(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】生体情報処理方法、生体情報処理プログラム及び生体情報処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0536 20210101AFI20230605BHJP
A61B 5/0275 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
A61B5/0536 ZDM
A61B5/0275 J
(21)【出願番号】P 2019104603
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0216443(US,A1)
【文献】特表平07-502525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の少なくとも一つの臓器が表示された臓器表示画面を示す画像データを生成するステップと、
少なくとも一つのEIT測定装置から前記臓器を示す第1のEITデータを取得するステップと、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定するステップと、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、前記EIT測定装置から前記臓器を示す第2のEITデータを取得するステップと、
前記第2のEITデータから前記臓器のインピーダンス値を特定するステップと、
前記特定されたインピーダンス値と前記基準インピーダンス値との間の差異であるインピーダンス変化値を特定するステップと、
前記インピーダンス変化値に基づいて、前記臓器表示画面に表示された前記臓器の視覚的態様が変更されるように前記画像データを更新するステップと、
を含む、生体情報処理方法。
【請求項2】
前記基準インピーダンス値を特定するステップは、
前記第1のEITデータから前記臓器に属する少なくとも一つのピクセルを特定するステップと、
前記ピクセルのインピーダンス値を特定するステップと、
前記ピクセルのインピーダンス値から前記基準インピーダンス値を特定するステップと、
を含み、
前記臓器のインピーダンス値を特定するステップは、
前記第2のEITデータから前記臓器に属するピクセルのインピーダンス値を特定するステップと、
前記ピクセルのインピーダンス値から前記臓器のインピーダンス値を特定するステップと、
を含む、請求項1に記載の生体情報処理方法。
【請求項3】
前記臓器のインピーダンス値を特定するステップは、
前記第2のEITデータから前記臓器に属する少なくとも一つのピクセルを特定するステップをさらに含む、請求項2に記載の生体情報処理方法。
【請求項4】
前記基準インピーダンス値を特定するステップは、
前記第1のEITデータから前記臓器に属する複数のピクセルを特定するステップと、
前記複数のピクセルのインピーダンス値を特定するステップと、
前記複数のピクセルのインピーダンス値の平均値から前記基準インピーダンス値を特定するステップと、
を含み、
前記臓器のインピーダンス値を特定するステップは、
前記第2のEITデータから前記臓器に属する複数のピクセルのインピーダンス値を特定するステップと、
前記複数のピクセルのインピーダンス値の平均値から前記臓器のインピーダンス値を特定するステップと、
を含む、請求項1又は2に記載の生体情報処理方法。
【請求項5】
少なくとも一つのEIT測定装置から被検者の少なくとも一つの臓器を示す第1のEITデータを取得するステップと、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定するステップと、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、時間経過に従って前記少なくとも一つのEIT測定装置から連続的に複数の第2のEITデータを取得するステップと、
前記複数の第2のEITデータから前記臓器の複数のインピーダンス値を特定するステップと、
各々が前記複数のインピーダンス値の対応する一つと前記基準インピーダンス値との間の差異である複数のインピーダンス変化値を特定するステップと、
前記複数のインピーダンス変化値から前記インジケータ材が前記臓器に到達した臓器到達時刻を特定するステップと、
前記臓器到達時刻に基づいて、前記インジケータ材が前記臓器に到達するまでに要した到達時間を特定するステップと、
を含む、生体情報処理方法。
【請求項6】
前記インジケータ材の前記静脈への注入が開始された注入開始時刻を特定するステップをさらに含み、
前記到達時間を特定するステップは、
前記臓器到達時刻と前記注入開始時刻とに基づいて、前記到達時間を特定するステップを含む、請求項5に記載の生体情報処理方法。
【請求項7】
前記インジケータ材が右心に到達した右心到達時刻を特定するステップをさらに含み、
前記到達時間を特定するステップは、
前記臓器到達時刻と前記右心到達時刻とに基づいて、前記到達時間を特定するステップを含む、請求項5に記載の生体情報処理方法。
【請求項8】
前記臓器到達時刻を特定するステップは、
前記複数のインピーダンス変化値のうちインピーダンス変化値の最大値を特定するステップと、
前記最大値に対応する時刻を前記臓器到達時刻として決定するステップと、
を含む、請求項5から7のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項9】
前記特定された到達時間を視覚的に提示するステップをさらに含む、請求項5から8のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項10】
前記被検者の属性情報に基づいて、前記インジケータ材が前記臓器に到達するまでに要する基準到達時間を特定するステップと、
前記特定された到達時間を視覚的に提示するステップと、
前記特定された到達時間が前記基準到達時間よりも長い場合に、前記特定された到達時間の視覚的態様を変更するステップと、
をさらに含む、請求項5から8のうちいずれか一項に記載の生体情報処理方法。
【請求項11】
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備えた生体情報処理装置であって、
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサにより実行されると、前記生体情報処理装置は、
被検者の少なくとも一つの臓器が表示された臓器表示画面を示す画像データを生成し、
少なくとも一つのEIT測定装置から前記臓器を示す第1のEITデータを取得し、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定し、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、前記EIT測定装置から前記臓器を示す第2のEITデータを取得し、
前記第2のEITデータから前記臓器のインピーダンス値を特定し、
前記特定されたインピーダンス値と前記基準インピーダンス値との間の差異であるインピーダンス変化値を特定し、
前記インピーダンス変化値に基づいて、前記臓器表示画面に表示された前記臓器の視覚的態様が変更されるように前記画像データを更新する、
生体情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体情報処理方法、生体情報処理プログラム及び生体情報処理装置に関する。特に、本開示は、EIT(Electrical Impedance Tomography)測定装置から取得された被検者の臓器を示すEITデータを用いた生体情報処理方法、生体情報処理プログラム及び生体情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)を用いて患者の頭部の血流状態を把握することが可能な表示装置が一般的に知られている(例えば、特許文献1を参照)。EITによれば、測定対象の周囲に配置された複数の電極のうち一対の電極間を流れる交流電流及び交流電圧に基づいて当該一対の電極間のインピーダンスが測定される。このように、複数の一対の電極間の複数のインピーダンスを測定することで、数値解析により測定対象を構成する複数の微小領域(ピクセル)の各々のインピーダンス値を演算することが可能となる。さらに、各ピクセルのインピーダンス値を示すEITデータを可視化することで、患者の測定対象(特に、臓器)の状態を視覚的に把握することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、患者の血流の状態を測定する血流測定方法の一つとして、指示薬希釈法(indicator dilution method)が知られている。当該指示薬希釈法では、インジケータ材が血管内に注入された後に、血流の下流側に配置されたセンサを用いてインジケータ材の濃度が測定される。また、心拍出量測定方法として、熱希釈法や色素希釈法が知られている。さらに、脳血流測定方法として、SPECT(Single Photon Emission CT)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記の血流測定方法では、比較的大きな身体的負担が患者に与えられると共に、気軽に測定を行うことができるものではないといった点で課題が残る。このため、血流測定方法において、患者に対する身体的負担を減らしつつ、比較的簡単な手法により患者の血流状態を測定することができる新たな手法を模索する余地がある。
【0006】
本開示は、被検者に対する身体的負担を減らしつつ、比較的簡単な手法により被検者の血流の状態を把握することが可能な生体情報処理方法、生体情報処理プログラム及び生体情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る生体情報処理方法は、
被検者の少なくとも一つの臓器が表示された臓器表示画面を示す画像データを生成するステップと、
少なくとも一つのEIT測定装置から前記臓器を示す第1のEITデータを取得するステップと、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定するステップと、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、前記EIT測定装置から前記臓器を示す第2のEITデータを取得するステップと、
前記第2のEITデータから前記臓器のインピーダンス値を特定するステップと、
前記特定されたインピーダンス値と前記基準インピーダンス値との間の差異であるインピーダンス変化値を特定するステップと、
前記インピーダンス変化値に基づいて、前記臓器表示画面に表示された前記臓器の視覚的態様が変更されるように前記画像データを更新するステップと、
を含む。
【0008】
本開示の一態様に係る生体情報処理方法は、
少なくとも一つのEIT測定装置から被検者の少なくとも一つの臓器を示す第1のEITデータを取得するステップと、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定するステップと、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、時間経過に従って前記少なくとも一つのEIT測定装置から連続的に複数の第2のEITデータを取得するステップと、
前記複数の第2のEITデータから前記臓器の複数のインピーダンス値を特定するステップと、
各々が前記複数のインピーダンス値の対応する一つと前記基準インピーダンス値との間の差異である複数のインピーダンス変化値を特定するステップと、
前記複数のインピーダンス変化値から前記インジケータ材が前記臓器に到達した臓器到達時刻を特定するステップと、
前記臓器到達時刻に基づいて、前記インジケータ材が前記臓器に到達するまでに要した到達時間を特定するステップと、
を含む。
【0009】
本開示の一態様に係る生体情報処理方法は、
少なくとも一つのEIT測定装置から被検者の少なくとも一つの臓器を示す第1のEITデータを取得するステップと、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定するステップと、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、時間経過に従って連続的に複数の第2のEITデータを取得するステップと、
前記複数の第2のEITデータから前記臓器の複数のインピーダンス値を特定するステップと、
各々が前記複数のインピーダンス値の対応する一つと前記基準インピーダンス値との間の差異である複数のインピーダンス変化値を特定するステップと、
前記インピーダンス変化値の時間変化を示すグラフを視覚的に提示するステップと、
を含む。
【0010】
また、前記生体情報処理方法をコンピュータに実行させるための生体情報処理プログラムが提供されてもよい。さらに、前記生体情報処理プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体が提供されてもよい。
【0011】
本開示の一態様に係る生体情報処理装置は、
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備える。
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサにより実行されると、前記生体情報処理装置は、
被検者の少なくとも一つの臓器が表示された臓器表示画面を示す画像データを生成し、
少なくとも一つのEIT測定装置から前記臓器を示す第1のEITデータを取得し、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定し、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、前記EIT測定装置から前記臓器を示す第2のEITデータを取得し、
前記第2のEITデータから前記臓器のインピーダンス値を特定し、
前記特定されたインピーダンス値と前記基準インピーダンス値との間の差異であるインピーダンス変化値を特定し、
前記インピーダンス変化値に基づいて、前記臓器表示画面に表示された前記臓器の視覚的態様が変更されるように前記画像データを更新する。
【0012】
本開示の一態様に係る生体情報処理装置は、
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備える。
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサにより実行されると、前記生体情報処理装置は、
少なくとも一つのEIT測定装置から被検者の少なくとも一つの臓器を示す第1のEITデータを取得し、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定し、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、時間経過に従って連続的に複数の第2のEITデータを取得し、
前記複数の第2のEITデータから前記臓器の複数のインピーダンス値を特定し、
各々が前記複数のインピーダンス値の対応する一つと前記基準インピーダンス値との間の差異である複数のインピーダンス変化値を特定し、
前記複数のインピーダンス変化値から前記インジケータ材が前記臓器に到達した臓器到達時刻を特定するステップと、
前記臓器到達時刻に基づいて、前記インジケータ材が前記臓器に到達するまでに要した到達時間を特定する。
【0013】
本開示の一態様に係る生体情報処理装置は、
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備える。
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサにより実行されると、前記生体情報処理装置は、
少なくとも一つのEIT測定装置から被検者の少なくとも一つの臓器を示す第1のEITデータを取得し、
前記第1のEITデータから前記臓器の基準インピーダンス値を特定し、
インジケータ材を被検者の静脈に注入した後段階において、時間経過に従って連続的に複数の第2のEITデータを取得し、
前記複数の第2のEITデータから前記臓器の複数のインピーダンス値を特定し、
各々が前記複数のインピーダンス値の対応する一つと前記基準インピーダンス値との間の差異である複数のインピーダンス変化値を特定し、
前記インピーダンス変化値の時間変化を示すグラフを視覚的に提示する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、被検者に対する身体的負担を減らしつつ、比較的簡単な手法により被検者の血流の状態を把握することが可能な生体情報処理方法、生体情報処理プログラム及び生体情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る生体情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図2】被検者に装着された各EIT測定装置を示す図である。
【
図3】各臓器のインピーダンス変化値に応じて臓器表示画面の視覚的態様を更新する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図5】測定対象である所定の臓器を構成する複数のピクセルのうちの幾つかを示す模式図である。
【
図6】インジケータ材を含む血液が流れるルートを概念的に示す図である。
【
図7】臓器表示画面に表示された各臓器の時間経過に応じた視覚的態様の変化を示す図である。
【
図8】各臓器の到達時間を示す到達時間表示画面を生成する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図9】時間経過に応じたインピーダンス変化値の変化を説明するための図である。
【
図11】到達時間表示画面の他の一例を示す図である。
【
図12】各臓器のインピーダンス変化値の時間変化を示すインピーダンス変化値表示画面を生成する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図13】インピーダンス変化値表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について図面を参照しながら説明する。最初に、
図1を参照して本発明の実施形態(以下、単に「本実施形態」という。)に係る生体情報処理装置1のハードウェア構成について以下に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る生体情報処理装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。
図1に示すように、生体情報処理装置1(以下、単に「処理装置1」という。)は、制御部2と、記憶装置3と、ネットワークインターフェース4と、表示部5と、入力操作部6と、センサインターフェース7とを備える。これらの構成要素はバス8を介して互いに通信可能に接続されている。
【0018】
処理装置1は、各EIT測定装置から送信されたEITデータを処理するための専用装置であってもよい。また、処理装置1は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、スマートフォン、タブレット、医療従事者の身体(例えば、腕や頭等)に装着されるウェアラブルデバイス(例えば、ARグラス等)であってもよい。
【0019】
制御部2は、メモリとプロセッサを備えている。メモリは、コンピュータ可読命令(プログラム)を記憶するように構成されている。例えば、メモリは、各種プログラム等が格納されたROM(Read Only Memory)及びプロセッサにより実行される各種プログラム等が格納される複数ワークエリアを有するRAM(Random Access Memory)等から構成されてもよい。また、メモリは、フラッシュメモリ等によって構成されてもよい。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)のうちの少なくとも一つを含む。また、プロセッサは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)及び/又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)を含んでもよい。CPUは、複数のCPUコアによって構成されてもよい。GPUは、複数のGPUコアによって構成されてもよい。プロセッサは、記憶装置3又はROMに組み込まれた各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で各種処理を実行するように構成されてもよい。この点において、プロセッサが後述する生体情報処理プログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で当該プログラムを実行することで、制御部2は、処理装置1の各種動作を制御してもよい。
【0020】
記憶装置3は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)であって、プログラムや各種データを格納するように構成されている。記憶装置3には、生体情報処理プログラムが組み込まれてもよい。また、記憶装置3には、各EIT測定装置10から送信された被検者のEITデータが保存されてもよい。
【0021】
ネットワークインターフェース4は、処理装置1を通信ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、ネットワークインターフェース4は、通信ネットワークを介してサーバ等の外部装置と通信するための各種有線接続端子を含んでもよい。また、ネットワークインターフェース4は、アクセスポイント(例えば、無線LANルータや無線基地局)と無線通信するための各種処理回路及びアンテナ等を含んでもよい。アクセスポイントと処理装置1との間の無線通信規格は、例えば、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、LPWA又は第5世代移動通信システム(5G)である。通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)及びインターネットのうちの少なくとも一つを含む。例えば、生体情報処理プログラムは、通信ネットワーク上に配置されたサーバからネットワークインターフェース4を介して取得されてもよい。
【0022】
表示部5は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置であってもよい。また、表示部5は、操作者の頭に装着される透過型又は非透過型のヘッドマウントディスプレイやARディスプレイ等の表示装置であってもよい。さらに、表示部5は、画像をスクリーン上に投影するプロジェクター装置であってもよい。
【0023】
入力操作部6は、処理装置1を操作する医療従事者の入力操作を受付けると共に、当該入力操作に応じた指示信号を生成するように構成されている。入力操作部6は、例えば、表示部5上に重ねて配置されたタッチパネル、筐体に取り付けられた操作ボタン、マウス及び/又はキーボード等である。入力操作部6によって生成された指示信号がバス8を介して制御部2に送信された後、制御部2は、指示信号に応じて所定の動作を実行する。
【0024】
センサインターフェース7は、頭部EIT測定装置10aと、胸部EIT測定装置10bと、腹部EIT測定装置10cとを処理装置1に通信可能に接続するためのインターフェースである。以降では、説明の便宜上、頭部EIT測定装置10aと、胸部EIT測定装置10bと、腹部EIT測定装置10cを総称して単に「EIT測定装置10」という場合がある。センサインターフェース7は、各EIT測定装置10に有線で接続されてもよい。この場合、センサインターフェース7は、各EIT測定装置10に接続されたケーブルが挿入される入力端子を含んでもよい。また、センサインターフェース7は、各EIT測定装置10に無線で接続されてもよい。この場合、センサインターフェース7は、各EIT測定装置10と無線通信するための各種処理回路及びアンテナ等を含んでもよい。
【0025】
頭部EIT測定装置10aは、
図2に示すように、患者等の被検者Kの頭部に装着されており、被検者Kの頭部に存在する臓器である脳を少なくとも示す頭部EITデータを取得するように構成されている。頭部EITデータでは、頭部断面を構成する各ピクセル(最小単位の領域)のインピーダンス値が含まれている。
【0026】
胸部EIT測定装置10bは、
図2に示すように、患者等の被検者Kの胸部に装着されており、被検者Kの胸部に存在する心臓及び肺を少なくとも示す胸部EITデータを取得するように構成されている。胸部EITデータでは、胸部断面を構成する各ピクセルのインピーダンス値が含まれている。
【0027】
腹部EIT測定装置10cは、
図2に示すように、患者等の被検者Kの腹部に装着されており、被検者Kの腹部に存在する腎臓及び肝臓を少なくとも示す腹部EITデータを取得するように構成されている。腹部EITデータでは、腹部断面を構成する各ピクセルのインピーダンス値が含まれている。
【0028】
尚、以降の説明では、頭部EITデータ、胸部EITデータ及び腹部EITデータを単に「EITデータ」と総称する場合がある。
【0029】
(臓器表示画面の視覚的態様を更新する処理)
次に、
図3を主に参照して、各臓器のインピーダンス変化値ΔZに応じて臓器表示画面G1の視覚的態様を更新する処理について以下に説明する。
図3は、各臓器のインピーダンス変化値ΔZに応じて臓器表示画面G1の視覚的態様を更新する処理を説明するためのフローチャートである。
【0030】
図3に示すように、ステップS1において、制御部2は、臓器表示画面G1(
図4参照)を示す画像データを生成した上で、当該生成された画像データに基づいて臓器表示画面G1を表示部5に表示する。
図4に示すように、臓器表示画面G1には、脳、肺、心臓、肝臓及び腎臓を模した図が表示されている。医療従事者は、入力操作部6を通じて、測定対象の臓器を選択可能であってもよい。例えば、測定対象の臓器として脳、肺、心臓、肝臓が選択される場合には、脳、肺、心臓、肝臓を模した図が臓器表示画面G1に表示される。本実施形態の説明では、測定対象の臓器として脳、肺、心臓、肝臓及び腎臓が選択されるものとする。また、臓器表示画面G1の初期状態では、表示された各臓器の表示色は白であるものとする。すなわち、初期状態では、臓器表示画面G1の各臓器はグレーで表示されていないものとする。
【0031】
次に、ステップS2において、制御部2は、各EIT測定装置10からEITデータ(第1のEITデータの一例)を取得する。特に、制御部2は、頭部EIT測定装置10aから脳を示す頭部EITデータを取得し、胸部EIT測定装置10bから心臓及び肺を示す胸部EITデータを取得し、腹部EIT測定装置10cから腎臓及び肝臓を示す腹部EITデータを取得する。
【0032】
次に、ステップS3において、制御部2は、取得された各EITデータから各臓器の基準インピーダンス値Zrを特定する。この点において、制御部2は、頭部EITデータから脳の基準インピーダンス値Zrを特定する。制御部2は、胸部EITデータから心臓(特に、右心と左心)及び肺の基準インピーダンス値Zrを特定する。制御部2は、腹部EITデータから腎臓及び肝臓の基準インピーダンス値Zrを特定する。例えば、制御部2が頭部EITデータに基づいて脳の基準インピーダンス値Zrを特定する場合について以下に説明する。
【0033】
最初に、制御部2は、頭部EITデータから脳に属する複数のピクセルPを特定する。例えば、制御部2は、一般的な脳のインピーダンス値を示すデータと頭部EITデータの全てのピクセルのインピーダンス値を比較することで、脳に属する複数のピクセルPを特定してもよい。
【0034】
次に、制御部2は、脳に属する複数のピクセルPのうち基準ピクセルPrを選択する(
図5参照)。基準ピクセルPrの選択手法は特に限定されるものではない。例えば、脳に属する複数のピクセルPのうち中央付近に存在するピクセルが基準ピクセルPrとして選択されてもよい。次に、制御部2は、基準ピクセルPrのインピーダンス値Zを脳の基準インピーダンス値Zrとして特定する。特に、連続的に取得された複数の頭部EITデータに基づいて脳の基準インピーダンス値Zrが特定される場合には、制御部2は、基準ピクセルPrの複数のインピーダンス値Zの平均値を基準インピーダンス値Zrとして特定してもよい。
【0035】
また、制御部2は、脳に属する複数のピクセルPのインピーダンス値Zの平均値Zavを脳の基準インピーダンス値Zrとして特定してもよい。連続的に取得された複数の頭部EITデータに基づいて脳の基準インピーダンス値Zrが特定される場合には、制御部2は、各頭部EITデータにおける複数のピクセルPのインピーダンス値Zの平均値Zav1,Zav2・・・を演算する。その後、制御部2は、演算された複数の平均値Zav1,Zav2・・・の平均値を脳の基準インピーダンス値Zrとして特定してもよい。
【0036】
このように、ステップS3において、制御部2は、脳、肺、心臓、肝臓及び腎臓の各々の基準インピーダンス値Zrを特定する。
【0037】
次に、ステップS4において、医療従事者は、インジケータ材を被検者の静脈に注入する。インジケータ材は、血液のインピーダンス値とは異なるインピーダンス値を有する液体である。インジケータ材のインピーダンス値は、血液のインピーダンス値に対し倍以上大きくてもよい。また、インジケータ材のインピーダンス値は、血液のインピーダンス値の半分以下であってもよい。また、インジケータ材と血液の浸透圧が近くてもよい。インジケータ材は、例えば、食塩水、人工膠質液、マイクロバブル、タンパク質、人工細胞等である。本実施形態では、インジケータ材の一例として高濃度の食塩水を採用する。高濃度の食塩水のインピーダンス値は血液のインピーダンス値よりも小さい。このため、インジケータ材として高濃度の食塩水が使用される場合、インジケータ材が存在する臓器のインピーダンス値は低下する。
【0038】
このように、各臓器のインピーダンス値の変化を測定することでインジケータ材が現在存在する臓器を特定することができると共に、血管中を流れるインジケータ材の流れ、即ち、被検者の血流の状態を把握することが可能となる。
【0039】
また、医療従事者は、インジケータ材を被検者の腕の静脈又は中心静脈に注入してもよい。尚、本実施形態では、ステップS4の前にステップS1からS3の処理が実行されているが、ステップS4の直後にステップS1からS3の処理が実行されてもよい。
【0040】
また、医療従事者は、インジケータ材の静脈への注入を開始したと同時又は直後に、入力操作部6を通じて処理装置1に対して所定の操作を行ってもよい。制御部20は、医療従事者の入力操作部6に対する所定の操作に応じて、インジケータ材の静脈への注入が開始された注入開始時刻tsを特定してもよい。
【0041】
図6に示すように、インジケータ材が被検者の静脈に注入された場合に、インジケータ材は、最初に右側の心臓である右心に到達する。次に、インジケータ材は、肺を通過して左側の心臓である左心に到達する。その後、インジケータ材は、大動脈を通じて脳、肝臓、腎臓の各々に到達する。
【0042】
次に、ステップS5において、制御部2は、各EIT測定装置10からEITデータ(第2のEITデータの一例)を取得する。特に、制御部2は、頭部EIT測定装置10aから脳を示す頭部EITデータを取得し、胸部EIT測定装置10bから心臓及び肺を示す胸部EITデータを取得し、腹部EIT測定装置10cから腎臓及び肝臓を示す腹部EITデータをそれぞれ取得する。
【0043】
次に、ステップS6において、制御部2は、各EIT測定装置10から送信されたEITデータに基づいて各臓器のインピーダンス値Zを特定する。この点において、制御部2は、頭部EITデータに基づいて脳のインピーダンス値Zを特定する。制御部2は、胸部EITデータから心臓(特に、右心と左心の各々)及び肺のインピーダンス値Zを特定する。制御部2は、腹部EITデータから腎臓及び肝臓のインピーダンス値Zを特定する。例えば、制御部2が頭部EITデータに基づいて脳のインピーダンス値Zを特定する場合について説明する。この場合、制御部2は、脳に属する複数のピクセルPのうち基準ピクセルPrのインピーダンス値を脳のインピーダンス値として特定する。また、制御部2は、脳に属する複数のピクセルPのインピーダンス値Zの平均値Zavを脳のインピーダンス値Zとして特定してもよい。
【0044】
尚、制御部2は、ステップS6において、ステップS3で既に特定された複数のピクセルPを脳に属する複数のピクセルPとして採用してもよいし、頭部EITデータから脳に属する複数のピクセルPを新たに特定してもよい。つまり、制御部2は、ステップS5においてEITデータを取得する度に、取得されたEITデータに基づいて測定対象の臓器(例えば、脳)に属するピクセルPを新たに特定してもよい。このように、ステップS6において取得されたEITデータに対して測定対象の臓器に属するピクセルPが更新されるため、呼吸等により測定対象の臓器の大きさや位置が時間的に変動する場合であっても、測定対象の臓器に属するピクセルPを正確に特定することができると共に、測定対象の臓器のインピーダンス値を正確に特定することが可能となる。
【0045】
次に、ステップS7において、制御部2は、各臓器のインピーダンス変化値ΔZを特定する。特に、制御部2は、各臓器の基準インピーダンス値Zr及び各臓器のインピーダンス値Zに基づいて、各臓器のインピーダンス変化値ΔZ=|Z-Zr|を演算する。例えば、脳のインピーダンス変化値ΔZについて説明すると、制御部2は、脳の基準インピーダンス値Zr及び脳のインピーダンス値Zに基づいて、脳のインピーダンス変化値ΔZ=|Z-Zr|を演算する。同様に、制御部2は、肺、心臓、肝臓及び腎臓の各々のインピーダンス変化値ΔZを特定する。
【0046】
次に、ステップS8において、制御部2は、各臓器のインピーダンス変化値ΔZに基づいて臓器表示画面G1(
図4参照)を更新する必要があるかどうかを判定する。ステップS8の判定結果がYESである場合、制御部2は、各臓器のインピーダンス変化値ΔZに基づいて臓器表示画面G1を更新する。一方、ステップS8の判定結果がNOである場合、本処理はステップS10に進む。
【0047】
この点において、制御部2は、各臓器のインピーダンス変化値ΔZに基づいて、臓器表示画面G1に表示された各臓器の視覚的態様が変更されるように臓器表示画面G1を示す画像データを更新する。具体的な一例としては、制御部2は、インピーダンス変化値ΔZとグレースケールとの間の関係を示すテーブル(表1参照)と、各臓器のインピーダンス変化値ΔZとに基づいて、臓器表示画面G1を更新する必要があるかどうかを判定してもよい。
【0048】
例えば、脳のインピーダンス変化値ΔZがZth1~Zth2の範囲内である場合に、制御部2は、当該テーブルを参照することで、臓器表示画面G1に表示された脳をレベル1のグレーで表示すると決定する。このとき、臓器表示画面G1において脳が白色(レベル0)で現在表示されている場合には、制御部2は、臓器表示画面G1を更新する必要があると判定した上で(ステップS8でYES)、脳がレベル1のグレーで表示されるように臓器表示画面G1を更新する(ステップS9)。尚、グレースケールのレベルが大きくなるに連れて、グレーが濃くなる(暗くなる)ものとする。グレースケールは、例えば、256通りのレベルで表現されてもよい。
【0049】
【表1】
表1:インピーダンス変化値とグレースケールレベルとの間の関係を示すテーブル
【0050】
また、本例では、インピーダンス変化値ΔZが大きくなるに連れて臓器を塗り潰すグレーの濃淡が段階的に濃くなるが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インピーダンス変化値ΔZが大きくなるに連れて臓器を塗り潰す所定の色(例えば、赤や青)の濃淡が段階的に濃くなってもよい。
【0051】
その後、EITデータの測定が終了する場合(ステップS10でYES)、本処理が終了する。一方、EITデータの測定が終了しない場合(ステップS10でNO)、ステップS5からS9の処理が繰り返し実行される。例えば、インジケータ材の静脈への注入が開始された注入開始時刻tsから所定時間(例えば、80秒)が経過したときに測定が終了する場合、制御部2は、ステップS10において、注入開始時刻tsから所定時間が経過しているかどうかを判定してもよい。また、EITデータのフレームレートが例えば1fps(フレーム/秒)である場合、制御部2は、注入開始時刻tsから80秒間の間に、各EIT測定装置10から80個のEITデータを取得することができる。さらに、制御部2は、ステップS7の処理を通じて、各臓器に対して80個のインピーダンス変化値ΔZを取得することができる。
【0052】
図7は、時間経過に応じた臓器表示画面G1に表示された各臓器の視覚的態様の変化を示している。被検者Kの静脈に注入されたインジケータ材は、右心→肺→左心→脳→腎臓→肝臓の順番で通過する。このため、
図7(a)に示すように、時刻t1において心臓(右心)が濃いグレーで表示される。次に、
図7(b)に示すように、時刻t2において肺が濃いグレーで表示される。次に、
図7(c)に示すように、時刻t3において心臓(左心)が濃いグレーで表示される。次に、
図7(d)に示すように、時刻t4において脳が濃いグレーで表示される。次に、
図7(e)に示すように、時刻t5において腎臓が濃いグレーで表示される。最後に、
図7(f)に示すように、時刻t6において肝臓が濃いグレーで表示される。
【0053】
本実施形態によれば、各臓器のインピーダンス変化値ΔZに基づいて臓器表示画面G1に表示された各臓器の視覚的態様が変更される。また、このインピーダンス値Zの変化は、血液中に含まれるインジケータ材が各臓器に到達することで生じる。このため、医療従事者は、臓器表示画面G1に表示された各臓器の視覚的態様の変化を見ることで、被検者Kの血流の状態を直感的に把握することができる。このように、被検者Kに対する身体的負担を減らしつつ、比較的簡単な手法により被検者Kの血流の状態を把握することができる。
【0054】
(到達時間表示画面を生成する処理)
次に、
図8を主に参照して、各臓器の到達時間を示す到達時間表示画面G2(
図10参照)を生成する処理について以下に説明する。
図8は、到達時間表示画面G2を生成する処理を説明するためのフローチャートである。
図8に示すステップS20からS25の処理は、
図3に示すステップS2からS7の処理にそれぞれ対応する。
【0055】
図8に示すように、ステップS20において、制御部2は、各EIT測定装置10からEITデータ(第1のEITデータの一例)を取得する。次に、ステップS21において、制御部2は、取得された各EITデータから各臓器の基準インピーダンス値Zrを特定する。その後、ステップS22において、医療従事者は、インジケータ材を被検者の静脈に注入する。また、ステップS22では、制御部20は、医療従事者の入力操作部6に対する所定の操作に応じて、インジケータ材の静脈への注入が開始された注入開始時刻tsを特定する。
【0056】
ステップS23において、制御部2は、各EIT測定装置10からEITデータ(第2のEITデータの一例)を取得する。次に、ステップS24において、制御部2は、各EIT測定装置10から送信されたEITデータに基づいて各臓器のインピーダンス値Zを特定する。
【0057】
次に、制御部2は、各臓器の基準インピーダンス値Zr及び各臓器のインピーダンス値Zに基づいて、各臓器のインピーダンス変化値ΔZ(=|Z-Zr|)を特定する(ステップS25)。その後、EITデータの測定が終了する場合(ステップS26でYES)、本処理はステップS27に進む。一方、EITデータの測定が終了しない場合(ステップS26でNO)、ステップS23からS25の処理が繰り返し実行される。例えば、インジケータ材の静脈への注入が開始された注入開始時刻tsから所定時間(例えば、80秒)が経過したときに測定が終了する場合、制御部2は、ステップS26において、注入開始時刻tsから所定時間が経過しているかどうかを判定してもよい。また、EITデータのフレームレートが例えば1fpsである場合、制御部2は、注入開始時刻tsから80秒間の間に、各EIT測定装置10から80個のEITデータを取得することができる。さらに、制御部2は、各臓器に対して80個のインピーダンス変化値ΔZを取得することができる。
【0058】
次に、ステップS27において、制御部2は、各臓器の複数のインピーダンス変化値ΔZに基づいて、各臓器に対してインジケータ材が臓器に到達した臓器到達時刻teを特定する。この点において、制御部2は、
図9に示すように、各臓器の複数のインピーダンス変化値ΔZを示すデータに基づいて、複数のインピーダンス変化値ΔZのうちインピーダンス変化値の最大値ΔZmaxを臓器ごとに特定する。
図9では、便宜上、各臓器のインピーダンス変化値の最大値ΔZmaxの値が同一となるように各臓器のインピーダンス変化値が規格化されて表示されている点に留意されたい。次に、制御部2は、各臓器に対して最大値ΔZmaxに対応する時刻を臓器到達時刻teとして決定する。例えば、制御部2は、脳の複数のインピーダンス変化値ΔZのうちインピーダンス変化値の最大値ΔZmaxを特定した上で、当該最大値ΔZmaxに対応する時刻をインジケータ材が脳に到達した臓器到達時刻teとして特定してもよい。
【0059】
次に、ステップS28において、制御部2は、各臓器に対して、臓器到達時刻teと注入開始時刻tsに基づいて、インジケータ材が臓器に到達するまでに要した到達時間T(T=te-ts)を特定する。例えば、インジケータ材が脳に到達するまでに要した到達時間Tが特定される場合には、制御部2は、脳に関連する臓器到達時刻teと注入開始時刻tsに基づいて、インジケータ材が脳に到達するまでに要した到達時間T(=te-ts)を特定する。
【0060】
次に、ステップS29において、制御部2は、各臓器に関連付けられた到達時間Tに関する情報に基づいて、各臓器に関連付けられた到達時間Tを示すグラフを含む到達時間表示画面G2を生成した上で、当該生成された到達時間表示画面G2を表示部5に表示する。例えば、
図10に示すように、到達時間表示画面G2上において、各臓器に関連付けられた到達時間Tが数値及びバーグラフとして表示されてもよい。
【0061】
本実施形態によれば、各臓器に関連付けられた到達時間Tは被検者Kの血流量に相関していることが判明しているため、医療従事者は、視覚的に各到達時間Tを把握することで被検者Kの血流の状態を直感的に把握することができる。このように、被検者Kの身体的負担を減らしつつ、比較的簡単な手法により被検者Kの血流の状態を視覚的に把握することが可能となる。
【0062】
尚、本実施形態では、臓器到達時刻teと注入開始時刻tsに基づいて、インジケータ材が臓器に到達するまでに要した到達時間Tが特定されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インジケータ材が右心に到達した右心到達時刻tiと臓器到達時刻teに基づいて到達時間Tが特定されてもよい。この場合、最初に、制御部2は、右心の複数のインピーダンス変化値ΔZのうちインピーダンス変化値の最大値ΔZmaxを特定した上で、当該最大値ΔZmaxに対応する時刻をインジケータ材が右心に到達した右心到達時刻tiとして特定する。その後、制御部2は、右心を除く各臓器に対して、臓器到達時刻teと右心到達時刻tiに基づいて、インジケータ材が臓器に到達するまでに要した到達時間T(T=te-ti)を特定する。この場合、到達時間表示画面G2上において、右心を除く各臓器(即ち、肺、左心、脳、腎臓、肝臓の各々)に関連付けられた到達時間Tが数値及びバーグラフとして表示されてもよい。
【0063】
また、本実施形態では、インピーダンス変化値の最大値ΔZmaxに対応する時刻が臓器到達時刻teとして特定されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インピーダンス変化値ΔZの時間変化を示すグラフ(
図9参照)に示すように、インピーダンス変化値ΔZの立ち上り時刻が臓器到達時刻teとして特定されてもよい。さらに、インピーダンス変化値ΔZの時間変化を示すグラフと時間軸とによって囲まれる面積を2等分する時刻が臓器到達時刻teとして特定されてもよい。
【0064】
(到達時間表示画面の他の一例)
次に、
図11を参照して到達時間表示画面の他の一例について以下に説明する。
図11は、表示部5に表示された到達時間表示画面G3を示す図である。
図11に示す到達時間表示画面G3は、各臓器に関連付けられた到達時間Tが数値及びバーグラフとして表示される点で
図10に示す到達時間表示画面G2と共通する。一方、到達時間表示画面G3では、所定の臓器に関連付けられた到達時間Tが当該所定の臓器に関連付けられた基準到達時間Tthよりも長い場合には、当該所定の臓器に関連付けられた到達時間Tの数値及びバーグラフの視覚的態様(例えば、表示色)が変更されてもよい。
【0065】
具体的には、
図11に示すように、肝臓に関連付けられた到達時間T(17秒)は、肝臓に関連付けられた基準到達時間Tth(例えば、15秒)よりも長いため、肝臓に関連付けられた到達時間Tの数値の視覚的態様(例えば、表示色)が変更されてもよい。さらに、肝臓に関連付けられた到達時間Tを示すバーグラフRの視覚的態様(例えば、表示色)が変更されてもよい。この場合、バーグラフRのうち基準到達時間Tth(15秒)と到達時間T(17秒)の間の領域R1の視覚的態様が変更されてもよい。
【0066】
一方、脳に関連付けられた到達時間T(5秒)は、脳に関連付けられた基準到達時間Tth(例えば、5秒)と同一であるため、脳に関連付けられた到達時間Tの数値及びバーグラフの視覚的態様は変更されない。なお、基準到達時間Tthは、例えば、医療従事者が定めた任意の時間であってもよい。または、特定の条件下での過去の測定データや、定常的に測定する際における測定時の各臓器の到達時間を基準到達時間Tthとして設定してもよい。また、各臓器に関連付けられた基準到達時間Tthの設定あるいは、各臓器に関連付けられた基準到達時間Tthに関する情報は、医療従事者によって処理装置1に予め入力されてもよい。
【0067】
図11に示す到達時間表示画面G3の例によれば、制御部2は、各臓器に関連付けられた基準到達時間Tthと各臓器に関連付けられた到達時間Tとを比較をした上で、当該比較結果に応じて各臓器に関連付けられた到達時間Tの数値及びバーグラフの視覚的態様を変更する。このように、医療従事者は、表示部5に表示された到達時間表示画面G3を見ることで、被検者Kの血流の状態(特に、血流の異常)を直感的に把握することができる。
【0068】
(インピーダンス変化値表示画面を生成する処理)
次に、
図12を主に参照して、各臓器のインピーダンス変化値の時間変化を示すインピーダンス変化値表示画面G4を生成する処理について以下に説明する。
図12は、インピーダンス変化値表示画面G4を生成する処理を説明するためのフローチャートである。
図13は、インピーダンス変化値表示画面G4の一例を示す図である。
図12に示すステップS30からS35の処理は、
図3に示すステップS2からS7の処理にそれぞれ対応する。
【0069】
図12に示すように、ステップS30において、制御部2は、各EIT測定装置10からEITデータ(第1のEITデータの一例)を取得する。次に、ステップS31において、制御部2は、取得された各EITデータから各臓器の基準インピーダンス値Zrを特定する。その後、ステップS32において、医療従事者は、インジケータ材を被検者の静脈に注入する。また、ステップS32では、制御部20は、医療従事者の入力操作部6に対する所定の操作に応じて、インジケータ材の静脈への注入が開始された注入開始時刻tsを特定する。
【0070】
ステップS33において、制御部2は、各EIT測定装置10からEITデータ(第2のEITデータの一例)を取得する。次に、ステップS34において、制御部2は、各EIT測定装置10から送信されたEITデータに基づいて各臓器のインピーダンス値Zを特定する。
【0071】
次に、制御部2は、各臓器の基準インピーダンス値Zr及び各臓器のインピーダンス値Zに基づいて、各臓器のインピーダンス変化値ΔZ(=|Z-Zr|)を特定する(ステップS35)。その後、EITデータの測定が終了する場合(ステップS36でYES)、本処理はステップS37に進む。一方、EITデータの測定が終了しない場合(ステップS36でNO)、ステップS33からS35の処理が繰り返し実行される。例えば、インジケータ材の静脈への注入が開始された注入開始時刻tsから所定時間(例えば、80秒)が経過したときに測定が終了してもよい。
【0072】
次に、ステップS37において、制御部2は、各臓器の複数のインピーダンス変化値ΔZを示すデータに基づいて、各臓器のインピーダンス変化値ΔZの時間変化を示すグラフを含むインピーダンス変化値表示画面G4(
図13参照)を生成した上で、当該生成されたインピーダンス変化値表示画面G4を表示部5に表示する。
【0073】
本実施形態によれば、各臓器のインピーダンス変化値ΔZの時間的変化は血液中に含まれるインジケータ材が各臓器に到達することで生じるため、医療従事者は、各臓器のインピーダンス変化値ΔZの時間的変化を示すグラフを見ることで、被検者Kの血流の状態を直感的に把握することができる。このように、被検者Kに対する身体的負担を減らしつつ、比較的簡単な手法により被検者Kの血流の状態を視覚的に把握することが可能となる。
【0074】
尚、
図13に示すインピーダンス変化値表示画面G4では、各臓器のインピーダンス変化値の最大値ΔZmaxの値が同一となるように各臓器のインピーダンス変化値が規格化されて表示されている点に留意されたい。この点において、インピーダンス変化値表示画面G4では、各臓器のインピーダンス変化値が規格化されない状態で各臓器のインピーダンス変化値ΔZの時間的変化を示すグラフが表示されてもよい。
【0075】
また、本実施形態に係る処理装置1をソフトウェアによって実現するためには、生体情報処理プログラムが記憶装置3又はROMに予め組み込まれていてもよい。または、生体情報処理プログラムは、磁気ディスク(例えば、HDD、フロッピーディスク)、光ディスク(例えば、CD-ROM,DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)ディスク)、光磁気ディスク(例えば、MO)、フラッシュメモリ(例えば、SDカード、USBメモリ、SSD)等のコンピュータ読取可能な記憶媒体に格納されていてもよい。この場合、記憶媒体に格納された生体情報処理プログラムが記憶装置3に組み込まれてもよい。さらに、記憶装置3に組み込まれた当該プログラムがRAM上にロードされた上で、プロセッサがRAM上にロードされた当該プログラムを実行してもよい。このように、本実施形態に係る生体情報処理方法が処理装置1によって実行される。
【0076】
また、生体情報処理プログラムは、通信ネットワーク上のコンピュータからネットワークインターフェース4を介してダウンロードされてもよい。この場合も同様に、ダウンロードされた当該プログラムが記憶装置3に組み込まれてもよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではない。本実施形態は一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【0078】
例えば、本実施形態の説明では、頭部EIT測定装置10a、胸部EIT測定装置10b及び腹部EIT測定装置10cの3つのEIT測定装置が使用されているが、使用されるEIT測定装置10の数は特に限定されるものではない。例えば、使用されるEIT測定装置の数は、測定対象である臓器の数に応じて2以下又は4以上であってもよい。この点において、心臓、肺及び脳が測定対象である場合には、頭部EIT測定装置10a及び胸部EIT測定装置10bの2つのEIT測定装置が使用される。
【0079】
例えば、本実施形態の説明では、頭部EIT測定装置10a、胸部EIT測定装置10b及び腹部EIT測定装置10cの3つのEIT測定装置が使用されているが、使用されるEIT測定装置10の数は特に限定されるものではない。例えば、心臓、肺及び脳が測定対象である場合には、頭部EIT測定装置10a及び胸部EIT測定装置10bの2つのEIT測定装置が使用されるように、使用されるEIT測定装置の数は、測定対象である臓器の数に応じて2以下又は4以上であってもよい。
【0080】
例えば、心臓、肺及び脳が測定対象である場合、胸部EIT測定装置10b及び頭部EIT測定装置10aの2つのEIT測定装置のみが使用されてもよい。この場合、医療従事者は、臓器表示画面G1に表示された心臓、肺及び脳を視認することで、心臓から重要な臓器である脳に血液が十分に供給されているかどうかを直感的に把握することができる。
【0081】
また、心臓、肝臓及び腎臓が測定対象である場合、胸部EIT測定装置10bと腹部EIT測定装置10cの2つのEIT測定装置のみが使用されてもよい。この場合、医療従事者は、臓器表示画面G1に表示された心臓、肝臓及び腎臓を視認することで、心臓から重要な臓器である肝臓・腎臓に血液が十分に供給されているかどうかを直感的に把握することができる。
【0082】
また、心臓と肺が測定対象である場合、胸部EIT測定装置10bのみが使用されてもよい。この場合、医療従事者は、臓器表示画面G1に表示された心臓と肺を視認することで、右心から肺を通って左心にインジケータ材が流れる様子を直感的に把握できる。例えば、医療従事者は、臓器表示画面G1を通じて右肺にインジケータ材が到達する到達時間の増加を把握することで、被検者Kの右肺に塞栓がある可能性を検討することができる。また、医療従事者は、臓器表示画面G1を通じてインジケータ材が右心から左心に到達する到達時間の増加を把握することで、被検者Kの心拍出量が低下している可能性を検討することができる。
【0083】
さらに、頭部EIT測定装置10aまたは腹部EIT測定装置10cのいずれか1つのみが使用されてもよい。この場合、例えば、カテーテルを用いて中心静脈へインジケータ材を投与または、上腕静脈にインジケータ材を投与した後に、少量(例えば、20cc程度)の生理食塩水で当該インジケータ材をフラッシュすれば、インジケータ材は右心にすぐに到達する。したがって、インジケータ材を投与した時刻から各臓器に到達する時刻の差を求めるだけで、被検者Kの血流量を把握することができる。
【0084】
本発明の実施形態における測定対象である臓器は、心臓、肺、脳、腎臓、肝臓に限定されるものではない。これらの臓器以外の臓器(腸や膵臓等)や筋肉が測定対象として追加されてもよい。また、測定対象の臓器は、心臓、肺、脳、腎臓、肝臓のうちの少なくとも2つであってもよい。例えば、心臓(右心及び左心)と脳の2つが測定対象である場合には、頭部EIT測定装置10a及び腹部EIT測定装置10cの2つのEIT測定装置が使用される。
【符号の説明】
【0085】
1:生体情報処理装置(処理装置)
2:制御部
3:記憶装置
4:ネットワークインターフェース
5:表示部
6:入力操作部
7:センサインターフェース
10a:頭部EIT測定装置
10b:胸部EIT測定装置
10c:腹部EIT測定装置
20:制御部