(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】電力売買支援装置、電力売買支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20230605BHJP
G06Q 30/08 20120101ALI20230605BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20230605BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q30/08
H02J3/00 130
H02J3/00 180
H02J3/14 160
(21)【出願番号】P 2020046464
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】西村 康孝
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】前島 治
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129939(JP,A)
【文献】特開2002-233053(JP,A)
【文献】特開2019-160077(JP,A)
【文献】特開2016-062537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0156828(US,A1)
【文献】国際公開第2018/084301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02J 3/00
H02J 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部と、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間
を特定するとともに、前記損失期間の前の損失前期間であって前記損失期間が含まれる日において前記インバランス単価が最低の期間を含む損失前期間を特定する特定部と、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部と、
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする入札部と、
を有
し、
前記入札条件決定部は、前記損失前期間において前記電力融通市場における電力単価よりも低い第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を前記入札条件として決定する、
電力売買支援装置。
【請求項2】
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部と、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間であって、1日のうちで前記インバランス単価が最高の期間を含む損失期間を特定する特定部と、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部と、
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする入札部と、
を有し、
前記入札条件決定部は、前記損失期間の前の損失前期間において第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価であって前記電力融通市場における電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を前記入札条件として決定する、
電力売買支援装置。
【請求項3】
前記入札条件決定部は、前記損失前期間における前記電力融通市場における電力単価よりも低い前記第1電力単価で電力を売るための前記第1入札条件を決定する、
請求項2に記載の電力売買支援装置。
【請求項4】
前記入札条件決定部は、前記損失期間における前記電力融通市場における電力単価よりも高い前記第2電力単価で電力を買うための前記第2入札条件を決定する、
請求項
1に記載の電力売買支援装置。
【請求項5】
前記入札条件決定部は、前記電力融通市場に参加しているユーザが保有する蓄電池の容量に基づいて前記入札の電力量を決定する、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の電力売買支援装置。
【請求項6】
前記入札部による入札と、前記電力融通市場に参加しているユーザによる入札とに基づいて、電力の売買を約定させる約定部をさらに有する、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の電力売買支援装置。
【請求項7】
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部と、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間を特定するとともに、前記損失期間の前の損失前期間であって前記損失期間が含まれる日において前記インバランス単価が最高の期間を含む損失前期間を特定する特定部と、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部と、
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする入札部と、
を有し、
前記入札条件決定部は、前記損失前期間において前記電力融通市場における電力単価よりも高い第1電力単価で電力を買うための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも低い第2電力単価で電力を売るための第2入札条件と、を決定する、
電力売買支援装置。
【請求項8】
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部と、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間であって、1日のうちで前記インバランス単価が最低の期間を含む損失期間を特定する特定部と、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部と、
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする入札部と、
を有し、
前記入札条件決定部は、前記損失期間の前の損失前期間において第1電力単価で電力を買うための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも低い第2電力単価であって前記電力融通市場における電力単価よりも低い第2電力単価で電力を売るための第2入札条件と、を決定する、
電力売買支援装置。
【請求項9】
コンピュータが実行する、
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測するステップと、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間を特定するステップと、
前記損失期間の前の損失前期間であって前記損失期間が含まれる日において前記インバランス単価が最低の期間を含む損失前期間を特定するステップと、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定するステップと、
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をするステップと、
を有
し、
前記入札条件を決定するステップにおいて、前記損失前期間において前記電力融通市場における電力単価よりも低い第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を前記入札条件として決定する、
電力売買支援方法。
【請求項10】
コンピュータを、
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間
を特定するとともに、前記損失期間の前の損失前期間であって前記損失期間が含まれる日において前記インバランス単価が最低の期間を含む損失前期間を特定する特定部、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部、及び
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする送信部、
として機能させ
、
前記入札条件決定部は、前記損失前期間において前記電力融通市場における電力単価よりも低い第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を前記入札条件として決定する、
プログラム。
【請求項11】
コンピュータが実行する、
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測するステップと、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間であって、1日のうちで前記インバランス単価が最高の期間を含む損失期間を特定するステップと、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定するステップと、
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をするステップと、
を有し、
前記入札条件を決定するステップにおいて、前記損失期間の前の損失前期間において第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価であって前記電力融通市場における電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を前記入札条件として決定する、
電力売買支援方法。
【請求項12】
コンピュータを、
小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部、
前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間であって、1日のうちで前記インバランス単価が最高の期間を含む損失期間を特定する特定部、
前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部、及び
電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする送信部、
として機能させ、
前記入札条件決定部は、前記損失期間の前の損失前期間において第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価であって前記電力融通市場における電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を前記入札条件として決定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の売買を支援するための電力売買支援装置、電力売買支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光発電設備で発生した電力を売買する市場が形成されている。特許文献1には、電力の買い手から買電可能量及び希望買電価格の情報を取得し、電力の売り手から希望売電量及び希望売電価格の情報を取得し、取得した情報に基づいて、両者の要望を満たす形でマッチングする手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、売り手が発生させた電力は売り手から電力系統へ流れ(逆潮流)、買い手が利用する電力は電力系統から買い手へ流れる(順潮流)。送配電事業者は、国内の電力系統の安定性のため、電力の需要と供給を常時一致させる必要がある。そのため、電力を売買する市場を管理する小売電気事業者は、実際に電力の需給が発生する時刻の前に、送配電事業者に対して需給量の計画値を提出する。
【0005】
小売電気事業者は、需給量の計画値と実績値との間の差であるインバランス量と、日時ごとの電力の価値に対応するインバランス単価とに応じて、送配電事業者との間でインバランス精算コストを授受する。電力需給に影響を与える予定外の事態(急な天気の変化等)が発生した状況では、計画値と実績値の間に大きな差が生じる。このような状況において、小売電気事業者は、高いインバランス単価で不足したインバランス量の電力を送配電事業者から電力を調達したり、低いインバランス単価で余ったインバランス量の電力を送配電事業者に電力を引き取ってもらったりする必要があるため、小売電気事業者の収益が悪化するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、電力の需給量の計画値と実績値との間に差が発生することを事前に把握した状況において、電力を売買する市場を管理する事業者の収益を改善できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の電力売買支援装置は、小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部と、前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間を特定する特定部と、前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部と、電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする入札部と、を有する。
【0008】
前記入札条件決定部は、前記損失期間の前の損失前期間において第1電力単価で電力を売るための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件と、を決定してもよい。
【0009】
前記入札条件決定部は、前記損失前期間における前記電力融通市場における電力単価よりも低い前記第1電力単価で電力を売るための前記第1入札条件を決定してもよい。
【0010】
前記特定部は、前記損失期間が含まれる日において前記インバランス単価が最低の期間を含む期間を前記損失前期間として特定してもよい。
【0011】
前記入札条件決定部は、前記損失期間における前記電力融通市場における電力単価よりも高い前記第2電力単価で電力を買うための前記第2入札条件を決定してもよい。
【0012】
前記特定部は、1日のうちで前記インバランス単価が最高の期間を含む期間を前記損失期間として特定してもよい。
【0013】
前記入札条件決定部は、前記電力融通市場に参加しているユーザが保有する蓄電池の容量に基づいて前記入札の電力量を決定してもよい。
【0014】
前記入札条件決定部は、前記損失期間の前の損失前期間において第1電力単価で電力を買うための第1入札条件と、前記損失期間において前記第1電力単価よりも低い第2電力単価で電力を売るための第2入札条件と、を決定してもよい。
【0015】
前記電力売買支援装置は、前記入札部による入札と、前記電力融通市場に参加しているユーザによる入札とに基づいて、電力の売買を約定させる約定部をさらに有してもよい。
【0016】
本発明の第2の態様の電力売買支援方法は、コンピュータが実行する、小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測するステップと、前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間を特定するステップと、前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定するステップと、電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をするステップと、を有する。
【0017】
本発明の第3の態様のプログラムは、コンピュータを、小売電気事業者における電力の需要量及び供給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、前記計画値と前記実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する予測部、前記インバランス量と前記インバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間を特定する特定部、前記損失期間における損失を小さくするように、前記損失期間の前に実行する電力の売買の入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する入札条件決定部、及び電力融通市場に対して前記入札条件に従って入札をする送信部、として機能させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電力の需給量の計画値と実績値との間に差が発生することを事前に把握した状況において、電力を売買する市場を管理する事業者の収益を改善することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電力売買支援装置の概要について説明するための図である。
【
図2】電力売買支援装置と買い手及び売り手との関係を示す図である。
【
図4】電力売買支援装置が実行する電力売買支援方法のフローチャートを示す図である。
【
図5】計画策定部が予測した例示的な計画値のグラフを示す図である。
【
図6】予測部が当日0時に予測した例示的な実績値のグラフを示す図である。
【
図7】予測部が予測した例示的なインバランス量及びインバランス単価のグラフを示す図である。
【
図8】例示的な対象日における電力融通市場の市場価格のグラフを示す図である。
【
図9】入札介入後に予測部が改めて予測した例示的な実績値のグラフを示す図である。
【
図10】入札介入後に予測部が改めて予測した例示的なインバランス量及びインバランス単価のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[電力売買支援装置1の概要]
2009年に始まった太陽光発電の余剰電力買取制度(すなわち固定価格買取制度(以下、FITという))により太陽光発電(以下、PVという)の一般世帯への普及が進んできた。PVの電力(以下、PV電力という)のうち、世帯の自家消費で余った電力(以下、余剰電力という)は、FITにより電力会社(小売電気事業者)へ高価格(48円/kWh(2009年にFITを開始した世帯))での売電が保証されていた。
【0021】
ところが、FITが適用される期間は10年であるため、2019年からFIT期間切れ世帯が続々と登場し始める。FIT期間切れ世帯の余剰電力は低価格(約6~10円/kWhなど)で電力会社に売却されることになるので、これらの世帯は、電力会社へ売電するよりも自家消費する方がよいとも考えられる。しかしながら、余剰電力を蓄積することができない場合、自家消費が少ない時間帯に生じる余剰電力は、低価格で電力会社へ売電するしか選択肢がない。
【0022】
発電設備を有する世帯に蓄電池を導入することで、余剰電力を蓄電し、必要な時に自家消費することが可能になり、余剰電力の蓄電と自家消費により電気代を削減できるようになる。しかしながら、蓄電池の空き容量がPVの発電量に対して不足する場合には、やはり低価格で電力会社へ売電する必要がある。
【0023】
このような場合に期待される他の手段として、電力を売買する市場を介して、世帯の余剰電力を他の世帯に対して売電する電力融通を行うことが考えられる。売り手(すなわち、希望売電者)が電力会社への売電価格(例えば、6円/kWh)より高価格で売電をし、買い手(すなわち、希望買電者)が電力会社からの買電価格(例えば、26円/kWh)より低価格で買電をすることができると、売り手及び買い手の両者が金銭的なメリットを享受できる。
【0024】
売り手と買い手との間の電力融通だけでは、時間帯や天気等によって、電力が不足したり、電力が余ったりする。そのため、売り手及び買い手を管理する小売電気事業者は、送配電事業者を介して外部(例えば、電力取引所)から不足した電力を調達し、送配電事業者を介して外部に余った電力を供給する。上述のように、送配電事業者は、国内の電力系統の安定性のため、電力の需要と供給を常時一致させる必要がある。そのため、小売電気事業者は、送配電事業者に対して、実際に電力の需給が発生する時刻の前に、需給量(すなわち、日時ごとの電力の供給量及び調達量)の計画値を提出する。
【0025】
小売電気事業者は、需給量の計画値と実績値との間の差であるインバランス量と、日時ごとの電力の価値に対応するインバランス単価とに応じて、送配電事業者との間でインバランス精算コストを授受する。電力需給に影響を与える予定外の事態(急な天気の変化等)が発生した状況では、計画値と実績値の間に大きな差が生じる。例えば、電力の価値が高い日時(すなわち、需要が大きい日時)における調達量の実績値が計画値よりも大きくなると、小売電気事業者は高いインバランス単価で送配電事業者から電力を調達する必要がある。一方、電力の価値が低い日時(すなわち、供給が大きい日時)における供給量の実績値が計画値よりも大きくなると、小売電気事業者は低いインバランス単価で送配電事業者に対して電力を供給する必要がある。
【0026】
このような状況において、本実施形態に係る電力売買支援装置1は、売り手と買い手との間の電力の売買に介入することによって、電力を売買する市場を管理する小売電気事業者の収益を改善する。
【0027】
図1は、電力売買支援装置1の概要について説明するための図である。
図1には、買い手としての買電世帯、売り手としての売電世帯、小売電気事業者、及び送配電事業者が示されている。また、
図1には、買電を希望している買電世帯と、売電を希望している売電世帯との間における電力の売買を支援するための電力売買支援装置1が示されている。買電世帯及び売電世帯は、それぞれ小売電気事業者の顧客であるユーザ(需要家)である。なお、買電世帯及び売電世帯は各世帯が買電及び売電のどちらを行うかを区別するための呼称であり、各世帯は買い手及び売り手のどちらにもなり得る。各世帯は、一日の中の時間帯によって、買電世帯と売電世帯との間で切り替わり得る。
【0028】
電力売買支援装置1は、例えば小売電気事業者により管理されるコンピュータである。小売電気事業者は、電力を売買する市場(電力融通市場)を管理する事業者であり、電力売買の結果に従って各世帯へ電力を供給するとともに、各世帯から電力を調達する。また、小売電気事業者は、発電設備を有する発電事業者であってもよい。電力売買支援装置1は、電力需給の計画値と実績値との差(すなわち、インバランス)を予測することによって入札条件を決定し、市場へ入札をする。電力売買支援装置1は、買い手、売り手及び電力売買支援装置1による入札に基づいて、電力の売買を約定させる。
【0029】
売電世帯はPVを保有している世帯であり、余剰電力を売電できる。売電世帯は、電力売買支援装置1を介して買電世帯に売電する方法、又は小売電気事業者に売電する方法のいずれかを選択することができる。また、全ての世帯は宅内消費する電力を、電力売買支援装置1を介して売電世帯から買電をする方法、又は小売電気事業者から買電をする方法のいずれかを選択することができる。
【0030】
一般的に、買い手が必要とする電力量と、売り手が売りたい電力量は一致しない。したがって、多くのケースでは需要と供給が一致しないため、電力売買支援装置1は、買い手と売り手とをマッチングする必要がある。なお、本明細書においては、買い手が希望する買電価格を希望買電価格といい、売り手が希望する売電価格を希望売電価格という。買い手が希望する買電の電力量を希望買電量といい、売り手が希望する売電の電力量を希望売電量という。以下では、希望買電価格及び希望売電価格を総称して入札価格といい、希望買電量及び希望売電量を総称して入札量という。
【0031】
多数の買い手と多数の売り手が存在する場合、希望売電価格と、当該希望売電価格よりも高い希望買電価格との組合せが存在し得る。このような場合、電力売買支援装置1は、希望売電価格よりも高い価格を売り手に対する約定価格(以下、売電約定価格という)として決定し、希望買電価格よりも低い価格を買い手に対する約定価格(以下、買電約定価格という)として決定することで、売り手及び買い手に経済的利益を提供することができる。本明細書においては、売電約定価格及び買電約定価格を総称して約定価格という。
【0032】
図2は、電力売買支援装置1と買い手及び売り手との関係を示す図である。電力売買支援装置1は、複数の買い手が使用する複数の買い手端末2(
図2における買い手端末2-1、買い手端末2-2、・・・)と、複数の売り手が使用する複数の売り手端末3(
図2における売り手端末3-1、売り手端末3-2、・・・)との間で通信する。買い手端末2及び売り手端末3は、ユーザが情報を入力する操作部と、情報を表示する表示部とを有していれば任意の端末であってよく、例えばスマートフォン又はコンピュータである。
【0033】
電力売買支援装置1は、複数の買い手端末2のそれぞれから希望買電価格を取得し、複数の売り手端末3のそれぞれから希望売電価格を取得する。また、電力売買支援装置1は、自ら買電又は売電の入札をするか否かを決定し、入札をする場合には希望買電価格又は希望売電価格を出力する。電力売買支援装置1は、取得した又は出力した複数の希望買電価格及び複数の希望売電価格に基づいて、複数の買い手及び複数の売り手に対する約定価格を決定し、複数の買い手端末2及び複数の売り手端末3に対して約定価格を通知する。
【0034】
[電力売買支援装置1の構成]
図3は、電力売買支援装置1の構成を示す図である。
図3において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図3に示したもの以外のデータの流れがあってよい。
図3において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、
図3に示すブロックは単一の装置内に実装されてよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
【0035】
電力売買支援装置1は、通信部11と、記憶部12と、制御部13とを有する。制御部13は、計画策定部131と、予測部132と、特定部133と、入札条件決定部134と、入札部135と、入札価格取得部136と、約定部137とを有する。
【0036】
通信部11は、ネットワークを介して買い手端末2及び売り手端末3との間でデータを送受信するための通信インターフェースであり、例えばLAN(Local Area Network)コントローラを有する。通信部11は、買い手端末2及び売り手端末3から情報を受信し、受信した情報を制御部13に通知する。また通信部11は、制御部13が出力した情報を、買い手端末2及び売り手端末3に送信する。
【0037】
記憶部12は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスクドライブ等の記憶媒体である。記憶部12は、制御部13が実行するプログラムを記憶している。
【0038】
制御部13は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することにより、計画策定部131、予測部132、特定部133、入札条件決定部134、入札部135、入札価格取得部136及び約定部137として機能する。
【0039】
計画策定部131は、電力の需給量の計画値を予測し、送配電事業者に対して提出する。予測部132は、需給量の計画値と実績値との差であるインバランス量と、計画値と実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価とを、日時に関連付けて予測する。特定部133は、インバランス量とインバランス単価との関係に基づいて、将来の所定の期間内において損失が生じる損失期間を特定する。
【0040】
入札条件決定部134は、損失期間における損失を小さくするように、損失期間の前に実行する入札の時期、入札の電力単価、及び入札の電力量を含む入札条件を決定する。入札部135は、電力融通市場に対して入札条件に従って入札をする。入札価格取得部136は、買い手端末2及び売り手端末3から入札価格を取得する。約定部137は、入札部135による入札と、買い手端末2のユーザ及び売り手端末3のユーザによる入札とに基づいて、電力の売買を約定させる。
【0041】
本実施形態に係る電力売買支援装置1は、
図3に示す具体的な構成に限定されない。電力売買支援装置1は、2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されてもよい。
【0042】
[約定価格の決定処理の説明]
図4は、本実施形態に係る電力売買支援装置1が実行する電力売買支援方法のフローチャートを示す図である。以下では、電力売買支援装置1は、電力売買の対象日の前日12時に需給量の計画値を送配電事業者に提出し、対象日の当日の0時にインバランスによる損失を小さくするための入札条件を決定する例を説明する。
【0043】
電力売買支援装置1において、計画策定部131は、電力の実需給前の所定の時刻(例えば、対象日の前日12時)に、対象日における電力の需給量の計画値を予測する。計画策定部131は、予測した計画値を送配電事業者のサーバに送信することによって、送配電事業者に提出する(S11)。
【0044】
計画値を提出するために、計画策定部131は、各世帯の過去の宅内消費量の履歴及び対象日の天気予報に基づいて、各世帯の電力の宅内消費量を予測する。また、計画策定部131は、各世帯の人間のスケジュールや、各世帯の人間が有する携帯通信端末の位置情報等に基づいて、宅内消費量を予測してもよい。また、計画策定部131は、各世帯の過去の発電量の履歴及び対象日の天気予報に基づいて、各世帯におけるPVによる発電量を予測する。また、計画策定部131は、各世帯の過去の蓄電池の空き容量の履歴、宅内消費量の予測値、及び発電量の予測値に基づいて、各世帯における蓄電池の空き容量を予測する。
【0045】
計画策定部131は、宅内消費量、発電量及び蓄電池の空き容量の予測値に基づいて、電力の需給量の計画値を予測する。電力の需給量の計画値は、日時ごとの電力の需要量及び供給量を含む。需要量は、各世帯における電力の使用や蓄電池の充電により、電力系統から各世帯へ供給される電力量(すなわち、順潮流電力量)の合計値である。供給量は、各世帯におけるPVの発電や蓄電池の放電により、各世帯から電力系統へ流れる電力量(すなわち、逆潮流電力量)の合計値である。需要量の計画値を計画需要量といい、供給量の計画値を計画供給量という。
【0046】
計画策定部131は、ここに示した具体的な方法に限られず、その他の方法で電力の需給量の計画値を予測してもよい。なお、小売電気事業者が発電設備を保有する場合に、小売電気事象者自身の発電量も計画値に含まれ得るが、本明細書では簡単のために小売電気事業者の発電量は考慮しない。
【0047】
小売電気事業者の顧客である世帯には、PV及び蓄電池を有さない世帯と、PVのみ有する世帯と、PV及び蓄電池を有する世帯とがある。PV及び蓄電池を有さない世帯では、宅内消費量と同量の電力が電力系統から宅内に流れる必要があるため、宅内消費量と順潮流電力量とは一致し、逆潮流電力量は常にゼロである。
【0048】
PVのみ有する世帯では、昼間等の発電量が宅内消費量以上である場合に、発電量のうち宅内消費量に充当して余った量(余剰電力量)が電力系統へ流れる逆潮流電力量となる。一方、夜間等の発電量が宅内消費量より小さい場合に、発電量を充当しても不足する電力量(宅内消費量-発電量)が順潮流電力量となる。
【0049】
PV及び蓄電池を有する世帯では、昼間等の発電量が宅内消費量以上である場合に、余剰電力量を蓄電池に充電し、蓄電池の空き容量が無くなった後の余剰電力量は電力系統へ流れる逆潮流電力量となる。一方、夜間等の発電量が宅内消費量より小さい場合に、蓄電池の残量を宅内消費量の不足分に充当するとともに、蓄電池の残量の一定量を売電のために電力系統へ流れる逆潮流電力量とする。蓄電池が空になった後の宅内消費量は順潮流電力量となる。
【0050】
図5は、計画策定部131が予測した例示的な計画値のグラフを示す図である。
図5は、需要量及び供給量それぞれのグラフを含む。
図5のグラフにおいて、横軸は時刻を表し、縦軸は電力量を表している。
図5に示すように、計画需要量は、人間が在宅する夕方以降に、昼間よりも大きい値となる。計画供給量は、PVによる発電が行われる昼間に、夕方以降よりも大きい値となる。また、計画供給量は、夕方以降であっても蓄電池から放電が行われる期間には、ゼロより大きい値となる。
【0051】
図4に戻り、予測部132は、計画策定部131が対象日の計画値を提出した後の所定の時刻(例えば、対象日の当日0時)に、インバランス精算コストを予測する(S12)。予測部132は所定の時刻にインバランス精算コストを予測してもよく、計画値の提出から実需給の日時まで繰り返しインバランス精算コストを予測してもよい。
【0052】
インバランス精算コストを予測するために、予測部132は、各世帯の過去の宅内消費量の履歴及び対象日の天気予報に基づいて、各世帯の電力の宅内消費量を予測する。また、予測部132は、各世帯の過去の発電量の履歴及び対象日の天気予報に基づいて、各世帯におけるPVによる発電量を予測する。また、予測部132は、各世帯の過去の蓄電池の空き容量の履歴、宅内消費量の予測値、及び発電量の予測値に基づいて、各世帯における蓄電池の空き容量を予測する。
【0053】
予測部132は、宅内消費量、発電量及び蓄電池の空き容量の予測値に基づいて、電力の需給量の実績値を予測する。電力の需給量の実績値は、日時ごとの電力の需要量及び供給量を含む。予測部132が予測した需要量の実績値を予測需要量といい、予測部132が予測した供給量の実績値を予測供給量という。
【0054】
図6は、予測部132が当日0時に予測した例示的な実績値のグラフを示す図である。
図6は、需要量及び供給量それぞれについて、計画値及び予測した実績値のグラフを含む。
図6のグラフにおいて、横軸は時刻を表し、縦軸は電力量を表している。
図6は、計画時点の天気予報が晴天だったのに対して、当日0時時点の天気予報が曇りに変化した例を表している。計画時点と比較して発電量が低減するため、逆潮流電力量が減少し、また発電量で宅内消費量を賄えない場合は順潮流電力量が増加する。そのため、予測需要量は計画需要量よりも全体的に上がっており、予測供給量は計画供給量よりも全体的に下がっている。
【0055】
予測部132は、対象日の所定の時間ごと(例えば30分又は1時間ごと)に、計画策定部131が予測した計画値と、予測部132が予測した実績値との差を、インバランス量として算出する。予測部132が予測した需要量のインバランス量を需要インバランス量といい、予測部132が予測した供給量のインバランス量を供給インバランス量という。さらに、予測部132は、外部市場情報、過去のインバランス単価の履歴及び対象日の天気予報に基づいて、電力量の計画値と実績値との間に差がある時点における電力単価であるインバランス単価を予測する。外部市場情報は、外部の電力取引所等における電力の市場価格を示す情報である。
【0056】
例えば計画時点の天気予報が前日時点では晴天であり、当日0時時点の天気予報が曇りに変化した場合に、本実施形態に係る小売電気事業者だけでなく、他の小売電気事業者でも同様に実績値が計画値よりも不足することが想定できる。このような場合に、電力系統全体としてPVによる発電量が想定より減少して電力の需給が逼迫することから、予測部132は、インバランス単価を高く予測する。一方、天気予報が曇りから晴天に変化した場合に、電力系統全体としてPVによる発電量が想定よりも増加して電力が余ることから、予測部132は、インバランス単価を安く予測する。
【0057】
予測部132は、日時に関連付けて算出したインバランス量とインバランス単価との積を、小売電気事業者が送配電事業者に支払う又は送配電事業者から受け取るインバランス精算コストとして算出する。予測部132は、ここに示した具体的な方法に限られず、その他の方法でインバランス精算コストを予測してもよい。
【0058】
図7は、予測部132が予測した例示的なインバランス量及びインバランス単価のグラフを示す図である。
図7は、需要量及び供給量それぞれのインバランス量のグラフと、インバランス単価のグラフとを含む。
図7のグラフにおいて、横軸は時刻を表し、縦軸はインバランス量又はインバランス単価を表している。
図7は、計画時点の天気予報が晴天だったのに対して、当日0時時点の天気予報が曇りに変化した例を表している。
図7では、需要インバランス量及び供給インバランス量がともに負の値を推移しており、対象日のほとんどの時間帯で不足インバランスが発生する見込みである。また、昼間にPV発電ができないためインバランス単価が高く予測されており、夕方以降には人間が在宅して電力需要が高まるためインバランス単価がさらに高く予測されている。
【0059】
図7の状況では、計画値と実績値との間のインバランスが大きいと予測されているため、小売電気事業者は送配電事業者に対して多額のインバランス精算コストを支払うことが必要となる見込みである。これに対して、電力売買支援装置1は、特定の期間に売電又は買電の入札をすることによって電力融通市場に介入し、インバランス精算コストを低減する。以下では、計画値に対して実績値が不足する不足インバランスの場合の処理を説明する。計画値に対して実績値が過剰になる余剰インバランスの場合の処理については後述の変形例において説明する。
【0060】
図4に戻り、特定部133は、予測部132が予測したインバランス量及びインバランス単価の関係に基づいて、対象日におけるインバランス低減効果を見積もる(S13)。インバランス低減効果は、例えば、本実施形態に係る電力売買支援装置1が電力融通市場に介入することによって削減できる可能性のあるインバランス精算コストの金額である。インバランス低減効果を見積もるために、特定部133は、電力融通市場を通して間接的に制御可能な電力量と、単位電力量あたりに低減可能なインバランス精算コストとをそれぞれ見積もる。
【0061】
間接的に制御可能な電力量は、例えば、各世帯の保有する蓄電池の容量と、乾燥機の利用や電気自動車への充電等のタイムシフト可能な電力使用量との少なくとも一方を含む。すなわち、蓄電池の充放電は、各世帯が所望の時間に行うことができるため、電力融通市場を通じて間接的に制御可能な電力量であるといえる。また、乾燥機の利用や電気自動車への充電は、別の時間にずらして(すなわち、タイムシフトして)行うことができるため、電力融通市場を通じて間接的に制御可能な電力量であるといえる。
【0062】
特定部133は、例えば、各世帯が保有する蓄電池の容量の合計値と、乾燥機や電気自動車の保有率に対応する値との和を、間接的に制御可能な電力量として見積もる。特定部133は、例えば、蓄電池の容量、及び乾燥機や電気自動車の保有率を、各世帯に対するアンケート結果から取得する。また、特定部133は、各世帯の過去の電力使用パターン(例えば、PVの発電が無い時間帯に売電していること等)に基づいて、各世帯の蓄電池の容量を推測してもよい。また、特定部133は、各世帯の過去の電力使用パターン(例えば、電力の市場価格に応じて買電入札量が変動していること等)に基づいて、各世帯におけるタイムシフト可能な電力量を推定してもよい。
【0063】
次に特定部133は、単位電力量あたりに低減可能なインバランス精算コストを見積もる。
図7の例では、早朝(0時から6時)のインバランス単価が8円/kWhであり、夕方以降(16時から21時)のインバランス単価が120円/kWhであることから、夕方以降の不足インバランスを早朝の不足インバランスへ変える(移動させる)ことによって、単位電力量あたりに112円/kWhのインバランス精算コストを低減できる。
【0064】
そして特定部133は、間接的に制御可能な電力量と、単位電力量あたりに低減可能なインバランス精算コストに基づいて、インバランス低減効果を見積もる。
図7の例では、蓄電池を保有する世帯を全10万世帯のうち2万世帯とし、各蓄電池の容量を7.5kWhとすると、蓄電池の容量の合計値である150,000kWhが間接的に制御可能な電力量として見積もられる(簡略化のため、タイムシフト可能な電力量は考慮しない)。したがって、特定部133は、間接的に制御可能な電力量である150,000kWhと、単位量あたりに低減できるインバランス精算コスト112円/kWhとの積である1680万円を、インバランス低減効果の金額として見積もる。
【0065】
図4に戻り、特定部133は、見積もったインバランス低減効果に基づいて、実際に電力融通市場への入札をするか否かを判定する。特定部133は、例えば、インバランス低減効果の金額が予め設定された閾値より大きい場合に(S14のYES)、電力融通市場に入札すると判定し、以降の処理に進む。一方、特定部133は、インバランス低減効果の金額が予め設定された閾値以下である場合に(S14のNO)、電力融通市場に入札しないと判定し、処理を終了する。閾値は、例えば、小売電気事業者の平均月利益の所定割合であり、予め電力売買支援装置1の記憶部12に記憶されている。
【0066】
特定部133は、予測部132が予測したインバランス量及びインバランス単価の関係に基づいて電力融通市場に入札すると判定した場合に、入札をする期間を特定する(S15)。特定部133は、入札をする期間として、将来の所定の期間(例えば、対象日)内において損失が生じる損失期間と、損失期間よりも前の損失前期間とを特定する。損失が生じることとは、例えば小売電気事業者が送配電事業者に支払うインバランス精算コストが0よりも大きいことである。
【0067】
特定部133は、例えば、1日のうちでインバランス単価が最高の期間を含む期間を損失期間として特定する。損失期間は、インバランス単価が最高の期間の一部を含んでもよく、全部を含んでもよい。
図7の例では、特定部133は、インバランス単価(
図7の破線)が最高である18時から21時を、損失期間として特定している。
【0068】
特定部133は、例えば、損失期間が含まれる日において、損失期間よりも前の期間であって、インバランス単価が最低の期間を含む期間を損失前期間として特定する。損失前期間は、インバランス単価が最低の期間の一部を含んでもよく、全部を含んでもよい。
図7の例では、特定部133は、インバランス単価が最低である1時から4時を、損失前期間として特定している。このように、電力売買支援装置1は、インバランス単価が高い又は低いことによりインバランス精算コストに対する影響が大きい損失期間及び損失前期間を特定することによって、損失を効果的に低減できる入札条件を決定できる。
【0069】
図4に戻り、入札条件決定部134は、損失期間における損失を小さくするように、損失期間の前に実行する入札の時期(コマ)、入札の電力単価(入札価格)、及び入札の電力量(入札量)を含む入札条件を決定する(S16)。入札条件決定部134は、入札条件として、損失前期間において第1電力単価で電力を売る(売電する)ための第1入札条件と、損失期間において第1電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買う(買電する)ための第2入札条件と、を決定する。
【0070】
まず、売電入札のための第1入札条件を説明する。入札条件決定部134は、損失前期間における電力融通市場における電力単価よりも低い第1電力単価で電力を売るための第1入札条件を決定する。
【0071】
第1入札条件を決定するために、入札条件決定部134は、売電入札の入札量の合計値を決定する。入札条件決定部134は、例えば、各世帯(電力融通市場に参加しているユーザ)が保有する蓄電池の容量(空き容量又は残量)に基づいて、入札量の合計値を決定する。
図7の例において、入札条件決定部134は、蓄電池を保有する世帯数が2万であり、蓄電池の容量が7.5kWhと仮定すると、合計150,000kWhの売電入札をすることを決定する。入札条件決定部134は、損失前期間内の各時間帯(例えば、30分ごとのコマ)における入札量を決定する。入札条件決定部134は、例えば、損失前期間の4時間を構成する8コマそれぞれの入札量を、18,750kWh(150,000kWh/8コマ)と決定する。
【0072】
次に入札条件決定部134は、売電入札の入札価格を決定する。入札条件決定部134は、例えば、電力融通市場の市場価格と、各世帯の小売電気事業者からの買電単価(すなわち、買電の定価)とに基づいて、入札価格を決定する。
【0073】
図8は、例示的な対象日における電力融通市場の市場価格のグラフを示す図である。
図8は、電力売買支援装置1が入札による介入をする前の市場価格を破線で表している。
図8の例では、市場価格は1日を通して25円/kWhである。また、各世帯の小売電気事業者からの買電単価は26円/kWhである。このような状況において、入札条件決定部134は、以下の式(1)を用いて売電入札の入札価格(第1電力単価)を決定する。
【0074】
第1電力単価=min(市場価格の最小値,小売電気事業者からの買電単価)-a (1)
【0075】
図8の例では、電力融通市場の市場価格の最小値は25円/kWhであり、小売電気事業者からの買電単価である26円/kWhより小さいため、入札条件決定部134は、(25-a)円/kWhを第1電力単価として決定する。a円/kWhは小売電気事業者によって予め決定される定数パラメータであり、その値が大きいほど各世帯の買電を促進できるため、間接的に制御できる電力量を大きくすることができる。例えば、aが21円/kWhの場合、第1電力単価は4円/kWhとなる。aの値は、過去の小売電気事業者の入札参加による効果に基づいて決定されてもよい。
【0076】
次に、買電入札のための第2入札条件を説明する。入札条件決定部134は、損失期間における電力融通市場における電力単価よりも高い第2電力単価で電力を買うための第2入札条件を決定する。
【0077】
第2入札条件を決定するために、入札条件決定部134は、買電入札の入札量の合計値を決定する。入札条件決定部134は、例えば、売電入札と同様に、合計150,000kWhの買電入札をすることを決定する。入札条件決定部134は、損失期間内の各時間帯(例えば、30分ごとのコマ)における入札量を決定する。入札条件決定部134は、例えば、損失期間の4時間を構成する8コマそれぞれの入札量を、18,750kWh(150,000kWh/8コマ)と決定する。
【0078】
次に入札条件決定部134は、買電入札の入札価格を決定する。入札条件決定部134は、例えば、電力融通市場の市場価格と、各世帯の小売電気事業者への売電単価(すなわち、売電の定価)とに基づいて、入札価格を決定する。
図8の例では、市場価格は1日を通して25円/kWhである。また、各世帯の小売電気事業者への売電単価は5円/kWhである。このような状況において、入札条件決定部134は、以下の式(2)を用いて買電入札の入札価格(第2電力単価)を決定する。
【0079】
第2電力単価=max(市場価格の最大値,小売電気事業者へ売電単価)+b (2)
【0080】
図8の例では、電力融通市場の市場価格の最大値は25円/kWhであり、小売電気事業者への売電単価である5円/kWhより大きいため、入札条件決定部134は、(25+b)円/kWhを第2電力単価として決定する。b円/kWhは小売電気事業者によって予め決定される定数パラメータであり、その値が大きいほど各世帯の売電を促進できるため、間接的に制御できる電力量を大きくすることができる。例えば、bが5円/kWhの場合、第2電力単価は30円/kWhとなる。bの値は、過去の小売電気事業者の入札参加による効果に基づいて決定されてもよい。
【0081】
図4に戻り、入札部135は、入札条件決定部134が決定した第1入札条件に従って売電入札をするとともに、入札条件決定部134が決定した第2入札条件に従って買電入札をする(S17)。すなわち、入札部135は、第1入札条件及び第2入札条件が示す入札価格及び入札量を、売電入札又は買電入札をする時期(コマ)に関連付けて出力する。
【0082】
入札部135は、売電入札と買電入札とを同時に実行し、又は売電入札を先に実行した後に買電入札を実行する。また、入札部135は、買電入札と売電入札とのそれぞれについて、算出した入札量の全量を一度にまとめて入札し、又は入札量を部分的に複数回に分けて入札する。全量をまとめて入札する場合には、電力売買支援装置1は、市場価格に与える影響が大きいため、短時間で電力融通市場を制御できるという効果を得られる。入札量を複数回に分けて入札する場合には、電力売買支援装置1は、部分的な入札した後の各世帯の反応や約定状況を考慮して、その次の入札を実行するか否かを判断できること、入札量や入札価格を適宜変更できること等、柔軟に入札できる効果を得られる。
【0083】
図8は、電力売買支援装置1が決定した第1入札条件及び第2入札条件に従って入札による介入をした後の市場価格を実線で表している。
図8に示すように、入札による介入をする前に比べて、早朝において市場価格が低価格に変化し、夕方以降において市場価格が高価格に変化している。
【0084】
このように、電力売買支援装置1は、
図7の例のような不足インバランスによるインバランス精算コストを低減する場合、インバランス単価が同日中では比較的低いと予測される当日午前中(損失前期間)には、各世帯における買電入札と蓄電池への充電を促進するように、低価格での売電入札の第1入札条件を決定し、入札をする。一方、電力売買支援装置1は、インバランス単価が比較的高いと予測される夕方以降(損失期間)には、各世帯における蓄電池からの放電や電力使用量のタイムシフトを促進するように、高価格での買電入札の第2入札条件を決定し、入札をする。
【0085】
これにより、電力売買支援装置1は、各世帯がインバランス単価が小さい時間帯に買電してインバランス単価が大きい時間帯に売電するように電力融通市場に介入し、小売電気事業者が送配電事業者に支払うインバランス精算コスト(すなわち、損失)を小さくすることができる。
【0086】
各世帯の買い手端末2又は売り手端末3は、各コマの入札状況と、各帯自身の宅内消費量、発電量、蓄電池の残量等に基づいて、入札価格及び入札量を決定し、売電入札又は買電入札をする時期(コマ)に関連付けて電力売買支援装置1に送信する。入札価格取得部136は、各世帯の買い手端末2又は売り手端末3から、コマごとの入札価格及び入札量を取得する。
【0087】
PV及び蓄電池を有さない世帯は、世帯自身の宅内消費量予測に基づき、各コマで必要な電力量を買電入札量の最大値として買電入札を実行する。買電入札の入札価格は、小売電気事業者の定価(例えば、26円/kWh)より低い価格である。また、PV及び蓄電池を有さない世帯は、市場価格を参照して、乾燥機の使用やEVの充電等のタイムシフト可能な機器については、市場価格の安い時間帯に機器を使用するようにしてもよい。
【0088】
PVのみ有する世帯は、上述の買電入札に加えて、売電入札を実行する。PVのみ有する世帯は、各コマの余業電力量(発電量-宅内消費量)の予測値以下の量を売電入札する。売電入札の入札価格は、小売電気事業者の固定買取価格(例えば、6円/kWh)より高い価格である。
【0089】
PV及び蓄電池を有する世帯は、買電入札及び売電入札を実行する。PV及び蓄電池を有する世帯は、宅内消費量及び発電量に加えて、蓄電池の残量に基づいて、買電入札及び売電入札のコマ、入札量及び入札価格を決定する。
図8の例では、PV及び蓄電池を有する世帯は、早朝に蓄電池が満量になるように4円/kWhで買電入札を実行し、夕方以降に30円/kWhで蓄電池の残量の売電入札を実行することによって、利益を得る。
【0090】
約定部137は、入札部135による入札と、電力融通市場に参加しているユーザによる入札とに基づいて、電力の売買を約定させる。すなわち、約定部137は、入札部135が出力したコマごとの入札価格及び入札量と、入札価格取得部136が取得した各世帯のコマごとの入札価格及び入札量とに基づいて、既知の約定方法を用いて約定量及び約定価格を決定する。約定部137は、決定した約定量及び約定価格を含む約定結果を、買い手端末2及び売り手端末3に送信するとともに、記憶部12に記憶させる。これにより、電力売買支援装置1は、電力融通市場に介入して電力売買を約定させることできる。
【0091】
図9は、入札介入後に予測部132が改めて予測した例示的な実績値のグラフを示す図である。
図9は、需要量及び供給量それぞれについて、計画値及び予測した実績値のグラフを含む。
図9のグラフにおいて、横軸は時刻を表し、縦軸は電力量を表している。
図6のグラフと比較して、
図9のグラフでは早朝の予測需要量が増加しており、夕方以降の予測供給量が増加している。
【0092】
図10は、入札介入後に予測部132が改めて予測した例示的なインバランス量及びインバランス単価のグラフを示す図である。
図10は、需要量及び供給量それぞれのインバランス量のグラフと、インバランス単価のグラフとを含む。
図10のグラフにおいて、横軸は時刻を表し、縦軸はインバランス量又はインバランス単価を表している。
図7のグラフと比較して、インバランス単価の高い夕方以降には余剰インバランス(正の値のインバランス量)が発生している。小売電気事業者は、夕方以降の余剰インバランスについて、インバランス量にインバランス単価を乗算した料金を送配電事業者から受け取ることができる。
【0093】
図10の状況では、小売電気事業者は、需要インバランス精算コストとして約2213万円を送配電事業者に支払い、供給インバランス精算コストとして約113万円を送配電事業者から受領し、差し引き約2099万円を送配電事業者に支払うことになる。
図7の状況では、小売電気事業者は約3749万円を送配電事業者に支払う見込みであったため、電力売買支援装置1による入札介入により、インバランス精算コストを約1650万円削減できたことを意味する。これにより、小売電気事業者において、計画値に対して実績値が不足する場合の収益が改善される。
【0094】
小売電気事業者と各世帯(需要家)の収支の関係について補足する。小売電気事業者とその顧客である各世帯を1つの集合として考えると、当該集合と外部(送配電事業者、外部の電力取引所等)との費用のやり取りにより、当該集合の収支が決まる。インバランス精算コストは外部との費用のやり取りであるため、インバランス精算コストの低減は、この集合の収支の改善、すなわち小売電気事業者と各世帯の収支の合計を改善することを意味する。そのため、収支の改善分を小売電気事業者及び各世帯の両者でシェアすることによって両者にメリットが生じる。
【0095】
一方、小売電気事業者(すなわち、電力売買支援装置1)が世帯間の電力融通市場に参加すると、小売電気事業者と各世帯との間で費用のやり取りが発生する。ここで、電力売買支援装置1は低価格での売電入札と高価格での買電入札とを行うため、小売電気事業者の利益が減少し、各世帯の利益のみが増加してしまう場合がある。このような場合に小売電気事業者の利益を確保するために、小売電気事業者及び各世帯の集合全体の収支の改善分を、小売電気事業者及び各世帯でシェアすること(例えば、電力融通の取引手数料や電力融通の月額利用料等を各世帯から徴収すること)によって、小売電気事業者及び各世帯の両者の利益を増加させることができる。
【0096】
[実施形態の効果]
このように、電力売買支援装置1は、不足インバランスによるインバランス精算コストを低減する場合、インバランス単価が同日中では比較的低いと予測される当日午前中(損失前期間)には、各世帯における買電入札と蓄電池への充電を促進するように、低価格での売電入札の第1入札条件を決定し、入札をする。一方、電力売買支援装置1は、インバランス単価が比較的高いと予測される夕方以降(損失期間)には、各世帯における蓄電池からの放電や電力使用量のタイムシフトを促進するように、高価格での買電入札の第2入札条件を決定し、入札をする。
【0097】
これにより、電力売買支援装置1は、各世帯にインバランス単価が小さい時間帯に買電してインバランス単価が大きい時間帯に売電するように電力融通市場に介入し、小売電気事業者が送配電事業者に支払うインバランス精算コスト(すなわち、損失)を小さくすることができる。したがって、電力売買支援装置1は、電力の需給量の計画値と実績値との間に差が発生した状況において、電力を売買する市場を管理する小売電気事業者の収益を改善できる。
【0098】
例えば、電力の価値が高い日時(すなわち、需要が大きい日時)における調達量の実績値が計画値よりも大きくなると、小売電気事業者は高いインバランス単価で送配電事業者から電力を調達する必要がある。一方、電力の価値が低い日時(すなわち、供給が大きい日時)における供給量の実績値が計画値よりも大きくなると、小売電気事業者は低いインバランス単価で送配電事業者に対して電力を供給する必要がある。このような場合であっても、電力売買支援装置1は、電力融通市場への売買入札を通して、各世帯の需要家の電力消費や蓄電池の充放電を間接的に制御することによって、インバランス精算コストを低減することができる。
【0099】
[変形例]
以上、計画値に対して実績値が不足する不足インバランスの場合を説明したが、電力売買支援装置1は、計画値に対して実績値が過剰になる余剰インバランスの場合にも適用できる。本変形例では、不足インバランスの場合の処理に対する余剰インバランスの場合の処理の相違点について主に説明する。
【0100】
以下、計画時点の天気予報が曇りだったのに対して、当日0時時点の天気予報が晴天に変化したことによって、余剰インバランスが想定されるシナリオについて説明する。電力売買支援装置1において、計画策定部131は、電力の実需給前の所定の時刻(例えば、対象日の前日12時)に、対象日における電力の需給量の計画値を予測し、送配電事業者に提出する。天気予報が曇りであるため、PVの発電量が非常に低いことを示す計画値が予測される。
【0101】
予測部132は、計画策定部131が対象日の計画値を提出した後の所定の時刻(例えば、対象日の当日0時)に、インバランス精算コストを予測する。当日0時時点の天気予報では曇りから晴天に変化したため、PVの発電量が増加することにより需要量(順潮流電力量)が低下し、余剰電力の供給量(逆潮流電力量)が増加するため、需要量及び供給量の両方で余剰インバランスが発生する。
【0102】
予測部132は、宅内消費量、発電量及び蓄電池の空き容量の予測値に基づいて余剰インバランスのインバランス量を予測するとともに、外部市場情報、過去のインバランス単価の履歴及び対象日の天気予報に基づいて余剰インバランスのインバランス単価を予測する。電力系統全体で余剰電力が大きい場合、電力の価値が低くなるため、インバランス単価は非常に低い価格帯になると想定される。特にPVの発電量の出力規制が送配電事業者より発せられる場合に、インバランス単価は0円/kWhになる場合がある。
【0103】
特定部133は、予測部132が予測したインバランス量及びインバランス単価の関係に基づいて電力融通市場に入札するか否かを判定し、入札すると判定した場合(例えば、インバランス低減効果が所定の閾値より大きい場合)に、入札をする期間を特定する。特定部133は、例えば、1日のうちでインバランス単価が最低の期間を含む期間を損失期間として特定する。また、特定部133は、例えば、損失期間が含まれる日において、損失期間よりも前の期間であって、インバランス単価が最高の期間を含む期間を損失前期間として特定する。
【0104】
入札条件決定部134は、入札条件として、損失前期間において第1電力単価で電力を買う(買電する)ための第1入札条件と、損失期間において第1電力単価よりも低い第2電力単価で電力を売る(売電する)ための第2入札条件と、を決定する。第1電力単価は、例えば、電力融通市場における電力単価よりも高い価格(例えば、30円/kWh)である。これにより、電力売買支援装置1は、各世帯が、インバランス単価が比較的高い時間帯に蓄電池を放電して買電し、インバランス単価が0円/kWhになる前に蓄電池の空き容量を増やすことを促進する。
【0105】
第2電力単価は、例えば、損失期間における電力融通市場における電力単価よりも低い価格(例えば、4円/kWh)である。これにより、電力売買支援装置1は、各世帯が、損失期間に充電池を放電して売電することを避け、蓄電池に充電することを促進する。
【0106】
このように、本変形例に係る電力売買支援装置1は、余剰インバランスによるインバランス精算コストを低減する場合、インバランス単価が同日中では比較的高いと予測される損失前期間には、各世帯における売電入札と蓄電池の放電を促進するように、高価格での買電入札の第1入札条件を決定し、入札をする。一方、電力売買支援装置1は、インバランス単価が比較的低いと予測される損失期間には、各世帯における蓄電池からの放電を抑制するように、低価格での売電入札の第2入札条件を決定し、入札をする。
【0107】
これにより、電力売買支援装置1は、インバランス単価が0円/kWhの時間帯の余剰インバランス量を低減し、インバランス単価が比較的高い時間帯の余剰インバランス量を増加させることで、余剰インバランスによるインバランス精算コストの受領金額を増加させることができる。したがって、電力売買支援装置1は、電力の需給量の計画値と実績値との間に差が発生した状況において、電力を売買する市場を管理する小売電気事業者の収益を改善できる。
【0108】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0109】
1 電力売買支援装置
13 制御部
131 計画策定部
132 予測部
133 特定部
134 入札条件決定部
135 入札部
136 入札価格取得部
137 約定部