(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】刈刃付き電動作業機
(51)【国際特許分類】
A01D 34/78 20060101AFI20230605BHJP
A01D 34/68 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
A01D34/78 Z
A01D34/68 K
(21)【出願番号】P 2021519052
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018821
(87)【国際公開番号】W WO2020230212
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000104065
【氏名又は名称】カーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 伸也
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩一
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-000109(JP,A)
【文献】特開2013-165676(JP,A)
【文献】特開昭62-198320(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03103317(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/78
A01D 34/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を走行させながら刈り取り作業を行う刈刃付き電動作業機であって、
刈刃と、
前記刈刃を回転駆動する電動モータと、
前記電動モータに電力を供給する主電源と、
前記電動モータと前記刈刃との間で動力を断接するクラッチと、
前記機体の傾斜を検知する傾斜センサと、
前記主電源のON/OFFを制御する制御手段とを備えており、
前記クラッチを操作する操作手段により、前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達されない前記クラッチを切った状態と前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達される前記クラッチが繋がった状態とを切り換え可能であり、
機体の走行方向と直交する方向を水平方向とし、水平面上の前記機体を正面から見たときの前記機体の垂直方向の中心線を基準線とすると、
前記制御手段は、前記水平方向において、前記基準線が規定角度以上傾斜したとき又は前記
通電中の電動モータの回転が規定時間以上停止したときに、前記主電源をOFFに
し、
前記電動モータの回転が停止した直後に前記クラッチを切り、前記電動モータが回転しても、前記機体を傾けて前記基準線が規定角度以上傾斜したときに主電源がOFFになることを特徴とする刈刃付き電動作業機。
【請求項2】
前記操作手段と前記刈刃との位置関係が、作業者が操作手段により前記クラッチが繋がった状態を保持したままでは、前記作業者と同一作業者が前記刈刃近傍の刈草を除去することができない位置関係である請求項1に記載の刈刃付き電動作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータと刈刃との間にクラッチを介在させた刈刃付き電動作業機において、刈刃近傍の刈草除去時の安全対策のための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芝や草を刈り取るために、芝刈機や草刈機といった作業機が用いられている。これらの作業機においては、水平方向に配置された刈刃を備え、刈刃を駆動源で回転させるものが知られており、刈刃の駆動源としては、エンジンや電動モータが用いられている。例えば特許文献1に記載の歩行型草刈機は、前後車輪と上下方向の軸芯回りに回転する刈刃の駆動源として、電動モータ8が用いられている。
【0003】
刈刃の駆動源と刈刃との間にクラッチを介在させる点は、駆動源がエンジンであっても電動モータであっても同様であり、特許文献1に記載の歩行型草刈機は、草刈時に刈刃クラッチ54を繋ぐと、電動モータ8の出力軸47の回転が刈刃クラッチ54を介して刈刃6に伝達されて刈刃6が回転駆動される(特許文献1の
図1参照)。
【0004】
クラッチを備えた作業機においては、クラッチレバーをON状態に操作してクラッチを繋ぐ必要がある。クラッチレバーと刈刃との位置関係は、クラッチレバーをON状態に保持したままでは刈草を除去することができない位置関係であるのが通常である。このような位置関係では、作業機を横倒して刈草の詰まりや絡まりを除去している時点で、エンジンやモータは起動していても刈刃の回転は停止していることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、不測の事態を考慮すると、より一層の安全対策の強化が必要となる。例えば、駆動源がエンジンの場合は、刈草の詰まりや絡まりの抵抗で刈刃が回転しなくなるとエンストし、一旦エンストすると運転の再開には再起動が必要になる。これに対し、駆動源が電動モータの場合は、刈刃が回転しなくなってもクラッチを切れば電動モータは回転が再開し、クラッチを切っている限り電動モータの回転は継続する。
【0007】
本発明は、前記のような従来の刈刃付き電動作業機の安全面に鑑み、刈刃の駆動源である電動モータと刈刃との間にクラッチが介在する構造を採用する刈刃付き電動作業機において、より一層の安全対策の強化を図った刈刃付き電動作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の刈刃付き電動作業機は、機体を走行させながら刈り取り作業を行う刈刃付き電動作業機であって、刈刃と、前記刈刃を回転駆動する電動モータと、前記電動モータに電力を供給する主電源と、前記電動モータと前記刈刃との間で動力を断接するクラッチと、前記機体の傾斜を検知する傾斜センサと、前記主電源のON/OFFを制御する制御手段とを備えており、
機体の走行方向と直交する方向を水平方向とし、水平面上の前記機体を正面から見たときの前記機体の垂直方向の中心線を基準線とすると、前記制御手段は、前記水平方向において、前記基準線が規定角度以上傾斜したとき又は前記電動モータの回転が規定時間以上停止したときに、前記主電源をOFFにすることを特徴とする。
【0009】
前記本発明の刈刃付き電動作業機によれば、刈刃近傍の刈草の除去を行う場合に想定される状況を考慮して、基準線が規定角度以上傾斜したとき又は電動モータの回転が規定時間以上停止したときの2つの条件のいずれか一方を満足するときに主電源が自動的にOFFになる制御を採用しており、主電源がOFFになれば、再度刈刃を回転させるには、多段階の操作が必要になり、不意に刈刃が回転するという不測の事態が生じることはなく、作業者は安全上問題なく、刈刃近傍の刈草の除去を行うことができ、作業者の心理的負担も解消される。
【0010】
前記本発明の刈刃付き電動作業機においては、前記クラッチを操作する操作手段により、前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達されない前記クラッチを切った状態と前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達される前記クラッチが繋がった状態とを切り換え可能であり、前記操作手段と前記刈刃との位置関係が、作業者が操作手段により前記クラッチが繋がった状態を保持したままでは、前記作業者と同一作業者が前記刈刃近傍の刈草を除去することができない位置関係であることが好ましい。この構成によれば、作業者が刈刃近傍の刈草の除去を行う際には、クラッチが切れた状態になり刈刃の回転は停止するので、安全対策面でより有利になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は前記のとおりであり、要約すれば、本発明によれば、2つの条件のいずれか一方を満足するときに主電源が自動的にOFFになる制御を採用しており、主電源がOFFになれば、再度刈刃を回転させるには、多段階の操作が必要になり、不意に刈刃が回転するという不測の事態が生じることはなく、作業者は安全上問題なく、刈刃近傍の刈草の除去を行うことができ、作業者の心理的負担も解消される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機の外観斜視図。
【
図2】
図1に示した刈刃付き電動作業機のモータボックスの内部を示す斜視図。
【
図3】
図1に示した刈刃付き電動作業機をハンドル側から見たときの斜視図。
【
図4】
図1に示した刈刃付き電動作業機を裏面側から見た斜視図。
【
図5】
図1に示した刈刃付き電動作業機のハウジングデッキの内部に配置されたクラッチの構造を示す断面図。
【
図6】
図5に示したクラッチの拡大図であり、クラッチを切った状態を示す断面図。
【
図7】
図5に示したクラッチの拡大図であり、クラッチが繋がった状態を示す断面図。
【
図8】本発明の一実施形態に係るクラッチレバーの近傍を示す外観斜視図。
【
図9】本発明の一実施形態に係る制御手段による制御を示すブロック図。
【
図10】本発明の一実施形態に係る傾斜センサの拡大斜視図。
【
図11】本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機の機体の正面図。
【
図12】本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機において運転開始から運転終了までの工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機1(以下単に「作業機1」という。)の外観斜視図であり、
図2はモータボックス2の内部を示す斜視図であり、
図3は作業機1をハンドル側から見たときの斜視図であり、
図4は作業機1を裏面側から見た斜視図である。
【0014】
本実施形態においては、作業機1は歩行式芝刈機の例で説明するが、後に説明するとおり、本発明は、電動モータと刈刃との間にクラッチを介在させた作業機において、刈刃近傍の刈草除去時の安全対策のための制御に関するものであり、この制御の適用対象は同様の刈刃回転機構を有するものであればよく、例えば乗用式芝刈機であってもよく、草刈機であってもよい。
【0015】
最初に
図1~4を参照しながら、作業機1の概要を説明する。
図1において、モータボックス2の前方に前輪3が取り付けられており、後方に後輪4が取り付けられている。
図2に示したように、モータボックス2の内部には電動モータ5が搭載されている。電動モータ5により後輪4及び刈刃9(
図4参照)が回転駆動される。
【0016】
図1において、モータボックス2の後方には主電源6(バッテリ)が搭載されている。モータボックス2の下方にハウジングデッキ7があり、ハウジングデッキ7の後方にグラスバッグ8が取り付けられている。
図4に示したように、ハウジングデッキ7内には刈刃9が配置されている。詳細は後に説明するが、刈刃9に電動モータ5の回転がクラッチ20(
図5参照)を介して伝達されて、刈刃9が回転する。
【0017】
図4において、刈刃9の回転と一体にフィン付きディスク35が回転して、ハウジングデッキ7からグラスバッグ8に向かう空気の流れが生じる。このことにより、刈刃9の回転により刈り取られた芝は排気口19を経てグラスバッグ8に送られて、ここに集められる。
【0018】
作業機1は、作業者が歩行しながら使用するものであり、
図1において、機体には操作棹10が取り付けられており、操作棹10の端部には操作ハンドル11、クラッチレバー12(クラッチの操作手段)及び変速レバー13が取り付けられている。また、一対の操作棹10の間にはフレーム15が架け渡され、フレーム15には電動モータ5の回転数等を表示するディスプレイ16が固定されている。
図3に示したように、ディスプレイ16には、メインスイッチ17が取り付けられており、メインスイッチ17を回転させることにより、主電源6をONにすることができる。
【0019】
図1において、主電源6がONの状態で、変速レバー13をスライドさせることにより(矢印a方向)、電動モータ5を起動させることができ、電動モータ5の回転を段階的に高めることができる。操作ハンドル11の近傍には操作レバー14が取り付けられており、電動モータ5が回転中の状態において、操作レバー14の操作により、後輪4が駆動され作業機1が前進する。
【0020】
電動モータ5が回転していても、クラッチレバー12を操作しない限り、刈刃9の回転駆動は停止しており、芝刈りを行う際には、クラッチレバー12でクラッチ20(
図5参照)を操作して、電動モータ5の動力が刈刃9に伝達されないクラッチ20を切った状態から電動モータ5の動力が刈刃9に伝達されるクラッチ20が繋がった状態に切り換える必要がある。
【0021】
以下、
図5~
図8を参照しながら、クラッチ20の動作について説明する。
図5はハウジングデッキ7の内部に配置されたクラッチ20の構造を示す断面図であり、
図6及び
図7はクラッチ20の拡大図であり、
図6はクラッチ20を切った状態を示しており、
図7はクラッチ20が繋がった状態を示している。
図8は、クラッチレバー12の近傍を示す外観斜視図である。
【0022】
図5に示したように、クラッチ20はハウジングデッキ7の内部に配置されており、ハウジングデッキ7の上側に配置された電動モータ5(
図2参照)のモータ軸21がドライブディスク22と連結されている。モータ軸21とドライブディスク22とは、キー(図示せず)で結合されており、モータ軸21の回転と一体にドライブディスク22も回転する。
【0023】
図6において、モータ軸21には、上側ベアリング23を介して、ブレーキディスク支持板24が取り付けられている。ブレーキディスク支持板24には、円環状のブレーキディスク25が上下方向移動可能に取り付けられている。この構成では、モータ軸21が回転しても、モータ軸21とブレーキディスク支持板24との間には上側ベアリング23が介在しているので、ブレーキディスク支持板24及びこれと一体のブレーキディスク25は回転しない。
【0024】
刈刃9はブレードホルダ26の下側に固定されており、ブレードホルダ26とドライブディスク22との間には下側ベアリング27が介在している。ブレードホルダ26の上側には摩擦板28が上下スライド可能に回り止め結合されており、摩擦板28が回転すれば、これと一体にブレードホルダ26及び刈刃9が回転する。
【0025】
ブレードホルダ26と摩擦板28との間には、スプリング29が介在しており、摩擦板28はスプリング29の伸縮に伴い上下方向にスライドする。
図6の状態では、摩擦板28がブレーキディスク25により押圧されて下側にスライドしており、スプリング29が縮んでいる。このため、摩擦板28はドライブディスク22から離れている。この状態はクラッチ20を切った状態であり、モータ軸21の回転と一体にドライブディスク22が回転していても、ドライブディスク22の回転は摩擦板28に伝達されず、刈刃9も回転しない。
【0026】
これに対し、
図7の状態はブレーキディスク25による摩擦板28の押圧が解除されており、その結果スプリング29が伸びてスプリング29の反発力により、摩擦板28がドライブディスク22を押圧している。この状態はクラッチ20が繋がった状態であり、ドライブディスク22の回転は摩擦板28に伝達され、刈刃9は回転し芝刈りが可能になる。
【0027】
作業機1は、ブレーキディスク25を下側へ押し下げてクラッチ20を切った状態(
図6の状態)と、クラッチ20を切った状態が解除されクラッチ20が繋がった状態(
図7の状態)とを切り換える切り換え機構(図示せず)を備えている。この切り換え機構はクラッチレバー12(
図1及び
図8参照)の操作により作動する。
【0028】
図8において、クラッチレバー12上部の操作ボタン18を押した状態で(矢印b)、そのままクラッチレバー12を前方に倒す(矢印c)と、切り換え機構が作動し、ブレーキディスク25が下側へ押し下げられた状態が解除され、
図7のように摩擦板28がドライブディスク22を押圧したクラッチ20が繋がった状態になり、刈刃9が回転する。操作ボタン18を押しクラッチレバー12を前側に倒した状態を維持する限り刈刃9は回転するが、クラッチレバー12から作業者の手が離れると、クラッチ20を切った状態になり刈刃9の回転が停止する。
【0029】
以上、作業機1の概要及びクラッチの動作について説明したが、
図4において刈取作業中はハウジングデッキ7内部や排気口19に刈草が詰まったり、刈刃9に刈草が絡まったりする。この状態が進行すると電動モータ5が過負荷状態になり、電動モータ5が停止し刈刃9の回転も停止する。この場合、本来の刈取作業を続けるには、作業機1を横倒しして刈刃9近傍の刈草の除去が必要となる。
【0030】
作業機1は
図1に示したように、クラッチレバー12とハウジングデッキ7とは離れた位置にあり、クラッチレバー12と刈刃9との位置関係が、作業者がクラッチレバー12によりクラッチ20が繋がった状態を保持したままでは、同一作業者が刈刃9近傍の刈草を除去することができない位置関係になっており、クラッチレバー12の把持と刈草の除去は両立できないように設計している。
【0031】
このため、作業機1を横倒しして刈刃9近傍の刈草の除去を行う場合は、クラッチレバー12から手を離す必要がある。クラッチレバー12から手を離すと、前記のとおりクラッチ20を切った状態になり電動モータ5の動力は刈刃9には伝達されず刈刃9の回転が停止する。
【0032】
したがって、刈刃9近傍の刈草の除去は、電動モータ5の動力が刈刃9には伝達されない状態で行うことができる。本実施形態では、クラッチ20の把持と刈草の除去は両立できないので、再度クラッチ20を繋ぐには、刈刃9近傍から手を離した上で、クラッチレバー12の操作が必要になり、不意に刈刃9が回転するという危険は想定し難い。
【0033】
一方、クラッチ20を切った状態では刈刃9の回転が停止していても電動モータ5は回転するので、この状態での刈草の除去作業は作業者に心理的負担を与えてしまう。また、万全の安全対策のためには、刈草の除去作業中、規定外の使用により刈刃9が回転するという不測の事態をも考慮する必要がある。これらの点に鑑み、本願発明者らは、刈草の除去作業をする際のより一層の安全対策の強化を図るために、所定の条件を満足するときに、単に電動モータ5への通電を停止するのではなく、主電源を自動的にOFFにする制御を導き出した。
【0034】
作業機1は、主電源6のON/OFFを制御する制御手段30(コンピュータ)を内蔵しており、以下、特に
図9~
図12を参照しながら、制御手段30による制御について説明する。
図9は制御手段30による制御を示すブロック図であり、
図10は傾斜センサ31の拡大斜視図であり、
図11は作業機1の正面図であり、
図12は運転開始から運転終了までの工程を示すフローチャートである。
【0035】
図9において、制御手段30に傾斜センサ31からの信号が入力される。
図2に示したように傾斜センサ31は、モータボックス2の内部に固定されている。傾斜センサ31は傾斜角を検出するセンサであり、物体に取り付けた場合は、物体の傾いた角度に比例した信号が出力される。本実施形態では傾斜センサ31は、機体の走行方向と直交する水平方向における傾斜角を検出するものである。
【0036】
傾斜角について、
図11を参照しながら具体的に説明する。作業機1の機体の正面図である
図11において、作業機1は水平面35上にあり、X方向が作業機1の機体の走行方向(Z方向)と直交する方向を水平方向である。基準線36は、水平面35に対して垂直方向(Y方向)に伸びた機体の中心線である。
図11において、作業機1の機体が水平方向(X方向)において、角度αだけ傾くと基準線36も角度αだけ傾く。この角度αを傾斜センサ31は検出可能である。
【0037】
本実施形態に係る制御は、第1の条件及び第2の条件のうち、いずれか一方を満足するときに主電源6が自動的にOFFになる制御である。第1の条件は水平方向における角度αが規定角度以上になるという条件である。第1の条件は、刈刃9近傍の刈草を除去するには、機体を横倒しすることを考慮したものである。
【0038】
第2の条件は電動モータ5の回転が規定時間以上停止するという条件である。第2の条件は、刈草の詰まりや絡まりが進行するとこれらの抵抗で刈刃9の回転が停止し同時に電動モータ5の回転も停止することを考慮したものである。
【0039】
以下、
図12を参照して作業機1の運転開始から運転終了までの動作について説明しながら、本実施形態に係る安全対策のための制御について説明する。
図12において、運転を開始させるときは(ステップ100)、メインスイッチ17(
図3参照)を回転させることにより、主電源6をONにする(ステップ101)。この状態で変速レバー13(
図1参照)をスライドさせることにより(ステップ102)、電動モータ5が起動し、電動モータ5が回転する(ステップ103)。この状態で、
図1において、操作レバー14の操作により、後輪4が駆動され作業機1が前進する。
【0040】
一方、クラッチレバー12(
図1参照)を操作しない限り、電動モータ5が回転していても、クラッチ20は切った状態であり刈刃9は回転せず、刈刃9を回転させるには、クラッチレバー12の操作によりクラッチ20を切った状態を解除し、クラッチ20を繋ぐ必要がある。本実施形態においては、クラッチ20を切った状態であるか、クラッチ20を繋いた状態であるかにかかわらず、機体が45度以上傾くと(ステップ104)、
図9において、制御手段30は傾斜センサ31からの信号によりこれを検知し、主電源6がOFFになり(ステップ107)運転が終了する(ステップ108)。
【0041】
主電源6がOFFになると、刈刃9のみならず電動モータ5の回転も停止する。刈刃9を回転させるには、機体を起こし、
図3においてメインスイッチ17を回転させて再度主電源6をONにし、変速レバー13(
図1参照)をスライドさせて電動モータ5を起動させた上で、
図8においてクラッチレバー12上部の操作ボタン18を押した状態でクラッチレバー12を前方に倒すという多段階の操作が必要になる。このため、機体を横倒しにして、主電源6がOFFの状態であれば、不意に刈刃9が回転するという不測の事態が生じることはなく、作業者は安全上問題なく、刈刃9近傍の刈草の除去を行うことができる。
【0042】
機体の傾斜については
図11を参照して説明したとおりであり、45度は
図11における角度αである。45度は規定角度の一例であり、これに限るものではなく、機体の大きさ、構造及び使用態様等を考慮しながら、適宜決定すればよい。
【0043】
前記のとおり、主電源6が自動的にOFFになる第2の条件は、電動モータ5の回転の規定時間以上の停止である。刈取り運転中にハウジングデッキ7(
図4参照)内の刈草の詰まりや絡まりが進むと、刈刃9の回転が停止する。刈取り運転中はクラッチ20が繋がっているので、刈刃9の回転停止と同時に電動モータ5の回転も停止する。本実施形態では、この電動モータ5の回転の停止が1秒以上になると(ステップ105)、主電源6がOFFになり(ステップ107)運転が終了する(ステップ108)。
【0044】
主電源6がOFFになると、前記のとおり、再度刈刃9を回転させるには多段階の操作が必要になり、不意に刈刃9が回転するという不測の事態が生じることはなく、作業者は安全上問題なく、刈刃9近傍の刈草の除去や各部の点検作業を行うことができる。また、クラッチ20が繋がった状態で、電動モータ5の回転が停止した状態が続くと、電動モータ5の過負荷状態が続くことになるが、速やかに主電源6がOFFになることで、過負荷状態が解除され、消費電力が過度に増えることも防止できる。
【0045】
一方、電動モータ5の回転が停止した直後にクラッチ20を切った場合は、電動モータ5が回転するが、前記のとおり刈草の除去のためのに機体を傾けると、主電源6がOFFになり(ステップ107)運転が終了する(ステップ108)。
【0046】
主電源をOFFにするときの、電動モータ5の停止時間の規定値は、本実施形態では1秒であったが、これに限るものではなく適宜決定すればよい。電動モータ5が瞬間的に停止してもすぐ復帰する場合もあり、ある程度の待ち時間が必要であるが、前記のとおり過負荷状態が長く続くことを避けるには、停止時間の規定値は数秒程度の短い値が望ましい。
【0047】
以上、本発明について説明したが、本発明によれば、刈刃9近傍の刈草の除去を行う場合に想定される状況を考慮して、第1の条件及び第2の条件のうち、いずれか一方を満足するときに主電源6が自動的にOFFになる制御を採用しており、主電源6がOFFになれば、再度刈刃9を回転させるには、多段階の操作が必要になり、不意に刈刃9が回転するという不測の事態が生じることはなく、作業者は安全上問題なく、刈刃9近傍の刈草の除去を行うことができ、作業者の心理的負担も解消される。
【0048】
前記実施形態は一例であり、適宜変更したものであってもよい。例えば、前記実施形態では、クラッチ20の操作手段として、クラッチレバー12を用いていたが、クラッチ20が操作できればよく、レバー構造に限るものではない。また、前記の第1の条件において、検出する角度αは水平方向における傾斜角としているが、安全性をより高めるために、機体の走行方向(前後方向)における傾斜角を検出して主電源6をOFFにする制御を追加してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 刈刃付き電動作業機
3 前輪
4 後輪
5 電動モータ
9 刈刃
12 クラッチレバー(クラッチの操作手段)
18 操作ボタン
20 クラッチ
22 ドライブディスク
28 摩擦板
30 制御手段
31 傾斜センサ