(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】機械式コンピューティングシステム
(51)【国際特許分類】
G06F 8/20 20180101AFI20230602BHJP
G06F 9/448 20180101ALI20230602BHJP
G06C 15/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
G06F8/20
G06F9/448
G06C15/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022063063
(22)【出願日】2022-04-05
(62)【分割の表示】P 2018554310の分割
【原出願日】2015-12-31
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】519063358
【氏名又は名称】シービーエヌ ナノ テクノロジーズ インク.
【氏名又は名称原語表記】CBN NANO TECHNOLOGIES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】マークル, ラルフ シー.
(72)【発明者】
【氏名】フリータス, ロバート, エー. ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ライリー, ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】モーゼス, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ホッグ, タッド
【審査官】武田 広太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-087896(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0278365(US,A1)
【文献】SHARMA Abhishek,Mechanical Logic Devices and Circuits,14th National Conference on Machines and Mechanisms (NaCoMM-09),2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 8/20
G06F 9/448
G06C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーブロックと、少なくとも1つの論理メカニズムとを備えるコンピューティングメカニズムであって、
前記論理メカニズムは、
その離散位置が整数値を表す、1つ以上の可動な入力基本要素および1つ以上の可動な出力基本要素と、
内部接続基本要素であって、前記入力基本要素を前記出力基本要素に接続して前記入力基本要素の位置に基づき前記入力基本要素と前記出力基本要素との間で移動の伝達と移動の伝達のブロックとを選択的に行うように構成され、前記出力基本要素の少なくとも1つのサブセットの位置は前記入力基本要素の論理演算によって規定され、前記論理演算は組合せ論理演算、順序論理演算、又はそれらの組合せである、内部接続基本要素と、を有し、
前記入力基本要素、前記出力基本要素、および前記内部接続基本要素は、剛性リンク
および旋回ジョイント
からなる基本要素の群と、
剛性リンクおよびフレクシャジョイントからなる
基本要素の群
と、ケーブル、ノブ、およびプーリーからなる基本要素の群とのうちの少なくとも1つの群より選択される、
コンピューティングメカニズム。
【請求項2】
アンカーブロックと、少なくとも1つの論理メカニズムとを備えるコンピューティングメカニズムであって、
前記論理メカニズムは、
その離散位置が整数値を表す、1つ以上の可動な入力基本要素および1つ以上の可動な出力基本要素であって、前記コンピューティングメカニズムの前記入力基本要素及び前記出力基本要素は、旋回ジョイントおよびフレクシャジョイントからなる群より選択されたジョイントにより、互いに対して、且つ根底をなす構造に対して、可動に据え付けられている、入力基本要素および出力基本要素と、
内部接続基本要素であって、前記入力基本要素を前記出力基本要素に接続するように構成され、前記出力基本要素の少なくとも1つのサブセットの位置は前記入力基本要素の論理演算によって規定され、前記論理演算は組合せ論理演算、順序論理演算、又はそれらの組合せである、内部接続基本要素と、を有し、
前記入力基本要素、前記出力基本要素、および前記内部接続基本要素は、剛性リンク
および旋回ジョイント
からなる基本要素の群と、
剛性リンクおよびフレクシャジョイントからなる
基本要素の群
と、ケーブル、ノブ、およびプーリーからなる基本要素の群とのうちの少なくとも1つの群より選択される、
コンピューティングメカニズム。
【請求項3】
アンカーブロックと、少なくとも1つの論理メカニズムとを備えるコンピューティングメカニズムであって、
前記論理メカニズムは、
その離散位置が整数値を表す、1つ以上の可動な入力基本要素および1つ以上の可動な出力基本要素と、
内部接続基本要素であって、前記入力基本要素を前記出力基本要素に接続するように構成され、前記出力基本要素の少なくとも1つのサブセットの位置は前記入力基本要素の論理演算によって規定され、前記論理演算は組合せ論理演算、順序論理演算、又はそれらの組合せである、内部接続基本要素と、を有し、
前記入力基本要素、前記出力基本要素、および前記内部接続基本要素は、剛性リンク
および旋回ジョイント
からなる基本要素の群と、
剛性リンクおよびフレクシャジョイントからなる
基本要素の群
と、ケーブル、ノブ、およびプーリーからなる基本要素の群とのうちの少なくとも1つの群より選択され、
前記出力基本要素の位置を前記入力基本要素の位置に基づき規定するために、位置エネルギーの貯蔵および放出を必要としない、
コンピューティングメカニズム。
【請求項4】
アンカーブロックと、少なくとも1つの論理メカニズムとを備えるコンピューティングメカニズムであって、
前記論理メカニズムは、
その離散位置が整数値を表す、1つ以上の可動な入力基本要素および1つ以上の可動な出力基本要素と、
内部接続基本要素であって、前記入力基本要素を前記出力基本要素に接続するように構成され、前記出力基本要素の少なくとも1つのサブセットの位置は前記入力基本要素の論理演算によって規定され、前記論理演算は組合せ論理演算、順序論理演算、又はそれらの組合せである、内部接続基本要素と、を有し、
前記入力基本要素、前記出力基本要素、および前記内部接続基本要素は、剛性リンク
および旋回ジョイント
からなる基本要素の群と、
剛性リンクおよびフレクシャジョイントからなる
基本要素の群
とのうちの少なくとも1つの群より選択される、
コンピューティングメカニズム。
【請求項5】
アンカーブロックと、少なくとも1つの論理メカニズムとを備えるコンピューティングメカニズムであって、
前記論理メカニズムは、
その離散位置が整数値を表す、1つ以上の可動な入力基本要素および1つ以上の可動な出力基本要素と、
内部接続基本要素であって、前記入力基本要素を前記出力基本要素に接続するように構成され、前記出力基本要素の少なくとも1つのサブセットの位置は前記入力基本要素の論理演算によって規定され、前記論理演算は組合せ論理演算、順序論理演算、又はそれらの組合せである、内部接続基本要素と、を有し、
前記入力基本要素、前記出力基本要素、および前記内部接続基本要素は
、ケーブル、ノブ、およびプーリーからなる群より選択される、
コンピューティングメカニズム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4、または5のいずれか1つに記載のコンピューティングメカニズムであって、
前記コンピューティングメカニズムの基本要素は、ドライスイッチングを提供するために構成されている、
コンピューティングメカニズム。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5、または6のいずれか1つに記載のコンピューティングメカニズムであって、
前記入力基本要素および前記出力基本要素の少なくとも1つのサブセットに関して、前記離散位置の数は2つである、
コンピューティングメカニズム。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6、または7のいずれか1つに記載のコンピューティングメカニズムであって、可逆コンピューティングを提供するように構成される、
コンピューティングメカニズム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、算術演算または論理演算のセットを実行するようにプログラムされ得る汎用デバイスに関連するコンピュータ技術またはコンピュータシステムの分野に関する。より具体的には、本発明は機械式コンピューティングに向けられ、機械式コンピュータは、電子コンポーネントよりもむしろ機械コンポーネントから構築される。
【背景技術】
【0002】
機械式計算のための方法は、従来技術において周知である(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。しかしながら、チューリング完全な設計の最も古い例はおそらくバベッジの解析機関であり、それは(決して構築されることはなかったが)1837年に説明されていながらも、機械式コンピューティングのための以前の提案の大多数は、チューリング完全なシステムではない。むしろ、それらは汎用コンピューティングに対処するようにはまったく意図されていない専用デバイスであるか、または、それらはチューリング完全なシステムを提供することをそれらに可能にさせるであろう非常に重要な能力を欠いた部分的なシステムあるいはメカニズムであるか、のいずれかである。たとえば、部分的なシステムまたはメカニズムに関し、既知の例は、カスタムパーツ、キット、またはそれどころかLEGO(登録商標)のような玩具から構築された論理ゲートを含む。機械式論理ゲート単独では、万能論理ゲートでさえも、それら自身でチューリング完全なコンピューティングを可能にしない、ということに注意する。すなわち、何らかのメモリ手段もまた要求される。チューリング完全なコンピューティングは、組合せ論理のための手段だけでなく、順序論理のための手段をも要求する。
【0003】
非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9を含む、機械式コンピューティングの文献はまた、さまざまな計算コンポーネント(もう一度言うが、チューリング完全なシステムではないことが多い)の分子スケールの実現を含む。
【0004】
機械式コンピューティングのための以前の設計は大いに異なりながらも、チューリング完全なコンピューティングの能力がある以前の提案は(限定された目的のデバイスとは対照的に)、さまざまなタイプのギア、直動シャフトおよびベアリング、ばね(あるいは他のエネルギー貯蔵手段、たとえば、いくつかの設計は輪ゴムを使用する)、戻り止め、ラチェットおよび歯止め、またはエネルギー散逸となる潜在性を有するだけでなくデバイスの複雑さを増大しもする他のメカニズムを含む、実質的な数の基本パーツ(または「基本要素」)に依拠する傾向がある。そのような設計は、適切に機能するためにこれらのさまざまな基本要素を要求する、ということに注意する。すなわち、それらはオプションではない。
【0005】
機械システムにおける多くのタイプの基本パーツの使用が設計、製造、および組み立てを複雑化し得るだけでなく、潜在的に信頼性を減じ得ることは明らかである。メカニズムの複雑さを減じることは、共通の発明の目標である。
【0006】
機械式コンピューティングのための以前の提案において使用されるメカニズムの多くが実質的な摩擦を発生させることにもまた注意する。そのようなメカニズムを除去することは、減じられたエネルギー消費を含む、デバイスの複雑さを減じることを超えた恩恵を有するであろう。しかしながら、機械式コンピューティングシステムにおける摩擦発生メカニズムの普及によって判断されると、この問題を避けて設計することは困難である。
【0007】
おそらく、摩擦より明白でないのは、たとえば、熱を生み出すかまたは音響放射を発生させ得る、振動を含む、他のモードのエネルギー散逸である。たとえば、ラチェットおよび歯止め、戻り止め、またはメカニズムの1つの部品による別部品に対する相対的に制御されていない衝撃を伴う他のメカニズムは、エネルギーが散逸する振動につながり得るので、これらのタイプのメカニズムの除去もまた恩恵を有するだろう。
【0008】
廃熱は、理論的に要求されるよりもはるかに多くの、1ビット演算あたりのエネルギーを散逸させる、電子式または機械式の計算システムについての周知の問題である。理論的には、散逸させられるエネルギーは、非可逆的な1ビット演算あたりたったのln(2)kBTである、という計算が行われ得る。これは、ランダウアーの限界と呼ばれ(非特許文献10)、実験的に裏づけられてきている(非特許文献11)。
【0009】
ランダウアーの限界は非可逆的な演算にしか適用されないことに注意する。可逆演算は理論的にはゼロエネルギーを散逸させ得る。従来のコンピュータは一般的に、可逆ハードウェアを基に構築されない一方で、可逆コンピューティングは、何十年も研究されてきている(非特許文献10、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17)。ソフトウェアの観点からの可逆コンピューティングの一般的な概要については、非特許文献18を参照されたい。
【0010】
可逆的であるにせよ非可逆的であるにせよ、(関連づけられた設計、製造、および組み立てのコストとともに)デバイスの複雑さを減じ、既存の設計よりも1ビット演算あたりの少ないエネルギーを使用する潜在性を有する、機械式計算システムのための新規な設計は、非常に有用であろう。ランダウアーの限界を条件としないので、可逆的な設計は、最小限のエネルギーを最終的に使用する潜在性を有する。しかしながら、既存のコンピューティングシステムはランダウアーの限界をあまりにも大きく超えるエネルギーを使用するので、非可逆的な設計でさえも従来技術に大いに改良を加えることができるだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Svoboda, "Computing Mechanisms and Linkages," New York, Dove r Publications, 1965
【文献】Bradley, "Mechanical Computing in Microelectromechanical Sys tems (MEMS)," AIR FORCE INSTITUTE OF TECHNOLOGY, AFIT/GE/ENG/03-04, Ohio, 20 03
【文献】Sharma, Ram et al., "Mechanical Logic Devices and Circuits," 14th National Conference on Machines and Mechanisms (NaCoMM-09), 2009
【文献】Drexler, "Nanosystems: Molecular Machinery, Manufacturing, a nd Computation," New York, John Wiley & Sons, 1992
【文献】Hall, "Nanocomputers and Reversible Logic," Nanotechnology, 1994
【文献】Heinrich, Lutz et al., "Molecule Cascades," Science, 2002
【文献】Remon, Ferreira et al., "Reversible molecular logic: a photo physical example of a Feynman gate," Chemphyschem, 12, 2009
【文献】Orbach, Remacle et al., "Logic reversibility and thermodynam ic irreversibility demonstrated by DNAzyme-based Toffoli and Fredkin logic g ates," PNAS, 52, 2012
【文献】Roy, Sethi et al., "All-Optical Reversible Logic Gates with Optically Controlled Bacteriorhodopsin Protein-Coated Microresonators," Adva nces in Optical Technologies, 2012
【文献】Landauer, "Irreversibility and Heat Generation in the Comp uting Process," IBM Journal of Research and Development, 1961
【文献】Berut, Arakelyan et al., "Experimental verification of Lan dauer's principle linking information and thermodynamics," Nature, 7388, Nat ure Publishing Group, 2012
【文献】Bennett, "The Thermodynamics Of Computation," Internationa l Journal of Theoretical Physics, 12, 1973
【文献】"Logical reversibility of computation," IBM Journal of Res earch and Development, 6, 1973
【文献】Toffoli, "Technical Report MIT/LCS/TM-151 -Reversible Comp uting," Automata, Languages and Programming, Seventh Colloquium, Noordwijker hout, Netherlands, Springer Verlag, 1980
【文献】Toffoli and Fredkin, "Conservative Computing," Internation al Jounral of Theoretical Physics, 3/4, 1982
【文献】Bennett and Landauer, "The Fundamental Physical Limits of Computation," Scientific American, 1985
【文献】Feynman, "Quantum Mechanical Computers," Foundations of Ph ysics, 6, 1986
【文献】Perumalla, "Introduction to Reversible Computing," CRC Pre ss, 2014
【文献】Bray and Duke, "Conformational spread: the propagation of allosteric states in large multiprotein complexes," Annu Rev Biophys Biomol Struct, 2004
【文献】Han, Globus et al., "Molecular dynamics simulations of car bon nanotube-based gears," Nanotechnology, 1997
【文献】Kottas, Clarke et al., "Artificial Molecular Rotors," Chem . Rev., 2005
【文献】Khuong, Dang et al., "Rotational dynamics in a crystalline molecular gyroscope by variable-temperature 13C MR, 2H MR, X-ray diffractio n, and force field calculations," J Am Chem Soc, 4, 2007
【文献】Frantz, Baldridge et al., "Application of Structural Princ iples to the Design of Triptycene-Based Molecular Gears with Parallel Axes," CHFMIA International Journal for Chemistry, 4, 2009
【文献】Wang, Liu et al., "Molecular Rotors Observed by Scanning T unneling Microscopy," Three-Dimensional Nanoarchitectures, 2011
【文献】Isobe, Hitosugi et al., "Molecular bearings of finite carb on nanotubes and fullerenes in ensemble rolling motion," Chemical Science, 3 , 2013
【文献】Joachim and Rapenne, "Single Molecular Machines and Motors : Proceedings of the 1st International Symposium on Single Molecular Machine s and Motors," Springer, 2013
【文献】Credi, Silvi et al., "Molecular Machines and Motors," Topi cs in Current Chemistry, Springer, 2014
【文献】Reif, "Mechanical Computing: The Computational Complexity of Physical Devices," Encyclopedia of Complexity and System Science, Springe r-Verlag, 2009
【発明の概要】
【0013】
発明の実施形態は、より少ないエネルギー散逸、より少ない数の基本パーツ、および以前のシステムに優る他の利点を有する、機械式のコンピューティングメカニズムおよび計算システムを含む。他の実施形態に一般的な原理をどのように適用するかを教示する(機械的設計、原理と、システムをタイプ1から4にカテゴライズする新規な分類システムとの両方を含む)設計パラダイムとともに、機械式リンク論理、機械式フレクシャ論理、および機械式ケーブル論理を含む、複数の実施形態が開示される。
【0014】
本発明のより完全な理解のために、添付図面と併用される以下の説明がここで参照される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】分子のロータリージョイントの側面図である。
【
図3】NANDまたはANDゲートの基礎としての役割を果たし得るメカニズムの上面図 である。
【
図4】NOR、NAND、AND、またはORゲートの基礎としての役割を果たし得るメカニズ ムの上面図である。
【
図7】(0,0)状態における同一平面上のロックの上面図である。
【
図8】(1,0)状態における同一平面上のロックの上面図である。
【
図9】(0,0)状態における同一平面上のロックの代替の実施形態の上面図である 。
【
図10】(1,0)状態における同一平面上のロックの代替の実施形態の上面図であ る。
【
図11】(0,0)状態における非同一平面上のロックの斜視図である。
【
図12】(0,0)状態における非同一平面上のロックの上面図である。
【
図13】(1,0)状態における非同一平面上のロックの斜視図である。
【
図14】(1,0)状態における非同一平面上のロックの上面図である。
【
図15】(0,1)状態における非同一平面上のロックの斜視図である。
【
図16】(0,1)状態における非同一平面上のロックの上面図である。
【
図17】0の入力を有するバランスの上面図である。
【
図18】上部にアンカーを有する1の入力を有するバランスの上面図である。
【
図19】下部にアンカーを有する1の入力を有するバランスの上面図である。
【
図20】入力(1,0)を有するバイナリダブルバランスの上面図である。
【
図21】入力(1,1)を有するバイナリダブルバランスの上面図である。
【
図23】ロックおよびバランスに基づいたNANDゲートの上面図である。
【
図24】ロックおよびバランスに基づいたフレドキンゲートの上面図である。
【
図25】そのブランク状態におけるシフトレジスタセルの上面図である。
【
図26】入力が提供された後であるがクロック信号がハイに設定される前のシフト レジスタセルの上面図である。
【
図27】入力が提供され、クロック信号がハイに設定された後のシフトレジスタセ ルの上面図である。
【
図28A】2つのセルのシフトレジスタの左半分の上面図である。
【
図28B】2つのセルのシフトレジスタの右半分の上面図である。
【
図30】フレクシャに基づいたロックの上面図である。
【
図31】MCLプーリーおよび関連づけられたメカニズムの上面図である。
【
図32】MCLプーリーおよび関連づけられたメカニズムの側面図である。
【
図33A】MCLロックの一実施形態のさまざまな状態の上面図である。
【
図33B】MCLロックの一実施形態のさまざまな状態の上面図である。
【
図33C】MCLロックの一実施形態のさまざまな状態の上面図である。
【
図34】ロックを作成するために使用され得るノブの斜視図である。
【
図35】(0,0)状態におけるロックを形成する2つのノブの斜視図である。
【
図36】(0,1)状態におけるロックの斜視図である。
【
図37】(1,0)状態におけるロックの斜視図である。
【
図39】(0,0)状態におけるMCLバランスの上面図である。
【
図40】(0,1)状態におけるMCLバランスの上面図である。
【
図41】(1,0)状態におけるMCLバランスの上面図である。
【
図42】アクチュエーション後の(1,0)状態におけるMCLバランスの上面図である 。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
以下の定義がここで使用される。
「アンカーブロック」は、基本パーツまたはより高いレベルの組み立て品が取り付けられ得る1つ以上の剛性構造を意味し、それはまた、ヒートシンクとしての役割も果たし得る。たとえ単数形で書かれている場合であっても、設計のニーズが指示する場合、2つ以上のアンカーブロックが存在し得る、ということに注意する。アンカーブロックの形状は任意であることができる(「ブロック」は、構造が必然的に長方形であるかまたはいずれかの単純な形状であることを意味するものとみなされるべきではない)。アンカーブロックは、基本パーツが作られ得る本明細書において示唆される材料のいずれかを含むがそれらに限定されない、いずれかの適切な材料から作られ得る。アンカーブロックは、明示的に述べられていようとなかろうと、必要に応じて存在することが想定される。
【0017】
「アンカリングされる」は、アンカーブロックに取り付けられること、またはそうでなければ他の関連した基本パーツまたはメカニズムに対し不動にされることを意味する。アンカリングは、永続的であることも、(たとえば、データ入力またはクロック信号に依存して)条件付きであることもでき、条件付きでアンカリングされるパーツは、その関連した条件付きの状態によって呼ばれ得る(すなわち、パーツが所与の状況でアンカリングされていない場合、それは、アンカリングされていないと呼ばれることができ、その逆もまた同様である)。
【0018】
「原子レベルで精密である」は、構造における各々の原子の同一性および位置が設計によって指定されることを意味する。表面の凹凸、不純さ、穴、転位、または他の不完全さを有する、自然発生的なまたはバルク製造された結晶または準結晶のような構造は、原子的に精密ではない。原子的に精密であるとは、同位体組成の知識を含むこともできるが、含まなくてもよい。
【0019】
「バランス」は、メカニズムの一方の側またはルートによってもう一方の側またはルートに対し移動を伝達する構造である。バランスは、たとえば、計算を行い、データをルーティングするために、使用され得る。バランスは、任意の数の入力および出力を有することができ、アンカリングされるものも、(ロックに接続される場合のように)条件付きでアンカリングされるものもある。「バランス」という語およびその形態はまた、文脈が指示する場合、その従来の意味で使用されることもできる(たとえば、等しい質量または力が互いにバランスをとる)。
【0020】
「基本パーツ」は、メカニズムまたは計算システムの根本的な構築ブロックまたは基本要素である。たとえば、MLLの基本パーツは、リンクおよびロータリージョイントであり、MFLの基本パーツは、リンクおよびフレクシャであり、MCLの基本パーツは、ケーブル、プーリー、およびノブである。「基本パーツ」は「基本要素」と同義であり、基本パーツとメカニズムとの違いは、基本パーツが、少なくともそれらの最も単純な実現におけるものであること(たとえば、プーリーは、それがモノリシックであることができるので基本パーツであるが、プーリーのいくつかの実現は、別個のパーツとしてアクスルを要求し得る)、より小さいパーツに明らかに論理的に分割可能でないことにある。
【0021】
「ケーブル」は、たとえば、直接的にまたはプーリーを介して、引張力を伝達するために使用されるフレキシブルな構造である。
【0022】
「同軸」は、同一の回転軸を共有するロータリージョイントのことを言う。この用語はまた、共通の移動弧を共有する複数のジョイントを有する同一平面上のメカニズムにおける類似の概念にも適用され得る。
【0023】
「コンピューティングシステム」、および「計算システム」を含むその形態は、汎用計算を実行するためのシステムを意味する。そのようなシステムは、チューリング完全である。単一のまたは限定された種類の問題を解決する能力しかないデバイス、たとえば、プラニメータ、調和合成機または解析器、方程式求解機、関数発生器、および微分解析機は、汎用コンピューティングの能力がなく、したがって「コンピューティングシステム」ではない。動力源、モーター、クロック信号発生器、またはチューリング完全な計算手段を補助する他のコンポーネントは、コンピューティングシステムの一部ではない。異なるタイプの計算システムがインターフェースされ得る。たとえば、MLLシステムは、他の機械式または電子式コンピューティングコンポーネント、システム、センサ、またはデータソースから、その入力を受け取り、それらにその出力を提供し、またはそうでなければそれらとインタラクトし得るが、そのようなシステムは、MLLのコンポーネント自身がチューリング完全な計算手段を提供する場合、MLL計算システムを構成するのみであろう。
【0024】
「同一平面上の」は、1つ以上の平行平面において移動するメカニズムのことを言う。
この用語は、メカニズムの本質的に平らな(しかし潜在的には多層の)実現を、非平行平面における移動を利用するものと区別するために使用される。その区別は主として、本明細書で説明されるメカニズムが同一平面上または非同一平面上のいずれかの作法で組み付けられ得る場合の命名および視覚化の都合の1つである。
【0025】
「データリンク」は、1つの場所から別の場所へとデータを転送することを支援するリンクを意味する。データリンクは、文脈がその意味を明確にする場合、単純に「リンク」と呼ばれ得る。
【0026】
ここで説明される機械式計算コンポーネントに適用される「ドライスイッチング」は、何らかの手法で自由に移動することができないメカニズムに対し何の力も印加されないことを意味する。
【0027】
「フレクシャ」は、スライドすることまたは転回することよりもむしろ材料の曲げによって移動を可能にするベアリングのタイプである。
【0028】
「フォーク」は、1つのデータリンクが2つ以上の他のデータリンクに連結されることを可能にするラインにおける分岐を意味する。フォークは、たとえば、1つの入力/出力の複数のリンクまたはラインへのコピーを可能にすることができる。
【0029】
「入力」は、たとえば、メモリにデータを記憶する、データをどこかよそに伝達する、データに対し組合せ論理を行う、または(たとえば、クロック信号を介して)メカニズムをアクチュエートするといった目的のために、たとえば、物理位置によって符号化され、メカニズムに供給される、データを意味する。あるメカニズムへの入力は別のメカニズムからの出力であり得ること、いくつかのメカニズムが同一のデータを入力と出力の両方として使用すること(たとえば、循環シフトレジスタ、または帰還ループを有する他のメカニズム)を含む、さまざまな理由のために、およびいくつかの実施形態が可逆性を可能にするがゆえに、「入力」と「出力」との間にはほとんど区別が存在しないことができ、一方の用語またはもう一方の用語の使用は、より教説的な目的のためのものである。したがって、どちらの用語が使用されるかどうかにかかわらず、所与の文脈において適切である場合、両方とも該当することが想定される。
【0030】
「ライン」は、接続されたデータリンクのシーケンスを意味する。「データライン」とも呼ばれる。
【0031】
「リンク」は、1つ以上のロータリージョイントに接続された剛性構造または剛性体を意味する。
【0032】
「ロック」は、複数の入力を有する構造であり、何らかの予め定義された値の範囲に1つ以上の入力が設定され、その結果、他の入力がロックされる。たとえば、2入力ロックでは、入力の1つを非ゼロ値に設定すると、他方の入力は、非ゼロの入力がゼロに戻されるまでロックされる。2入力バイナリロックでは、設定されている非ゼロ値は典型的には1だろうが、ロックメカニズムは、入力が実際に1に到達する前に十分に係合し得る(たとえば、一方の入力での0.1の入力は、他方の入力をロックするのに十分であり得る)。
【0033】
「論理ゲート」は、AND、CNOT、NAND、NOT、OR、NOR、XNOR、XORといった従来からの非可逆ゲート、フレドキンおよびトフォリゲートといった可逆ゲート、または組合せ論理を提供する他のメカニズム(たとえば、従来からの非可逆ゲートの可逆的な実現、または専用論理ゲート)を含む。
【0034】
「MCL」は、機械式ケーブル論理、その計算システムおよびメカニズムをケーブル、ノブ、およびプーリーを使用して作成するためのパラダイムを表す。
【0035】
「メカニズム」は、基本パーツのそれと計算システムのそれとの間の複雑さのレベルの組み立て品を形成する基本パーツの組み合わせである。たとえば、MLLにおいて、ライン、ロック、バランス、論理ゲート、およびシフトレジスタは、2つ以上の基本パーツを含む任意の部分組み立て品がそうであるように、すべてコンポーネントである。基本パーツであるおかげで、リンクおよびロータリージョイント、または任意の他の基本パーツはメカニズムではない。
【0036】
「MFL」は、機械式フレクシャ論理、その計算システムおよびメカニズムをリンクおよびフレクシャを使用して作成するためのパラダイムを表す。
【0037】
「MLL」は、機械式リンク機構論理、その計算システムおよびメカニズムをリンクおよびロータリージョイントを使用して作成するためのパラダイムを表す。第1のおよび最も詳細にわたって説明される実施形態として、MFL、MCL、または他の実施形態のために必ずしも繰り返されるとは限らない詳細が、MLLのために提供される、ということに注意する。たとえば、クロッキングは、MLLの文脈では詳細にわたって説明されるが、他の実施形態のためには説明されない。提示されるさまざまな実施形態の類似の論理的および機械的性質ゆえに、本明細書における教示を考えると、一実施形態のために提示された情報を他の実施形態にどのように適用するかは明らかであろう。
【0038】
「非同軸」は、同一の回転軸を共有しない2つ以上のロータリージョイント、または同一平面上のメカニズムにおける類似の概念のことを言う。
【0039】
「出力」は、たとえば、物理位置によって符号化され、メカニズムによって提供される、データを意味する。2つの用語の互換性についての追加の詳細およびコメントについては「入力」を参照されたい。
【0040】
「プーリー」は、1つ以上のケーブルのルーティングおよび/または1つ以上のケーブルによる力の伝達を容易にするメカニズムである。従来から、プーリーはケーブルが移動すると回転するが、これは必要でなく、たとえば、ケーブルは、こうむるエネルギー散逸が適切に低かった場合、プーリーの表面にわたってスライドし得る。プーリーは、アンカリングされることもアンカリングされないこともできる。アンカリングされていないプーリーは、それらの取り付けられたケーブルによって指示されるように自由に移動することができ得るか、または、それらの移動を軌道、溝、または他の誘導手段によって制約され得る。
【0041】
「ロータリージョイント」は、軸の周りの回転運動を可能にする剛性体間の1つ以上の接続を意味する。ロータリージョイントは、アンカリングされることもアンカリングされないこともできる。
【0042】
「支持リンク」は、他のリンクのための物理的支持または運動学的抑制を提供するリンクを意味する。
【0043】
「チューリング完全」は、コンピュータサイエンスの分野において使用されるその標準的な意味を有する。ただし、現実世界のシステムは、拘束されたメモリ、時間、および他のパラメータを有するので、そのような実際的な制限が存在することが認められており、よって、「チューリング完全」という用語は、実際のシステムに適用される場合、そのような制限を含むものとみなされ得る(より精密には「線形拘束オートマトン」と呼ばれ得るものを結果として生じる)。
【0044】
序論
ここでは、機械式計算システムが、機械式リンク機構論理(「MLL」)と呼ばれる設計パラダイムを使用して、2つの基本パーツ、すなわち、リンクおよびロータリージョイント(プラスこれらの基本パーツが固着させられ得るアンカーブロック、これは後に、想定され、必ずしも毎回言及されるとは限らない)からのみ設計され得る、ということがまず示される。その後、MLLのパラダイムは、単純かつ効率的な機械式コンピューティングシステムが設計され得る他の手法、たとえば、機械式フレクシャ論理(「MFL」)および機械式ケーブル論理(「MCL」)(そのいずれかがまた、組み合わせで使用され得る)を示すために一般化される。この一般化の一部はまた、機械式コンピューティングシステムがエネルギーを散逸させ得る手法に基づいた、新規な分類システムの説明を含む。
【0045】
これらの新たなパラダイムは、有用な計算速度で依然として動作しながら、機械式コンピューティングメカニズムおよびシステムの設計および組み付けを単純化し、摩擦および振動といったエネルギー散逸の主要な原因を減じるかまたはなくすことができる。そのような計算システムはまた、可逆的に動作するようにも設計され得る。これらのおよび他のファクターは、以前に提案されたコンピューティングシステムに優るさまざまな恩恵を提供する。
【0046】
発明の実施形態は、チューリング完全な計算システムを作成するのに必要なすべてのメカニズムを提供する。たとえばMLLを使用すると、これは、各々がリンクおよびロータリージョイント以外の何の基本パーツも要求しない、ライン、論理ゲート、ロック、およびバランスと、シフトレジスタのようなより複雑なメカニズムとを含む。他の実施形態(たとえば、MFLおよびMCL)は、チューリング完全な計算システムの作成をまた可能にするために、類似の基本パーツおよびメカニズムを提供する。
【0047】
エネルギー効率のよい機械式コンピューティング
ここで論じられるように、機械式コンピューティングシステムは、その共振周波数(クロック速度を制御することによって回避され得る何らかのもの)を励起するに足るほど速く機械システムをランさせることによってだけでなくパーツ対パーツの衝撃またはエネルギーの相対的に制約されていない放出によって引き起こされ得る、(原子レベルでの熱的移動によって引き起こされる抗力を含む)摩擦、および振動を含む、いくつかの手法で、エネルギーを散逸させ得る。そのようなパーツ対パーツの衝撃およびエネルギーの相対的に制御されていない放出の例は、ラチェットと歯止めのメカニズムおよび戻り止めのパチンと嵌まる運動を含む。
【0048】
これらの問題を考えると、4つのカテゴリが機械式コンピューティングデバイスのために定義される。
【0049】
タイプ1:(たとえば、ばねに)位置エネルギーを貯蔵し、続いて、計算の自由度によって制約されない作法でこのエネルギーを放出するデバイス。ラチェットおよび歯止めまたは戻り止めを使用するデバイスは、ラチェットおよび歯止めまたは戻り止めによる貯蔵されたエネルギーの放出はおそらく計算の自由度に結び付けられないので、タイプ1のデバイスの例である。そのようなデバイスにおいて、たとえば、ラチェットおよび歯止めが存在した場合、歯止めのパチンと嵌まる運動はクロックシステムによって制御された周期性によって生じるかもしれない一方で、そのパチンと嵌まる運動のエネルギー放出は、クロック周波数に結び付けられないだろう。むしろエネルギー放出の速度は、システムの全体的な計算速度にかかわらず、たとえば、歯止めに印加される力と歯止めの質量との関数であろう。結果として生じるラチェットと歯止めの衝突は、エネルギーを浪費する振動を発生させ得る。
【0050】
タイプ2:位置エネルギーを貯蔵し、続いて、計算の自由度によって制御された作法でこのエネルギーを放出するデバイス。たとえば、ここで説明されるMLLシステムにおいて、ばねがラインにおけるリンク間に配置された場合、システムが行ったり来たりラインをドライブすると、ばねは圧縮および圧縮解除するであろう。この圧縮および圧縮解除は、システムクロックによって課された頻度で漸進的に行われるであろう。ばねは、システムクロックの観点から任意の速度で制約されていないパーツをしかるべき場所にパチンと嵌めることを可能にさせられないであろう。むしろ、ばねおよび取り付けられたパーツの移動は、計算の自由度によって支配される。上記シナリオにおいてまた、ばねは連続するリンク機構の一部であるので、ラチェットがその歯止めによって衝撃を受ける場合のようにはパーツの衝突は生じない、ということに注意する。これはまた、散逸させられるエネルギーを減じるのに役立ち得る。そして、たとえパーツの衝突が生じる場合であっても(たとえば、MCLシステムにおけるノブの説明を参照されたい)、そのような接触が生じる速度は計算の自由度に連結され得るので、許容できない量のエネルギーを散逸させない速度を選定することが可能である(そして実際には、好ましくは正弦波のような信号を使用するシステムクロックによってそのような衝撃をドライブすることにより、相対的に速いスイッチング速度でさえも、衝撃の瞬間の非常に低いパーツの速度という結果を生じ得る)。
【0051】
タイプ3:わずかな量より多くの位置エネルギーを貯蔵することはないが、わずかではない制約されていない自由度を有するパーツを有するデバイス。たとえば、実現に依存して、システムは、1つ以上のロックがブランクの(0,0)位置にあるがゆえに、接続されたリンクが、熱雑音、システムの振動、または他の要因により本質的にランダムな作法で自由に移動することができる、MLLを使用して作成され得る。他の問題の中で、そのような制約されていない移動は、信頼性の高い動作を保証するためにメカニズムを既知の状態に周期的に設定するためにエネルギーを消費しなくてはならない、という結果を生じ得る。
(そのような状況は、適切に設計されたシステムによって回避されることができ、これは例示として提示されているにすぎない、ということに注意する。)
タイプ4:わずかな量より多くの位置エネルギーを貯蔵することはないが、ほんのわずかな制約されていない自由度を有する、デバイス。たとえば、すべての移動が直接的にまたは間接的にデータ入力および/またはシステムクロックに連結される、適切に設計されたMLLシステム。リンクがブランク状態におけるロックにのみ接続され得るので、どのコンポーネントも自由に「浮動」することを可能にさせられない。「わずかな」制約されていない自由度を定義することに関し、これは、全体的なシステムのうちの十分に小さい部分において生じるもの(たとえば、1つの特定のタイプのメカニズムがこの問題を有するが、このメカニズムは全体的なシステムにおいて希少である)、または、十分まれに生じ、それらが全体的なエネルギー散逸に大きく影響を及ぼさないものを意味する。まれに生じる制約されていない自由度の例は、いくつかのシステムメカニズムが初期化またはリセットプロセス中に一時的に制約されていない自由度を有する場合であろう。そのようなプロセスは、標準的な計算動作と比較して非常にまれに必要とされるのみであり得るので、システムのエネルギー散逸にほとんど寄与しないであろう。位置エネルギーへの言及において使用される場合の「わずかな」を定義することに関し、すべての機械システムはいくらかの位置エネルギーを貯蔵するであろう、ということに注意する。たとえば理論的には、非常に剛性のあるリンクでさえも、力がそれらに印加される場合、わずかに変形する。
永続的な変形がないことを想定すると、それらはかくして、位置エネルギーを技術的に貯蔵する。そのような不可避の位置エネルギーの貯蔵は、わずかであるとみなされる。タイプ3およびタイプ4のシステムのポイントは、たとえば、ばねを有するシステムであって、システムが適切に機能するためにそれらのばねおよびそれらの位置エネルギーが要求されるシステムにおけるような、後の放出のために位置エネルギーを意図的に貯蔵するシステムの回避である。
【0052】
実質的な変形の欠如は、タイプ3またはタイプ4のシステムを達成するための唯一の手法ではない、ということに注意する。フレクシャは、実質的な変形を有し得るが、ここで説明されるように、わずかな量のトータルまたはネットのいずれかの位置エネルギーを貯蔵するように設計され得る。これらのカテゴリは一般的に、エネルギー効率のためのそれらの潜在性によって順序づけられ、タイプ1のデバイスは最も効率的でなく、タイプ4のデバイスは最も効率的である。そうは言っても、特定のシステムのエネルギー効率は実現の詳細に依存する。タイプ2のシステムは、タイプ3のシステムより効率的でないだろう。良好でない実現は、任意のシステムをエネルギー非効率にし得る。ラチェットおよび歯止め、戻り止め、ばね、または位置エネルギーを貯蔵し、続いて計算の自由度に結び付けられない作法で放出する、他のメカニズムの使用ゆえに、機械式コンピューティングのためのすべての既存のチューリング完全なシステムは、タイプ1にカテゴライズされ得る。
【0053】
機械式リンク機構論理
MLLシステムは、さまざまな基本パーツまたは基本要素から構築される。説明される実施形態において、これらはロータリージョイントおよびリンクであり、それらは機械式リンク機構を共に形成する。アンカーブロック上に据え付けられ、ロータリージョイントおよびリンクは、データ伝達ライン、ロック、およびバランスといったより上位のメカニズムを作成するために使用され得る。論理ゲート(可逆と非可逆の両方)およびシフトレジスタを含むさらにより上位のメカニズムは、ロックおよびバランスを組み合わせることによって作成され得るか、または、リンクおよびロータリージョイントを使用してより直接的に実現され得る。これは、完全な計算システムを構築するのに十分である。
【0054】
これを論証するために、リンクおよびロータリージョイントのみを使用して、データライン、論理ゲート、ロック、およびバランスの設計が説明される。その後、これらのメカニズムのいくつかを使用して、シフトレジスタの構築が説明される。万能な組合せ論理を提供し、計算のために要求されるすべての基礎的な要素を含む、1つ以上の論理ゲートと組み合わせられる場合にもかかわらず、シフトレジスタは単純である。基本パーツがシフトレジスタおよび適切な論理ゲートを構築し得る場合、計算システム全体が構築され得るということになる。
【0055】
説明されるメカニズムのほとんどがバイナリ計算システムに合わせて作られるということに注意する。結果として、ほとんどのリンクは、2つの許可された位置の間を移動するであろう。しかしながら、たとえば、1つの入力が1である場合にメカニズムが1つ以上の他の入力を「後方に」ドライブする設計のようないくつかの例外が存在する(「前方」、「後方」、および他の方向といった語の使用は、単なる教説的な決まりにすぎない。というのも、特定の方向が実際のメカニズムにおいて使用される必要も、そのような方向が1つのメカニズムと次のメカニズムとで一貫している必要もないからである)。すなわち、(0,0)で開始する2ビット入力を考えると、1の入力は、メカニズムが最後には(1,0)よりもむしろ(1,-1)または(1,-0.5)といった状態になるようにし得る。システムがそのような運動学を正しく扱うように設計される限り、これは問題である必要はない。また、さまざまなメカニズムの実現の内部のリンクは、たとえ入力および出力が依然としてバイナリである場合であっても、3つ以上の許可された位置の間を移動し得る。バイナリは、例示的な目的のために使用される。というのもそれは、従来のコンピュータにおいて使用される最も一般的なタイプの計算システムであるからである。3値、4値、または他の非バイナリ計算システムがここでの教示を使用して明らかに構築され得る。
【0056】
本明細書におけるメカニズムは、Linkage v3(www.linkagesimulator.comから無料)、Autodesk Inventor 2015/2016、または分子モデルのためにHyperChem、GROMACS、あるいはGaussianによって頻繁にシミュレートまたは図表化された。本明細書における図面の多くは、完全な計算システムの文脈から取り出された部分組み立て品を表現する。結果としてそれらは、示されるように必ずしも機能的であるとは限らない。たとえば、所与のメカニズムは、描かれているように十分に制約されていないかもしれない。というのも、完全なシステムにおいてメカニズムは、欠けている制約を満たすために他のコンポーネントに取り付けられるか、またはアクチュエーションの何らかの作法(たとえば、クロック信号)に取り付けられるからである。現実的なデータのルーティングは時として、明確さのために、たとえば一直線のラインのほうを選んで、省略されている。アンカーブロックまたは剛性を提供する役割のみを果たすリンク(「支持リンク」)といった補助的な支持構造は、一般的に省略される。
【0057】
いくつかの図表は、MLLの基本パーツではないメカニズム内のパーツを描く。これの最もよくある例は、リンク機構モデルにおける線形スライドの使用である。これは、入力をドライブする何らかの方法が、リンク機構においてシミュレーションをランするために要求されるがゆえの、プログラムの都合である。実際のシステムにおいて、線形スライドは、たとえば、データラインまたはクロック信号といった適切な入力/出力への接続と置き換えられるだろう。Linkage v3によって使用される運動学的求解機はクロックサイクルの概念を有しないので、それはさまざまな入力を順次にドライブすることはできない、ということに注意する。そして、リンク機構および他のプログラムは、単に求解機が運動学を正しく計算できないがゆえに、妥当なメカニズム上で故障し得る。これらのおよび他の注意により、本明細書における図面は、完全な実践的なメカニズムとみなされるのではなく、むしろ、本明細書における教示を考えると、実践的なメカニズムを作成するように容易に適合させられ、完全な計算システムを作成するように組み合わせられ得る、教説的な例とみなされるべきである。
【0058】
ロータリージョイント
ロータリージョイントにおける摩擦は、ロータリージョイントのサイズがますます小さくなるにつれて、ますます小さくされることができる。分子スケールでは、単結合の周りを回転する2つの原子を備えるロータリージョイントは、まず間違いなくゼロ接触面積を有し、単化学結合の軸の周りを回転するさまざまなロータリージョイントが解析されてきており、ほとんど摩擦を有しないことが見出されてきている。たとえば、ダイヤモンドの支持体上に据え付けられた炭素原子を使用する、炭素-炭素単結合は、ほとんどエネルギー散逸のない回転を提供するロータリージョイントを作成するための1つの手法である。
【0059】
図1は、ロータリージョイントの1つの可能な実現の分子モデルが回転部材を把持するために使用されているところを描いている。上方支持構造101および下方支持構造102は、完全なデバイスにおいて、たとえば、アンカーブロックに接続されるであろうが、回転部材103に同一の回転軸に沿って上方および下方結合のセットを接続するために使用される。
上方結合は、上方炭素-炭素単結合104、上方炭素-炭素単結合105、および上方炭素-炭素三重結合106を含む。下方結合は、下方上部炭素-炭素単結合107、下方下部炭素-炭素単結合108、および下方炭素-炭素三重結合109を含む。
【0060】
ロータリージョイントは、上方酸素原子110および下方酸素原子111を含むいくつかの酸素原子によって支持構造に結合される。描かれている回転部材103は、ダイヤモンドのおおよそ円形のスラブであるが、他の構造がそうであるように、これは単なる表現にすぎない。回転部材は、リンク、(たとえば、クロック信号を発生させるための)フライホイール、または任意の形状の、回転する必要がある何か他のものであり得る。
【0061】
分子動力学シミュレーションは、上方炭素原子と三重結合106および下方炭素原子と三重結合109によって例示されたアセチレンユニットありでまたはなしで、この構造が著しく少ない抗力を有する回転を可能にすることを示す。しかしながら、周囲の単結合間にアセチレンユニットを介在させることは、そのようなロータリージョイントのエネルギー散逸をさらに減じる。
【0062】
この例を考えると、他の分子構造を含むさまざまな実現が同一のタイプのメカニズムを提供し得ることは明らかだろう。たとえば、
図1に描かれているモデルへの小さな変更により、酸素原子110および酸素原子111によって例示されている酸素原子は、窒素と、または適切な原子価、結合強度、および原子の立体的配置に関する特性を有する別の要素と置き換えられ得る。同様に、炭素は、ケイ素または他の適切な要素と置き換えられ得る。または、カーボンナノチューブあるいは他の構造、好ましくは分子スケールのロータリージョイントを剛直に把持できるものを含む、まったく異なる構造が使用され得る。
【0063】
加えて、そのようなロータリージョイントは、単結合のみまたは結合のペア(たとえば、上方および下方)からなる必要はない。たとえば、より大きな実現において、ロータリージョイントは、V型ジュエルベアリング、ローリング要素ベアリング、入れ子になったフラーレン(たとえば、カーボンナノチューブ)、または、好ましくは少ない摩擦を有する、回転を可能にすることが知られている多くの手法のいずれか1つと置き換えられ得る。また、複数の同軸ロータリージョイントが、(たとえば、ドアヒンジの交互に嵌合させられた設計と同様の構造を使用して)より強力なジョイントを作成するために使用され得る。そして、分子スケールで、同一の回転軸上に追加のロータリージョイントを追加することは、対称性に対し適切な注意が払われるのであれば、回転障壁をさらに減じ得る。ロータリージョイントは1つの結合を使用して形成できる一方で、デバイスの強度および剛直さは、
図1に描かれているように両側で把持されている回転パーツおよび/または「ドアヒンジ」の例におけるように複数の結合を使用することから恩恵を得ることができる、ということに注意する。分子スケールの実施形態に関し、説明の容易さのために、ロータリージョイントは単結合の周りを回転するものとして言及され得るが、いくつかのケースでは、複数の結合が全体的なロータリージョイントのための単一の回転軸を形成するために使用され得る、と言うことはより精密であろう。
【0064】
回転障壁の大きさ、それらを克服するために要求されるトルク、レバーアーム(たとえば、リンク)の長さ、およびロータリージョイントの必要な範囲によってリンクを回転させるための時間(およびその範囲がどれほど遠いか)はすべて、特定のシステムの設計に依存する。例として、分子動力学シミュレーションは、毎秒1×10E9ラジアンの速度および180Kの温度で1ラジアンによって分子ロータリージョイントに接続されたリンクを回転させるために要求されるエネルギーは、1×10E-25Jを下回り得る、ということを示す。
ランダウアーの限界は、180Kで1.72×10E-21Jである。この数は、ロータリージョイントの周りのリンクの1ラジアンの回転のための1×10E-25Jの数字をはるかに上回るので、単一ビット演算を行うために多くのロータリージョイントを使用するメカニズムでさえもランダウアーの限界下でそうすることができるだろう。さらに、フォノンが凍結させられるようになるがゆえに、動作温度が減少するにつれて、ロータリージョイントからの粘性抗力、および他の振動モードからのエネルギー損失は急速に減少するであろう、ということが期待される。
【0065】
リンク
それらの最も基本において、リンクは剛直なロッドのような構造であるが、いくつかの実現は、異なる形状または実質的により複雑な形状を有し得る。リンクの質量、共振周波数、および熱伝導といった値の推定を要求する本明細書における解析のほとんどは、リンクがおよそ長さ20nmおよび直径0.5~0.7nmのダイヤモンドロッドで構成されることを想定する。しかしながらリンクは、より大きい、またはより小さい、または完全に異なる形状であることができる(非同一平面上のロックの例において見られるように)。
【0066】
リンクを実現するための最も小さな手法の1つは、リンクとして単共有結合を使用することだろう。たとえば、2つ以上の可能な立体配置を有する多くの分子が存在し、立体配置間の遷移(「立体配座異性体」)は、リンクの移動を構成し得るだろう。1つの特定の例は、シクロヘキサンであり、それは、2つのいす形立体配座、基本の舟形立体配座、およびねじれ舟形立体配座を含むいくつかの可能な立体配座を有する。異なる立体配座間のスイッチングは、先に説明されたロータリージョイントにおけるものと同様の結合回転によって生じることができ(結合の角度またはねじりの変化といった他の変化もまた存在し、使用され得るが)、構造における原子の1つ以上の移動という結果を生じる。
【0067】
そのような分子のコンフォメーション変化が相対的に長い距離にわたっておよび複雑なネットワークを通って伝搬する能力が、生物学において存在することが知られており、それは「コンフォメーション拡散」と呼ばれる(非特許文献19)。より大きなリンク機構と同一の原理で働くが単結合のみをリンクとして使用する合成システムが設計され得ることは明らかであろう。そのような設計は、オングストロームレンジにおけるリンク長を可能にし得るであろう。
【0068】
リンクおよびロータリージョイントの正確な実現にかかわらず、計算システムにおける基本タスクの1つは、データを場所から場所へ移動させることである。説明される例示的なシステムは、データを移動させためにロータリージョイントによって接続されたリンクを使用する。真の直線移動を提供するリンク機構を含む多くのタイプのリンク機構が働くだろうが、4節リンク機構が、リンクの移動を精密に制約する例示的な作法として頻繁に使用される。
図2は、アンカーブロック205、左支持リンク202、右支持リンク207、およびデータリンク204を備える、そのような4節リンク機構の側面図を描いており(支持構造が追加の節とみなされる場合もみなされない場合もあるので、これらは時として3節リンク機構と呼ばれる、ということに注意する)、ここで、左支持リンク202の下方端は、左のアンカリングされたロータリージョイント203によってアンカーブロック205の左側に接続され、右支持リンク207の下方端は、右のアンカリングされたロータリージョイント206によってアンカーブロック205の右側に接続され、左支持リンク202の上方端は、上方左ロータリージョイント201によってデータリンク204の左側に接続され、右支持リンク207の上方端は、上方右ロータリージョイント208によってデータリンク204の右側に接続される。
左のアンカリングされたロータリージョイント203および右のアンカリングされたロータリージョイント206は、アンカーブロック205によって互いに対し移動することを防止される。データリンク204は、1つの支持リンクの移動を別の支持リンクに伝達する。左支持リンク202および右支持リンク207が左にシフトさせられているところが示されている。左に傾いている支持リンクは、データリンク204を左のアンカリングされたロータリージョイント203および右のアンカリングされたロータリージョイント206の左の位置に置く。任意にこの左位置は「0」または「ロー」と呼ばれ得る一方で、左支持リンク202および右支持リンク207が右に傾いているのであれば、その位置は「1」または「ハイ」と呼ばれ得るであろう。これは、データの記憶および転送のバイナリシステムのための基礎を提供する。
【0069】
たとえアンカリングされたロータリージョイントの記号が欠如していても、左のアンカリングされたロータリージョイント203および右のアンカリングされたロータリージョイント206は、アンカーブロック205上で終結するので、それらがアンカリングされたロータリージョイントであることは明らかであろう。後続の図面において、アンカーブロックは明示的に示されない場合がある。むしろ図表の決まりがしばしば採用され、固定されていないロータリージョイントは、複数のリンク(それらは一般的に、直線または節として表現されるが、いくつかはより複雑な形状を有し得る)の交差部で円として描かれる一方で、固定されたまたはアンカリングされたロータリージョイントは、その基部に短い斜線を有する円および三角形として描かれる。他の図面では、一般的に複雑さを減じるために、これらの決まりのいくつかは変えられるかまたはなくなる場合がある。図面の説明および文脈が、そのような図表がどのように解釈されるべきかを明確にするであろう。
【0070】
すでに説明されているように、情報は、単一のデータリンクの長さに沿って伝達され得る。しかしながら、データのより複雑な伝達およびルーティングが有用であり得る。1つのデータリンクは、データの伝達を続行するために任意の数の他のデータリンクに接続され得る。データ伝達は、追加の支持リンクにわたって直線で続行し得るか(有効に単により長いデータリンクである一方で、剛直さを増大させるために追加の支持リンクを含むことが有用であり得る)、または、所望されるどのような角度でもどのような平面においてもロータリージョイントのところで方向を変えることができる。そして、1つのリンクは、順次にだけでなく、フォーキング構造によっても、複数の場所における使用のためにデータを有効にコピーしながら、複数の他のリンクに接続することができる。これは、データをルーティングするのに著しいフレキシビリティを提供する。
【0071】
データ伝達は、両方向で行われ得る。第1のデータリンクの移動は、第2のデータリンクを移動させ、第2のデータリンクの移動は、第1のデータリンクを移動させる。この手段により、チェーンにおけるあらゆるデータリンクはそれの隣接するものと結び付けられる。
チェーンにおけるすべてのデータリンクは、ある著しい長さのものであり得るが、共通の移動、チェーンの全長に沿って単一の二進値を共有するために使用され得る特性を共有するように作られ得る。接続されたリンクのセットは、ラインと呼ばれる。
【0072】
スケール
MLLは、所望される事実上任意のサイズの基本パーツを使用して実現され得るであろう。たとえば、巨視的スケールでは、たとえば、ロータリージョイントのためのV型ジュエルベアリングまたはローリング要素ベアリング、およびリンクのための従来の梁またはロッドとともに、従来の機械加工または3Dプリンティングが使用され得るであろう。より小さなスケールでは、たとえば、3Dプリンティング、リソグラフィに基づいた技法、またはNEMS/MEMSデバイスが製造され得る他の周知の手法のいずれかが、ナノメートルからミクロンのレンジにおけるメカニズムによってデバイスを作成するために使用され得るであろう。さらにより小さなスケールでは、MLLメカニズムは分子スケールであることができるだろう。より小さなパーツによって与えられる傾向があるより高い動作周波数および減じられたエネルギー散逸ゆえに、MLLシステムは好ましくは、(パフォーマンス要求および予算といったファクターを考慮する一方で)可能な最小スケールで実現されるであろう。
この理由のために、ここでの教示のほとんどはスケールに依存しない一方で、エネルギー散逸の推定は、例示的な分子スケールの実施形態にフォーカスする。
【0073】
分子ベアリング、ギア、およびローターは、理論的にも実験的にも研究されてきており、代表的な文献は、非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24、非特許文献25、特許文献1を含む。
【0074】
分子モーターは、MLLシステムをドライブするために必ずしも要求されるわけではないが、今や本および会議全体がこのトピックに捧げられるので、十分身近なものになっている(非特許文献26、非特許文献27)。
【0075】
加えて、さまざまな形態の(一般的にはチューリング完全ではない)分子スケールコンピューティングがすでに存在する(非特許文献6、非特許文献28、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。
【0076】
文献中に存在する他の技法に加えて、分子スケールのMLLメカニズムおよび計算システムは、たとえば、メカノ合成を使用する分子製造、または原子間力顕微鏡タイプの機器を使用する適切に機能させられた分子の組み立て品を使用して、作成され得るであろう。従来の化学または自己集合(DNAオリガミタイプの技法を含む)もまた、分子スケールのMLLメカニズムを製造するための可能なルートであり得る。提示された実施形態のために要求される非常に限られた数の基本パーツ(たとえば、MLLにおけるリンクおよびロータリージョイント)を考えると、必要な基本パーツおよびメカニズムの合成および組み立ては、従来の電子式コンピュータを製造する複雑さよりも、または機械式コンピューティングのための以前の提案を実現することよりも、多くの点で単純である。
【0077】
エネルギー散逸
注意されるように、MLLシステム全体は、リンクおよびロータリージョイントのみによって組み付けられ得る。特に分子スケールでは、良好に設計されたロータリージョイントの周りの回転からのエネルギー損失はほとんど存在しないので、エネルギーをほとんど散逸させない完全な計算システムが設計されることができる。追加のMLL設計パラダイム(たとえば、音響放射を減じるまたは防止するためにトルクと質量のバランスをとること)もまたここで論じられ、これらは、エネルギー散逸をより一層減じるのに役立ち得る。計算システムの物理設計を超えて、動作条件もまたエネルギー散逸に影響を及ぼし得る。たとえば、MLLシステムが真空中で動作させられる場合、リンクの加速および減速は滑らかに行われ、印加される力は十分に小さいので、基本パーツの変形はごくわずかなエネルギー散逸に寄与し、エネルギー散逸はさらに減じられることができる。
【0078】
MLLメカニズムの設計およびクロッキングシステムとのそれらのインタラクションもまた、エネルギー散逸に影響を及ぼし得る。たとえば、MLLシステムは、適切にクロック位相を使用することにより、自由に移動することができないメカニズムに力が印加されないように、設計され得る(たとえば、そのようなシステムは、ロックされたメカニズムをまずアンロックせず、それを移動させようとしない)。これは「ドライスイッチング」のMLLバージョンであり、用語は普通、リレーの分野において、変化している状態の場合にスイッチがそれらにわたって電圧を有しないことを示すために使用されるが、ここではMLLの文脈において使用されるであろう。完全な計算システムがリンクおよびロータリージョイントのみによって設計され得ることは、MLLの主要な新規な発見である一方で、MLLシステムは、追加のコンポーネントを組み込むことも、追加のコンポーネントとインターフェースすることもできる、ということに注意する。たとえば、カムおよびカムフォロアがどのように、クロック信号を発生させるための1つの手法であるかが、ここで説明される。
しかしながら、たとえカムおよびカムフォロアが最小のエネルギー散逸を有するように(ここで説明されるように)設計され得るとしても、そのようなメカニズムは、MLLに対し補助的であり、実際にMLLの一部であるわけではない。モーターまたはMLLシステムの移動に動力供給する他の手法は、MLLシステムに連結され得る機能の別の例であるが、MLLの一部とはみなされず、たとえば、MLLと電子システムまたはMLLではない機械システムとをブリッジする、たとえば、入力/出力インターフェースについても、同じことが言えるだろう。
【0079】
いずれの機械システムも、内部機械共振を励起するに足るほど速くランさせられる場合、実質的なエネルギーを散逸させ得る。動力の散逸を可能な限り低く保つために、適切な設計は、低周波振動モードがクロックに連結されるのを回避し得、残りの振動モードは、それらを励起させることを回避するに足るほど遅い動作速度、ならびにそれらの励起を最小化するクロッキング波形を選ぶことによって、計算および回避されることができる。分子スケールの機械システムにおいて、そのような共振周波数は、ギガヘルツレンジにおけるものであり得、したがって、それらがスイッチング速度に課す限界は、それに対応して高いものであり得る。
【0080】
MLLシステムのスイッチング速度は、ちょうど電子コンピュータにおけるように、クロック信号を生成する1つ以上のクロックによって決定されるであろう。クロック信号の周波数スペクトルが、それが取り付けられるメカニズムの共振周波数以上のそのエネルギーの成分を有する場合には、クロックエネルギーのより多くの部分は、必要であるよりも散逸させられ得るであろう。
【0081】
MLLシステムにおいて、クロック信号の変化は、より高い周波数成分を発生させないように好ましくは漸進的である。たとえば、0と1との間の正弦波のような遷移に固有の漸進的な変化(潜在的には、異なるクロック位相間でのメカニズムの不完全な同期を可能にするために、遷移間の0および1でフラットなエリアを有する)は、たとえば矩形波が使用された場合よりも、パーツが均一に加速および減速するので、システムメカニズムに必要以上に多くの負担をかけることを回避することをクロック信号に可能にさせる。
【0082】
クロック信号を発生させる多くの手法が存在する。漸進的に変化するクロック信号を発生させる1つの手法は、その回転運動が線形または準線形運動へと変換されるスピンする質量を使用することである。これは概念的にフライホイールおよびクランクと同等であり、そのようなデバイスは、リンクおよびロータリージョイントのみによって作られることができる。MLLシステムのいくつかの実施形態は、ここで説明された、ばねおよび質量系、またはカムおよびカムフォロアといった、クロック信号を発生させる他の方法に連結し得る。
【0083】
応力により誘発される熱的非平衡、および音響放射を含む、エネルギー散逸のいくつかの可能な原因が解析された。これらは、少なくとも解析された例示的なシステム(たとえば、分子スケールの、ダイヤモンドに基づいたシステム)については、動作周波数における主たる制限ファクターではなかった。機械的共振および慣性が、これらのシステムのためのスイッチング速度への主たる制限である。
【0084】
熱的平衡化は、解析された例示的なシステムのための制限ファクターでないことがわかっている一方で、いくつかの状況ではそれはそうであり得、エネルギー散逸を最小化しようとする際の1つの目的は、メカニズムを等温で動作させることであり得るだろう。この理由のために、短い熱的平衡化時間が所望され得る。これを達成するために、システムの基本パーツは、好ましくは1つ以上の蓄熱器に良好に連結される。たとえば、リンクは一般的に、アンカーブロックに結合されたロータリージョイント、または他のリンクに結合するロータリージョイントであって、他のリンクが今度はアンカーブロックに結合されるロータリージョイントに結合される。正確な経路長は実現に基づいて異なり得る一方で、これは、任意のリンクから蓄熱器としての役割を果たし得るアンカーブロックまでの経路を短く保つ傾向がある。
【0085】
ダイヤモンドが他の理由の中でもその高い剛直さ(約1000Gpaのヤング率)ゆえに例示的なアンカーブロック材料として使用されること(および基本パーツのためにも使用され得ること)に注意する。ダイヤモンドはまた、良好な熱伝導を有し、それは、天然ダイヤモンドにおいて2000W/mKを超え得、欠陥のない、同位体的に精製されたダイヤモンドではより高い(他の材料にも当てはまる原則)。多くの他の材料がアンカーブロックと基本パーツの両方のために使用され得るであろうが、共振振動の周波数を上げることを含むさまざまな理由のために、高い剛直さが好まれるであろうし、速い熱的平衡化が所望される場合、良好な熱伝導が好まれるであろう。他の例示的な材料は、カルビン(32,100GPaのヤング率)、さまざまなフラーレン(たとえば、カーボンナノチューブは、1000GPaを超えるヤング率、3180~3500W/mKまたはそれより高い熱伝導性を有し得る)、炭化ケイ素(450GPaのヤング率)、およびケイ素(130~185GPaのヤング率、148W/mKの熱伝導性)を含む。これらの値は近似であり、一般的には300K(室温)で測定された値を表現するということに注意する。値は、材料の原子構造、純度、同位体組成、サイズおよび形状、および温度に依存して実質的に異なり得る。たとえば、ケイ素の熱伝導性は300Kで148W/mKである一方で、それは20K近辺の温度では3000W/mKを超過し得る。
【0086】
さらに、MLLシステムが1つのタイプの材料のみで構成される必要はないことに注意する。さまざまな材料は各々、剛直さ、熱伝導性、および熱膨張といったバルク特性だけでないものを含む、異なる是非を有するが、分子スケールでは、(たとえば、他の関心事の中でもそれらが他の基本パーツと適切に噛み合うように)さまざまな基本パーツの正確なサイズおよびそれらの原子間間隔がそうであり得るように、個々の結合の強度が重要になり得る。これを考えると、MLLシステムは、さまざまな異なる材料を使用し得る。
【0087】
約20nmの長さのダイヤモンドリンクを使用する1つの例示的な分子スケールの実施形態の推定される熱的平衡化時間は、~0.54psである。これを考えると、熱的非平衡は本質的には0であるがゆえに、熱的平衡化の数ナノ秒でさえもエネルギーを散逸させる。したがって、熱的平衡化時間は、そのような実施形態のためのスイッチング時間における制限ファクターではない。
【0088】
理論的には、可逆演算は、0エネルギーによって実行され得る一方で、非可逆演算は、ハードウェアの効率にかかわらず、消去される1ビットあたり熱のln(2)kBTの散逸(室温では~3×10-21J)という結果を生じる(ランダウアーの限界)。従来の(非可逆)コンピュータ上でランするプログラムのエネルギー散逸を減じるために、ハードウェアの論理要素が、計算プロセス中により少ないエネルギーを散逸させるように再設計され得るだろう。これは、エネルギー効率における著しい改善という結果を生じ得るだろう。というのも、従来のコンピュータは、消去される1ビットあたりln(2)kBTよりはるかに多く散逸させるからである。事実、ビットをまったく消去しない命令を実行する場合でさえも、従来のコンピュータは、1演算あたりln(2)kBTよりはるかに多く散逸させる。結果として、可逆性に何らの注意も払うことなく従来のコンピュータのエネルギー散逸を減じることが可能である。
【0089】
しかしながら、コンピュータのエネルギー効率がランダウアーの限界が重要になるポイントまで改善される場合、可逆性が重要になる。というのも、それは計算がランダウアーの限界下で実行されることを可能にするからである。結果的に、MLLメカニズムは、可逆性を可能にするように設計されるが、可逆的および非可逆的計算システムの両方がMLLを使用して実現され得る。可逆性はいくつかのレベルで生じ得ることに注意する。たとえば、個々のフレドキンゲートは可逆的である。しかしながら、可逆性はまた、一連の以前の計算を非計算するために伸縮自在のカスケードを使用する場合のように、より高いレベルでも実現され得る。そのような技法は、ベネットクロッキングおよびランダウアークロッキングといった適切なクロッキングスキームとともに、文献において周知である。
【0090】
従来の論理ゲート
リンクおよびロータリージョイントは、データを場所から場所へ移動させるための基本パーツとしての役割を果たすだけでなく、論理ゲートのための基礎を形成する。MLLの重要な発見は、可逆的または非可逆的な任意の論理ゲートが、リンクおよびロータリージョイントをしかるべき場所に把持するための(およびサーマルシンクとしての役割もまた果たし得る)アンカーブロックに固着させられた、リンクおよびロータリージョイントのみによって実現され得る、ということである。
【0091】
たとえば、
図3は、ANDおよびNANDゲートの両方としての役割を果たし得るメカニズムを示す。アンカー301および線形スライド302は、ロータリージョイント306に接続する、ゲートへの第1の入力としての役割を果たす。アンカー303および線形スライド304は、ロータリージョイント307に接続する、ゲートへの第2の入力としての役割を果たす。アンカリングされたロータリージョイント305および309に加えて、アンカリングされていないロータリージョイント306、307、308、310、および311は、適切なリンクを介して接続される。AND出力310およびNAND出力311は、ANDまたはNANDゲートとしてのゲートの使用を提供する。このゲートの機能は、以下のとおりである。線形スライド302がロータリージョイント306をプッシュし(「1」の入力であるのに対し、線形スライドの無移動は0の入力であろう)、線形スライド304がロータリージョイント307をプッシュする場合、効果は、AND出力310を前方にドライブして「1」の出力を生成することであろう。入力のいずれか(または両方)が0である場合、AND出力310は、最後にはそれが開始したのと同一の位置になり、「0」の出力を生成する。これは、ANDゲートの期待される真理表を再生する。
【0092】
NANDゲートは逆にされた出力を有するANDゲートであるので、NAND出力311はAND出力310の反対方向に移動するがゆえに、NAND出力311での無移動は「1」の出力を表現すること、および左への移動は「0」を表現することを想定して、AND出力310の代わりにNAND出力311を読むことにより、同一のメカニズムがNANDゲートとして使用され得る。当然のことながら、ANDゲートとしてのみの使用のために、NAND出力311は存在する必要はない。そして、NANDゲートとしてのみの使用のために、AND出力310は無視され得る。両者は、例示の目的のために組み合わせられる。すなわちそれらは、実際の使用において必ずしもそのように組み合わせられるわけではないだろう。NANDは、万能ゲートであること(すべての他のゲートがNANDゲートの適切な組み合わせによって作成されることができるという意味)が知られているので、このメカニズム単独で、任意の組合せ論理を作成するのに十分であろう。しかしながら、NANDゲートの組み合わせによるよりもむしろ直接的に他のタイプのゲートを組み付けることのほうが効率的であり得、NANDゲートの代替の実施形態を含む他のタイプのゲートを論証するために、追加の論理ゲートが後に説明される。
【0093】
図4は、リンクおよびロータリージョイントのみによって作られたNORゲートを示す。入力1は、線形スライドアンカー401を備え、ロータリージョイントを介してインバータ405に接続される。入力2は、線形スライドアンカー403および線形スライド404を備え、ロータリージョイントを介してインバータ406に接続される。すべてのそのような図面におけるように、線形スライドは、図表のまたはプログラムの都合として存在し、これらの個々のメカニズムがより高いレベルの組み立て品に組み合わせられる場合には何らかの適切な接続を表現するものとみなされるべきである。インバータ405および406は、左方向の信号を逆にして右方向の信号にし、およびその逆もまた同様にし、ロータリージョイントを介してメカニズムの上方右部分407およびメカニズムの下方右部分408にそれぞれ接続する。
インバータにより、入力のいずれかが右にプッシュする場合、移動は、メカニズムの上方右部分407およびメカニズムの下方右部分408において逆になり、左方向の運動になる。出力409の位置は、期待される真理表を再現し、例示されている位置は「1」を表現し、出力が左に移動する位置は「0」を表現する。他の実現が可能である一方で、このゲートは、メカニズムのモジュール的性質を示す。NORゲートはANDゲートと同等であり、両方の入力は逆にされる。したがって、メカニズムの上方右部分407およびメカニズムの下方右部分408は、ANDゲートの代替の実現を示し、NORゲートを代わりに作成するために、インバータが各々の入力に取り付けられる。インバータを除去し、メカニズムの上方および下方右部分における適切な場所に直接的に入力を接続することは、ANDゲートを結果として生じるであろう。また、
図3に示されていたように、このメカニズムは続いてまた、ANDゲートの出力を逆にすることによってNANDゲートとしての役割も果たし得るであろう。最後に、インバータは左の場所にあるが、出力は逆にされない場合、NORゲートはORゲートになる。
【0094】
最後に、
図5は、リンクおよびロータリージョイントのみを使用して実現されるXORゲートを示す。入力1は、アンカリングされたロータリージョイント501および線形スライド502を備える一方で、入力2は、アンカリングされたロータリージョイント504および線形スライド503を備える。入力1および入力2は、一連のリンク、アンカリングされたロータリージョイント、およびアンカリングされていないロータリージョイントを介して出力505に連結される。出力505での移動またはその欠如は、XORのための期待される真理表を再現する。
【0095】
上記は、任意の論理ゲートがリンクおよびロータリージョイントのみを使用して直接的に実現され得ることを論証する。データが計算において失われないように入力データを論理ゲートの期待される出力とともに前方に運ぶことにより、従来から非可逆的であると考えられている論理ゲートが可逆的にされることができる、ということに注意する。トフォリゲートおよびフレドキンゲートといった、元来可逆的である周知の論理ゲートもまた存在するが、それらもまた、MLLを使用して多くの手法で実現され得る。
【0096】
可逆論理ゲート
図6は、フレドキンゲート(CSWAPゲートとも呼ばれる)、すなわち周知の万能可逆ゲートを示す。ゲートへの3つの入力601、602、および603は、一連のリンク、アンカリングされたロータリージョイント、およびアンカリングされていないロータリージョイントを介して、出力604、605、および606に接続される。フレドキンゲートのこの特定の実現は、3つのXORゲート、およびANDゲートに加えて、データがゲート内の2つ以上の場所で使用できるようデータを複製するために使用されるいくつかのフォーキングさせられたデータラインで構成される、ということに注意するのは興味深いことであり得る。これは、以前のゲートよりも洗練されたデータのルーティングのみならず、可逆論理が非可逆論理から組み付けられ得ることをも論証する。フレドキンゲートは、何のデータも消去しないので、ランダウアーの限界を条件とする必要はない。
【0097】
上記論理ゲートの例を考えると、完全な汎用コンピューティングシステムを実現するのに必要な任意のタイプの論理ゲートは、可逆的にせよ非可逆的にせよ、リンクおよびロータリージョイントのみを使用して、MLLの設計パラダイム内で実現され得る、ということが明らかであろう。上記論理ゲートの例の各々は同一平面上のメカニズムである、というに注意する。これは、それらが1つ以上の平行平面において動作し、移動が想像の平面に対し平行に行われることを意味する。同一平面上の設計の利点の1つは、それらは、そのようなメカニズムがどのように働くかについての直観的な理解を読者に提供するために紙上で表現し易い、ということである。これは論理ゲートまたは任意のMLLメカニズムを実現するための唯一の手法ではなく、2つ以上の平面において移動するメカニズムもまたここで論じられる。同一平面上のメカニズムでは、どのリンクが他のどのリンクの背後にあるかを示すために、隠線も点線も一般的に使用されない、ということにもまた注意する。
これは、それがほとんど問題にならないからである。ほとんどのケースにおいて、所与のリンクは何らかの他のリンクの上部または下部にあることができ、リンクが移動中互いにぶつからないようにするといった考慮を条件として、メカニズムの機能は影響を及ぼされないであろう。ヒートシンクまでの距離を最小化する、またはメカニズムの強度または剛直性を最大化する作法でリンクを配列することといった問題を考慮することを望む者もまたいるかもしれないが、これらの例示的な設計は、最適な実現を提供するようにではなく教説的であるように意図される。最適化された実現は、行われるべき計算のタイプ、所望の計算速度、システムの所望のサイズまたは質量、メカニズムが作られる材料、および動作環境(たとえば、動作温度)を含む、特定の計算システムの要求とは異なり得るだろう。
【0098】
ロック
複数のデータリンクまたはラインがインタラクトし得るさまざまな手法は、すでに説明されている。たとえばそれらは、共通のロータリージョイントの周りで互いに対しそれらの物理的移動を結び付けることによりデータを共有できる。そして、データリンクまたはラインは、論理ゲートのための入力/出力を提供することができる(論理ゲートの内部で使用されることは言うまでもない)。しかしながら、インタラクションの追加の方法が、完全なコンピューティングシステムを実現するのに有用であり得る。
【0099】
複数のリンクまたはラインがインタラクトし得る別の手法は、リンクに互いの移動に干渉させるメカニズムによるものである。すなわち、第1のリンクの位置は、1つ以上の他のリンクが移動するのを可能にするかまたは防止することができ、逆もまた同様である。たとえば、各々の入力が0または1であり得る2入力メカニズムを考慮する。その設計は、両方の入力が0である場合、いずれかの入力は1になり得るであろうが、いずれかの入力が1である場合、他方はしかるべき場所にロックされ、したがって0のままでなくてはならない、といった具合であり得る。この例では、2つ以上の入力が同時に1になることはできないが、他の設計が可能である。このメカニズムはロックと呼ばれる。ロックがちょうど論理ゲートのように入力および出力を有することは一般的である。たとえば、2入力ロックは、2つの入力を有し、0個、1つ、または2つの出力を有し得る。ロックへの各々の入力ラインは出力ラインとして続行し得るか、またはそれはロックで終結し得るか、のいずれかである。
【0100】
ロックの使用法の1つは、条件付きのアンカーポイントを作成することである。すでに説明されているように、ロータリージョイントは、しばしばロータリージョイントがアンカーブロックに固着させられるかどうかに依存して、アンカリングされることもアンカリングされないこともできる。しかしながら、ロータリージョイントをアンカーブロックに固着させることは、それを不動にするための唯一の手法ではない。むしろ、ロータリージョイントは、1つ以上のリンクの構成ゆえに(この構成が永続的であるにせよ一時的であるにせよ)ロータリージョイントの移動を可能にしない、1つ以上のリンクに接続され得る。たとえば、3つのリンクで作られた三角形を考慮する。各々のリンクは、各々の端でロータリージョイントによって2つの他のリンクに固着させられる。これらのロータリージョイントのうちの2つがアンカーブロックにも接続される場合、たとえ第3のロータリージョイントがアンカーブロックに接続されなくても、三角形全体が剛性であるので、それは有効にアンカリングされる。どの三角形のリンクも互いに対しまたはアンカーブロックに対し移動することができない。この単純な例において、リンク構成を変える手法が存在しないことを想定すると、第3のロータリージョイントは有効にアンカリングされる。ロータリージョイントが時としてアンカリングされ、時としてアンカリングされないようにすることが有用である状況が存在する。ロックはこれを可能にする。すなわち、ロックされたロックの側は移動することができないので、それがロックされる限り、それはアンカーポイントとして有効に動作し得る。条件付きアンカーポイントの有用性は、後に説明されるであろう。ロックのいくつかの実施形態の別の有用な態様は、たとえば、2つの入力を有するバイナリロックは、3つの可能な状態、すなわち、「ブランク」とも呼ばれる(0,0)、(0,1)、および(1,0)を有し得る、ということである。ブランク状態は、例示的なシフトレジスタがどのように実現され得るかについての説明においてここで見られ得るように、状態をセーブし、可逆計算を可能にするのに有用であり得る。
【0101】
すべてのMLLの実施形態と同様に、リンクおよびロータリージョイントのみを使用してロックを実現する複数の手法が存在する。
図7および
図8は、2つの異なる状態における2入力の同一平面上のロックを描く。
図7は、両方の入力が0であるロックの位置を示す一方で、
図8は、入力の1つが1である場合のロックの位置を示す。上部入力701および下部入力702はそれぞれ、ロータリージョイントを介してロックの上半分および下半分に接続する。
ロックの各半分は、上半分のリンク703、705、および712、および下半分のリンク704、706、および713を備える、4節リンク機構を備える。加えて、4つの斜めのリンク707、708、710、および711が、追加のリンク709を把持し、それは、アンカリングされていないロータリージョイントを介して2つの4節リンク機構に接続する。メカニズムの機能は、以下のとおりである。すなわち、入力701または702の1つが0から1に移動する場合、それぞれの4節リンク機構が移動させられる。4節リンク機構の移動は、上半分のリンク707および710、または下半分のリンク708および711のいずれかを介して、リンク709の回転を引き起こす。リンク709は、リンク703、704、712、および713と同一の長さであるだけでなく、最初は同一の角度であり、入力によって移動させられる場合に4節リンク機構が従わなくてはならない同一の弧を通って旋回することにより、入力のいずれかに1の値を想定することを可能にさせる。
【0102】
しかしながら、ひとたび入力がリンク709とともに上部または下部の4節リンク機構のいずれかを移動させると、他方の4節リンク機構は、(その関連づけられた入力/出力も)もはや自由に移動することができない。理由は、リンク709が今や、どちらの入力が1に設定されたかに依存して、リンク703および712と、またはリンク704および713と、平行ではないからである。このために、リンク709の回転は、それが移動しようとしても第2の4節リンク機構の回転に従わないであろう。本質的に、リンクの1つ(すでに移動していなければ上部ではリンク705、またはすでに移動していなければ下部ではリンク706)は、一度に2つの異なる弧を通って移動しようとし、メカニズムがロックするという結果を生じるであろう。これは本質的に、ロータリージョイントの軸が変化する(これは起こるが、これらの軸は、まず文字通りの意味で決して同軸ではないだろう)のではなく、非同軸である(本明細書においてどこかよそで説明されている)、ロータリージョイントの同一平面上のバージョンであり、ここでのポイントは、接続されたリンクがそれを通って移動しようとする弧が変化するということである。ひとたび入力の1つが1に設定されると、唯一可能にされる移動は、いずれかの(しかし両方同時ではない)側が「1」の位置に再び自由に移動することができるように、その入力を0に戻るように設定することである。
【0103】
図7のロック設計は、それが素早くロックし、遅くアンロックするという特性を有する。たとえば、入力の1つの事実上任意の移動が、他の入力をロックする。そして、ひとたび入力が1に設定され、メカニズムをロックすると、その入力は、ロックがアンロックする前に本質的には完全に0に戻されなくてはならない。より漸進的なロッキング特性を有するロックを設計することが所望され得、これは、エントロピーのより滑らかな変化(減じられたエネルギー散逸という結果を生じる)、所与のスイッチング速度でのメカニズムにおける減じられた最大力、およびロック/アンロックサイクル間の減じられた時間を含む利点を有し得る。というのも、他の入力が移動し始め得る前に1つの入力がほとんど正確に0に落ち着くことを可能にさせられなくてはならない懸念がより少ないからである。
ロックへの接続におけるばねの包含もまた、アンロックされた位置(すなわち、「0」)に正確にない場合にほとんど直ちにロックするメカニズムをそうでなければロックするでろう小さな位置的誤差がたとえ存在したとしても、メカニズムが所望されたとおりに続いてドライブされ得るので、ロックの動作を支援することができる。これを達成する別の方法は、リンク709を、適切に選定されたばね定数を有する同一の長さのばねと置き換える(またはばねを追加し、リンクを短くする)ことである。リンク709が非常に剛直なばねであるかまたはそれを組み込む場合、ロックは、小さな位置的誤差しか可能にしないであろう。リンク709がより柔らかいばねであるかまたはそれを組み込む場合、ロックは、より大きな位置的誤差を可能にするであろう。
【0104】
図9および
図10は、メカニズムがアンロックからロックへと移動するにつれて漸進的に変化するトルクゆえに、ロッキングアクションがより漸進的である、ロックを描く。
図9は、入力901および902が0である場合のロックを示す一方で、
図10は、入力901が1に設定された後である一方で入力902が依然として0であるロックの状態を示す。入力901および902は、アンカリングされていないロータリージョイントを介してメカニズムの残りの部分に接続される。1つの入力の1への設定がこの設計ではわずかに後方に他の入力をドライブするという結果を生じることに注意する。全体的なシステムがこれを可能にするように設計され得るか、または、たとえば、後方運動を他のリンクに直接的に伝達するよりもむしろそのような運動を吸収するばねを使用することにより、後方運動がメカニズムの内部に保たれるようにし得るであろう。
【0105】
同一の基本パーツで作られるので、すべてのMLLメカニズムは同様の関心事を共有する傾向がある。エントロピーの突発的な変化対漸進的な変化、最大力を制限すること、およびクロック位相間の減じられたレイテンシーを可能にするようにメカニズムを設計すること、といった概念は、ロックだけでなくいずれのMLLメカニズムにも適用され得る。
【0106】
非同一平面上のメカニズム
ここでのメカニズムの多くは、同一平面上の設計である。同一平面上の設計が提示の明確さのために強調される一方で、MLLメカニズムは同一平面上である必要はない。任意のMLLメカニズムは、非同一平面上の作法で実現され得る。たとえば、
図11は、リンクおよびロータリージョイントで組み付けられたロックを描いているが、それは同一平面上ではない。むしろ、後に説明されるように、ロータリージョイントは、アンカーブロックの面に対し平行にというよりむしろ垂直に移動することをリンクに可能にさせる。
【0107】
図11および同一のメカニズムの後続の図において、リンク1101はリンク1、リンク1102はリンク2、リンク1103はリンク3、スペース1104はオープンジョイント4、スペース1105はオープンジョイント5、スペース1106はオープンジョイント6、スペース1107はオープンジョイント7、ロータリージョイント1108はジョイント1、ロータリージョイント1109はジョイント2、ロータリージョイント1110はジョイント3、ロータリージョイント1111はジョイント4、およびアンカーブロック1112はアンカーブロックと呼ばれる。アンカーブロックは、ロータリージョイントのジョイント1およびジョイント4のためのアンカーポイントを提供し、それらはそれぞれ、リンク1およびリンク2に接続される。リンク1はジョイント2によってリンク2に接続され、リンク3は、ジョイント3を介してリンク2に接続される。すべてのジョイントおよびリンク1、リンク2、およびリンク3は、アンロックされた位置において示されている。
【0108】
(0,0)と呼ばれ得るアンロックされた位置において、ジョイント3の軸は、ジョイント1の軸とアラインメントさせられ、ジョイント2の軸は、ジョイント4の軸とアラインメントさせられる。ジョイント1およびジョイント3はかくして、ジョイント2およびジョイント4がそうであり得るように、同軸と呼ばれ得る。リンク1またはリンク3のいずれかが旋回することになっているのであれば、それらのロータリージョイントのうちの1つがそれらの現在の平面から移動するであろう。かくして、どのリンクが旋回させられるかに依存して、ジョイントのいくつかは、もはや互いと同軸ではないだろう(「非同軸」と呼ばれる状態)。同軸および非同軸の概念は、この実施形態においてこれらの状態はロック対アンロックを定義するものであるので、重要である。この理由は、アンロックされた位置では、リンク1およびリンク3が各々、それらが旋回し得る軸を有するからである。リンク1のために、これは、それらが同軸である場合のジョイント1およびジョイント3によって定義される軸である。リンク3のために、これは、それらが同軸である場合のジョイント2およびジョイント4によって定義される軸である。ジョイントのこれらのセットが同軸位置にない場合、2つの軸の間のアラインメントの欠如は、旋回を防止する。というのも、1つの自由度を有する剛性物体は、2つの異なる軸の周りを同時に旋回することはできないからである。結果として、ジョイント1およびジョイント3が非同軸であるか、またはジョイント2およびジョイント4が非同軸であるかのいずれかである場合、ロックはロックされ、可能にされる唯一の運動は、アンロックされた位置に戻ることである。
【0109】
リンク1またはリンク3の技術的に事実上任意の量の旋回はロックされた状態を生み出すであろう、ということに注意する。しかしながら、説明の目的のために、後続の図面は、約30度の回転を示す。これは任意であり、高い信頼度で動作することをシステムに可能にさせる任意の量の旋回が使用され得る(アンカーブロックの面に対し完全に垂直であるのとは対照的に、任意の他の角度がそうされ得る)。同一平面上のロックと類似して、リンク2が同様の長さのばねと置き換えられるのであれば、その入力における位置的誤差に対するロックの耐性は、望ましいと考えられる程度まで増大し得る。この説明を考えると、リンク1またはリンク3のいずれかが適切な量だけ旋回することになっているのであれば、どちらのリンクにせよ旋回しなかったリンクは続いて、旋回させられたリンクがアンロックされた位置に戻されるまで、そうすることを防止されるであろう、ということは明らかであろう。
【0110】
この旋回を達成するために、オープンジョイント4およびオープンジョイント6は、他のリンクがリンク3に接続し得る接続ポイントであり、オープンジョイント5およびオープンジョイント7は、他のリンクがリンク1に接続し得る接続ポイントである。これらの他のリンクは、ロックへの入力としての役割を果たし得る。リンク1およびリンク3は各々、4つの入力を可能にするためではないが(それは可能であるが、それはこの特定の設計の意図ではない)、むしろ所望のとおりにロックを通過し続けることを入力ラインに可能にさせるために、接続のペア(それぞれ、オープンジョイント5とオープンジョイント7、およびオープンジョイント4とオープンジョイント6)を有する。たとえば、オープンジョイント5は、オープンジョイント7の続きと考えられることができ(またはその逆もまた同様)、オープンジョイント4は、オープンジョイント6の続きと考えられることができる(またはその逆もまた同様)。
【0111】
図12は、
図11と同一のメカニズムの上面図を示し、リンク1101およびアンカーブロック1112のみがこの図では見ることができる。
【0112】
図13は、
図11と同一のメカニズムを示すが、「(1,0)」と呼ばれ得るロックされた位置にある。この状態において、1101は、ロータリージョイント1108および1110を介して回転しており、ロータリージョイント1109および1111を非同軸にする。1109および1111は非同軸であるので、1103はもはや自由に回転することができず、それゆえにロックされた状態である。1101の回転は、1105および/または1107に接続された他のリンク(描かれていない)によって達成されるであろう。
【0113】
図14は、
図13におけるメカニズムの状態の上面図を示す。この上面図では、1101が反時計回りに約30度旋回しているのが見られ得る。1102は、この図では見ることができないが、この例では1101とともに旋回しており、その下に1103を露呈している。回転の方向が任意であることに注意する。時計回りおよび反時計回りの回転の両方が、ロックをロックする同一の効果を有するであろう。これは1103にも当てはまる。
【0114】
図15は、
図13と同一のメカニズムを示すが、1102の代わりに1103の回転によりロックされた位置にある。この位置は、「(0,1)」と呼ばれ得る。この状態において、1103は、ロータリージョイント1109および1111を介して回転しており、ロータリージョイント1108および1110を非同軸にし、それにより1101をロックする。1103の回転は、1103のオープンジョイント1104および1106の1つ以上に接続される他のリンク(示されていない)によって引き起こされるであろう。
【0115】
図16は、
図15におけるメカニズムの状態の上面図を示す。この上面図では、1103が時計回りに約30度回転している一方で、1101は依然としてその元の位置にあることが見られ得る。1101と同様に、回転の方向は任意である。時計回りまたは反時計回りのいずれかが、ロックの適切な機能を可能にし、いずれかまたは両方が使用され得る。
【0116】
これらの例およびMLLの原理を考えると、(ロックおよびすべての他のMLLメカニズムのための)多くの他の設計が明らかであろう。最も効率的に働く特定の実現は、ケースに依存し得、ここでの例示的な実施形態は、最適化されたメカニズムの例として提供されるわけではなく、むしろ、一般化可能な計算システムに必要なすべての要素がリンクおよびロータリージョイントのみを使用してどのように作成され得るのか、および、たとえリンクおよびロータリージョイントのみを使用するという制約内であっても、可逆的および非可逆的な事実上任意のタイプの論理ゲートと、二次元(「同一平面上」)または三次元(非同一平面上)で主として機能し、どの角度が所望されようとデータの堅牢なルーティングを完全にするメカニズムとを含む、多くの異なる論理および機械オプションが利用可能であることを論証するために提供される。
【0117】
バランス
力および運動は、リンクが旋回するロータリージョイントを使用してリンクの一端から他端へと伝達され得る。そのようなメカニズムは、入力がリンクの中心にあることが多く、古典的な天秤皿のバランスと概念的に同様に、一方の側が「上」または「下」に移動するので、「バランス」と呼ばれる。当然のことながら、正確な移動は、印加される力、正確なメカニズム設計、およびシステムの状態に依存する。
【0118】
2つの異なる状態における単純なバランスが、
図17(0の入力を示し、入力1701の線形スライドが収縮させられている)および
図18(1の入力を有する同一のメカニズムを示し、入力1701の線形スライドが伸長されている)において描かれる。これらの図面において、入力1701は、ロータリージョイント1703によってリンク1702に接続される。上方ロータリージョイント1704および下方ロータリージョイント1705はそれぞれ、上方出力1706および下方出力1707にリンクを介して接続する。上方ロータリージョイント1704が、これらの描写においてアンカリングされ、上方出力1706が移動するのを防止する一方で、下方ロータリージョイント1705は、アンカリングされておらず、入力1701が移動する場合に下方出力1707が移動することを可能にする。
【0119】
図19は、1の入力を考えると、上方ロータリージョイント1704および下方ロータリージョイント1705が逆にされた場合(上方ロータリージョイント1704がアンカリングされず、下方ロータリージョイント1705がアンカリングされた場合を意味する)に起こるであろうものを描いている。出力の移動は、下方出力1707の代わりに上方出力1706で生じるであろう。バランスの興味深い特性の1つは、それらがそれらの入力の合計を保存するように設計され得ることである。上記例において、入力が0である場合、出力は0である。入力が1である場合、出力は1である。これは単純なラインにも当てはまるであろうが、それらの出力をさらに合計する複数の入力を有する複雑なバランスが組み付けられることができる。
【0120】
バランスに対する別の利点は、それらが他の入力に依存して異なるふうにデータをルーティングし得ることである。たとえば、他の入力は、バランスに接続されたロックの状態を制御し得る。ロックは、従来のアンカーとして動作し、ロックの状態に依存して1つのラインまたは別のラインを下ってデータをルーティングし、バランスにスイッチまたは「スイッチゲート」としての機能を果たすことを可能にさせる。たとえば、従来のアンカーを有する単純なバランスは、アンカーポイントが変えられ得るので(この概念は後続の図面において論証される)、
図17、
図18、および
図19において示された構成のいずれかに置かれ得る。
【0121】
図20および
図21は、複数の入力を有するバランスが、入力の合計を保存し、データをルーティングするために使用され得る、1つの手法を示す。同一のメカニズムの2つの状態が描かれ、それは、2つの2入力バランスを共に接続することによって形成される(「バイナリダブルバランス」)。入力2001および2002は、ロータリージョイントによってリンク2005に接続される。リンク2005は、ロータリージョイントを介してリンク2007に接続される。リンク2007は、ロータリージョイントを介してリンク2006に接続する。リンク2006は、出力2003および2004にそれらのそれぞれのロータリージョイントを介して接続する。リンク2007の固定された長さは、入力の合計が保存されるようにする。リンク2007は長さを変えることができないので、入力2001または2002のいずれかが移動する場合、対応する移動が出力2003または2004で生じなければならない。
図20は、入力2001が1であり、入力2002が0である場合のメカニズムの状態を示す。
図21は、入力2001および2002が両方とも1である場合のメカニズムの状態を示す。これらの図面におけるメカニズムは(よくあることだが、より完全なシステムの複雑さおよびMLLの基本の根底をなすメカニズムの明確な例示の必要ゆえに)、それが実際のMLLシステムにおけるものではないであろうから他のメカニズムに取り付けられない、ということに注意する。この特定のケースにおいて、追加の制約なしでこのメカニズムは信頼できるものではないだろう。たとえば、(0,0)の入力から(1,0)に移動する場合、入力の合計は1であるので、出力の合計は1でなければならない。しかしながら、出力が(0,1)であるか、または(1,0)であるか、またはさらには(0.5,0.5)のような何かであるかを教示するための手法は存在しない。実際のシステムにおいて、この問題を解消する1つの手法はロックによるものである。出力の1つを従来通りにロックすることにより、他の出力は、予測可能な作法で強制的に移動させられる。
【0122】
スイッチゲート
先に説明されたように、バランスは、ロックと共に、スイッチゲートが実現され得る1つの手法である。
図22は、上部入力2201、下部入力2202、および中心入力2203を有するスイッチゲートを示す。中央入力は、バランスを介して上部出力2204および下部出力2205に接続される。上部および下部入力は、中央入力が上部出力にルーティングされるか下部出力にルーティングされるかを制御する。たとえば、上部入力2201が1に設定される場合には、上部入力2201が接続された上方ロックがロックされる。それは1の入力が中央入力2203で提供される場合に上部出力2204に向かうラインが移動できないことを意味するので、中央入力2203が接続されたバランスは、下部出力2205につながるラインを移動させなくてはならない。上部および下部入力は一般的に、両方同時に1であることは決してないだろうから、これらは実際に、両方のロックを制御する1つの入力に凝縮され得、たとえば、0の入力が上方ロックをロックし、1の入力が下方ロックをロックするか、またはその逆もまた同様である。
【0123】
ロックと連結されたバイナリダブルバランスもまた、スイッチゲートとして使用され得る。バイナリダブルバランスを考えると、1つの入力は永続的にロックされる一方で、1つの入力は永続的にアンロックされ、入力に接続される(典型的にはクロック)。そして、単一のラインが、ダブルバランスの2つの残りの入力に接続される2つの補完的なロックをスイッチするために使用され得る。本質的には、クロック入力は、2つの補完的なロックを制御する単一のラインによりダブルバランスを通って1つのまたは他の「入力」にルーティングされる。スイッチゲート(およびロックされた状態を有する他のMLLメカニズム)は、ドライスイッチングが所望される場合でさえも使用され得る、ということに注意する。
図22におけるスイッチゲートのようなスイッチゲートのケースにおいて、クロック力が2つのロックを接続するバランスを介して印加される。システムは、クロック力が印加される場合に両方のロックが決して同時にロックされないように設計され得るので、1つの側は常に自由に移動することができる。したがって、クロック力は、不動のメカニズムではなく、むしろ、1つの方向または他の方向に常に条件付きで可動のメカニズムに向けられる。
【0124】
ロックおよびバランスを使用する論理ゲート
ロックおよびバランスの興味深い特性は、それらが可逆的および非可逆的なすべての従来の論理ゲート(他のメカニズムに加えて)を作成するために使用され得ることである。
これが行われ得る1つの手法を説明する前に、メカニズムに入力を提供する代替の方法(このケースではロック)を論じることは、例示的なロックに基づいた論理ゲートの理解を容易にするであろう。1つのバイナリ入力をラインへの単一の接続であると考えることが典型的である。たとえば、AND、NAND、NOR、およびXORのような先に説明された論理ゲートにおいて、これらの論理ゲートは各々、2つの入力を受け取った。これらは、2つの線形アクチュエータとして表現されることが多いが、実際のMLLシステムでは、たとえば、データラインへの2つの接続であろうものである。フレドキンゲートは3つの入力を受け取るので、データラインが接続され得る3つの場所を有した。これらの例示的な論理ゲートへの入力の各々はバイナリであり、1つの位置が0を表現する一方で第2の位置が1を表現するようにメカニズムが設計されたことを意味する。他の実現が可能であるが、しばしば0の入力は、その入力で移動が生じないものとして表現されてきた一方で、1の入力は、何らかの前方または右方への移動によって表現された。
【0125】
しかしながら、入力を表現するための他の手法が存在する。たとえば、2つの可能な値のうちの1つ(0または1)を提供する1つの接続を使用するバイナリ入力の代わりに、バイナリ入力は、一方が0を表し、他方が1を表す、2つの接続からなり得る。このシナリオでは、入力への接続のうちの1つが常に移動するであろう。すなわち、入力が0だった場合、0のラインが移動するであろうし、入力が1だった場合、1のラインが移動するであろう。
これは、入力の無移動によって先に表されている0とは対照的である。1つのバイナリ入力あたり2つのラインを使用するこの戦略は、それはロックされた状態を作成するために0または1のいずれかの値を可能にするので、ロックとともに有用である。0の入力は、ロックの一方の側をロックする一方で、1の入力は、他方をロックする。0および1の両方に異なる側でのロックされた状態という結果を生じさせるための1つの使用法は、これが2つの異なる条件付きのアンカーポイントとして動作することをロックに可能にさせることである。これは、たとえば、入力がバランスに与えられる場合にバランスのどちらの側が移動するかを制御するために使用され得る。以下の例は、ロックのこの特性が論理ゲートを作成するためにバランスとどのように組み合わせられ得るかを例示するメカニズムを示す。
【0126】
図23は、NANDゲートがロックおよびバランスを使用して組み付けられ得る、1つの手法を描く。クロック入力2301は、バランス2302に接続され、それが今度はバランス2303に接続され、それが今度はバランス2304に接続される。一連のロックおよびラインを介して、クロック入力は続いてバランス2305および2306にルーティングされ、最終的には上方出力2312または下方出力2311の移動という結果を生じる。入力2307から2310はゲートに入力を提供し、先に説明されているように、4つの入力ラインが2つのバイナリ入力を表すために使用される。特に、入力2307は「A0」(それが入力「A」に関連づけられ、「A」入力が0である場合に移動することを意味する)、入力2308は「B0」、入力2309は「A1」、および入力2310は「B1」と呼ばれる。入力2307から2310のために、各々が同一のラベルを有する2つの入力が存在する、ということに注意する。これは、同一の入力データがゲート内の2つの異なる場所において使用されるからである。現実においてこれは、各々のための2つの別個の入力を要求せず、むしろ、各々のための1つの入力が、単純なロッドのようなリンクを使用してフォーキングさせられ得るか、または複数の接続ポイントを提供する単純なリンクに接続され得る。
図23における描写は、明確さのために選定されたのであって、これがまさにメカニズムが実際に実現される様子である必要があるからではない(それは一般的に、ここで説明されるすべてのメカニズムにも当てはまる)。メカニズムは以下のとおりに働く。すなわち、アクチュエートされる場合、入力2307から2310は、それらが接続されるゲートの側を移動させ、ゲートをロックする。すなわち、入力(A,B)が(0,1)である場合、A0ラインが移動し、B1ラインが移動するであろう。Aは1ではないので、A1ラインは移動せず、Bは0ではないので、B0ラインは移動しないであろう。明らかに、入力(0,0)、(0,1)、(1,0)、または(1,1)が可能にされる。入力は、どのゲートがロックされ、どれがされないのかのパターンを確立する。このパターンが今度は、各々のバランスのどちらの側が自由に移動することができるかを決定する。クロック入力は続いてバランスをアクチュエートし、最後の結果は、(A NAND B)0を表す下部出力2311が移動するか、または(A NAND B)1を表す上部出力2312が移動するか、のいずれかである。結果として生じる出力は、NAND真理表を発生させる。
【0127】
【表1】
すでに言及されているように、NANDは万能ゲートである。したがって、この例からは、ロックおよびバランスのシステムが、NANDゲートの組み合わせを使用して可逆的または非可逆的な任意の他の所望の論理ゲートを設計するために使用され得ることになる。しかしながら、これは、任意の所望の論理を実現するための最も効率的な手法であるわけではなく、同様のロックおよびバランスに基づいたメカニズムは、AND、OR、NOR、XOR、XNOR、NOT、CNOT、トフォリ、および他のものを含む任意の他の論理ゲートを直接的に実現するために使用され得る。
【0128】
フレドキンゲートの1つの実現はすでに説明された。ロックおよびバランスはまた、フレドキンゲートを構築するためにも使用され得る。フレドキンゲートは、3つの入力および3つの出力を有する。3つの入力は、A、B、およびCと呼ばれ、3つの出力は、X、Y、およびZと呼ばれるだろう。入力Aは、常に出力Xに接続する。入力Aが0である場合には、入力Bは出力Yに接続し、入力Cは出力Zに接続する。入力Aが1である場合には、入力Bは出力Zに接続し、入力Cは出力Yに接続する。先に注意されたように、フレドキンゲートは、万能ゲートであり、任意の論理または算術演算がフレドキンゲートのみによって計算され得ることを意味する。これは、実際的なMLL計算システムがフレドキンゲートのみで構成される必要があると言っているわけではない。というのも必ずしもこれが多くの計算タスクのための最も効率的な構成であるとは限らないからである。ここでの教示から明らかであるように、多くの他のタイプのゲートがMLLを使用して実現され得る。フレドキンゲートは、それらが万能および可逆の両方であるので、1つの例示的な実施形態として使用される。
【0129】
図24は、ロックおよびバランスを使用して作られたフレドキンゲートを描く。メカニズムの複雑さゆえに、アンカリングされたロータリージョイントが明示的に示されていないが、適切なリンクの接続されていない端にあることが想定される、単純化された表記法が使用される。クロック入力または信号(このメカニズムへのすべての入力と同様に、アクチュエータは示されていない)は、ロータリージョイント2401に取り付けられるだろう。
A1、A0、B1、B0、C1、およびC0入力のための入力は、ロータリージョイント2402、2403、2404、2405、2406、および2407にそれぞれ取り付けられるだろう。B1、B0、C1、およびC0入力もまた、ロータリージョイント2408、2409、2410、および2411にそれぞれ取り付けられるだろう。クロック信号および入力は、一連のリンクおよびロックを介して、いくつかの出力、バランスのために、X1出力2412、X0出力2413、Y1出力2414、Y0出力2415、Z1出力2416、およびZ0出力2417に接続される。X1およびX0出力は、図面の複雑さを減じるために他の出力の右側隣に示されていないことに注意する。現実には、明らかにそれらは、所望される任意の場所にルーティングされ得る。リンク2418および2419は、4節リンク機構の一部であり、バランスではなく、移動する場合に垂直のままであるようにこれらのリンクを制約する、ということに注意する。黒い三角形2420および2421は、剛性リンク機構を例示する(互いに交差する過剰なラインによる表現を回避するために直線は使用されず、この表現は単なる図表的なものにすぎない。すなわち、実際のメカニズムは多くの手法で実現され得る)。
【0130】
ブランク状態が
図24において描かれる。概念的には、この状態から、A、B、およびC入力が1つのクロック位相中に設定される。後続のクロック位相中、ロータリージョイント2401に接続されたクロック信号は、「1」に設定され、それは、メカニズム内のさまざまなバランスの移動を引き起こし、X、Y、およびZ出力が必要に応じて設定されるという結果を生じる。システムを構築するための1つの単純明快なアプローチは、フレドキンゲートを全体にわたって使用すること、および三相ランダウアークロッキングを使用することである一方で、他のアプローチが可能である。さまざまな周知のクロッキングスキームから明らかであるように、追加のクロック位相が存在し得、ベネットクロッキングを使用して、クロック信号の数は、伸縮自在のカスケードにおいて可能にすることが所望され得るステップの数に依存する。
【0131】
シフトレジスタ
シフトレジスタは、計算システムにおいて順序論理を実現するための基礎として使用され得る。たとえば、加算されるか、減算されるか、ANDされるか、またはORされるべき2つの数が、2つのシフトレジスタに記憶され、少数のゲートからなる算術および論理ユニットへとクロックアウトされ、結果が累算器と呼ばれる第3のシフトレジスタの入力に送られる。可逆デジタル回路において、シフトレジスタは、一連の「セル」として定義されることができ、各々のセルは、3つの安定状態、すなわち0、1、およびブランク(b)を有し、それは、状態情報を記憶するために使用され得る。セルは、連続クロックによってクロックされる。各々のセルの出力は、チェーンにおける次のセルの入力に接続される。チェーンに記憶されたデータは各々のクロックサイクル後に1つの位置だけシフトされ、すなわち、入力でのデータ(0,1,またはb)はシフトインされる一方で、アレイの端でのデータはシフトアウトされる。バイナリクロックシフトレジスタは、先に説明された(ロックおよびバランスを作成する)リンクによって接続されたクロックおよびロータリージョイントのみを使用して実現され得る。シフトレジスタは単純であるが、とはいえ、適切な組合せ論理と組み合わせられる場合、計算システムのために要求されるすべての基礎的な要素を含む。
【0132】
シフトレジスタは、シフトレジスタの各々のセル(それは、フリップ-フロップとして見られるかもしれず、それはまた、バッファであると考えられ得、クロック位相遅延を導入することによって異なるプロセスのクロック位相を同期させるために使用され得る)が、必要に応じてクロック位相に先行することまたは追従することに依拠するおかげでその隣接するものに関連させられるように、ロックおよびバランスを組み合わせること、およびクロックシステムの存在を想定することによって、構築されることができる。これは、同時にシフトレジスタ全体の内容を決定論的に設定することよりむしろ、シフトレジスタによるデータのコピーおよびシフトを可能にする。
【0133】
図25、
図26、および
図27は、3つの異なる状態におけるシフトレジスタの単一のセルを描く。これらの図面において、0の入力2501は、ロータリージョイントを介してロック2505の一方の側に接続される。1の入力2502は、ロータリージョイントを介してロック2506の一方の側に接続する。クロック信号2503(スタンドアロンの場合より完全なメカニズムを提供するために異なるふうに図表化されるが、これは、実際のシステムではクロックシステムへの接続であろう)がバランス2504に取り付けられる。ロック2505および2506は、クロック信号が1になる場合に出力2507または2508のどちらが移動するかを決定する。出力2507または2588を含むロックは、全体的なセルのための出力ロックと考えられ得る一方で、ロック2505および2506は、把持エリアのロックである。この概念の重要性は、複数のセルを直列に接続する場合に明確になるであろう。
【0134】
図25は、任意の入力が提供される前である一方で、クロック信号がローまたは0である、そのブランク状態におけるセルを描く。
図26は、入力2501が1に設定された後であるがクロック信号がハイまたは1に移動する前のセルを描く。これは、ロック2505のロックを結果として生じる。
【0135】
図27は、以前の状態からひとたびクロック信号がハイに動いたメカニズムを描く。クロック信号2503がバランス2504をプッシュすると、ロック2505がロックされるので、バランス2504の一方の側のみが自由に移動することができる。かくして、ハイに移動するクロック信号は、ロック2506を通って出力2508に伝達される。
図25、
図26、および
図27において示されたもののような状態間の移動は、同時に起こることはなく、むしろクロック信号およびデータ入力(それらは、それら自身でクロック信号に結び付けられ得る)によって支配される、ということに注意する。この順次の振る舞いは、このセルまたはバッファの適切な機能を可能にするものである(また、電子式コンピューティングにおけるラッチと類似する)。そのような振る舞いは、電子的な実現において実現が容易であり、周知であるが、機械的な実現により多く含まれる。
【0136】
左半分を備える
図28A、および右半分を備える
図28Bは、2つのセルがどのように接続されるのかを示すために、およびデータが1つのセルから次のセルにどのように移動するのかを説明するために、2つのセルシフトレジスタを集合的に描く。
図28Aではセル1 2801が、
図28Bではセル2 2802が、各々、
図25において描かれたメカニズムと同等である。
図28Aにおいて、セル1 2801は、リンク2803(示されていないクロックシステムへの接続を示すために部分的なリンクとして描かれている)を介したクロック信号への接続を有し、
図28Bにおいて、セル2 2802は、リンク2806を介したクロック信号への接続を有する。リンク2804および2805は、セル1 2801とセル2 2802とを接続する。
【0137】
図25、
図26、および
図27におけるように、多相クロック信号が存在することが想定され、リンク2803および2806、および各々のセルに関連づけられたデータ入力は、好ましくはすべてが異なるクロック位相上で動作し、この特定の設計のために少なくとも三相クロックを要求するであろう。単一のセルの動作はすでに説明されているが、セル1 2801がどのようにしてセル2 2802にデータを受け渡すかを論証することは、有益であり得る。イベントのシーケンスは以下のとおりである。(1)クロック位相1で、セル1 2801のためのクロックはすでに0であり、セル1 2801のためのデータ入力が設定される。どちらの入力が1に設定されたかに依存して、セル1 2801の上方または下方ロックのいずれかがロックする。
(2)クロック位相2で、セル1 2801のためのクロック信号が1に設定される。これは、セル1 2801に存在するバランスのアンロックされた側が移動するという結果を生じ、それが今度は、リンク2804またはリンク2805のいずれかを移動させる。これは、セル2 2802の把持エリアロックの1つをロックし、データをセル1 2801からセル2 2802の把持エリアへとコピーする。セル2 2802の出力ロックは依然として移動していないことに注意する。(3)クロック位相3で、セル2 2802のためのクロック信号が1に設定される。これは、データを把持エリアロックからセル2 2802の出力ロックへとコピーする。詳細には、セル2 2802の把持エリアロックの1つはすでにロックされているので、セル2 2802のためのクロック信号が0から1に変化する場合、アンロックされたラインのみが移動し得る。このアンロックされたラインが動いた場合、それがセル2 2802の出力ロックをロックした。それはまた、セル2 2802の2つの把持エリアロックのうちの2つ目をロックした。(4)セル1のためのクロック信号が0に設定される。これは、他のロックがセル2 2802へのクロック信号によってちょうどロックされたので、セル1 2801のクロックが1に設定された際に当初ロックされたセル2 2802の把持エリアロックのみをアンロックすることにより、セル2 2802からセル1 2801のデータを抹消する。そしてこのサイクルは、新たなデータがセル1に入力されると、同じことを繰り返す。上記ステップ2において、セル2 2802の出力ロックが依然として移動していないことに注意する。これは、これらの例示的なシフトレジスタセルに以前のデータを記憶することを可能にさせるのに対し、ここに説明された論理ゲートのいくつかのようなメカニズムは、それらの状態を現在のデータ入力によって完全に決定させる。これは、セルが以前の入力(それは最後には、クロック位相3中にその出力にシフトされることになる)だけでなく、把持エリアロックに記憶される現在の入力もまた含み得るからである。
【0138】
シフトレジスタセル(または他のメカニズム)のレベルでの可逆性が所望される場合、なされることが必要なすべては、反対の順序でクロック位相をランさせることである、ということが、この説明から明らかであろう。伸縮自在なカスケードが所望される場合には、ベネットクロッキングのようなスキームが使用され、適切なハードウェア設計(たとえば、何の情報も失われないように「ジャンク」ビットを記憶し、所望されるだけ多くの深いレベルまで計算が可逆的であることを可能にする能力)と連結され得る。現在の例において、シフトレジスタはたったの2セル長であるので、2つの数字のみが記憶され得る。実際のシステムでは、そのようなシフトレジスタは任意に長いものであり得る。さらに、この特定の実現はシリアル入力/シリアル出力設計である一方で、この例を考えると、MLLが、パラレル入力/パラレル出力、シリアル入力/パラレル出力、および他のものといった所望される任意の他のタイプのシフトレジスタを作るために使用され得ることは明らかであろう。
【0139】
運動量の相殺
コンピューティング構造のグループの質量の中心または慣性モーメントのいずれかを変えることが引き起こす力が全体的なシステムに連結され、潜在的にエネルギー散逸に寄与しないように、これらの変化なしに計算を行うことは、有用であり得る。これは、その移動が質量の中心または任意の軸の周りのトルクの変化を相殺する構造のセット(「相殺グループ」)を使用することにより達成され得る。そのような技法は、リンク、ライン、ロック、論理ゲート、バランス、クロック、およびより大きな集約構造といった任意の構造に適用され得る。たとえば、1つの場所から別の場所にデータを伝達するために使用されるリンクまたはラインを考慮する。そのような構造は、概念的に2つのペアとしてグループ化される4つの並列構造と置き換えられ得る。ペアの各々の部材は、反対方向に移動し、質量の中心および線形運動量の変化を相殺する。しかしながら、各々のペアは依然としてトルクを生み出し得る。よって、各々のリンクの移動の方向は、第1のペアと第2のペアとで逆にされ、トルクの相殺を結果として生じる。このタイプの配列を考えると、合力が全体的なデバイスに連結されず、よって、そのような相殺グループは、データを伝達するために使用され得る一方で、構造の残りの部分に連結されるエネルギーを減じる。
【0140】
図29は、グループ2901および2902を使用してこの概念を示し、各々は、2つの部材、それぞれ2903および2904、2905および2906を含む。グループ内で、各々の部材は、他の部材と反対方向に移動する(各々の部材は、図では他方に接続されないが、実際のシステムにおいて移動は、たとえばクロック信号により、同期させられるであろう)。たとえば、描かれているように、部材2903は右に移動している一方で、部材2904は左に移動している。
これらの移動中に行われる加速は、根底をなす支持構造(図示されていないアンカーブロック)上の力を発生させるであろう。部材2903および2904は反対方向に加速するので、それらの運動量の線形成分は相殺されるだろう。しかしながら、この配列においてそれらは、依然としてアンカーブロック上でネットトルクを発生させるだろう。またペア内で反対方向に移動するが、グループ2901のトルクと反対のトルクを発生させる、部材2905および2906を含む部材の第2のペア2902を追加することは、完全な相殺を可能にする。
【0141】
明らかに、多くの他の設計が、運動量を相殺するために、または(たとえば、質量を減じること、または回転の中心までの半径を減じることによって)そもそもそうする必要を減じるために、のいずれかで使用され得る。これを考えると、運動量の相殺は、任意の特定の配列に限定されない。相殺グループもまた何らかの特定の数の部材に限定されない。
相殺グループの部材が同一の質量または運動量を有しないような奇数でさえも使用され得る。たとえば、2つの部材が、2倍の運動量を発生させる1つの他の部材を相殺するために使用され得る。そして、運動量の相殺は完全である必要はない。加えて、任意の軸に沿った力は同様に対処され得る。たとえば、実際の設計において、Z軸に沿ってトルクを引き起こす力は、この例では図の平面に垂直であると定義されるが、これもまた相殺される必要があり得る。完全な相殺の複雑さおよび増大させられる質量は、恩恵を凌駕し得、(もしあれば)適切な量の相殺およびもしあればどの力成分が相殺されるべきかは、ケースごとに異なるであろう。
【0142】
クロック
MLLシステムにおいて、クロックシステムは、メカニズムを同期させ、またメカニズムをドライブするための力を提供する。異なる数のクロック信号(または位相)を有する計算システムが使用され得ることは、コンピュータサイエンスの分野において周知である。
少なくとも2つの位相が要求されるが、3つの位相は有利であり得、より大きい数もまた使用され得る。MLLクロックシステムは、複数のクロック信号を作成する1つ以上のクロックからなり得る。これらの信号は、たとえば、ラインを介して、または、必要に応じて支持リンクによって支持される剛性フレーム(それは、実際には特別な形状の単なるリンクであり、たとえば剛性フレームは、単一の場所でクロックに接続し、続いて、多くのゲートまたは他のメカニズムに接続するために潜在的には複数の方向または次元に分岐させられ得る)の使用により、メカニズムを通じて伝達される往復運動の形態をとり得る。単一のクロックまたはクロック信号に接続されるメカニズムの最適な数は、ドライブされている質量、システムの剛性、およびスイッチング速度といったファクターに依存して、実現に固有だろう。あるいは、クロック信号は、それらを同期させられたまま保つことが必要とされるクロック間の通信を有する発振器または回転質量のような複数のローカルなクロックによって発生させられ得る。
【0143】
クロック信号は、さまざまな手法で発生させられ得る。たとえば、リンクにおける周期運動を生み出す回転質量、調波発振器、またはカムおよびカムフォロアがすべて使用され得、たとえば、1つの位置は「0」を表し得、別の位置は「1」を表し得る。回転質量は、本質的にはフライホイールであるが、単純な発振器としての役割を果たし得る。ロータリージョイントによってリンクに連結されたフライホイールは、各々のクロック信号を行ったり来たりドライブするために使用され得、リンクおよびロータリージョイント以外の何のパーツも要求しない。フライホイールは、システムにおける散逸的なメカニズムに対しエネルギー損失を補充する何らかの種類のエネルギー源またはモーターにより、一定の運動に保たれたままにされ得る。そのようなエネルギー源またはモーターがどのように実現され得るのかを正確に論じることは、発明の範囲を超える。化学物質、光、直流、および外部電界を含む、そのようなモーターを実現するための多くの手法およびそのようなモーターに動力供給するための多くの手法が存在することは、マクロスケールモーターおよびバイオモーター(たとえば、ATPアーゼ、べん毛)と合成モーターとを含む分子スケールモーターの両方での実質的な研究を含む文献から、明らかである。
【0144】
クロックのための他の設計は、リンクおよびロータリージョイント以外のパーツを導入するので、技術的にMLLの定義に入らない。しかしながら、MLLシステムに接続される代替のクロッキングシステムの使用は有用性を有し得るので、そのような代替のクロックの実現が最小のエネルギー散逸のためにどのように設計され得るかが説明される。さらに、単一のクロックが多くの論理要素をドライブし得るので、たとえクロック自体がいくらか散逸的であろうと、全体的な計算は依然として、まったく効率的であり得る。
【0145】
1つの代替のクロッキングシステムは、好ましくは高いQファクターを有する、単純な調波発振器を使用することだろう。単純な調波発振器の使用は、単一のクロッキング周波数が使用され、クロッキング周波数が非常に単純なメカニズムによって提供される、という利点を有する。そのような発振器を使用して、コンポーネントは、正弦のようなクロック信号(タイミングの目的のために間にフラットなエリアを有する0と1との間の正弦のような遷移を有する信号を含む)を使用するように好ましくは設計され、(たとえば、1つの移動するパーツが別の移動するパーツと衝突する場合のように)それらが動作中に著しくより高い周波数の高調波を発生させないような手法で設計されるだろう。あるいは、単純な発振器の合計が使用され得、合計は所望のクロック信号に近似する。十分な数の発振器の使用は原理的に、追加のパーツを犠牲にして、所望されるほど精確に所望のクロック信号に近似し得る。調波発振器を実現するための1つの手法は、(フレクシャまたは同様の目的の他の構造が含まれる)ばねによるものであり、それは、リンクと同一の材料を含む、適切な特性およびばね定数を有する任意の材料で作られ得る。
【0146】
カムおよびカムフォロアは、クロック信号を発生させるための別の手法である。カムおよびカムフォロアは、後に説明されるように、非常に滑らかなクロック信号を発生させるために使用され得る。カムはまた、本質的に任意の波形を有するクロック信号を発生させるために使用され得る。カムは、たとえば、いずれかの端でロータリージョイントによって支持される回転リンクから作られ得る。リンクはかくして、カムシャフトとして使用され得るアクスルを形成する。カムは、カムシャフトに固着させられるだろう(または、それが適切な断面形状を有することを想定すると、カムシャフトは実際にカムであり得る)。カムフォロアは、たとえば、レバーアームに接続された2つのロータリージョイントに接続されたホイールを使用して、組み付けられ得る。カムシャフトを回転させることは、カムを回転させるだろう。カムフォロアのホイールは、カムの上に乗ったり降りたりして、レバーアームがそれとともに上がったり下がったりするようにさせる。レバーアームは、適切なリンク機構におけるリンクだろう。たとえば偏心ローターおよびステーターを有する、カムフォロアがカムを取り囲むかまたはその逆も同様である設計だけでなく、カムが単純に行ったり来たり揺れ動くかまたはそれ自体がプログラムの制御下で移動する設計といったカムが行う運動のタイプにおける変形例、ならびに、上記のおよび明らかな変形例の組み合わせを含む、カムおよびカムフォロアのための多くの他のジオメトリおよび相対的な位置が使用され得る。
【0147】
角度および距離は化学結合の性質によって量子化されるので、滑らかな曲線が分子レベルでどのように作られ得るかは明らかではないかもしれない一方で、この問題は克服され得る。たとえば、ダイヤモンドにおいて、埋没させられたローマー転位が、ロンズデーライト(六方晶ダイヤモンド)カムの表面上の滑らかな曲線を作成するために使用され得る。同様に漸進的な変化は、結合パターンの変化を使用すること、異なる原子半径の要素の組み込み、単一の原子または複数の原子をわずかにずらすためにひずみを使用すること、またはナノチューブのような自然にカーブさせられた構造を使用することにより、ダイヤモンドおよび他の材料によって達成され得る。これらの戦略を使用して、カムおよびカムフォロアの分子の実現(そして実際に、そのようなシステムの任意の部品)は、単一の原子直径下の距離までさえも、ほとんど任意に精密な耐性に作られ得る。
【0148】
クロック信号を発生させるために回転質量を使用することは、ロータリージョイントおよびリンク、すなわち、MLLシステムの基本パーツのみを要求する。カムおよびカムフォロアが使用された場合、カムフォロアのレバーアームをホイールに接続するロータリージョイント、およびカムの回転を可能にするものは、もう一度言うが、すでに論じられている。しかしながら、カムに基づいたシステムでは、カムとカムフォロアのホイールの表面との間の回転接触が存在し、MLLの基本パーツを考慮する場合、状況が存在しない。これは所望されない滑り摩擦を生み出すメカニズムのように見え得る一方で、それは必要ではない。2つの表面は、互いの上で滑る必要はないが、むしろ同期的に回転しなければならない。解析は、分子スケール、原子的に精密な(またはほぼそうである)実現を特に考えると、そのようなメカニズムからのエネルギー散逸が非常に低いことを示す。
【0149】
そのような分子スケールのメカニズムにおいて、ホイールの形状における非常にわずかな歪み、および表面とホイールとの間の引力(ファンデルワールス)の非常にわずかな変化は、非常にわずかなフォノンの発生を引き起こし得る。カムフォロアの見地から見ると、ホイールおよび表面は、それらの中の結晶構造の非常に高い周波数偏移以外は静的であるだろう。結果として、低周波フォノンの発生は存在しないはずである。そして、熱雑音によって引き起こされる慣性および位置の不確定さは、たとえ出力上のローパスフィルタ(それは、所望されるのであれば使用され得、たとえば、単純なばねおよび質量デバイスとして実現され得る)が欠如していても、メカニズムがカム上の信号における最も高い周波数成分を再現可能であることを防止するであろう。
【0150】
また、さまざまな相殺方法が、カムの表面上で符号化される高周波信号成分を最小化するために使用され得る。これは、たとえば、各々の軌道がある距離だけ互い違いに配列されているカムの表面上の複数の軌道を読む複数のカムフォロアホイールを使用することによって、行われ得る。そして、カムフォロアに各々のカムフォロアホイールを取り付けることは、高周波雑音信号の少なくともいくらかを相殺して、それらの出力を効率的に合計または平均するであろう。任意の数の軌道および各々の軌道のための任意の所望の形状を有するカムフォロアホイールが使用され得(たとえば、異なる相殺信号が各々の軌道において符号化され得る)、集約信号の任意の精確さという結果を生じる。高周波雑音を減じるための別の方法は、カムが作られる材料の結晶軸を回転させ、それらと噛み合っているホイールの結晶構造の対応する回転を行うことであろう。カムおよびカムフォロアの結晶の回転および幅を適切に選定することにより、他の高周波信号は、カムがカムフォロアホイールに接触する際のタイミングおよび原子間間隔の変化ゆえになくされることができる。高周波信号の伝達を減じるさらなる別の方法は、カムおよびカムフォロアのシステムの残りの部分への連結の剛直さを減じることである。たとえば、カムフォロアアームのばね定数を減じること、またはカムフォロアが据え付けられる結合の剛直さを減じることは、高周波信号のフィルタリングに役立つであろう。
【0151】
これらの例を考えると、これらが高周波成分を減じるための唯一の手法ではないことは明らかであろう。回転接触におけるパーツが高周波信号を作成も伝達もしないことを保証するための多くの手法が存在し、原子的に精密なパーツの使用は、特にそのような信号の最小化を可能にする。カムフォロアが、その表面において符号化されたクロック信号にしたがって、カーブさせられたカムの表面上を昇り降りすると、それは、カムの表面を慣性力の影響下にするであろう。カムフォロアの各々の加速または減速は、カムの表面上の対応する力を生み出すだろう。これらの周期的な力は、クロック周波数でフォノンを作成するだろう。エネルギー散逸のこの源は、2つのカムフォロアが2つのカムに追従し、2つのカムが等しいが反対の信号を符号化する場合に相殺され得る。そして、クロック周波数は任意であるので、この周波数は、機械的な振動モードへのクロック信号の高周波成分の連結によって引き起こされるエネルギー散逸が所望のレベル下になるまで、減じられ得る。
説明されたカムフォロアメカニズムは、カムがカムフォロアを押し出している場合に相対的に強い力を及ぼし得る、ということに注意する。しかしながら、反対方向の移動中、力は、カムとホイールとの間のファンデルワールス力によって制限される。これは、必要である場合、たとえば、カムフォロアがそれらのそれぞれのカムの反対側にある、(互いに対し適切に回転させられた符号化された信号を有する)2つのカムフォロアおよび2つのカムを使用することにより、整流され得る。この第1のカムフォロアは、1つの方向の強い力を及ぼし得る一方で、第2のカムフォロアは、反対方向の強い力を及ぼし得る。
【0152】
例示的なスイッチング時間の解析
単純なニュートン運動の基本的な構成方程式およびリンクのサイズおよび物理長についての想定は、MLLメカニズムの分子スケールの実現のためのスイッチング時間、質量、力、および共振周波数の解析に適用され得る。具体的な例を提供するために、いくつかの想定がなされなくてはならず、そのすべては、正確な実現に依存して大いに異なり得るが、所与のシステムの正確なパフォーマンスはポイントではなく、むしろ目標は、例示的な分子サイズのシステムの1つの可能な動作速度の推定を算出することである。リンクは、~20nmの長さおよび約0.5nmから0.7nmの直径であることが想定される。リンクは、ダイヤモンドまたは同様の材料で作られ、それらの剛直さを増大させるために筋違を入れられること(たとえば、単なる一直線の梁よりもむしろ三角形の筋違を有する梁)が想定される。
「0」と「1」との間の位置の差は、~2nmであることが想定される。ロータリージョイントは、
図1に示されたものであるように想定され、システムは、室温で動作していることが想定される。これらの想定は、リンクおよびロータリージョイントの剛直さの算出を可能にする。共振周波数を決定するために、質量が決定されなくてはならない。
【0153】
典型的なメカニズムの質量は広く異なり得る。たとえ所与のタイプのリンクを使用しても、質量は、メカニズムが単一の4節リンク、ロック、バランス、論理ゲート、等であるかどうか、およびそのような構造の正確な実現に依存してまったく異なるであろう。端数のない数字を使用するために、リンクの移動質量は、約8×10-23kgであり得る一方で、いくつかのリンクで作られたメカニズムの移動質量は、10-21kgのオーダーであり得る。これらの想定を使用すると、例示的な分子スケールのメカニズムのための共振周波数は、約13GHzであり得る。矩形波クロック信号は、必要なエネルギー散逸よりも実質的に高いものにつながるであろう。したがって、クロック波形は、正弦波として発生させられるか、所望されない高周波成分を減じるためにガウシアンによって畳み込みされるか、または所望されない共振の発生を最小化するために標準的な線形システム理論を使用して最適化される、ということが想定される。加えて、保存的であるために、クロックは、算出された13GHzの共振周波数を優に下回る周波数で動作させられ得る。ちょうどどれほどのエネルギー散逸が許容できるか、誤差のためのマージンがどれほどであるか、といったさまざまな想定に依存して、これは、1nsから10nsの範囲のスイッチング時間という結果を生じる。明らかに、これは単なる例示にすぎない。より大きな構造は、より遅い速度で動作するであろう一方で、より小さい構造、より剛直な構造、「0」と「1」との間のより短い距離を移動する設計、より低い動作温度、または想定される保存的な設計パラメータのいくつかの緩和は、より速いスイッチング時間という結果を生じるであろう。
【0154】
MLLの概要
MLLは、ロータリージョイントおよびリンクのみを使用して、ライン、論理ゲート、ロック、バランス、スイッチゲート、およびシフトレジスタを含むメカニズムを作成することが可能であることが示されている。MLLは、単独(たとえば、NANDまたはフレドキンゲート)または集約のいずれであっても万能な論理ゲートのさまざまな組み合わせを使用することによって、任意の組合せ論理を提供する。順序論理、およびしたがってメモリは、フリップフロップまたはセルによって提供され得、それは、シフトレジスタに組み合わせられ得る。
【0155】
組合せ論理および順序論理の両方の利用可能性を考えると、完全な計算システムがMLLを使用して構築され得ることは明らかであろう。たとえば、周知のチューリング完全なアーキテクチャであるノイマン型は、3つの主要なコンポーネント、すなわち、制御ユニット、算術論理ユニット、およびメモリを要求する。組合せ論理およびフリップフロップを使用して、制御ユニットとして使用され得る有限ステートマシンが作成され得る。組合せ論理は、算術論理ユニットを作成するために使用され得る。そして、フリップフロップは、メモリを作成するために使用され得る。これが、完全な計算システムのために必要とされるすべてである。当然のことながら、そのようなシステムは、ノイマン型に基づいている必要はない。すなわち、これは単に、チューリング完全なシステムのすべての必要なコンポーネントがMLLを使用して提供され得るという事実を説明するための例である。使用される正確なメカニズムおよび用いられるクロッキングスキームに依存して、MLLに基づいた計算システムは、非可逆的、可逆的、または何らかのその組み合わせであることができる。リンクおよびロータリージョイントのみを使用して機械式コンピューティングメカニズムおよび完全な計算システムを作成するための能力は、減じられた摩擦(およびしたがって、動力消費および廃熱の発生)、デバイスの設計および製造の単純化、およびデバイスの堅牢さ(たとえば、機械式論理がその構成パーツの融点付近まで機能し得るのに対し、電子式コンピューティングが限界温度でバンドギャップの問題に悩まされることを考えると、多くの他の既知の計算システムによって可能にされるよりも高い限界温度での動作)を含む利点を提供することができる。
【0156】
機械式フレクシャ論理
フレクシャは、MLLにおいて使用されるロータリージョイントに取って代わることができ、機械式フレクシャ論理(「MFL」)という結果を生じる。ロータリージョイントをフレクシャで代用することにより、すべてのMLLメカニズムは、類似のMFLメカニズムを有する。たとえば、
図30は、
図7において描かれたMLLロックのMFLバージョンを示す。リンク3003および3004の、それぞれリンク端3001および3002は、入力メカニズムが接続され得る1つの場所である。リンク3003および3004のアンカリングされたリンク端3007および3008は、アンカリングされたロータリージョイントと類似するように動作する。ロックのMFLバージョンには実際のロータリージョイントは存在しないことに注意する。むしろ、準円形の切り欠き3005および3006によって例示されるフレクシャが、構造のさまざまなパーツ間の曲げることが可能なポイントを提供する。これらのフレクシャは、それぞれ三角形のリンク3010または3011を通って、それぞれリンク端3012または3013(それらは出力であると考えられ得る)へと伝達されるために、リンク端3001または3002で入力され得る、力を可能にする。リンク3009は、
図7の同一平面上のMLLロックにおけるリンク709と同一の目的としての役割を果たす。
図30のメカニズム全体は、単一の材料から作られることができ(そうである必要はないが)、異なるリンクは、モノリシックであるが、それらはフレクシャによって拘束されるので論理的に分離可能である。
【0157】
概して、MFLおよびMLLロックの移動および機能は完全に類似しているが、MFLにおけるリンク間の相対角度の変化は、ロータリージョイントの代わりにフレクシャによって容易にされる。ロックがMFLとMLLとの間の類似を論証するために使用される一方で、同一の類似が任意のメカニズムの間で生み出され得、したがってロータリージョイントをフレクシャで置き換えることにより、チューリング完全なシステムがMFLを使用して作られ得ることは明らかであろう。当然のことながら、フレクシャは、適切な材料を要求し、それはリンクのものとは異なり得、フレクシャのジオメトリは、
図30において描かれたもののみである必要はない。フレクシャは、機械技術において周知であり、適切な設計および材料が、ほとんど任意の運動度、サイズ、動作温度、または他のパラメータのために適応させられ得る。
【0158】
機械式ケーブル論理
MLLに(それゆえにMFLにも)類似するコンピューティングメカニズムおよびシステムを実現する別の方法は、リンクおよびロータリージョイントをケーブル、プーリー、およびノブと置き換えることである。この設計パラダイムは、機械式ケーブル論理(「MCL」)と呼ばれる。基本パーツまたは基本要素に関し、MCLのケーブルは、MLLのリンクと類似し、MCLのプーリーは、MLLのロータリージョイントと類似する。ノブは、MLLまたはMFLにおける直接的な対応物を有しない追加の基本要素である。ノブは、たとえばロックを作成するために、ケーブルのインタラクションを支援し、その点において、たとえパーツ自体が直接的な類似物を有しなくても、類似の論理機能を有するメカニズムの構築を支援するために使用される。本明細書における教示を考えると、ケーブルに力を印加することにより、ケーブルを下って所望される他のメカニズムに移動が伝達され得ることが明らかであろう(それゆえにリンクに対するそれらの類似物である)。同様に、プーリーが、他の目的の中で、所望される任意の方向に移動がルーティングされ得るようにケーブルにおける曲げを可能にするために使用され得ることは明らかであろう(それゆえにロータリージョイントに対するそれらの類似物である)。
【0159】
MCLの基本要素は、他の構造の中でも、バランスおよびロックを作成するために使用され得る。バランスおよびロックのMCLの実現は、「ブラックボックス」の観点から見ると、それらのMLLの対応物と異なるように見え得るが、MCLのバランスおよびロックは、MLLにおけるそれぞれのメカニズムと論理的に同等であるように実現され得る。これを考えると、MCLもまた、チューリング完全なシステムを提供する。
【0160】
軌道およびチャネル
MLLのロータリージョイントと同様に、MCLのプーリーは、アンカリングされることもアンカリングされないこともできる。しかしながら、MLLにおいてリンクは剛性であり、これは、アンカリングされていないロータリージョイントの移動を制約するのを支援する。
MCLではケーブルは剛性ではないので、適切なジオメトリの制約は、異なる作法で提供される必要がある。これを行う1つの手法は、そのようなラインに接続されたプーリーが、この例ではクロックラインが移動しない限り移動できないように、適切なケーブル(たとえば、クロックケーブル)上の張力を保つことであり、そのケースにおいて、プーリーの移動は、クロックケーブルが定義する経路に制約される。この問題に対処する別の手法は、そのような制約が必要なリンク上にプーリーを据え付けることであろう(すると別の基本要素が要求されるが、これはMLLとMCLとの間の区別を曖昧にするので、そのような実施形態はさらには扱われない)。さらなる別の手法は、チャネル、軌道、またはアンカーブロック上の他の誘導手段の使用である。誘導手段にスライドするように固着させられるおかげで、アンカリングされていないプーリーの運動は適切に制約される。
【0161】
図31および
図32は、チャネルにおいてスライドすることができるプーリーの、それぞれ上面図および側面図を示す。アンカーブロック3101は、チャネル3104を含む。プーリー3102は、アクスル3103とともにモノリシックであるか、またはアクスル3103に(固定されて、または回転するように)接続される。アクスル3103は、それ自身およびプーリー3102をチャネル3104にスライド可能に接続する。アクチュエートするケーブル3105が、アクスル3103に固着させられ、チャネルにおけるプーリーの移動を可能にする(たとえば、クロックラインを使用してアクチュエートする)。これが、プーリーの移動をアクチュエートおよび誘導し、プーリーを軌道、チャネル、または他の誘導手段に固着させる1つの手法ではないことに注意する。それがチャネルから出てくることができないように突出する拡張された下方パーツを有するアンカーブロックを通って伸長するアクスルを有するプーリー、同一の目標を達成し得る斜角をつけられたチャネルおよびアクスル(たとえば、縦断面における蟻継ぎと同様)、または両者の間にプーリーをピン留めする別のアンカーブロックとともにプーリーの上部に別のアクスル構造を追加することといった、多くの他の設計が明らかであろう。
【0162】
誘導手段を提供する別の手法は、アンカーブロック上に据え付けられたレールであり、プーリーは、多くの既知の手段のいずれか1つにおいてレールに固着させられる。ポイントは、正確な機械的実現ではなく、むしろ、ケーブルのフレキシビリティに鑑みて、好ましくは少ない摩擦を有する、何らかの誘導手段を提供することであり、多くの周知の誘導手段のいずれかが使用され得る。
【0163】
プーリーの運動がリンクの必要なしにどのように制約され得るかをここで理解すると、MLL、MFL、およびMCL間の類似は、説明するのが容易になる。MLLにおいてロックおよびバランスは(それらが唯一の手法なわけではないが)、チューリング完全なシステムを作成するのに十分である、ということがすでに示されているので、類似のメカニズムがMCLにおいて存在する場合、MCLもまた、チューリング完全なシステムを作成するために使用されることが可能であるということになる。基本的な基本要素に関し、MLLのリンクは、MCLのケーブルに例えられることができ、MLLのロータリージョイントは、MCLのプーリーに例えられることができる、ということがすでに述べられている。これを証明し、ケーブルおよびプーリーがチューリング完全なコンピューティングの根底をなすメカニズムを作成するためにどのように使用され得るかを正確に示すために、ロックおよびバランスの設計が説明される。
【0164】
MCLロック
ロックは、ケーブルまたは他の構造と一体化させられた、またはそれらに固着させられたノブを使用して、MCLにおいて作成され得る。適切な設計により、これらのノブは、MLLロックの特徴の再現を可能にする。具体的には、2つの入力を有するバイナリの実施形態に関し、(0,0)のアンロックされた状態からは、2つの許容できる移動、すなわち、(0,0)のアンロックされた状態からロックされた状態である(0,1)または(1,0)のうちの1つへの移動が存在する。ロックされた状態のいずれかからは、唯一の許容できる移動は、アンロックされた状態に戻ることである。ノブが便宜的に事実上任意の構造に取り付けられることができない理由は存在しないこと、ロックの組み付けはノブの使用のみではないことに注意する。
【0165】
所望の論理を実現するための1つの手法が、
図33A~
図33Cに描かれている。
図33Aにおいて、第1のケーブル3301は、第2のケーブル3302と交差する。2つのノブ3303と3304、および3305と3306はそれぞれ、各々のケーブルに固着させられる。
図33Aは、いずれのケーブルも自由に移動することができる、(0,0)位置におけるロックを示す。
図33Bは、第2のケーブルが移動しており、かくして、第2のケーブルのノブのうちの1つ3305が第1のケーブルのノブ3303と3304との間にあり、いずれの方向へのそれらの移動も防止する、という事実のおかげで第1のケーブルをロックする、(0,1)位置におけるロックを示す。
図33Cは、第1のケーブルが移動しており、かくして第2のケーブルをロックする、(1,0)位置におけるロックを示す。
【0166】
ノブにロックとしての役割を果たすことを可能にさせる多くの他の設計が可能である。
図34、
図35、
図36、および
図37は、ロックにおいて(0,1)または(1,0)の状態から唯一可能にされる移動が(0,0)であるという制約を強制もし得る、例示的なノブの設計を描く。このノブの設計は、より複雑であるが、所望のロック論理を作成するために、4つの代わりに2つのノブのみ(各々のケーブルにつき1つ)を要求する。
【0167】
図34は、単一のノブ3401を示す。一般的にケーブルは、いずれかの端に取り付けられるであろうが(図示せず)、そのようなノブは、MLLリンクに接続されるといった他のシナリオでも使用され得る。
【0168】
図35は、2つのそのようなノブ3501および3502がロックを形成するためにどのようにして互いに噛み合うのかを示す。この図面では、(いずれのノブも他方の移動をブロックするように位置決めされることを意味する)ブランク状態のロックが示されている。
【0169】
図36および
図37は、(0,1)および(1,0)状態の同一のノブ3501および3502を描く(またはその逆もまた同様である。すなわち、メカニズムは対称であるので、0のノブとして定義されるノブおよび1のノブとして定義されるノブは任意である)。
【0170】
これらのノブの形状と、ブランク、(0,1)、および(1,0)状態におけるそれらの相対的な位置とを詳細に調べることにより、2つのケーブルまたは他の構造がそのようなノブの適切な移動によってインタラクトする場合、(0,1)または(1,0)状態から可能にされる唯一の移動が(0,0)状態へのものであるという、その制約が強制されることが理解され得る。
【0171】
MCLオーバル
概念的に、「オーバル」と呼ばれるMCLにおける構造を定義することが有用であり得る。というのも、基本パーツのこの配列がバランスおよびシフトレジスタといったより複雑なメカニズムを作成するための1つの手法であるからである。
【0172】
図39に描かれているように、オーバルを実現するための1つの手法は、ケーブル3801(クロック信号を提供するものを含む入力/出力としての役割を果たすケーブルとそれを区別するために「論理ケーブル」と呼ばれるが、論理ケーブルは、セルおよびシフトレジスタを形成するために使用され得る交差させられたオーバルのケースにおけるように、入力/出力をも提供し得るので、この区別は説明の明確さのためのものにすぎない)のクローズドループを使用し、それは、ノブ3802のような1つ以上の構造を含み得、それは、プーリー3803のような1つ以上のプーリーを回る(2つのプーリーが描かれているが、形状、長さ、振動およびエントロピーの特徴、または名称にかかわらず楕円の形状である必要はないオーバルの他の特徴を変化させるために他の数が使用され得る)。プーリーの1つ以上がアンカリングされ得ない場合、軌道3804のような誘導手段が含まれ得る。アンカリングされていないプーリーは、たとえばクロック信号に結び付けられ得る、ケーブル3805によってアクチュエートされ得る(それらの誘導手段に沿って移動させられる)。
【0173】
本明細書のどこか他の箇所において説明されているように、ハウジング3806によって例示されるもののような1つ以上のケーブルハウジングがエネルギー損失を減じるために含まれ得る。ノブは、他の構造とのインタラクションを容易にし、1つ以上の入力/出力ケーブル3807および3808に接続され得る。それ自身により、およびその最も単純な形態において、オーバルは単に入力を受け取り、それを出力として受け渡し得る(が、そうしなくてはならないわけではない)。たとえば、ケーブル3807が移動し、プーリーがアンカリングされる場合、論理ケーブルの反対側もまた移動しなければならず、ケーブル3808の移動を引き起こす。かくして、オーバルはデータをリレーし得るが、実質的な計算は行われていない。しかしながら、オーバルは、(たとえば、他のオーバルまたはケーブルを含む)他の構造とインタラクトすることによって計算を実行するように設計され得る。ロックと連結される場合、これは、MCLによってバランスを組み付けるための1つの手法である。
【0174】
MCLバランス
図39は、オーバルの一部としてのバランスを描く。バランスおよびオーバルはまた、シフトレジスタの一部としての役割も果たし得る。バランスは、プーリー3902および論理ケーブル3901の左部分を含む。
図39は、アンカリングされていないプーリーとデータ入力を提供する2つの交差させられたケーブルとを有するオーバルを描くが、2つの交差させられたケーブルは、たとえば、データケーブルまたは別のオーバルに由来する。ケーブルハウジングのようなオプションの構造は明確さのために省略され、例によってアンカーブロックは存在することが想定されるが、描かれていない。論理ケーブル3901は、プーリー3902(および符号のない2つ組のもう片方)を回る。両方のプーリーは、3903によって例示された軌道上に据え付けられる。クロックライン3904は、プーリーをプルすることによってメカニズムをアクチュエートし、それは、それらがそれらの軌道においてスライドするようにさせるであろう。論理ケーブルは、ノブ3905と3906、および3907と3908の2つのペアを有する。ケーブル0 3909およびケーブル1 3910は、オーバルに入力を提供する。各々の交差させられたケーブルは、それぞれ、ノブ3911と3912、および3913と3914のペアを有する。オーバルと交差することにより(この図面では直角だが、他の角度および設計が使用され得る)、ケーブル0および1は、オーバルのノブとインタラクトするようにそれらのノブを位置決めし得る。三角形のノブ3915および3916(それらを他のノブと視覚的に区別するためだけに三角形として示されているが、この形状は重要ではない)が、1の出力ライン3917および0の出力ライン3918にそれぞれ接続される。この構成は単なる例示にすぎない。出力ラインは、ちょうど容易に、たとえば、異なるふうに位置決めされ得るか、または、別個のノブを使用するよりもむしろ適切なロックノブに接続され得る。
【0175】
図39、
図40、および
図41は、入力ケーブルのノブの位置が異なるだけである。
図39において、両方のロックは、メカニズムがアクチュエートされても入力ケーブルのノブと論理ケーブルのノブとがインタラクトしないことを意味する、ブランク位置にある。
図40では、ケーブル3909がノブ3911および3912を移動させているので、ノブ3911は今や、論理ケーブル上のノブ3905および3906の2つの間にある。ゼロの入力ラインが移動しているので、これは0の入力とみなされ得る。メカニズムがこの状態でアクチュエートされると、ノブ3905、3906、3911、および3912が次にロックされるロックを形成するので、オーバルの上側は移動することを禁止されるだろう。
【0176】
図41では、ケーブル3909は移動していないが、その代わりにケーブル3910が移動している。1のケーブルが移動しているので、これは1の入力とみなされ得る。効果は、ノブ3907と3908との間にノブ3913を配置することによりオーバルの反対端をロックすることである。オーバルの一方の側または他方のこのロックは、MLLバランスにおける適切なリンクの一方の側または他方をロックすることと類似する。オーバルに基づいたバランスの機能は、以下のとおりである。すなわち、プーリーの開始位置がそれらのそれぞれの軌道の左側にあることを想定する。入力が設定される場合、入力ケーブルは、オーバルの上側または下側のいずれかをロックする。クロックラインが続いて、プーリーを左から右に移動させる。プーリーの横の移動は、入力にかかわらず同一である。しかしながら、移動する論理ケーブルの側は入力によって決定される。論理ケーブルのどちらの側がロックされようと、強制的に固定されたままにされる。したがって、プーリーが移動する場合、論理ケーブルのアンロックされた側のみ移動する。これは、0の入力が提供された場合には0の出力ラインの移動、1の入力が提供された場合1の出力ラインの移動という結果を生じる。
【0177】
図42は、1の入力が提供され、続いてクロックラインがプーリーを右に移動させたことを想定するメカニズムの位置を示す。ノブ3913がノブ3907と3908との間に移動していたので、オーバルの下側がロックされた。したがって、プーリーが右に移動する場合、論理ケーブルは、唯一の可能な手法で、すなわち、ノブ3915およびかくして1の出力ライン3917が右に移動するように論理ケーブルを転回させることにより、追従しなくてはならない。
3909および3910といったデータケーブルは、オーバルに入力を提供する唯一の手法ではなく、3917および3918のような出力ケーブルは、オーバルから出力を得る唯一の手法ではない、ということに注意する。たとえば、交差させられたオーバルが直接的にインタラクトすることができ、1つのオーバルの論理ケーブルが、隣接するオーバルへの入力としての役割を果たす。ロックに連結される場合、入力がオーバルのどちらの側が移動するかを制御するために使用され得ることを考えると、これは、MLLまたはMFLバランスの機能と類似する。そして、チューリング完全なシステムは、MLLにおいてロックおよびバランスのみを使用して可能にされることが示されたので、MCLもまたチューリング完全なシステムを実現できるということになる。
【0178】
移動質量
いくつかのMCLの実施形態の1つの利点は、MLLまたはMFLのいくつかの実施形態と比較して減じられた移動質量である。ケーブルは剛性であることを要求されないので、それらは、同等の長さのMLLリンクより小さい断面およびそれに対応してより少ない質量を有することができる。この原理の従来の例は、梁のような構造の質量とケーブルの質量を比較することである。一般的に、引張力に耐性がありさえすればよい構造は、たとえば圧縮力または曲げ力にも耐性がなくてはならない構造より少ない質量で作られることができる。分子スケールで、ケーブルとして使用されるかもしれない強力だがフレキシブルな構造の例は、カルビン(線形アセチレンカーボン)、ポリアセン、ポリエチレン、およびポリイセアンを含むが、多くの他の構造が使用され得る。
【0179】
ケーブルの使用についての潜在的な不利点は、より剛直な構造には存在しないであろう振動モードを、フレキシビリティが可能にし得ることである。さらに、これらの振動モードは、ケーブルの所与のセクションの長さが変化する場合に変化し得る。たとえば、2つのプーリー間の距離が変化し、それらの間のケーブルセグメントの長さを変化させる場合、可能にされる振動モードは、ちょうど異なる位置のギターの弦のフレットを押さえるように変化し得る。これはまた、システムに対するエントロピーの変化という結果を生じる。これらの効果のいずれかは、エネルギー散逸につながり得る。
【0180】
しかしながら、これらの振動およびエントロピーの問題は、メカニズムの移動質量を依然として低く保ちながら対処されることができる。これは、ケーブルが自由に振動できないようにするといった手法でそれらを制約することにより達成され得る。この概念の一実施形態は、ケーブルをアンカーブロックにおけるトレンチに横たわらせることであろう。
そのようなトレンチは、長方形の断面を有するものと考えられる場合(これがそのケースである必要はないが)、3つの側面でケーブルを制約し、4つ目の側面は、プーリーとインタラクトするためにトレンチからのケーブルのルーティングを容易にするように開いている。すべての側面でケーブルを制約すること、たとえば、ボーデンが被覆またはハウジングでその内部ケーブルをくるむ手法もまた可能である。この被覆が相対的に剛性であり、被覆の内部空間がケーブルと比較して適切なサイズである場合、本質的に何の振動も被覆内で可能にされないだろう。これの分子の例は、(9,0)SWNT(単層ナノチューブ)におけるポリインケーブルであろうが、明らかに多くの構造が使用されることができ、好ましくは、剛性であり、ケーブルと被覆とを緊密にフィットさせ、ケーブルが被覆の中を自由にスライドすることを可能にする(しかし、実質的に振動させない)ものである。
【0181】
ケーブルの短いセグメントが、トレンチ、被覆、または他のタイプのハウジング間で、およびケーブルがプーリーに接触するところで、露出され得る一方で、これらのセグメントは、ケーブルの全長と比較すると相対的に短く、ケーブルの振動およびエントロピーの変化からのエネルギー損失を無視する。ケーブルハウジングがケーブルとともに移動する必要はないので、移動質量は低く保たれ、フレキシブルなケーブルの代わりにより質量の大きい剛性リンクを要求するシステムと比較するとより高いスイッチング周波数を有するシステムを潜在的に可能にする。
【0182】
また、ケーブルシステムは、ハウジングの内部の流体とともに実現され得る。ハウジングの一端の固体プラグが流体をプッシュし、それが今度はハウジングの反対端の別のプラグをプッシュする。ケーブルのクローズドループのように、いずれかの端でアクチュエートすることにより、これは、適切な端をアクチュエートすることによってプッシュまたはプルされ得る「ケーブル」(流体で作られるが、それは気体を含む)を有効に提供することができる。そのような設計はまた、固体のリンクまたはケーブルを介するよりもむしろ油圧でパーツを移動させるバランスおよびロックを実現するために使用され得る。油圧システムは、従来からケーブルとは呼ばれない一方で、それは、論理的および機械的機能が固体のケーブルのものとほとんど同一であるので、ここでのケーブルシステムに考慮される。
【0183】
タイプ1~4のシステム
先に言及されているように、ラチェットおよび歯止め、戻り止め、ばね、またはシステムの計算の自由度に直接的に結び付けられないように位置エネルギーを貯蔵し、続いて放出する、他のメカニズムの使用ゆえに、機械式コンピューティングのためのすべての既存のチューリング完全なシステムは、タイプ1にカテゴライズされ得る。可能なエネルギーの節約、すべての他の同等の点ゆえに、タイプ2~4のシステムはタイプ1のシステムよりも好まれるが、タイプ4のシステムが最も好まれる。MLL、MFL、およびMCLはすべて、タイプ2~4のシステムを作成する能力がある。実際、本明細書において説明された実施形態のほとんどは、タイプ4のシステムという結果を生じる一方で、いくつかのメカニズムに(たとえば、バックラッシュを可能にするために、
図9に描かれた漸進的なロックと他のメカニズムとの間に)たとえば、ばねを追加することは、タイプ2のシステムという結果を生じ得、たとえば、わずかではないある頻度でロックを(0,0)状態にしたままにし得るいくつかの設計は、タイプ3のシステムという結果を生じ得る(これは適切な設計によって回避され得るが、本明細書において説明されたメカニズムにおいて見られ得るように、(0,0)状態にあるロックは、パーツが自由に移動できることを意味する必要はない)。
【0184】
フレクシャは、それらのまさにその性質により、位置エネルギーを貯蔵するように見え得るので、MFLがタイプ3~4のシステムを作成するために使用され得るということは、すぐに理解されないかもしれない。実際、フレクシャに基づいたいくつかの設計は、位置エネルギーを貯蔵し、続いてそれをシステム上で何らかの効果へと放出するためにフレクシャを使用する場合、タイプ1またはタイプ2にカテゴライズされるだろう。しかしながら、MFLにおいてフレクシャが位置エネルギーの貯蔵のために使用される必要はない。むしろ、それらの機能は、ちょうどMMLにおける類似構造であるロータリージョイントがするように、もっぱら運動学的抑制を提供することであり得る。そのようなものとして、フレクシャを曲げるために必要とされる力は、フレクシャが、関連した自由度に対し必要な剛性を依然として提供する限り、任意に小さいことができる。これは、フレクシャの位置エネルギーの貯蔵が、ちょうどMCLケーブルの延伸、またはMLLリンクの延伸、曲げ、あるいは圧縮において貯蔵される位置エネルギーのように、わずかなものであり得る、という結論につながる。
【0185】
さらに、たとえフレクシャを曲げるために要求される力が実質的なものであったとしても、フレクシャはタイプ3~4のシステムにおいて移動をアクチュエートするために使用されていないので、フレクシャの正味の位置エネルギーが本質的に0であるシステムが設計され得る。たとえば、リンクに接続されたフレクシャのペアは、反対方向にプレストレスを与えられ得る。一方向へのリンクの移動は、フレクシャの1つの位置エネルギーを増大させるであろう一方で、他のフレクシャの位置エネルギーを減少させ、何らかの可能にさせられた運動範囲を超える正味の変化がない(したがって、リンクを移動させるために要求される力の正味の増大もない)という結果を生じる。
【0186】
概要
機械式コンピューティングのための3つの例示的なパラダイム、すなわちMLL、MFL、およびMCLが説明されている。これらのパラダイムの各々は、チューリング完全な計算システムを作成するために要求される組合せ論理および順序論理の両方を提供する能力がある。各々の設計パラダイムはまた、可逆コンピューティングを可能にし、分子スケールのメカニズムのシミュレーションは、MLLの適切に設計された実施形態が、ランダウアーの限界下のエネルギー散逸のレベルによって計算できることを示す。MFLおよびMCLが同様の効率を提供できないと考える理由は存在しない。
【0187】
4つのクラスのコンピューティングシステムが説明され、タイプ1~4と呼ばれている。
タイプ1のシステムは、エネルギー効率のための最も低い最終的な潜在性を有し、唯一、以前から可能にさせられている計算システムのタイプである。MLL、MFL、およびMCLは、物理および論理並列回路を共有し、ある意味、同一の概念の3つの実施形態である。各々は、チューリング完全なコンピューティングの能力のみならず、減少させられたエネルギー散逸を可能にする(単独またはお互いとの組み合わせによる)タイプ2、タイプ3、およびタイプ4のシステムを提供する能力をも有する。各々はまた、非常に少ない数のタイプの必要とされる基本要素を有し、MLLおよびMFLは、2つの基本パーツしか必要とせず、MCLは3つを必要とし、システムの設計、製造、および組み立ての複雑さを減じる。さらに、非常に少ない数の基本パーツが必要とされるだけでなく、基本パーツはいずれも、ギア、ラチェットおよび歯止め、戻り止め、または他のシステムにおいて広く使用されるが、摩擦または振動によって過剰なエネルギーを散逸させそうな、多くの他の共通のメカニズムを含まない。最後に、各々は、ドライスイッチングを使用する計算システムを作成する能力がある。すなわち、基本パーツまたはメカニズムに力を印加することによって動力が浪費される必要がなく、それがその論理状態ゆえに動こうとしないことを見出すのみである。
【0188】
メカニズム自体の性質により、およびそのようなメカニズムおよびシステムがドライスイッチングを使用するように設計され得るから、という両方により、エネルギー効率の高いメカニズムの作成にそれら自身を役立てる、非常に少ないタイプの基本要素を有する、タイプ2~4のシステムにより、所望される場合には可逆的なチューリング完全なコンピューティングを提供することが可能である、という何よりも重要な設計原理を論証する、複数の実施形態を含む、ここでの教示を考えると、異なるメカニズムまたは基本要素を使用する変形例が作成され得ること、および、それはハイレベルな設計パラダイムであり、特定の実施形態ではなく、それは発明の範囲として見られるべきである、ということが明らかであろう。