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特許7289297撓み可能な変換器を有する薬剤注入デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】撓み可能な変換器を有する薬剤注入デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20230602BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
A61M5/315 550X
A61M5/24 502
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020530347
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2018083550
(87)【国際公開番号】W WO2019110618
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】17205309.2
(32)【優先日】2017-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グルベ, ミッケル シェーンベルク
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-516711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0029018(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤注入デバイス(100)であって、
中心軸に沿って同軸に配置された第1の要素(140)および第2の要素(103)であって、前記第1の要素(140)および/または第2の要素(103)は、前記中心軸の周りで回転移動可能であり、互いに対する回転運動を起こすように構成され、前記回転運動が、前記薬剤注入デバイス(100)に対して行われた動作、または前記薬剤注入デバイス(100)によって行われた動作に対応する第1の回転方向における一方向運動であり、かつ前記薬剤注入デバイス(100)から送達された、または送達される薬剤量を表し、
-前記第1の要素(140)が、前記回転運動の第1の回転方向に沿って等間隔に離間した複数の連続的に配設された突起部(143)を含む突起構成を含み、
-前記第2の要素(103)が、第1および第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)を含み、前記第1の撓み可能な変換器および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)のそれぞれが、前記第1の要素(140)の前記複数の突起部(143)と順次協働して撓むことによって、前記撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)が、各突起部(143)を通過し撓んだときに、起動信号を発生させるように構成されている、第1の要素(140)および第2の要素(103)と、
-前記第1および第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)から発生した起動信号を記録するように、前記第1および第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)と電気的に接続され、記録された起動信号から、前記薬剤注入デバイス(100)から送達された、または送達される薬剤量を決定するように構成された、プロセッサ(151)と、を備え、
-前記第1の要素(140)と前記第2の要素(103)とが互いに対して動いたときに、前記第2の撓み可能な変換器(103b/153b)によって発生させられた第2の起動信号が、前記第1の撓み可能な変換器(103a/153a)によって発生した第1の起動信号に対して遅延するように、前記突起構成が前記第1の要素(140)上に配設され、かつ前記第1および第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)が前記第2の要素(103)上に配設され、
-前記プロセッサ(151)が、前記第1の起動信号および前記第2の起動信号を記録し、それらの間の遅延時間を決定するように構成され、
-前記プロセッサ(151)が、a)前記遅延時間が事前定義値以上である場合には第1の制御動作をもたらし、b)前記遅延時間が前記事前定義値を下回る場合には第2の制御動作をもたらすように構成されている、薬剤注入デバイス(100)。
【請求項2】
前記第1および第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)のそれぞれが、前記突起構成の前記突起部(143)と協働することによって前記第1の回転方向に対してほぼ横切る方向に撓むように配置された撓み可能な部分を含む、請求項1に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項3】
前記第1および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)のそれぞれが、前記突起構成の前記突起部(143)と協働したとき、前記第1の回転方向に対してほぼ横切る方向に撓むように構成された弾性的に撓み可能な高分子または金属材料部分によって画定されたそれぞれの撓み可能なアーム(103a、103b)を含む、請求項1または2に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項4】
前記突起構成の前記突起部(143)と前記第1の撓み可能な変換器および/または前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)の前記撓み可能なアーム(103a、103b)との係合幾何学的形状が、前記突起部(143)が前記撓み可能なアーム(103a、103b)を通過するときに、可聴クリック音を発生させるクリック機構を画定している、請求項3に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項5】
前記第1の撓み可能な変換器および/または前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)のそれぞれに関して、前記突起構成の前記突起部(143)と前記第1の撓み可能な変換器および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)の前記それぞれの撓み可能なアーム(103a、103b)との係合幾何学的形状が、前記撓み可能なアーム(103a、103b)の徐々に上がる撓みをもたらして、撓み状態にした後に、各突起部が前記撓み可能なアーム(103a、103b)を通過するときに、前記撓み状態からの突然の解放をもたらすように構成されている、請求項3または4に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項6】
前記薬剤注入デバイス(100)が、前記第1の回転方向と反対の方向における前記第1の要素(140)と前記第2の要素(103)との相対的運動を防ぐように、前記第1の要素(140)と前記第2の要素(103)との間にラチェット機構を画定している、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項7】
前記第1の要素(140)が、角度方向に均等に配置された前記複数の突起部(143)を有する円形要素を画定し、前記複数の突起部(143)が、軸方向に突き出て、前記第1の撓み可能な変換器および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)を軸方向に撓ませるように配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項8】
前記第1の要素(140)が、角度方向に均等に配置された前記複数の突起部(143)を有する円形要素を画定し、前記複数の突起部(143)が、半径方向に突き出て、前記第1の撓み可能な変換器および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)を半径方向に撓ませるように配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項9】
前記第1の撓み可能な変換器および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)が、前記中心軸の周りにほぼ対称の構成で配設されている、請求項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項10】
前記第1の要素(140)の前記複数の連続的に配設された突起部(143)が、間隔Sで等間隔に離間しており、前記第2の撓み可能な変換器(103b/153b)からの起動信号および前記第1の撓み可能な変換器(103a/153a)からの起動信号が、Sの0.5倍未満、より好ましくはSの0.4倍未満、より好ましくはSの0.3倍未満、最も好ましくはSの0.2倍未満に対応する、前記第1の要素(140)と前記第2の要素(103)との相対的運動内で発生するように、前記第1および第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)が、前記第2の要素(103)上に位置付けられている、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項11】
前記プロセッサ(151)が、計数器を備え、前記プロセッサ(151)が、前記第1の制御動作を行うと前記計数器の値を修正し、前記第2の制御動作を行うと前記計数器の前記値を修正しないように構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項12】
前記第1の撓み可能な変換器および/または前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)が、圧電センサ、歪みゲージ、ガルバニック箔センサ、および2つの電極間に弾性誘電体を有する静電容量式センサのうちの1つとして設けられるか、またはそれを備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項13】
前記第1の撓み可能な変換器および/または前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)が、印刷された圧電材料を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項14】
前記第1の撓み可能な変換器および前記第2の撓み可能な変換器(103a/153a、103b/153b)ならびに前記プロセッサ(151)が、可撓性シート上に配置されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項15】
前記薬剤注入デバイス(100)が、長手方向軸に沿って延在するハウジングを画定し、リザーバからある量の薬剤を排出するための薬剤排出機構をさらに備え、前記第1の要素(140)および/または前記第2の要素(103)が、前記薬剤排出機構の一部を形成し、前記長手方向軸を中心とする前記第1の要素(140)と前記第2の要素(103)との相対的一方向運動が、排出用量に従う薬剤排出動作中にもたらされる、請求項1~14のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス。
【請求項16】
前記第1の撓み可能な変換器(103a/153a)が第1の突起部との協働を経るときに、前記第2の撓み可能な変換器(103b/153b)が前記第1の突起部から直径方向の反対側に配置された第2の突起部と協働するように、前記第1の撓み可能な変換器(103a/153a)の先端部分(103a’)と前記第2の撓み可能な変換器(103b/153b)の先端部分(103b’)が離れて配置されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬剤注入デバイス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、対象に薬を送達するためのデバイスに関するものであり、より詳細には、薬剤リザーバから1回以上の薬剤を排出することが可能な注入デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病ケアセグメントでは、従来のバイアルおよびシリンジシステムを用いて実施される非経口薬剤投与は、ペン注入デバイスを用いた投与によってますます置き換えられている。ペン注入デバイスは、特定の用量をあるリザーバ(バイアル)から別のリザーバ(シリンジ)へと手動で移さずに、予め充填された薬剤リザーバから用量注入を実行することを可能にするという点で、特に便利である。
【0003】
主に、2つのタイプのペン注入デバイスが利用できる。耐久性のある注入デバイスは、使用前にデバイスの中へと装填し、かつ使い果たした後に交換することができる、予め充填された薬剤カートリッジから1回以上の用量の薬剤を送達できる。また、使い捨て注入デバイスは、予め充填された非交換式の薬剤カートリッジから薬剤の1回以上の用量を送達することができる。これらのタイプのペン注入デバイスの各々は、例えば、例えば、薬剤カートリッジから一回の用量のみを送達するように適合されたシングルショットデバイス、薬剤カートリッジから複数の用量を送達できるマルチショットデバイス、ユーザが注入に必要な力を提供する手動デバイス、注入の機会に解放可能な組み込みエネルギー源を有する自動デバイス、所定の用量の薬剤を送達するように適合された固定用量デバイス、ユーザが設定可能なさまざまな用量の薬剤の送達を提供する可変用量デバイスなどのような様々なサブタイプで実現されるか、または原理として実現され得る。
【0004】
ラベルとして、耐久性のある注入デバイスは、複数の薬剤カートリッジがその間に使い果たされおよび交換される相当な期間にわたって使用することを意図しており、一方で、使い捨て注入デバイスは、その専用薬剤カートリッジが使い果たされるまで使用することが意図されており、その後、注入デバイス全体が廃棄されることを示唆する。
【0005】
糖尿病の治療では、特定の薬剤(例えば、インスリンまたはglp-1)の投与された用量および用量投与のそれぞれの時刻の記録を保持することが望ましい。したがって、いくつかの注入デバイスは、デジタルディスプレイ上で、電子用量収集および用量関連情報を見直す機会を提供する。
【0006】
一例として、米国特許第6,277,099(B1)号(Becton,Dickinson and Company)は、電子薬剤送達ペンを開示しており、ここで、ダイヤルされた用量は、使用者が操作可能な用量ノブの回転に応答して起動し、液晶ディスプレイ上に表示される圧電センサ配置によって検出される。薬剤送達ペンは、メモリ機能も備え、液晶ディスプレイとともに、用量サイズおよび最後の5回の注入の時刻を伝えるための操作可能なインターフェースを提供する。
【0007】
米国2015/0302818A1(Owen Mumford Limited)は、より大きなフォントサイズの投与表示を可能にするためだけに、従来のスケールドラムに加えて電子ペーパーディスプレイデバイスの使用を開示している。電子ディスプレイは、投与設定ノブの回転中に連続して通電される圧電素子からの信号によって駆動される。
【0008】
最近まで、上記のような電子機能の使用は、耐久性のある注入デバイスに限定されていたが、使い捨て式注入デバイスにこのような機能を組み込むことに関連する追加コストは、経済的に採算が取れない最終製品につながると考えられてきた。しかし、特にプリントエレクトロニクスの進歩は、電子部品を内蔵した使い捨て式注入デバイスを合理的なコストで製造する可能性に対して有望である。
【0009】
WO 2015/071354A1(Novo Nordisk A/S)は、そのハウジングの外部に少なくとも部分的に取り付けられた可撓性シートを有する薬剤送達デバイスを開示し、その可撓性シートは、例えばディスプレイ、プロセッサ、エネルギー源、およびデバイス上でまたはデバイスによって実行される動作によって作動可能な入力手段のなどの印刷された電子部品を有する。ディスプレイは、入力手段の作動に応答して、例えば、設定された用量の大きさ、排出された用量の大きさ、および/または時間パラメータを視覚的に表示するように構成されている。入力手段は、様々なスイッチ構造によって例示され、それぞれが、ハウジング内の開口部を介して内部のデバイス構成要素との接続を提供するように適合されている。
【0010】
スイッチ構造は一般的に、取り扱い中や輸送中に例えばスイッチの誤作動などのエラーが発生しやすい。特に、デバイスが硬い表面に意図せずに落下した場合、衝撃によって誤ってスイッチが起動してしまうことがある。
【発明の概要】
【0011】
先行技術の少なくとも1つの欠点を除去するか若しくは減少させること、または先行技術の解決に対する有用な代替案を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
特に、本発明の目的は、薬剤注入デバイスの状態変化の検出を確実に可能にするための手段を有する薬剤注入デバイスを提供することである。薬剤の設定用量および/または排出用量を電子的に決定するための手段を有する改良された薬剤注入デバイスを提供することは、本発明のさらなる目的である。比較的単純であり、安価に製造することが可能な、そのような薬剤注入デバイスを提供することは、本発明のさらなる目的である。
【0013】
本発明の開示では、上記の目的のうちの1つ以上に対処する、および/または、以下の文章から明らかである目的に対処する、態様および実施形態が記載される。
【0014】
本発明の第1の態様は、保持薬剤リザーバから一用量の薬剤を排出するための薬剤注入デバイスに関し、薬剤注入デバイスは、
-互いに相対的な移動を起こすように構成された第1の要素および第2の要素であって、前記移動が、薬剤注入デバイスに対して行われた動作、または薬剤注入デバイスによって行われた所定の動作に対応する第1の方向における一方向移動であり、薬剤注入デバイスから送達された、または送達される薬剤量を表し、
-第1の要素が、第1の移動方向に沿って等間隔に離間した複数の連続的に配設された突起部を含む突起構成を含み、
-第2の要素が、第1および第2の撓み可能な変換器を含み、前記第1および前記第2の撓み可能な変換器のそれぞれが、第1の要素の複数の突起部と順次協働して撓むことにより、撓み可能な変換器が、各突起部を通過するとき撓むのにつれて、起動信号を発生させるように構成されている、第1の要素および第2の要素と、
-第1および第2の撓み可能な変換器から発生した起動信号を記録するように、第1および第2の撓み可能な変換器と電気的に接続され、かつ記録された起動信号から、薬剤注入デバイスから送達された、または送達される薬剤量を決定するように構成された、プロセッサと、を備え、
-第1の要素と第2の要素とが互いに対して動くのにつれて、第2の撓み可能な変換器によって発生した第2の起動信号が、第1の撓み可能な変換器によって発生した第1の起動信号に対して遅延するように、突起構成が第1の要素上に配置され、かつ第1および第2の撓み可能な変換器が第2の要素上に配置され、
-プロセッサが、第1の起動信号および第2の起動信号を記録し、それらの間の時間遅延を決定するように構成され、
-プロセッサが、a)時間遅延が規定値以上である場合には第1の制御動作をもたらし、b)時間遅延が前記規定値を下回る場合には第2の制御動作をもたらすように構成されている、薬剤注入デバイス(100)。
【0015】
このようなデバイスによれば、プロセッサによって決定された時間遅延が、第1の起動信号と第2の起動信号との間に適切なシーケンス、すなわち、前記所定の動作に典型的であるシーケンスが生じたことを示す場合、これは、薬剤注入デバイス上でまたは薬剤注入デバイスによって行われ、薬剤注入デバイスから送達された、または送達される薬剤量を表す、前記所定の動作を記録するために使用されるようになる。本明細書によれば、第1の制御動作は、プロセッサによってもたらされる。
【0016】
本発明のこの第1の態様によれば、正しく働くデバイスの場合、第1および第2の起動信号の特定のシーケンスを利用することによって、薬剤注入デバイスの製造者は、第1の起動信号と第2の起動信号との間の時間遅延の範囲、すなわち、ある用量の薬剤の排出中など、意図したように操作される完璧に機能するデバイスを操作する際に起こりやすい、事前定義値を含む、時間遅延の範囲を指定し得る。本明細書によれば、問題になっている特定の薬剤注入デバイスの場合、前記の時間遅延の範囲よりも低い経験した時間遅延値に関し、意図したやり方で操作される完璧に機能するデバイスからの薬剤の排出中には、このような時間遅延は、起こりそうにない。したがって、第1および第2の起動信号の特定のシーケンスは、誤ったトリガーおよび/またはエンコーダの誤作動に対して、エンコーダ、すなわち第1および第2の撓み可能な変換器をエラー緩和するために使用される。
【0017】
プロセッサによって記録された時間遅延が、事前定義値を下回る場合、例えば不正な状態を示す場合、第2の制御動作が第1の制御動作とは異なることを認識した上で、不正な状態の表示を与えるように、第2の制御動作を使用することができる。例えば、このような不正な状態は、デバイスをうっかり硬い表面に落とした場合に起こる可能性があり、それにより、第1および第2の撓み可能な変換器の無制御のアクティブ化を引き起こす可能性があり、通常、第1および第2の撓み可能な変換器によって発生した一対の信号が同時に提供されるようになるか、または事前定義値を下回る2つの起動信号間に時間遅延が生じる。したがって、プロセッサは、第2の制御動作をもたらすように構成され得る。このような制御動作は、例えば、第1および第2の撓み可能な変換器からの間違った信号をフィルタで取り除き、それによって、これらの信号が、薬剤注入デバイスに対して、または薬剤注入デバイスによって行われる前記の所定の動作を記録し、薬剤注入デバイスから送達された、または薬剤注入デバイスから送達される薬剤の量を表すのに使用されないようにする、動作をもたらし得る。
【0018】
2つの個々の撓み可能な変換器での同じ構成は、2つの撓み可能な変換器のうちの1つが不良であるか、または完全に欠陥があるかどうか、すなわち、起動信号が全くなにも発生していないかどうかを検出するために使用され得る。このような事態が発生すると、第1および第2の撓み可能な変換器からの起動信号の適切な事前定義されたシーケンスが満たされず、エラー状態が判定されてフラグ付けられる可能性がある。
【0019】
ESDパルスが片腕または両腕に当たるような、発生する可能性のある別の事象は、所定の動作に応答して生成されるシーケンスと比較して、起動信号の正しいシーケンスを持たない。第1の態様に従って溶液を用いることで、潜在的なESDパルスを不良状態と決定することができ、第2の制御動作が実行される。
【0020】
撓み可能な変換器からの起動信号のうちの1つが、以下の条件、a)センサの欠陥、b)センサとプロセッサの間の破線、または、c)電子回路への接触を失ったプロセッサ上の入力ピン、のうちの1つ以上により、プロセッサによって受信されない場合、エラーはさらに検出可能である。
【0021】
いくつかの実施形態では、薬剤注入デバイスは、第1および第2の撓み可能な変換器によって記録された信号を処理するために電力を提供するためにプロセッサに結合されるエネルギー源を含み得る。このようなエネルギー源は、印刷電池やコイン型電池などの電池で含み得る。代替的に、またはそれに加えて、薬剤注入デバイスは、外部デバイスによって提供されるエネルギー場からエネルギーを収集するように構成された回路を含み得る。
【0022】
薬剤注入デバイスはさらに、薬剤排出作用、および/または用量設定作用、例えば、薬剤排出作用の時間、および/または薬剤排出作用の過程でリザーバから排出される用量の大きさなどに関する情報を保管するように適合された電子記憶ユニットを含んでいてもよい。電子記憶ユニットは、薬剤注入デバイスの他の電子部品とともに、印刷されるか、または担体に取り付けられるなどによって、形成されてもよい。担体は、基板の形態をとるか、または可撓性シートの形態をとり得る。
【0023】
撓み可能な変換器、プロセッサ、および/またはエネルギー源は、ハウジング上またはハウジング内に少なくとも部分的に取り付けられた単一の可撓性シート上に配置され得る。可撓性シート上の電子構成要素の配置により、複数のシートが連続的なプロセスで、例えば、ロールツーロール印刷によって調製されてもよいという点で、より迅速かつ安価な大量生産が可能となる。
【0024】
さらなる電子構成要素は、薬剤注入デバイスによって構成されてもよく、例えば、外部受信機にデータを無線で中継するためのアンテナなどのプロセッサに結合されてもよい。また、追加的に、または補足的に、電子的に制御されたディスプレイは、1つ以上の第1の制御動作および/または1つ以上の第2の制御動作に相関するデータに関連する情報を表示するためにプロセッサに結合されてもよい。このような追加の電子構成要素はすべて、前記単一の可撓性シート上に配置されていてもよい。
【0025】
いくつかの変形形態では、薬剤注入デバイスは電子制御されたディスプレイを含まない。このような変形形態では、薬剤注入デバイスは、外部受信機にデータを無線で中継するための、通信ユニットおよびアンテナを含む。その特定の変形形態では、薬剤注入デバイスは、用量設定機構と、注入デバイスから排出される設定用量を視覚的に示すために利用される機械的に操作される用量ダイヤルディスプレイとを含み得るが、アンテナと通信ユニットは、薬剤注入デバイスから排出される1つ以上の用量の量を示すデータを外部受信デバイスに中継するために利用される。
【0026】
いくつかの実施形態では、第1および第2の撓み可能な変換器のそれぞれは、突起構成の突起部と協働することによって、第1の方向に対して概ね横方向に撓む状態になるように配置される可撓性部分を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、第1および第2の撓み可能な変換器のそれぞれは、突起構成の突起部と協働して、第1の方向に対して概ね横方向に撓む状態になるように構成された、弾性的な可撓性ポリマーまたは金属材料部分によって画定される、それぞれの可撓性アーム上に配置されている。
【0028】
突起構成の突起部と第1および/または第2の撓み可能な変換器の可撓性アームとの係合幾何学的形状は、いくつかの実施形態では、突起部が可撓性アームを通過するにつれて可聴クリックを発生させるクリック機構を画定し得る。したがって、薬剤注入デバイス上で、または薬剤注入デバイスによって行われ、薬剤注入デバイスから送達された、または薬剤注入デバイスから送達されるべき薬剤の量を表す、前記所定の動作の登録は、デバイスの使用中にユーザが耳で聞いて登録する可聴クリックと同期される。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1および/または第2の撓み可能な変換器のそれぞれについて、突起構成の突起部と、第1および第2の撓み可能な変換器のそれぞれの可撓性アームとの係合幾何学的形状は、可撓性アームのバイアス状態への徐々に上昇する撓みを提供し、その後、それぞれの突起部が可撓性アームを通過する際に、バイアス状態からの突然の解放を提供するように構成されている。
【0030】
特定の実施形態では、薬剤注入デバイスは、前記第1の方向とは反対の方向における第1の要素と第2の要素との間の相対的運動を防ぎ、第1の方向への移動を可能にするように、第1の要素と第2の要素との間にラチェット機構を画定する。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1の要素および第2の要素は、中心軸に沿って同軸的に配置され、第1の要素および/または第2の要素は、第1の回転方向の相対的な回転運動のために中心軸の周りで回転移動可能である。
【0032】
第1の要素は、角度方向に均等に配置された複数の突起部を有する円形要素を画定するように形成されてもよく、複数の突起部が、第1および第2の撓み可能な変換器を半径方向に撓ませるために半径方向に突き出るように配置されている。突起部は、半径方向外側または半径方向内側に突き出し得る。いくつかの実施形態では、第1の撓み可能な変換器は、半径方向外側に突出する突起部と協働するが、第2の撓み可能な変換器は、半径方向内側に突出する突起部と協働する。また他の実施形態では、第2の要素に配置された第1および/または第2の撓み可能な変換器の一方または両方は、第1の要素に配置された軸方向に突出する突起部と協働する時に、軸方向に撓むように配置されている。
【0033】
いくつかの実施形態では、第1および第2の撓み可能な変換器は、中心軸の周りに概して対称的な構成で配置されている。
【0034】
薬剤注入デバイスの特定の実施形態では、第1の要素の直列に配置された突起部は、距離Sで等間隔に離間される。第1および第2の撓み可能な変換器は、第2の撓み可能な変換器からの起動信号と、第1の撓み可能な変換器からの起動信号とが、第1の要素と第2の要素との間の相対的運動内で、Sの0.5倍未満、より好ましくはSの0.4倍未満、より好ましくはSの0.3倍未満、最も好ましくはSの0.2倍未満に対応するように、第2の要素上に位置付けられる。
【0035】
いくつかの実施形態では、プロセッサは計数器を備え、プロセッサは、第1の制御動作を行う際に計数器の値を修正するように構成され、第2の制御動作を行う際に計数器の値を修正しないように構成されている。いくつかの実施形態では、プロセッサは、後の検索のために第1の制御動作の数を表す計数器の値を保存するように構成されている。また、さらなる実施形態では、プロセッサは、後の検索のために、1つ以上の第2の制御動作を保存するように構成されている。
【0036】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、1つ以上のデータセットを保存し、それぞれのデータセットは、計数器の値および関連する時間値を含み、ここで、それぞれのデータセットは、排出された投与量と、関連する排出時間とを表す。
【0037】
他の実施形態では、プロセッサは、前記第1の制御動作を行う際に、実行され登録された前記所定の動作を表す時間値を保存し、それにより、それぞれの第1の制御動作および関連する時間値がプロセッサによって保存される。プロセッサは、前記第2の制御動作を行う際に、任意の時間値を保存しないように構成されていてもよい。代替的に、前記第2の制御動作を行う際に、エラー状態を示すフラグとともに時間値を保存する。
【0038】
異なる実施形態では、第1および/または第2の撓み可能な変換器は、圧電センサ、歪みゲージ、ガルバニック箔センサ、および2つの電極間に弾性誘電体を有する静電容量式センサのうちの1つ以上として提供されるか、またはそれらを含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、第1および/または第2の撓み可能な変換器は、印刷された圧電材料を含む。
【0040】
第1および第2の撓み可能な変換器、ならびにプロセッサは、可撓性シート上に配置されていてもよい。可撓性シートは、アンテナと無線通信ユニットとをさらに含んでいてもよい。また、いくつかの実施形態では、可撓性シートは、1つ以上の印刷された電池などのエネルギー源を含んでいてもよい。いくつかの形態では、薬剤注入デバイスは、電子制御式ディスプレイを含まない。他の形態では、薬剤注入デバイスは、電子制御式ディスプレイを含む。
【0041】
特定の形態では、薬剤注入デバイスは、長手方向軸に沿って延在するハウジングを画定し、さらに、リザーバからある量の薬剤を排出するための薬剤排出機構を構成し、第1の要素および/または第2の要素が薬剤排出機構の一部を形成し、排出された用量に応じた薬剤排出動作の間に、長手方向軸に関する第1の要素と第2の要素との間の相対的な一方向運動が提供される。
【0042】
いくつかの実施形態では、薬剤排出機構は、緊張したばねに蓄えられたエネルギーが、注入デバイスからの一用量の薬剤を排出するために利用される、ばね駆動機構として構成されている。他の実施形態では、薬剤排出機構は完全手動式であり、薬剤注入デバイスからの一用量の薬剤の排出を駆動するために必要な力は、使用者の手によって及ぼされる。ばね駆動式排出機構および完全手動式排出機構を構成する実施形態のいずれも、最大排出速度は、通常は予測可能であり、第1の起動信号と第2の起動信号との間のシーケンス、例えば、これらの信号間の時間遅延は、同様に予測可能である。したがって、これは、本発明の第1の態様に従って提案されたエラー緩和を提供するための最適な条件を提供する。
【0043】
そのさらなる実施形態では、薬剤注入デバイスは、薬剤排出機構によって保持された薬剤容器から排出される薬剤の用量を設定するために、動作可能な用量設定機構をさらに含む。用量設定機構を含む特定の実施形態では、第1の要素および/または第2の要素は、用量設定機構の一部を形成し、用量設定動作の間、長手方向軸に関する第1の要素と第2の要素との間の相対的な一方向移動が提供される。
【0044】
用量設定機構を含むさらに他の実施形態では、長手方向軸に関する第1の要素と第2の要素との間の前記相対的な一方向移動は、排出された用量に応じた薬剤排出動作の間に提供されるが、前記相対的な一方向移動は、用量設定の間、すなわち、用量をダイヤルアップする間、または初期設定された用量をダイヤルダウンする間には行われない。
【0045】
いくつかの実施形態では、薬剤注入デバイスは、ピストン装備されたカートリッジまたはシリンジなどの、予め充填されかつ交換不可能な薬剤容器から1回以上の用量の薬剤を排出するための使い捨て注入装置を画定する。その他の実施形態では、薬剤注入デバイスは、予め充填され交換可能な薬剤容器またはシリンジから1回以上の用量の薬剤を排出するための耐久性のある注入デバイスを画定する。
【0046】
本明細書で使用されるように、「薬剤注入デバイス」という用語は、薬剤を経皮的に投与するためのすべてのタイプのデバイスをカバーし、すなわち、比較的短い時間スパンで薬剤が送達される従来のラベル付き注入デバイス(注入針を有するか否かを問わず)であるデバイスと、より長い時間にわたって連続的に薬剤が送達される従来のラベル付き注入デバイスであるデバイスとを含む。
【0047】
また、本明細書で使用されるように、用語「遠位」および「近位」は、薬剤注入デバイスに沿った位置または方向を示し、「遠位」は薬剤排出端を指し、「近位」は薬剤排出端とは反対側の端を指す。
【0048】
本明細書において、特定の態様または特定の実施形態(例えば、「態様」、「第1の態様」、「一実施形態」、「例示的な実施形態」など)への言及は、それぞれの態様または実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または、特性が、少なくとも本発明のその一態様または実施形態に含まれるか、または固有のものであるが、必ずしも本発明のすべての態様または実施形態であるわけでもそれらに含まれるわけでもないことを、表す。しかしながら、本発明に関連して説明した様々な特徴、構造および/若しくは特性の任意の組み合わせが、本明細書に明示的に記載されていない限り、または明確に文脈上矛盾しない限り、本発明に包含されることが強調される。
【0049】
本文中のありとあらゆる例、または例示的な言語(例えば、など)の使用は、単に本発明をよりよく明らかにすることを意図したものであり、別段の特許請求がされていない限り、本発明の範囲を制限するものではない。さらに、本明細書中のいずれの言語または言い回しも、特許請求されていないいずれかの要素が本発明の実施に必須であると示しているとは解釈されない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
以下において、本発明は、図面を参照してさらに説明される。
【0051】
図1図1は、従来技術のペンデバイス200の斜視図を示す。
図2図2は、図1のペンデバイスの構成要素の分解立体図である。
図3A図3Aおよび3Bは、二つの状態における、図1のペンデバイスの排出機構の断面図である。
図3B図3Aおよび3Bは、二つの状態における、図1のペンデバイスの排出機構の断面図である。
図3C図3C~3Eは、図1のペンデバイスの構成要素を示す。
図3D図3C~3Eは、図1のペンデバイスの構成要素を示す。
図3E図3C~3Eは、図1のペンデバイスの構成要素を示す。
図4図4は、第1の状態における、第1および第2の撓み可能な変換器を有するペンデバイスを有する本発明による、第1の実施形態のペンデバイス100の斜視断面図である。
図5図5は、第2の状態における、第1および第2の撓み可能な変換器を有するペンデバイス100と同様の図である。
図6図6は、動作中に第1および第2の撓み可能な変換器から受信したセンサ信号を概略的に描写する図である。
図7図7は、本発明による、第2の実施形態のペンデバイス100の斜視断面図である。
図8図8は、第1の実施形態のペンデバイス100の斜視図であり、一部を切り開いて電子回路網の一部を露出させている図である。
図9図9は、第1の実施形態の電子回路網を有するフレキシブル基板であり、基板は圧電センサを含む。
【0052】
図面において、同様の構造体は、主として同様の参照番号で識別される。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下の相対的な表現において、「時計回り」および「反時計回り」、「左」および「右」などの相対的な表現が使用される場合、これらは添付の図を参照し、必ずしも使用の実際の状況を参照しない。示される図は、概略表現であり、そのため、異なる構造の構成だけでなく、その相対的寸法も、例示的な目的のみを果たすことが意図される。
【0054】
図1は、ペン形成された自動注入デバイス200の形態の先行技術の薬剤送達デバイス、すなわち、ばね駆動を組み込んだ排出機構を含む、いわゆる「注入ペン」を示す。図2は、図1に示す従来技術の自動注入デバイス200の分解立体図を示す。図3Aおよび3Bは、図1および2に示された先行技術の自動注入デバイス200の排出機構の断面図であり、図3Aは用量設定状態のデバイスを示し、図3Bは用量排出状態のデバイスを示す。
【0055】
本文脈では、デバイス200は、本発明による、薬剤送達内の移動の電子的な監視を提供するデバイスを得るために修正され得る、デバイスの具体例を提供する「汎用」薬剤送達デバイスを表している。
【0056】
ペンデバイス200は、キャップ部品207と、薬剤排出機構がその中に配置または統合されるハウジング201を持つ近位本体または駆動アセンブリ部分を有する主要部分と、遠位針貫通可能隔壁を有する薬剤充填透明カートリッジ213が、近位部分に取り付けられる取り外し不可能なカートリッジホルダによって定位置に配置され保持される遠位カートリッジホルダ部分であって、カートリッジホルダはカートリッジの部分が検査されるのを可能にする開口部を有し、遠位カップリング手段215が、針アセンブリが取り外し可能に取り付けられるのを可能にする、遠位カートリッジホルダ部分と、を含む。カートリッジには、排出機構の一部を形成するピストンロッドによって駆動されるピストンが設けられており、例えば、インシュリン、GLP-1または成長ホルモン製剤を含みうる。最近位回転可能な用量ダイヤル部材280は、ディスプレイウィンドウ202に示された薬剤の所望の用量を手動で設定するのに役立ち、その後、解放ボタン290が作動されたときに排出されることができる。薬剤送達デバイスに具現化された排出機構のタイプに応じて、排出機構は、図示された実施形態のように、用量設定中に張られ、その後、解放ボタン290が作動されたときにピストンロッドを駆動するために解放されるスプリングから構成されてもよい。
【0057】
見ての通り、図1は、予め充填されたタイプの薬剤送達デバイスを示し、すなわち、予め取り付けられたカートリッジが供給され、カートリッジが空になったら廃棄されるようになっている。代替的な実施形態では、そして本発明により、薬剤送達デバイスは、装填されたカートリッジを交換できるように設計されてもよく、例えば、カートリッジホルダがデバイス本体部分から取り外されるように適合されている「後装填型」薬剤送達デバイスの形態で、または代替的に、カートリッジがデバイス本体部分に取り付けられた取り外し不可能なカートリッジホルダの遠位開口を通して挿入される「前装填型」デバイスの形態で、カートリッジを交換できるように設計されてもよい。
【0058】
より具体的には、図2を参照すると、ペンは、ウィンドウ開口202を有する管状ハウジング201を含み、その上にカートリッジホルダ210が固定的に取り付けられ、薬剤が充填されたカートリッジ213がカートリッジホルダ内に配置されている。カートリッジホルダは、針アセンブリ216を解放可能に取り付けられるようにする遠位結合手段215と、キャップ207がカートリッジホルダと取り付けられた針アセンブリを覆うように解放可能に取り付けられるようにする2つの対向する突起部211の形態の近位結合手段と、ペンが例えばテーブルの上で転がるのを防ぐ突起部212とを備えている。ハウジング遠位端において、ナット要素225が固定的に取り付けられ、ナット要素は中央ねじ孔226を含み、ハウジング近位端には中央の開口部を有するばねベース部材208が固定的に取り付けられる。駆動システムは、対向する二つの長軸方向の溝を有し、ナット要素のねじ孔内に受けられる、ねじピストンロッド220と、ハウジング内に回転するように配置されたリング形成ピストンロッド駆動要素230と、駆動要素(下記参照)と回転係合し、その係合がクラッチ要素の軸方向移動を許容する、リング形成されたクラッチ要素240とを備える。クラッチ要素は、ハウジング内面上の対応するスプラインと係合するように適合された外側スプライン要素241を備えており、これにより、クラッチ要素は、スプラインが係合している回転方向にロックされた近位位置と、スプラインが係合していない回転方向に自由な遠位位置との間で移動することができる。上述したように、両方の位置において、クラッチ要素240は、駆動要素230に対して回転方向にロックされている。駆動要素は、ピストンロッドの溝と係合する二つの対向する突起部231を有する中央の孔を備え、それによって駆動要素の回転を生じ、結果としてピストンロッドとナット要素との間のねじ係合によってピストンロッドの遠位軸移動となる。駆動要素は、ハウジング内側表面上に配置された対応するラチェット歯205を係合するように適合された、一対の対向する周方向に延びる可撓性のラチェットアーム235をさらに含む。駆動要素およびクラッチ要素は、それらを回転方向にロックする互いに協力的に係合する構造を備えるが、クラッチ要素を軸方向に動かすことを可能にし、これによってクラッチ要素が遠位位置に軸方向に移動するのを可能にし、その位置において、回転することが可能であり、それによってダイヤルシステム(下記参照)から駆動システムへの回転運動を伝達する。クラッチ要素、駆動要素およびハウジング間の相互作用は、図3Cおよび3Dを参照して、より詳細に示され、説明される。
【0059】
ピストンロッド上では、内容物の端(EOC:End-Of-Content)部材228(EOCリミッター)が螺合され、遠位端上では、ワッシャ227が回転方向に取り付けられる。EOC部材は、リセットチューブと係合するための一対の対向する半径方向突出部229を備える(下記参照)。
【0060】
ダイヤルシステムは、ラチェットチューブ250と、リセットチューブ260と、外側に螺旋状に配置された用量数字列を有する目盛りドラム270と、排出される薬剤の用量を設定するためのユーザ操作式の用量ダイヤル部材280と、解放ボタン290と、トルクスプリング255とを備えている(図3Aおよび3B参照)。リセットチューブはラチェットチューブの内側に軸方向にロックされるが、数度回転することができる(下記参照)。リセットチューブは、その内側表面に、EOC部材の半径方向突出部229と係合するように適合された二つの対向する長軸方向の溝269を含むが、EOCはリセットチューブによって回転することができるが、軸方向に移動することができる。クラッチ要素は、ラチェットチューブ250の外側遠位端部分に軸方向にロックされて取り付けられており、これにより、ラチェットチューブは、クラッチ要素を介してハウジングと回転係合に入り、回転係合から外れ、軸方向に移動することができる。用量ダイヤル部材280は、軸方向にロックされているが、ハウジング近位端に回転方向自在に取り付けられており、用量ダイヤル部材は、通常の操作の下では、リセットチューブに回転方向にロックされており(下記参照)、それにより、用量ダイヤル部材の回転は、リセットチューブの対応する回転をもたらし、それによりラチェットチューブが回転する。解放ボタン290は、リセットチューブに軸方向にロックされるが、回転することが自由である。戻りばね295は、ボタンおよびそこに取り付けられたリセットチューブの近位に向いた力を提供する。スケールドラム270は、ラチェットチューブとハウジングとの間の周状空間内に配置され、ドラムは協働する長軸方向のスプライン251、271を介してラチェットチューブに回転方向にロックされ、また協働するねじ構造203、273を介してハウジングの内側表面と回転のねじ係合となっており、ドラムがラチェットチューブによってハウジングに対して回転するときに数値の列がハウジングのウィンドウ開口部202を過ぎる。トルクばねは、ラチェットチューブとリセットチューブとの間の周状空間に配置され、またその近位端において、ばねベース部材208に固定され、その遠位端において、ラチェットチューブに固定され、ラチェットチューブがダイヤル部材の回転によってハウジングに対して回転するときにばねが変形される。ラチェットチューブとクラッチ要素との間に可撓性のラチェットアーム252を備えたラチェット機構が設けられ、後者は内周の歯部構造242を設け、それぞれの歯は、用量が設定された時にリセットチューブを介してユーザによって回転される位置にラチェットチューブが保持されるように、ラチェットストップを提供する。設定用量が減少するのを可能にするため、ラチェット解放機構262がリセットチューブ上に設けられ、ラチェットチューブに作用し、このことにより、ダイヤル部材を反対方向に回転することにより、1つ以上のラチェット増分によって設定用量が減少するのを可能にし、解放機構は、リセットチューブがラチェットチューブに対して上記の数度だけ回転するときに、駆動される。
【0061】
排出機構およびそれらの機能的関係の異なる構成要素について説明したが、機構の動作について、主に図3Aおよび3Bを参照しながら次に説明する。
【0062】
ペン機構は、上述の通り、用量システムおよびダイヤルシステムの二つの相互作用システムと見なすことができる。用量設定時には、ダイヤル機構が回転し、ばねドライブのねじればねには負荷がかけられる。用量機構はハウジングにロックされ、移動できない。押しボタンが押された時、用量機構はハウジングから解放され、ダイヤルシステムへの係合によって、ねじればねはスタート地点にダイヤルシステムを後ろに回転させ、用量システムをそれとともに回転させる。
【0063】
用量機構の中央部分はピストンロッド220であり、ピストンの実際の変位はピストンロッドによって行われる。用量送達中、ピストンロッドは、駆動要素230によって回転し、ハウジングに固定されたナット要素225とのねじの相互作用によって、ピストンロッドが遠位方向に前方に移動する。ゴムピストンとピストンロッドとの間に、回転ピストンロッドの軸方向軸受として機能し、ゴムピストンの圧力を均一にするピストンワッシャ227が、配置される。ピストンロッドが、ピストンロッド駆動要素がピストンロッドと係合する非円形断面を持つので、駆動要素はピストンロッドに回転方向にロックされるが、ピストンロッド軸に沿って自由に移動する。結果として、駆動要素の回転は、ピストンの直線的な前進の動きをもたらす。駆動要素には、駆動要素が時計回りに(押しボタンの端から見た)回転することを防止する小さなラチェットアーム234が設けられる。従って、駆動要素との係合のために、ピストンロッドは前方にのみ移動することができる。用量送達中、駆動要素は反時計回りに回転し、ラチェットアーム235は、ラチェット歯205と係合することによってユーザに小さなクリックを提供する。例えば、単位インシュリン排出に対し1クリックである。
【0064】
ダイヤルシステムを見ると、用量は、用量ダイヤル部材280を回転させることによって、設定され、リセットされる。ダイヤルをターンすると、リセットチューブ260、EOC部材228、ラチェットチューブ250およびスケールドラム270はすべてそれとともに回転する。ラチェットチューブがトルクばね255の遠位端に接続されるので、ばねがロードされる。用量設定の間、ラチェットのアーム252は、クラッチ要素の内側歯構造242との相互作用により、ダイヤルされたそれぞれのユニットに対してダイヤルクリックを行う。示された実施形態では、クラッチ要素には、ハウジングに対して360度回転すると24回のクリック(増分)を提供する24のラチェット停止部が設けられている。ばねはアセンブリ時に予めロードされており、これによって機構は小さい用量および大きな用量の両方を許容速度間隔で送達できるようになる。スケールドラムがラチェットチューブと回転係合するが、軸方向で移動可能であり、スケールドラムはハウジングとねじ係合しているため、ダイヤルシステムが回転した時に、スケールドラムはヘリカルパターンで移動するが、設定用量に対応する数字はハウジングウィンドウ202に示される。
【0065】
ラチェットチューブとクラッチ要素240との間のラチェット252、242は、ばねが部品の回転を戻すことを防止する。リセットの間、リセットチューブはラチェットアーム252を移動し、それによってクリックごとにラチェットを解放し、一つのクリックは、説明した実施形態ではインシュリンの一つのユニットIUに対応する。より具体的には、ダイヤル部材が時計回りに回転すると、リセットチューブは単にラチェットチューブを回転させ、ラチェットのアームがクラッチ要素の歯部構造242と自由に相互作用することを可能にする。ダイヤル部材が反時計回りに回転すると、リセットチューブはラチェットクリックアームと直接相互作用し、クラッチ内の歯部からペンの中心に向かってクリックアームを押し、ラチェットのクリックアームがロードされたばねによって引き起こされるトルクによって「1クリック」後方に移動することを可能にする。
【0066】
設定用量を送達するために、図3Bに示すように、解放ボタン290はユーザによって遠位方向に押される。リセットチューブ260はダイヤル部材から分離し、その後クラッチ要素240はハウジングスプライン204と係合が外れる。ここで、ダイヤル機構は、駆動要素230とともに「ゼロ」に戻り、これが排出される薬剤の用量につながる。薬剤送達中いつでも押しボタンを解放または押すことにより、いつでも用量を停止し開始することが可能である。ゴムピストンが非常に迅速に圧縮されるとゴムピストンを圧縮し、その後、ピストンが元の寸法に戻る時にインシュリンの送達が行われるので、通常、5IU未満の用量は一時停止できない。
【0067】
EOC機能は、ユーザがカートリッジ内に残されたより大きな用量を設定することを防止する。EOC部材228は、リセットチューブに回転方向にロックされており、これは用量設定の間、リセットの間および用量送達中にEOC部材を回転させ、それらの期間中、ピストンロッドのスレッドのねじに従い、前後に軸方向に移動することができる。ピストンロッドの近位端に達すると、停止し、これはダイヤル部材を含むすべての接続された部品が用量設定方向にさらに回転するのを防ぐ。すなわち、ここで設定用量はカートリッジ内の残りの薬剤含有量に対応する。
【0068】
スケールドラム270は、ハウジング内面の対応する停止面と係合するように適合された遠位停止面を備えており、これは、ダイヤル部材を含むすべての連結部品が用量設定方向にさらに回転されることを防止するスケールドラムの最大容量停止を提供する。示された実施形態では、最大用量は80IUに設定されている。それに相応して、スケールドラムには、ばねベース部材上の対応する停止表面と係合するように適合された近位停止表面が設けられており、これは、ダイヤル部材を含むすべての接続された部品が、用量排出方向にさらに回転するのを防ぎ、それによって排出機構全体に「ゼロ」停止を提供する。以下では、設定された用量の排出完了後にダイヤル部材が想定する位置を「ゼロ用量位置」と呼ぶことにする。
【0069】
万が一、ダイヤル機構に不具合が発生した場合、スケールドラムがそのゼロ位置を超えて移動してしまうことがあっても、偶発的な過剰投与が発生することを防ぐために、EOC部材はセキュリティシステムを提供する役割を果たす。より具体的には、フルカートリッジを有する初期状態では、EOC部材は、駆動要素と接触する軸方向に最も遠位側の位置に位置付けられている。所与の用量が排出された後、EOC部材は再び駆動要素と接触するように位置付けられる。それに相応して、機構がゼロ位置を超えて用量を送達しようとする場合、EOC部材は駆動要素に対してロックする。機構の異なる部品の許容範囲および柔軟性のため、EOCは短距離を移動し、例えば3~5IUのインシュリンなど、薬剤の少量の「過剰用量」が排出されることがある。
【0070】
排出機構は、排出用量の終了時に明確なフィードバックを提供して、薬剤の全量が排出されたことをユーザに知らせる用量終了(EOD)クリック機能をさらに含む。より具体的には、EOD機能は、ばねベースとスケールドラムとの間の相互作用によって作られる。スケールドラムがゼロに戻ると、ばねベース上の小さなクリックアーム206は、前進するスケールドラムによって強制的に後方に戻る。「ゼロ」の直前に、アームが解放され、アームはスケールドラム上の皿穴面を打つ。
【0071】
図示の機構には、用量ダイヤル部材を介してユーザによって掛けられる過負荷から機構を保護するために、トルクリミッタがさらに設けられている。この特徴は、上述のように、互いに回転方向にロックされている用量ダイヤル部材とリセットチューブとの間の界面によって設けられている。より具体的には、用量ダイヤル部材には、リセットチューブの可撓性担体部分261上に配置された、いくつかの対応する歯に係合する周方向内側歯構造281が設けられている。リセットチューブ歯は、所与の指定の最大サイズのトルク、例えば、150~300Nmmを伝えるように設計されており、この値を超えると、可撓性担体部分および歯が内向きに曲がり、ダイヤル機構の残りの部分を回転させることなく、用量ダイヤル部材を回す。従って、ペンの内側の機構は、トルクリミッタが歯を介して伝達するよりも高い負荷でストレスを受けることはない。
【0072】
図3Cでは、クラッチ要素、駆動要素、およびハウジング(部分的)は、用量設定状態で示され、図3Dでは、同じ構成要素が、排出状態で示されている。見ての通り、駆動要素が配置されるピストンロッドと、クラッチ要素が取り付けられるラチェットチューブは、示されていない。ハウジングの内部表面に設けられた構造体をより良く示すために、図3Eには、ハウジング201内に配置された部分的なクラッチ要素240が示されている。
【0073】
ハウジング201の内部表面は、内側に突き出している、周方向環状配列の軸方向に向くスプライン要素204と、周方向環状配列の一方向のラチェット歯205と、を含み、スプライン要素209のそれぞれは、尖った遠位端を有する。内部表面は、スケールドラム270上の螺旋状雌ねじ273に係合するように適合された螺旋状雄ねじ203をさらに含む。遠位周方向溝が、ナット要素225に係合し、それを取り付けるように形成されている。クラッチ要素240は、ラチェットチューブ250上のラチェットアーム252に係合するように適合された内周環状配列のラチェット歯242と、ハウジングのスプライン要素204および駆動要素(以下参照)内の連結スロットに係合するように適合された外周環状配列の軸方向に向くスプライン要素241と、を含み、各スプラインは、尖った近位端243を有する。駆動要素230は、一対の対向する結合部分を含み、それぞれの結合部分は、その間に軸方向に延在する結合スロット233が形成されている2つの近位に延在するスカート部分232を含み、スロットは、クラッチ要素のスプライン要素の一部に係合するように適合されている。このようにして、係合面は、回転力を伝え、それによってクラッチ要素から排出状態の駆動要素へトルクをかけるように働く。駆動要素は、環状配列の一方向ラチェット歯205に係合するように適合された、一対の対向する周方向に延在する可撓性ラチェットアームをさらに含む。用量送達中、駆動要素は、反時計回りに回転し、ラチェットアーム235も、ラチェット歯205との係合によって、ユーザに小さなクリック音、例えば、インシュリン一単位排出ごとに1クリック音を与える。図示の実施形態では、インスリン一単位当たり15度の回転に対応して、24個のラチェット歯が設けられている。駆動要素の中央の穴は、ピストンロッド上の軸方向に向く溝と係合するように適合された2つの対向する突起部231を含む。
【0074】
図3Cに示す用量設定状態では、クラッチ要素のスプライン要素241は、ハウジングのスプライン要素204と係合し、それによってハウジングに対してクラッチ要素を回転的にロックする。図3Cから分かるように、クラッチスプライン要素群は、わずかな回転の遊びを残して対応する結合スロット内に受容される。図3Dに示す排出状態では、クラッチ要素のスプライン要素241は、ハウジングのスプライン要素204との係合から遠位に移動し、それによってハウジングに対するクラッチ要素の回転を可能にする。図3Dから分かるように、クラッチスプライン要素群は、これで回転の遊びなしに対応する結合スロット内に受容される。
【0075】
図3Cは、上述の内周環状配列のラチェット歯242および外周環状配列の軸方向に向くスプライン要素241を示すクラッチ要素240を示す。見ての通り、スプライン要素は、群内を除いて環上に等間隔には配置されていないが、群には、結合スロット233に係合する結合手段としての役割を果たす2つの対向する結合群245がある。したがって、スプライン要素の一部のみが、クラッチ要素と駆動要素との間の結合手段としての役割を果たすが、それらはすべて、クラッチ要素とハウジングスプライン204との間の結合手段としての役割を果たす。
【0076】
図4および図5のそれぞれは、本発明の第1の例示的な実施形態によるペン注入デバイス100の断面図を描写し、2つの図は、2つの連続した状態以外は同じ断面部分を描写する。上述の先行技術ペン注入デバイス200と同様に、図8で最もよく分かるが、ペン注入デバイス100は、管状ハウジング101、最近位回転可能な用量ダイヤル部材180、押しボタン190、およびデバイスの遠位端に取り付けられた注入針116を備える。図4および図5はさらに、ピストンロッド120、環状ピストンロッド駆動要素130、および第1の要素140を示し、第1の要素140は、第1の要素140がハウジング101内に固定的に配設された第2の要素103に対して一方向回転運動を経るように、排出中にピストンロッド駆動要素130と共回りする回転可能構成要素を画定している。
【0077】
第1の要素140は、半径方向外側に突き出している複数の連続的に配設された突起部143を含む突起構成を有する歯車を画定している。突起部は、第1の要素140の周囲に沿って等間隔に離間している。図4では、第1の要素140は、反時計回り方向(デバイスの押しボタン端から見て)にのみ駆動されるように構成されている。各突起部143は、徐々に上がる立ち上がり側面および急激に落ちる立ち下がり側面で形成されている。図示の実施形態では、第1の要素140の突起構成は、15度の角度段で間隔を置いている突起部を画定し、24個の突起部が周囲に均等に分布していることを意味する。いずれか2つの隣接する突起部間で、第1の要素は、谷の最下位を画定する一方、突起部143の頂は、最上位を画定している。
【0078】
第2の要素103は、第1の要素140を囲むように形成されたほぼ管状の要素を形成する。第2の要素103は、第1の撓み可能なアーム103aおよび第2の撓み可能なアーム103bを有し、各撓み可能なアームは、周方向に延在する。第1および第2の撓み可能なアーム103a/103bのそれぞれは、突起部の徐々に上がる側面とほぼ平行になるように角度付けられた半径方向内向きの第1の表面を有する先端部分103a‘/103b’を、その自由端に含む。それぞれの先端部分103a’/103b’はさらに、突起部143の急激に落ち込む側と略平行になるように角度付けられた第2の対向する表面を持つ。
【0079】
先端部分103a’/103b’の半径方向内向きの第1の表面は、第1および第2の撓み可能なアーム103a/103bの先端部分103a’/103b’が突起部間の谷を含む第1の要素140の外郭と密着したままであるように、第1の要素140が第2の要素103に対して回転するのにつれて、連続する突起部143を乗り越えるように構成されている。
【0080】
図示の実施形態では、第1および第2の撓み可能なアーム103a/103bのそれぞれは、それぞれの先端部分103a’/103b’が隣接する突起部143間に位置する、すなわち最下位に位置するときの比較的偏りのない第1の位置から、それぞれの先端部分103a’/103b’が突起部143の頂部に位置するときの偏った半径方向の第2の位置へ半径方向に移動可能であるように、低弾力性部分103a”/103b”によって第2の要素103に接続する。第2の要素103は、通常、高分子材料から形成され、第1および第2の撓み可能なアーム103a/103bは、第2の要素103の残りの部分と一体成形される。
【0081】
図示の実施形態では、先端部分103a’は、先端部分103b’とほぼ直径方向反対側に位置する。しかし、本発明によれば、先端部分103a’と103b’とが、第1の要素140の直径方向に対向する突起部143と協働することによって、同時に偏った半径方向の第2の位置を占めることがなく、互いにわずかにずれるように、先端部分103a’および103b’は、第2の要素103上に位置する。図示の実施形態では、第1の要素140が第2の要素103に対して回転するのにつれて、第2の撓み可能なアーム103bが第1の突起部から直径方向反対側に配置された突起部との協働を経る寸前に、第1の撓み可能なアーム103aが特定の第1の突起部との協働を経るように、先端部分103’と103b’とは、約178度離れて位置する。
【0082】
本発明によれば、また図9を参照すると、図示の実施形態では、電子手段によってデバイスの動作をモニタするために、デバイスによって行われる動作に関連する事象を記録するのに、電子回路網150がデバイス100内またはデバイス100上に配設されている。電子回路網は、通常、プロセッサ151と、エネルギー源159と、薬剤注入デバイス内の1つ以上の構成要素の運動をモニタするための複数のセンサ153a/153bと、を含む。図示の実施形態では、電子回路網150は、記録された事象をスマートフォンなどの外部デバイスに伝えるために、無線通信手段、例えば、アンテナ154、およびBluetoothユニットなどの通信回路網も含む。図示の実施形態には組み込まれていないが、他の実施形態では、電回路網は、記録された事象に関係した情報の目に見える読み出しを提供するように、ディスプレイをさらに含み得る。図示の実施形態では、電子回路網150は、可撓性シート上に印刷された圧電センサ153a/153bを含むプリント回路を含む可撓性電子ラベルなど、可撓性シートとして設けられている。その他の実施形態では、電子回路網は、他のやり方で、例えば、印刷以外の手段によって配設される電子構成要素を用いて、設けられ得る。
【0083】
第1および第2の撓み可能なアーム103a/103bのそれぞれは、排出中に第1の要素140が回転するのに従った撓み可能なアーム103a/103bの撓みを、それぞれのセンサ153a/153bと協働して、モニタするように構成されている。図示の実施形態では、各センサは、その延長部に沿って撓み可能なアームに接着されることによって、それぞれの撓み可能なアーム103a/103b上に配設されている圧電素子の形態のアクティブ変換器として設けられている。圧電素子から発生した起動信号が撓み可能なアームの曲がりの程度を表すように、各圧電素子は、関連するアームに沿って延在する。
【0084】
ここで、ペン注入デバイス100の斜視図を示す図8について述べる。説明上、図8では、第1の要素140の細部、また撓み可能なアーム103aに関連する1つのセンサ153aを含む電子回路網150の一部が明らかになるように、ハウジング101の一部を省いて、デバイス100を描写する。省かれたハウジング部分に背を向けたデバイスの部分内に配置されているので図8では見えないが、第2の撓み可能なアーム103bと1つのセンサ153bが、位置している。図示の実施形態では、第1の電池部分159aと第2の電池部分159bとが重なり合う関係で配置されるように、可撓性シートが第2の要素103を取り囲むように、また第1の圧電素子153aが第1の撓み可能なアーム103aと角度方向に整列するように、電子回路網150がデバイス100に配置されている。また、第2の圧電素子153bは、第2の撓み可能なアーム103bと角度方向に整列している。図示しないが、さらなるハウジング部分が、電子回路網を覆うように配置され得る。
【0085】
図6は、設定用量の排出中に第1の要素140が回転するのにつれて、2つの圧電センサによって発生する電圧信号を概略的に示し、第1の圧電センサ153aがラベル「ARM1」で表示され、第2の圧電センサ153bがラベル「ARM2」で表示されている。アーム先端部分103a’が次の連続する谷にスナップするように、撓み可能なアーム103aが突起部143のピークを通過するたびに、大きなピークに続いて減衰リンギングを有する過渡パルスが発生する。
【0086】
図6の上部では、第1の圧電センサ153aによって得られた「ARM1」の表示の信号が、第1および第2の個々のパルスをそれぞれ、パルスなしの時間間隔で分けられた、t=t1とt=t5とで示す。2つのパルスは、2つの連続した突起部143のピークか、またはそれぞれのピークに続いて急激に落ちる下落と協働する「ARM1」の先端部分103a’に対応する。図示の実施形態では、2つのピークのそれぞれは、カートリッジ内に含まれる薬剤1単位の量の排出に対応する。
【0087】
図6の下部に示すように、第2の圧電センサ153bによって得られた「ARM2」の表示の信号もまた、第1および第2の個々のパルスをそれぞれ、パルスなしの時間間隔で分けられた、t=t3とt=t6とで示す。2つのパルスは、2つの連続した突起部143のピークか、またはそれぞれのピークに続いて急激に落ちる下落と協働する「ARM2」の先端部分103b’に対応する。
【0088】
「ARM1」からの信号と「ARM2」からの信号とを比較すると、各薬剤単位の排出中に、パルスが初めに、t=t2で第1の圧電センサ153aによって記録され、その後、短時間内に、対応するパルスがt=t3で第2の圧電センサ153bによって記録されることが明らかである。したがって、連続する薬剤単位の排出中に、起動信号対が発生し、すなわち、それぞれ、第1の圧電センサ153aと第1の圧電センサ153bとよって、(t=t2;t=t3)、(t=t5;t=t6)などで発生する。
【0089】
第1の圧電センサ153aによって受け取られるパルスと第2の圧電センサ153bによって受け取られるパルスとの間の時間遅延は、第1の要素140上の突起部143の特定の幾何学的形状、および第2の要素103上の第1および第2の撓み可能なアーム103a/103bの位置によって部分的に画定され、排出中の第1の要素140の回転速度によって部分的に決まってくる。デバイス100の所与の設計では、製造者は、第1の圧電センサ153aのパルスと第2の圧電センサ153bのパルスとの間の時間遅延の予想されるバラツキが起こりやすい範囲を提供することができ、この範囲は、記録された運動が信頼でき、正確である、排出手順に対応する。本明細書によれば、製造者は、第1の圧電センサ153aおよび第2の圧電センサ153bから発生する起動信号の正しく信頼できるシーケンスに対応すると見なされる最小時間遅延の事前定義値を決めることができるようになる。第1の圧電センサ153aおよび第2の圧電センサ153bによって発生した信号によって記録されるのに従った記録時間遅延が、事前定義値以上の場合、デバイス100から排出される量の測定値を提供するように、パルスを記録し、計数することができる。
【0090】
記録時間遅延がこの事前定義値を下回る場合、これは、エラーを示している可能性がある。このようなエラーは、例えば、荷役中または輸送中に、デバイスをうっかり硬い表面に落とすと、起こる可能性がある。これは、通常、デバイスに大きな衝撃を与え、第1の圧電センサ153aおよび第2の圧電センサ153bは、第1の要素140が回転していなくても、この衝撃に応答して起動信号を発生させる可能性がある。ただし、この衝撃により、通常、第1の圧電センサ153aと第2の圧電センサ153bとは、ほとんど同時に、すなわち、起動信号間の考えられる記録時間遅延が事前定義値を下回るように、起動信号を発生させるようになる。
【0091】
プロセッサ151は、通常、a)プロセッサによって決定された時間遅延が事前定義値以上である場合には第1の制御動作をもたらし、b)プロセッサによって決定された時間遅延が事前定義値を下回る場合には第2の制御動作をもたらすように構成される。
【0092】
特定の実施形態において、プロセッサは、デバイスから排出される単位数を計数するように適合された計数器を備える。計数器は、一実施形態では、第1の圧電センサ153aからの情報を使用して、排出された単位を計数することができる。代替として、計数器は、第2の圧電センサ153bからの情報を使用して、排出された単位を計数することができる。図示の実施形態では、プロセッサは、第1の制御動作を行うと計数器の値を修正し、第2の制御動作を行うと計数器の値を修正しないように構成されている。
【0093】
プロセッサは、通常、時間を追跡するための回路網を含む。このようにして、排出される用量の量がリアルタイム値、または相対タイムスタンプなどの時間パラメータとともに保存されるように、ログが電子回路網の記憶域に提供され得る。排出される用量の保存された量と関連の時間値との複数の個々のセットは、後の取り出しのために保存され得る。図示の実施形態では、記憶域の内容物、すなわちログは、外部デバイスに転送され得る。
【0094】
他の実施形態では、プロセッサは、排出された用量の量を追跡するのに、そのような計数器を含まない可能性がある。このような構成では、プロセッサは、排出作業が行われたときを記録し、また排出作業の発生を時間スタンプとともに保存するように単独で構成され得る。
【0095】
他の実施形態では、一対の起動信号をその対間の時間遅延とともに、事前定義範囲内で提供するセンサ構成を使用する原理は、排出中に移動する上述の構成要素以外の注入デバイス内の構成要素の移動をモニタするのに活かすことができる。例えば、排出中に移動した構成要素の上述のモニタリングの代わりに、またはそれに加えて、用量設定中に移動する構成要素が、同じ原理を使用してモニタされ得る。
【0096】
また、一対の撓み可能なアームが突起部の全く同じトラックと協働する図示の構成は、適切な構成の一例に過ぎない。代替の構成では、それぞれの撓み可能なアームは、突起部の2つの個々のトラックのそれぞれ1つと協働し得る。例えば、それぞれの撓み可能なアームが第1および第2のトラックのそれぞれのトラックと協働するように、第1の要素が、半径方向外側に向いて配置された突起部の第1のトラック、および半径方向内側に向いて配置された突起部の第2のトラックを有する円筒形要素として提供され得る。さらに他の実施形態では、第1の要素は、専用の撓み可能なアームと協働する、一方または両方の軸方向に向く端壁上に突起構成を含み得る。
【0097】
さらに他の実施形態では、運動をモニタする上述の原理は、デバイス内の直線的に動かされる構成要素をモニタするのに使用され得る。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9