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特許7289469炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/402 20060101AFI20230605BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20230605BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20230605BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20230605BHJP
【FI】
D06M13/402
D06M15/53
D06M15/41
D06M101:28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022088036
(22)【出願日】2022-05-30
【審査請求日】2022-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-138296(JP,A)
【文献】特許第6957070(JP,B1)
【文献】特許第6984930(JP,B1)
【文献】特開2021-059807(JP,A)
【文献】特開平09-078340(JP,A)
【文献】特開平09-078341(JP,A)
【文献】特開2001-207380(JP,A)
【文献】特開2013-076202(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100788(WO,A1)
【文献】特許第6984933(JP,B1)
【文献】特開平8-260254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に炭化水素基及び3個以上の窒素原子を有し、且つ1分子中の全炭素数が4以上70以下であるポリアミン(X)と、
炭素数2以上20以下である一価カルボン酸、及び、炭素数3以上20以下であり2価以上4価以下である多価カルボン酸、からなる群から選択されるカルボン酸(Y)と、
から縮合形成されたポリアミン-カルボン酸縮合物(A)、および、
分子中に炭素数8以上40以下の炭化水素基を有する一価アルコールに炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドから選択される一種類以上のアルキレンオキサイドを付加させた化合物を含む非イオン界面活性剤(B)、を含有することを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項2】
前記ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)が、下記の式(1)を満たすものである請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【数1】
式(1)において、
は、前記ポリアミン(X)から検出されるアミン価であり、
は、前記ポリアミン(X)及び前記カルボン酸(Y)の構成割合の合計を100質量%としたときの前記ポリアミン(X)の構成割合(質量%単位)であり、
は、前記カルボン酸(Y)から検出される酸価であり、
は、前記ポリアミン(X)及び前記カルボン酸(Y)の構成割合の合計を100質量%としたときの前記カルボン酸(Y)の構成割合(質量%単位)である。
【請求項3】
記ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)及び前記非イオン界面活性剤(B)の含有量の合計を100質量部として、
前記ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)の含有量が10質量部以上90質量部以下であり、
前記非イオン界面活性剤(B)の含有量が10質量部以上90質量部以下である請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
フェノールアミン化合物(C)を更に含有し、
前記フェノールアミン化合物(C)が、
フェノール誘導体と、ホルムアルデヒドと、ポリアミン化合物と、から形成された化合物、及び、フェノール誘導体と、ホルムアルデヒドと、ポリアミン化合物と、の三成分から形成された化合物に対してホウ素含有化合物を反応させた化合物、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、
前記フェノール誘導体が、数平均分子量が100以上5000以下の炭化水素基で変性されたフェノールである請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
ブレンステッド酸(D)を更に含有する請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造方法として、繊維状の材料を紡糸した後に当該材料を焼成する、という手法が汎用されており、この繊維状の材料を炭素繊維前駆体という。炭素繊維前駆体としては、高分子等の繊維材料の表面に炭素繊維前駆体用処理剤が付着したものが使用される場合がある。かかる処理剤は、炭素繊維を製造する際の諸工程における炭素繊維前駆体の取り扱い性を向上する等の目的で用いられる。
【0003】
この種の処理剤として、例えば特開2001-207380号公報(特許文献1)には、特定の構造を有する脂肪酸アミド架橋体を含有する炭素繊維製造用合成繊維処理剤が開示されている。特許文献1の処理剤を用いれば、耐炎化工程での耐炎化繊維相互の融着防止と炭素化工程での焼成炉内汚染物質の発生防止とを同時に、かつ充分に図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-207380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術には、得られる炭素繊維の強度を向上すること、及び、当該炭素繊維に生じる毛羽を抑制すること、について、改善の余地があった。
【0006】
そこで、得られる炭素繊維の強度を向上するとともに、炭素繊維に生じる毛羽を抑制できる炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、1分子中に炭化水素基及び3個以上の窒素原子を有し、且つ1分子中の全炭素数が4以上70以下であるポリアミン(X)と、炭素数2以上20以下である一価カルボン酸、及び、炭素数3以上20以下であり2価以上4価以下である多価カルボン酸、からなる群から選択されるカルボン酸(Y)と、から縮合形成されたポリアミン-カルボン酸縮合物(A)、および、分子中に炭素数8以上40以下の炭化水素基を有する一価アルコールに炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドから選択される一種類以上のアルキレンオキサイドを付加させた化合物を含む非イオン界面活性剤(B)、を含有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る炭素繊維前駆体は、上記の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、得られる炭素繊維の強度を向上するとともに、炭素繊維の毛羽の発生を抑制できる。また、炭素繊維前駆体処理剤の保管中における成分の沈降及び凝集が抑制されるため、炭素繊維前駆体処理剤の保管性が向上しうる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、前記ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)が、下記の式(1)を満たすものであることが好ましい。
【数1】
式(1)において、xは、前記ポリアミン(X)から検出されるアミン価であり、xは、前記ポリアミン(X)及び前記カルボン酸(Y)の構成割合の合計を100質量%としたときの前記ポリアミン(X)の構成割合(質量%単位)であり、yは、前記カルボン酸(Y)から検出される酸価であり、yは、前記ポリアミン(X)及び前記カルボン酸(Y)の構成割合の合計を100質量%としたときの前記カルボン酸(Y)の構成割合(質量%単位)である。
【0012】
この構成によれば、得られる炭素繊維の強度が一層向上しうる。
【0013】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、前記ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)及び前記非イオン界面活性剤(B)の含有量の合計を100質量部として、前記ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)の含有量が10質量部以上90質量部以下であり、前記非イオン界面活性剤(B)の含有量が10質量部以上90質量部以下であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、得られる炭素繊維の強度が一層向上しうる。
【0015】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、フェノールアミン化合物(C)を更に含有し、前記フェノールアミン化合物(C)が、フェノール誘導体と、ホルムアルデヒドと、ポリアミン化合物と、から形成された化合物、及び、フェノール誘導体と、ホルムアルデヒドと、ポリアミン化合物と、の三成分から形成された化合物に対してホウ素含有化合物を反応させた化合物、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、前記フェノール誘導体が、数平均分子量が100以上5000以下の炭化水素基で変性されたフェノールであることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、得られる炭素繊維における毛羽の発生を一層抑制しうる。
【0017】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、ブレンステッド酸(D)を更に含有することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、得られる炭素繊維における毛羽の発生を一層抑制しうる。
【0019】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体の実施形態について説明する。
【0021】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の構成〕
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を含有する。また、本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、非イオン界面活性剤(B)、フェノールアミン化合物(C)、及びブレンステッド酸(D)の一つ又は複数を更に含有することが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、例えば、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)等の構成成分を所定料秤量し、これをガラス容器中で均一に混合して得られる。なお、更に水等の希釈溶媒を加えて固形分濃度を調整してもよい。
【0023】
(ポリアミン-カルボン酸縮合物)
ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)は、ポリアミン(X)とカルボン酸(Y)とから縮合形成された化合物である。
【0024】
ポリアミン(X)は、1分子中に炭化水素基及び3個以上の窒素原子を有し、且つ1分子中の全炭素数が4以上70以下であるポリアミン化合物である。具体的には、ポリアミン(X)は、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、オクタエチレンノナミン、ノナエチレンデカミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ヘキサプロピレンヘプタミン、ヘプタプロピレンオクタミン、オクタプロピレンノナミン、ノナプロピレンデカミン、ペンタブチレンヘキサミン、ヘキサブチレンヘプタミン、ヘプタブチレンオクタミン、オクタブチレンノナミン、ノナブチレンデカミン、ペンタペンチレンヘキサミン、ヘキサペンチレンヘプタミン、ヘプタペンチレンオクタミン、オクタペンチレンノナミン、ノナペンチレンデカミン、ペンタヘキシレンヘキサミン、ヘキサヘキシレンヘプタミン、ヘプタヘキシレンオクタミン、オクタヘキシレンノナミン、ノナヘキシレンデカミン、ペンタヘプチレンヘキサミン、ヘキサヘプチレンヘプタミン、ヘプタヘプチレンオクタミン、オクタヘプチレンノナミン、ノナヘプチレンデカミン等でありうる。ポリアミン(X)は、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンヘプタミン、ヘプタメチレンオクタミン、オクタメチレンノナミン、ノナメチレンデカミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、オクタエチレンノナミン、ノナエチレンデカミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ヘキサプロピレンヘプタミン、ヘプタプロピレンオクタミン、オクタプロピレンノナミン、及びノナプロピレンデカミン、からなる群から選択されることが好ましい。なお、ポリアミン(X)は、一種類のポリアミン化合物であってもよいし、複数種類のポリアミン化合物の混合物であってもよい。
【0025】
カルボン酸(Y)は、炭素数2以上20以下である一価カルボン酸、及び、炭素数3以上20以下であり2価以上4価以下である多価カルボン酸、からなる群から選択されるカルボン酸化合物である。具体的には、カルボン酸(Y)は、酢酸、オクチル酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、シュウ酸、アジピン酸、エイコサン二酸、トリメリット酸等でありうる。なお、カルボン酸(Y)は、一種類のカルボン酸化合物であってもよいし、複数種類のカルボン酸化合物の混合物であってもよい。
【0026】
ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)は、ポリアミン(X)とカルボン酸(Y)とから縮合形成された化合物であれば足り、ポリアミン(X)に由来するアミノ基及びカルボン酸(Y)に由来するカルボキシル基の全てが縮合に関与している必要はない。すなわち、ポリアミン(X)及びカルボン酸(Y)の各分子における各官能基(アミノ基及びカルボキシル基)の転化率は、分子ごとに異なる可能性がある。そのため、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を単一の化合物として特定することはできない。そこで、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)は、これを形成するために使用したポリアミン(X)及びカルボン酸(Y)をもって特定される。また、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)は、原料に由来するアミノ基及びカルボキシル基のうち、縮合に関与しなかった官能基(以下、残存官能基という。)を含む場合がある。
【0027】
ここで、ポリアミン(X)に由来するアミン価の合計と、カルボン酸(Y)に由来する酸価の合計と、の大小関係は限定されない。前者が後者より大きい場合は、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を形成する際の縮合反応系においてアミノ基が過剰であるので、残存官能基はアミノ基が支配的である。一方、後者が前者より大きい場合は、縮合反応系においてカルボキシル基が過剰であるので、残存官能基はカルボキシル基が支配的である。
【0028】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤では、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を形成する際に使用されるポリアミン(X)及びカルボン酸(Y)が、下記の式(1)を満たすものであると、得られる炭素繊維の強度が向上しうるため、好ましい。
【数2】
【0029】
式(1)において、xは、ポリアミン(X)から検出されるアミン価であり、xは、ポリアミン(X)及びカルボン酸(Y)の構成割合の合計を100質量%としたときのポリアミン(X)の構成割合(質量%単位)である。また、yは、カルボン酸(Y)から検出される酸価であり、yは、ポリアミン(X)及びカルボン酸(Y)の構成割合の合計を100質量%としたときのカルボン酸(Y)の構成割合(質量%単位)である。すなわち、(y×y)/(x×x)は、ポリアミン(X)に由来するアミン価の合計とカルボン酸(Y)に由来する酸価の合計との比を表す。
【0030】
ポリアミン(X)のアミン価xは、当該ポリアミン(X)1gを中和するために必要な塩酸と当量の水酸化カリウムの質量(mg単位)に相当し、公知の方法によって特定される。例えば、既知量のポリアミン(X)を所定の溶媒に溶解させた試料液について、電位差自動滴定装置を用いて所定の滴定液で電位差滴定を行い、終点の滴定量(mL単位)から下記の式(2)を用いて算出できる。なお、ポリアミン(X)を溶解する溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、キシレン/イソプロピルアルコール(体積比1/1)の混合液、水、が例示される。また、滴定液としては、例えば、0.1N塩酸をエチレングリコール/イソプロピルアルコール(体積比1/1)に溶解させた滴定液が例示される。
【数3】
式(2)において、Aは終点の滴定量(mL単位)であり、fは滴定液における0.1N塩酸の力価であり、Wは試料液中のポリアミン(X)の質量(g単位)である。
なお、定数5.61は、水酸化カリウムの式量56.11に、滴定液を調製する際に用いられる塩酸の規定度0.1を乗じた上で、有効数字を三桁としたものである。
【0031】
カルボン酸(Y)の酸化yは、当該カルボン酸(Y)1gを中和するために必要な水酸化カリウムの質量(mg単位)に相当し、公知の方法によって特定される。例えば、既知量のカルボン酸(Y)を所定の溶媒に溶解させた試料液について、電位差自動滴定装置を用いて所定の滴定液で電位差滴定を行い、終点の滴定量(mL単位)から下記の式(3)を用いて算出できる。なお、カルボン酸(Y)を溶解する溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、キシレン/イソプロピルアルコール(体積比1/1)の混合液、水、が例示される。また、滴定液としては、例えば、0.1N水酸化カリウム水溶液をエチレングリコール/イソプロピルアルコール(体積比1/1)に溶解させた滴定液が例示される。
【数4】
式(3)において、Aは終点の滴定量(mL単位)であり、fは滴定液における0.1N水酸化カリウム水溶液の力価であり、Wは試料液中のカルボン酸(Y)の質量(g単位)である。なお、定数5.61は、水酸化カリウムの式量56.11に、滴定液を調製する際に用いられる水酸化カリウム水溶液の規定度0.1を乗じた上で、有効数字を三桁としたものである。
【0032】
ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を得るべくポリアミン(X)とカルボン酸(Y)とを反応させる際の反応条件は、縮合反応が進行する限度で特に限定されないが、以下に一例を示す。まず、質量比x:yで秤量したポリアミン(X)及びカルボン酸(Y)をガラス製容器に投入し、無溶媒で、温度90℃で攪拌し、均一な溶液を得る。均一な溶液が得られたら、これを窒素雰囲気下で160~165℃に保ち、10時間保持する。このとき、反応により生じる水を適宜取り除く。その後、溶液を室温に冷却して、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を得る。
【0033】
(非イオン界面活性剤)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤が非イオン系界面活性剤(B)を含む場合、その種類は特に限定されない。ただし、非イオン系界面活性剤(B)が、分子中に炭素数8以上40以下の炭化水素基を有する一価アルコールに炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドから選択される一種類以上のアルキレンオキサイドを付加させた化合物を含むものであると、炭素繊維前駆体用処理剤の保管中における成分の沈降及び凝集が抑制され、炭素繊維前駆体処理剤の保管性が向上しうるため、好ましい。この場合において、炭化水素基は直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。また、当該炭化水素基について、不飽和結合、環状構造、またはこれらの双方を有することは妨げられない。アルキレンオキサイドの付加数は、例えば2モル以上100モル以下でありうる。非イオン系界面活性剤(B)の非限定的な例として、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物、イソトリデシルアルコールのエチレンオキサイド9モル付加物、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド34モル付加物が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤が非イオン系界面活性剤(B)を含む場合、その含有量は特に限定されない。ただし、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)及び非イオン界面活性剤(B)の含有量の合計を100質量部として、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)の含有量が10質量部以上90質量部以下であり、非イオン界面活性剤(B)の含有量が10質量部以上90質量部以下であることが好ましい。非イオン界面活性剤(B)の含有量が上記の範囲にあると、得られる炭素繊維の強度が向上しうる。
【0035】
(フェノールアミン化合物)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤がフェノールアミン化合物(C)を含む場合、その種類は特に限定されない。ただし、フェノールアミン化合物(C)が、フェノール誘導体と、ホルムアルデヒドと、ポリアミン化合物と、から形成された化合物、及び、フェノール誘導体と、ホルムアルデヒドと、ポリアミン化合物と、の三成分から形成された化合物に対してホウ素含有化合物を反応させた化合物、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。炭素繊維前駆体用処理剤がフェノールアミン化合物(C)を含むと、得られる炭素繊維における毛羽の発生が抑制されうる。
【0036】
フェノール誘導体は、数平均分子量が100以上5000以下の炭化水素基で変性されたフェノールであることが好ましい。ここで、フェノールの置換位置(オルト位、メタ位、及びパラ位)は限定されない。炭化水素基としては、オクチル基、ノニル基、及びデシル基等の炭素数8以上のアルキル基や、ポリエテニル基、ポリプロペニル基、ポリブテニル基、及びポリペンテル基等のポリマー性の官能基、等が例示される。この場合において、炭化水素基は直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。また、当該炭化水素基について、不飽和結合、環状構造、またはこれらの双方を有することは妨げられない。なお、炭化水素基は単数であってもよいし、複数であってもよい。フェノール誘導体の含有量は、例えば、フェノールアミン化合物(C)全体に対して60質量%以上99質量%以下でありうる。
【0037】
ホルムアルデヒドは、市販されている試薬グレードのホルムアルデヒドをそのまま、又は精製して使用したものでありうる。ホルムアルデヒドの含有量は、例えば、フェノールアミン化合物(C)全体に対して0.5質量%以上20質量%以下でありうる。
【0038】
ポリアミン化合物は特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、オクタエチレンノナミン、ノナエチレンデカミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ヘキサプロピレンヘプタミン、ヘプタプロピレンオクタミン、オクタプロピレンノナミン、ノナプロピレンデカミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタブチレンヘキサミン、ヘキサブチレンヘプタミン、ヘプタブチレンオクタミン、オクタブチレンノナミン、ノナブチレンデカミン、ペンタペンチレンヘキサミン、ヘキサペンチレンヘプタミン、ヘプタペンチレンオクタミン、オクタペンチレンノナミン、ノナペンチレンデカミン、ペンタヘキシレンヘキサミン、ヘキサヘキシレンヘプタミン、ヘプタヘキシレンオクタミン、オクタヘキシレンノナミン、ノナヘキシレンデカミン、ペンタヘプチレンヘキサミン、ヘキサヘプチレンヘプタミン、ヘプタヘプチレンオクタミン、オクタヘプチレンノナミン、ノナヘプチレンデカミン等でありうる。なお、フェノールアミン化合物(C)に含まれるポリアミン化合物と、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を形成するために用いられるポリアミン(X)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。ポリアミン化合物の含有量は、例えば、フェノールアミン化合物(C)全体に対して0.5質量%以上39.5質量%以下でありうる。
【0039】
ホウ素含有化合物を用いる場合、当該ホウ素含有化合物は、例えば、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル等でありうる。ホウ素含有化合物の含有量は、例えば、フェノールアミン化合物(C)全体に対して0.1質量%以上10質量%以下でありうる。
【0040】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤がフェノールアミン化合物(C)を含む場合、その含有量は特に限定されない。ただし、フェノールアミン化合物(C)の含有量は、炭素繊維前駆体用処理剤全体に対して0.1質量%以上50質量%以下でありうる。
【0041】
フェノールアミン化合物(C)を得る方法は特に限定されないが、以下に一例を示す。
まず、所定の重量比で秤量したフェノール誘導体及びポリアミン化合物と、溶媒とをガラス製容器に投入し、室温で撹拌して均一な溶液を得る。ここで用いる溶媒は、例えば鉱物油や流動パラフィン等であり、レッドウッド粘度計での30℃の粘度が80秒以上190秒である溶媒でありうる。フェノール誘導体及びポリアミン化合物が溶解した均一な溶液が得られたら、当該溶液を撹拌しながら、所定量の50%ホルムアルデヒド水溶液を、1時間かけて滴下する。滴下完了後、反応溶液を窒素雰囲気下で100℃に保ち、3時間保持する。その後、反応溶液を減圧下で200℃に加熱して、未反応物及び生成水を除去する。続いて反応溶液を室温に冷却し、固形分を濾過してフェノールアミン化合物(C)の溶液を得る。なお、フェノールアミン化合物(C)を単離する必要はなく、溶液のまま他の構成成分(ポリアミン-カルボン酸縮合物(A)等)と混合してよい。
【0042】
(ブレンステッド酸)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤がブレンステッド酸(D)を含む場合、その種類は特に限定されない。ブレンステッド酸(D)としては、例えば、酢酸、乳酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸等が例示される。炭素繊維前駆体用処理剤がブレンステッド酸(D)を含むと、得られる炭素繊維における毛羽の発生が抑制されうる。
【0043】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤がブレンステッド酸(D)を含む場合、その含有量は特に限定されない。ただし、ブレンステッド酸(D)の含有量は、炭素繊維前駆体用処理剤全体に対して0.1質量%以上20質量%以下でありうる。
【0044】
(その他の成分)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、上記のポリアミン-カルボン酸縮合物(A)、並びに、非イオン界面活性剤(B)、フェノールアミン化合物(C)、及びブレンステッド酸(D)の他の成分を含んでいてもよい。フェノールアミン化合物(C)を上記に例示した手順で調製する際に用いられ、除去されることなくポリアミン-カルボン酸縮合物(A)等と混合される溶媒は、かかる他の成分の一例である。また、本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)などを含んでいてもよい。
【0045】
〔炭素繊維前駆体〕
本実施形態に係る炭素繊維前駆体は、炭素繊維前駆体として一般に用いられる繊維材料に、本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に「処理剤」という場合がある。)が付着した態様である。ここでいう繊維材料とは、焼成工程を経て炭素繊維となる繊維状の材料であり、ポリアクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、セルロース系繊維、リグニン系繊維、フェノール樹脂、及びピッチ等、又はこれらの組合せでありうる。
【0046】
繊維材料に処理剤を付着させる方法としては、当分野において繊維材料にこの種の処理剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、及びガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、処理剤が水等の溶媒で適宜希釈されうる。
【0047】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体において、処理剤の付着量は特に限定されない。例えば、炭素繊維前駆体に対して処理剤が0.1質量%以上10質量%以下付着していることが好ましい。
【0048】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0049】
本発明の一変形例は、1分子中に炭化水素基及び3個以上の窒素原子を有し、且つ1分子中の全炭素数が4以上70以下であるポリアミン(X)と、炭素数2以上20以下である一価カルボン酸、及び、炭素数3以上20以下であり2価以上4価以下である多価カルボン酸、からなる群から選択されるカルボン酸(Y)と、から縮合形成されたポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を含有する炭素繊維前駆体用処理剤、でありうる。
【実施例
【0050】
以下では、実施例を示して本発明を更に説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0051】
〔ポリアミン-カルボン酸縮合物の調製〕
以下の方法で、後掲する表1に示すポリアミン-カルボン酸縮合物A-1~A-9、並びにポリアミン-カルボン酸縮合物rA-1及びrA-2を得た。
【0052】
(ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1の合成)
テトラエチレンペンタミン191g及びシュウ酸126gを容量3Lのガラス製容器に投入し、無溶媒で、温度90℃で攪拌し、均一な溶液を得た。均一な溶液が得られたのちに、これを窒素雰囲気下で160~165℃に保ち、10時間保持した。このとき、反応により生じる水を適宜取り除いた。その後、溶液を室温に冷却して、ポリアミン-カルボン酸縮合物(A-1)を得た。ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1において、(y×y)/(x×x)は、0.62だった。
【0053】
(他のポリアミン-カルボン酸縮合物の合成)
ポリアミンの種類及び仕込量、並びにカルボン酸の種類及び仕込量を変更した他は上記と同様の手順及び条件にて、ポリアミン-カルボン酸縮合物A-2~A-9、並びにポリアミン-カルボン酸縮合物rA-1及びrA-2を得た。ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1を含む各例の調製条件を表1に示す。
【0054】
表1:ポリアミン-カルボン酸縮合物の調製
【表1】
【0055】
ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1~A-9におけるポリアミンは、いずれも1分子中に炭化水素基及び3個以上の窒素原子を有し、且つ1分子中の全炭素数が4以上70以下であるポリアミンであり、上記の実施形態におけるポリアミン(X)に該当する。一方、ポリアミン-カルボン酸縮合物rA-1及びrA-2におけるポリアミンは、上記の実施形態におけるポリアミン(X)に該当しない。また、ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1~A-9、並びにポリアミン-カルボン酸縮合物rA-1及びrA-2におけるカルボン酸は、いずれも上記の実施形態におけるカルボン酸(Y)に該当する。したがって、ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1~A-9は上記の実施形態におけるポリアミン-カルボン酸縮合物(A)に該当し、他は該当しない。
【0056】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表2及び表3に示す実施例1~24及び比較例1~7の炭素繊維前駆体用処理剤を得た。
【0057】
(1)試薬(ポリアミン-カルボン酸縮合物)
ポリアミン-カルボン酸縮合物として、上記のポリアミン-カルボン酸縮合物A-1~A-9、並びにポリアミン-カルボン酸縮合物rA-1及びrA-2(表1)を用いた。
なお、上記の通り、ポリアミン-カルボン酸縮合物A-1~A-9は上記の実施形態におけるポリアミン-カルボン酸縮合物(A)に該当し、他は該当しない。
【0058】
(非イオン界面活性剤)
非イオン界面活性剤として、以下の非イオン界面活性剤B-1~B-6を用いた。なお、このうち非イオン界面活性剤B-1~B-4は上記の実施形態における非イオン界面活性剤(B)に該当し、他は該当しない。
B-1:ドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
B-2:テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物
B-3:イソトリデシルアルコールのエチレンオキサイド9モル付加物
B-4:トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド34モル付加物
B-5:エチレングリコールにエチレンオキサイド(以下、EOという。)とプロピレンオキサイド(以下、POという。)とをブロック状に付加重合した数平均分子量5000のポリオキシアルキレンブロック共重合体であって、そのポリオキシアルキレン基がオキシエチレン単位(以下、EO単位という。)/オキシプロピレン単位(以下、PO単位という。)=30/70(モル比)の割合からなるものであるポリオキシアルキレンブロック共重合体
B-6:エチレングリコールにEOとPOとをブロック状に付加重合した数平均分子量10000のポリオキシアルキレンブロック共重合体であって、そのポリオキシアルキレン基がEO単位/PO単位=70/30(モル比)の割合からなるものであるポリオキシアルキレンブロック共重合体
【0059】
(フェノールアミン化合物)
フェノールアミン化合物として、以下のフェノールアミン化合物C-1~C-12を用いた。なお、フェノールアミン化合物C-1~C-12は、いずれも上記の実施形態におけるフェノールアミン化合物(C)に該当する。
C-1:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
C-2:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物をホウ酸と反応させた化合物(ホウ素含有量:0.2質量%)
C-3:ポリブテン部分の数平均分子量が1200であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/ジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物
C-4:ポリブテン部分の数平均分子量が600であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
C-5:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリプロピレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
C-6:ポリブテン部分の数平均分子量が4500であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
C-7:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物をホウ酸と反応させた化合物(ホウ素含有量:1.0質量%)
C-8:ポリイソブチレン部分の数平均分子量が900であるポリイソブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
C-9:ポリブテン部分の数平均分子量が600であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/テトラエチレンペンタアミンを反応させて得られた化合物
C-10:ポリブテン部分の数平均分子量が1000であるポリブテニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/エチレンジアミンを反応させて得られた化合物
C-11:ポリプロピレン部分の数平均分子量が1500であるポリプロペニル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/トリブチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
C-12:オクチル基で変性されたフェノール/ホルムアルデヒド/ジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物
【0060】
フェノールアミン化合物C-1の調製方法は、次の通りとした。まず、ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル基で変性されたフェノール800部(1当量)と、トリエチレンテトラアミン52部(0.7当量)と、100レッドウッド秒の鉱物油368部と、をガラス製容器に投入し、室温で撹拌して均一な溶液を得た。均一な溶液が得られた後に、当該溶液を撹拌しながら、50%ホルムアルデヒド水溶液30部(ホルムアルデヒド15部相当、1当量)を、1時間かけて滴下した。滴下完了後、反応溶液を窒素雰囲気下で100℃に保ち、3時間保持した。その後、反応溶液を減圧下で200℃に加熱して、未反応物及び生成水を除去した。続いて反応溶液を室温に冷却し、固形分を濾過してフェノールアミン化合物C-1の溶液を得た。
【0061】
フェノール誘導体及びポリアミン化合物の種類及び仕込量を変更した他は上記と同様の手順及び条件にて、フェノールアミン化合物C-2~C-12の溶液を得た。なお、炭素繊維前駆体用処理剤を調製するにあたり、フェノールアミン化合物C-1~C-12を溶媒と単離せずに用いた。したがって、フェノールアミン化合物C-1~C-12を含む実施例は、使用したフェノールアミン化合物を調製する際に使用された溶媒を含む。当該溶媒は、後掲の表2及び表3において「その他」の欄に符号を用いて示されている。各符号が表す溶媒は下記の通りである。
M-1:鉱物油(レッドウッド粘度計での30℃の粘度が100秒)
M-2:流動パラフィン(レッドウッド粘度計での30℃の粘度が80秒)
M-3:鉱物油(レッドウッド粘度計での30℃の粘度が150秒)
M-4:流動パラフィン(レッドウッド粘度計での30℃の粘度が100秒)
M-5:鉱物油(レッドウッド粘度計での30℃の粘度が120秒)
M-6:鉱物油(レッドウッド粘度計での30℃の粘度が190秒)
【0062】
(ブレンステッド酸)
ブレンステッド酸として、以下のブレンステッド酸D-1~D-4を用いた。なお、ブレンステッド酸D-1~D-4は、いずれも上記の実施形態におけるブレンステッド酸(D)に該当する。
D-1:酢酸
D-2:乳酸
D-3:リン酸
D-4:p-トルエンスルホン酸
【0063】
(その他の成分)
その他の成分として、以下の成分E-1~E-4を用いた。
E-1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
E-2:2-エチルヘキシルホスフェートカリウム
E-3:酢酸カリウム
E-4:脂肪酸アミド架橋体
【0064】
その他の成分E-4(脂肪酸アミド架橋体)の調製方法は、次の通りとした。ベヘニン酸694g(2.04モル)及びジエチレントリアミン103g(1.0モル)をフラスコに仕込み、180℃に保持して、生成する水を窒素気流により留去しながら4時間反応を行い、中間体としてジエチレントリアミンジベヘニン酸アミドを得た。このジエチレントリアミンジベヘニン酸アミド1494g(2モル)を90~110℃で溶融状態とし、これにビスフェノールAジグリシジルエーテル340g(1モル)を滴下して架橋反応を行い、脂肪酸アミド架橋体を得た。得られた脂肪酸アミド架橋体は、式(4)において、R~Rがベヘニン酸アミド基であり、m、n、s、及びtが2であり、p及びqが1であり、Aが式(5)で示される有機基であって、uが1である化合物だった。
【化1】
【0065】
(2)炭素繊維前駆体用処理剤の調製(実施例1の調製)
ポリアルキレンポリアミン-カルボン酸縮合物A-1を110g、ポリアルキレンポリアミン-カルボン酸縮合物A-6を40g、非イオン界面活性剤B-1を34g、フェノールアミン化合物C-1を10g、ブレンステッド酸D-1を6g、それぞれ秤量し、ビーカーに投入した。上記の各構成成分をよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加して、実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の25%水性液を調製した。
【0066】
(他の実施例及び比較例の調製)
ポリアミン-カルボン酸縮合物の有無及び種類、非イオン界面活性剤の有無及び種類、フェノールアミン化合物の有無及び種類、ブレンステッド酸の有無及び種類、並びにその他の成分の有無及び種類を変更した他は実施例1と同様の手順及び条件にて、実施例2~24及び比較例1~7の炭素繊維前駆体用処理剤を調製した。実施例1を含む全ての例の調製条件を、後掲の表2及び表3に示す。
【0067】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の評価〕
(1)繊維材料の作成
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解し、ポリマー濃度が21.0質量%であり、60℃における粘度が500ポイズである紡糸原液を作成した。紡糸原液を、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(繊維材料の例である。)を作成した。
【0068】
(2)炭素繊維前駆体の作成
作成したアクリル繊維ストランドに対して、実施例及び比較例の各例の炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を、浸漬法にて、処理剤の付着量が1質量%(溶媒を含まない。)となるように給油した。その後、処理剤が付着したアクリル繊維ストランドに対して130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に、糸管に巻き取って炭素繊維前駆体を得た。
【0069】
(3)炭素繊維の作成
実施例及び比較例の各例の炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉において、空気雰囲気下で1時間耐炎化処理した後に、糸管に巻き取って耐炎化糸を得た。更に、この耐炎化糸から糸を解舒し、300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉において窒素雰囲気下で焼成して炭素繊維に転換し、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0070】
(4)強度の評価
実施例及び比較例の各例の炭素繊維の引張強度を、JIS R 7606:2000に従って測定した。引張強度の測定値に応じて、下記の四水準に区分した。
A:引張強度4.0GPa以上
B:引張強度3.5GPa以上4.0GPa未満
C:引張強度3.0GPa以上3.5GPa未満
D:引張強度3.0GPa未満
【0071】
(5)毛羽の評価
実施例及び比較例の各例の炭素繊維の作成中に、糸管に巻き取られる炭素繊維を目視で観察し、10分間当たりの毛羽の数を数えた。観察された毛羽の数に応じて、下記の四水準に区分した。
A:毛羽数10個未満
B:毛羽数10個以上30個未満
C:毛羽数30個以上50個未満
D:毛羽数50個以上
【0072】
(6)安定性の評価
実施例及び比較例の炭素繊維前駆体用処理剤100gを、100mL沈降管に入れ、25℃で静置した後の外観を目視で観察した。目視観察の結果に応じて、下記の四水準に区分した。
A:外観に変化はみられない。
B:目視ではわかる程度の濃淡が上下にみられるが、攪拌すれば元に戻る。
C:層分離が見られる。
【0073】
〔結果〕
実施例及び比較例の各例について、使用した試薬の種類及び質量部、並びに、強度、毛羽、及び安定性の各評価結果を表2及び表3に示した。
【0074】
表2:炭素繊維前駆体用処理剤の評価結果(実施例)
【表2】
【0075】
表3:炭素繊維前駆体用処理剤の評価結果(比較例)
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えば炭素繊維の製造に利用できる。
【要約】
【課題】得られる炭素繊維の強度を向上するとともに、炭素繊維に生じる毛羽を抑制する。
【解決手段】1分子中に炭化水素基及び3個以上の窒素原子を有し、且つ1分子中の全炭素数が4以上70以下であるポリアミン(X)と、炭素数2以上20以下である一価カルボン酸、及び、炭素数3以上20以下であり2価以上4価以下である多価カルボン酸、からなる群から選択されるカルボン酸(Y)と、から縮合形成されたポリアミン-カルボン酸縮合物(A)を含有する。
【選択図】なし