(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】自動縫合器用縫合補綴材及び自動縫合器用縫合補綴材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/58 20060101AFI20230602BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230602BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
A61L27/58
A61L27/50
A61L27/18
(21)【出願番号】P 2019134555
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】上之 康弘
(72)【発明者】
【氏名】井出 啓太
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-157622(JP,A)
【文献】特開2000-316963(JP,A)
【文献】特開平08-047526(JP,A)
【文献】特許第4675327(JP,B2)
【文献】特開2004-147902(JP,A)
【文献】特開平09-024050(JP,A)
【文献】特表2009-505690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0076528(US,A1)
【文献】特表2015-511649(JP,A)
【文献】特開平03-045768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61B 17/00-17/94
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を筒状とした自動縫合器用縫合補綴材であって、
前記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体はポリグリコリド又はポリラクチドからなる不織布であり、前記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を80℃5分の条件で熱収縮したときの収縮率が収縮前の85%以下であることを特徴とする自動縫合器用縫合補綴材。
【請求項2】
生体吸収性材料からなる布状体と、シュリンク特性を有する布状体とを筒状とした自動縫合器用縫合補綴材であって、
前記シュリンク特性を有する布状体はポリグリコリド又はポリラクチドからなる不織布であり、前記シュリンク特性を有する布状体を80℃5分の条件で熱収縮したときの収縮率が収縮前の85%以下であることを特徴とする自動縫合器用縫合補綴材。
【請求項3】
収縮前の生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の結晶化度が10%以下であることを特徴とする請求項1記載の自動縫合器用縫合補綴材。
【請求項4】
収縮前のシュリンク特性を有する布状体の結晶化度が10%以下であることを特徴とする請求項2記載の自動縫合器用縫合補綴材。
【請求項5】
請求項1又は3記載の自動縫合器用縫合補綴材を製造する方法であって、
メルトブロー法によって生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を形成する工程と、
前記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の対向する端部をつなぎ合わせて筒状とする工程を有
し、
前記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体はポリグリコリド又はポリラクチドからなる不織布である
ことを特徴とする自動縫合器用縫合補綴材の製造方法。
【請求項6】
請求項2又は4記載の自動縫合器用縫合補綴材を製造する方法であって、
生体吸収性材料からなる布状体を形
成する工程と、
メルトブロー法によってシュリンク特性を有する布状体を形成する工程と、
前記生体吸収性材料からなる布状体の端部と前記シュリンク特性を有する布状体の端部同士をつなぎ合わせて筒状とする工程を有
し、
前記シュリンク特性を有する布状体はポリグリコリド又はポリラクチドからなる不織布である
ことを特徴とする自動縫合器用縫合補綴材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、自動縫合器を操作した際に縫合補綴材のずれやねじれを抑えることができる自動縫合器用縫合補綴材及び自動縫合器用縫合補綴材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のステープルを埋入したホッチキスタイプの自動縫合器が組織の縫合に用いられている。しかし、肺等への適用においては縫合部からの空気漏れの問題があり、また、軟弱組織への適用においては組織の損傷、断裂等の問題が生じることがあった。
【0003】
そこで、空気漏れや体液漏れ、組織の損傷を防ぐために生体吸収性の補強材が自動縫合器とともに用いられている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1、2の補強材は、1枚の生体吸収性不織布の対向する2辺を縫い合わせる、又は2枚の生体吸収性不織布若しくは1枚の生体吸収性不織布と1枚の伸縮性編地を重ねて、対向する2辺を縫い合わせることによって筒状の構造としている。そして、筒の中に自動縫合器のカートリッジの端部を差し込むことで自動縫合器に装着され、組織と一緒に縫合されることで組織を補強する。また、補強後は不要部位を補強材から延出した糸を引っ張ることで分離できるため、作業性が高い。更に、補強材は生体吸収性不織布でできているため、補強が不要になった後は最終的に生体内に吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-047526号公報
【文献】特許第4675237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の自動縫合器に用いられる補強材は、自動縫合器を操作した際にずれやねじれが生じないようにするために、組織を補強する生地と伸縮性を有する生地とを組み合わせて筒状とすることで、自動縫合器へ密着させている。しかしながら、自動縫合器のカートリッジは様々なサイズのものが存在しているため、カートリッジの大きさによっては補強材を充分に自動縫合器に密着させることができず、ずれやねじれが生じることがある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、自動縫合器を操作した際に縫合補綴材のずれやねじれを抑えることができる自動縫合器用縫合補綴材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明1は、生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を筒状とした自動縫合器用縫合補綴材であって、前記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を80℃5分の条件で熱収縮したときの収縮率が収縮前の85%以下である自動縫合器用縫合補綴材である。
本発明2は、生体吸収性材料からなる布状体と、シュリンク特性を有する布状体とを筒状とした自動縫合器用縫合補綴材であって、前記シュリンク特性を有する布状体を80℃5分の条件で熱収縮したときの収縮率が収縮前の85%以下である自動縫合器用縫合補綴材である。
以下、本発明1について詳説する。
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、補綴材として特定の収縮率を有する生体吸収性材料からなる布状体を用いることで、様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、補綴材を収縮させることで自動縫合器としっかり密着させることができることを見出した。その結果、自動縫合器を操作した際に縫合補綴材のずれやねじれを抑えることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明1の自動縫合器用縫合補綴材(以下、単に補綴材ともいう。)は生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を筒状としている。
本発明の自動縫合器用縫合補綴材は、補綴材の筒内に自動縫合器のカートリッジ部位を差し込むことで自動縫合器に装着される。また、補綴材に生体吸収性材料からなる布状体を用いることで、補綴材は徐々に生体内に吸収されることから、体内に異物を長期間残留させることがなく、安全性が高い。更に、本発明は、布状体がシュリンク特性を有しているため、自動縫合器に装着した後に補綴材を収縮させる、又は、補綴材を事前に自動縫合器よりも少し小さいサイズの鋳型に装着して収縮させることで、カートリッジのサイズに関係なく自動縫合器と確実に密着させることができ、補綴材のずれやねじれを抑えることができる。なお、「筒状」とは、布状体の対向する端部をつなぎ合わせて輪にした形状を指し、布状体が筒の側面に当たり、開口部が筒の底面に当たる。また、筒の底面形状は円であっても多角形であってもよく、潰れて平面状になっていてもよい。更に、1枚の布状体の対向する端部をつなぎ合わせて筒状としてもよく、複数の布状体の端部同士をつなぎ合わせて筒状としてもよい。
【0010】
上記生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、グリコリド-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)、グリコリド-ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体等のα-ヒドロキシ酸重合体高分子等の合成吸収性高分子や、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、キチン等の天然吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。例えば、上記生体吸収性材料として上記合成吸収性高分子を用いる場合に、天然吸収性高分子を併用してもよい。なかでも、適度な生体吸収速度を有し、収縮率を後述する範囲に調節しやすくなることから、ポリグリコリド又はポリラクチドが好ましい。
【0011】
上記生体吸収性材料としてポリグリコリドを用いる場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は1000000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であると、組織を補強するのにより適した強度とすることができ、1000000以下であると、より適度な体内分解速度となり、異物反応を起こし難くすることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は300000である。
【0012】
上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の形態は特に限定されず、例えば、編地、織地、不織布、フィルム等いかなる形態であってもよい。なかでも、柔軟性、通気性、自動縫合器への通り易さに優れ、収縮率を後述する範囲に調節しやすいことから不織布であることが好ましい。
【0013】
上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体が不織布である場合、上記不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は3g/m2、好ましい上限は300g/m2である。上記不織布の目付が3g/m2以上であると、組織を補強するのにより適した強度とすることができる。また、上記不織布の目付が300g/m2以下であると、組織への接着性をより高めることができるとともに、不織布を後述する収縮率の範囲に調節しやすくすることができる。上記不織布の目付のより好ましい下限は5g/m2、より好ましい上限は100g/m2である。
【0014】
上記不織布を製造する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。なかでも、得られる生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を後述する収縮率の範囲に調節しやすくできることから、メルトブロー法が好ましい。
【0015】
上記不織布がメルトブロー法によって製造される場合、ノズルとコンベア間の距離を長くすることが好ましい。ノズルとコンベア間の距離を長くすることで、得られる不織布の結晶化度を後述する範囲に調節しやすくすることができるとともに、収縮率を後述する範囲に調節しやすくすることができる。上記ノズルとコンベア間の距離は、用いられる材料によって適切な距離が変わるため一概には言えないが、100mm以上であることが好ましい。
【0016】
上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体は上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を80℃5分の条件で熱収縮したときの収縮率が収縮前の85%以下である。
上記布状体の収縮率を上記範囲とすることで得られる補綴材に充分な収縮性を付与できる。その結果、補綴材を様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、補綴材を収縮させることで自動縫合器としっかりと密着させることができ、自動縫合器を操作した際に補綴材のずれやねじれを抑えることができる。ここで、収縮率とは、50mm角にカットした上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体に熱風乾燥機等で80℃の熱風を5分間あてたときの、「各4辺の収縮後の長さの平均/各4辺の収縮前の長さの平均(50mm)」のことを指す。上記収縮率は85%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。上記収縮率は、上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の材料や製造条件、結晶化度、熱プレス条件等によって調節することができる。上記収縮率の下限については特に限定されないが、熱収縮により布状体の厚みが厚くなり、硬くなるため40%以上であることが好ましい。
【0017】
上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体は、収縮前の結晶化度が10%以下であることが好ましい。
収縮前の生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の結晶化度が上記範囲であることで、収縮度を上記範囲に調節しやすくすることができる。上記結晶化度は、5%以下であることがより好ましい。また、上記結晶化度に下限はなく、0%であってもよい。上記結晶化度は、上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の材料や製造方法によって調節することができる。なお、上記結晶化度は、X線回折装置で得られる回折情報(広角X線回折プロファイル)から、非晶に由来する散乱領域と結晶に由来する散乱領域とを分け、全散乱強度に対する結晶散乱強度の比として計算することで算出することができる。
【0018】
本発明の自動縫合器用縫合補綴材の製造方法は特に限定されず、例えば、上記方法で形成した生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の端部を縫い合わせ又は熱圧着によってつなぎ合わせて筒状とする方法が挙げられる。特に、生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体をメルトブロー法で製造すると、上記収縮率を満たしやすくすることができる。
このような、本発明の自動縫合器用縫合補綴材を製造する方法であって、メルトブロー法によって生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体を形成する工程と、前記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体の対向する端部をつなぎ合わせて筒状とする工程を有する自動縫合器用縫合補綴材の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0019】
次いで、本発明2について詳述する。
本発明者らは、上記生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体が生体吸収性材料からなっていなくとも、本発明1の収縮率を満たすシュリンク特性を有する布状体と、生体吸収性の布状体とを組み合わせて筒状とすることで本発明1と同様の効果を発揮することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
本発明2の自動縫合器用縫合補綴材(以下、単に補綴材ともいう)は生体吸収性材料からなる布状体と、シュリンク特性を有する布状体とを筒状としている。
ここで、「筒状」とは、本発明1と同様の意味のことを指す。また、上記生体吸収性材料からなる布状体及び上記シュリンク特性を有する布状体は複数用いられていてもよい。
【0021】
上記生体吸収性材料からなる布状体は、患部が治癒するまでの間組織を補強する役割を有する。また、上記生体吸収性材料からなる布状体は、徐々に体内に吸収されることから、体内に異物を長期間残留させることがなく、安全性が高い。上記生体吸収性材料からなる布状体を構成する上記生体吸収性材料としては、特に限定されず、本発明1の生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体と同様のものを用いることができる。
【0022】
上記生体吸収性材料からなる布状体の形態は特に限定されず、本発明1の生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体と同様のものを用いることができる。なかでも、柔軟性、通気性、自動縫合器への通り易さに優れることから不織布が好ましい。
【0023】
上記生体吸収性材料からなる布状体の製造方法は特に限定されず、従来の生体吸収性材料からなる布状体と同様の方法を用いることができる。
【0024】
上記シュリンク特性を有する布状体は、後述する収縮率を満たしていれば特に限定されず、本発明1の生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有する布状体と同様のものを用いることができる。また、本発明2では、補綴材としての機能は上記生体吸収性材料からなる布状体が担うため、上記シュリンク特性を有する布状体は、生体吸収材料からなっていなくてもよい。生体吸収性材料以外に用いることのできる材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0025】
上記シュリンク特性を有する布状体は、本発明1の生体吸収性材料からなるシュリンク特性を有す布状体と同様の方法によって製造することができる。なかでも、後述する収縮率を満たしやすいことから、上記シュリンク特性を有する布状体はメルトブロー法で製造されていることが好ましい。
【0026】
上記シュリンク特性を有する布状体がメルトブロー法によって製造される場合、ノズルとコンベア間の距離を長くすることが好ましい。ノズルとコンベア間の距離を長くすることで、得られる布状体の結晶化度を後述する範囲に調節しやすくすることができるとともに、収縮率を後述する範囲に調節しやすくすることができる。上記ノズルとコンベア間の距離は、用いられる材料によって適切な距離が変わるため一概には言えないが、100mm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明2の自動縫合器用縫合補綴材は、上記シュリンク特性を有する布状体を80℃5分の条件で熱収縮したときの収縮率が収縮前の85%以下である。
上記シュリンク特性を有する布状体の収縮率を上記範囲とすることで得られる補綴材に充分な収縮性を付与できる。その結果、補綴材を様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、補綴材を収縮させることで自動縫合器としっかりと密着させることができ、自動縫合器を操作した際に補綴材のずれやねじれを抑えることができる。ここで、収縮率とは、50mm角にカットした上記シュリンク特性を有する布状体に熱風乾燥機等で80℃の熱風を5分間あてたときの、「各4辺の収縮後の長さの平均/各4辺の収縮前の長さの平均(50mm)」のことを指す。上記収縮率は85%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。上記収縮率は、上記シュリンク特性を有する布状体の材料や製造条件、結晶化度、熱プレス条件等によって調節することができる。上記収縮率の下限については特に限定されないが、熱収縮により布状体の厚みが厚くなり、硬くなるため40%以上であることが好ましい。
【0028】
上記シュリンク特性を有する布状体は、収縮前の結晶化度が10%以下であることが好ましい。
収縮前のシュリンク特性を有する布状体の結晶化度が上記範囲であることで、収縮度を上記範囲に調節しやすくすることができる。上記結晶化度は、5%以下であることがより好ましい。また、上記結晶化度に下限はなく、0%であってもよい。上記結晶化度は、上記シュリンク特性を有する布状体の材料や製造方法によって調節することができる。なお、上記結晶化度は本発明1と同様の方法で測定することができる。
【0029】
本発明の自動縫合器用縫合補綴材の製造方法は特に限定されず、例えば、上記方法で形成された生体吸収性材料からなる布状体と、上記方法で形成されたシュリンク特性を有する布状体との端部同士を縫い合わせ又は熱圧着によってつなぎ合わせて筒状とする方法が挙げられる。特に、シュリンク特性を有する布状体をメルトブロー法で製造すると、上記収縮率を満たしやすくすることができる。
このような、本発明の自動縫合器用縫合補綴材を製造する方法であって、生体吸収性材料からなる布状体を形成するする工程と、メルトブロー法によってシュリンク特性を有する布状体を形成する工程と、前記生体吸収性材料からなる布状体の端部と前記シュリンク特性を有する布状体の端部同士をつなぎ合わせて筒状とする工程を有する自動縫合器用縫合補綴材の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0030】
上記生体吸収性材料からなる布状体の端部と上記シュリンク特性を有する布状体の端部同士をつなぎ合わせて筒状とする工程において、複数の上記生体吸収性材料からなる布状体及び上記シュリンク特性を有する布状体を用いる場合は、上記生体吸収性材料からなる布状体と、上記シュリンク特性を有する布状体とを交互に又は不規則な順番につなぎ合わせてもよく、上記生体吸収性材料からなる布状体が連続する部分と、上記シュリンク特性を有する布状体が連続する部分とができるようにつなぎ合わせてもよい。なかでも均一な収縮が可能であることから、上記生体吸収性材料からなる布状体と、上記シュリンク特性を有する布状体とを交互につなぎ合わせることが好ましい。また、筒の長さ方向に布状体をつなぎ合わせる場合は、上記生体吸収性材料からなる布状体同士又は上記シュリンク特性を有する布状体同士をつなぎ合わせる。なお、筒の長さ方向とは筒の開口部が連続する方向のことを指す。
【0031】
本発明1及び本発明2の自動縫合器用縫合補綴材は、自動縫合器に装着して組織の損傷が治癒するまでの間組織を補強するために用いられ、補綴材を収縮させることで様々なサイズのカートリッジを有する自動縫合器に対しても高い密着性を発揮することができる。本発明1及び本発明2の自動縫合器用縫合補綴材は、手術現場において自動縫合器に装着した後に補綴材を収縮させることで自動縫合器と密着させてもよいが、製造現場において自動縫合器よりも少し小さいサイズの鋳型に装着した後に収縮させることで、事前に自動縫合器への密着性を有した補綴材としてもよい。生産性の観点からは手術現場で収縮させる方法が好ましいが、自動縫合器への密着性をより確実にする観点からは、カートリッジ毎に個々に鋳型を作る必要があるものの、製造現場で収縮させる方法が好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、自動縫合器を操作した際に縫合補綴材のずれやねじれを抑えることができる自動縫合器用縫合補綴材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの態様にのみ限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
メルトブロー法でノズルとコンベア間の距離200mmの条件下でポリグリコール酸樹脂(ガラス転移温度:36℃)からなる不織布を目付80g/m2になるように作製した。次いで、得られた不織布を39mm幅×60mm長にカットし、長さ方向の端部を溶着幅3mmの溶融シーラーで溶着し円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0035】
(実施例2)
実施例1と同じ条件で不織布を作製した後、自然収縮を抑制するために、40℃で熱プレスを実施した。次いで、得られた不織布を39mm幅×60mm長にカットし、長さ方向の端部を溶着幅3mmの溶融シーラーで溶着し円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0036】
(実施例3、比較例1)
ノズルとコンベア間の距離を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして不織布(を得た。次いで、得られた不織布を39mm幅×60mm長にカットし、長さ方向の端部を溶着幅3mmの溶融シーラーで溶着し円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0037】
(実施例4、比較例2、3)
ノズルとコンベア間の距離及び熱プレスに温度を表1の通りとした以外は実施例2と同様にして不織布を得た。次いで、得られた不織布を39mm幅×60mm長にカットし、長さ方向の端部を溶着幅3mmの溶融シーラーで溶着し円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0038】
(実施例5)
ポリグリコリドの代わりにポリラクチド(ガラス転移温度:56℃)を用い、ノズルとコンベア間の距離及び目付を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして不織布を得た。次いで、得られた不織布を39mm幅×60mm長にカットし、長さ方向の端部を溶着幅3mmの溶融シーラーで溶着し円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0039】
(実施例6)
ポリグリコリドの代わりにポリラクチド(ガラス転移温度:56℃)を用い、ノズルとコンベア間の距離、目付及び熱プレスの温度を表1の通りとした以外は実施例2と同様にして不織布を得た。次いで、得られた不織布を39mm幅×60mm長にカットし、長さ方向の端部を溶着幅3mmの溶融シーラーで溶着し円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0040】
(実施例7)
21mm幅×60mm長にカットした実施例1で得られた不織布1枚と、21mm幅×60mm長にカットした比較例1で得られた不織布1枚とを準備した。次いで、実施例1の不織布と比較例1の長さ方向の端部同士を、溶着幅3mmの溶融シーラーを用いて溶着し、円筒状とすることで自動縫合器用縫合補綴材を得た。
【0041】
<物性の測定>
実施例及び比較例で得られた不織布について以下の方法により物性を測定した。結果を表1に示した。
【0042】
(1)結晶化度の測定
得られた不織布を、X線回折装置にセットし、広角X線回折プロファイルを測定した。プロファイルを非晶に由来する散乱領域と結晶に由来する散乱領域とに分け、全散乱強度に対する結晶散乱強度の比として結晶化度を算出した。
【0043】
(2)収縮率の測定
得られた不織布を50mm×50mmにカットした。次いで、熱風乾燥機を用いて80℃の熱風を5分間あてて収縮処理を行った。その後、各4辺の長さを計測し平均した後、「各4辺の収縮後の長さの平均/各4辺の収縮前の長さの平均」を算出し、収縮率とした。
【0044】
<評価>
実施例及び比較例で得た自動縫合器用縫合補綴材について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0045】
(密着性の評価)
得られた自動縫合器用縫合補綴材を自動縫合器(エンドパスステープラーECHELON FLEX60、エチコン社製)のカートリッジ部に装着し、熱風乾燥機で80℃5分の加熱処理を行った。加熱処理後の自動縫合器用縫合補綴材を観察し、自動縫合器に密着していた場合を「○」、密着していなかった場合を「×」として密着性を評価した。
【0046】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、様々なサイズのカートリッジが装着された自動縫合器に用いた場合であっても、自動縫合器を操作した際に縫合補綴材のずれやねじれを抑えることができる自動縫合器用縫合補綴材を提供することができる。