IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -後硬化シーラント層を有する空気入りタイヤ 図1
  • -後硬化シーラント層を有する空気入りタイヤ 図2
  • -後硬化シーラント層を有する空気入りタイヤ 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】後硬化シーラント層を有する空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29C 73/20 20060101AFI20230605BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20230605BHJP
   C08K 5/33 20060101ALI20230605BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20230605BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230605BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230605BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20230605BHJP
   B60C 19/12 20060101ALN20230605BHJP
【FI】
B29C73/20
C08K5/14
C08K5/33
C08K5/11
C08L21/00
C08K3/013
B29D30/06
B60C19/12 Z
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019096695
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020019272
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】15/987,966
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513158760
【氏名又は名称】ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・フランツェン
(72)【発明者】
【氏名】フリダ・ズル
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078443(JP,A)
【文献】国際公開第2016/059855(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 73/00- 73/34
B29D 30/00- 30/72
B60C 1/00- 19/12
C09K 3/10- 3/12
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの製造法であって、
シーラント組成物を混合する工程、ここで該シーラント組成物は、該シーラント組成物の全重量を基準として
10~50重量%のエラストマー、
0より多く30重量%以下のフィラー、
10~80重量%の希釈剤、
0.5~5重量%のキノイド硬化剤、
1~15重量%以下のオキシダント共硬化剤
1~10重量%の、式1:
【化1】

[式中、R及びRは、独立に、H又はC1~C4アルキルであるか、又はR及びRは一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成し及びRは、独立に、H、-OH -NH、C1~C4アルキル、又は-ORであり、ここでRはC1~C4アルキルであるが、R及びRが一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成している場合、RはC1~C3アルキルである]の硬化調節剤、ならびに
1~10重量%の硬化遅延剤
を含む;
該シーラント組成物を硬化タイヤの内表面に適用する工程;そして
シーラント組成物を硬化する工程
を含み
該エラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、ポリブタジエン、天然ゴム、及び合成ポリイソプレンからなる群から選ばれ、
該フィラーが、カーボンブラック及びシリカからなる群から選ばれ、
該希釈剤が、200~5,000の範囲の数平均分子量Mnを有する低分子量エラストマーであり、
該キノイド硬化剤が、ベンゾキノンジオキシム、p,p-ジ-ベンゾイルキノンジオキシム、ジベンゾイル-p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン及びN-メチル-N,4-ジニトロソアニレンからなる群から選ばれ、
該オキシダント共硬化剤が、ジアロイルペルオキシド、ジアシルペルオキシド及びペルオキシエステルからなる群から選ばれ、そして
該硬化遅延剤が、エチレングリコール、アルキル置換エチレングリコール、エチレンジアミン、及びアルキル置換エチレンジアミンからなる群から選ばれる、
上記の方法
【請求項2】
硬化調節剤が、フタル酸、フタル酸モノアルキル、フタル酸ジアルキル、フタル酸モノアミド、フタル酸ジアミド、フタルアルデヒド、及びo-ジアセチルベンゼンからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硬化調節剤が、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、及びフタル酸ジプロピルからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
硬化調節剤が、マレイン酸、マレイン酸モノアルキル、マレイン酸ジアルキル、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキル、シトラコン酸ジアルキル、シトラコン酸モノアミド、シトラコン酸ジアミド、及び2-ブテンジアール-2Zからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
硬化調節剤が、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、及びマレイン酸ジブチルからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
硬化調節剤が、トリメリット酸、トリメリット酸モノアルキル、トリメリット酸ジアルキル、トリメリット酸トリアルキル、ヘミメリット酸、ヘミメリット酸モノアルキル、ヘミメリット酸ジアルキル、ヘミメリット酸トリアルキル、ピロメリット酸、ピロメリット酸モノアルキル、ピロメリット酸ジアルキル、ピロメリット酸トリアルキル、及びピロメリット酸テトラアルキルからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
オキシダント共硬化剤が過酸化ベンゾイルである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
シーラントがさらに、オイル及び樹脂の少なくとも一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
希釈剤がポリイソブチレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
シーラント組成物がさらに、1~10phrの、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、及び酸化カルシウムから選ばれる金属酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
混合する工程が、
オキシダント共硬化剤と希釈剤の一部を合わせて成分Aを形成させ;
残りの成分を合わせて成分Bを形成させ;そして
成分Aと成分Bを混合してシーラント組成物を形成させる
工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
インナーライナーに接着されたシーラント層を有する空気入りタイヤであって、
該シーラント層が硬化したシーラント組成物からなり、該シーラント組成物が
該シーラント組成物の全重量を基準として、
10~50重量%のエラストマー、
0より多く30重量%以下のフィラー、
10~80重量%の希釈剤、
0.5~5重量%のキノイド硬化剤、
1~15重量%以下のオキシダント共硬化剤、
1~10重量%の、式1:
【化2】

[式中、R 及びR は、独立に、H又はC1~C4アルキルであるか、又はR 及びR は一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成し、R 及びR は、独立に、H、-OH -NH 、C1~C4アルキル、又は-OR であり、ここでR はC1~C4アルキルであるが、R 及びR が一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成している場合、R はC1~C3アルキルである]の硬化調節剤、ならびに
1~10重量%の硬化遅延剤
を含み、
該エラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、ポリブタジエン、天然ゴム、及び合成ポリイソプレンからなる群から選ばれ、
該フィラーが、カーボンブラック及びシリカから選ばれ、
該希釈剤が、200~5,000の範囲の数平均分子量Mnを有する低分子量エラストマーであり、
該キノイド硬化剤が、ベンゾキノンジオキシム、p,p-ジ-ベンゾイルキノンジオキシム、ジベンゾイル-p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン及びN-メチル-N,4-ジニトロソアニレンからなる群から選ばれ、
該オキシダント共硬化剤が、ジアロイルペルオキシド、ジアシルペルオキシド及びペルオキシエステルからなる群から選ばれ、そして
該硬化遅延剤が、エチレングリコール、アルキル置換エチレングリコール、エチレンジアミン、及びアルキル置換エチレンジアミンからなる群から選ばれる
上記空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
シーラントがパンク孔に流れ込む液体シーラントコーティングの使用に関する様々な方法、シーラント及びタイヤ構造が空気入りタイヤに提案されている。しかしながら、そのような液体シーラントは高温では過剰に流れてタイヤのバランスを損ねる原因にもなりかねない。また、液体シーラントは、夏季から冬季条件に及ぶ広い温度範囲にわたって完全に動作可能又は効果的というわけでもない。加硫ゴム材料中に液体シーラントを包含するより複雑なタイヤ構造は、製造コストが高くつくだけでなく、タイヤに要求される追加重量のためにバランス及びサスペンションの問題も引き起こしうる。
【0002】
分解性ブチル系ゴムなどのシーラント層を未加硫タイヤ層の間に組み込んでビルトイン型のシーラントを提供するパンク封止タイヤ(puncture sealing tire)もさらに提案されている。シーラント層を二つ以上の非分解ゴム層、例えばタイヤインナーライナー及びタイヤカーカスの間に積層することにより、シーラント層は、高圧がタイヤに印加される加硫操作中もその構造完全性を保持する(そうしなければ分解ゴム層はその所望位置から変位することになろう)。しかしながら、ビルトインシーラントに典型的に使用される化合物、例えば有機過酸化物解重合ブチル系ゴムは、タイヤ硬化中又はタイヤ使用中のような高温でガスを発生しやすく、インナーライナーに醜悪なブリスター形成をもたらしうる。醜悪であることは別にしても、そのようなブリスター形成は、シーラントをその意図した位置から移動させることにもなりうるので好ましくない。ブリスター形成に対処するために、例えば厚みを増大したインナーライナーを提供することもできるが、これはタイヤの製造コストを追加することになりかねない。
【0003】
硬化工程の後(又は後硬化)、シーラント層をタイヤに直接適用することも知られている。そのようなシーラント層は、一般的に、最内部のインナーライナーの露出表面に接着固定され、粘着性及びゲル様であろう。当分野で知られているそのような後硬化シーラントは、釘などのようなパンク原因物体に対して適切な長期間の封止を提供できない。
【0004】
従って、タイヤのための改良された後硬化シーラント層が求められている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、空気入りタイヤの製造法に向けられ、該方法は、
エラストマー、フィラー、希釈剤、キノイド硬化剤、オキシダント共硬化剤;及び式1:
【0006】
【化1】
【0007】
[式中、R及びRは、独立に、H又はC1~C4アルキルであるか、又はR及びRは一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成し;R及びRは、独立に、H、-OH -NH、C1~C4アルキル、又は-ORであり、ここでRはC1~C4アルキルであるが、R及びRが一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成している場合、RはC1~C3アルキルである]の硬化活性剤を含むシーラント組成物を混合し;該シーラント組成物を硬化タイヤの内表面に適用し;そしてシーラント組成物を硬化する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、インナーライナーに接着されたタイヤ硬化後適用シーラント層を含む周方向シーラント層を含む空気入りタイヤの断面図を示す。
図2図2は、タイヤ硬化後適用シーラント層を有するタイヤの一部の部分断面図を示す。
図3図3は、様々な硬化調節剤を含むシーラント組成物の硬化挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
空気入りタイヤの製造法を開示する。該方法は、
エラストマー、フィラー、希釈剤、キノイド硬化剤、オキシダント共硬化剤;及び式1:
【0010】
【化2】
【0011】
[式中、R及びRは、独立に、H又はC1~C4アルキルであるか、又はR及びRは一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成し;R及びRは、独立に、H、-OH -NH、C1~C4アルキル、又は-ORであり、ここでRはC1~C4アルキルであるが、R及びRが一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成している場合、RはC1~C3アルキルである]の硬化活性剤を含むシーラント組成物を混合し;該シーラント組成物を硬化タイヤの内表面に適用し;そしてシーラント組成物を硬化する工程を含む。
【0012】
図1に、硬化された空気入りタイヤ10の断面図を示す。タイヤ10は、トレッドベースゴム層11を含むトレッド14と、サイドウォール12と、相隔たるビード18と、そしてトレッド14(トレッドベース層11を含む)の下部にある、コード補強(例えばワイヤコード補強)ゴムベルトプライ16、コード補強(例えば合成ナイロン又はポリエステルコード補強)ゴムカーカスプライ17及び任意のゴムバリア層13を含むカーカスとを含み、インナーライナーゴム層22がタイヤの半径方向最内面を形成するシーラント層20と共に、カーカス及び任意のバリア層13及びカーカスプライ17の半径方向内側に配置されている。
【0013】
シーラント層は、表1に示された一般的成分を有する組成物から形成されている。
【0014】
【表1】
【0015】
式1の適切な硬化活性剤は、フタル酸、フタル酸モノアルキル、フタル酸ジアルキル、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、及びフタル酸ジプロピル、フタル酸モノアミド、フタル酸ジアミド、フタルアルデヒド、及びo-ジアセチルベンゼン;マレイン酸、マレイン酸モノアルキル、マレイン酸ジアルキル、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、及びマレイン酸ジブチル、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキル、シトラコン酸ジアルキル、シトラコン酸モノアミド、シトラコン酸ジアミド、及び2-ブテンジアール-2Z;トリメリット酸、トリメリット酸モノアルキル、トリメリット酸ジアルキル、トリメリット酸トリアルキル、ヘミメリット酸、ヘミメリット酸モノアルキル、ヘミメリット酸ジアルキル、ヘミメリット酸トリアルキル、ピロメリット酸、ピロメリット酸モノアルキル、ピロメリット酸ジアルキル、ピロメリット酸トリアルキル、及びピロメリット酸テトラアルキルなどである。
【0016】
シーラント層はエラストマーを含む。適切なエラストマーは、イソプレン-イソブチレン-ゴム(ブチルゴム、IIR)、ハロゲン化イソプレン-イソブチレン-ゴム(HIIR)、エチレン-プロピレン-ジエン-ターポリマー(EPDM)、スチレン-ブタジエンコポリマー(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー(AB)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)、ポリブタジエン、天然ゴム、シスポリイソプレン、及びそれらの組合せなどである。適切なエラストマーは一般的に100kD~500kDの分子量Mnを有する。分子量Mnは、当該技術分野で公知の方法、例えばASTM D3536又は同等規格に従うゲル浸透クロマトグラフィーによって決定できる。
【0017】
一態様において、シーラント層はブチルゴムを含む。本明細書中で使用されている“ブチルゴム”という用語は、主にイソブチレンの反復単位で構成されるが、少量の共役ジエンの反復単位も含むポリマーを意味すると定義される。好ましくは、ブチルゴムの約85~約99.5重量%がイソブチレンの重合から誘導された反復単位であり、約0.1~約15重量%の反復単位が4~8個の炭素原子を有するブタジエン、イソプレン、ヘキサジエンなどの共役ジエン(イソプレンが好適である)から誘導されている。
【0018】
シーラント層は希釈剤も含む。適切な希釈剤は、200~5,000の範囲の数平均分子量Mnを有する低分子量エラストマーなどである。低分子量エラストマーは、低分子量ポリイソプレン、ポリイソブチレンを含むポリブテン、ポリブタジエン、ブチルゴムなどを含む。他の希釈剤はオイル及び樹脂などである。分子量Mnは、当該技術分野で公知の方法、例えばASTM D3536又は同等規格に従うゲル浸透クロマトグラフィーによって決定できる。
【0019】
一態様において、希釈剤はポリブテンである。ポリブテンとは、1-ブテン、2-ブテン、及び2-メチルプロペン(イソブチレン)を含む一つ又は複数のブテン異性体のポリマーを意味する。そのようなポリブテンは商業的にはポリイソブチレンと呼ばれることもある。
【0020】
そのようなポリブテンは、好ましくは、シーラント層が隣接タイヤ部品に移動する可能性を最小限にするために約600を超える数平均分子量を有する。それは、好ましくはハロゲン化金属触媒を用いてイソブチレン豊富ストリームを重合することによって製造され、好ましくはポリイソブチレンに似たポリマー主鎖構造を有する。非常に適切なポリブテンは、Indopolの商品名で入手できる。一態様において、ポリブテンの数平均分子量(Mn)は、蒸気圧浸透(圧)法による測定で約600~約2500である。
【0021】
オイルを希釈剤としてシーラントに含めることができる。適切なオイルは、これらに限定されないが、芳香族油、ナフテン系油、パラフィン系油、MES油、TDAE油、RAE油、及びSRAE油を含む鉱油、及びこれらに限定されないが、ヒマワリ油、大豆油、コーン油、ヒマシ油、及びキャノーラ油を含む植物油などのオイルを含む。オイルは、5~15phrの範囲の量で存在しうる。
【0022】
樹脂も希釈剤としてシーラントに含めることができる。適切な樹脂は、炭化水素樹脂、フェノール/アセチレン樹脂、ロジン誘導樹脂及びそれらの混合物などである。代表的な炭化水素樹脂は、クマロン-インデン-樹脂、石油樹脂、テルペンポリマー及びそれらの混合物などである。
【0023】
シーラント中のエラストマー構成成分の架橋は公知キノイド系の一つによって実施できる。キノイド硬化系においては、ベンゾキノンジオキシム及びp,p-ジ-ベンゾイルキノンジオキシムが硬化剤として好適である。他の適切な硬化剤は、ジベンゾイル-p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン及びN-メチル-N,4-ジニトロソアニレンなどである。シーラント組成物に使用できる架橋活性剤は有機過酸化物(ジアロイルペルオキシド、ジアシルペルオキシド及びペルオキシエステルを含む)などである。一態様において、硬化剤/架橋活性剤の組合せはベンゾキノンジオキシム及び過酸化ベンゾイルの組合せである。
【0024】
その他の慣用の配合剤も混合工程に含めることができる。例えば、カーボンブラック及びシリカなどのフィラー、劣化防止剤、着色剤、加工助剤などであるが、これらに限定されない。
【0025】
式1の硬化促進剤に加えて、シーラント組成物は、エチレングリコール、アルキル置換エチレングリコール、エチレンジアミン、及びアルキル置換エチレンジアミンから選ばれる硬化遅延剤も含みうる。適切な硬化遅延剤は、エチレングリコール、プロピレングリコール(すなわちα-プロピレングリコール)、エチレンジアミン、メチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、及び1,2-ジメチルエチレンジアミンなどである。硬化遅延剤は、硬化促進剤と同じ量範囲で使用できる。
【0026】
シーラント組成物の混合は、例えば、エラストマーとその他の成分を、ブラベンダー密閉式ミキサー、押出機、コニカルミキサーなどのようなゴムミキサー内で混合することによって達成できる。シーラントの混合及びタイヤインナーライナーへの適用のための適切な方法は、例えば、米国特許第8,821,982号に開示されている。
【0027】
混合及び硬化の後、シーラント組成物は硬化タイヤのインナーライナーに適用される。シーラントを適用する前、タイヤのインナーライナーは、シーラントのインナーライナー表面への接着を改良するために表面不純物を除去できる。一態様において、インナーライナー表面は、US2017/0151740に記載されているように、レーザー技術を用いて清掃される。
【0028】
図2に、硫黄硬化された空気入りタイヤ10(図2では10aと標識)の部分断面図を示す。これは、タイヤトレッド14とそのトレッドベースゴム層11、ワイヤコード補強ゴムベルトプライ16、合成コード補強ゴムカーカスプライ17(例えば、合成繊維系のコード、例えばナイロン又はポリエステルコード)を有するカーカス、任意のゴムバリア層13、ゴムインナーライナー22及びシーラント層20を含む。シーラント層20は、既に硬化済みのタイヤのインナーライナー22に適用されて(従って、タイヤ硬化後適用シーラント層)、様々なパンク原因物体に対してパンク封止特性を有するシーラント層を備えたタイヤを提供する。
【0029】
周方向シーラント層20の厚さは、所望される封止能力の程度のほか、タイヤ自体、例えばタイヤサイズ及び意図するタイヤの使用に応じて多少変動しうる。例えば、シーラント層の厚さは、多少はタイヤ自体及びその意図する使用によるが、約0.13cm(0.05インチ)~約1.9cm(0.75インチ)の範囲であろう。例えば、乗用車用タイヤの場合、シーラント層20は、例えば約0.33cm(0.125インチ)前後の厚さを有しうるが、トラック用タイヤの場合、シーラント層20は、例えば約0.76cm(0.3インチ)前後の厚さを有するであろう。後硬化タイヤ適用シーラント層20は、一般的にタイヤ10のクラウン域に配置され、所望であれば、タイヤのパンクに気付けるように、黒色のインナーライナー、トレッド、又はサイドウォールとは対比をなしうる黒以外の色の着色剤を含んでいてもよい。
【0030】
タイヤインナーライナーゴム層22は、空気入りタイヤに使用される従来の硫黄硬化性ゴムインナーライナーを含みうる。一例において、ゴムインナーライナー22は、例えばクロロブチルゴム又はブロモブチルゴムのようなハロブチルゴムの硫黄硬化剤含有ハロブチルゴム組成物でありうる。そのようなハロブチルゴム系インナーライナー層は、一つ又は複数の硫黄硬化性ジエン系エラストマー、例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム、シス-1,4-ポリブタジエンゴム及びスチレン/ブタジエンゴム、又はそれらの混合物も含有していてもよい。インナーライナー22は、通常、従来式の圧延(calendering)又は分出し(milling)技術によって製造され、適当な幅の未硬化配合ゴムのストリップとなる。タイヤ10が硬化されると、インナーライナー22も共硬化され、それによってタイヤ10と一体化する。タイヤのインナーライナーゴム層及びそれらの製造法は、そのような分野の当業者には周知である。
【実施例
【0031】
実施例1
本実施例では、いくつかの硬化調節剤が、タイヤシーラント組成物の硬化に及ぼす効果を示す。表2に示されている量を用いて(量は重量パーセントで示されている)、4種類のシーラント組成物を実験室ミキサーで混合した。混合されたサンプルは、最小及び最大トルク(Smin、Smax)、デルタトルク(Smax-Smin)及びT点を含む硬化特性について試験した。結果を表3及び図3に示す。このような“T点(T-points)”(すなわち、T90、T25、T80など)は加硫状態を表すもので、当業者には認識可能であり、ASTM D2084、D5289及びISO 6502に定義され、1990年11月5~6日英国ブライトンにおけるTyretech ’90でH.G.Buhrinが行った発表の中で十分に説明されている。トルク及びT点は、Flexsys Rubber Process Analyzer(RPA) 2000を用いて測定された。RPA 2000に関する説明、その性能、サンプル調製、テスト及びサブテストはこれらの参考文献中に見出すことができる。H A Pawlowski 及び J S Dick,Rubber World,1992年6月;J S Dick 及び H A Pawlowski,Rubber World,1997年1月;及び J S Dick 及び J A Pawlowski,Rubber & Plastics News,1993年4月26日及び5月10日。
【0032】
図3に示されているように、フタル酸ジメチル(3)又はマレイン酸ジブチル(2)の添加は、対照(1)と比べてシーラントの硬化に増強を示した。エチレングリコール(4)の添加は硬化に阻害効果を示した。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
[発明の態様]
1.空気入りタイヤの製造法であって、
エラストマー、フィラー、希釈剤、キノイド硬化剤、オキシダント共硬化剤;及び式1:
【0036】
【化3】
【0037】
[式中、R及びRは、独立に、H又はC1~C4アルキルであるか、又はR及びRは一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成し;R及びRは、独立に、H、-OH -NH、C1~C4アルキル、又は-ORであり、ここでRはC1~C4アルキルであるが、R及びRが一緒になって置換又は非置換フェニレン基を形成している場合、RはC1~C3アルキルである]の硬化調節剤を含むシーラント組成物を混合し;該シーラント組成物を硬化タイヤの内表面に適用し;そしてシーラント組成物を硬化する工程を含む方法。
【0038】
2.硬化調節剤が、フタル酸、フタル酸モノアルキル、フタル酸ジアルキル、フタル酸モノアミド、フタル酸ジアミド、フタルアルデヒド、及びo-ジアセチルベンゼンからなる群から選ばれる、1記載の方法。
【0039】
3.硬化調節剤が、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、及びフタル酸ジプロピルからなる群から選ばれる、1記載の方法。
4.硬化調節剤が、マレイン酸、マレイン酸モノアルキル、マレイン酸ジアルキル、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキル、シトラコン酸ジアルキル、シトラコン酸モノアミド、シトラコン酸ジアミド、及び2-ブテンジアール-2Zからなる群から選ばれる、1記載の方法。
【0040】
5.硬化調節剤が、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、及びマレイン酸ジブチルからなる群から選ばれる、1記載の方法。
6.硬化調節剤が、トリメリット酸、トリメリット酸モノアルキル、トリメリット酸ジアルキル、トリメリット酸トリアルキル、ヘミメリット酸、ヘミメリット酸モノアルキル、ヘミメリット酸ジアルキル、ヘミメリット酸トリアルキル、ピロメリット酸、ピロメリット酸モノアルキル、ピロメリット酸ジアルキル、ピロメリット酸トリアルキル、及びピロメリット酸テトラアルキルからなる群から選ばれる、1記載の方法。
【0041】
7.シーラント組成物がさらに、エチレングリコール、アルキル置換エチレングリコール、エチレンジアミン、及びアルキル置換エチレンジアミンから選ばれる硬化遅延剤を含む、1記載の方法。
【0042】
8.エラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、ポリブタジエン、天然ゴム、及び合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる、1記載の方法。
【0043】
9.オキシダント共硬化剤が、ジアロイルペルオキシド、ジアシルペルオキシド及びペルオキシエステルからなる群から選ばれる、1記載の方法。
10.キノイドが、ベンゾキノンジオキシム、p,p-ジ-ベンゾイルキノンジオキシム、及びジベンゾイル-p-キノンジオキシムからなる群から選ばれる、1記載の方法。
【0044】
11.オキシダント共硬化剤が過酸化ベンゾイルである、1記載の方法。
12.希釈剤が、200~5,000の範囲の数平均分子量Mnを有する低分子量エラストマーである、1記載の方法。
【0045】
13.シーラントがさらに、オイル及び樹脂の少なくとも一つを含む、1記載の方法。
14.希釈剤がポリイソブチレンである、1記載の方法。
15.シーラント組成物がさらに、1~10phrの、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、及び酸化カルシウムから選ばれる金属酸化物を含む、1記載の方法。
【0046】
16.混合工程が、
オキシダント共硬化剤と希釈剤の一部を合わせて成分Aを形成させ;
残りの成分を合わせて成分Bを形成させ;そして
成分Aと成分Bを混合してシーラント組成物を形成させる
工程を含む、1記載の方法。
【0047】
17.1記載の方法によって製造される空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0048】
10 空気入りタイヤ
10a 空気入りタイヤ
11 トレッドベースゴム層
12 サイドウォール
13 ゴムバリア層
14 トレッド
16 ゴムベルトプライ
17 ゴムカーカスプライ
18 ビード
20 シーラント層
22 インナーライナーゴム層
図1
図2
図3