(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】組織補強材
(51)【国際特許分類】
A61B 17/03 20060101AFI20230602BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20230602BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
A61B17/03
A61L27/58
A61L27/18
(21)【出願番号】P 2019128430
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511219(JP,A)
【文献】米国特許第03655501(US,A)
【文献】特開2001-186964(JP,A)
【文献】特開2015-107198(JP,A)
【文献】特開2009-089899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
A61L 27/58
A61L 27/18
A61L 15/00
A61F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性の不織布からなる組織補強材であって、
前記組織補強材は、2本の対向する線と、該2本の対向する線の間を結び該2本の対向する線の先端を通らない線とを含む形状を基本単位とする、前記生体吸収性
の不織布を厚さ方向に貫通する切り込みパターンを有し、
前記切り込みパターンは、前記生体吸収性の不織布の一方向をX方向、前記X方向に垂直な方向をY方向としたときに、前記X方向及び前記Y方向に平行な直線上に配置された複数の前記基本単位からなる行及び列から構成され、
漢字の王の字型の形状、前記王の字型の端部に切り込みを入れた形状又はアルファベットのH字型の端部に切り込みを入れた形状であり、
各行及び各列の前記基本単位は、隣接する行および列の隣接する2つの前記基本単位間を跨ぐように配置されている
ことを特徴とする組織補強材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数方向の伸縮性に優れ、組織の形状に追従して脆弱化した組織をより確実に補強できる組織補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術においては、手術部位である切除面の保護、体液リーク予防、縫合部位の補強を目的として、補強材を用いて組織を補強することがある。組織からの剥離を抑えて高い補強効果を得るためには、組織補強材を組織としっかり密着させる必要がある。そのためには、組織の形状に追従できる高い伸縮性が必要となる。そこで、組織補強材に切り込みを入れることで伸縮性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献1)。しかしながら、従来の切れ込みを有する組織補強材は、想定したほど伸縮しなかったり、一方向にはよく伸縮するものの、それと垂直な方向には充分に伸縮しなかったりするものが多く、複数方向に対する伸縮性の高い組織補強材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、複数方向の伸縮性に優れ、組織の形状に追従して脆弱化した組織をより確実に補強できる組織補強材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生体吸収性の不織布からなる組織補強材であって、前記組織補強材は、2本の対向する線と、該2本の対向する線の間を結び該2本の対向する線の先端を通らない線とを含む形状を基本単位とする、前記生体吸収性不織布を厚さ方向に貫通する切り込みパターンを有し、前記切り込みパターンは、前記生体吸収性の不織布の一方向をX方向、前記X方向に垂直な方向をY方向としたときに、前記X方向及び前記Y方向と平行な直線上に配置された複数の前記基本単位からなる行及び列から構成され、各行及び各列の前記基本単位は、隣接する行および列の隣接する2つの前記基本単位間を跨ぐように配置されている組織補強材である。
以下に本発明を詳述する。
【0006】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、組織補強材に特定パターンとなるような切り込みを入れることで、縦及び横の両方向に対して高い伸縮性を示すことを見出した。その結果、組織の形状に追従し、脆弱化した組織をより確実に補強できる組織補強材が得られることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の組織補強材は、生体吸収性の不織布(以下、単に不織布ともいう)からなる。
組織補強材を生体吸収性の不織布とすることで、移植後に徐々に生体に吸収され、やがて消滅し自己組織に置換される。従って、慢性期の異物反応の軽減や感染の温床になるリスクが低減されることなる。
【0008】
上記不織布を構成する生体吸収性材料は、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、グリコリド-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリド-Ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-Ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(P-ジオキサノン)、グリコリド-ラクチド(D、L、DL体)-Ε-カプロラクトン共重合体等の合成吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、適度の強度と柔軟性を発揮することができ、かつ、適度な生体反応を惹起して組織の修復を促進することができることから、ポリグリコリド、ポリラクチド(L体)、ラクチド(D、L、DL体)-Ε-カプロラクトン共重合体が好適であり、適度な分解挙動を示すことから、ポリグリコリドがより好適である。
また、上記生体吸収性材料としては、シルクフィブロイン、コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、フィブリン等の天然吸収性高分子を用いることもできる。更に、上記合成吸収性高分子と上記天然吸収性高分子を併用してもよい。
【0009】
上記生体吸収性材料としてポリグリコリド(グリコリドのホモポリマー又はコポリマー)を用いる場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は1000000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であると、組織補強材としての充分な強度を発揮でき、1000000以下であると、適度な生体反応を惹起して組織の修復を促進し、分解することで長期間の異物としての残存が無く速やかに生体組織に置き換わる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は300000である。
【0010】
本発明の組織補強材がポリグリコリドからなる場合、ポリグリコリドのメルトフローレートの好ましい上限は15g/10min、好ましい下限は2g/10minである。上記ポリグリコリドのメルトフローレートがこの範囲内であると、組織補強材としての充分な強度を発揮できるとともに、適度な生体反応を惹起して組織の修復を促進し、分解することで長期間の異物としての残存が無く速やかに生体組織に置き換わる。上記ポリグリコリドのメルトフローレートのより好ましい上限は10g/10min、より好ましい下限は4g/10minである。
【0011】
上記不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は5g/m2、好ましい上限は300g/m2である。上記不織布の目付が5g/m2未満であると、生体組織補強材としての強度が不足し、脆弱した組織を補強できないことがあり、300g/m2を超えると、組織への接着性が悪くなることがある。上記不織布の目付のより好ましい下限は10g/m2、より好ましい上限は100g/m2である。
【0012】
上記不織布の空隙率は特に限定されないが、好ましい下限は20%、好ましい上限は90%である。上記不織布の空隙率がこの範囲内であると、組織補強材としての充分な強度と、生体組織への接着性、再生組織侵入を両立することができる。上記不織布の空隙率のより好ましい下限は60%、より好ましい上限は80%である。
【0013】
上記不織布を製造する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0014】
本発明の組織補強材は、2本の対向する線(以下、線Aともいう)と、該2本の対向する線の間を結び該2本の対向する線の先端を通らない線(以下、線Bともいう)とを含む形状を基本単位とする、上記生体吸収性不織布を厚さ方向に貫通する切り込みパターンを有し、上記切り込みパターンは、上記生体吸収性の不織布の一方向をX方向、上記X方向に垂直な方向をY方向としたときに、上記X方向及び上記Y方向と平行な直線上に配置された複数の上記基本単位からなる行及び列から構成され、各行及び各列の上記基本単位は、隣接する行および列の隣接する2つの上記基本単位間を跨ぐように配置されている。
このような切り込みパターンを有することで、上記X方向及びY方向の両方向に対して高い伸縮性を示し、組織の形状に充分に追随することができる。その結果、組織補強材が組織と充分に密着して脆弱化した組織をより確実に補強することができる。ここで「結び」とは、上記線Bが上記2本の線Aと接続されている状態を指し、上記線Bは上記2本の線Aを貫通していてもよい。
【0015】
ここで、本発明の組織補強材の一例として、後述する実施例において作製した本発明の組織補強材の模式図を
図1(a)~
図3(a)に示した。
上記基本単位としては、例えば、
図1(a)、
図2(a)に示すような漢字の王の字型の形状や、
図3(a)に示すようなアルファベットのH字型の形状が挙げられる。ここで、王の字型やH字型は直線で構成されているものも曲線で構成されているものも含む。
また、
図2(a)、
図3(a)に示すように、上記基本単位は、王の字型やH字型の端部に更に切り込みを入れた形状であることが好ましい。各線の端部に更に切り込みを入れることで、X方向とY方向の伸縮具合をより均等にしたり、より伸縮性を高めたりすることができる。
【0016】
上記切り込みパターンは、
図1~
図3に示すように、複数の上記基本単位からなる上記X方向及び上記Y方向に平行な行及び列によって構成されており、かつ、各行及び各列の上記基本単位は、隣接する行および列の隣接する2つの上記基本単位間を跨ぐように配置されている。ここで、「跨ぐ」とは、ある基本単位の線A(線B)を線A(線B)に対して垂直な方向に平行移動したときに、隣接する行又は列中の隣接する2つの基本単位の線A(線B)と重なるような配置とすることを指す。なお、上記行及び列中の上記基本単位は等間隔で配置されていてもよく不等間隔で配置されていてもよい。
【0017】
上記不織布中における上記基本単位の密度は特に限定されないが、1個/100cm2以上1000個/100cm2以下であることが好ましい。上記基本単位の密度が上記範囲となる切り込みパターンとすることで、より伸縮性に優れた組織補強材とすることができる。上記基本単位は5個/100cm2以上であることがより好ましく、10個/100cm2以上であることが更に好ましく、500個/100cm2以下であることがより好ましく、100個/100cm2以下であることが更に好ましい。
【0018】
本発明の生体組織補強材料は、外科分野において損傷又は脆弱化した臓器、組織の止血、空気漏れ防止、体液漏れ防止の為に用いる。とりわけ、呼吸器に好適に用いることができる。
本発明の生体組織補強材料は、例えば、生体組織補強材料を生理食塩水に浸漬してから患部にあてるだけで、容易に貼付することができる。また、患部に血液や体液がある場合には、これらを吸収することによっても接着力を発現することができる。また、本発明の組織補強材は、上記切り込みパターンを有しているため、組織の形状に合わせて貼付できるため、従来の組織補強材と比べてより組織と密着することから、剥離し難く脆弱化した組織をより確実に補強することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数方向の伸縮性に優れ、組織の形状に追従して脆弱化した組織をより確実に補強できる組織補強材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1で作製した組織補強材の模式図(a)及び縦方向と横方向へ引き延ばしたときの写真(b)である。
【
図2】実施例2で作製した組織補強材の模式図(a)及び縦方向と横方向へ引き延ばしたときの写真(b)である。
【
図3】実施例3で作製した組織補強材の模式図(a)及び縦方向と横方向へ引き延ばしたときの写真(b)である。
【
図4】比較例1で作製した組織補強材の模式図である。
【
図5】比較例2で作製した組織補強材の模式図(a)及び縦方向と横方向へ引き延ばしたときの写真(b)である。
【
図6】比較例3で作製した組織補強材の模式図(a)及び縦方向と横方向へ引き延ばしたときの写真(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
厚さ70μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D10G)、グンゼ社製)に、
図1(a)に示す切り込みパターンを基本単位の数が35個/100cm
2となるように形成することで組織補強材を得た。
得られた組織補強材を縦方向及び横方向に引っ張ったところ、
図1(b)に示すように、縦方向横方向ともに充分な伸縮性を確認できた。
【0023】
(実施例2)
厚さ70μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D10G)、グンゼ社製)に、
図2(a)に示す切り込みパターンを基本単位の数が27個/100cm
2となるように形成することで組織補強材を得た。
得られた組織補強材を縦方向及び横方向に引っ張ったところ、
図2(b)に示すように、縦方向横方向ともに充分に伸縮し、かつ、実施例1よりも縦方向と横方向の伸縮具合が均等だった。
【0024】
(実施例3)
厚さ70μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D10G)、グンゼ社製)に、
図3(a)に示す切り込みパターンを基本単位の数が34個/100cm
2となるように形成することで組織補強材を得た。
得られた組織補強材を縦方向及び横方向に引っ張ったところ、
図3(b)に示すように、縦方向横方向ともに実施例1よりも高い伸縮性が確認できた。
【0025】
(比較例1)
厚さ70μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D10G)、グンゼ社製)に、
図4に示す切り込みパターンを形成することで組織補強材を得た。
得られた組織補強材を縦方向及び横方向に引っ張ったところ、縦方向横方向ともに伸縮しなかった。
【0026】
(比較例2)
厚さ70μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D10G)、グンゼ社製)に、
図5(a)に示す切り込みパターンを形成することで組織補強材を得た。
得られた組織補強材を縦方向及び横方向に引っ張ったところ、
図5(b)に示すように、縦方向には伸縮したものの、横方向には伸縮しなかった。
【0027】
(比較例3)
厚さ70μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D10G)、グンゼ社製)に、
図6(a)に示す切り込みパターンを形成することで組織補強材を得た。
得られた組織補強材を縦方向及び横方向に引っ張ったところ、
図6(b)に示すように、縦方向横方向ともに伸縮したものの、伸縮性は実施例1よりも小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、複数方向の伸縮性に優れ、組織の形状に追従して脆弱化した組織をより確実に補強できる組織補強材を提供することができる。