IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

特許7289271粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム
<>
  • 特許-粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム 図1
  • 特許-粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム 図2
  • 特許-粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム 図3
  • 特許-粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム 図4
  • 特許-粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム 図5
  • 特許-粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】粘性土特性推定方法、粘性土を用いた施工方法、粘性土特性推定装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20230602BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
E02D1/00
G01N33/24 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020025201
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130911
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】白 可
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181041(WO,A1)
【文献】特開2004-219166(JP,A)
【文献】特開2003-268756(JP,A)
【文献】特開2002-97624(JP,A)
【文献】特開2020-56254(JP,A)
【文献】特開2021-67468(JP,A)
【文献】熊谷隆宏、白可、佐々木優、田代司、琴浦毅、鶴見文孝,人工知能技術による土質推定に基づく埋立管理システムの開発,土木学会論文集B3(海洋開発),日本,公益社団法人土木学会,2020年09月28日,No. 76, No. 2,pp. I_720 - I_725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00
G01N 33/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データを取得するステップと、
前記粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性の分析結果を示す分析結果データを取得するステップと、
前記学習用データと該学習用データに対応する前記分析結果データとを用いて、前記学習用データと前記分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルを生成するステップと、
を情報処理装置が実行する粘性土特性推定方法。
【請求項2】
前記分析結果データは、前記粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、液性限界、塑性指数、せん断強さ、および、圧密降伏応力の少なくとも何れかを示すデータを含むことを特徴とする、請求項1に記載の粘性土特性推定方法。
【請求項3】
前記粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む入力データを取得するステップと、
前記入力データを前記学習済モデルに入力することによって、前記特性を推定するステップと、
を更に備える請求項1または2の何れか1項に記載の粘性土特性推定方法。
【請求項4】
前記学習用データは、前記粘性土の触感に関する情報を含むことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の粘性土特性推定方法。
【請求項5】
前記分析結果データは、前記粘性土の液性限界を示すデータを含み、
前記粘性土の湿潤密度を用いて算出される含水比と、前記学習済モデルを用いて推定される前記粘性土の液性限界との比を用いて、非排水せん断強さを算出するステップ、
を更に備える請求項1~4の何れか1項に記載の粘性土特性推定方法。
【請求項6】
前記非排水せん断強さを用いて、前記粘性土の圧密降伏応力を算出するステップ、を更に備える、
請求項5に記載の粘性土特性推定方法。
【請求項7】
粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む入力データを取得するステップと、
前記粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、前記粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルに、前記入力データを入力することによって前記粘性土の前記特性を推定するステップと、
を情報処理装置が実行する粘性土特性推定方法。
【請求項8】
粘性土を用いた施工方法であって、
請求項1~7の何れか1項に記載の粘性土特性推定方法により推定された粘性土の前記特性を用いて、建設工事の施工における安全性の評価、および地盤の沈下量の予測の少なくとも何れか一方を行うステップを含む、
粘性土を用いた施工方法。
【請求項9】
粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を入力データとし、前記入力データを入力する入力部と、
前記粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、前記粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルに、前記入力データを入力することによって得られる、前記粘性土の前記特性を示す出力データを出力する出力部と、を備えることを特徴とする、粘性土特性推定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の粘性土特性推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記入力部および前記出力部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性土の特性を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地面の画像を用いて地面の材質を分類する技術がある。例えば特許文献1には、複数の時刻における地表の物質の領域に関する情報を含む2次元画像のデータを取得し、取得された2次元画像のデータを用いて、指定された地域および期間内の地面の材質を分類するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-220058号公報(2017年12月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、粘性土を用いて埋立や盛土を行う場合、施工時のすべりに対する安定性を評価することや、将来の沈下量を予測することは、施工時の安全性の確保や将来の土地利用性の評価の観点から重要である。すべりに対する安定性の評価や将来の沈下量の予測を行うにあたっては、用いる粘性土の強度特性や圧密沈下特性を把握する必要がある。土質特性を把握するために、従来では、標準圧密試験や強度試験(一軸圧縮試験、ベーンせん断試験、等)の試験を実施する必要があり、試験の実施に時間を要するという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、上記問題点に鑑みたものである。本発明の一態様は、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性の推定に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明に係る粘性土特性推定方法は、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データを取得するステップと、前記粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性の分析結果を示す分析結果データを取得するステップと、前記学習用データと該学習用データに対応する前記分析結果データとを用いて、前記学習用データと前記分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルを生成するステップと、を情報処理装置が実行する。
【0007】
前記の構成によれば、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、粘性土の採取地を示す土源情報、および、粘性土の湿潤密度を示す密度除法を含む学習用データと、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性の分析結果を示す分析結果データとを用いて、両者の相関関係を機械学習させた学習済モデルが生成される。この学習済モデルが用いられることにより、粘性土の粘性に関する特性の推定に要する時間が短縮される。
【0008】
前記粘性土特性推定方法において、前記分析結果データは、前記粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、液性限界、塑性指数、せん断強さ、および、圧密降伏応力の少なくとも何れかを示すデータを含んでもよい。
【0009】
前記の構成によれば、学習用データと、前記粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、液性限界、塑性指数、せん断強さ、および、圧密降伏応力の少なくとも何れかを示す分析結果データとを用いて、両者の相関関係を機械学習させた学習済モデルが生成される。この学習済モデルが用いられることにより、粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、液性限界、塑性指数、せん断強さ、および、圧密降伏応力の少なくとも何れかの推定に要する時間が短縮される。
【0010】
前記粘性土特性推定方法は、前記粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む入力データを取得するステップと、前記入力データを前記学習済モデルに入力することによって、前記特性を推定するステップと、を更に備えていてもよい。
【0011】
前記の構成によれば、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、粘性土の採取地を示す土源情報、および、粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む入力データを学習済モデルに入力することにより、粘性土の圧密や強度に関する特性が推定される。これにより、粘性土の圧密や強度に関する特性の推定に要する時間が短縮される。
【0012】
前記粘性土特性推定方法において、前記学習用データは、前記粘性土の触感に関する情報を含んでもよい。
【0013】
前記の構成によれば、粘性土の触感に関する情報を含む学習用データと、粘性土の圧密や強度に関する特性の分析結果を示す分析結果データとを用いて、両者の相関関係を機械学習させた学習済モデルが生成される。この学習済モデルが用いられることにより、粘性土の圧密や強度に関する特性の推定に要する時間が短縮される。
【0014】
前記粘性土特性推定方法において、前記分析結果データは、前記粘性土の液性限界を示すデータを含み、前記粘性土特性推定方法は、前記粘性土の湿潤密度を用いて算出される含水比と、前記学習済モデルを用いて推定される前記粘性土の液性限界との比を用いて、非排水せん断強さを算出するステップ、を更に備えていてもよい。
【0015】
前記の構成によれば、粘性土の含水比と学習済モデルを用いて推定される粘性土の液性限界とを用いて、非排水せん断強さが算出される。これにより、粘性土の非排水せん断強さの推定に要する時間が短縮される。
【0016】
前記粘性土特性推定方法において、前記非排水せん断強さを用いて、前記粘性土の圧密降伏応力を算出するステップ、を更に備えていてもよい。
【0017】
前記の構成によれば、学習済モデルを用いて推定される粘性土の非排水せん断強さを用いて圧密降伏応力が算出される。これにより、粘性土の圧密降伏応力の推定に要する時間が短縮される。
【0018】
また、本発明に係る粘性土特性推定方法は、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む入力データを取得するステップと、前記粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、前記粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルに、前記入力データを入力することによって前記粘性土の前記特性を推定するステップと、を情報処理装置が実行する。
【0019】
前記の構成によれば、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、粘性土の採取地を示す土源情報、および、粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルを用いて、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性が推定される。これにより、粘性土の特性の推定に要する時間が短縮される。
【0020】
また、本発明に係る粘性土を用いた施工方法は、上記粘性土特性推定方法により推定された前記粘性土の前記特性を用いて、建設工事の施工における安全性の評価、および地盤の沈下量の予測の少なくとも何れか一方を行うステップを含む。
【0021】
前記の構成によれば、粘性土を用いて埋め立てや盛土や建物周辺空隙への埋め戻しなどの建設工事を行う際に、上記粘性土特性推定方法により推定された粘性土の特性に応じた施工を行うことができる。
【0022】
また、本発明に係る装置は、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を入力データとし、前記入力データを入力する入力部と、前記粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、前記粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、前記粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルに、前記入力データを入力することによって得られる、前記粘性土の前記特性を示す出力データを出力する出力部と、を備える構成である。
【0023】
前記の構成によれば、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、粘性土の採取地を示す土源情報、および、粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルを用いて、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性が推定される。これにより、粘性土の特性の推定に要する時間が短縮される。
【0024】
また、本発明は、前記粘性土特性推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記入力部および前記出力部としてコンピュータを機能させるための構成を備える。
【0025】
前記の構成によれば、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、粘性土の採取地を示す土源情報、および、粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を分析した分析結果を示す分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデルを用いて、粘性土の特性が推定される。これにより、粘性土の特性の推定に要する時間が短縮される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性の推定に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態1に係る情報処理装置の機能構成を例示するブロック図、および、情報処理装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図2】実施形態2に係る推定装置の機能構成を例示するブロック図である。
図3】実施形態2に係る学習済モデルの一例を模式的に示した図である。
図4】撮影データの表す画像を例示した図である。
図5】実施形態2に係る推定装置における、学習済モデルの生成に係る処理の流れを示すフローチャート、および、土質材料の特性の推定に係る処理の流れを示すフローチャートである。
図6】含水比と液性限界との比と、非排水せん断強さとの関係を例示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0029】
図1の(a)は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置200の機能構成を示すブロック図である。情報処理装置200は、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性を推定するための学習済モデルを生成する装置である。本実施形態において、粘性土は、粘りけのある土のことをいい、例えば粘土およびシルトである。
【0030】
粘性土の特性は例えば、圧密特性および強度特性である。圧密特性は、粘性土の圧密に関する特性である。粘性土の圧密とは、粘性土の地盤の上に荷重がかかることによって間隙水がしぼり出され、時間の経過とともに土の体積が収縮(地盤沈下)していく現象をいう。圧密特性は例えば、圧密による沈下量および沈下速度である。圧密特性は例えば、粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、圧密降伏応力、体積圧縮係数、または透水係数により表される。粘性土の圧密特性は例えば、標準圧密試験により計測される。圧密特性は、圧密による地盤の沈下を解析する際に用いられる。
【0031】
粘性土の強度特性は、粘性土の強度に関する特性である。強度特性は例えば、液性限界、塑性指数、およびせん断強さである。強度特性は例えば、液性限界・塑性限界試験、一軸圧縮試験、および、ベーンせん断試験の実施により求められる。液性限界・塑性限界試験は、JIS A 1205に規定されており、425μmふるいを通過した土の液性限界、塑性限界および塑性指数を求める物理試験である。液性限界・塑性限界試験により、例えば、液性限界および塑性指数が計測される。
【0032】
一軸圧縮試験は、円柱状の供試体に側圧のない状態で圧縮する試験である。一軸圧縮試験により例えば、一軸圧縮強度、粘着力、地盤の変形係数(ヤング係数)が求まる。ベーンせん断試験は、十字型の羽根(ベーン)をつけたロッドを地中に押し込んで回転させ、トルクを与えることにより抵抗モーメントを計測する試験である。計測された抵抗モーメントをもとに、せん断強さが測定される。
【0033】
情報処理装置200は、学習用データ取得部101、分析結果取得部102、および生成部103を含む。学習用データ取得部101は学習用データを取得する。学習用データは、撮影データ、土源情報および密度情報を含む。撮影データは、粘性土を撮影した画像を表すデータである。土源情報は、粘性土の採取地を示す情報である。土源情報は例えば、粘性土を採取した場所(海中・陸地および所在地名)を示す情報、および、深度によって異なる地層となる場合があるため、粘性土を採取した地層の深さ(深度)を示す情報を含む。なお、撮影データは画素数2000万以上の画像データが望ましい。撮影データは、静止画像を表すデータであってもよく、また、動画像を表すデータであってもよい。また、撮影データは、複数の画像データを含むデータであってもよい。
【0034】
密度情報は、粘性土の湿潤密度を示す情報である。湿潤密度は、土の単位体積質量である。同じ種類の地盤では、湿潤密度の値が大きいほど地盤が硬く、よく締まっていることを示す。湿潤密度の計測方法としては例えば、RI密度計による計測や、直接計測法がある。直接計測法では、例えば、専門家がJIS A 1225に規定される「土の湿潤密度試験」を行うことにより湿潤密度を計測する。直接計測法では、例えば、(1)容積と重量とが予め分かっている容器に粘性土を入れて重量を計測し、(2)さらに容器内に隙間なく水を入れて重量を計測し、(3)入れた水の重量を計測し、(4)容器内の粘性土の重量と体積を算出することによって、粘性土の密度を求める。
【0035】
分析結果取得部102は、粘性土の特性の分析結果を示す分析結果データを取得する。以降、粘性土に関する特性の分析結果を単に「分析結果」とも称する。分析結果データは例えば、粘性土の圧密特性および強度特性の少なくとも何れか一方を示すデータを含む。より具体的には、分析結果データは例えば、前記粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、液性限界、塑性指数、せん断強さ、および、圧密降伏応力の少なくとも何れか一つ以上を示すデータを含む。
【0036】
分析結果データは、情報処理装置200により生成されてもよく、また、他の装置で生成された分析結果データが情報処理装置200により取得されてもよい。分析結果データは例えば、標準圧密試験、一軸圧縮試験、または、ベーンせん断試験により測定された結果を示すデータである。
【0037】
生成部103は、学習用データと学習用データに対応する分析結果データとの組を用いて、学習用データと分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデル121を生成する。学習済モデル121を規定する各種のパラメータは記憶部12に記憶される。学習済モデル121は、種々の粘性土の撮影画像、粘性土の採取地を示す土源情報、および粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データと、分析結果との相関関係を機械学習させた学習済モデルである。学習済モデル121の構造は特に限定されない。例えば、学習済モデル121は、CNN(Convolution al Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)構造を有するモデルで実現可能である。
【0038】
図1(b)は、情報処理装置200が行う処理(粘性土特性推定方法の一例)の流れを示すフローチャートである。なお、一部のステップは並行して、または、順序を替えて実行されてもよい。学習用データ取得部101は、粘性土を撮影した画像を表す撮影データ、粘性土の採取地を示す土源情報、および、前記粘性土の湿潤密度を示す密度情報を含む学習用データを取得する(S10)。
【0039】
分析結果取得部102は、粘性土の特性を分析した分析結果を示す分析結果データを取得する(S11)。生成部103は、学習用データと該学習用データに対応する分析結果データとを用いて、学習用データと分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデル121を生成する(S12)。
【0040】
以上のように構成された情報処理装置200は、学習用データと分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデル121を生成するので、学習済モデル121が用いられることで、粘性土の圧密および強度の少なくとも何れか一方に関する特性の推定に要する時間を短縮することができる。
【0041】
〔実施形態2〕
図2は、本実施形態に係る推定装置1の機能構成を示すブロック図である。推定装置1は、学習済モデル121を生成するとともに、生成した学習済モデル121を用いて粘性土の特性を推定する装置である。推定装置1は、例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォンである。推定装置1は、本発明に係る粘性土特性推定装置の一例である。学習済モデル121は、粘性土を撮影した撮影データ、土源情報および密度情報を含む学習用データと、粘性土の特性の分析結果との相関関係を機械学習させた学習済モデルである。
【0042】
推定装置1は、記憶部12と、制御部(情報処理装置)10とを含む。なお、推定装置1は、外部記録媒体を接続することが可能なインタフェースを備えていてもよい。例えば、推定装置1はUSBフラッシュメモリまたはSDカードを接続可能なインタフェースを備えていてもよい。また、推定装置1はボタン、マウス、およびタッチパネル等の入力装置と、ディスプレイ等の表示装置とを含んでいてもよい。
【0043】
記憶部12は、推定装置1の処理に必要なデータを記憶する記憶装置である。記憶部12は、学習済モデル121、および教師データセット122を記憶する。学習済モデル121は、上述の実施形態1と同様であり、種々の粘性土の画像、土源情報および密度情報と、分析結果との相関関係を機械学習させた学習済モデルである。例えば、学習済モデル121は、CNN構造を有するモデルで実現可能である。なお、推定装置1は、他の装置と通信する通信部を備えていてもよい。また、記憶部12は推定装置1の外部装置であってもよい。例えば、記憶部12は、推定装置1に内蔵されておらず、推定装置1と外部接続される構成であってもよい。
【0044】
制御部10は、推定装置1を統括的に制御する。制御部10は、学習用データ取得部101、分析結果取得部102、生成部103、入力部104、推定部105、画像処理部106、および出力部107を含む。学習用データ取得部101、分析結果取得部102、および生成部103は上述の実施形態1に係る情報処理装置200のそれと同様である。すなわち、学習用データ取得部101は、撮影データ、土源情報および密度情報を含む学習用データを取得する。分析結果取得部102は分析結果データを取得する。生成部103は、撮影データと該撮影データに対応する分析結果データとの組を用いて、撮影データと分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデル121を生成する。
【0045】
入力部104は、撮影データ、土源情報および密度情報を入力データとし、この入力データを学習済モデル121に入力する。この実施形態では、入力部104は、例えば外部記録媒体から入力データを読み出すことにより、入力データを取得する。また、例えば、推定装置1の入力装置をユーザが操作することにより、入力データが推定装置1に入力されてもよい。また、入力部104は、他の装置から入力データを受信することにより、入力データを取得してもよい。他の装置は、例えばタブレット端末またはスマートフォンであってもよい。また、例えば、推定装置1がカメラを備える構成とし、このカメラで粘性土を撮影することにより撮影データが生成されてもよい。
【0046】
推定部105は、入力部104により入力された入力データを学習済モデル121に入力することによって粘性土の特性を推定する。出力部107は、入力データを学習済モデル121に入力することによって得られる、粘性土の特性を示す出力データを出力する。画像処理部106は、入力された撮影データに対し画像処理を実行する。
【0047】
図2の例では、推定装置1の制御部10は、学習用データ取得部101、分析結果取得部102、生成部103、入力部104、推定部105、画像処理部106および出力部107を含んでいたが、これらの構成要素により実現される機能が複数の装置により分担されて実現されてもよい。例えば、推定装置1の制御部10が、学習用データ取得部101、分析結果取得部102、生成部103、および画像処理部106を備えておらず、入力部104、推定部105および出力部107だけを備える構成であってもよい。この場合、学習用データ取得部101、分析結果取得部102、生成部103および画像処理部106を備える、推定装置1とは別体の情報処理装置(図示略)により学習済モデル121が生成され、生成された学習済モデル121を用いて推定装置1が特性の推定処理を実行する。なお、推定装置1の制御部10は、入力部104および推定部105に加えて、画像処理部106を備える構成であってもよい。
【0048】
また、この場合において、推定装置1が更に、推定部105を備える第1の装置と、入力部104および出力部107を備える第2の装置とにより分担されて実現されてもよい。この場合、例えば第1の装置はサーバーであり、第2の装置はユーザ端末である。ユーザは第2の装置を用いて入力データを入力し、第1の装置に入力データを送信する。第2の装置は、第1の装置から受信した入力データを学習済モデル121に入力することにより得られる、粘性土の特性を示す出力データを第1の装置に送信する。第2の装置は、第1の装置に送信した入力データのレスポンスとして第1の装置から送信されてくる出力データを受信し、受信した出力データの表す内容をディスプレイに表示する等して出力する。上記第1の装置および第2の装置は、本発明に係る粘性土特性推定装置の例である。
【0049】
記憶部12は、教師データセット122を記憶する。教師データセット122は、教師データを1つ以上含んだデータセットの一群である。本実施形態において、教師データは、学習用データと、該学習用データに対応する分析結果データとの組である。学習用データは、撮影データ、土源情報および密度情報を含む。すなわち、教師データは、種々の粘性土の学習用データと、種々の粘性土のそれぞれに対応する分析結果との組み合わせから成る。
【0050】
記憶部12は、推定部105からの要求に応じて、教師データセット122からデータセットを読み出して、推定部105に送信する。なお、学習済モデル121と、教師データセット122とが、別々の記憶装置に格納されていてもよい。
【0051】
推定装置1は、例えば推定装置1に接続された外部記憶装置から教師データを読み出すことにより教師データを取得してもよく、また、サーバー等の他の装置から教師データを受信することにより教師データを取得してもよい。また、推定装置1に対しユーザが入力装置を用いて操作を行うことにより、教師データが推定装置1に入力されてもよい。また、推定装置1がカメラを備える構成とし、このカメラが粘性土を撮影することにより推定装置1が撮影データを取得してもよい。
【0052】
本実施形態では、推定装置1は、端末装置3により生成され、外部記憶装置に記憶された教師データの少なくとも一部を外部記憶装置から読み出すとともに、粘性土を撮影した撮影装置から撮影データを読み出すことにより、撮影データを取得する。端末装置3は、例えばパーソナルコンピュータである。端末装置3は、外部記録媒体を接続するためのインタフェースを有する。
【0053】
≪学習済モデルの詳細≫
図3は、本実施形態に係る学習済モデル121の一例を模式的に示した図である。図示の通り、学習済モデル121には、撮影データ、土源情報および密度情報を含む入力データが入力される。
【0054】
学習済モデル121は、例えば、畳み込み層と、プーリング層と、結合層とから成る。畳み込み層において、入力データはフィルタリングによる情報の畳み込みがなされる。畳み込みを経たデータは、プーリング層においてプーリング処理が施される。これにより、データ中の特徴の位置変化に対するモデルの認識能力が向上する。プーリング処理を経たデータは、結合層で処理されることによって、学習済モデル121の出力データ、すなわち、粘性土の特性の推定結果の形式に変換されて出力される。
【0055】
すなわち、学習済モデル121に入力された入力データを、図3に示す各層をこれらの順に通過させることにより、粘性土の粒度分布、または含水比等、粘性土の特性の推定結果が出力される。なお、推定結果の出力形式は特に限定されない。例えば、各種特性は指標値として数値で示されてもよいし、特性を表すグラフが表示されてもよい。また、各種特性はテキストデータで示されてもよい。
【0056】
≪処理の流れ≫
≪学習済モデルの生成に係る処理≫
本説明で使用する撮影データはデジタルカメラ等の撮影装置(図示略)からの撮影データとする。まず、撮影装置により、分析の対象である粘性土が撮影される。撮影装置により撮影が行われるタイミングは、例えば所定の条件が満たされたタイミングで行われる。所定の条件が満たされたタイミングは、例えば、撮影装置のユーザにより撮影を指示する操作が行われたタイミング、または、所定の単位時間が経過した場合、である。
【0057】
図4の(a)~(c)は撮影データの表す画像を例示した図である。図4の(a)に示す粘性土は、図4の(b)に示す粘性土よりも軟らかく、また、図4の(b)に示す粘性土は、図4の(c)に示す粘性土よりも軟らかい。これらに例示するように、粘性土は、種類等によりその特性は様々である。図4の(a)~(c)の例では、説明の理解を容易にすべく、図中にスケールを図示している。
【0058】
撮影データに対応する粘性土について、専門家により粘性土の特性の分析が行われる。分析結果データが示す分析結果は例えば、粘性土の圧密特性および強度特性である。圧密特性は例えば、撮影対象の粘性土について専門家が標準圧密試験を行うことにより計測される。標準圧密試験により、例えば、粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、圧密降伏応力、体積圧縮係数、および透水係数が計測される。
【0059】
強度特性は例えば、撮影対象の粘性土について専門家が一軸圧縮試験、ベーンせん断試験、および土の液性限界・塑性限界試験を行うことにより計測される。これらの試験により、例えば、粘性土の液性限界、塑性指数、せん断強さが計測される。
【0060】
専門家は、端末装置3を用いて粘性土の特性の分析結果を入力する操作を行う。端末装置3は、専門家の操作に応じて、粘性土の特性の分析結果を示す分析結果データを生成する。端末装置3は、生成した分析結果データを、例えば外部接続された外部記憶装置に記憶する。
【0061】
また、専門家は、端末装置3を用いて、粘性土の土源情報および密度情報のデータの生成を行う。より具体的には、例えば、専門家は、分析対象である粘性土の湿潤密度を、JIS A 1225に規定される「土の湿潤密度試験」を行うことにより算出し、算出した湿潤密度のデータを生成する。また、専門家は、分析対象である粘性土を採取した場所、粘性土を採取した地層の深さを、端末装置3に入力する。端末装置3は、専門家の操作に応じて、土源情報および密度情報を含むデータを、例えば外部接続された外部記憶装置に記憶する。
【0062】
図5の(a)は、推定装置1における、学習済モデルの生成に係る処理の流れを示すフローチャートである。なお、一部のステップは並行して、または、順序を替えて実行されてもよい。学習用データ取得部101は、撮影装置から撮影データを取得するとともに、外部記憶装置から土源情報および密度情報を読み出すことにより、撮影データ、土源情報および密度情報を含む学習用データを取得する(ステップS21)。このとき、学習用データ取得部101は、撮影データを画像処理部106に供給し、画像処理部106に前処理となる画像処理を行わせてもよい。前処理となる画像処理は例えば、輝度調整、コントラスト調整処理である。また、分析結果取得部102は、外部記憶装置から分析結果データを読み出すことにより、分析結果データを取得する(ステップS22)。学習用データ取得部101および分析結果取得部102は、取得した学習用データと分析結果データとを紐付けた教師データを、記憶部12に記憶する(S23)。ステップS21~S23の処理が繰り返されることにより、教師データセット122が記憶部12に蓄積される。
【0063】
生成部103は、学習用データと該学習用データに対応する分析結果データとの組を用いて、学習用データと分析結果データとの相関関係を機械学習させた学習済モデル121を生成する(S24)。
【0064】
≪粘性土の特性の推定に係る処理≫
図5の(b)は、推定装置1における粘性土の特性の推定に係る処理の流れを示すフローチャートである。なお、一部のステップは並行して、または、順序を替えて実行されてもよい。
【0065】
特性の推定を行いたいユーザは、推定装置1を用いて、粘性土を撮影した撮影データ、土源情報、および密度情報を指定する操作を行う。入力部104は、ユーザ操作に応じて、例えば外部接続された外部記憶装置から撮影データを読み出すとともに、ユーザ操作により入力された土源情報および密度情報を生成することにより、撮影データ、土源情報および密度情報を含む入力データを取得する(S40)。外部記憶装置から読み出される撮影データは、例えばユーザが所有する撮影装置により撮影されたデータである。また、土源情報および密度情報は、例えばユーザが推定装置1の入力装置を用いて入力する。なお、推定装置1がカメラを備える構成とし、そのカメラにより粘性土を撮影した撮影データが用いられてもよい。
【0066】
次いで、ユーザは、推定装置1を用いて粘性土の特性の推定を指示する操作を行う。推定装置1は、ユーザ操作に従い、特性の推定を行うための処理を実行する。まず、入力部104は、取得した入力データに含まれる撮影データを画像処理部106に供給する。画像処理部106は、撮影データに対し前処理となる画像処理を実行する(S41)。入力部104は、画像処理部106が画像処理した撮影データを推定部105に出力する。なお、撮影データに対し画像処理が行われず、入力部104により取得された撮影データがそのまま(画像処理が行われることなく)推定部105に供給されてもよい。
【0067】
入力部104は、入力データを推定部105経由で学習済モデル121に供給する(S42)。推定部105は、学習済モデル121から出力される特性の推定結果を取得する(S43)。この推定結果は、例えば、粘性土の圧密特性および強度特性である。
【0068】
推定部105は、取得した推定結果を、例えばディスプレイに表示、印刷またはデータ等として出力する(S44)。表示される特性は例えば、粘性土の圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、液性限界、塑性指数、せん断強さ、および、圧密降伏応力である。推定装置1のユーザは、ディスプレイに表示される内容を視認することにより、分析対象である粘性土の特性を把握することができる。
【0069】
このように、この実施形態では、ユーザは分析対象とする粘性土を撮影し、推定装置1を用いて湿潤密度の入力等の特定の操作を行うだけで、粘性土の特性の推定結果を得ることができる。すなわち、この実施形態では、ユーザは、粘性土の特性を推定するために、煩雑な作業や操作を行う必要がなく、これにより、推定に要する時間およびコストが短縮される。
【0070】
また、本実施形態によれば、施工時の安定性や将来沈下を把握して安全に施工を進めることができるとともに、どの場所にどの粘性土を投入すべきかの計画に粘性土の特性の推定結果を反映することもできる。
【0071】
(変形例1)
上述の各実施形態において、専門家等のユーザに学習済モデルの推定結果を修正させ、学習済モデルを再学習させてもよい。この場合、推定装置1におけるユーザ操作により推定結果の修正が行われる。推定装置1は、ユーザによる推定結果の修正を指示する操作を受け付ける。推定装置1は、ユーザ操作に従って推定結果を修正することで、粘性土の特性の分析結果を作成する。推定装置1は、修正した粘性土の特性の分析結果と対象の学習用データを紐付けて記憶部12の教師データセット122に追加する。分析結果取得部102は、取得した分析結果データとこの分析結果データに対応する学習用データとを用いて、学習済モデルを再学習させる。
【0072】
(変形例2)
上述の各実施形態で用いられる学習済モデル121は、上述した実施形態で示したものに限られない。学習済モデル121は例えば、MTRNN(Multi Timescale RNN)、LSTM(Long Short Term Memory)等のRNN(Recurrent Neural Network)、ARIMA(AutoRegressive, Integrated and Moving Average)モデル等であってもよい。
【0073】
上述の実施形態では、推定装置1が、図2に示す各部を備える場合について説明した。上述の実施形態に係る推定装置1の機能は、単体の装置により実現されてもよく、また、複数の装置が協働するシステムにより実現されてもよい。
【0074】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0075】
実施形態3は、学習用データの内容および入力データの内容が実施形態2と異なる。本実施形態では、粘性土の触感に関する情報が、学習用データおよび入力データに含まれる。粘性土の触感に関する情報は、例えばN値により特定される。N値とは、土の締まり具合や強度を求める基準となる数値である。N値が高いほど土に締まりがあることを意味する。N値は例えば、標準貫入試験により求められる。
【0076】
触感とN値との関係は、例えば、「N値とc,φの活用法,地番工学会編,1998」の文献に記載の関係が用いられる。本実施形態において、触感は例えば、「非常に軟らかい」、「軟らかい」、「中位」、「硬い」、「非常に硬い」の5段階に分類される。「非常に軟らかい」は、こぶしが容易に10数cm入る程度の硬さであり、例えばN値が0~2の場合である。「軟らかい」は、親指が容易に10数cm入る程度の硬さであり、例えば、N値が2~4の場合である。「中位」は、努力すれば親指が10数cm入る程度の硬さであり、例えば、N値が4~8の場合である。「硬い」は、指でへこませられる程度の硬さであり、例えば、N値が8~15の場合である。「非常に硬い」は、爪でしるしが付けられる程度の硬さであり、例えば、N値が15~30の場合である。
【0077】
本実施形態では、学習フェーズにおいて、専門家は、粘性土に対し標準貫入試験を実施してN値を計測し、粘性土の触感に関する情報(以下「触感情報」という)を特定する。専門家は、土源情報、密度情報に加えて、触感情報を端末装置3に入力する。推定装置1は、端末装置3に入力された触感情報を含む学習用データと、分析結果データとを含む教師データを記憶部12に記憶する(図5の(a)のステップS23)。また、推定装置1は、触感情報を含む学習用データと、分析結果データとを用いて、両者の相関関係を機械学習させた学習済モデル121を生成する(図5(a)のステップS24)。
【0078】
また、推定フェーズにおいて、ユーザは、分析対象である粘性土に対し標準貫入試験を実施してN値を計測し、粘性土の触感情報を特定する。ユーザは、土源情報、密度情報に加えて、触感情報を推定装置1に入力する。推定装置1は、撮影データ、土源情報、密度情報、および入力された触感情報を含む入力データを学習済モデル121に入力することによって得られる推定結果を、ディスプレイに表示する等により出力する。
【0079】
本実施形態によれば、粘性土の触感に関する情報が学習済モデルの説明変数として用いられる。これにより、粘性土の特性の推定精度を向上させることができる。
【0080】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0081】
実施形態4は、分析結果データの内容、および、推定装置1が行う処理の内容が、実施形態2と異なる。本実施形態では、分析結果データは、粘性土の液性限界を示すデータを含む。また、推定装置1は、粘性土の湿潤密度を用いて算出される含水比と、学習済モデル121を用いて推定される液性限界との比を用いて、非排水せん断強さを算出する。
【0082】
含水比wは、例えば以下の(1)式により求められる。(1)式において、ρは、学習済モデル121を用いて求められた湿潤密度であり、ρは土粒子密度(例えば、2.7g/cm3程度)、ρは水密度(例えば、1.0g/cm3程度)である。
【数1】
【0083】
非排水せん断強さCは例えば、以下の(2)式により求められる。(2)式において、wは含水比、wLは液性限界、a、bはパラメータである。
=a*(w/wL)^b …(2)
【0084】
(2)式における液性限界wLは、学習済モデル121を用いて求められる。パラメータa、bは、粘性土の強度特性により異なってくるパラメータである。例えば、専門家が複数種類の粘性土をサンプリングして含水比を算出することにより、パラメータa、bを決定してもよい。または、文献等に挙げられているパラメータ値をそのまま用いてもよい。
【0085】
図6は、含水比wと液性限界wLとの比(w/wL)と、非排水せん断強さCとの関係を例示するグラフである。図において、横軸は比(w/wL)を示し、縦軸は非排水せん断強さCを示す。推定装置1は例えば、図6に例示するグラフを示す関係式を用いて、比(w/wL)から非排水せん断強さCを算出する。
【0086】
本実施形態では、粘性土の含水比と学習済モデルを用いて推定される粘性土の液性限界とを用いて、粘性土の非排水せん断強さが算出される。これにより、粘性土の非排水せん断強さの推定に要する時間が短縮される。
【0087】
〔実施形態5〕
本発明の他の実施形態について以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0088】
実施形態5は、推定装置1が行う処理の内容が、実施形態4と異なる。本実施形態では、推定装置1は、算出した非排水せん断強さを用いて、粘性土の圧密降伏応力を算出する。
【0089】
本実施形態では、推定装置1は、非排水せん断強さCを算出し、算出した非排水せん断強さCを用いて圧密降伏応力Pを算出する。非排水せん断強さCの算出方法は上述の実施形態4と同様である。本実施形態では、圧密降伏応力Pは、例えば以下の(3)式で求められる。
=C/(ΔC/Δp) …(3)
【0090】
(3)式において、ΔC/Δpは、強度増加率と呼ばれるパラメータであり、一般に0.3程度である。パラメータΔC/Δpは、学習済モデル121により塑性指数Ipを推定後、強度増加率ΔC/Δpと塑性指数Ipの関係を示すSkempton式(以下の(4)式)によって設定されてもよい。
ΔC/Δp=0.11+0.0037Ip …(4)
【0091】
ところで、圧密特性の一つである圧密降伏応力Pについては、不撹乱試料を採取して圧密試験を実施して調べることが容易ではない。そのため、圧密降伏応力を教師データに加えることが困難な場合がある。本実施形態では、学習済モデル121を用いて推定される粘性土の非排水せん断強さCを用いて圧密降伏応力Pが算出される。これにより、本実施形態によれば、教師データに圧密降伏応力が含まれない場合であっても、ユーザが粘性土の撮影画像、土源情報および湿潤密度を入力するだけで、粘性土の圧密降伏応力を推定することができる。
【0092】
〔ソフトウェアによる実現例〕
推定装置1または情報処理装置200の制御ブロック(学習用データ取得部101、分析結果取得部102、生成部103、入力部104、推定部105、画像処理部106、および出力部107のうち少なくとも1つ)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0093】
後者の場合、推定装置1または情報処理装置200は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0094】
〔粘性土を用いた建設工事の施工方法〕
上述の実施形態において、推定装置1または情報処理装置200により特性が推定された粘性土は例えば、建設工事の施工に用いられる。建設工事は例えば、埋め立て、および盛土工事や建物基礎部や建物と周辺地盤との空隙の埋め戻し工事である。粘性土を用いた施工方法は、例えば、盛土築造の工程を含む。
【0095】
また、上述の実施形態において、推定装置1または情報処理装置200により推定された粘性土の特性の推定結果を用いて、粘性土を用いた施工方法が実施されてもよい。この場合、推定装置1または情報処理装置200が推定した粘性土の特性を用いて、建設工事の施工における安全性の評価、および地盤の将来沈下量の予測の少なくとも何れか一方が行われてもよい。安全性の評価とは例えば、施工時のすべりに対する安全性である。
【0096】
すべりに対する安全性は、例えば、「道路土工 軟弱地盤対策工指針」に示されるように、分割法によるすべり安定計算方法を用いて評価することができる。すなわち,円弧すべり上にある土塊を複数の鉛直細片に分割し、土の重量に起因するすべりの駆動外力と土の強度特性に起因する抵抗力の比より、土塊全体のすべり破壊に対する安全率を計算する。所定の安全率以上が確保されることを確認しながら、斜面高や勾配を管理しながら安全な施工が行われる。
【0097】
また、将来沈下量は、例えば、「道路土工 軟弱地盤対策工指針」に示されるように、土の密度と圧密特性(圧縮指数、膨潤指数、圧密係数、圧密降伏応力など)に基づき、cc法を用いて予測することができる。予測される将来沈下量と、埋立地盤や盛土の利用計画高を考慮し、盛土や埋立の最終施工高さ(嵩上げ高さ)が決定される。
【0098】
安全性の評価結果および/または地盤の沈下量の予測結果は、特性の推定対象であった粘性土を用いた建設工事の施工において参照される。例えば、安全性の評価結果および/または将来の沈下量の予測結果を用いて、建設工事に用いる場所が設定される。すなわち、本態様において、粘性土を用いた建設工事の施工方法は、推定装置1が推定した粘性土の特性を用いて、建設工事の安全性の評価、および地盤の沈下量の予測の少なくとも何れか一方を行うステップを含む。
【0099】
本態様によれば、粘性土を用いて埋め立てや盛土などの建設工事を行う際に、上記粘性土特性推定方法を用いて粘性土の特性を考慮して建設工事を進めることができる。例えば、粘性土の特性に応じた埋め立て、および/または盛土の投入場所の設定を行うことができる。投入場所の土源が異なる粘性土毎の特性を把握することで将来の地盤の沈下予測にも役立つ。例えば、埋立材として用いる粘性土の土源毎に、土質特性を管理し、どこにどのような特性を有する粘性土を使用したかを把握することで、将来の地盤の沈下予測が行われる。また、埋立材として使用する前に、特性を用いて当該粘性土が埋立材として適切か否かの判断を行うことができる。
【0100】
また、粘性土を用いた施工方法は、粘性土の土質特性を考慮し、埋立て材・盛土材として使用する際に一定の沈下予想範囲内に収まるように施工区域を特定する工程を含んでもよい。すなわち、使用する粘性土の土源毎の土質特性を把握することにより、仮に異なる土源の粘性土を複層で使用するにしても、特性に応じて投入場所を設定することで将来の沈下量を所定の範囲に抑えることができ、安定した地盤を得ることが出来る。
【0101】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1 推定装置
3 端末装置
10 制御部
12 記憶部
101 学習用データ取得部
102 分析結果取得部
103 生成部
104 入力部
105 推定部
106 画像処理部
121 学習済モデル
122 教師データセット
200 情報処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6