(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】成形品、レーザーマーキングされた成形品の製造方法、及びレーザーマーキング方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20230605BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230605BHJP
B29C 59/16 20060101ALI20230605BHJP
B41M 5/26 20060101ALI20230605BHJP
C08G 69/02 20060101ALI20230605BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230605BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230605BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230605BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20230605BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230605BHJP
【FI】
B29C45/00
B23K26/00 B
B29C59/16
B41M5/26
C08G69/02
C08J7/00 CFG
C08J7/00 302
C08K3/04
C08K3/20
C08L77/06
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2023505650
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010805
(87)【国際公開番号】W WO2022191310
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021040597
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 堅太
(72)【発明者】
【氏名】脇田 嵩之
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/010691(WO,A1)
【文献】特開2004-176060(JP,A)
【文献】特開2020-131591(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107096(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208586(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00
B23K 26/00
B29C 59/16
B41M 5/26
C08G 69/02
C08J 7/00
C08K 3/04
C08K 3/20
C08L 77/06
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品であって、
発泡識別部を有し、
前記発泡識別部の、ISO25178で規定される界面の展開面積比Sdrが0.10以上1.00以下であり、
前記発泡識別部の隆起高さが6.6μm以上100.0μm以下である、成形品において、
前記熱可塑性樹脂(A)がポリアミド系樹脂(A1)であり、
前記ポリアミド系樹脂(A1)が、骨格中に芳香族環を含有する半芳香族ポリアミド(A1-2)と脂肪族ポリアミド(A1-1)とのアロイであり、
前記樹脂組成物のガラス転移温度が90℃以上である成形品。
【請求項2】
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)及び前記脂肪族ポリアミド(A1-1)の合計100.0質量部に対して、前記半芳香族ポリアミド(A1-2)の含有量は、5.0質量部以上である、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)及び前記脂肪族ポリアミド(A1-1)の合計100.0質量部に対して、前記半芳香族ポリアミド(A1-2)の含有量は、10.0質量部以上93.5質量部以下である、請求項2に記載の成形品。
【請求項4】
前記脂肪族ポリアミド(A1-1)は、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612またはポリアミド66/6共重合体であり、
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)は、ポリアミド66/6I、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9T、またはポリアミドMXD6である、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項5】
前記脂肪族ポリアミド(A1-1)は、ポリアミド66またはポリアミド66/6共重合体であり、
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)は、ポリアミド6I、ポリアミド6I/6T、または、ポリアミド66/6Iである、請求項4に記載の成形品。
【請求項6】
前記脂肪族ポリアミド(A1-1)がポリアミド66である、請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)が、構成する全ジカルボン酸単位100モル%に対して、10モル%以上のイソフタル酸単位を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項8】
前記樹脂組成物の結晶化ピーク温度が240℃以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項9】
前記樹脂組成物がフィラー(B)を更に含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項10】
前記フィラー(B)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0質量部超え150.0質量部以下である、請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
前記フィラー(B)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、11.0.0質量部以上130.0質量部以下である、請求項10に記載の成形品。
【請求項12】
前記フィラー(B)がガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、及びミルドファイバーからなる群より選ばれる1種以上である、請求項
9~11のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項13】
前記フィラー(B)がガラス繊維である請求項12に記載の成形品。
【請求項14】
前記樹脂組成物が難燃剤(C)を更に含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項15】
前記難燃剤(C)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上90.0質量部以下である、請求項14に記載の成形品。
【請求項16】
前記難燃剤(C)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、27.0質量部以上37.0質量部以下である、請求項15に記載の成形品。
【請求項17】
前記難燃剤(C)がホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩からなる群より選ばれる1種以上である、請求項14~16のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項18】
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項17に記載の成形品。
【化1】
(一般式(I)中、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。M
n11+はn11価の金属イオンである。Mは元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n11は2又は3である。複数存在するR
11及びR
12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
一般式(II)中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Y
21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。M
’m21+はm21価の金属イオンである。M’は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n21は1以上3以下の整数である。n21が2又は3である場合、複数存在するR
21、R
22及びY
21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。m21は2又は3である。xは1又は2である。xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよい。n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。)
【請求項19】
前記難燃剤(C)がジエチルホスフィン酸アルミニウムである請求項17に記載の成形品。
【請求項20】
前記樹脂組成物が黒色、灰色、又は有彩色に発色する着色剤(D)を更に含有する、請求項1~19のいずれか一項の成形品。
【請求項21】
前記着色剤(D)がカーボンブラック(D1)を含有し、
前記カーボンブラック(D1)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.001質量部以上5.00質量部以下である、請求項20に記載の成形品。
【請求項22】
前記成形品がマグネットスイッチ筐体、ブレーカー筐体、又はコネクター用成形品である、請求項1~21のいずれか一項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品、レーザーマーキングされた成形品の製造方法、及びレーザーマーキング方法に関する。
本願は、2021年3月12日に、日本に出願された特願2021-040597号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品に品名、製造番号、注意事項等を記載する方法としてそれらの情報を印刷したシールを貼付する方法、又はタンポ印刷やシルク印刷等の各種印刷方法が使用されている。
【0003】
上述の記録方法は、記録液の飛散による印刷不良、凹凸部への印刷や微細文字の印字が困難である等の問題がある。また、シールを貼付する方法も成形品表面が平滑である必要がある等の制約がある。そこで、近年、このような問題を解決する手段として、レーザーを用いたマーキング技術(以下、「レーザーマーキング」という)が使用されるようになっている。レーザーマーキングは、再現性良く、高速でマーキングが行なえる技術であり、前述の不良が発生しない極めて有用な方法である。
【0004】
しかし、レーザーマーキングは必ずしも全ての樹脂単体に対して適用できる技術ではなく、一般的に樹脂自体や各種添加剤の改良によるレーザーマーキング性の改良が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、透明性ポリアミドのマーキング特性向上が提案されている。
また、特許文献2では、レーザーマーキング特性に優れたポリアミド樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-149896号公報
【文献】特開2009-035656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、使用量の多い不透明品に対するマーキングの鮮明性向上は達成できていない。また、レーザーマーキングではシールに印字していた大量の文字情報だけでなく、トレーサビリティのための大量の情報を保持できるQRコード(登録商標)等の複雑な図を印字することも多い。そのため、特許文献2の技術では、印字の鮮明性の点で改良の余地がある。
また、ポリアミドは補強効果、収縮抑制、難燃性付与など機械的特性や機能付与のためにフィラーと総称される充填剤を入れることが多い。ポリアミドではこのフィラーが表面に露出しやすくことが一般的に知られている。フィラーが表面に露出すると、フィラーを入れていない場合と比べて色味が変化する。このため、フィラーを添加したポリアミドではレーザーマーキングの鮮明性がさらに低下するという課題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、レーザーマーキングによる印字が鮮明な成形品及び該成形品の製造方法、並びに、鮮明な印字が得られるレーザーマーキング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品であって、
発泡識別部を有し、
前記発泡識別部の、ISO25178で規定される界面の展開面積比Sdrが0.10以上1.00以下であり、
前記発泡識別部の隆起高さが6.6μm以上100.0μm以下である、成形品。
(2) 前記熱可塑性樹脂(A)がポリアミド系樹脂(A1)を含む、(1)に記載の成形品。
(3) 前記ポリアミド系樹脂(A1)が、
骨格中に芳香族環を含有する半芳香族ポリアミド(A1-2)、又は、
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)と、脂肪族ポリアミド(A1-1)とのアロイである、(2)に記載の成形品。
(4) 前記半芳香族ポリアミド(A1-2)が、構成する全ジカルボン酸単位100モル%に対して、10モル%以上のイソフタル酸単位を含有する、(3)に記載の成形品。
(5) 前記樹脂組成物のガラス転移温度が75℃以上である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の成形品。
(6) 前記樹脂組成物の結晶化ピーク温度が240℃以下である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の成形品。
(7) 前記樹脂組成物がフィラー(B)を更に含有する、(1)~(6)のいずれか一つに記載の成形品。
(8) 前記樹脂組成物が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0質量部超え150.0質量部以下の前記フィラー(B)を含有する、(7)に記載の成形品。
(9) 前記フィラー(B)がガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、及びミルドファイバーからなる群より選ばれる1種以上である、(7)又は(8)に記載の成形品。
(10) 前記樹脂組成物が難燃剤(C)を更に含有する、(1)~(9)のいずれか一つに記載の成形品。
(11) 前記難燃剤(C)がホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩からなる群より選ばれる1種以上である、(10)に記載の成形品。
(12) 前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、(11)に記載の成形品。
【0010】
【0011】
(一般式(1)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Mn11+はn11価の金属イオンである。Mは元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n11は2又は3である。複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
一般式(2)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Y21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。M’m21+はm21価の金属イオンである。M’は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n21は1以上3以下の整数である。n21が2又は3である場合、複数存在するR21、R22及びY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。m21は2又は3である。xは1又は2である。xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよい。n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。)
【0012】
(13) 前記樹脂組成物が黒色、灰色、又は橙色(有彩色)に発色する着色剤(D)を更に含有する、(1)~(12)のいずれか一つの成形品。
(14) 前記着色剤(D)がカーボンブラック(D1)を含有し、
前記カーボンブラック(D1)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.001質量部以上5.00質量部以下である、(13)に記載の成形品。
(15) 前記成形品がマグネットスイッチ筐体、ブレーカー筐体、又はコネクター用成形品である、(1)~(14)のいずれか一つに記載の成形品。
(16) レーザーマーキングされた成形品の製造方法であって、
熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品に、レーザーマーキングする工程を含み、
前記工程において、前記成形品のレーザーマーキングされた部位の、ISO25178で規定される界面の展開面積比Sdrが0.10以上1.00以下となり、且つ、前記成形品のレーザーマーキングされた部位の隆起高さが6.6μm以上100.0μm以下となるようにレーザーマーキングを行う、製造方法。
(17) 熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品に、レーザーマーキングすることを含み、
前記レーザーマーキングにおいて、前記成形品のレーザーマーキングされた部位の、ISO25178で規定される界面の展開面積比Sdrが0.10以上1.00以下となるようにレーザーマーキングを行う、レーザーマーキング方法。
【発明の効果】
【0013】
上記態様の成形品及び製造方法によれば、レーザーマーキングによる印字が鮮明な成形品が得られる。上記態様のレーザーマーキング方法によれば、印字が鮮明な成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
なお、本明細書において、「ポリアミド」とは主鎖中にアミド(-NHCO-)基を有する重合体を意味する。
【0016】
≪成形品≫
本実施形態の成形品は、熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品である。
本実施形態の成形品は、発泡識別部を有する。なお、本明細書における、「発泡識別部」とは、レーザーや熱等によって樹脂組成物で構成された成形体の表面を発泡させることで、それ以外の部分と色差が生じ、明確に区別することが可能となった加工部位のことを指す。
中でも、本実施形態の成形品が有する発泡識別部は、レーザーマーキングによる印字部であることが好ましい。
【0017】
本実施形態の成形品において、前記発泡識別部の、ISO25178で規定される界面の展開面積比Sdrが0.10以上1.00以下であり、0.15以上0.90以下が好ましく、0.20以上0.80以下がより好ましく、0.30以上0.70以下がさらに好ましい。
展開面積比Sdrが上記数値範囲内であることで、光の散乱効率が向上することで、成形品におけるレーザーマーキングによる印字の鮮明性が優れたものとなる。
【0018】
上記展開面積比Sdrは、ISO 25178で定義されている、対象物の表面粗さを定義するパラメーターの一つである。
上記展開面積比Sdrは、ISO 25178に準じて測定することができる。例えば、レーザーを用いた非接触方法により測定することができる。
【0019】
より具体的には、キーエンス(株)製 レーザー顕微鏡(測定ユニット:VK-X210、コントローラー:VK-X200)を用いて測定することができる。倍率20倍の対物レンズをセットし、観察箇所へと測定器を移動させ、測定モード「エキスパート」で測定を開始させることにより、ISO 25178で定義される、上記展開面積比Sdrを測定することができる。
【0020】
本実施形態の成形品において、前記発泡識別部の隆起高さが、6.6μm以上100.0μm以下であり、10.0μm以上90μm以下が好ましく、14.0μm以上80.0μm以下がより好ましく、17.0μm以上70.0μm以下がさらに好ましい。
隆起高さがが上記数値範囲内であることで、発泡識別部の下地部分が隠蔽されるとともに、擦過時に発泡識別部の欠落が抑制されるため、成形品におけるレーザーマーキングによる印字の鮮明性が優れたものとなる。
【0021】
上記隆起高さは、発泡識別部とその近傍の未加工部分の平均高さの差で算出する。例えば、レーザーを用いた非接触方法により測定することができる。
【0022】
より具体的には、キーエンス(株)製 レーザー顕微鏡(測定ユニット:VK-X210、コントローラー:VK-X200)を用いて測定することができる。倍率20倍の対物レンズをセットし、観察箇所へと測定器を移動させ、測定モード「エキスパート」で測定を開始させることにより、「平均段差」として、上記隆起高さを測定することができる。
【0023】
本実施形態の成形品は、上記構成を有することで、レーザーマーキングによる印字の鮮明性を優れたものとすることができる。
【0024】
次いで、本実施形態の成形品を構成する樹脂組成物について以下に説明する。
【0025】
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含有する。
【0026】
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばα-オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等が挙げられる。
【0027】
熱可塑性樹脂(A)は、100℃以上350℃以下の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、50℃以上250℃以下の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂、又は、これらの組み合わせであることが好ましい。
【0028】
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、20J/g以上であることが望ましい。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0029】
また、ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度Tgとは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とする。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、また、熱伝導の観点から、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が望ましい。
【0030】
熱可塑性樹脂(A)はホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂(A)は、上述した樹脂を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、熱可塑性樹脂(A)としては、上述した樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
【0032】
熱可塑性樹脂(A)としては、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。
【0033】
また、熱可塑性樹脂(A)としては、ポリアミド系樹脂(A1)を含有することがより好ましい。これにより、レーザーマーキングによる印字をより鮮明にすることができる。なお、ポリアミド系樹脂(A1)は、単独で使用してもよく、他の熱可塑性樹脂と併用してもよい。
【0034】
(ポリアミド系樹脂(A1))
ポリアミド系樹脂(A1)は、骨格中に芳香族環を有する半芳香族ポリアミド(A1-2)、又は、脂肪族ポリアミド(A1-1)と半芳香族ポリアミド(A1-2)のアロイであることが好ましい。これにより、レーザーマーキングによる印字をより鮮明にすることができる。なお、熱可塑性樹脂(A)は、ポリアミド系樹脂(A1)がアロイである場合に、さらに他の熱可塑性樹脂を併用した3種類以上のアロイであってもよい。
【0035】
ポリアミド系樹脂(A1)が上述したアロイである場合に、ポリアミド系樹脂(A1)中の脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)それぞれの含有量は特に限定されない。
中でも、脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)合計100.0質量部に対して、半芳香族ポリアミド(A1-2)の含有量は、5.0質量部以上100.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以上95.0質量部以下であることがより好ましく、10.0質量部以上80.0質量部以下であることがさらに好ましく、15.0質量部以上70.0質量部以下であることががさらにより好ましい。
また、脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)合計100.0質量部に対して、脂肪族ポリアミド(A1-1)の含有量は、0.0質量部以上95.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以上95.0質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以上80.0質量部以下であることがさらに好ましく、9.0質量部以上70.0質量部以下であることがさらにより好ましい。
脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)合計100質量部に対して、脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)それぞれの含有量が上記数値範囲内であることで、レーザーマーキングによる印字の鮮明性がさらに向上する。
【0036】
(1)脂肪族ポリアミド(A1-1)
脂肪族ポリアミド(A1-1)の構成単位は、以下の(1)及び(2)のうち少なくともいずれかの条件を満たすことが好ましい。
(1)脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)と脂肪族ジアミン単位(A1-1b)とを含有すること。
(2)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位(A1-1c)を含有すること。
【0037】
脂肪族ポリアミド(A1-1)の構成単位としては、上記(1)及び(2)のうち少なくともいずれかの条件を満たす1種又は2種以上のポリアミドを含有することができる。中でも、脂肪族ポリアミド(A1-1)の構成単位は、上記(1)を満たすことが好ましい。
【0038】
(1-1)脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)
脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数3以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
炭素数3以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
これら脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)を構成する脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、樹脂組成物の耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び、剛性等がより優れる傾向にあるので、脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0039】
好ましい炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸として、具体的には、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
中でも、炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、樹脂組成物の耐熱性等の観点で、アジピン酸、セバシン酸又はドデカン二酸が好ましい。
【0040】
また、脂肪族ポリアミド(A1-1)は、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これら3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(1-2)脂肪族ジアミン単位(A1-1b)
脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンとしては、例えば、炭素数2以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン、又は、炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
炭素数2以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンともいう)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(2-メチルオクタメチレンジアミンともいう)、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等が挙げられる。
これら脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンの炭素数は、6以上12以下が好ましく、6以上10以下がより好ましい。脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンの炭素数が上記下限値以上であることにより、成形品の耐熱性がより優れる。一方、当該炭素数が上記上限値以下であることにより、成形品の結晶性及び離形性がより優れる。
【0042】
好ましい炭素数6以上12以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとして具体的には、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン等が挙げられる。
中でも、炭素数6以上12以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、又は、2-メチルペンタメチレンジアミンが好ましい。このような脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を含むことにより、成形品の耐熱性及び剛性等がより優れる。
【0043】
また、脂肪族ポリアミド(A1-1)は、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価脂肪族アミンに由来する単位を更に含んでもよい。3価以上の多価脂肪族アミンとしては、例えば、ビスヘキサメチレントリアミン等が挙げられる。
【0044】
(1-3)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位(A1-1c)
脂肪族ポリアミド(A1-1)は、ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位(A1-1c)を含有することができる。このような単位を含むことにより、靭性に優れるポリアミドが得られる傾向にある。
なお、ここでいう、「ラクタム単位」、及び、「アミノカルボン酸単位」とは、重(縮)合したラクタム及びアミノカルボン酸のことをいう。
【0045】
ラクタム単位を構成するラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε-カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)等が挙げられる。
中でも、ラクタム単位を構成するラクタムとしては、ε-カプロラクタム、又は、ラウロラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このようなラクタムを含むことにより、成形品の靭性がより優れる傾向にある。
【0046】
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムが開環した化合物であるω-アミノカルボン酸やα,ω-アミノ酸等が挙げられる。
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、ω位がアミノ基で置換された炭素数4以上14以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。このようなアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては、パラアミノメチル安息香酸等も挙げられる。
【0047】
これら構成単位(A1-1c)を構成するラクタム及びアミノカルボン酸は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
脂肪族ポリアミド(A1-1)の分子量の指標としては、重量平均分子量を利用できる。脂肪族ポリアミドの重量平均分子量は10000以上50000以下が好ましく、17000以上45000以下がより好ましく、20000以上45000以下がさらに好ましく、25000以上45000以下がよりさらに好ましく、30000以上45000以下が特に好ましく、35000以上40000以下が最も好ましい。
重量平均分子量が上記数値範囲内であることにより、レーザーマーキングによる印字部がより鮮明な成形品が得られる。
脂肪族ポリアミド(A1-1)の重量平均分子量の測定は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定することができる。
【0049】
(2)半芳香族ポリアミド(A1-2)
半芳香族ポリアミド(A1-2)は、骨格中に芳香族環を有するポリアミドであって、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有するポリアミドである。
半芳香族ポリアミド(A1-2)は、半芳香族ポリアミド(A1-2)の全構成単位に対して、10モル%以上95モル%以下の芳香族構成単位を含むことが好ましく、20モル%以上90モル%以下の芳香族構成単位を含むことがより好ましく、30モル%以上85モル%以下の芳香族構成単位を含むことがさらに好ましい。ここでいう、「芳香族構成単位」とは、芳香族ジアミン単位及び芳香族ジカルボン酸単位を意味する。
【0050】
また、半芳香族ポリアミド(A1-2)は、半芳香族ポリアミド(A1-2)の全ジカルボン酸単位100モル%に対して、10モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することが好ましく、30モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することがより好ましく、50モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することがさらに好ましく、70モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することが特に好ましい。
芳香族ジカルボン酸単位の含有量が上記下限値以上であることで、レーザーマーキングによる印字部がより鮮明なものとなる。
【0051】
半芳香族ポリアミド(A1-2)中の芳香族ジカルボン酸単位は特に限定されないが、テレフタル酸単位、又はイソフタル酸単位が好ましく、イソフタル酸単位がより好ましい。
【0052】
なお、半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成する所定の単量体単位の割合は、核磁気共鳴分光法(1H-NMR)等により測定することができる。
具体的には、例えば、半芳香族ポリアミド(A1-2)を約5質量%の濃度になるように重ヘキサフルオロイソプロパノールに加熱して溶解し、日本電子製核磁気共鳴分析装置JNM ECA-500を用いて1H-NMRの分析を行い積分比を計算することによって、半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成する芳香族ジカルボン酸からなる単位、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸からなる単位、芳香族ジアミンからなる単位、芳香族ジアミン以外のアミンからなる単位それぞれを算出できる。
【0053】
(2-1)ジカルボン酸単位(A1-2a)
半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジカルボン酸単位(A1-2a)としては、特に限定されず、例えば、芳香族ジカルボン酸単位、脂肪族ジカルボン酸単位、脂環族ジカルボン酸単位等が挙げられる。
【0054】
(2-1-1)芳香族ジカルボン酸単位
イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を有するジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。
【0055】
この置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、炭素数7以上10以下のアリールアルキル基、炭素数7以上10以下のアルキルアリール基、ハロゲン基、炭素数1以上6以下のシリル基、スルホン酸基及びその塩(ナトリウム塩等)等が挙げられる。
炭素数1以上4以下のアルキル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
炭素数6以上10以下のアリール基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数7以上10以下のアリールアルキル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
炭素数7以上10以下のアルキルアリール基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
ハロゲン基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
炭素数1以上6以下のシリル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
中でも、イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0056】
無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸として具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
(2-1-2)脂肪族ジカルボン酸単位
脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数3以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0058】
炭素数3以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
【0059】
(2-1-3)脂環族ジカルボン酸単位
脂環族ジカルボン酸単位(以下、「脂環式ジカルボン酸単位」と称する場合がある)を構成する脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂環構造の炭素数が3以上10以下の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。中でも、脂環族ジカルボン酸としては、脂環構造の炭素数が5以上10以下の脂環族ジカルボン酸が好ましい。
【0060】
このような脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
なお、脂環族ジカルボン酸単位を構成する脂環族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
脂環族ジカルボン酸の脂環族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基等が挙げられる。炭素数1以上4以下のアルキル基としては、上記「芳香族ジカルボン酸単位」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0062】
イソフタル酸単位以外のジカルボン酸単位としては、芳香族ジカルボン酸単位を含むことが好ましく、炭素数6以上の芳香族ジカルボン酸を含むことがより好ましい。
このようなジカルボン酸を用いることにより、機械的性質により優れる樹脂組成物が得られる傾向にある。また、レーザーマーキングによる印字部がより鮮明な成形品が得られる。
【0063】
半芳香族ポリアミド(A1-2)において、ジカルボン酸単位(A1-2a)を構成するジカルボン酸としては、上記ジカルボン酸として記載の化合物に限定されるものではなく、上記ジカルボン酸と等価な化合物であってもよい。
ここでいう、「ジカルボン酸と等価な化合物」とは、上記ジカルボン酸に由来するジカルボン酸構造と同様のジカルボン酸構造となり得る化合物を意味する。このような化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸のハロゲン化物等が挙げられる。
【0064】
また、半芳香族ポリアミド(A1-2)は、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これら3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
(2-2)ジアミン単位(A1-2b)
半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジアミン単位(A1-2b)は、特に限定されず、例えば、芳香族ジアミン単位、脂肪族ジアミン単位、脂環族ジアミン単位等が挙げられる。中でも、半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジアミン単位(A1-2b)としては、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含むことが好ましく、炭素数6以上10以下のジアミン単位を含むことがより好ましい。
【0066】
(2-2-1)脂肪族ジアミン単位
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、例えば、炭素数4以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
炭素数4以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
【0067】
(2-2-2)脂環族ジアミン単位
脂環族ジアミン単位を構成する脂環族ジアミン(以下、「脂環式ジアミン」とも称する場合がある)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
【0068】
(2-2-3)芳香族ジアミン単位
芳香族ジアミン単位を構成する芳香族ジアミンとしては、芳香族基を含有するジアミンであれば以下に限定されるものではない。芳香族ジアミンとして具体的には、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0069】
なお、これら各ジアミン単位を構成するジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、ジアミン単位(A1-2b)としては、脂肪族ジアミン単位が好ましく、炭素数4以上10以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン単位がより好ましく、炭素数6以上10以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン単位がさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミン単位が特に好ましい。
このようなジアミンを用いることにより、機械的性質により優れる樹脂組成物が得られる傾向にある。また、レーザーマーキングによる印字部がより鮮明な成形品が得られる。
【0070】
半芳香族ポリアミド(A1-2)の分子量の指標としては、重量平均分子量を利用できる。半芳香族ポリアミドの重量平均分子量は10000以上50000以下が好ましく、15000以上45000以下がより好ましく、15000以上40000以下がさらに好ましく、17000以上35000以下がよりさらに好ましく、17000以上30000以下が特に好ましく、18000以上28000以下が最も好ましい。
重量平均分子量が上記数値範囲内であることにより、レーザーマーキングによる印字部がより鮮明な成形品が得られる。
半芳香族ポリアミド(A1-2)の重量平均分子量の測定は、例えば、GPCを用いて測定することができる。
【0071】
(3)末端封止剤
ポリアミド系樹脂(A1)の末端は、公知の末端封止剤により末端封止されていてもよい。
このような末端封止剤は、上記ジカルボン酸と上記ジアミンとから、又は、上記ラクタム及び上記アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種から、ポリアミドを製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
【0072】
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物(無水フタル酸等)、モノイソシアネート、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。末端封止剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、末端封止剤としては、モノカルボン酸、又は、モノアミンが好ましい。ポリアミドの末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、成形品の熱安定性がより優れる傾向にある。
【0073】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよい。モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。
脂環族モノカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
これらモノカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、半芳香族ポリアミド(A1-2)の末端は、流動性及び機械的強度の観点から、酢酸によって封止されていることが好ましい。
【0074】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシ基との反応性を有するものであればよい。モノアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。
脂肪族モノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。
脂環族モノアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
これらモノアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
末端封止剤により末端封止されたポリアミドを含有する樹脂組成物は、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び、剛性により優れる傾向にある。
【0076】
(4)好ましいポリアミド系樹脂(A1)
好ましいポリアミド系樹脂(A1)としては、特に限定されないが、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等のラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド;ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド66/6I、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド2M5T、ポリアミドMXD6、ポリアミド6C、ポリアミド2M5C等のジアミン類とジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミドが挙げられる。
【0077】
これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド611、及びポリアミド612からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ポリアミド、又は、ポリアミド66/6I、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9T、及びポリアミドMXD6からなる群より選ばれる1種以上の半芳香族ポリアミドがより好ましい。
【0078】
(ポリアミド系樹脂(A1)の製造方法)
ポリアミド系樹脂(A1)(脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2))を製造する際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.1以下がより好ましく、0.98以上1.05以下がさらに好ましい。
【0079】
ポリアミドの製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含む。
(1)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
(2)ラクタム単位を構成するラクタム、及び、アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
【0080】
また、ポリアミドの製造方法としては、前記重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程を、更に含むことが好ましい。また、必要に応じて、前記重合工程及び前記上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0081】
ポリアミドの具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示するように種々の方法が挙げられる。
1)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)。
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
【0082】
中でも、ポリアミドの具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、ポリアミド組成物に適した重合条件で製造することが必要となる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14kg/cm2以上25kg/cm2以下(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm2)になるまで30分間以上かけながら降圧する。
【0083】
ポリアミドの製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
ポリアミドの製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0084】
以下、ポリアミドの製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に示すが、ポリアミドの製造方法は、これに限定されない。
まず、ポリアミドの原料成分(ジカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、並びに、必要に応じて、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種)を、約40質量%以上60質量%以下含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110℃以上180℃以下の温度、及び、約0.035MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、約65質量%以上90質量%以下に濃縮して濃縮溶液を得る。
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が約220℃以上260℃以下に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドのペレットを得る。
【0085】
[フィラー(B)]
樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂(A)に加えて、フィラー(B)を更に含有することが好ましい。フィラー(B)を含有することにより、靭性及び剛性等の機械物性により優れる樹脂組成物とすることができる。
【0086】
フィラー(B)としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、ゼオライト、ベーマイト、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト、ミルドファイバー等が挙げられる。
これら、フィラー(B)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、フィラー(B)としては、剛性及び強度等の観点で、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、又は、アパタイトが好ましい。また、フィラー(B)としては、ガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、及びミルドファイバーからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、ガラス繊維又は炭素繊維がさらに好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。
【0087】
フィラー(B)がガラス繊維又は炭素繊維である場合、数平均繊維径(d1)が3μm以上30μm以下であることが好ましい。また、重量平均繊維長(L)が100μm以上5mm以下であることが好ましい。さらに、重量平均繊維長(L)に対する数平均繊維径(D1)のアスペクト比((L)/(d1))が10以上100以下であるものが好ましい。上記構成のガラス繊維又は炭素繊維を用いることで、より高い特性を発現することができる。
また、フィラー(B)がガラス繊維である場合、数平均繊維径(d1)が3μm以上30μm以下であることがより好ましい。重量平均繊維長(L)が103μm以上5mm以下であることがより好ましい。さらに、アスペクト比((L)/(d1))が3以上100以下であるものがより好ましい。
【0088】
フィラー(B)の数平均繊維径及び重量平均繊維長は、以下の方法を用いて測定することができる。
まず、成形品を、ギ酸等の、熱可塑性樹脂(A)が可溶な溶媒で溶解する。次いで、得られた不溶成分の中から、例えば100本以上のフィラー(B)を任意に選択する。次いで、フィラー(B)を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察し、測定した繊維径の合計を、測定したフィラー(B)の数で割ることで、数平均繊維径を求めることができる。或いは、測定した繊維長の合計を、測定したフィラー(B)の合計重量で割ることで、重量平均繊維長を求めることができる。
【0089】
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0質量部超え150.0質量部以下のフィラー(B)を含有することが好ましく、10.0質量部以上140.0質量部以下のフィラー(B)を含有することがより好ましく、20.0質量部以上135.0質量部以下のフィラー(B)を含有することがさらに好ましく、25.0質量部以上130.0質量部以下のフィラー(B)を含有することが特に好ましく、30.0質量部以上100質量部以下のフィラー(B)を含有することが最も好ましい。
フィラー(B)の含有量が上記下限値以上であることにより、成形品の強度及び剛性等の機械物性がより向上する傾向にある。一方、フィラー(B)の含有量が上記上限値以下であることにより、表面外観により優れ、且つ、レーザー溶着強度により優れる成形品を得ることができる傾向にある。
特に、フィラー(B)がガラス繊維であり、且つ、フィラー(B)の含有量が、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、上記範囲であることにより、成形品の強度及び剛性等の機械物性がさらに向上する傾向にある。
【0090】
[難燃剤(C)]
樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂(A)に加えて、難燃剤(C)を更に含有することが好ましい。
【0091】
難燃剤(C)としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩素系難燃剤や臭素系難燃剤等のハロゲン元素を含むハロゲン系難燃剤、ハロゲン元素を含有しないリン系難燃剤等が挙げられる。
これら難燃剤(C)を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また難燃助剤と併用することで難燃性をさらに向上させることができる。
【0092】
ハロゲン系難燃剤としては、押出や成形等の溶融加工時の腐食性ガスの発生量を抑制するという観点や、さらには難燃性の発現、靭性及び剛性等の機械物性の観点で、臭素化ポリフェニレンエーテル(ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテル等を含む)、又は臭素化ポリスチレン(ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋臭素化ポリスチレン等を含む)が好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。
【0093】
臭素化ポリスチレン中の臭素含有量は、臭素化ポリスチレンの総質量に対して、5質量%以上75質量%以下が好ましい。臭素含有量が上記下限値以上であることにより、より少ない臭素化ポリスチレンの配合量で難燃化に必要な臭素量を満足させることができ、ポリアミド共重合体の有する性質を損なうことなく、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性に優れ、かつ難燃性により優れる成形品を得ることができる。また、臭素含有量が上記上限値以下であることにより、押出や成形等の溶融加工時において熱分解をより起こし難く、ガス発生等をより抑制することができ、耐熱変色性により優れる成形品を得ることができる。
【0094】
リン系難燃剤としては、ハロゲン元素を含有せずリン元素を含む難燃剤であれば、特に限定されるものではない。リン系難燃剤としては、例えば、リン酸エステル系難燃剤、ポリリン酸メラミン系難燃剤、フォスファゼン系難燃剤、ホスフィン酸系難燃剤、赤リン系難燃剤等が挙げられる。
【0095】
中でも、難燃剤(C)としては、リン酸エステル系難燃剤、ポリリン酸メラミン系難燃剤、フォスファゼン系難燃剤又はホスフィン酸系難燃剤であることが好ましく、ホスフィン酸系難燃剤であることが特に好ましい。
【0096】
ホスフィン酸系難燃剤として具体的には、例えば、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩等が挙げられる。
ホスフィン酸塩としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物以下、「ホスフィン酸塩(I)」と略記する場合がある)等が挙げられる。
ジホスフィン酸塩としては、例えば、下記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩(以下、「ジホスフィン酸塩(II)」と略記する場合がある)等が挙げられる。
【0097】
【0098】
(一般式(1)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Mn11+はn11価の金属イオンである。Mは元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n11は2又は3である。複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
一般式(2)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Y21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。M’m21+はm21価の金属イオンである。M’は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n21は1以上3以下の整数である。n21が2又は3である場合、複数存在するR21、R22及びY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。m21は2又は3である。xは1又は2である。xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよい。n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。)
【0099】
(R11、R12、R21及びR22)
R11、R12、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基である。複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。また、n21が2又は3である場合、複数存在するR21及びR22はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
アルキル基としては、鎖状であってもよく、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。鎖状アルキル基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチル基ペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基等が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
アルキル基及びアリール基は、置換基を有してもよい。アルキル基における置換基としては、例えば、炭素数6以上10以下のアリール基等が挙げられる。アリール基における置換基としては、炭素数1以上6以下のアルキル基等が挙げられる。
置換基を有するアルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
置換基を有するアリール基として具体的には、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
中でも、R11、R12、R21及びR22としては、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
【0100】
(Y21)
Y21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。n21が2又は3である場合、複数存在するY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
アルキレン基としては、鎖状であってもよく、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。直鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、1-メチルエチレン基、1-メチルプロピレン基等が挙げられる。
アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
アルキレン基及びアリーレン基は、置換基を有してもよい。アルキレン基における置換基としては、例えば、炭素数6以上10以下のアリール基等が挙げられる。アリーレン基における置換基としては、炭素数1以上6以下のアルキル基等が挙げられる。
置換基を有するアルキレン基として具体的には、例えば、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルトリメチレン基、フェニルテトラメチレン基等が挙げられる。
置換基を有するアリーレン基として具体的には、例えば、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert-ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert-ブチルナフチレン基等が挙げられる。
中でも、Y21としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましい。
【0101】
(M及びM’)
M及びM’はそれぞれ独立に、元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン又はアルミニウムイオンである。元素周期表の第2族に属する元素のイオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。元素周期表の第15族に属する元素のイオンとしては、例えば、ビスマスイオン等が挙げられる。
また、xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
中でも、M及びM’としては、カルシウム、亜鉛又はアルミニウムが好ましく、カルシウム又はアルミニウムがより好ましい。
【0102】
(x)
xはM’の個数を表し、1又は2である。xは、M’の種類及びジホスフィン酸の数に応じて、適宜選択することができる。
【0103】
(n11及びn21)
n11はホスフィン酸の個数及びMの価数を表し、2又は3である。n11は、Mの種類及び価数に応じて、適宜選択することができる。
n21はジホスフィン酸の個数を表し、1以上3以下の整数である。n21は、M’の種類及び数に応じて、適宜選択することができる。
【0104】
(m21)
m21はM’の価数を表し、2又は3である。
n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。
【0105】
好ましいホスフィン酸塩(1)として具体的には、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。中でも、ホスフィン酸塩(I)としては、難燃性が優れることから、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム又はジエチルホスフィン酸アルミニウムが好ましく、ジエチルホスフィン酸カルシウム又はジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0106】
好ましいジホスフィン酸塩(II)として具体的には、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0107】
難燃剤(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、5.0質量部以上90.0質量部以下が好ましく、10.0質量部以上80.0質量部以下がより好ましく、15.0質量部以上70.0質量部以下がさらに好ましく、20.0質量部以上60.0質量部以下が特に好ましい。
リン系難燃剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、難燃性により優れる樹脂組成物を得ることができる。一方、リン系難燃剤量を上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の有する性質を損なうことなく、難燃性により優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0108】
[着色剤(D)]
樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂(A)に加えて、(D)着色剤を更に含有することができる。
【0109】
着色剤(D)としては、一般に用いられている着色剤を配合することができ、それにより樹脂組成物を黒色から淡色まで任意の色調、好ましくは、黒色、灰色、又は有彩色(例えば、橙色)に着色することができる。
【0110】
着色剤(D)としては、レーザーマーキングによる印字部の鮮明性により優れるという観点から、レーザーを吸収する着色剤が好ましい。そのような着色剤の一例としてカーボンブラック(アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、ガスブラック、オイルブラック等)、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄等が挙げられる。これらのうち、分散性、発色性、コスト等の面から、カーボンブラック(D1)が好ましい。これら着色剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0111】
非黒色顔料としては、後述の種々の無機顔料や有機顔料が挙げられる。これらの非黒色顔料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0112】
無機顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の白色顔料、カドミイエロー、黄鉛、チタンイエロー、ジンククロメート、黄土、黄色酸化鉄等の黄色顔料、赤口顔料、アンバー、赤色酸化鉄、カドミウムレッドなどの赤色顔料、紺青、群青、コバルトブルー等の青色顔料、クロムグリーンなどの緑色顔料等が挙げられる。
【0113】
また、有機顔料としては、アゾ系、アゾメチン系、メチン系、インダスロン系、アントラキノン系、ピランスロン系、フラバンスロン系、ベンゼンスロン系、フタロシアニン系、キノフタロン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、チオインジゴ系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ピルールピロール系、キナクリドン系等が挙げられる。
【0114】
着色剤(D)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.001質量部以上5.00質量部以下であることが好ましく、0.005質量部以上2.5質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上1.00質量部以下であることがさらに好ましい。着色剤(D)の含有量が上記下限値以上であることで、レーザーによる加熱効率をより向上し、より鮮明性が良好となる。一方、着色剤(D)の含有量が上記上限値以下であることで、加熱により樹脂の炭化をより効果的に防ぐことができる。
【0115】
[その他添加剤(E)]
樹脂組成物には、上記熱可塑性樹脂(A)に加えて、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、樹脂組成物に慣用的に用いられるその他添加剤(E)を含有させることもできる。その他添加剤(E)としては、例えば、成形性改良剤、劣化抑制剤、造核剤、熱安定剤等が挙げられる。
樹脂組成物中のその他添加剤(E)の含有量は、その種類や組成物の用途等によって様々であるため、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲であれば特に制限されることはない。
【0116】
(成形性改良剤)
成形性改良剤としては、特に限定されないが、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。なお、成形性改良剤は、「潤滑材」としても用いられる。
【0117】
(1)高級脂肪酸
高級脂肪酸としては、例えば、炭素数8以上40以下の直鎖状又は分岐鎖状の、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の直鎖状飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の分岐鎖状飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、イソパルミチン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の直鎖状不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、オレイン酸、エルカ酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の分岐鎖状不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、イソオレイン酸等が挙げられる。
中でも、高級脂肪酸としては、ステアリン酸又はモンタン酸が好ましい。
【0118】
(2)高級脂肪酸金属塩
高級脂肪酸金属塩とは、高級脂肪酸の金属塩である。
金属塩の金属元素としては、例えば、元素周期表の第1族元素、第2族元素及び第3族元素、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
元素周期表の第1族元素としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
元素周期表の第2族元素としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。
元素周期表の第3族元素としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等が挙げられる。
中でも、元素周期表の第1及び2族元素、又は、アルミニウムが好ましく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、又は、アルミニウムがより好ましい。
【0119】
高級脂肪酸金属塩として具体的には、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。
中でも、高級脂肪酸金属塩としては、モンタン酸の金属塩又はステアリン酸の金属塩が好ましい。
【0120】
(3)高級脂肪酸エステル
高級脂肪酸エステルとは、高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素数8以上40以下の脂肪族カルボン酸と炭素数8以上40以下の脂肪族アルコールとのエステルが好ましい。
炭素数8以上40以下の脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとして具体的には、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
【0121】
(4)高級脂肪酸アミド
高級脂肪酸アミドとは、高級脂肪酸のアミド化合物である。
高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。
これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル及び高級脂肪酸アミドは、それぞれ1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0122】
(劣化抑制剤)
劣化抑制剤は、熱劣化、熱時の変色防止、及び、耐熱エージング性の向上を目的として用いられる。
劣化抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、銅化合物、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、トリアジン系安定剤、ベンゾトリアゾール系安定剤、ベンゾフェノン系安定剤、シアノアクリレート系安定剤、サリシレート系安定剤、イオウ系安定剤等が挙げられる。
銅化合物としては、例えば、酢酸銅、ヨウ化銅等が挙げられる。
フェノール系安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。
これらの劣化抑制剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0123】
(造核剤)
造核剤とは、添加により以下の(1)~(3)のうち少なくともいずれか1つの効果が得られる物質のことを意味する。
(1)樹脂組成物の結晶化ピーク温度を上昇させる効果。
(2)結晶化ピークの補外開始温度と補外終了温度との差を小さくする効果。
(3)得られる成形品の球晶を微細化又はサイズの均一化させる効果。
【0124】
造核剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、タルク、窒化ホウ素、マイカ、カオリン、窒化珪素、カーボンブラック、チタン酸カリウム、二硫化モリブデン等が挙げられる。
造核剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、造核剤としては、造核剤効果の観点で、タルク又は窒化ホウ素が好ましい。
【0125】
また、造核剤の効果が高いため、造核剤の数平均粒径は0.01μm以上10μm以下が好ましい。
造核剤の数平均粒径は、以下の方法を用いて測定することができる。まず、成形品をギ酸等の樹脂組成物が可溶な溶媒で溶解する。次いで、得られた不溶成分の中から、例えば、100個以上の造核剤を任意に選択する。次いで、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察して、粒径を測定することにより求めることができる。
【0126】
樹脂組成物中の造核剤の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.001質量部以上1質量部以下が好ましく、0.001質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.001質量部以上0.09質量部以下がさらに好ましい。
造核剤の含有量が上記下限値以上であることにより、成形品の耐熱性がより向上する傾向にある、一方、造核剤の含有量が上記上限値以下であることにより、靭性により優れる成形品が得られる。
【0127】
(熱安定剤)
熱安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、フェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、アミン系熱安定剤、元素周期表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩等が挙げられる。
【0128】
(1)フェノール系熱安定剤
フェノール系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。ヒンダードフェノール化合物は、ポリアミド等の樹脂や繊維に優れた耐熱性及び耐光性を付与する性質を有する。
ヒンダードフェノール化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N'-へキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピニロキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等が挙げられる。
これらは、ヒンダードフェノール化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0129】
フェノール系熱安定剤を用いる場合、樹脂組成物中のフェノール系熱安定剤の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
フェノール系熱安定剤の含有量が上記の範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0130】
(2)リン系熱安定剤
リン系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-テトラ-トリデシル)ジホスファイト、テトラ(C12~C15混合アルキル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、4,4'-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)-ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、テトラ(C1~C15混合アルキル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、4,4'-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)-ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10-ジ-ヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化-4,4'-イソプロピリデンジフェニルポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)-ビス(4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル))-1,6-ヘキサノールジホスファイト、ヘキサトリデシル-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、トリス(4、4'-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル))ホスファイト、トリス(1,3-ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2、2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2-メチレンビス(3-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4'-ビフェニレンジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4'-ビフェニレンジホスファイト等が挙げられる。
これらリン系熱安定剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0131】
ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-フェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-メチル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2-エチルヘキシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-イソデシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ラウリル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-イソトリデシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ステアリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・シクロヘキシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ベンジル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・エチルセロソルブ-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ブチルカルビトール-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-オクチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ノニルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,4-ジ-tert-オクチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2-シクロヘキシルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル-フェニル・ペンタエリストリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-オクチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらペンタエリスリトール型ホスファイト化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0132】
リン系熱安定剤を用いる場合、樹脂組成物中のリン系熱安定剤の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
リン系熱安定剤の含有量が上記範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0133】
(3)アミン系熱安定剤
アミン系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルアセトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-マロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-テレフタレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-エタン、α,α'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルトリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β',β'-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物等が挙げられる。
これらアミン系熱安定剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0134】
アミン系熱安定剤を用いる場合、樹脂組成物中のアミン系熱安定剤の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
アミン系熱安定剤の含有量が上記範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させることができ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0135】
(4)元素周期表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩
元素周期表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩としては、これらの族に属する金属の塩であれば何ら制限されることはない。
中でも、成形品の耐熱エージング性を一層向上させる観点から、銅塩が好ましい。かかる銅塩としては、以下に制限されないが、例えば、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅、キレート剤に銅の配位した銅錯塩が挙げられる。
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。
これら銅塩は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、銅塩としては、酢酸銅が好ましい。酢酸銅を用いた場合、耐熱エージング性により優れ、且つ、押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」とも称する場合がある)をより効果的に抑制できる樹脂組成物が得られる。
【0136】
熱安定剤として銅塩を用いる場合、樹脂組成物中の銅塩の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上0.60質量部以下が好ましく、0.02質量部以上0.40質量部以下がより好ましい。
銅塩の含有量が上記範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させるとともに、銅の析出や金属腐食をより効果的に抑制することができる。
【0137】
また、上記の銅塩に由来する銅元素の含有濃度は、成形品の耐熱エージング性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(A)106質量部(100万質量部)に対して、10質量部以上2000質量部以下が好ましく、30質量部以上1500質量部以下がより好ましく、50質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
【0138】
上記で説明してきた熱安定剤の成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
[樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂(A)と、必要に応じて、フィラー(B)、難燃剤(C)、着色剤(D)及びその他添加剤(E)の各成分と、を混合する方法であれば、特に限定されるものではない。なお、以降、熱可塑性樹脂(A)、フィラー(B)、難燃剤(C)、着色剤(D)及びその他添加剤(E)を、それぞれ成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)ともいう。
【0140】
上記成分(A)、及び、必要に応じて、成分(B)~成分(E)と、の混合方法としては、例えば、以下の(1)又は(2)の方法等が挙げられる。
(1)上記成分(A)、及び、必要に応じて、成分(B)~成分(E)を、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、単軸又は2軸押出機に供給し、溶融混練する方法。
(2)上記成分(A)、及び、必要に応じて、成分(C)~成分(E)を、予めヘンシェルミキサー等を用いて混合した混合物を調製し、当該混合物を、単軸又は2軸押出機に供給し溶融混練した後に、任意に、前記押出機のサイドフィダーから成分(B)を配合する方法。
【0141】
樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよく、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
【0142】
ポリアミド(A1)が脂肪族ポリアミド(A1-1)を含有する場合、溶融混練の温度は、脂肪族ポリアミド(A1-1)の融点より1℃以上100℃以下程度高い温度が好ましく、脂肪族ポリアミド(A1-1)の融点より10℃以上50℃以下程度高い温度がより好ましい。
混練機での剪断速度は100sec-1以上程度が好ましい。また、混練時の平均滞留時間は0.5分間以上5分間以下程度が好ましい。
溶融混練を行う装置としては、公知の装置であればよく、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、溶融混練機(ミキシングロール等)等が好ましく用いられる。
樹脂組成物を製造する際の各成分の配合量は、上述した樹脂組成物における各成分の含有量と同様である。
【0143】
[樹脂組成物の物性]
樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、75℃以上であることが好ましく、75℃以上220℃以下がより好ましく、80℃以上210℃以下がさらに好ましく、85℃以上200℃以下が特に好ましく、90℃以上150℃以下が最も好ましい。
樹脂組成物のガラス転移温度Tgが上記数値範囲内であることで、成形品の光沢度及びレーザーマーキングによる印字の鮮明性により優れる。
【0144】
樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、例えば、動的粘弾性測定装置によって測定することができる。
具体的には、例えば、-100℃から250℃まで3℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数8Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をガラス転移温度Tgとする。具体的には、貯蔵弾性率E1に対する損失弾性率E2の比(E2/E1)をtanδとし、tanδが極大点となる温度をガラス転移温度Tgとする。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度をガラス転移温度Tgとする。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とする。
また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、JIS-K7139に準じて調製される。成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、また、熱伝導の観点から、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が望ましい。
【0145】
樹脂組成物の結晶化ピーク温度は、240℃以下が好ましく、120℃以上235℃以下がより好ましく、130℃以上230℃以下がさらに好ましく、140℃以上225℃以下が特に好ましい。
樹脂組成物の結晶化ピーク温度が上記数値範囲内であることで、成形品の光沢度及びレーザーマーキングによる印字の鮮明性により優れる。
【0146】
樹脂組成物の結晶化ピーク温度は、例えば、DSCによって測定することができる。
具体的には、例えば、昇温速度20℃/minで50℃から350℃まで昇温し、350℃で3分間保った後、冷却速度20℃/minで350℃から50℃まで冷却し、50℃で3分間保ち、再度昇温速度20℃/minで50℃から350℃まで昇温し、350℃で3分間保った後、さらに冷却速度20℃/minで350℃から50℃まで冷却した際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度を結晶化ピーク温度とする。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を結晶化ピーク温度とする。
このときに現れる結晶化ピーク温度を測定した
この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、20J/g以上であることがより望ましい。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0147】
<成形品の製造方法>
上述した成形品は、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
すなわち、本実施形態のレーザーマーキングされた成形品の製造方法は(以下、単に「本実施形態の製造方法」と略記する場合がある)、熱可塑性樹脂(A)を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品に、レーザーマーキングする工程(以下、「レーザーマーキング工程」という)を含む。
【0148】
前記工程において、前記成形品のレーザーマーキングされた部位の、ISO25178で規定される界面の展開面積比Sdrが0.10以上1.00以下となり、且つ、前記成形品のレーザーマーキングされた部位の隆起高さが6.6μm以上100.0μm以下となるようにレーザーマーキングを行う。
【0149】
本実施形態の製造方法は、上記構成を有することで、レーザーマーキングによる印字部が鮮明な成形品を得ることができる。
すなわち、本実施形態の製造方法は、成形品に鮮明なレーザーマーキングによる印字部を付与するための、レーザーマーキング方法ということもできる。
【0150】
[レーザーマーキング工程]
レーザーマーキング工程で使用するレーザーとしては、例えば、炭酸ガスレーザー、Nd-YAGレーザー、YAGレーザー、ルビーレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。これらの中では、マーキング性の観点から、Nd-YAGレーザー、YAGレーザー、又は半導体レーザーが好ましい。
【0151】
使用するレーザーの波長は、通常、193nm以上1100nm以下であり、220nm以上250nm以下、520nm以上550nm以下、又は900nm以上1100nm以下の3波長帯が好ましく、520nm以上550nm以下、又は900nm以上1100nm以下の2波長帯がより好ましく、1050nm以上1070nm以下の波長帯であることがさらに好ましい。
これらの波長帯で加工することにより、レーザーが着色剤や樹脂に効率よく吸収され、発泡部分の凹凸が微細となり、Sdr及び隆起高さがより大きくなる。
【0152】
レーザーマーキングの走査速度は、タクトタイム短縮の観点から、通常10mm/秒以上5000mm/秒以下であり、100mm/秒以上4000mm/秒以下が好ましく、500mm/秒以上2500mm/秒以下がより好ましい。
走査速度が上記下限値以上であることで、レーザー吸収量が少なくなることによりSdr及び隆起高さが小さくなることを防ぎ、印字が不鮮明となることをより効果的に防ぐことができる。一方、走査速度が上記上限値以下であることで、レーザー吸収量が多くなりすぎることを防ぎ、加熱によって炭化して印字が読み取れなくなることをより効果的に防ぐことができる。
【0153】
レーザーマーキングの加工出力は、通常1.0W以上30.0W以下であり、1.0W以上20.0W以下が好ましく、1.0W以上15.0W以下がより好ましい。
加工出力が上記下限値以上であることで、レーザー吸収量が少なくなることによりSdr及び隆起高さが小さくなることを防ぎ、印字が不鮮明となることをより効果的に防ぐことができる。一方、加工出力が上記上限値以下であることで、レーザー吸収量が多くなりすぎることを防ぎ、加熱によって炭化して印字が読み取れなくなることをより効果的に防ぐことができる。
【0154】
レーザーマーキングの周波数は、通常1kHz以上1000kHz以下であり、5kHz以上750kHz以下が好ましく、10kHz以上500kHz以下がより好ましい。
周波数が上記下限値以上であることで、隙間なくマーキングされて、レーザー吸収量が少なくなることによりSdr及び隆起高さが小さくなることを防ぎ、印字が不鮮明となることをより効果的に防ぐことができる。一方、周波数が上記上限値以下であることで、マーキング密度が過密になることが抑制され、加熱によって炭化して印字が読み取れなくなることをより効果的に防ぐことができる。
【0155】
レーザーマーキングのピッチ間隔は通常0.1μm以上500μm以下であり、1μm以上250μm以下が好ましく、5μm以上250μm以下がより好ましい。
ピッチ間隔が上記下限値以上であることで、レーザー吸収量が多くなりすぎることを防ぎ、加熱によって炭化して印字が読み取れなくなることをより効果的に防ぐことができる。一方、ピッチ間隔が上記上限値以下であることで、レーザー吸収量が少なくなることによりSdr及び隆起高さが小さくなることを防ぎ、印字が不鮮明となることをより効果的に防ぐことができる。
【0156】
[成形工程]
本実施形態の製造方法は、レーザーマーキング工程の前に、成形工程を更に含んでいてもよい。
成形工程では、上述した樹脂組成物を成形して、レーザーマーキングによる印字部を有さない中間成形品を得る。
中間成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。
公知の成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等が挙げられる。
【0157】
<成形品の用途>
本実施形態の成形品は、レーザーマーキングによる印字部が鮮明であることから、様々な用途に用いることができる。
【0158】
本実施形態の成形品の用途としては、例えば、自動車分野、電気及び電子分野、機械及び工業分野、事務機器分野、航空及び宇宙分野において、好適に用いることができる。
【0159】
本実施形態の成形品は、特に電気電子部品として、マグネットスイッチ筐体、ブレーカー筐体、各種スイッチ部品、コネクター用成形品等の電気電子分野の用途に好適に用いることができ、マグネットスイッチ筐体、ブレーカー筐体、又はコネクター用成形品により好適に用いることができる。
【0160】
電気回路を電磁石により開閉する電磁接触器、過負荷時に回路を遮断するサーマルリレー、これらを組み合わせた電磁開閉器(マグネットスイッチ、エアーサーキットブレーカー等の複数の呼称がある)、指定以上の電流が流れた時、又は揺れや発熱などの異常を感知した際に通電を遮断する安全ブレーカーや漏電遮断器(以下、合わせて「ブレーカー」ということがある。)は、電気配線に組み込まれる電気電子部品であり、電気配線の安全保証の上で不可欠のものである。
これらの電気電子部品は、製品の識別、取付間違いを防ぐための接続表記、製品安全に関する表記等が必要である。これらの表記には、従来、表記を記載したシールを貼付する方法が採用されていたが、成形品表面が平滑である必要がある等の制約がある。そのため、これらの製品でも、従来のシールを貼付する方法からレーザーマーキング法への切り替えが進められており、鮮明なマーキング特性が求められている。
すなわち、本実施形態の成形品は、鮮明なマーキング特性が求められている上述の電気電子部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0161】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0162】
実施例及び比較例の成形品に用いた樹脂組成物の各構成成分について説明する。
【0163】
<構成成分>
[脂肪族ポリアミド(A1-1)]
A1-1-1:ポリアミド66
A1―1―2:ポリアミド66/6共重合体
【0164】
[半芳香族ポリアミド(A1-2)]
A1-2-1:ポリアミド6I
A1-2-2:ポリアミド6I/6T(エムス社製、型番:G21、全ジカルボン酸単位中のイソフタル酸単位の含有量は70モル%、分子量:27000)
A1-2-3:ポリアミド66/6I
【0165】
[フィラー(B)]
B-1:ガラス繊維(GF)(日本電気硝子製、商品名「ECS03T275H」、平均繊維径10μmφ、カット長3mm)
【0166】
[難燃剤(C)]
C-1:ホスフィン酸系難燃剤 ジエチルホスフィン酸アルミニウム(Clariant社製、商品名:「Exolit OP1230」)
【0167】
[着色剤(D)]
D1:カーボンブラック(一次粒径27nm)
【0168】
[その他添加剤(E)]
E-2:酸化チタン(粒径210nm)
【0169】
<ポリアミドの製造>
脂肪族ポリアミドA1-1-1、半芳香族ポリアミドA1-2-1、及び半芳香族ポリアミドA1-2-3の各製造方法について以下に詳細を説明する。なお、下記製造方法によって、得られた脂肪族ポリアミドA1-1-1、半芳香族ポリアミドA1-2-1、及び、半芳香族ポリアミドA1-2-3は、窒素気流中で乾燥し、水分率を約0.2質量%に調整してから、後述の実施例及び比較例の成形品に用いた樹脂組成物の原料として用いた。
【0170】
[合成例1]
(脂肪族ポリアミドA1-1-1(ポリアミド66)の合成)
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
まず、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩:1500gを蒸留水:1500gに溶解させて、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。次いで、110℃以上150℃以下程度の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。次いで、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次いで、1時間かけて圧力を降圧した。次いで、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、脂肪族ポリアミドA1-1-1(ポリアミド66)を得た。
【0171】
[合成例2]
(脂肪族ポリアミドA1-1-2(ポリアミド66/6共重合体)の合成)
ポリアミド66/6(90質量%/10質量%)共重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩及びε-カプロラクタム)の50質量%水溶液を30kg作製した。続いて、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。そして、窒素で充分に置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら、目的の相対粘度になるように重合時間を調整し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、ポリアミド66/6共重合体ペレットを得た。このポリアミド66/6共重合体ペレットを80℃、24時間の条件で真空乾燥した。
【0172】
[合成例3]
(半芳香族ポリアミドA1-2-1(ポリアミド6I)の合成)
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
まず、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩:1500g、並びに、全等モル塩成分に対して1.5モル%過剰のアジピン酸、及び、0.5モル%の酢酸を蒸留水:1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。次いで、110℃以上150℃以下程度の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。次いで、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次いで、30分かけて圧力を降圧した。次いで、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、半芳香族ポリアミドA1-2-1(ポリアミド6I)を得た。
【0173】
[合成例4]
(半芳香族ポリアミドA1-2-3(ポリアミド66/6I)の合成)
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩:2.00kgとイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩:0.50kg及び純水:2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込みよく撹拌した。充分窒素置換した後、撹拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cm2Gになるが、18kg/cm2G以上の圧力にならないように水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続けた。さらに2時間後内温が260℃に到達したら加熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取り出し粉砕した。得られた粉砕ポリマーを10Lのエバポレーターに入れ、窒素気流下200℃で10時間固相重合した。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、半芳香族ポリアミドA1-2-3(ポリアミド66/6I)を得た。
【0174】
<樹脂組成物の製造>
[製造例1]
(樹脂組成物PA-1の製造)
東芝機械社製、TEM35mm 2軸押出機(設定温度:280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、脂肪族ポリアミドA1-1-1と、半芳香族ポリアミドA1-2-1と、カーボンブラックD1を予めブレンドしたものと、を供給した。次いで、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして、樹脂組成物のペレットを得た。配合量は表1に示すとおりとした。
【0175】
[製造例2~19]
(樹脂組成物PA-2~PA-19の製造)
成分(A)~(E)の配合量を表1~表3に示すとおりとし、且つ、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口よりフィラーB-1を供給した以外は、製造例1に示す方法と同じ方法を用いて、各樹脂組成物を製造した。
【0176】
得られた樹脂組成物PA-1~PA-19の組成を表1~表3に示す。
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
<物性及び評価>
まず、製造例1~19で得られた各樹脂組成物のペレットを、窒素気流中で乾燥し、樹脂組成物中の水分量を500質量ppm以下にした。次いで、水分量を調整した各樹脂組成物のペレットについて下記の方法を用いて、各種物性の測定を実施した。また、後述する成形品について、各種物性の測定及び各種評価を実施した。
【0181】
[物性1]
(ガラス転移温度Tg)
製造例1~18で得られた各樹脂組成物のペレットについて、日精工業(株)製PS40E射出成形機を用い、シリンダー温度290℃、金型温度を80℃に設定し、射出10秒、冷却10秒の射出成形条件で、JIS-K7139に準じた成形品を成形した。
製造例19で得られた樹脂組成物のペレットについて、日精工業(株)製PS40E射出成形機を用い、シリンダー温度265℃、金型温度を80℃に設定し、射出10秒、冷却10秒の射出成形条件で、JIS-K7139に準じた成形品を成形した。
これら製造1~19の成形品を、動的粘弾性評価装置(GABO社製、EPLEXOR500N)を用いて、以下の条件で測定した。
【0182】
(測定条件)
測定モード:引張
測定周波数:10Hz
昇温速度:3℃/分
温度範囲:-100℃以上250℃以下
【0183】
貯蔵弾性率E1に対する損失弾性率E2の比(E2/E1)をtanδとし、tanδが極大点となる温度をガラス転移温度Tgとした。
【0184】
[物性2]
(結晶化ピーク温度)
結晶化ピーク温度を、JIS-K7121に準じて、PERKINELMER社製Diamond-DSCを用いて以下のとおり測定した。該測定は、窒素雰囲気下で行った。
まず、樹脂組成物約10mgを昇温速度20℃/minで50℃から350℃まで昇温した。続いて、350℃で3分間保った後、冷却速度20℃/minで350℃から50℃まで冷却した。50℃で3分間保った後、再度昇温速度20℃/minで50℃から350℃まで昇温した。さらに、350℃で3分間保った後、冷却速度20℃/minで350℃から50℃まで冷却した。このときに現れる結晶化ピーク温度を測定した。
【0185】
[物性3]
(レーザーマーキングによる印字部の界面の展開面積比Sdr)
各成形品のレーザーマーキングによる印字部の、界面の展開面積比Sdrを、株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡(測定ユニット:VK-X210、コントローラー:VK-X200)を用いて、対物レンズ倍率20倍、エキスパートモードによってISO 25178に準じて測定した。
【0186】
[物性4]
(レーザーマーキングによる印字部の隆起高さ)
各成形品のレーザーマーキングによる印字部とその近傍の平均高さを、株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡(測定ユニット:VK-X210、コントローラー:VK-X200)を用いて、対物レンズ倍率20倍、エキスパートモードによって平均段差測定により測定した。
【0187】
[評価1]
(光沢度)
各成形品の中央部(レーザーマーキングによる印字がされていない部分)について、光沢計(HORIBA製IG320)を用いてJIS-K7150に準じて60度グロス(%)を測定した。該測定値が大きいほど、光沢度が優れており、55%以上であるものを光沢度が良好であると判定した。
【0188】
[評価2]
(色差)
各成形品の、レーザーマーキングによる印字部と、その近傍の未印字部(未加工部)それぞれに対して、スガ試験機製カラーメーターSC-50μによりD65光、10°で色度を測定した。レーザーマーキングによる印字部と、その近傍の未印字部(未加工部)の色度の差を色差ΔE*として算出した。色差ΔE*が大きいほど、レーザーマーキングによる印字の鮮明性に優れており、色差ΔE*が35以上であるものをレーザーマーキングによる印字の鮮明性が良好であると判定した。
【0189】
<成形品の製造>
[実施例1~17及び比較例1~2]
実施例1~12、16および17は実施例、実施例13~15は参考例、比較例1~2は比較例である。
製造例1~18で得られた各樹脂組成物のペレットについて、射出成形機[IS150E:東芝機械株式会社製]を用いて、冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度290℃、金型温度を80℃に設定し、充填時間が1.0±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、各樹脂組成物ペレットから平板プレート成形片(9cm×6cm、厚さ2mm)を作製した。
製造例19で得られた各樹脂組成物のペレットについて、射出成形機[IS150E:東芝機械株式会社製]を用いて、冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度265℃、金型温度を80℃に設定し、充填時間が1.0±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、各樹脂組成物ペレットから平板プレート成形片(9cm×6cm、厚さ2mm)を作製した。
【0190】
次いで、得られた各平板プレート成形片に、株式会社キーエンス製MD-V9920、又はMD-S9910を用いて、3mm×3mmの正方形からなる印字をレーザーマーキングによって施して、各成形品を得た。レーザーマーキングの条件としては、波長を1064nm(実施例1~15、及び比較例1~2)又は532nm(実施例16~17)、走査速度を2000mm/秒(実施例1~15、及び比較例1~2)又は1000mm/秒(実施例16~17)、出力を7.8W又は9.1Wとした。
【0191】
各成形品について、上記方法による物性の測定結果及び評価結果を表4~表6に示す。
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
表4~表6から、印字部のSdrが0.12以上0.68以下であり、且つ、印字部の隆起高さが6.6μm以上42.8μm以下である、成形品M-a1~M-a17(実施例1~17)では、光沢度及びレーザーマーキングによる印字部の鮮明性がいずれも良好であった。
一方で、印字部のSdrが0.10未満である、成形品M-b1(比較例1)では、光沢度は良好であったが、レーザーマーキングによる印字部の鮮明性が不良であった。印字部のSdrが0.10未満であり、且つ、印字部の隆起高さが6.6μm未満である、成形品M-b2(比較例2)でも、光沢度は良好であったが、レーザーマーキングによる印字部の鮮明性が不良であった。
【0196】
以上のことから、Sdr及び隆起高さが特定の数値範囲内である成形品では、レーザーマーキングによる印字部の鮮明性に優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本実施形態の成形品及び製造方法によれば、レーザーマーキングによる印字が鮮明な成形品が得られる。本実施形態の成形品は、例えば、自動車分野、電気及び電子分野、機械及び工業分野、事務機器分野、航空及び宇宙分野において、好適に用いることができる。