(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】プーリ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 9/12 20060101AFI20230602BHJP
F16H 55/52 20060101ALI20230602BHJP
F16B 7/18 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
F16H9/12 A
F16H55/52
F16B7/18 A
(21)【出願番号】P 2019123731
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】木本 優
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮一
(72)【発明者】
【氏名】寺林 均
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-089672(JP,A)
【文献】特開昭49-086753(JP,A)
【文献】特開2017-161027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/12
F16H 55/52
F16B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブと、
内周面に雌ネジ部を有し、前記固定シーブから軸方向に延びる円筒状の固定ボスと、
前記固定ボスに取り付けられるドライブプレートと、
前記固定ボスの雌ねじ部と螺合する雄ネジ部を外周面に有し、前記固定ボスの雌ネジ部と螺合して前記ドライブプレートを締結する締結部材と、
を備え、
前記締結部材は、前記固定ボスよりも弾性率が大きい材料で構成されている、
プーリ装置。
【請求項2】
前記雌ねじ部は、全周に亘って延びる、
請求項1に記載のプーリ装置。
【請求項3】
前記固定ボスは、外周面において、径方向外側を向く第1平坦面を有し、
前記ドライブプレートは、前記第1平坦面と対向する第2平坦面を含む取付孔を有する、
請求項1又は2に記載のプーリ装置。
【請求項4】
前記固定ボスは、段差部を有し、
前記締結部材は、円筒部と、前記円筒部から径方向外側に突出するフランジ部と、を有し、
前記雄ネジ部は、前記円筒部の外周面に形成され、
前記ドライブプレートは、前記段差部と前記フランジ部とによって固定される、
請求項1から3のいずれかに記載のプーリ装置。
【請求項5】
前記固定シーブと前記固定ボスとは、互いに1つの部材によって構成されている、
請求項1から4のいずれかに記載のプーリ装置。
【請求項6】
前記固定ボスは、他の部分に比べて内径が小さい先端部を有し、
前記雌ネジ部は、前記先端部の内周面に形成される、
請求項1から5のいずれかに記載のプーリ装置。
【請求項7】
軸方向に延びるボス部を有するクラッチハウジングを備え、
前記締結部材は、前記雄ネジ部が外周面に形成される円筒部を有し、
前記ボス部は、前記円筒部内を延びる、
請求項1から6のいずれかに記載のプーリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクータ型の自動二輪車などでは、ベルト式の無段変速機が採用されている。この無段変速機は、駆動プーリ装置と、従動プーリ装置と、ベルトとを備えている。ベルトは、駆動プーリ装置と従動プーリ装置との間に架けられている。
【0003】
従動プーリ装置は、固定シーブ、可動シーブ、固定ボス、及び可動ボスを有している(特許文献1)。固定シーブと可動シーブとによって、ベルトを挟持している。可動ボスは可動シーブに固定されており、固定ボスは固定シーブに固定されている。一般的に、固定ボス及び固定シーブは鉄鋼製であり、溶接によって互いに固定されている。そして、固定ボスの先端部に形成されたネジ部に螺合されるナットなどの締結部材によって、ドライブプレートは固定ボスに締結されている。
【0004】
プーリ装置の製造コストを低減するため、例えば特許文献2に記載のプーリ装置では、固定ボスと固定シーブとをアルミダイキャストによって一体的に形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-86342号公報
【文献】特許第3412741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような理由等によって、プーリ装置の固定ボスをアルミニウム合金等のような鉄鋼などよりも弾性率の小さい材料で形成したいという要望がある。しかしながら、固定ボスを弾性率の小さい材料によって形成すると、従来の鉄鋼製の固定ボスに比べて強度が低下する。このため、締結部材の締結力に対する強度が不足し、ネジ部が破損するなどの問題が生じるおそれがあった。そこで、本発明では締結部材の締結力に対する強度の低下を抑制することができるプーリ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある側面に係るプーリ装置は、固定シーブ、固定ボス、ドライブプレート、及び締結部材を備える。固定ボスは、円筒状であって、固定シーブから軸方向に延びる。そして、固定ボスは、内周面に雌ネジ部を有する。ドライブプレートは、固定ボスに取り付けられる。締結部材は、固定ボスの雌ねじ部と螺合する雄ネジ部を外周面に有する。締結部材は、固定ボスの雌ネジ部と螺合してドライブプレートを締結する。
【0008】
この構成によれば、従来のように固定ボスに雄ネジ部が形成されるのではなく、固定ボスには雌ネジ部が形成されている。雄ネジ部よりも雌ネジ部の方がせん断力を受ける面積が大きくなるため、固定ボスを弾性率の小さい材料で形成しても、締結部材の締結力に対する強度の低下を抑制することができる。
【0009】
好ましくは、雌ねじ部は、全周に亘って延びる。
【0010】
好ましくは、固定ボスは、外周面において、径方向外側を向く第1平坦面を有する。ドライブプレートは、取付孔を有する。取付孔は、第1平坦面と対向する第2平坦面を含む。
【0011】
好ましくは、固定ボスは、段差部を有する。締結部材は、円筒部と、円筒部から径方向外側に突出するフランジ部とを有する。雄ネジ部は、円筒部の外周面に形成される。ドライブプレートは、段差部とフランジ部とによって固定される。
【0012】
好ましくは、固定シーブと固定ボスとは、互いに1つの部材によって構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、締結部材の締結力に対する強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図9】締結部材によってドライブプレートが取り付けられた固定ボスの側面断面図。
【
図12】固定ボスに取り付けられた状態の締結部材の
背面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るプーリ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に係るプーリ装置100は、従動側のプーリ装置100である。この従動側のプーリ装置100には、駆動側のプーリ装置(図示省略)からベルト120を介してトルクが伝達される。ベルト120は、トルクを伝達するための部材である。
【0016】
図1は、プーリ装置100の側面断面図である。なお、以下の説明において、回転軸Oとは、プーリ装置100の回転軸を意味する。また、軸方向とは、回転軸Oが延びる方向を意味する。軸方向の第1側とは
図1の左側を意味し、軸方向の第2側とは、
図1の右側を意味する。径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味する。径方向の外側とは、径方向において回転軸Oから離れる側を意味し、径方向の内側とは、径方向において回転軸Oに近付く側を意味する。周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0017】
[プーリ装置]
プーリ装置100は、固定シーブ1と、固定ボス2と、可動シーブ4と、可動ボス5と、締結部材3と、遠心クラッチ10とを備えている。また、プーリ装置100は、カム機構8、スプリング90、及びスプリングシート9なども備えている。
【0018】
[固定シーブ]
固定シーブ1は、回転軸Oを中心に回転するように配置されている。固定シーブ1の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。固定シーブ1は、軸方向において、可動シーブ4の第2側に配置されている。固定シーブ1は、軸方向に移動しないように固定されている。
【0019】
固定シーブ1は、円板状である。固定シーブ1の対向面11は、径方向の外側にいくにしたがって、可動シーブ4から離れるように傾斜している。すなわち、対向面11は、径方向の外側に向かって、軸方向の第2側に傾斜している。なお、固定シーブ1の対向面11は、可動シーブ4に対向する面である。すなわち、固定シーブ1の対向面11は、軸方向の第1側を向いている。
【0020】
[固定ボス]
図2に示すように、固定ボス2は、固定シーブ1と一体的に回転する。固定ボス2は、固定シーブ1と一体的に形成されている。すなわち、固定シーブ1と固定ボス2とは、一つの部材によって形成されている。例えば、固定ボス2は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。
【0021】
固定ボス2は、円筒状であって、固定シーブ1から軸方向の第1側に延びている。固定ボス2の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。固定ボス2は、先端部21において、他の部分よりも外径の小さい小径部22を有している。このため、固定ボス2は、先端部21において段差部23を有している。段差部23は、軸方向の第1側を向いている。なお、固定ボス2の先端部21は、固定ボス2の軸方向における第1側の端部を意味する。すなわち、固定ボス2の先端部21は、固定ボス2の両端部のうち、固定シーブ1と反対側の端部である。
【0022】
固定ボス2は、先端部21において、内周面に雌ネジ部24を有している。なお、固定ボス2の先端部21は、他の部分に比べて内径が小さい。雌ネジ部24は、固定ボス2の内周面の全周に亘って延びている。すなわち、雌ネジ部24は周方向において途切れていない。また、雌ネジ部24は、先端部21の内周面の全体に形成されている。
【0023】
固定ボス2内には、複数の軸受部材110が取り付けられている。固定ボス2は、軸受部材110を介して、出力軸に相対回転可能に支持されている。
【0024】
図3及び
図4に示すように、固定ボス2は、一対の第1平坦面25を有している。一対の第1平坦面25は、固定ボス2の先端部21の外周面に形成されている。詳細には、一対の第1平坦面25は、先端部21の小径部22に形成されている。一対の第1平坦面25は、軸方向に延びている。また、一対の第1平坦面25は、互いに平行に延びている。一対の第1平坦面25は、径方向外側を向いている。
【0025】
[可動シーブ]
図1に示すように、可動シーブ4は、回転軸Oを中心に回転するように配置されている。可動シーブ4の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。可動シーブ4は、回転軸Oに沿って移動するように配置されている。すなわち、可動シーブ4は、軸方向に移動するように配置されている。可動シーブ4は、軸方向に移動することによって、固定シーブ1に対して接近及び離間する。可動シーブ4は、軸方向において、固定シーブ1の第1側に配置されている。
【0026】
可動シーブ4は、円板状である。可動シーブ4の対向面41は、径方向の外側にいくにしたがって、固定シーブ1から離れるように傾斜している。すなわち、対向面41は、径方向の外側に向かって、軸方向の第1側に傾斜している。
【0027】
可動シーブ4の対向面41は、固定シーブ1に対向する面である。すなわち、可動シーブ4の対向面41は、軸方向の第2側を向いている。固定シーブ1の対向面11と、可動シーブ4の対向面41とは、間隔をあけて対向している。固定シーブ1の対向面11と、可動シーブ4の対向面41とによって、V溝が形成されている。可動シーブ4が軸方向に移動することによって、V溝の溝幅が変わる。このV溝内において、ベルト120が配置されている。なお、固定シーブ1の対向面11と、可動シーブ4の対向面41とによって、ベルト120を挟持している。
【0028】
可動シーブ4は、軸方向の第1側に突出する環状の支持壁部42を有している。この支持壁部42は、可動ボス5の径方向外側に配置されている。この支持壁部42と可動ボス5との間に、スプリング90の端部が配置される。
【0029】
[可動ボス]
可動ボス5は、可動シーブ4と一体的に回転する。また、可動ボス5は、可動シーブ4と一体的に軸方向に移動する。本実施形態では、可動ボス5と可動シーブ4とは一つの部材で形成されている。なお、可動ボス5と可動シーブ4とは、別部材によってそれぞれ形成されており、互いに固定されることによって、一体的に回転及び軸方向に移動してもよい。例えば、可動シーブ4と可動ボス5とを溶接またはろう付けなどによって固定することができる。
【0030】
可動ボス5は、円筒状であって、可動シーブ4から軸方向に延びている。詳細には、可動ボス5は、可動シーブ4から軸方向の第1側に延びている。すなわち、可動ボス5は、固定シーブ1から遠ざかる方向に延びている。可動ボス5の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。可動ボス5は、固定ボス2の径方向外側に配置されている。すなわち、可動ボス5内を固定ボス2が軸方向に延びている。可動ボス5は、固定ボス2上を摺動可能に配置されている。
【0031】
可動ボス5は、その先端部51(軸方向の第1側端部)に複数のカム部81が形成されている。各カム部81は、周方向において間隔をあけて配置されている。各カム部81は、軸方向の第1側に延びている。
【0032】
可動ボス5は、例えば、金属製である。具体的には、可動ボス5は、鋼製又はアルミニウム合金製である。より具体的には、可動ボス5は、炭素鋼及び合金鋼よりなる群から選ばれる少なくとも一種によって形成される。
【0033】
可動ボス5は、グリスを介さずに、固定ボス2上を摺動可能である。具体的には、可動ボス5の内周面に摺動部材50が取り付けられている。この摺動部材50を介して、可動ボス5は、固定ボス2上を摺動する。摺動部材50は、可動ボス5よりも摩擦係数が低い。
【0034】
[摺動部材]
摺動部材50は、可動ボス5の内周面に取り付けられている。摺動部材50は円筒形状である。摺動部材50の内周面は、固定ボス2の外周面と接触している。摺動部材50は、可動ボス5の内周面に形成された段差、及び止め輪などによって、軸方向の移動が規制される。
【0035】
摺動部材50は、例えば樹脂製である。摺動部材50は、樹脂層を有するとともに、樹脂層の外周面に形成された金属層及び焼結体層などを有していてもよい。摺動部材50の摩擦係数は、可動ボス5の摩擦係数よりも小さい。具体的には、摺動部材50は、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種によって形成される。このように、摺動部材50は、可動ボス5よりも摩擦係数が小さいため、可動ボス5は、摺動部材50を介して、固定ボス2上をスムーズに摺動することができる。
【0036】
[スプリング]
スプリング90は、軸方向において可動シーブ4を固定シーブ1に向かって付勢する。すなわち、スプリング90は、可動シーブ4を軸方向の第2側に向かって付勢している。これによって、固定シーブ1と可動シーブ4とが、ベルト120を挟持する。スプリング90は、例えばコイルスプリングとすることができる。スプリング90は、可動ボス5を囲むように、可動ボス5の径方向外側に配置されている。
【0037】
[スプリングシート]
スプリングシート9は、スプリング90を支持するように構成されている。
図5及び
図6に示すように、スプリングシート9は、円筒部91、フランジ部92、及び複数のカム受け部82を有する。スプリングシート9は、例えば樹脂製である。具体的には、スプリングシート9は、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。円筒部91、フランジ部92、及び各カム受け部82は、1つの部材によって一体的に形成されている。
【0038】
円筒部91は、可動ボス5の径方向外側に配置されている。また、円筒部91は、スプリング90の径方向内側に配置されている。すなわち、円筒部91は、径方向において、可動ボス5とスプリング90との間に配置されている。円筒部91は、スプリング90を径方向において支持している。
【0039】
フランジ部92は、円筒部91から径方向外側に延びている。詳細には、フランジ部92は、円筒部91の軸方向第1側の端部から径方向外側に延びている。フランジ部92は、環状である。フランジ部92は、スプリング90の軸方向の第1側の端面を支持している。すなわち、フランジ部92は、スプリング90を軸方向において支持している。
【0040】
各カム受け部82は、円筒部91の径方向の内側に配置されている。詳細には、各カム受け部82は、円筒部91の内周面に形成されている。各カム受け部82は、周方向に延びている。各カム受け部82は、周方向において、互いに間隔をあけて配置されている。なお、この周方向において隣り合うカム受け部82の間を、カム部81が延びている。各カム受け部82は、可動ボス5の各カム部81と係合する。この各カム受け部82は、カム機構8を構成する。各カム受け部82は、凹部821を有している。凹部821は、径方向に延びている。この凹部821は、後述するドライブプレート101の一部を収容する。
【0041】
スプリングシート9は、固定シーブ1と一体的に回転する。詳細には、スプリングシート9は、軸方向の第1側に突出する嵌合部93を有している。この嵌合部93が、後述するドライブプレート101の貫通孔1011(
図8参照)に嵌合する。嵌合部93は、貫通孔1011の外周縁に沿った形状をしている。このドライブプレート101は、固定ボス2を介して固定シーブ1と一体的に回転する。このため、ドライブプレート101に取り付けられたスプリングシート9は、固定シーブ1と一体的に回転する。
【0042】
[カム機構]
図1に示すように、カム機構8は、可動ボス5とスプリングシート9とに設けられている。詳細には、カム機構8は、複数のカム部81と複数のカム受け部82とから構成される。カム部81は、上述した可動ボス5に形成されている。また、カム受け部82は、スプリングシート9に形成されている。カム機構8は、固定ボス2に対する可動ボス5の相対回転を、可動ボス5の軸方向推力に変換するように構成されている。すなわち、可動ボス5が固定ボス2よりも速い速度で回転すると、カム機構8は、可動ボス5を固定シーブ1に向かって移動させる。
【0043】
詳細には、
図7に示すように、可動ボス5の各カム部81は、カム面811を有している。カム面811は、回転方向を向き、且つ軸方向の第1側を向くように傾斜している。このカム面811が、スプリングシート9のカム受け部82に当接する。なお、回転方向とは、車両が前進する際に、可動ボス5が回転する方向である。
【0044】
このカム機構8の動作について説明する。発進時のように急加速したとき、可動シーブ4が固定シーブ1よりも速い速度で回転する。すると、可動ボス5がスプリングシート9よりも速い速度で回転する。すなわち、可動ボス5は、スプリングシート9に対して回転方向に相対的に回転する。すると、カム機構8は可動ボス5に軸方向の推力を付与し、可動ボス5は軸方向の第2側に移動する。詳細には、カム面811がカム受け部82から軸方向の第2側への反力を受け、可動ボス5が軸方向の第2側に移動する。この結果、可動シーブ4は固定シーブ1側へ移動し、ベルト120を強固に挟持する。
【0045】
[遠心クラッチ]
図1に示すように、遠心クラッチ10は、ドライブプレート101、複数のクラッチシュー102、及びクラッチハウジング103を有している。遠心クラッチ10は、固定シーブ1及び可動シーブ4の回転を、出力軸に伝達したり遮断したりするように構成されている。詳細には、遠心クラッチ10は、固定ボス2の回転を、出力軸に伝達したり遮断したりするように構成されている。
【0046】
ドライブプレート101は、固定ボス2の先端部21に取り付けられている。
図8に示すように、ドライブプレート101は、固定ボス2の一対の第1平坦面25と係合するような取付孔1012を有している。軸方向視において、取付孔1012の形状は、固定ボス2の先端部21の形状と略同じである。すなわち、取付孔1012の内周面は、一対の第2平坦面1013を有している。
【0047】
図9に示すように、ドライブプレート101は先端部21の小径部22に取り付けられる。この状態において、第1平坦面25と第2平坦面1013とは対向する。このため、ドライブプレート101は、固定ボス2と一体的に回転する。すなわち、ドライブプレート101は、固定ボス2と相対回転不能となる。
【0048】
ドライブプレート101は円板状である。ドライブプレート101は、実質的に段差部を有していないように構成されているが、ドライブプレート101は段差部を有していてもよい。
【0049】
図8に示すように、ドライブプレート101は、複数の貫通孔1011を有している。各貫通孔1011は、軸方向に貫通している。また、各貫通孔1011は、周方向に延びている。各貫通孔1011は、周方向において、間隔をあけて配置されている。この貫通孔1011に、上述したスプリングシート9の嵌合部93が嵌合する。また、上述した可動ボス5の各カム部81は、ドライブプレート101と干渉しないよう、貫通孔1011内を延びている。なお、隣り合う貫通孔1011の間に配置されるドライブプレート101の一部が、上述したカム受け部82の凹部821に収容される。
【0050】
ドライブプレート101は、金属製である。具体的には、ドライブプレート101は、鋼製又はアルミニウム合金製である。より具体的には、ドライブプレート101は、炭素鋼、及び合金鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0051】
図9に示すように、ドライブプレート101は、固定ボス2の段差部23と当接することによって、軸方向の第2側への移動が規制される。また、ドライブプレート101は、締結部材3によって、締結されている。この結果、ドライブプレート101は、軸方向の第1側への移動が規制される。
【0052】
図1に示すように、各クラッチシュー102は、円周方向の一端部がドライブプレート101に揺動可能に取り付けられている。各クラッチシュー102は、その外周面に摩擦
材を有している。各クラッチシュー102の他端部には、各クラッチシュー102を径方向の内側に付勢するようにリターンスプリン
グが取り付けられている。
【0053】
クラッチハウジング103は、各クラッチシュー102を径方向の外側から覆うように配置されている。クラッチハウジング103は、固定ボス2に相対回転可能である。詳細には、クラッチハウジング103は、ボス部1031を有している。ボス部1031の内周面には、スプライン溝が形成されている。このスプライン溝に、出力軸がスプライン係合することができる。
【0054】
遠心クラッチ10が伝達状態になると、各クラッチシュー102の摩擦材は、クラッチハウジング103の内周面と摩擦係合する。また、遠心クラッチ10が遮断状態になると、各クラッチシュー102の摩擦材は、クラッチハウジング103の内周面から離れる。なお、遠心クラッチ10の伝達状態とは、遠心クラッチ10が、固定シーブ1及び可動シーブ4の回転を出力軸に伝達する状態を意味する。また、遠心クラッチ10の遮断状態とは、遠心クラッチ10が、固定シーブ1及び可動シーブ4の回転を出力軸に伝達しない状態を意味する。
【0055】
[締結部材]
締結部材3は、固定ボス2の雌ネジ部24と螺合して、ドライブプレート101を締結している。
図10に示すように、締結部材3は、外周面に雄ネジ部31を有している。詳細には、締結部材3は、雄ネジ部31、円筒部32、及びフランジ部33を有している。円筒部32の外径は、固定ボス2の先端部21の内径と略同じである。締結部材3は、固定ボス2よりも弾性率が大きい材料で構成されている。締結部材3は、例えば、金属製であり、好ましくは鉄製または鋼製である。
【0056】
雄ネジ部31は、円筒部32の外周面に形成されている。雄ネジ部31は、円筒部32の外周面において全周に亘って延びている。また、雄ネジ部31は、円筒部32外周面の全体に形成されている。
【0057】
フランジ部33は、円筒部32の外周面から径方向外側に突出している。詳細には、フランジ部33は、円筒部32の軸方向の第1側の端部から径方向外側に突出している。フランジ部33は、円筒部32と1つの部材で構成されている。ドライブプレート101は、固定ボス2の段差部23と締結部材3のフランジ部33との間に挟まれて固定される。フランジ部33の外径は、固定ボス2(小径部22を除く)の外径と略同じである。
【0058】
図11に示すように、フランジ部33の外形は星形である。フランジ部33は、外側に突出する角部331を複数有している。本実施形態では、フランジ部33は、12個の角部331を有している。各角部331は、周方向に等間隔に配置されている。
【0059】
図12に示すように、締結部材3を固定ボス2に取り付けた状態において、締結部材3は、軸方向視において、ドライブプレート101の貫通孔1011から突出するカム81と干渉しないように配置されている。
【0060】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0061】
変形例1
上記実施形態では、締結部材3のフランジ部33の外形は星形となっているが、フランジ部33の形状はこれに限定されない。例えば、フランジ部33は、六角形であってもよい。
【0062】
変形例2
上記実施形態に係るプーリ装置100はカム機構8を備えているが、プーリ装置100はカム機構8を備えていなくてもよい。
【0063】
変形例3
固定ボス2は、摩擦係数の低い材料によって形成された摺動層を外周面に有していてもよい。
【0064】
変形例4
上記実施形態では、ドライブプレート101は円板状であったが、ドライブプレート101の形状はこれに限定されない。例えば、軸方向視において、ドライブプレート101は三角形状、又は四角形状などのような、多角形状であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 :固定シーブ
2 :固定ボス
23 :段差部
24 :雌ネジ部
25 :第1平坦面
3 :締結部材
31 :雄ネジ部
32 :円筒部
33 :フランジ部
101 :ドライブプレート
1012 :取付孔
1013 :第2平坦面