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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】ロボットハンド
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20230605BHJP
   B25J 17/00 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
B25J15/08 J
B25J17/00 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020550209
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034202
(87)【国際公開番号】W WO2020075415
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018190910
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安部 貴大
(72)【発明者】
【氏名】小林 保幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 一也
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-301191(JP,A)
【文献】特開平11-267987(JP,A)
【文献】特開2002-103269(JP,A)
【文献】特開2008-149444(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/08
B25J 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掌部と、前記掌部に支持された指部と、前記指部を屈伸運動させる駆動源とを備えたロボットハンドにおいて、
前記指部は、掌部に対し屈伸可能に枢支された第一の節部と、この第一の節部に対し屈伸可能に枢支された第二の節部とを、少なくとも具備し、
前記第一の節部は、前記駆動源の動力により屈曲するように構成され、
前記第二の節部は、前記駆動源の動力により屈曲した際の前記第一の節部が拘束された場合に、同動力により初期位置から屈曲するように構成され、
前記第一の節部と前記第二の節部の間には、これら二つの節部を吸引して前記初期位置に保持するマグネットが設けられていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記第一の節部と前記第二の節部には、前記初期位置にて回転軸方向に重なり合う部分を有し、
前記マグネットは、前記重なり合う部分を吸引するように設けられていることを特徴とする請求項1記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記マグネットは、前記第一の節部と前記第二の節部にそれぞれ対応して、二つ設けられていることを特徴とする請求項2記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記第一の節部と前記第二の節部には、前記初期位置にて当接し合い、前記第二の節部の屈曲に伴って離間する当接面と被当接面が設けられていることを特徴とする請求項1~3何れか1項記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記駆動源は、出力軸を回転させる電動モータであり、
前記出力軸には、前記第一の節部が枢支されるとともに、前記第一の節部の延設方向に対する交差方向へ延設された第一の作動リンクが接続され、
前記第一の作動リンクの回動端側には、前記第一の節部に沿って指先側へ延設された第二の作動リンクが枢支され、
前記第二の節部の指元側は、前記第一の節部との枢支部分から径方向へ離れた位置にて、前記第二の作動リンクの指先側に枢支されていることを特徴とする請求項1~4何れか1項記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記第二の節部の指先側には、第三の節部が枢支され、
前記第一の節部の指先側には、前記第二の節部との枢支部分から径方向へ離れ且つ前記第二の作動リンク側に対し逆側となる位置に、第三の作動リンクが枢支され、
前記第三の作動リンクは、前記第二の節部に対し交差状に延設され、その指先側が、前記第三の節部に枢支され、
前記第三の節部は、前記第二の節部の回動に伴って同回転方向へ回動することを特徴とする請求項5記載のロボットハンド。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
掌部に支持された指部を屈曲させてワークを把持することが可能なロボットハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、同一の製造ライン上で、人とロボットが共同して作用を行うシステムの開発と実用化が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。このようなシステムに用いられる協働ロボットには、省スペース性や、設置容易性等の観点より、小型化軽量化が求められる。
さらに、一つのロボットハンドにより、多種多様なタスクをこなせるように、器用な指部の動きが求められる。また、動作中のロボットハンドがワークを破損させたり人に接触したりしないように、安全性も求められる。
【0003】
従来、このような多種多様なタスクをこなすロボットハンドには、例えば特許文献2に記載される発明のように、直線状に並ぶ基端部材、中間部材、先端部材を、ワークとの接触に伴い、指元側から順番に屈曲させるものが知られている。なお、このような屈曲動作は、なじみ把持動作と呼称される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-039170号公報
【文献】特開2009-233790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来技術によれば、基端部材と中間部材の間を、駆動源であるリニアアクチュエータのロッドの前進により屈曲させ、この屈曲状態を、基端部材と中間部材の間に設けられたコイルスプリングの引張力により、元の伸展状態に復元するようにしている。
このような構造であるため、基端部材と中間部材の間を屈曲させている最中、リニアアクチュエータにはコイルスプリングの負荷がかかり、この負荷は前記屈曲の進行に伴い大きくなる。
そこで、省電力化や、駆動源の小型化等の観点より、前記屈曲の際の負荷を軽減することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題に鑑みて、本発明は、以下の構成を具備するものである。
掌部と、前記掌部に支持された指部と、前記指部を屈伸運動させる駆動源とを備えたロボットハンドにおいて、前記指部は、掌部に対し屈伸可能に枢支された第一の節部と、この第一の節部に対し屈伸可能に枢支された第二の節部とを、少なくとも具備し、前記第一の節部は、前記駆動源の動力により屈曲するように構成され、前記第二の節部は、前記駆動源の動力により屈曲した際の前記第一の節部が拘束された場合に、同動力により初期位置から屈曲するように構成され、前記第一の節部と前記第二の節部の間には、これら二つの節部を吸引して前記初期位置に保持するマグネットが設けられていることを特徴とするロボットハンド。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上説明したように構成されているので、屈曲運動時の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るロボットハンドの一例を示す斜視図である。
図2】同ロボットハンドについて、カバーを外した状態を示す斜視図である。
図3】同ロボットハンドについて、カバーを外した状態を手の甲側から視た斜視図である。
図4】同ロボットハンドについて、カバーを外した状態の把持動作を(a)(b)に順次に示す側面図である。
図5】同ロボットハンドについて、カバーを外した状態の把持動作を(c)(d)に順次に示す側面図である。
図6】同ロボットハンドの動作状態の一例を示す斜視図である。
図7】同ロボットハンドの動作状態の他例を示す斜視図である。
図8】同ロボットハンドの動作状態の他例を示す斜視図である。
図9】同ロボットハンドの把持動作状態の一例を示す斜視図である。
図10】同ロボットハンドの把持動作状態の他例を示す斜視図である。
図11】同ロボットハンドの把持動作状態の他例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態では、以下の特徴を開示している。
第一の特徴は、掌部と、前記掌部に支持された指部と、前記指部を屈伸運動させる駆動源とを備えたロボットハンドにおいて、前記指部は、掌部に対し屈伸可能に枢支された第一の節部と、この第一の節部に対し屈伸可能に枢支された第二の節部とを、少なくとも具備し、前記第一の節部は、前記駆動源の動力により屈曲するように構成され、前記第二の節部は、前記駆動源の動力により屈曲した際の前記第一の節部が拘束された場合に、同動力により初期位置から屈曲するように構成され、前記第一の節部と前記第二の節部の間には、これら二つの節部を吸引して前記初期位置に保持するマグネットが設けられている(図4及び図5参照)。
この構成によれば、第二の節部の屈曲によりマグネットの吸引状態を解放して、屈曲運動時の負荷を軽減することがきる。
【0010】
第二の特徴として、より動作性を向上するために、前記第一の節部と前記第二の節部には、前記初期位置にて回転軸方向に重なり合う部分を有し、前記マグネットは、前記重なり合う部分を吸引するように設けられている(図4及び図5参照)。
【0011】
第三の特徴として、初期位置での静止状態を安定させるために、前記マグネットは、前記第一の節部と前記第二の節部にそれぞれ対応して、二つ設けられている(図4及び図5参照)。
【0012】
第四の特徴として、初期位置での静止状態をより安定させるために、前記第一の節部と前記第二の節部には、前記初期位置にて当接し合い、前記第二の節部の屈曲に伴って離間する当接面と被当接面が設けられている(図4及び図5参照)。
【0013】
第五の特徴として、第一の節部の拘束時に第二の節部を同方向へ屈曲させる具体的構造を得るために、前記駆動源は、出力軸を回転させる電動モータであり、前記出力軸には、前記第一の節部が枢支されるとともに、前記第一の節部の延設方向に対する交差方向へ延設された第一の作動リンクが接続され、前記第一の作動リンクの回動端側には、前記第一の節部に沿って指先側へ延設された第二の作動リンクが枢支され、前記第二の節部の指元側は、前記第一の節部との枢支部分から径方向へ離れた位置にて、前記第二の作動リンクの指先側に枢支されている(図4参照)。
【0014】
第六の特徴として、指先側をなじみ把持動作させるために、前記第二の節部の指先側には、第三の節部が枢支され、前記第一の節部の指先側には、前記第二の節部との枢支部分から径方向へ離れ且つ前記第二の作動リンク側に対し逆側となる位置に、第三の作動リンクが枢支され、前記第三の作動リンクは、前記第二の節部に対し交差状に延設され、その指先側が、前記第三の節部に枢支され、前記第三の節部は、前記第二の節部の回動に伴って同回転方向へ回動する(図5参照)。
【0015】
<具体的実施態様>
次に、上記特徴を有する具体的な実施態様について、図面に基づいて詳細に説明する。
このロボットハンド1は、掌部10と、掌部10に支持された三以上(図示例によれば三つ)の第一~第三の指部20,30,40と、各指部を屈伸運動及び内外転運動させる複数の駆動源51,52,53,54,55とを具備している。
【0016】
ここで、屈伸運動とは、各指部の関節部分を屈曲させたり伸展させたりする運動である。また、内外転運動とは、前記屈伸運動に対し略直交する方向の運動であって、各指部を、その指元側を支点にして、隣接する指部に近づけるように回動させたり、隣接する指部から遠ざけるように回動させたりする運動である。
【0017】
掌部10は、指部の数に応じて異なる方向へ放射状に突出する三以上(図示例によれば三つ)の第一~第三の支持部11,12,13を有する平面視T字又はY字の平板状に形成される。(図1図2参照)
【0018】
第一の支持部11の裏面(手の甲側の面)には、後述する第一の指部20の指元側を支持する支持台11aが固定されている(図2参照)。
この支持台11aは、支持部11の裏面から突出する突端側に、傾斜状の支持面11a1を有する。この支持面11a1は、第一の指部20の指元側の基節部21を掌内側へ傾斜させた状態で内外転するように支持している。
【0019】
第二の支持部12の裏面側には、第一の指部20に対し異なる方向を向く第二の指部30が設けられる。
同様に、第三の支持部13の裏面側には、第一の指部20に対し異なる方向を向く第三の指部40が設けられる。
【0020】
また、掌部10裏面の中央側には、ロボットアーム等の先端部に対し接続される被接続部14が固定され突出している。
【0021】
第一の指部20は、90度以上の内外転運動と、この内外転運動に略直交する方向の屈伸運動とを含む二以上の自由度を有する。特に、本実施の形態の好ましい一例によれば、この第一の指部20は、180度以上の一つの内外転運動と、三つの関節毎の屈伸運動を含む四つの自由度を有する。
ここで、自由度とは、各指における独立した単一運動の数を意味し、本実施態様において、この自由度(数)は、各指に対応する駆動源の数に一致する。
【0022】
この第一の指部20は、支持台11aに対し内外転可能に枢支された基節部21と、この基節部21に対し屈伸可能に枢支された第一の節部22と、第一の節部22に対し屈伸可能に枢支された第二の節部23と、第二の節部23に対し屈伸可能に枢支された第三の節部24とを、長手方向に並べ具備している。そして、第一の指部20は、これら複数の節部を、関節毎に対応するように内在する駆動源(図示せず)の動力によって屈伸させる。
【0023】
基節部21は、その指元側が、支持台11aの傾斜状の支持面11a1に対し、略直交する軸を介して回転自在に支持される。
したがって、この基節部21の先端側は、掌部10に対し傾斜している。
この基節部21は、支持台11aに支持された駆動源51の動力によって内外転する。
【0024】
駆動源51は、回転角や回転速度等が適宜に制御されるようにした電動のサーボモータであり、内蔵するモータの回転力を、歯車及びクラッチ機構等を介して出力軸に伝達するように構成される。前記出力軸は、基節部21の回転中心部に接続固定される。
クラッチ機構は、ワーク側(もしくは基節部21側)から受ける所定以上の負荷によって内蔵モータからの出力(回転力)を切断する機構である。
電動のサーボモータ及びクラッチ機構には、例えば、再公表特許WO2017/002464に開示されるクラッチ装置、モータユニットを好適なものとして用いることが可能である。
【0025】
第一の節部22は、基節部21の先端側を支点にして、前記内外転に対し略直交して回動(屈伸運動)するように支持される。
この第一の節部22を屈伸運動させる駆動源は、第一の節部22の指元側に内在する電動のサーボモータ(図示せず)である。
【0026】
第二の節部23は、第一の節部22の指先側を支点にして、第一の節部22と同方向へ回動(屈伸運動)するように支持される。
この第二の節部23を屈伸運動させる駆動源は、第一の節部22の指先側に内在する電動のサーボモータ(図示せず)である。
【0027】
第三の節部24は、第二の節部23の指先側を支点にして、第二の節部23と同方向へ回動(屈伸運動)するように支持され、第一の指部20全体の指先部分を構成している。
この第三の節部24を屈伸運動させる駆動源は、第二の節部23の指先側に内在する電動のサーボモータ(図示せず)である。
【0028】
なお、第一の節部22、第二の節部23及び第三の節部24を屈伸運動させる前記駆動源は、上述した内外転運動用の駆動源51と同構成のものを用いればよい。
【0029】
また、第二の指部30と第三の指部40の各々は、90度以上の内外転運動と、この内外転運動に略直交する方向の屈伸運動とを含む二以上(図示例によれば二つ)の自由度を有する。
【0030】
第二の指部30は、掌部10の第二の支持部12に対し内外転可能に枢支された基節部Sと、この基節部Sに対し屈伸可能に枢支された第一の節部S1と、第一の節部S1に対し屈伸可能に枢支された第二の節部S2と、第二の節部S2に対し屈伸可能に枢支された第三の節部S3とを、長手方向に並べるように具備している。そして、第二の指部30は、これら複数の節部を、単一の駆動源53の動力によって指元側から順次に屈曲させる。このような屈曲動作を行う機構を、本実施態様では、なじみ把持機構と呼称する。
【0031】
基節部Sは、その指元側が、支持部12の裏面に対し、略直交する軸を介して回転自在に支持される。そして、この基節部Sは、被接続部14の付け根側に支持された駆動源52の動力によって内外転する。この駆動源52は、前記駆動源51と同構成のサーボモータである。
【0032】
第一の節部S1は、基節部Sの先端側を支点にして、前記内外転に対し略直交して回動(屈伸運動)するように支持される。
この第一の節部S1を屈伸運動させる駆動源53は、基節部Sの指先側に内在する電動のサーボモータであり、例えば、駆動源51,52と同構成のものを用いればよい。
【0033】
また、第二の節部S2と第三の節部S3は、後述するリンク機構を介して駆動源53から伝達される動力によって屈伸運動する。
【0034】
前記リンク機構について詳細に説明すれば、駆動源53の出力軸には、第一の節部S1が回転自在に枢支されるとともに、第一の作動リンクR1の基端側が、駆動源53の出力軸に対して回転不能に接続されている(図4(a)参照)。
第一の作動リンクR1は、第一の節部S1の延設方向に対する交差方向へ延設され、その延設方向の端部側(回動端側)には、第二の作動リンクR2の基端側が回転自在に枢支される。
第二の作動リンクR2は、第一の節部S1に沿う略平行リンク状に指先側へ延設される。
【0035】
また、第二の節部S2の指元側は、第一の節部S1の指先側に回転自在に枢支されるとともに、その枢支部分P1から径方向へ離れた位置P2にて、第二の作動リンクR2の指先側に回転自在に枢支されている。
【0036】
さらに、第一の節部S1の指先側には、第二の節部S2の枢支部分P1から径方向へ離れ且つ第二の作動リンクR2側に対し逆側となる位置P3に、第三の作動リンクR3の基端側が回転自在に枢支される。
第三の作動リンクR3は、第二の節部S2に対し側面視交差状に延設され、その指先側を第三の節部S3に対し回転自在に枢支することで、第二の節部S2における枢支部分P1を中心とした回動に伴って、第三の節部S3が同回転方向へ回動するようにしている。
【0037】
また、第一の節部S1と第二の節部S2の間には、これら二つの節部を吸引又は吸着して初期位置に保持する二つのマグネットM1,M2と、前記初期位置にて当接し合い、第二の節部S2の屈曲に伴って離間する当接面S1aと被当接面S2aが設けられる。
【0038】
当接面S1aは、第一の節部S1の指先側に設けられた段部の前端面であり、平坦状に形成される。
被当接面S2aは、第二の節部S2の指元側に位置する平坦状の面であり、前記初期位置(図4(a)参照)にて、当接面S1aと重なり合う。
【0039】
また、第一の節部S1における当接面S1aよりも指先側の部分と、第二の節部S2の指元側の一部分は、側面同士で重なり合っており、二つのマグネットM1,M2は、この重なり合う側面同士を吸引するように設けられる(図4参照)。
すなわち、一方のマグネットM1は、第一の節部S1における当接面S1aよりも指先側において、第二の節部S2の指元側の側面に対向するようにして、第一の節部S1に埋め込まれている。
また、他方のマグネットM2は、第二の節部S2の指元側において、マグネットM1と磁極(N極又はS極)を対向させるようにして、第二の節部S2に埋め込まれている。
【0040】
二つのマグネットM1,M2は、図4(a)に示す初期位置にて、完全に重なり合わずに、マグネットM1に対し、マグネットM2が第二の節部S2の屈曲回転方向(図4(a)によればP1を中心とした反時計方向)へ若干ずれている。この構成によって、第二の節部S2が、初期位置にて、伸展回転方向(図4(a)によればP1を中心とした時計方向)へ吸引されるようにしている。
これらマグネットM1,M2同士の吸引力は、第一及び第二の作動リンクR1,R2により駆動源52から伝達される第二の節部S2の回転力よりも小さくなるように設定される。
【0041】
なお、前記した各節部及び各作動リンクは、図示例のように、幅方向において、単数、又は平行に複数用いられる。この数は、強度や動作性等を考慮して適宜に設定される。
また、図中符号cは、各節部の手の甲側や各駆動源等を覆うカバー部材である。符号qは、弾性合成樹脂材料からなる滑止部材である。これらカバー部材cと滑止部材qは、一体の部材としてもよいし、複数の部材から構成してもよい。
【0042】
また、第三の指部40は、第二の指部30と略同様にして、基節部S、第一の節部S1、第二の節部S2、第三の節部S3、基節部Sを内外転させる駆動源54、第一の節部S1を屈曲させる駆動源55、第一の作動リンクR1、第二の作動リンクR2、第三の作動リンクR3、マグネットM1,M2等を具備している(図2及び図3参照)。
【0043】
上記構成のロボットハンド1は、各指部の一部又は全部が着脱可能に装着されている。
すなわち、本実施の形態の好ましい一例によれば、第一の指部20、第二の指部30及び第三の指部40は、それぞれ、ねじ止めや嵌合等により、掌部10に対し着脱や交換が可能なように接続されている。
また、第三の節部24や、第三の節部S3、滑止部材q等、指部の一部分も、ねじ止めや嵌合等により、着脱や交換が可能なように装着されている。
【0044】
次に上記構成のロボットハンド1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
図4図5は、ロボットハンド1における第二の指部30を、なじみ把持動作させた状態を示している。なお、第三の指部40のなじみ把持動作についても同様である。
【0045】
まず、駆動源53への電源供給により、駆動源53の出力軸を屈曲回転方向へ回転させると、前記出力軸に固定された第一の作動リンクR1が同回転方向へ一体的に回動する(図4(a)(b)参照)。
この回動中、第一の節部S1と第二の節部S2の間(関節部分)は、マグネットM1,M2によって吸引されているため屈曲しない。
【0046】
駆動源53の動力による前記回動中、第一の節部S1(詳細には滑止部材q)がワークWに当接し、第一の節部S1の回動が拘束されると、第二の節部S2が、同駆動源53の動力により同回転方向へ屈曲する。
詳細に説明すれば、第一の節部S1がワークWとの当接により拘束されると(図4(b)参照)、第二の節部S2には、第一及び第二の作動リンクR1,R2によって伝達される駆動源53の動力によって、同回転方向(図4によれば反時計方向)への回転力が作用する。この回転力は、二つのマグネットM1,M2の吸引力に対抗するように作用し、これらマグネットM1,M2同士の吸引力よりも大きい。
したがって、第二の節部S2は、初期位置から屈曲するように回動して、二つのマグネットM1,M2を引き離し、これらマグネットM1,M2による吸引力から解放される(図5(c)参照)。
【0047】
次に、駆動源53の出力軸の回転が継続して、第二の節部S2が回転を続けると、図5(c)(d)に示すように、第三の作動リンクR3の作用により、第三の節部S3が同回転方向へ回転し、その先端部分(指先)をワークWに押し付ける。
【0048】
また、上記のようにして第二の指部30をワークWに接触させた状態から、この第二の指部30を伸展動作する際には、駆動源53を逆転させて、第一~第三の節部S1,S2,S3及び第一~第三の作動リンクR1,R2,R3を前記と逆方向へ動作させればよく、この動作により、二つのマグネットM1,M2が吸引し合い、初期位置(図4(a)参照)に戻る。
【0049】
また、第一の指部20、第二の指部30及び第三の指部40を内外転させるには、対応する指元側の駆動源51,52又は54を、通電して所望とする方向へ回転させればよい。
【0050】
第一の指部20の屈伸運動は、第二の指部30及び第三の指部40とは異なる。第一の指部20は、関節毎の駆動源(図示せず)への通電によって、その通電された駆動源に対応する関節を屈伸運動させる。
【0051】
本実施の形態のロボットハンド1では、上述した複数の駆動源を適宜に制御することで、図6図11に例示する様々な動きが可能である。
図6は、三本の指部20,30,40を正面視T字状に配置し、第二の指部30と第三の指部40を伸展し、第一の指部20を掌側へ傾斜させた状態を示す。
【0052】
図7は、三本の指部20,30,40を正面視Y字状に配置し、第二の指部30と第三の指部40を屈曲し、第一の指部20を掌側へ傾斜させた状態を示す。
【0053】
図8は、第二の指部30と第三の指部40を略平行に屈曲し、第一の指部20を内転(又は外転)させて、第一の指部20の各関節を屈曲させた状態を示す。
【0054】
図9は、コンピュータ用のマウスなどの把持を想定し、三本の指部20,30,40を適宜に内外転及び屈曲させて、平面と曲面で構成される把持対象物Cを把持した状態を示す。
【0055】
図10は、筆記具などの把持を想定し、三本の指部20,30,40を適宜に内外転及び屈曲させて、円筒棒状の把持対象物Bを把持した状態を示す。この把持状態では、第一の指部20の3つの関節をそれぞれ適切な角度に設定することで第三の節部24の姿勢および指先と掌との距離を制御し、把持対象物Bの円筒状外周面に対し、第三の節部24の接触面および相対する指先で確実に挟み込みむことで、三本の指部20,30,40の接触個所が滑らないようにしている。
【0056】
図11は、三本の指部20,30,40を適宜に内外転及び屈曲させてシリンジ(注射器)Sを操作している状態を示す。シリンジSは、筒部Scと、先端が筒部Sc内に伸びる押し子Spとで構成されている。詳細に説明すれば、ロボットハンド1は、第二の指部30及び第三の指部40と掌部10とにより筒部Scを把持しながら、第一の指部20の第三の節部24から力Fにより、押し子Spの後端を押動している。特に、第一の指部20の基節部21を掌側へ傾斜させた構成が、このような動作を容易にしている。
【0057】
よって、ロボットハンド1によれば、第一の節部S1に対し第二の節部S2が屈曲方向へ回動した際、その回動がある程度進行すると、二つのマグネットM1,M2間の吸引力が作用しなくなる。このため、各指部の屈曲運動時の負荷を軽減することができ、駆動源の省電力化や、駆動源及び各部の小型軽量化等が可能になる。
【0058】
しかも、ロボットハンド1によれば、各指部をなじみ把持動作させたり、複数の指部をそれぞれ独立して複雑な動作をさせるなどして、把持対象物(ワーク)を確実に把持することができる上、様々な器用な動作が可能であり、例えば協働用ロボットとして必要とされる多種多様なタスクをこなすことができる。
【0059】
また、ロボットハンド1は、上記動作中に、各指部と物体との意図しない接触等により、各指部の駆動源が過剰な負荷を受けた場合でも、各駆動源に具備されるクラッチ機構により出力側を切断することができ、この結果、ワークWに対する把持力が強すぎてワークを破損や変形等したり、各指部や駆動源が過剰な負荷により破損したり等するのを防ぎ、屈伸運動及び内外転運動の際の安全性を確保することができる。この結果、ワークに対して意図しない力が加わってワークを破損や変形等したり、各指部や駆動源内蔵のモータが過剰な負荷により破損したり等するのを防ぐ。また、万が一、ロボットハンド1の指部が、作業中に意図しないかたちで人と接触した場合にも、クラッチ機構が働くことで、人にケガをさせないなど安全面にも優れている。
【0060】
また、ロボットハンド1によれば、各指部20,30,40を掌部10に対し着脱したり、各指部20,30,40の一部を着脱したりすることが可能である。このため、メンテナンス性が良好な上、タスクに応じて指部又は指部の一部を、形状や大きさ、弾性等の異なるものに交換することが可能である。
【0061】
なお、上記実施態様によれば、掌部10をT字平板状に形成したが、この掌部10の他例としては、Y字平板状や、円形平板状、矩形平板状、ブロック状等、図示例以外の態様とすることが可能である。
【0062】
また、上記実施態様によれば、指部の数を三本としたが、他例としては、指部の数を二本や、四本以上とすることも可能である。また、各指部の節部の数も、図示例以外の複数の数とすることが可能である。
【0063】
また、上記実施態様によれば、二つのマグネットM1,M2を設けるようにしたが、他例としては、一方のマグネットに置換して磁性体を設けた態様としてもよい。すなわち、この他例では、第一の節部S1と第二の節部S2のうち、その一方にマグネットを固定し、他方には初期位置にて前記マグネットに吸引されるように磁性材を固定する。
【0064】
また、上記実施態様では、特に好ましい一例として、第一の節部S1と第二の節部S2の側面に対向するようにマグネットM1,M2を固定したが、他例としては、第一の節部S1の当接面S1aと、第二の節部S2の被当接面S2aに、それぞれ、対向するようにマグネットM1,M2を固定することも可能である。
【0065】
また、上記実施態様では、掌部10に対し基節部21を介することで間接的に第一の節部22を屈伸可能に枢支したが、他例としては、掌部10に対し直接的に第一の節部22を屈伸可能に枢支することも可能である。
同様に、上記実施態様では、掌部10に対し基節部Sを介することで間接的に第一の節部S1を屈伸可能に枢支したが、他例としては、掌部10に対し直接的に第一の節部S1を屈伸可能に枢支することも可能である。
【0066】
また、上記実施態様は、隣接する節部間の引張りバネ(コイルスプリング等)を不要にしているが、バックラッシュ軽減等のために、適宜箇所に引張りバネを設けることも可能である。
【0067】
また、本発明は上述した実施態様に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:ロボットハンド
10:掌部
20:第一の指部
21:基節部
22:第一の節部
23:第二の節部
24:第三の節部
30:第二の指部
40:第三の指部
51,52,53,54,55:駆動源
S:基節部
S1:第一の節部
S1a:当接面
S2:第二の節部
S2a:被当接面
S3:第三の節部
R1:第一の作動リンク
R2:第二の作動リンク
R3:第三の作動リンク
M1,M2:マグネット
W:ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11