用することはできず、重量の大きな大容量・高揚程のブロワまたは圧縮機を適用せざるをえない。
【0023】
さらに、このような多段の容器を用いるバーチャルインパクタでは、通常、上流の段ほど大きな粒子を分級するように設計されており、段ごとに異なる粒径範囲の粒子を捕集するカスケード式の粒子捕集装置としての用途のものである。このため、小粒子側流出口では分級された粒子を捕集するためのフィルタを設けることが標準的であり、フィルタの通気抵抗の効果によって吸引装置の所要揚程がより上昇するので、低揚程であるファンを適用することは一層、困難である。
【0024】
以上のように従来のバーチャルインパクタ、特に、携帯式のものとしては比較的大きな流量を処理するものでは装置が大型化・重量化することが避けられず、小型UAVに搭載可能なレベルのものを実現することが困難であった。
【0025】
そこで、本発明は、小型無人航空機(UAV)に搭載可能なレベルの軽量、かつ、大容量の大気を処理可能な分級装置(バーチャルインパクタ)の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記の目的を達成するため、本発明者は鋭意検討の結果、以下の解決方法を発明するに至った。
【0027】
第1の発明は、大気中に含まれる粒子のうち降下煤塵を分級によって濃縮するための装置であって、密閉された容器と、前記容器または前記容器の内部に設けられ、当該容器の内部に前記降下煤塵を含む空気を流入させる流入口と、前記容器の内部において前記流入口の気流下流側に設けられ、前記流入口と同一の中心軸を有し、上流から下流方向に直径の減少するテーパ部を備えた、空気に含まれる粒子のうち、より大きな粒子である大粒子を主に含む空気と、より小さな粒子である小粒子を主に含む空気とに分離するための、1つ、または、2つ以上の分級管と、前記容器の内部において前記分級管の気流下流側に設けられ、当該分級管と同一の中心軸を有し、前記大粒子を含む空気を流出させる大粒子側流出口と、前記容器または前記容器の内部において前記流入口の気流下流側に設けられ、前記小粒子を含む空気を流出させる小粒子側流出口と、前記容器の外部に設けられ、前記大粒子側流出口に連通し、前記大粒子を含む空気を吸引する大粒子側吸引装置と、前記容器の外部に設けられ、前記小粒子側流出口に連通し、前記小粒子を含む空気を吸引する小粒子側吸引装置と、を有することを特徴とする、降下煤塵分級装置である。
【0028】
第2の発明は、前記分級管は、前記テーパ部、前記テーパ部の上端に接続された円管形状を有するレセプタ、並びに、前記テーパ部の下端に接続された円管形状を有するノズルから構成されることを特徴とする、第1の発明に記載の降下煤塵分級装置である。
【0029】
第3の発明は、前記流入口は、鉛直方向の中心軸を備えた円管形状を有する第1のノズルの下端に形成され、前記分級管のうち最も上方に位置する分級管における前記レセプタが前記第1のノズルの直下に位置し、前記大粒子側流出口が、前記分級管のうち最も下方に位置する分級管におけるノズルの直下に位置することを特徴とする、第2の発明に記載の降下煤塵分級装置である。
【0030】
第4の発明は、前記小粒子側吸引装置は、軸流ファンであることを特徴とする、第1~3の発明のいずれか1つに記載の降下煤塵分級装置である。
【0031】
第5の発明は、前記小粒子側流出口は、前記容器の底板に形成され、前記軸流ファンの流入口と直接に接続されることを特徴とする、第4の発明に記載の降下煤塵分級装置である。
【0032】
第6の発明は、前記テーパ部の内壁は、当該テーパ部の中心軸に垂直な平面に対してなす傾斜角が70°以上、かつ、90°未満の範囲であることを特徴とする、第1~5の発明のいずれか1つに記載の降下煤塵分級装置である。
【0033】
第7の発明は、前記テーパ部の内壁の表面は、導電性および粒子衝突に対する衝撃吸収性を有することを特徴とする、第1~6の発明のいずれか1つに記載の降下煤塵分級装置である。
【0034】
第8の発明は、前記容器の内部に設けられ、前記分級管を支持する支持具をさらに有し、前記支持具には、前記流入口から流入した空気が通過する開口部が形成されていることを特徴とする、第1~7の発明のいずれか1つに記載の降下煤塵分級装置である。
【0035】
本発明の第1の特徴は、降下煤塵分級装置において、単一の容器内に複数のノズル-レセプタの対を同軸上に配置することにより、以下の2つの効果を簡易な構造で得ることができることである。尚、以下の説明においては、降下煤塵装置がバーチャルインパクタの原理を利用した装置である場合を例に説明する。
【0036】
即ち、第1の効果として、単一の容器内において、降下煤塵濃度を、例えば、100倍といった高い倍率で濃縮することができ、装置を小型軽量化できる。具体的には、最上流のノズル-レセプタ(第1のノズルおよび第1のレセプタ)の対において、通常のバーチャルインパクタと同様の原理によって第1のレセプタの出口で降下煤塵濃度を外気でのものの10倍程度まで上昇できる。次に、第1のレセプタに下流側で直結するノズル(第2のノズル)からこの第2のノズルの対となるレセプタ(第2のレセプタ)への空気の吐出部で、上記降下煤塵が10倍程度に濃縮された空気のうち、降下煤塵の大半を含有する一部の空気を第2のレセプタに供給することにより、第2のノズルから吐出された空気中の降下煤塵濃度をさらに10倍程度まで濃縮する。即ち、容器内において、外気の100倍程度まで濃縮することができる。
【0037】
第2の効果として、小粒子側流出口は、バーチャルインパクタ全体で単一であり、かつ、ノズル-レセプタ間の空間より外側における容器内の静圧は小径側流出口含めていたるところでほぼ一様であり、ここでの静圧(即ち、小径側流出口での吸引圧力)と外気圧との差は、単段のバーチャルインパクタ並みの低い値(例えば、100Pa)でよい。その結果、軽量でも大流量を得やすい単段の軸流ファンを小粒子側流出口の吸引装置として適用することができ、装置全体を小型UAVに搭載可能なレベルに小型軽量化できる。
【0038】
従来技術を前提に大気中の粒子を100倍程度まで濃縮しようとすれば、ノズル-レセプタの対を含む容器を直列に複数接続する必要がある。例えば、従来の2段式バーチャルインパクタである図2の装置において、従来の大粒子側流出管121および従来の小粒子側流出管122の位置を一部で交換することが考えられる。即ち、図2の装置において仕切板114より上方の容器内部分を1段目のバーチャルインパクタ、下方の容器内部分を2段目のバーチャルインパクタと定義した場合、1段目のバーチャルインパクタにおいて、この段でのノズル-レセプタ間の空間の水平方向の容器側面に従来の小粒子側流出管を接続するとともに、レセプタを通過した気流をこの段の容器内空間内に排気するための貫通孔をフィルタ127Aの下方に設ける。従来の大粒子流出口は廃止する。大粒子側の気流と小粒子側の気流を混合させないように、1段目の容器内空間において小粒子側流出管が接続する部分と上記の貫通孔に接続する容器内空間との間には通気を妨げる仕切りを設けることが好ましい。
【0039】
この場合の、流速と圧力の変化を説明する。1段目のバーチャルインパクタにおいて、ノズルから1段目の容器内に吐出された空気のうちレセプタに流入しなかったものは、大きく減速するとともに圧力損失を生じて容器内に拡散する。外気がほぼ静止しているとみなすと、容器内の静圧は、少なくともノズル吐出時の動圧分、負圧である必要がある(例えば、-100Pa(ゲージ圧))。1段目のバーチャルインパクタのレセプタに流入した空気は、吐出された容器内空間において減速および整流化されたのち、2段目のバーチャルインパクタのノズルへと供給され、再び加速される。空気を加速するために、第2の容器の静圧は、第1の容器での静圧よりも少なくともノズル吐出時の動圧分、負圧にする必要がある(例えば、-200Pa(ゲージ圧))。このように、従来技術においては、下流の容器ほど静圧を低く設定する必要があるため、単段の軸流ファンで実現可能な揚程能力(例えば、-100Pa(ゲージ圧))を超えてしまう。
【0040】
これに対して、本発明では、単一の容器内の静圧は、従来技術の1段目のバーチャルインパクタと同程度に低く設定する(例えば、-100Pa(ゲージ圧))必要があるものの、ノズルごとに静圧をこれ以上低下させる必要がない。これは、第1のノズルの同軸上下方に、第1のレセプタと第2のノズルが一体化した分級管を配置することによる効果である。具体的な作用を説明する。第1のノズルから分級管内の第1のレセプタ内に流入した空気は、大きな圧力損失を生じることなく第1のレセプタ内で減速して動圧変化分、昇圧した後、分級管内の第2のノズルで再び加速して第2のノズルから流出する。分級管の軸方向長さは十分に小さく、かつ、分級管のなかには曲り・急縮小・急拡大・障害物などの抵抗要素がほとんど存在しないため、分級管内での気流の圧力損失は無視しうるほど小さく、流れの全圧は、分級管内で維持される。このため、第2のノズル内で流れを加速する際に第2のノズル出口での静圧を第1のノズル出口でのものよりも低くする必要がない。これに対して、従来技術において生じる圧力損失の大半は、ノズルから吐出されてレセプタに流入しなかった気流での急激な流路変化によるものでありバーチャルインパクタの原理上、不可避である。本発明では、第2のノズルに流入する空気は、上流においてレセプタに流入しない経路を通過していないので、圧力損失が少ない。一方、上記で説明した従来技術では、下流側のノズルに流入する空気は、レセプタに流入しない経路を必ず通過したものであるのでより大きな圧力損失が避けられない。
【0041】
本発明の第2の特徴は、分級管が、上流から下流方向に直径を減少させるテーパ部を有し、特に、テーパ部の内壁が、当該テーパ部の中心軸に垂直な平面に対してなす傾斜角を70°以上、かつ、90°未満の範囲にすることで、吸引粒子の濃縮効果を高めることができることである。尚、以下の説明においては、テーパ部の中心軸に垂直な平面が水平面である場合を例に説明する。また、テーパ部の内壁の表面を傾斜面と呼称する場合がある。
【0042】
分級のために第2のノズルで必要な吐出速度は、概ね第1のノズルでのものに等しい。一方、第2のノズルにおける空気の吐出流量は、第1のノズルでの吐出流量の1/10程度である。そこで、本発明では分級管(テーパ部)の直径を第1のレセプタから第2のノズルの間で減少させることによって、第2のノズルにおいて流量が減少しても所要の吐出速度を満足することができる。第2のノズルにおける空気の吐出流量は、第1のノズルでの吐出流量の1/10程度である。
【0043】
ここで、テーパ部の直径を減少する際、軸方向に急激に断面積を減少すること、即ち、テーパ部の内壁が水平面に対してなす傾斜角を小さく設定することは好ましくない。その理由は、直径100μm以上といった粗大な粒子が第1のノズルの吐出時に10m/s以上といった高速で第2のレセプタに向けて流出する際には、粒子の慣性が大きいので周囲の空気の流れとはほとんど無関係に上記の傾斜面に衝突して跳ね返るものの割合が大きいからである。粒子が内壁面に衝突する場合、一般に入射角と反射角は同程度になる場合が多いので、比較的細い管内で内壁面に衝突した粒子は、管内で衝突を繰り返すことが一般的である。粒子がノズル内壁面に衝突する際には運動量の損失を生じて反射後の粒子速度は減速するものの、繰り返しの衝突によって粗大な粒子の速度が十分に低下する(即ち、周囲の流れに従って下流へ粒子が移動しうる粒子速度まで低下する)までには、少なくとも2~3回以上の衝突回数が一般に必要である。ここで、もし、粒子が内壁に繰り返し衝突する粒子経路の途中で粒子が上流側の第1のレセプタの外部に至ることがあれば、この粗大な粒子は、本来の粗大粒子の流路である、第2のノズル、または、大粒子側流出口を通過することがないため、粒子の分級が阻害される問題を生じる。
【0044】
このような粗大粒子が管路内壁での反射によって第1のレセプタの外部に流出する現象が生じるかどうかは、主に管路内での傾斜面の傾斜角の大きさに依存する。例えば図3に示すように、テーパ部の傾斜面34の傾斜角が45°の場合、鉛直方向に第1のレセプタ内に流入してこの傾斜面34に衝突する粗大粒子は、粗大粒子の第1の経路91のような軌跡をとる。但し、気流による粒子軌跡への影響は無視している。この軌跡では2回の傾斜面34での反射を経た後、常に上流側に反射されて第1のレセプタから流出するので、この傾斜角は、好適ではない。
【0045】
同様に図4に示すように、傾斜面34の傾斜角が60°の場合も、粗大粒子の第2の経路92の軌跡をとり、2回の反射の後、第1のレセプタから流出しうるので好適ではない。尚、傾斜面34を十分長く設定できれば、2回の反射でレセプタ外に流出することはないが、分級管の通過流量、流入する気流速度、および、分級管入口と出口間での流量比から、傾斜面34の入口と出口の面積の範囲は制約されるので、可能な傾斜面34の長さは有限となる。
【0046】
一方、図5に示すように、傾斜面34の傾斜角が70°以上の場合、粗大粒子の第3の経路93の軌跡をとり、2回の反射後でも粒子が上流方向に移動することはなく、第1のレセプタから流出しない。この傾斜角では多くの場合、傾斜面34での4回以上の反射が可能である。典型的な降下煤塵粒子と金属板を素材とする傾斜面34での衝突の場合、反発係数(反射後の粒子速度/反射前の粒子速度)は0.7程度であるので、2回の反射後には粒子速度は、初期値の半分、4回の反射後には初期値の約1/4まで低下する。このため、傾斜面34が存在する領域で粗大な粒子の速度を十分に低下させる可能性が格段に上昇する。本発明では、傾斜角を70°以上に設定することにより、粗大な粒子でも傾斜面34での反射による分級性能の低下を削減することができる。
【0047】
特に、本発明の一例においては、テーパ部の傾斜面の材質を、導電性を有するとともに粒子衝突に対する衝撃吸収性を有するものとすることにより、上記の反発係数をより小さくすることができ、より少ない反射回数で、粗大な粒子でも十分低速にすることができる。また、この発明では、傾斜面の表面を絶縁材料とした場合に生じ易い、静電気による粒子の傾斜面への付着の悪影響を低減することができる。
【0048】
本発明の第3の特徴は、本発明の一例において、小粒子側吸引装置として、容器の底板にファン(例えば、容器の断面積に近い流入口断面積を有するファン)を直接、接続することにより、装置をより小型化、効率化することができる。従来技術、特に、バーチャルインパクタを多段に設ける場合、小粒子側吸引装置にはブロワまたは圧縮機を用いる必要がある。このような装置では装置内の流路断面積を容器の断面積並みに大きく設定すると重量が極端に大きくなる問題を生じるので、従来、本発明のように小粒子側吸引装置を容器に直接設ける装置配置は、困難であった。
【0049】
本発明では、小粒子側吸引装置に、流入口断面積に対して軸方向の装置厚がブロワ等と比べて薄くすることのできる、ファン(特に、軸流ファン)を用いることで、小粒子側吸引装置を容器の底部に直結することができる。また、ファンと容器を分離して設ける場合、ファン通過時の圧損を低下させるためにファンの入口に整流のため空間(ヘッダ)を設けることが一般的であるが、本発明ではヘッダの役割を容器が果たすためにヘッダを省略でき、より軽量化が図れる。
なお、本発明では分級管を2個以上、同軸上に配置する場合の可能である。分級管の個数によらず説明を簡略化するために、最も上流のノズルを最初のノズルとよび、最も下流の分級管を最後の分級管とよび、最も下流のレセプタを最後のレセプタとよぶことにする。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、小型無人航空機に搭載可能な軽量で、大量の大気から大気中の降下煤塵を濃縮することが可能な分級装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】従来技術でのバーチャルインパクタの構造の一例の模式図である。
図2】従来技術でのバーチャルインパクタの構造の他の一例の模式図である。
図3】本発明の原理に関わる模式図である。
図4】本発明の原理に関わる他の模式図である。
図5】本発明の原理に関わる他の模式図である。
図6】本発明の第1の実施形態におけるバーチャルインパクタの一例の模式図である。
図7】本発明の実施形態における分級管の一例の模式図である。
図8】本発明の第2の実施形態におけるバーチャルインパクタの他の一例の模式図である。
図9】本発明の第3の実施形態におけるバーチャルインパクタの他の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。尚、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0053】
[第1の実施形態]
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
(全体構成)
第1の実施形態のバーチャルインパクタ1の構造の一例を、図6を用いて説明する。バーチャルインパクタ1は、鉛直方向の中心軸を備えた円筒形状の容器10を有している。容器10は、円筒体11と、円筒体11の上面開口を覆う天板12と、円筒体11の下面開口を覆う底板13とを有し、これら円筒体11、天板12、および、底板13で密閉された内部空間が形成されている。バーチャルインパクタ1では、天板12を貫通する流入管20から空気を導入し、円筒体11または底板13を貫通する流出管から、第1の分級管30等を用いて分級処理された空気を流出させる。流出管としては、大粒子側流出管40と小粒子側流出管50の2種類が設けられる。
【0054】
容器10の上記の内部空間には、第1のノズル21、第1の分級管30、および、第2のレセプタ41がこの順で、互いに鉛直方向に同軸となるように設けられる。第1の分級管30および第2のレセプタ41はそれぞれ、支持具60によって、円筒体11に対して固定される。図6においては、第1のノズル21が最初のノズル、第1の分級管30が最後の分級管、第2のレセプタ41が最後のレセプタである。
【0055】
第1のノズル21の上端は流入管20に接続され、下端には円形の孔である流入口22が形成される。流入管20の上端には、さらに煤塵採取管23が接続される。第2のレセプタ41の下端は大粒子側流出管40に接続され、上端には孔である大粒子側流出口42が形成される。小粒子側流出管50は、底板13を貫通して上記の容器10内の内部空間に接続される。小粒子側流出管50の上端には、孔である小粒子側流出口51が形成される。尚、小粒子側流出管50は、円筒体11を貫通して設けられてもよい。大粒子側流出管40および小粒子側流出管50には、大粒子側吸引装置43および小粒子側吸引装置52がそれぞれ接続される。バーチャルインパクタ1によって分級された粒子および空気を捕集するためのフィルタやバーチャルインパクタ1によって分級された粒子を計測するためのオンライン粒子計測装置等である煤塵処理器44は、大粒子側吸引装置43の上流または下流に接続される。煤塵処理器44がフィルタである場合には、煤塵処理器44は、通常、大粒子側吸引装置43の上流に設けられる。
【0056】
本構成の吸引装置43、52で吸引を行うと、容器10の内部の圧力が大気圧よりも低下し、外気は、流入管20経由でバーチャルインパクタ1内に吸引される。この際、バーチャルインパクタ1をUAVに搭載する場合には、UAVと周囲大気との相対速度の風上方向に向けて煤塵採取管23を設けて、煤塵採取管23の入口での吸引流速がこの相対速度の流速と一致するように(即ち、等速吸引するように)UAVの速度を設定することが好ましい。この場合、大気中の降下煤塵濃度をより正確に測定することができ、より効果的である。
【0057】
流入管20から吸引された外気(降下煤塵を含む空気)は、流入管20および第1のノズル21において加速されて、第1のノズル21から第1の分級管30方向へ容器10内に吐出される。第1のノズル21から吐出された空気に含まれる粒子のうち、分級のしきい値以上の粒径である粒子は、上記の第1のノズル21から吐出された空気の一部(例えば、第1のノズル21の吐出流量の1/10)とともに第1の分級管30の第1のレセプタ31内に進入し、一旦、減速した後、テーパ部32内を通過して、第2のノズル33へ向けて再び加速して高速で(第1のノズル21での吐出時並みの流速で)第2のレセプタ41に向けて吐出される。第1の分級管30から吐出された空気に含まれる粒子の大半は、上記の第1の分級管30から吐出された空気の一部(例えば、第1の分級管30の吐出流量の1/10)とともに第2のレセプタ41を通過して、後続する大粒子側流出管40経由で大粒子側の大粒子側吸引装置43および煤塵処理器44に至る(第3の空気の流れ73)。
【0058】
ここで、第2のノズル33および第2のレセプタ41の対による分級性能のしきい値は、第1のノズル21および第1のレセプタ31の組でのものと同程度に設定することができる。第1の分級管30や第2のレセプタ41に流入しなかった残りの粒子(その大半は、上記の分級しきい値未満の径のものである)および空気は、容器10内の空間に拡散し、そのまま、小粒子側流出管50を経由して小粒子側吸引装置52に至り、再び外気に向けて放出される(第1の空気の流れ71、第2の空気の流れ72)。上記の第1の分級管30および第2のレセプタ41での分級のしきい値を、例えば、粒径10μmに設定すれば、降下煤塵の分級を行うことができる。このようにして、本実施形態では降下煤塵の分級が行われ、大粒子側流出口42での降下煤塵濃度を、例えば、外気の100倍に濃縮することができる。
【0059】
(第1のノズル)
第1のノズル21は、流入管20の下端に接続される円管である。本実施形態では小粒子側吸引装置52にファンを用いるため、第1のノズル21の下端での静圧(≒容器10内の静圧)は、市販のファンの一般的な揚程である100Pa強程度の負圧となる。このとき、第1のノズル21の吐出流速は、次の式(1)で算出される値が上限である。
[第1のノズル吐出流速]=(2・[容器内静圧]/[空気密度])1/2 ・・・(1)
従って、所要の吸気流量に対して、第1のノズル21の下端半径は、少なくとも次の式(2)で算出される値以上とすることが好ましい。
[第1のノズル下端半径]=([所要吸気流量]/(π[第1のノズル吐出流速]))1/2 ・・・(2)
第1のノズル21での吐出流速が概ね13m/s以上あれば、以下に説明するような分級器の構造および寸法を適正な範囲に設定することによって降下煤塵(直径10μm以上の粒子)を選択的に分級・濃縮することができる。
【0060】
例えば、容器10内の静圧が-100Paで、所要吸気流量が100L/minの場合、第1のノズル21の吐出流速は約13m/sとなり、第1のノズル21の下端直径は約13mm以上に設定すればよい。吸引装置43、52の減圧能力が低い場合は、過度の圧力損失を避ける観点から、第1のノズル21に接続される流入管20およびその上流の煤塵採取管23の断面積は、第1のノズル21下端の流入口22での断面積と同等以上の値に設定することが好ましい。
【0061】
軸方向の長さに関して、第1のノズル21では、流入口22での直径の1倍以上10倍以下にすることができる。但し、濃縮性能の低下とのトレードオフを前提として、装置を小型化するために、この軸方向の長さを流入口22での直径の0.3倍までの値に低減してもよい。
【0062】
一般に管路系内のノズルで加速を行う場合には、ノズル内で下流に向けて徐々に断面積を減少させる流路形状とする場合が多い。しかし、本実施形態では、第1のノズル21内での断面積の減少は、避けることが好ましい。なぜならば、本実施形態が対象とする外気は、処理対象である降下煤塵を含むので、第1のノズル21内で流路断面積を減少させると慣性によって降下煤塵が第1のノズル21の内壁に衝突し易くなり、その反射角が第1のノズル21の吐出方向と大きく異なる場合には、降下煤塵が第1の分級管30方向に吐出されず、降下煤塵の濃縮に悪影響を及ぼすからである。従って、流路の断面積を減少させる場合には、第1のノズル21よりも十分に上流の、例えば流入管20や煤塵採取管23の内部、あるいは、外気に開放した吸引口の近傍の外気中で行われることが好ましい。このような場所で降下煤塵が内壁に衝突して反射されても、対向壁に再衝突を繰り返し、衝突の都度、壁垂直方向の速度成分が減少することによって、第1のノズル21に至るまでに管路内の流線方向に降下煤塵の移動方向が揃うことが期待できるからである。
【0063】
第1のノズル21の下端の形状としては、外周部を面取りする。これにより、容器10内の流れ場での二次流を減少させ、分級効率を高めることができる。
【0064】
尚、本実施形態では、第1のノズル21は容器10の内部に設けられていたが、容器10の天板12に流入口22が形成されるように、第1のノズル21は容器10に設けられてもよい。
【0065】
(第1の分級管)
本実施形態の第1の分級管30の構造の一例を、図7を用いて説明する。図7は、第1の分級管30に相当する構造を示しており、上流側から第1のレセプタ31、テーパ部32、第2のノズル33の順で3つの部分に機能的に分割される。
【0066】
第1のレセプタ31の直径は、隣接する上流側のノズル(図6では第1のノズル21)の直径の1.2倍以上、かつ、1.5倍以下であることが好ましい。第2のノズル33の断面積は、隣接する上流側のノズル(図6では第1のノズル21)の断面積の10%以上、かつ、25%以下であることが好ましい。この断面積率の値が10%未満の場合には、第1の分級管30における第1のレセプタ31内での下流方向への流量が不足して、粒径が比較的小さい降下煤塵を第1の分級管30内へ十分に導入できなくなる問題を生じる。また、この断面積率の値が25%より大きい場合には、第1の分級管30における第1のレセプタ31内での減速が十分に得られず、降下煤塵の濃縮能力が著しく減少するので好ましくない。
【0067】
テーパ部32の傾斜面34の傾斜角35は、上述のとおり、粒子の反射が好適となるように70°以上90°未満であることが好ましい。傾斜角35は、テーパ部32の内壁が水平面に対してなす角である。この傾斜角35の値が90°以上の場合には、上記の好適な第2のノズル33の断面積の条件を満足することが幾何学的に困難であるため、好ましくない。また、テーパ部32の傾斜角35は、75°以上85°未満であることがより好ましい。この傾斜角範囲の場合、粒子の反射がより好適となり、かつ、テーパ部32の軸方向長さが長大にならないからである。さらに、テーパ部32の傾斜角35は軸方向に一定である必要は、必ずしもない。例えば、テーパ部32の上端での傾斜角を70°とし、下方に向けて傾斜角を徐々に増大してテーパ部32の下端で傾斜角35を90°にしてもよい。
【0068】
容器10内における軸方向の第1の分級管30の位置は、隣接する上流側のノズル(図6では第1のノズル21)の下端から下方に、隣接する上流側のノズル(図6では第1のノズル21)の直径の0.6倍以上、かつ、2倍以下の距離に、第1の分級管30の上端を配置することが好ましい。
【0069】
軸方向の長さに関して、第2のノズル33では、第2のノズル33下端での直径の1倍以上10倍以下にすることができる。第1のレセプタ31の軸方向長さは、第1のレセプタ31上端での直径の0.5倍以上であることが第1のレセプタ31内での二次流を低減して分級性能を高めるために好ましい。但し、装置の軸方向長さを短縮して小型化するために、濃縮性能とのトレードオフを前提として、第1のレセプタ31は上記以下の長さであってよく、第1のレセプタ31を省略してテーパ部32の下部を実質的なレセプタとして用いてもよい。また、第1のレセプタ31の軸方向長さを第1のレセプタ31上端部での直径の2倍以上に設定しても特段の有益な効果は得られないので、装置を小型化する観点から、2倍以下とすることが好ましい。
【0070】
第1のレセプタ31の上端および第2のノズル33の下端の形状は、外周面を面取りしてもよい。このようにすることで容器10内の流れ場に発生する二次流を低減でき、より急峻な分級効果が得られる。
【0071】
第1の分級管30の内壁面は平滑とし、かつ、導電性を有する素材、例えば、研磨した金属(例えば、アルミニウムやステンレス鋼)やグラファイト等を用いることが好ましい。ここでいう第1の分級管30は、第1のレセプタ31、テーパ部32、および、第2のノズル33を含む。この場合、比表面積が比較的大きい降下煤塵粒子が第1の分級管30の内壁面に付着することを抑制するのに効果がある。降下煤塵粒子の第1の分級管30の内壁面への付着は、吸引された降下煤塵を、下流に配置される煤塵処理器44に供給する機能を低下させるので好ましくない。
【0072】
テーパ部32は、吸引された気流の流線に曲率を与えるので降下煤塵粒子が衝突しやすく、かつ、衝突後の降下煤塵粒子が数回の反射後に上流側に反射されうる幾何学的配置であるため、ここでの反発係数は、より小さいことが好ましい。この観点から、テーパ部32の内壁面の素材にゴムや樹脂等の衝撃吸収材を用いることができる。この際、ゴムや樹脂を表面に剥き出しにすると静電気を帯びやすく、降下煤塵粒子を付着し易くなる問題を生じるので、これら衝撃吸収材の表面をアルミ箔やステンレス箔等の薄い導電性材料で被覆することによって静電気の蓄積を低減することができる。これら金属箔の厚みには、例えば、20μm以上、かつ、300μm以下のものを用いることができる。被覆のための接合には市販の接着剤を用いればよい。
【0073】
(第2のレセプタ)
第2のレセプタ41は、従来のバーチャルインパクタにおける粒子捕集ノズルに相当する。第2のレセプタ41の直径、配置、形状、および、素材は、第1の分級管30での第1のレセプタ31のものと同様でよい。第2のレセプタ41の軸方向の長さは、第2のレセプタ41の上端での直径の1倍以上、かつ、10倍以下にすることができる。
【0074】
(小粒子側吸引装置)
バーチャルインパクタ1の小粒子側流出管50から流出した空気は、小粒子側吸引装置52に吸引される。小粒子側吸引装置52には、誘引式のファンを用いることが好ましい。ファンの形式は、軸流ファン、シロッコファンなど様々なものを用いることができるが、大流量を小型の装置で実現するためには、軸流ファンが好ましく、装置をより軽量化するために、軸流ファンは単段であることがさらに好ましい。単段の軸流ファンには市販のものを用いることができる。様々な吸引装置形式のうち、単段の軸流ファンは、所定の吸引流量において軸方向の装置長さを最も短く設定することのできるもののひとつとなる。
【0075】
ファンの流量は、吸引した大気中の降下煤塵数が代表性を有するように十分な数の煤塵個数を測定周期の単位時間ごとに吸引するために、100L/min以上の能力のあることが好ましい。また、上記のように、降下煤塵を分級するためには、13m/s以上のノズル吐出流速が必要である。このためには、少なくとも約100Pa以下の負圧に容器10内を維持しなければならないため、ファンの揚程は、100L/minの流量条件において少なくとも100Pa以上でなければならない。さらに、流入管20や小粒子側流出管50での圧力損失を考慮すると、ファンの揚程は、100L/minの流量条件において200Pa以上であることが好ましい。これらの流量・揚程条件を同時に満たし、かつ、UAVに搭載する部品として許容される重量(例えば、100g)を満たすため、軸流ファンの回転数は高い回転数であることが好ましく、例えば、10000rpm以上の回転数のものを用いることができる。
【0076】
10000rpm以上の回転数の単段軸流ファンを用いたとしても100L/minの流量条件において200Paを大きく超える圧力を得ることは簡単ではない。従って、流入管20から容器10内を通過して小粒子側流出管50に至る流路においては圧力損失を極力低減する構造が好ましい。このためには、まず、この流路内にフィルタ等の抵抗体を配置しないことが好ましい。フィルタを設置しないと、低濃度とはいえ降下煤塵の一部が小粒子側吸引装置52であるファンに到達する。測定場所が特に高濃度の発塵地域である場合には、煤塵によるファン運転への悪影響が懸念される。そのような場合には、市販の防塵型の軸流ファンなどを用いればよい。軸流ファンは、一般に回転羽根とケーシング間の隙間をブロワや圧縮機に比べてより大きく設定でき、煤塵の噛みこみトラブルに対して有利である。防塵型ブロワや防塵型圧縮機では、防塵対策をとる際には効率の低いダイヤフラム式のものを採用するなどして装置の大型化・重量増が避けられないのに対し、防塵型軸流ファンの場合、装置の重量増は比較的小さい。従って、軸流ファンを用いることが、軽量化のためにより有利である。また、管路の径も十分大きく(例:管路内流速が10m/s未満となるような管径)、かつ、曲り部も可能な限り少なく設定できる。ファンの排気は、そのまま大気に放出してよい。
【0077】
尚、本実施形態では、小粒子側吸引装置52に軸流ファンを用い、排気をそのまま放出した。しかし、例えば小粒子を回収する場合には、小粒子側吸引装置52の上流にフィルタを設けるために、小粒子側吸引装置52により高い揚程の得られる、圧縮機を用いてもよい。但し、上述したように装置が重くなる。
【0078】
(大粒子側吸引装置)
大粒子側吸引装置43は、大粒子側流出管40を経由して第2のレセプタ41に接続され、第2のレセプタ41に流入する降下煤塵と一部の空気を吸引する。大粒子側吸引装置43の主目的は、濃縮された降下煤塵を煤塵処理器44に供給することである。煤塵処理器44は、その目的に応じて大粒子側吸引装置43の下流、または、上流で大粒子側流出管40より下流に設けることができる。煤塵処理器44が煤塵捕集用のフィルタである場合には、煤塵処理器44を大粒子側流出管40と大粒子側吸引装置43の間に設けることが好ましい。このように配置することによって大粒子側吸引装置43内への煤塵の付着を防止できるとともに、大粒子側吸引装置43を防塵仕様としなくてもよくなり、装置の軽量化を図れる。大粒子側吸引装置43として防塵型のものを用いる場合には、煤塵処理器44を必ずしも大粒子側吸引装置43の上流に配置する必要はない。
【0079】
大粒子側流出管40から大粒子側吸引装置43を経て大気を再び外気に放出する流路内には、煤塵処理器44としてのフィルタが含まれ、フィルタでの圧力損失が生じるので、大粒子側吸引装置43は小粒子側吸引装置52よりもはるかに高揚程な形式のものを用いる。一方、大粒子側吸引装置43では、濃縮されて流量が大きく減少した空気を処理すればよいので、小粒子側吸引装置52ほどの大流量を処理する必要がない。
【0080】
そこで、大粒子側吸引装置43には、ブロワまたは圧縮機を用いる。ブロワや圧縮機は、処理流量当たりの装置重量が軸流ファンに比べてはるかに大きい。しかし、本実施形態ではブロワまたは圧縮機で処理すべき流量を大幅に削減するように降下煤塵の濃縮度を上昇させているので、大粒子側吸引装置43としてブロワまたは圧縮機を用いる場合でも、重量がファンである小粒子側吸引装置52並みの軽量なもの(例えば、200g)でよい。ブロワまたは圧縮機の形式は、遠心式、斜流式、容積式等の各種の市販のものを用いることができる。即ち、ブロワまたは圧縮機の流量は、第2のレセプタ41における吸引流量が第2のノズル33からの吐出流量の1/10以上となるように設定する。例えば、第1のノズル21の吐出流量が100L/minであり、第2のノズル33の吐出流量が15L/minの場合には、ブロワまたは圧縮機の流量は、1.5L/min以上のものを用いる。
【0081】
なお、第1のノズル21および第2のノズル33の吐出流量に対してブロワまたは圧縮機の吸引流量は、ほとんど影響を与えない。ブロワまたは圧縮機の流量を大きく設定するほど分級効率は向上するものの、重量も増大する。特に、10L/min以上の市販のブロワまたは圧縮機は、小型UAV搭載用としては重量が過大になるため、ブロワまたは圧縮機には10L/min未満のものを用いることができる。ブロワまたは圧縮機の揚程は、主にフィルタでの圧力損失を補償できる能力が必要であり、上記の流量条件において少なくとも1000Pa以上、好ましくは5000Pa以上であるものを用いることができる。ブロワまたは圧縮機の排気は、煤塵処理器44に送るか、大気に放出してよい。
【0082】
(煤塵処理器)
煤塵処理器44は、本実施形態での主な処理対象である降下煤塵を少なくとも処理するための装置である。ここで、「処理」とは、オフラインでの分析に供するために降下煤塵を捕集および貯留すること、または、オンラインで重量等の降下煤塵特性を測定する装置に降下煤塵を測定することを意味する。
【0083】
降下煤塵を捕集および貯留するための煤塵処理器44には、バグフィルタやメンブレンフィルタ等のフィルタが捕集効率の観点から好ましい。フィルタによって降下煤塵を捕集および貯留する際には、降下煤塵よりも小径の粒子、例えば、SPM(suspended particulate matter)やPM2.5も同時に捕集および貯留してよい。こうすることで、より小径の粒子が下流に存在する大粒子側吸引装置43内に流入して、大粒子側吸引装置43の作動を阻害する現象を低減させることができる。このために、フィルタの目開きは、少なくとも降下煤塵の定義である10μmの粒子をほぼ100%捕集できる必要があり、かつ、ブロワまたは圧縮機で問題となる寸法の煤塵の大半を捕集できることが好ましい。例えば、3μm以上の粒子を捕集するタイプのフィルタを用いることができる。
【0084】
(容器)
容器10は、円筒体11、天板12、および、底板13を接合したものであり、外気を吸引するために負圧に維持されるための密閉的な容器を構成する。但し、流入管20は天板12を貫通し、大粒子側流出管40および小粒子側流出管50はそれぞれ、円筒体11または底板13を貫通する。容器10は、第1のノズル21、第1の分級管30、および、第2のレセプタ41を内部に収容する。第1のノズル21と第1の分級管30との間の空気の流れ、および第1の分級管30と第2のレセプタ41との間の空気の流れに、周方向の偏差が生じて周方向の分級性能を変動させないために、容器10は、軸対称(鉛直軸対称)であることが好ましい。尚、設計上の便宜などのために軸対称の設計が困難である場合には、正多角形断面などにしてもよい。
【0085】
(支持具)
支持具60は、第1の分級管30や第2のレセプタ41を上述の適切な位置に保持するための固定用部品である。支持具60は、容器10内に配置されるが、ここでの圧力損失を可能な限り生じないように小型に設定される。支持具60には、第1の分級管30または第2のレセプタ41を固定でき、かつ、容器10内の流れを大きく阻害することのないものであれば、どのような形状のものでも用いることができる。例えば、円筒体11の内壁と、第1の分級管30の外壁または第2のレセプタ41の外壁とを接続する棒を用いることができる。あるいは、天板12または底板13の内壁と、第1の分級管30の外壁または第2のレセプタ41の外壁とを接続する棒を用いることも可能である。支持具60には、図6に示すように容器10内の空気が通過する開口部61が形成される。容器10内での圧力損失に大きな影響を与えないために、支持具60の水平断面積は、容器10の水平断面積の少なくとも50%以下が好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
【0086】
(材質)
煤塵採取管23、流入管20、第1のノズル21、第1の分級管30、第2のレセプタ41、大粒子側流出管40を経由して大粒子側吸引装置43または煤塵処理器44に至る流路の内面は、平滑な導電性材料を用いることが好ましい。このようにすることで、材料表面での静電気の蓄積を抑制し、流路の途中で内壁面に付着する降下煤塵を削減してより正確な捕集や測定を行うことができる。この目的のためには、これらの部品の材質として金属、例えば、ステンレス鋼、アルミニウムまたはその合金、チタンまたはその合金、若しくは、グラファイトを用いることができる。
【0087】
一方、上記の流路以外に接する部位(即ち、実質的に小粒子のみが通過する流路)は、必ずしも導電性材料である必要はない。その第1の理由は、本実施形態においては小粒子を捕集することを特段の目的としているわけではないからである。第2の理由は、仮に、小粒子がこのような流路で内壁面に付着したとしても、その下流で大粒子の流路と交わることはないので、目的とする大粒子(降下煤塵)の捕集や測定に対して悪影響を与えないからである。従って、小粒子のみが通過する流路には金属を用いてもよいが、軽量な非金属材料、例えば、合成樹脂を用いることもできる。
【0088】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態のバーチャルインパクタ1は、第1の実施形態での第1の分級管30と第2のレセプタ41との間に、さらに別の第2の分級管80を追加したものである。以下においては、上流側の分級管が第1の分級管30であり、下流側の分級管が第2の分級管80である。
【0089】
なお、分級管を3個以上、同軸上に配置する場合でも以下の説明での考え方を容易に応用できる。その構造の概念を、図8を用いて説明する。図8では、第1のノズル21が最初のノズルであり、第2の分級管80が最後の分級管であり、第3のレセプタ84が最後のレセプタである。尚、第2の分級管80を追加した以外は、原則、第1の実施形態と同様である。
【0090】
第2の分級管80における構造および配置の考え方は、第1の実施形態における第1の分級管30での説明と同様である。即ち、第2の分級管80は、第1の分級管30と同様の構成を有し、第2のレセプタ81、テーパ部82、第3のノズル83を備える。
【0091】
第2の分級管80を設けた場合、当該第2の分級管80の下方に第3のレセプタ84が設けられる。第3のレセプタ84の下端は大粒子側流出管40に接続され、上端には孔である大粒子側流出口85が形成される。第2の分級管80から吐出される降下煤塵の大半は一部の空気とともに第3のレセプタ84内に流入する(第3の空気の流れ73)のに対し、第2の分級管80から吐出された空気の過半は、第3のレセプタ84を迂回して(第4の空気の流れ74)、第1の空気の流れ71および第2の空気の流れ72とともに小粒子側の流路に合流する。その結果、本実施形態では降下煤塵の濃縮度を、第1の実施形態よりもさらに向上させることができる。そして、大粒子側吸引装置43や煤塵処理器44に、より小型の装置を用いることができる。
【0092】
第3のレセプタ84への流入流量は、第1の実施形態よりも減少するので、第3のレセプタ84の直径は、第1の実施形態で示した第2のレセプタ41よりも小さく設定する必要があり、その好適な範囲は、第1の実施形態で説明したものと同様である。具体的には、第3のレセプタ84の直径は、隣接する上流側の第3のノズル83の直径の1.2倍以上、かつ、1.5倍以下であることが好ましい。
【0093】
吸引する外気の流量条件が同じ場合、第2の分級管80を追加したことによる容器10内での所要静圧は、第1の実施形態とほぼ同じである。これは、第2の分級管80を通過する空気の流路には、急拡大、急縮小、または、曲率の大きな流路変更といった圧力損失を生じやすい部位が存在しないからである。従って、本実施形態では、第1の実施形態で説明した仕様の軸流ファンを小粒子側吸引装置52として用いることができる。
【0094】
このように、分級管30、80は、同軸上にいくつでも配置することができ、第2の分級管80の下流に、第3、第4の分級管を設けることも可能である。但し、分級管30、80の数を増加させれば、それに対応してバーチャルインパクタ1全体の長さが増加して重量増となるので、分級管30、80の増加による重量増の影響と、分級管増加による分級効率向上効果を総合的に考慮して分級管の妥当な数量を決定する。
【0095】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態のバーチャルインパクタ1は、第1の実施形態において小粒子側吸引装置52である軸流ファンを、底板13に直接に接続したものである。その構造の概念を、図9を用いて説明する。小粒子側吸引装置52の配置以外は、原則、第1の実施形態と同様である。
【0096】
本実施形態では底板13に、小粒子側流出口51が形成される。小粒子側流出口51は、小粒子側吸引装置52である軸流ファンの流入開口面積相当以上の大きさの開口であり、容器10内の第1の空気の流れ71および第2の空気の流れ72は、ほとんど抵抗を受けることなく、小粒子側吸引装置52に流入し、そのまま、小粒子側吸引装置52で昇圧を受けて外気に放出される。このため、本実施形態では小粒子側流出管50での圧力損失がないため、小粒子側吸引装置52には、より低い揚程の軸流ファンを採用することができるとともに、装置全体もより小型化できるので、軽量化の点で有利である。
【0097】
[第1~3の実施形態の変形例]
以上の第1~第3の実施形態のバーチャルインパクタ1は、鉛直方向の中心軸を備えた容器10内に、最初のノズル(第1のノズル21)、最後の分級管を含む分級管(第1の分級管30、第2の分級管80)、最後のレセプタ(第2のレセプタ41、第3のレセプタ84)をこの順で、互いに鉛直方向に同軸となるように設けた。この点、容器10、最初のノズル、最後の分級管を含む分級管、並びに、最後のレセプタのそれぞれの中心軸は、鉛直方向から若干傾斜してもよい。例えば、バーチャルインパクタ1をUAVに搭載すると、UAVは飛行中に傾き、バーチャルインパクタ1の中心軸も傾斜する。この場合でも、バーチャルインパクタ1は、捕集した降下煤塵を分級することは十分に可能である。
【0098】
また、最初のノズル(第1のノズル21)、最後の分級管を含む分級管(第1の分級管30、および第2の分級管80)、最後のレセプタ(第2のレセプタ41、第3のレセプタ84)を、それぞれの中心軸が水平方向になるように容器10内に設けてもよい。大粒子の捕集効率が悪化するおそれもあるが、要求される用途に応じて、このような分級装置も使用可能である。
【実施例
【0099】
[実施例1]
第3の実施形態のバーチャルインパクタを製作して性能を評価した。装置条件は、以下のとおりである。
【0100】
煤塵採取管23: 長さ100mm、内径14mmのアルミ管と、長さ100mm内径、20mmのアルミ管とを接合して、90°曲がり管とした。内径14mm管の末端が流入管20に接続される。
天板12、流入管20、および、第1のノズル21: アルミのブロックから削り出した一体物として製作し、流入管20および第1のノズル21を、内径14mm、長さ20mmの直管となるようにした。煤塵採取管23の下端と流入管20の上端を、ビニルチューブを介して接続した。
第1の分級管30: 第1のノズル21の下端から軸方向に8mm下方に、内径17mmの第1のレセプタ31の上端が位置するように配置した。第1のレセプタ31の軸方向長さを5mmとし、傾斜角70°のテーパ部32を設け、テーパ部32の下端で内径が4mmで軸方向長さが8mmの第2のノズル33と接続されるようにアルミブロックから削り出した。
第2のレセプタ41: 第1の分級管30の下端から2mm下方に、第2のレセプタ41の上端が位置するように配置した。第2のレセプタ41は、内径が6mmで軸方向長さが10mmとなるようにアルミブロックから削り出した。
大粒子側流出管40: 内径6mmのステンレス製90°曲がり管の下端に内径6mmのステンレス製直管を溶接して製作した。この直管は、円筒体11を貫通させ、貫通部においてこの直管の外壁を円筒体11に接着剤で固定した。曲がり管の上端部を、ビニルチューブを介して第2のレセプタ41の下端に接続した。
円筒体11: 内径50mmで軸方向長さ90mmの硬質塩化ビニール製チューブを用いた。
底板13: 外径55mmで内径40mmの硬質塩化ビニール製のリングとし、円筒体11の下端に接着剤で接着した。また、底板13にはファンを取り付けるためのネジ孔を設けた。
支持具60: 内輪、外輪、および、スポークから構成される車輪状の構造とし、内輪の内側に第1の分級管30を篏合させ、外輪の周囲を円筒体11の内壁に接着することで、第1の分級管30を容器10内に固定した。容器10の軸方向での支持具60の開口率を85%とした。同様の構造の支持具60を用いて第2のレセプタ41も容器10内に固定した。
煤塵処理器44: 降下煤塵を捕集するためのフィルタであって、フィルタ形式はホルダに収納されたメンブランフィルタであり、フィルタの直径は25mm、捕集径5μmの市販品を用いた。このフィルタの流入口を大粒子側流出管40の下流側端部にビニルチューブを介して接続した。
大粒子側吸引装置43: 市販のダイヤフラム型圧縮機を用いた。圧縮機の仕様は、重量が150g、流量が最大4L/min、揚程が最大40kPaである。この圧縮機の流入口を煤塵処理器44の流出口に、ビニルチューブを介して接続した。
小粒子側吸引装置52: 市販の単段の軸流ファンを用いた。ファンの仕様は、重量が70g、羽根車の外径(羽根を含む)が35mm、流入口内径が37mm、最大回転数が15000rpm、流量が最大500L/min、揚程が最大300Paである。ファンの流入口を上向きとし、ファンの回転中心軸が容器10の中心軸と一致するようにファンを底板13に密着させてボルトで締結した。
尚、大粒子側吸引装置43および小粒子側吸引装置52の動力源として、図示しない、容量10Whのリチウムイオン蓄電池を用いた。
【0101】
このバーチャルインパクタ1を風洞内に煤塵採取管23の流入口が風上を向くように設置した。小粒子側吸引装置52の流出口に面積1mのフィルタを装着した。風洞内の風速を4m/sに設定し、煤塵採取管23の風上で、直径10μm以上のアルミナ粒子を風洞内に連続的に散布した。バーチャルインパクタ1の圧縮機を2L/minの流量、かつ、10kPaの揚程の条件で運転するとともに、ファンを100L/minの流量、かつ、150Paの揚程の条件で運転した。10分間の運転の後に煤塵処理器44であるフィルタと小粒子側流出口51に装着したフィルタを回収し、それぞれ秤量して捕集されたアルミナ粒子の質量を算出して両者を比較した。その結果、煤塵処理器44のフィルタで捕集された粒子質量は、小粒子側吸引装置52に装着されたフィルタでの質量の約2倍であった。即ち、煤塵採取管23から流入した降下煤塵のうち、大半(2/3の割合)を煤塵処理器44に導くことができた。従って、本実施例において、降下煤塵相当の粒径の粒子を約30倍に濃縮することができた(大粒子側流出管40では煤塵採取管23から流入した空気のうち、2/(100+2)の割合が通過するとともに、煤塵採取管23から流入した粒子のうち、2/3の割合が通過した)。
【0102】
[実施例2]
実施例1と同様のバーチャルインパクタ1(重量1.5kg)を、市販の4ロータ式マルチコプタ型の小型無人航空機(機体重量4kg、搭載可能重量2kg)に搭載し、煤塵採取管23の流入口をこの小型無人航空機の飛行方向に向けて設置して、平均4m/sの対地速度でこの小型無人航空機を屋外で1分間飛行させた。飛行中にバーチャルインパクタ1の圧縮機を2L/minの流量、かつ、10kPaの揚程の条件で運転するとともに、バーチャルインパクタ1のファンを100L/minの流量、かつ、150Paの揚程の条件で運転した。
【0103】
飛行後にフィルタを回収し、フィルタ表面を顕微鏡撮影してその画像を用いて画像処理によって粒径分布の計測を行った。その結果、粒径がφ10μm以上、かつ、φ20μm未満である降下煤塵の粒径範囲相当の粒子を35個識別でき、統計処理を行ううえで十分な数の降下煤塵数を捕集することができた。
【0104】
[比較例1]
実施例1の装置において、第1の分級管30の下端と第2のレセプタ41の上端の間をビニルチューブで接続して実質的に従来方式の単段のバーチャルインパクタとした。これ以外の条件を実施例1と同様にして風洞実験を行った。その結果、大粒子側流出管40では、煤塵採取管23から流入した空気のうち、2/(100+2)の割合が通過するとともに、煤塵採取管23から流入した粒子のうち、20%の割合が通過した。即ち、降下煤塵相当の粒径の粒子を約10倍に濃縮するに留まった。このように、従来のバーチャルインパクタの形式を用いて大粒子側吸引装置43での吸引流量を小粒子側吸引装置52のものに対して極端に小さく設定すれば、ある程度の煤塵濃縮効果の向上を期待できるものの、降下煤塵の捕集効率(煤塵採取管23から流入した降下煤塵のうち、大粒子側流出管40に導かれる降下煤塵の割合)が著しく低下するという問題が生じる。また、このように低い捕集効率においては、粒子性状(例えば、粒径や粒子密度)の変動によって捕集効率が大きく変動して測定精度を低下させる問題が生じる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、大気中の降下煤塵を分級する際に有用である。
【符号の説明】
【0106】
1 バーチャルインパクタ
10 容器
11 円筒体
12 天板
13 底板
20 流入管
21 第1のノズル
22 流入口
23 煤塵採取管
30 第1の分級管
31 第1のレセプタ
32 テーパ部
33 第2のノズル
34 傾斜面
35 傾斜角
40 大粒子側流出管
41 第2のレセプタ
42 大粒子側流出口
43 大粒子側吸引装置
44 煤塵処理器
50 小粒子側流出管
51 小粒子側流出口
52 小粒子側吸引装置
60 支持具
61 開口部
71 第1の空気の流れ
72 第2の空気の流れ
73 第3の空気の流れ
74 第4の空気の流れ
80 第2の分級管
81 第2のレセプタ
82 テーパ部
83 第3のノズル
84 第3のレセプタ
85 大粒子側流出口
91 粗大粒子の第1の経路
92 粗大粒子の第2の経路
93 粗大粒子の第3の経路
100 従来のバーチャルインパクタ
110 従来の容器
111 従来の円筒体
112 従来の天板
113 従来の底板
114 従来の仕切板
120 従来の流入管
121(121A、121B) 従来の大粒子側流出管
122 従来の小粒子側流出管
123(123A、123B) 従来のノズル
124(124A、124B) 従来のレセプタ
125 大粒子側吸引装置
126 小粒子側吸引装置
127(127A、127B) 従来の煤塵処理器
128(128A、128B) 従来の支持具
131 従来の第1の空気の流れ
132 従来の第2の空気の流れ
133 従来の第3の空気の流れ
134 従来の第4の空気の流れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9