(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】レーザー彫刻用印刷版原版およびその製造方法ならびにレーザー彫刻凹版印刷版の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/12 20060101AFI20230606BHJP
B41C 1/05 20060101ALI20230606BHJP
B41M 1/40 20060101ALI20230606BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20230606BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230606BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20230606BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230606BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230606BHJP
C08L 61/24 20060101ALI20230606BHJP
C08L 61/28 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B41N1/12
B41C1/05
B41M1/40 C
C08L77/06
C08K3/04
C08K3/11
C08K9/04
C08K3/22
C08L61/24
C08L61/28
(21)【出願番号】P 2019030320
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】出田 康平
(72)【発明者】
【氏名】油 努
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/051028(WO,A1)
【文献】特許第6358523(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0375446(US,A1)
【文献】特表2016-524718(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017474(WO,A1)
【文献】特開2020-13066(JP,A)
【文献】特開2014-69358(JP,A)
【文献】特開2013-230587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00-3/08
B41C 1/00-3/08
B41M 1/00-3/18
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも、レーザー彫刻用樹脂層を設けたレーザー彫刻用印刷版原版であって、前記レーザー彫刻用樹脂層が、該樹脂層の質量を100質量%としたとき、(A)脂肪族環を主鎖に有するポリアミド、一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミド、および炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドからなる群から選ばれる選択される少なくとも一種のポリアミドを40~80質量%、(B)赤外線吸収性の無機粒子を5~40質量%、(C)酸素原子を含む無機粒子を5~30質量%、(D)架橋性化合物0.5~30質量%を含
み、前記(D)架橋性化合物がユリア樹脂、メラミン樹脂および多官能エポキシ基含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするレーザー彫刻用印刷版原版。
【化1】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~5の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記(A)脂肪族環を主鎖に有するポリアミドが4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンとアジピン酸を用いて得られる構造を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項3】
前記(B)赤外線吸収性の無機粒子が、カーボンブラックおよび鉄含有無機粒子からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項4】
前記カーボンブラックおよび鉄含有無機微粒子からなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子が、表面をアニオン性基で修飾されたものであることを特徴とする請求項3に記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項5】
前記アニオン性基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項4に記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項6】
前記(C)酸素原子を含む無機粒子として、平均粒子径が0.5μm以上4μm以下のものを用いて得たことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項7】
前記(C)酸素原子を含む無機粒子が非晶質シリカおよびアルミナならびに酸化ケイ素とアルミナの複合酸化物粒子ならびにそれらの混合物の何れかであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項8】
前記(C)酸素原子を含む無機粒子の比表面積が10m
2/g以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項9】
前記(C)酸素原子を含む無機粒子の真球度が0.90以上であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項10】
前記レーザー彫刻用樹脂層が、該樹脂層の質量を100質量%としたとき、(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミド0.5~30質量%を含むことを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項11】
前記(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミドがピペラジン環を主鎖に有するポリアミドである請求項
10に記載のレーザー彫刻用印刷版原版。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載のレーザー彫刻用版材にレーザーを照射して前記レーザー彫刻用樹脂層を彫刻し、レリーフを得る工程を有するレーザー彫刻凹版印刷版の製造方法。
【請求項13】
前記のレーザーが近赤外レーザーであることを特徴とする請求項
12に記載のレーザー彫刻凹版印刷版の製造方法。
【請求項14】
レーザーの照射工程の後、低級アルコールまたは低級アルコールを含む液体でレリーフをリンスする工程を有する請求項
12または
13に記載のレーザー彫刻凹版印刷版の製造方法。
【請求項15】
請求項
12~14いずれかに記載の製造方法で得られたレーザー彫刻凹版印刷版を用いてパッド印刷を行う印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻により印刷面を得て、印刷に供されるレーザー彫刻用印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷版製造において現像工程の簡略化および、現像廃液の削減の観点から、レーザーによる直接彫刻製版、いわゆる「レーザー彫刻」が多く提案されている。レーザー彫刻は、文字通りレーザーで彫刻することにより、レリーフとなる凹凸を形成する方法で、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、原画に基づく高精細なレリーフ形成が可能で、また、抜き文字部分を深く彫刻したりするなど、自由にレリーフ形状を制御することができるという利点がある。
【0003】
パッド印刷は凹版印刷版を用い、版面上にインクをのせ、金属製のドクター刃で掻き取ること、もしくは、ドクター刃の役割をするリング状のセラミックス製または特殊金属製エッジ付きインクカップの中にインクを入れて版面上をインクカップで掻き取ることによって、凹版印刷版の凹部にインクを充填し、そのインクをシリコーンゴムなどの柔軟なパッド面に転写させ、該パッドのインク付着面を被印刷体に圧着することによって印刷するオフセット印刷の一種である。パッド印刷に用いられる凹版印刷版は、印刷の方式上、版面上のインクをドクター刃やインクカップで掻き取るため、版面には耐摩耗性が要求される。そのような耐摩耗性が要求される印刷用途で用いられる凹版印刷版には、赤外線吸収剤および無機充填剤を含有した樹脂層を有するレーザー彫刻用印刷版原版が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-518387号公報
【文献】特開昭58-145613号公報
【文献】特開2001-199719号公報
【文献】特開2016-79061号公報
【文献】特開昭50-7605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ではポリビニルアルコールをアルデヒド類で架橋させた樹脂層を用いているが、この方法では高湿度環境下において樹脂層の吸湿を抑えることができず膨潤するため、版面上のインクを金属製のドクター刃で掻き取ると、樹脂層にドクター刃が食い込み、掻き取りが十分できないという不具合があった。
【0006】
そこで本発明では、レーザー彫刻によりシャープなレリーフを形成することができ、高湿度環境下でもインク掻き取り性および、耐摩耗性に優れた凹版印刷版を作製することができるレーザー彫刻用印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決し、目的を達成するため本発明は、以下の構成を有する。すなわち、本発明は、支持体上に少なくとも、レーザー彫刻用樹脂層を設けたレーザー彫刻用印刷版原版であって、前記レーザー彫刻用樹脂層が、該樹脂層の質量を100質量%としたとき、(A)脂肪族環を主鎖に有するポリアミド、一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミドおよび炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドからなる群から選択されるポリアミドを40~80質量%、(B)赤外線吸収性の無機粒子を5~40質量%、(C)酸素原子を含む無機粒子を5~30質量%、(D)架橋性化合物0.5~30質量%を含み、前記(D)架橋性化合物がユリア樹脂、メラミン樹脂および多官能エポキシ基含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするレーザー彫刻用印刷版原版である。
【0008】
【0009】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~5の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザー彫刻によりシャープなレリーフを形成することができ、高湿度環境下でもインク掻き取り性および、耐摩耗性に優れた凹版印刷版を作製することができるレーザー彫刻用印刷版原版を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について例をあげつつ説明する。
【0012】
本発明のレーザー彫刻用印刷版原版は、支持体の上に、少なくともレーザー彫刻用樹脂層を有している。レーザー彫刻用樹脂層はレーザーによって所望の文字、画像あるいはパターンなどが印刻されることが予定されている。
【0013】
レーザー彫刻用樹脂層は、該樹脂層の質量を100質量%としたとき、(A)脂肪族環を主鎖に有するポリアミド、一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミド、および炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドからなる群から選ばれるポリアミド(以下、ポリアミド(A)と称することがある)を40~80質量%、(B)赤外線吸収性の無機粒子(以下、無機粒子(B)と称することがある)を5~40質量%、(C)酸素原子を含む無機粒子(以下、無機粒子(C)と称することがある)5~30質量%を含有する。
【0014】
【0015】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~5の炭化水素基を表す。)
ポリアミド(A)は水に不溶のものを用いることが好ましい。このようなポリアミド(A)はレーザー彫刻用樹脂層の形態を保持するための担体樹脂として働き、レーザー彫刻用印刷版原版は、高湿度環境下でも良好なインク掻き取り性および耐摩耗性を発現できる。また、レーザー彫刻時にレリーフが溶融しにくいため、シャープなレリーフを形成することが可能となる。
【0016】
ポリアミド(A)の数平均分子量は10,000~1,000,000であることが好ましい。10,000以上であることで、レーザー彫刻用樹脂層の保形性の観点で有利であり、1,000,000以下であることで、低級アルコールを含有するレーザー彫刻用樹脂組成物溶液を調製することが可能となり、生産性の上で有利である。ポリアミド(A)の数平均分子量は、下限として、より好ましくは20,000以上、さらに好ましくは30,000以上、また上限として、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは300,000以下である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算の数平均分子量として求められる。
【0017】
なおここで、前記した低級アルコールとは分子内に炭素数が5以下であるアルコールをいう。具体的にはメタノール、エタノール、ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2プロパノール、1-ペンタノールなどが挙げられる。
【0018】
レーザー彫刻用樹脂層100質量%中のポリアミド(A)の含有量は、レーザー彫刻用樹脂層の形態を保持する観点から、40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。またレリーフ画像の形成が容易となる観点から、80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。
【0019】
ポリアミド(A)は、脂肪族環を主鎖に有するポリアミド、一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミドおよび炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドからなる群から選ばれるポリアミドである。このようなポリアミドは、低級アルコールを含む溶液に対する親和性が他のポリアミドに較べて比較的高い。
【0020】
【0021】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~5の炭化水素基を表す。)
脂肪族環を主鎖に有するポリアミドは、ポリアミドを重合して得る際に、脂肪族環を有するジアミンまたはその誘導体、ジカルボン酸またはその誘導体、および脂肪族環を有するアミノカルボン酸またはその誘導体の少なくとも一種を用いて重合することによって得ることができる。脂肪族環として、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等が挙げられる。なお、ここで言う脂肪族環には含窒素複素環を含まないものとする。また、好ましい脂肪族環としては、脂肪族炭化水素環であり、炭素数5~7の脂肪族炭化水素環が構造的な安定性が高いので特に好ましい。特には、シクロヘキサン環が好ましく、そのようなポリアミドとしては、例えば、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンとアジピン酸を用いて得られる構造を有するポリアミドが好ましい。
【0022】
このようなポリアミドとしては、例えば、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンアジピン酸塩を含む重縮合物が知られており、また4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンアジピン酸塩と、ε‐カプロラクタム、ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩との共重縮合物が挙げられる。
【0023】
これら脂肪族環を含有する単量体成分は、全ポリアミド構成成分、すなわちアミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位およびジアミン単位の和100モル%に対して、低級アルコールに対する親和性向上の観点から、10モル%以上が好ましい。また結晶性ポリマーとしての耐薬品性の観点から、100モル%以下が好ましく、より好ましくは80モル%以下である。
【0024】
次に、下記の一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミドについて説明する。
【0025】
【0026】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~5の炭化水素基を表す。)
前記一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミドは、例えば、ポリアミドのアミド結合の水素とホルムアルデヒドと炭素数が1~5のアルコールを反応させ、アミド結合をN-アルコキシメチル化することで得ることができる。
【0027】
また、アルコキシメチル化した場合のアルコキシメチル化率は、低級アルコールによる親和性向上の観点から好ましく10%以上であり、より好ましくは20%以上である。またポリマーの耐摩耗性の観点から好ましく80%以下であり、より好ましくは70%以下である。なおここで、該ポリアミドにおけるアルコキシメチル化率は下式によって求められる。
【0028】
アルコキシメチル化率(%)=[アルコキシメチル化されたアミド基のモル数]/{[アルコキシメチル化されたアミド基のモル数]+[二級アミド基のモル数]}×100
このようなポリアミドとしては、たとえば、6-ナイロンのアミド結合の窒素の30モル%がメトキシメチル化された、数平均分子量が40,000である“トレジン”(登録商標) MF-30(ナガセケムテックス(株)製)が挙げられる。
【0029】
次に、炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドについて説明する。このポリアミドは、メチレン基が8個以上連続した構造が含まれていれば、ホモポリマーであってもコポリマーであっても良く、例えばナイロン6、ナイロン66にナイロン610、ナイロン11、ナイロン12等の炭素数8以上のメチレン鎖を有するモノマーを共重合させたいわゆる共重合体ナイロンを挙げることができる。炭素数8以上のメチレン鎖をもった構造が全てのアミド基間にある構造の15~60質量%含むことで低級アルコールに溶解性が十分なものとなるので好ましい。また、メチレン鎖の炭素数の上限には特に制限は無いが、炭素数が12以下のとき経済的に有利であるため好ましい。このような炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドとしては、例えば、ナイロン6/66/610/12を共重合した“アミラン”(登録商標)CM8000(東レ(株)製)が挙げられる。
【0030】
ポリアミド(A)として、上述した脂肪族環を主鎖に有するポリアミド、前記一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミド、炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミドは混合して使用することも可能である。
【0031】
本発明において、レーザー彫刻用樹脂層は、(B)赤外線吸収性の無機粒子を含有する。赤外線吸収性の無機粒子としては、赤外線を吸収して赤外線を熱に転化する作用を有するものであれば特に制限は無いが、好ましく、カーボンブラックおよび鉄含有無機粒子からなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子である。特に好適な赤外線吸収性の無機粒子は、レーザー波長領域における吸収率が高いものであり、特にNd-YAGレーザー(1064nm)および典型的には、700~900nmの間および1200~1600nmの間の波長を有する赤外ダイオードレーザーの波長を吸収するものである。
【0032】
また、好適な鉄含有粒子は酸化鉄粒子である。酸化鉄の例としては、ヘマタイトα-Fe2O3、マグネタイトγ-Fe2O3、マグネタイトFe3O4などが挙げられる。
【0033】
また、前記のカーボンブラックまたは鉄含有無機粒子は、その粒子表面がアニオン性基で修飾されたものであることが好ましい。アニオン性基を有することでポリアミド(A)に対する分散性が良好となるとともに、粒子同士の静電反発により、粒子の凝集を抑制することが可能となる。このようなアニオン性基としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などが挙げられるが、このうちカルボキシル基を有するものは低級アルコールとの濡れ性が高いため、凝集物が少なくて良好なレーザー彫刻用樹脂組成物溶液を得ることができることから好ましく用いられる。
【0034】
レーザー彫刻用樹脂層100質量%中に含まれる無機粒子(B)の含有量は、近赤外線レーザーによるレーザー彫刻性の観点から、5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。またレーザー彫刻用樹脂層の表面平滑性の観点から、40質量%以下であり、より好ましく30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0035】
無機粒子(B)の平均粒子径はレーザー彫刻用樹脂組成物溶液中に凝集することなく分散する観点から0.01μm以上であるものを用いることが好ましく、より好ましくは、0.03μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上である。またレーザー彫刻時に彫刻部と非彫刻部の境界線の直線性を確保する観点から、4.0μm以下であるものを用いることが好ましく、より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは、1.0μm以下である。
【0036】
本発明において、レーザー彫刻用樹脂層は、(C)酸素原子を含む無機粒子を含有する。このような粒子としては、酸化鉄、シリカ、アルミナ、二酸化チタンなどの無機酸化物粒子、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ガラスなどの無機塩粒子、有機成分および無機成分で構成される粒子などが挙げられる。このうち、凹版印刷またはパッド印刷に用いられ、安全に取り扱うことという観点から非晶質シリカがより好ましい。一方、ドクター刃やインクカップで掻き取る際の版面の耐摩耗性を向上させるためには、シリカ粒子よりもビッカース硬度の大きいアルミナを用いることが好ましく、シリカ粒子とアルミナを混合して使用することも可能である。なお、前記した酸化鉄粒子は(C)酸素原子を含む無機粒子には含まれないものとする。
【0037】
用いられる(C)酸素原子を含む無機粒子の平均粒子径は、印刷版の耐摩耗性の観点から、0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。また印刷時のインク掻き取り性の観点から、4μm以下、より好ましくは3μm以下である。
【0038】
なお、本発明において、平均粒子径は、レーザー回折散乱法もしくは動的光散乱法で測定したメジアン径を意味する。なお、何れの方法を用いるかはその粒子の平均粒子径の測定に適した方法であれば特に制限はないが、何れの方法であっても問題なく測定ができる場合にはレーザー回折散乱法によって測定したものをその粒子の平均粒子径とする。
【0039】
(C)酸素原子を含む無機粒子は、レーザー彫刻用樹脂層の平滑性の観点から、比表面積が10m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは9m2/g以下、さらに好ましくは8m2/g以下である。本明細書において、比表面積は、JIS Z8830:2013に記載された方法に基づき測定される。
【0040】
(C)酸素原子を含む無機粒子は、その一次粒子において真球度が好ましくは0.90以上であることが好ましい。この真球度が0.90以上であることで、印刷版の表面粗さが小さくなるため、さらに良好なインク掻き取り性を達成できる。さらに、高い彫刻感度を実現できる。なお本発明において真球度とは、100個の粒子を走査型電子顕微鏡により形状を観察し、最短径/最長径の比率の100点算術平均値のことである。
【0041】
このような真球度が0.9以上の非晶質シリカおよびアルミナの製造方法としては、特に限定されるものではないが、前記特許文献2と特許文献3に示すように、シリカ粒子またはアルミナ粒子を火炎中で溶融する方法、前記特許文献4に示すように、VMC(Vaporized Metal Combustion)法により、シリコン粉末または金属アルミニウムを燃焼して製造する方法などが知られている。
【0042】
(C)酸素原子を含有する無機粒子の最大粒子径は、インク掻き取り性の観点から、好ましくは20μm以下、より好ましくは10.0μm以下である。なお、最大粒子径は粒子を該当する大きさの篩を通過させることで求めることができる。
【0043】
レーザー彫刻用樹脂層100質量%中の(C)酸素原子を含む無機粒子の含有量は、印刷版に耐摩耗性を付与する観点から5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。またレーザー彫刻用樹脂層の保形性の観点から30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。
【0044】
(C)酸素原子を含む無機粒子の表面には、表面修飾剤を用いて官能基を導入することが可能である。このような修飾剤としては、例えば、(3-アクロイルプロピル)トリメトキシシラン、メタクロイルプロピルトリメトキシシラン、メタクロイルプロピルトリエトキシシラン、メタクロイルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクロイルオキシメチルトリメトキシシランなどが挙げられるが、この限りではない。(C)酸素原子を含む無機粒子を表面修飾することにより、ポリアミド(A)に混合する際の分散性を良好にし、凝集、再凝集を抑制することができる。なお、粒子の分散性を高めることにより、レーザー彫刻の際の彫刻残りを低減させることができるため好ましい。
【0045】
本発明において、レーザー彫刻用樹脂層は、(D)架橋性化合物を含んでもよい。本発明において架橋性化合物とは、それ自身が化合して高分子量化する性質を有する化合物のほか、ポリアミド(A)に化合して二分子以上のポリアミド(A)の分子鎖間を架橋する化合物であるものを含む。架橋性化合物を含むことで、樹脂層の耐溶剤性が向上し、また、吸湿性が低減し、レーザー彫刻用印刷版原版の取扱性が向上する。架橋性化合物による架橋の形式は特に限定されないが、赤外線吸収性の無機粒子は紫外線にも吸収領域を有することが多いため光硬化が困難、あるいは不効率となる可能性があるため、熱硬化によることが好ましい。ポリアミド(A)との併用に適した架橋性化合物としては、例えば、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。また、多官能エポキシ化合物と、尿素系樹脂、アミン系化合物、アミド系化合物、水酸基含有化合物、カルボン酸化合物、チオール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との組み合わせが挙げられる。(D)架橋性化合物は2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0046】
また、ユリア樹脂としては、例えば、ブチル化尿素樹脂、メラミン樹脂としては、例えば、ブチル化メラミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化尿素メラミン共縮合樹脂、iso-ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、ヘキサメトキシメチロールメラミン、メチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。
【0047】
また、エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0048】
レーザー彫刻用樹脂層100質量%中の(D)架橋性化合物の含有量は、樹脂層の吸湿性を向上させる観点から、好ましく0.5質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。また樹脂層の表面平滑性の観点から、好ましく30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0049】
本発明において、レーザー彫刻用樹脂層は、(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミドを含んでもよい。このような樹脂を含有することで、(D)架橋性化合物の架橋反応が促進され、樹脂層の熱架橋時に付与する熱を低減化することが可能となる。(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミドとしてピペラジン環を有するポリアミドがさらに好ましい。
【0050】
このようなポリアミドとしては、前記特許文献5記載の塩基性窒素を有するポリアミドなどが挙げられる。なお、塩基性窒素とは、アミド基に含まれる窒素ではなく、アミノ基に含まれる窒素をいう。そのようなポリアミドとしては、三級アミノ基を主鎖中に有するポリアミドが好ましい。塩基性窒素を有するポリアミドは、塩基性窒素を有する単量体を単独もしくは他の単量体を用いて縮重合、重付加反応などを行うことによって得ることができる。
【0051】
本発明で用いられる(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミドを得るに適した、塩基性窒素を有する単量体とは具体的に挙げると、N,N’-ビス(アミノメチル)-ピペラジン、N,N’-ビス(β-アミノエチル)-ピペラジン、N,N’-ビス(γ-アミノベンジル)-ピペラジン、N-(β-アミノエチル)ピペラジン、N-(β-アミノプロピル)ピペラジン、N-(ω-アミノヘキシル)ピペラジン、N-(β-アミノエチル)-2,5-ジメチルピペラジン、N,N-ビス(β-アミノエチル)-ベンジルアミン、N,N-ビス(γ-アミノプロピル)-アミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス(γ-アミノプロピル)-エチレンジアミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス(γ-アミノプロピル)-テトラメチレンジアミンなどのジアミン類、N,N’-ビス(カルボキシメチル)-ピペラジン、N,N’-ビス(カルボキシメチル)-メチルピペラジン、N,N’-ビス(カルボキシメチル)-2,6-ジメチルピペラジン、N,N’-ビス(β-カルボキシエチル)-ピペラジン、N,N-ビス(カルボキシメチル)-メチルアミン、N,N-ビス(β-カルボキシエチル)-エチルアミン、N,N-ビス(β-カルボキシエチル)-メチルアミン、N,N-ジ(β-カルボキシエチル)-イソプロピルアミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス-(カルボキシメチル)-エチレンジアミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス-(β-カルボキシエチル)-エチレンジアミンなどのジカルボン酸類あるいはこれらの低級アルキルエステル、酸ハロゲン化物、N-(アミノメチル)-N’-(カルボキシメチル)-ピペラジン、N-(アミノメチル)-N’-(β-カルボキシエチル)-ピペラジン、N-(β-アミノエチル)-N’-(β-カルボキシエチル)-ピペラジン、N-カルボキシメチルピペラジン、N-(β-カルボキシエチル)ピペラジン、N-(γ-カルボキシヘキシル)ピペラジン、N-(ω-カルボキシヘキシル)ピペラジン、N-(アミノメチル)-N-(カルボキシメチル)-メチルアミン、N-(β-アミノエチル)-N-(β-カルボキシエチル)-メチルアミン、N-(アミノメチル)-N-(β-カルボキシエチル)-イソプロピルアミン、N,N’-ジメチル-N-(アミノメチル)-N’-(カルボキシメチル)-エチレンジアミンなどのω-アミノ酸などがある。またこれらの単量体のほかにジアミン、ジカルボン酸、ω-アミノ酸、ラクタムなどと併用し、共重合体としたものも使用可能である。これら塩基性窒素を含有する単量体成分は全ポリアミド構成成分、すなわちアミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位およびジアミン単位の和に対して、10~100モル%であることが好ましく、さらに10~80モル%であることが好ましい。10モル%以上であると(D)架橋性化合物の架橋反応を促進することができるため好ましい。
【0052】
レーザー彫刻用樹脂層100質量%中の(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミドの含有量は、樹脂層の吸湿性を向上させる観点から、好ましく0.5質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。また樹脂層の吸湿性を低下させる観点から、好ましく30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0053】
また、レーザー彫刻用樹脂層は、彫刻カスのリンス性向上、無機微粒子の凝集防止などを目的として界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン類などの非イオン界面活性剤、スルホン酸塩類、硫酸エステル類、リン酸エステル類などの陰イオン界面活性剤、アミン類などの陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤などを例示することができる。レーザー彫刻用樹脂層100質量%に含まれる界面活性剤の含有量は、彫刻カスのリンス性向上および樹脂組成物成分の凝集防止の観点から、好ましくは0.001~5質量%、さらに好ましくは0.05~3質量%である。
【0054】
また、レーザー彫刻用樹脂層には、目的に応じて、染料、顔料、消泡剤、香料などの添加物を添加することができる。
【0055】
本発明のレーザー彫刻用印刷版原版は、表面保護、異物等の付着防止の観点から、レーザー彫刻用樹脂層上に保護層としてカバーフィルムを有することが好ましい。レーザー彫刻用樹脂層上はカバーフィルムに直接接していてもよいし、レーザー彫刻用樹脂層とカバーフィルムとの間に1層または複数の層が存在していてもよい。レーザー彫刻用樹脂層とカバーフィルムとの間の層としては、例えば、レーザー彫刻用樹脂層の表面の粘着を防止する目的で設けられる剥離補助層などが挙げられる。
【0056】
カバーフィルムの材質は特に限定されないが、ポリエステル、ポリオレフィンなどのプラスチックシートが好ましく使用される。カバーフィルムの厚さは特に限定されないが、10~150μmの範囲が取扱性、コストの観点から好ましい。またカバーフィルム表面は、剥離力を調製する目的として粗面化されていてもよい。
【0057】
本発明で用いられる支持体は、ポリエステル、ポリオレフィンなどのプラスチックシートやスチレン-ブタジエンゴムなどの合成ゴムシート、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属板を使用することができるが、パッド印刷では特に、版面上にインクを載せ、金属製のドクター刃で掻き取る、もしくは、ドクター刃の役割をするリング状のセラミックス製または特殊金属製エッジ付きインクカップの中にインクを入れて版面上をインクカップで掻き取るため、掻き取る際の力で支持体が変形しないよう金属製の支持体を用いることが好ましい。
【0058】
支持体の厚さは特に限定されないが、取扱性の観点から100~500μmの範囲が好ましい。100μm以上であれば支持体が変形することが抑制され、500μm以下であれば取り扱い性が向上する。
【0059】
支持体の表面は、レーザー彫刻用樹脂層との接着性を向上させる目的で、易接着処理されていることが好ましい。易接着処理の方法としては、サンドブラストなどの機械的処理、コロナ放電などの物理的処理、コーティングなどによる化学的処理などが例示できるが、コーティングによって接着層を設けることが接着性の観点から好ましい。このように好ましい接着性を実現させる接着層組成としては、低級アルコールを含む溶液に可溶性を有する高分子化合物が例示される。また可溶性高分子化合物として、ε-カプロラクタムの単位を含むポリアミド樹脂を好ましく挙げることができる。
【0060】
次に、本発明のレーザー彫刻用印刷版原版の製造方法について例を挙げて説明する。レーザー彫刻用樹脂層は、無機粒子が分散したレーザー彫刻用樹脂組成物溶液を調製し、これを支持体に塗布・乾燥して形成することが簡便である。例えば、ポリアミド(A)、および必要に応じて(D)架橋性化合物、(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミド、界面活性剤その他の添加剤等を添加し、低級アルコールなどの溶剤で撹拌して十分に混合し、次いで、無機粒子(B)、無機粒子(C)を添加し、混合・分散することでレーザー彫刻用樹脂組成物溶液を得る。このとき、各成分の比率は添加する量を調整することで所望の範囲で調整される。
【0061】
無機粒子を分散する方法としては、例えば、機械撹拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを挙げることができる。これらの中でも無機粒子を高度に分散させることが可能であることからメディア分散法を用いることが好ましい。
【0062】
続いて、前記方法によって得られたレーザー彫刻用樹脂組成物溶液を、接着層を有していても良い支持体上に流延し、乾燥してレーザー彫刻用樹脂層を得る。その後、任意に剥離補助層を形成したカバーフィルムを前記レーザー彫刻層上に密着させることで本発明のレーザー彫刻用印刷版原版を得ることができる。また、レーザー彫刻用樹脂組成物溶液を乾燥製膜によってシート化したレーザー彫刻用樹脂シートを作製し、支持体とカバーフィルムでレーザー彫刻用樹脂シートを挟み込むようにラミネートすることでもレーザー彫刻用印刷版原版を得ることができる。なお、無機粒子を含まない樹脂層を、接着層とレーザー彫刻用樹脂層との間に設けることも可能である。
【0063】
レーザー彫刻用樹脂層の厚みは特に限定されないが、印刷適性の観点から20~200μmの範囲が好ましい。20μm以上であればかすれのない高精細な印刷ができ、200μm以下であれば凹部深度を調整する幅が広がり、高精細な印刷ができる。
【0064】
レーザー彫刻用印刷版原版が剥離補助層を有する場合、剥離補助層の形成方法は特に限定されないが、薄膜形成の簡便さから、剥離補助層成分を溶媒に溶解した溶液をカバーフィルム上に塗布し、溶媒を除去する方法が特に好ましく行われる。溶媒の除去方法としては、例えば熱風乾燥、遠赤外線乾燥、自然乾燥などを挙げることができる。剥離補助層成分を溶解する溶媒は特に限定されないが、水、アルコール、並びに水およびアルコールの混合物が好ましく使用される。
【0065】
次に、本発明のレーザー彫刻用印刷版原版を用いた凹版印刷版の製造方法について説明する。凹版印刷版は、例えば、次のような工程を順次経て製造することができる。
【0066】
(1)レーザー彫刻用印刷版原版のレーザー彫刻用樹脂層をレーザー彫刻する工程(工程(1))、(2)次いで、低級アルコールまたは低級アルコールを含む液体で彫刻した版表面(レリーフ)をリンスする工程(工程(2))、(3)彫刻されたレーザー彫刻用樹脂層を乾燥する工程(工程(3))。
【0067】
工程(1)は、例えば、形成したい画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、レーザー彫刻用樹脂層に対して走査照射して像をレーザー彫刻用樹脂層に印刻する工程のことである。レーザーとして、炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱量が発生し、レーザー彫刻用樹脂層中の分子は分子切断あるいはイオン化されて選択的な除去、すなわち彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、同一絵柄内で、深度が深い部分と浅い部分を分けることで、同一絵柄内に濃淡をつけた印刷することが容易となる。彫刻した版表面に彫刻カスが付着している場合は、彫刻表面を低級アルコールまたは低級アルコールを主成分とする液体で彫刻した版表面をリンスして、彫刻カスを洗い流す工程(2)を追加しても良い。リンスの手段として、液体で洗い流す方法、高圧スプレー噴射する方法、彫刻した版表面を主に、低級アルコールの存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
【0068】
彫刻した版表面をリンスする工程(2)を行った場合、彫刻されたレーザー彫刻用樹脂層を乾燥してリンス液を揮発させる工程(3)を追加することが好ましい。
【0069】
なお、本発明のレーザー彫刻用印刷版原版は、凹版印刷用として使用することが最も適しているが、平版印刷用、凸版印刷用、孔版印刷用として使用することも可能である。また本発明のレーザー彫刻用印刷版原版を用いて印刷を行うことができる対象物には特に制限はなく、例えば紙、プラスチック、布帛、ガラス、金属、セラミックス等を挙げることができる。これらの中でも、特に布帛への印刷に用いられることが好ましく、例えばロゴ、ケアラベル、ロット表示等を直接、布帛に印刷する方式への適用があげられる。布帛印刷物は、布帛の種類ごとに洗濯表示が異なり、さらにロット表示を追加すると膨大な数の印刷版が必要となる。そのため製版工程が複雑で時間のかかる従来のフォトリソ法やケミカルエッチング法では製造時間が増大し、対応困難であったが、レーザー彫刻では工程が少ないため製造時間を短縮することが可能であるため、限られた時間内で多種多様な布帛印刷物を提供することが可能となる。
【実施例】
【0070】
以下、具体的に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は係る実施例に限定して解釈されるものではない。
【0071】
ポリアミド(A):
(1)脂肪族環を主鎖に有するポリアミド(ポリアミド1):
ε‐カプロラクタム、ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩および4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンアジピン酸塩がほぼ同量モル、重縮合された、数平均分子量が85,000であるポリアミド(東レ(株)製)を用いた。
【0072】
(2)一般式(1)で表される部分構造を有するポリアミド(ポリアミド2):
6-ナイロンの二級アミド結合の窒素の30%がメトキシメチル化された、数平均分子量が40,000である“トレジン”(登録商標) MF-30(ナガセケムテックス(株)製)を用いた。
【0073】
(3)炭素数8以上のメチレン鎖を有するポリアミド(ポリアミド3):
ナイロン6/66/610/12を共重合した“アミラン”(登録商標)CM8000(東レ(株)製)を用いた。
【0074】
(4)ポリアミド(A)に該当しないポリアミド(ポリアミド4):
数平均分子量600のポリエチレングリコールの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα, ω-ジアミノポリオキシエチレンとアジピン酸との等モル塩60重量部、ε-カプロラクタム20重量部およびヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩20重量部を溶融重合して、ついで水分を除去して、主鎖にポリエーテルセグメントを有するポリアミド4を得た。
【0075】
ポリアミド1、ポリアミド2、ポリアミド3、ポリアミド4が低級アルコールに溶解可能であることを確認するため、各ポリアミドについて、ポリアミド50質量部にエタノール50質量部を加え、80℃で4時間撹拌溶解した後、前記溶液を40℃まで冷却して1時間静置し、前記溶液100gをナイロンネットフィルターNY11(孔径10μm、メルク製)に0.1MPaで加圧しながら通液して確認を行った。全てのポリアミドについて溶液の全量がろ過でき、かつフィルター上に未溶解物の残存がないことを確認した。
【0076】
無機粒子(B):
表1に記載の無機粒子を使用した。なお、無機粒子(B)番号1および番号2の平均粒子径はナノ粒子解析装置((株)堀場製作所製「Nano Partica SZ-100」)を使用して、水に無機粒子を添加し出力25Wの条件で超音波を照射し3分間分散させた液を、分散後10分以内に測定したものであり、体積基準の積算分率における50%の粒径である。また、無機粒子(B)番号3の平均粒子径はレーザー散乱粒度分布計(マイクロトラックベル(株)社製「MT3300EXII」)を使用して、水に無機粒子を添加し流速45%、出力25Wの条件で超音波を照射しながら3分間循環させた液を、循環の完了後10分以内に測定したものであり、体積基準の積算分率における50%の粒径である。
【0077】
【0078】
無機粒子(C):
表2に記載の無機粒子を使用した。無機粒子(C)の平均粒子径はレーザー散乱粒度分布計(マイクロトラックベル(株)社製「MT3300EXII」)を使用して、水に無機粒子を添加し流速45%、出力25Wの条件で超音波を照射しながら3分間循環させた液を、循環の完了後10分以内に測定した体積基準の積算分率における50%の粒径である。
【0079】
【0080】
なお、無機粒子の比表面積は、JIS Z8830:2013に記載された方法に基づき、(株)島津製作所製Tristar3000を使用して測定した。
(D)架橋性化合物(表3中、「(D)成分」と記載した)
ユリア樹脂
・“大鹿レヂン”(登録商標)U106((株)オーシカ製)
メラミン樹脂
・“大鹿レヂン”(登録商標)M32((株)オーシカ製)
多官能エポキシ基含有化合物
・“デナコール”(登録商標)EX-614B(ナガセケムテック(株)製)
(E)塩基性窒素を主鎖に有するポリアミド(表3中、「(E)成分」と記載した)。
【0081】
合成例1:
ε-カプロラクタム10重量部、N-(2-アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩90重量部および水100重量部をステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、ついで水分を除去して主鎖に塩基性窒素を有するポリアミド(ポリアミド5)を得た。脂環族ジアミン残基の含有量は39モル%であった。
【0082】
合成例2:
ε-カプロラクタム10重量部(30モル%)、N-(2-アミノエチル)ピペラジン8質量部(20モル%)、1、3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン6質量部(15.4モル%)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸18質量部(34.6モル%)をステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、ついで水分を除去して主鎖に塩基性窒素を有するポリアミド(ポリアミド6)を得た。脂環族ジアミン残基の含有量は35.4モル%、脂環族ジカルボン酸残基の含有量は34.6モル%であった。
【0083】
(参考例1) <接着層を有する支持体の作製>
“ビニトール”(登録商標)#284(名古屋油化(株)製)66質量部およびヘキサメチレンテトラミン(関東化学(株)製)2質量部をジメチルホルムアミド16質量部とキシレン16質量部の溶媒に混合した溶液に、ビスフェノールA“jER834”(三菱化学(株)製)90質量部をジメチルホルムアミド30質量部とキシレン30質量部の溶媒に混合した溶液を添加し、接着層用塗工液1を得た。
【0084】
“アミラン”(登録商標)CM833(東レ(株)製)20質量部、“CJPARL”(パナソニック(株)製)をエタノール50質量部、水10質量部、ジメチルホルムアミド10質量部、およびベンジルアルコール50質量部の混合溶媒中70℃で2時間混合し、溶解した。その後、25℃でビスフェノールA“jER834”(三菱化学(株)製)5質量部、ジシアノジアミド(関東化学(株)製)0.3質量部を添加し、接着層用塗工液2を得た。
【0085】
支持体である厚さ250μmの鉄板(新日鐵住金(株)製)上に接着層用塗工液1を乾燥後膜厚が10μmになるようにバーコーターで塗布し、180℃のオーブンで3分間加熱して溶媒を除去した後、その上に接着層用塗工液2を乾燥膜厚が10μmとなるようにバーコーターで塗布し、160℃のオーブンで3分間加熱して、接着層を有する支持体を得た。
【0086】
<レーザー彫刻用樹脂組成物溶液の調製>
撹拌用ヘラおよび冷却管を取り付けた3つ口フラスコ中に、表3の参考例1の欄に示すポリアミド(A)を添加し、“ソルミックス”(登録商標)H-11(アルコール混合物、日本アルコール(株)製)90質量部および水10質量部の混合溶媒を混合した後、撹拌しながら80℃で2時間加熱し、ポリアミド(A)を溶解させた。40℃に冷却した後、表3の参考例1の欄に記載されるポリアミド(A)以外の成分を添加し、混合、溶解させた後、さらに連続型メディア分散機(NANO GRAIN MILL、浅田鉄工(株)製)を用いて分散し、レーザー彫刻用樹脂組成物溶液1を得た。
【0087】
<カバーフィルム>
厚さ100μmの“ルミラー”S10(ポリエステルフィルム、東レ(株)製)をカバーフィルムとして使用した。
【0088】
<レーザー彫刻用印刷版原版の製造>
上記のレーザー彫刻用脂組成物溶液1を、前記接着層を有する支持体に流延し、130℃で1時間乾燥した。このとき乾燥後の樹脂層厚みが30μmとなるよう調節した。このようにして得られたレーザー彫刻用樹脂層上に、水/エタノール=10/90(重量比)の混合溶剤を塗布し、表面にカバーフィルムを圧着し、レーザー彫刻用印刷版原版を得た。
【0089】
(参考例2、実施例3~26)
レーザー彫刻用樹脂層の構成を表3のとおり変更した以外は、参考例1と同様にしてレーザー彫刻用印刷版原版を作製した。
【0090】
(比較例1~6)
レーザー彫刻用樹脂層の構成を表3に記載のとおり変更した以外は、参考例1と同様にしてレーザー彫刻用印刷版原版を作製した。ちなみに、比較例5ではポリアミド(A)に該当しないポリアミド(ポリアミド4)が用いられている。
【0091】
[評価方法]
各実施例および比較例における評価は、次の方法で行った。
【0092】
(1)彫刻適性
7cm×14cmのレーザー彫刻用印刷版原版からカバーフィルムのポリエステルフィルムのみを剥離し、赤外線に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム型プレートセッター“CDI SPARK”(エスコ・グラフィックス(株)製)に、基材側がドラムに接するように装着した。エネルギー14J/cm2、レーザー出力22W、ドラム回転数160rpmの条件で彫刻した。その後、液温25℃のエタノール水溶液(エタノール/水=80/20)を流して、10秒間リンスを行い、80℃の熱風乾燥機で15分間乾燥し、凹版印刷版を得た。得られた凹版印刷版の彫刻部について、彫刻深度を、形状解析レーザー顕微鏡VK-X250((株)キーエンス製)、倍率20倍で測定した。彫刻感度が高いほど彫刻深度は深くなり、精細な画像再現する上で彫刻深度は10μm以上であることが好ましく、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。
【0093】
(2)耐摩耗性
凹版印刷版を、hermetic6-12 universal(TAMPOPRINT社製)に装着し、インクにPAD-PLV-1インキ白(ナビタス(株)製)を用いて、5万回スキージし、凹版印刷版の彫刻深度を形状解析レーザー顕微鏡VK-X250((株)キーエンス製)、倍率20倍で測定し、印刷前後の彫刻深度差を摩耗された深さとした。摩耗された深さが10μm以上である場合は、印刷中にインクを充填する凹部が浅くなるため印刷不具合が発生する。連続印刷をする上で、摩耗深さは10μm未満であることが好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
【0094】
(3)ブレードによるインク掻き取り性
高湿度環境下におけるインクの掻き取り性の評価を行った。上記(1)彫刻適性に記載の方法で得た凹版印刷版を、温度30℃、相対湿度80%の環境下に24時間静置したのち、hermetic6-12 universal(TAMPOPRINT社製)に装着し、インクにPAD-PLV-1インキ白(ナビタス(株)製)を用いて、1回スキージし、印刷版の表面に残っているインクの厚みを10点測定し、その平均値を求めた。インク残りが0.5μm以上である場合は、印刷画像部以外にインクが転写するため印刷不具合が発生する。インク厚みの平均値が0.3μm未満であればA、0.3μm以上~0.4μm未満であればB、0.4μm以上~0.5μm未満であればC、0.5μm以上をDとして評価した。
【0095】
前記(1)~(3)の評価方法により印刷版の特性を評価した結果を表3に示す。
【0096】
【0097】