(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】高ピークパワーレーザパルス生成方法および高ピークパワーレーザパルス生成システム
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20230602BHJP
【FI】
H01S3/10 Z
(21)【出願番号】P 2020568267
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2019064225
(87)【国際公開番号】W WO2019233900
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-03-04
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304032424
【氏名又は名称】イマジン・オプチック
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ゴージュ、ギョーム
(72)【発明者】
【氏名】アイェブ、アダム
(72)【発明者】
【氏名】レベック、ザビエル
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0128744(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0002688(US,A1)
【文献】特表2016-518024(JP,A)
【文献】米国特許第06818854(US,B2)
【文献】特開2018-056148(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105033462(CN,A)
【文献】特開2002-148471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/10 - 3/102
H01S 3/105- 3/131
H01S 3/136- 3/213
H01S 3/23 - 4/00
B23K 26/00 -26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高ピークパワーレーザパルス生成システム(10)であって、
-1つ以上のレーザ線を備えた第1のナノ秒レーザパルス(I
L)を放射するための、少なくとも1つの光源(101)と、
-前記第1のレーザパルスを伝送するためのファイバデバイス(110)と、
-前記ファイバデバイスの上流に配置された、前記第1のレーザパルスを時間的に整形するための時間的整形モジュール(102)と、を備え、
前記ファイバデバイス(110)は、前記第1のレーザパルスを受光するように構成されたシングルコアを有する少なくとも1つの第1のマルチモードファイバを備え、
前記時間的整形モジュール(102)は、前記第1のレーザパルスの時間的コヒーレンスを低減することにより、前記第1のレーザパルスのパワースペクトル密度を低減するように構成され、
前記時間的整形モジュール(102)は、所定の回転軸周りに回転する回転反射デバイス(22-25)を備え、ドップラースペクトル幅広がりを持つ第1のレーザパルスを反射するように構成されることを特徴とする高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項2】
前記回転反射デバイスは、前記回転軸周りに回転または振動運動する少なくとも1つの第1の反射面を備えることを特徴とする請求項1に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項3】
前記第1のレーザパルスは所定の繰り返し周波数で放射され、
前記反射面の回転または振動の速度は、前記第1のレーザパルスの繰り返し周波数と同期し、
前記第1のレーザパルスの各々は、一定の入射角度で前記回転反射デバイスの反射面に入射することを特徴とする請求項2に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項4】
前記回転反射デバイスは、N枚の反射面と、N-1枚の偏向ミラーと、を備え、
前記偏向ミラーは、前記第1のレーザパルスの各々を前記反射面に向けて返すように構成され、
前記反射面のすべては、前記回転軸周りに回転または振動運動し、
前記Nは2以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項5】
前記時間的整形モジュール(102)は、前記第1のレーザパルスに含まれるレーザ線の数を増やすように構成された手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項6】
前記ファイバデバイスの上流に配置された、前記第1のレーザパルスを空間的に整形するための空間的整形モジュール(103)をさらに備え、
前記空間的整形モジュール(103)は、前記第1のレーザパルスのパワー空間密度を標準化するように構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項7】
前記第1のレーザパルスを光学的に増幅するために、前記ファイバデバイスの出力部に配置された、少なくとも1つの光増幅器(120)をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項8】
前記ファイバデバイス(110)は、入力部に第1のマルチモードファイバと、1組の小モードマルチモードファイバと、出力部に第2のマルチモードファイバと、を備え、
前記小モードマルチモードファイバは、前記第1のマルチモードファイバに接続され、
前記第2のマルチモードファイバは、前記小モードマルチモードファイバに接続され、前記第1のレーザパルスを出力するためのシングルコアを備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項9】
前記第1のレーザパルスを光学的に前段増幅するために、前記ファイバデバイス(110)は、少なくとも1つのドープされたファイバを備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項10】
-第1のレーザパルスを放射するステップと、
-前記第1のレーザパルスが注入されるシングルコアを備えた少なくとも1つの第1のマルチモードファイバを備えるファイバデバイスを介して、前記第1のレーザパルスを伝送するステップと、
-高ピークパワーレーザパルスを生成するために、前記ファイバデバイスの出力部に配置された少なくとも1つの第1の光増幅器を用いて、前記第1のレーザパルスを光学的に増幅するステップ
と、
-前記第1のレーザパルスを前記ファイバデバイスにより伝送する前に、前記第1のレーザパルスを時間的に整形するステップと、を備え、
前記第1のレーザパルスを時間的に整形するステップは、所定の回転軸周りに回転する回転反射デバイス(22-25)を用いて時間的コヒーレンスを低減することによりパワースペクトル密度を低減するステップを備え、
前記回転反射デバイスは、ドップラースペクトル幅広がりを持つ第1の入射パルスを反射するように構成されることを特徴とする高ピークパワーレーザパルス生成方法。
【請求項11】
前記第1のレーザパルスを、前記ファイバデバイスにより伝送する前に、空間的に整形するステップをさらに備え、
前記空間的に整形するステップは、前記第1のレーザパルスのパワー空間密度を標準化するステップを備えることを特徴とする請求項10に記載の高ピークパワーレーザパルス生成方法。
【請求項12】
高ピークパワーレーザパルスを生成するために、前記ファイバデバイスの出力部に配置された少なくとも1つの光増幅器を用いて、前記第1のレーザパルスを光学的に増幅するステップをさらに備えることを特徴とする請求項10または11に記載の高ピークパワーレーザパルス生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ衝撃を目的とし、高ピークパワーレーザパルスの生成方法および高ピークパワーレーザパルス生成システムに関する。特に本開示は、レーザ衝撃ピーニング、レーザ衝撃分光、レーザ衝撃超音波生成または部品のレーザ洗浄に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
レーザ衝撃に基づく(すなわち、プラズマ形成を含む)表面処理アプリケーションは、非常に高いピークパワー(典型的には、約10MW(メガワット)以上))のパルスを必要とする。これは、典型的には持続時間が数10ナノ秒以下のパルスを意味する。このようなパルスは、約100ミリジュール以上のエネルギーを持ち、典型的には数mm2の領域にフォーカスされる。これはレーザ衝撃を形成するため、10ジュール/平方センチメートルのオーダーのエネルギー密度を達成することができる。これらのアプリケーションは、レーザ衝撃分光、レーザ洗浄、例えば材料の結晶構造を分析するためのレーザ衝撃に基づく超音波生成、部品の耐用年数や機械抵抗を改善するためのレーザ衝撃ピーニングなどを含む。
【0003】
レーザ衝撃ピーニングは、例えば米国特許6002102号明細書および欧州特許1528645.A号明細書に開示されている。レーザ衝撃ピーニングを実行中に、高ピークパワーレーザパルスが吸収層を蒸発させる。これにより高温プラズマが生成される。このプラズマが拡散することにより、強い疎密波が発生する。これにより、材料の処理対象部分の深いところにプレストレスが形成される。閉じ込め層と呼ばれる第2の層(放射に対して透明な層(例えば水)、あるいは入射する放射に対して透明な材料(例えば石英))により、衝撃波が処理対象の表面内部に向けて緩和される。この「レーザ衝撃ピーニング」と呼ばれる方法により、材料の繰り返し疲労に対する機械抵抗が向上する。一般にこの方法は、自由空間において、処理対象領域にビームを伝送することにより実行される。
【0004】
しかしながら、自由空間において高パワーのレーザビームを伝送することは、安全上の問題を生む。従って、密閉された領域あるいはアクセスしにくい領域(例えば、周囲を取り囲まれた環境)にアクセスすることが困難となる。
【0005】
密閉された領域あるいはアクセスしにくい環境に存在する表面にアクセスするために、例えば米国特許4937421号明細書または欧州特許6818854号明細書に開示された光ファイバは好適なツールである。しかしながら、これらに開示された方法のいくつか(例えば、レーザ衝撃ピーニングやレーザ表面洗浄)は、一般に埃っぽい工業環境で実行される。これは、ファイバの入力面および出力面の損傷閾値を著しく低下させる。さらに清潔の観点とは別に、パルス持続時間が1μs未満のパルスレーザの場合、ファイバ内に注入可能なピークパワーレベルは、ファイバのコアを形成する材料の誘電損傷閾値により制限される。例えば、波長1064nmで持続時間10nsのパルスの場合、空気/シリカの損傷閾値は約1GW/cm2である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
注入および緩和に伴う損傷リスクを抑制するためには、コア直径の大きい導波管を使うことが好ましい。しかしながら、コア直径が大きい(典型的には1mmより大きい)と、柔軟性が損なわれる。さらに曲率が大きすぎると、ファイバ損傷の原因となり得るエバネッセント波により、損失が発生する。例えば米国特許6818854号明細書に記載されるように、光ファイバの組(または「バンドル」)が使われることがある。しかしながらこのタイプの部品の場合、注入および伝搬の損失を抑制するためには、光エネルギーを各ファイバに個別に注入することが好ましい。これはエネルギー注入を複雑化させるので、高コスト化の原因となる。さらに、口径の大きい光フォーカシングシステムを、材料の出力部に与えることが必要となる。これは、光学システムを複雑化させるので、高コスト化や大型化の原因となる。
【0007】
特にこれらの理由から、パルス伝送を目的に光ファイバを使う場合は、実用上、比較的低いピークパワー(10MW未満)のパルス伝送や、アクセスし易い領域(曲がりのない光路)へのアクセスなどに限られる。
【0008】
従って、ファイバの損傷閾値を向上させ、機械的ストレスに起因する光学性能の低下を防ぐために、柔軟性の高いファイバデバイスを備えたシステムを用いて、高ピークパワーのパルスを生成する必要がある。
【0009】
本発明の主題の1つは、高ピークパワー(典型的には約10MW以上)のパルスを生成するための方法およびシステムである。これにより、ファイバデバイス内への安全なエネルギー注入が可能となり、伝送区間全体において安全なエネルギー伝搬が保証されると同時に、高い柔軟性が保たれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様では、本開示は、高ピークパワーレーザパルス生成システムに関する。このシステムは、
-1つ以上のレーザ線を備えた第1のナノ秒レーザパルスを放射するための少なくとも1つの光源と、
-第1のレーザパルスを伝送するためのファイバデバイスと、
-前述のファイバデバイスの上流に配置された、前述の第1のレーザパルスを時間的に整形するための時間的整形モジュールと、を備える。
ファイバデバイスは、第1のレーザパルスを受光するように構成されたシングルコアを有する少なくとも1つの第1のマルチモードファイバを備える。時間的整形モジュールは、前述の第1のレーザパルスの時間的コヒーレンスを低減することにより、前述の第1のレーザパルスのパワースペクトル密度を低減するように構成される。前述の時間的整形モジュールは、所定の回転軸周りに回転する回転反射デバイスを備え、ドップラースペクトル幅広がりを持つ第1のレーザパルスを反射するように構成される。
【0011】
本開示における「高ピークパワー」という用語は、10MW以上のパワーを持つレーザパルスを意味する。このようなパルスは、所定の材料においてレーザ衝撃を生成するために、数mm2(典型的には、0.1mm2以上10mm2以下)の表面領域にフォーカスされる。このフォーカスされたパルスは、例えばレーザ衝撃ピーニング、表面洗浄、超音波生成、分光等の応用に有用である。
【0012】
本開示における「ナノ秒レーザパルス」という用語は、持続時間が1ns以上100ns以下のパルスを意味する。特にレーザ衝撃は、持続時間が非常に短いレーザパルス(数100ピコ秒未満)では実現が難しい(または全く実現できない)。1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の第1の光源は、持続時間が5ナノ秒以上20ナノ秒以下のパルスを放射する。前述の第1のパルスは、1つ以上のレーザ線を備えてもよい。
【0013】
従って前述のシステムにより、ファイバデバイスの上りのパルスの時間的コヒーレンスを低減してパワースペクトル密度(PSD)を低減することにより、非常高いピークパワーの材料への入射パルスを生成することができる。これにより、ファイバデバイスの入力および出力インタフェースを保護しつつ、所望のレーザ衝撃を生成することができる。特に時間的コヒーレンスの低減により、限られたエネルギーを持つように、PSDを低減することができる。準定常エネルギーまたは微減エネルギーとなるようにPSDを低減することにより、スペックルに起因する強度スパイクを抑制することができ、ファイバデバイスへの注入を保護し、非線形効果を抑制することができる。細い直径(典型的には1mm未満、望ましくは300μm未満)のマルチモードファイバを使うことができる。これによりファイバデバイスをより柔軟にすることができる。従って、曲率直径を15cm未満に低減することで、密閉された環境により容易にアクセスすることができる。
【0014】
本開示で定義される時間的整形モジュールにより、前述の第1のレーザパルスに含まれるレーザ線のスペクトル幅を広げることができる。
【0015】
従って、時間的整形モジュールは、パルスの光強度がファイバデバイス誘導されたブリルアン散乱閾値未満となるように、パワースペクトル密度を低減するように構成される。従って、ファイバ内の非線形効果(特にブリルアン効果)に起因する光エネルギーの損失は抑制される。ブリルアン散乱閾値は、ファイバの直径が減少すると(そして、ファイバの長さが増加すると)減少し、光源のスペクトル幅がブリルアン線幅より大きくなると増加する。従ってレーザパルスのPSDを低減することにより、高いブリルアン散乱閾値を保ちつつ、コア直径を縮めるおよび/またはファイバ長を伸ばすことができる。特に、ブリルアン閾値の計算は、光源のスペクトルプロファイルとブリルアンゲインのスペクトルプロファイルとの間の畳み込みを考慮に入れる。
【0016】
1つ以上の典型的な実施の形態では、PSDの低減は、例えば音響光学変調器を用いて、前述の第1のレーザパルスに含まれるレーザ線の数を増やすことにより実現できる。有利には、前述の第1のレーザパルスに含まれるレーザ線の数は、スペクトル幅広がりの上流で増加される。
【0017】
1つ以上の典型的な実施の形態では、回転反射デバイスは、前述の回転軸周りに振動または回転する。回転反射デバイスは、1つ以上の反射面を備える。前述の(単数または複数の)反射面に入射するパルスは、前述の反射面の各点で角速度が異なることに起因して、空間的に変化するドップラーシフトする。従って、前述の回転反射デバイスで反射したレーザパルスは、スペクトル幅が広がり、これによりPSDが減少する。さらに、レーザパルスの時間的および空間的コヒーレンスが減少し、これによりスペックル効果および非線形効果が抑制される。
【0018】
1つ以上の典型的な実施の形態では、(単数または複数の)反射面は、入射面(これは、回転反射デバイスに入射し回転反射デバイスで反射する第1のレーザパルスの波数ベクトルの向きを含む)と呼ばれる面に垂直な面内に配置される。
【0019】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の回転反射デバイス回転軸は、前述の第1のレーザパルスの入射面に垂直である。
【0020】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の第1のレーザパルスは所定の繰り返し周波数で放射され、前述の回転反射デバイスの回転または振動速度は、前述の第1のレーザパルスの繰り返し周波数と同期している。これにより、前述の第1のレーザパルスの各々は、一定の入射角度で前述の回転反射デバイスの反射面に入射する。
【0021】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の回転反射デバイスは、前述の第1のレーザパルスの入射面に垂直な軸周りに回転または振動運動する単純ミラーを備える。例えば反射面は、前述の第1のレーザパルスが、このミラーの面に垂直な向きで回転ミラーに入射するように構成される。
【0022】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の回転反射デバイスは、複数の反射面と、ゼロでない角度を形成する2つの連続する表面と、前述の第1のレーザパルスの各々を前述の反射面に向けて返すための偏向ミラーと、を備える。複数の反射面は、例えば多角形の面に配置される。反射面の数を増やすことにより、ドップラー広がりを増やすことができる。従って、例えばN枚の反射面とN-1枚の偏向ミラーがあると(N≧2)、ドップラー広がりはN倍になる。
【0023】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の反射面の少なくとも1つは非平面である(例えば、凹面または凸面である)。例えば前述のパルスに収束または発散効果を与えるために、反射出力面(すなわち、レーザパルスが最後に反射する面)は非平面である。
【0024】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の第1のレーザパルスによって形成され前述の反射面に入射する光ビームは、前述の反射面より小さい直径を持つ。
【0025】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述のレーザパルス生成システムは、前述のファイバデバイスの上流に、前述の第1のレーザパルスを空間的に整形するための空間的整形モジュールをさらに備える。
【0026】
1つ以上の典型的な実施の形態では、空間的整形モジュールは、前述のファイバデバイスの入力部で、前述の第1のレーザパルスのパワー空間密度を標準化するように構成される。パワー空間密度を標準化することにより、ファイバ内の強度スパイク(これは例えば、ビームのガウシアン強度分布に関係する)を抑制することができる。
【0027】
パルスを空間的に整形するモジュールがあることにより、例えば、強度空間分布が「トップハット型」(すなわち低い強度空間分布、典型的には分布が最大+/-10%に抑制されたもの(スペックルに関係する粒効果を除く))のパルスを作ることができる。さらに「トップハット型」空間整形により、第1のパルスにより形成された光ビームを、マルチモードファイバのコアの大きさに適合させることができる。
【0028】
1つ以上の典型的な実施の形態では、レーザパルス生成システムは、ファイバデバイスの出力部で第1のレーザパルスを増幅するための、少なくとも1つの第1の光増幅器をさらに備える。このような光増幅器により、時間的整形モジュールを使うことに起因する任意のエネルギー損失を補償することができる。
【0029】
1つ以上の典型的な実施の形態では、レーザパルス生成システムは、光増幅器をポンピングするために、少なくとも1つのポンプレーザビームを放射する少なくとも1つのポンプ光源をさらに備える。
【0030】
ポンプ光源は、例えばレーザダイオードまたはレーザダイオードのアセンブリを備える。
【0031】
ポンプ光源は、連続光源または繰り返しレートが比較的低い(典型的には前述の第1のレーザパルスと同じ繰り返しレート、すなわち数キロヘルツの)パルス光源であってよい。
【0032】
1つ以上の典型的な実施の形態では、ポンプ光源は、持続時間が第1の光増幅器の励起レベルの持続時間に実質的に等しい(すなわち、典型的には数100マイクロ秒の)ポンプパルスを供給するように、時間的に整形される。例えば、ポンプビームのサイズを第1のマルチモードファイバのコア直径に適合させるために、ポンプビームを空間的に整形することも可能である。
【0033】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の少なくとも1つのポンプレーザビームは、前述の第1のレーザパルスとともに、ファイバデバイス内に注入される。その後、前述の少なくとも1つ光増幅器の増幅媒質のファイバ内伝送およびポンピングは、共伝搬する。代替的に増幅媒質の光ポンピングは、例えばレーザダイオードを用いて、横断的であってもよい。
【0034】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述のレーザパルス生成システムは、例えば直列に配置された複数の光増幅器を備える。
【0035】
1つ以上の典型的な実施の形態では、ファイバデバイスは、入力部に前述の第1のマルチモードファイバと1組の小モードマルチモードファイバとを備え、出力部に第2のマルチモードファイバを備える。小モードマルチモードファイバは、第1のマルチモードファイバに接続され、第1の「フォトニックランタン」と呼ばれるものを形成する。第2のマルチモードファイバは、小モードマルチモードファイバに接続され、前述の第1のレーザパルスを出力するためのシングルコアを備える。従って、ファイバデバイスは、2つのヘッドトゥテールの「フォトニックランタン」を備える。
【0036】
本開示では小モードマルチモードファイバとは、10000モード未満(典型的には、500モード以上10000モード未満)のモードを備えるマルチモードファイバのことをいう。小モードマルチモードファイバの直径は、例えば0.05mm以上0.2mm以下である。マルチモードファイバ(フォトニックランタンの入力ファイバ)は、20000より多いモードを持つ。マルチモードファイバの直径は、例えば0.5mm以上1mm以下である。
【0037】
このような2つのヘッドトゥテールの「フォトニックランタン」を備えるファイバデバイスにより、レーザパルスを、より細い径の小モードマルチモードファイバを介して伝送することができる。従って、より柔軟なファイバを使ってレーザパルスを伝送することができる。これにより、入力と出力とにおいてはシングルマルチモードコアを保ちつつ、より簡単に密閉領域にアクセスすることができる。
【0038】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の第1のレーザパルスを光学的に前段増幅するために、ファイバデバイスは、少なくとも1つのドープされたファイバを備える。このドープされたファイバは、前述の第1のマルチモードファイバであってもよく、フォトニックランタンを使う場合は1つ以上の小モードマルチモードファイバであってもよい。光学的な前段増幅により、前述の第1のマルチモードファイバに注入されるエネルギーの総量を最小化することができる。
【0039】
代替的に、1つ以上の典型的な実施の形態では、ファイバデバイスはドープされない。この場合ファイバデバイスの機能は、前述の第1のレーザパルスを伝送することに限られる。
【0040】
1つ以上の典型的な実施の形態では、レーザパルス生成システムは、第2のレーザパルスを放射するための第2の光源を備える。第2のレーザパルスは、例えば第1のレーザパルスと波長の異なるレーザパルスである。望ましくは第2のレーザパルスは、同じファイバデバイスを用いて伝送される。1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の第2のレーザパルスを増幅するために、レーザパルス生成システムは、前述のファイバデバイスの出力部に配置された第2の光増幅器を備える。
【0041】
1つ以上の典型的な実施の形態では、レーザパルス生成システムは、前述のファイバデバイスの出力部(例えば、前述の光増幅器が存在する場合はその出力部)に、高ピークパワーレーザパルスをフォーカスするフォーカス手段をさらに備える。
【0042】
1つ以上の典型的な実施の形態では、レーザパルス生成システムは、ファイバデバイスの先端部を移動させるための移動手段をさらに備える。材料の様々な位置で(例えば表面処理の場合、表面の様々な領域で)レーザ衝撃を与えることが必要な場合、材料またはファイバデバイスの先端部(すなわち、光源側に位置する近位端と反対側の端部)を移動してもよい。
【0043】
第2の態様では、本開示は、高ピークパワーレーザパルス生成方法に関する。この方法は、
-第1のレーザパルスを放射するステップと、
-第1のレーザパルスが注入されるシングルコアを備えた少なくとも1つの第1のマルチモードファイバを備えるファイバデバイスを介して、第1のレーザパルスを伝送するステップと、
-第1のレーザパルスをファイバデバイスにより伝送する前に、第1のレーザパルスを時間的に整形するステップと、を備え、
第1のレーザパルスを時間的に整形するステップは、所定の回転軸周りに回転する回転反射デバイスを用いて時間的コヒーレンスを低減することによりパワースペクトル密度を低減するステップを備え、
回転反射デバイスは、ドップラースペクトル幅広がりを持つ第1の入射パルスを反射するように構成される。
【0044】
従って前述の方法により、第1のレーザパルスに含まれるスペクトル線の幅を広げることができる。
【0045】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述の時間的に整形するステップは、第1のレーザパルスに含まれるスペクトル線の数を増やすステップをさらに備える。
【0046】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述のレーザパルス生成方法は、第1のレーザパルスを空間的に整形するステップをさらに備える。
【0047】
1つ以上の典型的な実施の形態では、第1のレーザパルスを空間的に整形するステップは、第1のレーザパルスのパワー空間密度を標準化するステップを備える。
【0048】
1つ以上の典型的な実施の形態では、前述のレーザパルス生成方法は、高ピークパワーレーザパルスを作るために、ファイバデバイスの出力部に配置された少なくとも1つの光増幅器を用いて、第1のレーザパルスを光学的に増幅するステップをさらに備える。
【0049】
1つ以上の典型的な実施の形態では、レーザパルス生成方法は、光増幅器の光ポンピングのために、前述の少なくとも1つのポンプレーザビームをファイバデバイスに注入するステップをさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本発明のその他の利点と特徴を、以下の図面を参照しながら説明する。
【
図1】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システム、および密閉環境におけるその動作を示す図である。
【
図2A】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、ドップラー効果によりレーザ線幅を広げるために、ファイバデバイスを用いた伝送の前に行うパルスの時間的整形の処理を示す図である。
【
図2B】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、ドップラー効果によりレーザ線幅を広げるために、ファイバデバイスを用いた伝送の前に行うパルスの時間的整形の処理を示す図である。
【
図2C】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、ドップラー効果によりレーザ線幅を広げるために、ファイバデバイスを用いた伝送の前に行うパルスの時間的整形の処理を示す図である。
【
図2D】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、ドップラー効果によりレーザ線幅を広げるために、ファイバデバイスを用いた伝送の前に行うパルスの時間的整形の処理を示す図である。
【
図3A】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、レーザ線の数を増やすために、ファイバデバイスを用いた伝送の前に行うパルスの時間的整形の処理を示す図である。
【
図3B】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、レーザ線の数を増やすために、ファイバデバイスを用いた伝送の前に行うパルスの時間的整形の処理を示す図である。
【
図4A】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、一定の強度プロファイルを持つビームを作るために、ファイバデバイスを用いた伝送の前にパルスを時間的に整形する手段を示す図である。
【
図4B】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、一定の強度プロファイルを持つビームを作るために、ファイバデバイスを用いた伝送の前にパルスを時間的に整形する手段を示す図である。
【
図5】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例であって、ファイバデバイスの出力部でレーザパルスを増幅するための光増幅器を備えるものを示す図である。
【
図6】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの一例において、ファイバデバイスの典型的な例を示す図である。
【0051】
一貫性を保つため、異なる図面における同じ要素は同じ符号で示される。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本開示における関心は、材料へのレーザ衝撃を生成するのに適した高いピークパワーパルスを生成することにある。
【0053】
照度(単位面積当たりの照射光パワー)の高いパルス(典型的には、1平方センチメートルあたり数ミリオンワット)と材料との相互作用により、照射を受けた表面は急激に加熱し、緩和するプラズマの形で蒸発する。これはレーザ衝撃と呼ばれる。レーザ衝撃は、光と材料との間の相互作用時間が非常に短い(典型的には、数10ナノ秒)メカニズムである。従って処理対象部分に、レーザ切断やレーザ溶接で発生するような著しい温度上昇が発生しない。レーザ衝撃は、閉じ込め層を利用して1次元方向に与えられてもよい。特に閉じ込め層がない場合は、レーザ衝撃の広がりは4πステラジアンに及ぶ。
【0054】
レーザ衝撃ピーニングの場合、より正確には、このように与えられたレーザ衝撃により、材料に深い残留圧縮応力を非常に高い精度で発生させることができる。これによりクラックの生成および拡大を遅らせることができ、最終的には疲労抵抗を増やすことができる。さらに閉じ込め層により、プラズマを処理対象の内部に向けて緩和させることができるので、処理効率を上げることができる。
【0055】
LIBS(光誘起ブレークダウン分光法)の場合、処理対象表面は、レーザ衝撃により蒸発する。このとき排出される原子およびイオンは励起エネルギー準位に励起され、原子線から成るスペクトルを放射する。その波長により、存在する元素を識別することができる。さらにその強度は、放射原子の凝縮に比例する。
【0056】
アブレーション洗浄の場合、表面に生成されたプラズマは、緩和効果により緩和する。これにより、洗浄対象表面を傷つけることなく、汚れを分離し除去することができる。
【0057】
レーザ生成超音波検査では、パルス-材料相互作用に起因するプラズマによって生成された超音波が使われる。超音波は材料内を伝搬し、界面で反射する。超音波の到達に伴って材料が変形するが、これは第2のレーザビームに結合された干渉計を用いて解析することができる。この解析により、材料の特性(例えば、厚さ、微視的構造、潜在的な欠陥等)に関する情報が与えられてもよい。
【0058】
図1に、本開示に係る高ピークパワーパルス生成システム10および密閉環境内におけるその実行を示す。
【0059】
システム10は、筐体100の内部に、第1のレーザパルスILを放射するための少なくとも1つの光源101を備える。筐体100は空調されてもよく、また埃や湿気から隔離されてもよい。
【0060】
光源101は例えば、1ns以上100ns以下(有利には、5ns以上2ns以下)のパルスを放射するパルスレーザである。光源は例えば、1.064μm(ネオジム(Nd)の放射波長:YAGレーザ)または1.030μm(イッテルビウム(Yb)の放射波長:YAGレーザ)の波長の光を放射する。光源101は、固体レーザ、ファイバレーザ、半導体レーザ、ディスクレーザまたはこれらのレーザの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0061】
光源は、単一のレーザ線または複数のレーザ線を持つレーザパルスを放射してもよい。
【0062】
例えば、様々な波長の第1のパルスを放射し、これと異なる波長の少なくとも第2のパルスを放射する複数の光源が与えられてもよい。
【0063】
システム10は、筐体100の内部に、時間的整形モジュール102および/または空間的整形モジュール103(例えば、第1のレーザパルスの時間的および/または空間的コヒーレンスを減少させ、ほぼ一定の強度プロファイルを持つパルスを形成するもの)を備えてもよい。特にこれらの時間的および/または空間的整形モジュールは、強度のスパイクまたはレーザデバイスの入力部における「ホットスポット」を減少させ、非線形効果を抑制するために設けられる。時間的および空間的整形モジュールのいくつかの例を後述する。
【0064】
図1に示される例では、時間的整形モジュール102および空間的整形モジュール103の出力部で、第1のレーザパルスがファイバデバイス110に注入される。ファイバデバイス110により、単数または複数の光源から放射されたレーザパルスを伝送することができる。ファイバデバイス110は、このレーザパルスを受信するための、単一のコアを持つ1本のマルチモードファイバを備えてもよい。別の例では、ファイバデバイス110は、全てのレーザパルスを受信できる単一のコアを持つ第1のマルチモード光ファイバとともに、複数の光ファイバを備えてもよい。
【0065】
例えばレーザ衝撃ピーニングのためにシステム10が使われる場合、閉じ込め層を形成するために、水ノズル14を与えることもできる。水ノズル14には、水タンクおよびホース13を介して水を供給するためのポンプ12が与えられる。水は必須ではない。閉じ込め層は、ジェル、塗料、またはパルスの波長に対して透明な固形材料(例えば、石英)を用いて得られてもよい。閉じ込め層を省略することもできるが、この場合、レーザ衝撃ピーニング処理によって与えられるプレストレスの深さは減少する。閉じ込め層は、レーザ衝撃ピーニング以外のアプリケーションには無用である。
【0066】
システム10はまた、ファイバデバイスの先端部を移動させるための移動手段(図示せず)を備えてもよい。材料の様々な位置で(例えば処理対象が表面の場合、表面の様々な領域で)レーザ衝撃を与えることが必要な場合、材料またはファイバデバイスの先端部(すなわち、光源側に位置する近位端と反対側の端部)を移動してもよい。これにより処理対象の表面が、増幅されたレーザパルスによって空間的に走査されてよい。
【0067】
1つ以上の典型的な実施の形態では、システム10はまた、ファイバデバイスの出力部でパルスを空間的に整形するための光部品を備える。光部品115は、例えば回折光学部品であり、例えばDOE(回折光学素子)、マイクロレンズシステム、光コンデンサ、パウエルレンズなどである。増幅されたレーザパルスを用いて処理対象部分を空間的に走査する場合、照射したい部分の様々な領域のオーバーラップを最小化するために、この整形により、例えば処理対象部分のジオメトリに適合することができる。これにより、速度を上げることができる。
【0068】
一方で
図3A-3B、他方で
図4A-4Dは、パルスをファイバデバイスにより伝送する前に、当該パルスを時間的に整形するための様々な手段(例えば、レーザ線幅を広げるまたはパルスのレーザ線数を増やすことにより、レーザパルスのパワースペクトル密度(PSD)を低減するための、本開示に係る高ピークパワーパルス生成システム)を示す。
【0069】
PSDを低減することにより、ファイバデバイス110のファイバ(単数または複数)内の非線形効果を抑制し、パルスの時間的コヒーレンスを低減することができる。これにより、強度スパイクを抑制することができる。
【0070】
本出願人は、例えば本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムでは、所定のファイバ直径および所定のファイバデバイスの長さに関し、PSDを、ファイバデバイス内で誘導されるブリルアン散乱の閾値未満に低減すると有利であることを見出した。
【0071】
特に温度の影響がある場合、光ファイバを形成する分子は、本来の位置の周囲で微小運動する。これにより、ファイバのコアの屈折率を変える原因となるフォノンが、低振幅音波の形で発生する。光波は、この媒体を通過するとき、こうした音波によって散乱される。この散乱は、音波の運動に起因するドップラー効果(自発ブリルアン散乱)を伴う。散乱波は、入射光波と同じ方向に伝搬するとき、ストークス波と呼ばれる。散乱波は、入射光波と反対方向に伝搬するとき、反ストークス波と呼ばれる。
【0072】
入力波がストークス波と干渉することにより非常に高いエネルギーを持つとき、強度変調と高いコントラストの屈折率格子とが、ファイバ内に発生するだろう。この現象は電歪現象と呼ばれ、反ストークス波に関して指数関数的ゲイン(誘導ブリルアンゲインと呼ばれる)を持つ誘導散乱を伴う。誘導波は、対向伝搬波の形で後方散乱される。これは、ファイバ内を伝わる波に関し、大きなエネルギー損失となる。
【0073】
誘導ブリルアンゲインは、ファイバ内を伝わる光であって所定の閾値(ブリルアン閾値(P
th)と呼ばれる)より高い強度を持つものについてのみ発生する。ブリルアン閾値より高いと、反対方向に後方散乱される波の強度は指数関数的に増加する。ブリルアン閾値は以下の式で定義される(例えば、次の文献を参照。P. Singh et al. "Nonlinear scattering effects in optical fibers", Progress In Electromagnetics Research, PIER 74, 379-405, 2007)。
【数1】
ここで、A
effはファイバのコアの有効領域、L
effはファイバの有効長さ、Kは伝送放射の偏光に関係する定数(1から2の値を取る)、g
Bはブリルアンゲイン、Δνは第1のパルスからファイバ内に注入されるスペクトルの幅(PSDのスペクトル広がり)、Δν
Bはブリルアンゲインの幅である。単色波で環境温度の場合、ブリルアンゲインは20MHzの幅を持つ。従って入射スペクトル幅が20MHzより大きくシフトする(または広がる)場合、誘導ブリルアン効果は減少する傾向がある。言い換えれば、光波が単色であればあるほど(時間的コヒーレンスが大きければ大きいほど)、ブリルアン効果はより発生しやすくなる。
【0074】
上の式は、柔軟性を増すためにファイバデバイスのコア直径を縮小させると、ブリルアン閾値が低下することを表す。ブリルアン閾値を増すためには、例えば、ファイバに注入されるレーザパルスに含まれるレーザ線のスペクトル幅を広げるか、この(または、これらの)レーザ線の数を増やすかすればよい。
【0075】
図2A-2Dは、第1のレーザパルスを時間的に整形し、この第1のパルスに含まれるレーザ線のスペクトル幅を広げるのに好適なモジュールの例を示す。
【0076】
前述の通り、レーザ線のスペクトル幅を広げることにより、ファイバデバイスのファイバ内の非線形効果(特に、誘導ブリルアン効果)を低減することができるが、さらにスペックル現象に起因する強度スパイクのリスクを抑制することもできる。特にスペクトル幅が広がると、時間的コヒーレンスおよび回折のための光容量が低減する。これにより、スペックル強度のコントラストを低減し、従って強度スパイクを低減することができる。
【0077】
図2Aから2Dに示される例では、時間的整形モジュール102は、回転軸の周りに回転し、ドップラースペクトルが広がった第1の入射パルスを反射するように構成された反射デバイスを備える。
【0078】
図2Aに示される例では、回転反射デバイスは、第1のパルスI
Lの入射面Πに直行する平面に配置された単純ミラー22を備える。ミラー22は、入射面Πに垂直で、ミラー面に含まれる回転軸221周りに回転する。回転ミラーは、回転軸221周りに回転または振動運動してよい。パルスが所定の繰り返し周波数で放射される場合、ミラーの回転または振動の速度は、この繰り返し周波数に同期する。これにより、各パルスは入射角と同じ角度でミラー22に入射する。例えば
図2Aに示されるように、入射角は、ミラーの法線に対して0°である。入射角は必ずしも0でなくてもよいが、単純ミラーの場合は0であることが望ましい。
【0079】
図2Aの例では、4分の1プレート21に結びついた偏光スプリッタ部品20があることにより、先ずミラー22に入射するパルスを分割し、次にこのパルスをミラー22で反射させることができる。
【0080】
図2Aに示されるように、回転ミラー22に入射するパルスは例えば、所定のスペクトル精細度(曲線201)を持つ中心周波数ν0のスペクトルS
0を持つ。さらに曲線202は、入射パルス強度(細い線)の空間的分布I(r)および光周波数(太い線)の空間的分布ν(r)を模式的に示す。曲線202に示されるように、光周波数の空間的分布は、一定(例えば、ν0)である。
【0081】
レーザパルスが回転ミラー22に入射するとき、このレーザパルスはドップラー周波数シフト(ΔνD)する。これはビームの空間的プロファイルとともに変化する。特に空間的意味で、回転ミラーに入射するビームの各点は、ミラーの角速度δθ/δtに起因してドップラーシフトする。ここで角速度は、ミラー点と回転軸との距離rの関数で変化する。
【0082】
従って曲線204は、ドップラー周波数シフトΔνDに起因してrの関数で変化する反射パルス周波数ν(r)を模式的に示している。
【0083】
回転ミラーに入射するビームの直径をD
fとおく。距離r=D
f/2に位置するビームの上部は、負にドップラーシフトする。
【数2】
ここでν0およびν1は、それぞれ回転軸からの距離r=0およびr=D
f/2におけるビームの光周波数である。距離r=-D
f/2に位置するビームの下部は、正にドップラーシフトする。
【数3】
ここでν2は、回転軸からの距離r=-D
f/2におけるビームの光周波数である。回転軸からの距離r=0に位置するビームの中心は、受けるドップラーシフトが0であることに注意する。
【0084】
図2Aに示される回転ミラーの場合、ドップラー広がりΔν
Dの全振幅は、D
f~D
M(D
Mはミラーの直径)のとき最大となることを示すことができる。この場合、ドップラーシフトの振幅は、以下のようになる。
【数4】
ここで、δθはRPM(1RPM=2π rad/min=2π/60 rad/s)で表した回転(振動)速度、λは波長である。この例では、
【数5】
および
【数6】
は、ミラーの各端部で受けるドップラーシフトに相当すると仮定する。
【0085】
従って、ビームの各空間座rに関し、結果として生じる当該ビームに特有な光周波数を関連付けることができる。この空間的に変化するドップラー効果により、曲線203に示されるように、パルスのレーザ線(S3)のスペクトル幅に広がりが生じる。
【0086】
図2Bから2Dは、回転反射デバイスの他の例を示す。これらの例では、回転反射デバイスは、例えば多角形の面に沿って配置された複数の反射面を備える。回転反射デバイスはさらに、各レーザパルスを1つの回転反射面から次の回転反射面に向けて返すための、固定された偏向ミラーを備える。反射面および偏向ミラーは例えば、ドップラー効果を最大にするために、入射および反射パルスの波数ベクトルの向きを持つ入射面Πに垂直な平面に配置される。反射面は、入射面に垂直な回転中心軸(例えば、多角形の重心を通る軸。この例では、多角形の対称軸)周りに回転または振動運動する。上記の例では、回転する多角形の各面は、反射面を形成する。従って回転反射デバイスは、N枚の反射面およびN-1枚の偏向ミラーを持つ。多角形の限られた数の側面上に、N(N≧2)枚の反射面を持つこともできる。この場合も偏向ミラーは常にN-1枚である。本出願人は、この特定の「回転多角形」配置により、ドップラー広がりを増やすことができることを見出した。
【0087】
図2Bの例では、回転反射デバイス23は、正方形状に配置され対称軸232周りに回転する4枚の反射面231と、3枚の偏向ミラー233とを備える。
図2Cの例では、回転反射デバイス24は、六角形状に配置され対称軸242周りに回転する6枚の反射面241と、5枚の偏向ミラー243とを備える。
図2Dの例では、回転反射デバイス25は、八角形状に配置され対称軸252周りに回転する8枚の反射面251と、7枚の偏向ミラー253とを備える。一般的に回転反射デバイスは、N枚の反射面およびN-1枚の偏向ミラーを備えてよく、Nは2以上10以下であってよい。
図2Bから2Dに示される例では、結果として生じるスペクトルは、それぞれS
4、S
5、S
6(それぞれ、曲線205、206、207)である。
【0088】
図2B-2Dに示されるように、レーザーパルスI
Lは、多角形の反射面上に、当該反射面の法線に対し角度θで入射する。このレーザーパルスは、回転反射デバイスの回転または振動と時間的に同期している。これにより各入射パルスは、各反射面に対して同じ入射角度を持つ。
【0089】
ドップラー効果によるスペクトル幅の広がりを最大化するために、各反射面に入射するレーザパルスから形成される光ビームの直径が以下の式で定められるD
f以下であるという条件が与えられてもよい。
【数7】
ここで、D
Mは回転軸と垂直方向の多角形の外径、αは多角形の中心とこれらのファセットの1つとの間の半角である。回転反射デバイスは、角速度δθを持つ。ここでθは、入射ビームの反射ファセットの法線に対する角度である。各回転ファセットで反射する放射は、ドップラー効果により光周波数がシフトするだろう。
図2Aに示されるように、ビームのドップラーシフトは、当該ビームの空間的プロファイルに応じて異なる。特に空間的には、反射面に入射するビームの各点は、回転面の角速度に起因してドップラーシフトする。ビームが回転軸と垂直方向に達すると、ドップラー広がりは最大となるだろう。これは以下の式を用いて定められる。
【数8】
【0090】
回転反射デバイスの多角形の幾何学的配置のおかげで、光パルスは多角形の各反射面から反射することができる。これにより、ドップラー効果によるスペクトル拡散の大きさを最大化することができる。従ってN枚の反射面を持つ多角形に関し、回転反射デバイスに入射する線のスペクトル幅は、ドップラー効果により広がるだろう。これは以下のように表される。
【数9】
【0091】
例えば、パルス持続時間が20nsで、スペクトルがフーリエ変換(スペクトル幅50MHz)に限られる、1064nmのレーザパルスを考える。このレーザパルスが、55000rpm(rpm=回転数/分、すなわち5760 rad/s)で回転する外径40nmの8角形と時間的に同期していると(この場合、当該8角形の面の法線に対するレーザビームの入射角はθ=11.25°で、パルスは当該8角形の8枚の反射面で反射する)、このレーザスペクトルの幅は約690MHz広がるだろう。従ってこの回転反射デバイスにより、入射スペクトル幅を13倍広げることができる。
【0092】
さらに、レーザパルスのスペクトル幅を広げて時間的コヒーレンスを低減することに加えて、ビームの様々な空間座標は、様々なスペクトル成分に関係する。これにより、空間的コヒーレンスを低減することができる。従ってこのような時間的整形モジュールにより、光源の空間的-時間的コヒーレンスに起因する強度スパイクのビークを最小化することができる。さらに、直径15nm、持続時間20ns、波長1064nmのビームの場合、回折限界は約67μradである。パルスの持続時間中、8個のファセットの多角形が55000rpm(5760 rad/s)で回転していると、ビームは20nmの持続時間の間に115μrad(すなわち、回折限界の約2倍)走査する。これは、スペックルのコントラストの最小化を助けるだろう。
【0093】
図3A-3Bは、ファイバデバイスに注入されるレーザパルスのレーザ線の数を増やすための時間的整形モジュール102の例を示す。
【0094】
こうした例により、レーザ線の数を増やすことができる。これにより、時間的コヒーレンスが低減される。これにより、特にブリルアン閾値を増し、ファイバデバイスの入力部におけるスペックルのコントラストを低減することができる。
【0095】
図3Aの例は、音波(一般にラジオ周波数に近い)によって光周波数を回折・変化させるために、音響光学変調器33(AOM)を用いて音響光学効果を使うことを基本とする。
【0096】
より正確には、モジュール102は、偏光スプリッタキューブ31を備える。この偏光スプリッタキューブ31は、スペクトルS
0の直線偏光したレーザパルスI
Lを、音響光学変調器33に伝える。変調器33は、多色ラジオ周波数ジェネレータ32からの信号を受信する。回折したビームF
1、F
2、…は変調器33で生じる。N個のラジオ周波数がジェネレータ32から供給された多色RF信号を形成し、これを音響光学変調器33に供給すると、変調器の出力部では、異なるN個の方向に回折した最大N個の回折ビームを得ることができる。各回折ビームは、方向に関連付けられ、ジェネレータ32から供給される多色RF信号を形成するN個のラジオ周波数の1つに対応してスペクトルシフトする。RF周波数が高ければ高いほど、変調器33の出力部におけるビームのスペクトルおよび角度のシフトは大きくなる。従って、変調器33の出力部において、不連続なビームのアレイが放射される。この不連続なビームのアレイは、光学システム34(例えば、光学レンズ)によって再調整されてもよい。このように調整されたビームは、4分の1プレート34を通過する。この4分の1プレート34は、直線偏光を円偏光に変える。4分の1プレートの出力部に、ミラー36が配置される。これにより、自己調整配置が実現される。この光学配置により、ビームを変調器33に向けて逆進させることができる。逆進パルスは、プレート35を通過する。その後これらのパルスは、最初の偏光と同じ90度偏光を持つ。逆進経路の後、パルスは変調器33に入射するために、再びレンズ34を通過する。ビームは再び角度およびスペクトルシフトする。逆進経路上でのスペクトルシフトは、外向き経路上でのスペクトルシフトに追加される。スペクトルシフトしたビームの各々は、偏光スプリッタキューブ31に戻り、ファイバデバイス(
図3Aには示されない)に導かれる。
図3Aに示されるように、モジュール102によって作られた複数の線に起因して、結果として生じるスペクトルS
1は広がっている。
【0097】
例えば、多色ラジオ周波数信号3が3つの別個の(典型的には、35MHz以上350MHz以下の)周波数ν1、ν2、ν3を備える場合、出力パルスのスペクトルS1は、光周波数ν0+2ν1、ν0+2ν2、ν0+2ν3のコムを備えるだろう。ここでν0は、光源101から放射されるパルスの中心光周波数である。一方、出力ビームは単一の方向を持つだろう。光源101から発せられるレーザパルスがすでに複数の線を備える場合、これらの線は、上述のようにそれぞれ増加されるだろう。考察対象の光増幅器の帯域はAOMで生成されたシフトより遥かに広く、この時間的整形の結果生じるレーザパルスは光増幅器で増幅されてもよいことに注意する。例えばNd:YAG結晶は、波長1064nmで、30GHz近くまで増幅された帯域を持つ。
【0098】
第1のレーザパルスの線数を増やすための別のアセンブリが、
図3Bに示される。
【0099】
この例では、時間的整形モジュールは、入射パルスILを強度変調するように構成された、振幅または位相変調器37を備える。振幅変調器37は、例えばポッケルスセルを備える。多色ラジオ周波数信号38で強度が変調される場合、モジュール出力におけるスペクトルS2は、多色RF信号38に起因するスペクトル成分を多く含むだろう。これは、レーザ線の数および光源101に起因するパルスのパワースペクトル密度を増やすことにより、スペクトル幅を広げる効果を持つ。
【0100】
前述の例のように、レーザ線の数の増加に起因するPSDの低減のファクターは、2から10におよぶ。従って例えば、100MHzといった狭いスペクトル幅から始めて、ファイバデバイスの入力部における全スペクトル幅が数100MHzオーダーのパルスを得ることができる。これにより、ブリルアンゲインを著しく低減することができる。
【0101】
もちろん前述のPSDを低減する方法は、網羅的なものではなく、組み合わされてもよい。
【0102】
図4Aおよび4Bに、レーザパルスI
Lをファイバデバイスにより伝送する前に、レーザパルスI
Lを空間的に整形する処理の例を示す。
【0103】
これら2つの例は、実質的に均一な強度(「トップハット型」)のプロファイルを持つビームを作ることを目的とする。例えば、スペックルに関係する粒効果を除いて、光強度の空間的変化が+/-10%であることを目指す。
【0104】
図4Aは、光学システム42(例えば、光学レンズ)に関連して、ファイバのサイズおよびジオメトリに適合した空間的整形を実行するためのDOE(回折光学素子)41を備える整形モジュール103の第1の例を示す。
【0105】
図4Aでは、プロファイルP
0は、レーザ光源(例えば、ガウシアンレーザ光源)から発せられたレーザパルスの強度プロファイルを示す。本出願人は、
図4Aに示されるような「トップハット型」プロファイルでは、ファイバデバイスを伝搬中、強度スパイクのリスクが低減されることを見出した。光学システム42の結像面におけるビームの空間的整形は、DOE41によって付与された、DOEにおけるビームの強度空間分布の空間的フーリエ変換で畳み込まれた位相マスクの空間的フーリエ変換に相当する。従ってDOE41によって付与された位相マスクは、この畳み込みの結果が「トップハット型」強度分布を生むように計算される。ここでビームの直径Dは、光学システム42の焦点距離に比例する。
【0106】
図4Bは、空間的整形モジュール103の他の変形を示す。この例では、空間的整形は、マイクロレンズアレイ43、44のペアと集光レンズ45とを用いて実行される。
【0107】
第1のマイクロレンズアレイ43(焦点距離Fμ1)は、入射ビームを複数のサブビームに分割する。集光レンズ45と組み合わされた第2のマイクロレンズアレイ(焦点距離Fμ2)は、各サブビームの像を、「均一面」と呼ばれる面(これは、集光レンズの焦点距離FLの位置にある)に重ねる対物アレイの役割をする。2つのマイクロレンズアレイの間の距離を変えることにより、整形のサイズが変わる。マイクロレンズがそれぞれ個別に取るジオメトリにより、均一面の後の像の形が与えられる。
【0108】
図4Aおよび4Bに示される空間的整形により、ガウシアンプロファイルに比べて、ファイバデバイス内を伝播中のマルチモードファイバの入力部における強度スパイクを低減することができる。特に、単一かつ共通のエネルギーおよび単一かつ共通のビーム直径に関し、「トップハット型」の円形プロファイルは、ガウシアンプロファイルに比べて低い強度ピークを持つ。
【0109】
レーザパルスのパワープロファイルにおける強度スパイクの低減は、前述のように、パルスの時間的コヒーレンスを低減することによっても実現できる。
【0110】
図5は、
本開示に係るシステム50の一例であって、
図1に示される要素の全部または一部を備え、前述のファイバデバイス110の出力部に配置された少なくとも1つの第1の光増幅器120をさらに備えるものを示す。複数の光増幅器は直列に配置されてもよい。増幅されたパルスを、光ファイバ(単数または複数)の出力部で空間的に整形することもできる。
【0111】
第1の光源と異なる波長の第2の光源がある場合、システムは、この第2の光源から放射された第2のレーザパルスを増幅するための、少なくとも1つの第2のレーザ増幅器を備えてもよい。
【0112】
システム50はまた、ポンプビームIPを放射する光源104を備える。ポンプ光源104の波長は、光源101から放射されたパルスの波長および使われる光増幅器120に依存する。例えば、レーザ光源101が約1064nmの波長の光を放射し、光増幅器120の増幅器結晶がNd-YAG結晶である場合、ポンプ光源104は、約800nmのポンプビームを放射できるだろう。レーザ光源101が約1030nmの波長の光を放射し、増幅器結晶がYb-YAG結晶である場合、ポンプ光源104は、約980nmのポンプビームを放射できるだろう。
【0113】
有利には、ポンプレーザ光源は、1つ以上のレーザダイオードを備える。
【0114】
ポンプレーザ光源104は、連続波モード(CW)または準連続波モード(QCW)モードのポンプビームを放射してもよい。
【0115】
時間的整形モジュール105を用いて時間的整形を行うことにより、例えば、ポンプビームを強度的に変調することができる。この場合ポンプビームは、前述の第1のパルスの繰り返し周波数で変調される。ポンプビームは、所定の持続時間(例えば、光増幅器120の増幅に使われる希土類イオンの励起準位が持続する時間)、一定または準一定の光強度に保たれてよい。この持続時間が経過すると、ポンプビームの強度はゼロに減衰してよい。例えば空間的整形モジュール106を用いて、ポンプビームを空間的に整形することもできる。これにより、例えば、ポンプビームの光モードのサイズを第1のマルチモードファイバのコア直径に適用することにより、ファイバデバイス110へのポンプビームの注入を保護することができる。
【0116】
ポンプレーザダイオードを使う場合、空間的整形は、当該ダイオードを直接電気的に制御することにより行われる。
【0117】
図5の例では、ポンプビームは、ミラー107、108を用いて、レーザパルスI
Lの形でファイバデバイス110内に注入される。ポンプビームI
PはレーザパルスI
Lと共に伝搬する。すなわちポンプビームはファイバデバイス110内に注入される。共伝搬ポンピングは特に、ポンプレーザビームと増幅されるべきレーザパルスとのオーバーラップを最大化するのに有利である。従って増幅プロセスはより効率的となり、これにより必要なポンプエネルギーを最適化することができる。
【0118】
代替的に、光ポンピングは横方向であってもよく、例えば個別のレーザダイオードを用いて実行されてもよい。この変形により、例えばポンプダイオード当たり1本の光ファイバを用いて、さらなるポンプエネルギーを与えることができる。
【0119】
前述のように、いずれの場合も、
図1に示される部品115(例えば、DOE(回折光学素子)、マイクロレンズシステム、光コンデンサ、パウエルレンズなど)を用いて、増幅器120の出力部分でパルスを空間的に整形することができる。
【0120】
図6は、「フォトニックランタン」と呼ばれる2つの部品がヘッドトゥテールに配置されたファイバデバイス60の1つの典型的な例を示す。
【0121】
各部品または「フォトニックランタン」は、マルチモードファイバ(20000モード以上)のコアを、より細いコア径を持つ複数の小モードマルチモードファイバ(10000モード未満)に接続する。こうした部品の構成は、例えば以下に開示されている(Noordegraaf. et al. "Multi-mode to single mode conversion in a 61 port photonic lantern", Optics Express, Vol. 18, No. 5 (2010) pp. 4673 - 4678.)。従って
図6に示されるファイバデバイス60は、第1のマルチモードファイバ61と、この第1のマルチモードファイバ61に接続された1組の小モードマルチモードファイバ62とを入力部に備え、第2のマルチモードファイバ63を出力部に備える。この第2のマルチモードファイバ63は、前述の小モードマルチモードファイバに接続され、第1のレーザパルスを出力するためのシングルコアを備える。小モードマルチモードファイバは、例えば10以上20以下であればよく、望ましくは10以上100以下である。
【0122】
このようなデバイスは、伝送損失(典型的には、15%未満)を伴うことがあるが、より細い径(典型的には、50μm以上200μm以下)の小モードマルチモードファイバを使うことにより柔軟性が著しく向上する。さらに損失は、シングルコア注入とカップリングセクションとの間にドープされたファイバ62を使うことにより補償することができる。こうした損失は、ファイバデバイスの出力部に光増幅器を配置することにより補償してもよい。
【0123】
従って、ファイバデバイス60を用いて、高エネルギー(典型的には、10nsのパルス当たり300mJより高い)のレーザパルスをシングルコアに注入し、このパルスを、より径の細い複数のファイバを介して処理対象領域まで伝搬させることができる。マルチファイバ伝送機能が実現されると、光放射は光増幅器120によって増幅され、処理対象の表面まで伝送される。エネルギーをシングルコアから伝送することにより、回折光学素子(例えば、DOE、マイクロレンズシステム、光コンデンサまたはパウエルレンズ)を用いたビームの増幅および整形が容易となる。
【0124】
さらに、ファイバデバイスの入力部および出力部がより太い径(典型的には、300μm以上1mm以下)のマルチモードファイバであることにより、ファイバデバイスの入力面および出力面のレーザ損傷に対する耐性が向上する。
【0125】
以上、いくつかの詳細な実施の形態を用いて説明したが、高ピークパワーパルス生成方法およびシステムは、様々な変形、変更、改良が可能であることは当業者に明らかである。こうした変形、変更、改良も、以下の請求項で定義される本発明の範囲内にあることが理解される。