(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】可変容量型潤滑油ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/344 20060101AFI20230602BHJP
【FI】
F04C2/344 331E
F04C2/344 331L
(21)【出願番号】P 2021570395
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2019063967
(87)【国際公開番号】W WO2020239216
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】515069336
【氏名又は名称】ピアーブルグ パンプ テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Pierburg Pump Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Alfred-Pierburg-Strasse 1, 41460 Neuss, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラッツェリーニ,マッシミリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】クネオ,カーマイン
(72)【発明者】
【氏名】ググリエルモ,ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ザッキュリー、ヴィンチェンツォ
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-013602(JP,U)
【文献】実開昭57-168790(JP,U)
【文献】国際公開第2018/196991(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/091559(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/150871(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/083063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧潤滑油を供給するための可変容量型潤滑油ポンプ(10)であって、
前記可変容量型潤滑油ポンプ(10)は、
ポンプハウジング(14)と、
前記ポンプハウジング(14)内に配置され、略円筒形のポンプチャンバ(20)を半径方向に制限する変位可能な制御リング(16)と、
前記制御リング(16)にて部分的に制限され、前記制御リング(16)の対向する横方向にそれぞれ位置する入口チャンバ(22)および出口チャンバ(28)と、
前記制御リング(16)の出口チャンバ側の横方向に位置する横方向スライドベアリング(34)と、を備え、
前記横方向スライドベアリング(34)には、
前記ポンプハウジング(14)にて画定される第1横方向スライドベアリング面(36)と、
前記第1横方向スライドベアリング面(36)の反対側において、前記制御リング(16)にて画定される第2横方向スライドベアリング面(38)と、
前記2つの横方向スライドベアリング面(36,38)の間に画定される横方向スライドベアリング間隙(40)と、が設けられ、
前記制御リング(16)には、前記横方向スライドベアリング間隙(40)と前記入口チャンバ(22)とを流体的に接続する排流路(42)が設けられている、
ことを特徴とする可変容量型潤滑油ポンプ(10)。
【請求項2】
前記制御リング(16)の前記第2横方向スライドベアリング面(38)内に
、前記制御リング(16)の軸方向に沿って設けられ、前記入口チャンバ(22)と流体的に接続される横方向溝(44)にて前記排流路(42)が部分的に画定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型潤滑油ポンプ(10)。
【請求項3】
前記制御リング(16)の頂部側スライド面(50)に頂部側溝(46)が設けられ、および/または前記制御リング(16)の底部側スライド面(52)に底部側溝(48)が設けられ、
前記頂部側溝(46)および前記底部側溝(48)またはいずれか一方は、前記横方向溝(44)と流体的に通じ、部分的に前記排流路(42)を画定する、
ことを特徴とする請求項
2に記載の可変容量型潤滑油ポンプ(10)。
【請求項4】
前記制御リング(16)には、前記ポンプチャンバ(20)と前記入口チャンバ(22)とを流体的に接続する吸引開口部(26)が設けられ、
前記排流路(42)は、前記吸引開口部(26)に流体的に通じている、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の可変容量型潤滑油ポンプ(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、加圧潤滑油を供給するための可変容量型潤滑油ポンプ、特に内燃機関に加圧潤滑油を供給するための機械的可変容量型潤滑油ポンプに関する。
【0002】
潤滑油ポンプは、例えばギヤまたはベルトを介してエンジンによって機械的に駆動され、エンジンに流体連結して加圧潤滑油をエンジンに注入する。潤滑油ポンプの容量が可変であると、潤滑油ポンプのポンプ吐出圧力を制御したり安定化したりすることが可能になり、それによって、例えば、エンジン内のギャラリにおける潤滑油圧力の制御や安定化が実現する。
【0003】
国際公開第2018/196991号明細書には、内燃機関用の加圧潤滑油を提供するための典型的な可変容量型潤滑油ポンプが開示されている。典型的な潤滑油ポンプには、固定ポンプハウジングと、ポンプハウジング内に配置され、円筒状のポンプチャンバを半径方向に制限する変位可能な制御リングが設けられている。また、潤滑油ポンプには、制御リングにて部分的に制限され、制御リングの対向する横方向にそれぞれ位置する入口チャンバおよび出口チャンバと、制御リングの出口チャンバ側の横方向に位置する横方向スライドベアリングとが設けられている。横方向スライドベアリングは、ポンプハウジングにて画定される第1横方向スライドベアリング面と、これに対向して第1横方向スライドベアリング面の反対側にて制御リングにて画定される第2横方向スライドベアリング面とを有している。2つの横方向スライドベアリング面の間に画定される横方向スライドベアリング間隙は、そこから潤滑油が漏れないようにシール部にて流体的に封止される。特に、横方向スライドベアリング間隙が潤滑油ポンプの油圧制御チャンバに流体的に通じている場合、横方向スライドベアリング間隙を介して意図せず漏れる潤滑油により、ポンプの吐出圧力制御やポンプの性能が損なわれるおそれがある。しかしながら、シール部を設けると、横方向スライドベアリングのスライド摩擦が増加するため、結果として、ポンプ効率が低下してしまう。さらに、シール部が横方向スライドベアリングの隙間から滑り出てしまうことを防ぐため、ポンプハウジングや制御リングには、シール部を所定の位置に保持する特定の保持部を設けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の目的は、コスト効率がよく、信頼性があり、効率的な可変容量型潤滑ポンプを提供することである。
【0006】
上記目的は、請求項1に記載の特徴を有する可変容量型潤滑油ポンプにて達成される。
【0007】
本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプには、ポンプ入口およびポンプ出口を画定する固定ポンプハウジングが設けられている。典型的に、ポンプ入口は、潤滑油タンクと流体接続され、ポンプ出口は、エンジンと流体接続されエンジンに加圧潤滑油を供給する。
【0008】
また、本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプには、ポンプハウジング内に配置され、略円筒形のポンプチャンバを半径方向に制限する制御リングが設けられている。制御リングは、ポンプハウジングに対して直線的に変位可能が好ましい。いずれの場合も、制御リングは、ポンプハウジング内で回動可能にヒンジ接続されていない。典型的に、ポンプチャンバの半径方向断面は真円形である。一方、ポンプチャンバの半径方向断面を非真円形、例えばわずかに楕円形に設け、ポンプ効率やポンプ圧力制御を改善する構成としてもよい。
【0009】
また、本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプには、制御リングにて部分的に制限され、またポンプチャンバにて部分的に制限される入口チャンバおよび出口チャンバが設けられている。入口チャンバおよび出口チャンバは、制御リングの対向する横方向において、ポンプチャンバの半径方向外側に位置している。入口チャンバはポンプの入口と流体的に接続し、出口チャンバはポンプの出口と流体的に接続している。ポンプの動作中、入口チャンバは比較的低い圧力の潤滑油、典型的に、ほぼ大気圧の潤滑油で満たされ、出口チャンバは加圧された潤滑油で満たされる。
【0010】
また、本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプには、制御リングの出口チャンバ側の横方向に位置し、ポンプハウジング内で制御リングを摩擦支持する横方向スライドベアリングが設けられている。横方向スライドベアリングには、平行かつ対向して位置する2つの横方向スライドベアリング面であって、ポンプハウジング14にて画定される第1横方向スライドベアリング面36と、制御リング16にて画定される第2横方向スライドベアリング面とが設けられている。これら横方向スライドベアリング面のそれぞれは、制御リングのスライド方向ならびに円筒形のポンプチャンバの軸方向に平行なポンプ面内に延在している。2つの横方向スライドベアリング面の間には、比較的狭い横方向スライドベアリング間隙が形成される。典型的に、横方向スライドベアリングは、出口チャンバと制御チャンバとの間に位置し、横方向スライドベアリングが制御チャンバの液圧を介して制御リングの位置を制御することにより、結果として容積式ポンプの性能が制御される。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、制御リングには、横方向スライドベアリング間隙と入口チャンバとを流体的に接続する排流路が設けられている。排流路は、入口チャンバと直接通じているか、入口チャンバと流体接触するポンプ領域に通じている。いずれにせよ、排流路には、入口チャンバの圧力が実質的にかかることになり、出口チャンバから横方向スライドベアリング間隙に圧入された加圧潤滑油は、横方向スライドベアリングから低圧の入口チャンバに向かって確実に運ばれる。結果として、潤滑油が横方向スライドベアリングを介して隣接する油圧チャンバ内、例えば制御チャンバ内へ漏れてしまうことが防止、または少なくとも著しく抑制されるため、横方向スライドベアリング間隙内に別個にシール部を設ける必要がない。
【0012】
このように、本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプでは、信頼性が高く効率的なポンプ動作が可能となる。横方向スライドベアリングを封止するためのシール部が不要なため、本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプは、非常にコスト効率よく実現できる。
【0013】
制御リングの第2横方向スライドベアリング面内に設けられ、入口チャンバと流体的に接続される横方向溝によって、排流路が部分的に画定されることが好ましい。横方向溝は、制御リングの軸方向の高さ全体に亘って延在することが好ましく、そのように構成することで、横方向スライドベアリングの軸方向の高さ全体に亘って、横方向スライドベアリング間隙内に漏出する潤滑油を効率的に収集できる。横方向溝はコスト効率よく設けることが可能で、また、横方向スライドベアリング間隙を介した潤滑油の漏れを確実に回避できる。
【0014】
典型的に、制御リングは、ポンプハウジング内で、その上側および下側において摩擦支持される。その結果、本願発明の好ましい実施形態では、制御リングの頂部側スライド面に頂部側溝が設けられ、および/または制御リングの底部側スライド面に底部側溝が設けられ、頂部側溝および底部側溝またはいずれか一方は、横方向溝と流体的に通じ、部分的に排流路を画定している。頂部側溝や底部側溝は、好ましくは、入口チャンバ、または入口チャンバと直接的に流体接触する領域と通じているため、横方向スライドベアリング間隙と入口チャンバとを流体的に接続するために、制御リング内にて追加的な配置をする必要がない。このように、非常にコスト効率よく排流路を設けることができるため、結果として、潤滑油ポンプをコスト効率よく実現できる。また、頂部側溝や底部側溝により、制御リングの頂部側や底部側を介して漏れる潤滑油を排出可能となる。このように、潤滑油の漏れる総量は最小限に抑えられ、結果として、非常に信頼性が高く効率的な潤滑油ポンプを実現できる。
【0015】
典型的に、制御リングには、ポンプチャンバと入口チャンバとを流体的に接続する吸引開口部が設けられている。典型的に、吸引開口部は、制御リング内の頂部側や底面側の凹部にて設けられている。排流路は、入口チャンバと直接的に流体接触する吸引開口部と通じていることが好ましい。典型的に、吸引開口部は、ポンプチャンバの比較的大きな円周域に亘って延在するため、排流路を比較的短く、コスト効率よく設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願発明に係る可変容量型潤滑油ポンプを開けた状態の上面図である。
【
図2】
図1の潤滑油ポンプの制御リングおよびポンプハウジングの一部を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、内燃機関12に加圧潤滑油を供給するための可変容量型潤滑油ポンプ10を示している。潤滑油ポンプ10には、固定ポンプハウジング14と、変位可能な制御リング16と、回転可能なポンプロータ18と、が設けられている。制御リング16は、ポンプハウジング14内に配置され、略円筒状のポンプチャンバ20を半径方向に制限する。
【0019】
さらに、潤滑油ポンプ10には、潤滑油タンク24と流体接続し、ポンプの作動中は実質的に大気圧の潤滑油で満たされる入口チャンバ22が設けられている。入口チャンバ22は、制限リング16にて部分的に制限され、制御リング16の吸引開口部26にてポンプチャンバ20に対して直接的に流体接続される。
【0020】
さらに、潤滑油ポンプ10には、エンジン12と流体接続し、ポンプの作動中は加圧潤滑油で満たされる出口チャンバ28が設けられている。出口チャンバ28は、ポンプチャンバ20の側部において、入口チャンバ22に対して反対側に位置する。出口チャンバ28は制御リング16にて部分的に制限され、制御リング16の排出開口部30にてポンプチャンバ20と直接的に流体接続される。
【0021】
さらに、潤滑油ポンプ10には、制御リング16の前側において、入口チャンバ22と出口チャンバ28との間に円周方向に配置された制御チャンバ32が設けられている。ポンプの作動中は、制御チャンバ32は潤滑油で満たされる。制御チャンバ32内の潤滑油圧力を制御することで、制御リング16の位置の油圧制御が可能となり、結果として、ポンプの容積推移を制御できる。
【0022】
さらに、潤滑油ポンプ10には、ポンプハウジング14内で制御リング16を摩擦支持する横方向スライドベアリング34が設けられている。横方向スライドベアリング34は、制御リング16の出口チャンバ側の横方向に配置されている。横方向スライドベアリング34は、出口チャンバ28および制御チャンバ32に直接隣接しているため、制御チャンバ32と出口チャンバ28とを互いに流体的に分離する。横方向スライドベアリング34には、平行かつ対向して互いに摩擦接触する2つの横方向スライドベアリング面36,38が設けられている。第1横方向スライドベアリング面36はポンプハウジング14にて画定され、第2横方向スライドベアリング面38は制御リング16にて画定されている。2つの横方向スライドベアリング面36,38の間には、横方向スライドベアリング間隙40が画定されている。
【0023】
本願発明によれば、制御リング16には、横方向スライドベアリング間隙40と入口チャンバ22とを流体接続する排流路42が設けられている。本願発明の本実施形態において、排流路42は、横方向溝44と、頂部側溝46と、底部側溝48とにて形成および画定されている。
【0024】
横方向溝44は、制御リング16の第2横方向スライドベアリング面38内に形成されている。横方向溝44は、制御リング16の軸方向の高さ全体に沿って実質的に直線状に延在している。
【0025】
頂部側溝46は、制御リング16の頂部側スライド面50内に形成されている。組み立てた(閉じた)ポンプにおいて、頂部側スライド面50は、図示しないポンプハウジングカバー本体と摩擦接触する。頂部側溝46は、その一端が横方向溝44に流体的に通じており、その反対側の端部が吸引開口部26の頂部側領域51に流体的に通じている。頂部側溝46によって、横方向溝44が吸引開口部26に直接的に流体接続されるため、結果として、横方向スライドベアリング間隙40は入口チャンバ22と流体的に接続される。
【0026】
底部側溝48は、制御リング16の底部側スライド面52内に形成されている。底部側スライド面52は、ポンプハウジング14と摩擦接触している。本願発明の本実施形態において、底部側溝48は、頂面側溝46と対称に成形されている。底部側溝48は、その一端が横方向溝44に流体的に通じており、その反対側の端部が吸引開口26の図示しない底部側領域に流体的に通じている。底部側溝48により、横方向溝44が吸引開口部26に直接的に流体接続されるため、結果として、横方向スライドベアリング間隙40は入口チャンバ22と流体的に接続される。
【符号の説明】
【0027】
10 可変容量型潤滑油ポンプ
12 内燃機関
14 ポンプハウジング
16 制御リング
18 ポンプロータ
20 ポンプチャンバ
22 入口チャンバ
24 潤滑油タンク
26 吸引開口部
28 出口チャンバ
30 吐出開口部
32 制御チャンバ
34 横方向スライドベアリング
36 第1横方向スライドベアリング面
38 第2横方向スライドベアリング面
40 横方向スライドベアリング間隙
42 排流路
44 横方向溝
46 頂部側溝
48 底部側溝
50 頂部側スライド面
51 吸引開口部の頂部側領域
52 底部側スライド面