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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】高周波用超伝導積層体
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20230606BHJP
   H01B 12/04 20060101ALI20230606BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 130
H01B12/04
H01F5/00 C
H01F6/06 150
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019002966
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2020113631
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年 総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業「未踏高周波分野への応用を目指した高Q値超伝導コイルの基盤技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】關谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴紀
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-500436(JP,A)
【文献】特開2004-002137(JP,A)
【文献】特開平09-052762(JP,A)
【文献】特開平05-082330(JP,A)
【文献】特表2003-535631(JP,A)
【文献】特開2005-191538(JP,A)
【文献】特開2009-170550(JP,A)
【文献】特開平07-245211(JP,A)
【文献】特開昭62-241867(JP,A)
【文献】特開2014-165383(JP,A)
【文献】特開2010-81295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00- 3/14
H01B 12/00-12/16
H01B 13/00
H01F 5/00- 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの渦巻状超伝導体コイルと、
2つの誘電体支持体と、を備え、
前記渦巻状超伝導体コイルは、前記誘電体支持体に挟まれており、
前記誘電体支持体の誘電体損失は、7.0×10-5以下であり、
前記渦巻状超伝導体コイルの線間距離は、0.5mmから2.5mmであり、
前記渦巻状超伝導体コイルの線路幅は、1.5から2.5mmであり、
前記渦巻状超伝導体コイルのQ値は、18000以上である、
高周波用超伝導積層体。
【請求項2】
前記誘電体支持体の誘電体損失は、1.0×10-5以下である、請求項1に記載の高周波用超伝導積層体。
【請求項3】
前記誘電体支持体は、MgO又はAlでできている、請求項2に記載の高周波用超伝導積層体。
【請求項4】
前記渦巻状超伝導体コイルは、超伝導バルクに渦巻状の溝を形成することによって製造さ、その厚さが1mm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の高周波用超伝導積層体。
【請求項5】
2つの渦巻状超伝導体コイルと、
3つの誘電体支持体と、を備え、
前記渦巻状超伝導体コイルは、前記誘電体支持体に挟まれており、
前記誘電体支持体の誘電体損失は、7.0×10-5以下であり、
前記渦巻状超伝導体コイルの線間距離は、1.0mmから3.0mmであり、
前記渦巻状超伝導体コイルの線路幅は、1.5から2.0mmであり、
前記渦巻状超伝導体コイルのQ値は、18000以上であり、
各渦巻状超伝導体コイルの中心軸は、同一直線上に存在する、高周波用超伝導積層体。
【請求項6】
前記誘電体支持体を介して隣接する各渦巻状超伝導体コイルの渦巻方向は、互いに反対方向である、請求項5に記載の高周波用超伝導積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体、特に、誘電体支持体に挟まれた渦巻状超伝導体コイルを備える高周波用超伝導積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波帯(数KHz~数100MHz)で用いられる共振器には、核磁気共鳴を用いたMRI及びNMR装置の共鳴信号を受信するための検出コイル(共振器)、核四極共鳴(NQR)を用いた爆発物や不正薬物探知装置の検出コイル(共振器)、近年注目されている無線電力伝送(WPT)に用いられる送受電コイル(共振器)などがある。
【0003】
これら装置の性能(例えば、感度及び伝送効率)を改善する最も基本的な方法は、高いQ値(導体損失が低い)のコイルを用いることである。
【0004】
しかしながら、これらコイルは、通常、銅線を用いて作製されており、これ以上導体損失を低減できない。従って、高いQ値を実現できずMRI、NMR、NQR、WPTの性能改善は限界を迎えている。
【0005】
この問題を解決できる方法のひとつとして「超伝導体」の利用がある。
【0006】
超伝導体は、直流の場合、無損失であり、高周波帯では銅と比較して3桁以上低い導体損失となることが期待できる。従って、超伝導体をコイルに用いることで飛躍的に高いQ値を実現でき、各種装置の性能改善が期待できる。
【0007】
しかしながら、現在実用化されている直流用途に開発された希土類系超伝導線材は、直流では無損失であるが高周波帯では導体損失がさほど小さくならないため、それを用いて上記コイルを作製しても高いQ値を実現できなかった。また、超伝導薄膜基板は、平面構造であり、大面積化が困難である。
【0008】
よって超伝導材料の高周波帯での応用は未開拓であった。非特許文献1は、超伝導線材の新しい構造(高周波用超伝導線材)を提案し、上記問題の解決を図っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】N. Sekiya, Y. Monjugawa, "A novel REBCO wire structure that improves coil quality factor in MHz range and its effect on wireless power transfer systems," IEEE Trans. Appl. Supercond. vol. 27, 6602005, 2017-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしなら、非特許文献1には、(1)超伝導線材の貼り合わせ方法、(2)超伝導線材を支持するための構造、及び(3)保護膜の薄膜化など、高周波用超伝導線材を実現するために解決すべき課題が存在していた。
【0011】
本発明者らは、超伝導バルクから製造された渦巻状超伝導体コイルを用いて上記課題の解決を図った。しかしながら、超伝導バルクの直径を大きくすることは技術的に困難なため、単純にコイルの直径を大きくすることで渦巻状超伝導体コイルの巻き数を増やすことは容易ではない。また、渦巻状超伝導体コイルの共振周波数を下げるためには渦巻状超伝導体コイルの巻き数を増やすことが好ましいが、上述のように渦巻状超伝導コイルの直径を大きくすることは困難なため、渦巻状超伝導体コイルの線間距離と線幅を狭めることにより巻き数を増やすことを検討したが、線間距離と線幅を狭めるとQ値が低下してしまうことが判明した。即ち、高いQ値を維持したまま渦巻状超伝導体コイルの共振周波数を下げるのには限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、渦巻状超伝導体コイルが誘電体支持体で挟まれた超伝導積層体を用いることで上記課題をすべて解決することを明らかにした。
【0013】
本発明は、
少なくとも1つの渦巻状超伝導体コイルと、
少なくとも2つの誘電体支持体と、を備え、
上記渦巻状超伝導体は、上記誘電体支持体に挟まれており、
上記誘電体支持体の誘電体損失は、7.0×10-5以下である、
高周波用超伝導積層体
である。
【0014】
かかる超伝導積層体は、(1)超伝導線材の貼り合せを必要とせず、(2)コイル形状を維持するための構造を必要とせず、(3)保護膜の成膜工程が超伝導線材とは異なるため、保護膜の薄膜化も容易にできるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、1つの渦巻状超伝導体コイルを2つ誘電体支持体20が挟む構造の高周波用超伝導積層体の展開図を示している。
図2図2は、1つの渦巻状超伝導体コイルを2つ誘電体支持体20が挟んだ状態にある高周波用超伝導積層体の斜視断面図を示している。
図3図3は、2つの渦巻状超伝導体コイルと、3つの誘電体支持体と、を備える高周波用超伝導積層体の展開図を示している。
図4図4は、高周波用超伝導積層体における渦巻状超伝導体コイルの線間距離gと線路幅wによるQ値の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
図5図5は、高周波用超伝導積層体における誘電体支持体の誘電体損失とQ値との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図6図6は、高周波用超伝導積層体における誘電体支持体の比誘電率と共振周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7図7は、高周波用超伝導積層体における誘電体支持体の厚さと共振周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図8図8は、高周波用超伝導積層体における第一渦巻状超伝導体コイルと第二渦巻状超伝導体コイルの線間距離gと線路幅wによるQ値の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0017】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0018】
第一実施形態
本実施形態にかかる高周波用超伝導積層体は、1つの渦巻状超伝導体コイルと、2つの誘電体支持体と、を備え、上記渦巻状超伝導体は、上記誘電体支持体に挟まれており、誘電体支持体の誘電体損失は、7.0×10-5以下である。
【0019】
高周波用超伝導積層体
図1は、本実施形態にかかる、1つの渦巻状超伝導体コイル10を2つの誘電体支持体20(第一誘電体支持体21と第二誘電体支持体22)が挟む構造の高周波用超伝導積層体1の展開図を示している。図2は、本実施形態にかかる、1つの渦巻状超伝導体コイル10を2つ誘電体支持体20(第一誘電体支持体21と第二誘電体支持体22)が挟んだ状態にある高周波用超伝導積層体1の斜視断面図を示している。図2の通り、高周波用超伝導積層体1の使用時は、渦巻状超伝導体コイル10は、第一誘電体支持体20aと第二誘電体支持体20bに挟まれている。即ち、高周波用超伝導積層体1の使用時は、第一誘電体支持体20aは、渦巻状超伝導体コイル10の一方の面と接しており、第二誘電体支持体20bは、渦巻状超伝導体コイル10の他方の面と接している。渦巻状超伝導体コイル10の一方の面及び他方の面は、渦巻状超伝導体コイル10の中心軸が垂直に通過する面を指し、互いに裏表の関係にある。高周波用超伝導積層体1における渦巻状超伝導体コイル10のQ値は、好ましくは、10000以上であり、より好ましくは18000以上であり、更に好ましくは20000以上である。
【0020】
渦巻状超伝導体コイル
渦巻状超伝導体コイル10は、平面上における渦巻き形状を有する超伝導体コイルである。渦巻状超伝導体コイル10の直径は、特に限定するものではないが、渦巻状超伝導体コイル10の製造時に使用する超伝導バルクの直径と略同一であってもよい。渦巻状超伝導体コイル10の厚さは、実際の実施環境に基づいて決定してもよく、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10mmのうちの任意の二点間の範囲内の厚さであってもよく、10mmを超える厚さであってもよい。
【0021】
渦巻状超伝導体コイル10の超伝導材料は、限定するものではないが、合金系材料、銅系酸化物超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群より選択される。合金系材料は、限定するものではないが、NbTi、NbSn、MgB及びNbNからなる群より選択される。銅系酸化物超伝導体材料は、BiSrCaCu、BiSrCaCu10、YBaCu及びREBaCuからなる群より選択される(ただし、RE(希土類元素)は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される)。
【0022】
渦巻状超伝導体コイル10は、例えば、超伝導体材料を結晶化させて得られた超伝導バルクをコイル形状に加工する方法(GF法)、又は、超伝導体材料の成分からなる前駆体をコイル形状に加工した後結晶化させる方法(FG法)によって製造することができる。
【0023】
超伝導バルクは、部分溶融状態からゆっくり冷やして結晶を成長させる溶融結晶方法によって製造してもよい。超伝導バルクは、単結晶状であることが望ましい。ここで、「単結晶状」とは、完璧な単結晶という意味であってもよく、実用に差し支えない欠陥(小傾角粒界など)を有する単結晶という意味であってもよい。
【0024】
渦巻状超伝導体コイル10は、超伝導バルクに渦巻状の溝を形成することによって製造することができる。その製造方法は、例えば、(1)超伝導バルクを所定の厚さにスライスし円盤状に加工する工程と、(2)スライスされた超伝導バルクに渦巻状の溝を形成する工程を含む。スライス加工は、ダイヤモンド粉末を埋め込んだブレード等による切断加工が適している。渦巻加工は、小型のダイヤモンドポイント又はサンドブラスト加工によって実施することができる。
【0025】
渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gは、渦巻状超伝導体コイル10のQ値が10000以上であることを実現することができるのであれば特に限定するものではないが、0.2mm以上であることが好ましく、例えば、0.2、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9及び5.0mmのうちの任意の2点間の範囲内である。
【0026】
渦巻状超伝導体コイル10の線路幅wは、渦巻状超伝導体コイル10のQ値が10000以上であることを実現することができるのであれば特に限定するものではないが、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4及び2.5mmのうちの任意の2点間の範囲内であることが好ましい。
【0027】
渦巻状超伝導体コイル10のQ値が10000以上であることを実現することができるのであれば、渦巻状超伝導体コイル10には、任意の保護層又は保護膜が設けられてもよいが、保護層又は保護膜は必須ではない。好ましくは、渦巻状超伝導体コイル10は、その表面に人工的な層又は膜形成加工が施されていない。渦巻状超伝導体コイル10のQ値が10000以上であることを実現することができるのであれば、渦巻状超伝導体コイル10の線間を、任意の物質で埋めてもよいが、任意の物質で埋める必要はない。渦巻状超伝導体コイル10の線間は、好ましくは空気が満たされており、より好ましくは真空である。渦巻状超伝導体コイル10の線間を真空とする場合は、高周波用超伝導積層体1は、その内部を真空にすることが可能な密閉された構造であってもよく、高周波用超伝導積層体1を覆う装置の内部を真空にすることが可能な密閉された構造であってもよい。
【0028】
誘電体支持体
誘電体支持体20の寸法は、渦巻状超伝導体コイル10を挟んだ際に、渦巻状超伝導体コイル10が覆われる寸法である。誘電体支持体20の形状は、円盤形状であってもよく、四角い板形状であってもよい。また、例えば十字形状などのように、渦巻状超伝導体コイル10の一部が覆われていない形状でもよい。第一誘電体支持体21の寸法は、第二誘電体支持体22の寸法は同一であってもよく、互いに異なる寸法であってもよい。
【0029】
誘電体支持体20の誘電体損失は、渦巻状超伝導体コイル10のQ値が10000以上であることを実現することができるのであれば特に限定するものではないが、好ましくは7.0×10-5以下であり、より好ましくは1.0×10-5以下であり、更に好ましくは1.0×10-6以下である。誘導体支持体は、MgO又はAl(サファイア)でできていいてもよく、好ましくはAl(サファイア)でできている。Al(サファイア)は、高熱伝導率を有するため、冷凍機冷却をする場合において冷凍機のコールドヘッドから熱伝導を利用して渦巻状超伝導コイルを冷却することができる。すなわち、渦巻状超伝導体コイル10のQ値を高い値に維持したまま渦巻状超伝導体コイル10の冷却を行うことができる.
【0030】
誘電体支持体20の厚さは、所望の共振周波数に応じて変更することが可能であり、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10mmのうちの任意の二点間の範囲内の厚さであってもよく、実際の実施環境に基づいて、10mmを超える厚さであってもよい。
【0031】
第二実施形態
図3は、本実施形態にかかる、2つの渦巻状超伝導体コイル100(第一渦巻状超伝導体コイル101、第二渦巻状超伝導体コイル102)と、3つの誘電体支持体200(第一誘電体支持体201、第二誘電体支持体202、第三誘電体支持体203)と、を備える高周波用超伝導積層体2の展開図を示している。第一渦巻状超伝導体コイル101は、第一誘電体支持体201と第二誘電体支持体202に挟まれる。第二渦巻状超伝導体コイル102は、第二誘電体支持体202と第三誘電体支持体203に挟まれる。なお、高周波用超伝導積層体1における渦巻状超伝導体コイル10と誘電体支持体20の各種条件・パラメーター等は、高周波用超伝導積層体2における渦巻状超伝導体コイル100と誘電体支持体200の各種条件・パラメーター等にも当てはまる。
【0032】
第一渦巻状超伝導体コイル101の中心軸は、第二渦巻状超伝導体コイル102の中心軸と同一直線上に存在している。第一渦巻状超伝導体コイル101の渦巻方向は、第二渦巻状超伝導体コイル102の渦巻方向と反対方向である。この対面する二つのコイルの共振周波数が一致していることが重要である。同じ共振周波数のコイルが結合することで,共振周波数が2つにスプリットする。その低周波側の共振周波数を使用することで、コイル1枚のときと同一サイズのコイルを使用しながら、共振周波数を低周波に下げることができる。そのため,同一形状のコイルを2枚用意することがよいが、形状が異なっていても、二つのコイルの共振周波数が合っていれば二つのコイルが結合することで,周波数を下げることができる。すなわち、共振周波数が一致していれば、第一渦巻状超伝導体コイル101の巻き数は、第二渦巻状超伝導体コイル102の巻き数と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、第一渦巻状超伝導体コイル101の直径は、第二渦巻状超伝導体コイル102の直径と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
対面する二つのコイルのサイズや形状が同じ場合、第一渦巻状超伝導体コイル101の渦巻方向は、第二渦巻状超伝導体コイル102の渦巻方向と同じ向きでもよい。この場合、結合したコイルの共振周波数が下がることはないが、結合したコイルの厚さは対面した二つのコイルのそれぞれの厚さを足し合わせた厚さと同等となるため、単体のコイルの厚さに製造上の制約があるがより厚いコイルの使用が望まれる場合に適用できる。
【0034】
シミュレーション1
図4は、本実施形態にかかる高周波用超伝導積層体1における渦巻状超伝導体コイル10の線間距離(gap)gと線路幅wによるQ値の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションには、3次元電磁界シミュレーター(CST Studio Suite)を用いた。渦巻状超伝導体コイル10の導電率が9×1011S/m、渦巻状超伝導体コイル10の直径が65mm、渦巻状超伝導体コイル10の厚さが1mm、渦巻状超伝導体コイル10の線路幅wが1.5mm、2.0mm及び2.5mmの間の場合、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.2mmから5.0mmに設定することで、Q値10000以上を実現することができることが明らかになった。
【0035】
図5は、本実施形態にかかる高周波用超伝導積層体1における誘電体支持体の誘電体損失(dielectric loss(loss tangent))とQ値との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。渦巻状超伝導体コイル10の導電率が9×1011S/m、渦巻状超伝導体コイル10の直径が65mm、渦巻状超伝導体コイル10の厚さが1mm、渦巻状超伝導体コイル10の線路幅wを1.5mm、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.95mm、誘電体支持体の比誘電率eを9.9とした場合、7.0×10-5以下の誘電体損失を持つ誘電体支持体を使用することで、Q値10000以上を実現することができることが明らかになった。
【0036】
図6は、本実施形態にかかる高周波用超伝導積層体1における誘電体支持体の比誘電率(relative dielectric constant)と共振周波数(resonance frequency [MHz])との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。渦巻状超伝導体コイル10の導電率が9×1011S/m、渦巻状超伝導体コイル10の直径が65mm、渦巻状超伝導体コイル10の厚さが1mm、渦巻状超伝導体コイル10の線路幅wを1.5mm、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.95mm、誘電体支持体の誘電体損失を1.0×10-7とした。図6に示す通り、誘電体支持体の比誘電率が大きくなるにつれて共振周波数が減少することが明らかになった。
【0037】
図7は、本実施形態にかかる高周波用超伝導積層体1における誘電体支持体の厚さと共振周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。渦巻状超伝導体コイル10の導電率が9×1011S/m、渦巻状超伝導体コイル10の直径が65mm、渦巻状超伝導体コイル10の厚さが1mm、渦巻状超伝導体コイル10の線路幅wを1.5mm、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.95mm、誘電体支持体は、サファイアでできた誘電体支持体を使用した。図7に示す通り、誘電体支持体の厚さが厚くなるにつれて共振周波数が減少することが明らかになった。
【0038】
以上のシミュレーションの結果から、誘電体損失が7.0×10-5以下の誘電体支持体を使用することにより、渦巻状超伝導体コイルの直径を変えずに、線路幅wが1.5mm、2.0mm及び2.5mmの間の場合、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.2mmから5.0mmに設定することにより高いQ値を実現できる。また、誘電体支持体の比誘電率を大きくする又は厚さを厚くすることによって、高いQ値を維持したまま渦巻状超伝導体コイルの共振周波数を下げることが可能になった。
【0039】
シミュレーション2
図8は、本実施形態にかかる高周波用超伝導積層体2における第一渦巻状超伝導体コイル101と第二渦巻状超伝導体コイル102の線間距離(gap)gと線路幅wによるQ値の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。第一渦巻状超伝導体コイル101と第二渦巻状超伝導体コイル102の導電率、直径、厚さ及び線路幅wがそれぞれ9×1011S/m、65mm、1mm、1.5mmの場合、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.4mmから3.9mmに設定することで、Q値10000以上を実現することができることが明らかになった。また、線路幅wが2.0mmの場合は、渦巻状超伝導体コイル10の線間距離gを0.3mmから3.5mmに設定することで、Q値10000以上を実現することができることが明らかになった。
【0040】
渦巻状超伝導体コイル10(single、誘電体支持体なし)、高周波用超伝導積層体1(single sand)、第一渦巻状超伝導体コイル101と第二渦巻状超伝導体コイル102(double、誘電体支持体なし)及び高周波用超伝導積層体2(double sand)あの場合のQ値及び共振周波数を求めた。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1において、Single sandの共振周波数がSingleの共振周波数より低いのは、誘電体によりLC共振の容量成分が増加したためである。Double及びDouble sandにおいて共振周波数がSingleの共振周波数より低いのはコイル間の結合によるものである。Double sandの共振周波数がDoubleの共振周波数より低いのは、誘電体を入れることでよりコイル間の容量結合が強まることと、LC共振の容量成分が増加することで,周波数のシフト量が大幅に増えるからである。
【0043】
表1の通り、singleからdouble sandにかけて共振周波数は低下している。即ち、渦巻状超伝導体コイルとそれを挟む誘電体支持体の数が多いほど共振周波数を低下させることが明らかとなった。
【0044】
第二実施形態及びシミュレーション2の結果より、以下のことが言える。すなわち、二つのコイルを結合させることで共振周波数を低周波にシフトさせることができる。また、共振周波数は二つのコイルの結合の大きさによって決まる。従って二つのコイル間距離が小さい方が結合が大きくなり、周波数が低周波にシフトする。二つのコイルを対面させることで、浮遊容量をコイル間に閉じ込めることができる。それによって、誘電体が近づいても影響が少なくなる。特に誘電体でコイルを挟んだ方が浮遊容量の閉じ込め効果が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による高周波用超伝導積層体は、無線電力伝送用送受電コイルに用いることで伝送効率を飛躍的に改善できる。また、本発明による高周波用超伝導積層体を各種分析装置(NMR,MRI,NQRなど)などのコイルに用いることで分析装置の感度を飛躍的に改善できる。更に、本発明による高周波用超伝導積層体は、高感度高周波アンテナ及び高周波低損失フィルターに用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 高周波用超伝導積層体
2 高周波用超伝導積層体
10 渦巻状超伝導体コイル
100 渦巻状超伝導体コイル
101 第一渦巻状超伝導体コイル
102 第二渦巻状超伝導体コイル
20 誘電体支持体
200 誘電体支持体
21 第一誘電体支持体
22 第二誘電体支持体
201 第一誘電体支持体
202 第二誘電体支持体
203 第三誘電体支持体
g 渦巻状超伝導体コイルの線間距離
w 渦巻状超伝導体コイルの線路幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8