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特許7289446ステンレスの発色方法および発色ステンレス
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  • 特許-ステンレスの発色方法および発色ステンレス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】ステンレスの発色方法および発色ステンレス
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/26 20060101AFI20230605BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
C25D11/26 303
C23C28/00 C
C25D11/26 301
C25D11/26 302
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019083727
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020180334
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000113838
【氏名又は名称】マルイ鍍金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】井田 義明
(72)【発明者】
【氏名】張 作富
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-310379(JP,A)
【文献】特開平02-282496(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108531961(CN,A)
【文献】特開平04-173997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/26
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス基材の表面に発色性金属膜を形成するステップ、
電解液としての濃度0.1~10質量%の苛性ソーダ中で、第1の電圧で電流が一旦上昇して減衰するまで前記発色性金属膜に対して陽極酸化を施し、更に、前記第1の電圧より高い第2の電圧に上げて、再び電流が一旦上昇して減衰するまで陽極酸化を施す処理であって、前記発色性金属膜が目的の色を呈するまで繰り返すことによって光干渉膜を形成するステップ
を備えたことを特徴とするステンレスの発色方法。
【請求項2】
前記発色性金属膜がニオブ、タンタルもしくはチタンであり、前記光干渉膜がニオブ、タンタルもしくはチタンの酸化膜である請求項1に記載のステンレスの発色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発色ステンレスに関し、特に、光干渉を用いたステンレスの発色方法と発色ステンレスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス基材の表面に光干渉性の酸化皮膜を形成させると、反射光に干渉が生じるため、酸化皮膜の厚みに応じて異なった色調を持つ干渉色を付与することができる。このようなステンレス基材の発色技術の代表的なものとして、クロム酸/硫酸水溶液中にステンレス基材を浸漬することによって基材表面に干渉色をもたらす酸化皮膜(光干渉膜)を形成させる、いわゆる「INCO法」が広く知られている(特許文献1参照)。
【0003】
「INCO法」をはじめとする化学発色法は、ステンレス基材をクロム酸/硫酸水溶液中に浸漬させて酸化皮膜を形成することによって発色させるが、このとき基材のステンレスに起因する発色ムラが生じ易い問題があった。また、再現性が難しい、耐食性が低い、色数が少ない、溶液が劇物である、と言った問題があった。
【0004】
また、アルカリ性溶液中でステンレス基材を陽極として陽極酸化処理を行い、ステンレス基材の表面に発色膜を形成する方法が提案されている。この方法では色ムラの問題は幾分緩和されるが、依然として満足できるものではなく、再現性、耐食性、色数が少ない、溶液が劇物である、と言った問題も依然として残っていた。
【0005】
アルミ基材に発色性金属膜をコーティングし、当該発色性金属膜を陽極酸化することによって、金属(アルミ)表面を発色させる方法が「ジャーナルフリー」(2010年 61巻 11号 p.728)に紹介されている。しかしながらこの方法でステンレス表面を発色させようとしても、「電圧が上がらないため発色しない。」(同p.731)としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭52-32621号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】ジャーナルフリー(2010年 61巻 11号 p.728)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記ジャーナルフリーにいう「電圧が上がらないため発色しない。」という意味は、以下のように考えることができる。
【0009】
すなわち、所定の電圧下で金属表面の陽極酸化をすると、最初ゼロ近辺であった電流は一旦上昇するが、酸化が進行するに従って、基材表面の電気抵抗が大きくなり、次第に電流が流れなくなり、ゼロ近辺になる。ところが、ステンレスが基材である場合、発色性金属膜に形成されたピンホール(図4、符合4参照)からステンレスの組成を構成する金属が電解液中に溶出して表面に酸化物を形成しない、ということである。
【0010】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、ステンレス基材であっても、簡単な制御方法で、無限大の色数での発色を得ることができるステンレスの発色方法と発色ステンレスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
まず、ステンレス基材の表面に発色性金属膜を形成する。次いで、電解液としての濃度0.1~10質量%の苛性ソーダ中で、第1の電圧で電流が一旦上昇して減衰するまで前記発色性金属膜に対して更に、前記第1の電圧より高い第2の電圧に上げて、再び電流が一旦上昇して減衰するまで陽極酸化を施す処理であって、前記発色性金属膜が目的の色を呈するまで繰り返すことによって光干渉膜を形成する。
【0012】
上記の工程を1工程として、次いで電圧を上げて、再び電流が一旦上昇して減衰するまで前記発色性金属膜に対して陽極酸化を施して光干渉膜の厚み変える。前記「電圧上昇」→「陽極酸化」の工程を、目的の発色が得られるまで複数工程繰り返す。
【0013】
前記電解液の濃度は、特定の電圧での陽極酸化時に、一旦上昇した電流が、時間経過とともに減衰する濃度である。また、前記発色性の金属膜はニオブ、タンタルまたはチタン膜であり、前記光干渉膜はニオブ、タンタルまたはチタンの酸化膜である。
【発明の効果】
【0015】
上記方法は、電解液として極めて低濃度の酸またはアルカリで足り、この内から環境負荷の低い物質を選択することができる。また、色ムラがなく、しかも印加する電圧に応じた色で発色するので、無限大の発色が可能となる。しかも再現性は極めて良好である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】低電圧での陽極酸化時の時間―電流図。
図2】高電圧での陽極酸化時の時間―電流図。
図3】本発明のよる発色ステンレスの例。
図4】本発明による発色ステンレスの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<原理>
図1は特定の電圧下での陽極酸化によって金属表面に酸化膜ができる過程を時間と電流の観点から見たグラフである。
【0018】
所定の電圧を印加すると、電流は一旦上昇するが、金属表面に酸化膜が形成されると次第に減衰し、再びゼロ付近にまで減衰する。
【0019】
上記は単なる「酸化膜」の形成過程であるが、当該酸化膜として光干渉性を有する金属膜を使用すると、酸化膜の厚さに応じた色を呈することになる。この発色性金属としては、ニオブ、タンタル、チタンがよく知られている。
【0020】
ステンレス基材の表面に前記陽極酸化あるいは化学酸化を施して発色性を持たせることは種々研究されているが、上記したように色ムラがあり安定した発色性は得られていない。そこで、ステンレス基材にニオブ、タンタルあるいはチタン等の発色性金属をコーティングして、当該発色性金属を陽極酸化すると発色ステンレスを得ることができると考えられるが、前記ジャーナルフリーに記述するように、ステンレス基材から電解液に溶出する金属イオンがステンレス表面の電気抵抗を低下させ、図2に示すように電流が下がることを阻害して発色性金属を光干渉性を有する酸化膜に変換することはできていなかった。
【0021】
本発明は、電解液の濃度の選択と酸化工程の工夫によって、ステンレス基材表面にコーティングされたニオブやチタンを発色させたものである。
【0022】
まず、電解液の濃度を低く抑えると、電圧を低くして、前記発色性金属をコーティングしたステンレス基材を陽極酸化すると、図1に示すように、電流は印加した電圧に応じて、一旦上昇し、その後減衰することが確認できた。すなわち、特定の色を呈する光干渉性の膜を形成することができたことになる。但し、これで電気抵抗が大きくなって、電流が流れなくなったのでは、これ以上の酸化の進行(酸化膜の厚みの変化)はないことになる。そこで、更に異なる色を希望するときは、前記初回の陽極酸化時の電圧より高い電圧を掛けて、陽極酸化をおこなう。このとき、図1に示す、電流が一旦上昇し、その後減衰する現象は維持する程度に前記電圧の上昇幅を抑える。これによって、光干渉膜は厚くなり前回とは異なった色を呈することになる。
【0023】
前記「電圧上昇」→「陽極酸化」の工程を、目的の発色が得られるまで複数工程繰り返すことになる。
【0024】
<実施例>
表面処理されたステンレス基材に対してスッパッタリングで0.5~1μmの発光性金属であるニオブの膜を形成する。ニオブ膜の厚みは、当該ニオブ膜が酸化して光干渉膜になったときに目的とする色が得られる厚みであれば足りる。工場等で種々の色の注文に応じようとする場合は、0.5~1μmは必要である。0.5~1μmの厚みであれば、ほとんどの色に対応することができるが、1μm以上では、時間と労力の無駄が生じる。
【0025】
ニオブの膜が形成された状態のステンレス基材を電解液に浸漬し、陽極酸化処理をする。
【0026】
ここで電解液としては、あらゆる酸、アルカリを使用することができるが、酸を使用する場合、陽極酸化の段階で60V以上の電圧では電流は、図2に示すように高い値を維持し、図1に示すような減衰をすることができなくなり、以下に説明する苛性ソーダを使用した場合に比べて発色の種類は制限されることになる。
【0027】
アルカリの内、苛性ソーダは数V~100Vまで良好な結果を示すが、それ以外のアルカリでは色ムラが発生する。
【0028】
電解液の濃度は、陽極酸化での電流が一旦上昇し、その後下降する図1に示す状態が形成されるか否かで決定する。図2に示すように、時間の経過に伴って電流が降下しない場合は、ステンレスの組成金属が溶け出し酸化膜が形成されていないことを意味する。苛性ソーダを例にとると、濃度10質量%以上で図2に示す現象が発生する。電解液の濃度の下限も図1のピークが形成されるか否かで決定され、あまりに小さい濃度であると、電気抵抗が大きくなり過ぎて、電流が流れなくなる。
【0029】
使用する電圧の下限を数Vとすると苛性ソーダを例にすると0.1質量%が下限である。
【0030】
陽極酸化によって形成される酸化膜は光干渉膜として機能する。この光干渉膜の発色する色と、陽極酸化処理時の電圧は対応する。しかしながら、いきなり目的とする色に対応する電圧を印加しても図1に示す時間-電流曲線は得られないばかりか、図2に示すように、電流降下が起きない現象が発生する。
【0031】
そこで、電圧は低い値(たとえば数V)で図1に示すピークのある電流を流すことを1工程とし、次いで、数V以下の範囲で電圧を上げて、再び図1に示すように電流を流す。この工程を複数回繰り返して、目的とする色を呈する厚みの光干渉膜が得られるまで繰り返すことになる。
【0032】
ここで重要な点は、最初に掛ける電圧、あるいはその後に掛ける電圧の上昇幅は、あくまで図1に示す電流降下の生じる範囲に抑えることである。
【0033】
図3は、上記のようにして得られた発色ステンレスの発色例を示すものである。尚、ここでは100Vを上限としているが、これ以上の電圧を印加しても、現れる色は低い電圧からの繰り返しとなる。また、条件さえ厳密に管理すれば、再現性は極めて良好である。
【0034】
図4図3で示す発色ステンレスの断面を示すものである。ステンレス基材1の表面はニオブ、タンタル等の発色性金属2をコーティングするが、このときピンホール4も形成される。しかしながら、上記したように電解液の種類、濃度、電圧を適宜に選択して陽極酸化をすると、前記ステンレス基材の表面が前記発色性金属の酸化物(例えば酸化チタン、酸化タンタル)である光干渉膜3で覆われていることになる。尚、前記発色性金属膜2はその厚み全体が光干渉膜3に変化している場合と一部が光干渉膜3に変化している場合がある。
【0035】
上記において、発色性金属膜を形成する方法としてスッパッタリングを用いたが、電解、無電解によるメッキ法あるいは発色性金属膜をステンレス素材に貼り付ける方法等が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、従来から各方面で嘱望されていたステンレスの発色が再現性よく実施することができ、ステンレス製品を扱う業界で広範に利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0037】
1・・ステンレス基材
2・・発色性金属膜
3・・光干渉膜
4・・ピンホール
図1
図2
図3
図4