(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】セルロース誘導体粒子、化粧品組成物及びセルロース誘導体粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230605BHJP
C08B 3/06 20060101ALI20230605BHJP
C08B 3/10 20060101ALI20230605BHJP
C08B 3/16 20060101ALI20230605BHJP
C08B 11/02 20060101ALI20230605BHJP
C08B 11/193 20060101ALI20230605BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20230605BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20230605BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230605BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEP
C08B3/06
C08B3/10
C08B3/16
C08B11/02
C08B11/193
C08L1/10
C08K5/103
A61K8/73
A61Q1/12
(21)【出願番号】P 2022095962
(22)【出願日】2022-06-14
(62)【分割の表示】P 2019054171の分割
【原出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 慧子
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅也
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-021119(JP,A)
【文献】特開2009-137806(JP,A)
【文献】特開2004-059611(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
99/00
C08B 1/00- 37/18
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が2以上のアルコキシ基、又は炭素数が3以上のアシル基を有するセルロース誘導体粒子であって、
前記セルロース誘導体粒子は、平均粒子径が80nm以上100μm以下、真球度が70%以上100%以下、表面平滑度が80%以上100%以下、及び、嵩比重が0.5以上0.9以下であり、
前記セルロース誘導体の総置換度が0.7以上3以下である、セルロース誘導体粒子。
【請求項2】
前記セルロース誘導体の総置換度が2.0以上2.6未満である、請求項1に記載のセルロース誘導体粒子。
【請求項3】
前記アシル基の炭素数が3以上18以下である、請求項1又は2に記載のセルロース誘導体粒子。
【請求項4】
前記アルコキシ基の炭素数が2以上8以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース誘導体粒子。
【請求項5】
真比重が1.04以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース誘導体粒子。
【請求項6】
前記セルロース誘導体粒子が可塑剤を含有し、
前記可塑剤の含有量が、前記セルロース誘導体粒子の重量に対し、0重量%を超え40重量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロース誘導体粒子。
【請求項7】
前記可塑剤がグリセリンエステル系可塑剤である、請求項6に記載のセルロース誘導体粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース誘導体粒子を含有する、化粧品組成物。
【請求項9】
総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と水溶性高分子とを200℃以上280℃以下で混練して、前記セルロース誘導体を分散質とする分散体を得る工程、及び
前記分散体から前記水溶性高分子を除去する工程を含む、請求項1~7のいずれかに記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【請求項10】
前記総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体が、可塑剤が含浸したセルロース誘導体であり、
前記可塑剤が含浸したセルロース誘導体は、前記総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と前記可塑剤とを、20℃以上200℃未満の範囲で溶融混練したものである、請求項9に記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【請求項11】
前記可塑剤がグリセリンエステル系可塑剤である、請求項10に記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【請求項12】
前記可塑剤がトリアセチンである、請求項10に記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【請求項13】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールまたは熱可塑性デンプンである、請求項9~12のいずれか1項に記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【請求項14】
前記分散体と溶媒とを混合して、前記水溶性高分子を溶媒に溶解することにより、前記分散体から前記水溶性高分子を除去する、請求項9~13のいずれか1項に記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【請求項15】
前記分散体と溶媒との混合比率が、前記分散体及び溶媒の合計重量に対し前記分散体が0.01重量%以上20重量%以下である、請求項14に記載のセルロース誘導体粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体粒子、化粧品組成物及びセルロース誘導体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用途に応じた様々な高分子の微粒子が提案されてきた。例えば、化粧品に含有される微粒子としてもその目的は様々である。化粧品に微粒子を含有する目的は、化粧品ののびを向上する、触感に変化を与える、シワぼかし効果を付与する、またファンデーションなどの滑り性を向上すること等である。
【0003】
特に真球度が高い微粒子は、触感に優れ、また、その物性や形状によって光散乱(ソフトフォーカス)効果が得られる。そして、このような微粒子をファンデーションなどに用いた場合には、肌の凹凸を埋めて滑らかにし、光を様々な方向に散乱させることでしわなどを目立ちにくくする(ソフトフォーカス)効果が期待できる。
【0004】
このような化粧品の目的及び効果のため、化粧品に配合する微粒子は、粒度分布が狭く、真球度が高い微粒子であることが必要とされ、このような微粒子として、ナイロン12などのポリアミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、及びポリエチレン(PE)等の合成ポリマーからなる微粒子が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの合成ポリマーの内、PP及びPE等からなる微粒子は、比重が1以下と軽く、粒子径もあまりに小さすぎることから、水に浮きやすく、排水処理施設では除去できない場合があり、そのまま川やさらに川を通して海に流れ込むことがある。このため海洋等がこれらの合成ポリマーからなる微粒子で汚染されるという問題がある。さらに、合成ポリマーの中でもPSからなる微粒子は、主な可塑剤としてジオクチルフタレートのようなフタル酸エステル系可塑剤を含有している。フタル酸エステル系可塑剤には環境ホルモンの疑いがあるものもあり、海洋に流出するのは好ましくない。
【0006】
さらに、これらの合成ポリマーからなる微粒子は、環境中の微量の化学汚染物質を吸着する性質があるため、その化学汚染物質を吸着した微粒子をプランクトンや魚が飲み込むことで、人体へも悪影響を及ぼす可能性が生じる等、様々な影響を与えることが懸念されている。
【0007】
このような懸念から、多様な用途に用いられている合成ポリマーの微粒子を、他の粒子に代替しようとする試みがなされている。
【0008】
セルロース又はセルロース誘導体は、食料や飼料と競合しない、木材や綿花等の天然素材から得ることができる点で優れる。このため、合成ポリマーの微粒子を、天然ポリマーであるセルロース又は半合成ポリマーであるセルロース誘導体の微粒子に代替することができれば有益である。しかしながら、合成ポリマーの微粒子の製造方法を適用できるポリマーは限定され、セルロース又はセルロース誘導体の微粒子の製造に適用することは困難である。
【0009】
特許文献1には、多糖合成から多糖エステル生成物を形成する工程であって、前記多糖エステル生成物が多糖エステル及び溶媒を含む工程;前記多糖エステル生成物を希釈して、それによって多糖エステルドープをもたらす工程;及び前記多糖エステルドープから複数の多糖エステルミクロスフェアを形成する工程;を含む方法が記載され、多糖エステルミクロスフェアを含むことができる物品として化粧品組成物が挙げられている。
【0010】
特許文献2には、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した体積平均粒径D50が、72μm以上100μm以下であり、重合度が131以上350以下であり、置換度が2.1以上2.6以下である、セルロースアシレートについて記載され、また、その製造方法について、硫酸の存在下でセルロースをアシル化するアシル化工程と、極性溶媒中、酢酸の存在下で前記アシル化したセルロースを脱アシル化する脱アシル化工程と、を有するセルロースアシレートの製造方法であることが好ましいと記載されている。
【0011】
特許文献3には、熱可塑性樹脂などの樹脂成分(A)と、水溶性助剤成分(B)とを混練して分散体を調製し、この分散体から助剤成分(B)を溶出し、樹脂成分(A)で構成された成形体(例えば、多孔体、球状粒子)を製造すること、また、樹脂成分(A)として、セルロースアセテート等のセルロース誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2016-500129号公報
【文献】特許6187653号公報
【文献】特開2004-051942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1の多糖エステルミクロスフェアは、粒子径が大きく、粒径分布もブロードな多孔質の粒子であり、化粧品等に配合する合成ポリマーの微粒子の代替としては十分ではない。また、特許文献2に記載される製造方法により得られるセルロースアシレートも不定形で多孔質の粒子である。さらに、特許文献3に記載される製造方法により得られる粒子状の成形体も、真球度が低く、略球状という程度の粒子である。そのため、従来の微粒子は、触感に劣る。
【0014】
本発明は、セルロース誘導体の半合成ポリマーを含有し、触感に優れた微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一は、炭素数が2以上のアルコキシ基、又は炭素数が3以上のアシル基を有するセルロース誘導体粒子であって、前記セルロース誘導体粒子は、平均粒子径が80nm以上100μm以下、及び真球度が70%以上100%以下、表面平滑度が80%以上100%以下であり、前記セルロース誘導体の総置換度が0.7以上3以下である、セルロース誘導体粒子に関する。
【0016】
前記セルロース誘導体粒子において、前記セルロース誘導体の総置換度が2.0以上2.6未満であってよい。
【0017】
前記セルロース誘導体粒子において、前記アシル基の炭素数が3以上18以下であってよい。
【0018】
前記セルロース誘導体粒子において、前記アルコキシ基の炭素数が2以上8以下であってよい。
【0019】
前記セルロース誘導体粒子において、真比重が1.04以上であってよい。
【0020】
前記セルロース誘導体粒子において、セルロース誘導体粒子が可塑剤を含有し、前記可塑剤の含有量が、前記セルロース誘導体粒子の重量に対し、0重量%を超え40重量%以下であってよい。
【0021】
前記セルロース誘導体粒子において、前記可塑剤がグリセリンエステル系可塑剤であってよい。
【0022】
本発明の第二は、セルロース誘導体粒子を含有する、化粧品組成物に関する。
【0023】
本発明の第三は、総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と水溶性高分子とを200℃以上280℃以下で混練して、前記セルロース誘導体を分散質とする分散体を得る工程、及び前記分散体から前記水溶性高分子を除去する工程を含む、セルロース誘導体粒子の製造方法に関する。
【0024】
前記セルロース誘導体粒子の製造方法において、前記総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体が、可塑剤が含浸したセルロース誘導体であり、前記可塑剤が含浸したセルロース誘導体は、前記総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と前記可塑剤とを、20℃以上200℃未満の範囲で溶融混練したものであってよい。
【0025】
前記セルロース誘導体粒子の製造方法において、前記可塑剤がグリセリンエステル系可塑剤であってよい。
【0026】
前記セルロース誘導体粒子の製造方法において、前記可塑剤がトリアセチンであってよい。
【0027】
前記セルロース誘導体粒子の製造方法において、前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールまたは熱可塑性デンプンであってよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、セルロース誘導体の半合成ポリマーを含有し、触感に優れた微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】表面平滑度(%)の評価方法を説明する図面である。
【
図2】表面平滑度(%)の評価方法を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[セルロース誘導体粒子]
本開示のセルロース誘導体粒子は、炭素数が2以上のアルコキシ基、又は炭素数が3以上のアシル基を有するセルロース誘導体粒子であって、前記セルロース誘導体粒子は、平均粒子径が80nm以上100μm以下、及び真球度が70%以上100%以下、表面平滑度が80%以上100%以下であり、前記セルロース誘導体の総置換度が0.7以上3以下である。
【0031】
セルロース誘導体粒子が炭素数が2以上のアルコキシ基を有する場合について述べる。そのアルコキシ基の炭素数は2以上であれば、特に限定されるものではないが、3以上であってよく、5以上であってよい。また、20以下であってよく、8以下が好ましい。
【0032】
また、セルロース誘導体粒子は、炭素数が2以上のアルコキシ基及び炭素数が1のアルコキシ基(メトキシ基)の両方を有してよい。
【0033】
炭素数が2以上のアルコキシ基としては、例えば、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、及びオクトキシ基等が挙げられる。
【0034】
セルロース誘導体粒子が炭素数が3以上のアシル基を有する場合について述べる。そのアシル基の炭素数は3以上であれば、特に限定されるものではないが、4以上であってよく、10以上であってよく、14以上であってよい。また、40以下であってよく、18以下が好ましい。アシル基の炭素数が多くなるほどセルロース誘導体粒子の柔軟性は増す。
【0035】
また、セルロース誘導体粒子は、炭素数が3以上のアシル基及び炭素数が2のアシル基(アセチル基)の両方を有してよい。
【0036】
炭素数が3以上のアシル基としては、例えば、プロピオニル基、ブチリル基、ぺンタノィル(バレリル)基、へキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル(ミリストイル)基、ペンタデカノイル基、へキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、及びオクタデカノイル(ステアロイル)基等が挙げられる。
【0037】
本開示のセルロース誘導体粒子の平均粒子径は、80nm以上100μm以下であるところ、その平均粒子径は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、4μm以上であってよい。また、80μm以下であってよく、40μm以下であってよく、20μm以下であってよく、14μm以下であってよい。平均粒子径が大きすぎると、その触感に劣る他、光散乱(ソフトフォーカス)効果が低減する。また、平均粒子径が小さすぎると、製造が困難となる。なお、触感としては、セルロース誘導体粒子に直接触れる場合の他、例えば、化粧品組成物に配合した場合の肌触りや触感が挙げられる。
【0038】
平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定することができる。具体的には、以下のとおりである。まず、100ppm濃度のセルロース誘導体粒子を、超音波振動装置を用いて純水懸濁液とすることにより、試料を調製する。その後、レーザー回折法(株式会社堀場製作所「レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960」、超音波処理15分、屈折率(1.500、媒体(水;1.333))により、体積頻度粒度分布を測定することにより平均粒子径を測定することができる。なお、ここでいう平均粒子径とは、この粒度分布における散乱強度の積算50%に対応する粒子径の値のことをいう。
【0039】
本開示のセルロース誘導体粒子の粒子径変動係数は、0%以上60%以下であってよく、2%以上50%以下であってよい。
【0040】
粒子径変動係数(%)は、粒子径の標準偏差/平均粒子径×100によって算出できる。
【0041】
本開示のセルロース誘導体粒子の真球度は、70%以上100%以下であるところ、80%以上100%以下が好ましく、90%以上100%以下がより好ましく、95%以上100%以下がさらに好ましい。70%未満であると、その触感に劣り、例えば、化粧品組成物に配合した場合にも、肌触り及びソフトフォーカス効果が低下する。
【0042】
真球度は、次の方法により測定できる。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の画像を用いて、ランダムに選択した30個の粒子の長径と短径を測定し、各粒子の短径/長径比を求め、その短径/長径比の平均値を真球度(%)とする。なお、真球度が100%に近いほど真球であると判断できる。
【0043】
本開示のセルロース誘導体粒子の表面平滑度は、80%以上100%以下であるところ、85%以上100%以下が好ましく、90%以上100%以下がより好ましい。80%未満であると、その触感に劣る。100%により近い方が触感的に好ましい。
【0044】
表面平滑度は、粒子の走査型電子顕微鏡写真を撮り、粒子表面の凹凸を観察し、凹部の面積に基づいて求めることができる。
【0045】
本開示のセルロース誘導体粒子のセルロース誘導体は、総置換度が0.7以上3以下であるところ、1.0以上3以下が好ましく、1.4以上3以下がより好ましく、2.0以上3以下がさらに好ましい。成形性に優れ、真球度が高い球状粒子の製造が容易なためである。
【0046】
総置換度が0.7未満であると水溶性が高くなり、後述するセルロース誘導体粒子の製造における粒子を抽出する工程、特に分散体から水溶性高分子を除去する工程において、セルロース誘導体が溶出しやすく、得られる粒子の真球度が低下する場合があり、そのため触感に劣る場合がある。なお、3により近い方がセルロース誘導体粒子の生分解性に劣る。
【0047】
セルロース誘導体の総置換度は、以下の方法により測定できる。まず、セルロース誘導体の総置換度とは、セルロース誘導体のグルコース環の2,3,6位の各置換度の和であり、セルロース誘導体のグルコース環の2,3,6位の各置換度は、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、セルロース誘導体の遊離水酸基をピリジン中でカルボン酸無水物によりアシル化する。ここで使用するカルボン酸無水物の種類は分析目的に応じて選択すべきであり、例えば、セルロースアセテートプロピオネートのプロピオニル置換度を分析する場合は無水酢酸が良く、アセチル置換度を分析する場合は無水プロピオン酸がよい。アシル化反応の溶媒及び酸無水物は分析対象のセルロース誘導体に応じて適宜選択すればよい。
【0048】
アシル化して得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定する。置換基がアセチル基、プロピオニル基、またはブチリル基である場合を例に挙げれば、アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で、ブチリル基の炭素シグナルは、171ppmから173ppmの領域に同様に高磁場側から2位、3位、6位の順序で現れる。他の例を挙げれば、プロピオニル基を有するセルロース誘導体か、または、プロピオニル基を有しないセルロース誘導体を分析目的で無水プロピオン酸で処理し、プロピオニル置換度を分析する場合は、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。
【0049】
手塚の方法やそれに準じる方法で無水カルボン酸で処理したセルロース誘導体の総置換度は3.0なので、セルロース誘導体がもともと有するアシル基のカルボニル炭素シグナルと、無水カルボン酸処理で導入したアシル基のカルボニルシグナルの面積の総和を3.0と規格化し、それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比(各シグナルの面積比)を求めれば、元のセルロース誘導体におけるグルコース環の2,3,6位の各アシル置換度を求めることができる。なお、言うまでもなく、この方法で分析できるアシル基を含む置換基は、分析目的の処理に用いる無水カルボン酸に対応しない置換基のみである。
【0050】
ただし、試料であるセルロース誘導体のグルコース環の2位、3位及び6位の総置換度が3.0であり、かつその置換基が全てアセチル基及びプロピオニル基等の限定的な置換基であることが予め把握される場合には、アシル化の工程を除き、試料を直接重クロロホルムに溶解してNMRスペクトルを測定することもできる。置換基が全てアセチル基及びプロピオニル基であれば、アシル化の工程を含む場合と同様に、アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、プロピオニル基の炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れるので、それぞれ対応する位置でのアセチル基及びプロピオニル基の存在比(言い換えれば、各シグナルの面積比)から、セルロース誘導体におけるグルコース環の2位、3位、6位の各アセチル及びプロピオニル置換度等の置換度を求めることができる。
【0051】
本開示のセルロース誘導体粒子は、嵩比重が0.1以上0.9以下であってよく、0.5以上0.9以下であってよく、0.6以上0.9以下であってよい。例えば、その粒子を化粧品に配合した場合、粒子の嵩比重が高い程、その化粧品組成物の流動性が良くなる。嵩比重は、JIS K 1201-1に準拠した方法により測定することができる。
【0052】
本開示のセルロース誘導体粒子は、真比重が1を超えることが好ましく、1.04以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましく、1.2以上が最も好ましい。セルロース誘導体微粒子の真球度を70%以上とする観点からは、1.35以下であってよい。真比重は、JIS Z 8807-1976「固体比重測定方法」の2.比重びんによる測定方法(液体:水)により測定することができる。
【0053】
真比重は、4℃の水の密度:0.999973g/cm-3とを基準とした比重である。
【0054】
本開示のセルロース誘導体粒子は可塑剤を含有してよく、含有しなくてもよい。本開示において可塑剤とは、セルロース誘導体の可塑性を増加させることができる化合物をいう。可塑剤は、特に限定されるものではなく、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソステアリル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジエチルヘキシルアジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジオクチルドデシル、アジピン酸ジカプリル、及びアジピン酸ジヘキシルデシル等のアジピン酸エステルを含むアジピン酸系可塑剤;クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸イソデシル、クエン酸イソプロピル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリエチルヘキシル、及びクエン酸トリブチル等のクエン酸エステルを含むクエン酸系可塑剤;グルタル酸ジイソブチル、グルタル酸ジオクチル、及びグルタル酸ジメチル等のグルタル酸エステルを含むグルタル酸系可塑剤;コハク酸ジイソブチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジエチルヘキシル、及びコハク酸ジオクチル等のコハク酸エステルを含むコハク酸系可塑剤;セバシン酸ジイソアミル、セバシン酸ジイソオクチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジエチルヘキシル、及びセバシン酸ジオクチル等のセバシン酸エステルを含むセバシン酸系可塑剤;トリアセチン、ジアセチン、及びモノアセチン等のグリセリンアルキルエステルを含むグリセリンエステル系可塑剤;ネオペンチルグリコール;並びにリン酸トリオレイル、リン酸トリステアリル、及びリン酸トリセチル等のリン酸エステルを含むリン酸系可塑剤が挙げられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2以上の可塑剤を組み合せて用いてもよい。
【0055】
これらの中でも、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステルを含むクエン酸系可塑剤;トリアセチン、ジアセチン、及びモノアセチン等のグリセリンアルキルエステルを含むグリセリンエステル系可塑剤;並びにアジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸系可塑剤からなる群より選択される少なくとも1以上が好ましく、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、トリアセチン、及びアジピン酸ジイソノニルからなる群より選択される少なくとも1以上がより好ましく、クエン酸アセチルトリエチル、トリアセチン、及びジアセチンからなる群より選択される少なくとも1以上がさらに好ましい。フタル酸系可塑剤は使用可能ではあるが、環境ホルモンとの類似性が懸念されるため使用には注意が必要である。
【0056】
セルロース誘導体粒子が可塑剤を含有する場合、セルロース誘導体粒子に含まれる可塑剤の含有量は、特に限定されない。例えば、セルロース誘導体粒子の重量に対し、0重量%を超え40重量%以下であってよく、0.01重量%以上40重量%以下であってよく、0.05重量%以上35重量%以下であってよく、0.1重量%以上30重量%以下であってよく、0.4重量%以上20重量%以下であってよく、0.4重量%以上15重量%以下であってよく、0.4重量%以上10重量%以下であってよく、0.4重量%以上5重量%以下であってよく、0.4重量%以上2.5重量%以下であってよい。可塑剤の含有量は少ない方がよいが、多く存在しても本発明の目的を損なわない限り許容される。
【0057】
セルロース誘導体粒子における可塑剤の含有量は、セルロース誘導体粒子を溶解できる溶媒にセルロース誘導体粒子を溶解して、その溶液を1H-NMR測定によって求められる。
【0058】
本開示のセルロース誘導体粒子は、後述の製造方法により製造することができる。
【0059】
本開示のセルロース誘導体粒子は、触感に優れることから、例えば、化粧品組成物に好適に用いることができる。また、高い真球度を有することから、化粧品組成物に配合すれば、肌の凹凸を埋めて滑らかにし、光を様々な方向に散乱させることでしわなどを目立ちにくくする(ソフトフォーカス)効果が得られる。
【0060】
化粧品組成物としては、リキッドファンデーション及びパウダーファンデーション等のファンデーション;コンシーラー;日焼け止め;化粧下地;口紅及び口紅用下地;ボディパウダー、固形白粉、及びフェイスパウダー等のおしろい:固形粉末アイシャドー;皺隠しクリーム;並びにスキンケアローション等の主に化粧を目的とした皮膚及び毛外用剤が含まれ、その剤型は限定されない。剤型としては、水溶液、乳液、懸濁液等の液剤;ゲル及びクリーム等の半固形剤;粉末、顆粒及び固形等の固形剤のいずれあってもよい。また、クリームや乳液等のエマルション剤型;口紅等のオイルゲル剤型;ファンデーション等のパウダー剤型;及びヘアスタイリング剤等のエアゾール剤型等であってもよい。
【0061】
本開示のセルロース誘導体粒子を含有する化粧品組成物、特に、リキッドファンデーションは、肌への伸び、シミやソバカスのカバー力、及び滑り性にも優れる。
【0062】
[セルロース誘導体粒子の製造方法]
本開示のセルロース誘導体粒子の製造方法は、総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と水溶性高分子とを200℃以上280℃以下で混練して、前記セルロース誘導体を分散質とする分散体を得る工程、及び前記分散体から前記水溶性高分子を除去する工程を含む。
【0063】
(分散体を得る工程)
分散体を得る工程においては、総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と水溶性高分子とを200℃以上280℃以下で混練して、前記セルロース誘導体を分散質とする分散体を得る。
【0064】
前記セルロース誘導体と水溶性高分子との混練は、二軸押出機等の押出機で行うことができる。混練の温度は、シリンダー温度をいう。
【0065】
二軸押出機等の押出機の先端に取り付けたダイスから分散体をひも状に押出した後、カットしてペレットにしてもよい。このときダイス温度は、220℃以上300℃以下であってよい。
【0066】
上記セルロースアセテートの総置換度は、0.7以上3以下であるところ、1.0以上3以下が好ましく、1.4以上3以下がより好ましく、2.0以上3以下がさらに好ましい。総置換度の調整は、熟成工程の条件(時間や温度等の条件)を調整することにより可能となる。
【0067】
水溶性高分子の配合量は、セルロース誘導体及び水溶性高分子の合計量100重量部に対し、55重量部以上99重量部以下であってよい。好ましくは60重量部以上90重量部以下であり、更に好ましくは65重量部以上85重量部以下である。
【0068】
本明細書における水溶性高分子は、25℃において、高分子1gを100gの水に溶解した際に、不溶分が50重量%未満の高分子をいう。水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレンオキシド、ポリグリセリン、ポロエチレンオキシド、酢酸ビニル、変性デンプン、熱可塑性デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。これらの中でもポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び熱可塑性デンプンが好ましく、ポリビニルアルコール及び熱可塑性デンプンが特に好ましい。なお、熱可塑性デンプンは、公知の方法で得ることができる。例えば、特公平6-6307号、WO92/
04408号などが参照でき、さらに具体的には、例えば、タピオカデンプンに可塑剤としてグリセリンを20%程度混合し、二軸押し出し機で混錬したものなどが利用できる。
【0069】
得られる分散体は、水溶性高分子を分散媒、前記セルロース誘導体を分散質とする分散体である。言い換えれば、水溶性高分子を海成分、前記セルロース誘導体を島成分とする構成であってよい。分散体において、島成分を構成する前記混錬物は、セルロース誘導体を含有し、主に球状である。
【0070】
置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体は、公知の誘導体の製造方法により製造できる。セルロース誘導体がセルロースエステルの場合、例えば、原料パルプ(セルロース)を活性化する工程;活性化されたセルロースをエステル化剤(アシル化剤)でアシル化する工程;アシル化反応の終了後、アシル化剤を失活させる工程;生成したセルロースアシレートを熟成(ケン化、加水分解)する工程を経て製造できる。また、活性化する工程の前に、原料パルプを、離解・解砕後、酢酸を散布混合する前処理工程を有してよい。熟成(ケン化、加水分解)する工程の後、沈澱分離、精製、安定化、乾燥する後処理工程を有してよい。
【0071】
また、セルロース誘導体がセルロースエーテルの場合、イソプロピルアルコール(IPA)や第3級ブタノール(TBA)等の低級脂肪族アルコール、水、及び水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の混合液に原料パルプ(セルロース)を浸漬して、セルロースエーテルの前駆体となるアルカリセルロースを得る工程;及び、さらにエーテル化剤を添加し、スラリー化(沈殿化)する工程を経て製造できる。また、アルカリセルロースを得る工程の前に、原料パルプを、離解・解砕後、酢酸を散布混合する前処理工程を有してよい。スラリー化(沈殿化)する工程の後、沈澱分離、精製、安定化、乾燥する後処理工程を有してよい。
【0072】
(水溶性高分子を除去する工程)
前記分散体から水溶性高分子を除去する工程について述べる。
【0073】
水溶性高分子を除去する方法としては、水溶性高分子を溶解し当該粒子から除去することができれば、特に限定されるものではないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;または、それらの混合溶液等の溶媒を用いて前記分散体の水溶性高分子を溶解して除去する方法が挙げられる。具体的には、例えば、前記分散体と前記溶媒とを混合し、ろ過してろ物を取り出すこと等によって、分散体から水溶性高分子を除去する方法が挙げられる。
【0074】
後述のとおり、分散体を得る工程の前に、総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と可塑剤とを混合して、前記可塑剤が含浸したセルロース誘導体を調製する場合、分散体から水溶性高分子を除去する工程において、可塑剤は、水溶性高分子と共に分散体から除去してよく、除去しなくてもよい。したがって、得られるセルロース誘導体粒子は可塑剤を含有してよく、含有しなくてもよい。
【0075】
分散体と溶媒との混合比率について、分散体及び溶媒の合計重量に対し分散体が0.01重量%以上20重量%以下が好ましく、2重量%以上15重量%以下がより好ましく、4重量%以上13重量%以下がさらに好ましい。分散体が20重量%よりも高い場合には、水溶性高分子の溶解が不十分となり洗浄除去できなくなったり、溶媒に溶解していないセルロース誘導体粒子と溶媒に溶解している水溶性高分子とをろ過や遠心分離等の操作で分離するのが困難となる。
【0076】
分散体と溶媒との混合温度は、0℃以上200℃以下が好ましく、20℃以上110℃以下がより好ましく、40℃以上80℃以下がさらに好ましい。0℃より低温では、水溶性高分子の溶解性が不十分となり洗浄除去が困難となり、200℃を超える温度では、粒子の変形や凝集等が発生し、所望の粒子の形状を維持したまま、粒子を取り出すことが困難となる。
【0077】
分散体と溶媒との混合時間は、特に限定されるものではなく適宜調整すればよいが、例えば0.5時間以上、1時間以上、3時間以上、5時間以上であってよく、6時間以下であってよい。
【0078】
また、当該混合の方法として、水溶性高分子を溶解できれば限定されないが、例えば、超音波ホモジナイザー、スリーワンモータなどの攪拌装置を用いることで、室温でも効率よく、分散体から水溶性高分子を除去することができる。
【0079】
例えば、撹拌装置としてスリーワンモータを用いる場合、分散体と溶媒との混合時の回転数は、例えば、5rpm以上3000rpm以下であってよい。これにより、より効率よく、分散体から水溶性高分子を除去することができる。また、分散体から可塑剤を効率よく除去することにもなる。
【0080】
(任意工程:可塑剤が含浸したセルロース誘導体を得る工程)
前記総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体が、可塑剤が含浸したセルロース誘導体であってよく、前記分散体を得る工程の前に、総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と可塑剤とを混合して、前記可塑剤が含浸したセルロース誘導体を得る工程を有してよい。当該工程においては、総置換度が0.7以上3以下のセルロース誘導体と可塑剤とを混合する。
【0081】
可塑剤としては、セルロースア誘導体の溶融押出加工において可塑効果を有するものであれば特に限定無く使用することができ、具体的には、セルロース誘導体粒子に含有される可塑剤として例示した上記可塑剤を、単独または2以上の可塑剤を組み合せて使用することができる。
【0082】
例示した上記可塑剤の中でも、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステルを含むクエン酸系可塑剤;トリアセチン、ジアセチン、及びモノアセチン等のグリセリンアルキルエステルを含むグリセリンエステル系可塑剤;並びにアジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸系可塑剤からなる群より選択される少なくとも1以上が好ましく、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、トリアセチン、及びアジピン酸ジイソノニルからなる群より選択される少なくとも1以上がより好ましく、クエン酸アセチルトリエチル、トリアセチン、及びジアセチンからなる群より選択される少なくとも1以上がさらに好ましい。フタル酸系可塑剤は環境ホルモンとの類似性が懸念されるため使用には注意が必要である。
【0083】
可塑剤の配合量は、セルロース誘導体及び可塑剤の合計量100重量部に対し、0重量部を超え40重量部以下であってよく、2重量部以上40重量部以下であってよく、10重量部以上30重量部以下であってよく、15重量部以上20重量部以下であってよい。少なすぎると、得られるセルロース誘導体粒子の真球度が低下する傾向となり、多すぎると粒子の形状を保つことができず、真球度が低下する傾向となる。
【0084】
セルロースアセテート誘導体と可塑剤との混合は、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて乾式又は湿式で行うことができる。ヘンシェルミキサー等の混合機を用いる場合、混合機内の温度は、セルロース誘導体が溶融しない温度、例えば、20℃以上200℃未満の範囲としてよい。
【0085】
また、セルロース誘導体と可塑剤との混合は、溶融混練によって行ってもよい。そして、溶融混練は、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いた混合と組み合わせて行ってもよく、その場合、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて、温度条件20℃以上200℃未満の範囲で混合した後に、溶融混練を行うことが好ましい。可塑剤とセルロース誘導体とがより均一に、また短時間で馴染むことで、最終的に調製できるセルロース誘導体粒子の真球度が高くなり、触感、触り心地が良くなる。
【0086】
溶融混練は、押出機で加熱混合することにより行うことが好ましい。押出機の混練温度(シリンダー温度)は、200℃から230℃の範囲であってよい。この範囲の温度でも可塑化して均一な混練物を得ることができる。温度が低すぎると、得られる粒子の真球度が低下するため、触感、触り心地が低下し、温度が高すぎると、混練物の熱による変質や着色が起こることがある。また、溶融物の粘度が低下して、二軸押出機内での樹脂の混錬が不足する可能性がある。
【0087】
セルロース誘導体の融点は、置換度にもよるが、およそ230℃から280℃であり、セルロース誘導体の分解温度に近いため、通常は、この温度範囲では溶融混練は難しいが、可塑剤が含浸したセルロース誘導体(フレーク)は可塑化温度を低くできるためである。混練温度(シリンダー温度)としては、例えば二軸押出機を用いる場合200℃であってもよい。混練物はストランド状に押出し、ホットカットなどでペレット状の形状にすればよい。この場合のダイス温度としては220℃程度であってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0089】
(実施例A-1)
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製:CAP-482-0.5)100重量部と可塑剤としてトリアセチン10重量部とを液添装置付き二軸押出機(株式会社池貝製PCM30、シリンダー温度:200℃、ダイス温度:220℃)に供給し、溶融混練し、押し出してペレット化し、混練物とした。
【0090】
得られた混錬物のペレット30重量部と、水溶性高分子としてポリビニルアルコール(日本合成化学製:融点190℃、けん化度99.1%)70重量部とを乾燥状態でブレンドした後、二軸押出機(株式会社池貝製PCM30、シリンダー温度220℃、ダイス温度220℃)に供給し、押出して分散体を形成した。
【0091】
得られた分散体が5重量%(分散体の重量/(分散体の重量+純水の重量)×100)以下となるように純水(溶媒)と合せ、スリーワンモータ(新東科学社製BL-3000)を用いて、温度80℃、回転数100rpmで3時間攪拌した。攪拌後の溶液をろ紙(ADVANTEC製No.5A)でろ別し、ろ物を取り出した。取り出したろ物を再び純水を用いて分散体が5重量%以下となるように調製し、さらに温度80℃、回転数100rpmで3時間攪拌、ろ別し、ろ物を取り出す作業を3回以上繰り返し、セルロース誘導体粒子(セルロースアセテートプロピオネート粒子)を得た。得られたセルロース誘導体粒子の置換度は1H-NMRを測定することにより、総置換度は2.58(アセチル置換度0.18、プロピオニル置換度2.40)であることを確認した。
【0092】
得られたセルロース誘導体粒子の平均粒子径、粒子径変動係数、真球度、表面平滑度、嵩比重、可塑剤含有量、真比重、及び触感をそれぞれ測定及び評価した。結果は表1に示す。尚、各物性の測定及び評価は下記の方法で行った。
【0093】
<平均粒子径及び粒子径変動係数>
平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定した。まず、純水を用いサンプルを100ppm程度の濃度に調整し、超音波振動装置を用いて純水懸濁液とした。その後、レーザー回折法(株式会社堀場製作所「レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960」超音波処理15分、屈折率(1.500、媒体(水;1.333))により、体積頻度粒度分布を求め、平均粒子径を測定した。ここでいう平均粒子径(nm及びμm等)は、体積頻度粒度分布における散乱強度の積算50%に対応する粒子径の値とした。また、粒子径変動係数(%)は、粒子径の標準偏差/平均粒子径×100によって算出した。
【0094】
<真球度>
走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の画像を用いて、ランダムに選択した30個の粒子の長径と短径を測定し、各粒子の短径/長径比を求め、その短径/長径比の平均値を真球度とした。
【0095】
<表面平滑度>
粒子の2500~5000倍の走査型電子顕微鏡写真を撮り(セルロース誘導体粒子の顕微鏡写真の一例は、
図1参照)、画像処理装置Winroof(三谷商事社製)を用いて、画像を二値化した(
図1の顕微鏡写真を二値化した画像は
図2参照)。粒子1個の中心及び/又は中心付近を含む、粒子よりも小さい任意の領域(例えば、
図2を参照すれば、n1及びn2で示す領域)であってよい。また、その領域の大きさは、粒子径が15μmのとき5μm四方であってよい。当該領域における凹凸の凹に当たる部分(陰の部分)の面積率を算出し、以下の式によりその粒子1個の表面平滑度(%)を算出した。
粒子1個の表面平滑度(%)=(1-凹の面積率)×100
凹の面積率=前記任意の領域における凹部の面積/前記任意の領域
表面平滑度(%)はランダムに選択した10個の粒子サンプル、つまりn1~10まで表面平滑度の平均値とした。この数値が高いほど表面平滑度は高くなる。
【0096】
<嵩比重>
「JIS K 1201-1」に従い測定した。
【0097】
<可塑剤含有量>
1H-NMR測定によって可塑剤含有量(重量%)を測定した。
【0098】
<真比重>
JIS Z 8807-1976「固体比重測定方法」の2.比重びんによる測定方法(液体:水)により測定した。
【0099】
<触感>
粒子の触感について、20人のパネルテストにより官能評価を行なった。粒子に触れさせ、なめらかさ及びしっとり感の両方を総合的に、5点満点として、以下の基準により評価した。20人の平均点を算出した。
良い:5、やや良い:4、普通:3、やや悪い:2、悪い:1
【0100】
(実施例A-2)
可塑剤を添加せず、得られた混錬物のペレットを20重量部、ポリビニルアルコールを80重量部に変更した以外は、実施例A-1と同様にして、セルロース誘導体粒子)セルロースアセテートプロピオネート粒子)を得た。得られたセルロース誘導体粒子の置換度は1H-NMRを測定することにより、総置換度は2.58(アセチル置換度0.18、プロピオニル置換度2.40)であることを確認した。
【0101】
(実施例A-3)
セルロースアセテートプロピオネートをセルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル製:CAB-171-15)に変更した以外は、実施例A-2と同様にして、セルロース誘導体粒子(セルロースアセテートブチレート粒子)を得た。得られたセルロース誘導体粒子の置換度は1H-NMRを測定することにより、総置換度は2.75(アセチル置換度2.04、ブチリル置換度0.71)であることを確認した。
【0102】
(実施例A-4)
セルロースアセテートプロピオネートを下記合成方法で得られたセルロースステアレート(C18)に変更した以外は、実施例A-2と同様にして、セルロースステアレート粒子を得た。
【0103】
<セルロースステアレートの合成方法>
撹拌機、還流冷却器、温度計、及び滴下ロートを備えた100L反応槽に、セルロース486g、ピリジン30kgを加え、続いて、ステアリン酸クロライド3450gを加え、窒素雰囲気下、80℃~100℃の温度範囲に昇温し、12時間撹拌を継続して反応させた。
【0104】
反応終了後、反応混合液をメタノール90kgに投入し、目的の粗セルロース誘導体を析出させた。
【0105】
析出させた粗セルロース誘導体を濾別し、メタノールでの洗浄と濾別を3回繰り返した後、90℃で8時間真空乾燥することで、目的のセルロース誘導体粒子2120gを得た。得られたセルロース誘導体粒子(セルロースステアレート粒子)の置換度は1H-NMRを測定することにより3.0であることを確認した。
【0106】
(実施例A-5)
ステアリン酸クロライド3450gをミリスチン酸クロライド(C14H27COCl)2881gに変更した以外は、実施例A-4と同様にして、セルロース誘導体粒子(セルロースミリスチレート粒子)を得た。得られたセルロース誘導体粒子の重量は2211gであった、置換度は3.0であった。
【0107】
(実施例A-6)
セルロースアセテートプロピオネートをエチルセルロース(ダウケミカル社製:Ethocel Std.10)に変更した以外は、実施例A-2と同様にしてエチルセルロース粒子を得た。
【0108】
(実施例A-7)
セルロースアセテートプロピオネートを下記合成方法で得られたメチルオクチルセルロースに変更した以外は、実施例A-2と同様にしてメチルオクチルセルロース粒子を得た。
【0109】
<メチルオクチルセルロースの合成>
撹拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを付した100L反応槽に、メチルセルロース(富士フイルム和光純薬株式会社製:メチル置換度1.8)2,000g、ジメチルアセトアミド40Lを添加し、室温で攪拌した。続いて、粉末水酸化ナトリウム5,000gを添加し、そのまま1時間攪拌した。室温に戻した後、ヨウ化オクチル2Lを滴下し、室温で30分攪拌し、続いて、50℃で5時間攪拌して反応させた。
【0110】
反応終了後、室温に戻した。反応槽にメタノール240Lを激しく攪拌しながら投入し、白色固体を析出させた。白色固体を加圧ろ過によりろ別した後、水で2回洗浄を行った。80℃で12時間加熱乾燥を行うことで、目的のセルロース誘導体2,100gを得た。得られたセルロース誘導体(メチルオクチルセルロース)の置換度は1H-NMRを測定することにより、総置換度は2.10(メチル置換度1.8、オクチル置換度0.3)であることを確認した。
【0111】
上記の測定方法により、各実施例で得られたセルロース誘導体粒子の各物性を評価した。結果は表1に示す。
【0112】
(比較例A-1)
ナイロン粒子は、東レナイロン(登録商標)ナイロン12 SP-500(東レ株式会社製)を使用した。上記の測定方法により、この粒子の各物性を評価した。結果は表1に示す。
【0113】
(比較例A-2)
アクリル粒子は、マツモトマイクロスフェアー(登録商標)M-100(松本油脂製薬株式会社製)を使用した。上記の測定方法により、この粒子の各物性を評価した。結果は表1に示す。
【0114】
(比較例A-3)
セルロースアセテート粒子は、セルフローTA-25(JNC社製)を使用した。上記の測定方法により、この粒子の各物性を評価した。結果は表1に示す。
【0115】
(比較例A-4)
セルロース粒子は、セルフロー C-25(JNC社製)を使用した。上記の測定方法により、この粒子の各物性を評価した。結果は表1に示す。
【0116】
【0117】
表1に示すとおり、実施例のセルロース誘導体粒子は、いずれも半合成ポリマーであり、優れた触感を有する。
【0118】
(実施例B-1)
リキッドファンデーションの調製
表2に示す各成分を混合後、良く攪拌し、容器に充填してリキッドファンデーションを調製した。得られたリキッドファンデーションの各物性を下記の方法で評価した。結果は表3に示す。
【表2】
【0119】
<肌への伸び>
触感測定装置(静動摩擦測定機 TL201Ts)を用い、リキッドファンデーション0.2gの1回走行時の伸びの長さを測定した。
【0120】
<カバー力>
リキッドファンデーションを少量皮膚に塗布し、指で20回塗り広げることでシミ、ソバカスの隠れる度合いを下記の基準で目視で評価した。
◎・・・十分カバーされている
〇・・・カバーされている
△・・・カバーされているが不十分
×・・・カバー力が無い
【0121】
<均一性>
リキッドファンデーションを少量皮膚に塗布し、指で20回塗り広げることで均一性を下記の基準で目視で評価した。
◎・・・一様に塗り広げられている
〇・・・均一性がある
△・・・ややまだらの部分がある
×・・・まだらになっている
【0122】
<滑り性>
リキッドファンデーションを少量皮膚に塗布し、指で20回塗り広げることで滑り性(クリーミーさ)を下記の基準で評価した。
◎・・・良く滑り、クリーミーさが十分ある
〇・・・良く滑り、クリーミーさがある
△・・・滑りが悪い
×・・・滑らない
【0123】
(実施例B-2~7)
表2における実施例A-1で得られたセルロース誘導体粒子を、それぞれ実施例A-2~7で得られたセルロース誘導体粒子に変更した以外は、実施例B-1と同様にして、リキッドファンデーションを調製した。得られたリキッドファンデーションの各物性を上記の方法で評価した。結果は表3に示す。
【0124】
(比較例B-1~4)
表2における実施例A-1で得られたセルロース誘導体粒子を、それぞれ比較例A-1~4の粒子に変更した以外は、実施例B-1と同様にして、リキッドファンデーションを調製した。得られたリキッドファンデーションの各物性を上記の方法で評価した。結果は表3に示す。
【0125】
【0126】
表3に示すように、実施例B-1~8のセルロース誘導体粒子を含有する化粧品組成物は、いずれも肌への伸び、シミやソバカスのカバー力、及び滑り性に優れる。